特許異議申立
2022-700066
無線LAN通信装置
- 審判番号
- 2022-700066
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-214519
- 登録番号
- 6908850
- 請求日
- 2022年01月26日
- 審決日
- 2022年06月08日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社バッファロー
- 【権利者代理人】弁理士法人明成国際特許事務所
- 【異議申立人】遠藤 真美
- 審判長/審判官
- 審判長 伊藤 隆夫
- 審判官 福田 正悟
- 審判官 丸山 高政
- 分類
- P1651.121-Y (H04B) / P1651.537-Y (H04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6908850号発明「無線LAN通信装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6908850号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6908850号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、平成29年11月7日に出願され、令和3年7月6日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年1月26日に特許異議申立人 遠藤 真美は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~15の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明15」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
無線LAN通信装置であって、
5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、
5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれかを用いて無線通信を実行する第2の無線通信部と、
2401-2483MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部と、
前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、
前記第2の無線通信部および前記第3の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部と、を備え、
1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い、
無線LAN通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線LAN通信装置であって、
前記第1のアンテナ部のアンテナ利得は、前記第2のアンテナ部のアンテナ利得より高い、無線LAN通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の無線LAN通信装置であって、
前記第1のアンテナ部の指向性は、前記第2のアンテナ部の指向性より高い、無線LAN通信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の無線LAN通信装置であって、さらに、
前記第1の無線通信部と前記第2の無線通信部と前記第3の無線通信部とを収容する筐体と、
前記第1のアンテナ部の向きを変える回転軸を有し、前記第1のアンテナ部のアンテナビームのアンテナ利得が最大になる方向である最大利得方向を変更する方向変更部と、を備え、
前記第1のアンテナ部は、前記筐体の外壁面に配置されている、無線LAN通信装置。
【請求項5】
請求項4に記載の無線LAN通信装置であって、さらに、
外部から視認可能な識別部であって、前記第1のアンテナ部を識別するための識別部を備える、無線LAN通信装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の無線LAN通信装置であって、
前記方向変更部は、水平方向と前記最大利得方向とのなす角度を変更可能である、無線LAN通信装置。
【請求項7】
請求項6に記載の無線LAN通信装置であって、
前記方向変更部は、前記最大利得方向を、水平方向から鉛直上方向までの範囲と、水平方向から鉛直下方向までの範囲と、の少なくともいずれか一方を含む範囲で変更可能である、無線LAN通信装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の無線LAN通信装置であって、
前記方向変更部は、さらに、水平方向における、前記最大利得方向を変更可能である、無線LAN通信装置。
【請求項9】
請求項4から請求項8のいずれか一項に記載の無線LAN通信装置であって、
前記外壁面は、前記筐体の側面である、無線LAN通信装置。
【請求項10】
請求項4から請求項9のいずれか一項に記載の無線LAN通信装置であって、
前記第2のアンテナ部は、前記筐体の内部に収容されている、無線LAN通信装置。
【請求項11】
請求項3から請求項10のいずれか一項に記載の無線LAN通信装置であって、さらに、
外部から視認可能な方向表示部であって、前記第1のアンテナ部のアンテナビームのアンテナ利得が最大になる方向である最大利得方向を示す方向表示部を備える、無線LAN通信装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の無線LAN通信装置であって、さらに、
前記第1の無線通信部から前記第1のアンテナ部に入力される電力を増幅する第1のパワーアンプと、
前記第2の無線通信部から前記第2のアンテナ部に入力される電力を増幅する第2のパワーアンプと、を備え、
前記第1のパワーアンプによって増幅された電力は、前記第2のパワーアンプによって増幅された電力より高い、無線LAN通信装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の無線LAN通信装置であって、
前記第1の無線通信部は、前記5470-5725MHzの周波数帯域に属する複数のチャネルをまとめて使用するチャネルボンディングを用いた前記無線通信を実行する、無線LAN通信装置。
【請求項14】
請求項13に記載の無線LAN通信装置であって、
前記第1の無線通信部は、前記チャネルボンディングを用いることで、前記第3の無線通信部が実行する前記無線通信に用いられる帯域幅よりも、広い帯域幅を用いて前記無線通信を実行する、無線LAN通信装置。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の無線LAN通信装置であって、
前記第1のアンテナ部は、複数のアンテナを有し、
前記第1の無線通信部は、MIMO方式の前記無線通信を実行する、無線LAN通信装置。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人 遠藤 真美は、主たる証拠として、特開2016-19192号公報(以下、「甲1」という。)、及び、特開2015-159475号公報(以下、「甲2」という。)、並びに、従たる証拠として、前記甲2、特開2002-33714号公報(以下、「甲3」という。)、特開2007-134951号公報(以下、「甲4」という。)、社団法人電子情報通信学会編「アンテナ工学ハンドブック(第2版)」(以下、「甲5」という。)、特開2005-123983号公報(以下、「甲6」という。)、特開2004-180038号公報(以下、「甲7」という。)、特開2003-264410号公報(以下、「甲8」という。)、特表2007-515861号公報(以下、「甲9」という。)、及び、特開2015-26896号公報(以下、「甲10」という。)を提出し、以下の申立理由1及び2の理由により、請求項1~15に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
申立理由1:請求項1~15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。
申立理由2:請求項1、12~15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである(同法第113条第4号)。
そして、申立理由1は、主たる証拠により以下の2つの理由に分けることができる。
申立理由1-1:請求項1~15に係る特許は、当業者が甲1に記載された発明から容易に想到し得るから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。
申立理由1-2:請求項1~15に係る特許は、当業者が甲2に記載された発明から容易に想到し得るから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。
第4 書証の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項(下線は強調のため当審にて付与した。以下同様。)が記載されている。
(1)「【背景技術】
【0002】
無線LANで使用可能な周波数帯域には、無線LAN以外の無線通信システムによって使用される周波数帯域がある。例えば、5GHz帯は、レーダ通信にも使用される。
【0003】
無線LANによる無線通信では、レーダとの干渉を回避することが義務付けられている。このため、無線LAN通信装置には、DFS(Dynamic Frequency Selection)と称される機能が搭載されている。DFSは、無線LANによる無線通信がレーダに影響を与えないように、無線LANで使用するチャンネルを動的に変更する機能である。
【0004】
DFSでは、レーダの使用帯域に属するチャンネルの使用開始前に、そのチャンネルに対するレーダ波のモニタリングを少なくとも60秒間行う。
【0005】
しかし、このようなレーダ波のモニタリングにより、無線LANによる無線通信の開始が遅延していた。
【0006】
このため、無線通信装置では、無線通信を迅速に開始することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-120033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本実施形態は、無線通信を迅速に開始することができる無線通信装置および無線通信方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の無線通信装置は、第1の無線部と、第2の無線部と、チャンネル切換部と、検出部と、制御部とを備える。第1の無線部には、第1の無線通信システムの使用帯域のうちの第2の無線通信システムの使用帯域外の第1の帯域に属する第1のチャンネルが設定される。第2の無線部には、第1の無線通信システムの使用帯域のうちの第2の無線通信システムの使用帯域内の第2の帯域に属するチャンネルが設定される。チャンネル切換部は、第2無線部に設定されたチャンネルの切換えを行う。検出部は、第2無線部による第2の帯域に属するチャンネルにおける受信結果に基づいて、第2の無線通信システムによる通信信号の検出処理を実行する。制御部は、第1、第2無線部、チャンネル切換部及び検出部を制御して、第1の無線通信システムによる無線通信を実行する。制御部は、第1無線部を用いた第1のチャンネルでの無線通信を開始し、かつ、検出部に検出処理を実行させる。その後、制御部は、チャンネル切換部に、第2無線部に設定されたチャンネルを検出処理の結果に応じたチャンネルに切換えさせる。そして、制御部は、第1及び第2無線部を用いた無線通信に移行する。」
(2)「【0013】
