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特許異議申立

2022-700394

創の処置用医療テープの製造方法

審判番号
2022-700394
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-129983
登録番号
6961122
請求日
2022年05月06日
審決日
2023年01月25日
公報発行日
2023年03月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】有限会社ちょうりゅう
  • 【権利者代理人】嶋崎 英一郎
  • 【異議申立人】御園 貴美代
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 當間 庸裕
  • 審判官 藤原 直欣
分類
P1651.113-Y (A61F) / P1651.121-Y (A61F) / P1651.536-Y (A61F) / P1651.537-Y (A61F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
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特許第6961122号発明「創の処置用医療テープの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6961122号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6961122号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、令和3年8月6日に出願され、令和3年10月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年11月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年5月6日に特許異議申立人御園貴美代(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年7月19日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和4年9月6日に意見書を提出した。 第2 本件発明 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 創および創周辺の皮膚を覆い伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部と、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を有する内部応力保持部を備え、下層から前記内部応力保持部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、及び前記剥離部の順に設けられている創の処置用医療用テープの製造方法であって、 前記内部応力保持部の上層に、後に前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布する工程、 次いで、前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記内部応力保持部との積層を完了させ、前記内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する工程、 次いで、前記伸縮性基材部に対して前記内部応力保持部とは反対側の面に順に前記粘着部、前記剥離部を積層する工程を備え、 使用時に、前記内部応力保持部を取り除くことで前記伸縮性基材部内に存在する有効収縮力を放出させることを特徴とする創の処置用医療テープの製造方法。」 第3 特許異議の申立てについての判断 1 取消理由の概要 当審において、請求項1に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (実施可能要件)本件特許は、明細書の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 発明の詳細な説明には、どのような条件で製膜を行えば本件発明の「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」することができるのかについては記載されておらず、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等が必要である。よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 2 取消理由についての判断 (1)本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は、強調のために当審が付した。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、生理的張力に対応した創の処置用医療テープの製造方法、詳しくは、内部応力保持部を備えた創の処置用医療用テープの製造方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、上記の事情に鑑み、創および創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力を減少させ、創離開を防止する効果が高く、縫合、未縫合の創に関わらず、使用・装着が容易な創の処置用医療テープの製造方法を提供することを課題とする。」 