特許拒絶査定不服審判
2022-008323
特定の数の細胞の自動収集
- 審判番号
- 2022-008323
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-545711外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月01日
- 審決日
- 2024年07月31日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】セル マイクロシステムズ インク
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 【請求人】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 分類
- P18 .113-WZ (C12M) / P18 .121-WZ (C12M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-545711「特定の数の細胞の自動収集」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月31日国際公開、WO2018/097950、令和2年8月20日国内公表、特表2020-524480〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年11月3日(パリ条約による優先権主張 2016年11月3日 US(米国)、2017年6月28日 US(米国)、2016年11月3日 US(米国)、2016年12月5日 US(米国))を国際出願日とする出願であって、令和4年1月24日付けで拒絶査定がなされ、同年6月1日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年10月10日付け 拒絶理由通知書
令和6年 4月17日 意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和6年4月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「マイクロウェルアレイから細胞ラフトを解放するためのシステムであって、
マイクロウェルアレイの画像を取得するように構成された撮像装置であって、マイクロウェルアレイは、複数の細胞ラフトを含み、各細胞ラフトは、解放可能で微細加工された構造を含み、前記マイクロウェルアレイ中の各マイクロウェルは、前記解放可能で微細加工された構造を含む、撮像装置;
前記マイクロウェルアレイから細胞ラフトを解放するように構成されたアクチュエータ;及び、
少なくとも1つのプロセッサとメモリとを備えるコンピュータシステム、を含み:
前記コンピュータシステムは:
前記撮像装置を用いて前記マイクロウェルアレイの1又はそれ以上の画像を取得すること;
前記マイクロウェルアレイの前記1又はそれ以上の画像を解析することによって、前記複数の細胞ラフトの中から選択された細胞ラフトを識別することであって、前記選択された細胞ラフトを識別することは、各細胞ラフトについて、前記細胞ラフトのサブ画像内に描かれた細胞の数をカウントすることであって、ここで前記サブ画像は、前記選択された細胞ラフトを描く前記1又はそれ以上の画像のうちの画像の一部である、カウントすることと、単一の分離された細胞を収容する少なくとも1の単一細胞ラフトを識別することとを含み、選択された細胞ラフトを識別することは、前記コンピュータシステムが、
・各細胞ラフトについて、前記細胞ラフトのサブ画像に描かれたマーカを検出することであって、マーカは、
蛍光カラー若しくは明視野チャンネルの強度、及び、
細胞のサイズ又は単一細胞の細胞構造のサイズ
のいずれか又は両方を含む、マーカを検出すること;及び
・マーカが検出されたことに応答して、細胞ラフトをゲーティングすること
を含む操作を実行することを含む、選択された細胞ラフトを識別すること;並びに、
前記マイクロウェルアレイから前記選択された細胞ラフトを解放するように前記アクチュエータを制御すること、
により、画像化及び細胞ラフトの解放を自動で行うようプログラムされている、システム。」(以下、「本願発明」という。)
第3 当審で通知した拒絶の理由の概要
令和5年10月10日付けで当審が通知した拒絶理由は、下記の新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由を含むものである。
