特許拒絶査定不服審判
2023-001944
細胞の収縮を抑制できる細胞取扱容器、及び細胞構造体の作製方法
- 審判番号
- 2023-001944
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-220035外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年02月06日
- 審決日
- 2024年10月01日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大日本印刷株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (C12M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-220035「細胞の収縮を抑制できる細胞取扱容器、及び細胞構造体の作製方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月 4日出願公開、特開2020- 80722〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概要
本願は、平成30年11月26日の出願であって、本願の出願後の主な手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和4年 6月27日付け 拒絶理由通知
令和4年 8月23日 意見書、手続補正書の提出
令和4年12月 5日付け 拒絶査定
令和5年 2月 6日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~14に係る発明は、令和5年2月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
底部と、底部の外縁部に配置された側壁と、底部及び側壁によって形成される細胞収容部とを有する細胞取扱容器であって、側壁の細胞収容部に面する側の表面の少なくとも一部が細胞接着性を有する、細胞取扱容器であって、
底部の外縁部と側壁の下端部との接続部をさらに有し、底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、底部の外縁部における底部の細胞収容部に面する側の表面と側壁の下端部との距離によって定義される接続部の高さが100 μm以下であり、
底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、側壁の細胞収容部に面する側の表面と底部の細胞収容部に面する側の表面との角度が、30°以上且つ120°以下の範囲である、前記細胞取扱容器。」
なお、本願発明は、令和5年2月6日提出の手続補正書による手続補正がなされる前の、原査定の対象となった令和4年8月23日提出の手続補正書の請求項6(請求項1を引用するもの)に係る発明と同一である。
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、以下のものを含む。
(進歩性)この出願の請求項6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開昭63-152973号公報
2.国際公開第2016/190322号
第4 当審の判断
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願出願前に公知となった刊行物である特開昭63-152973号公報(以下、「引用文献1」という。)には以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
ア 「【特許請求の範囲】
(1)合成樹脂により形成された器具であって、前記器具の少なくとも表面の一部が、紫外線のパルス照射により酸化処理されていることを特徴とする培養器具または検査用器具。
(2)合成樹脂により形成された器具であって、前記器具の少なくとも表面の一部を、紫外線のパルス照射により酸化処理することを特徴とする培養器具または検査用器具の製造方法。
(3)照射する紫外線が、気体中の酸素からオゾンを発生させる波長を有していることを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の培養器具または検査用器具の製造方法。
(4)照射する紫外線が、184.9nmと253.7nmの波長の紫外線を含むことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載の培養器具または検査用器具の製造方法。