「【発明の効果】 【0014】 本発明の製造方法で得られる創の処置用医療テープは、縫合した創および創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力を持続的に減少させるための手段を創の処置用医療テープに機能として取り入れることで、特に、形態をテープとすることにより、縫合した創および創周辺の皮膚を面で覆い貼付することができ、生理的張力を効率よく減少させ、縫合した創および創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力を持続的に減少させる機能を備えることができる。また、該医療用テープの製造段階において、伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を備え、該医療用テープの使用時に、伸縮性基材部内の有効収縮力を保持した状態で皮膚に貼付することができる。そして、粘着部で皮膚に貼付した後、内部応力保持部を取り除くことにより、伸縮性基材部内に保持された状態の有効収縮力を粘着部で貼付した創および創周辺の皮膚に対して放出する。この放出された有効収縮力は、創離開方向へ働く生理的張力に抗する方向に効率よく作用し、伸縮性基材部を生理的張力に抗する方向に収縮させると共に、創および創周辺の皮膚を創離開方向へ働く生理的張力に抗する方向に収縮させることで、縫合した創に対して、創離開方向に抗する方向から縫合した創周辺の皮膚をわずかに弛ませることができ、縫合した創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力、並びに該生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させることが可能となる。さらに、該医療用テープでは、テープの全面に生理的張力を減少させる機能を備え、皮膚に対し、面で覆い貼付することができるため、放出された有効収縮力は、該医療用テープで覆われた創および創周辺の皮膚のみならず、該医療用テープの貼付部位周辺の皮膚まで作用するため、該有効収縮力による創周辺の皮膚を引き寄せる力となる。このことにより、創およびその周辺組織を安静に保つことができ、生理的張力を持続的に減少させて創離開を防止し、創の状態によっては縫合を不要とすることも可能となる。また、挫創や咬創等のような一般的に縫合が困難な創の創離開防止にも期待できる。さらに、創の状態が縫合、未縫合に関わらず、創およびその周辺組織を安静に保つことができ、自然治癒を早めることもできる。本発明の製造方法で得られる医療用テープの製造方法によれば、前記医療用テープを効率よく製造することができる。」 「【0018】 そこで、本発明者は、縫合した創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力、並びにその生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させる機能を製造工程において取り入れた創の処置用医療テープを提供するために、該医療用テープの材料として、創および創周辺の皮膚を覆い、伸縮性機能を有する伸縮性基材部の原料として、医療用として使用可能で、製膜後に伸縮性機能を有し、縫合した創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力に抗する、成形収縮に伴う内部応力によって生じる有効収縮力を備えることが可能な溶液ポリマー素材を選択し、内部応力保持部の素材として、製造工程において、その上層に後に伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を有する非伸縮素材を選択した。次いで、粘着部の素材として、伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有し、剥離時の糊残りや角質損傷等が少ない医療用粘着剤を選択し、さらに、剥離部の素材として、粘着部を保護する機能を有する剥離紙を選択し、各素材が有する機能を利用して、創の処置用医療テープの製造方法を構成することを着想した。」 「【0021】 本発明の製造方法で得られる創の処置用医療テープは、内部応力保持部の上層に、後に伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布する。この時、溶液ポリマーの断面形状は、内部応力保持部に付着していない溶液ポリマーの上底と、内部応力保持部と積層された状態でよく付着している溶液ポリマーの下底とでは、同じ長さとなり、長方形となる(図1)。次いで、伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して伸縮性基材部と内部応力保持部との積層を完了させ、内部応力保持部により、伸縮性基材部内に有効収縮力を保持する。この時の伸縮性基材部の断面形状は、図1に示す溶液ポリマーを塗布した直後の溶液ポリマーの断面形状より膜厚が薄く、下底より上底が若干短い、台形状となる(図2)。