特許異議申立
2022-700855
2つのフレクスプラインを備える変形量制限可能式波動減速機
- 審判番号
- 2022-700855
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-540361外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7081753
- 請求日
- 2022年08月31日
- 審決日
- 2023年03月01日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】愛磁科技(寧波)有限公司
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【権利者代理人】黒田 晋平
- 【権利者代理人】源田 正宏
- 【権利者代理人】新保 斉
- 【異議申立人】株式会社 ハーモニック・ドライブ・システムズ
- 【異議申立人代理人】横沢 志郎
- 分類
- P1652.161-Y (F16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7081753号発明「2つのフレクスプラインを備える変形量制限可能式波動減速機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7081753号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7081753号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)12月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年12月11日)を国際出願日として出願され、令和4年5月30日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1に係る特許に対し、令和4年8月31日に特許異議申立人株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ(以下、「異議申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第7081753号の請求項1の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
高強度フレクスプラインと、低強度フレクスプラインと、ウェーブ・ジェネレータと、高強度フレクスプライン変形量制限部品とを含み、前記高強度フレクスプラインと低強度フレクスプラインは同軸で軸方向に固定され且つ半径方向に固定され、高強度フレクスプライン及び低強度フレクスプラインにはそれぞれ互いに噛み合う歯が設けられ、高強度フレクスプラインと低強度フレクスプラインに歯数差があり、ウェーブ・ジェネレータは低強度フレクスプラインに非円弾性変形を生じさせて高強度フレクスプラインの一部に噛み合わせ、高強度フレクスプラインの低強度フレクスプラインに接触する部分は低強度フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて非円弾性変形を生じ、前記高強度フレクスプラインのフレキシブルな管状壁の歯のない面には制限接触面が加工され、前記高強度フレクスプライン変形量制限部品は高強度フレクスプラインに対して固定され、前記高強度フレクスプライン変形量制限部品にはリング状制限面が加工され、前記高強度フレクスプラインにおける低強度フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて変形する領域の制限接触面は前記高強度フレクスプライン変形量制限部品におけるリング状制限面に接触し、高強度フレクスプラインの変形量は高強度フレクスプラインが変形後に高強度フレクスプライン変形量制限部品に接触することで制限されることを特徴とする2つのフレクスプラインを備える
ことを特徴とする変形量制限可能式波動減速機。」
3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として国際公開第2019/106773号(以下、「甲第1号証」という。)を提出し、請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
4 甲第1号証の記載及び発明