図1に示すように、無線通信装置10は、第1無線部11、第2無線部12、チャンネル切換部13、レーダ検出部14および制御部15を備える。なお、レーダ検出部14は、検出部の一例である。」
(3)「【0015】
以上のような各構成部を備える本実施形態の無線通信装置10は、第1の無線通信システムの一例としての無線LANによる無線通信すなわちIEEE802.11規格に基づく無線通信を行う。」
(4)「【0017】
図1に示すように、第1無線部11には、第1アンテナ11aが接続されている。
【0018】
第1無線部11には、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域外の第1の帯域に属する第1のチャンネルが設定される。なお、レーダシステムは、第2の無線通信システムの一例である。」
(5)「【0022】
図2に示すように、5GHz帯は、W52、W53およびW56の3つの帯域に区分される。
【0023】
W52は、5.15GHz~5.25GHzにわたる帯域である。図2に示すように、W52には、36ch、40ch、44chおよび48chの4つのチャンネルが属している。
【0024】
W53は、5.25GHz~5.35GHzにわたる帯域である。図2に示すように、W53には、52ch、56ch、60chおよび64chが属している。
【0025】
W56は、5.47GHz~5.725GHzにわたる帯域である。図2に示すように、W56には、100ch、104ch、108ch、112ch、116ch、120ch、124ch、128ch、132ch、136chおよび140chが属している。
【0026】
以上の3つの帯域W52、W53、W56のうち、W52は、レーダシステムの使用帯域外の帯域である。
【0027】
すなわち、W52は、第1の帯域の一例である。前述した第1のチャンネルは、W52に属するいずれのチャンネルであってもよく、または、2.4GHz帯に属するチャンネルであってもよい。」
(6)「【0029】
一方、W53およびW56は、レーダシステムの使用帯域内の帯域である。
【0030】
なお、W53は、無線LANを屋内限定で使用可能な帯域である。また、W56は、無線LANを屋外でも使用可能な帯域である。」
(7)「【0032】
図1に示される第1無線部11は、第1アンテナ11aを介して、無線LANによる通信信号を、第1のチャンネルで送受信する。」
(8)「【0049】
図1に示すように、第2無線部12には、第2アンテナ12aが接続されている。
【0050】
第2無線部12には、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域内の第2の帯域に属するチャンネルが設定される。前述したW53およびW56は、第2の帯域の一例である。」
(9)「【0081】
一方、検出処理によって、第2の帯域内に、レーダシステムによる通信信号が不検出の第2のチャンネルが検知される場合がある。
【0082】
このように、第2の帯域内に第2のチャンネルが検知される場合、制御部15は、チャンネル切換部13に、第2無線部12に設定されたチャンネルを第2のチャンネルに切換えさせる。
【0083】
この第2のチャンネルへのチャンネル切換えにより、制御部15は、第1無線部11および第2無線部12を用いた第1のチャンネルおよび第2のチャンネルでの無線通信に移行する。」
(10)「【0119】
以上のように、本実施形態の無線通信装置10によれば、DFSを動作させることが不要な第1のチャンネルを用いて、第1無線部11を用いた無線通信を速やかに開始させることができる。」
(11)「図1
[図:0001386169000001.jpg]
」
(12)「図2
[図:0001386169000002.jpg]
」
(13)前記(1)~(12)によれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「無線LANによる無線通信を行う無線通信装置10であって(【0015】)、
第1無線部11、第2無線部12を備え(【0013】)、
第1無線部11には、第1アンテナ11aが接続されていると共に、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域外の第1の帯域に属する第1のチャンネルが設定され(【0017】、【0018】)、
第1無線部11は、第1アンテナ11aを介して、無線LANによる通信信号を、第1のチャンネルで送受信し(【0032】)、
5GHz帯は、W52、W53およびW56の3つの帯域に区分され、W52は、5.15GHz~5.25GHzにわたる帯域であり、W53は、5.25GHz~5.35GHzにわたる帯域であり、W56は、5.47GHz~5.725GHzにわたる帯域であり、3つの帯域W52、W53、W56のうち、W52は、レーダシステムの使用帯域外の帯域であり、W52は、第1の帯域の一例であり、第1のチャンネルは、W52に属するいずれのチャンネルであってもよく、または、2.4GHz帯に属するチャンネルであってもよく(【0022】~【0027】)、
W53およびW56は、レーダシステムの使用帯域内の帯域であり、W53は、無線LANを屋内限定で使用可能な帯域であり、また、W56は、無線LANを屋外でも使用可能な帯域であり(【0029】、【0030】)、
第2無線部12には、第2アンテナ12aが接続されていると共に、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域内の第2の帯域に属するチャンネルが設定され、W53およびW56は、第2の帯域の一例であり(【0049】、【0050】)、
第2の帯域内に、レーダシステムによる通信信号が不検出の第2のチャンネルが検知される場合、第2無線部12に設定されたチャンネルを第2のチャンネルに切換え、第1無線部11および第2無線部12を用いた第1のチャンネルおよび第2のチャンネルでの無線通信に移行する(【0081】~【0083】)、
無線通信装置10。」
2 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0011】
同様に、特許文献2乃至5のいずれにも、それぞれ異なる周波数帯を使用する複数の通信回線による通信を行うための複数の通信部を有する通信装置において、当該複数の通信部のうちの1つまたは複数を任意に選択して容易に通信を行うことを可能とする点、また、通信に使用していない通信部への電力の供給を停止する点のいずれも明記されていない。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点、すなわち、通信を容易に有効化したいという課題と消費電力を削減したいという課題のうちの少なくとも一方を解決できる通信装置および通信システムを提供することにある。」
(2)「【0021】
図1を参照すると、本実施形態は、複数のアンテナ16乃至18と、該複数のアンテナのそれぞれに対応した通信部13乃至15と、無線制御手段11と、電源管理部12とを含む、通信装置10から構成される。
【0022】
複数のアンテナ16乃至18は、複数の帯域に対応する。アンテナ16乃至18は、それぞれ第1乃至第3の通信部13乃至15に接続される。
【0023】
第1の通信部13は、第1の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有する。
【0024】
第2の通信部14は、第2の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有する。
【0025】
第3の通信部15は、第3の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有する。」
(3)「【0037】
以上、本実施形態では、それぞれ異なる周波数帯域を割り当てられた複数の通信規格に基づく複数の通信を行うための複数の通信部を備えた通信装置において、当該複数の通信部のうちの1つまたは複数を任意に選択して通信を行うことが可能である。また、ある周波数帯域での通信が必要なときに、その通信を容易に有効化することができる。その理由は、無線制御手段11が、ある周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信の開始を要求する通信開始信号を、給電されている通信部から受信し、電源管理部12に、当該周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を開始させるからである。
【0038】
また、本実施形態では、通信に使用していない通信部の電力消費を低減できるという効果がある。その理由は、無線制御手段11が、ある周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信の停止を要求する通信停止信号を、給電されている通信部から受信すると、電源管理部12に、当該周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を停止させるようにしたからである。
【0039】
一方で、日本国内において、無線LAN通信の特定の周波数帯域は、屋外使用する場合、無線LAN通信以外の他の電波との干渉が生じるため利用制限がかけられている。それに対し屋内で使用する場合はそのような利用制限は、病院等の電波障害の影響を受けやすい施設を除き、無い。そのため、屋内および屋外の両方で利用可能な可搬型の無線通信装置では、当該無線通信装置が屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて利用可能な周波数帯域を容易に選択可能としたいという要望がある。
【0040】
この要望に対して、本実施形態は、利用者が希望する周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信の開始を要求する通信開始信号を、給電されている通信部から受信し、電源管理部12に、当該周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を開始させることにより、屋内外で利用可能な周波数帯域を容易に選択可能とする。」
(4)「図1
[図:0001386169000003.jpg]
」
(5)前記(1)~(4)によれば、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
<甲2発明>
「通信装置10であって、
複数のアンテナ16乃至18と、該複数のアンテナのそれぞれに対応した通信部13乃至15と、無線制御手段11と、電源管理部12と、を備え(【0021】)、
複数のアンテナ16乃至18は、複数の帯域に対応し、それぞれ第1乃至第3の通信部13乃至15に接続され(【0022】)、
第1の通信部13は、第1の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有し(【0023】)、
第2の通信部14は、第2の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有し(【0024】)、
第3の通信部15は、第3の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有し(【0025】)、
日本国内において、無線LAN通信の特定の周波数帯域は、屋外使用する場合、無線LAN通信以外の他の電波との干渉が生じるため利用制限がかけられており、それに対し屋内で使用する場合はそのような利用制限は、病院等の電波障害の影響を受けやすい施設を除き、無く、そのため、屋内および屋外の両方で利用可能な可搬型の無線通信装置では、当該無線通信装置が屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて利用可能な周波数帯域を容易に選択可能としたいという要望があり(【0039】)、