このことは、溶液ポリマーの上底を自由に収縮させず、伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して伸縮性基材部と内部応力保持部との積層を完了させ、内部応力保持部により、伸縮性基材部内に有効収縮力を保持したことを示している。なお、製造工程において、溶液ポリマーの上底を、溶液ポリマーの成形収縮に伴う内部応力により、制限なしに自由に収縮させ、その後、硬化させて製膜を完了させて伸縮性基材部を得て、並行して内部応力保持部と積層させた場合は、伸縮性基材部の下底には、溶液ポリマーの成形収縮に伴う内部応力が存在するが、伸縮性基材部の上底には、溶液ポリマーの成形収縮に伴う内部応力は存在せず、内部応力保持部を取り除いても、伸縮性基材部の下底が収縮するのみで、伸縮性基材部全体が収縮することはなく、製造工程において、伸縮性基材部内に目的とする有効収縮力を保持させることはできない。また、縫合後、創および創周辺の皮膚に働く生理的張力は、必ずしも肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微なものである。そのため、伸縮性基材部内に保持する有効収縮力は、軽微でもよく、軽微であっても本発明の効果を十分に奏することができる。 【0022】 以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、創の処置用医療テープを構成する素材の適切な選択・組み合わせ及び、製造工程において、前記伸縮性基材部内の成形収縮に伴う内部応力を保持する機能を有する、非伸縮性の板状のプラスチックフィルムを前記内部応力保持部として選択し、前記内部応力保持部の上層に、後に前記伸縮性基材部となるポリウレタンフィルムの原料である溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を塗布し(図1)、次いで、前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記内部応力保持部との積層を完了させ、前記内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する工程(図2)を経て、次いで、前記伸縮性基材部に対して前記内部応力保持部とは反対側の面に、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部として、アクリル系粘着剤を塗布し、次いで、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部として、上質紙の表面に剥離剤をコーティングした剥離紙を備えることで、該創の処置用医療テープは完成する(図3)。なお、該創の処置用医療テープでは、使用時に粘着部で創および創周辺の皮膚を覆い、皮膚に貼付した後に、前記内部応力保持部を取り除き、前記内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内に保持した有効収縮力を生理的張力に抗する方向に放出させ、創離開方向へ働く生理的張力を減少させることを基本とする。本発明は、創の処置用医療テープの製造工程において、有効収縮力を前記伸縮性基材部内に保持させることが必須である。 【0023】 図1から図3に示す本発明の第1の実施の形態である創の処置用医療テープでは、伸縮性基材部2の原料となる溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)1と、伸縮性基材部2の原料となる溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)1で製膜された、伸縮性機能を有し、創および創周辺の皮膚を覆う伸縮性基材部2と、伸縮性基材部2を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部3と、粘着部3を保護する機能を有する剥離部4と、伸縮性基材部2内の有効収縮力を保持する機能を有する非伸縮性の内部応力保持部5から構成され、下層から内部応力保持部5、伸縮性基材部2、粘着部3、及び剥離部4の順に設けられている。 【0024】 図1は、本発明の第1の実施の形態を示す創の処置用医療テープの製造過程を示す図であり、内部応力保持部5の上層に伸縮性基材部2の素材となる溶液ポリマー1を塗布した積層過程の様子を示す概略断面図である。第1の実施の形態である創の処置用医療テープでは、伸縮性基材部2内の有効収縮力を保持する機能を有する、水平形状に成形した非伸縮性のプラスチックフィルムを内部応力保持部5として選択し、内部応力保持部5の上層に、後に伸縮性基材部2となるポリウレタンフィルムの原料である溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)1を塗布した様子を示している。この時、溶液ポリマーの断面形状は、溶液ポリマーの上底1a(内部応力保持部に付着していない)と溶液ポリマーの下底1b(内部応力保持部と積層された状態でよく付着している)は、図1に示すように同じ長さとなり、長方形となる。なお、符号1は、溶液ポリマー、符号1aは、溶液ポリマーの上底、符号1bは、溶液ポリマーの下底、符号5は、内部応力保持部である。 