特許無効審判
2022-800072
波動歯車装置
- 審判番号
- 2022-800072
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2017-066597
- 登録番号
- 6912242
- 請求日
- 2022年08月10日
- 審決日
- 2023年06月26日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友重機械工業 株式会社
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】横山 淳一
- 【請求人代理人】山口 昭則
- 【請求人代理人】新川 圭二
- 【被請求人】ナブテスコ 株式会社
- 【被請求人代理人】黒瀬 雅一
- 【被請求人代理人】丹治 彰
- 【被請求人代理人】服部 智
- 【被請求人代理人】田▲崎▼ 聡
- 【被請求人代理人】黒嶋 厚至
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 平田 信勝
- 審判官 久島 弘太郎
- 分類
- P1113.113-YAA(F16H) / P1113.121-YAA(F16H) / P1113.16 -YAA(F16H) / P1113.537-YAA(F16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第134条の2第3項、特許法第13条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第123条第1項第2号、特許法第135条、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6912242号発明「波動歯車装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6912242号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~21〕について訂正することを認める。
請求項1~4、6~21に係る発明についての審判の請求は成り立たない。
請求項5についての本件審判の請求を却下する。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1.請求の趣旨
請求人 住友重機械工業株式会社(以下、「請求人」という。)は、
「特許第6912242号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至21に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」
との審決を求める。
2.答弁の趣旨
被請求人 ナブテスコ株式会社(以下、「被請求人」という。)は、
「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」
との審決を求める。
第2 手続の経緯
特許第6912242号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年3月30日(パリ条約による優先権主張2016年3月30日、ルクセンブルク)を出願日とする特許出願であって、その請求項1~21に係る発明について令和3年7月12日に特許権の設定登録がなされたものである。
本件特許無効審判の手続の経緯は、次のとおりである。
令和 4年 8月10日 審判請求書提出
同年12月27日 審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
令和 5年 5月15日付け 書面審理通知
なお、被請求人が提出した審判事件答弁書及び訂正請求書について、当審から令和5年1月25日付けで「答弁書副本の送付通知」をし、請求人に期間を指定して意見を求めたが、何ら応答がなかったため、本件の審理は、職権により書面審理とし、令和5年5月15日付けで、請求人及び被請求人に書面審理通知を通知した。
第3 訂正請求について
1.訂正請求の趣旨
被請求人は、令和4年12月27日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~21について訂正することを求める。
2.訂正の内容
令和4年12月27日に訂正請求書に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、下線部は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること、又は、
c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有すること
を特徴とする波動歯車装置。」
との記載を、
「a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有することとし、
外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能であること
を特徴とする波動歯車装置。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~13、15~21も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6の
「請求項1~5のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7の
「請求項1~6のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8の
「請求項1~7のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6、7のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9の
「請求項1~8のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6~8のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10の
「請求項1~9のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6~9のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11の
「請求項1~10のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6~10のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12の
「請求項1~11のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6~11のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13の
「請求項1~12のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6~12のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14の
「a.前記第1転動体は、接線方向において、前記第2転動体に対してずらされて配設されていること、及び/又は、
b.隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数であること
を特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること、又は、
c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有することとし、
隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数であること
を特徴とする波動歯車装置。」に訂正する。
請求項14の記載を引用する、請求項15~21も同様に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項15の
「請求項1~14のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
との記載を、
「請求項1~4、6~14のいずれか一項に記載の波動歯車装置。」
に訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項16の
「請求項1~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するアクチュエータ。」
との記載を、
「請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するアクチュエータ。」
に訂正する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項18の
「請求項1~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を含んだアクチュエータを有する内燃機関。」
との記載を、
「請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を含んだアクチュエータを有する内燃機関。」
に訂正する。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項19の
「請求項1~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するシャーシ。」
との記載を、
「請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するシャーシ。」
に訂正する。
(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項20の
「請求項1~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するステアリング。」
との記載を、
「請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するステアリング。」
に訂正する。
(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項21の
「請求項1~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有する車両。」
との記載を、
「請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有する車両。」
に訂正する。
3.一群の請求項について
訂正前の請求項1~21について、請求項2~21は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~21は一群の請求項であり、これに対応する訂正後の請求項1~21は、特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正事項1~17は、この一群の請求項に対して請求されたものである。
4.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1において、訂正前の請求項1の、
「a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること、又は、
c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有すること」
との記載から「c.」の記載を削除する訂正は、択一的記載の要素を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また、訂正事項1において、訂正前の請求項1に、
「外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能であること」
