2022-018254
振動計の変化の検出及び識別
- 審判番号
- 2022-018254
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-085350外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年11月14日
- 審決日
- 2024年01月11日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マイクロ モーション インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 17項目
第1 手続の経緯
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本願は、2017年(平成29年)8月30日を国際出願日とする外国語特許出願の特願2020-512361号の一部を令和3年5月20日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
同年 5月18日 :意見書の提出
同年 7月 6日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月12日 :原査定の謄本の送達)
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年11月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】振動計(5)の変化を検出及び識別するための計器電子装置(20)であって、計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値を記憶するように構成された記憶システム(204)を含む処理システム(202)であって、前記記憶システム(204)から前記中心傾向値及び前記分散値を取得し、前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する、ように構成されている、処理システム(202)を備える、計器電子装置(20)。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち本願発明について進歩性の欠如を指摘する理由2の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如)本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において発行された、下記引用文献に記載された発明に基づいて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特表2009-509163号公報
引用文献2.特表2014-522972号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2004-169989号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2011-110206号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2004-124765号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
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1 引用文献1の記載事項
前記引用文献1(特表2009-509163号公報)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。下線は、当合議体において付したものであり、引用発明の認定に直接用いるところに付した。
(1) 段落【0001】~【0007】
「【技術分野】【0001】本発明は、流量計の検証診断のための流量計電子装置と方法に関する。【背景技術】続きを表示(全18行)【0002】典型的には、コリオリ流量計や振動管密度計のような振動管路センサは、流動物質を含む振動管路の運動を検出することによって動作する。管路における物質に関連する質量流量、密度などの特性は、管路に関連する運動変換器から受信される測定信号を処理することによって決定することができる。一般に、振動物質で充填された系の振動モードは、収容する管路とそこに含まれる物質との結合された質量、剛性及び減衰特性によって影響される。【0003】振動型流量計の管路は1つ以上の流管を備えることができる。流管は共振周波数で振動するよう強制され、管の共振周波数は流管における流体の密度に比例する。管の入力側及び出力側に配置されたセンサが、管の端部間の相対振動を測定する。流れ期間に、振動管と流れる質量とがコリオリの力に起因して結合され、管の端部間での振動に位相ずれを生じさせる。位相ずれは質量流量に正比例する。【0004】典型的なコリオリ質量流量計は、パイプライン又は他の移送システムにおいてインライン接続されていて流体やスラリ等の物質をシステムにおいて運搬する1つ以上の管路を備える。それぞれの管路は、単純な曲げモード、捻れモード、放射モード、結合モードなどを含む一組の固有振動モードを持つものとみなされる。典型的なコリオリ質量流量測定の応用においては、物質が流れるとき、管路は1つ以上の振動モードで励振され、管路の運動が管路に沿って離れた点で測定される。典型的には、励振は、管路を周期的に振動させるボイスコイル型駆動装置のような例えば電気機械的な装置であるアクチュエータによって提供される。質量流量は、変換器の位置における運動間の時間遅延又は位相差を測定することによって決定される。典型的には、1つ又は複数の流管の振動応答を測定するために、2つのこうした変換器(又はピックオフ・センサ)が用いられ、典型的にはアクチュエータの上流側又は下流側の位置に配置される。2つのピックオフ・センサはケーブルによって電子的機器に接続される。機器は2つのピックオフ・センサから信号を受け取り、その信号を処理して質量流量測定値を導出する。【0005】2つのセンサ信号間の位相差は、1つ又は複数の流管を通って流れる物質の質量流量と関係付けられる。物質の質量流量は2つのセンサ信号間の時間遅延に比例し、したがって、質量流量は、時間遅延に流れ校正係数(FCF)を乗じることによって決定される。この場合、時間遅延は位相差を周波数で割ったものである。FCFは物質特性と流管の断面特性とを反映する。従来技術においては、FCFは、流量計をパイプライン又は他の管路に設置する前に校正処理によって決定される。校正処理においては、所与の流量で流体を流管に流し、位相差と流量との比率を計算する。【0006】コリオリ流量計の1つの利点は、測定される質量流量の精度が流量計における運動要素の摩耗によって影響されないことである。流量は、流管の2つの点の間の位相差に流れ校正係数を乗じることによって決定される。唯一の入力は、流管上の2つの点の振動を示すセンサからの正弦波信号である。位相差はこうした正弦波信号から計算される。振動する流管には運動要素はない。したがって、位相差の測定及び流れ校正係数は流量計の運動要素の摩耗によって影響されない。【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0007】FCFは流量計組立体の剛性特性と関係付けられる。流量計組立体の剛性特性が変化すると、FCFも変化する。したがって、変化は、流量計によって生成される流量測定値の精度に影響する。流管の物質特性及び断面特性の変化は、例えば浸食又は腐食によって生じる。したがって、流量計の精度を高レベルに維持するために、流量計組立体の剛性の変化を検出及び/又は定量化することができることが極めて望ましい。」
(2) 段落【0061】~【0070】、【図1】、【図2】
「【0061】図1は、流量計組立体10と流量計電子装置20とを備える流量計5を示している。流量計組立体10は処理物質の質量流量及び密度に応答する。流量計電子装置20はリード線100を介して流量計組立体10と接続されて、経路26上に密度、質量流量及び温度の情報を提供するばかりでなく、本発明に無関係の他の情報を提供する。コリオリ質量流量計について説明するが、当業者には明らかなとおり、本発明は、コリオリ質量流量計によって提供される追加の測定能力なしに、振動管密度計としても実施可能である。【0062】流量計組立体10は、一対のマニホールド150、150’、フランジネック100、100’を有するフランジ103、103’、一対の平行な流管130、130’、駆動機構180、温度センサ190及び一対の速度センサ170L、170Rを備えている。流管130、130’は、保湿的に直線状の入力レグ131、131’と、流管取り付けブロック120、120’において互いの方へ向かって収束する出力レグ134、134’とを備える。流管130、130’は、その長さに沿う2つの対称な位置において曲げられ、その長さ全体を通して本質的に平行である。ブレース・バー140、140’は、各流管が振動する軸W、W’を規定するように動作する。続きを表示(全20行)【0063】流管130、130’のサイド・レグ131、131’、134、134’は流管取り付けブロック120、120’に固定され、これらのブロックはマニホールド150、150’に固定される。これにより、コリオリ質量流量計10を通る閉じた連続的物質経路が提供される。【0064】穴102、102’を有するフランジ103、103’が入力端104及び出力端104’を介して、測定対象である処理物質を運ぶ処理ライン(図示せず)に接続されると、物質はフランジ103のオリフィス101を通って流量計の端部104に入り、マニホールド150を通って、面121を有する流管取り付けブロック120へ流れる。マニホールド150内で、物質は分割され、流管130、130’を通過する。流管130、130’を励振すると、処理物質はマニホールド150’内で単一の流れに再結合され、ボルト穴102’を有するフランジ103’によって接続された出口端を通って処理ライン(図示せず)へ進む。【0065】流管130、130’は、それぞれ曲げ軸W-W及びW’-W’に関して実質的に同一の質量分布、慣性モーメント及びヤング率を持つように選択され、流管取り付けブロック120、120’に適宜に取り付けられる。これらの曲げ軸はブレース・バー140、140’を通る。流管のヤング率が温度とともに変化し、この変化が流量及び密度に影響する限り、抵抗温度検出器(RTD)190が流管130’に取り付けられ、流管の温度を連続的に測定する。流管の温度、したがって、RTDを流れる所与の電流に対するRTDに現れる電圧は、流管を通過する物質の温度によって支配される。RTDに現れる温度依存電圧は、流管130、130’の温度の変化に起因する流管の弾性率の変化を補償するよう、周知の方法で流量計電子装置20によって使用される。RTDはリード線195によって流量計電子装置20に接続される。【0066】流管130、130’は、それぞれの曲げ軸W、W’に関して、いわゆる流管の第1位相外れ曲げモードで反対方向に駆動装置180によって駆動される。この駆動機構180は、流管130’に取り付けられた磁石や、両方の流管を振動させるために交流電流が通過し且つ流管130に取り付けられた対向コイルのような、多くの周知の装置のうちの任意の1つを備える。流量計電子装置20によって、適宜の駆動信号がリード線185を介して駆動機構180に印加される。【0067】流量計電子装置20は、リード線195上でRTD温度信号を受け取り、また、リード線165Lに現れる左速度信号とリード線165Rに現れる右速度信号とを受け取る。流量計電子装置20は、要素180を駆動して流管130、130’を振動させるために、リード線185上に現れる駆動信号を生成する。流量計電子装置20は左右の速度信号及びRTD信号を処理し、流量計組立体10を通過する物質の質量流量と密度を計算する。この情報及び他の情報は流量計電子装置20によって経路26を介して利用手段29に印加される。【0068】図2は、本発明の実施の形態に係る流量計電子装置20を示している。流量計電子装置20はインタフェース201と処理システム203を備える。流量計電子装置20は例えば流量計組立体10から振動応答210を受け取る。流量計電子装置20は振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得する。更に、本発明に係る流量計電子装置20において、振動応答210は流量計組立体10の合成パラメータKを決定するために処理される。また、流量計電子装置20は、流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出するために、2つ以上の振動応答を時間に関して処理することができる。剛性の決定は流れ条件又は流れ無しの条件の下で行われ得る。流れ無しでの決定は、結果としての振動応答におけるノイズ・レベルの低減という利点を提供する。【0069】先に検討したとおり、流量校正係数(FCF)は流管の物質特性と断面特性とを反映する。流量計を流れる流れ物質の質量流量は、測定された時間遅延(又は位相差/周波数)にFCFを乗じることによって決定される。FCFは流量計組立体の剛性と関係付けられる。流量計組立体の剛性特性が変化すると、FCFも変化する。したがって、流量計の剛性の変化は、流量計によって生成される流量測定に精度に影響を与える。【0070】本発明が重要なのは、流量計電子装置20が、実際の流量校正試験を行うことなく、現場で剛性決定を実行することを可能にするからである。本発明は、校正試験台や他の特別な機器又は特別の流体を用いることなく、剛性決定を可能にする。これが望ましいのは、現場での流れ校正は高価且つ困難であり、時間がかかるからである。しかし、流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましい。こうした変化は、例えば流管の腐食、流管の浸食、流量計組立体10の損傷等のファクタに起因し得る。」
