特許拒絶査定不服審判
2022-017406
嫌気性組成物の硬化
- 審判番号
- 2022-017406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-536770
- 請求日
- 2022年10月31日
- 審決日
- 2024年12月19日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
- 【請求人代理人】伊藤 克博
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 光本 美奈子
- 審判官 弘實 由美子
- 分類
- P18 .121-WZ (C09J) / P18 .56 -WZ (C09J) / P18 .575-WZ (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第4号、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-536770「嫌気性組成物の硬化」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日国際公開、WO2017/121824、平成31年 2月28日国内公表、特表2019-505636〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)1月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年1月15日 英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国) GB)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月12日 :翻訳文提出
令和 2年11月19日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 5月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 9月28日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 4年 4月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 6月30日付け:令和4年4月4日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 4年10月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年10月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年10月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
プラスチック基材を別の基材に接合するための接合系であって、該接合系は:
(a)遷移金属を含むプラスチック基材;及び、
(b)ゴム/エラストマー成分を、重合性モノマーの重量に対して15重量%を超える量で、かつ、組成物の総重量に基づいて5~35重量%の量で含む嫌気硬化性組成物を含み、
前記プラスチック基材は、該プラスチックが溶融形態にあるとき、遷移金属と混合されたものであり、遷移金属は、プラスチック成分を形成する組成物の1重量%までの量で存在し、
プラスチック基材は、PCABS(ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン);ポリカーボネート;ポリアリールアミド;又はポリアミドであり、
嫌気硬化性組成物の硬化は、嫌気硬化性組成物が嫌気性条件下でプラスチック基材と接触したときに、遷移金属によって開始することができ、
組み立て中に接合すべきプラスチック部品を含む携帯型消費者向け電子デバイスの組み立てに使用される、接合系。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年5月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
プラスチック基材を別の基材に接合するための接合系であって、該接合系は:
(a)遷移金属を含むプラスチック基材;及び、
(b)ゴム/エラストマー成分を、ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分の重量に対して15重量%を超える量で含む嫌気硬化性組成物を含み、嫌気硬化性組成物の硬化は、嫌気硬化性組成物が嫌気性条件下でプラスチック基材と接触したときに、遷移金属によって開始することができる、接合系。」
2 補正の適否(下線は、合議体による。)
(1)補正の目的
ア 「ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分」を「重合性モノマー」とする補正事項について
本件補正前の「ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分の重量に対して15重量%を超える量」との記載について、請求人は、令和3年5月24日提出の意見書において「量に関しては、引例3に、(嫌気性)接着剤組成物において重合性モノマー100重量部に対して15重量部までの量で相溶性エラストマーを含有させることが記載されており、ここで重合性モノマーはゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分に相当しますので、請求項1においてゴム/エラストマー成分の量を、『ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分の重量に対して15重量%を超える量』と規定することで、引例3に記載の発明を除外しました。」と説明している。
