特許拒絶査定不服審判
2022-008820
粘着シートおよび表示装置
- 審判番号
- 2022-008820
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-028285
- 請求日
- 2022年06月08日
- 審決日
- 2024年07月16日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】リンテック株式会社
- 【請求人代理人】早川 裕司
- 【請求人代理人】村雨 圭介
- 【請求人代理人】田岡 洋
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 弘實 由美子
- 分類
- P18 .121-Z (C09J) / P18 .575-Z (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-28285「粘着シートおよび表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和元年8月29日出願公開、特開2019-143039〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)2月20日の出願に係るものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 8月10日付け:拒絶理由通知書(発送は、同年同月17日)
同年10月 8日 :意見書及び手続補正書の提出
令和4年 3月 4日 :拒絶査定(送達は、同年同月8日)
同年 6月 8日 :手続補正書及び審判請求書の提出
第2 令和4年6月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月8日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
令和4年6月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
<本件補正前>
「 加水分解性基材と、前記加水分解性基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備えた、飛散防止フィルムである粘着シートであって、
前記粘着剤層が、ヒンダードアミン系化合物を含有する
ことを特徴とする粘着シート。」
<本件補正後>
「 加水分解性基材と、前記加水分解性基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備えた、飛散防止フィルムである粘着シートであって、
前記粘着剤層が、ヒンダードアミン系化合物およびシランカップリング剤を含有する
ことを特徴とする粘着シート。」
2 検討
上記1のとおり、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「粘着剤層」について、「シランカップリング剤」を含有する旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件発明1」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件発明1
本件発明1は、上記1に<本件補正後>として記載したとおりのものである。
(2)引用例
特開2011-209512号公報(以下、「引用例5」ともいう。)
特開平5-194789号公報(以下、「引用例1」ともいう。)
(3)引用例に記載されている事項
ア 引用例5に記載されている事項
引用例5には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.45~1.55のトリアセチルセルロースフィルムからなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられた屈折率が1.45~1.55の粘着剤層と、を備えてなることを特徴とする画像表示装置用飛散防止フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムの前記粘着剤層と接している面とは反対側の面に、屈折率が1.45~1.55のハードコート層が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置用飛散防止フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムの前記粘着剤層と接している面とは反対側の面側における波長380~780nmの光の視感反射率が8.5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の画像表示装置用飛散防止フィルム。
【請求項4】
携帯情報端末機器の表示画面に用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の画像表示装置用飛散防止フィルム。
【請求項5】