「【図1】[図:0001410756000001.jpg]」
「【図2】[図:0001410756000002.jpg]」
(3) 段落【0095】~【0105】
「【0095】使用に際して、剛性パラメータ(K)を時間に関して追跡することができる。例えば、統計技術を用いて時間的な変化(すなわち、剛性変化(ΔK))を決定することができる。剛性パラメータ(K)の統計的な変化は、特定の流量計のFCFが変化したことを示すことができる。【0096】本発明は、記憶された又は回収された校正密度値に依存しない剛性パラメータ(K)を提供する。これは従来技術とは対照的であり、従来技術では、既知の流れ物質を工場校正動作において用いて、全部の将来の校正動作に対して使用できる密度標準を取得する。本発明は、流量計の振動応答からのみ取得される剛性パラメータ(K)を提供する。本発明は、工場校正動作の必要の無い剛性検出/校正プロセスを提供する。続きを表示(全22行)【0097】インタフェース201は、図1のリード線100を介して速度センサ170L、170Rのうちの一方から振動応答210を受け取る。インタフェース201は、形成、増幅、バッファリングなどのような任意の必要な又は所望の信号条件付けを実行することができる。代わりに、処理システム203において、若干の又は全部の信号条件付けを実行することができる。更に、インタフェース201は流量計電子装置20と外部装置との間の通信を可能にする。インタフェース201は電子的通信、光通信又は無線通信のうちの任意のものを行うことができる。【0098】センサ信号がアナログのセンサ信号からなる一つの実施の形態におけるインタフェース201は、デジタイザ(図示せず)と結合される。デジタイザはアナログ振動応答をサンプリングしてデジタル化し、デジタル振動応答210を生成する。【0099】処理システム203は流量計電子装置20の動作を行い、流量計組立体10からの流れ測定値を処理する。処理システム203は1つ以上の処理ルーチンを実行し、それによって、流れ測定値を処理して1つ以上の流れ特性を生成する。【0100】処理システム203は汎用コンピュータ、マイクロプロセッシング・システム、論理回路又は他の汎用又は特注の処理装置を備えることができる。処理システム203は複数の処理装置間に分散されることができる。処理システム203は記憶システム204のような統合型の又は独立の電子的記憶媒体のうちの任意のものを備えることができる。【0101】記憶システム204は流量計パラメータ及びデータ、ソフトウェア・ルーチン、定数値及び変数値を記憶することができる。1つの実施の形態においては、記憶システム204は、流量計5の剛性パラメータ(K)を決定する剛性ルーチン230のような、処理システム203によって実行されるルーチンを含む。【0102】1つの実施の形態における剛性ルーチン230は、実質的に共振周波数での流量計の振動に対する応答を含む振動応答を流量計から受け取り、振動応答の周波数(ω0)を決定し、振動応答の応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、流量計の減衰特性(ζ)を測定し、周波数(ω0)、応答電圧(V)、駆動電流(I)及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)を決定するよう、処理システム203を構成することができる(図3及びそれに付随する検討を参照のこと)。【0103】1つの実施の形態における剛性ルーチン230は、振動応答を受け取り、周波数を決定し、応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、減衰特性(ζ)を測定し、剛性パラメータ(K)を決定するよう、処理システム203を構成することができる。また、この実施の形態における剛性ルーチン230は、第2の時間t2に流量計から第2の振動応答を受け取り、第2の振動応答に対する決定と測定のステップを反復して第2の剛性特性(K2)を生成し、第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し、第2の剛性特性(K2)が剛性パラメータ(K)と許容値224よりも大きい値だけ相違しているならば剛性変化(ΔK)を検出するよう、処理システム203を構成することができる(図4及びそれに付随する検討を参照のこと)。【0104】1つの実施の形態においては、記憶システム204は流量計5を動作させるために使用される変数を記憶する。1つの実施の形態における記憶システム204は、例えば速度/ピックオフ・センサ170L、170Rから受け取ることができる、振動応答210のような変数を記憶する。【0105】1つの実施の形態においては、記憶システム204は定数、係数及び作業変数を記憶する。例えば、記憶システム204は剛性特性220と、後の時点に生成される第2の剛性特性221とを記憶する。記憶システム204は振動応答210の周波数212、振動応答210の電圧213、振動応答210の駆動電流214などの作業変数を記憶することができる。また、記憶システム204は流量計5の振動目標値226と測定された減衰特性215とを記憶することができる。更に、記憶システム204は許容値224のような定数、閾値又は範囲を記憶することができる。また、記憶システム204は剛性変化228のような、或る期間にわたって累積されたデータを記憶することができる。」
(4) 段落【0110】~【0112】、【図4】
「【0110】図4は、本発明の実施の形態に係る流量計の剛性変化(ΔK)を決定するための方法のフロー図400である。ステップ401において、前記のとおり、振動応答が流量計から受け取られる。ステップ402において、前記のとおり、振動応答の周波数が決定される。ステップ403において、前記の通り、振動応答の電圧と駆動電流が決定される。ステップ404において、前記のとおり、流量計の減衰特性(ζ)が測定される。ステップ405において、前記のとおり、周波数、電圧、駆動電流及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)が決定される。【0111】ステップ406において、第2の時間t2において、第2の振動応答が受け取られる。第2の振動応答は時間t2における流量計組立体10の振動から生成される。ステップ407において、第2の振動応答から第2の剛性パラメータ(K2)が生成される。第2の剛性パラメータ(K2)は例えばステップ401~405を用いて生成され得る。ステップ408において、第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較される。この比較は、剛性変化(ΔK)を検出するために異なる時間において取得される剛性特性の比較を含む。【0112】ステップ409において、K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定する。剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的又は数学的方法を採用することができる。剛性変化(ΔK)を更なる使用のために記憶しても、遠隔場所へ送信してもよい。更に、剛性変化(ΔK)は流量計電子装置20において警報条件をトリガすることができる。1つの実施の形態における剛性変化(ΔK)は最初に許容値224と比較される。剛性変化(ΔK)の方が許容値224よりも大きいならば、エラー状態が決定される。剛性(K)の決定及び追跡に加えて、この方法は減衰パラメータ(C)と質量パラメータ(M)をも決定し追跡する。」
「【図4】[図:0001410756000003.jpg]」
2 引用発明の認定
前記1において摘記した事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、【0068】の「合成パラメータK」は「剛性パラメータK」の明らかな誤記であるので、「合成パラメータK」を「剛性パラメータK」として認定した。
<引用発明>
「流量計電子装置20であって、(【0068】)流量計電子装置20はインタフェース201と処理システム203を備え、流量計電子装置20は流量計組立体10から振動応答210を受け取り、流量計電子装置20は振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得し、続きを表示(全30行)流量計電子装置20において、振動応答210は流量計組立体10の剛性パラメータKを決定するために処理され、流量計電子装置20は、流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出するために、2つ以上の振動応答を時間に関して処理することができ、剛性の決定は流れ条件又は流れ無しの条件の下で行われ得るものであり、(【0068】)使用に際して、剛性パラメータ(K)を時間に関して追跡することができ、例えば、統計技術を用いて時間的な変化(すなわち、剛性変化(ΔK))を決定することができ、剛性パラメータ(K)の統計的な変化は、特定の流量計のFCFが変化したことを示すことができるものであり、(【0095】)流量計電子装置20は、実際の流量校正試験を行うことなく、現場で剛性決定を実行することを可能にし、流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましく、こうした変化は、例えば流管の腐食、流管の浸食、流量計組立体10の損傷等のファクタに起因し得るものであり、(【0070】)処理システム203は流量計電子装置20の動作を行い、流量計組立体10からの流れ測定値を処理し、処理システム203は1つ以上の処理ルーチンを実行し、それによって、流れ測定値を処理して1つ以上の流れ特性を生成し、(【0099】)処理システム203は記憶システム204のような統合型の又は独立の電子的記憶媒体のうちの任意のものを備えることができ、(【0100】)記憶システム204は、流量計5の剛性パラメータ(K)を決定する剛性ルーチン230のような、処理システム203によって実行されるルーチンを含み、(【0101】)剛性ルーチン230は、振動応答を受け取り、周波数を決定し、応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、減衰特性(ζ)を測定し、剛性パラメータ(K)を決定するよう、処理システム203を構成することができ、剛性ルーチン230は、第2の時間t2に流量計から第2の振動応答を受け取り、第2の振動応答に対する決定と測定のステップを反復して第2の剛性特性(K2)を生成し、第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し、第2の剛性特性(K2)が剛性パラメータ(K)と許容値224よりも大きい値だけ相違しているならば剛性変化(ΔK)を検出するよう、処理システム203を構成することができ、(【0103】)記憶システム204は剛性特性220と、後の時点に生成される第2の剛性特性221とを記憶し、記憶システム204は剛性変化228のような、或る期間にわたって累積されたデータを記憶することができ、(【0105】)流量計の剛性変化(ΔK)を決定するための方法では、ステップ401において、振動応答が流量計から受け取られ、ステップ402において、振動応答の周波数が決定され、ステップ403において、振動応答の電圧と駆動電流が決定され、ステップ404において、流量計の減衰特性(ζ)が測定され、ステップ405において、周波数、電圧、駆動電流及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)が決定され、(【0110】)ステップ406において、第2の時間t2において、第2の振動応答が受け取られ、第2の振動応答は時間t2における流量計組立体10の振動から生成され、ステップ407において、第2の振動応答から第2の剛性パラメータ(K2)が生成され、第2の剛性パラメータ(K2)はステップ401~405を用いて生成され得、ステップ408において、第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較され、この比較は、剛性変化(ΔK)を検出するために異なる時間において取得される剛性特性の比較を含み、(【0111】)ステップ409において、K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定し、剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的方法を採用することができ、剛性変化(ΔK)は流量計電子装置20において警報条件をトリガすることができ、剛性変化(ΔK)は最初に許容値224と比較され、剛性変化(ΔK)の方が許容値224よりも大きいならば、エラー状態が決定される、(【0112】)流量計電子装置20。」