との記載を追加する訂正は、スリーブに関して限定を付加する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1項に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1の、訂正前の択一的記載の要素を削除する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1の、スリーブに関して限定を付加する訂正は、本件特許の明細書の、
「【0010】
本発明においては、冒頭に記載した形式の波動歯車装置では、噛合係合エラー(歯山の係合エラー)や、ましてや、半径方向に可撓なスリーブの噛合部(歯列)に対する両方の中空歯車のうちの1つの中空歯車の噛合部の相対的な所謂歯部(歯山)の飛び越し(Ueberratschen)が発生する可能性があるということが認識されており、その際、特に瞬時の負荷が大きい場合には、半径方向に可撓なスリーブの軸方向の一端部が半径方向において内側へ逸脱ないし逃げてしまう。特に、半径方向に可撓なスリーブが円筒状のリングとして構成されている所謂リング歯車装置においては、半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部が半径方向において内側へ逸脱ないし逃げる可能性があり、その結果、これらの領域において、噛合係合エラー、及び/又は、騒音発生の増加、及び/又は、更には歯部の飛び越しが発生する可能性がある。
【0011】
このような不利な現象は、本発明による波動歯車装置において、第1中空リング歯車が、好ましくは実質的に及び主として、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ及び転がり軸受の第1転動体列の第1転動体を介し、ウェーブジェネレータにおいて支持されていることにより、及び/又は、第1中空リング歯車と噛合係合状態にある、半径方向に可撓なスリーブの軸方向の部分領域が、好ましくは実質的に及び主として、転がり軸受の第1転動体列の第1転動体を介し、ウェーブジェネレータにおいて支持されていることにより回避することができる。それに対応して代替的に又は追加的に、有利には、第2中空リング歯車が、特に実質的に及び主として、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ及び転がり軸受の第2転動体列の第2転動体を介し、ウェーブジェネレータにおいて支持されていること、及び/又は、第2中空リング歯車と噛合係合状態にある、半径方向に可撓なスリーブの軸方向の部分領域が、好ましくは実質的に及び主として、転がり軸受の第2転動体列の第2転動体を介し、ウェーブジェネレータにおいて支持されていることを提案することができる。これらの実施形態は、半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり又は少なくともその噛合部(歯列)の幅にわたり確実に且つ信頼性をもって、半径方向の逸脱が発生不能であるように支持されているという、格別優れた技術的な効果を有している。従って噛合係合エラー、特に噛合係合エラーに基づく煩わしい騒音発生は、効果的に回避されている。
【0012】
互いに平行に配設される2つの個々の別個の転がり軸受の使用と異なり、本発明により提案された、2つの転動体列を有する唯一の転がり軸受の使用は、個々の別個の転がり軸受の相対運動が排除され、特に負荷が大きい場合に発生しうる別個の転がり軸受のそれらの外側リングの相対運動が排除されるという格別優れた利点を有する。更に本発明においては、有利には、半径方向に可撓なスリーブは、両方の中空リング歯車の領域において、特に両方の転動体列に共通の外側リング及び/又は両方の転動体列に共通の内側リングにより、極めて良好に支持されているということが保証されており、これは、個々の転動体列が、少なくとも1つの構成部材を介して連結されており、それにより軸方向において互いに相対的に動くことが全く不能であるか又は動けたとしても極めて僅かなためである。」(下線は当審で付した。)
との記載に基づくものであり、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の択一的記載の要素を削除するとともに、発明特定事項に限定を付加する訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当しない。
したがって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1項に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3~10、12~17について
訂正事項3~10、12~17は、訂正前の請求項6~13、15~21が請求項5の記載を引用するものであったのを、訂正事項2により請求項5が削除されたことに伴い、請求項6~13、15~21が請求項5の記載を引用しないものとし、請求項間の記載を整合させるための訂正であり、特許法第13条の2第1項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3~10、12~17は、上述の訂正の内容からみて、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項11について
ア 訂正の目的
訂正事項11において、訂正前の請求項14が請求項1~13の記載を引用するものであったのを、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ記載を改める訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項11において、訂正前の請求項14の、
「a.前記第1転動体は、接線方向において、前記第2転動体に対してずらされて配設されていること、及び/又は、
b.隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数であること」
との記載から「a.」の記載を削除する訂正は、択一的記載の要素を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第1項ただし書第1項に規定する、特許請求の範囲の減縮、及び、第4項に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的としたものである。
イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内であること
訂正事項11は、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ記載を改めるとともに、訂正前の択一的記載の要素を削除する訂正であるので、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと
訂正事項11は、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ記載を改めるとともに、訂正前の択一的記載の要素を削除する訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当しない。
したがって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
なお、全ての請求項に対して特許無効審判が請求されているので、訂正事項1~17に関し、特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定される要件(独立特許要件)は適用されない。
5.訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は、訂正の要件を全て満たすものであるから、これを認める。
第4 本件発明
前記第3のとおり本件訂正の請求による請求項1~17の訂正は認められるから、本件特許の請求項1~21に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有することとし、
外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能であること
を特徴とする波動歯車装置。
【請求項2】
前記外側リングは、各前記転動体列の前記転動体のために各々固有の外側案内溝部を有すること
を特徴とする、請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項3】
前記内側リングは、各前記転動体列の前記転動体のために各々固有の内側案内溝部を有すること
を特徴とする、請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記第1転動体及び前記第2転動体は、共通の転動体リテーナと直接的な接触状態にあること
を特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
a.前記第1中空リング歯車は、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブ及び前記転がり軸受の前記第1転動体列の前記第1転動体を介し、前記ウェーブジェネレータにおいて支持されていること、及び/又は、
b.前記第2中空リング歯車は、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブ及び前記転がり軸受の前記第2転動体列の前記第2転動体を介し、前記ウェーブジェネレータにおいて支持されていること、及び/又は、
c.前記第1中空リング歯車と噛合係合状態にある、前記スリーブの軸方向の部分領域は、前記転がり軸受の前記第1転動体列の前記第1転動体を介し、前記ウェーブジェネレータにおいて支持されていること、及び/又は、
d.前記第2中空リング歯車と噛合係合状態にある、前記スリーブの軸方向の部分領域は、前記転がり軸受の前記第2転動体列の前記第2転動体を介し、前記ウェーブジェネレータにおいて支持されていること
を特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項7】
前記転がり軸受の前記第1転動体列の前記第1転動体は、軸方向に対して直角の方向の第1横断面内に配設されており、該第1横断面内には、前記第1中空リング歯車も配設されていること、及び/又は、前記転がり軸受の前記第2転動体列の前記第2転動体は、軸方向に対して直角の方向の第2横断面内に配設されており、該第2横断面内には、前記第2中空リング歯車も配設されていること
を特徴とする、請求項1~4、6のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項8】
前記第1中空リング歯車と前記第2中空リング歯車は、互いに平行に及び/又は互いに同軸に配設されていること
を特徴とする、請求項1~4、6、7のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項9】
前記第1中空リング歯車の前記噛合部は、前記第2中空リング歯車の前記噛合部の歯数よりも大きい第1歯数を有すること
を特徴とする、請求項1~4、6~8のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項10】
a.前記第1転動体列は、16個から25個までの転動体を含み、及び/又は、
b.前記第2転動体列は、16個から25個までの転動体を含むこと
を特徴とする、請求項1~4、6~9のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項11】
a.前記第1転動体列の前記第1転動体の数は、前記第2転動体列の前記第2転動体の数とは異なること、又は、
b.前記第1転動体列の前記第1転動体の数は、前記第2転動体列の前記第2転動体の数よりも大きいこと、又は、
c.前記第1転動体列の前記第1転動体の数は、前記第2転動体列の前記第2転動体の数よりも正に1個だけ大きいこと
