特許異議申立
2020-700624
水中電動ポンプ
- 審判番号
- 2020-700624
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-136604
- 登録番号
- 特許第6653968号(P6653968)
- 請求日
- 2020年08月20日
- 審決日
- 2021年06月25日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社鶴見製作所
- 【権利者代理人】宮園 博一
- 【異議申立人】株式会社 桜川ポンプ製作所
- 【異議申立人代理人】谷田 龍一
- 【異議申立人代理人】吉武 賢一
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 田合 弘幸
- 審判官 長馬 望
- 分類
- P1651.121-YAA(F04D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6653968号発明「水中電動ポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6653968号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第6653968号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯の概略
特許第6653968号の請求項1~9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,以下のとおりである。
平成28年 7月11日 特許出願
令和 2年 1月31日 設定登録
令和 2年 2月26日 特許掲載公報発行
令和 2年 8月20日 特許異議申立書
令和 2年11月 2日付け 取消理由通知書
令和 2年12月28日受付 訂正請求書(以下,これに係る訂正を「本件訂正」という。)
令和 3年 3月18日 意見書(特許異議申立人)
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は,特許第6653968号の明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に,
「固定子および回転子と,前記固定子および前記回転子を配置するモータ室とを含むモータと,
前記モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,
前記モータ室と前記ポンプ室との間に配置され,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室と,
前記オイル室に配置され,前記オイル室に浸入した水を検知する浸水検知部と,
前記モータの回転軸に沿った位置において,前記モータ室と前記オイル室との間に配置された流体貯留部と,
前記流体貯留部に配置され,前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,
前記流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路とを備える,水中電動ポンプ。」
とあるのを,
「固定子および回転子と,前記固定子および前記回転子を配置するモータ室とを含むモータと,
前記モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,
前記モータ室と前記ポンプ室との間に配置され,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室と,
前記オイル室に配置され,前記オイル室に浸入した水を検知する浸水検知部と,
前記モータの回転軸に沿った位置において,前記モータ室と前記オイル室との間に配置された流体貯留部と,
前記流体貯留部に配置され,前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,
前記流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路とを備え,
前記オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられている,水中電動ポンプ。」
と訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項4に,
「前記オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられ,
前記流体検知部は,前記浸水検知部よりも前記回転軸の近くに配置されている,請求項1~3のいずれか1項に記載の水中電動ポンプ。」
とあるのを,
「前記流体検知部は,前記浸水検知部よりも前記回転軸の近くに配置されている,請求項1~3のいずれか1項に記載の水中電動ポンプ。」
と訂正する。(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
本件訂正前の明細書の段落【0006】に,
「この発明の一の局面による水中電動ポンプは,固定子および回転子と,固定子および回転子を配置するモータ室とを含むモータと,モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,モータ室とポンプ室との間に配置され,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室と,オイル室に配置され,オイル室に浸入した水を検知する浸水検知部と,モータの回転軸に沿った位置において,モータ室とオイル室との間に配置された流体貯留部と,流体貯留部に配置され,流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路とを備える。」
とあるのを,
