特許拒絶査定不服審判
2023-002769
多重特異性を有するキメラT細胞受容体タンパク質を用いた癌の治療
- 審判番号
- 2023-002769
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-541338
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2024年12月24日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ノバルティス アーゲー
- 【請求人代理人】松谷 道子
- 【請求人代理人】冨田 憲史
- 【請求人】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
- 【請求人代理人】松谷 道子
- 【請求人代理人】冨田 憲史
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 名和 大輔
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P18 .121-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-541338「多重特異性を有するキメラT細胞受容体タンパク質を用いた癌の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日国際公開、WO2018/144535、令和 2年 3月 5日国内公表、特表2020-506700〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年 1月31日(パリ条約による優先権主張 2017年 1月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 2月 7日付け:拒絶理由通知書
令和4年 7月14日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年10月 7日付け:拒絶査定
令和5年 2月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年 3月29日 :手続補正書(請求の理由)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和5年2月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1の抗原結合ドメインと、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する第1の細胞外ドメインとを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及びCD3γ、δ又はε以外のタンパク質に由来する第1の細胞内共刺激ドメインを含む細胞内ドメインを含む第1のキメラ膜タンパク質と;
第2の抗原結合ドメインと、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する第2の細胞外ドメインとを含む細胞外ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む第2のキメラ膜タンパク質と
をコードする核酸構築物であって、前記第1の抗原結合ドメインと前記第2の抗原結合ドメインとは、同一ではなく、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する前記第1の細胞外ドメインと、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する前記第2の細胞外ドメインとは、同一ではない、核酸構築物。」(以下、「本願発明」という。)
第3 原査定における拒絶の理由の概要
令和4年10月7日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明に基いて、その本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。
記
引用例1: 国際公開第2016/187349号
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)引用例1(国際公開第2016/187349号)
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前の2016年11月24日に公知となった引用例1には、以下の事項が記載されている。なお、引用例1は、英文で記載されているところ、以下の日本語訳による摘示は、引用例1のパテントファミリーである特表2018-515123号公報の記載に基づく(当審による訳文も含む)ものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。下線は当審にて付記したものである(以下、同様である)。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)をコードする、単離された組み換え核酸分子であって、前記TFPが、
(a)(i)TCRの細胞外ドメインの少なくとも一部、及び
(ii)CD3イプシロンの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを含むTCRの細胞内ドメインを含むTCRサブユニット;ならびに
(b)抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗体ドメインを含み;
前記TCRサブユニット及び前記抗体ドメインが作動可能に連結され、前記TFPがT細胞で発現される際にTCRに合体する単離された組み換え核酸分子。
【請求項2】
T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)をコードする、単離された組み換え核酸分子であって、前記TFPが、