1.(新規性)本願発明は、その優先日(2016年11月3日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:Nature Cell Biology,2015年,Vol.17,p.340-349,METHODS,SUPPLEMENTARY INFORMATION及びSupplementary Note 1-2,DOI:10.1038/ncb3104
第4 当審の判断
1.引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献1は、英語で記載されているため当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付記したものである。
引1a
「幹細胞ニッチの共培養と下流の遺伝子発現解析のためのハイスループット・プラットフォーム」(340頁1行~2行)
引1b
「幹細胞は「ニッチ」で存在し、そこでは細胞をサポートし、組織再生のために重要なシグナル伝達を行っている。培養法はニッチ条件を模倣し、試験管内で幹細胞の成長をサポートする。しかし、現在の機能的アッセイでは、クローン性幹細胞、幹細胞とニッチの相互作用、単一細胞やその子孫オルガノイドの遺伝学的解析などの統計学的に有意な研究は不可能である。ここでは、ハイスループットなコロニー形成培養と、単一腸管幹細胞(ISC)とニッチェ細胞の計算による同定を容易にする「マイクロラフトアレイ」(MRA)について述べる。我々はMRAを用いて、既知のISCニッチ要素として知られるパネス細胞が、接触依存的方法で、オルガノイド形成を促進することを証明した。MRAは、腸管形態などの機能的特性と遺伝子の発現の違いを相関させる定量的PCRによる初期腸管の探索を容易にする。MRAは、幹細胞とニッチの相互作用やオルガノイドの発生をアッセイする幅広い応用が可能であり、幹細胞の初期段階における遺伝子発現を調べるためのハイスループット培養プラットフォームとして役立つ。」(340頁左欄1行~19行)
引1c
「
[図:0001418402000001.jpg]
図2 MRA培養の初期ウェル内容物を特定するソフトウェア支援ポストホック解析。(a)定義されたワークフローにより、MRA培養のウェル内容物を特定するためのポストホック画像解析が容易になる。(b)タイルスキャンされた画像はつなぎ合わされて1つの合成画像となり、次に個々のマイクロウェル画像に分割される。スケールバーは100μmを表す。(c)個々のマイクロウェルを目視検査すると、ISCだけでなく、破片や蛍光グレアも存在することがわかる。スケールバーは50μmを表す。(d-f)真のISCと破片/ノイズを区別するために、CellProfilerを用いて目視でスコア化したウェルを分析し、コンパクト性、形態要素、偏心について標的イベント(ISC、青)と破片(赤)の分布プロファイルを決定した。(g)既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、オブジェクトを識別し、フィルターを適用する、新しいCellProfilerパイプラインが、分割されたマイクロウェル画像の解析に使用される。CellProfilerによって最初に識別された対象の数が、フィルタリングパラメータをパスした対象の数と等しい場合、そのマイクロウェルは包含基準をパスし(gにおける一番上のマイクロウェル)、そうでない場合は、デブリを含むか空であるとして除外される(gにおける真ん中と下のマイクロウェル)。スケールバーは50μmを表す。(h,i)無作為に選択されたマイクロウェル画像に最適化パイプラインを適用した結果、1、2、3、4個のISCを含むウェル(n=2、254個のマイクロウェルを無作為に選択)に対して、99.87%、71.53%、46.51%、29.03%の精度を示す。」(342頁の図2及び左欄1行~右欄11行)
引1d
「方法
・・・
MRAでのISCのプレーティング
単離したISCとPCをMRA(Cell Microsystems)に、ISCはマイクロウェル1個あたり約1.5個、PCはマイクロウェル2個あたり約1個の割合でプレーティングした。・・・以前記載されたように、ISC/PC共培養実験では、Jagged-1ペプチドとY27632を除いた成長因子が2日ごとに補充され、培地は4日ごとに交換された。
画像取得、スティッチング、セグメンテーション
