審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-020080

液吐出ヘッド及び液吐出装置

審判番号
2023-020080
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-141773
請求日
2023年11月28日
審決日
2025年08月15日
公報発行日
2025年10月31日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社リコー
  • 【請求人代理人】伊東 忠重
  • 【請求人代理人】伊東 忠彦
審判長/審判官
  • 審判長 波多江 進
  • 審判官 東松 修太郎
  • 審判官 野村 伸雄
分類
P18 .113-Z (C12M) / P18 .121-Z (C12M) / P18 .575-Z (C12M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-141773「液吐出ヘッド及び液吐出装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月18日出願公開、特開2020- 92692〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和元年7月31日の出願(優先権主張 平成30年11月5日 平成30年11月30日)であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和 5年 5月18日付け:拒絶理由通知書 同年 7月14日 :意見書、手続補正書の提出 同年 8月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月29日 :原査定の謄本の送達) 同年11月28日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和5年11月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年11月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正は、特許請求の範囲についてする補正であって、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、 前記膜状部材における、前記吐出口から吐出する前記液が配置される側に位置し、前記膜状部材の位置を変位させて前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、 前記膜状部材および前記変位部材の少なくともいずれかの上に配置される前記液を収容可能であり、かつ通気口を有する液収容室と、 を有し、 前記膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされていることを特徴とする液吐出ヘッド。」 (2) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正前の、令和5年7月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、 前記膜状部材における、前記吐出口から吐出する前記液が配置される側に位置し、前記膜状部材の位置を変位させて前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、 前記膜状部材および前記変位部材の少なくともいずれかの上に配置される前記液を収容可能であり、かつ通気口を有する液収容室と、 を有することを特徴とする液吐出ヘッド。」 2 本件補正の適否 本件補正のうち請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「膜状部材」を「前記膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされている」と限定する補正を行うものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正のうち請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。 (1) 本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。 (2) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定 ア 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の最先の優先日前に発行された特開2004-181277号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は、当合議体が付した。)。 「【0022】 【発明の実施の形態】 第1の実施形態 本発明の第1の実施形態について、図1~図11を参照して説明する。本実施形態においては、DNAディスクプレイヤやプリンタ装置等の種々の装置及びそれら装置の製造工程に適用される本発明に係る液滴吐出装置の基本構成について、その具体的な構成例を示して詳細に説明する。 【0023】 まず、本実施形態の液滴吐出装置の構成について説明する。図1は、その液滴吐出装置1の構成を示す図である。図1に示すように、液滴吐出装置1は、液滴吐出ヘッド10及び電流制御回路20を有する。液滴吐出ヘッド10は、ノズル部100及び駆動部200を有し、ノズル部100はさらに液室固定部(流路部)110及び液体吐出部120を有する。