(a)(i)TCRの細胞外ドメインの少なくとも一部、及び
(ii)CD3ガンマの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを含むTCRの細胞内ドメインを含むTCRサブユニット;ならびに
(b)抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗体ドメインを含み;
前記TCRサブユニット及び前記抗体ドメインが作動可能に連結され、前記TFPがT細胞で発現される際にTCRに合体する単離された組み換え核酸分子。
【請求項3】
T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)をコードする、単離された組み換え核酸分子であって、前記TFPが、
(a)(i)TCRの細胞外ドメインの少なくとも一部、及び
(ii)CD3デルタの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを含むTCRの細胞内ドメインを含むTCRサブユニット;ならびに
(b)抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗体ドメインを含み;
前記TCRサブユニット及び前記抗体ドメインが作動可能に連結され、前記TFPがT細胞で発現される際にTCRに合体する単離された組み換え核酸分子。
・・・
【請求項13】
前記TCRサブユニットが、TCRの膜貫通ドメインを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された組み換え核酸分子。
・・・
【請求項16】
前記TCRサブユニットが、CD3イプシロン、CD3ガンマ、もしくはCD3デルタの細胞内シグナル伝達ドメインから選択される刺激ドメイン、または少なくとも1つの修飾を有するアミノ酸配列を含むTCRの細胞内ドメインを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の単離された組み換え核酸分子。
・・・
【請求項29】
さらに、共刺激ドメインをコードする配列を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の単離された組み換え核酸分子。」
イ 背景技術
「【0003】
がん細胞の適切な細胞表面分子に、遺伝子操作されたT細胞を向け直すことに頼るキメラ抗原受容体(CAR)変性自己T細胞治療を用いた最近の発展は、免疫系の力のB細胞悪性腫瘍の治療における利用に期待できる結果を示している(例えば、Sadelainet al., Cancer Discovery 3:388-398 (2013)参照)。CD19特異的CAR T細胞(CTL019と呼ばれる)での臨床結果は、慢性リンパ性白血病(CLL)ならびに小児急性リンパ性白血病(ALL)の患者に完全寛解を示した(例えば、Kalos et al., Sci Transl Med3:95ra73 (2011), Porter et al., NEJM 365:725-733 (2011), Grupp et al., NEJM 368:1509-1518 (2013)参照)。代替的な方法は、自己T細胞の遺伝子操作のために、腫瘍関連ペプチド抗原に選ばれたT細胞受容体(TCR)アルファ及びベータ鎖の使用である。これらのTCR鎖は、完全なTCR複合体を形成し、該T細胞に第二の定義された特異性に対するTCRを与える。NY-ESO-1特異的TCRアルファ及びベータ鎖を発現する改変自己T細胞によって、滑膜がんの患者で有望な結果が得られた。
【0004】
CARまたは第二のTCRを発現する遺伝子組み換えT細胞に関するインビトロ/エキソビボでそれぞれの標的細胞を認識及び破壊する能力に加えて、改変T細胞での成功した患者の治療は、該T細胞に強力な活性化、増殖、経時的な持続性の能力があること、及び、再発性疾患の場合、「記憶」反応を有効にすることを要求する。CAR T細胞の高く扱いやすい臨床効果は、現在のところCD19陽性B細胞悪性腫瘍及び、HLA-A2を発現するNY-ESO-1ペプチド発現滑膜肉腫患者に限られる。遺伝子操作されたT細胞を様々なヒトの悪性腫瘍に対してより広く作用するように改良する明確な必要性がある。本明細書では、CD3イプシロン、CD3ガンマ、及びCD3デルタを含めたTCRサブユニット、ならびに、既存の方法の限界を克服する可能性を有する細胞表面抗原に特異的な結合ドメインを備えたTCRアルファ及びTCRベータ鎖の新規な融合タンパク質を記載する。本明細書では、CARより標的細胞を効率的に死滅させるが、炎症性サイトカインを同等またはより少ないレベルで放出する新規な融合タンパク質を記載する。これらサイトカイン値の上昇は、養子CAR-T療法に対する用量制限毒性と関連しているため、これらの融合タンパク質及びそれらの使用方法は、CARと比較してTFPの有効性を表す。」
ウ 図面
「【0043】
【図1】本発明のT細胞受容体融合ポリペプチド(TFP)の使用を示す概略図である。例示的なTFPは、(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び完全長CD3イプシロンポリペプチドを含む。T細胞によって産生またはT細胞に導入された場合、該TFPは、内因性T細胞受容体(TCR)の他のポリペプチド(2つのCD3イプシロンポリペプチド、1つのCD3ガンマポリペプチド、1つのCD3デルタポリペプチド、2つのCD3ゼータポリペプチド、1つのTCRアルファサブユニット、及び1つのTCRベータサブユニットを含むことが示され、ここで横のグレーの部分は、原形質膜を表している)と会合し、内因性CD3イプシロンポリペプチドの一方または両方がTFPで置換された再プログラム化されたTCRを形成する。
[図:0001422808000001.jpg]
