特許無効審判
2022-800032
手押し車
- 審判番号
- 2022-800032
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2021-131280
- 登録番号
- 6954580
- 請求日
- 2022年03月31日
- 審決日
- 2023年03月31日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 島製作所
- 【請求人代理人】杉本 勝徳
- 【請求人代理人】近藤 勝久
- 【請求人代理人】井上 彰
- 【被請求人】株式会社 幸和製作所
- 【被請求人代理人】石下 雅樹
- 【被請求人代理人】江間 布実子
- 【被請求人代理人】永野 真理子
- 【被請求人代理人】益弘 圭
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 藤井 昇
- 審判官 三宅 龍平
- 分類
- P1113.537-Y (B62B) / P1113.536-Y (B62B) / P1113.121-Y (B62B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第44条、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6954580号発明「手押し車」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6954580号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成30年8月31日を出願日(本件特許についての出願は、特許法44条2項の規定により、この時に出願したものとみなす。)とする特願2018-162353号の一部を令和3年8月11日に新たな特許出願としたものであって、令和3年10月4日に設定登録がなされた。
その後、令和4年3月31日(差出日)に株式会社島製作所により本件審判の請求がなされ、その経緯は以下のとおりである。
令和 4年 3月31日 審判請求書
同年 5月16日 手続補正書(方式)提出
同年 7月26日 審判事件答弁書提出
同年10月12日付け 審理事項通知
同年11月11日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
同年11月17日付け 審理事項通知(2)
同年12月 2日 口頭審理陳述要領書(2)提出(請求人)
同年12月 2日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年12月 2日 第1回口頭審理
第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
左右の前輪と、
前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレームと、
左右の後輪と、
前記左右の後輪を支持する左右の後輪フレームと、
カゴと、
前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームとを備え、
前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置し、前側に凸状に湾曲した形状を有し、
前記カゴの後端部は、前記架橋フレームに連結され、
前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である、手押し車。」
第3 請求人の主張と証拠方法
1 主張の概要
請求人は、「特許第6954580号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1号証~甲第11号証の2を添付した令和4年3月31日(差出日)の審判請求書、同年5月16日付けの手続補正書、同年4年11月11日付けの口頭審理陳述要領書、及び、同年12月2日付け口頭審理陳述要領書(2)を提出し、以下の無効理由1~無効理由3-3により、本件発明に係る特許は、無効とすべきものであると主張する(以下、甲第1号証~甲第11号証の2をそれぞれ「甲1」~「甲11の2」という。)。
なお、甲9に係る主張は取り下げられた(請求人の口頭審理陳述要領書(2)の6.2及び調書参照。)。
(1)無効理由1(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(委任省令要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3-1(進歩性)
本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された甲2の1に記載された甲2発明、甲2発明と周知技術、又は甲2発明と甲5の1に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由3-2(進歩性)
本件発明は、その出願前に公然実施された甲3発明、甲3発明と周知技術、又は甲3発明と甲5の1に記載された事項に基いてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
(5)無効理由3-3(進歩性)
本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された甲4に記載された甲4発明、甲4発明と周知技術、又は甲4発明と甲5の1に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
2 証拠方法
請求人が証拠方法として提出した甲1~甲8の3、甲10の1~甲11の2は、以下のとおりである。なお、括弧内にRをつけた表記は、登録商標を示す。
甲1 :特開2020-32917号公報
甲2の1 :意匠登録第1148866号公報
甲2の2 :甲2の1図面への説明追記
甲3の1 :ハーモニーALの販促資料(WEBカタログVOL.4)
URL:https://saas.actibookone.com/content/detail?param=eyJjb250ZW50TnVtIjoxNTg4MzR9&detailFlg=O&pNo=46
甲3の2 :甲3の1製品写真への説明追記
甲3の3 :公益財団法人テクノエイド協会 The Association for TechnicalAids(ATA)、TAISTechnicalAidsInformation System 福祉用具情報システム 福祉用具詳細、商品名 ハーモニーAL
甲4 :特開2008-1174号公報
甲5の1 :特開2017-193243号公報
甲5の2 :甲5の1図面への説明追記
甲6の1 :サニーウォーカーSP販促資料(WEBカタログVOL.4)
URL:https://saas.actibookone.com/content/detail?param=eyJjb250ZW50TnVtIjoxNTg4MzR9&detailFlg=O&pNo=26
甲6の2 :甲6の1製品写真への説明追記
甲6の3 :公益財団法人テクノエイド協会 The Association for TechnicalAids(ATA)、TAISTechnicalAidsInformationSystem福祉用具情報システム 福祉用具詳細、商品名 サニーウォーカーSP(中)
甲7の1 :セーフティーアーム(R)ロレータキャリーUタイプの販促資料
URL:https://pdf-html5.com/digitalbook/eastihukucatalog41/27/index.html
甲7の2 :甲7の1製品写真への説明追記
甲7の3 :公益財団法人テクノエイド協会 The Association for TechnicalAids(ATA)、TAISTechnicalAidsInformationSystem福祉用具情報システム 福祉用具詳細、商品名 セーフティーアームロレータキャリーUタイプ
甲8の1 :株式会社ウェルパートナーズ、friend IIの販促資料
URL:http://www.wellpartners.co.jp/pdf/friend2201708.pdf
甲8の2 :甲8の1製品写真への説明追記
甲8の3 :公益財団法人テクノエイド協会 The Association for TechnicalAids(ATA)、TAISTechnicalAidsInformationSystem福祉用具情報システム 福祉用具詳細、商品名 歩行車 friend II