これに対して、令和3年9月28日付け拒絶理由通知において「(メタ)アクリロイル基等の官能性基を有するゴム/エラストマーは、嫌気硬化性を有するから嫌気硬化性成分であり、また、ゴム/エラストマー成分でもあるが、そのようなゴム/エラストマーは上記いずれに区分されるのかが明らかでない」から請求項1~15に係る発明は明確でないと指摘されたことを受け、「ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分」との記載を、引例3の記載に合わせ「重合性モノマー」と補正するものであるから、当該補正事項は、特許法17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
イ プラスチック基材の詳細、嫌気硬化性組成物の成分、接合系の用途に係る補正事項について
本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるところ、
・本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「プラスチック基材」について、「前記プラスチック基材は、該プラスチックが溶融形態にあるとき、遷移金属と混合されたものであり、遷移金属は、プラスチック成分を形成する組成物の1重量%までの量で存在し、プラスチック基材は、PCABS(ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン);ポリカーボネート;ポリアリールアミド;又はポリアミドであ」るものに限定する補正、
・嫌気硬化性組成物の成分について、「ゴム/エラストマー成分」の含有量を「組成物の総重量に基づいて5~35重量%の量で含む」と特定する補正、及び、
・接合系の用途を「組み立て中に接合すべきプラスチック部品を含む携帯型消費者向け電子デバイスの組み立てに使用される」ものと特定する補正は、いずれも特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)独立特許要件
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであるから、本件補正発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(3)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(4)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平8-295853号公報(平成8年11月12日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
「【請求項13】プラスチック部材を接着する方法であって、接着しようとするプラスチック部材のいずれか一方又は両方としてあらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材を用い、当該接着しようとするプラスチック部材の接着面のどちらか一面又は両面に嫌気硬化型接着剤を塗付し、次いで当該プラスチック部材の接着面を重ね合わせることを特徴とする速硬化接着方法。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、各種部材、例えば、プラスチック材料、金属材料、木材材料、ガラス材料又はセラミック材料等からなる部材の短時間接着を効果的に行う方法に関する。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者は、各種部材、例えばプラスチック部材の速硬化接着を行う方法について、上記した従来の接着方法の問題点を解消すべく鋭意研究を行い、本発明を完成したものである。本発明は、各種部材、例えばプラスチック部材の強力な接着と、その速硬化接着を可能とし、特に産業分野では、各種部材、例えばプラスチック部材の接着組立をインラインで行う場合に、非常に効率よく実施することができ、例えばプラスチック板同士を貼り合わせる光ディスクの接着組立などに有効に利用できるようにした速硬化接着方法を提供することを目的とする。」
「【0010】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するために、本発明の速硬化接着方法は、部材を接着する方法であって、接着しようとする部材の接着面のどちらか一面又は両面に嫌気硬化型接着剤の硬化促進作用を行う面を形成する工程と、当該接着しようとする部材の接着面のどちらか一面又は両面に嫌気硬化型接着剤を塗付する工程と、当該部材の接着面を重ね合わせる工程とからなることを特徴とする。」
「【0020】本発明方法は、プラスチック部材を接着する方法であって、接着しようとするプラスチック部材のいずれか一方又は両方としてあらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材を用い、当該接着しようとするプラスチック部材の接着面のどちらか一面又は両面に嫌気硬化型接着剤を塗付し、次いで当該プラスチック部材の接着面を重ね合わせることを特徴とする構成とすることもできる。嫌気性接着剤の硬化促進剤をプラスチック部材に含有せしめる態様としては、練り込みによって行うのが一般的である。
【0021】本発明の接合部材は、上記各方法によって接着されたものである。
【0022】また、本発明に使用される中間的な部材として、接着面に嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有した活性エネルギー線硬化性組成物を塗付し、次いで該塗付した活性エネルギー線硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して形成された硬化皮膜を有する部材を作成しておけば本発明方法の実施が便利であるという利点がある。
【0023】さらに、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材を作成しておくこともできる。