【図2】図2のAは、本発明の再プログラム化されたT細胞受容体融合ポリペプチド(TFP)の例示的な変形例を示す概略図を表す。図2のAは、(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び完全長TCR Vαポリペプチドを含むTFPを含む例示的な再プログラム化されたTCRを示す。図2のBは、i)(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び完全長TCR Vαポリペプチドならびにii)(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び完全長TCR Vβポリペプチドを含む複数のTFPを含む一連の例示的な再プログラム化されたTCRを示す。図2のCは、i)(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び欠失(Δ)TCRポリペプチドならびにii)(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び完全長CD3イプシロンポリペプチドを含む複数のTFPを含む例示的な再プログラム化されたTCRを示す。該欠失(Δ)TCRポリペプチドは、Vαの削除によって欠失している。図2のDは、i)(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び欠失(Δ)TCR Vαポリペプチドならびにii)(G4S)3リンカー配列を介して融合された抗CD19scFv及び欠失(Δ)TCR Vβポリペプチドを含む複数のTFPを含む例示的な再プログラム化されたTCRを示す。該欠失(Δ)TCRポリペプチドは、Vβの削除によって欠失している。
[図:0001422808000002.jpg]
」
エ 発明を実施するための形態
「【0110】
本明細書で用いられる用語、「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、分子の細胞内部分を指す。該細胞内シグナル伝達ドメインは、TFP含有細胞、例えば、TFP発現T細胞の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。例えば、TFP発現T細胞における免疫エフェクター機能の例としては、細胞溶解反応及びサイトカインの分泌を含めたTヘルパー細胞活性が挙げられる。実施形態では、該細胞内シグナル伝達ドメインは、一次細胞内シグナル伝達ドメインを含むことができる。例示的な一次細胞内シグナル伝達ドメインとしては、一次刺激、または抗原依存性刺激に関与する分子由来のものが挙げられる。実施形態では、該細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激細胞内ドメインを含むことができる。例示的な共刺激細胞内シグナル伝達ドメインとしては、共刺激シグナル、または抗原非依存性刺激に関与する分子由来のものが挙げられる。」
「【0112】
用語「共刺激分子」は、共刺激リガンドと特異的に結合し、それによって、例えば、限定されないが、増殖等のT細胞による共刺激反応を媒介する、T細胞上の同族結合パートナーを指す。共刺激分子は、効率的な免疫反応に必要とされる、抗原受容体またはそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。共刺激分子としては、MHCクラス1分子、BTLA及びTollリガンド受容体、ならびにOX40、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、及び4-1BB(CD137)が挙げられるがこれらに限定されない。共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激分子の細胞内部分である場合がある。共刺激分子は、以下のタンパク質ファミリーで表すことができる:TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、及び活性化NK細胞受容体。かかる分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、GITR、CD30、CD40、ICOS、BAFFR、HVEM、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3、及びCD83に特異的に結合するリガンド等が挙げられる。該細胞内シグナル伝達ドメインは、それが由来する分子の全細胞内部分もしくは全天然細胞内シグナル伝達ドメイン、またはその機能的フラグメントを含むことができる。用語「4-1BB」は、GenBankアクセッション番号AAA62478.2として与えられたアミノ酸配列、または、非ヒト種、例えば、マウス、げっ歯類、サル、類人猿等由来の同等の残基のTNFRスーパーファミリーのメンバーを指し、「4-1BB共刺激ドメイン」は、GenBankアクセッション番号AAA62478.2のアミノ酸残基214~255、または非ヒト種、例えば、マウス、げっ歯類、サル、類人猿等由来の同等の残基として定義される。」
「【0281】
いくつかの実施形態では、「少なくとも1つの追加の治療薬」には、TFP発現細胞が含まれる。また、同じもしくは異なる標的抗原、または同じ標的抗原上の同じもしくは異なるエピトープに結合する複数のTFPを発現するT細胞を提供する。また、第一のT細胞のサブセットが第一のTFPを発現し、第二のT細胞のサブセットが第二のTFPを発現するT細胞の集団を提供する。」
オ 実施例
「【0430】
実施例5:多重TFPポリペプチドの実証、及び多重ヒト化TFP再指向性T細胞の使用