画像表示パネルと、該画像表示パネルの表示部上に配置されるガラス基板と、請求項1~4のいずれかに記載の画像表示装置用飛散防止フィルムと、を備えてなる画像表示装置であって、
前記ガラス基板の前記画像表示パネルと対向している面とは反対側の面に、前記基材フィルムの一方の面に設けられた前記粘着剤層によって、前記画像表示装置用飛散防止フィルムが貼着されたことを特徴とする画像表示装置。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置用飛散防止フィルムおよびこれを備えた画像表示装置に関し、さらに詳しくは、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の画像表示装置を構成するガラス基板の破損による飛散を防止するために、そのガラス基板の表面に貼着される画像表示装置用飛散防止フィルムおよびこれを備えた画像表示装置に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、ガラス基板を剥き出しにしたデザインの携帯端末機器も数多く販売されており、その視認性のよさが好まれている。しかしながら、ガラス基板の飛散を防止するために、このような携帯端末機器のガラス基板に対して、上記の干渉縞を低減した飛散防止フィルムを貼着すると、わずかな干渉色により、ガラス基板を剥き出しにした状態よりも視認性が低くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、画像表示装置を構成するガラス基板に貼着した場合、ガラスの飛散防止性に優れるとともに、表示部の視認性に優れる画像表示装置用飛散防止フィルムおよびこれを備えた画像表示装置を提供することを目的とする。」
「【実施例】
【0096】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
「ハードコート用塗布液の調製」
紫外線硬化型樹脂(商品名:ビームセット575CB、濃度100%、光重合開始剤入り、荒川化学工業社製)100質量部に、レベリング剤(商品名:BYK-355、濃度52%、ビックケミージャパン社製)0.1質量部を添加し、プロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈して、紫外線硬化型樹脂の濃度が40質量%のハードコート用塗布液を調製した。
【0098】
「粘着剤含有組成物の調製1」
n-ブチルアクリレート79質量%、メチルアクリレート20質量%、2-ヒドロキシエチルアクリレート1質量%を共重合して得られたアクリル酸エステル共重合体(分子量80万、濃度35質量%)100重量部に、トルエンおよびキシリレンジイソシアネート系3官能性アダクト体(商品名:TD-75、濃度75質量%、綜研化学社製)0.1重量部を添加し、撹拌して、粘着剤含有組成物1を調製した。
【0099】
「粘着剤含有組成物の調製2」
n-ブチルアクリレート77質量%、メチルアクリレート20質量%、アクリル酸3質量%を共重合して得られたアクリル酸エステル共重合体(分子量80万、濃度35質量%)100重量部に、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート樹脂(商品名:アロニックスM-315、分子量=423、3官能型、東亜合成社製)15重量部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア500」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.3重量部、トリレンジイソシアネート系3官能性アダクト体(商品名:コロネートL、濃度75質量%、日本ポリウレタン社製)2重量部、シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越化学工業社製)0.1重量部を添加し、撹拌して、粘着剤含有組成物2を調製した。
【0100】
「実施例1」
基材フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム(商品名:TDTAC80UL、厚み80μm、富士フィルム社製)を用い、その一方の面に、マイヤーバー♯12を用いて、乾燥後の厚みが5μmとなるようにハードコート用塗布液を塗布し、乾燥して塗膜を形成した。
次いで、その塗膜に、窒素雰囲気下で紫外線(照度:230mW/cm、光量:200mJ/cm2)を照射し、その塗膜を硬化させてハードコート層を形成し、トリアセチルセルロースフィルムと、その一方の面に形成されたハードコート層とからなるハードコートフィルムを得た。
次いで、剥離シート(商品名:SP-PET381031、厚み38μm、リンテック社製)の剥離処理面に、ダイコーターを用いて、乾燥後の厚みが20μmとなるように粘着剤含有組成物1を塗布し、120℃で1分間乾燥して、粘着剤層を形成し、剥離シートと、その剥離処理面に形成された粘着剤層とからなる基材レス粘着シートを得た。
次いで、ハードコートフィルムの非コート面(ハードコート層が設けられている面とは反対側の面)に、基材レス粘着シートの粘着剤層を貼り合せて、実施例1の飛散防止フィルムを得た。