「この発明の一の局面による水中電動ポンプは,固定子および回転子と,固定子および回転子を配置するモータ室とを含むモータと,モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,モータ室とポンプ室との間に配置され,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室と,オイル室に配置され,オイル室に浸入した水を検知する浸水検知部と,モータの回転軸に沿った位置において,モータ室とオイル室との間に配置された流体貯留部と,流体貯留部に配置され,流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路とを備え,オイル室は,流体貯留部を取り囲むように設けられている。」
と訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の段落【0010】に,
「上記一の局面による水中電動ポンプにおいて,好ましくは,オイル室は,流体貯留部を取り囲むように設けられ,流体検知部は,浸水検知部よりも回転軸の近くに配置されている。このように構成すれば,流体検知部が浸水検知部よりも回転軸の近くに配置されるので,回転軸に沿って,流体貯留部に浸入した流体を迅速に検知することができる。」
とあるのを,
「上記一の局面による水中電動ポンプにおいて,好ましくは,流体検知部は,浸水検知部よりも回転軸の近くに配置されている。このように構成すれば,流体検知部が浸水検知部よりも回転軸の近くに配置されるので,回転軸に沿って,流体貯留部に浸入した流体を迅速に検知することができる。」
と訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,本件訂正前の請求項1における「オイル室」について,「流体貯留部を取り囲むように設けられている」ことを特定することにより,水中電動ポンプを具体的に特定して限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,本件訂正前の明細書には,「オイル室5は,図2に示すように,流体貯留部7を取り囲むように設けられている。」(段落【0027】)との記載があり,本件訂正前の請求項4には,「前記オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられ,前記流体検知部は,前記浸水検知部よりも前記回転軸の近くに配置されている」との記載があるから,訂正事項1に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではない。また,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は,本件訂正前の請求項4に「前記オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられ,前記流体検知部は,前記浸水検知部よりも前記回転軸の近くに配置されている」ことが記載されていたところ,訂正事項1により訂正された請求項1において「前記オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられている」ことが特定されたことに伴い,記載の重複を避けるべく本件訂正後の請求項4において当該記載を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして,訂正事項2に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,また,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項3に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,また,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は,訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項4に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,また,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものではない。
(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~9は,請求項1と,直接又は間接的に請求項1を引用する請求項2~9からなるものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって,本件訂正前の請求項1~9に対応する本件訂正後の請求項〔1~9〕は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって,同条第4項及び同条第9項において準用する同法126条第4項~第6項の規定に適合するので,訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1~9に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って,「本件発明1」などという。
【請求項1】
固定子および回転子と,前記固定子および前記回転子を配置するモータ室とを含むモータと,
前記モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,
前記モータ室と前記ポンプ室との間に配置され,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室と,
前記オイル室に配置され,前記オイル室に浸入した水を検知する浸水検知部と,
前記モータの回転軸に沿った位置において,前記モータ室と前記オイル室との間に配置された流体貯留部と,
前記流体貯留部に配置され,前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,
前記流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路とを備え,
前記オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられている,水中電動ポンプ。