を特徴とする、請求項1~4、6~10のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項12】
a.前記第1転動体列の前記第1転動体の数は、偶数であること、又は、
b.前記第2転動体列の前記第2転動体の数は、偶数であること、又は、
c.前記第1転動体列の前記第1転動体の数は、偶数であり、それに対して前記第2転動体列の前記第2転動体の数は、奇数であること、又は、
d.前記第1転動体列の前記第1転動体の数は、奇数であり、それに対して前記第2転動体列の前記第2転動体の数は、偶数であること
を特徴とする、請求項1~4、6~11のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項13】
前記転がり軸受は、複数の第3転動体を有する少なくとも1つの第3転動体列を有すること
を特徴とする、請求項1~4、6~12のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項14】
外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること、又は、
c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有することとし、
隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数であること
を特徴とする波動歯車装置。
【請求項15】
a.前記転がり軸受の軸方向の幅は、前記第1中空リング歯車の軸方向の幅と、前記第2中空リング歯車の軸方向の幅の合計よりも大きいこと、又は、
b.前記転がり軸受の軸方向の幅は、前記第1中空リング歯車の前記噛合部の軸方向の幅と、前記第2中空リング歯車の前記噛合部の軸方向の幅の合計よりも大きいこと、又は、
c.前記転がり軸受の軸方向の幅は、前記第1中空リング歯車の前記噛合部において前記スリーブの前記外側噛合部と噛合係合状態にある部分の軸方向の幅と、前記第2中空リング歯車の前記噛合部において前記スリーブの前記外側噛合部と噛合係合状態にある部分の軸方向の幅の合計よりも大きいこと、又は、
d.前記転がり軸受の軸方向の幅は、前記第1中空リング歯車の軸方向の幅よりも大きいこと、及び/又は、
e.前記転がり軸受の軸方向の幅は、前記第2中空リング歯車の軸方向の幅よりも大きいこと
を特徴とする、請求項1~4、6~14のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項16】
請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するアクチュエータ。
【請求項17】
a.前記アクチュエータは、ステアリングアクチュエータであること、又は、
b.前記アクチュエータは、膨張行程を調整する調整軸を駆動するために、及び/又は内燃機関の圧縮比を調整する調整軸を駆動するために構成され且つ特定されていること、又は、
c.前記アクチュエータは、カムシャフト調整器として構成されていること、又は、
d.前記アクチュエータは、シャーシアクチュエータとして構成されていること
を特徴とする、請求項16に記載のアクチュエータ。
【請求項18】
請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を含んだアクチュエータを有する内燃機関。
【請求項19】
請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するシャーシ。
【請求項20】
請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有するステアリング。
【請求項21】
請求項1~4、6~15のいずれか一項に記載の波動歯車装置を有する車両。」
第5 請求人・被請求人の主張及び証拠方法
1.請求人の主張の概要
(1)無効理由1(甲1発明に基づく新規性違反)
本件発明1~9は、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(2)無効理由2(甲1発明に基づく進歩性違反)
ア 本件発明1~9は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
イ 本件発明10は、甲1発明及び甲第3、4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ウ 本件発明11~13は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 本件発明14は、甲1発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
オ 本件発明15は、甲1発明及び甲第3、6、7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
カ 本件発明16~21は、甲1発明及び甲第2~7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)無効理由3(甲8発明に基づく拡大先願違反)
本件発明1~15は、甲第8号証に記載された発明(以下、「甲8発明」という。)と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(4)無効理由4(サポート要件違反)
本件発明5は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、請求項6~21は請求項5の記載を直接又は間接的に引用するから、本件発明6~21も同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。
(5)無効理由5(明確性要件違反)
ア 本件発明5は、明確でなく、請求項6~21は請求項5の記載を直接又は間接的に引用するから、本件発明6~21も同様の理由により、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。
イ 本件発明14は、明確でなく、請求項15~21は請求項14の記載を直接又は間接的に引用するから、本件発明15~21も同様の理由により、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。
ウ 本件発明16~21は、明確でない。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し、無効とすべきものである。
2.請求人の証拠方法
甲第1号証:特開2015-190600号公報
甲第2号証:特開2013-181636号公報
甲第3号証:特開2015-148325号公報
甲第4号証:特開平2-275147号公報
甲第5号証:特公昭63-44988号公報
甲第6号証:特開2014-177971号公報
甲第7号証:特開昭62-200055号公報
甲第8号証:特願2015-166178号(特開2017-44246号)
3.被請求人の主張の概要
(1)無効理由1について
本件発明1は、甲1発明であるとすることはできない。本件発明1にさらに発明特定事項を追加して限定した本件発明2~4、6~9も同様に、甲1発明であるとすることはできない。
(2)無効理由2について
ア 本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。本件発明1にさらに発明特定事項を追加して限定した本件発明2~4、6~13、15~21も同様に、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
イ 本件発明14は、甲1発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。本件発明14にさらに発明特定事項を追加して限定した本件発明15~21も同様に、甲1発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)無効理由3について
ア 本件発明1は、甲8発明と同一であるとすることはできない。本件発明1にさらに発明特定事項を追加して限定した本件発明2~4、6~13、15も同様に、甲8発明と同一であるとすることはできない。
イ 本件発明14は、甲8発明と同一であるとすることはできない。本件発明14にさらに発明特定事項を追加して限定した本件発明15も同様に、甲8発明と同一であるとすることはできない。
(4)無効理由4について
請求項5の記載に関するサポート要件違反の無効理由について、本件訂正により請求項5は削除されたから、無効理由は解消した。請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~21についても同様に、無効理由は解消した。
また、本件訂正により請求項14は、請求項1を引用するものについて独立形式請求項に訂正されたから、請求項14に対するサポート要件違反の無効理由は解消した。
(5)無効理由5について
ア 請求項5の記載に関する明確性要件違反の無効理由について、本件訂正により請求項5は削除されたから、無効理由は解消した。請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~13、15~21についても同様に、無効理由は解消した。
また、本件訂正により請求項14は、請求項1を引用するものについて独立形式請求項に訂正されたから、請求項14に対する明確性要件違反の無効理由は解消した。
イ 請求項14の記載は明確であり、本件発明14は明確である。請求項14の記載を引用する請求項15~21も同様に明確であり、本件発明15~21も明確である。
ウ 請求項16~21における「波動歯車装置」とそれ以外の発明特定事項(アクチュエータ、内燃機関、シャーシ、ステアリング、車両)とは技術的に関連しており、本件発明16~21は明確である。
第6 当審の判断
1.甲各号証
(1)甲第1号証の記載及び甲1発明
甲第1号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである、以下同様。
ア
「【0012】
実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置は、モータの高速回転出力を低速回転出力として取り出す減速機構として好適に用いられる。例えばロボットの関節部分に用いられるアクチュエータの減速機として好適に用いられる。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。図2は、図1のA-A線断面図である。撓み噛合い式歯車装置100は、固定壁70(例えば、ロボットの第1部材)に固定される。撓み噛合い式歯車装置100は、入力された回転を減速し、それを出力装置80(例えば、ロボットの第2部材)に出力する。撓み噛合い式歯車装置100は、波動発生器90と、外歯歯車20と、内歯歯車30と、入力軸60と、を備える。
【0014】
波動発生器90は、起振体10と、内輪部材40を含む起振体軸受50と、を含む。起振体10は、回転軸Rに沿って延在する略楕円柱状の部材である。起振体10には回転軸Rを中心とする入力軸孔12が形成されている。入力軸60は、軸受62を介して、固定壁70に回転自在に支持される。入力軸60の一端は入力軸孔12に挿入され、例えば接着または圧入もしくはキー連結等により起振体10と回転方向に連結される。入力軸60の他端は、例えばモータ等の回転駆動源に接続される。入力軸60の回転に伴って起振体10が回転する。
【0015】
内輪部材40は、起振体10の外周側に設けられる。内輪部材40の外周面40aは、起振体軸受50の転動体52(後述)が転走する転走面として機能する。内輪部材40は、起振体10と一体に形成される。
【0016】
起振体軸受50は、第1起振体軸受50aと、第1起振体軸受50aよりも出力装置80側に位置する第2起振体軸受50bと、を含む。第1起振体軸受50aは、複数の第1転動体52aと、第1外輪部材54aと、を含む。複数の第1転動体52aのそれぞれは略円柱形状を有し、その軸方向が回転軸R方向と略平行な状態で、周方向に所定の間隔で設けられる。第1転動体52aは、不図示の保持器により、転動自在に保持される。