本明細書で提供されるTFPポリペプチドは、内因性TCRサブユニットのポリペプチドと機能的に会合し、機能的TCR複合体を形成することが可能である。ここで、複数のレンチウイルスベクター内の複数のTFPを用いて、機能的多重組み換えTCR複合体を生成するためにT細胞を形質導入する。例えば、i)CD3-dseltaポリペプチド由来の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインならびにCD19、FAP、CAIX、またはBCMA特異的scFv抗体フラグメントを有する第一のTFP、ならびにii)CD3ガンマポリペプチド由来の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインならびにCD19、FAP、CAIX、またはBCMA特異的抗体フラグメントを有する第二のTFPを含むT細胞を提供する。該第一のTFP及び第二のTFPは、互いに、及び内因性TCRサブユニットのポリペプチドと相互作用することが可能であり、それによって機能的TCR複合体を形成する。
【0431】
これらの多重ヒト化TFP.CD19、TFP.FAP、TFP.CAIX、またはTFP.BCMA T細胞の使用は、上記実施例2及び3に示す通り、液性及び固形腫瘍で実証される。」
「【0445】
実施例7:フローサイトメトリーによる細胞傷害性アッセイ
それぞれCD19、FAP、CAIX、またはBCMA標的に対して陽性または陰性のいずれかである標的細胞を蛍光染料であるカルボキシフルオレセイン二酢酸サクシニミジルエステル(CFSE)で標識した。これらの標的細胞を、未形質導入であるか、対照のCAR-T構築物で形質導入、またはTFPで形質導入されたエフェクターT細胞と混合した。示されたインキュベーション時間の後、死対生CFSE標識標的細胞及び陰性対照の標的細胞の割合を各エフェクター/標的細胞培養に対してフローサイトメトリーで決定した。各T細胞+標的細胞培養における標的細胞の生存率を、標的細胞のみを含むウェルに対して計算した。
【0446】
エフェクターT細胞の細胞傷害活性は、エフェクター及び標的細胞の共インキュベーション後のエフェクターT細胞を含まないまたは含む標的細胞における生存標的細胞の数を、フローサイトメトリーを用いて比較することによって測定した。CD19 TFPまたはCAR-T細胞での実験において、標的細胞はCD19陽性Raji Burkittリンパ腫細胞(ATCC,CCL-86)であり、陰性対照として用いた細胞はCD19陰性K562細胞(ATCC,CCL-243)であった。BCMA TFP T細胞での実験では、標的細胞はBCMA陽性RPMI-8226形質細胞腫/骨髄腫細胞(ATCC,CCL-155)であり、陰性対照として用いた細胞は、BCMA陰性Raji Burkittリンパ腫細胞(ATCC,CCL-86)であった。
・・・
【0450】
上記の通り、抗CD19-28ζ CAR構築物で形質導入されたT細胞は、未形質導入であるか、または非CD19特異的CAR対照で形質導入したT細胞と比較した場合に、CD19発現Raji B細胞に対して細胞傷害性を示した(図8)。しかしながら、抗CD19-CD3εで形質導入されたT細胞は、調べたすべてのエフェクター:標的比において、抗CD19 CAR対照よりもRaji標的に対して効果的な細胞傷害性を誘導した。抗CD19-CD3γ TFPもまた、5~10:1のエフェクター:標的比において、抗CD19 CARで観察されるよりも高かった強い細胞傷害性を媒介した(図8)。多少の細胞傷害性が抗CD19-TCRα及び抗CD19-TCRβ TFPで観察された。同様の結果が、代替ヒンジ領域で構築された抗CD19 TFPで得られた。今度もまた、CD19発現Raji標的細胞に対する細胞傷害性は、抗CD19-CD3εまたは抗CD19-CD3γ TFPで形質導入されたT細胞で、抗CD19-CARで形質導入されたT細胞よりも高かった。
【0451】
CD-19に特異的なTFPをコードするmRNAでエレクトロポレートされたT細胞もまた、CD19発現Raji細胞に対する強い細胞傷害性を示した。対照や抗CD19 TRuC構築物のいずれでもCD19陰性K562細胞の有意な殺傷が見られなかった一方、RajiのCD19に特異的な殺傷が、抗CD19-CD3ε SLまたは抗CD19-CD3γ SL TRuCのいずれかで形質導入されたT細胞によって観察された(図14)。
【0452】
B細胞成熟抗原(BCMA)に特異的なTFPで形質導入されたT細胞も同様に、BCMA発現RPMI8226細胞に対する強い細胞傷害性を示した。抗BCMA-CD3εまたは抗BCMA-CD3γ TFPで形質導入されたT細胞は、BCMA発現RPMI8226標的細胞に対する細胞傷害性を効果的に媒介した。エフェクター対標的細胞比10:1では、標的細胞のほとんど100%が殺傷された(図9)。」
(2)周知例1(米国特許出願公開第2017/0014508号明細書)
本願優先日前の2017年1月19日に公知となった周知例1には、以下の事項が記載されている。なお、周知例1は、英文で記載されているので、合議体による翻訳文で示す。
ア 要約
「本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)シグナル伝達システムに関連し、以下の要素を含む;(i)細胞外結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び第1の細胞内の二量体化化学誘導因子の結合ドメイン1(CBD1);及び(ii)シグナル伝達ドメイン、及び第2の細胞内の二量体化化学誘導因子の結合ドメイン2(CBD2)を含む細胞内シグナル伝達成分;ここで、CBD1及びCBD2は、二量体化化学誘導因子(CID)に同時に結合できる;ここで、CIDの非存在下では、抗原の抗原結合成分への結合は、シグナル伝達成分によるシグナルを引き起こさない;一方で、CID存在下では、受容体成分とシグナル伝達成分は、ヘテロ二量体化し、抗原の抗原結合成分への結合は、シグナル伝達成分によるシグナルを引き起こす。」
イ 詳細な説明
「核酸
・・・
【0155】シグナル伝達システムは、複数の受容体成分を含む場合、その核酸は、次の一般式を有し得る:
RC1-coexpr1-RC2-coexpr2-SC
ここで、RC1及びRC2は、受容体成分をコードする核酸配列である。coexpr1及びcoexpr2は、同一でも異なってもよく、2つの隣接するポリペプチドの共発現を可能とする核酸配列(例えば、切断部位をコードしている配列)である。SCは、シグナル伝達成分をコードする核酸配列である。