【請求項2】
前記流体検知部は,フロートスイッチで構成されている,請求項1に記載の水中電動ポンプ。
【請求項3】
前記回転軸の軸方向から見て,前記回転軸に対して前記第1排出路と同じ側に配置され,前記オイル室の流体を外部に排出するための第2排出路をさらに備える,請求項1または2に記載の水中電動ポンプ。
【請求項4】
前記流体検知部は,前記浸水検知部よりも前記回転軸の近くに配置されている,請求項1~3のいずれか1項に記載の水中電動ポンプ。
【請求項5】
前記オイル室は,前記メカニカルシールが配置され,前記回転軸を取り囲む環状部分と,前記環状部分の外側端部から前記モータ側に突出するとともに,前記流体貯留部を取り囲む突出部分とを含み,前記回転軸に沿った断面において略U字形状に形成され,
前記第1排出路は,高さ位置において,前記突出部分と重なる位置に配置されている,請求項4に記載の水中電動ポンプ。
【請求項6】
前記突出部分は,前記第1排出路を内側に配置するリブ部を有している,請求項5に記載の水中電動ポンプ。
【請求項7】
前記モータ室と前記流体貯留部との間に配置され,前記回転軸を支持する軸受と,
前記軸受と前記流体貯留部との間に配置され,前記軸受から落ちるグリスを受けるグリス受け部と,
前記回転軸の軸方向から見て,前記回転軸に対して前記第1排出路と同じ側に配置され,前記グリス受け部のグリスを外部に排出するための第3排出路とをさらに備える,請求項1~6のいずれか1項に記載の水中電動ポンプ。
【請求項8】
外部から前記軸受にグリスを注入するためのグリス注入路をさらに備え,
前記第3排出路と前記グリス注入路とは,前記回転軸に対して互いに反対側に配置されている,請求項7に記載の水中電動ポンプ。
【請求項9】
外部から前記オイル室にオイルを注入するためのオイル注入路をさらに備え,
前記第1排出路と前記オイル注入路とは,前記回転軸に対して互いに反対側に配置されている,請求項1~8のいずれか1項に記載の水中電動ポンプ。
第4 取消理由の概要
1 本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
本件発明1~3,7~9は,本件特許の出願前に公然知られた甲第1号証の1~10(後記2)に係る発明,甲第2号証~甲第6号証,甲第8号証~甲第10号証(後記2)に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
本件発明1~3,7~9は,甲第2号証に記載された発明,公知技術,甲第4号証~甲第6号証,甲第8号証~甲第10号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである
2 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は以下のとおりである。証拠番号に従い,「甲1」などという。
甲1の1:2015年7月28日~7月30日に東京ビッグサイト東4ホールにおいて開催された「第47回 管工機材・設備総合展」に於いて展示した展示パネルの写し,及び,部分拡大参考図
甲1の2:「第47回 管工機材・設備総合展」における異議申立人の展示ブースの写真
甲1の3:「第47回 管工機材・設備総合展」における異議申立人の展示ブースの写真
甲1の4:甲1の3に写っている手提げ袋を拡大した写真
甲1の5:「第47回 管工機材・設備総合展」における異議申立人の展示ブースの写真
甲1の6:甲1の5に写っている手提げ袋を拡大した写真
甲1の7:東京管工機材商業協同組合ホームページ,「第47回 管工機材・設備総合展」,インターネットURL< https://www.tokanki.or.jp/sogo47>[令和2年5月28日検索]
甲1の8:東京管工機材商業協同組合ホームページ,「第47回 管工機材・設備総合展」,出品者リスト,インターネットURL<https://www.tokanki.or.jp/sogo/sogo47/shupinsyalist.pdf>[令和2年5月28日検索]
甲1の9:東京管工機材商業協同組合ホームページ,「管工機材・設備総合展」,インターネットURL<https://www.tokanki.or.jp/sogoten>[令和2年6月3日検索]
甲1の10:「第47回 管工機材・設備総合展」で来場者に配布された出品者名簿の「表紙」,「第47回 管工機材・設備総合展会場レイアウト」,第13ページ,及び,裏表紙の写し
甲2:実願昭51-21827号(実開昭52-114401号)のマイクロフィルム
甲3:実願昭60-129019号(実開昭62-38494号)のマイクロフィルム
甲4:桜川ポンプハンドブック P.331~332
甲5:実願昭59-5321号(実開昭60-119857号)のマイクロフィルム
甲6:特開2007-332825号公報
甲7:特開2012-57551号公報
甲8:特開昭56-113092号公報
甲9:特開2004-68599号公報
甲10:特開2012-154472号公報
第5 取消理由について
1 甲1,甲2,甲7に記載された事項
(1)甲1
ア 甲1の1~10について
(ア)甲1の1のタイトルには,「高揚程大水量水中ポンプ」と記載されている。
(イ)甲1の1には,「■4極モータ」と記載され,甲1の1に記載された水中ポンプは「4極モータ」を備えることがわかる。
(ウ)甲1の1の「■全面水路」には,「モータを効率的に冷却出来る全面水路を採用しています。ポンプ最大径を出来る限り小さくしたコンパクト設計で設置や取扱が安易です。」と記載されている。
(エ)甲1の1の「■背圧抜き機構」には,「背圧抜き機構を採用する事で,メカニカルシールへの水圧を低減します。」と記載され,甲1の1に記載された水中ポンプは,メカニカルシールを備えることがわかる。
(オ)甲1の1の「■2段階の浸水検出」には,「浸水検出器のパイオニアとして,万が一のモータへの浸水が起こった場合に備えて,2個の浸水検出器を装備しています。1個目は,図○1(原文は丸付き数字。以下同様。)に装備しており,早期に予備機の準備に取り掛かれます。2個目は,図○2の浸水溜まり室に装備しており,モータ内に浸水する前に交換を可能としております。」と記載され,前記記載,及びその下の正常時の図,図○1,及び図○2より,甲1の1に記載された水中ポンプは,羽根車が配置されるポンプ室を備え,前記ポンプ室の上部に,2室が設けられ,前記2室それぞれに各室への浸水を検出する浸水検出器が装備されていることがわかる。