マイクロウェルアレイは、自動ステージとMetamorph Imaging Suite(Molecular Devices社製)のScan Slide機能を用いて、プレーティングと培地オーバーレイの直後に明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンした(補足図3B)。アレイは、イメージング手順による細胞死を防ぐため、イメージング中は蛍光顕微鏡に取り付けた生理学的チャンバーに収容した。スキャンされた画像は、オープンソースの画像解析スイートFIJI40を用いて1つの合成画像につなぎ合わせ、MATLAB(MathWorks)で設計されたアルゴリズム‘Segmenter.m’を用いて、アドレスに関連する個々のウェル画像に分割した。
・・・
ラフト回収と単一ISCおよび腸管からのcDNAの生成。
FACSで分離したLgr5EGFPISCsを、単細胞に有利な密度(15,000ウェルに対して22,500個のLgr5high細胞)でMRA装置に適用した。単一のLgr5EGFPISC、発生中の腸胞、または完全に発生した腸小体のいずれかを含む24~36個のラフトを、記載された時点で回収した。ラフトの回収は、湿度と温度を維持する生理的チャンバーを装着したOlympus IX-81顕微鏡を用いて行った。ISCまたはエンテロイドを含むマイクロウェルは、ラフトを放出する前に同定され、画像化された。ラフトは、標準対物レンズに機械的に作動する針を取り付けた市販のIsoRaft放出・回収システム(Cell Microsystems社製)を用いて放出した。PDMSウェルからラフトを遊離させた後、マグネットマイクロワンド(Cell Microsystems社製)を用いてラフトを回収し、5μlのRNA溶解バッファー(CellsDirect,Life Technologies社製)を入れたU字底96ウェルプレートの1ウェルに移した。ラフトは44.8±14.3秒で回収され、回収成功率は93.3%であった(n=30ラフト)。
・・・
CellProfiler 2.0による解析。
初期マイクロウェル内容物の計算解析は、CellProfiler 2.0(Broad Institute)を用いて、次の2つのステップで行った:セグメント化されたマイクロウェル画像をCellProfilerに順次ロードし、アレイの各マイクロウェルの内容物を決定する;(2)CellProfilerによって生成された生データを、アレイ培養内のISCの望ましい位置、生存性、あるいは成長を示す、解釈しやすいグラフや表に変換する。・・・自家蛍光やマイクロウェル壁面からの反射は、処理されたマイクロウェル画像を歪ませ、幹細胞同定の精度を低下させる。CellProfilerに読み込まれた生画像は、「MoG Global」法による閾値処理が施される。単一細胞の画像占有率を10個のマイクロウェル画像から推定し、バックグラウンド同定を防ぐために閾値の相関係数を高めた。DsRed+細胞など、中心に向かって画素強度が増加する物体に最適なLaplacian of Gaussianアルゴリズムを用いて、単一物体か塊状物体かを区別した。細胞の同定と残骸の識別のためのパラメータを確立するために、Sox9EGFPlow:DsRed+ISCを含む2チャンバーのマイクロウェルアレイから、単一のISCを含む500個のマイクロウェル画像と、残骸や蛍光ノイズを含む500個のマイクロウェル画像を無作為に選択した(図2c)。CAGプロモーターはSox9EGFPBAC導入遺伝子よりも有意に強い蛍光シグナルを発するため、全ての解析はDsRed波長で行った。これらの画像は、CellProfiler 2.0のモジュール‘MeasureObjectSizeShape’で一般的なサイズ/形状解析にかけられた。CellProfilerでISCを同定するための分析パイプラインを開発するために、3つの特定のパラメータであるコンパクト性、形態要素、偏心に焦点を当てた。標準的な画像の閾値処理を適用した後、CellProfilerは1,000枚の画像パネル中の各マイクロウェル中の物体を同定し、ISCは、関心のある各パラメータについて、デブリ/ノイズとは異なる値の分布を持つことがわかった(図2d-f)。これらの分布曲線を用いて閾値を設定し、‘FilterObjects’ CellProfilerモジュールを用いて、同定された全オブジェクトの中からISCを同定した(図2g)。・・・‘WellContents.xls’でフィルター前後のマイクロウェル内容物を比較することで、無傷の幹細胞のみを含み、残骸を含まないマイクロウェル画像を特定することができた(図2g)。偏りのないマイクロウェル画像を用いてISC同定パイプラインを検証するため、ランダムに選んだ2,254個のマイクロウェルの内容物を手作業でスコアリングした。この画像パネルを、新たに開発したパイプラインを用いて解析したところ、特にISCを1個含むマイクロウェルについて、高い精度で初期マイクロウェル内容物を同定することができた(99.87%の精度;図2h)。ストリンジェンシーの設定により、複数の細胞を含むウェルではこの精度は低下した。」(METHODSの350頁左欄1行~351頁左欄下から7行)