甲10の1:シンフォニーラクーンの販促資料
URL:https://saas.actibookone.com/content/detail?param=eyJjb250ZW50TnVtIjoxNTg4MzR9&detailFlg=O&pNo=8
甲10の2:甲10の1製品写真への説明追記
甲10の3:公益財団法人テクノエイド協会 The Association for TechnicalAids(ATA)、TAISTechnicalAidsInformationSystem福祉用具情報システム 福祉用具詳細、商品名 シンフォニーラクーン
甲11の1:マキテック コンビキャリーピア フラワーパープルの通販サイト
URL:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%94%E3%82%A2-%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%AB/dp/B000G14VUS
甲11の2:甲11の1製品写真への説明追記
第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、令和4年7月26日付け審判事件答弁書、及び、同年12月2日付け口頭審理陳述要領書を提出し、請求人の主張する上記の無効理由1~無効理由3-3は、いずれも理由がない旨主張する。
第5 甲号証の記載等
1 甲2の1
(1)記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された甲2の1には、以下の斜視図、折り畳んだ状態の斜視図、正面図、背面図及び右側面図と共に以下の記載がある。なお下線は当審で付した。以下同様。
・「(54)【意匠に係る物品】買物用手押し車」
・「(55)【意匠に係る物品の説明】本願の買物用手押し車は、ハンドルの高さを使用者の身長に合わせて調節することができる。また、上カバーを閉じた状態で、上カバーに使用者が座ることができる。さらに、本物品は、自立した状態で折り畳むことができる(折り畳んだ状態の斜視図参照)。後輪が下端部に取り付けられた脚部の略中間部には、安全ライト(発光ダイオード)が取り付けられており、例えば、日没後、点灯させて使用することができる(各部の名称を示す参考右側面図参照)。」
・【斜視図】
「
[図:0001404528000001.jpg]
」
・【折り畳んだ状態の斜視図】
「
[図:0001404528000002.jpg]
」
・【正面図】
「
[図:0001404528000003.jpg]
」
・【背面図】
「
[図:0001404528000004.jpg]
」
・【右側面図】
「
[図:0001404528000005.jpg]
」
(2)説明図
甲2の1の【斜視図】を基にして、当審が【甲2説明図】を作成した。以下において、甲2の1に記載された各部材の名称は、説明の便宜上、【甲2説明図】を用いて説明する。
・【甲2説明図】
「
[図:0001404528000006.jpg]
」
(3)認定事項
ア 甲2の1の上記各図から、以下(ア)~(ク)が看て取れる(各部材の名称は、上記(2)の【甲2説明図】参照)。
(ア)「左右の前輪1,1」
(イ)「左右の前輪1,1を支持する左右の前輪フレーム2,2」
(ウ)「左右の後輪3,3」
(エ)「左右の後輪3,3を支持する左右の後輪フレーム4,4」
(オ)「カゴ5」
(カ)「左右の後輪フレーム4,4を、カゴ5の底部付近で連結する直線形状の部材6」
(キ)「部材6は、後輪フレーム4,4の下部に位置し、直線形状を有すること」
(ク)「カゴ5の底部の後端部は、部材6に連結されていること」
イ 甲2の1の【斜視図】、【折り畳んだ状態の斜視図】及び【右側面図】を合わせて参酌すると、これらの図面からは、「カゴ5は、カゴ5の底部の後端部に位置する部材6の中心軸線を中心に回動して、前後方向に折り畳み可能であること」が看て取れる。
ウ 甲2の1の【右側面図】からみて、「使用者が握るハンドルの位置は、車両前後方向でみて、後輪フレーム4と部材6との接続部よりも後方寄りに設定されていること」が看て取れる。
(4)発明の認定
上記(1)~(3)を総合すると、甲2の1には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「左右の前輪1,1と、
左右の前輪1,1を支持する左右の前輪フレーム2,2と、
左右の後輪3,3と、
左右の後輪3,3を支持する左右の後輪フレーム4,4と、
カゴ5と、
左右の後輪フレーム4,4を、カゴ5の底部付近で連結する部材6と、を備え、
部材6は、後輪フレーム4,4の下部に位置し、直線形状を有し、
カゴ5の底部の後端部は、部材6に連結され、
カゴ5は、カゴ5の底部の後端部に位置する部材6の中心軸線を中心に回動して、前後方向に折り畳み可能であり、
使用者が握るハンドルの位置は、車両前後方向でみて、後輪フレーム4と部材6との接続部よりも後方寄りに設定されている、買物用手押し車。」
2 甲3の1及び甲3の3
(1)記載事項
ア 甲3の1
甲3の1には、30ページ左上の斜視図、30ページ下部の図面(使用時側面図、背面図、収納時側面図)と共に以下の記載がある。なお、当該甲3の1は、カタログの30ページ、31ページの見開きを示しているので、以下では、カタログのページ番号と位置を用いて説明する。
・「シルバーカー」(30ページ左上)
・「ハーモニーAL」(30ページ左上)
・「使用時サイズ 約H83~91×W46×D54cm」(30ページ右中央付近)
・「TAISコード 00576-000001」(30ページ右中央付近)
・「分類コード 120690(シルバーカー)」(30ページ右中央付近)
・「この製品は、自立歩行できる方が より安定して歩行できるよう補助的に使用するものです。」(31ページ最下部)
・30ページ左上の斜視図
「
[図:0001404528000007.jpg]
」
・30ページ下部の図面(上から順に、使用時側面図、背面図、収納時側面図)
「
[図:0001404528000008.jpg]
」
「
[図:0001404528000009.jpg]
」
「
[図:0001404528000010.jpg]
」
イ 甲3の3
甲3の3には、以下の記載がある。
・「公益財団法人テクノエイド協会」
・「TAIS Technical Aids InformationSystem福祉用具情報システム」
・「商品名 ハーモニーAL」
・「TAISコード 00576-000001」
・「分類 [1]120690:シルバーカー」
・「発売年月 平成13年4月」
・「サイズ 高さ830~910×幅460×奥行540mm」
・「メーカー名 株式会社島製作所」
(2)公然実施について
甲3の1に係る「ハーモニーAL」という商品名の「シルバーカー」は、そのTAISコード(00576-000001)、使用時サイズからみて、甲3の3に示される「商品名 ハーモニーAL」、「TAISコード 00576-000001」に対応する商品と認められ、その発売年月は、甲3の3に示される「平成13年4月」と推認される。
そうすると、上記「ハーモニーAL」は、本件特許出願前に公然実施されていたものと認められる。
(3)説明図
甲3の1の30ページ左上の斜視図を基にして、当審が【甲3説明図1(斜視図)】、【甲3説明図2(背面図)】、【甲3説明図3(収納時側面図)】(以下、併せて「甲3説明図」ともいう。)を作成した。
以下において、甲3の1の各図に記載された部材の名称は、説明の便宜上、甲3説明図を用いて説明する。
・【甲3説明図1(斜視図)】
「
[図:0001404528000011.jpg]
」
・【甲3説明図2(背面図)】
「
[図:0001404528000012.jpg]
」
・【甲3説明図3(収納時側面図)】
「
[図:0001404528000013.jpg]
」
(4)認定事項
ア 甲3の1の上記各図からは、以下(ア)~(キ)が看て取れる(各部材の名称は、上記(3)の甲3説明図参照)。
(ア)「左右の前輪1,1」
(イ)「左右の前輪1,1を支持する左右の前輪フレーム2,2」
(ウ)「左右の後輪3,3」
(エ)「左右の後輪3,3を支持する、コ字状の枠体4」
(オ)「カゴ5」
(カ)「コ字状の枠体4の上部に位置してコ字状の枠体4に連結する、コ字状の枠体8」
(キ)「コ字状の枠体8の上寄りの左側部分と上寄りの右側部分とを、カゴ5の上部付近で連結する直線形状の部材6」