(カ)モータが固定子,回転子を含んでいること,それらを配置するモータ室が存在すること,モータ室がポンプ室の上部に設けられていること,及び羽根車がモータの回転軸によって回転させられることは技術常識である(例えば,甲2の明細書第3ページ第3行~第4ページ第5行及び図,甲3の明細書第3ページ第17行~第5ページ第3行及び図等参照。)。
(キ)上記(オ),(カ),甲1の1「■2段階の浸水検出」の図○2より,モータ室とポンプ室との間に設けられた2室のうち,モータの回転軸に沿った位置において,モータ室側の1室は浸水溜まり室であり,他の1室は浸水溜まり室とポンプ室の間に設けられていることがわかる。
(ク)上記(ウ),甲1の1の「■2段階の浸水検出」の下の正常時の図,及び右上の写真から,甲1の1に記載された水中ポンプは,ポンプ室,浸水溜まり室及びモータ室の外壁に接するように,ポンプ室から吐出される水をモータに冷却水として導く水路が設けられていることが分かる。
(ケ)甲1の2~10を総合してみれば,甲1の1は,平成27年7月28日(火)~30日(木)に,東京ビッグサイト 東4ホールで開催された「第47回管工機材・設備総合展」において,展示されたことがわかる。
イ 上記ア(ア)~(ケ),甲1の1より,本件特許の出願前に次の発明(以下「甲1発明」という。)が公然知られる状況にあったと認められる。
(甲1発明)
「固定子及び回転子と,前記固定子及び前記回転子を配置するモータ室とを含むモータと,
前記モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,
メカニカルシールと,
前記モータ室と前記ポンプ室との間に2室が設けられ,前記2室のうち,前記モータの回転軸に沿った位置において,モータ室側の1室は浸水溜まり室であり,他の1室は浸水溜まり室とポンプ室の間に設けられている2室と,
前記浸水溜まり室に装備され,前記浸水溜まり室への浸水を検出する浸水検出器と,
前記2室の他の1室に装備され,前記他の1室への浸水を検出する浸水検出器と,
前記ポンプ室,前記浸水溜まり室及び前記モータ室の外壁に接するように設けられ,前記ポンプ室から吐出される水を前記モータに冷却水として導く水路とを備える,高揚程大水量水中ポンプ。」
(2)甲2
本件特許の出願前に頒布された甲2には,「水中モータポンプ」に関して次の記載がある。
ア 甲2の記載
(ア)「図は本考案に係る水中モータポンプを示す側断面図で,1はモータ室ケーシングで,これの内部にはコイル2が嵌着され,上部はカバー3で閉止され,このカバー3に設けた配線導入孔4より配線5が導入されている。前記モータ室ケーシング1の下方には軸受ブラケツト6が設けられ,その下方には油室7が設けられており,この油室7の下方にはポンプケーシング8が設けられている。・・・」(明細書第3ページ第3行~第11行)
(イ)「9はロータで,カバー3と軸受ブラケツト6に設けた軸受10,11によつて支持されており,油室7の中央部の開口に設けた支持体12を介してメカニカルシール13,14が設けられ,前記ロータ9の軸15の下端にはインペラ16が設けられている。」(明細書第3ページ第14行~第19行)
(ウ)「軸受ブラケツト6と油室7の中央部で対面する部分には浸水通路17が軸15に沿つて設けられている。18は水室でこれの内部に所定の浸水があつた場合には警報を発するように浸水検知器19が設けられている。20はドレーン孔,21は油抜き孔である。」(明細書第3ページ最終行~第4ページ第5行)
(エ)「水中ポンプが水中で運転されていると,油室7より油22が供給されているメカニカルシール13,14の個所を通つて浸水し,前記浸水通路17より水室18内に溜められる。この水室18の下部は油室7にできるだけ食い込むようにして大きな容積の部屋にして大量の水を溜めることができるようにしてある。・・・」(明細書第4ページ第6行~第12行)
(オ)「・・・この浸入水が一定量になると浸水検知器19が作動するので,この信号によつて水中ポンプを水中より引き上げドレーン孔20より水を抜き取ればよい。・・・」(明細書第4ページ第15行~第18行)
(カ)上記(ア),(イ),及び図より,水中モータポンプは,コイル2及びロータ9と,前記コイル2及びロータ9が配置されるモータ室ケーシング1,カバー3,軸受ブラケット6によって囲まれる空間とを含むモータを備えていることがわかる。
(キ)上記(ア),(イ),及び図より,インペラ16は,モータにより駆動され,ポンプケーシング8と油室7を形成する部材によって囲まれる空間に配置されていることがわかる。
(ク)上記(イ),(ウ),(オ),及び図より,油室7にメカニカルシール13と,油抜き孔21が設けられ,モータの軸15に沿った位置において,前記油室7とモータ室ケーシング1,カバー3,軸受ブラケット6によって囲まれる空間の間に水室18が配置され,前記水室18には,内部に所定の浸水があった場合に浸水を検知して警報を発する浸水検知器19と,浸入水を抜き取るためのドレーン孔20が配置されていることがわかる。
(ケ)上記(エ),及び図より,モータの軸15に沿った位置において,水室18外周側の下部が油室7と重なり合うように設けられていることがわかる。
イ 上記ア(ア)~(ケ),明細書第第3ページ第3行~第4ページ第18行及び図より,甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「コイル2及びロータ9と,前記コイル2及び前記ロータ9を配置するモータ室ケーシング1,カバー3,軸受ブラケット6によって囲まれる空間(以下,「空間A」という。)とを含むモータと,
前記モータにより駆動されるインペラ16が配置されたポンプケーシング8と油室7を形成する部材によって囲まれる空間(以下,「空間B」という。)と,
空間Aと空間Bとの間に配置され,メカニカルシール13が設けられた油室7と,