2.引用発明の認定
引用文献1の「方法」の項(引1d)には、以下の記載がある。
(ア)
「単離したISCとPCをMRA(Cell Microsystems)に・・・プレーティングし」、「共培養」したこと。
(イ)
「プレーティングと培地オーバーレイの直後に明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンし・・・スキャンされた画像は・・・1つの合成画像につなぎ合わせ・・・アルゴリズム・・・を用いて、アドレスに関連する個々のウェル画像に分割した」こと。
(ウ)
「CellProfilerに読み込まれた生画像は・・・閾値処理が施され」、「DsRed+細胞など、中心に向かって画素強度が増加する物体に最適な・・・アルゴリズムを用いて、単一物体か塊状物体かを区別した」こと。
「標準的な画像の閾値処理を適用した後、CellProfilerは1,000枚の画像パネル中の各マイクロウェル中の物体を同定し、ISCは、関心のある各パラメータについて、デブリ/ノイズとは異なる値の分布を持つことがわかった(図2d-f)。」こと。
「これらの分布曲線を用いて閾値を設定し、‘FilterObjects’ CellProfilerモジュールを用いて、同定された全オブジェクトの中からISCを同定し」たこと。
「特にISCを1個含むマイクロウェルについて、高い精度で初期マイクロウェル内容物を同定することができた(99.87%の精度;図2h)」こと。
(エ)
「ISCまたはエンテロイドを含むマイクロウェルは、ラフトを放出する前に同定され、画像化された」こと。
「ラフトは、標準対物レンズに機械的に作動する針を取り付けた市販のIsoRaft放出・回収システム(Cell Microsystems社製)を用いて放出した」こと。
「PDMSウェルからラフトを遊離させた後、マグネットマイクロワンド(CellMicrosystems社製)を用いてラフトを回収し、5μlのRNA溶解バッファー(CellsDirect, Life Technologies社製)を入れたU字底96ウェルプレートの1ウェルに移した」こと。
また、引用文献1の図2(引1c)には、上記(イ)、(ウ)に対応する(イ)’、(ウ)’の記載がある。
(イ)’
「(b)タイルスキャンされた画像はつなぎ合わされて1つの合成画像となり、次に個々のマイクロウェル画像に分割される」こと。
(ウ)’
「(d-f)真のISCと破片/ノイズを区別するために、CellProfilerを用いて目視でスコア化したウェルを分析し、コンパクト性、形態要素、偏心について標的イベント(ISC、青)と破片(赤)の分布プロファイルを決定した」こと。
「(g)既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、オブジェクトを識別し、フィルターを適用する、新しいCellProfilerパイプラインが、分割されたマイクロウェル画像の解析に使用され」ること。
「(h,i)無作為に選択されたマイクロウェル画像に最適化パイプラインを適用した結果、1、2、3、4個のISCを含むウェル(n=2、254個のマイクロウェルを無作為に選択)に対して、99.87%、71.53%、46.51%、29.03%の精度を示す」こと。
以上の記載からすると、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認定できる。
「単離したISCとPCを、MRAにプレーティングし、共培養する工程
明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンした画像を1つの合成画像につなぎ合わせアドレスに関連する個々のウェル画像に分割する工程