イ 上記(3)の【甲3説明図2(背面図)】に示すとおり、「コ字状の枠体4とコ字状の枠体8との左右の接続箇所41,41の間の領域」を「コ字状の枠体4の中央の領域42」とし、「接続箇所41,41よりも外側の領域」を「コ字状の枠体4の左右の領域43,43」と定義すると、上記(1)の斜視図及び背面図からは、「左右の領域43,43と中央の領域42とは、一体に、且つ、なめらかにつながってコ字状の枠体4を形成すること」が看て取れるところ、技術常識を踏まえれば、「コ字状の枠体4」は、一部材の両端を曲げてコ字状を形成するものと認められる。
すなわちコ字状の枠体4は、一部材で形成されるものであって、コ字状の枠体8との左右の接続箇所41,41の間の領域を中央の領域42とすると、中央の領域42の両端の左右の領域43,43を曲げることでコ字状を形成したものと認められる。
ウ 上記イを踏まえると、上記(1)の斜視図及び背面図からは、
・「コ字状の枠体4の左右の領域43,43は、左右の後輪3,3をそれぞれ支持すること」
・「コ字状の枠体4の中央の領域42は、コ字状の枠体8よりも下側に位置し、直線形状を有すること」
・「カゴ5の後端部は、コ字状の枠体8の下部を介して、コ字状の枠体4の中央の領域42に連結されること」
がそれぞれ看て取れる。
エ 上記(3)の【甲3説明図2(収納時側面図)】に示すとおり、カゴ5の折り畳み回動時の中心軸線7が存在することは、上記(1)の使用時側面図及び収納時側面図からみて、技術的に自明である。
そうすると、上記(1)の使用時側面図及び収納時側面図からは、「カゴ5は、カゴ5の後端部における折り畳み回動時の中心軸線7を軸に回動して、前後方向に折り畳み可能であること」が看て取れる。
(5)発明の認定
上記の(1)~(4)を総合すると、次の公然実施発明(以下「甲3発明」という。)が認められる。なお、括弧内に認定の根拠を示した。
(甲3発明)
「左右の前輪1,1と、
左右の前輪1,1を支持する左右の前輪フレーム2,2と、
左右の後輪3,3と、
左右の後輪3,3を支持する、コ字状の枠体4と、
カゴ5と、
コ字状の枠体4の上部に位置してコ字状の枠体4に連結する、コ字状の枠体8と、コ字状の枠体8の上寄りの左側部分と上寄りの右側部分とを、カゴ5の上部付近で連結する直線形状の部材6と、を備え((4)ア)、
コ字状の枠体4は、一部材で形成されるものであって、コ字状の枠体8との左右の接続箇所41,41の間の領域を中央の領域42とすると、中央の領域42の外側の左右の領域43,43を曲げることでコ字状を形成し((4)イ)、
コ字状の枠体4の左右の領域43,43は、左右の後輪3,3をそれぞれ支持し((4)ウ)、
コ字状の枠体4の中央の領域42は、コ字状の枠体8よりも下側に位置し、直線形状を有し((4)ウ)、
カゴ5の後端部は、コ字状の枠体8の下部を介して、コ字状の枠体4の中央の領域42に連結され((4)ウ)、
カゴ5は、カゴ5の後端部における折り畳み回動時の中心軸線7を軸に回動して、前後方向に折り畳み可能である((4)エ)、シルバーカー。」
3 甲4
(1)記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された甲4には、図1、3~6と共に以下の記載がある。
・「【0022】
図面は、自立歩行可能な人が歩行する際に用いられる手押し車を示し、図1及び図2に於いて、この手押し車1は、走行形態(図7参照)と折畳み形態(図5参照)に変形自在に設けた車本体2と、車本体2の変形動作により収納許容形態と収納不可形態に変形される収納部3とからなる。
【0023】
車本体2は、図3、図4にも示すように、前側下部に配置した左右一対の前部枠体2A,2Aの後端部を、収納部3を構成する底部3Aの後端部に近寄った両側下面部に対して上下回動自在に連結している。また、後側に配置した左右一対の背部枠体2C,2Cの下端部を、後側下部に配置した後部枠体2Bの上側両端部に固定している。また、前部枠体2A,2Aの後端部に近寄った中間部と、後部枠体2Bの両側下端部とを連結杆2D,2Dにより上下回動自在に連結している。
【0024】
収納部3を構成する底部3Aの後端部を、背部枠体2C,2Cの下端部に対して上下回動自在に連結し、上側枠部3Bの後端部を、背部枠体2C,2Cの中間部に対して上下回動自在に連結し、前側支持部3Cの上下端部を、底部3Aと枠部3Bの前端側中央部に対して上下回動自在に連結して、車本体2を、走行形態(図7参照)と折畳み形態(図5参照)とに変形可能に設けている。
・・・
【0026】
また、前部枠体2A,2Aの前端部間は、後述する底部3Aの前端側下縁部に係合される連結枠体2Abにより連結している。後部枠体2Bは、手押し車1を手押し操作する利用者の足の前後動が妨げられないようなアーチ状に形成するとともに、後部枠体2B及び底部3Aを足の前後動が妨げられないような高さに架設している。
【0027】
前部枠体2A,2Aの前側下端部には、後述する首振り機構25,25を介して、2個を一組とする前部車輪6,6を前後回転自在及び水平回動自在に軸受している。また、後部枠体2Bの後側下端部には、後述する制動機構33,33を介して、後部車輪7,7を前後回転自在に軸受している。
・・・
【0029】
底部3A後端と枠部3B後端の上下間隔と対応する長さに形成した前側支持部3Cの上端部と、枠部3Bの前端側中央部とを上下回動自在に連結し、支持部3Cの下端部と底部3Aの前端側中央部とを上下回動自在に連結している。
【0030】
枠部3Bと略同じ大きさ及び形状に形成した中間枠体3Dを、枠部3Bと底部3Aの間に対して上下等間隔に隔てて複数配置するとともに、中間枠体3Dの後端部を背部枠体2C,2Cに対して上下回動自在に連結し、中間枠体3Dの前端部を支持部3Cに対して上下回動自在に連結している。」
・図1
「
[図:0001404528000014.jpg]
」
・図3
「
[図:0001404528000015.jpg]
」
・図4
「
[図:0001404528000016.jpg]
」
・図5
「
[図:0001404528000017.jpg]
」
・図6
「
[図:0001404528000018.jpg]
」
(2)認定事項
ア 図3の符号3Dの4本ある引き出し線の、一番下の引き出し線の中間枠体3D(以下、単に「最下部の中間枠体3D」という。)に着目すると、図1、3、5から、「最下部の中間枠体3Dは、上側枠部3Bよりも下側かつ背部枠体2C,2Cの下部に位置すること」が看て取れる。また、【0030】の「枠部3Bと略同じ大きさ及び形状に形成した中間枠体3D」という記載、及び図6の枠部3Bの形状の記載から、「最下部の中間枠体3Dの後端部は直線形状を有すること」が認定できる。
イ 図1、3、5より、「収納部3の後端部は、最下部の中間枠体3Dの後端部により形成されること」が認定できる。
ウ 図3、5より、「収納部3は、収納部3の後端部である最下部の中間枠体3Dの後端部の中心軸線を軸に回動して前後方向に折り畳み可能であること」が認定できる。
(3)発明の認定
上記(1)、(2)を総合すると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。なお、括弧内に認定の根拠を示した。
「前部車輪6,6と(【0027】、図1)、
前部車輪6,6を軸受する前部枠体2A,2Aと(【0027】、図1)、
後部車輪7,7と(【0027】、図1、3、4)、
後部車輪7,7を軸受する後部枠体2B(【0027】、図1、3、4)、及び、後部枠体2Bの上側両端部にその下端部が固定される左右一対の背部枠体2C,2Cと(【0023】、図3、4)、
収納部3と(【0022】、図1)、
背部枠体2C,2Cの間にその後端部が連結する最下部の中間枠体3Dと(【0030】、図1、3、5)、を備え、
最下部の中間枠体3Dは、背部枠体2C,2Cの下部に位置し、最下部の中間枠体3Dの後端部は直線形状を有し((2)ア)、
収納部3の後端部は、最下部の中間枠体3Dの後端部により形成され((2)イ)、
収納部3は、収納部3の後端部である最下部の中間枠体3Dの後端部の中心軸線を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である((2)ウ)、手押し車1。」
4 甲5の1
(1)記載事項
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5の1には、図1、3、7、8と共に以下の記載がある。
・「【0014】
【図1】 第1の実施の形態にかかる手押し車100の全体構成を示す斜視図である。