【0101】
「実施例2」
粘着剤層として、粘着剤含有組成物1の代わりに、粘着剤含有組成物2を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の飛散防止フィルムを得た。」
「【0114】
「評価」
実施例1~8および比較例1~6それぞれの飛散防止フィルムについて、全光線透過率、ヘイズ、屈折率、外観、飛散防止性、視感反射率の6項目の評価を下記の方法に基づいて行った。
(1)全光線透過率
日本工業規格JIS K7361-1-1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠し、ヘイズメータ(商品名:NDH2000、日本電飾社製)を用いて、実施例および比較例で得られた飛散防止フィルムの全光線透過率(%)を測定した。
この評価結果を表1に示す。
【0115】
(2)ヘイズ
日本工業規格JIS K7136-2000「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠し、ヘイズメータ(商品名:NDH2000、日本電飾社製)を用いて、実施例および比較例で得られた飛散防止フィルムのヘイズ(%)を測定した。
この評価結果を表1に示す。
【0116】
(3)屈折率
実施例および比較例で用いたハードコート層、基材フィルムおよび粘着剤層に関し、日本工業規格JIS K7142-2008「プラスチック-屈折率の求め方」に準拠し、多波長アッベ屈折率計(商品名:DR-M2、アタゴ社製)を用いて、波長589nmにおけるハードコート層、基材フィルムおよび粘着剤層それぞれの屈折率を測定した。
この評価結果を表1に示す。
【0117】
(4)外観
厚み1mmのガラス板に、飛散防止フィルムを貼り合せた後、飛散防止フィルムを構成する基材フィルムの一方の面(ハードコート層が設けられている面)と1mの距離をおいて、3波長蛍光灯を配置し、この蛍光灯が発する光を飛散防止フィルムに照射し、基材フィルムの他方の面における反射光の色を目視により観察した。
基材フィルムの他方の面における反射光の色が、同じ光源によるガラス板の一方の面における反射光の色と同等である場合は○、基材フィルムの他方の面における反射光の色が、同じ光源によるガラス板の一方の面における反射光の色と異なる場合は×と評価した。
この評価結果を表1に示す。
【0118】
(5)飛散防止性
長さ150mm×幅170mm×厚み1mmのガラス板に、飛散防止フィルムを貼り合せた後、高さ10mmの台上、このガラス板と飛散防止フィルムからなる積層体を、飛散防止フィルムが上向き(上記の台とは反対側の向き)となり、この積層体の長辺方向の一端から10mmの部分(一端部)がアーチ状に浮いた状態となるように配置し、その一端部に対して、高さ30cmから直径31.75mmの鉄球を落下させ、ガラスの飛散状況を目視により観察した。
飛散防止フィルムが裂けなかった場合は○、飛散防止フィルムが裂けた場合は×と評価した。
この評価結果を表1に示す。
【0119】
(6)視感反射率
分光光度計(商品名:UV-3600、島津製作所社製)を用いて、飛散防止フィルムを構成する基材フィルムの一方の面(ハードコート層が設けられている面)における、紫外・可視・近赤外(UV-VIS-NIR)域の光の視感反射率(%)を測定した。
なお、この視感反射率の測定では、飛散防止フィルムをガラス板(商品名:コーニングガラスXG、エヌ・エス・ジー・プレシジョン社製)に貼付して、飛散防止フィルム側の反射スペクトルを分光光度計で測定し、L*a*b*表色系を、xy表色系に変換した。
なお、比較のために、参考例として、上記のガラス板のみの視感反射率を測定した。
この評価結果を表2に示す。
【0120】
【表1】
[図:0001414464000001.jpg]
【0121】
【表2】
[図:0001414464000002.jpg]
【0122】
表1の結果から、実施例の飛散防止フィルムは、フィルム基材の屈折率が1.49、粘着剤層の屈折率が1.45~1.49であるから、全光線透過率、ヘイズおよび飛散防止性が、比較例1~6の飛散防止フィルムと同等でありながら、外観に優れることが分かった。
また、表2の結果から、実施例の飛散防止フィルムは、L*a*b*表色系において、赤色の光(干渉色)の反射を比較例に比べて抑制できることが分かった。」
イ 引用例1に記載されている事項