(5)前記器具の紫外線照射により酸化処理された部分の水との接触が照射前に比較し小さいことを特徴とする特許請求の範囲第2項ないし第4項に記載の培養器具または検査用器具の製造方法。」
イ「[従来の技術]
従来、組織培養用シャーレ、トレイ、ボトルに代表される組織培養用容器は、前記容器の培地との接触面がいわゆる親水性でなければ培養される細胞が容器表面に着床出来ないため前記細胞の成育状態、細胞各個体の形態等を観察するためには不都合であり、何らかの方法で容器を親水化処理する必要性があった。従来の親水化の方法としては種々の方法が採られているが、基本的には以下の3種類の方法に分類される。一つは、樹脂容器の表面を重クロム硫酸水溶液で処理して樹脂表面を酸化する方法である。この方法は処理効果は充分にあるが、重クロム硫酸の洗浄が悪いと培養試験の際に細胞が死滅する事があり、また重クロム硫酸は使用後の廃棄に公害の問題を引き起こすため完全に中和処理する事が義務ずけられている。さらに製造がいわゆるバッチ方式で連続処理が困難あり、廃液処理の問題と合間ってコスト高となり問題が多い方法である。一方、近年、親水性樹脂をコーティングする事により容器表面を親水化する方法が考案され、行われる様になってきた。使用される親水性樹脂としては2-ハイドロキシエチルメタクリレートを溶媒で希釈し塗布する、またはメチルメタクリレートを塗布しその後乳酸で加水分解する方法等が報告されている。しかし親水性樹脂を塗布する方法は容器と親水性樹脂の接着性の間開があり、使用時に親水性樹脂が剥離して来る場合があり、実用化は困難な物が多い。また剥離しない場合でも塗布してから乾燥工程があり、乾燥の方法により容器の表面に均一にコーティングする事は非常に困難で製造した際の製品の均一性に問題がある。また、プラズマ発生装置でプラズマエッチングにより容器表面を親水性にする方法がある。この方法はプラズマ発生装置が高価な事、さらにプラズマエッチングは装置内のガスを除去または交換する事が必要で処理に時間がかかり、バッチ方式であるために製造能率が低く、処理コストが高いと言う欠点がある。」
ウ 「[問題点を解決しようとする手段]
本発明は、組織や微生物あるいは検査に悪影響を与えず、安定した親水性表面を有する安価な培養器具または検査用器具を種々検討した結果、合成樹脂により形成された器具であって、前記器具の少なくとも表面の一部が、紫外線のパルス照射により酸化処理されている培養器具または検査用器具を提供することにより、従来の問題点を解決した。・・・」
エ 「[作用]
本発明者らは、従来から報告されている表面処理法を種々検討すると共に、その表面処理の現象に着目し、空気中の酸素を酸化しオゾンを発生する紫外線の照射に着目し、種々検討を重ねた結果、オゾンによる酸化を原理とした低圧水銀ランプによる紫外線の照射が、合成樹脂表面の水溶液に対する接触角を低下させる働きがあり、しかも前記表面に細胞が着床し増殖する事が組織培養実験の結果証明され本発明に到達した物である。
以下、図面を参照しながら、本発明を具体的に説明する。
第1図は本発明の培養容器を製造するために行う親水化処理の一実施例を示したものであり、第2図は本発明の親水化処理の原理を示したものである。樹脂を用途にあった形状に成形加工した培養容器1に紫外線ランプ2を光源とする紫外線3を照射すると、培養容器周辺4に空気中の酸素からオゾン5が生じ、さらにこのオゾン5に紫外線が照射されることにより、オゾン5よりラジカルすなわち活性化酸素6が生成される。活性化酸素6は、酸化性が強く、樹脂の疎水性に寄与している水素7と結合して、水素7を樹脂表面8から取り去ってしまい樹脂表面8を親水化するとともに、樹脂表面自体に結合9してさらに親水性を向上させる。
樹脂表面8の親水化度合を大きくする、すなわち水との接触角をより小さくするには、紫外線の照射時間を長くすること、あるいは紫外線ランプの出力を大きくすることであるが、これらの行為は、樹脂の温度を上昇させることにもなり、使用する樹脂によっては、温度の上昇により容器が変形してしまうことがある。そこで、紫外線を連続照射しないで、パルス照射することにより、樹脂の温度上昇を防ぐことができる。すなわち、紫外線をパルス照射することにより、熱による容器の変形および紫外線による樹脂内部の劣化をほとんど発生させずに、樹脂表面8の親水化度合を大きくすることができる。」
オ 「[発明の効果]
実施例ではシャーレを例に取って水に対する接触角が小さくなる事の利点を説明したが、その効果は大きく分けて以下の3点が挙げられる。
I)紫外線照射により接触角が小さくなり、親水性が高くなると接着依存性細胞を接着増殖させる事が出来る。