特許異議申立人の提出した甲第1号証には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「[0001]本発明は波動歯車装置に関し、特に、可撓性の内歯車および可撓性の外歯車を備えた波動歯車装置に関する。」
「[0006]本発明の目的は、この点に鑑みて、外歯車と内歯車との間の歯筋方向におけるかみ合い状態を改善可能な波動歯車装置を提供することにある。」
「[0021]以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。図1Aは、実施の形態の波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、図1Bはその概略横断面図である。図2は波動歯車装置の各部の撓み状態を誇張した状態で示す説明図である。波動歯車装置1は、半径方向に撓み可能な可撓性を備えた内歯車2と、内歯車2を外周側から支持するための円形の支持用内周面3aを備えた支持機構3と、内歯車2の内側に同軸に配置された可撓性の外歯車4と、波動発生器5とを備えている。
[0022]波動発生器5は、外歯車4の内側に相対回転可能に嵌め込まれ、外歯車4を非円形に撓めて、支持用内周面3aによって支持される内歯車2に押し付け、外歯車4を内歯車2に対して円周方向に離れた複数の箇所でかみ合わせている。また、内歯車2の内歯2aに対する外歯車4の外歯4aのかみ合い状態は、内歯2aおよび外歯4aのそれぞれのピッチ円が相互にオーバーラップするオーバーラップかみ合い状態に設定されている。
[0023]内歯車2はシルクハット形状の内歯車である。内歯車2は、半径方向に撓み可能な内歯車円筒部11と、この内歯車円筒部11の一端である後端から半径方向の外方に延びる円盤状の内歯車ダイヤフラム12と、内歯車ダイヤフラム12の外周端に形成した剛体である円環状のボス13とを備えている。内歯車円筒部11において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は内歯形成部分14である。内歯形成部分14の内周面に内歯2aが形成されている。
[0024]外歯車4はカップ形状の外歯車である。外歯車4は、半径方向に撓み可能な外歯車円筒部16と、この外歯車円筒部16の一端である後端から半径方向の内方に延びる円盤状の外歯車ダイヤフラム17と、外歯車ダイヤフラム17の内周縁に形成した剛体の円環状のボス18とを備えている。外歯車円筒部16において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は外歯形成部分19である。外歯形成部分19の外周面に外歯4aが形成されている。」
「[0027]図1に示すように、カム板21の中心部には、モータなどから回転が入力される入力軸6が同軸に連結固定される。入力軸6によってカム板21が回転すると、内歯2aに対する外歯4aのかみ合い位置が円周方向に移動する。内歯2aの歯数は外歯4aの歯数とは異なる。歯数差に応じた相対回転が両歯車2、4の間に生じる。例えば、内歯車2を回転しないように固定すると、外歯車4から減速回転を取り出すことができる。
[0028]次に、支持機構3はフローティングリング25を備えている。フローティングリング25の内周面が支持用内周面3aである。フローティングリング25は、内歯車2の内歯形成部分14の外周面14aを、内歯2aにおける歯筋方向の各位置の半径方向の撓みに追従して変位可能なフローティング状態で、支持している。フローティングリング25の支持用内周面3aの内径は、外歯車4を介して波動発生器5によって非円形、本例では楕円形状に撓められる内歯形成部分14の外周面の長径に基づき設定されている。」
「[0030]ここで、フローティングリング25には、外歯車4の側からスラスト力が作用する。スラスト力によって、フローティングリング25が、内歯形成部分14に対して、軸線1aの方向にずれないようにすることが望ましい。例えば、弾性体28、例えば弾性リングを内歯形成部分14の外周面に取り付け、弾性体28によって、フローティングリング25の移動を阻止する。弾性体28は、例えば、ゴム、プラスチック等から形成され、内歯形成部分14の撓み性を阻害することのないように、低剛性の部材とする。また、外輪26を、不図示の固定側の部材によって、軸線1aの方向に移動しないように保持してもよい。」