【0024】活性エネルギー線硬化性組成物に、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめて嫌気硬化型接着剤の硬化促進性を付与する方法としては、ナフテン酸銅、オクチル酸銅、2-エチルヘキサン酸銅、アセチルアセトン銅、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、2-エチルヘキサン酸コバルト、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、2-エチルヘキサン酸ニッケル、アセチルアセトンニッケル、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、2-エチルヘキサン酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、ナフテン酸バナジウム、2-エチルヘキサン酸バナジウム、アセチルアセトンバナジウム、等々の有機金属化合物を直接、活性エネルギー線硬化性組成物に溶解させる方法や、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、硫酸銅、炭酸銅、塩化バナジウム、硫酸バナジウム、炭酸バナジウム、塩化コバルト、硫酸コバルト、炭酸コバルト等々の無機金属塩の結晶をペイントロールなどで細かく粉砕して活性エネルギー線硬化性組成物に分散させる方法などを用いればよい。嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤として上記した化合物は、すでに公知であり、実用に供されている。」
「【0029】嫌気硬化型接着剤については既に数多くの組成物が提案されている。その構成は、アクリルモノマー、メタクリレートモノマー、アクリルオリゴマー、メタクリレートオリゴマーなどのラジカル重合性不飽和化合物に、キノン系安定剤、有機過酸化物系硬化開始剤及び硬化触媒よりなっている。」
「【0044】また、本発明が適用されるプラスチック材料の種類としては、ポリカーボネート、塩化ビニール、アクリルの他、各種の一般プラスチックやエンジニヤリングプラスチックなどがある。」
「【0047】
【実施例】以下に本発明の実施例を挙げて説明する。
【0048】実施例1、2及び比較例1
○内に1 嫌気硬化型接着剤の調製
ガラス製ビーカーにトリエチレングリコールジメタクリレートを100重量部(以下の記載において部と言う表現は、すべて重量部を表す。)と、ベンゾキノン0.01部、3,5-ジメチルピラゾール2部、1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン0.2部、アクリル酸3部、クメンハイドロパーオキサイド4部をはかり取り、これをラボスターラーに付けた攪拌翼で充分攪拌して溶解させ、嫌気硬化型接着剤を調製した。(これを便宜上、A液と呼ぶ事にする。)
【0049】○内に2 嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の調製
ガラス製ビーカーに1,6-ヘキサングリコールジアクリレートを100部と、トリメタクリルイソシアヌレート20部、ベンジルジメチルケタール5部、2-エチルヘキサン酸銅1部をはかり取り、これをラボスターラーに付けた攪拌翼で充分攪拌して溶解させ、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の調製を行った。(これを便宜上、B液と呼ぶ事にする。)
【0050】○内に3 嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤の添加されていない活性エネルギー線硬化性組成物の調製
ガラス製ビーカーに1,6-ヘキサングリコールジアクリレートを100部と、トリメタクリルイソシアヌレート20部、ベンジルジメチルケタール5部をはかり取り、これをラボスターラーに付けた攪拌翼で充分攪拌して溶解させ、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の調整を行った。(これを便宜上、C液と呼ぶ事にする。)
【0051】○内に4 試験片の作成及び試験
巾25mm、長さ100mm、厚み4.0mmのポリカーボネート製テストピースに、B液及びC液をスピンコートにて塗付し、メタルハライドランプを光源に持つ紫外線照射器にて、300mmJ/cm2の紫外線を照射して硬化させ、厚み約50μの平滑な硬化皮膜を作成した。B液C液とも表面にタックが無く充分に硬化していた。次に活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜のついた二枚のポリカーボネート板の一方に、A液を塗付してからもう一方のポリカーボネート板を、1インチラップで重ね合わせ、2個のピンチで仮押さえを行う。
【0052】以上のようにして作成した試験片について、20℃で放置した時のセットタイム及び24時間後のせん断接着強さの測定をおこなった。セットタイムは二枚のポリカーボネート板が手で動かなくなるまでの時間とした。
【0053】○内に5 試験結果
両面ともB液を塗付したポリカーボネート板(実施例1)では、セットタイムは5分以内で良好であった。せん断接着強さも45.5Kgf/cm2と良好であった。
【0054】両面ともC液を塗付したポリカーボネート板(比較例1)では、セットタイムは、24時間後も未硬化の状態で測定を中止した。せん断接着強さについても、未硬化の状態で測定できなかった。
【0055】片面にC液、もう片面にB液を塗付したポリカーボネート板(実施例2)では、セットタイムは、5分で良好であった。せん断接着強さについても43.8Kgf/cm2と良好であった。
【0056】上記した実験結果から、どちらか片面に、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を添加した活性エネルギー線硬化性組成物を塗付すれば良好な結果が得られることがわかった。」