【0017】
第1外輪部材54aは、複数の第1転動体52aを環囲する。第1外輪部材54aは可撓性を有する。第1外輪部材54aは、起振体10の回転により撓み変形し、その外側に配置される外歯歯車20の第1歯車列20a(後述)を変形させる。
【0018】
第2起振体軸受50bは、複数の第2転動体52bと、第2外輪部材54bと、を含む。第2転動体52b、第2外輪部材54bはそれぞれ、第1転動体52a、第1外輪部材54aと同様に構成される。第2外輪部材54bは、第1外輪部材54aとは別体として形成される。なお、第2外輪部材54bは、第1外輪部材54aと一体に形成されてもよい。以降では、第1転動体52aと第2転動体52bとをまとめて「転動体52」とも呼ぶ。また、第1外輪部材54aと第2外輪部材54bとをまとめて「外輪部材54」とも呼ぶ。
【0019】
外歯歯車20は、可撓性を有する環状の部材である。外歯歯車20の内側には波動発生器90が嵌る。外歯歯車20は、波動発生器90が嵌ることによって楕円状に撓められる。外歯歯車20は、第1歯車列20aと、第1歯車列20aよりも出力装置80側に位置する第2歯車列20bとを有する。第1歯車列20aと第2歯車列20bとは単一の基部材に形成されており、同歯数である。
【0020】
内歯歯車30は、第1内歯歯車30aと、第2内歯歯車30bと、を含む。第1内歯歯車30aと第2内歯歯車30bは別体として形成される。第1内歯歯車30aは、剛性を有する環状の部材である。第1内歯歯車30aは楕円状に撓められた第1歯車列20aを環囲し、起振体10の長軸方向の2領域で第1歯車列20aと噛み合う。第1内歯歯車30aは、第1歯車列20aよりも多くの歯を有する。第1内歯歯車30aには、回転軸R方向に貫通する複数のボルト挿通孔32aが形成される。このボルト挿通孔32aにボルト64を挿入して固定壁70に形成されたねじ穴72に螺合することにより、撓み噛合い式歯車装置100が固定壁70に固定される。
【0021】
第2内歯歯車30bは、剛性を有する環状の部材である。第2内歯歯車30bは楕円状に撓められた第2歯車列20bを環囲し、起振体10の長軸方向の2領域で第2歯車列20bと噛み合う。第2内歯歯車30bは、第2歯車列20bと同数の歯を有する。第2内歯歯車30bには、回転軸R方向に貫通する複数のボルト挿通孔32bが形成される。このボルト挿通孔32bにボルト66を挿入して出力装置80に形成されたねじ穴82に螺合することにより、撓み噛合い式歯車装置100と出力装置80とが接続される。これにより、撓み噛合い式歯車装置100の出力が出力装置80に伝達される。
【0022】
内輪部材40の非噛合領域対応部16(言い換えると、内輪部材40の噛合領域対応部18を避けた位置)には、回転軸R方向に沿って形成された溝状の潤滑溜り14が設けられる。ここで、噛合領域対応部18は、外歯歯車20と内歯歯車30とが噛み合う領域(以下、「噛合領域A」と呼ぶ)に対応する内輪部材40の部分である。より具体的には、略楕円形状とされた起振体10の長軸位置を含み、噛合領域Aと同じ角度範囲の領域である。非噛合領域対応部16は、起振体10の短軸位置を含み、2つの噛合領域対応部18の間の領域をいう。
【0023】
潤滑溜り14は、その回転軸R方向に沿った長さが、転動体52の回転軸R方向に沿った長さよりも短くなるよう形成される。転動体52は、この潤滑溜り14を回転軸R方向に跨ぎ、回転軸R方向の両端部の外周面が内輪部材40の外周面40a(すなわち転走面)と接するように設けられる。なお、ここでいう「両端部」とは、転動体52の回転軸R方向の両端部にクラウニングが施されている場合には、クラウニングが施されている部分を除いた部分の両端部を意味する。潤滑溜り14の断面は、略U字状の形状を有する。なお、潤滑溜り14は、断面が略V字状、略円弧状、略楕円弧状、略多角形状、その他の形状であってもよい。つまり、潤滑溜り14の形状は問わない。また、潤滑溜り14の数も問わないが、本実施の形態においては、それぞれの非噛合領域対応部16に3つずつ潤滑溜り14が形成されている。
【0024】
以上のように構成された撓み噛合い式歯車装置100の動作を説明する。ここでは、外歯歯車20の第1歯車列20aの歯数が100、第2歯車列20bの歯数が100、第1内歯歯車30aの歯数が102、第2内歯歯車30bの歯数が100の場合を例に説明する。
【0025】
第1歯車列20aが楕円形状の長軸方向の2箇所で第1内歯歯車30aと噛み合っている状態で、入力軸60の回転により起振体10が回転すると、これに伴って第1歯車列20aと第1内歯歯車30aとの噛み合い位置も周方向に移動する。第1歯車列20aと第1内歯歯車30aとは歯数が異なるため、この際、第1内歯歯車30aに対して第1歯車列20aが相対的に回転する。本実施の形態では、第1内歯歯車30aが固定状態にあるため、第1歯車列20aは、歯数差に相当する分だけ自転することになる。つまり、起振体10の回転が大幅に減速されて第1歯車列20aに出力される。その減速比は以下のようになる。
減速比=(第1歯車列20aの歯数-第1内歯歯車30aの歯数)/第1歯車列20aの歯数
=(100-102)/100
=-1/50
【0026】
第2歯車列20bは、第1歯車列20aと一体的に形成されているため、第1歯車列20aと一体に回転する。第2歯車列20bと第2内歯歯車30bは歯数が同一であるため、相対回転は発生せず、第2歯車列20bと第2内歯歯車30bとは一体に回転する。このため、第1歯車列20aの自転と同一の回転が第2内歯歯車30bに出力される。結果として、第2内歯歯車30bからは起振体10(入力軸60)の回転を-1/50に減速した出力を取り出すことができる。
【0027】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、内輪部材40の非噛合領域対応部16に潤滑溜り14が形成される。つまり、噛合領域対応部18を避けた位置に潤滑溜り14が形成される。このため、起振体軸受50の負荷容量を損なうことなく保持しうる潤滑剤の容量を増やすことができ、起振体軸受50が潤滑剤不足になるのを抑止できる。これにより、起振体軸受50においてピーリングやフレーキングといった破損が生じるのを抑止でき、撓み噛合い式歯車装置100の長寿命化を図ることができる。
【0028】
また、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、潤滑溜り14は、回転軸R方向に沿った長さが、転動体52の回転軸R方向に沿った長さよりも短くなるよう形成される。そして、転動体52は、この潤滑溜り14を回転軸R方向に跨ぎ、回転軸R方向の両端部の外周面が転走面と接するように設けられる。これにより、転動体52が潤滑溜り14に嵌まるのが抑止され、撓み噛合い式歯車装置100は安定した動作を実現しうる。」
イ
「【0039】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100との主な違いは、起振体軸受と潤滑溜りの構成である。
図6は、第5の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置500を示す断面図である。図7は、図6のB-B線断面図である。図8は、図6の破線で囲まれた部分の拡大図である。図6は図1に対応し、図7は図2に対応する。
【0040】
撓み噛合い式歯車装置500は、波動発生器490と、外歯歯車20と、内歯歯車30と、入力軸60と、を備える。波動発生器490は、起振体10と、内輪部材440と、起振体軸受450と、を含む。
【0041】
内輪部材440は、起振体10の外周側に設けられる。内輪部材440の外周面440aには、起振体軸受450の略球状の転動体452(後述)が転走する転走溝441が形成される。内輪部材440は、起振体10と一体に形成される。
【0042】
起振体軸受450は、第1起振体軸受450aと、第2起振体軸受450bと、を含む。第1起振体軸受450aは、複数の第1転動体452aと、第1外輪部材454aと、を含む。複数の第1転動体452aのそれぞれは、略球状を有し、周方向に所定の間隔で設けられる。第1外輪部材454aには、内輪部材440の転走溝441に対応する転走溝455が形成される。第1転動体452aは、転走溝441と転走溝455との間で転走する。
【0043】
第2起振体軸受450bは、複数の第2転動体452bと、第2外輪部材454bと、を含む。第2転動体452b、第2外輪部材454bはそれぞれ、第1転動体452a、第1外輪部材454aと同様に構成される。
【0044】
内輪部材440の非噛合領域対応部16には、周方向に延在する潤滑溜り414が形成される。本実施の形態では、第1起振体軸受50aに対応する潤滑溜り414、および、第2起振体軸受50bに対応する潤滑溜り414が2つの非噛合領域対応部16のぞれぞれに形成される。つまり、合計4つの潤滑溜り14が形成される。潤滑溜り414は、転走溝441に形成される。本実施の形態では、潤滑溜り414は、転走溝441の最深部(すなわち回転軸Rに最も近い位置)に形成される。このため、転動体452は、その一部が潤滑溜り414に進入する場合がある。
【0045】
図9は、図7の潤滑溜り414の周方向端部周辺を示す拡大図である。内輪部材440は、潤滑溜り414の周方向端部に対応する位置に、潤滑溜り414に進入した転動体452を径方向外側に案内する案内部442が設けられる。具体的には、案内部442は、潤滑溜り414の最深部414aと、潤滑溜り414の最深部414aよりも径方向外側に位置する転走溝441の最深部441aとを接続する傾斜面442aであって、起振体10の長軸方向に対して所定角度傾斜した傾斜面442aを有する。本実施の形態では、傾斜面442aは平坦状に形成される。なお、傾斜面442aは曲線状であってもよい。
【0046】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置500によると、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100と同様の作用効果が奏される。加えて、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置500によると、案内部442が設けられる。これにより、転動体452は、その一部が潤滑溜り414に進入した状態から滑らかな動作により抜け出すことができる。そのため、撓み噛合い式歯車装置500は、安定した動作を実現しうる。」
ウ
「【0051】
(変形例1)
第1~6の実施の形態では、内輪部材は起振体と一体に形成される場合について説明したが、これに限られず、内輪部材は起振体と別体として形成されてもよい。」
エ
図1
[図:0001403500000001.jpg]
オ
図2
[図:0001403500000002.jpg]
カ
図6
[図:0001403500000003.jpg]
キ
図7
[図:0001403500000004.jpg]
ク
図8
[図:0001403500000005.jpg]
上記イ段落【0039】の「第5の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100との主な違いは、起振体軸受と潤滑溜りの構成である。」との記載によれば、第5の実施例においては、外歯歯車20、内歯歯車30、入力軸60は、第1の実施例と同じ構成のものと認められる。
そうすると、上記の記載事項によれば、甲第1号証には第5の実施の形態として次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
〔甲1発明〕
「外歯歯車20は、可撓性を有する環状の部材であり、外歯歯車20の内側には波動発生器490が嵌り、外歯歯車20は、波動発生器490が嵌ることによって楕円状に撓められ、
波動発生器490は、起振体10と、内輪部材440を含む起振体軸受450と、を含み、
外歯歯車20は、第1歯車列20aと、第1歯車列20aよりも出力装置80側に位置する第2歯車列20bとを有し、
第1内歯歯車30aは、剛性を有する環状の部材であり、第1内歯歯車30aは楕円状に撓められた第1歯車列20aを環囲し、起振体10の長軸方向の2領域で第1歯車列20aと噛み合い、