「[0034]外歯4aにかみ合う内歯2aが形成されている内歯形成部分14は、外歯形成部分19を介して、波動発生器5によって半径方向の外方に撓められて、フローティングリング25の支持用内周面3aに押し付けられる。フローティングリング25はフローティング状態で内歯形成部分14を外周側から支持している。また、フローティングリング25の支持用内周面3aは、内歯形成部分14の半径方向の撓みを規制しており、その内径は、内歯2aと外歯4aとの間のオーバーラップかみ合いが解除されないように、設定されている。」
「[0040](内歯車、外歯車の別の例)
上記の波動歯車装置1においては、内歯車2における内歯車ダイヤフラム12から内歯形成部分14までの距離、例えば、内歯車ダイヤフラム12から内歯形成部分14の内歯2aにおける歯筋方向の中心までの長さは、外歯車4における外歯車ダイヤフラム17から外歯形成部分19における外歯4aの中心までの長さとほぼ同一である。外周側に位置する内歯車2の内歯車円筒部11の長さに比べて、内周側に位置する外歯車4の外歯車円筒部16の長さを長くするほど、内歯2aと外歯4aとの間の歯筋方向のかみ合い深さの差は緩和される。例えば、図4Bに示す波動歯車装置1Bでは、内周側の外歯車4Bの外歯車円筒部16の長さを、内歯車2の内歯車円筒部11の長さよりも長くしてある。」
[図1A]
「
[図:0001395238000001.jpg]
」
[図4B]
「
[図:0001395238000002.jpg]
」
以上の記載から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
「波動歯車装置1は、半径方向に撓み可能な可撓性を備えた内歯車2と、内歯車2を外周側から支持するための円形の支持用内周面3aを備えた支持機構3と、内歯車2の内側に同軸に配置された可撓性の外歯車4と、波動発生器5とを備えており、
波動発生器5は、外歯車4の内側に相対回転可能に嵌め込まれ、外歯車4を非円形に撓めて、内歯車2に押し付け、外歯車4を内歯車2に対して円周方向に離れた複数の箇所でかみ合わせており、
内歯車2は、半径方向に撓み可能な内歯車円筒部11と、この内歯車円筒部11の一端である後端から半径方向の外方に延びる円盤状の内歯車ダイヤフラム12と、内歯車ダイヤフラム12の外周端に形成した剛体である円環状のボス13とを備えており、
内歯車円筒部11において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は内歯形成部分14であり、内歯形成部分14の内周面に内歯2aが形成されており、
内歯車2の内歯形成部分14の外周面は、外周面14aであり、
外歯車4は、半径方向に撓み可能な外歯車円筒部16と、この外歯車円筒部16の一端である後端から半径方向の内方に延びる円盤状の外歯車ダイヤフラム17と、外歯車ダイヤフラム17の内周縁に形成した剛体の円環状のボス18とを備え、外歯車円筒部16において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は外歯形成部分19であり、外歯形成部分19の外周面に外歯4aが形成されており、
内歯2aの歯数は外歯4aの歯数とは異なり、
支持機構3はフローティングリング25を備えており、フローティングリング25の内周面が支持用内周面3aであり、内歯車2の内歯形成部分14の外周面14aを、内歯2aにおける歯筋方向の各位置の半径方向の撓みに追従して変位可能なフローティング状態で支持しており、
フローティングリング25の支持用内周面3aの内径は、外歯車4を介して波動発生器5によって楕円形状に撓められる内歯形成部分14の外周面の長径に基づき設定されており、
フローティングリング25には、外歯車4の側から作用するスラスト力によって、フローティングリング25が、内歯形成部分14に対して、軸線1aの方向にずれないように、弾性リングを内歯形成部分14の外周面に取り付けることによって、フローティングリング25の移動を阻止しており、
内歯車2の、外歯4aにかみ合う内歯2aが形成されている内歯形成部分14は、外歯車4の外歯形成部分19を介して、波動発生器5によって半径方向の外方に撓められて、フローティングリング25の支持用内周面3aに押し付けられ、フローティングリング25はフローティング状態で内歯形成部分14を外周側から支持しており、また、フローティングリング25の支持用内周面3aは、内歯形成部分14の半径方向の撓みを規制しており、その内径は、内歯2aと外歯4aとの間のオーバーラップかみ合いが解除されないように、設定されている、