(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、各種部材、例えば、プラスチック材料、金属材料、木材材料、ガラス材料又はセラミック材料等からなる部材の短時間接着を効果的に行う方法に関するものであり(【0001】)、各種部材、例えばプラスチック部材の強力な接着と、その速硬化接着を可能とし、特に、各種部材、例えばプラスチック部材の接着組立をインラインで行う場合に、非常に効率よく実施することができ、例えばプラスチック板同士を貼り合わせる光ディスクの接着組立などに有効に利用できるようにした速硬化接着方法を提供することを解決しようとする課題とするものであること(【0007】)、
b 「プラスチック部材を接着する方法であって、接着しようとするプラスチック部材のいずれか一方又は両方としてあらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材を用い、当該接着しようとするプラスチック部材の接着面のどちらか一面又は両面に嫌気硬化型接着剤を塗付し、次いで当該プラスチック部材の接着面を重ね合わせることを特徴とする速硬化接着方法」(請求項13)、
c プラスチック部材として、ポリカーボネート等が用いられること(【0044】、実施例1、2等)、
d 嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤として、ナフテン酸銅、オクチル酸銅、2-エチルヘキサン酸銅、アセチルアセトン銅等の化合物は、すでに公知であり、実用に供されていること(【0024】)、
e 「あらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材」(請求項13、【0023】)について、実施例1及び2では、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を調製してポリカーボネート板に塗布して硬化させたことが記載されると共に、「嫌気性接着剤の硬化促進剤をプラスチック部材に含有せしめる態様としては、練り込みによって行うのが一般的である」こと(【0020】)、
f 前記eの実施例1及び2では、前記dに記載される2-エチルヘキサン酸銅1部を、1,6-ヘキサングリコールジアクリレート100部と、トリメタクリルイソシアヌレート20部、ベンジルジメチルケタール5部と共に溶解させることにより調製された嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を、ポリカーボネート板に塗布して硬化させた後、嫌気硬化型接着剤を塗布して、もう一方のポリカーボネート板を重ね合わせて、2個のピンチで仮押さえし、20℃で5分以内の良好なセットタイム(二枚のポリカーボネート板で手が動かなくなるまでの時間)であったこと
(ウ)上記(イ)bの記載から、引用文献1には「『あらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材』と『嫌気硬化型接着剤』を含む『当該プラスチック部材の接着面と他のプラスチック部材を重ね合わせることを特徴とする速硬化接着方法』において用いられるためのシステム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 引用文献4
同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2014-153593号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0017】
図1(a)、(b)に示すように、本形態の電気光学装置100は、液晶装置であり、電気光学パネル100p(液晶パネル)を有している。電気光学パネル100pでは、第1基板20(対向基板)と第2基板30(素子基板)とが接着剤60によって貼り合わされており、接着剤60は第1基板20の外縁に沿うように枠状に設けられている。接着剤60は、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂等の接着剤からなる。電気光学パネル100pにおいて、第1基板20と第2基板30との間には、各種液晶材料を含む液状の電気光学材料50の層が設けられており、接着剤60は、第1基板20と第2基板30とを貼り合わせるとともに、電気光学材料50を封止している。」
「【0025】
電気光学装置100は、モバイルコンピューター、携帯電話機等といった電子機器のカラー表示装置として用いることができ、この場合、第1基板20には、カラーフィルター(図示せず)が形成される。また、電気光学装置100は、電子ペーパーとして用いることができる。また、電気光学装置100では、使用する電気光学材料50(液晶)の種類や、ノーマリホワイトモード/ノーマリブラックモードの別に応じて、偏光フィルム、位相差フィルム、偏光板等が電気光学パネル100pに対して所定の向きに配置される。さらに、電気光学装置100は、後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)において、RGB用のライトバルブとして用いることができる。この場合、RGB用の各電気光学装置100の各々には、RGB色分解用のダイクロイックミラーを介して分解された各色の光が投射光として各々入射されることになるので、カラーフィルターは形成されない。」
「【0125】
(他の電子機器)
本発明を適用した電気光学装置100については、上記の電子機器の他にも、携帯電話機、情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)、デジタルカメラ、液晶テレビ、カーナビゲーション装置、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等の電子機器において直視型表示装置として用いてもよい。」
ウ 引用文献5
同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭48-36246号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