CellProfilerを用いて目視でスコア化したウェルを分析し、コンパクト性、形態要素、偏心について標的イベント(ISC)と破片の分布プロファイルを決定して、全オブジェクトの中からISCと破片/ノイズを区別し、既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、オブジェクトを識別し、フィルターを適用することにより、無傷の幹細胞のみを含み、残骸を含まないマイクロウェル画像を特定し、特にISCを1個含むマイクロウェルを高い精度で同定する工程
PDMSウェルから市販のIsoRaft放出・回収システムを用いて、ラフトを遊離させ、マグネットマイクロワンドを用いてラフトを回収し、RNA溶解バッファーを入れたU字底96ウェルプレートの1ウェルに移す工程
を含むシステム。」(以下、「引用発明」という。)
3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「MRA」、「ISC」は、それぞれ「マイクロラフトアレイ」、「単一腸管幹細胞」を意味し(引1b)、引用発明の「MRA」(マイクロラフトアレイ)は、市販のIsoRaft放出・回収システムを用いて、PDMSウェルからラフトを遊離させることができるものなので、本願発明の「複数の細胞ラフトを含み、各細胞ラフトは、解放可能で微細加工された構造を含み、前記マイクロウェルアレイ中の各マイクロウェルは、前記解放可能で微細加工された構造を含む」「マイクロウェルアレイ」に相当する。
引用発明は「明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンした画像」を得ることを含むシステムであるから、引用発明のシステムが本願発明のように「マイクロウェルアレイの画像を取得するように構成された撮像装置」を備えていることは明らかである。
引用発明の「CellProfilerを用いて」「全オブジェクトの中からISCと破片/ノイズを区別する工程」や「無傷の幹細胞のみを含み、残骸を含まないマイクロウェル画像を特定し、特にISCを1個含むマイクロウェルを高い精度で同定する工程」は、引用文献1の図2(引1c)よりコンピュータで行われていると理解でき、また、コンピュータがプロセッサとメモリを備えプログラムにより機能することは周知なので、引用発明のシステムが、本願発明のように「プロセッサとメモリとを備えるコンピュータ」を備えていることは明らかである。
引用発明の「明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンした画像を1つの合成画像につなぎ合わせ」たものを「アドレスに関連する個々のウェル画像に分割」した画像は、本願発明の「選択された細胞ラフトを描く前記1又はそれ以上の画像のうちの画像の一部である」「サブ画像」に相当する。
引用発明の「CellProfilerを用いて目視でスコア化したウェルを分析し、コンパクト性、形態要素、偏心について標的イベント(ISC)と破片の分布プロファイルを決定して、全オブジェクトの中からISCと破片/ノイズを区別し、既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、オブジェクトを識別し、フィルターを適用することにより、無傷の幹細胞のみを含み、残骸を含まないマイクロウェル画像を特定し、特にISCを1個含むマイクロウェルを高い精度で同定する工程」は、各細胞ラフトの「明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンした画像」を使用し、既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、フィルタリングすることにより行われるものであり、引用文献1の図2のh及びiによると、ISCを1個含むマイクロウェルの数はCellProfilerによりカウントされている。
一方、本願発明の「マイクロウェルアレイの前記1又はそれ以上の画像を解析すること」について、本願明細書の【0092】には、「画像に強度閾値(例えばユーザ指定の閾値)を適用して二値画像を作成する」、同【0093】には、「例えばあらゆる任意の適切な物体検出アルゴリズムを使用して、二値画像内の固有のオブジェクトを識別する」、「例えば、閾値数未満のピクセル(例えば、10ピクセル)を有する識別された固有のオブジェクトを破棄することによって、大きさに基づいて識別された固有のオブジェクトをフィルタリングする」、「フィルタリングした後に残りのオブジェクトを数える」、「単一細胞しか示されていない場合には選択された細胞ラフトを識別する」、同【0102】には、「GUI画面