前記モータの軸15に沿った位置において,前記空間Aと前記油室7との間に配置された水室18と,
前記水室18に配置され,前記水室18の浸水を検知する浸水検知器19と,
前記水室18の浸入水を抜き取るためのドレーン孔20とを備え,
モータの軸15に沿った位置において,前記水室18の外周側の下部が前記油室7と重なり合うように設けられている,水中モータポンプ。」
(3)甲7
本件特許の出願前に頒布された甲7には,「ポンプの冷却液循環構造」に関して次の記載がある(下線は,当審にて付した。)。
ア 甲7の記載
(ア)「【0027】図1,2は,ポンプの冷却液循環構造が適用されたポンプの例としての,水中ポンプ1を示している。この水中ポンプ1は,例えば下水道における揚水ポンプとして利用され得るポンプである。水中ポンプ1は,羽根車23を有するポンプ部21と,羽根車23を駆動するモータ3を有するモータ部22と,を備えている。水中ポンプ1は,ポンプ部21が相対的に下側に,モータ部22が相対的に上側になるように,上下方向に並んで配置され,それによってモータ3のシャフト35は,上下方向(つまり,所定の軸方向に対応する)に延びるように配設されている。この水中ポンプ1はまた,詳細は後述するが,モータ部22側とポンプ部21側との間で冷却液を循環させることによって,モータ3を冷却する冷却液循環流路(円周状の冷却液流路37及び連通室48)を備えた,強制冷却仕様である。ここで,この冷却液循環流路内を循環する冷却液は,この例では水を主成分とし,そこに腐食防止用の添加剤を添加した冷却水である。但し,冷却液を,冷却油によって構成してもよい。」
(イ)「【0028】モータ部22は,ステータ31及びロータ32からなるモータ3と,ステータ31を支持すると共に,その内部にモータ3を収容するモータケーシング33と,を備えている。ロータ32に一体化されたモータ3のシャフト35は,前述したように,上下方向に延びて配設されている。」
(ウ)「【0030】モータ部22はまた,モータケーシング33の外周囲を囲むように,このモータケーシング33の外周面に対し所定の隙間を空けて,アウターケーシング36が配置されている。アウターケーシング36は,両端開口の概略円筒状であり,その上端部が延長部333のフランジ334に固定されている。こうして,モータケーシング33の外周面と,アウターケーシング36の内周面とによって,冷却液が流れる円周状の冷却液流路37が,モータ3を囲みながら,モータケーシング33及びアウターケーシング36の軸方向の全域に亘って広がるように形成されている。冷却液流路37は,冷却液循環流路の一部を構成する。」
(エ)「【0032】ポンプ部21は,モータ3のシャフト35の下端に取り付けられた羽根車23と,羽根車23を収容するポンプケーシング24と,を備えている。この水中ポンプ1は,遠心式の羽根車23を備えた遠心ポンプである。」
(オ)「【0039】ハウジング4は,モータケーシング33の下端及びアウターケーシング36の下端に取り付けられ,これにより,モータケーシング33の下端開口及びアウターケーシング36の下端開口をそれぞれ閉塞している。ハウジング4は,図3にも示すように,モータケーシング33の下端に取り付けられる上側部材41と,この上側部材41に対して上下方向(軸方向)に所定の間隔を空けて配置されかつ,アウターケーシング36の下端に取り付けられる下側部材42と,周方向の所定箇所に配置されかつ,上側部材41と下側部材42とを互いに連結する複数のリブ43と,を含んで構成されている。」
(カ)「【0044】上側部材41には,径方向内側のベアリングホルダ414と,径方向外側の周壁部411との間に,上向きに開口する環状の空間が形成され,この環状の空間は,前記貫通孔413を通じてモータ部22側へ浸水が生じたときに,その浸入した水を溜める浸水溜まり室416として機能する。従って,ハウジング4には,ベアリングホルダ414に対し軸方向のほぼ同じ位置に,このベアリングホルダ414を取り囲むように,浸水溜まり室416が形成されている。この浸水溜まり室416には,図2,3に示すように,周方向における所定の角度範囲に対応する部分に,他の部分よりも低くなるように凹陥した凹陥部417が形成されている。凹陥部417の底面は,ベアリングホルダ414の底面よりも下側に位置している。そうして,ベアリングホルダ414内の底部と,浸水溜まり室416の凹陥部417とを連通するキリ穴418が,ベアリングホルダ(起立壁部)414を貫通するように,径方向の内方から外方に向かって斜め下向きに延びて形成されている。このキリ穴は,前述したように貫通孔413を通じてモータ部22側(ベアリングホルダ414内)に浸水が生じたときに,その浸入した水を浸水溜まり室416(つまり,凹陥部417)に排出するための排水穴418であり,これによって,ベアリング352の浸水を防止する。」
(キ)「【0049】下側部材42は概略円環状を有しており,その上端部分は,上向きに開口すると共にアウターケーシング36の下端部に内嵌される内嵌部421とされる一方,その下端には,前記内嵌部421の開口よりも小径で下向きに開口する下端開口422が形成されている。上側部材41と下側部材42とは,上側部材41の下端部の一部が,下側部材42の内嵌部421の開口に内挿したような相対位置で,前記のリブ43により連結されている。下側部材42は,内嵌部421が概略円筒状のアウターケーシング36の下端に対し,Oリングを介在させた状態で内嵌されることによって,アウターケーシング36の下端開口を閉塞すると共に,その下端部が,ポンプ部21の蓋ケーシング242に対して,Oリングを介在させた状態で取付固定される。」