・・・
【0158】共発現配列は、内部リボソーム進入配列(IRES)であってもよい。共発現配列は、内部プロモーターであってもよい。」
(3)周知例2(特表2016-538854号公報)
本願優先日前の2016年12月15日に公知となった周知例2には、以下の事項が記載されている。
ア 要約
「本発明は、第1のキメラ抗原受容体(CAR)および第2のCARを細胞表面で共発現する細胞であって、各CARが、(i)抗原結合ドメイン(ii)スペーサー(iii)膜貫通ドメイン、および(iv)エンドドメインを含み、第1のCARおよび第2のCARの抗原結合ドメインが異なる抗原に結合し、第1のCARまたは第2のCARの一方が活性化エンドドメインを含む活性化CARであり、他方のCARがライゲーション・オフ阻害性エンドドメインを含む阻害性CARである細胞を提供する。」
イ 実施例
「【0194】
実施例1-標的細胞集団の作製
本発明の原理を証明する目的で、抗CD19および抗CD33に基づく受容体を任意選択した。レトロウイルスベクターを用いて、CD19およびCD33をクローン化した。これらのタンパク質の先端を切除した結果、それらはシグナルを発さず、長期間にわたって安定して発現させることができた。次に、これらのベクターを用いて、SupT1細胞系に対し単独に、または二重に形質導入を行い、両抗原に陰性の細胞(野生型)、どちらか一方に陽性の細胞および両方に陽性の細胞を確立した。発現データを図3に示す。
【0195】
実施例2-ORゲートの設計および機能
ORゲートを構築するため、CD19およびCD33を認識する1対の受容体を共発現させた。異なるスペーサーを用いることにより、交差対合を防止した。両受容体とも、表面安定性を改善するためのCD28由来の膜貫通ドメインおよび単純な活性化シグナルを提供するためのCD3-ゼータのものから誘導されたエンドドメインを有していた。かくして、1対の独立した第一世代CARを共発現させた。配列を共発現させるのに使用されたレトロウイルスベクターカセットは、口蹄疫2A(foot-and-mouth2A)自己切断性ペプチドを利用することにより、両受容体の1:1共発現を可能にした。カセット設計を図4に、タンパク質構造を図5に示す。相同性領域のヌクレオチド配列をコドンゆらぎ状態としてレトロウイルスベクター逆転写の間の組換えを防止した。
ウ 図面
「【図面の簡単な説明】
【0013】
・・・
【図4】 図4は、ORゲートについてのカセット設計である。 単一のオープンリーディングフレームにより、枠内FMD-2A配列をもつ両CARが提供され、2つのタンパク質をもたらす。・・・
[図:0001422808000003.jpg]
」
(4)周知例3(国際公開第2016/210293号)
本願優先日前の2016年12月29日に公知となった周知例3には、以下の事項が記載されている。なお、周知例3は、英文で記載されているところ、以下の日本語訳による摘示は、周知例3のパテントファミリーである特表2018-518974号公報の記載に基づくものである。その段落番号も便宜上そのまま記載した。
ア 要約
「本発明は、キメラ抗原レセプター(CAR)ポリペプチドに関連する構成および方法、およびそれらに関連する方法に関連している。この実施形態では、本発明は、少なくとも2つの標的に向けられたキメラ抗原レセプターポリペプチドを有する操作細胞に関係する。別の実施例では、本発明は、キメラ抗原レセプターポリペプチドおよびエンハンサー部分を有する操作細胞に関係する。」
イ 実施例
「【0235】
compound CAR (cCAR)の作成
CD33CD123 cCARの構造は、図1Aの概略図に従う。それは、2つの異なるCARのユニットを有する機能的なcompound CAR(cCAR)の発現を誘導するSFFV(脾臓フォーカス形成ウイルス)プロモーターを含む。
・・・
【0237】
高効率compound CAR (cCAR)の作製
Compound CARレンチウイルスは 、図2に示すように大きなサイズのインサートを含むベクターのため、力価を増加させるために2倍量のベクターDNAを使用した以外は、Lipofectamine 2000 の製造業者の指示に従った方法を用いてHEK-293FT細胞へトランスフェクションさせることで作製した。」
ウ 図面
「【図面の簡単な説明】
【0019】
・・・
【図2A】cCAR-Tの構成の概略図。構成 は、P2Aペプチドによって連結された複数のモジュラーユニットによるCARであり、SFFVプロモーターにより発現が誘導される、リンカーが切断されると、cCARは分かれ、それぞれCD33および/またはCD123を発現する標的に関与する。新規cCAR構成として、構築物の活性化ドメインには、CD33 CARの区域に4-1BBが、そしてCD123 CAR上にCD28部位が含まれるが、これに限定されない。
[図:0001422808000004.jpg]
」
2 判断
(1)引用発明の認定
前記1(1)によれば、引用例1には、遺伝子操作されたT細胞を用いたがん治療において、キメラ抗原受容体(CAR)と比較して有効であり、新規な融合タンパク質として、T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)が記載されており(前記1(1)イ)、さらに、TFPをコードする、単離された組み換え核酸分子であって、当該TFPが、(a)(i)TCRの細胞外ドメインの少なくとも一部、及び(ii)CD3イプシロン、CD3ガンマ、又はCDデルタの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを含むTCRの細胞内ドメインを含むTCRサブユニット、並びに(b)抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗体ドメインを含む、当該TFPがT細胞で発現される際にTCRに合体する、単離された組み換え核酸分子が記載されている(前記1(1)ア 請求項1~3)。前記TCRサブユニットが、TCRの膜貫通ドメインを含む態様についても記載されている(前記1(1)ア 請求項13)。