【0025】 図2は、本発明の第1の実施の形態を示す創の処置用医療テープの製造過程を示す概略断面図であり、図1に示した、内部応力保持部5の上層に、後に伸縮性基材部2となる溶液ポリマー1を塗布した状態から、溶液ポリマー1を速やかに硬化させ、伸縮性基材部2内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマー1の製膜を完了し、並行して伸縮性基材部2と内部応力保持部5との積層を完了させ、内部応力保持部5により、伸縮性基材部2内に有効収縮力を保持する様子示している。図1に示した時点では、溶液ポリマー1の断面形状は、溶液ポリマーの上底1a(内部応力保持部に付着していない)と溶液ポリマーの下底1b(内部応力保持部5と積層された状態でよく付着している)は、図1で示すように同じ長さとなり、長方形であった。その後、図2で示すように、伸縮性基材部2内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマー1の製膜を完了するために、溶液ポリマー1を速やかに硬化させて製膜し、伸縮性基材部2を得て、並行して伸縮性基材部2と内部応力保持部5との積層を完了させ、内部応力保持部5により、伸縮性基材部2内に有効収縮力を保持した。その結果、伸縮性基材部2の製膜と並行して内部応力保持部5と積層される状態でよく付着している伸縮性基材部の下底2bでは、溶液ポリマー1の成形収縮に伴う内部応力の影響による収縮は生じなかった。一方、伸縮性基材部の上底2aでは、内部応力保持部5に付着していないため、溶液ポリマー1の成形収縮に伴う内部応力の影響により若干収縮したが、伸縮性基材部2内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマー1の製膜を完了するために、溶液ポリマー1を速やかに硬化させ製膜したため、溶液ポリマーの上底1aは、自由に収縮することができず、伸縮性基材部2の断面形状は、伸縮性基材部の下底2bより伸縮性基材部の上底2aが若干短い台形状となった。このことは、伸縮性基材部2内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマー1の製膜を完了させ、並行して伸縮性基材部2と内部応力保持部5との積層を完了させた様子を示し、さらに、内部応力保持部5により、伸縮性基材部2内に有効収縮力を保持することができたことも示している。なお、符号2は、伸縮性基材部、符号2aは、伸縮性基材部の上底、符号2bは、伸縮性基材部の下底、符号5は、内部応力保持部である。」 「【0029】 また、第1の実施の形態では、溶液ポリマーの素材として、ウレタン樹脂液と架橋剤液を用いたが、内部応力保持部の上層に塗布し、伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して伸縮性基材部と内部応力保持部との積層も完了させ、内部応力保持部により、伸縮性基材部内に有効収縮力を保持することが可能な溶液ポリマー素材であればよく、その他の新素材等を用いてもよく、異なる溶液ポリマー素材を混合又は積層してもよい。また、内部応力保持部の素材として、伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を有する水平形状に成形した非伸縮性で板状のプラスチックフィルムを用いたが、伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を有していれば、用途や利便性に応じ、板状のプラスチックフィルムに切れ目を入れてもよく、その切れ目を覆う剥離可能な帯状のテープを備えてもよく、素材や形状等による制限を受けない。また、粘着部の素材は、アクリル系粘着剤を用いたが、伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有し、医療用として使用可能な粘着剤であればよく、用途に応じ、粘着剤を塗布する部位は一部もしくは全部でもよく、素材や形状等による制限を受けない。また、剥離部の素材は、上質紙の表面に剥離剤をコーティングした剥離紙を用いたが、粘着部を保護する機能を有していれば、例えば、伸縮性基材部に対して内部応力保持部とは反対側の面に剥離剤をコーティングし、剥離部としてもよく、包装紙等のパッケージを用い剥離部としてもよく、素材や形状等による制限を受けない。なお、該創の処置用医療テープを構成する各部の素材や素材の組み合わせ、付加する機能等は、用途やデザイン、利便性等に応じ任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。」 (2)実施可能要件に係る取消理由について ア 発明の詳細な説明の記載をもとに製造できること (ア)【0022】には、創の処置用医療テープの実施例が開示されており、その製造方法について、内部応力保持部の上層に、後に伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布し、次いで、前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記内部応力保持部との積層を完了させ、次いで、前記伸縮性基材部に対して前記内部応力保持部とは反対側の面に粘着部を塗布し、次いで、剥離部を備えることで、該創の処置用医療テープは完成することが記載されている。また、創の処置用医療テープを構成する素材について、「内部応力保持部」として非伸縮性の板状のプラスチックフィルム、「溶液ポリマー」としてウレタン樹脂液と架橋剤液、「粘着部」としてアクリル系粘着剤、「剥離部」として上質紙の表面に剥離剤をコーティングした剥離紙を用いることが例示されている。