「ポリアクリレートエステル単量体100重量部に0.01~l0重量部の有機過酸化物と、0.01~l0重量部のフェノール類またはフェノール樹脂と、0.01~30重量部のアクリルゴム又はニトリルゴムとから成る、酸素に接触している間は貯蔵安定性を有し、酸素を遮断すると急激に重合することを特徴とする嫌気性接着剤又はシーラント組成物」(特許請求の範囲)
「またアクリルゴム又はニトリルゴム配合の硬化物は可撓性のものが得られる点に特徴がある。特にアクリルゴムはポリアクリレートエステル単量体と非常に相溶性がよいため、可撓性硬化物が得られる。アクリルゴムは前述のようにアクリル酸エステルの重合体を主成分とする化学的に飽和している弾性体であり、汎用ゴムと同程度の弾性を有している。硬化物が可撓性であるため、衝撃強度の要求される部分にも使用することができる。」(2頁右下欄19行~3頁左上欄7行)
エ 引用文献6
同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭51-4243号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある。
「アクリル酸エステル単量体と、少なくとも1個の反応核を有するゴムからなり、嫌気性硬化できるようになっていることを特徴とする重合性組成物」(特許請求の範囲)
「アクリル酸又はアクリル酸の置換生成物の何れかのエステル単量体から嫌気硬化性組成物を製造することは公知であり、接着剤又はシーラントとして使用されている。」(1頁右欄9~12行)
「ゴムは固体又は液体であってよい。
エステル単量体に可溶なゴムが好ましい。
組成物を硬化したとき、エステル単量体と架橋するゴムがよい。
比較的低分子量のゴムが好ましい。平均分子量が1,000~6,000の範囲、特に2,500~5,000の範囲にある液体ゴムを使用するのが好ましい。
ゴムを、組成物に対して1~50重量%の量で使用できる。」(3頁右上欄2~11行)
「実施例1・・・
実施例2・・・」(4頁右下欄4行~5頁右下欄最終行)
オ 引用文献7
同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭63-207876号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の記載がある。
「アクリル系接着剤組成物にプロピレンオキサイド-エピクロルヒドリン-アリルグリシジルエーテル共重合体ゴム組成物を含有することを特徴とするアクリル系接着剤組成物。」(特許請求の範囲)
「ところで、アクリル系接着剤は、衝撃強度及び剥離強度が劣るという欠点を有し、その使途範囲が限定されていた。
そこで、最近ではこのようなアクリル系接着剤組成物中に、例えば未加硫ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等の各種エラストマーを添加すると、接着剤としての衝撃強度及び剥離強度を向上させることが見い出され、機構部品等の接着の使途範囲の拡大をもたらした。」(1頁右欄下から5行~2頁左上欄4行)
「また、本発明のアクリル系接着剤組成物が嫌気硬化特性を有するものである場合には、上記の重合促進剤に代えて、例えば、特公昭51-2555号の公報に記載されたアミン類、有機スルホイミド類、イミド類等の重合促進剤を使用することができる。」(3頁左上欄3~8行)
「(A)成分のアクリル系接着剤組成物には上記の成分を含有する他、必要に応じて重合禁止剤の如き安定剤を貯蔵安定性を付与するために含有させることができる。この重合禁止剤としては、例えば、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノール誘導体等の一般に知られている安定剤を使用することができる他、(A)成分のアクリル系接着剤組成物が嫌気硬化特性を有する場合には、更にこれらの安定剤のほかに例えば、エチレンジアミン4酢酸又はその2-ナトリウム塩、シュウ酸、アセチルアセトン、O-アミノフェノール等の金属キレート化剤を含有させることができる。これらの安定剤は必要に応じた分量で配合される。」(3頁左上欄12行~同頁右上欄5行)
「このエラストマーは(A)成分のアクリル系接着剤組成物100重量部に対して5~50重量部、好ましくは5~30重量部の配合割合で本発明のアクリル系接着剤組成物中に含有させるとよい。」(3頁左下欄5~8行)
「以上説明したように、本発明のアクリル系接着剤組成物はプロピレンオキサイド-エピクロルヒドリン-アリルグリシジルエーテル共重合体ゴムをアクリル系接着剤組成物に含有させることによって、特に熱時においても非常に高い剪断強度及び剥離強度を維持し、接着性能を著しく向上させる。従って、例えば、被着体が高温に晒される場合や被着体自身が発熱する場合等にも使用可能であり、アクリル系接着剤組成物の工業的利用価値を非常に向上させる。」(5頁左下欄7~16行)
カ 引用文献8
同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭61-31411号公報(以下「引用文献8」という。)には、次の記載がある。
「次記の成分(a)、(b)、(c)を有して成る硬化性組成物
(a)重合可能な(メタ)アクリレートモノマー又は/及びオリゴマー、
(b)フッ素含有エラストマー、
(c)硬化剤。」(特許請求の範囲)
「成分(b)は、成分(a)の合計量を100として10~100重量部の範囲で使用するのが好ましく、10重量部未満では脆性強度、衝撃強度、剥離強度が低下する。」(2頁右上欄4~7行)
「(ii)嫌気性重合用の重合開始剤として、各種の有機化合物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーカキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド)等用いることができる。重合促進剤として、第1級アミノ類、第3級アミノ類、ヒドラジンおよびその誘導体、チオ尿素または尿素およびその誘導体、O-ベンズスルホイミド、アスコルビン酸類などが挙げられ、なお、これらの場合の貯蔵安定剤として、ベンゾキノン、ハイドロキノン、フェノール誘導体、金属キレート化剤(エチレンジアミン4酢酸またはその2ナトリウム塩、アセチルアセトン)などが挙げられる。」(2頁左下欄下から5行~同頁右下欄8行)