第2内歯歯車30bは、剛性を有する環状の部材であり、第2内歯歯車30bは楕円状に撓められた第2歯車列20bを環囲し、起振体10の長軸方向の2領域で第2歯車列20bと噛み合い、
波動発生器490と、外歯歯車20と、第1内歯歯車30aと、第2内歯歯車30bと、を備えた撓み噛合い式歯車装置500であって、
起振体軸受450は、第1起振体軸受450aと、第1起振体軸受450aよりも出力装置80側に位置する第2起振体軸受450bと、を含み、
第1起振体軸受450aは、複数の第1転動体452aと、第1外輪部材454aと、を含み、
第2起振体軸受450bは、複数の第2転動体452bと、第2外輪部材454bと、を含み、
第2外輪部材454bは、第1外輪部材454aと一体に形成されてもよく、
a.第1外輪部材454aは、複数の第1転動体452aを環囲し、
第2転動体452b、第2外輪部材454bはそれぞれ、第1転動体452a、第1外輪部材454aと同様に構成され、
内輪部材440は起振体10と別体として形成され、又は、
b.第1外輪部材454aは、複数の第1転動体452aを環囲し、
第2転動体452b、第2外輪部材454bはそれぞれ、第1転動体452a、第1外輪部材454aと同様に構成され、
内輪部材440の外周面440aには、起振体軸受450の略球状の転動体452が転走する転走溝441が形成され、
内輪部材440は、起振体10と一体に形成される、
撓み噛合い式歯車装置500。」
(2)甲第2号証の記載
甲第2号証には次の事項が記載されている。
ア
「【請求項3】
請求項2において、
前記第1、第2主軸受を構成する転動体の数と前記補助軸受を構成する転動体の数とが互いに異なる
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。」
イ
「【0007】
即ち、本発明においては、筒形状の第1、第2外歯歯車をそれぞれ支持する第1、第2主軸受以外に、第1主軸受と該第2主軸受との間に配置される補助軸受を備える。このため、第1、第2内歯歯車との噛合いによって生じる第1、第2外歯歯車(外歯歯車と総称する)の径方向内側への力(噛合い荷重と称する)を、第1、第2主軸受だけでなく、補助軸受でも支持することとなる。即ち、第1、第2軸受と補助軸受とが並ぶ軸方向では、噛合い荷重を外歯歯車の第1、第2主軸受、及び補助軸受のそれぞれの位置に分散することができる。このため、軸方向の第1、第2主軸受の間で外歯歯車の歯底に発生する曲げ応力(第1主軸受の転動体を支点とした外歯歯車の曲げ応力および第2主軸受の転動体を支点とした外歯歯車の曲げ応力)を補助軸受の存在により低減することが可能となる。同時に、当該噛合い荷重を従来にはなかった補助軸受でも支持することとなるので、第1、第2主軸受にかかる噛合い荷重を低減でき、第1、第2主軸受の長寿命化も併せて図ることが可能となる。」
ウ
「【0012】
撓み噛合い式歯車装置100は、図1、図2に示す如く、起振体104と、起振体104の外周に互いに並列配置され起振体104の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車120A、120B(外歯歯車120A、120Bを併せて、外歯歯車120と総称する)と、外歯歯車120Aが内接噛合する剛性を有した減速用内歯歯車130A(第1内歯歯車)と、外歯歯車120Bが内接噛合する剛性を有した出力用内歯歯車130B(第2内歯歯車)と、を備えている(なお、減速用内歯歯車130Aと出力用内歯歯車130Bを併せて、内歯歯車130と総称する)。そして、撓み噛合い式歯車装置100は、起振体軸受110A(第1主軸受)と、起振体軸受110B(第2主軸受)と、起振体軸受110C(補助軸受)と、を備える。起振体軸受110Aは外歯歯車120Aと起振体104との間に配置され、起振体軸受110Bは外歯歯車120Bと起振体104との間に配置され、起振体軸受110Cは起振体軸受110Aと起振体軸受110Bとの間に配置される。なお、起振体軸受110A~110Cは、起振体軸受110と総称する。」
エ
「【0015】
起振体軸受110は、図2、図4(A)に示す如く、起振体104の外側と外歯歯車120の内側との間に配置される軸受である。起振体軸受110のうち、起振体軸受110Aは主に外歯歯車120Aを回転可能に支持し、起振体軸受110Bは主に外歯歯車120Bを回転可能に支持し、起振体軸受110Cは外歯歯車120Aと外歯歯車120Bとにほぼ均等に覆われ、それらを回転可能に支持している。起振体軸受110A~110Cはそれぞれ、内輪112A~112Cと、転動体116A~116Cと、外輪118A~118Cと、を備えている。内輪112A~112Cは、起振体104の外周に接触配置され、転動体116A~116Cの内側に配置されている。なお、転動体116A~116Cはボールであり図示せぬ保持器に回転可能に保持されている。外輪118A~118Cは、転動体116A~116Cの外側に配置される。外輪118A~118Cは、起振体104の回転により撓み変形し、その外側に配置される外歯歯車120をその径方向R(図2)に変形させる。
【0016】
そして、図2、図4(A)に示す如く、内輪112A~112C、外輪118A~118C、及び転動体116A~116Cの形状はそれぞれ同一とされている。そして、図7に示す如く、起振体軸受110A~110Cを構成する転動体116A~116Cの中心までのピッチ円半径Ra、Rb、Rcは同一とされている(ピッチ円半径Ra(Rb、Rc)は、起振体軸受110A(110B、110C)の起振体104への組み込み前の状態で、起振体軸受110A(110B、110C)の転動体116A(116B、116C)の公転に伴う転動体116A(116B、116C)の中心の軌跡であるピッチ円PCa(PCb、PCc)の半径をいうものとする)。なお、図4(A)では、起振体軸受110A~110Cを起振体104へ組み込んだ状態で示しているが、ここでのピッチ円半径Ra、Rb、Rcの値は起振体軸受110A~110Cの起振体104への組み込み前の状態を示しており、必ずしも、図4(A)における起振体104の回転軸中心から転動体116A~116Cの中心までの距離を正確に示しているわけではない(図4(B)、(C)も同様)。更に、内輪112A~112C、外輪118A~118C、及び転動体116A~116Cはそれぞれ、起振体軸受110A~110Cにおいて独立した形態とされている。つまり、起振体軸受110A~110Cは、それぞれ別個に独立した(一体化されていない)内輪、外輪、転動体を有している。なお、本実施形態においては、起振体軸受110A(110B)を構成する転動体116A(116B)の数よりも起振体軸受110Cを構成する転動体116Cの数が多く、転動体116A(116B)の数と転動体116Cの数とが互いに異なるようにされている。即ち、起振体軸受110Aと起振体軸受110Bとは同じ数の転動体116A、116Bを有している。」
オ
「【0043】
また、上記実施形態においては、撓み噛合い式歯車装置が内輪、転動体、保持器、及び外輪を有する起振体軸受を備えていたが、本発明はこれに限定されず、起振体軸受は必ずしも内輪、転動体、保持器、及び外輪を有する必要はない。例えば、内輪がなく起振体と一体とされていてもよいし、保持器がなくてもよいし、外輪がなく転動体が直接的に外歯歯車を回転可能に支持してもよい。」
カ
「【0045】
また、上記実施形態においては、すべて起振体軸受がそれぞれ独立した内輪、外輪、及び転動体を備えていたが、本発明はこれに限定されない。例えば内輪や外輪が主軸受と補助軸受とですべて一体或いは内輪や外輪の一部が一体で共通とされていてもよい。」
キ
図2
[図:0001403500000006.jpg]
(3)甲第3号証の記載
甲第3号証には次の事項が記載されている。
ア
「【0020】
起振体軸受110(110A、110B)は、図2に示す如く、軸方向Oに2つ並べて配置されている。起振体軸受110A、110Bはともに、同一の構成であり、内輪112はどちらにも共通とされている。このため、以下、起振体軸受110Aについて説明し、起振体軸受110Bについての説明は基本的に省略する。」
イ
「【0022】
外歯歯車120は、第1外歯歯車120Aと第2外歯歯車120Bとを有し、図2に示す如く、起振体軸受110A、110Bに対応して軸方向Oに2つ並べて配置されている。・・・(以下略)・・・」
ウ
「【0043】
本実施形態の撓み噛合い式歯車装置200は、図7、図8に示す如く、第1外歯歯車220Aの外歯224Aと第2外歯歯車220Bの外歯224Bとが、軸方向Oで分離されているものの、基部材212とそれぞれ一体化されている。・・・(以下略)・・・」
エ
図2
[図:0001403500000007.jpg]
オ
図8
[図:0001403500000008.jpg]
カ
図9
[図:0001403500000009.jpg]
(4)甲第4号証の記載
甲第4号証には次の事項が記載されている。
ア
第1図
[図:0001403500000010.jpg]
イ
第3図
[図:0001403500000011.jpg]
(5)甲第5号証の記載
甲第5号証には次の事項が記載されている。
ア
「この発明はハーモニツクギヤ装置の改良に関するものである。」(2欄3~4行)
イ
「以下、第3図乃至第5図に示すこの発明の一実施例について説明する。これらの図において、30は複列ボールベアリング、31は撓み発生部材2に嵌着された複列ボールベアリングの内輪、32は同じく外輪、33,34はこの内輪31の外周面と外輪32の内周面に円周方向に設けられた2条の走路に収納されたボール群、35はボール保持器である。
ボール保持器35は2つのボール群33,34と内輪31、外輪32で形成された空間に収納された円環体にボール群33の個々のボールを分離保持するため設けられた突起群35′と、その突起群35′の個々の突起の中央位置に設けられてボール群34の個々のボールを分離保持する突起群35″によつて構成されている。これらボール群33,34とボール保持器35の形状、寸法関係を第4図に示した。
上記のように構成されたこの複列ボールベアリング30では2つのボール群33,34は常に正確に千鳥状に配置されており、単列ボールベアリング3の場合に対比して噛合領域におけるボール群33,34の存在個数は2倍、ボール群33,34の接触点間隔は2分の1となつているため、同一回転数における微少トルクリツプルの周波数は2倍、加振力は2分の1以下となり、前述低速回転時に大きな振動現象を発生する傾向を著しく抑制することができる。すなわち、前述のように加振力が減少すれば、振動が減少するのは当然であるが、さらに加振周波数が2倍になるため産業用ロボツトなどで経験される機械系固有振動数にこの加振周波数が接近するための共振もしくはそれに近い状態の異常現象が発生する機会が著しく減少するため実用的効果が大きい。又、可撓スプライン4と円形スプライン5との噛合領域におけるボール群33,34の個数を従来のものに比べて2倍にできるので、可撓スプライン4の円形スプライン5との噛合領域における応力を1/2にでき、その結果、応力が分散し、かつ応力が小さくなるので、可撓スプライン4の耐久性は著しく向上し、装置の寿命を延ばすことができる。」(4欄5~末行)
ウ
第3図
[図:0001403500000012.jpg]
エ
第4図
[図:0001403500000013.jpg]
(6)甲第6号証の記載
甲第6号証には次の事項が記載されている。
ア
「【0037】
また、本実施形態においては、凹部117が外輪118の全周に亘りリング状に設けられている。このため、凹部117に多くの潤滑剤GRを収容することができる。加えて、外輪118A、118Bが互いに分離されていることと相まって、凹部117の加工を容易且つ正確に行うことができる。なお、これに限らず、凹部は外輪の全周に亘りリング状に設けられていなくてよいし、外輪も分割されず、外輪118A、118Bが一体でもよい。」
イ
図2
[図:0001403500000014.jpg]
(7)甲第7号証の記載
甲第7号証には次の事項が記載されている。
ア