当該要望に対して、利用者が希望する周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信の開始を要求する通信開始信号を、給電されている通信部から受信し、電源管理部12に、当該周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を開始させることにより、屋内外で利用可能な周波数帯域を容易に選択可能とする(【0040】)、
通信装置10。」
3 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0015】図8は、その無線通信機器の一例を示す。この例の無線通信機器は、無線通信部70が、パケット組立分解部を構成するMAC71、変復調部を構成するBBP72、およびフロントエンド部73によって構成されるとともに、そのフロントエンド部73が、2.4GHz帯のフロントエンド回路80aおよび5GHz帯のフロントエンド回路80bを備えるものである。」
(2)「【0021】このようなマルチバンド無線通信機器によれば、同一エリア内で同時に設定可能なチャンネル数が大幅に増加する。すなわち、2.4GHz帯を無線周波数帯とする場合には、同一エリア内で同時に設定可能なチャンネル数は、図11に示したように最大で3チャンネルであり、5GHz帯を無線周波数帯とする場合には、同一エリア内で同時に設定可能なチャンネル数は、図12に示したように最大で4チャンネルであるのに対して、図8の無線通信機器では、2.4GHz帯と5GHz帯のいずれでもチャンネル設定が可能であるので、同一エリア内で同時に設定可能なチャンネル数は最大で7チャンネルとなる。」
(3)「図8
[図:0001386169000004.jpg]
」
図8の記載によれば、2.4GHz帯のフロントエンド回路80aおよび5GHz帯のフロントエンド回路80bにアンテナ79が接続されている。
(4)「図11
[図:0001386169000005.jpg]
」
(5)「図12
[図:0001386169000006.jpg]
」
(6)前記(1)~(5)によれば、甲3には、以下の技術(以下、「甲3記載技術」という。)が記載されている。
<甲3記載技術>
「無線通信機器において、2.4GHz帯のフロントエンド回路80aおよび5GHz帯のフロントエンド回路80bにアンテナ79を接続する技術。」
4 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0003】
無線LAN機器では、例えば、2.4GHz帯の電波が利用される。日本においては、2.4GHz帯の電波を利用する無線LAN機器は、小電力データ通信システムの規格を満足する必要がある。例えば、2.471~2.497GHzの電波が利用される場合には、通信装置の出力電力は、10mW/MHz以下に制限されると共に、通信装置のアンテナ利得は、2.14dBi以下に制限される。」
(2)「【0030】
A.第1実施例:
A-1.通信システムの構成:
図1は、通信システムの一例を示す説明図である。図1では、2つの通信デバイス50A,50Bが図示されている。第1の通信デバイス50Aは、外部のアンテナモジュール200が接続されたアクセスポイント100である。第2の通信デバイス50Bは、カード型の通信用アダプタ400が実装されたコンピュータ300である。なお、アクセスポイントは、図示しない有線LANに接続されている。
【0031】
本実施例では、2つの通信デバイス50A,50Bの間では、5GHz帯の周波数を利用する無線通信が行われる。より具体的には、第1の周波数帯域(5.15~5.35GHz)または第2の周波数帯域(5.47~5.725GHz)を利用して、無線通信が行われる。
【0032】
なお、本実施例におけるアクセスポイント100が本発明における通信装置に相当する。
【0033】
A-1-1.アクセスポイントの内部構成:
図2は、アクセスポイント100の内部構成を示す説明図である。図示するように、アクセスポイント(以下、単に「AP」とも呼ぶ)100は、コネクタ101を備えており、コネクタ101を介して、外部アンテナモジュール200と接続されている。具体的には、AP100とアンテナモジュール200とは、AP100のコネクタ101と、アンテナモジュール200に付属するケーブルCBの先端に設けられたコネクタ201と、を係合させることによって、接続される。
【0034】
AP100は、CPU110と、処理回路120と、RF(高周波)トランシーバ回路130と、切替器160と、通知部190と、を備えている。なお、CPU110と処理回路120との間は、バス(例えばPCIバス)で接続されている。
【0035】
RFトランシーバ回路130と切替器160とは、受信用信号線RLと送信用信号線TLとを介して接続されている。受信用信号線RLには、第1の増幅器142が設けられている。また、送信用信号線TLには、第2の増幅器144と、低減回路150と、が設けられている。」
(3)「【0055】
アンテナ素子210aは、0dBiのアンテナ利得を有している。なお、「dBi」は、無指向性アンテナを基準とした値を意味している。アンテナ利得は、アンテナ素子210aの構造に応じて決定される。アンテナ素子210aは、第1の周波数帯域で共振する。ただし、アンテナ素子210aは、第2の周波数帯域においても動作可能である。」
(4)「【0063】
A-2.規格:
第1の周波数帯域(5.15~5.35GHz)の規格(小電力データ通信システム規格)に依れば、AP100の出力電力は10mW/MHz以下に制限され、アンテナモジュール200のアンテナ利得は0dBi以下に制限される。換言すれば、AP100とアンテナモジュール200とを組み合わせたときの実効放射電力(EIRP:Effective Isotropic Radiated PowerあるいはEquivalent Isotropic(ally)Radiated Power)の値は、10dBm/MHz以下に制限される。なお、EIRP(dB)は、送信機の出力をPt(dB)とし、アンテナ利得をGa(dB)とすると、Pt(dB)+Ga(dB)で表される。
【0064】
第2の周波数帯域(5.47~5.725GHz)の規格は、現時点では定まっていない。ただし、現時点で予測される第2の周波数帯域の規格に依れば、AP100の出力電力は10mW/MHz以下に制限され、アンテナ利得は7dBi以下に制限される。換言すれば、AP100とアンテナモジュール200とを組み合わせたときの実効放射電力(EIRP)の値は、17dBm/MHz以下に制限される。」
(5)「【0066】
ところで、本実施例では、図2に示す2つのアンテナモジュールのコネクタ201a,201bは、同じ形状を有しており、AP100のコネクタ101に接続可能である。すなわち、AP100には、第1の周波数帯域での利用に適した第1のアンテナモジュール200aと、第2の周波数帯域での利用に適した第2のアンテナモジュール200bと、の双方を接続可能である。」
(当審注:前記「図2」は、「図3」の誤記と認める。)
(6)「【0069】
A-3.アクセスポイントの動作:
図4は、アクセスポイント100の動作の概要を示す説明図である。前述したように、AP100は、第1の周波数帯域(5.15~5.35GHz)を利用して通信可能であると共に、第2の周波数帯域(5.47~5.725GH)を利用して通信可能である。
【0070】
A-3-1.使用周波数帯域が第1の周波数帯域である場合の動作:
まず、使用周波数帯域が第1の周波数帯域(5.15~5.35GHz)である場合のAP100の動作について説明する。
【0071】
第1の周波数帯域での利用に適した第1のアンテナモジュール200a(図3(A))がAP100に接続される場合には、比較器180に入力される信号線電圧Vsの値は、内部電源電圧Voの値(例えば3.3V)とほぼ等しい。本実施例では、参照電圧Vref1の値は、例えば2Vに設定されている。このため、参照電圧Vref1の値(2V)は、信号線電圧Vsの値(3.3V)よりも小さく、比較器180の出力は「0」(Lレベル)に設定される(図4参照)。」
(7)「【0076】
このため、比較的低いアンテナ利得(0dBi)を有する第1のアンテナモジュール200aが接続された場合には、RFトランシーバ回路130から出力された変調波(変調済み信号)の強度は低減されず、AP100は、規格を満足する強度(10dBm/MHz)を有する電波を放射することができる。一方、比較的高いアンテナ利得(7dBi)を有する第2のアンテナモジュール200bが接続された場合には、RFトランシーバ回路130から出力された変調波(変調済み信号)の強度は低減されるため、AP100は、規格を満足しない強度(17dBm/MHz)を有する電波を放射せずに済み、規格を満足する強度(10dBm/MHz)を有する電波を出力することができる。」
(8)「【0078】
A-3-2.使用周波数帯域が第2の周波数帯域である場合の動作:
次に、使用周波数帯域が第2の周波数帯域(5.47~5.725GHz)である場合のAP100の動作について説明する。
【0079】
前述したように、第1の周波数帯域での利用に適した第1のアンテナモジュール200aがAP100に接続される場合には、比較器180の出力は「0」(Lレベル)に設定される。また、第2の周波数帯域での利用に適した第2のアンテナモジュール200bがAP100に接続される場合には、比較器180の出力は「1」(Hレベル)に設定される。
【0080】
CPU110は、比較器180の出力に応じて低減回路150の減衰量を設定する。具体的には、図4に示すように、比較器180の出力が「0」である場合(第1のアンテナモジュール200aが接続された場合)には、CPU110は、低減回路150の減衰量を「減衰無し(0dB)」に設定する。また、比較器180の出力が「1」である場合(第2のアンテナモジュール200bが接続された場合)にも、CPU110は、低減回路150の減衰量を「減衰無し(0dB)」に設定する。
【0081】
このため、比較的低いアンテナ利得(0dBi)を有する第1のアンテナモジュール200aが接続された場合、および、比較的高いアンテナ利得(7dBi)を有する第2のアンテナモジュール200bが接続された場合の双方において、RFトランシーバ回路130から出力された変調波(変調済み信号)の強度は低減されず、AP100は、規格を満足する電波を出力することができる。ただし、第1のアンテナモジュール200aが接続された場合には、放射される電波の電力は、規格の上限値(17dBm/MHz)よりも7dBだけ小さな値(10dBm/MHz)となる。」
(9)「【0137】
(4)上記実施例では、第2の周波数帯域を使用するAPに第1のアンテナモジュール200aが接続された場合には、放射される電波の電力は、規格の上限値(17dBm/MHz)よりも7dBだけ小さな値(10dBm/MHz)である。しかしながら、上記の場合には、放射される電場の電力が規格の上限値(17dBm/MHz)に設定されるようにしてもよい。この場合には、例えば、処理回路120および/またはRFトランシーバ回路130内部の増幅器の目標利得を増大させればよい。」
(10)「図1
[図:0001386169000007.jpg]
」
(11)「図2
[図:0001386169000008.jpg]
」
(12)「図3
[図:0001386169000009.jpg]
」
(13)「図4
[図:0001386169000010.jpg]
」
(14)前記(1)~(13)によれば、甲4には、以下の技術(以下、「甲4記載技術」という。)が記載されている。
<甲4記載技術>
「外部のアンテナモジュール200が接続されたアクセスポイント100であって(【0030】)、
AP100には、第1の周波数帯域での利用に適した第1のアンテナモジュール200aと、第2の周波数帯域での利用に適した第2のアンテナモジュール200bと、の双方を接続可能であり(【0066】)