波動歯車装置1。」
5 当審の判断
(1)対比
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「波動歯車装置1」は、本件発明の「波動減速機」に相当する。
イ 甲1発明は、「波動発生器5は、外歯車4の内側に相対回転可能に嵌め込まれ、外歯車4を非円形に撓めて、内歯車2に押し付け、外歯車4を内歯車2に対して円周方向に離れた複数の箇所でかみ合わせて」いるものであり、甲1発明の「外歯車4」は「内歯車2」の内側に配置され、内歯車2とかみ合っている。
一方、本件発明は、「ウェーブ・ジェネレータは低強度フレクスプラインに非円弾性変形を生じさせて高強度フレクスプラインの一部に噛み合わせ」るものであり、波動減速機の機構原理からみて「低強度フレクスプライン」は「高強度フレクスプライン」の内側に配置され、「高強度フレクスプライン」と噛み合っているといえる。
したがって、甲1発明の「内歯車2」は、「半径方向に撓み可能な可撓性を備えた」ものでもあるから、本件発明の「高強度フレクスプライン」との対比において、「外側フレクスプライン」との限度で一致する。
同様に、甲1発明の「外歯車4」は、「可撓性」でもあるから、本件発明の「低強度フレクスプライン」との対比において、「内側フレクスプライン」の限度で一致する。
ウ 甲1発明の「支持機構3」は、「内歯車2を外周側から支持するための円形の支持用内周面3aを備えた」ものであり、半径方向に撓み可能な可撓性を備えた内歯車2を外周側から支持することにより、内歯車2の変形量を制限するものといえるから、本件発明の「高強度フレクスプライン変形量制限部品」との対比において、「外側フレクスプライン変形量制限部品」との限度で一致する。
エ 甲1発明の「波動発生器5」は、波動を発生させるものであるから、本件発明の「ウェーブ・ジェネレータ」に相当する。
オ 上記ア~エを踏まえると、甲1発明の「半径方向に撓み可能な可撓性を備えた内歯車2と、内歯車2を外周側から支持するための円形の支持用内周面3aを備えた支持機構3と、内歯車2の内側に同軸に配置された可撓性の外歯車4と、波動発生器5とを備えて」いることは、本件発明の「高強度フレクスプラインと、低強度フレクスプラインと、ウェーブ・ジェネレータと、高強度フレクスプライン変形量制限部品とを含」むこととの対比において、「外側フレクスプラインと、内側フレクスプラインと、ウェーブ・ジェネレータと、外側フレクスプライン変形量制限部品とを含」むとの限度で一致する。
カ 甲1発明の「内歯車2の内側に同軸に配置された可撓性の外歯車4と」、「を備えて」いることは、上記イを踏まえると、本件発明の「前記高強度フレクスプラインと低強度フレクスプラインは同軸で軸方向に固定され且つ半径方向に固定され」ていることとの対比において、「前記外側フレクスプラインと内側フレクスプラインは同軸に固定され」ていることの限度で一致する。
キ 甲1発明の「非円形に撓め」ることは、本件発明の「非円弾性変形を生じさせ」ることに相当する。
ク 上記イ及びエを踏まえると、甲1発明の「内歯車2」の「内歯車円筒部11において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は内歯形成部分14であり、内歯形成部分14の内周面に内歯2aが形成されており」、「外歯車4」の「外歯車円筒部16において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は外歯形成部分19であり、外歯形成部分19の外周面に外歯4aが形成されており」、「内歯2aの歯数は外歯4aの歯数とは異なり」、「波動発生器5は、外歯車4の内側に相対回転可能に嵌め込まれ、外歯車4を非円形に撓めて、内歯車2に押し付け、外歯車4を内歯車2に対して円周方向に離れた複数の箇所でかみ合わせて」いることは、本件発明の「高強度フレクスプライン及び低強度フレクスプラインにはそれぞれ互いに噛み合う歯が設けられ、高強度フレクスプラインと低強度フレクスプラインに歯数差があり、ウェーブ・ジェネレータは低強度フレクスプラインに非円弾性変形を生じさせて高強度フレクスプラインの一部に噛み合わせ」ることとの対比において、「外側フレクスプライン及び内側フレクスプラインにはそれぞれ互いに噛み合う歯が設けられ、外側フレクスプラインと内側フレクスプラインに歯数差があり、ウェーブ・ジェネレータは内側フレクスプラインに非円弾性変形を生じさせて外側フレクスプラインの一部に噛み合わせ」ることの限度で一致する。