「第3表に・・・」(3頁右下欄最終行~5頁左上欄8行)
(5)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は、各種部材、例えばプラスチック部材の強力な接着と、その速硬化接着を可能とし、例えばプラスチック板同士を貼り合わせる光ディスクの接着組立などに有効に利用できるようにした速硬化接着方法を提供することを解決しようとする課題とする(【0007】)、各種部材の短時間接着を効果的に行う方法に関するものである(【0001】)。
(イ)本件明細書【0038】に「本発明は、両方の基材がプラスチックである場合に特に有用である」と記載されていることからも、本件補正発明の「プラスチック基材を別の基材に接合する」とは、プラスチック基材を別のプラスチック基材に接合する態様をも包含するものと認められる。
そうすると、引用発明の「プラスチック部材の接着面と他のプラスチック部材を重ね合わせることを特徴とする速硬化接着」は、本件補正発明の「プラスチック基材を別の基材に接合する」に相当し、引用発明の「速硬化接着方法において用いられるためのシステム」は、本件補正発明の「接合系」に相当する。
(ウ)したがって、本件補正発明と引用発明は、
「プラスチック基材を別の基材に接合するための接合系であって、該接合系は:
(a)プラスチック基材;及び、
(b)嫌気硬化性組成物を含む接合系」の発明の点で一致し、以下の点で相違するものである。
本件補正発明は、プラスチック基材は、PCABS(ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン);ポリカーボネート;ポリアリールアミド;又はポリアミドであることが特定されているのに対し、引用発明はプラスチック基材の材料が具体的に特定されていない点(以下「相違点1」という。)、
本件補正発明は、嫌気硬化性組成物がゴム/エラストマー成分を、重合性モノマーの重量に対して15重量%を超える量で、かつ、組成物の総重量に基づいて5~35重量%の量で含むものであるのに対し、引用発明ではゴム/エラストマー成分を含むことが特定されていない点(以下「相違点2」という。)、
本件補正発明は、プラスチック基材が遷移金属を含み、前記プラスチック基材は、該プラスチックが溶融形態にあるとき、遷移金属と混合されたものであり、遷移金属は、プラスチック成分を形成する組成物の1重量%までの量で存在し、嫌気硬化性組成物の硬化は、嫌気硬化性組成物が嫌気性条件下でプラスチック基材と接触したときに、遷移金属によって開始することができることが記載されているのに対して、引用発明にはこの点が記載されていない点(以下「相違点3」という。)、及び
本件補正発明は、「組み立て中に接合すべきプラスチック部品を含む携帯型消費者向け電子デバイスの組み立てに使用される」ことが記載されているのに対し、引用発明には当該用途に用いることが特定されていない点(以下「相違点4」という。)。
(6)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
前記(4)ア(イ)cのとおり、引用文献1にはプラスチック部材としてポリカーボネート等が用いられることが記載されているから、引用発明においてプラスチック部材の素材をポリカーボネート等とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
イ 相違点2について
本件明細書の【0046】には、「望ましくは、嫌気硬化成分は、天然又は合成ゴム/エラストマー成分などのゴム成分を含む。」と記載されている。
前記(4)ウ~カのとおり、嫌気硬化型接着剤において、ゴム、エラストマーを接着剤組成物中に50重量%以下、硬化性成分100に対し10~100重量部程度配合すること、及び、それらにより接合強度、耐衝撃強度等の接着物性を向上させることは、本願の優先日前における周知技術であったと認められる。
したがって、引用発明について、さらに耐衝撃強度等の接着物性を向上させるために、ゴム、エラストマー等を上記程度配合しようとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。特に、引用文献1には、前記(4)ア(ア)の【0007】に「強力な接着と、その速硬化接着を可能とし」と記載されていることからも、引用発明において、より接着力等を高めるために、ゴム、エラストマーを上記程度配合することは、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 相違点3について
(ア) 前記2(4)ア(イ)d及びfのとおり、引用文献1には、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤として、2-エチルヘキサン酸銅等を用いることが、また、前記2(4)ア(イ)eのとおり、引用文献1には「嫌気性接着剤の硬化促進剤をプラスチック部材に含有せしめる態様としては、練り込みによって行う」(【0020】)ことが記載されている。
してみれば、引用発明において、「あらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材」を、2-エチルヘキサン酸銅等がプラスチック成分を形成する組成物に練り込まれたものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ) 本件明細書【0021】~【0023】に「望ましくは、遷移金属は、銅・・・」、「望ましくは、遷移金属は、塩の形態で提供される。」、「好適な塩としては、以下の塩及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。」との記載に続き、【0030】に「銅塩としては、・・・2-エチルヘキサン酸銅、・・・;銅(II)アセチルアセトナート;・・・が挙げられる」と記載されていることから、前記(ア)の「2-エチルヘキサン酸銅」は、本件補正発明の「遷移金属」に相当すると認められる。