(ク)「【0050】そうして,図3に示すように,このハウジング4の外周部には,上側部材41と下側部材42とを連結するリブ43とリブ43との間に,径方向の外方に向かって開口すると共に,円周状の冷却液流路37に連通する流入口46及び流出口47が,それぞれ2つ形成されている。流入口46と流出口47とは周方向に交互に配置されており,これにより,2つの流入口46は中心軸を挟んで相対し,2つの流出口47もまた,中心軸を挟んで相対している。流入口46と流出口47とは,上側部材41と下側部材42との間に形成される連通室48を介して互いに連通している。より詳細には,図2,3に示すように,下側部材42において流出口47に対応する角度範囲には,下端開口422よりも径方向の外側に,厚み方向に貫通する円弧状のスリット423が形成されている。これに対し,流入口46に対応する角度範囲には,そうしたスリットが形成されていない。前記の連通室48はまた,前記ハウジング4(下側部材42)の下端部が,ポンプ部21の蓋ケーシング242に取り付けられることによって,上側部材41,下側部材42及び蓋ケーシング242によって区画形成される。従って,流入口46と流出口47とは,図2から明らかなように,連通室48とスリット423とを介して互いに連通することになる。」
(ケ)「【0052】メカニカルシール5は,連通室48内において,モータ3のシャフト35に取り付けられることで,モータ部22側とポンプ部21側との間で,シャフト35を軸封(シール)する。メカニカルシール5は,図4,5に示すように,軸方向の上側から下側に向かって,上側固定環51,上側回転環52,圧縮ばね53,下側回転環54,及び下側固定環55の順に配置されて構成されている。この内,上側固定環51は,前述したように,ハウジング4における上側部材41の下面に形成された固定部415に固定される。上側回転環52は,モータ3のシャフト35に外挿される外挿部521と,圧縮ばね53の上端部が当接する鍔部522とを有しており,外挿部521がシャフト35に外挿された状態で,圧縮ばね53の付勢力により鍔部522が上向きに押されることによって上側固定環51に押圧されている。同様に,下側固定環55は,前述したように,蓋ケーシング242の上面に形成された固定部244に固定される。また,下側回転環54は,モータ3のシャフト35に外挿される外挿部541と,圧縮ばね53の下端部が当接する鍔部542を有しており,外挿部541がシャフト35に外挿された状態で,圧縮ばね53の付勢力により鍔部542が下向きに押されることによって下側固定環55に押圧されている。圧縮ばね53は,モータ3のシャフト35に外挿される比較的大径のコイルスプリングであり,ここに示すメカニカルシール5は,一つの圧縮ばね53によって,上側回転環52及び下側回転環54の双方の回転環を,上側固定環51及び下側固定環55のそれぞれに対して押圧するように構成されている。このメカニカルシール5は,図1,2に示すように,連通室48内に配置されているため,冷却液に浸漬している。このため,冷却液は,モータ3の冷却のみならず,メカニカルシール5の潤滑液としても機能する。」
(コ)上記(ア),(オ),(カ),(ク),及び図1~2より,モータ部22のシャフト35に沿った位置において,浸水溜まり室416は,モータケーシング33,ハウジング4によって囲まれる空間と連通室48との間に配置されていることがわかる。
(サ)上記(ア),(ウ),(ク),及び図1~2より,円周状の冷却液流路37,流入口46,流出口47及び連通室48によって形成される冷却液循環流路は,浸水溜まり室416を取り囲むように設けられていることがわかる。
イ 上記ア(ア)~(サ),段落【0025】~【0052】及び図1~3より,甲7には次の事項が記載されていると認められる。
「ステータ31及びロータ32と,前記ステータ31及び前記ロータ32を配置するモータケーシング33,ハウジング4によって囲まれる空間(以下,「空間C」という。)とを含むモータ部22と,
前記モータ部22により駆動される羽根車23が配置されたポンプケーシング24と,
空間Cとポンプケーシング24との間に配置され,メカニカルシール5が設けられた連通室48と,
前記モータ部22のシャフト35に沿った位置において,前記空間Cと連通室48との間に配置された浸水溜まり室416と,
前記モータケーシング33の外周面と,前記モータケーシング33の外周面に対し所定の隙間を空けて配置されたアウターケーシング36の内周面とにより形成され,冷却液が流れる円周状の冷却液流路37と,
前記円周状の冷却液流路37にそれぞれ連通するとともに,前記連通室48を介して互いに連通している流入口46及び流出口47とを備え,
円周状の冷却液流路37,流入口46,流出口47及び前記連通室48によって形成される冷却液循環流路は,前記浸水溜まり室416を取り囲むように設けられている,水中ポンプ。」
2 甲1発明に基づく検討
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明における,「固定子」,「回転子」,「モータ室」,「モータ」,「羽根車」,「ポンプ室」,「メカニカルシール」,「回転軸」,「浸水溜まり室」,「高揚程大水量水中ポンプ」は,その機能に照らして,それぞれ,本件発明1における,「固定子」,「回転子」,「モータ室」,「モータ」,「羽根車」,「ポンプ室」,「メカニカルシール」,「回転軸」,「流体貯留部」,「水中電動ポンプ」に相当する。
また,甲1発明における「前記浸水溜まり室に装備され,前記浸水溜まり室への浸水を検出する浸水検出器」は,その機能に照らして,本件発明1における「前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部」に相当する。
そして,メカニカルシールは,その構成上,摺動部を備えることは明らかであるから,甲1発明の「メカニカルシール」も「摺動部を有するメカニカルシール」であるといえる。
したがって,本件発明1と甲1発明は以下の点で,一致し,相違する。
(一致点1)
「固定子および回転子と,前記固定子および前記回転子を配置するモータ室とを含むモータと,
前記モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,
摺動部を有するメカニカルシールと,
流体貯留部と,
前記流体貯留部に配置され,前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,備える,水中電動ポンプ。」
(相違点1の1)