ケ 上記イ及びエを踏まえると、甲1発明の「外歯4aにかみ合う内歯2aが形成されている内歯形成部分14は、外歯形成部分19を介して、波動発生器5によって半径方向の外方に撓められ」ることは、本件発明の「高強度フレクスプラインの低強度フレクスプラインに接触する部分は低強度フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて非円弾性変形を生じ」ることとの対比において、「外側フレクスプラインの内側フレクスプラインに接触する部分は内側フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて非円弾性変形を生じ」るとの限度で一致する。
コ 甲1発明の「フローティングリング25」の「支持用内周面3a」が「内歯車2の内歯形成部分14の外周面14aを、内歯2aにおける歯筋方向の各位置の半径方向の撓みに追従して変位可能なフローティング状態で支持して」いるものであるから、甲1発明の「内歯車2の内歯形成部分14の外周面14a」は、本件発明の「制限接触面」に相当する。
また、甲1発明の「内歯車円筒部11において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分」は、歯のない部分であり、かつ、内歯車2の撓みがこの部分で生じるといえるから、本件発明の「フレキシブルな管状壁」に相当する。
したがって、上記イを踏まえると、甲1発明の「内歯車2」の「内歯車円筒部11において、その他端である開口端から所定長さの円筒部分は内歯形成部分14であり」、「内歯車2の内歯形成部分14の外周面は、外周面14aであ」ることは、本件発明の「前記高強度フレクスプラインのフレキシブルな管状壁の歯のない面には制限接触面が加工され」ていることとの対比において、「前記外側フレクスプラインのフレキシブルな管状壁の歯のない面には制限接触面が加工され」ていることの限度で一致する。
サ 甲1発明の「フローティングリング25には、外歯車4の側から作用するスラスト力によって、フローティングリング25が、内歯形成部分14に対して、軸線1aの方向にずれないように、弾性リングを内歯形成部分14の外周面に取り付けることによって、フローティングリング25の移動を阻止して」いることは、支持機構3のフローティングリング25が、内歯形成部分14を有する外歯車4に対して軸線1aの方向に固定されていることであるから、上記イを踏まえると、本件発明の「前記高強度フレクスプライン変形量制限部品は高強度フレクスプラインに対して固定され」ていることとの対比において、「前記外側フレクスプライン変形量制限部品は外側フレクスプラインに対して固定され」ているとの限度で一致する。
シ 甲1発明の「フローティングリング25の内周面」は、「支持機構3」に備えられ、「内歯車2の内歯形成部分14の外周面14aを、内歯2aにおける歯筋方向の各位置の半径方向の撓みに追従して変位可能なフローティング状態で支持して」いるから、本件発明の「リング状制限面」に相当する。
したがって、上記イ及びウを踏まえると、甲1発明の「支持機構3はフローティングリング25を備えており、フローティングリング25の内周面が支持用内周面3aであり、内歯車2の内歯形成部分14の外周面14aを、内歯2aにおける歯筋方向の各位置の半径方向の撓みに追従して変位可能なフローティング状態で支持して」いることは、本件発明の「前記高強度フレクスプライン変形量制限部品にはリング状制限面が加工され」ていることとの対比において、「前記外側フレクスプライン変形量制限部品にはリング状制限面が加工され」ていることの限度で一致する。
ス 上記ア~オ、キ~コ及びシを踏まえると、甲1発明の「内歯車2の外歯4aにかみ合う内歯2aが形成されている内歯形成部分14は、外歯車4の外歯形成部分19を介して、波動発生器5によって半径方向の外方に撓められて、フローティングリング25の支持用内周面3aに押し付けられ、フローティングリング25はフローティング状態で内歯形成部分14を外周側から支持しており、また、フローティングリング25の支持用内周面3aは、内歯形成部分14の半径方向の撓みを規制しており、その内径は、内歯2aと外歯4aとの間のオーバーラップかみ合いが解除されないように、設定されて」おり、「支持機構3」の「フローティングリング25の支持用内周面3