なお、液体吐出部120と駆動部200の後述する筒状導電部材(周方向部材)230とは一体的に形成されており、これらは移動部材140を構成する。また、液室固定部110と移動部材140の液体吐出部120との間に、吐出対象の液体を収容する液室130が形成される。 【0024】 以下、各部の構成、構造について詳細に説明する。液滴吐出ヘッド10のノズル部100の液室固定部110は、駆動部200と一体的に、図示せぬ基材上又は液滴吐出ヘッド10のハウジングに固定して設けられ、一方の端面111において液室130の背面を規定する円筒状部材である。液室固定部110の内部には、端面111に形成された液体供給口(開口部)112から液室固定部110の他方の端部の開口部115までを貫通し、液室130に吐出対象の液体を供給するための液体供給路113が形成されている。 【0025】 この液体供給路113の開口部115に近い所定の区間には、図示のごとく液体供給路113の径が拡張されて形成された液溜まり114が具備されており、これにより供給された液体を一時的に溜めるようになっている。また、液室固定部110の他方の端部の開口部115には、液体供給路113に連通するエア抜き孔117を有する蓋部材116が設けられている。なお、本実施形態の液滴吐出ヘッド10においては、液室130の内径は約2.5mmであり、液室固定部110の外径はこれよりわずかに小さいもの(例えば2.5mmより大きく20μmより小さい)とする。また、液体供給路113の内径は50μmとする。ただし、本発明では、これらの寸法に限定されない。 【0026】 液体吐出部120は、液室固定部110と連接して液室130を形成するとともに、筒状導電部材230と一体的に可動されてその液室130の容積を変化させ、これにより液室に収容している液体を吐出する部材である。液体吐出部120は、前面板121及びガイド部材124を有する。前面板121は、図示のごとく、中央部がわずかに膨らんだドーム形状の部材である。前面板121の中央部付近の後述するガイド部材124で囲まれる範囲は、液室130の前面を規定する面122を構成する。また、前面板121の中央部には、液体を吐出するための開口部である吐出口123が設けられている。また、前面板121の周縁部分には、後述する駆動部200の円筒形状の導電部材230が一体的に形成されている。なお、本実施形態において前面板121の厚さは、約20μmである。 【0027】 ガイド部材124は、円筒状の部材であり、液室130の側面を規定するとともに液体吐出部120を含む後述する移動部材140の移動を案内するように、液室固定部110の外径とほぼ同じ内径を有し、固定部110の外周に摺接して軸方向に移動可能となっている。ガイド部材124は、その一方の端部が前面板121の内側の中央部付近に接合されており、ガイド部材124自身により液室130の側面が規定される。そして、このガイド部材124の内側に、液室固定部110が挿入され嵌めこまれた状態となるようにしてガイド部材124が液室固定部110に装着される。以後、この状態を嵌装されると言うものとする。これにより、液室固定部110の端面111、ガイド部材124の内面及び前面板121の内側面122で規定された液室130が形成される。なお、本実施形態においては、ガイド部材124の内径は2.5mmであり、液室130の内径も同じである。 【0028】 前述したように、液室固定部110は、その外径がガイド部材124の内径よりも若干小さくなるように形成されている。従って、ガイド部材124は、液室固定部110に、軸方向に摺動可能な状態で嵌装される。通常、ガイド部材124は、液室130の容積が所定の大きさとなる所定の基準位置まで液室固定部110に嵌装される。しかしながら液滴の吐出時には、ガイド部材124は、その基準位置より、液室130の容積を大きくする方向(図1においては左方向。以後、この方向を正方向と言う。)、あるいは、液室130の容積を小さくする方向(図1においては右方向。以後、この方向を負方向と言う。)に摺動され、これに伴って液室前面122も移動し、液室130の容積が変化される。 【0029】 なお、本実施形態においては、液室130の軸方向長さが約1mmとなる時のガイド部材124の位置を基準位置とし、液滴を吐出する時には、ガイド部材124は正方向又は負方向に15μm程度移動するものとする。ガイド部材124の内面又は液室固定部110の外面には、潤滑性被膜を形成してもよい。摺動性を高めるためである。 【0030】 液室130は、前述したように、液室固定部110の一方の端部111、及び、液体吐出部120の前面121の一部122及びガイド部材124により構成される。その大きさは、内径が2.5mmで、通常時の軸方向長さが約1mmである。そして、液室130の内部は、金属酸化等により親水性となるように表面処理が施されており、これにより、極性溶液が容易に液室130内部に導入されるようになっている。そして、後述する駆動部200の筒状導電部材230が軸方向に移動することにより、これと一体的に設けられた液体吐出部120の前面板121(液室前面122)及びガイド部材124も移動し、液室130の容積を変化させる。その結果、液室130内の液体が吐出口123より吐出する。なお、筒状導電部材230、液室前面122及びガイド部材124の移動範囲は、基準位置より±15μm程度である。 【0031】 液室前面122(前面板121)に設けられた吐出口123は、図2に示すように、液室130の内側(前面板121の液室固定部110側)から外側(液体の吐出方向側)に向けて徐々に口径が小さくなるように、テーパが設けられた形状に、換言すれば、円錐形状の断面を有する形状に成形されている。本実施形態においては、液室130内側の吐出口123の口径は30μm、液室130外側(液体吐出側)の吐出口123の口径は20μm、その厚さは20μmである。