「第3図を参照して、入力軸1に楕円形の回転体2が固定されており、回転体2の外周には、ベアリング3を介して、環状の外歯歯車4が摺動自在に巻回されている。ここでベアリング3は、ボールベアリングであり、変形可能な外輪13と内輪14の間にボール15が設けられている。」(3頁9~15行)
イ
第1図
[図:0001403500000015.jpg]
ウ
第4図
[図:0001403500000016.jpg]
(8)甲第8号証の記載及び甲8発明
甲第8号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には次の事項が記載されている。
ア
「【請求項1】
同一軸線上に並べて配置された第1剛性内歯車および第2剛性内歯車と、
前記第1剛性内歯車と噛み合う第1可撓性外歯車および前記第2剛性内歯車と噛み合う第2可撓性外歯車を含む単一のユニットとして形成された可撓性外歯車ユニットと、
楕円状の共通カムと前記共通カムの外周面に配置された軸受とを含み、前記軸受を介して各前記可撓性外歯車を撓み変形させて、各可撓性外歯車を対応する剛性内歯車に噛合させるとともに噛合位置を周方向に移動させる共通の波動発生器と、備える波動歯車伝達装置。」
イ
「【0011】
本発明の実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態の波動歯車伝達装置の概略断面図である。図1に示すように、波動歯車伝達装置1は、第1剛性内歯車2と、第2剛性内歯車3と、第1可撓性外歯車4と、第2可撓性外歯車5と、波動発生器6と、入力軸7と、第1部材8と、第2部材9と、クロスローラベアリング10と、第1軸受11と、第2軸受12とを備えている。波動歯車伝達装置1は、減速機または増速機に用いられる。
【0012】
第1剛性内歯車2は環状をなし、内周面に複数の第1内歯21を形成している。第2剛性内歯車3は環状をなし、内周面に複数の第2内歯31を形成している。
第1可撓性外歯車4および第2可撓性外歯車5を含む単一のユニットとして、筒状の可撓性外歯車ユニットUが構成されている。可撓性外歯車ユニットUは、第1剛性内歯車2および第2剛性内歯車3の内側に配置されている。第1可撓性外歯車4および第2可撓性外歯車5は、装置軸線1aの方向(入力軸7の軸方向Xに相当)に離隔している。
【0013】
第1可撓性外歯車4は、可撓性外歯車ユニットUの外周面の周方向に配列された複数の第1外歯41を有している。第2可撓性外歯車5は、可撓性外歯車ユニットUの外周面の周方向に配列された複数の第2外歯51を有している。
入力軸7は、モータの出力軸等の回転源に接続固定される回転入力要素を構成する。また、第1剛性内歯車2は、第1部材8によって回転不能に拘束される回転不能要素を構成する。また、第2剛性内歯車3は、第2部材9と一体に形成されて、減速回転出力要素を構成している。」
ウ
「【0015】
第1剛性内歯車2は、内周面に複数の第1内歯21が形成された環状部22と、環状部22の一端から径方向外方に延設された延設部23とを含む。
第1部材8は、装置軸線1aの方向に離隔する一対の部材81,82を含む。第1剛性内歯車2の延設部23は、装置軸線1aの方向に関して、一対の部材81,82の間に挟持されている。このため、第1剛性内歯車2は回転不能に拘束されている。」
エ
「【0017】
第2剛性内歯車3は、内周面に複数の第2内歯31が形成された環状部32と、環状部32の一端から径方向内方に延設された延設部33と、延設部33の径方向内端に形成されたボス部34とを含む。
第2軸受12は、第2剛性内歯車3のボス部34の内周面と入力軸7の軸方向Xの他端の外周面7bとの間に介在している。第2剛性内歯車3のボス部34は、筒状の第2部材9の一端に一体に連結されている。」
オ
「【0019】
波動発生器6は、軸受61と、楕円状の共通カム62とを含む。軸受61は、可撓性を有している。共通カム62は、軸受61の内周側に配置されている。共通カム62は、軸受61を外周側に弾性変形させる。
軸受61は、内輪63と、外輪64と、複数のボール65と、リテーナ(図示せず)とを含む。内輪63および外輪64は、可撓性を有している。ボール65は、内輪63と外輪64の間に、自転及び公転可能に挟持されている。ボール65は、図示のような複列に配列されてもよいし、単列に配列されてもよい。
【0020】
前記リテーナは、ボール65を互いに離隔して保持するようになっている。軸受61は、楕円状の共通カム62が設けられていない状態では真円形状になっている。
共通カム62は、入力軸7の軸方向Xの中間部の外周面7cに一体に形成されている。共通カム62は、入力軸7の軸方向Xの中間部の外周面7cにねじ止め等により固定されるものであってもよい。
【0021】
共通カム62の長径は、軸受61の内輪63の内径より大きく設定され、共通カム62の短径は、内輪63の内径より小さく設定されている。このため、共通カム62が内輪63の内周側に配置されることにより、長径部の2箇所で内輪63を外周側に押圧して内輪63を楕円形に弾性変形させる。共通カム62が回転することに伴って長径部が回転し、弾性変形した内輪63は、共通カム62と一体回転する。
【0022】
外輪64は、可撓性外歯車ユニットUの内周側に固定されており、可撓性外歯車ユニットUと一体回転する。内輪63と外輪64とは独立して回転可能であるので、内輪63は共通カム62の回転と一体回転し、外輪64は内輪63により楕円形に撓められる。
これにより、波動発生器6は、可撓性外歯車ユニットUの第1可撓性外歯車4および第2可撓性外歯車5を略楕円形に撓ませると共に、その長径部の2箇所で部分的に、各可撓性外歯車4,5を対応する剛性内歯車2,3に係合させる。」
カ
「【0030】
例えば、第1可撓性外歯車4の基準ピッチ円直径DF1が63.5mmであり、第1剛性内歯車2の基準ピッチ円直径DR1を64.135mmであるときに、第1可撓性外歯車4の歯数ZF1を200とし、第1剛性内歯車2の歯数ZR1を202とし、両歯車4,2のモジュールM1を0.3175mmとすることで、撓み量e1を0.3175mmに設定することができる。
【0031】
また、第2可撓性外歯車5の基準ピッチ円直径DF2が63.5mmであり、第2剛性内歯車3の基準ピッチ円直径DR1を64.008mmであるときに、第2可撓性外歯車5の歯数ZF1を250とし、第2剛性内歯車3の歯数ZR2を252とし、両歯車5,3のモジュールM1を0.254mmとすることで、撓み量e2を0.3175mmに設定して、両撓み量e1,e2を等しくすることができる。」
キ
図1
[図:0001403500000017.jpg]
上記の記載事項によれば、甲第8号証には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
〔甲8発明〕
「波動発生器6は、可撓性外歯車ユニットUの第1可撓性外歯車4および第2可撓性外歯車5を略楕円形に撓ませると共に、その長径部の2箇所で部分的に、各可撓性外歯車4,5を対応する剛性内歯車2,3に係合させ、
可撓性外歯車ユニットUは、第1剛性内歯車2および第2剛性内歯車3の内側に配置されている、
波動歯車伝達装置1であって、
波動発生器6は、軸受61と、楕円状の共通カム62とを含み、軸受61は、可撓性を有しており、
軸受61は、内輪63と、外輪64と、複数のボール65と、リテーナとを含み、
外輪64は、可撓性外歯車ユニットUの内周側に固定されており、可撓性外歯車ユニットUと一体回転し、
ボール65は、複列に配列され、内輪63と外輪64の間に、自転及び公転可能に挟持されている、
波動歯車伝達装置1。」
2.無効理由1(甲1発明に基づく新規性違反)、無効理由2(甲1発明に基づく進歩性違反)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
後者の「可撓性を有する環状の部材」である「外歯歯車20」は、前者の「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ」に相当する。
後者の「外歯歯車20の内側に」嵌る波動発生器490を構成する「起振体10」は、前者のスリーブ「内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータ」に相当する。
後者の外歯歯車20の「第1歯車列20a」、「第2歯車列20b」は、前者のスリーブの「外側噛合部」に相当する。
後者の「第1歯車列20aと噛み合」うことは、前者の「外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある」ことに相当し、後者の「剛性を有する環状の部材であ」る「第1内歯歯車30a」は、前者の「内歯付きの剛体の第1中空リング歯車」に相当する。
後者の「第2歯車列20bと噛み合」うことは、前者の「外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある」ことに相当し、後者の「剛性を有する環状の部材であ」る「第2内歯歯車30b」は、前者の「内歯付きの剛体の第2中空リング歯車」に相当する。
後者の「撓み噛合い式歯車装置500」は、前者の「波動歯車装置」に相当する。
後者の「起振体軸受450」は、「内輪部材440を含む」ものであり、一つの内輪部材から構成されているといえる。また、後者の「起振体軸受450」を構成する「第1外輪部材454a」、「第2外輪部材454b」は、「第2外輪部材454bは、第1外輪部材454aと一体に形成されてもよ」いものである。そして、技術常識に照らせば、後者の「起振体軸受450」は、径方向に可撓性を有し、起振体10と外歯歯車20との間に介在して相対的に回転可能に支持されているといえ、前者の「半径方向に可撓な唯一の転がり軸受」に相当する。また、技術常識に照らせば、後者は、前者の「前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持され」た構成を備えているといえる。
後者の「起振体軸受450」は、「第1起振体軸受450aと、第1起振体軸受450aよりも出力装置80側に位置する第2起振体軸受450b」とからなり、「第1起振体軸受450aは複数の第1転動体452a」を含み、「第2起振体軸受450bは複数の第2転動体452b」を含むものである。そうすると、後者の第1起振体軸受450aの「複数の第1転動体452a」は、前者の転がり軸受の「複数の第1転動体」及び「第1転動体列」に相当し、後者の第1起振体軸受450aよりも出力装置80側に位置する第2起振体軸受450bの「複数の第2転動体452b」は、前者の転がり軸受の「軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体」及び「少なくとも1つの第2転動体列」に相当する。
上述のとおり、後者の「起振体軸受450」は、内輪部材440、第1外輪部材454a、第2外輪部材454bを有するものであり、「第1外輪部材454aは、複数の第1転動体452aを環囲し」、「第2転動体452b、第2外輪部材454bはそれぞれ、第1転動体452a、第1外輪部材454aと同様に構成され」るものであるので、第1外輪部材454aと内輪部材440との間に複数の第1転動体452aが介在し、第2外輪部材454bと内輪部材440との間に複数の第2転動体452bが介在することは明らかであり、そして、「内輪部材440は起振体10と別体として形成され」るものであるので、後者の「a.第1外輪部材454aは、複数の第1転動体452aを環囲し、第2転動体452b、第2外輪部材454bはそれぞれ、第1転動体452a、第1外輪部材454aと同様に構成され、内輪部材440は起振体10と別体として形成され」ることは、前者の「a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること」に相当する。