II)接触角が小さくなると接着依存性細胞が接着増殖出来る程度に親水性が高く無くても水溶液の容器への充填等が容易になる。
III)シャーレを親水性にしておく事は粘度の高い培地を混釈する事が容易となり、培地が少なくて良いと言う利点がある。また混釈が容易になる事は多量の菌数試験等の時間短縮にもつながる。
I)の例としてシャーレを挙げたが細胞培養用器具としてはマイクロトレイと一般的に総称しているトレイ群でも照射条件の検討により細胞の接着増殖ができる。また、接着増殖とは異なるがHLAタイピング用のトレイ(例イワサキトレイ)、血小板タイピング用マイクロトレイ等血球成分の分析用トレイも実施出来る。また接着依存性細胞の大量培養用器具(例 マルチプレート、マルチディスク、多段式トレー、中空繊維を使用した培養システム等)であっても実施出来る。
II)の例としてシャーレを挙げたが親水性を付与する検査用器具はシャーレに限定されない。マイクロトレイ群、ピペット類、試験管類、尿沈査試験用のスピッツ管類、尿沈査試験用の鏡検用プレート類等でも実施出来る。
本処理法を使用すればプラスチック製のプレパラートおよびカバーグラスも容易に製造出来る。
本特許請求の範囲で言うところの検査用器具には水溶液をプレート上に滴下して使う物の器具として含まれている。
ピペットの内面も特にマイクロピペット等では液体中の泡が壁面に付着すると精度に関係するので本処理は有効である。
一般のピペット、ダイリュータのチップ等の液体計量用器具にも有効である。」
カ 「
[図:0001417045000001.jpg]
[図:0001417045000002.jpg]
」
キ 上記カの第1図より、紫外線照射される容器は、底部と、側壁と、底部の外縁部と側壁の下端部との接続部と、収容部を有し、底部から側壁が概ね垂直に立った、いわゆる一般的な容器であることが見て取れる。
(2)引用発明
上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定の主な根拠となった箇所を括弧内に示す。
(引用発明)
合成樹脂により形成された器具であって、前記器具の少なくとも表面の一部が、紫外線のパルス照射により酸化処理されていることを特徴とする培養器具または検査用器具であって、(ア、ウ)
培養器具または検査用器具の容器に紫外線ランプを光源とする紫外線を照射することで親水性を向上させ、(エ、カ)
紫外線照射される培養器具または検査用器具の容器は、底部と、側壁と、底部の外縁部と側壁の下端部との接続部と、収容部を有し、底部から側壁が概ね垂直に立ったものである、(カ、キ)
培養器具または検査用器具。
2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願出願前に公知となった刊行物である国際公開第2016/190322号(以下、「引用文献2」という。)には以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
「[0194] 図28は、本発明の実施形態7変形例1の細胞処理容器100の、図7AでのA-A端面に相当する端面の模式図である。実施形態7変形例1では収容部周壁部140の収容部側面143と収容部底傾斜面142とが、丸みを帯びた収容部側面-底傾斜面接続曲面281により接続されている。収容部側面-底傾斜面接続曲面281は、上下方向に沿った仮想平面(具体的には、収容部側面143の法線を含み且つ上下方向に沿った仮想平面)による収容部周壁部140及びその近傍の断面上での、本明細書で定義する傾斜角が、収容部側面143から収容部底傾斜面142にかけて連続的に変化するように、収容部側面143と収容部底傾斜面142とを接続する曲面であり、好適には、該断面上での曲率半径が10μm~15mm、より好ましくは10μm~1mmとなる曲面である。この特徴を有する実施形態7変形例1の細胞処理容器100では、底面側面交差部分147を有する実施形態1よりも更に、細胞10が収容部側面143と収容部底傾斜面142との間に入り込む可能性を低減できるとともに、入り込んだ場合のカテーテルやピペットによる取り出しが容易である。また細胞10を含む液滴を収容部側面143から形成面141上で伝わらせて細胞保持領域146に移動させる場合に細胞10の移動が容易である。