第5 周知技術等の認定
1 引用文献2、6の記載事項及び周知技術1の認定
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(1) 引用文献2の記載事項
前記引用文献2(特表2014-522972号公報)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。下線は、当合議体において付したものであり、以下同様である。
ア 段落【0001】~【0006】
「【技術分野】【0001】本発明は振動式フローメータ及びゼロチェック方法に関するものである。【背景技術】続きを表示(全14行)【0002】コリオリ式質量流量計(コリオリ式質量フローメータ)及び振動式デンシトメータの如き振動式導管センサは、流動物質を収容して振動する導管の運動を検出するよう動作するようになっているのが一般的である。質量流量、密度などの如き導管内の物質に関する物性は、導管に接続されている運動トランスデューサから受け取る測定信号を処理することにより求めることができる。物質を充填した振動システムの振動モードは、一般的に、収容している導管及びその導管に収容されている物質の質量、剛性及びダンピング特性を組み合わせたものに影響される。【0003】典型的なコリオリ式質量流量計は、配管又は他の移送システムにインラインで接続されているとともに、システム内のたとえば流体、スラリ、エマルジョンなどの物質を移送する1つ以上の導管を有している。各導管は、たとえば単純曲げモード、ねじれモード、ラジアルモード及び結合モード含む一組の固有の振動モードを有していると考えることが可能である。コリオリ式の質量流量測定の典型的な用途では、物質が導管を流れている際に、導管が1つ以上の振動モードで励振され、導管の運動が導管の複数の間隔おいた部位で測定される。通常、励振は、導管を周期的に摂動するボイスコイルタイプのドライバの如き電気機械デバイスのようなアクチュエータによって加えられる。複数のトランスデューサの位置において、振動と振動との間の遅延時間又は位相差を測定することによって、質量流量を求めることが可能である。通常、このようなトランスデューサ(又は、ピックオフセンサ)が2つ、1つ以上のフロー導管の応答振動を測定するために通常用いられ、アクチュエータの上流側及び下流側に配置されている。これらの2つのピックオフセンサは電子計装装置に接続されている。電子計装装置は、2つのピックオフセンサからの信号を受け取り、これらの信号を処理してたとえば質量流量測定値などを算出するようになっている。【0004】コリオリ式質量流量計を流れる流れが無い場合、ドライバにより力が加えられると、導管に沿ったすべての部位が、同一の位相で振動するか、又は、修正可能だが初期段階では一定の位相だけ僅かにオフセットされて振動する。物質が流れ始めると、コリオリ力により導管に沿った各部位が異なる位相を有するようになる。導管の流入口側の位相はドライバの位相よりも遅れ、導管の流出口側の位相はドライバの位相よりも進んでいる。導管に結合されているピックオフセンサは導管の運動を表す正弦波信号を発生する。ピックオフセンサから出力される信号を処理してピックオフセンサとピックオフセンサとの間の位相差が求められるようになっている。2つのピックオフセンサ信号間の位相差は導管を流れる物質の質量流量に比例する。【0005】コリオリ質量流量計は、遅延時間の測定値から質量流量を計算するようになっている。遅延時間は、コリオリ効果から生じ、質量流量に正比例している。理想的なコリオリ式質量流量計(流入口から流出口まで完全に対称になって、減衰しないコリオリ式質量流量計)の場合、質量流量を正確に求めるのに必要なことといえば遅延時間を測定することだけである。しかしながら、コリオリ式質量流量計というものは、必然的に非対称なものであって、構造的な減衰及び粘性による減衰を受けてしまう。したがって、流れの無い状態下であっても遅延時間がわずかに生じてしまう場合もある。この遅延時間を測定してその測定結果をコリオリ効果により誘発される遅延時間から減算することにより、ゼロ遅延時間(zero time delay)が求められる。【0006】ゼロ流量時のコリオリ式フローメータの遅延時間が時間の経過とともに変わりうるという問題がある。ゼロ流量時の時差が変わると誤った流量測定値をもたしてしまう恐れがある。」
イ 段落【0012】
「【0012】従来技術における他の欠点は、現場でのゼロ調整時にすべての環境条件を厳密に制御することができない場合もあるという点にある。ゼロ調整される上述のメータ内の流体は、校正のためだけに提供された校正用の流体ではないのが普通である。液状の流動物質内に混入された気体の如き、流体の問題は、時差(Δt)の読み取りを乱し、ゼロ流量時の時差(Δt0)の計算値が真のアベレージを表すものではなくなってしまうという点にある。したがって、上述のメータは、不正確にゼロ調整され、エラーが導入されてしまう恐れがある。」
ウ 段落【0047】~【0048】
「【0047】ステップ202では、複数の時差測定値から新たなかつ代表的な時差(Δt)が生成される。複数の時差測定値が、フローメータ内の既知の流動物質を用いて流れの無い状態で取得される。前もって決められている数の複数の時差測定値が取得されるようになっていてもよい。必要な時差測定値の数には下限はないが、重要なことは、時差測定値の数が多ければ多いほど安定性も増していき、用いられる振動式フローメータをより正確に表す時差を求めることが可能となるということである。【0048】新たなかつ代表的な時差(Δt)はいかなる適切な方法で求められてもよい。たとえば、複数の時差測定値を数学的に又は統計的に適切に処理することによって新たなかつ代表な時差(Δt)を求めることができる。一実施形態では、新たなかつ代表的な時差(Δt)は、累積されている時差測定値のアベレージ又は平均値(average or mean)である。それに加えて、複数の時差測定値の標準偏差(S)が計算されるようになっていてもよい。しかしながら、新たなかつ代表値な時差(Δt)を求めるプロセスは他にも考えられており、それらもまた本明細書の範囲又は請求項の範囲に含まれる。」
エ 段落【0057】
「【0057】ステップ204では、新時差(Δt)が、現時点で格納されている(すなわち、旧)ゼロ流量時の時差(Δt0)と比較される。実施形態によっては、比較には、複数の時差測定値の平均値及び標準分布を旧時差(Δt0)と比較することが含まれる。新時差(Δt)が旧時差(Δt0)の所定範囲内にない場合、旧時差(Δt0)はもはや有効でないと判断され、当該方法はステップ205へ進む。しかし、新時差(Δt)が所定範囲内にある場合、旧時差(Δt0)はまだ有効であり、当該方法はステップ207へ分岐する。したがって、新時差(Δt)が旧時差(Δt0)と実質的に同等である場合、当該方法はステップ207へ分岐し、振動式フローメータのゼロ流量時の校正値は前の時差校正値からはあまり変わっていない。」
オ 段落【0064】~【0067】
「【0064】旧時差(Δt0)と新時差(Δt)との比較は、どのような比較であってもよい。一実施形態では、新時差(Δt)を旧時差(Δt0)と比較するにあたって、t-検定が用いられてもよい。一般論としては、t-検定は、検定統計量がt分布を有した統計的な検定である。複数の時差測定値から新時差(Δt)を求める場合、t-検定はアベレージの変化をテストしてもよい。t-検定は次の式を用いて計算されうる:【0065】【数3】[図:0001410756000004.jpg]【0066】得られる(t)は、新時差(Δt)と旧時差(Δt0)との間の関係(すなわち、差又はオフセット)を表わす実数である。用語「Δt0」は旧時差を表している。用語「stab」は、用いられるフローメータの所定のゼロ安定値を表しており、この所定のゼロ安定値はモデル特有のものであってもよく、及び/又は、サイズ特有のものであってもよい。用語「S」は標準偏差を表している。用語「n」はサンプル数を表している。【0067】t>2の場合、又はt<-2の場合、新Δtの分布は、「stab」により与えられる範囲外にある。この例では、「2,-2」の範囲は95%の信頼限界を示している。」
(2) 引用文献6の記載事項
当審において新たに引用する渕野公市ほか「測定器の故障を診断するためのアルゴリズムと診断システムの設計法」化学工学論文集1995年21巻4号p.766-775(以下「引用文献6」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。
ア 766頁要約欄1~5行
「 測定変数間の線形な関係式とχ2検定を利用して,連続プロセスの定常状態における測定器の故障の診断を行う効率の良いアルゴリズムと,それを用いた診断システムの設計法とを提案する.また,数値実験によりアルゴリズムの効率の良さと設計法の妥当性とを検証する.この診断法は,流量計の出力の偏りを積算流量の測定値を用いて診断するのに有効である。」
イ 766頁左下欄1行~右下欄7行
「1.はじめにプラントの運転管理設備管理は,測定値を基に行われるので,常に測定器の故障を診断して測定値の修正を行うことが必要となる.測定器の故障の中でも,ベースラインの偏り,ゲインの変化などによる出力の偏りは単独の測定器の指示値から見つけることができないので,測定変数間の関係を利用して故障を診断しなければならない.プラントの定常運転時のデータから測定値の偏りを診断する方法としては,Nogita7),Mahら5, 6),Croweら3)が正規分布による検定を,Almazyら2),Madronら4),Romagnohら9~11)がχ2分布による検定を利用した方法を提案している.しかし,これらの方法には,次のような欠点があるために,これを利用した診断システムを設計することが難しい.(1) 測定器のすべての組み合わせについて検定を行うので,測定器の数の増加とともに計算量が指数関数的に増加するため,5~6個の測定器を含む系にしか適用できない.(2) 診断システムに要求される仕様を満足するように正規分布による検定,あるいは,χ2分布による検定に含まれるパラメータ(有意水準)を決定する方法が示されていない.一方,Yamamuraら12)は,赤池情報量基準(AIC)1)を利用して測定器の診断問題の効率の良い解法を開発し,大規模な系の診断ができることを示した.しかし,この方法には混診(真に故障した測定器以外の測定器をも故障したと判定すること)の確率が60~70%に達するという欠点がある.本論文ではχ2分布による検定を利用した診断法を提案し,診断に要求される仕様を満足するように有意水準を決定する方法を示す.また,効率のよいアルゴリズムを開発して診断システムを作成し,仕様を満足するように有意水準を設定した本診断システムは混診を起こす確率も非常に小さいことを数値実験によって示す.」
ウ 767頁右欄42行~768頁左欄12行
「2・5 故障した測定器の探索問題故障を仮定した測定器の集合Fが真に故障した測定器の全集合Gに一致したときには,ω(F)から系統的誤差を含む測定値が全て排除されるので,[図:0001410756000005.jpg]となり,ω(F)は自由度(m-|F|)の中心χ2分布に従う確率変数となる.したがって,自由度(m-|F|)の中心χ2分布の累積分布関数Π(x;m-|F|,0)の値が(1-δ)となるときのxの値をχ2(m-|F|,δ)と表すと,[図:0001410756000006.jpg]が成立するときには,ω(F)が自由度(m-|F|)の中心χ2分布に従わない(Fが故障した測定器の全集合に一致しない)確率がδとなる.ここで,パラメータδはχ2検定の“有意水準”と呼ばれる.」
エ 773頁左欄11~17行
「まとめ測定変数間の線形な関係式とχ2分布による検定法とを利用して測定器の故障を診断するシステムの設計法と効率の良い診断アルゴリズムを提案した.本診断システムは,動特性の影響を無視できる程度に長い時間の積算流量を用いることによって,流量計のベースラインの偏り,ゲインの変化を診断するのに有効であると考える.」
(3) 周知技術1の認定
前記(1)及び(2)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
[周知技術1]
「流量計の異常を判定するための手法として、流量計の測定値をデータとした統計的な検定を用いること。」
2 引用文献7~12の記載事項及び周知事項1、2の認定
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(1) 引用文献7の記載事項
当審において新たに引用する奥野忠一「t-分布を用いる検定と推定」化学と生物1969年7巻 8号p.498-499(以下「引用文献7」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。なお、上付きバーを伴うXは「X ̄」と表記しており、以下同様である。