したがって、【0022】の記載から、創の処置用医療テープを製造する手順及び素材の一例を把握することができる。 (イ)そして、【0021】には、伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で溶液ポリマーの製膜を完了したことは、伸縮性基材部の断面形状が溶液ポリマーを塗布した直後の溶液ポリマーの断面形状より膜厚が薄く、下底より上底が若干短い、台形状となることで確認できることが示されている。他方、伸縮性基材部内に目的とする有効収縮力を保持できていないことは、内部応力保持部を取り除いても、伸縮性基材部の下底が収縮するのみで、伸縮性基材部全体が収縮することがないことで確認できることも示唆されている。 (ウ)また、有効収縮力の程度について、【0021】には、「縫合後、創および創周辺の皮膚に働く生理的張力は、必ずしも肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微なものである。そのため、伸縮性基材部内に保持する有効収縮力は、軽微でもよく、軽微であっても本発明の効果を十分に奏することができる。」と記載されており、有効収縮力は軽微なものを含むことが理解できる。 (エ)さらに、【0029】には、創の処置用医療テープを構成する素材が【0022】(上記(ア)参照)に例示されるものに限定されず、各構成要素に求められる機能を有する範囲で、その他の素材を用いてよいことが記載されている。そのため、当業者であれば、【0021】、【0022】、【0029】の記載をもとに、創の処置用医療テープの製造方法について実施可能な範囲を種々の素材にまで広げることができるといえる。 イ どのような条件で製膜を行えば本件発明の「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」することができるのかについて 本件特許の発明の詳細な説明に、どのような条件で製膜を行えば本件発明の「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」することができるのかについて、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分な記載がないとする取消理由に対し、特許権者は、本件特許明細書には、溶液ポリマーを塗布し速やかに硬化させること等が示されているから、医療テープの膜厚や製膜条件についての周知技術を参照して、当業者が本件発明を実施することができる程度の記載がある旨説明する。(令和4年9月6日の意見書19ページ4行~20ページ下から5行(行数に空行は含まない。)) この点、本件発明の「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」することについて、発明の詳細な説明には、「内部応力保持部5の上層に、後に伸縮性基材部2となる溶液ポリマー1を塗布した状態から、溶液ポリマー1を速やかに硬化させ」ること(【0025】)のみならず、「溶液ポリマーの上底を、溶液ポリマーの成形収縮に伴う内部応力により、制限なしに自由に収縮させ、その後、硬化させて製膜を完了させて伸縮性基材部を得て、並行して内部応力保持部と積層させた場合は、伸縮性基材部の下底には、溶液ポリマーの成形収縮に伴う内部応力が存在するが、伸縮性基材部の上底には、溶液ポリマーの成形収縮に伴う内部応力は存在せず、内部応力保持部を取り除いても、伸縮性基材部の下底が収縮するのみで、伸縮性基材部全体が収縮することはなく、製造工程において、伸縮性基材部内に目的とする有効収縮力を保持させることはできない。」(【0021】)との記載もあり、「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」するための指針が示されているといえる。 また、皮膚に貼付する医療テープの膜厚がμmオーダーであることや、乾燥過程での温度や時間を調整することで硬化速度が調整されることは、本件特許の出願時に周知の事項である。 そうすると、「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」するために、速やかに硬化させること、すなわち、溶液ポリマーの上底を制限なしに自由に収縮させず、内部応力保持部を取り除いた際に伸縮性基材部全体が収縮するように、上記周知技術を考慮して製膜条件を設定すればよいことが理解できる。 よって、本件発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえるから、実施可能要件に係る取消理由には理由がない。 3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 ア 明確性 本件発明の「有効収縮力」という力のレベルが、仮に、創を閉じるために必要な一定以上の力を示しているとした場合、それがどの程度の力なのか、本件特許明細書を参酌しても不明である。 (申立書17ページ下から12行~18ページ11行) イ 新規性、進歩性 本件発明は、甲第1号証の記載事項と同一であるか、あるいは、甲第1号証~甲第4号証(以下それぞれ「甲1」のようにいう。)の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (申立書13ページ13行~17ページ下から14行(行数に空行は含まない。)) 