使用周波数帯域が第1の周波数帯域(5.15~5.35GHz)である場合のAP100の動作では、第1のアンテナモジュール200aが接続された場合には、AP100は、規格を満足する強度(10dBm/MHz)を有する電波を放射することができ、第2のアンテナモジュール200bが接続された場合には、RFトランシーバ回路130から出力された変調波の強度は低減されるため、規格を満足する強度(10dBm/MHz)を有する電波を出力し(【0070】、【0076】)、
使用周波数帯域が第2の周波数帯域(5.47~5.725GHz)である場合のAP100の動作では、第1のアンテナモジュール200aが接続された場合、および、第2のアンテナモジュール200bが接続された場合の双方において、RFトランシーバ回路130から出力された変調波の強度は低減されず、ただし、第1のアンテナモジュール200aが接続された場合には、放射される電波の電力は、10dBm/MHzとなる(【0078】、【0081】)
アクセスポイント100。」
5 甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(1)「ある程度利得の高いアンテナの指向性は,いくつかのローブとナルにより構成される.最も強い放射を行う方向を主ビーム方向と呼び,またそのローブを主ローブあるいは主ビームと呼ぶ.」(35頁)
(2)「
[図:0001386169000011.jpg]
」(35頁 図 2・26)
(3)前記(1)及び(2)によれば、甲5には、以下の技術(以下、「甲5記載技術」という。)が記載されている。
<甲5記載技術>
「ある程度利得の高いアンテナの指向性は、いくつかのローブとナルにより構成され、最も強い放射を行う方向を主ビーム方向と呼び、またそのローブを主ローブあるいは主ビームと呼ぶ、技術。」
6 甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0037】
このように本実施の形態においては、回転可能な指向性アンテナ11と、アンテナ11の向きを電波の到来方方向に向けるように駆動回路14を制御する制御部13とを備え、通信を開始する際に、制御部13は、まず低分解能でアンテナ11の向きを所定角度ずつ回転させると共に、この所定角度ごとにアンテナ11で受信した電波のレベルを検出し、検出された電波レベルに基づいて電波の到来方向を判断し、この判断結果に基づいて、アンテナ11の向きを電波の到来方向を含む所定範囲に回転させ、そして、この範囲で、高分解能でアンテナ11の向きを所定角度ずつ回転させると共に、この所定角度ごとにアンテナ11で受信した電波のレベルを検出し、検出された電波レベルに基づいて電波の到来方向を判断し、この判断結果に基づいて、アンテナ11の向きを電波の到来方向に回転させる。」
(2)「図1
[図:0001386169000012.jpg]
」
(3)前記(1)及び(2)によれば、甲6には、以下の技術(以下、「甲6記載技術」という。)が記載されている。
<甲6記載技術>
「回転可能な指向性アンテナ11と、アンテナ11の向きを電波の到来方方向に向けるように駆動回路14を制御する制御部13とを備え、通信を開始する際に、制御部13は、まず低分解能でアンテナ11の向きを所定角度ずつ回転させると共に、この所定角度ごとにアンテナ11で受信した電波のレベルを検出し、検出された電波レベルに基づいて電波の到来方向を判断し、この判断結果に基づいて、アンテナ11の向きを電波の到来方向を含む所定範囲に回転させ、そして、この範囲で、高分解能でアンテナ11の向きを所定角度ずつ回転させると共に、この所定角度ごとにアンテナ11で受信した電波のレベルを検出し、検出された電波レベルに基づいて電波の到来方向を判断し、この判断結果に基づいて、アンテナ11の向きを電波の到来方向に回転させる、技術。」
7 甲7の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0023】
【発明の実施の形態】
(実施の第1形態)
本発明の実施の第1形態の無線LANアクセスポイント10は,図1に示されているように,指向性アンテナ1を備えている。図2に示されているように,指向性アンテナ1は,アンテナ回転機構2に接続されている。アンテナ回転機構2は,指向性アンテナ1を回転して,指向性アンテナ1の向き(即ち,ゲインが最も高い方向)を変化させる。」
(2)「図1
[図:0001386169000013.jpg]
」
(3)「図2
[図:0001386169000014.jpg]
」
(4)前記(1)~(3)によれば、甲7には、以下の技術(以下、「甲7記載技術」という。)が記載されている。
<甲7記載技術>
「無線LANアクセスポイント10は、指向性アンテナ1を備えており、指向性アンテナ1は、アンテナ回転機構2に接続されており、アンテナ回転機構2は、指向性アンテナ1を回転して、指向性アンテナ1の向き(即ち、ゲインが最も高い方向)を変化させる、技術。」
8 甲8の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0037】図5は実施の形態1の複合アンテナ装置においての指向性アンテナ10を所望の方向に固定するための金具40の構造を説明する図であり、図6は実施の形態1の複合アンテナ装置においての無指向性アンテナ20を所望の方向に固定するための金具40の構造を説明する図である。なお、図5および図6においては、同軸ケーブル30は省略してある。
【0038】アンテナ支持部43aは、固定ネジ44aによって、その軸方向を中心に所望の回転角でアンテナ支持部42aに固定可能である。これによって、図5(a)および(b)に示すように、指向性アンテナ10を、アンテナ支持部43aの軸を中心に所望の回転角で固定できる。図5(a)ではアンテナ10のアンテナ平面が水平になるように固定されており、図5(b)ではアンテナ平面が垂直になるように固定されている。
【0039】また、アンテナ支持部43aの途中には、屈曲可動部432aが設けられており、この屈曲可動部432aは、固定ネジ45aによって、所望の屈曲角で固定可能である。これによって、図5(a)および(c)に示すように、指向性アンテナ10のアンテナ平面を、水平面または垂直面から所望の傾斜角で固定することができる。図6(c)では、水平面から傾斜角θ1で固定されている。」
(2)「図5
[図:0001386169000015.jpg]
」
(3)前記(1)及び(2)によれば、甲8には、以下の技術(以下、「甲8記載技術」という。)が記載されている。
<甲8記載技術>
「指向性アンテナ10のアンテナ平面を、水平面または垂直面から所望の傾斜角で固定する、技術。」
9 甲9の記載事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0006】
図3に簡略化して示した多入力多出力(MIMO)システム300では、複数のアンテナで同時並行的に送信し、複数のアンテナで同時並行的に受信することができる。より詳しくいうと、送信機301は、アンテナ302Aから(送信機チェーン303Aを用いて)およびアンテナ302Bから(送信機チェーン303Bを用いて)同時並行的に複数の信号を送信できる。同様に、受信機304は、アンテナ305Aから(受信機チェーン306Aを用いて)およびアンテナ305Bから(受信機チェーン306Bを用いて)同時並行的に複数の信号を受信できる。」
(2)「【0173】
なお、MIMO-SMおよびMIMO-AGには「ターボ」モードを加え得る。この「ターボ」モードはより広いチャネル帯域幅を意味し、2003年2月14日提出の米国特許出願第10/367,527号「複数変調タイプの信号のシンケンシングインタポーレータによる受信および送信」および2003年11月6日提出の米国特許出願第10/×××,×××号「データ伝送におけるマルチチャネルバインディング」に記載してある。これら出願をここに参照してその内容をこの明細書に組み入れる。概括的にいうと、ターボモードは、(1)ダブルクロッキングまたは(2)チャネルボンディング、すなわち二つの20MHzチャネル(両者間の間隙を潜在的に利用)を併せて用いることにより達成する。ダブルクロッキングにより正常モードと同じ副搬送波構成に達するが、各副搬送波の帯域幅は2倍になる。チャネルボンディングは各副搬送波の帯域幅を維持するが、副搬送波の数を増加させる。チャネルボンディングの一つの特定の例では、-58から-2、および+2から+58の114のトーンを用いる(DC近傍の三つのトーン、すなわち(-1、0、+1)は用いない)。」
(3)「図3
[図:0001386169000016.jpg]
」
(4)前記(1)~(3)によれば、甲9には、以下の技術(以下、「甲9記載技術」という。)が記載されている。
<甲9記載技術>
「チャネルボンディングは各副搬送波の帯域幅を維持するが、副搬送波の数を増加させ、チャネルボンディングの一つの特定の例では、-58から-2、および+2から+58の114のトーンを用いる(DC近傍の三つのトーン、すなわち(-1、0、+1)は用いない)、技術。」
10 甲10の記載事項
甲10には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0004】
集合住宅やオフィスビルでは、近接する複数の無線LANの無線通信エリアが重なり易くなる。11a/11n/11acにおいては、搬送波感知多重アクセス/衝突回避(CSMA/CA:Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)方式を採用する。CSMA/CA方式では、無線通信エリアが重なる複数の無線LAN親機がいずれも同じ無線チャネルを使用すると、その無線LAN親機が自ら利用する無線チャネルがビジーであるか否かを確認し、ビジーの場合、ランダム時間待って再確認しなければならず、重なる機数が多くなる程、通信効率が悪化する。11n/11acにおいては、複数の無線チャネルを束ねて同時に使用するチャネルボンディングが採用されているので、近接する無線LAN親機間において使用される無線チャネルが重複(競合)する可能性が高くなる。」
(2)「【0022】
図4に示すように、11a/11n/11acで利用可能な無線チャネル群は、5GHz帯に規定されており、各無線チャネルは、20MHzである。これら無線チャネルには、それぞれ36~140のチャネル番号が割り当てられている。基本通信モード(11a)で使用する1つの無線チャネルが基本チャネルとなる。
【0023】
第1の拡張通信モード(11n)で利用可能な基本チャネルと、これにチャネルボンディングする拡張用チャネルの組み合わせパターンは、(基本チャネル番号,拡張チャネル番号)として、(36,40)、(40,36)、(44,48)、(48,44)、(52,56)、(56,52)、(60,64)、(64,60)、(100,104)、(104,100)、(108,112)、(112,108)、(116,120)、(120,116)、(124,128)、(128,124)、(132,136)、(136,132)に限られている。
【0024】
第2の拡張通信モード(11ac)で利用可能な周波数帯は、(36,40,44,48)を合わせた周波数帯、(52,56,60,64)を合わせた周波数帯、(100,104,108,112)を合わせた周波数帯、(116,120,124,128)を合わせた周波数帯に限られる。基本チャネルが属する周波数帯のみが利用可能である。以下、(36,40,44,48)の周波数帯は、W52と呼ぶ。(52,56,60,64)の周波数帯は、W53と呼ぶ。(100,104,108,112,116,120,124,128)を合わせた周波数帯は、W56と呼ぶ。W52は、レーダ波で使用されない周波数帯である。W52、W53の使用は、屋内のみに限定される。W56は、屋内、屋外を問わず使用可能である。W53、W56は、レーダ波で使用される。W53、W56を使用する無線LAN親機は、レーダ波を検知すると、直ちに電波送出を停止する必要がある。
【0025】