そして、この吐出口123の液面が大気と接する付近の壁面は、例えばシラン系又はテフロン系(テフロンは、米国デュポン社の登録商標)の化合物により、疎水性となるように表面処理がなされており、これにより、液体吐出時に液体が壁面より離脱しやすくなるようになっている。 【0032】 図1に示すように、駆動部200は、一次コイル210及び環状磁気回路220を有する。液室固定部110の外側に略同心状に配置されたギャップ223を有する環状磁気回路220が配置され、このギャップ223部分に、一次コイル210及び筒状導電部材230が配置されている。」 「 [図:0001427318000001.jpg] 」 「【0043】 次に、このような構成の液滴吐出装置1の動作について、図3~図7を参照して説明する。なお、図3及び図5は、図1と同様の視点でノズル部100を紙面に垂直な側面方向から見た場合の一次コイル210及び環状磁気回路220を示し、図4は、図1で紙面右側となるノズル部100の裏側から筒状導電部材230を見た場合を示す図である。まず、電流制御回路20より一次コイル210に、図3に示すような電流I1が流されると、一次コイル210の周囲には、図示のごとき磁束φ1が生成される。この時、一次コイル210に囲まれた面内を通過する磁束は、筒状導電部材230に囲まれた空間内をそのまま通過する。このような構成において、電流制御回路20より一次コイル210に印加する電流が変化すると、一次コイル210により生じる磁束φ1も変化することとなり、その結果、筒状導電部材230を通過する磁束も変化することとなる。筒状導電部材230に囲まれた面内を通過する磁束に変化が生じると、筒状導電部材230に式(1)に示したようなファラデーの電磁誘導の法則に基づく誘導起電力が生起し、筒状導電部材230の周面に沿って、例えば図4に示すような誘導電流I2が生成される。 【0044】 一方で、筒状導電部材230に対しては、環状磁気回路220の作用により、周面に垂直な方向、本実施形態においては図4に示すように周面の内側から外側向きに静磁界B0が印加されている。その結果、筒状導電部材230には、図5に示すように、式(2)に示したような誘導電流I(I2)と静磁界B(B0)の相互作用による電磁力Fが作用することとなる。これにより、筒状導電部材230は、一次コイル210に印加される電流に応じて軸芯方向(図5の状態では液体吐出面方向)の正又は負の向きに移動されることとなる。なお、筒状導電部材230は、基本的な動作として、まず初期状態として所定の基準位置に配置され、液体吐出動作時に、軸方向に往復移動を行う。電流制御回路20は筒状導電部材230がこのような動作を行うように、所望のシーケンスの電流を印加する。なお、この時の筒状導電部材230の移動距離は15μm程度である。」 「 [図:0001427318000002.jpg] 」 「【0047】 この吐出口123より液滴が吐出される状態について、図6及び図7を参照して説明する。 まず、吐出口123が基準位置と拡張位置との間を往復移動することにより液滴が吐出される状態について、図6を参照して説明する。 図6(A)に示すように、液室前面122が基準位置P0に存在し液室130に液体が充満されている初期状態より、図6(B)に示すように、液室前面122が液室130を拡張する方向に基準位置P0より15μm離れた拡張位置P1に移動したとする。その移動は急激なので、図6(B)に示すように、吐出口123付近の液室130内部に、液体が存在しない空隙孔が形成されることとなる。その後に、図6(C)に示すように、液室前面122が基準位置P0に急激に戻されることで、吐出口123から液滴が吐出される。 なお、液体の粘性(共振周波数)等のパラメータに合わせて、液室前面にての移動速度を調整することが好ましい。」 「 [図:0001427318000003.jpg] 」 「【0048】 次に、吐出口123が基準位置と収縮位置との間を往復移動することにより液滴が吐出される状態について、図7を参照して説明する。 図7(A)に示すように、液室前面122が基準位置P0に存在し液室130に液体が充満されている初期状態より、図7(B)に示すように、液室前面122が液室130を収縮する方向に基準位置P0より15μm離れた収縮位置P2に移動したとする。その場合、吐出口123より押し出される液体の運動エネルギーが吐出口123における表面張力よりも大きければ、図7(B)に示すように、液体は液滴として吐出口123から外部に吐出される。 【0049】 この状態から、次に液室前面122が元の基準位置P0に戻るように移動した場合、液室130に対しては、負の圧力すなわち吸引力が作用することとなり、液体供給路113を介して外部液体供給部より新たな液体が吸入され、所定の時間経過後には、図7(C)に示すように、再度液室130内が液体で充満した状態となる。 このような動作を繰り返すことにより、ノズル部100より所望のタイミングで液滴が吐出される。」 [図:0001427318000004.jpg] 」 イ 引用発明の認定 前記アで摘記した引用文献1の記載事項から、引用文献1の第1の実施形態の液滴吐出装置1が有する液滴吐出ヘッド10に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(以下、引用発明の認定に用いた箇所の段落番号を参考までに括弧内に付した。)。 <引用発明> 「液滴吐出装置1が有する液滴吐出ヘッド10であって、(【0023】) 液滴吐出装置1は、液滴吐出ヘッド10及び電流制御回路20を有し、液滴吐出ヘッド10は、ノズル部100及び駆動部200を有し、ノズル部100はさらに液室固定部(流路部)110及び液体吐出部120を有し、液室固定部110と移動部材140の液体吐出部120との間に、吐出対象の液体を収容する液室130が形成され、(【0023】) 液滴吐出ヘッド10のノズル部100の液室固定部110は、駆動部200と一体的に、液滴吐出ヘッド10のハウジングに固定して設けられ、一方の端面111において液室130の背面を規定する円筒状部材であり、液室固定部110の内部には、端面111に形成された液体供給口(開口部)112から液室固定部110の他方の端部の開口部115までを貫通し、液室130に吐出対象の液体を供給するための液体供給路113が形成され、(【0024】) この液体供給路113の開口部115に近い所定の区間には、液体供給路113の径が拡張されて形成された液溜まり114が具備されており、これにより供給された液体を一時的に溜めるようになっており、液室固定部110の他方の端部の開口部115には、液体供給路113に連通するエア抜き孔117を有する蓋部材116が設けられ、(【0025】) 液体吐出部120は、液室固定部110と連接して液室130を形成するとともに、筒状導電部材230と一体的に可動されてその液室130の容積を変化させ、これにより液室に収容している液体を吐出する部材であり、液体吐出部120は、前面板121及びガイド部材124を有し、前面板121の中央部付近の後述するガイド部材124で囲まれる範囲は、液室130の前面を規定する面122を構成し、前面板121の中央部には、液体を吐出するための開口部である吐出口123が設けられ、前面板121の厚さは、約20μmであり、(【0026】) ガイド部材124は、その一方の端部が前面板121の内側の中央部付近に接合されており、ガイド部材124自身により液室130の側面が規定され、このガイド部材124の内側に、液室固定部110が挿入され嵌めこまれた状態となるようにしてガイド部材124が液室固定部110に装着され、(【0027】) 駆動部200の筒状導電部材230が軸方向に移動することにより、これと一体的に設けられた液体吐出部120の前面板121(液室前面122)及びガイド部材124も移動し、液室130の容積を変化させ、その結果、液室130内の液体が吐出口123より吐出し、(【0030】) この吐出口123の液面が大気と接する付近の壁面は、シラン系又はテフロン系(テフロンは、米国デュポン社の登録商標)の化合物により、疎水性となるように表面処理がなされており、これにより、液体吐出時に液体が壁面より離脱しやすくなるようになっており、(【0031】) 駆動部200は、一次コイル210及び環状磁気回路220を有し、液室固定部110の外側に略同心状に配置されたギャップ223を有する環状磁気回路220が配置され、このギャップ223部分に、一次コイル210及び筒状導電部材230が配置されており、(【0032】) 電流制御回路20より一次コイル210に印加する電流が変化すると、一次コイル210により生じる磁束φ1も変化することとなり、その結果、筒状導電部材230を通過する磁束も変化することとなり、筒状導電部材230に囲まれた面内を通過する磁束に変化が生じると、筒状導電部材230に誘導起電力が生起し、筒状導電部材230の周面に沿って、誘導電流I2が生成され、(【0043】) 筒状導電部材230に対しては、環状磁気回路220の作用により、周面に垂直な方向に静磁界B0が印加され、筒状導電部材230には、誘導電流I2と静磁界B0の相互作用による電磁力Fが作用し、これにより、筒状導電部材230は、一次コイル210に印加される電流に応じて液体吐出面方向の正又は負の向きに移動される、(【0044】) 液滴吐出ヘッド10。」 (3) 本件補正発明と引用発明の対比 ア 対比分析 (ア) 本件補正発明の「液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、」「を有し、」との発明特定事項について 引用発明は、「液滴吐出ヘッド10は、ノズル部100及び駆動部200を有し、ノズル部100はさらに液室固定部(流路部)110及び液体吐出部120を有し」、「液体吐出部120は、前面板121及びガイド部材124を有[する]」ものであるところ、「前面板121の厚さ」は、「約20μmであ[る]」ことから、引用発明の「前面板121」は、本件補正発明でいう「膜状部材」であるといえる。 また、引用発明の「液体を吐出するための開口部である吐出口123」は、本件補正発明の「液を吐出する吐出口」に相当する。 そうすると、引用発明の「中央部には、液体を吐出するための開口部である吐出口123が設けられ」た「前面板121」は、本件補正発明の「液を吐出する吐出口を有する膜状部材」に相当する。 したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たす。 (イ) 本件補正発明の「前記膜状部材における、前記吐出口から吐出する前記液が配置される側に位置し、前記膜状部材の位置を変位させて前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、」「を有し、」との発明特定事項について a 引用発明は、「駆動部200の筒状導電部材230が軸方向に移動することにより、これと一体的に設けられた液体吐出部120の前面板121(液室前面122)及びガイド部材124も移動し、液室130の容積を変化させ、その結果、液室130内の液体が吐出口123より吐出[する]」ものであるところ、この筒状導電部材230の移動は、「電流制御回路20より一次コイル210に印加する電流が変化すると、一次コイル210により生じる磁束φ1も変化することとなり、その結果、筒状導電部材230を通過する磁束も変化することとなり、筒状導電部材230に囲まれた面内を通過する磁束に変化が生じると、筒状導電部材230に誘導起電力が生起し、筒状導電部材230の周面に沿って、誘導電流I2が生成され、筒状導電部材230に対しては、環状磁気回路220の作用により、周面に垂直な方向に静磁界B0が印加され、筒状導電部材230には、誘導電流I2と静磁界B0の相互作用による電磁力Fが作用し、これにより、筒状導電部材230は、一次コイル210に印加される電流に応じて、液体吐出面方向の正又は負の向きに移動される」ものであるから、「筒状導電部材230」、「一次コイル210」及び「環状磁気回路220」によって、「前面板121(液室前面122)」が移動する結果、「液体が吐出口123より吐出[する]」ものといえる。 