【図2】 第1の実施の形態にかかる手押し車100の買い物カゴを載置した状態の全体構成を示す斜視図である。
【図3】 第1の実施の形態にかかる通常使用時の手押し車100の全体構成を示す側面図である。
【図4】 第1の実施の形態にかかるカゴ前フレーム137の後面の構造を示す斜視図である。
【図5】 第1の実施の形態にかかる買い物カゴを載置可能な状態における手押し車100の全体構成を示す側面図である。
【図6】 第1の実施の形態にかかる買い物カゴを載置可能な状態の手押し車100のカゴ130の周囲の拡大斜視図である。
【図7】 第1の実施の形態にかかる手押し車100の折り畳みの途中の状態を示す側面図である。
【図8】 第1の実施の形態にかかる手押し車100の折り畳み完了時の状態を示す側面図である。」
・「【0017】
図1に示すように、本実施の形態にかかる手押し車100は、主に、前輪141L,141Rと、後輪142L,142Rと、ハンドル110と、座部120と、カゴ130とを有する。そして使用者は、ハンドル110を握って手押し車100を押しながら歩くことができるし、座部120を持ち上げてカゴ130に荷物を入れることができるし、座部120を下して座ることもできる。
・・・
【0021】
本実施の形態にかかる手押し車100は、一対の前輪フレーム151L,151Rと、一対の後輪フレーム152L,152Rとを有する。前輪フレーム151L,151Rのそれぞれの下端部には、一対の前輪141L,141Rが取り付けられている。後輪フレーム152L,152Rのそれぞれの下端部には、一対の後輪142L,142Rが取り付けられている。
・・・
【0023】
縦フレーム153L,153Rの上端部には、ハンドル110が取り付けられている。ハンドル110は、平面視U字状に構成されており、左右の後端部には、にぎり部111L,111Rが設けられている。それぞれのにぎり部111L,111Rの下方には、ブレーキレバー112L,112Rが設けられている。」
・図1
「
[図:0001404528000019.jpg]
」
・図3
「
[図:0001404528000020.jpg]
」
(2)認定事項
ア 上記(1)の図1、3より、「左右の後輪フレーム152L,152R間の足元付近の架橋フレーム(符号なし)が、前側に凸状に湾曲した形状であること」が看て取れる。
イ 上記ア及び、(1)の図3より、「使用者が握るハンドル110の先端の位置(U字状の中央位置)は、車両前後方向でみて、後輪フレーム152L,152Rと足元付近の架橋フレームとの接続部よりも前方寄りに設定されていること」が認定できる。
ウ 上記ア、イを踏まえると、当該足元付近の架橋フレームは、使用者を歩きやすくするために、前側に凸状に湾曲した形状になっていることは、技術的に自明である。
(3)甲5の1に記載された事項
上記(1)、(2)を総合すると、甲5の1には、次の事項(以下「甲5の1に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「手押し車100において、
使用者を歩きやすくするために、手押し車100の左右の後輪フレーム152L,152R間の足元付近の架橋フレームを、前側に凸状に湾曲した形状にすること。」
5 甲8の1及び甲8の3
(1)記載事項
ア 甲8の1
甲8の1には、1ページ中央の斜視図及び2ページ上部の側面図と共に以下の記載がある。
・「前腕支持台型歩行車 フレンドII」(1ページ目中央)
・「大きな前腕支持台に上半身をあずけた姿勢で楽々歩行」(1ページ目右側)
・「製品概要 WF-2」(2ページ目右下の表)
・「本体寸法(全幅×奥行×高さ) 555×675×915~1150mm」(同表)
・「TAISコード 01009-000028」(同表)
・「製造元 株式会社ウェルパートナーズ」(2ページ目最下部)
・「ループハンドル 握ったままで安定した歩行ができます。」(2ページ上部の側面図)
・1ページ中央の斜視図
「
[図:0001404528000021.jpg]
」
・2ページ上部の側面図
「
[図:0001404528000022.jpg]
」
イ 甲8の3
甲8の3には、以下の記載がある。
・「公益財団法人テクノエイド協会」
・「TAIS Technical Aids InformationSystem福祉用具情報システム」
・「商品名 歩行車 friend II」
・「製品型番 WF-2」
・「TAISコード 01009-000028」
・「分類 [1]120606:歩行車」
・「発売年月 平成28年11月」
・「全幅 555mm」
・「全高 915~1150mm(8段階調節)」
・「奥行 675mm」
・「メーカー名 株式会社ウェルパートナーズ」
(2)公然実施について
甲8の1に係る「前腕支持台型歩行車 フレンドII」という商品名の「歩行車」は、そのTAISコード(01009-000028)、本体寸法(全幅×奥行×高さ)、製品型番からみて、甲8の3に示される「歩行車 フレンドII」、「TAISコード 01009-000028」に対応する商品と認められ、その発売年月は、甲8の3に示される「平成28年11月」と推認される。
そうすると、上記「前腕支持台型歩行車 フレンドII」は、本件特許出願前に公然実施されていたものと認められる。
(3)説明図
甲8の1の1ページ目中央の「斜視図」を基にして、当審が【甲8説明図】を作成した。以下において、甲8の1に記載された各部材の名称は、説明の便宜上、【甲8説明図】を用いて説明する。
【甲8説明図】
「
[図:0001404528000023.jpg]
」
(4)認定事項
ア 上記(3)の【甲8説明図】より、「左右の後輪フレーム4,4間の足元付近の部材6が、前側に凸状に湾曲した形状であること」が認定できる。
イ 上記ア及び、甲8の1の2ページ目上部の側面図より、「使用者が握るループハンドルの位置は、車両前後方向でみて、後輪フレーム4,4と足元付近の部材6との接続部よりも前方寄りに設定されていること」が認定できる。
ウ 上記ア、イを踏まえると、当該部材6は、使用者を歩きやすくするために、前側に凸状に湾曲した形状になっていることは、技術的に自明である。
(5)甲8技術的事項
上記の(1)~(4)を総合すると、次の技術的事項(以下「甲8技術的事項」という。)が認められる。
「前腕支持台型歩行車フレンドIIにおいて、
使用者を歩きやすくするために、歩行車の左右の後輪フレーム4,4間の足元付近の部材6を、前側に凸状に湾曲した形状にすること。」
6 甲10の1及び甲10の3
(1)記載事項
ア 甲10の1
甲10の1には、図面と共に以下の記載がある。なお、甲10の1は、カタログの8ページ、9ページの見開きを示しているので、以下では、カタログのページ番号と位置を用いて説明する。
・「歩行車」(8ページ左上、9ページ右上)
・「シンフォニーラクーン」(8ページ左上及び右中央付近)
・「使用時サイズ 約H85~94×W55×D69cm」(8ページ右中央付近)
・「TAISコード 00576-000040」(8ページ右中央付近)
・「分類コード 120606(歩行車)」(8ページ右中央付近)
・「便利で多機能なBOXタイプ歩行車」(9ページ最上部)
・8ページ中央の斜視図
「
[図:0001404528000024.jpg]
」
・8ページ下部の「横(使用時)」「後ろ」「横(収納時)」の図
「
[図:0001404528000025.jpg]
」
イ 甲10の3
甲10の3には、以下の記載がある。
・「公益財団法人テクノエイド協会」
・「TAIS Technical Aids Information System 福祉用具情報システム」
・「商品名 シンフォニーラクーン」
・「TAISコード 00576-000040」
・「分類 [1]120606:歩行車」
・「発売年月 平成30年4月」
・「サイズ 高さ850~940×幅550×奥行690mm」
・「メーカー名 株式会社島製作所」
(2)公然実施について
甲10の1に係る「シンフォニーラクーン」という商品名の「シルバーカー」は、そのTAISコード(00576-000040)、使用時サイズからみて、甲10の3に示される「商品名 シンフォニーラクーン」、「TAISコード 00576-000040」に対応する商品と認められ、その発売年月は、甲10の3に示される「平成30年4月」と推認される。
そうすると、上記「シンフォニーラクーン」は、本件特許出願前に公然実施されていたものと認められる。
(3)説明図