本件発明1は,前記モータ室と前記ポンプ室との間に配置され,「摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室」と,「前記オイル室」に配置され,「前記オイル室」に浸入した水を検知する浸水検知部と,前記モータの回転軸に沿った位置において,前記モータ室と「前記オイル室」との間に配置された流体貯留部とを備えるのに対し,甲1発明は,摺動部を有するメカニカルシールと,モータの回転軸に沿った位置において,浸水溜まり室とポンプ室の間に浸水を検出する浸水検出器が装備された他の1室を備えるものの,前記他の1室が,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室であるか不明である点。
(相違点1の2)
本件発明1は,前記流体貯留部の流体を外部に排出するための「第1排出路」を備えるのに対し,甲1発明は,浸水溜まり室の流体を外部に排出するための排出路を備えているか不明である点。
(相違点1の3)
本件発明1では,「前記オイル室」は,「前記流体貯留部を取り囲むように設けられている」のに対し,甲1発明は,そのような構成を備えていない点。
イ 判断
事案に鑑み,相違点1の3について先に検討する。
甲7には,円周状の冷却液流路37,流入口46,流出口47及び前記連通室48によって形成される冷却液循環流路が,前記浸水溜まり室416を取り囲むように設けられているという技術的事項を備える水中ポンプが記載されている。
しかし,甲1発明の他の1室は,前記モータ室と前記ポンプ室との間に独立した区画として設けられた空間であるのに対して,甲7に記載された水中ポンプの冷却液循環流路は,モータ部22側とポンプ部21側との間で冷却液を循環させることによりモータ3を冷却するために,モータ部22とポンプ部21とに亘って設けられた空間であり,甲1発明の浸水溜まり室と甲7に記載された水中ポンプの冷却液循環流路とは,前提となる構成が大きく異なるから,甲1発明に,甲7に記載された冷却液循環流路と浸水溜まり室416との配置に係る技術的事項を適用する動機付けはない。
また仮に,甲1発明に,甲7に記載された冷却液循環流路と浸水溜まり室416との配置に係る事項を適用するとしても,甲1発明では,ポンプ室,浸水溜まり室及びモータ室の外壁に接するように,ポンプ室から吐出される水をモータに冷却水として導く水路を設けて,「ポンプ最大ポンプ最大径を出来る限り小さくしたコンパクト設計で設置や取扱が容易」とされているところ(甲1の記載事項ア(ア),(ク)),上記適用によって,浸水溜まり室を取り囲むように他の1室が設けられることで,水路の大幅なレイアウトの変更が必要となるとともに,水中ポンプの径方向寸法が大型化することとなるから,阻害要因があるといえる。
そして,本件発明1は,相違点1の3に係る本件発明1の構成を備えるものとしたことにより,水中電動ポンプ100の高さ方向の大きさが大きくなるのを抑制することができ,オイル室5の容量を大きくすることができる(段落【0050】)という所定の効果を奏するものである。
そうすると,甲1発明に甲7に記載された事項を適用し,相違点1の3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
この点に関し,申立人は令和3年3月18日付け意見書(以下「意見書」という。)において,特許異議申立書とともに提出された甲7に加えて,参考資料1~5として,特開2016-94862号公報,実願昭57-2276号(実開昭58-104393号)のマイクロフィルム,特開平5-87084号公報,特開2008-144629号公報,桜川ポンプハンドブック(1992年4月1日発行,株式会社桜川ポンプ製作所ハンドブック委員会発行,p.123-124,p.347-348,p.599-602)を新たに提出し,オイル室が流体貯留部を取り囲むように設けられる点は,甲7及び参考資料1~5に記載されているように周知の技術であり,当業者が適宜採用し得る設計的事項であると主張している(意見書第3ページ第8行~第23行)。
しかし,参考文献1の環状空間部8は,オイル室6と連通しているため,甲1発明の浸水溜まり室とは前提となる構成が大きく異なるものであり,参考文献2~5からは,浸水検知器を設けた空間が,オイル室の内側に存在することが図面から把握されるものの,当該空間が流体貯留部として機能することの明示的な記載はなく,また仮に,上記空間が流体貯留部として機能するものであり,オイル室が流体貯留部を取り囲むように設けられる点が周知の技術であることを示すものであったとしても,甲1発明にかかる周知の技術を適用することによって,甲1発明において水路の大幅なレイアウトの変更が必要となるとともに,水中ポンプの径方向寸法が大型化することとなるから,阻害要因があるといえる。
よって,申立人の主張を採用することはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1を甲1発明及び甲2,3,7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(2)本件発明2~9について
本件発明2~9は,本件発明1を特定するための事項を全て含み更に限定したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲1発明及び甲2~10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
3 甲2発明に基づく検討
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると,甲2発明における,「コイル2」,「ロータ9」,「モータ室ケーシング1,カバー3,軸受ブラケット6によって囲まれる空間(空間A)」,「モータ」,「インペラ16」,「ポンプケーシング8と油室7を形成する部材によって囲まれる空間(空間B)」,「油室7」,「メカニカルシール13」,「軸15」,「水室18」,「浸水検知器19」,「ドレーン孔20」,「水中モータポンプ」は,その機能に照らして,それぞれ,本件発明1における,「固定子」,「回転子」,「モータ室」,「モータ」,「羽根車」,「ポンプ室」,「オイル室」,「メカニカルシール」,「回転軸」,「流体貯留部」,「流体検知部」,「第1排出路」,「水中電動ポンプ」に相当する。