(ウ) 前記(ア)の「嫌気性接着剤の硬化促進剤をプラスチック部材に含有せしめる態様としては、練り込みによって行う」(【0020】)は、本件補正発明の「該プラスチックが溶融形態にあるとき」硬化促進剤「と混合されたものであ」るに相当すると認められる。
(エ) 本件補正発明の「嫌気硬化性組成物の硬化は、嫌気硬化性組成物が嫌気性条件下でプラスチック基材と接触したときに、遷移金属によって開始することができ」との記載について、本件明細書の【0047】には、遷移金属が「比較的低い充填量であっても、硬化のための嫌気性組成物の活性化が起こり得る」ことが記載され、【0101】には実施例の結果を受けて「上記の結果は、遷移金属成分を、プラスチック基材内に、例えばその成形中に含めると、嫌気硬化性接着剤によってはるかに良好な接合がもたらされることを実証している。」と記載されるものの、嫌気性硬化組成物の硬化反応の開始段階について具体的な記載はなされていない。このような本願明細書の記載からみて、本件補正発明の上記記載は、プラスチック基材中に含まれる遷移金属が、硬化のための嫌気性組成物を活性化することを意図するものと理解される。
前記2(4)ア(イ)bの「あらかじめ嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有せしめたプラスチック部材を用い、当該接着しようとするプラスチック部材の接着面のどちらか一面又は両面に嫌気硬化型接着剤を塗付し、次いで当該プラスチック部材の接着面を重ね合わせることを特徴とする速硬化接着方法」との記載に加え、同fのとおり、引用文献1には、嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を、ポリカーボネート板に塗布して硬化させた後、嫌気硬化型接着剤を塗布して、もう一方のポリカーボネート板を重ね合わせて、2個のピンチで仮押さえし、20℃で5分以内の良好なセットタイム(二枚のポリカーボネート板で手が動かなくなるまでの時間)であったことが記載されていることから、引用発明のシステムは、「嫌気硬化性組成物の硬化は、嫌気硬化性組成物が嫌気性条件下でプラスチック基材と接触したときに、遷移金属によって開始することができ」るものであると認められる。
(オ) 前記(イ)~(エ)から、前記(ア)のようにして得られたプラスチック部材は、本件補正発明の「(a)遷移金属を含むプラスチック基材」は、「該プラスチックが溶融形態にあるとき、遷移金属と混合されたものであり」、「嫌気硬化性組成物の硬化は、嫌気硬化性組成物が嫌気性条件下でプラスチック基材と接触したときに、遷移金属によって開始することができ」を充足するものと認められる。
(カ) また、前記2(4)ア(イ)fは、プラスチック部材への練り込みではなく、2-エチルヘキサン酸銅1部を、1,6-ヘキサングリコールジアクリレート100部と、トリメタクリルイソシアヌレート20部、ベンジルジメチルケタール5部と共に溶解させることにより調製された嫌気硬化型接着剤の硬化促進剤を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を、ポリカーボネート板に塗布して硬化させた後に接着させる方法を開示するものであるが、前記活性エネルギー線硬化性組成物中の2-エチルヘキサン酸銅の配合割合を考慮すれば、前記(ア)のようにプラスチック部材を調製する際に、2-エチルヘキサン酸銅の含有割合をプラスチック成分を形成する組成物の1重量%まで程度とすることにも格別の困難性は見いだせない。
エ 相違点4について
本件明細書の【0039】には、「本発明の組成物は、組み立て中に接合すべきプラスチック部品を含むデバイスの組み立てに使用され得ることが理解できるであろう。そのような場合、プラスチック部品のうち少なくとも1つを遷移金属に含浸させる。例えば、本発明のこの系は、携帯型電子デバイスなどの電子デバイスに使用され得る。」と記載されている。
引用文献1の【0007】には「本発明は、各種部材、例えばプラスチック部材の接着組立をインラインで行う場合に、非常に効率よく実施することができ」と記載されており、引用発明は部材の組立に用いられるものであることが記載されているところ、前記(4)イのとおり、嫌気硬化性樹脂等の接着剤を、モバイルコンピューター携帯電話等といった電子機器のカラー表示装置として用いられる電気光学装置の電気光学パネルの基板同士を貼り合わせるために使用することは行われていたものであるから(要すれば、引用文献4等参照)、引用発明を組み立て中に接合すべきプラスチック部品を含む携帯型消費者向け電子デバイスの組み立てに使用するためのものとすることは、当業者が適宜なし得る範囲内の事項である。
オ 本件補正発明の効果について
本件明細書には、実施例として、メチルメタクリレート、メタクリレート官能性ポリブタジエンゴム、スチレンとポリブタジエンとの線状コポリマー、メタクリル酸、ポリエチレングリコール200ジメタクリレート 1,4ナフトキノン、アセチルフェニルヒドラジン、サッカリン、クメンヒドロペルオキシド、疎水性シリカ等を含む嫌気性接着剤により、銅(II)アセチルアセトナート粉末をPCABSのペレットに添加後成形したピンと、ラップシェア、または、銅が添加されていないPCABSから形成されたピンと、銅を含むラップシェアを接合させた場合に、引っ張り強度が高まったことが記載されている。
しかしながら、前記ア~エで検討したことを踏まえれば、このような実施例の記載をもって、本件補正発明の構成により予測しえない顕著な効果が奏されたということはできない。
カ 請求人の主張について
請求人は、令和4年10月31日提出の審判請求書において、a引用文献1の実施例は硬化促進剤を含有しないプラスチック部材の表面に、プライマー層として硬化促進剤を含む硬化皮膜を形成した基材であり、本願発明のように、プラスチック中に遷移金属を溶融状態で混合したプラスチック基材でないこと、b引用文献1に具体的に開示される態様から、プラスチック基材を形成する組成物の1重量%以下という比較的少ない量の遷移金属をプラスチック基材に予め混合した場合に良好な接合強度が得られることは予測できないこと、c引用文献1には嫌気硬化性組成物がゴム/エラストマー成分を含むことは全く記載も示唆もされていないこと、及び、d引用文献1には接合すべきプラスチック部品を含む携帯型消費者向け電子デバイスの組み立てに使用することは全く記載も示唆もされていない旨主張する。