また、後者の「内輪部材440の外周面440aには、起振体軸受450の略球状の転動体452が転走する転走溝441が形成され、内輪部材440は、起振体10と一体に形成される」ことは、前者の「前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること」に相当し、後者の「b.第1外輪部材454aは、複数の第1転動体452aを環囲し、第2転動体452b、第2外輪部材454bはそれぞれ、第1転動体452a、第1外輪部材454aと同様に構成され、内輪部材440の外周面440aには、起振体軸受450の略球状の転動体452が転走する転走溝441が形成され、内輪部材440は、起振体10と一体に形成される」ことは、前者の「b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有する」ことに相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点1〕
「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有することとした、
波動歯車装置。」
〔相違点1〕
本件発明1は、「外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能である」構成を備えているのに対し、甲1発明は、外歯歯車20が、一体に形成された第1外輪部材454a及び第2外輪部材454bにより全幅にわたり支持されるとはされていない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
(ア)甲第1号証には、外歯歯車20が一体に形成された第1外輪部材454a及び第2外輪部材454bにより、その全幅にわたり支持されることは、明記されていない。
また、甲第1号証の【図6】から、外歯歯車20の内側に第1外輪部材454a及び第2外輪部材454bが嵌まっていることは看取しうるものの、一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書の説明を補完するための図面であり、設計図に要求されるような正確性をもって描かれているものではなく、当該図面から各部材の寸法、大きさなどが正確に特定できるものではないから、【図6】から、外歯歯車20が、第1外輪部材454a及び第2外輪部材454bに、その全幅にわたり支持されているということはできない。
よって、甲第1号証には、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
(イ)甲第2号証には、可撓性を有した筒形状の外歯歯車120A、120Bを、起振体軸受110A、110B、110Cで支持し、前記3つの起振体軸受の内輪や外輪を一体とすることが記載されているが(上記1.(2)参照。)、外歯歯車120A、120Bが、起振体軸受110A、110B、110Cの外輪に、その全幅にわたり支持されることは記載されていない。
(ウ)甲第3号証には、外歯歯車120、220は、第1外歯歯車120A、220Aと第2外歯歯車120B、220Bとを有し、起振体軸受110A、110B、210A、210Bに対応して軸方向Oに2つ並べて配置され、起振体軸受110A、110B、210A、210Bの外輪118A、118B、218A、218Bで支持されていることが記載されているが(上記1.(3)参照。)、外歯歯車120、220が、起振体軸受110A、110B、210A、210Bの共通の外輪に、その全幅にわたり支持されることは記載されていない。
また、上記(ア)で述べたのと同様に、図面から各部材の寸法、大きさなどが正確に特定できるものではないので、甲第3号証の【図2】及び【図4】から、外歯歯車120、220が、起振体軸受110A、110B、210A、210Bの共通の外輪に、その全幅にわたり支持されているということはできない。
(エ)甲第4号証の第3図(上記1.(4)イ参照。)から、フレクスプライン3の内側に嵌まった2つの転がり軸受は看取しうるものの、2つの転がり軸受が共通の外輪を備えることは記載されていないし、フレクスプライン3が、2つの転がり軸受の共通の外輪に、その全幅にわたり支持されることは記載されていない。
(オ)甲第5号証の第3図(上記1.(5)ウ参照。)から、可撓スプライン4の内側に複列ボールベアリング30の外輪32が嵌まっていることを看取しうるものの、可撓スプライン4が、外輪32に、その全幅にわたり支持されることは記載されていない。
(カ)甲第6号証には、外輪118A、118Bが一体にできることが記載されており、【図2】(上記1.(6)イ参照。)から、外歯歯車120の内側に起振体軸受110の外輪118A、118Bが嵌まっていることを看取しうるものの、上記(ア)で述べたのと同様に、図面から各部材の寸法、大きさなどが正確に特定できるものではないので、外歯歯車120が、外輪118A、118Bに、その全幅にわたり支持されているということはできない。
(キ)甲第7号証の第1図、第4図(上記1.(7)イウ参照。)から、環状の外歯歯車4の内側に単列のボールベアリングの外輪13が嵌まっていることを看取しうるものの、上記(ア)で述べたのと同様に、図面から各部材の寸法、大きさなどが正確に特定できるものではないので、外歯歯車4が、外輪13に、その全幅にわたり支持されているということはできない。
(ク)以上のとおりであるので、甲第2~7号証にも、相違点1に係る構成について、記載されていない。
(ケ)そして、相違点1に係る本件発明1の構成により、「半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり又は少なくともその噛合部(歯列)の幅にわたり確実に且つ信頼性をもって、半径方向の逸脱が発生不能であるように支持されているという、格別優れた技術的な効果を有している。従って噛合係合エラー、特に噛合係合エラーに基づく煩わしい騒音発生は、効果的に回避されている。」(本件特許の明細書の段落【0011】参照。)との作用効果を奏するものであり、設計的事項ともいえない。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2~7号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明14について
ア 対比
本件発明14は、本件発明1の、
「外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能であること」との事項を省き、
「又は、c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有することとし、
隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数であること」
との事項を追加したものである。
本件発明14と甲1発明とを対比すると、本件発明14の本件発明1と共通する構成についての対比は、上記(1)アで検討した本件発明1と甲1発明との対比と同様となる。
そうすると、上記(1)アで検討した本件発明1と甲1発明との対比を参照すると、本件発明14と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点2〕
「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること、又は、
b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有することとした、
波動歯車装置。」
〔相違点2-1〕
本件発明14は、転がり軸受について、「又は、c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有すること」との構成を備えているのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えていない点。
〔相違点2-2〕
本件発明14は、「隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数である」との構成を備えているのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-2から検討する。
〔相違点2-2について〕
相違点2-2に係る本件発明14の構成は、隣接する転動体列の転動体は、接線方向(円周方向、本件特許の明細書の段落【0030】参照。)において所定の間隔Z=D(転動体の円周方向の直径)/A(転動体軌道の総数)だけずらされた構成である。
これに対して、甲第5号証には、ハーモニックギヤ装置の、撓み発生部材2に嵌着された複列ボールベアリング30が、外輪32、内輪31、2条のボール群33,34、ボール保持器35とからなり、2条のボール群33,34は千鳥状に配置され、ボール群33,34の接触点間隔は、単列ボールベアリングの場合に対比して2分の1となっていることが記載されており(上記1.(5)参照。)、隣接する転動体列の転動体が、円周方向において、1列の転動体列の接触点間隔の2分の1だけずらされている構成が示されている。
そうすると、甲第5号証には、相違点2-2に係る本件発明14の構成は記載されていない。
また、甲第2~4、6、7号証にも、相違点2-2に係る本件発明14の構成は記載されていない。
そして、相違点2-2に係る本件発明14の構成は、「転動体の特に均等な分配が達成されている。」(本件特許の明細書の段落【0030】参照。)との作用効果を奏するものであり、設計的事項ともいえない。
よって、甲1発明において、相違点2-2に係る本件発明14の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1発明及び甲第2~7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、6~13、15~21について
本件発明2~4、6~13、15~21は本件発明1にさらに発明特定事項を追加して限定したものであり、相違点1に係る本件発明1の構成を備えるものである。
そうすると、上記(1)で本件発明1について検討した理由と同様の理由で、本件発明2~4、6~9は、甲1発明ではなく、また、本件発明2~4、6~13、15~21は、甲1発明及び甲第2~7号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明15~21は本件発明14にさらに発明特定事項を追加して限定したものであり、相違点2-2に係る本件発明14の構成を備えるものである。
そうすると、上記(2)で本件発明14について検討した理由と同様の理由で、本件発明15~21は、甲1発明及び甲第2~7号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
以上のとおりであるから、無効理由1及び2は理由がない。
3.無効理由3(甲8発明に基づく拡大先願違反)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲8発明とを対比する。
後者の「可撓性外歯車ユニットU」は、前者の「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ」に相当する。
後者の「波動発生器6」は「可撓性外歯車ユニットUの第1可撓性外歯車4および第2可撓性外歯車5を略楕円形に撓ませる」ものであり、「波動発生器6は、軸受61と、楕円状の共通カム62とを含」むものであるから、楕円状の共通カム62が軸受61を介して第1可撓性外歯車4及び第2可撓性外歯車5の内側にあって略楕円形に撓ませるものである。そうすると、後者の「楕円状の共通カム62」は、前者のスリーブ「内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータ」に相当する。
後者の可撓性外歯車ユニットUの「第1可撓性外歯車4および第2可撓性外歯車5」は、前者のスリーブの「外側噛合部」に相当する。
後者の可撓性外歯車ユニットUの第1可撓性外歯車4及び第2可撓性外歯車5のそれぞれに係合する「第1剛性内歯車2」及び「第2合成内歯車3」は、前者のスリーブの外側噛合部と「噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車」及び「噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車」に相当する。
後者の「波動歯車伝達装置1」は、前者の「波動歯車装置」に相当する。
後者の「可撓性を有し」た「軸受61」は、前者の「半径方向に可撓な唯一の転がり軸受」に相当する。