[0195] また、図28に示す実施形態7変形例1では収容部周壁部140の収容部外壁面144と、容器底部110の容器底面111とが、丸みを帯びた収容部外壁面-容器底面接続曲面282により接続されている。収容部外壁面-容器底面接続曲面282は、上下方向に沿った仮想平面(具体的には、収容部外壁面144の法線を含み且つ上下方向に沿った仮想平面)による収容部周壁部140及びその近傍の断面上で、本明細書で定義する傾斜角が、収容部外壁面144から容器底面111にかけて連続的に変化するように、収容部外壁面144と容器底面111とを接続する曲面であり、好適には、該断面上での曲率半径が10μm~15mm、より好ましくは10μm~1mmとなる曲面である。この特徴を有する実施形態7変形例1の細胞処理容器100では、収容部外壁面144と容器底面111との間に細胞10が入り込む可能性を低減できるとともに、入り込んだ場合のカテーテルやピペットによる取り出しが容易である。
[0203] 図30は、本発明の実施形態7変形例5の細胞処理容器100の、図7AでのB-B端面に相当する端面の模式図である。実施形態7変形例5では第1隔壁701の一方の面704と容器底部110の容器底面111とが、丸みを帯びた第1の隔壁側面-底面接続曲面301により接続されている。第1の隔壁側面-底面接続曲面301は、上下方向に沿った仮想平面(具体的には、第1隔壁701の一方の面704の法線を含み且つ上下方向に沿った仮想平面)による第1隔壁701及びその近傍の断面上で、本明細書で定義する傾斜角が、第1隔壁701の一方の面704から容器底部110の容器底面111にかけて連続的に変化するように、第1隔壁701の一方の面704と容器底部110の容器底面111とを接続する曲面であり、好適には、該断面上での曲率半径が10μm~15mm、より好ましくは10μm~1mmとなる曲面である。この特徴を有する実施形態7変形例5の細胞処理容器100では、第1隔壁701の一方の面704と容器底部110の容器底面111との間に細胞10が入り込む可能性を低減できるとともに、入り込んだ場合のカテーテルやピペットによる取り出しが容易である。
[0204] 実施形態7変形例5では更に、第1隔壁701の他方の面709と容器底部110の容器底面111とが、丸みを帯びた第2の隔壁側面-底面接続曲面302により接続されている。第2の隔壁側面-底面接続曲面302は、上下方向に沿った仮想平面(具体的には、第1隔壁701の他方の面709の法線を含み且つ上下方向に沿った仮想平面)による第1隔壁701及びその近傍の断面上で、本明細書で定義する傾斜角が、第1隔壁701の他方の面709から容器底部110の容器底面111にかけて連続的に変化するように、第1隔壁701の他方の面709と容器底部110の容器底面111とを接続する曲面であり、好適には、該断面上での曲率半径が10μm~15mm、より好ましくは10μm~1mmとなる曲面である。この特徴を有する実施形態7変形例5の細胞処理容器100では、第1隔壁701の他方の面709と容器底部110の容器底面111との間に細胞10が入り込む可能性を低減できるとともに、入り込んだ場合のカテーテルやピペットによる取り出しが容易である。
[図:0001417045000003.jpg]
[図:0001417045000004.jpg]
」
(2) 引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)より、引用文献2には以下の技術的事項が記載されている。
(引用文献2より読み取れる技術的事項)
「容器において側面と底部とが、丸みを帯びた側面-底面接続曲面により接続され、当該接続部の曲率半径が10μm~1mmであること」
3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「培養器具または検査用器具」は、「培養」という用語が一般に細菌や細胞を人工的に生育・増殖させることを意味することから、本願発明の「細胞取扱容器」に相当する。
引用発明の「底部と、側壁と、底部の外縁部と側壁の下端部との接続部と、収容部を有し、底部から側壁が概ね垂直に立った」「容器」は、本願発明の「底部と、底部の外縁部に配置された側壁と、底部及び側壁によって形成される細胞収容部とを有する」「細胞取扱容器」に相当する。
本願明細書の【0041】「本態様の細胞取扱容器において、側壁の内表面の少なくとも一部及び場合により底部の内表面の少なくとも一部の細胞接着性は、親水化処理又は細胞接着性薬剤のコーティング処理によって付与されることが好ましく、親水化処理によって付与されることがより好ましい。」や【0043】「本態様の細胞取扱容器において、親水化処理は、プラズマ処理、紫外線(UV)照射処理、電子線(EB)照射処理、親水性ポリマーの重合処理、及び刺激応答性ポリマーの重合処理からなる群より選択される1種以上の処理であることが好ましく、プラズマ処理又はUV照射処理であることがより好ましい。」との記載に鑑みると、本願発明の「細胞接着性」は、容器を紫外線照射処理などで親水化処理したことによるものであると認められる。とすると、引用発明の「培養器具または検査用器具」が「少なくとも表面の一部が、紫外線のパルス照射により酸化処理されている」ことや「紫外線ランプを光源とする紫外線を照射することで親水性を向上」されていることにより、本願発明と同様に引用発明においても表面の少なくとも一部が細胞接着性を有するものと解される。