「25. スチューデントのt-分布実験で得られたn個のデータは,正規分布N(μ,σ2)に従って互いに独立に分布するn個の変量X1,X2,…,Xnの実現値であるとするとき,標本平均X ̄の期待値はμであり,その分散はσ2/nになることは,しばしば引用した(式(40)).また,このX ̄に,次の変換:[図:0001410756000007.jpg]を施すと,Zの期待値は0,その分散は1となり,§.20で述べた〔定理1〕(Vol.7,No.3,p.304)により,Zの分布は標準正規分布N(0,1)であることを知った.この(41)'式の分母のσを,σ2の不偏推定値であるs2(標本分散)の平方根sでおきかえた式を,[図:0001410756000008.jpg]と書くと,このtは,分子(X ̄)も分母(s)も標本ごとに変動するので,その分布を求めることが数学的にも容易でなかった.19世紀末に隆盛をきわめたKarl Pearsonの数理統計学も,この分布を正確には求められず,「nが充分大きければsとσは同じであると考えてよい」とした.しかし,数回または十数回しか反復できない実験のデータを処理しなければならない実際家にとっては,百回も千回も反復したときにしか使えない理論では役に立たなかった.たまたま,アイルランドのビール会社の技師で小麦の品種試験を行なっていたW.S.Gossetが,このtの分布をやや直観的に求め,雑誌Biometrika Vol.6(1908)に“Student”という筆名で発表した.のち(1925)に,この厳密な証明がR.A.Fisher(Metron Vol.5,No.3)によって与えられたが,以後この分布を「スチューデントのt-分布」と呼ぶようになった.」
「[図:0001410756000009.jpg]」
「26.t-分布を用いる検定と推定これまで一貫して引用してきた実験IIのデータ(表7,Vol.7,No.7,p.437)は,処理AとDを受けた16対のラットのO.D.の差を表わし,それらは,[図:0001410756000010.jpg]という2つの統計量に要約されるものであった.このとき,帰無仮説H0:「処理AとDとに差なし」,すなわち,「AとDとの差の母平均μ=0」の下では,(72)式のtの値は,前回の最後に計算したように,続きを表示(全13行)[図:0001410756000011.jpg]となる.このt0=2.2は,この特定の実験結果に基づいて計算したtの値であるが,変量としてのtの分布は,i) 個々のデータが正規分布をするときは,正確に,ii) 個々のデータが正規分布をしなくても,16個の平均X ̄は「中心極限定理」(§.21)により,正規分布に近づくから,近似的に,前節で求めたt-分布に従うはずである.よって,t-分布のパーセント点の表8から(自由度f=16-1=15の行を見る),[図:0001410756000012.jpg]が読みとれるので,[図:0001410756000013.jpg]であることがわかる(2.2は2.131と2.602の間にある.t0の値が大きくなるにつれて,それを超える確率は小さくなることに注意).これより,5%以下の危険率で,帰無仮説H0は否定され,「処理Aは対照Dに比べて,血液中の酵素活性を高める」と結論してよいことがわかる(なお,ここでの論理の進め方については,§.20「正規分布を用いる検定」,Vol.7,No.5,p.304~305を復習されたい).」
(2) 引用文献8の記載事項
当審において新たに引用する滝沢隆安「平均値の推定と検定に関するいくつかの統計理論」獣医科学と統計利用1978年2号p.15-20(以下「引用文献8」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。
「[図:0001410756000014.jpg]」
「4.t分布N(0,1)の分布をするuの2乗は,自由度1のχ2分布をする。これを表3の(13)のように略記しよう。f(u2)は(14)になる。ただし,Γ(・)は,ガンマ関数と呼ばれるものである。χ2(1)の値をn個加えると(χ2分布のたたみこみという),これは(15)のように,自由度nのχ2分布をし,そのfは(16)になる。χ2分布の自由度とは,(16)のnのことである。(17)のように,N(0,1)のxを分子にとり,χ2(n)のyをnで割って平方根をとった値を分母にとり,これをtとする。このtは自由度nのt分布をする。これを(18)のように略記しよう。f(t)は(19)になり,その形はnとtによって決まる。t分布の自由度とは,(19)のnのことである。n=2と10のとき,(19)を図にすると図3と4になるが,n=∞のとき,N(0,1)と一致する。(19)を積分して作った表がt分布表であり,この表を利用して次のようなことがいえる。すなわち,t分布表の自由度がnで確率がαの値をt(n,α)と表わせば,(20)のように,t分布する値tが-t(n,α)とt(n,α)の間である(tの絶対値がt(n,α)より小である)確率は1-αである。あるいは,(21)のように,tが-t(n,α)より小またはt(n,α)より大である(tの絶対値がt(n,α)より大である)確率はαである。(20)と(21)が、σが未知の場合,推定や検定に利用される。」
「[図:0001410756000015.jpg]」
「5.母平均の推定実験や調査を行ない,得られたデータから平均(標本平均)を求め,この値から母平均を推定したいことが多い。しかし,実験や調査を繰り返すと,標本平均が毎回異なるのがふつうのため,標本平均イコール母平均であるとする推定は危険である。そのため,結論が信頼できる確率(信頼度)をあらかじめ決めておき,その信頼度の下で母平均が存在する区間を推定するほうが無難である。このように,ある信頼度の下で区間をつけて推定する方法を,区間推定という。信頼度は1-αと表わすが,0.95(α=0.05)または百分率にして95%にとることが多い。95%の信頼度で推定される母平均が存在する区間の両端を95%信頼限界といい,大きいほうを(信頼)上限,小さいほうを下限という。データの分布がN(μ,σ2)のとき,σが既知の場合は(11)を,σが未知の場合は(20)を変形すると,信頼度1-αで母平均の信頼限界を求める公式が得られる。」
「2)σが未知の場合(8)の右辺のσのかわりに,表5の(25)で求めた標本標準偏差sを代入し,(26)のようにtとおく。このtは,次のような理由で,自由度n-1のt分布する値である。(27)のように,偏差平方和Sを変形する。Sをσ2で割ると(28)のようになる。そのため,(29)と(30)から(31)がなりたつ。そこで,N(0,1)である(8)を分子にとり,(31)によりχ2(n-1)である値を自由度で割って平方根をとった値を分母にとれば,(32)のように,(26)のtの分布はt(n-1)である。(32)の関係を使い,(11)を(22)に変形したように(20)を変形すれば,(33)または(34)のように,σが未知の場合の95%信頼限界を求める公式が得られる。」
「[図:0001410756000016.jpg]」
(3) 引用文献9の記載事項
当審において新たに引用する東京大学教養学部統計学教室編「統計学入門」東京大学出版会1991年7月10日(以下「引用文献9」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。
ア 201~203頁
「10.4 分散が未知のときの標本平均の標本分布10.2節では母分散σ2が既知である場合の標本平均X ̄の標本分布について考えたが,この仮定は現実的でないことはいうまでもない.もともと,母平均μについて調べているときに,母分散,母標準偏差という,よりくわしい情報がわかっているという状況は,現実に想定しにくい.標本分布はμばかりでなくσ2に依存するから,σ2の値が未知のままでは,現実に用いる正確な標本分布を求めることはできない.したがって,σ2の代わりに標本分散s2を使う方法が考えられよう.ここではその場合のX ̄の標本分布について述べよう.標本平均X ̄の標本分布は正規分布N(μ,σ2/n)であるから,その標準化[図:0001410756000017.jpg]続きを表示(全25行)は標準正規分布N(0,1)に従う.しかし,σ2がわかっていなければこのZは計算できない(統計量ではない).そこで母分散σ2を,標本(不偏)分散s2で代用した‘代用品’を考えるほうが,ずっと現実的なので,スチューデントのt統計量Student's t-statistic[図:0001410756000018.jpg]を定義する.これは,すでに,標準正規分布N(O,12)には従わない.この確率分布はどうなるか考えてみると[図:0001410756000019.jpg]であり,さらには,分母を変形すると[図:0001410756000020.jpg]となる.分子(X ̄-μ)/√σ2/nは標準正規分布N(0,1)に,分母(n-1)s2/σ2は自由度n-1のχ2分布χ2(n-1)に従う,これらの比になっている.しかも,正規分布の密度関数の計算から,X ̄とs2は互いに独立であるので,N(0,1)とχ2(n-1)の組み合わせから,tの密度関数が求まる.正規標本論では,これを新たにt分布と呼んでいる.そこで,次のように定義しよう.t分布 二つの確率変数YとZが次の条件を満たすものとする.(a) Zは標準正規分布N(0,1)に従う.(b) Yは自由度Kのχ2分布χ2(k)に従う.(C) ZとYは独立である.いま,確率変数tを[図:0001410756000021.jpg]と定義すると,tが従う確率分布を自由度kのt分布(あるいは,スチューデントのt分布)という.自由度kのt-分布をt(k)で表す.これによるならば,先にふれた[図:0001410756000022.jpg]で定義されたt統計量は,自由度n-1のt分布t(n-1)に従う.また,X ̄の標準偏差s/√nを,標本平均の標準誤差standard errorという.“スチューデントStudent”は,これを定義したゴセット(William Gosset 1876-1937,英国の統計学者)の仮名である.t分布は,(標準)正規分布の代用品であるが,正規分布と同様にその密度関数f(x)はx=Oについて対称である.また,kが大きい場合(たとえば30以上の場合)は,標準正規分布とほとんど変わらない.とくに,k=∞の場合はt分布は標準正規分布N(O,1)と一致する.これは,自由度kのχ2分布の平均がkであることからY/kがk(つまりn)が大きい場合は大数の法則によってほとんど1となっているためである.あるいは,大標本(n→∞)のときは,標本と母集団の区別がなくなり,s2≒σ2となるためである,といってもよい.この意味で,t分布は小標本の厳密な標本分布ということができる.上側確率α(図10.5の斜線の部分)に対して,自由度kのt分布t(k)の上側確率100α%のパーセント点をtα(k)と書いて,付表2にまとめられている.tα(k)は同一のαに対してはkが大きくなるに従い,小さくなる.」
「[図:0001410756000023.jpg]図10.5 自由度kのt分布t(k)とパーセント点母平均の仮説検定,推定論などにおいて,実際に用いられるのは,標準正規分布より,このt分布である.二つは酷似するが,大標本(n→∞)のときは,一致する.tα(k)はP(t>tα(k))=αで定義される.なお,両側(-の側)も入れてαとする流儀もある.」
イ 226頁
「11.5.1 正規母集団の母平均,母分散の区間推定母平均の信頼区間 10.2節で述べたように,X ̄は正規分布N(μ,σ2/n)に従うから,これを標準化すると[図:0001410756000024.jpg]となる.カッコ内の不等式をμについて解くと続きを表示(全17行)[図:0001410756000025.jpg]であり,μの信頼係数1-αの信頼区間は[図:0001410756000026.jpg]となる.また,σ2が未知のときは標本分散を不偏分散の形で[図:0001410756000027.jpg]とすると,第10章で述べたように√n(X ̄-μ)/sは,自由度n-1のt分布t(n-1)に従うから,(11.37)に対応して[図:0001410756000028.jpg]である.パーセント点tα/2(n-1)は付表2のt分布表から求める.これをμについて解くと[図:0001410756000029.jpg]となる.したがって,母平均μの信頼係数1-αの信頼区間は[図:0001410756000030.jpg]となる.」
ウ 239~241頁
「12.2 正規母集団に対する仮説検定もっとも広く使われている検定の例として,母集団の分布が正規分布である場合の仮説検定について述べよう.実用上重要なものとして母平均に関する両側検定,片側検定および二つの正規母集団の母平均の差の検定がある. また,ここで考える検定は,正規母集団以外のものに関して中心極限定理からここでの検定を漸近的(nが大きい場合の近似)に使うこともできる.なお,検定はすべて有意水準αのものとする.」
「12.2.1 母平均に関する検定まず,もっともよく用いられる母平均μ,母分散σ2の正規母集団の母平均μに関する検定について,両側検定と片側検定に分けて説明しよう.両側検定 両側検定では,帰無仮説,対立仮説は[図:0001410756000031.jpg]続きを表示(全14行)で与えられる.μに関する検定は標本平均X ̄がμ0からどれくらい離れているかを比較することによって行われる.このときも,その差を見て判定するための尺度σ2が既知であるかどうかによって異なる.ここでは,はじめにσ2が既知のとき,ついで未知のときを考えるとわかりやすい.σ2が既知のとき 検定統計量Zは,(10.5)で述べたX ̄の標準化変数[図:0001410756000032.jpg]である.帰無仮説が正しければ,μ=μ0においてZは10.2節で述べたように標準正規分布N(0,1)に従う.また,標準正規分布は原点に関して対称であるから,標準正規分布表(付表1)から得られるパーセント点Zα/2と比較して|Z|>Zα/2ではH0を棄却し,|Z|≦Zα/2ではH0を棄却しない.σ2が未知のとき 実際の検定では,σ2が既知であることはほとんどない.そこで母分散σ2が未知であるときには,(12.5)式のσ2を標本分散s2で置き換えたスチューデントのt統計量[図:0001410756000033.jpg]を検定統計量とする.帰無仮説が正しければ,μ=μ0のときには,tは(10.15)で述べたように自由度n-1のt分布t(n-1)に従うからt分布表(付表2)から得られるパーセント点tα/2(n-1)と比較して|t|>tα/2(n-1)ではH0を棄却し,|t|≦tα/2(n-1)ではH0を棄却しない.これらの検定をスチューデントのt検定Student's t-testという.」