上述のとおり、後者では楕円状の共通カム62が軸受61を介して第1可撓性外歯車4及び第2可撓性外歯車5の内側にあって略楕円形に撓ませるものであるから、後者は、前者の「前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持され」る構成を備えている。
後者の軸受61を構成する「複列に配列され」た「ボール65」は、前者の「複数の第1転動体を有する第1転動体列」及び「軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列」に相当する。
後者の「軸受61」は「内輪63と、外輪64と、複数のボール65と」「を含み」、「ボール65は、複列に配列され」、「内輪63と外輪64の間に、自転及び公転可能に挟持されている」ことは、前者の「a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点3〕
「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること
とした、
波動歯車装置。」
〔相違点3-1〕
本件発明1は、転がり軸受について、「又は、b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること」との構成を備えているのに対し、甲8発明は、そのような構成を備えていない点。
〔相違点3-2〕
本件発明1は、「外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能である」構成を備えているのに対し、甲8発明は、可撓性外歯車ユニットUが、外輪64により全幅にわたり支持されるとはされていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3-2から検討する。
〔相違点3-2について〕
甲第8号証には、可撓性外歯車ユニットUが外輪64により全幅にわたり支持されることは、明記されていない。
また、甲第8号証の【図1】から、可撓性外歯車ユニットUの内側に外輪64が嵌まっていることは看取しうるものの、一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書の説明を補完するための図面であり、設計図に要求されるような正確性をもって描かれているものではなく、当該図面から各部材の寸法、大きさなどが正確に特定できるものではない。
よって、甲第8号証には、相違点3-2に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。また、当該構成が周知技術や慣用技術であるとの証拠も無い。
そして、相違点3-2に係る本件発明1の構成により、「半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり又は少なくともその噛合部(歯列)の幅にわたり確実に且つ信頼性をもって、半径方向の逸脱が発生不能であるように支持されているという、格別優れた技術的な効果を有している。従って噛合係合エラー、特に噛合係合エラーに基づく煩わしい騒音発生は、効果的に回避されている。」(本件特許の明細書の段落【0011】参照。)との作用効果を奏するものであり、課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。
したがって、相違点3-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明と同一ではないし、甲8発明と実質同一ともいえない。
(2)本件発明14について
ア 対比
本件発明14は、本件発明1の、
「外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブは、前記第1中空リング歯車及び前記第2中空リング歯車の領域において、前記第1転動体列及び前記第2転動体列に共通の外側リングに支持され、外歯付きの半径方向に可撓なスリーブがその全幅にわたり支持されて外歯付きの半径方向に可撓なスリーブの軸方向の両端部の半径方向の逸脱が発生不能であること」との事項を省き、
「又は、c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有することとし、
隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数であること」
との事項を追加したものである。
本件発明14と甲8発明とを対比すると、本件発明14の本件発明1と共通する構成についての対比は、上記(1)アで検討した本件発明1と甲8発明との対比と同様となる。
そうすると、上記(1)アで検討した本件発明1と甲8発明との対比を参照すると、本件発明14と甲8発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点4〕
「外歯付きの半径方向に可撓なスリーブ内で回転可能に支持されているウェーブジェネレータを有し、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第1中空リング歯車と、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブの外側噛合部と噛合部が同様に噛合係合状態にある内歯付きの剛体の第2中空リング歯車を有する、波動歯車装置であって、
前記ウェーブジェネレータは、半径方向に可撓な唯一の転がり軸受を介して、外歯付きの半径方向に可撓な前記スリーブに対して相対的に回転可能に支持されており、前記転がり軸受は、複数の第1転動体を有する第1転動体列と、軸方向において前記第1転動体列に対してずらされた、複数の第2転動体を有する少なくとも1つの第2転動体列とを有し、
a.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングと内側リングを有すること
とした、
波動歯車装置。」
〔相違点4-1〕
本件発明14は、転がり軸受について、「又は、b.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある外側リングを有し、前記ウェーブジェネレータの外周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の内側案内溝部を有すること、又は、c.前記転がり軸受は、前記第1転動体列の前記第1転動体及び前記第2転動体列の前記第2転動体と直接的に接触状態にある内側リングを有し、半径方向に可撓な前記スリーブの内周面部が、各前記転動体列の前記転動体のための各々の外側案内溝部を有すること」との構成を備えているのに対し、甲8発明は、そのような構成を備えていない点。
〔相違点4-2〕
本件発明14は、「隣接する前記転動体列の前記転動体は、接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数である」との構成を備えているのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4-2から検討する。
〔相違点4-2について〕
相違点4-2に係る本件発明14の構成は、隣接する転動体列の転動体は、接線方向(円周方向、本件特許の明細書の段落【0030】参照。)において所定の間隔Z=D(転動体の円周方向の直径)/A(転動体軌道の総数)だけずらされた構成である。
当該構成について、甲第8号証には記載も開示もされていない。また、当該構成が周知技術や慣用技術であるとの証拠も無い。
そして、相違点4-2に係る本件発明14の構成は、「転動体の特に均等な分配が達成されている。」(本件特許の明細書の段落【0030】参照。)との作用効果を奏するものであり、課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。
よって、相違点4-1について検討するまでもなく、本件発明14は、甲8発明と同一ではないし、甲8発明と実質同一ともいえない。
(3)本件発明2~4、6~13、15について
本件発明2~4、6~13、15は本件発明1にさらに発明特定事項を追加して限定したものであり、相違点3-2に係る本件発明1の構成を備えるものである。
そうすると、上記(1)で本件発明1について検討した理由と同様の理由で、本件発明2~4、6~13、15は、甲8発明と同一ではないし、甲8発明と実質同一ともいえない。
本件発明15は本件発明14にさらに発明特定事項を追加して限定したものであり、相違点4-2に係る本件発明14の構成を備えるものである。
そうすると、上記(2)で本件発明14について検討した理由と同様の理由で、本件発明15は、甲8発明と同一ではないし、甲8発明と実質同一ともいえない。
(4)小括
以上のとおりであるから、無効理由3は理由がない。
4.無効理由4(サポート要件違反)について
請求項5の記載に関するサポート要件違反の無効理由については、本件訂正により請求項5は削除されたから、請求項5及び請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~21に係る発明に対する無効理由は解消した。
また、訂正前の請求項5の記載を引用していた請求項14は、本件訂正により、請求項1を引用するものについて独立形式請求項に訂正されたから、請求項14に対するサポート要件違反の無効理由は解消した。
よって、無効理由4は理由がない。
5.無効理由5(明確性要件違反)について
(1)請求項5の記載に関する明確性要件違反について
本件訂正により請求項5は削除されたから、請求項5及び請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~21に係る発明に対する明確性要件違反の無効理由は解消した。
また、訂正前の請求項5の記載を引用していた請求項14は、本件訂正により、請求項1を引用するものについて独立形式請求項に訂正されたから、請求項14に対する明確性要件違反の無効理由は解消した。
(2)請求項14の記載に関する明確性要件違反について
請求項14の「接線方向において所定の間隔Z=D/Aだけずらされており、Dは、転動体の接線方向の直径であり、Aは、転動体軌道の総数である」点について、出願時の技術常識を考慮してもその技術的意義が不明であり、本件発明14及び本件発明15~21は明確でない旨主張する(審判請求書72頁21~27行)。
しかしながら、上記2.(2)イ〔相違点2-2について〕で述べたとおり、請求項14の記載から発明の構成は明確に理解でき、その作用効果も明細書の記載から理解できる。
よって、本件発明14~21は明確である。
(3)請求項16~21の記載に関する明確性要件違反について
請求人は、「請求項16~21の記載は、「波動歯車装置」とそれ以外の発明特定事項との間に技術的な関連がないため、発明が不明確である。」(審判請求書72頁下から3~2行)と主張する。
しかしながら、波動歯車装置をアクチュエータの減速機として用いることは一般的に行われている事項といえ(例えば、甲第1号証の段落【0012】、上記1.(1)ア参照。)、また、アクチュエータを車両のステアリングのアシスト、エンジンの各種調整に用いることも一般的に行われている事項といえる。
そうすると、請求項16~21の記載から、波動歯車装置と、それ以外の発明特定事項であるアクチュエータ、ステアリング、エンジン等とは技術的に関連していることは理解でき、請求項16~21に係る発明は明確であるといえる。
(4)小括
以上のとおりであるから、無効理由5は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1~5はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1~4、6~21についての特許は、無効理由1~5によっては、無効とすることはできない。
また、請求項5は、訂正により存在しないこととなったため、請求項5に係る発明についての特許を無効とする請求は、不適法な請求であってその補正をすることができないものとなったから、特許法135条の規定により却下する。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-800072