特許拒絶査定不服審判
2022-018324
銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板
- 審判番号
- 2022-018324
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-102540外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年11月15日
- 審決日
- 2024年09月17日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱マテリアル株式会社
- 【請求人代理人】松沼 泰史
- 【請求人代理人】寺本 光生
- 【請求人代理人】細川 文広
- 【請求人代理人】大浪 一徳
- 分類
- P18 .536-WZ (C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法49条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第44条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-102540「銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月14日出願公開、特開2021-165227〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年10月6日(優先権主張 令和元年12月12日)の出願である特願2020-169086号(以下、「原出願」という。)の一部を、特許法第44条第1項の規定により、令和3年6月21日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和3年 7月 8日 :手続補正書及び上申書の提出
令和4年 6月 3日付け:拒絶理由通知書
同年 7月19日 :意見書の提出
同年 8月15日付け:拒絶査定
同年11月15日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年10月18日付け:拒絶理由通知書
同年12月11日 :意見書、手続補正書、手続補足書の提出
(ただし手続補足書の受付は令和5年12月
12日)
令和6年 3月19日付け:審尋
同年 5月23日 :回答書、手続補足書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~6に係る発明は、令和5年12月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上112mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。」
第3 当審の拒絶理由及び審尋の概要
1 令和5年10月18日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
理由1:(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記
本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、「温度積分値」の求め方を理解することができないから、当業者は、本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」を製造することができない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】~【0043】の記載(下記第4の2)からみれば、本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」は、積層工程S01、低温保持工程S02、加熱工程S03及び冷却工程S04の各工程により製造されるものであるが、前記段落【0036】~【0043】には、低温保持工程S02及び加熱工程S03における「温度積分値」の求め方が記載されていないし、そのほかに、発明の詳細な説明に前記「温度積分値」の求め方が記載されるものでもない。更に、前記「温度積分値」の求め方が、本願の原出願の出願日当時の技術常識であるということもできないから、前記「温度積分値」の求め方を理解できない。
すると、当業者は、「温度積分値」を30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とする前記低温保持工程S02、及び、「温度積分値」を72℃・h以上200℃・h以下の範囲内、好ましくは72℃・h以上150℃・h以下の範囲内とする前記加熱工程S03を実施することができないから、本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」を製造することができない。
更に、請求人が令和3年7月8日に提出した上申書の主張(下記第4の4(1))を参酌しても、低温保持工程S02及び加熱工程S03における「温度積分値」の求め方は明らかでないから、当業者が本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」を製造することができないことに変わりはないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
2 令和6年3月19日付けで当審が通知した審尋の概要は、以下のとおりである。
請求人は、令和5年12月11日に提出した意見書において、概略、下記第4の4(2)に記載された事項を主張している。
ところが、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】には、「温度積分値」が(実際の保持温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることは記載も示唆もされていないし、同段落【0039】(ただし段落【0039】は令和4年11月15日に提出された手続補正書により補正されたもの。)にも、「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されることは記載も示唆もされていないから、加熱工程S03における「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されること、及び、低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の保持温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることが明らかであるとはいえないし、更に、請求人は、このことが原出願の出願日当時の技術常識であることを裏付ける証拠も提出していない。
このため、請求人の前記意見書における主張によっても、低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の保持温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されること、及び、加熱工程S03における「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されることが明らかであるとはいえないので、このことが明らかであるといえる理由を証拠を挙げて明示されたい。