引用例1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルム中もしくは隣接層中に、pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させることを特徴とするセルロースアセテートフィルムの劣化防止法。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は写真感光材料の支持体、偏光板保護フィルム、光学フィルター、離型用フィルム等に使用されるのに適したセルロースアセテートフィルムの劣化防止法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】セルロースアセテートフィルムは通常の保管条件ではきわめて安定なものであるが、高温多湿条件下で密閉保存されると酢化度、分子量ともに低下しフィルム物性が著しく低下することが近年問題となってきている。原料の純度の観点からこのことについて説明する。一般に脂肪酸セルロースエステル、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどは通常触媒として硫酸を使用して製造されるが、この硫酸はセルロースの水酸基と反応して硫酸エステルをつくる。この結合硫酸及び繊維組織内に残存する遊離の硫酸は煮沸安定化処理により可及的に脱離・除去されるが、極く微量の硫酸エステル及び遊離の硫酸が脂肪酸セルロースエステル中に残存して加水分解の触媒となるために長期保存による劣化、とりわけ熱安定性不良、即ち熱による着色又は分解、分子鎖の切断といった劣化の主原因となる。
【0003】これに対してはカリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウムなどの酢酸塩、炭酸塩、蓚酸塩などを添加することにより中和し安定化処理する方法(米国特許第3047561号、同3089871号、同2614941号等)が知られている。しかしながらこれらの弱酸の塩は脂肪酸セルロースエステルを工業的に製造する場合、往々にして過剰に添加されるので、硫酸エステル或いは遊離の硫酸と結合しないで繊維組織内に残り、仮に分解、分子鎖の切断といった劣化を防止し得ても反対に着色物質の生成に対して触媒として働くため、色相を著しく損うという欠点がある。
【0004】かくの如く、透明性、耐熱性の優れた脂肪酸セルロースエステルを得るためには、原料としては精製度の高いセルロースを使用して作ると共に、反応触媒たる硫酸が結合硫酸の形で繊維組織内に残存する量及び灰分含有量が少なく、且つ着色原因物質を除去した脂肪酸セルロースエステルを使うことが望ましく、又、脂肪酸セルロースエステルは通常可塑剤を含有しており、これらの可塑剤等の添加剤も熱安定性の高いものを使用することが望ましい。
【0005】しかしながら上記のように脂肪酸セルロースエステルの劣化防止を、その構成原料の純度・品質のみにより解決しようとする方向には技術的・経済的に限度がある。そこで一般には適当な劣化防止剤を組合せ配合することが行なわれており、脂肪酸セルロースエステルの劣化防止剤として従来エポキシ化合物、弱有機酸、飽和多価アルコールや、一般的な有機材料の酸化防止剤、例えば亜リン酸エステル化合物、ヒンダードフェノール、チオエーテル等のイオウ系酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤等が知られている(米国特許第2,917,398号、同3,723,147号、同4,269,629号、同4,137,201号、同3,723,147号、特開昭63-128036号、同57-78431号、同55-13765号、特公昭61-45654号、特開昭59-12703号、同56-18940号、特開平1-339803号等)
【0006】弱酸塩による中和安定化処理の場合、脂肪酸セルロースエステルの灰分が0.01重量%以上と不純物の多い場合においても、加熱時の樹脂の着色防止効果はあらわれたが、脂肪酸セルロースエステルの分子鎖を切断する働きがあるため非常に重合度が低下し、物性が劣化した。また、脂肪酸セルロースエステルに、弱有機酸、エポキシ化合物と亜リン酸エステル化合物を添加した場合、弱有機酸と亜リン酸エステル化合物を添加した場合に較べ物性劣化性はかなり改善されるが、未だ充分満足のゆくものではなく、しかも加熱時の着色性は悪化した。またこれにさらに飽和多価アルコールを添加した場合も、脂肪酸セルロースエステルを支持体とするハロゲン化銀感光材料の標準的な保存容器である鉄製容器に入れた場合、湿熱処理によって劣化特性は悪化した。紫外線吸収剤、光安定剤の場合は、暗室下でも生ずる劣化を前提としているために、このような方法では明らかに不充分である。金属不活性化剤は金属製容器保存の場合に金属の触媒作用をキレート効果によって抑制するため、他の防止剤と組合せて良好な防止効果は得られるものの、単独では非金属容器中では効果を示さない。またその構造上親水性が高いため、疎水性の脂肪酸セルロースエステルフィルムに添加した場合、相溶性がわるく少量の添加でもヘイズを生ずる点が問題である。