(4) 引用文献10の記載事項
当審において新たに引用する北坂真一「統計学から始める計量経済学」有斐閣2005年4月20日(以下「引用文献10」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。
ア 78~82頁
「母平均μの区間推定(1):母分散σ2が既知の場合点推定はある値をパラメータに当てはめるが,その推定量は確率変数であり,ある確率を伴って実現する。したがって,点推定の値だけでは確率に関する情報が欠けている。それを補う方法は2つある。1つはここで説明する区間推定を用いる方法,もう1つは点推定とともにあとで説明する検定を併用する方法である。区間推定では,そのパラメータが含まれる区間とそこに入る確率を示す。しかし,確率を決めるには標本が従う確率分布を決める必要がある。ここでは,無作為標本が平均μ,分散σ2の正規分布に従う母集団から抽出されたものと仮定する。この仮定により,標本平均X ̄は次のような正規分布に従うことがわかる。続きを表示(全17行)[図:0001410756000034.jpg]標本平均の期待値と分散は第3章の(3-23)式で示されており,その分布が正規分布に従うことは正規分布の再生性から明らかである。もし母集団が正規分布でないとしても,十分な標本のサイズがあれば中心極限定理により正規分布で近似できる。さらに確率と対応するパーセント点を知るために標準化すると,次のように示すことができる。[図:0001410756000035.jpg]パラメータを含む区間を示すために,そこに入る確率を事前に決める必要がある。区間推定において,示された区間がパラメータの真の値を含む確率は信頼係数や信頼度と呼ばれ,対応する区間は信頼区間と呼ばれる。信頼係数は高いほど,すなわち100%に近いほど,よい推定と思われるかもしれないが,信頼係数を高くすると信頼区間が大きく広がってしまい推定の役に立たなくなる。多くの場合に信頼係数として90%や95%,あるいは99%といった確率が選ばれる。ここでは,信頼係数95%の信頼区間を示すことを考える。標準化された正規確率変数が95%の確率で含まれる区間は,標準正規分布表から[図:0001410756000036.jpg]と示すことができる。ここで,信頼係数は信頼区間に入る確率であるから,そこからはみ出る確率は両側にそれぞれ2.5%ずつあることに注意してほしい。したがって,信頼区間の上限と下限を示す信頼限界は,上側2.5%点と下側2.5%点でそれぞれ示される。この(4-8)式の標準正規確率変数Zに,標準化された標本平均(4-7)式を代入して整理すると,次の関係式を得る。[図:0001410756000037.jpg]この(4-9)式は,パラメータμの値が次の区間に入る確率が95%であることを示している。[図:0001410756000038.jpg]この(4-10)式が,母平均μに関する信頼係数95%の信頼区間である。」
「[図:0001410756000039.jpg]」
「以上で説明した区間推定は,図4-4のように示すことができる。母平均μを知りたいが未知である。そこで,標本平均に基づいてμを含むと思われる範囲を信頼区間として示す。その信頼区間は,抽出される標本,X ̄AやX ̄B,X ̄Cごとに異なり,その範囲が真の値μを含むと思われる確率が信頼係数である。図4-4では,標本平均X ̄AやX ̄Cを中心とする信頼区間は母平均μをその範囲に含んでいるが,標本平均X ̄Bで計算される範囲はμを含むことに失敗している。信頼係数95%は,こうした失敗が5%の確率で発生することを意味する。」
「母平均μの区間推定(2):母分散σ2が未知の場合区間推定の考え方は先に説明した。しかし,実際に信頼区間を計算するには,問題が残されている。(4-9)式,あるいは(4-10)式に示されているように,その計算のためには母分散σ2の値が必要になる。通常,母平均の推定を行うときには母分散も未知であると考えられるので,信頼区間の計算は不可能になる。そこで考えられるのが,母分散σ2の代わりに標本分散s2を使うことである。標本分散であれば,標本から計算できる。しかし,標本分散は確率変数であるから(4-7)式のように標準化したときに標準正規分布にはならない。証明は省略するが,(4-7)式で母分散σ2を標本分散s2に置き換えた確率変数は,自由度n-1のt分布に従うことが知られている。すなわち,[図:0001410756000040.jpg]続きを表示(全13行)である。ここで,t分布は正規分布に似ているが,両すそがわずかに厚い確率分布だったことを思い出してほしい。直感的には,母分散を標本分散という確率変数に置き換えたことで,分布の広がりが増したことが想像できる。また,標本はn個あるが,標本平均X ̄の計算で制約が「1」つ存在するために,自由度は「n-1」になると理解できる。ここで,t分布から信頼係数95%の信頼区間を考える。t分布表における自由度n-1の上側2.5パーセント点をt0.025(n-1)と表記すると,t分布も正規分布同様に左右対称であるから次のように示すことができる。[図:0001410756000041.jpg]ここでも,信頼係数95%の信頼限界は上側2.5パーセント点と下側2.5パーセント点で示されることに注意してほしい。(4-12)式の確率変数tに(4-11)式を代入すると,次の関係式を得る。[図:0001410756000042.jpg]母分散が未知で,それを標本分散で置き換えたときの母平均μに関する信頼係数95%の信頼区間が(4-13)式で示された。いま説明したように母分散を標本分散に置き換えると,標準正規分布ではなくt分布を使うことになる。しかし,標本のサイズが100を超えるような大きな値であれば,t分布は標準正規分布に限りなく近づくので,両者の違いはほとんどなくなる。また,これまでの説明では母集団は正規分布に従うと仮定した。もし母集団の分布が未知であるとしても,標本が大きければ,中心極限定理により標本平均の区間推定が,これまでと同様に行える。」
イ 84~91頁
「検定とは検定とは,標本に基づいて母集団の状態や母数(パラメータ)について,あらかじめ立てられた仮説が支持されるかどうかを判断することである。本書では,単に検定と呼ぶが,仮説検定や統計的検定とも呼ばれる。検定は,統計学の考え方に従って多くの人が納得できるようにある判断を導くための手続きを示している。したがって,その判断に達するための合理的な手続きと,そのための基礎概念を理解しなければならない。通常の検定は,次のような手順で行われる。検定の手順(1) 母集団に関する仮説として,互いに対立する帰無仮説と対立仮説を立てる。(2) 適切な検定統計量を設定し,帰無仮説のもとでそれが従う確率分布を求める。(3) 有意水準と呼ばれる確率を定め,検定統計量が従う分布における棄却域とそれに対応する臨界値を分布表から求める。(4) 標本(データ)から,検定統計量の値を計算する。(5) 計算された検定統計量の値と臨界値を比較して,棄却域に入るかどうかをみる。もし棄却域に入れば,設定した有意水準のもとで「帰無仮説は棄却される」と判断する。もし棄却域に入らなければ,「帰無仮説は棄却されない」と判断する。」
「平均値μの検定(1):母分散σ2が既知の場合検定の手続きを,平均値の検定を例に説明する。母集団が正規分布N(μ,σ2)に従い,標本のサイズはnで,分析者は母平均μがμ0(定数)より大きいかどうかを知りたいとする。また,便宜上とりあえず母分散σ2は,既知と仮定する。まず検定の手順(1)に従い,帰無仮説(H0と表記する)と対立仮説(H1と表記する)を立てる。ここでは,分析者の問題意識から次のような仮説を立てることができる。[図:0001410756000043.jpg]続きを表示(全13行)一般に,μ=μ0のように特定の値で示される仮説を単純仮説,μ>μ0のように複数の値を含む仮説を複合仮説という。また,対立仮説は帰無仮説を含まない複合仮説となるが,その設定もH1:μ>μ0のように不等号で示される片側(仮説)検定の場合もあれば,H1:μ≠μ0のようにμ>μ0とμ<μ0の両側を含む両側(仮説)検定の場合もある。ここで,分析者は「μ0(定数)より大きいかどうか」を知りたいので片側検定になっているが,「μ0(定数)に等しいかどうか」を知りたいのであれば両側検定となる。ところで,こうした仮説の立て方に違和感を覚えるかもしれない。知りたいのは「μ>μ0」で,分析者はそれが成り立つのではないかと考えているなら,それを帰無仮説にすべきではないか,というものである。1つの理由は,この場合に単純仮説を帰無仮説にした方が統計量の構築が易しい,という理由がある。これに加えて,検定では帰無仮説を棄却することで消去法的に対立仮説を裏付ける,という考え方がある。この例のように「μ>μ0」が成り立つはずだという立場で検証するなら,「μ=μ0」を帰無仮説として棄却する,すなわち否定することで,検証したいことを支持する。帰無仮説は文字通り「無に帰したい仮説」であり,そうした仮説を帰無仮説とするのが通常である。次に検定の手順(2)に従い検定統計量を設定し,帰無仮説のもとでそれが従う確率分布を求める。検定統計量としてどのようなものを考えるかは,検定の原理として尤度比検定法やワルド検定法,ラグランジュ乗数検定法などがあり,そうした考え方に基づく検定統計量の設定や,それがどのような確率分布に従うのかという譲論がある。また,推定の場合と同様に,検定方法として望ましい性質の議論,例えば検出力の議論,などもあるが,これらは上級のテーマであり,本書では省略する。平均値の検定を行うための統計量として参考になるのは,前節の区間推定の議論である。検定を行う統計量は,その分布がわかっていなければ使えない。(4-7)式で示したように,標本平均X ̄を標準化した統計量は標準正規分布に従う。それを,帰無仮説H0:μ=μ0のもとで成り立つ統計量とすればよい。したがって,次の関係が成り立つ。[図:0001410756000044.jpg]このZ0が,平均値の検定(母分散σ2は既知と仮定)に使う検定統計量である。次に検定の手順(3)に従い,有意水準を定め,検定統計量が従う分布における棄却域と,それに対応する臨界値を求める。有意水準とは,本当は帰無仮説が正しいにもかかわらず誤って帰無仮説を棄却する確率である。すでに説明したように,分析者は帰無仮説を棄却することで自らの主張(対立仮説)を裏付ける。したがって,帰無仮説を誤って棄却することはできるだけ避けたい。そこで,有意水準には5%や1%といった小さな確率を設定する。有意水準が小さければそれだけ厳しい検定となり,帰無仮説を棄却する可能性は小さくなる。小さい有意水準のもとで帰無仮説が棄却されるなら,それだけ強く対立仮説が支持されることになる。この有意水準に応じて,検定統計量の棄却域と臨界値は変わる。棄却域は,検定統計量の確率分布において,その領域に検定統計量の値が入ると帰無仮説を棄却する領域であり,その棄却域の境となる値が臨界値(境界値)である。検定統計量の値が棄却域に入ることは,帰無仮説が正しいと仮定すると,有意水準が示すような非常に低い確率でしか起こらないことが標本から観察されたことになり,それはむしろ帰無仮説が誤っている可能性が高い,と判断するわけである。」
「[図:0001410756000045.jpg]」
「棄却域やその臨界値は,片側検定か両側検定かによっても異なる。図4-5に示したように,有意水準5%の片側検定(対立仮説は上側を支持)であれば,帰無仮説のもとで検定統計量が従う分布の片側の確率が5%となる領域を棄却域とし,対応する臨界値が決まる。平均値の検定では,検定統計量(4-15)は標準正規分布に従うので,5%の上側確率の点は「1.645」である。」
「[図:0001410756000046.jpg]」
「もし両側検定であれば,図4-6のように棄却域は分布の両すそに設定されるので,有意水準5%に対応する臨界値は,上側確率2.5パーセント点と下側確率2.5パーセント点になる。この場合,標準正規分布に従う検定統計量の臨界値は,「-1.96」と「1.96」になる。次に検定の手順(4)に従い,標本から検定統計量の値を計算する。例えば,標本平均X ̄=1O,母分散σ2=25,標本サイズn=1OOで,検定したい平均値μ0=9とすれば,(4-15)式から検定統計量Z0は「2」と計算できる。最後に検定の手順(5)に従い,計算された検定統計量と臨界値を比較して,棄却域に入るかどうかをみる。標本から計算された検定統計量の値は「2」,有意水準5%で片側検定の臨界値(上側確率5%の点)は「1.65」である。したがって,検定統計量の値「2」が棄却域に入ることから「帰無仮説H0:μ=9は棄却される」と判断する。このことは暗に,「対立仮説H1:μ>9」が成立している可能性を示唆している。以上が平均値の検定の手順である。以上の正規分布による検定の例は,図4-7のような状況になる。」
「[図:0001410756000047.jpg]」