第4 当審の拒絶理由及び審尋についての判断
1 はじめに
前記第3の1及び2の当審の拒絶理由及び審尋の概要は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは「温度積分値」の求め方を理解することができないから、当業者は本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」を製造することができないので、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない、というものである。
以下、これについて検討する。
2 本願明細書の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。
「【0036】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、図7及び図8を参照して説明する。
【0037】
(積層工程S01)
まず、窒化アルミニウム(AlN)からなるセラミックス基板11を準備し、図8に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、接合材としてAg-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24を配設する。
なお、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24としては、例えば、Cuを0mass%以上32mass%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5mass%以上20mass%以下の範囲で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。また、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24の厚さは、2μm以上10μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(低温保持工程S02)
次に、セラミックス基板11及び銅板22,23を積層方向に加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する。
ここで、低温保持工程S02における保持温度は、CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされている。また、この低温保持工程S02において、上述の保持温度における温度積分値は、30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とする。
また、低温保持工程S02における加圧荷重は、0.098MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
(加熱工程S03)
次に、銅板22、23とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24を溶融する。
ここで、加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされている。なお、この加熱温度を低く抑えることにより、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径を小さく抑えることが可能となる。加熱温度の上限は845℃以下とすることが好ましく、835℃以下とすることがより好ましく、825℃以下とすることがさらに好ましい。
また、この加熱工程S03において、上述の加熱温度における温度積分値は、72℃・h以上200℃・h以下の範囲内とする。好ましくは、72℃・h以上150℃・h以下の範囲内とするとよい。
また、この加熱工程S03における加圧荷重は、0.049MPa以上2.94MPa以下の範囲内とする。
【0040】
(冷却工程S04)
そして、加熱工程S03の後、冷却を行うことにより、溶融したAg-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24を凝固させる。
なお、この冷却工程S04における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
上述の低温保持工程S02においては、CuとAlの共晶点温度以上に保持することから、図9Aに示すように、銅板22,23及びAg-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24中のCuと、AlNからなるセラミックス基板11とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生する。この共晶液相中において、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成する。これにより、図9A(a)、図9A(b)、図9A(c)の順でセラミックス基板11の表面が侵食される形で、TiNからなる活性金属化合物層41が形成される。
【0042】
そして、図9Bに示すように、活性金属化合物層41において、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界には共晶液相が存在しており、この共晶液相を拡散のパスとして、セラミックス基板11側のAl及びAg-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)24のAg,Cu,Tiが互いに拡散し、セラミックス基板11の界面反応が促進されることになる。
その結果、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界にAl及びCu,Agは、が凝集して存在することになる。
【0043】
以上のように、積層工程S01と、低温保持工程S02と、加熱工程S03と、冷却工程S04とによって、セラミックス基板11と銅板22,23が接合され、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。」
ただし、段落【0039】は令和4年11月15日に提出された手続補正書により補正されたものである。
3 実施可能要件についての判断
(1) 前記2の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」は、積層工程S01、低温保持工程S02、加熱工程S03及び冷却工程S04の工程によってセラミックス基板11と銅板22,23が接合されて製造されるものであって(段落【0043】)、前記低温保持工程S02における保持温度は、CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされ、また、前記低温保持工程S02において「温度積分値」を30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とするものであり(段落【0038】)、前記加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされ、前記加熱工程S03において「温度積分値」を72℃・h以上200℃・h以下の範囲内、好ましくは72℃・h以上150℃・h以下の範囲内とするとよいものである(段落【0039】)。