甲10の1の8ページ中央の斜視図を基にして、当審が【甲10説明図】を作成した。
以下において、甲10の1の8ページ中央の斜視図に記載された部材の名称は、説明の便宜上、甲10説明図を用いて説明する。
・【甲10説明図】
「
[図:0001404528000026.jpg]
」
(4)認定事項
ア 上記(3)の【甲10説明図】及び8ページ下部の「横(使用時)」及び「後ろ」の図より、「左右の後輪フレーム4,4間の足元付近の部材6が、前側に凸状に湾曲した形状であること」が認定できる。
イ 上記ア及び、甲10の1の8ページ下部の「横(使用時)」より、「使用者が握るハンドルの先端の位置(U字状ハンドルの中央位置)は、車両前後方向でみて、後輪フレーム4,4と足元付近の部材6との接続部よりも前方寄りに設定されていること」が認定できる。
ウ 上記ア、イを踏まえると、当該部材6は、使用者を歩きやすくするために、前側に凸状に湾曲した形状になっていることは、技術的に自明である。
(5)甲10技術的事項
上記の(1)~(4)を総合すると、次の技術的事項(以下「甲10技術的事項」という。)が認められる。
「シンフォニーラクーンにおいて、
使用者を歩きやすくするために、歩行車の左右の後輪フレーム4,4間の足元付近の部材6を、前側に凸状に湾曲した形状にすること。」
第6 当審の判断
1 無効理由1(サポート要件)について
(1)請求人が主張する具体的理由
請求人が主張する無効理由1の具体的理由は以下のとおりである。
本件特許の請求項1の「前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」ことは、発明の詳細な説明に記載されていない(発明の詳細な説明には、カゴの折り畳みの構成として、段落【0030】及び【0031】しか記載がなく、上記事項はそこに記載されていない)。
(2)判断
本件発明の「前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」ことに対応する事項は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0030】、【0031】、図10等に加えて、さらに【0044】に「好ましくは、カゴ130はカゴ130の後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である。」と記載されている。
そうすると、本件特許の請求項1の「前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」との記載は、発明の詳細な説明に記載されているから、サポート要件を満たしていないとはいえない。
なお、請求人は、上記【0044】の記載は、原出願(甲1)における従属項である請求項4の解決手段(付加構成)を記載したものであり、原出願の請求項3の構成及び原出願の請求項4の前輪フレーム、ハンドルフレームなどの構成(以下「請求人主張の構成」という。)を備えることにより、カゴを折り畳み可能としたものであるから、上記事項は、本件明細書には記載されていないと認定することが妥当な旨を主張するが、そもそも上記【0044】の記載は、上記請求人主張の構成を技術的に前提とするものとして記載されておらず、また、「カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」構成としては、さまざまな態様を採用し得ることは技術常識でもあるところ、上記請求人主張の構成を付加限定しなければならないという理由もない。
(3)小括
したがって、本件発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。
よって、無効理由1は、成り立たない。
2 無効理由2(委任省令要件)について
(1)請求人が主張する具体的理由
請求人が主張する無効理由2の具体的理由は次の2点である。
・理由2-1:本件特許の発明の詳細な説明は、「発明が解決しようとする課題」「その解決手段」「その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されていない。
・理由2-2:本件特許の発明の詳細な説明は、原出願の明細書の発明の詳細な説明と同一であるから、委任省令違反である。
(2)判断
ア 理由2-1について
特許法36条4項1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則24条の2)では、発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解でき、また審査及び調査に役立つように、発明が解決しようとする課題、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を、明細書の発明の詳細な説明に記載することが規定されている。
そして、委任省令要件で記載することが求められる事項とは「a 発明の属する技術分野」及び「b 発明が解決しようとする課題及びその解決手段」である。
これを本件特許についてみると、発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野について、【0001】に「本発明は、手押し車の技術に関し、特にカゴを有する手押し車の技術に関する。」と記載されている。発明が解決しようとする課題については、【0006】に「使い勝手のよい手押し車」を「提供」することが記載されている。そして、その具体的な解決手段として、【0017】には「後輪フレーム152L,152Rの間には、架橋フレーム161が連結されている。架橋フレーム161は、後輪フレーム152L,152R同士の強度を高めながら、ユーザの歩行を妨げないように、平面視および底面視においてU字状すなわち凸形状に形成されている。」と記載されている。
当業者であれば、上記の記載事項を踏まえると、本件発明の「前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームを備え」ることや、「架橋フレーム」が「後輪フレームの下部に位置し、前側に凸状に湾曲した形状を有」することの技術上の意義は、手押し車において、後輪フレーム同士の強度を高めながらユーザの歩行を妨げないようにできることだと、当然理解可能である。つまり、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていると認められる。
イ 理由2-2について
原出願と、そこから分割出願された本件特許に係る出願において、両者の発明の詳細な説明の記載が同一であるからといって、直ちに発明の技術上の意義が理解できないことに結びつくものではないし、そもそも、上記アで説示したように、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されている。
(3)小括
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている。
よって、無効理由2は、成り立たない。
3 無効理由3-1~3-3に関して共通する周知技術の認定
上記第5で認定した、甲5の1に記載された事項(上記4(3)参照)、甲8技術的事項(上記5(5)参照)、甲10技術的事項(上記6(5)参照)等からも明らかなように、「手押し車の技術分野において、使用者を歩きやすくするために、手押し車の左右の後輪フレーム間の足元付近の架橋フレームを、前側に凸状に湾曲した形状にすること」は、従来周知の技術である(以下「周知技術」という。)。
なお、当該技術が周知であることについて、当事者間に争いはない(令和4年12月2日付けの口頭審理陳述要領書(被請求人)の2ページ13~21行目参照)。
4 無効理由3-1(進歩性)について
(1)対比
本件発明と甲2発明とを対比する。
ア 後者の「前輪1」は前者の「前輪」に相当し、以下同様に、「前輪フレーム2」は「前輪フレーム」に、「後輪3」は「後輪」に、「後輪フレーム4」は「後輪フレーム」に、「カゴ5」は「カゴ」に、「カゴ5の底部の後端部」は「カゴの後端部」に、「買物用手押し車」は「手押し車」に、それぞれ相当する。
これらの事項の相当関係を踏まえると、さらに以下のことがいえる。
イ 後者の「左右の前輪1,1」は、前者の「左右の前輪」に相当する
ウ 後者の「左右の前輪1,1を支持する左右の前輪フレーム2,2」は、「前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレーム」に相当する。