前記TFPの使用を示す概略図として、内因性TCRとTFPが会合してTCRを形成する様子が、図1~2に記載される(前記1(1)ウ)とともに、前記TFPを用いる具体的な態様が実施例において示され、その一つが実施例5に記載されている多重TFPポリペプチドであり、実施例5には、「第一のTFP」と「第二のTFP」を含むT細胞について、「複数のレンチウイルスベクター内の複数のTFPを用いて、機能的多重組み換えTCR複合体を生成するためにT細胞を形質導入する」と記載されているから、「第一のTFP」と「第二のTFP」は別々のレンチウイルスベクターにコードされていると解される。(前記1(1)オ)。
そうすると、引用例1から、特に実施例5の記載に基づき、次のとおりの発明を認定できる。
「i)CD19、FAP、CAIX、又はBCMA特異的scFv抗体フラグメント、CD3δポリペプチド由来の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを有する、第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)をコードするレンチウイルスベクター、並びに、ii)CD19、FAP、CAIX、又はBCMA特異的scFv抗体フラグメント、CD3γポリペプチド由来の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを有する、第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)をコードするレンチウイルスベクターの組合せ。」(以下、「引用発明」という。)
(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「CD19、FAP、CAIX、又はBCMA特異的scFv抗体フラグメント」、「第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」、「第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」、「レンチウイルスベクター(の組合せ)」は、本願発明の「抗原結合ドメイン」、「第1のキメラ膜タンパク質」、「第2のキメラ膜タンパク質」、「核酸構築物」にそれぞれ相当する。
また、引用発明において、第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)は、CD3δポリペプチド由来の細胞外ドメインを含み、第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)は、CD3γポリペプチド由来の細胞外ドメインを含むから、両者の細胞外ドメインは、一方がCD3δポリペプチド由来、もう一方がCDγポリペプチド由来であり、同一ではないことが明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「第1の抗原結合ドメインと、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する第1の細胞外ドメインとを含む細胞外ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む第1のキメラ膜タンパク質と;
第2の抗原結合ドメインと、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する第2の細胞外ドメインとを含む細胞外ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む第2のキメラ膜タンパク質と
をコードする核酸構築物であって、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する前記第1の細胞外ドメインと、CD3γ、δ又はεの細胞外ドメインに由来する前記第2の細胞外ドメインとは、同一ではない、核酸構築物。」である点。
<一応の相違点1>
核酸構築物が、本願発明においては、第1のキメラ膜タンパク質と第2のキメラ膜タンパク質とをコードする核酸構築物であるのに対し、引用発明においては、第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)をコードするレンチウイルスベクターと第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)とをコードするレンチウイルスベクターの組合せである点。
<一応の相違点2>
本願発明においては、「前記第1の抗原結合ドメインと前記第2の抗原結合ドメインとは、同一ではな」いことが特定されているのに対し、引用発明においては、第1の抗原結合ドメインと第2の抗原結合ドメインが、いずれも「CD19、FAP、CAIX、又はBCMA特異的scFv抗体フラグメント」である点。
<相違点3>
本願発明においては、第1のキメラ膜タンパク質が、「CD3γ、δ又はε以外のタンパク質に由来する第1の細胞内共刺激ドメインを含む細胞内ドメインを含む」ことが特定されているのに対し、引用発明においては、当該特定がない点。
(3)相違点についての判断
前記(2)で示した各(一応の)相違点について、以下に検討する。
ア 一応の相違点1について
本願発明において、「核酸構築物」が一つであるか、複数であるか(「第1のキメラ膜タンパク質」と「第2のキメラ膜タンパク質」が一つの核酸構築物にコードされているか、別々の核酸構築物にコードされているか)は、文言上判然としない。しかし、核酸構築物が第1のキメラ膜タンパク質と第2のキメラ膜タンパク質とをコードすることが特定されている点について、令和5年2月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項12には、以下のとおり記載されている。