「平均値μの検定(2):母分散σ2が未知の場合先の母平均μの検定では,母分散σ2を既知と仮定した。区間推定の議論と同様に,この仮定は現実的とはいえない。そこで,母平均の検定を母分散σ2が未知の場合にどのように行うかを説明する。帰無仮説は(4-14)式と同様に,片側検定とする。[図:0001410756000048.jpg]検定統計量は,区間推定の(4-11)式で説明したように,帰無仮説H0:μ=μ0のもとで次のような自由度n-1のt分布に従う統計量が使える。[図:0001410756000049.jpg]次に有意水準を5%と定め,対応する臨界値をt分布表から求める。例えば,標本平均X ̄=10,標本分散s2=25,標本サイズn=25で,検定したい平均値μ0=9としよう。t分布表から自由度「24」で有意水準5%の片側検定の臨界値(上側確率5%の点)を調べると「1.711」である。検定統計量の値を計算すると,先の例ではt分布に従う検定統計量は「1」となる。有意水準5%の片側検定の臨界値は「1.711」であるから,検定統計量の値が棄却域に入らない。したがって,この数値例では「帰無仮説H0:μ=9は棄却されない」と判断する。以上のt分布による検定の例では,図4-8のような状況になる。」
「[図:0001410756000050.jpg]」
「以上で説明した検定のプロセスをもう1度簡潔にまとめておく。(1)帰無仮説と対立仮説を立てる。(2)検定統量とその分布を決める。(3)有意水準を決め分布表から棄却域(すなわち臨界値)を求める。(4)標本から検定統計量の値を計算する。(5)検定統計量の値と棄却域(すなわち臨界値)から帰無仮説を棄却するかしないかの判断を下す。なお平均値の検定では,区間推定の場合と同様に,標本分散を使う検定でも標本のサイズが100を超えるような大きな値であれば,t分布と標準正規分布の違いはほとんどなくなる。また,母集団は正規分布に従うと仮定したが,分布が未知でも中心極限定理を根拠に標本のサイズが大きければ(30程度あれば)標準正規分布による検定が近似的に可能である。」
(5) 引用文献11の記載事項
当審において新たに引用する田中隆一「計量経済学の第一歩」有斐閣2015年12月20日(以下「引用文献11」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。
ア 86~93頁
「4 仮説検定さて,政策の効果を評価するための統計的手法をおさらいしてきましたが,いよいよ大詰めです。政策効果の評価においては施策によって期待される効果の「大きさ」を計測することが主な目的ですが,効果の大きさについて議論する前に「効果がある」ということを何らかの客観的な基準で評価できれば,より説得力のある議論ができるようになります。」
「帰無仮説と対立仮説たとえば「消費税率が上がると,家計の消費額が下がるのか?」や「企業内研修は,企業収益の改善に役立つのか?」さらに「1クラス当たりの人数を少なくすれば成績はアップするのか?」といったことを統計的な基準をもって客観的に評価したいとしましょう。その際に,調べて確かめたいことから疑問符をとったものが仮説とよばれるものになります。たとえば消費税率アップの影響についての仮説は,「消費税率が上がると,家計の消費額が下がる」となり,この主張が正しいかどうかを統計的に判断することになります。データを利用して仮説が正しいかどうかを客観的に判断することを仮説検定とよびます。統計的手法を用いて仮説検定を行う際には,仮説の立て方に関して少し独特な作法があります。たとえば,「消費税率が上がると消費額が下がる」かを調べたい場合には,「消費税率が上がっても,消費額に変化はない」という,一見すると逆のように見える仮説を先に立てます。そして,この仮説を統計的に否定する(棄却するといいます)ことができれば,「消費税率が上がると消費額に変化がある」という意見(仮説)を支持できると見なします。1つ目の「変化はない」という仮説は,否定することによって無に帰する仮説という意味で,帰無仮説とよばれ,2つ目の仮説は,帰無仮説に対立する仮説という意味で対立仮説とよばれます。…(中略)…さて,「消費税率が上がっても,消費額に変化はない」という帰無仮説に対立する仮説は「消費税率が上がると消費額に変化がある」というものでしたが,対立仮説を「消費税率が上がると消費額が下がる」とすることもできます。前者の対立仮説は,帰無仮説を棄却することによって消費額の増加と減少の両方を支持することになるので両側検定とよばれます。また後者の対立仮説は消費額が下がるという片方の変化のみを支持するので片側検定とよばれます。両側検定であれ,片側検定であれ,帰無仮説は「変化はない」という同じものなので,検定方法は基本的に同じです。それでは,仮説検定の方法について詳しく見ていきましょう。仮説検定の考え方をしっかりと理解するために,例を見ながら説明します。」
「例4.1:夏期講習の効果A市は中学3年生の数学の学力向上を目的として学習塾講師による夏期講習を行うことを考えています。すべての中学校で実施するためには膨大な費用がかかるため,あらかじめ夏期講習が効果的かどうかを無作為に選ばれたモデル校6校で試してみました。夏期講習の効果を検証するために,夏期講習を実施する前と後で同じ難易度のテスト(100点満点)を実施したところ,夏期講習前と後の各学校のテストの点数の平均点は表4.1のようになりました。」
「[図:0001410756000051.jpg]」
「さて,この学習塾講師による夏期講習は数学の学力向上に役立っていると言えるでしょうか。…(中略)…1つひとつの学校を見てみると効果があったように見える学校とそうでない学校がありますが,全体的に効果があったかどうかを判断するために,次に思いつくこととして,テストの点数の変化の平均を計算してみましょう。テストの点数の変化の平均は,[図:0001410756000052.jpg]となっています。平均的にはテストの点数が増えているように見えますが,平均的なテストの点数の上昇はわずか0.333点であり,効果は0,つまり夏期講習の効果はないと言えるようにも見えます。さらに,この6つのモデル校で実施した結果,たまたまテストの点数の上昇分がプラスになっただけで,また別のモデル校で同じことを行えば,今度は平均的なテストの点数の上昇分はマイナスの値にもなりかねません。」
「標準化さて,それではどうすればこの0.333点という平均的なテストの点数の上昇分が0と異なるかを調べることができるでしょうか。まず,この0.333点という平均的なテストの点数の上昇分が大きいかどうかは,あくまでも主観的な判断にすぎない点に注意が必要です。同じ0.333点のテストの点数の上昇でも,10点満点のテストと100点満点のテストではその意味は10倍違います。そこで,この平均点を「標準化」して,テストの点数の単位によらずに客観的な判断ができるようにしましょう。テストの点数の変化分の平均を標準化するためには,この標本平均の平均と分散が必要になってきます。各学校のテストの点数の変化分が平均μ,分散σ2の母集団分布にそれぞれ独立に従っているとすると,この標本平均の平均はμ,分散はσ2/nとなりますので,標準化された標本平均は,[図:0001410756000053.jpg]となります。この標準化された標本平均を使ってテストの点数の変化が0かを判断することになります。「平均的なテストの点数の変化が0」かを調べることで夏期講習の効果があるか判断したいのですが,「平均的なテストの点数の変化が0」というのは母集団分布の平均が0,つまり「μ=0」ということを意味しています。仮説検定の手順として,まず夏期講習に効果はない,つまり「μ=0」という帰無仮説を立てて,これを否定(棄却)することができれば夏期講習には何らかの効果があったと言えることになります。帰無仮説をH0と表すと,[図:0001410756000054.jpg]と書けます。6つのモデル校での平均的なテストの点数の変化は0.333点であったわけですが,もし夏期講習に効果がない,つまり「μ=O」が正しいときに変化の平均が0.333となることが非常に稀なことであれば,「μ=O」は正しくないのではないか,と帰無仮説を疑うことになり,帰無仮説を棄却することになります。逆に「μ=0」が正しいときに平均値が0.333となることがよくあることであれば,「μ=0」という帰無仮説は棄却せず,夏期講習に効果はなかった(夏期講習に効果があるとは言えない)という結論になります。」
「t検定さて,変化の平均値が0.333となることが「稀なこと」か「よくあること」なのかを判断するために,各校のテストの点数の変化分は平均μ,分散σ2の正規分布に独立に従っているとしましょう(正規分布については第3章5節で紹介しました)。各校のテストの点数の変化分が従っている母集団分布は正規分布なので,標準化された標本平均も標準正規分布に従う,つまり[図:0001410756000055.jpg]となります。また母集団分布の分散σ2を標本分散S2で置き換えたものは自由度n-1=6-1=5のt分布続きを表示(全14行)[図:0001410756000056.jpg]に従うことになります(t分布についても第3章5節で紹介しました)。この標本分散を使って標準化した標本平均はt検定統計量とよばれ,t分布を使って検定します。さらに「μ=0」という帰無仮説が正しいのであれば,それを代入したt検定統計量もまた同じt分布[図:0001410756000057.jpg]に従います。テストの点数の変化の平均値が0.333となることが「稀なこと」か「よくあること」なのかは,平均値が0.333となる確率をt分布表から調べ(t分布表の調べ方については,Column8を参照してください),そのようなことが起きる確率が小さければ「稀なこと」,大きければ「よくあること」と判断します。しかし,テストの点数の変化の平均値が0.333となる確率を調べるといっても,t分布は連続確率変数の分布ですから,そのようなことが起きる確率は0,つまり「ちょうど確率ゼロ」の問題が発生します。そこで,標本平均が0.333以上になる確率,つまりP(X ̄≧0.333)を調べることにしましょう。6校分のテストの点数の変化のデータから計算された標本分散の推定値S2は[図:0001410756000058.jpg]なので,t検定統計量の値(t値とよばれます)は,上のt検定統計量の式に標本平均と標本分散の推定値,および標本サイズを代入して計算すると0.284になります。t分布に従う確率変数をTとすると,標本平均が0.333以上になる確率はTが0.284以上になる確率と同じ,つまり[図:0001410756000059.jpg]となります。この確率P(T≧0.284)を自由度5のt分布から計算することができます。それでは実際にこの確率P(T≧0.284)を計算してみましょう。帰無仮説「μ=O」が正しいときの自由度5のt分布の確率密度関数は図4.1のようになっています。」
「[図:0001410756000060.jpg]」
「 確率変数Tが0.284以上になる確率は,0.284より右側の部分の確率密度関数の面積になります。これを計算すると(Excel等のソフトを使っての計算方法は,Column8のt分布表の調べ方を参照してください)約39.4%,つまり,[図:0001410756000061.jpg]になります。つまり,6つのモデル校を使った結果,標準化されたテストの点数の変化の平均であるt検定統計量Tが実際に観測されたt値である0.284以上になる確率は,μ=0が正しいという前提のもとでは39.4%となります。この「t検定統計量が0.284以上になる確率は39.4%」ということから,テストの点数の変化の平均が0.333となったことが「稀なこと」といえるのでしょうか,それとも「よくあること」と言えるのでしょうか。そのような判断をする1つの方法として,「帰無仮説μ=0が正しいときにテストの点数の変化の平均値が0.333以上になる確率がα(たとえば0.05)以下になれば稀なこと,そうでなければよくあること」と判断することがあります。この判断基準の確率αは有意水準とよばれ.とくに決まっているわけではないのですが,0.05(5%)で判断することが慣例として多く見られます。上で計算した確率を見ると39.4%となっていました。この値は慣例で用いられる5%よりも(はるかに)大きな値になっているので,「夏期講習の効果がない」という帰無仮説のもとでテストの点数の変化の平均値が0.333となることは「よくあること」と判断することになります。つまり,「夏期講習には効果がない」という帰無仮説を否定する(棄却する)ことはできないという結論になります。」
イ 94~95頁
「まとめ以上で見てきた仮説検定の考え方を簡単にまとめておきます。ある政策の効果を調べたいときには,(1) 「政策に効果はない」という帰無仮説を立てる。(2) 帰無仮説が正しいという前提で,観測されたデータが実現する確率を計算する。(3) 帰無仮説のもとで観測されたデータが実現する確率が(たとえば5%より)低いときには帰無仮説が正しくないと結論づけて棄却し,対立仮説を採択する(実現確率が高いときには帰無仮説を棄却しない)。」
(6) 引用文献12の記載事項
当審において新たに引用する特開2007-192138号公報(以下「引用文献12」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、以下の記載がある。
ア 段落【0001】~【0006】