エ 後者の「左右の後輪3,3」は、前者の「左右の後輪」に相当する。
オ 後者の「左右の後輪3,3を支持する左右の後輪フレーム4,4」は、前者の「前記左右の後輪を支持する左右の後輪フレーム」に相当する。
カ
(ア)一般的に構造物における「架橋」とは、
「1 橋を架けること。また、その橋。「―工事」」(出典:広辞苑第6版)
という意味で用いられる。
(イ)後者の「部材6」に着目すると、「部材6」は「左右の後輪フレーム4,4を」「連結する」ものであり、言い換えると、左右の後輪フレーム4,4の間を架け渡すように取り付けられたフレーム部材であるから、後者の「部材6」は、「架橋」している「フレーム」といえる。
(ウ)さらに、甲2発明において、「部材6」が存在することによって、後輪フレーム4,4同士の強度が、ある程度は高まることは、技術的に自明である。
(エ)そうすると、上記(ア)~(ウ)を踏まえると、後者の
「左右の後輪フレーム4,4を、カゴ5の底部付近で連結する直線形状の部材6と、を備え」
る構成は、前者の
「前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームとを備え」
る構成に相当する。
キ 後者の「部材6は、後輪フレーム4,4の下部に位置し、直線形状を有」することと、前者の「前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置し、前側に凸状に湾曲した形状を有」することとは、「前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置」することで共通する。
ク 後者の「カゴ5の底部の後端部は、部材6に連結され」ることは、前者の「前記カゴの後端部は、前記架橋フレームに連結され」ることに相当する。
ケ 後者の「カゴ5は、カゴ5の底部の後端部に位置する部材6の中心軸線を中心に回動して、前後方向に折り畳み可能である」ことは、前者の「前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」ことに相当する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点1>
「左右の前輪と、
前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレームと、
左右の後輪と、
前記左右の後輪を支持する左右の後輪フレームと、
カゴと、
前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームとを備え、
前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置し、
前記カゴの後端部は、前記架橋フレームに連結され、
前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である、手押し車。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
架橋フレームの形状に関して、本件発明では、「前側に凸状に湾曲した形状を有」するのに対して、甲2発明の部材6は、直線形状を有している点。
(2)判断
上記の<相違点1>について、以下検討する。
ア 甲2発明に基いた容易想到性
相違点1に係る本件発明の構成は、左右の後輪フレーム同士の強度を高めるという機能を有するとともに、「前側に凸状に湾曲した形状」によって使用者が歩きやすくなるという作用効果に資するものであるから、設計的事項であるとはいえない。
また、仮に、甲2発明の部材6の形状を「前側に凸状に湾曲した形状」に設計変更しようとすると、部材6はカゴ5の後端と一体になっているので、カゴ5の底面の後部が前方にえぐれたような形状となり、カゴが使いづらいものとなってしまうし、カゴ5を前後方向に折り畳む機能を維持するには、カゴ5の回動軸の位置を変えることになり、リンク機構を構成するカゴ周辺のフレーム(上記「第5 1(1)」の【折り畳んだ状態の斜視図】を参照)との寸法関係に影響が及ぶので、リンク機構の再設計を含む大幅な設計変更を余儀なくされることになる。したがって、上記設計変更には阻害要因が認められる。
よって、甲2発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
イ 甲2発明及び周知技術に基いた容易想到性
甲2発明と上記周知技術とは、手押し車という共通の技術分野に属するものである。
しかしながら、甲2発明は、上記「第5 1(1)」の【右側面図】から把握されるとおり、「使用者が握るハンドルの位置は、車両前後方向でみて、後輪フレーム4と部材6との接続部よりも後方寄りに設定され」ているから、使用者がハンドルに手を添える姿勢を考えると、甲2発明には、足元付近の架橋フレームである直線形状の部材6が歩行を妨げているという課題を見いだせない(これは、ハンドルと架橋フレームとの位置関係について、上記「第5 1(1)」の甲2の1の【右側面図】と本件の図4とを比較することからも明らかである。)。
また、甲2発明と上記周知技術との間に、その他の点で、動機付けとなり得るような課題、作用、機能等の共通性を見いだせない。
したがって、甲2発明に上記周知技術を適用する動機付けはない。
また、仮に、甲2発明に上記周知技術を適用する動機付けが見いだせたとしても、この適用には、上記アで示したのと同様の阻害要因が認められる。
よって、甲2発明において、上記周知技術に基いて相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 甲2発明及び甲5の1に記載された事項に基いた容易想到性
甲5の1に記載された事項は上記周知技術の1つの例にすぎないから、上記イで示したのと同様の理由により、甲2発明において、甲5の1に記載された事項に基いて相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(3)請求人の主張について
請求人は、令和4年11月11日提出の口頭審理陳述要領書において、
「「架橋フレーム」に相当する部材を「前側に凸状に湾曲した形状」に変更することは、甲5号証の1等の周知技術から見て、手押し車の利用者が歩行時に邪魔にならないようにすることであり、当業者にとって必要に応じて採用できる単なる設計事項にすぎません。また、「前側に凸状に湾曲した形状」に変更する際に、カゴを折り畳みが可能な形状、構造に変更することも、当業者にとって単なる設計事項であります。」(6ページ12行目~17行目)
と主張する。
しかしながら、上記(2)イ及びウで説示したとおり、「手押し車の左右の後輪フレーム間の足元付近の架橋フレームを、前側に凸状に湾曲した形状にすること」が甲5の1等からみて周知技術であるとしても、そもそも甲2発明に当該周知技術を適用する動機付けがない。また、上記(2)アで示したとおり、その適用には阻害要因が認められる。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。
(4)小括
したがって、本件発明は、甲2発明に基いて、甲2発明及び上記周知技術に基いて、あるいは甲2発明及び甲5の1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、無効理由3-1は成り立たない。
5 無効理由3-2(進歩性)について
(1)対比
本件発明と甲3発明とを対比する。
ア 後者の「前輪1」は前者の「前輪」に相当し、以下同様に、「前輪フレーム2」は「前輪フレーム」に、「後輪3」は「後輪」に、「カゴ5」は「カゴ」に、「カゴ5の後端部」は「カゴの後端部」に、「買物用手押し車」は「手押し車」に、それぞれ相当する。
また、後者の「シルバーカー」は、「この製品は、自立歩行できる方が より安定して歩行できるよう補助的に使用するものです。」(上記「第5 2(1)」参照)との記載から、手で押して使うことは明らかなので、その構造及び機能からみて、前者の「手押し車」に相当する。
これらの事項の相当関係を踏まえると、さらに以下のことがいえる。
イ 後者の「左右の前輪1,1」は、前者の「左右の前輪」に相当する。
ウ 後者の「左右の前輪1,1を支持する左右の前輪フレーム2,2」は、「前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレーム」に相当する。
エ 後者の「左右の後輪3,3」は、前者の「左右の後輪」に相当する。