【0007】以上から酸や金属を触媒とするセルロースアセテートの加水分解を防ぐ目的から種々の劣化防止剤が検討されていることが理解されるが、酸を捕かくする機能を有するアミン系化合物については従来充分検討されていないことが明らかとなってきた。これは一つにはアミン系化合物の多くが着色の点で問題がある、すなわち劣化は防止できても次第に着色してくるとされてきたため、透明無色であることが重要な場合は殆ど考慮されなかったということが考えられる。今回この従来検討不充分な観点から化合物の検討を行い、本発明に至った。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】文献(N.S.アレンet al.,J.Photogr.Sci.36,194-198、1988)等に記載されているように、セルロースアセテートフィルムは、通常の正しい保管方法がとれた場合には、非常に劣化しにくい優れたものであるが、金属ケース中に密閉されたり、高温高湿下で保存あるいは使用される場合には、加水分解による重合度低下や酢化度低下を生じ、著しい物性低下や失透をひきおこす。本発明の目的はセルロースアセテートが金属ケース中や高温高湿下で密閉保存されたりした過酷な条件下における劣化を防止することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のこのような目的は、pKaが4以上のアミン化合物をセルロースアセテートフィルムに添加することにより達成された。すなわち、本発明は、セルロースアセテートフィルムまたはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルム中もしくは隣接層中にpKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物、または実質的に揮散性を持たず、塩基性基1個当たりの分子量が200以下のアミン化合物を含有させることを特徴とするセルロースアセテートフィルムの劣化防止法である。」
「【0021】以下に本発明のアミン化合物の具体例A-1~A-73と、pKaの値を示すが、これによって本発明が制限されることはない。
【0022】
【化3】
[図:0001414464000003.jpg]
」
「【0133】
【実施例】本発明を以下の実施例で実証するが、これに限定されるものではない。
実施例1
ドープに添加する方法の実施例としてアミン化合物A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、A-15、A-24、A-31、A-36、A-42、A-44、A-53、A-55、A-72、A-73、B-1、B-13をそれぞれ添加し、下記の組成物を調製した。
セルローストリアセテート 100重量部
トリフェニルホスフェート 16重量部
アミン化合物 1重量部
メチレンクロライド 270重量部
ブタノール 7重量部
メタノール 70重量部
【0134】上記組成物を密閉容器に投入し、加圧下で、80℃に保持しながら、攪拌して完全に溶解する。次にこのドープを濾過し、冷却して25℃に保持しながら回転する直径30cmのジャケット付ドラム上に流延した。ドラムは伝熱性、耐蝕性、平面性を兼ねる必要からSB材の上に、約50μmのNi層を鍍金し、さらに約40μmのハードクロム鍍金を2回施した表面を、0.01~0.05Sの超鏡面研磨したものを使用した。このときドラムは、ジャケットに冷水を通水し、表面温度は0℃となるように保持しておく。流延速度は3m/分に固定し、流延位置から流延方向に270度回転した位置で剥取ロールを介してフィルムを剥離し、3.15m/分の速度でベースをひきとり、流延方向に5%流延する。剥ぎ取ったベースは、両サイドを固定し、70℃の熱風によって乾燥し、厚さ140μmのフィルムを得た。また比較例として前記の組成からアミン化合物を除いた組成、すなわち下記の組成で調製した。
セルロースアセテート 100重量部
トリフェニルホスフェート 16重量部
メチレンクロライド 270重量部
ブタノール 7重量部
メタノール 70重量部
上記組成のドープを上記と同様の方法で製膜し厚さ140μmのフィルムを比較例として得た。
【0135】次に劣化防止効果の評価法について説明する。試料2.0gを15ml容のガラス容器に入れ、90℃、相対湿度100%条件下で24時間調湿後、容器を密封して90℃、相対湿度100%条件下で湿熱処理を行なう。フィルム単体の場合、湿熱処理時間は120時間、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体の場合は240時間とする。また感圧接着層を設けた偏光板保護フィルムの場合は、80時間とする。
【0136】得られた処理後試料を40℃のメチルアルコール浴に30分浸せきする。これを4回繰り返してリンスし、試料に含有されるセルロースアセテート以外の添加剤成分を除去する。除去後50℃15時間真空乾燥する。ハロゲン化銀写真感光材料の支持体の場合は、本リンス操作の前に乳剤層の脱膜操作を行なう。すなわち、タンパク質分解酵素(ビオプラーゼSP4、ナガセ生化学工業(株))の1%水溶液に一晩浸せきし、よく水洗して乳剤層を除去する。この後リンス操作を行ない乾燥するのは同様である。
【0137】リンス及び乾燥操作後得られた絶乾試料を1g/100mlの濃度のトリフルオロ酢酸溶液とする。溶液は測定前まで5℃で冷蔵保存し、0.5μm孔径のPTFEフィルター(ミレックスLS、ミリポア)でロ過後、溶液の相対粘度を測定する。すなわち、約10mlの溶液をウベローデ粘度計(30℃の水に対する流下時間が約30秒のもの)に入れ、流下時間を測定する。試料溶液について得られた流下時間をトリフルオロ酢酸溶媒のみについて測定して得られた流下時間で徐し、溶媒の流下時間に対する溶液の流下時間の比を得る。これが相対粘度であり、試料の重合度に対応する値である。