はまた、マイクロウェルアレイの全アレイスキャン中に細胞を含むと識別されたラフトの総数、及びその後の分離のためにユーザ指定の閾値パラメータを満たす単一細胞内在ラフトの数をユーザに提示する」の記載があることから、上記の本願発明の画像の解析は、各画像の「蛍光カラー若しくは明視野チャンネルの強度、及び、細胞のサイズ又は単一細胞の細胞構造のサイズのいずれか又は両方を含む、マーカ」を使用するものであって、その具体的な解析内容は、大きさに基づいて識別された固有のオブジェクトをフィルタリングし、識別されたラフトの総数、及び、ユーザ指定の閾値パラメータを満たす単一細胞内在ラフトの数をユーザに提示するものと認められ、上記の引用発明における解析内容と軌を一にするものである。
よって、
引用発明の
「CellProfilerを用いて目視でスコア化したウェルを分析し、コンパクト性、形態要素、偏心について標的イベント(ISC)と破片の分布プロファイルを決定して、全オブジェクトの中からISCと破片/ノイズを区別し、既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、オブジェクトを識別し、フィルターを適用することにより、無傷の幹細胞のみを含み、残骸を含まないマイクロウェル画像を特定し、特にISCを1個含むマイクロウェルを高い精度で同定する工程」は、
本願発明の
「前記マイクロウェルアレイの前記1又はそれ以上の画像を解析することによって、前記複数の細胞ラフトの中から選択された細胞ラフトを識別することであって、前記選択された細胞ラフトを識別することは、各細胞ラフトについて、前記細胞ラフトのサブ画像内に描かれた細胞の数をカウントすることであって、ここで前記サブ画像は、前記選択された細胞ラフトを描く前記1又はそれ以上の画像のうちの画像の一部である、カウントすることと、単一の分離された細胞を収容する少なくとも1の単一細胞ラフトを識別することとを含み、選択された細胞ラフトを識別することは、前記コンピュータシステムが、
・各細胞ラフトについて、前記細胞ラフトのサブ画像に描かれたマーカを検出することであって、マーカは、
蛍光カラー若しくは明視野チャンネルの強度、及び、
細胞のサイズ又は単一細胞の細胞構造のサイズ
のいずれか又は両方を含む、マーカを検出すること」に他ならないといえる。
引用発明の「PDMSウェルから市販のIsoRaft放出・回収システムを用いて、ラフトを遊離させ、マグネットマイクロワンドを用いてラフトを回収し、RNA溶解バッファーを入れたU字底96ウェルプレートの1ウェルに移す工程」は、引用文献1によれば、「明視野、GFPおよびDsRed波長でタイルスキャンした画像」について「同定され、画像化されたISC」「を含むマイクロウェル」に対して行われるものなので(引1d)、本願発明の「マーカが検出されたことに応答して、細胞ラフトをゲーティングすることを含む操作を実行することを含む、選択された細胞ラフトを識別すること;並びに、前記マイクロウェルアレイから前記選択された細胞ラフトを解放する」ことに相当する。
引用文献1には「市販のIsoRaft放出・回収システム」が「標準対物レンズに機械的に作動する針を取り付けた」ものであることが記載されるので(引1d)、上記の針がアクチュエータにより機械的に駆動され、制御されるものであることは明らかであり、引用発明の「市販のIsoRaft放出・回収システム」は、本願発明のように「マイクロウェルアレイから細胞ラフトを解放するように構成されたアクチュエータ」を含み、「前記マイクロウェルアレイから前記選択された細胞ラフトを解放するように前記アクチュエータ」が「制御」されているといえる。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「マイクロウェルアレイから細胞ラフトを解放するためのシステムであって、
マイクロウェルアレイの画像を取得するように構成された撮像装置であって、マイクロウェルアレイは、複数の細胞ラフトを含み、各細胞ラフトは、解放可能で微細加工された構造を含み、前記マイクロウェルアレイ中の各マイクロウェルは、前記解放可能で微細加工された構造を含む、撮像装置;
前記マイクロウェルアレイから細胞ラフトを解放するように構成されたアクチュエータ;及び、
少なくとも1つのプロセッサとメモリとを備えるコンピュータシステム、を含み:
前記コンピュータシステムは:
前記撮像装置を用いて前記マイクロウェルアレイの1又はそれ以上の画像を取得すること;