引用発明の「底部と、側壁と、底部の外縁部と側壁の下端部との接続部と、収容部を有し、底部から側壁が概ね垂直に立った」容器は、「底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面」における状態でのことあることは明らかであるから、引用発明の「底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、側壁の細胞収容部に面する側の表面と底部の細胞収容部に面する側の表面との角度」が「概ね90°」のものに相当する。
とすると、本願発明と引用発明は、以下の一致点および相違点を有する。
(一致点)
底部と、底部の外縁部に配置された側壁と、底部及び側壁によって形成される細胞収容部とを有する細胞取扱容器であって、表面の少なくとも一部が細胞接着性を有する、細胞取扱容器であって、
底部の外縁部と側壁の下端部との接続部をさらに有し、
底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、側壁の細胞収容部に面する側の表面と底部の細胞収容部に面する側の表面との角度が、30°以上且つ120°以下の範囲である、前記細胞取扱容器。
(相違点1)
本願発明は、細胞接着性を有するのが、細胞取扱容器の「側壁の細胞収容部に面する側の表面の少なくとも一部」であるのに対し、引用発明では細胞取扱容器のどの部分であるかについての特定がない点。
(相違点2)
本願発明は、接続部の高さに関し「底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、底部の外縁部における底部の細胞収容部に面する側の表面と側壁の下端部との距離によって定義される接続部の高さが100 μm以下であり、」との特定があるのに対し、引用発明は当該接続部の高さについての特定がない点。
4 判断
(1)相違点1について
上記1(1)イの「従来、組織培養用シャーレ、トレイ、ボトルに代表される組織培養用容器は、前記容器の培地との接触面がいわゆる親水性でなければ培養される細胞が容器表面に着床出来ないため前記細胞の成育状態、細胞各個体の形態等を観察するためには不都合であり、何らかの方法で容器を親水化処理する必要性があった。」、1(1)エの「本発明者らは、従来から報告されている表面処理法を種々検討すると共に、その表面処理の現象に着目し、空気中の酸素を酸化しオゾンを発生する紫外線の照射に着目し、種々検討を重ねた結果、オゾンによる酸化を原理とした低圧水銀ランプによる紫外線の照射が、合成樹脂表面の水溶液に対する接触角を低下させる働きがあり、しかも前記表面に細胞が着床し増殖する事が組織培養実験の結果証明され本発明に到達した物である。」、1(1)オの「実施例ではシャーレを例に取って水に対する接触角が小さくなる事の利点を説明したが、その効果は大きく分けて以下の3点が挙げられる。」といった記載を見るに、引用文献1は、細胞収容部に収容する培地などの溶液が接触する部分の親水性を高めることを目的としているといえる。ここで、容器に培地などの溶液を収容する場合、側壁に溶液が接しないで底部にのみ接するようにするだけでなく、ある程度の溶液量を収容して底部に加え側壁にも溶液が接する態様で使用することは、ごく一般的である。実際、引用文献1において、紫外線照射の際に側壁をカバーするなど、側壁に親水性を付与しないような積極的な作業についての記載は一切見当たらない。とすると、紫外線照射で親水性を付与する際に、底部に加えて側壁の細胞収容部に面する面の表面の少なくとも一部には紫外線照射が行われ親水性が付与されている、すなわち細胞接着性を有するようにされていることは、明らかである。引用文献1の第1図は模式的な図と解されるが、紫外線ランプの照射先が底部だけでなく側壁も含むと見て取れることも、このことと軌を一にするものである。
このため、相違点1は実質的なものではない。
(2)相違点2について