したがって、引用発明の「前面板121(液室前面122)」を移動させて「液体が吐出口123より吐出」させる「筒状導電部材230」、「一次コイル210」及び「環状磁気回路220」は、本件補正発明の「前記膜状部材の位置を変位させて前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材」に相当する。 b(a) 引用発明は、「液室固定部110」は、「液室130の背面を規定する円筒状部材であ[る]」こと、及び、「前面板121の中央部付近の後述するガイド部材124で囲まれる範囲」は、「液室130の前面を規定する面122を構成[する]」ことから、引用発明の「液室固定部110」は、「前面板121」の「液体」が配置されている側に位置していることが理解できる。 (b) また、引用発明は、「液室固定部110の外側に略同心状に配置されたギャップ223を有する環状磁気回路220が配置され、このギャップ223部分に、一次コイル210及び筒状導電部材230が配置されて[いる]」ものであるから、本件補正発明の「変位部材」に相当する引用発明の「筒状導電部材230」、「一次コイル210」及び「環状磁気回路220」(前記a参照)は、いずれも「液室固定部110の外側」に配置されていることが理解できる。 (c) 前記(a)及び(b)から、引用発明の「筒状導電部材230」、「一次コイル210」及び「環状磁気回路220」は、「前面板121」の「液体」が配置されている側に位置していることが理解できるから、本願発明でいう「前記膜状部材における、前記吐出口から吐出する前記液が配置される側に位置[する]」ものであるといえる。 c したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たす。 (ウ) 本件補正発明の「前記膜状部材および前記変位部材の少なくともいずれかの上に配置される前記液を収容可能であり、かつ通気口を有する液収容室と、を有し、」との発明特定事項について a(a) 引用発明は、「液滴吐出ヘッド10は、ノズル部100及び駆動部200を有し、ノズル部100はさらに液室固定部(流路部)110及び液体吐出部120を有し、液室固定部110と移動部材140の液体吐出部120との間に、吐出対象の液体を収容する液室130が形成され[る]」ものであるから、引用発明の「液滴吐出ヘッド10」は、「液室130」を有している。そして、引用発明の「液室130」は、「吐出対象の液体を収容する」ものであるから、本件補正発明の「液収容室」に相当する。 (b) さらに、引用発明は、「液室固定部110の内部には、端面111に形成された液体供給口(開口部)112から液室固定部110の他方の端部の開口部115までを貫通し、液室130に吐出対象の液体を供給するための液体供給路113が形成され[る]」ものであるから、引用発明の「液滴吐出ヘッド10」は、「液体供給路113」を有している。また、引用発明は、「この液体供給路113の開口部115に近い所定の区間には、液体供給路113の径が拡張されて形成された液溜まり114が具備されており、これにより供給された液体を一時的に溜めるようになって[いる]」ことから、引用発明の「液体供給路113」もまた、本件補正発明の「液収容室」に相当するといえる。 (c) 引用発明の「液室130」は、「吐出対象の液体を収容する」ものであり、また、引用発明の「液体供給路113」は、その「液だまり114」により、「供給された液体を一時的に溜めるようになって[いる]」ことから、引用発明の「液室130」及び「液体供給路113」はいずれも、本件補正発明でいう「前記液を収容可能であ[る]」ものである。 b 引用発明は、「液室固定部110の他方の端部の開口部115には、液体供給路113に連通するエア抜き孔117を有する蓋部材116が設けられ[る]」ものであるところ、当該「エア抜き孔117」は、本件補正発明の「通気口」に相当するから、引用発明の「液体供給路113」は、本件補正発明でいう「通気孔を有する」ものである。そして、引用発明は、「液室130に吐出対象の液体を供給するための液体供給路113が形成され」ているものであるから、引用発明の「液体供給路113」と「液室130」は、連通していることが理解できる。したがって、本件補正発明の「液収容室」に相当する引用発明の「液体供給路113」及び「液室130」(前記a(a)及び(b)参照。)は、本件補正発明でいう「通気口を有する」ものであるといえる。 c 引用発明の「前面板121の中央部」には、「液体を吐出するための開口部である吐出口123が設けられ」ていることから、「前面板121」に液体が接していることが理解でき、当該液体は、本件補正発明でいう「前記膜状部材」「の上に配置される」ものであるといえる。 そうすると、引用発明の「液体供給路113」及び「液室130」に収容される「液体」は、本件補正発明でいう「前記膜状部材および前記変位部材の少なくともいずれかの上に配置される」ものであるといえる。 d したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たす。 (エ) 本件補正発明の「前記膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされている」との発明特定事項について 引用発明は、「前面板121の中央部」「に設けられ[た]」「吐出口123の液面が大気と接する付近の壁面は、シラン系又はテフロン系(テフロンは、米国デュポン社の登録商標)の化合物により、疎水性となるように表面処理がなされており、これにより、液体吐出時に液体が壁面より離脱しやすくなるようになって[いる]」ところ、当該「吐出口123の液面が大気と接する付近の壁面」及び「シラン系又はテフロン系(テフロンは、米国デュポン社の登録商標)の化合物」はそれぞれ、本件補正発明の「前記膜状部材の材料表面」及び「疎水性の高い材料」に相当する。 したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たす。 (オ) 本件補正発明の「液吐出ヘッド」との発明特定事項について 引用発明の「液滴吐出ヘッド10」は、本件補正発明の「液吐出ヘッド」に相当する。 したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たす。 イ 前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点は次のとおりであり、両者の間に相違点はない。 【一致点】 「液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、 前記膜状部材における、前記吐出口から吐出する前記液が配置される側に位置し、前記膜状部材の位置を変位させて前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、 前記膜状部材および前記変位部材の少なくともいずれかの上に配置される前記液を収容可能であり、かつ通気口を有する液収容室と、 を有し、 前記膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされている液吐出ヘッド」である点。 ウ 請求人の主張について (ア) 請求人の主張内容 a 本件補正発明の「液収容室」に対応する構成は、引用発明においては液室130であると理解されるものであり、エア抜き孔は、液室130ではなく液体供給路113に連通したものである以上、引用文献1に記載の液滴吐出装置は、本件補正発明の「通気口を有する液収容室」を具備するものではない。 b 本件補正発明における通気口は、「液収容室の内部と外部との間で、気体が流通可能となることにより、液を吐出する際に液収容室の内部が負圧となることを防止でき、液が吐出しやすくなる。また、これにより、液収容室が収容する液に混入した気泡を排出できるため、安定して液を吐出することができる」との効果を有するものであるが、引用発明は、液室130(内径約2.5mm)に液体供給路113(内径50μm)が連通した形状となっているところ、吐出口123から巻き込まれて混入した気泡は、液体供給路113が狭小化されているために液室130にトラップされてしまい、不吐出が起こりやすい構成となっているので、本件補正発明の「通気口を有する液収容室」との構成により奏される効果を、引用発明は達成できない。 c 本件補正発明は、「膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされている」という構成を備えており、引用文献1には、前面板121の材料等については何ら記載も示唆もされていない。 (イ) 請求人の主張についての検討 a 「液収容室」について、本件補正発明においては、「前記膜状部材および前記変位部材の少なくともいずれかの上に配置される前記液を収容可能であり、かつ通気口を有する」と特定されているにとどまり、本件補正発明の「液収容室」は、字句どおり、液を収容可能であれば足りると解するのが相当である。この理解は、本願の明細書の【0084】の「液収容室の形状、大きさ、材質、及び構造については、膜状部材及び変位部材の少なくともいずれかの上に配置される液を収容可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。」との記載からも首肯される。そして、引用発明の「液体供給路113」は、「液体供給路113の開口部115に近い所定の区間には、液体供給路113の径が拡張されて形成された液溜まり114が具備されており、これにより供給された液体を一時的に溜めるようになって[いる]」ものであるから、前記ア(ウ)aで説示したとおり、引用発明の「液体供給路113」は、「液室130」とともに、本件補正発明の「液収容室」に相当するものである。 b 前記イで説示したとおり、本件補正発明と引用発明の間に相違点はないから、本件補正発明の奏する作用効果は、本件補正発明の構成が奏するものとして、引用発明も当然に奏するものにすぎない。また、本件補正発明においては液収容室の形状や大きさは何ら特定されていないことを考慮すれば、請求人の主張する効果は、本件補正発明の構成に基づくものではないともいえる。 c 「膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされている」点において本件補正発明と引用発明は相違しないことは、前記ア(エ)で説示したとおりである。 したがって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。 エ 小括 以上のとおり、本件補正発明と引用発明は相違点がないから、本件補正発明は引用発明である。また、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえる。 (4) 独立特許要件についてのまとめ 以上によれば、本件補正発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件補正発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正の却下の決定についてのむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年7月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、当該請求項1の記載は前記第2の[理由]1(2)に示したとおりである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の本願発明に対する拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。 理由1.(新規性)本願発明は、その最先の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2.(進歩性)本願発明は、その最先の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特開2004-181277号公報 3 引用文献の記載事項及び引用発明の認定 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明の認定は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 本願発明と引用発明との対比・判断 本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「膜状部材」について、「前記膜状部材の材料表面が、疎水性の高い材料でコーティングされている」との限定を削除したものである。 そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2(3)において説示したとおり、引用発明であり、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も、引用発明であり、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、本願発明は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-020080

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決274件(株式会社リコー)
  • 2025-007265拒絶査定不服審判 / 2026-08-17 / 原査定取消(特許/登録すべき)ミーティングデバイス、遠隔会議システム
    同じ当事者: 株式会社リコー
  • 2024-020908拒絶査定不服審判 / 2026-06-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)ロボット
    同じ当事者: 株式会社リコー
  • 2023-020100拒絶査定不服審判 / 2026-05-12 / 請求不成立液滴吐出装置用の液セット
    同じ当事者: 株式会社リコー
  • 2024-017031拒絶査定不服審判 / 2026-05-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)エレクトロクロミック素子
    同じ当事者: 株式会社リコー
  • 2025-013712拒絶査定不服審判 / 2026-04-09 / 原査定取消(特許/登録すべき)細胞含有容器及び神経系細胞含有スフェロイドの製造方法
    同じ当事者: 株式会社リコー
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)211件(113・C12M、121・C12M、575・C12M)
  • 2023-012509拒絶査定不服審判 / 2025-03-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)ナノリガンド、及びこれを用いることによって幹細胞の細胞付着及び分化を促進する方法
    共通の審決分類: 113・C12M、121・C12M、575・C12M
  • 2024-003219拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)組織脱細胞化の方法
    共通の審決分類: 113・C12M、121・C12M
  • 2023-022327拒絶査定不服審判 / 2026-05-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)培地プロトコルをモニタするためのタイムラインシステム
    共通の審決分類: 113・C12M、121・C12M
  • 2025-013712拒絶査定不服審判 / 2026-04-09 / 原査定取消(特許/登録すべき)細胞含有容器及び神経系細胞含有スフェロイドの製造方法
    共通の審決分類: 113・C12M、121・C12M
  • 2023-021950拒絶査定不服審判 / 2026-03-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)バイオリアクターシステムにおけるデッドレッグを最小限に抑えるためのシステム、方法…
    共通の審決分類: 113・C12M、121・C12M

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存