証拠方法 甲1:特開昭59-214449号公報 甲2:「高分子の残留応力対策」、株式会社技術情報協会、2017年2月28日、p.317-323 甲3:木下啓吾、外2名、「第6章 塗膜の付着性と内部応力(その2)」、色材協会誌、社団法人色材協会、平成7年9月20日、第68巻、第9号、p.573-577 甲4:特表2018-500094号公報 (2)明確性に係る申立理由について 本件発明の「有効収縮力」は、請求項1の記載から、「伸縮性基材部内」に備えられること、「内部応力保持部」により保持されること、及び「内部応力保持部」を取り除くことで放出されることが理解でき、明確である。 そして、本件発明の「有効収縮力」に関して、明細書には、「有効収縮力とは、本発明の製造工程で得られ、内部応力保持部の機能により伸縮性基材部内に保持され、使用時に内部応力保持部を取り除くことで放出させることができ、放出させた収縮力により伸縮性基材部を生理的張力に抗する方向に収縮させ、生理的張力を減少させるために有効な収縮力を言う。」(【0013】)と説明されており、請求項1の記載から把握される「有効収縮力」の意味と矛盾するところはない。 よって、本件発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。 (3)新規性、進歩性に係る申立理由について ア 甲1に記載された発明 甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「キャリアシート12、該キャリアシートと対をなして組み合されこれに接着されたポリマー材料のフィルム14、前記ポリマー材料の表面に付けられた高度に粘着性の感圧性接着剤16および前記感圧性接着剤16と対をなして組み合された剥離シート18を含む包被手当材料の製造方法であって、 キャリアシート12上にポリマーの水性分散液を流延し、該分散液を乾燥してキャリアシート12に付着したポリマー材料のフィルム14を形成した後、剥離シート18上に付けられた感圧性接着剤16を前記ポリマー材料のあいている方の表面に適用することからなり、 適用の際には、手当材料が置かれ感圧性接着剤16が患者に接着された後で、キャリアシート12がポリマー材料の表面から取り除かれ、 外傷治療用に適用することができ、 熱可塑性ポリウレタンポリマーを合成ポリマー材料として用いる包被手当材料の製造方法。」 イ 対比 本件発明と甲1発明を対比する。 甲1発明の「ポリマー材料のフィルム14」は、本件発明の「伸縮性基材部」に相当し、同様に、「感圧性接着剤16」は「粘着部」に、「剥離シート18」は「剥離部」に、「ポリマーの水性分散液」は「溶液ポリマー」に、「包被手当材料」は「処置用医療用テープ」に、それぞれ相当する。 甲1発明の「外傷」と、本件発明の「創」とは、本件発明の「処置用医療用テープ」が「皮膚に貼付」されるものであるから、「外傷」という限りで一致する。 甲1発明の「キャリアシート12」と、本件発明の「前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を有する内部応力保持部」とは、「キャリアシート」という限りで一致する。 甲1発明の「該分散液を乾燥してキャリアシート12に付着したポリマー材料のフィルム14を形成」することと、本件発明の「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記内部応力保持部との積層を完了させ、前記内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する」こととは、「前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記キャリアシートとの積層を完了させる」ことという限りで一致する。 甲1発明の「剥離シート18上に付けられた感圧性接着剤16を前記ポリマー材料のあいている方の表面に適用する」ことと、本件発明の「前記伸縮性基材部に対して前記内部応力保持部とは反対側の面に順に前記粘着部、前記剥離部を積層する」こととは、「前記伸縮性基材部に対して前記キャリアシートとは反対側の面に前記粘着部、前記剥離部を積層する」ことという限りで一致する。 そうすると、本件発明と甲1発明との間には、以下の一致点、相違点を有する。 【一致点】 「外傷および外傷周辺の皮膚を覆い伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部と、キャリアシートを備え、下層から前記キャリアシート、前記伸縮性基材部、前記粘着部、及び前記剥離部の順に設けられている外傷の処置用医療用テープの製造方法であって、 前記キャリアシートの上層に、後に前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布する工程、 次いで、前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記キャリアシートとの積層を完了させる工程、 次いで、前記伸縮性基材部に対して前記キャリアシートとは反対側の面に前記粘着部、前記剥離部を積層する工程を備え、 使用時に、前記キャリアシートを取り除く、外傷の処置用医療テープの製造方法。」 【相違点1】 本件発明では「創」の処置用医療テープであるのに対して、甲1発明では「外傷」の包被手当材料である点。 