第1の拡張通信モード(11n)で使用する周波数帯(いわゆる40MHzチャネル)、第2の拡張通信モード(11ac)で使用する周波数帯(いわゆる80MHzチャネル)のうち、基本チャネルを含む方の半分は、制御フレームの送受信、ビーコンフレームの送信、CSMA/CAによるビジー確認用の管理フレームの送受信に使用される周波数帯であり、プライマリチャネルと呼ばれる。残り半分は、プライマリチャネルで行うように規定されているフレームを除いたデータ通信にのみ使用される周波数帯であり、セカンダリチャネルと呼ばれる。」
(3)「図4
[図:0001386169000017.jpg]
」
(4)前記(1)~(3)によれば、甲10には、以下の技術(以下、「甲10記載技術」という。)が記載されている。
<甲10記載技術>
「複数の無線チャネルを束ねて同時に使用するチャネルボンディングを採用する、技術。」
第5 申立理由1-1についての当審の判断
1 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(1)本件発明1の『無線LAN通信装置であって、』について
ア 甲1発明の「無線通信装置10」は、無線LANによる無線通信を行うものであるから、『無線LAN通信装置』である。
(2)本件発明1の『5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、』について
ア 甲1発明の「第2の帯域の一例」である「5.47GHz~5.725GHzにわたる帯域」すなわち「W56」は、本件発明1の『5470-5725MHzの周波数帯域』である。
イ 甲1発明の「第2無線部12」の「第2」は、「第1無線部11」と区別するために付された序数詞であり、その順序自体には意味がない。したがって、甲1発明の「第2無線部12」を『第1の無線通信部』と称することは任意である。
ウ 甲1発明の「第2無線部12」には、「無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域内の第2の帯域に属するチャンネルが設定され」ているから、甲1発明の「第2無線部12」は、本件発明1の『無線通信を実行する第1の無線通信部』に対応する。
しかしながら、前記『無線通信を実行する』帯域は、本件発明1の『第1の無線通信部』では『5470-5725MHzの周波数帯域』の帯域のみであるのに対し、甲1発明の「第2無線部12」では「W53およびW56」すなわち「5.25GHz~5.35GHzにわたる帯域」及び「5.47GHz~5.725GHzにわたる帯域」の2帯域である点で相違する。
エ 前記ウで言及した事項を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、「5470-5725MHzを含む周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部」を備える点で共通する。
(3)本件発明1の『5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれかを用いて無線通信を実行する第2の無線通信部と、』について
ア 甲1発明の「第1の帯域の一例」である「W52」は、「5.15GHz~5.25GHz」にわたる帯域であるから、本件発明1の『5150-5250MHzの周波数帯域』である。
イ 甲1発明の「第1無線部11」の「第1」は、「第2無線部12」と区別するために付された序数詞であり、その順序自体には意味がない。したがって、甲1発明の「第1無線部11」を『第2の無線通信部』と称することは任意である。
ウ 甲1発明の「第1無線部11」は、「無線LANによる通信信号を、第1のチャンネル送受信」するものであるから、本件発明1の『無線通信を実行する第2の無線通信部』に対応する。
しかしながら、前記『無線通信を実行する』帯域は、本件発明1の『第2の無線通信部』では『5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれか』であるのに対し、甲1発明の「第1無線部11」では「第1のチャンネルは、W52に属するいずれのチャンネルであってもよく、または、2.4GHz帯に属するチャンネルであってもよ」い、すなわち、「5.15GHz~5.25GHzにわたる帯域」又は「2.4GHz帯」であるので、本件発明1と甲1発明とは『5150-5250MHzの周波数帯域』を用いる点で共通するが、甲1発明が『5250-5350MHzの周波数帯域』を使用せず「2.4GHz帯」を用いる点で相違する。
エ 前記ウで言及した事項を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、「5150-5250MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第2の無線通信部」を備える点で共通する。
(4)本件発明1の『2401-2483MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部と、』について
ア 甲1発明の「第1無線部11」が無線通信に用いる「2.4GHz帯」は、本件発明1の『2401-2483MHz』に対応する。
イ しかしながら、甲1発明の「無線通信装置10」が、「第1無線部11」とは別に、本件発明1の『2401-2483MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部』を備える旨は、甲1には開示されていない。
(5)本件発明1の『前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、』について
ア 甲1発明の「第2アンテナ12a」は、「第2無線部12」に「接続されている」アンテナであり、これを『第1のアンテナ部』と称することは任意である。
イ 前記ア及び前記(2)で言及した事項を踏まえると、甲1発明の「第2アンテナ12a」は、『第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部』である。
よって、本件発明1と甲1発明とは、『第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部』を備える点で一致する。
(6)本件発明1の『前記第2の無線通信部および前記第3の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部と、を備え、』について
ア 甲1発明の「第1アンテナ11a」は、「第1無線部11」に「接続されている」アンテナであり、これを『第2のアンテナ部』と称することは任意である。
イ 前記ア及び前記(3)で言及した事項を踏まえると、甲1発明の「第1アンテナ11a」は、『第2の無線通信部』『に接続されている第2のアンテナ部』であるといえる。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「第2の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部」を備える点で共通する。
(7)本件発明1の『1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い、』について
甲1発明の「無線通信装置10」において、本件発明1でいう『1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い』とする旨は、甲1には開示されていない。
前記(1)~(7)で言及した事項を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「無線LAN通信装置であって、
5470-5725MHzを含む周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、
5150-5250MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第2の無線通信部と、
前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、
前記第2の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部と、を備える、
無線LAN通信装置。」
そして、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の『第1の無線通信部』が無線通信を実行する帯域は、『5470-5725MHzの周波数帯域』のみであるのに対し、甲1発明の「第2無線部12」が無線通信を実行する帯域は、「W56」(5.47GHz~5.725GHzにわたる帯域)のみならず、「W53」(5.25GHz~5.35GHzにわたる帯域)も含まれる点。
<相違点2>
本件発明1の『第2の無線通信部』が無線通信を実行する帯域は、『5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれか』であるのに対し、甲1発明の「第1無線部11」が無線通信を実行する帯域は、「W52」(5.15GHz~5.25GHzにわたる帯域)であって、『5250-5350MHzの周波数帯域』が含まれない点。
<相違点3>
本件発明1は、『2401-2483MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部』を備えるのに対し、甲1発明で「2.4GHz帯」を用いるのは「第1無線部11」であり、本件発明1の『第3の無線通信部』に対応する無線部を備えない点。
加えて、甲1発明の「2.4GHz帯」が、『2401-2483MHzの周波数帯域』であるのか否かが明らかでない点。
上記に付随して、本件発明1では、『第2のアンテナ部』が『第2の無線通信部』及び『第3の無線通信部』に接続されているのに対し、甲1発明では、「第1アンテナ11a」が「第1無線部11」のみに接続されている点。
<相違点4>
本件発明1では、『1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い』のに対し、甲1発明では、「第2アンテナ12a」の電波出力と「第1アンテナ11a」の電波出力との関係が規定されていない点。
2 相違点についての判断
相違点1及び2について判断する。
(1)甲1発明の課題は、「無線LANで使用可能な5GHz帯は、レーダ通信にも使用されており、無線LAN通信装置では、レーダとの干渉を回避するためにDFSと称される機能が搭載されており、DFSではレーダの使用帯域に属するチャンネルの使用開始前に、そのチャンネルに対するレーダ波のモニタリングを少なくとも60秒間行うことから、無線LANによる無線通信の開始が遅延していたので、無線通信を迅速に開始することができる無線通信装置および無線通信方法を提供すること」であると理解できる(【0002】~【0008】)。
(2)そして、前記課題を解決するために、甲1発明では、無線通信装置10が、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域外の第1の帯域に属する第1のチャンネルが設定される「第1無線部11」と、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域内の第2の帯域に属するチャンネルが設定される「第2無線部12」と、を別個に備える構成とし、この構成により、DFSを動作させることが不要な第1のチャンネルを用いて、第1無線部11を用いた無線通信を速やかに開始させるものであると理解できる(【0009】、【0119】)。
(3)そうすると、甲1発明において、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域内であるW53(5.25GHz~5.35GHzにわたる帯域)およびW56(5.47GHz~5.725GHzにわたる帯域)に属する第2のチャンネルでの無線通信を行う第2無線部12から、「W53」を分離し、無線LANの使用帯域のうちのレーダシステムの使用帯域外であるW52(5.15GHz~5.25GHzにわたる帯域)に属する第1のチャンネルでの無線通信を行う第1無線部11に前記「W53」を追加することは、DFSを動作させないとした第1無線部11にレーダシステムの使用帯域内であるW53を含めることになり、その結果、第1無線部11においてもDFSの使用が必要となるから、前記(1)の課題及び前記(2)の課題を解決するための構成に反し、阻害要因がある。