オ 後者の「コ字状の枠体4」と「コ字状の枠体8」を合わせたものは、両部材が一体に結合した状態で左右の後輪3,3を支えており、また、「コ字状の枠体8」は、上下に延びる左側部分と右側部分とを有するので、前者の「左右の後輪を支持する左右の後輪フレーム」に相当する。
カ
(ア)「架橋」という用語の一般的な意味は、上記「4(1)カ(ア)」で説示したとおりである。
(イ)後者の「部材6」は、コ字状の枠体8の上寄りの左側部分と上寄りの右側部分とを連結するものあり、言い換えると、コ字状の枠体8の左右の部位間を架け渡すように取り付けられたフレーム部材であるから、後者の「部材6」は、「架橋フレーム」といえる。
(ウ)さらに、甲3発明において、「部材6」が存在することによって、コ字状の枠体8の強度が、ある程度は高まることは、技術的に自明である。
(エ)そうすると、上記(ア)~(ウ)を踏まえると、後者の
「コ字状の枠体4の上部に位置してコ字状の枠体4に連結する、コ字状の枠体8と、
コ字状の枠体8の上寄りの左側部分と上寄りの右側部分とを、カゴ5の上部付近で連結する直線形状の部材6と、を備え」
る構成と、前者の
「前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームとを備え」
る構成に相当する。
キ 後者の「カゴ5は、カゴ5の後端部における折り畳み回動時の中心軸線7を軸に回動して、前後方向に折り畳み可能である」ことは、前者の「前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」ことに相当する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点2>
「左右の前輪と、
前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレームと、
左右の後輪と、
前記左右の後輪を支持する左右の後輪フレームと、
カゴと、
前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームとを備え、
前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である、手押し車。」
<相違点2>
架橋フレームについて、本件発明では、「前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置し、前側に凸状に湾曲した形状を有」するのに対して、甲3発明では、「部材6は、コ字状の枠体8の上寄りの左側部分と上寄りの右側部分とを、カゴ5の上部付近で連結する直線形状のものである」点。
(2)判断
上記の<相違点2>について、以下検討する。
ア 甲3発明に基いた容易想到性
相違点2に係る本件発明の構成は、左右の後輪フレーム同士の強度を高めるという機能を有するとともに、「前側に凸状に湾曲した形状」によって使用者が歩きやすくなるという作用効果に資するものであるから、設計的事項であるとはいえない。
よって、甲3発明において、相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
イ 甲3発明及び周知技術に基いた容易想到性
上記4で示した周知技術は、手押し車の左右の後輪フレーム間の足元付近に「架橋フレーム」が存在することを前提とするところ、甲3発明にはそもそも左右の後輪フレーム間の足元付近に「架橋フレーム」が存在しないから、上記周知技術を適用する動機付けが見いだせない。
また、仮に、上記「第5 2(5)」及び「(1)カ」で言及した、甲3発明の「左右の後輪3、3を支持する、コ字状の枠体4」の「中央の領域42」が、本件発明の「架橋フレーム」に相当するとしても、上記「第5 2(3)」の【甲3説明図1(斜視図)】、【甲3説明図2(背面図)】などからも明らかなように、当該「コ字状の枠体4」は、「カゴ5」の底面の直下にあって、これを前側に凸状に湾曲した形状に変更したとしても、「カゴ5」の底面が邪魔をして「使用者を歩きやすくする」効果は期待できないから、やはり上記周知技術を適用する動機付けはないというべきである。
よって、甲3発明において、上記周知技術に基いて相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 甲3発明及び甲5の1に記載された事項に基いた容易想到性
甲5の1に記載された事項は上記周知技術の1つの例にすぎないから、上記イで示したのと同様の理由により、甲3発明において、甲5の1に記載された事項に基いて相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(3)請求人の主張について
請求人は、令和4年11月11日提出の口頭審理陳述要領書において、大略次のように主張する(7ページ下から3行~8ページ8行目)。
ア 合議体は、本件発明は「後輪フレーム」とは別に「架橋フレーム」があるものといえるから、本件発明と甲3発明とはこの構成でも相違する旨説明するが、甲3発明の2つの技術的機能を兼用した構造と、本件発明の2つの技術的機能に分離した構造とは実質的に同一であると認定することが妥当である。
イ 「架橋フレーム」に相当する部材を「前側に凸状に湾曲した形状」に変更することは、甲5の1等の周知技術からみて、手押し車の使用者が歩行時に邪魔にならないようにすることであり、当業者にとって必要に応じて採用できる単なる設計事項にすぎない。
ウ 「前側に凸状に湾曲した形状」に変更する際に、カゴを折り畳みが可能な形状、構造に変更することも、当業者にとって単なる設計事項である。
まず、上記ア及びイの主張について検討すると、甲3発明には、「後輪フレーム」の機能と「架橋フレーム」の機能とを兼用する構造があるという上記主張はすなわち、甲3発明の「コ字状の枠体4」は、本件発明の「架橋フレーム」を含むという主張と解されるが、上記第5の2(5)で認定したように、甲3発明の「コ字状の枠体4」は、一部材の中央の領域42の両端外側を湾曲させることでコ字状を形成するものである。そうすると、中央の領域42は、左右の領域43,43を「架橋」するものとはいえない(そもそも、中央の領域42がなければコ字状の枠体4自体が成り立たない)。したがって、甲3発明の「コ字状の枠体4」は、本件発明の「左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士強度を高める架橋フレーム」を含むものではない。
また、仮に、甲3発明が「後輪フレーム」の機能と「架橋フレーム」の機能とを兼用する構造を備える(すなわち、甲3発明の「コ字状の枠体4」の「中央の領域42」が、本件発明の「架橋フレーム」に相当するとしても、「カゴ5」との配置関係から、甲3発明に上記周知技術を適用する動機付けがないことは、上記(2)イに示したとおりである。
次に、上記ウの主張について検討すると、甲3発明のコ字状の枠体4と共に、さらにカゴ5も含めて前側に凸の形状に変更しようすると、カゴ5の底面の後部が前方にえぐれたような形状となりカゴが使いづらいものとなってしまう上に、リンク機構の再設計を含む大幅な構造の変更を余儀なくされることになるので、当該変更は到底容易想到とはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。
(4)小括
したがって、本件発明は、甲3発明に基いて、甲3発明及び上記周知技術に基いて、あるいは甲3発明及び甲5の1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、無効理由3-2は成り立たない。
6 無効理由3-3(進歩性)について
(1)対比
本件発明と甲4発明とを対比する。
ア 後者の「前部車輪6」は前者の「前輪」に相当し、以下同様に、「後部車輪7」は「後輪」に、「収納部3」は「カゴ」に、「手押し車1」は「手押し車」に、それぞれ相当する。
これらの事項の相当関係を踏まえると、さらに以下のことがいえる。
イ 後者の「前部車輪6,6」は、前者の「左右の前輪」に相当する。
ウ 後者の「前部車輪6,6を軸受する前部枠体2A,2A」は、前者の「前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレーム」に相当する。
エ 後者の「後部車輪7,7」は、前者の「左右の後輪」に相当する。
オ 後者の「後部枠体2B」は、その左右の両端部で後部車輪7,7を軸受するので、「左右の後輪を支持する」ものである。
また、「後部枠体2B」と「背部枠体2C,2C」とは、一体的に結合した部材であって、全体をユニットとして捉えると、後部車輪7,7を支持する「後輪フレーム」として機能するものである。