【0138】劣化防止効果の評価は、湿熱処理後の試料の{(相対粘度)-1}、すなわち比粘度を、湿熱処理前の試料の{(相対粘度)-1}、すなわち比粘度で徐して得られた、処理前に対する処理後の比粘度の比を百分率で表す。これを粘度保持率(%)と定義し、試料の重合度低下の指標とする。すなわち、粘度保持率(%)が100に近いほど重合度は湿熱処理によっても低下していないことを示し、劣化防止効果が大きいことを表す。本評価法は実際の保存条件より著しく過酷なものであるが、これによって実際の保存条件での劣化防止効果について短時間で評価することができる。また重合度低下の指標であるということは、フィルムの重要な物性(耐折強度、引裂強度等)の低下の指標であることに対応しており、粘度保持率(%)が100に近いほどフィルム物性の低下も生じにくいことを示している。得られた結果をまとめて最後の表4に示した。
【0139】比較例No.19に示した劣化防止法を施さない試料は粘度保持率(%)が30と小さく、重合度が湿熱処理前に比較して大きく低下していることを示すが、アミン化合物を添加した場合No.1~18に示すように著しく粘度保持率が大きく、湿熱処理後も重合度が低下していないことを示している。特にpKaが5以上で8以下であるNo.1~5のアミン化合物の場合劣化防止効果は顕著である。また分子量300以上の実質的に揮散性を有しない3級アミンであるNo.1~4、および16の場合に劣化防止効果が著しいことがわかる。さらに塩基性基1個当たりの分子量が200以下の化合物であるNo.17~18の場合も劣化防止効果が著しいことも明らかである。従ってこの方法によって著しく劣化防止効果のあるセルローストリアセテートフィルムを得ることができた。このフィルムを支持体として用いて得られたハロゲン化銀写真感光材料は透明性、着色、写真性いずれも問題がなく、また偏光板保護フィルム、光学フィルター、離型用フィルムとしての使用にも支障は認められなかった。すなわちこのフィルムはこれらの用途に充分利用でき、なおかつ劣化防止効果が認められることがわかった。
【0140】実施例2
該フィルムに隣接する層に添加する方法の実施例として、まず偏光板保護フィルムにおいて、アミン化合物A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、A-15、A-24、A-31、A-36、A-42、A-44、A-53、A-55、A-72、A-73、B-1、B-13についてそれぞれ下記の方法で添加し検討を行った。
【0141】2-エチルヘキシルアクリレートを主成分とし、酢酸ビニル、無水マレイン酸を構成要素とするアクリル系粘着剤を、トルエン、ベンゼン、酢酸エチルの混合溶媒に溶解し、5%溶液とした。次にこの溶液に対して上記10種のアミン化合物をそれぞれ0.03%含有されるよう添加し10種の溶液を調製した。また比較例としてアミン化合物を添加しない組成物を調製した。該溶液をコンマコーターでポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布、乾燥を行い、厚さ30μの粘着層を形成した。該粘着層を特開昭62-115035号に記載された製造法により作成された90μのセルローストリアセテートフィルムの両サイドに転写した。該フィルムの劣化防止効果を評価した結果について最後にまとめて表4に示した。
【0142】表4に示したように、実施例1同様アミン化合物添加によって顕著な劣化防止効果が認められた。すなわち隣接する層に添加した場合もフィルムそのものに添加した場合と同様劣化防止効果が認められた。」
「【0187】
【表4】
[図:0001414464000004.jpg]
【0188】
【発明の効果】本発明により金属ケース中に密閉されたり、高温高湿下にあるなどして過酷な条件下にあっても粘度低下すなわち重合度低下の小さいセルロースアセテートフィルムが得られる。すなわち耐候性、耐湿熱性、耐暗湿熱性および保存性にすぐれたセルロースアセテートフィルムを得ることができる。」
(4)引用例5に記載された発明
引用例5の実施例2の飛散防止フィルムは、「粘着剤層として、粘着剤含有組成物1の代わりに、粘着剤含有組成物2を用いた以外は、実施例1と同様にして」得たものであり(段落【0101】)、実施例1の飛散防止フィルムは、「基材フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム(商品名:TDTAC80UL、厚み80μm、富士フィルム社製)を用い、その一方の面に・・・ハードコート層を形成し、トリアセチルセルロースフィルムと、その一方の面に形成されたハードコート層とからなるハードコートフィルムを得た。次いで、剥離シート(商品名:SP-PET381031、厚み38μm、リンテック社製)の剥離処理面に・・・粘着剤含有組成物1を塗布し・・・基材レス粘着シートを得た。次いで、ハードコートフィルムの非コート面(ハードコート層が設けられている面とは反対側の面)に、基材レス粘着シートの粘着剤層を貼り合せて」得たものである(段落【0100】)。