(4)以上によれば、本件発明1の相違点1及び2に係る構成は、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本件発明2~15について
本件発明2~15は、いずれも、請求項1を引用して記載された発明であるから、少なくとも前記相違点1及び2が存在する。
したがって、本件発明2~15は、前記2と同様に、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 特許異議申立人の主張について
(1)甲1発明への甲2発明の適用について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の33~34頁において、以下の(ア)を根拠に、以下の(イ)を主張する。
(ア)甲2の【0038】~【0040】の記載(前記第4、2(3)を参照)を引用し、「すなわち、甲2には、無線通信装置が屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて、通信を停止する周波数帯域の通信部への電源供給を停止するために、屋内でのみ使用可能な周波数帯域で通信を行う通信部と屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域で通信を行う通信部とを分離することが記載されている。」
(イ)「甲と乙とは互いに無線LAN通信装置に関するものであり、技術分野が同一である。そして甲1と甲2とは、ともに無線LAN通信装置の無線通信部を周波数帯域ごとに分離する技術を開示していることから、甲2記載の技術を甲1発明1に適用して、5GHz帯の無線通信部を、屋内でのみ使用可能な周波数帯域(W52、W53)で通信を行う第2の無線通信部と屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域(W56)で通信を行う第1の無線通信部とに分離することは当業者にとって容易である。」
(当審注:前記「甲と乙」は「甲1と甲2」の誤記と認める。)
イ 前記アの主張について、検討する。
甲2には、甲1発明の課題(前記2(1))を解決する手段が記載されておらず、前記課題が成立しなくなるような特別な事情も記載されていないことに鑑みれば、前記2のとおり、甲1発明に甲2発明を適用することには阻害要因があり、特許異議申立人の主張は採用できない。
仮に、甲1発明に甲2発明を適用することに阻害要因がなく、動機付けられているとしても、以下の(ア)~(エ)のとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
(ア)甲2の課題は、「通信を容易に有効化したいという課題」(以下、「課題1」という。)と「消費電力を削減したいという課題」(以下、「課題2」という。)のうちの少なくとも一方を解決できる通信装置および通信システムを提供することである(【0012】)。
(イ)甲2には、「以上、本実施形態では、それぞれ異なる周波数帯域を割り当てられた複数の通信規格に基づく複数の通信を行うための複数の通信部を備えた通信装置において、当該複数の通信部のうちの1つまたは複数を任意に選択して通信を行うことが可能である。また、ある周波数帯域での通信が必要なときに、その通信を容易に有効化することができる。」(【0037】)との記載がある。
そして、前記記載の理由として、「その理由は、無線制御手段11が、ある周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信の開始を要求する通信開始信号を、給電されている通信部から受信し、電源管理部12に、当該周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を開始させるからである。」(【0037】)との記載がある。
以上の記載によれば、前記課題1は、「通信の開始を要求する通信開始信号」によって「ある周波数帯域を割り当てられた」「通信部」への電力の供給を開始することによって解決されると認められ、課題1の「通信を容易に有効化」するということとは【0037】の「複数の通信部のうちの1つまたは複数を任意に選択して通信を行う」ことと同義と解される。
(ウ)甲2には、「日本国内において、無線LAN通信の特定の周波数帯域は、屋外使用する場合、無線LAN通信以外の他の電波との干渉が生じるため利用制限がかけられており、それに対し屋内で使用する場合はそのような利用制限は、病院等の電波障害の影響を受けやすい施設を除き、無く、そのため、屋内および屋外の両方で利用可能な可搬型の無線通信装置では、当該無線通信装置が屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて利用可能な周波数帯域を容易に選択可能としたいという要望がある。」(【0039】)と記載されている。
該記載の「要望」は、前記(イ)の「通信を容易に有効化」すること、あるいは、「複数の通信部のうちの1つまたは複数を任意に選択して通信を行う」ことの一種であると解される。
加えて、甲2には、「利用者が希望する周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信の開始を要求する通信開始信号を、給電されている通信部から受信し、電源管理部12に、当該周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を開始させることにより、屋内外で利用可能な周波数帯域を容易に選択可能とする。」(【0040】)と記載されている。
以上の【0039】及び【0040】の記載によれば、甲2には、「屋内および屋外の両方で利用可能な可搬型の無線通信装置」が「屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて」、利用可能な周波数帯域を「選択可能」とする技術思想が記載されていると認められる。
(エ)しかしながら、甲2には、「屋内および屋外の両方で利用可能な可搬型の無線通信装置」については記載されているものの、その利用する周波数帯域については「屋内」か「屋外」かのどちらかであって、特許異議申立人の主張する「屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域」については記載されていない。
よって、甲2に接した当業者といえども、甲2の記載から「屋内でのみ使用可能な周波数帯域で通信を行う通信部と屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域で通信を行う通信部とを分離する」という技術思想を得るには至らない。
よって、前記アの主張は、採用できない。
(2)甲3の記載事項について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の35頁において、以下のとおり主張する。
「そして甲1と甲3とはともに無線LAN通信装置の無線通信部を周波数ごとに分離する技術を開示していることから、技術分野が同一である。よって、甲3の記載事項[F]を甲1発明1に適用して、第3の通信部を追加するとともに、甲3の記載事項[G]を甲1発明1に適用して、第2のアンテナ部を第2の通信部および第3の通信部に接続することは当業者にとって容易である。」
イ 前記アの主張は、この決定で認定した相違点3についての主張と認められるが、前記2のとおり相違点1及び2に関する構成が容易に想到し得ないものであるため、前記アの主張は決定の結論に影響しない。
(3)甲4の記載事項について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の36頁において、以下のとおり主張する。
「そして甲1と甲4とはともに複数の周波数帯域で通信する無線LAN通信装置の技術を開示していることから、技術分野が同一である。よって、甲4の記載事項[H-I]を甲1発明1に適用して、第1のアンテナ部の電波出力を第2のアンテナ部の電波出力より高く設定することは容易である。」
イ 前記アの主張は、この決定で認定した相違点4についての主張と認められるが、前記2のとおり相違点1及び2に関する構成が容易に想到し得ないものであるため、前記アの主張は決定の結論に影響しない。
5 小括
以上、前記1~4によれば、本件特許は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由1-1には理由がない。
第6 申立理由1-2についての当審の判断
1 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(1)本件発明1の『無線LAN通信装置であって、』について
甲2発明の「通信装置10」は、「複数のアンテナ16乃至18」及び「無線制御手段11」を備えるものであるから、「無線通信装置」であるといえる。
加えて、甲2発明では、「日本国内において、無線LAN通信の特定の周波数帯域は、屋外使用する場合、無線LAN通信以外の他の電波との干渉が生じるため利用制限がかけられており、それに対し屋内で使用する場合はそのような利用制限は、病院等の電波障害の影響を受けやすい施設を除き、無く、そのため、屋内および屋外の両方で利用可能な可搬型の無線通信装置では、当該無線通信装置が屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて利用可能な周波数帯域を容易に選択可能としたいという要望があ」るとされていることから、甲2発明の「通信装置10」が無線LANの通信装置であることは明らかである。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは『無線LAN通信装置』である点で一致する。
(2)本件発明1の『5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、』について
甲2発明の「第1の通信部13」は、「第1の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有」するものであるから、第1の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部であるといえる。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「第1の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部」を備える点で共通する。
(3)本件発明1の『5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれかを用いて無線通信を実行する第2の無線通信部と、』について
甲2発明の「第2の通信部14」は、「第2の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有」するものであるから、第2の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第2の無線通信部であるといえる。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「第2の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第2の無線通信部」を備える点で共通する。
(4)本件発明1の『2401-2483MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部と、』について