(2) ところが、前記発明の詳細な説明には、低温保持工程S02及び加熱工程S03における「温度積分値」の求め方が記載されていないし、そのほかに、発明の詳細な説明に前記「温度積分値」の求め方が記載されるものでもない。更に、前記「温度積分値」の求め方が、原出願の出願日当時の技術常識であるということもできないから、前記「温度積分値」の求め方を理解できない。
すると、当業者は、「温度積分値」を30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とする前記低温保持工程S02、及び、「温度積分値」を72℃・h以上200℃・h以下の範囲内、好ましくは72℃・h以上150℃・h以下の範囲内とする前記加熱工程S03を実施することができないから、本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」を製造することができないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない。
4 請求人の主張の概要
本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」を製造する際の「温度積分値」の求め方に関する請求人の主張の概要は、令和3年7月8日に提出した上申書、当審による令和5年10月18日付け拒絶理由通知書に応答して同年12月11日に提出した意見書、及び、当審による令和6年3月19日付け審尋に応答して同年5月23日に提出した回答書に記載された、以下のとおりのものといえる。
(1) 令和3年7月8日提出の上申書の記載事項
令和3年7月8日に提出した上申書(【上申の内容】3.(1)2段落3行~8行)には、「温度積分値」の求め方について、以下の記載がある。
「ここで、加熱工程における温度積分値については、「加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされている。(中略) また、この加熱工程S03において、上述の加熱温度における温度積分値は、4℃・h以上200℃・h以下の範囲内とする。」(本件分割出願明細書段落番号0039参照)。と記載されております。よって、温度積分値は、(加熱温度-783℃(AgとCuの共晶点温度))×保持時間で計算されるものとであります。」
(2) 令和5年12月11日提出の意見書の記載事項
令和5年12月11日に提出した意見書(【意見の内容】〔3〕2段落~5段落)には、「温度積分値」の求め方について、以下の記載がある。
「ここで、加熱工程S03における「温度積分値」については、本願明細書の段落番号0039に「銅板22,23とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、(中略)加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされている。(中略)この加熱工程S03において、上述の加熱温度における温度積分値は、72℃・h以上200℃・h以下の範囲内とする。」と記載されております。
この記載から、加熱工程S03における温度積分値は、加熱温度(AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内)における温度積分値となり、(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されるものとなることは明らかです。そして、AgとCuの共晶点温度が783℃であることは、参考文献1に記載されているように、本願の原出願の出願当時の技術常識であります。
また、低温保持工程S02における「温度積分値」については、本願明細書の段落番号0038に「セラミックス基板11及び銅板22,23を積層方向に加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する。ここで、低温保持工程S02における保持温度は、CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされている。また、この低温保持工程S02において、上述の保持温度における温度積分値は、30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とする。」と記載されております。
この記載から、低温保持工程S02における温度積分値は、保持温度(CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲)における温度積分値となり、(実際の保持温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されるものとなることは明らかです。そして、CuとAlの共晶点温度が548℃であることは、参考文献2に記載されているように、本願の原出願の出願当時の技術常識であります。」
(3) 令和6年5月23日提出の回答書の記載事項
令和5年12月11日に提出した回答書(【回答事項】(1)2段落~4段落)には、「温度積分値」の求め方について、以下の記載がある。
「ここで、本願明細書の段落〔0038〕には、「低温保持工程S02における保持温度は、CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲」と記載され、「低温保持工程S02において、上述の保持温度における温度積分値」と記載されております。これらの記載から、低温保持工程S02の温度積分値は、「上述の保持温度」である「CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲」における温度積分値となります。すなわち、低温保持工程S02における実際の温度が、この保持温度の範囲内である時間と実際の温度とから、温度積分値が算出されることになります。なお、温度積分値については、その単位が[℃・h]であることから、積分の概念から「温度積分値」は温度曲線[℃]を時間[h]に関して積分したものであることは明らかであります。また、低温保持工程S02の温度範囲が「CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲」となっていることから、実際の温度を用いた積分を得るためには、温度範囲の下端である(CuとAlの共晶点温度)から実際の温度についての温度範囲についてであることが一義的に決定されます。また、積分区間の下端(保持開始時間)と上端(保持終了時間)は、上述の低温保持工程の定義から一義的に決定されることになります。