また,甲2発明における「前記水室18の浸水を検知する浸水検知器19」,「前記水室18の浸入水を抜きとるためのドレーン孔20」は,その機能に照らして,本件発明1における「前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部」,「前記流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路」に相当する。
そして,メカニカルシールは,その構成上,摺動部を備えることは明らかであるから,甲2発明の「メカニカルシール13」も「摺動部を有するメカニカルシール」であるといえる。
そうすると,本件発明1と甲2発明は,以下の点で一致し,相違する。
(一致点2)
「固定子および回転子と,前記固定子および前記回転子を配置するモータ室とを含むモータと,
前記モータにより駆動される羽根車が配置されたポンプ室と,
前記モータ室と前記ポンプ室との間に配置され,摺動部を有するメカニカルシールが設けられたオイル室と,
前記モータの回転軸に沿った位置において,前記モータ室と前記オイル室との間に配置された流体貯留部と,
前記流体貯留部に配置され,前記流体貯留部に浸入した流体を検知する流体検知部と,
前記流体貯留部の流体を外部に排出するための第1排出路とを備える,水中電動ポンプ。」
(相違点2の1)
本件発明1は,前記オイル室に配置され,前記オイル室に浸入した水を検知する「浸水検知部」を備えているのに対し,甲2発明は,オイル室に浸水検知部を備えていない点。
(相違点2の2)
本件発明1では,オイル室は,前記流体貯留部を取り囲むように設けられているのに対して,甲2発明では,モータの軸15に沿った位置において,前記水室18の外周側の下部が前記油室7と重なり合うように設けられている点。
イ 判断
事案に鑑み,相違点2の2について先に検討する。
甲7には,円周状の冷却液流路37,流入口46,流出口47及び前記連通室48によって形成される冷却液循環流路が,前記浸水溜まり室416を取り囲むように設けられているという技術的事項を備える水中ポンプが記載されている。
しかし,甲2発明の油室7は,空間A(モータ室ケーシング1,カバー3,軸受ブラケット6によって囲まれる空間)と空間B(ポンプケーシング8と油室7を形成する部材によって囲まれる空間)との間に,独立した区画として設けられた空間であるのに対して,甲7に記載された水中ポンプの冷却液循環流路は,モータ部22側とポンプ部21側との間で冷却液を循環させることによりモータ3を冷却するために,モータ部22とポンプ部21とに亘って設けられた空間であり,甲2発明の油室7と甲7に記載された水中ポンプの冷却液循環流路とは,前提となる構成が大きく異なるから,甲2発明に,甲7に記載された冷却液循環流路と浸水溜まり室416との配置に係る技術的事項を適用する動機付けはない。
また仮に,甲2発明に,甲7に記載された冷却液循環流路と浸水溜まり室416との配置に係る事項を適用するとしても,甲2発明では,水室18の下部は油室7にできるだけ食い込むようにして大きな容積の部屋にして大量の水を溜めることができるようにするために,モータの軸15に沿った位置において,前記水室18の外周側の下部が前記油室7と重なり合うように設けられているところ(甲2の記載事項ア(エ),(ケ)),上記適用によって,油室7を水室18を取り囲むように設けることにより,水室18の容積が大幅に減少することになるから,阻害要因があるといえる。
そして,本件発明1は,相違点2の2に係る本件発明1の構成を備えるものとしたことにより,水中電動ポンプ100の高さ方向の大きさが大きくなるのを抑制することができ,オイル室5の容量を大きくすることができる(段落【0050】)という所定の効果を奏するものである。
そうすると,甲2発明に甲7に記載された事項を適用し,相違点2の2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
この点に関し,申立人は令和3年3月18日付け意見書(以下「意見書」という。)において,特許異議申立書とともに提出された甲7に加えて,参考資料1~5として,特開2016-94862号公報,実願昭57-2276号(実開昭58-104393号)のマイクロフィルム,特開平5-87084号公報,特開2008-144629号公報,桜川ポンプハンドブック(1992年4月1日発行,株式会社桜川ポンプ製作所ハンドブック委員会発行,p.123-124,p.347-348,p.599-602)を新たに提出し,オイル室が流体貯留部を取り囲むように設けられる点は,甲7及び参考資料1~5に記載されているように周知の技術であり,当業者が適宜採用し得る設計的事項であると主張している(意見書第3ページ第8行~第23行)。
しかし,参考文献1の環状空間部8は,オイル室6と連通しているため,甲2発明の水室18とは前提となる構成が大きく異なるものであり,参考文献2~5からは,浸水検知器を設けた空間が,オイル室の内側に存在することが図面から把握されるものの,当該空間が流体貯留部として機能することの明示的な記載はなく,また仮に,上記空間が流体貯留部として機能するものであり,オイル室が流体貯留部を取り囲むように設けられる点が周知の技術であることを示すものであったとしても,甲2発明にかかる周知の技術を適用することによって,甲2発明において水室18の容積が大幅に減少することになるから,阻害要因があるといえる。
よって,申請人の主張を採用することはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから,相違点2の1について検討するまでもなく,本件発明1を甲2発明及び甲1,5,7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は,本件発明1を特定するための事項を全て含み更に限定したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲2発明及び甲1,3~10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700624