甲2発明の「第3の通信部15」は、「第3の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有」するものであるから、第3の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部であるといえる。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「第3の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部」を備える点で共通する。
(5)本件発明1の『前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、』について
ア 甲2発明の「アンテナ16」は、第1の通信部13に接続されているアンテナであるから、『第1のアンテナ部』であるといえる。
イ 前記ア及び前記(2)で言及した事項を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、『第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部』を備える点で共通する。
(6)本件発明1の『前記第2の無線通信部および前記第3の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部と、を備え、』について
ア 甲2発明の「アンテナ17」は、第2の通信部14に接続されているアンテナであるから、『第2のアンテナ部』であるといえる。
イ 前記ア及び前記(3)で言及した事項を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、「第2の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部」を備える点で共通する。
(7)本件発明1の『1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い、』について
甲2発明の「通信装置10」において、本件発明1でいう『1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い』とする旨は、甲2には開示されていない。
前記(1)~(7)で言及した事項を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「無線通LAN信装置であって、
第1の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、
第2の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第2の無線通信部と、
第3の所定の周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部と、
前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、
前記第2の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部と、を備える、
無線通信装置。」
そして、本件発明1と甲2発明とは、次の点で相違する。
<相違点5>
本件発明1の『第1の無線通信部』が無線通信を実行する周波数帯域は、『5470-5725MHzの周波数帯域』であるのに対し、甲2発明の「第1の通信部13」が用いる「第1の所定の周波数帯域」は、具体的にどのような周波数帯域であるのかが特定されておらず、『5470-5725MHzの周波数帯域』であるのか否かが明らかでない点。
<相違点6>
本件発明1の『第2の無線通信部』が無線通信を実行する周波数帯域は、『5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれか』であるのに対し、甲2発明の「第2の通信部14」が用いる「第2の所定の周波数帯域」は、具体的にどのような周波数帯域であるのかが特定されておらず、『5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれか』であるのか否かが明らかでない点。
<相違点7>
本件発明1の『第3の無線通信部』が無線通信を実行する周波数帯域は、『2401-2483MHzの周波数帯域』であるのに対し、甲2発明の「第3の通信部15」が用いる「第3の所定の周波数帯域」は、具体的にどのような周波数帯域であるのかが特定されておらず、『2401-2483MHzの周波数帯域』であるのか否かが明らかでない点。
<相違点8>
本件発明1の『第2のアンテナ部』は、『前記第2の無線通信部および前記第3の無線通信部に接続されている』のに対し、甲2発明の「アンテナ17」は、「第2の通信部14」に接続されているものの、「第3の通信部15」には接続されていない点。
<相違点9>
本件発明1では、『1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第1のアンテナ部の電波出力は、1MHzの帯域幅における等価等方輻射電力によって規定される前記第2の無線通信部が前記無線通信を実行する場合における第2のアンテナ部の電波出力より高い』のに対し、甲2発明では、「アンテナ16」の電波出力と「アンテナ17」の電波出力との関係が規定されていない点。
2 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点9について判断する。
(1)甲4記載技術は、要するに、「RFトランシーバ回路130」が使用する周波数帯域が変化し(5.15~5.35GHzか5.47~5.725GHzか)、「RFトランシーバ回路130」に接続されるアンテナモジュールも変化する(アンテナモジュール200aかアンテナモジュール200bか)前提において、周波数帯域とアンテナモジュールとの組み合わせによって、「AP100」の「RFトランシーバ回路130」から出力される変調波の強度を変更する技術である。つまり、甲4記載技術は、あくまでも、「AP100」が備える唯一の「RFトランシーバ回路130」の出力強度を、「RFトランシーバ回路130」が使用する周波数帯域及び「RFトランシーバ回路130」に接続されるアンテナモジュールの組み合わせによって設定するものである。
(2)一方、甲2発明は複数の通信部を備え、各通信部に割り当てられた周波数帯域が固定され、各通信部とアンテナとの接続も固定されているものである。つまり、甲2発明は、甲4記載技術と異なり、通信部(甲4記載技術では「RFトランシーバ回路100」に対応)の使用する周波数帯域も、通信部に接続するアンテナも変更されることがない。
したがって、甲2発明と甲4記載技術とは前提となる構成に相違があるため、甲2発明に甲4記載技術を適用する動機付けが存在しない。
(3)仮に、甲2発明に甲4記載技術を適用することができるとしても、以下のとおり、この組み合わせによっては相違点9に係る構成には至らない。
甲2発明に甲4記載技術を適用すると、前記(1)及び(2)によれば、甲2発明の各通信部が使用する周波数帯域が可変で、各通信部に接続されたアンテナが交換可能となる構成となり、各通信部毎に、使用する周波数帯域と接続されたアンテナに応じて、出力強度を変化させるものとなる。
これは、本件発明1の相違点9に係る構成、要するに、第1の無線通信部に固定的に接続された第1のアンテナ部の出力を、第2及び第3の無線通信部に固定的に接続された第2のアンテナ部の出力よりも高くする構成ではない。
(4)加えて、相違点9に係る構成は、甲1、3及び5~10のいずれにも記載されていない。
(5)以上によれば、本件発明1の相違点9に係る構成は、甲2発明及び甲1、3~10の記載から当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本件発明2~15について
本件発明2~15は、いずれも、請求項1を引用して記載された発明であるから、少なくとも前記相違点9が存在する。
したがって、本件発明2~15は、前記2と同様に、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 特許異議申立人の主張について
(1)甲2発明について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の37頁において、以下の(ア)とおり主張する。また、特許異議申立書の38頁において、本件発明1と甲2発明との対比に関し、以下の(イ)の指摘をする。
(ア)「なお、周波数帯域の分割方法については、たとえば2.4GHz帯域、5GHz帯域、10GHz帯域と記載されているが、これらに限定されるものではなく、無線通信装置が屋内にあるか、または屋外にあるかに応じて、通信を停止する周波数帯域の通信部への電源供給を停止するために、屋内でのみ使用可能な周波数帯域で通信を行う通信部と屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域で通信を行う通信部とを分離することが記載されている。」
(イ)「甲2号証には、3種類の所定の周波数帯域を割り当てられた通信規格に基づく通信を行う機能を有する第1から第3の通信部を備えることは記載されているが、3種類の所定の周波数帯域に関しては、屋内でのみ使用可能な周波数帯域で通信を行う通信部と屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域で通信を行う通信部とを分離することが記載されており、具体的な周波数帯域については明確に記載されていない点。」
イ しかしながら、前記第5、4(1)イで言及したように、甲2には、「屋内および屋外の両方で利用可能な周波数帯域」について何ら記載されていないから、前記アの主張は採用できない。
(2)甲3の記載事項について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の39頁において、以下のとおり主張する。
「そして甲2と甲3とはともに無線LAN通信装置の無線通信部を周波数帯域ごとに分離する技術を開示していることから、甲3記載の技術[F]を甲2発明1に適用して、第2の無線通信部12および第3の無線通信部13を第2のアンテナ部30に接続すること(2.4GHz帯とW52・W53帯とをアンテナ17から出力可能とすること)は、当業者にとって容易である。
また、無線LAN通信装置において部品を共通化すること(2.4GHz帯とW52・W53帯とをアンテナ17で共通化すること)は、当業者が適宜行う設計事項にすぎない。また、甲2の通信装置において、無線制御手段および電源管理手段が共通化されていることからも、甲2発明に甲3のアンテナを共通化する技術を適用する動機づけがある。」
イ 前記アの主張は、この決定で認定した相違点8についての主張と認められるが、前記2のとおり相違点9に関する構成が容易に想到し得ないものであるため、前記アの主張は決定の結論に影響しない。
(3)甲4記載技術について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の40頁において、以下のとおり主張する。
「そして甲2と甲4とはともに複数の周波数帯域で通信する無線LAN通信装置の技術を開示していることから技術分野が同一である。また、甲2には、周波数帯域を割り当てられた通信規格に対応した通信部への電力の供給を行うこと、および分割方法として屋内通信と屋外通信で分離することが記載されており、甲2発明に甲4記載の技術を適用する動機付けがある。
したがって、甲2発明に甲4記載の技術を適用して、「第1の所定の周波数帯域」を5470-5725MHz(W56)の周波数帯域とし、「第2の所定の周波数帯域」を5150-5250MHz・5250-5350MHz(W52・W53)の周波数帯域とし、かつ、第1のアンテナ部の電波出力を第2のアンテナ部の電波出力より高く設定することは、当業者にとって容易である。
なお、「等価等方輻射電力」とは、空中線に供給される電力に、与えられた方向における空中線の絶対利得を乗じたものであるため、第1のアンテナ部の電波出力を第2のアンテナ部の電波出力より高く設定することと、本件特許発明1の1Gとは技術的に同義であり、相違点3を充足している。