「【技術分野】【0001】本発明は、ガスタービンにおける異常監視方法及び装置に係り、特に、ガスタービンの不安定燃焼による圧力変動や火炎位置変動に起因する、局部的な応力集中や熱サイクル変動に伴う亀裂などを未然に、過検知することなく発見できるようにした、ガスタービンにおける異常監視方法及び装置に関するものである。【背景技術】続きを表示(全14行)【0002】一般的な発電プラントに用いられるガスタービンは、圧縮機と燃焼器とタービンと発電機とで構成され、圧縮機で高圧となった空気と熱交換器で高温となった燃料ガスとを燃焼器に送って燃焼させ、その燃焼ガス(熱ガス)によってタービンを駆動して発電機を運転する。【0003】このようなガスタービン設備(ガスタービン発電プラント)では、燃焼器での燃焼温度が1500℃程度まで上昇し、内部で不安定燃焼による圧力変動や火炎位置変動が発生して局部的な応力集中や熱サイクル変動が発生し、亀裂が生じてしまうことがある。燃焼器に亀裂や破損が発生すると、燃焼器へ導入される空気量が計画からずれ、燃焼異常が発生して発電効率が低下したり、場合によっては破損片がタービンに入って翼を損傷してしまうという問題がある。そのため、早期にクラックとか、色々な異常を検知したいという要望がある。【0004】こういった問題に対して従来では、燃焼器内に圧力変動検出器を設けたり、高温になる燃焼器内部に直接温度検出器を取り付ると短期間でダメになるため、タービンの最終翼付近や排気ダクトのところに温度検出器を複数設け、この各検出器の計測結果に基づいて燃焼器の燃焼異常を検知することが行われている。【0005】しかしながらガスタービンは、プラント負荷や気温、湿度、気象条件などの環境条件、及び負荷状態などの種々のプラント運転条件によってその出力が変動し、正常な圧力・温度範囲がそれぞれの条件によって異なってくることから、正常と異常とを判別する閾値の設定が困難であり、厳しくすると過検知によって正常動作であるにもかかわらず異常と判断され、緩くすると異常を見逃すことになる。このように燃焼器の異常燃焼を正常と誤判定すると、燃焼器に亀裂等が生じたまま運転を継続することとなり、発電効率を低下させてしまうばかりでなく、場合によっては翼をも損傷させてしまうこととなる。【0006】また、朝、晩に起動、停止を行うような場合、例えば起動に際しては、20分程度の間に0MWから250MWまで出力が上昇し、その間、温度や圧力は短時間の間に急激に上昇する。停止指令後の停止までの間も同様であるが、こういった起動、停止の際にも異常が発生することがあり、こういった場合も早期に異常を検知したいという要望があるが、このように急激に状態が変動している状態では、現在の状態が正常か異常かを判定するのは非常に困難である。」
イ 段落【0066】~【0075】、【図1】、【図5】、【図6】
「【実施例2】【0066】以上が本発明になるガスタービンにおける異常監視方法及び装置の実施例1であるが、次に図5、図6を用いて本発明になるガスタービンにおける異常監視装置の実施例2を説明する。なお図5は、前記図14に示したガスタービン11における燃焼器13の図示していない内圧計で測定した燃焼振動のトレンドであり、横軸は時間、縦軸は燃焼振動(単位kPa)である。また図6は、特徴量算出と健全性評価の処理フローの例である。【0067】続きを表示(全23行)以上説明してきた実施例1の異常監視方法及び装置は、前記したように負荷整定のない負荷帯や、朝、晩の起動、停止の際の負荷上昇、下降中などのように、データが少量しか集まらない、状態が急激に変化する場合の例であったが、ガスタービンプラント2も、例えば日中などの気温や天候状態、負荷状態が安定した時間帯では前記図3(A)に示したように、温度、圧力、流量、排出物などの状態検出手段出力は安定し、かつ、気温の緩やかな変動により、これら状態検出手段出力も緩やかに変化する。【0068】しかもこの変化は、その日の天候、負荷状態などによっても変化し、特定の時間にいつも同じ状態が再現されるというわけではない。そのため、こういった場合はある時間と別の時間のデータを比較しても、状態検出手段出力や負荷が緩やかに変動していることが多く、さらにきれつなどの異常は、その発生によって状態検出手段出力や負荷が急激に変動した場合は容易に発見できるが、少しずつ進展する場合があり、このような場合は気温の緩やかな変動によって状態が変化しているのか、きれつなどの進展の遅い異常によって変化しているかを判別するのは難しい。【0069】そのためこの実施例2では、Aという分布とBという分布が同等と見て良いかどうか、という統計における検定(2群の平均値の差の検定で、例えばWelchの方法によるt検定)を使い、前記状態検出手段の直近を含む2つ以上の最近の特定期間におけるそれぞれの出力の分布の平均値と標準偏差とを算出し、その算出した平均値と標準偏差とを比較して、その比較結果が予め定めた有意水準に基づいた閾値Cを越えているか否かによって正常か異常かを判定するようにしたものである。【0070】すなわち、前記図3(B)や、図5のように状態検出手段出力が変動し、例えば図5において今の時間が71で示した6時10分だとした場合、それ以前の70で示した30分間における時間平均値と、さらに69で示した5時40分より以前の30分間における時間平均値とを算出し、それぞれの時間平均値に統計的に有意な差がある場合に異常、差がない場合を正常とするものである。【0071】そのため、状態検出手段の直近の特定期間(例えば図5における70で示した期間)出力における平均をμn、標準偏差をσn、データ点数をnn、直近以前の特定期間(例えば図5における69で示した期間)における出力の平均をμb、標準偏差をσb、データ点数をnbとしたとき、下記式で算出される検定統計量Tが、予め定めた有意水準に基づいた閾値を越えている場合に異常であると判定する。【数9】[図:0001410756000062.jpg]【0072】これを図6のフロー図に基づいて説明するが、図6は、図2におけるステップS4の特徴量算出とステップS5の健全性評価の詳細処理フローであり、その他の処理は前記実施例1において説明したのと同様なので説明を省略する。【0073】図6においてステップS11で処理がスタートすると、最初に図1における特徴量算出手段5は、ステップS12で、直近の期間、例えば図5に70で示した期間における時間平均値を統計量として算出する。そして次のステップS13で健全性評価手段6は、予め特徴量算出手段5が、例えば前記図5における最初の期間69における統計量として算出した時間平均値と、今算出した70で示した期間における時間平均値とを用い、前記式(3)に基づいて検定量Tを算出する。【0074】そして次のステップS14で、予め定めた有意水準とWelchの方法で求められる自由度に基づき、t分布表より閾値k(n)を算出する。そして次のステップS15で、図1における健全性評価手段6は、算出された検定量Tが閾値k(n)より小さいか否か(すなわち予め定めた閾値より小さいか否か)を判断し、大きい場合は異常としてステップS16へ、小さい場合はステップS17に進んで正常であると判断する。【0075】そのため図1における出力手段7は、この健全性評価手段6が判断した結果を出力或いは表示し、次の時刻の処理、すなわちステップS2へ戻って同様な処理を繰り返すわけであるが、このようにすることにより、負荷が整定し、状態検出手段からのデータや負荷が緩やかに変化する場合でも、正常、異常を正確に判断することができ、過検知が防止できる。」
「【図1】[図:0001410756000063.jpg]」
「【図5】[図:0001410756000064.jpg]」
「【図6】[図:0001410756000065.jpg]」
(7) 周知事項の認定
前記(1)~(6)において摘記した事項に例示されるように、次の事項は周知の事項であると認められる(以下「周知事項1」及び「周知事項2」という。)。
[周知事項1]
「統計的な検定として以下に示すt検定が広く用いられていること。t検定は、標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1(nは標本数を表す)に基づいて定義された統計量tを変数とする確率密度関数f(t)が、いわゆるスチューデントのt分布に従うことを前提にしており、あらかじめ否定されることが期待される仮説H0(帰無仮説)を立てて、帰無仮説H0が成り立つという想定の下で標本から統計量t0を計算して、標本統計量t0が帰無仮説H0が正しいとは言い難い領域にある(帰無仮説が正しいとすると、標本統計量の値t0が得られる確率が非常に小さい)かどうかを確認し、もしその領域(棄却域)に標本統計量t0が入っていれば帰無仮説H0が誤っている可能性が高いと判断する。具体的には、検定統計量tを設定し、t分布表において、自由度がn-1であり確率がαであることに対応するパーセント点の値をt(n,α)と表したとき、tの絶対値がt(n,α)より大きい確率(有意水準)はαとなることを踏まえて、仮説H0の下で計算して得られた標本統計量t0とt分布表上の値(臨界値)を比較して、標本統計量t0が棄却域に入っていれば、α以下の危険率で仮説H0が否定され(棄却され)、対立仮説H1が受容されるとする。」
[周知事項2]
「t分布を使うと、母集団の平均値μ(母平均)の推定ができ、結論が信頼できる確率α(例えばα=0.05)をあらかじめ決めておき、信頼度1-α(例えばα=0.05のときは1-α=0.95となり、95%の信頼度で推定される)の下で母平均μが存在する区間(信頼区間)を推定する場合には、信頼度1-α、標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1を指定することにより、信頼区間の上限及び下限(信頼限界)を計算できること。」
第6 対比
1 対比分析
以下、本願の請求項1の記載の順に沿って、本願発明と引用発明を対比する。
(1)ア 引用発明は、「流量計電子装置20」が「流量計組立体10から振動応答210を受け取り」、「振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得[する]」ものであるから、「流量計組立体10」が振動することを前提としている。
よって、引用発明における「流量計組立体10」は、本願発明における「振動計(5)」に相当する。
イ また、引用発明における「流量計電子装置20」は、本願発明における「計器電子装置(20)」に相当する。
ウ さらに、引用発明における「流量計電子装置20」は、「流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出する」ものであるから、流量計組立体10の変化を検出するものである。
エ また、引用発明における「流量計電子装置20」は、「剛性の有意の変化を決定する」ものであるところ、「剛性変化(ΔK)は最初に許容値224と比較され、剛性変化(ΔK)の方が許容値224よりも大きいならば、エラー状態が決定される」から、流量計組立体10の変化を識別するものであるといえる。
オ 前記ア~エを総合すると、本願発明と引用発明は「振動計の変化を検出及び識別するための計器電子装置」の発明である点において一致する。
(2)ア(ア) 本願明細書の段落【0108】の「上記の議論は、計器剛性に関連したが、加えて又は代替として、他の計器検証パラメータが用いられてもよい。」との記載を踏まえると、本願発明の「計器検証パラメータ」とは、計器の検証に用いられるパラメータであって計器剛性に関連するものが含まれると解するのが相当である。
(イ) 引用発明において、以下のa~cに示すように、「剛性特性」と「剛性パラメータ」は同じものを意味する用語として用いられているところ、これらは、流量計組立体10という計器の剛性に関連するパラメータであるといえる。
a 「第2の振動応答に対する決定と測定のステップを反復して第2の剛性特性(K2)を生成し」及び「第2の振動応答から第2の剛性パラメータ(K2)が生成され」
b 「第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し」及び「第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較され」
c 「第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較され」及び「剛性特性の比較」
(ウ) そして、引用発明においては、「流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましく」としているから、流量計組立体10の剛性を計器の校正チェック(計器の検証)に用いているといえる。
(エ) よって、前記(ア)において示した「計器検証パラメータ」に係る解釈を踏まえると、引用発明における「剛性特性」及び「剛性パラメータ」は、いずれも、本願発明における「計器検証パラメータ」に相当する。
イ 引用発明における「記憶システム204」及び「処理システム203」は、それぞれ、本願発明における「記憶システム(204)」及び「処理システム(202)」に相当する。
ウ 引用発明において、「流量計電子装置20」は「処理システム203」を備え、「処理システム203」は「記憶システム204」を備え、「記憶システム204は剛性特性220と、後の時点に生成される第2の剛性特性221とを記憶[する]」ものであるから、引用発明における「流量計電子装置20」は、剛性特性を記憶するように構成された記憶システムを含む処理システムを備えるといえる。
エ 前記ア~ウを総合すると、本願発明と引用発明は、「計器電子装置」が「計器検証パラメータを記憶するように構成された記憶システムを含む処理システムを備える」点で共通する。