また、「粘着剤含有組成物2」は、「n-ブチルアクリレート77質量%、メチルアクリレート20質量%、アクリル酸3質量%を共重合して得られたアクリル酸エステル共重合体(分子量80万、濃度35質量%)100重量部に・・・トリレンジイソシアネート系3官能性アダクト体(商品名:コロネートL、濃度75質量%、日本ポリウレタン社製)2重量部、シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越化学工業社製)0.1重量部を添加し、撹拌して」調製したものである(段落【0099】)。
そうすると、引用例5の実施例2の飛散防止フィルムに基づいて、以下の発明(以下、「引用発明5」ともいう。)が記載されていると認められる。
<引用発明5>
「基材フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム(商品名:TDTAC80UL、厚み80μm、富士フィルム社製)を用い、その一方の面に、マイヤーバー♯12を用いて、乾燥後の厚みが5μmとなるようにハードコート用塗布液を塗布し、乾燥して塗膜を形成し、次いで、その塗膜に、窒素雰囲気下で紫外線(照度:230mW/cm、光量:200mJ/cm2)を照射し、その塗膜を硬化させてハードコート層を形成して、トリアセチルセルロースフィルムと、その一方の面に形成されたハードコート層とからなるハードコートフィルムとし、
次いで、剥離シート(商品名:SP-PET381031、厚み38μm、リンテック社製)の剥離処理面に、ダイコーターを用いて、乾燥後の厚みが20μmとなるように粘着剤含有組成物2を塗布し、120℃で1分間乾燥して、粘着剤層を形成し、剥離シートと、その剥離処理面に形成された粘着剤層とからなる基材レス粘着シートとし、
次いで、ハードコートフィルムの非コート面(ハードコート層が設けられている面とは反対側の面)に、基材レス粘着シートの粘着剤層を貼り合せて得た飛散防止フィルムであって、
前記粘着剤含有組成物2が、n-ブチルアクリレート77質量%、メチルアクリレート20質量%、アクリル酸3質量%を共重合して得られたアクリル酸エステル共重合体(分子量80万、濃度35質量%)100重量部に、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート樹脂(商品名:アロニックスM-315、分子量=423、3官能型、東亜合成社製)15重量部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア500」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.3重量部、トリレンジイソシアネート系3官能性アダクト体(商品名:コロネートL、濃度75質量%、日本ポリウレタン社製)2重量部、シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越化学工業社製)0.1重量部を添加し、撹拌して調製したものである、
飛散防止フィルム。」
(5)対比
引用発明5の「基材フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム」は、本件発明1の「加水分解性基材」に相当する。
引用発明5の「飛散防止フィルム」は、「トリアセチルセルロースフィルムと、その一方の面に形成されたハードコート層とからなるハードコートフィルム」の「非コート面(ハードコート層が設けられている面とは反対側の面)に、基材レス粘着シートの粘着剤層を貼り合せて得た」ものであるから、本件発明1の「前記加水分解性基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備えた、飛散防止フィルムである粘着シート」を充足する。
引用発明5の「粘着剤層」は、「粘着剤含有組成物2を塗布し、120℃で1分間乾燥して形成したもの」であり、「粘着剤含有組成物2」は、「アクリル酸エステル共重合体(分子量80万、濃度35質量%)100重量部に、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート樹脂(商品名:アロニックスM-315、分子量=423、3官能型、東亜合成社製)15重量部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア500」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.3重量部、トリレンジイソシアネート系3官能性アダクト体(商品名:コロネートL、濃度75質量%、日本ポリウレタン社製)2重量部、シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越化学工業社製)0.1重量部を添加し、撹拌して調製したもの」である。
したがって、引用発明5の「粘着剤層」は、本件発明1の「前記粘着剤層が、シランカップリング剤を含有する」を充足する。