aの内径は、外歯車4を介して波動発生器5によって楕円形状に撓められる内歯形成部分14の外周面の長径に基づき設定されて」いることは、本件発明の「前記高強度フレクスプラインにおける低強度フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて変形する領域の制限接触面は前記高強度フレクスプライン変形量制限部品におけるリング状制限面に接触し、高強度フレクスプラインの変形量は高強度フレクスプラインが変形後に高強度フレクスプライン変形量制限部品に接触することで制限されること」との対比において、「前記外側フレクスプラインにおける内側フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて変形する領域の制限接触面は前記外側フレクスプライン変形量制限部品におけるリング状制限面に接触し、外側フレクスプラインの変形量は外側フレクスプラインが変形後に外側フレクスプライン変形量制限部品に接触することで制限されること」との限度で一致する。
セ 上記アで述べたように、甲1発明の「波動歯車装置1」は、本件発明の「波動減速機」に相当するものであるところ、上記イ~スを踏まえると、外歯車4の変形量を支持機構3で制限可能にしているものといえるから、変形量制限可能式であるともいえる。
ソ したがって、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「外側フレクスプラインと、内側フレクスプラインと、ウェーブ・ジェネレータと、外側フレクスプライン変形量制限部品とを含み、前記外側フレクスプラインと内側フレクスプラインは同軸に固定され、外側フレクスプライン及び内側フレクスプラインにはそれぞれ互いに噛み合う歯が設けられ、外側フレクスプラインと内側フレクスプラインに歯数差があり、ウェーブ・ジェネレータは内側フレクスプラインに非円弾性変形を生じさせて外側フレクスプラインの一部に噛み合わせ、外側フレクスプラインの内側フレクスプラインに接触する部分は内側フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて非円弾性変形を生じ、前記外側フレクスプラインのフレキシブルな管状壁の歯のない面には制限接触面が加工され、前記外側フレクスプライン変形量制限部品は外側フレクスプラインに対して固定され、前記外側フレクスプライン変形量制限部品にはリング状制限面が加工され、前記外側フレクスプラインにおける内側フレクスプラインから半径方向の圧力を受けて変形する領域の制限接触面は前記外側フレクスプライン変形量制限部品におけるリング状制限面に接触し、外側フレクスプラインの変形量は外側フレクスプラインが変形後に外側フレクスプライン変形量制限部品に接触することで制限される2つのフレクスプラインを備える変形量制限可能式波動減速機。」
[相違点1]
外側フレクスプライン及び内側フレクスプラインについて、本件発明は、「高強度」フレクスプライン及び「低強度」フレクスプラインであるのに対し、甲1発明は、「半径方向に撓み可能な可撓性を備えた内歯車2」及び「可撓性の外歯車4」とされ、内歯車2と外歯車4の強度については特定されていない点。
[相違点2]
外側フレクスプライン及び内側フレクスプラインの配置について、本件発明は、「軸方向に固定され且つ半径方向に固定され」とされているのに対し、甲1発明の2つのフレクスプラインが、軸方向に固定され且つ半径方向に固定されるものとは特定されていない点。
(2)判断
ア 相違点1について
相違点1について検討する。
本件発明における「高強度フレクスプライン」及び「低強度フレクスプライン」における「高強度」及び「低強度」とは、本件特許明細書の段落【0033】の「前記高強度フレクスプラインと低強度フレクスプラインは強度が違ってもフレクスプラインであり」との記載等を参酌すれば、2つのフレクスプラインが相対的に異なる強度を有していることを特定していることは明らかである。
一方、甲第1号証には、内歯車2及び外歯車4が可撓性を備えていることは記載されているものの、内歯車2と外歯車4における可撓性の差異や、内歯車2を高強度とし外歯車4を低強度とすることについて、明示の記載はない。
また、2つのフレクスプラインを備えた波動減速機において、外側フレクスプラインを内側フレクスプラインに対して高強度とすることが、当業者における周知技術、慣用技術であるとの証拠もない。