「【請求項12】
前記核酸構築物は、前記第1のキメラ膜タンパク質をコードする第1の核酸分子と、前記第2のキメラ膜タンパク質をコードする第2の核酸分子とを含む、又は、
(i)前記第1及び第2の核酸分子は、単一の核酸分子上に配置されるか、又は
(ii)前記第1及び第2の核酸分子は、個別の核酸分子上に配置される、
請求項1~11のいずれか一項に記載の核酸構築物。」
また、本願明細書においては、以下の記載がある。
「一実施形態において、核酸構築物は、第1のキメラ膜タンパク質をコードする第1の核酸分子と、第2のキメラ膜タンパク質をコードする第2の核酸分子とを含む。一実施形態において、第1及び第2の核酸分子は、単一の核酸分子上に配置される。一実施形態において、第1及び第2の核酸分子は、個別の核酸分子上に配置される。」(【0077】)
そうすると、本願発明は、核酸構築物が第1のキメラ膜タンパク質と第2のキメラ膜タンパク質とをコードするものであって、第1のキメラ膜タンパク質をコードする核酸分子と、第2のキメラ膜タンパク質をコードする核酸分子について、これら核酸分子が、単一の核酸分子上に配置される態様に加えて、個別の核酸分子上に配置される態様を含むものである。
したがって、引用発明において、レンチウイルスベクターが複数であることが特定されているとしても、そのことをもって本願発明と相違するとはいえないから、一応の相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に、本願発明について、第1と第2のキメラ膜タンパク質をコードする二つの核酸分子が、個別の核酸分子上に配置される態様は含まれず、単一の核酸分子上の配置される態様からなるとしても、複数のポリペプチドを細胞に発現させる際に、複数のポリペプチドをコードする複数の核酸を同じ発現ベクターに挿入することは、例示するまでもなくこの技術分野で一般的に行われてきたことである。第1と第2のキメラ膜タンパク質を一つのベクターにコードさせるために特別な工夫を要したなどの事情があったことが本願明細書から把握できるということもないから、引用発明において、レンチウイルスベクターが導入された細胞で、確実に二つのT細胞受容体融合タンパク質(TFP)が発現されることを期待するなどして、複数のレンチウイルスベクターを用いるのではなく、一つのレンチウイルスベクターを用い、同ベクターが二つのT細胞受容体融合タンパク質(TFP)を発現するようにベクター設計・作製を行うことは、当業者が適宜なし得たことである。
このことは、抗原結合ドメインを含むキメラ膜タンパク質を用いた治療方法に係る点で、本願発明と技術分野が共通する、キメラ抗原受容体(CAR)の技術を開示する、前記1(2)~(4)で示す周知例において、複数のポリペプチドをコードする複数の核酸分子を同じ発現ベクターに挿入することが記載されていることからも支持されるものである。
したがって、いずれにしろ、上記一応の相違点1は、実質的な相違点ではない。
イ 一応の相違点2について
引用例1には、前記1(1)エのとおり、「同じもしくは異なる標的抗原、または同じ標的抗原上の同じもしくは異なるエピトープに結合する複数のTFPを発現するT細胞を提供する」(【0281】)と記載されている。そのうえで、実施例5では、第一のTFP及び第二のTFPという二種類のTFPを有するT細胞であり、当該二種類のTFPのscFv抗体フラグメントの抗原としてCD19、FAP、CAIX及びBCMAという4つの選択肢が記載されているのだから、当該二種類のTFPのscFv抗体フラグメントの抗原は異なるものであることを予定していると解するのが自然である。
したがって、上記一応の相違点2は、実質的な相違点とはいえない。
ウ 相違点3について
引用例1には、前記1(1)アのとおり、
「【請求項 16】
前記TCRサブユニットが、CD3イプシロン、CD3ガンマ、もしくはCD3デルタの細胞内シグナル伝達ドメインから選択される刺激ドメイン、または少なくとも1つの修飾を有するアミノ酸配列を含むTCRの細胞内ドメインを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の単離された組み換え核酸分子。
・・・
【請求項 29】
さらに、共刺激ドメインをコードする配列を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の単離された組み換え核酸分子。」
と記載されており、さらに前記1(1)エのとおり、「実施形態では、該細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激細胞内ドメインを含むことができる。例示的な共刺激細胞内シグナル伝達ドメインとしては、共刺激シグナル、または抗原非依存性刺激に関与する分子由来のものが挙げられる。」(【0110】)、「共刺激分子としては、MHCクラス1分子、BTLA及びTollリガンド受容体、ならびにOX40、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、及び4-1BB(CD137)が挙げられるがこれらに限定されない。共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激分子の細胞内部分である場合がある。」(【0112】)と記載されている。
すなわち、引用例1には、T細胞受容体融合タンパク質(TFP)について、細胞内ドメインとして、CD3イプシロン、CD3ガンマ、又はCD3デルタの細胞内シグナル伝達ドメインから選択される刺激ドメインを含み得ること、及び当該細胞内シグアンル伝達ドメインには、4-1BB(CD137)、OX40等の共刺激分子由来の共刺激細胞内ドメインを含み得ることが記載されている。