同様に、本願明細書の段落〔0039〕には、「加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上、かつ、850℃以下の範囲内」と記載され、「加熱工程S03において、上述の加熱温度における温度積分値」と記載されております。これらの記載から、加熱工程S03の温度積分値は、「上述の加熱温度」である「AgとCuの共晶点温度以上、かつ、850℃以下の範囲内」における温度積分値となります。すなわち、低温保持工程S03における実際の温度が、この加熱温度の範囲内である時間と実際の温度とから、温度積分値が算出されることになります。なお、温度積分値については、その単位が[℃・h]であることから、積分の概念から「温度積分値」は温度曲線[℃]を時間[h]に関して積分したものであることは明らかであります。また、加熱工程S03の温度範囲が「AgとCuの共晶点温度以上、かつ、850℃以下の範囲内」となっていることから、実際の温度を用いた積分を得るためには、温度範囲の下端である(AgとCuの共晶点温度)から実際の温度についての温度範囲についてであることが一義的に決定されます。また、積分区間の下端(加熱開始時間)と上端(加熱終了時間)は、上述の加熱工程の定義から一義的に決定されることになります。
よって、本願明細書の記載から、「低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算される」および「加熱工程S03における「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算される」ことになります。」
5 請求人の主張についての判断
(1) 前記4(1)~(3)の記載によれば、「温度積分値」の求め方に関する請求人の主張は、総じて、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】~【0039】の記載、前記「温度積分値」の単位が[℃・h]であること、及び、積分の概念から、低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算され、加熱工程S03における「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されることは明らかである旨をいうものといえる。
(2) ところが、前記2によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】には、前記低温保持工程S02における保持温度がCuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされること、及び、「温度積分値」を30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とすることが記載されているにすぎない。
そして、前記低温保持工程S02における保持温度がCuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされることは、単に、前記低温保持工程S02における保持温度を開示するにとどまり、「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることを開示するものではないし、「温度積分値」を30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とすることも、単に「温度積分値」の範囲を開示するにとどまり、「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることを開示するものではないから、前記段落【0038】の記載から、低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることが明らかであるということはできない。
また、積分の一般的な解釈についてみると、積分とは、「関数の表す曲線とx座標軸上の一定区間とで囲まれる面積を、或る極限値として求めること。」(広辞苑第4版第1刷,1991年11月15日,株式会社岩波書店,1435ページ)である。
そして、「CuとAlの共晶点温度」は、548℃に定まる一定温度なのであって、前記「関数の表す曲線」及び「x座標軸上の一定区間」のいずれにも相当しないから、「温度積分値」の単位が「℃・h」であることと前記積分の一般的な解釈に基づいて「温度積分値」を計算しても、当該計算に「CuとAlの共晶点温度」が入り込む余地はないので、前記低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることが明らかであるとはいえない。
そうすると、前記段落【0038】の記載、「温度積分値」の単位が「℃・h」であること、及び積分の一般的な解釈から、前記低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算されることは、明らかであるとはいえないし、このことを裏付ける証拠もないから、出願時の技術常識であるともいえない。
同様に、前記2によれば、段落【0039】には、前記加熱工程S03における加熱温度がAgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされ、「温度積分値」を72℃・h以上200℃・h以下の範囲内、好ましくは72℃・h以上150℃・h以下の範囲内とするとよいことが記載されているにすぎないから、前記段落【0039】の記載、「温度積分値」の単位が「℃・h」であること、及び積分の一般的な解釈から、前記加熱工程S03における「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されることは、明らかであるとはいえないし、このことを裏付ける証拠もないから、出願時の技術常識であるともいえない。
(3) 前記(2)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】~【0039】の記載、前記「温度積分値」の単位が[℃・h]であること、及び、積分の概念から、前記低温保持工程S02における「温度積分値」が(実際の温度-CuとAlの共晶点温度)×保持時間で計算され、前記加熱工程S03における「温度積分値」が(実際の加熱温度-AgとCuの共晶点温度)×保持時間で計算されることが明らかであるとはいえないから、前記(1)の請求人の主張は採用し得ない。
したがって、請求人の主張によっても、前記「温度積分値」の求め方を理解できないことに変わりはないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
6 まとめ
以上によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識からは「温度積分値」の求め方を理解することができないから、当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明に係る「銅/セラミックス接合体」を製造し、使用することができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、実施可能要件を満たさない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第49条第4号に該当するので、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-018324