そして、高強度フレクスプライン及び低強度フレクスプラインを含む本件発明は、加工許容公差に一層の余裕があり公差制限が厳しくない部品を用いて高精度な精密波動減速機を実現できる、部品の摩耗に余裕があり減速機の耐用寿命を引き延ばすことができる、材料と加工プロセスを選ぶ範囲が拡大してより安価な材料と加工プロセスを利用してコストが低減する、歯の高さがより小さい歯を選ぶことが可能であり低強度フレクスプラインの弾性変形量が減り材料の疲労が緩和されるとともに減速機の小型化につながるという新たな効果を奏するものである(段落【0034】参照)。
そうしてみると、相違点1は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)とはいえず、実質的な相違点であるといえる。
イ 異議申立人の主張
相違点1に関し異議申立人は、概略次のように主張する。
(ア)本件発明の作用効果を考慮しても、2つのフレクスプラインのうち、外周側のフレクスプラインを高強度とし、内周側のフレクスプラインを低強度とする技術的必然性がない。
(イ)甲第1号証の段落[0040]及び[図4B]には、可撓性の内歯車2と、これよりも軸長の長い可撓性の外歯車4Bとを備えた波動歯車装置1Bが記載されており、軸長の短い内歯車2は、軸長の長い外歯車4Bに比べて半径方向の剛性が高いものといえるから、先願発明(当審注:異議申立人の主張するところの甲第1号証に記載された発明)の「可撓性の内歯車」及び「可撓性の外歯車」は、それぞれ、本件発明の「高強度フレクスプライン」及び「低強度フレクスプライン」と実質的に同一である。
ウ 異議申立人の主張に対する当審の判断
(ア)まず、上記イ(ア)について、2つのフレクスプラインを備えた波動減速機において、外側フレクスプラインを内側フレクスプラインに対して高強度とすることが、当業者における技術常識であるとの証明は何らなされておらず、当業者における周知技術あるいは慣用技術であるともいえない。
このような、当業者における技術常識下において、本件発明は、上記アで述べたような効果を奏するために、加工許容公差の余裕の観点、部品摩耗の余裕の観点、材料と加工プロセス選択の観点、及び2つのフレクスプラインの歯の高さをより小さくする観点から、特に、外側フレクスプラインを内側フレクスプラインに対して高強度としたものと解され(段落【0018】、【0019】及び【0023】を参照。)、外側フレクスプラインを内側フレクスプラインに対して高強度とすることに技術的必然性がないとはいえない。
(イ)また、上記イ(イ)について、甲第1号証の波動歯車装置1Bにおいて、軸長の短い内歯車2は軸長の長い外歯車4Bに比べて半径方向の剛性が高いといえるためには、波動歯車装置1Bの内歯車円筒部11と外歯車円筒部16を構成する部材の、材質、厚さなどが同じであることが必要であるが、甲第1号証には、波動歯車装置1Bの内歯車円筒部11と外歯車円筒部16を構成する部材の、材質、厚さなどを同じとすることの記載や示唆はなく、2つのフレクスプラインをもつ波動歯車装置において、それぞれ2つのフレクスプラインの可撓性の円筒部の材質、厚さなどを同じとすることが当業者における周知技術あるいは慣用技術であるとする証拠もない。
また、甲第1号証は、「外歯車と内歯車との間の歯筋方向におけるかみ合い状態を改善可能な波動歯車装置を提供すること」を目的とし(甲第1号証の段落[0006]を参照。)、かかる目的達成のために、波動歯車装置1Bにおいては、内歯2aと外歯4aとの間の歯筋方向のかみ合い深さの差を緩和するために、内周側に位置する外歯車4の外歯車円筒部16の長さを長くしたもの、すなわち、内周側に位置する外歯車4の外歯車円筒部16の長さを長くすることによって、外歯4aの傾きを緩和したものであり、波動歯車装置1Bにおいて軸長の長い可撓性の外歯車4Bに比べ、軸長の短い内歯車2の強度を高強度とすることを意図したものではない。
したがって、甲第1号証に、可撓性の外歯車4Bと、これよりも半径方向の剛性が高い可撓性の内歯車2とを備えた波動歯車装置1Bが記載されているとはいえない。
(ウ)よって、異議申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおり、相違点1は実質的な相違点であるから、相違点2について検討するまでもなく本件発明は甲1発明と同一ではない。
6 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700855