【相違点2】 「キャリアシート」に関して、本件発明では「前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する機能を有する内部応力保持部」であるのに対して、甲1発明ではそのような機能を有するか明らかでない点。 【相違点3】 溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して伸縮性基材部とキャリアシートとの積層を完了させることに関して、本件発明では「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記内部応力保持部との積層を完了させ、前記内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する」のに対して、甲1発明では「該分散液を乾燥してキャリアシート12に付着したポリマー材料のフィルム14を形成」するものであり、有効収縮力を備えさせた状態で完了するか明らかでない点。 【相違点4】 伸縮性基材部に対してキャリアシートとは反対側の面に粘着部、剥離部を積層する工程に関して、本件発明では「前記伸縮性基材部に対して前記内部応力保持部とは反対側の面に順に前記粘着部、前記剥離部を積層する」のに対して、甲1発明では「剥離シート18上に付けられた感圧性接着剤16を前記ポリマー材料のあいている方の表面に適用する」点。 【相違点5】 使用時に、キャリアシートを取り除くことで、本件発明では「前記伸縮性基材部内に存在する有効収縮力を放出させる」のに対して、甲1発明ではそのような力を放出させるか明らかでない点。 ウ 判断 事案に鑑み、「有効収縮力」に係る相違点2、3及び5から検討する。 本件発明は、「前記伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了し、並行して前記伸縮性基材部と前記内部応力保持部との積層を完了させ、前記内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する工程」を含み、「使用時に、前記内部応力保持部を取り除くことで前記伸縮性基材部内に存在する有効収縮力を放出させる」「創の処置用医療テープの製造方法」である。そして、このような発明特定事項を有することにより、伸縮性基材部全体が収縮して(上記2(2)参照)、「この放出された有効収縮力は、創離開方向へ働く生理的張力に抗する方向に効率よく作用し、伸縮性基材部を生理的張力に抗する方向に収縮させると共に、創および創周辺の皮膚を創離開方向へ働く生理的張力に抗する方向に収縮させることで、縫合した創に対して、創離開方向に抗する方向から縫合した創周辺の皮膚をわずかに弛ませることができ、縫合した創周辺の皮膚が被る創離開方向へ働く生理的張力、並びに該生理的張力に伴う縫合糸に作用する張力を持続的に減少させることが可能となる。」(【0014】)等の効果を奏する。 これに対して、甲1には、「伸縮性基材部内に有効収縮力を備えさせた状態で前記溶液ポリマーの製膜を完了」させること、「内部応力保持部により、前記伸縮性基材部内の有効収縮力を保持する」こと、「内部応力保持部を取り除くことで前記伸縮性基材部内に存在する有効収縮力を放出させる」ことについて、記載も示唆もされていない。 また、溶液ポリマーの製膜時に乾燥過程で収縮応力が生じ、当該収縮応力が、得られるフィルムに内在することが周知の事項であっても、このような収縮応力の発生状況は、種々の製膜条件で変化することが技術常識であるから、甲1において、伸縮性基材部全体を収縮させる有効収縮力を備えることが記載されているに等しい事項であるとはいえない(例えば、甲1発明の「分散液を乾燥してキャリアシート12に付着したポリマー材料のフィルム14」のあいている方の表面に収縮応力が生じているとは必ずしもいえない。)。 さらに、甲1には、「さらに水性エマルジヨンまたは分散液からつくられたこれらのポリウレタンは人間の身体に非常によく順応し、皮膚のすき間やしわを満たす。」(第5ページ左下欄第18行~右下欄第1行)、「さらに、ポリマー材料が患者の身体の輪郭に順応するような低いモジユラスをもつため、ポリマー材料は高度の可撓性をもち端部が巻き上ることがなく包被手当材料は適用された時長期にわたつてその位置に留まる。」(第6ページ左下欄第3~7行)と記載されており、甲1発明の「ポリマー材料のフィルム14」は、皮膚のすき間やしわを満たすような低いモジュラスを持つものである。そのため、甲1発明の「ポリマー材料のフィルム14」に対して、本件発明のような生理的張力を減少させる有効収縮力を持たせるようにする動機付けがないし、有効収縮力を持つようにモジュラスを高くすることには、皮膚のすき間やしわを満たすことができなくなり得る阻害事由がある。 そうすると、上記相違点2、3及び5は、実質的なものであり、上記相違点2、3及び5に係る本件発明の構成は、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 よって、本件発明は、上記相違点1及び4について検討するまでもなく、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第4 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700394

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