前記マイクロウェルアレイの前記1又はそれ以上の画像を解析することによって、前記複数の細胞ラフトの中から選択された細胞ラフトを識別することであって、前記選択された細胞ラフトを識別することは、各細胞ラフトについて、前記細胞ラフトのサブ画像内に描かれた細胞の数をカウントすることであって、ここで前記サブ画像は、前記選択された細胞ラフトを描く前記1又はそれ以上の画像のうちの画像の一部である、カウントすることと、単一の分離された細胞を収容する少なくとも1の単一細胞ラフトを識別することとを含み、選択された細胞ラフトを識別することは、前記コンピュータシステムが、
・各細胞ラフトについて、前記細胞ラフトのサブ画像に描かれたマーカを検出することであって、マーカは、
蛍光カラー若しくは明視野チャンネルの強度、及び、
細胞のサイズ又は単一細胞の細胞構造のサイズ
のいずれか又は両方を含む、マーカを検出すること;及び
・マーカが検出されたことに応答して、細胞ラフトをゲーティングすること
を含む操作を実行することを含む、選択された細胞ラフトを識別すること;並びに、
前記マイクロウェルアレイから前記選択された細胞ラフトを解放するように前記アクチュエータを制御すること、
により、画像化及び細胞ラフトの解放が行うようにされている、システム。」で一致し、以下の点で一応相違している。
<一応の相違点>
本願発明のシステムでは、「画像化及び細胞ラフトの解放を自動で行うようプログラムされている」のに対して、
引用発明のシステムでは、上記のような特定がなされていない点。
4.一応の相違点の検討
細胞の培養や分析システムの工程を、コンピュータにより自動化して行うことは、引用文献を示すまでもなく、本願の優先日(2016年11月3日)における周知技術であるし、引用文献1の図2(引1c)によれば、引用発明の「CellProfiler」を用いる画像化の工程はコンピュータによりプログラムされ、自動化されていると認められるので、引用発明の画像化及び細胞ラフトの解放を自動で行うようプログラムすることも引用文献1に記載されていると同視できるか、仮に引用文献1に記載されてないとしても、上記の周知技術に照らすと、上記の一応の相違点として挙げた本願発明の発明特定事項は当業者が容易になし得たものといえる。
また、本願明細書を参照しても、上記の相違点に基づき、本願発明が格別顕著な効果を奏したとは評価できない。
5.審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1のものは、初期のマイクロウェルの内容物の計算分析にコンピュータシステムを使用したに過ぎず、「細胞ラフトのサブ画像に描かれた細胞の数をカウントし、そのカウントによって単一細胞ラフトをコンピュータ上で識別すること」が記載されていない点、引用文献2のものも「細胞ラフトのサブ画像に描かれた細胞の数をカウントし、そのカウントによって単一細胞ラフトをコンピュータ上で識別すること」がやはり記載されていない点を挙げ、本願発明は進歩性を有する旨を主張する。
しかし、上記2及び3によれば、引用文献1には、CellProfilerを用いて、標的イベント(ISC)と破片の分布プロファイルを決定して、全オブジェクトの中からISCと破片/ノイズを区別し、既知のISCのサイズと形状のプロファイルに基づき、オブジェクトを識別し、フィルターを適用することにより、無傷の幹細胞のみを含み、残骸を含まないマイクロウェル画像を特定し、特にISCを1個含むマイクロウェルを高い精度で同定することが記載され、引用文献1の図2のh及びiによれば、ISCを1個含むマイクロウェルの数がCellProfilerによりカウントされている。
そして、上記3で示した、本願明細書の【0092】、【0093】、【0102】の記載を参酌すると、「細胞ラフトのサブ画像に描かれた細胞の数をカウントし、そのカウントによって単一細胞ラフトをコンピュータ上で識別すること」は、引用文献1に実質的に記載されていると認められる。
また、審判請求人は、令和6年4月17日付け意見書で、具体的な理由を示すことなく、補正された「本願請求項1から16にかかる発明は、引用文献に記載も示唆もされておらず、新規性及び進歩性を有する」旨を主張する。
しかし、補正された本願発明が新規性、進歩性を有しないことは、上記2~4で示したとおりである。
したがって、上記の審判請求人の主張は、いずれも理由がない。
6.小括
上記1~5の次第であるから、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-008323