また、本件特許発明1により得られる効果も、通信規格に基づく電波の出力をするという程度に過ぎず、甲2乃至甲4の記載から予測し得る範囲のものであって、格別な作用効果を奏するものとはいえない。」
イ しかしながら、前記2のとおりであるから、特許異議申立人の主張は、採用できない。
5 小括
以上、前記1~4によれば、本件特許は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由1-2には理由がない。
第7 申立理由2(サポート要件)についての当審の判断
1 特許異議申立人は、「本件特許発明1、および本件特許発明1に従属する本件特許発明12乃至15は、請求項に係る発明が発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているため、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである(特許法第113条第4号)。」(特許異議申立書56頁)と主張するので、以下では、本件発明1及び12乃至15が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。
2 本件発明が解決すべき課題について、本件特許の明細書(【0004】)には、以下の(1)及び(2)の記載がある。
(1)『ここで、無線LAN通信装置において、周波数帯域として、5GHz帯域Low(5150-5250MHz/5250-5350MHz)および2.4GHz帯域(2401-2483MHz)に加え、5GHz帯域High(5470-5725MHZ)を使用する場合がある。この場合、無線LAN通信装置は、5GHz帯域Highと5GHz帯域Lowに用いる共用のアンテナと、2.4GHz帯域に用いる別のアンテナとを有する場合がある。しかしながら、この場合には、法定の電波出力制限値が5GHz帯域Highよりも5GHz帯域Lowの方が低いので、5GHz帯域Highにおける電波出力は、5GHz帯域Highの電波出力制限値より低い電波出力となる。よって、3つの異なる周波数帯域を使用できる無線LAN通信装置において、5GHz帯域Highの電波出力を有効に利用できない問題が生じ得る。例えば5GHz帯域Highの電波出力が低い場合には、無線通信が可能な距離が短くなる。したがって、3つの周波数帯域を使用できる無線LAN通信装置において、5GHz帯域Highにおける電波出力を高出力にできる技術が望まれている。』
(2)『また、高周波数帯域である5GHz帯域High(5470-5725MHzの周波数帯域)を用いた無線通信を行なうことが好ましい接続先、例えば、4Kテレビ、8Kテレビ等の高画素の映像コンテンツを提供する装置や家の全体で無線通信を可能とするための無線中継機、が増加している。この様な接続先と接続する場合には、5GHz帯域Highと5GHz帯域Lowに用いる共用のアンテナを備えた無線LAN通信装置では、十分な通信可能距離の確保が困難であり、また、十分な速度を確保することも困難である。また、その様な接続先と接続する場合には、同一の周波数帯域(5GHz帯域Lowまたは2.4GHz帯域)の無線通信に用いるアンテナを複数有する無線LAN通信装置であっても、十分な通信速度を確保することが困難である。』
3(1)前記2(1)の記載によれば、本件発明が解決すべき課題の一つは、「3つの異なる周波数帯域を使用できる無線LAN通信装置において、5GHz帯域Lowの法定の電波出力制限値による設計上の影響を受け、5GHz帯域Highの電波出力を有効に利用できない問題が生じ得ることから、5GHz帯域Highにおける電波出力を高出力にできる技術が望まれている。」(以下、「課題1」という。)であると認められる。
(2)前記2(2)の記載によれば、本件発明が解決すべき課題の他の一つは、「高周波数帯域である5GHz帯域Highを用いた無線通信を行なうことが好ましい接続先と接続する場合には、5GHz帯域Highと5GHz帯域Lowに用いる共用のアンテナを備えた無線LAN通信装置では、十分な通信可能距離の確保が困難であり、また、十分な速度を確保することも困難である。また、その様な接続先と接続する場合には、同一の周波数帯域(5GHz帯域Lowまたは2.4GHz帯域)の無線通信に用いるアンテナを複数有する無線LAN通信装置であっても、十分な通信速度を確保することが困難である。」(以下、「課題2」という。)であると認められる。
4 前記課題1を受けて、本件特許の明細書には、課題を解決するための手段として、以下の(1)の記載があり、また、発明の効果として、以下の(2)の記載がある。
(1)『この無線LAN通信装置は、5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、5150-5250MHzの周波数帯域と、5250-5350MHzの周波数帯域と、のいずれかを用いて無線通信を実行する第2の無線通信部と、2401-2483MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第3の無線通信部と、前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、前記第2の無線通信部および前記第3の無線通信部に接続されている第2のアンテナ部と、を備える。』(【0006】)
(2)ア 『よって、5470-5725MHzの周波数帯域を用いた無線通信を実行する第1の無線通信部および第1のアンテナ部は、5150-5250MHzの周波数帯域および5250-5350MHzの周波数帯域の電波出力制限による設計上の影響を受けない。したがって、この無線LAN通信装置によれば、第1のアンテナ部の電波出力は、第2の無線通信部が無線通信を実行する場合の第2のアンテナ部の電波出力より高くすることができる。』(【0006】)
イ 『第1の無線通信部11が実行する5GHz帯域Highを用いた無線通信は、第1の無線通信部11専用に設けられた第1のアンテナ部20を用いることで、5GHz帯域Lowを用いた無線通信における電波出力の最大値に制限されることがない。よって、5GHz帯域Highにおける無線通信は、5GHz帯域Lowと比べて、高い電波出力で実行できる。』(【0050】)
ウ 『このため、5GHz帯域Highを用いた無線通信を実行する第1の無線通信部11および第1のアンテナ部20は、法定の出力制限以下となるように設定されている5GHz帯域Lowにおける出力の最大値に制限されない。したがって、第1のアンテナ部20の電波出力は、第2の無線通信部12が無線通信を実行する場合の第2のアンテナ部30の電波出力より高くすることができる。』(【0058】)
5 前記4の記載によれば、無線LAN通信装置が、「5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、を備える」ことによって、「第1の無線通信部11が実行する5GHz帯域Highを用いた無線通信は、第1の無線通信部11専用に設けられた第1のアンテナ部20を用いることで、5GHz帯域Lowを用いた無線通信における電波出力の最大値に制限されることがない」ので、「5GHz帯域Highにおける無線通信は、5GHz帯域Lowと比べて、高い電波出力で実行できる」ことが理解できる。
そうすると、本件発明1は、「5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、を備える」ことが特定されているから、少なくとも前記課題1に関して、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件発明12乃至15は、本件発明1の記載を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
以上のとおりであるから、本件発明1及び12乃至15は、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
6 特許異議申立人は、特許異議申立書の53~54頁において、以下の(1)の課題及び解決手段の認識を前提として、以下の(2)を根拠に、以下の(3)を主張する。
(1)『本件発明の課題は「5GHz帯域Highと5GHz帯域Lowに用いる共用のアンテナを備えた無線LAN通信装置では、十分な通信可能距離の確保が困難であり、また、十分な速度を確保することも困難である。」ことであり、本件発明の目的は「5GHz帯域Highにおける電波出力を高出力にできる技術を提供すること」にある(本件特許段落0004参照)。
そして、本件特許発明1ではこの課題解決のために、5GHz帯域High用の第1のアンテナ部20と5GHz帯域Low用の第2のアンテナ部30とを分離している。』
(2)『しかし、2つのアンテナを分離しただけでは5GHz帯域Highにおける電波出力を高出力にすることはできない。このことは、第1実施形態において、「(第1のアンテナ部が有する)専用アンテナ21は、後述する第2のアンテナ部30が有する共用アンテナ31と比べて高い、指向性およびアンテナ利得を有する」(段落0031参照)と記載されていること、また、本件特許発明2に「前記第1のアンテナ部のアンテナ利得は、前記第2のアンテナ部のアンテナ利得より高い」と記載されていることからも明らかである。』
(3)『したがって、本件特許発明1は、請求項に係る発明が、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており、サポート要件違反である。また、特許発明1に従属し、特許発明2に従属しない、特許発明12-15もサポート要件違反である。』
7 前記6(2)について検討すると、本件特許の明細書の【0031】の記載によれば、確かに、アンテナ利得の高いアンテナを用いた場合には、アンテナ利得の低いアンテナ利得を用いた場合と比べて、電波出力が高くなると理解できる。
しかしながら、電波出力はアンテナ利得のみによって定まるものではなく、無線通信部がアンテナに送る信号電力の多寡によっても左右されるものであるから、本件発明1にアンテナ利得に関する限定がないからといって、本件発明1の第1のアンテナ部の電波出力が第2のアンテナ部の電波出力よりも大きくならないとは限らない。
そして、前記5で言及したとおり、無線LAN通信装置が、「5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、を備える」ことによって、「第1の無線通信部11が実行する5GHz帯域Highを用いた無線通信は、第1の無線通信部11専用に設けられた第1のアンテナ部20を用いることで、5GHz帯域Lowを用いた無線通信における電波出力の最大値に制限されることがない」ので、「5GHz帯域Highにおける無線通信は、5GHz帯域Lowと比べて、高い電波出力で実行できる」から、前記6(2)の主張は、採用できない。
8 そして、前記5で言及したとおり、本件発明1は、「5470-5725MHzの周波数帯域を用いて無線通信を実行する第1の無線通信部と、前記第1の無線通信部に接続されている第1のアンテナ部と、を備える」ことが特定されているから、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、本件発明12乃至15は、本件発明1の記載を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、前記6(3)の主張は、採用できない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は、採用できない。
9 以上、前記1~8によれば、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由2には理由がない。
第8 むすび
前記第5~第7によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700066