しかしながら、前記c及びdについては、前記イ及びエで検討したとおり、引用文献1に具体的な記載がないことをもって、本件補正発明は引用文献1に記載された発明から容易に想到しえないといえるものではない。また、前記a及びbについて、確かに引用文献1の実施例の記載は請求人の主張するとおりのものであるものの、引用文献1の【0020】の「嫌気性接着剤の硬化促進剤をプラスチック部材に含有せしめる態様としては、練り込みによって行う」との記載は、実施例以外の態様で硬化促進剤を用いることを阻害する記載ではなく、むしろ示唆するものといえ、2-エチルヘキサン酸銅の含有割合をプラスチック成分を形成する組成物の1重量%まで程度とすることに格別の困難性が見いだせないことも、前記ウで検討したとおりである。さらに、嫌気硬化性組成物にゴム/エラストマー成分を含ませることで、接合強度等を改善することも、前記イのとおり本願優先日前における周知技術であったことからも、請求人の前記a及びbの主張も採用できない。
キ 小括
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1に記載の事項及び周知技術(要すれば、引用文献4~8等参照)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年10月31日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年5月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
(1)この出願の請求項1~11、13及び14に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献5~8等参照)に基づいて、また、この出願の請求項12及び15に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献4~8等参照)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
ア 請求項1及び13の「ゴム/エラストマー成分を、ゴム/エラストマー成分以外の嫌気性硬化成分の重量に対して」との記載は明確でないから、請求項1、13及びそれらを引用する請求項2~12、14及び15に係る発明は、明確でない。
イ 請求項 7~12、14、15
請求項7には、「嫌気硬化性成分が、組成物全体の50重量%~99重量%の量で存在する」と記載されるから、嫌気性硬化性組成物の残り50重量%~1重量%が、ゴム/エラストマー成分、ラジカル開始剤、その他剤である。
一方、請求項7が引用する請求項1には、「(b)ゴム/エラストマー成分を、ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分の重量に対して15重量%を超える量で含む嫌気硬化性組成物」と記載されるから、ゴム/エラストマー成分は、嫌気硬化性成分が、組成物全体の50重量%~99重量%の場合、ゴム/エラストマー成分の下限値は(50~99)×15/115≒6.5~12.9となる。
そうすると、嫌気硬化性成分が組成物全体の約89重量%以上であると、嫌気硬化性成分とゴム/エラストマー成分の合計のみでも100重量%を超えることとなる。(本来、ラジカル開始剤も必須であることを考慮すると、上限はさらに下がる。)
よって、請求項7及び請求項7を引用する請求項8~12、14、15に係る発明は明確でない。
引用文献等一覧
引用文献1.特開平8-295853号公報
引用文献4.特開2014-153593号公報
引用文献5.特開昭48-36246号公報
引用文献6.特開昭51-4243号公報
引用文献7.特開昭63-207876号公報
引用文献8.特開昭61-31411号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、4ないし8及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(4)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2(1)で検討したとおり、本件補正発明から、
(1)「重合性モノマー」を、実質的に等価な「ゴム/エラストマー成分以外の嫌気硬化性成分」とするとともに、
(2)嫌気硬化性組成物が「ゴム/エラストマー成分を」「組成物の総重量に基づいて5~35重量%の量で含む」嫌気硬化性組成物を含み、「前記プラスチック基材は、該プラスチックが溶融形態にあるとき、遷移金属と混合されたものであり、遷移金属は、プラスチック成分を形成する組成物の1重量%までの量で存在し、プラスチック基材は、PCABS(ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン);ポリカーボネート;ポリアリールアミド;又はポリアミドであり」、「組み立て中に接合すべきプラスチック部品を含む携帯型消費者向け電子デバイスの組み立てに使用され」るとの特定を削除するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(5)、(6)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載の事項及び周知技術(要すれば、引用文献4~8等参照)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載の事項及び周知技術(要すれば、引用文献5~8等参照)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-017406