例えば上記2(2)で記載したように、「容器において側面と底部とが、丸みを帯びた側面-底面接続曲面により接続され、当該接続部の曲率半径が10μm~1mmであること」、すなわち、容器において側面と底部との距離によって定義される接続部の高さが10μm~1mm程度のものは、既に細胞取扱容器において知られており、引用発明の容器でも、引用文献2に記載された細胞が入り込みにくく取り出しやすくするという課題が内在し得ることからすると、このような一般的な構造といえる接続部の構造を有する容器を採用することは、当業者が何らの創意工夫をすることなく、適宜なし得る程度のものである。
また、一般的な技術常識の見地からも、以下のように本願発明は当業者が容易になし得たものである。
特に接続部の高さを意識していない、底部から側壁が概ね垂直に立った容器(いわゆる一般的な容器)においては、接続部の高さは0μmあるいは誤差範囲の高さであるといえ、その場合、本願発明でいうところの「接続部の高さが100μm以下」に該当すると言える。このような一般的な形状を考慮するとなおさら、引用発明における容器の形状について、よく知られたものが包含されることをいう程度の「接続部の高さが100μm以下」との特定を加えることは、当業者が容易になし得たことである。
このため、当業者が、引用発明において相違点2に係る構成に至ることは、容易になし得たものである。
(3)効果について
本願明細書の実施例において、【0065】や【0067】を見るに、側壁のない表面と底部のない表面との角度が90°であって、接続部の曲率半径が0μmである試験例2は、いわゆる一般的な容器であり、当該試験例2の細胞保持率が100%と好適なことが開示されている。すなわち、本願発明の効果である、細胞構造体を形成する細胞の収縮を実質的に抑制する点は、いわゆる一般的な容器で十分に達成されるものである。このため、引用発明に比較して、進歩性が推認されるに値する顕著な効果が本願発明にあるとは、認めることができない。
(4)小括
このため、本願発明は、引用文献1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 請求人の主張について
(1)請求人の主張
審判請求人は、審判請求書にて概ね以下の主張を行っている。
ア 細胞接着性について
引用文献1のこのような記載を参酌した当業者であれば、当該文献の第1図に示されるUV照射によって、当該文献に記載の発明の器具を製造するために該器具の底部が親水化されることを直ちに理解できるものの、側壁も底部と同様に親水化されているか否かを直ちに理解することはできない。それ故、引用文献1は、本願請求項1に記載の「側壁の細胞収容部に面する側の表面の少なくとも一部が細胞接着性を有する」構成を記載又は示唆していない。
イ 接続部の高さ、側壁と底部の角度
引用文献1は、本願請求項1に記載の「底部の外縁部と側壁の下端部との接続部をさらに有し、底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、底部の外縁部における底部の細胞収容部に面する側の表面と側壁の下端部との距離によって定義される接続部の高さが100 μm以下であ」る構成、及び「底部の重心を通り且つ底部と直交する面における細胞取扱容器の断面において、側壁の細胞収容部に面する側の表面と底部の細胞収容部に面する側の表面との角度が、30°以上且つ120°以下の範囲であ」る構成を記載又は示唆していない。
ウ 本願発明の接続部の目的と引用文献2の目的の相違
引用文献2に記載の発明において、収容部周壁部の収容部側面と収容部底傾斜面とが丸みを帯びた収容部側面-底傾斜面接続曲面により接続されている構成は、細胞の取り出しを容易にすることを目的としており、本願発明の接続部とは全く異なる目的のための構成として記載されている。それ故、引用文献2の記載に接した当業者が、細胞構造体を形成する細胞の収縮を実質的に抑制することを期待して、引用文献1に記載の培養器具に、引用文献2に記載の丸みを帯びた収容部側面-底傾斜面接続曲面を組み合わせようと動機づけられることはないと思料する。
エ 本願発明の効果
本願発明の細胞取扱容器は、細胞構造体を形成する細胞の収縮を実質的に抑制し得るという格別顕著な作用効果を奏する。
(2)判断
アは上記4(1)で、イは上記3及び4(2)で、エは上記4(3)で、それぞれ述べたとおりである。ウについては、上記4(2)で述べたとおりであるし、引用文献2に記載の発明の目的と本願発明の目的が異なることが、引用文献1と引用文献2の組み合わせを妨げる理由にはならない。
よって、いずれの主張も採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項に規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-001944