そうすると、引用発明において、T細胞受容体融合タンパク質(TFP)を構成する細胞内ドメインに、4-1BB(CD137)、OX40等の共刺激分子由来の共刺激細胞内ドメインを含ませることは、上記記載に応じて、当業者が容易に想到し得たことである。そして、4-1BB(CD137)、OX40等の共刺激分子由来の共刺激細胞内ドメインは、本願発明における「CD3γ、δ又はε以外のタンパク質に由来する第1の細胞内共刺激ドメイン」に相当するのだから、上記相違点3は、引用例1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。
(4)本願発明の効果について
本願明細書において、異なる抗原結合ドメインを有する、第1のキメラ膜タンパク質と第2のキメラ膜タンパク質を用いた実施例として、「CD22に対する特異性を有するTCAR(CD22-65scFv-G4S-CD3eECDTM-41BB)」及び「CD19に対する特異性を有するTCAR(CD19scFv-G4S-CD3gECDTM-41BB)」を発現するT細胞を、レンチウイルスベクターによって作製し、CD19又はCD22を過剰発現する慢性骨髄性白血病(CML)細胞株K562を標的として、野生型の細胞株K562を標的とした場合と比較して、CD19を過剰発現させた場合とCD22を過剰発現させた場合の両方で、上記T細胞が特異的応答を示したことが記載されている(実施例11、図48A~C)。
ここで、引用例1のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)を発現するT細胞は、T細胞受容体融合タンパク質(TFP)の抗原結合ドメインが標的細胞の細胞表面抗原に結合することで標的細胞を死滅させるという効果を有するものであり(前記1(1)ア、イ)、この効果は実施例7で実証されている(前記1(1)オ)。したがって、引用発明の「レンチウイルスベクターの組合せ」が導入されて「第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」及び「第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」を発現するT細胞は、それぞれのT細胞受容体タンパク質(TFP)の抗原結合ドメインである「CD19、FAP、CAIX、又はBCMA特異的scFv抗体フラグメント」が標的細胞の細胞表面に存在する「CD19、FAP、CAIX、又はBCMA」に結合して標的細胞を死滅させるものである。そして、前記(3)で判断したとおり、【0281】の記載に基づいて「第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」及び「第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」の「scFv抗体フラグメント」を異なる抗原に特異的なものとして本願発明の構成にした場合には、それらを発現するT細胞が、「第一のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」及び「第二のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)」それぞれの「scFv抗体フラグメント」が特異的な抗原を有する標的細胞を死滅させることは、実験的に確認するまでもなく、自明な効果である。
本願明細書の実施例11は、まさにこの効果を示すにすぎず、引用例1の記載から自明なものである。
(5)請求人の主張について
請求人は、令和5年3月29日提出の手続補正書(請求の理由)において、引用例1に基づく容易想到性に係る点について、要するに以下の旨、主張している。
(ア)本願発明は、2つのキメラ膜タンパク質をコードする1つの核酸構築物に関するものであるが、引用例1は、このような複数のキメラ膜タンパク質をコードする1つの核酸構築物について教示も示唆もするものではない。例えば、引用例1の【0373】及び実施例5では、複数のTFPを複数のウイルスベクターで発現させる実施形態が示されており、引用例1には、1つの核酸構築物において複数のキメラ膜タンパク質がコードされる構成は意図されていない。
(イ)引用例1の実施例5は、データの裏付けのない現在形で記載された実施例に過ぎず、T細胞上において複数のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)の発現及び活性化が成功したことを示すものではない一方、本願では、請求項1に係る2つのキメラ膜タンパク質をコードする核酸構築物によって、単一の細胞上における機能的な2つのキメラ膜タンパク質の発現に成功した。例えば、本願の実施例11には、CD19に対して特異的なキメラ膜タンパク質とCD22に対して特異的なキメラ膜タンパク質の単一のT細胞上での発現を実証し、これらタンパク質を発現するT細胞の、CD19発現及びCD22発現K562細胞に対する二重特異性の活性を示したことが記載されている。
上記主張(ア)について、前記(3)アで述べるとおり、本願発明は、本願の請求項12や【0077】の記載から、2つのキメラ膜タンパク質を単一の核酸分子上に配置する態様に加えて、個別の核酸分子上に配置する態様を含むと解されるから、主張する点は、本願発明と引用発明との実質的な相違点とならない。仮に相違点であるとしても、その点で進歩性が認められないことも前記(3)アで述べるとおりである。
上記主張(イ)について、引用例1全体の記載をもってすれば、実施例5に基づく引用発明が認定できることは、前記(1)で述べるとおりである。また、複数のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)が単一のT細胞上で発現することは、その実現に特段の困難性を認めないから、引用例1に接した当業者が把握できる、又は予測できることといえ、そうした細胞が当該複数のT細胞受容体融合タンパク質(TFP)の抗原結合特異性に応じた細胞傷害活性を有することについては、前記(4)で述べるとおり、進歩性の判断で参酌される効果と認められない。
(6)小括
前記(1)~(5)の次第であるから、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-002769