そうすると、後者の「後部車輪7,7を軸受する後部枠体2B、及び、後部枠体2Bの上側両端部にその下端部が固定される左右一対の背部枠体2C,2C」は、前者の「前記左右の後輪を支持する左右の後輪フレーム」に相当する。
カ 後者の「背部枠体2C,2Cの間にその後端部が連結する最下部の中間枠体3D」について検討すると、「最下部の中間枠体3D」の「後端部」は、左右の背部枠体2C,2Cに架け渡された部分を含む枠状のフレームである。また、当該「最下部の中間枠体3D」の「後端部」は、その配置からみて、左右の背部枠体2C,2C同士の強度を多少なりとも高める機能を持ち得るものである。
そうすると、後者の「最下部の中間枠体3Dは、上側枠部3Bよりも下側かつ背部枠体2C,2Cの下部に位置」することを踏まえると、後者の「背部枠体2C,2Cの間にその後端部が連結する最下部の中間枠体3D」は、前者の「前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレーム」に相当する。
キ 上記カを踏まえると、後者の「最下部の中間枠体3Dは、上側枠部3Bよりも下側かつ背部枠体2C,2Cの下部に位置し、最下部の中間枠体3Dの後端部は直線形状を有」する構成と、前者の「前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置し、前側に凸状に湾曲した形状を有」する構成とは、「前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置」することにおいて共通する。
ク 後者の「収納部3は、収納部3の後端部である最下部の中間枠体3Dの後端部の中心軸線を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」ことは、前者の「前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である」ことに相当する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点3>
「左右の前輪と、
前記左右の前輪を支持する左右の前輪フレームと、
左右の後輪と、
前記左右の後輪を支持する左右の後輪フレームと、
カゴと、
前記左右の後輪フレームを架橋する、前記左右の後輪フレーム同士の強度を高める架橋フレームとを備え、
前記架橋フレームは、前記後輪フレームの下部に位置し、
前記カゴは前記カゴの後端部を軸に回動して前後方向に折り畳み可能である、手押し車。」
<相違点3>
本件発明では、「架橋フレーム」は、「カゴの後端」が「連結され」るものであるとともに、その形状は「前側に凸状に湾曲した形状」であるのに対して、甲4発明では、架橋フレームに相当する部材は、「収納部3(カゴ)」の「最下部の中間枠体3Dの後端部」であるとともに、その形状は直線形状である点。
(2)判断
上記の<相違点3>について検討する。
ア 甲4発明に基いた容易想到性
まず、相違点3の「連結」についてみると、上記(1)カ(イ)で示したように、甲4発明において、本件発明の「架橋フレーム」に相当する部材は、「収納部3」の「最下部の中間枠体3Dの後端部」であるが、これを相違点3に係る本件発明の構成にするということは、すなわち、「収納部3」の一部である「最下部の中間枠体3Dの後端部」を、「収納部3」とは別部材として取り出し、さらにそれを元の「収納部3」と連結させることである。
しかしながら、すでにカゴとして機能している「収納部3」の最下部の一部をそのような構造にする理由は見出せないし、そもそもその「連結」がどのような構造となるのかも具体的に想定できない。
次に、相違点3の「前側に凸状に湾曲した形状」についてみると、当該形状は、使用者が歩きやすくなるという作用効果に資するものであるから、設計的事項であるとはいえない。また、甲4の段落【0026】には「後部枠体2Bは、手押し車1を手押し操作する使用者の足の前後動が妨げられないようなアーチ状に形成するとともに、後部枠体2B及び底部3Aを足の前後動が妨げられないような高さに架設している。」という記載がある。つまり、甲4発明の「後部枠体2B」は、足の前後動が妨げられない高さに元々なっているので、その上にある「最下部の中間枠体3Dの後端部」を、歩きやすさの観点で「前側に凸状に湾曲した形状」にする課題がない。
また仮に、甲4発明の「最下部の中間枠体3Dの後端部」を「前側に凸状に湾曲した形状」に設計変更しようとすると、「最下部の中間枠体3Dの後端部」は収納部3の一部になっているので、収納部3の下部の後部が前方にえぐれたような形状となり、収納部3が使いづらいものとなるので、阻害要因が認められる。
よって、甲4発明において、相違点3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
イ 甲4発明及び周知技術に基いた容易想到性
甲4発明と上記周知技術とは、手押し車という共通の技術分野に属するものである。
しかしながら、上記4で示したように、上記周知技術は、「手押し車の技術分野において、使用者を歩きやすくするために、手押し車の左右の後輪フレーム間の足元付近の架橋フレームを、前側に凸状に湾曲した形状にすること」であって、相違点3を埋めるような、「収納部3」の一部(最下部の中間枠体3Dの後端部)を、「収納部3」とは別部材として取り出し、さらにそれを元の「収納部3」と連結させるものではない。
これを措くとしても、上記アにて説示したとおり、甲4発明には、「最下部の中間枠体3Dの後端部」が歩行を妨げているという課題を見いだせない(そもそも、甲4発明の「最下部の中間枠体3D」の下方には、上記「第5 3(1)」の図3などからも明らかなように、収納部3の一部である「底面3A」があり、その下方には「後部枠体2B」も存在するので、「最下部の中間枠体3Dの後端部」を前側に凸状に湾曲した形状に変更したとしても、「底面3A」や「後部枠体2B」が邪魔をして「使用者を歩きやすくする」効果は期待できない)。したがって、甲4発明に上記周知技術を適用する動機付けはない。
また仮に、甲4発明に上記周知技術を適用する動機付けが見いだせたとしても、この適用には、上記アで示したのと同様の阻害要因が認められる。
よって、甲4発明において、上記周知技術に基いて相違点3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 甲4発明及び甲5の1に記載された事項に基いた容易想到性
甲5の1に記載された事項は上記周知技術の1つの例にすぎないから、上記イで示したのと同様の理由により、甲4発明において、甲5の1に記載された事項に基いて相違点3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(3)請求人の主張について
請求人は、審判請求書等(特に審判請求書の18ページ16~17行目、令和4年11月11日口頭審理陳述要領書10ページ3~4行目参照)において、請求人のいう甲4記載発明の「前記カゴ(収納部3)の後端部(中間枠体3Dにおける背部枠体2C側)は、前記架橋フレーム(中間枠体3D)に連結され、」という事項を本件発明との一致点と主張している。
しかしながら、一般に「連結」は、「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」(出典:広辞苑第6版)、すなわち、別部材の間の接続に係る構成を意味するのであって、本件明細書の記載を参酌しても、これに反するような記載は見当たらない。したがって、甲4発明のように、「収納部3(カゴ)」の一部が「最下部の中間枠体3D」である場合に、「収納部3(カゴ)」の後端部は、「最下部の中間枠体3Dの後端部(架橋フレーム)」に「連結」されているとはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。
(4)小括
したがって、本件発明は、甲4発明に基いて、甲4発明及び上記周知技術に基いて、あるいは甲4発明及び甲5の1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、無効理由3-3は成り立たない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、請求項1に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-800032