(3) 引用発明において、「処理システム203」が「第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較[する]」にあたって、「処理システム203」は「記憶システム204」が記憶した「第2の剛性特性(K2)」及び「剛性パラメータ(K)」を用いていると認められるから、「処理システム203」は、「記憶システム204」から「剛性特性」及び「剛性パラメータ」を取得しているといえる。
よって、前記(2)の検討事項を踏まえると、本願発明と引用発明は、「処理システム」が「前記記憶システムから前記計器検証パラメータを取得[する]」点で共通する。
(4)ア 引用発明においては、「統計技術を用いて時間的な変化(すなわち、剛性変化(ΔK))を決定することができ[る]」としているから、ある時点(「第2の時間t2」)における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性から統計的にみてどれだけ変化しているかを検出しているといえる。
イ そして、引用発明においては、「K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定し、剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的方法を採用することができ[る]」としているから、「処理システム203」は、「K2とKとの間の剛性変化(ΔK)」を「統計的な変化」と位置づけて、かかる「統計的な変化」が有意なもの(確率的に意味があると考えられること)であるか否か、すなわち、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(基準値)と比べて、確率的に意味があるといえる程度に異なっているかどうかを統計学上の手法により決定しているといえる。
ウ 以上を踏まえると、本願発明と引用発明は、「処理システム」が「前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法により、前記計器検証パラメータが基準値と異なっているかどうかを検出する、ように構成されている」点で共通する。
2 一致点及び相違点
前記1の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(1)の点で一致し、次の(2)の点で相違する。
(1) 一致点
「 振動計の変化を検出及び識別するための計器電子装置であって、計器検証パラメータを記憶するように構成された記憶システムを含む処理システムであって、前記記憶システムから前記計器検証パラメータを取得し、前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法により、前記計器検証パラメータが基準値と異なっているかどうかを検出する、ように構成されている、処理システムを備える、計器電子装置。」
(2) 相違点
本願発明においては、次の構成A~Cを備えるのに対して、
引用発明においては、「記憶システム204」は、「剛性特性220」と「第2の剛性特性221」を記憶するものの、中心傾向値及び分散値を記憶しておらず、したがって、「処理システム203」は、中心傾向値及び分散値を取得しておらず、「前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法」としてどのようなものを採用するのか明らかにしていない点。
<構成A>
「記憶システム」が「記憶」し「処理システム」が「取得」する「計器検証パラメータ」が、「計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値」である。
<構成B>
「前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法」が、「前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定」するという手法である。
<構成C>
「前記計器検証パラメータが基準値と異なっているかどうかを検出する」ことが、「前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する」ことである。
第7 判断
1 相違点に係る構成の想到容易性について
(1) 構成Aについて
ア 前記第6の1(4)において検討したとおり、引用発明は、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(基準値)と比べて、確率的に意味があるといえる程度に異なっているかどうかを「統計学上の手法」により決定するものであるところ、前記第5の1(3)において示したとおり、流量計の異常を判定するための手法として、流量計の測定値をデータとした「統計的な検定」を用いることは、周知技術であるから(前記周知技術1を参照)、引用発明における上記「統計学上の手法」として、「統計的な検定」という手法を採用することは、当業者が当然考慮すべき事項である。
イ そして、前記第5の2(7)において示したとおり、統計的な検定として「t検定」が広く用いられていることは、周知の事項であるから(前記周知事項1を参照)、引用発明において、「t検定」を利用することは、当業者にとって自明に選択し得た事項にすぎない。
ウ また、前記第5の2(7)において示したとおり、t検定は、標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1に基づいて定義された統計量tを変数とする確率密度関数f(t)が、いわゆるスチューデントのt分布に従うことを前提にしているから、引用発明において、t検定を採用する際に、「剛性特性」の標本平均(本願発明の「中心傾向値」に相当する。)及び「剛性特性」の標本分散(本願発明の「分散値」に相当する。)を用いることは、自然に導き出される事項である。
エ そして、それらを「記憶システム204」に記憶させ「処理システム203」が取得するようにして、前記相違点に係る構成Aとすることは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。
(2) 構成Bについて
t検定は、帰無仮説H0が成り立つという想定の下で標本から統計量t0を計算して、標本統計量t0が帰無仮説H0が正しいとは言い難い領域にある(帰無仮説が正しいとすると、標本統計量の値t0が得られる確率が非常に小さい)かどうかを確認し、もしその領域(棄却域)に標本統計量t0が入っていれば帰無仮説H0が誤っている可能性が高いと判断するものである(前記周知事項1を参照)。
ここで、標本統計量t0は、標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1に基づいているから、引用発明において、t検定を採用する際には、「剛性特性」の標本平均(「中心傾向値」)及び「剛性特性」の標本分散(「分散値」)に基づいて「確率」を決定することは明らかである。
そうすると、引用発明において、t検定を利用する際に、前記相違点に係る構成Bの「前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定」することは、当業者ならば当然行うべき事項である。
(3) 構成Cについて
ア 本願発明における「ベースライン値」という用語の定義について、本願明細書には、次の(ア)、(イ)の記載がある。
(ア) 段落【0087】
「【0087】記憶システム204は、ベースライン計器剛性230を記憶することができる。ベースライン計器剛性230は、振動計5の製造中又は較正中に、あるいは前の再較正中に決定されてもよい。例えば、ベースライン計器剛性230は、振動計5がフィールドに設置される前に、検証220によって決定することができる。ベースライン計器剛性230は、浸食/腐食、損傷(例えば、凍結、過圧など)、被膜などの任意の変化が発生する前の導管130、130´の剛性を表す。ベースライン計器剛性230は、複数のベースライン計器剛性測定値の平均値であってもよい。したがって、ベースライン計器剛性230は、以下でより詳細に説明するように、関連付けられた分散特性を有してもよく、ベースライン計器剛性測定値は、変化してもよい。ベースライン計器剛性測定値の変化が大きいほど、分散が大きくなる。」
(イ) 段落【0173】
「【0173】計器剛性及び分散値を使用する例では、ステップ720において、処理システム202は、計器剛性を構成する計器剛性測定値の数に基づいてt値を計算し、t値を使用して確率を計算することができる。一例では、t値は、上述したように、有意水準α及び自由度から決定することができる。計器剛性は、例えば、ベースライン計器剛性などのベースライン値が決定された後に取得された計器剛性測定値から決定された平均計器剛性であってもよい。ベースライン値は、ベースライン中心傾向値であってもよい。したがって、ベースライン計器剛性は、ベースライン計器剛性測定値の平均値であってもよい。」
イ 前記アの記載から、本願発明における「ベースライン値」という用語は、製造段階又は較正段階等において決定される、計器検証パラメータの基準値を意味するものと解される。
そうすると、引用発明において、ステップ405において決定される「剛性パラメータ(K)」は、本願発明における「ベースライン値」に相当するものであるといえる。
ウ ここで、前記第5の2(7)において示したとおり、「t分布を使うと、母集団の平均値μ(母平均)の推定ができ」、「信頼度1-α、標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1を指定することにより、信頼区間の上限及び下限(信頼限界)を計算できること」は、周知の事項であるから(前記周知事項2を参照)、引用発明において、t検定を利用する際に、剛性特性の母平均の信頼区間を計算して、剛性特性の母平均を推定できることは明らかである。
エ そうすると、引用発明において、t検定を利用する際に区間推定した剛性特性の母平均(「中心傾向値」に相当)が、ステップ405において決定される「剛性パラメータ(K)」(「ベースライン値」に相当)と異なっているかどうか検出するようにして、前記相違点Cに係る構成とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
2 総合検討
前記1の(1)~(3)に示した判断を総合的に勘案しても、引用発明において、前記相違点に係る構成A~Cとすることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
また、本願発明の奏する作用効果としては、当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知事項1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 請求人の主張について
(1) 主張内容
請求人は審判請求書において、概略、次のア、イの主張を行っている。
ア 第1の主張
請求項1は、「測定値のばらつきを考慮するがゆえに、・・・幅を有する許容値との比較」を単に備えているわけではなく、「前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する」ことを必要とするものであり、これらの限定事項を単に「幅を有する許容値との比較」と抽象化するのは、妥当を欠く。
イ 第2の主張
引用刊行物1は、どのような特定の問題についても、変化を検出するために剛性変化を用いると解釈することはないから、引用刊行物1に、よく知られたt検定を組み合わせることの提案(動機付け)は存在しない。
(2) 主張内容の検討
以下、前記ア、イの主張について検討する。
ア 第1の主張について
第1の主張は、要するに、本願発明と引用発明は前記相違点において相違するというものであり、それゆえに、本願発明は引用発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、とするものであると解される。
しかしながら、前記1~2において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る構成A~Cとすることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
イ 第2の主張について
引用発明は、「K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定し、剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的方法を採用することができ[る]」としており、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(基準値)と比べて、確率的に意味があるといえる程度に異なっているかどうかを「統計学上の手法」により決定するものであるから、引用発明において、統計学上の手法として周知なt検定を採用することの動機付けはあるというべきである。
(3) 小括
以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用することができない。
第8 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知事項1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-018254