以上によれば、本件発明1と引用発明5は、「加水分解性基材と、前記加水分解性基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備えた、飛散防止フィルムである粘着シートであって、
前記粘着剤層が、シランカップリング剤を含有する
ことを特徴とする粘着シート。」である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点1
本件発明1は、「前記粘着剤層が、ヒンダードアミン系化合物を含有する」と特定されているのに対し、引用発明5は、そのような特定を備えていない点
(6)判断
ア 引用例1に記載されている発明、及び、その属する技術分野、解決しようとする課題等について
(ア)引用例1には、その請求項1に、「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルム中もしくは隣接層中に、pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させることを特徴とするセルロースアセテートフィルムの劣化防止法」の発明(以下、「引用発明1」ともいう。)が記載されている。
引用発明1は、その記載によれば、「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルム」を備える物や製品において、「フィルム中もしくは隣接層中に、pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させること」によって「セルロースアセテートフィルムの劣化」を防止する方法の発明であるから、その属する技術分野は、「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルム」を備える物や製品に係る分野であり、その解決すべき課題は、「セルロースアセテートフィルムの劣化」を防止することであり、また、その課題を解決するための手段は、「フィルム中もしくは隣接層中に、pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させること」であると解される。
(イ)引用例1には、引用発明1の産業上の利用分野について、「本発明は写真感光材料の支持体、偏光板保護フィルム、光学フィルター、離型用フィルム等に使用されるのに適したセルロースアセテートフィルムの劣化防止法に関するものである。」(段落【0001】)との説明が記載されており、また、従来の技術について、「セルロースアセテートフィルムは通常の保管条件ではきわめて安定なものであるが、高温多湿条件下で密閉保存されると酢化度、分子量ともに低下しフィルム物性が著しく低下することが近年問題となってきている。」(段落【0002】)との説明が記載されている。
(ウ)また、これらの記載に続けて、原料の純度の観点からこの問題について説明すると、一般に脂肪酸セルロースエステルは通常触媒として硫酸を使用して製造されるため、この硫酸が、極く微量の硫酸エステル及び遊離の硫酸が脂肪酸セルロースエステル中に残存して加水分解の触媒となるために長期保存による劣化、とりわけ熱安定性不良、即ち熱による着色又は分解、分子鎖の切断といった劣化の主原因となること(段落【0002】)、これに対して酢酸塩などを添加することにより中和し安定化処理する方法が知られているが、往々にして過剰に添加されるので、仮に分解、分子鎖の切断といった劣化を防止し得ても反対に着色物質の生成に対して触媒として働くため、色相を著しく損うという欠点があること(段落【0003】)、脂肪酸セルロースエステルの劣化防止を、その構成原料の純度・品質のみにより解決しようとする方向には技術的・経済的に限度があるので一般には適当な劣化防止剤を組合せ配合することが行なわれていること(段落【0005】)が記載されている。
(エ)そして、以上の記載にさらに続けて、種々の劣化防止剤が検討されているが、酸を捕かくする機能を有するアミン系化合物については従来充分検討されていなかったので、今回この観点から化合物の検討を行ったところ、本発明(引用発明1)に至ったこと(段落【0007】)、引用発明1が解決しようとする課題は、「本発明の目的はセルロースアセテートが金属ケース中や高温高湿下で密閉保存されるなどの過酷な条件下における劣化を防止すること」(段落【0008】)であることが記載されている。
(オ)上記(ア)に説示したとおり、引用発明1が属する技術分野は、請求項1の記載に基づき「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルムを備える物や製品に係る分野」であると一応解されるが、引用例1の発明の詳細な説明の記載(上記(イ)~(エ))を勘案すると、このような技術分野のうち特に高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することが問題となる分野であり、そのような技術分野の具体例として、「写真感光材料の支持体、偏光板保護フィルム、光学フィルター、離型用フィルム等」が例示されていると理解できる。
(カ)また、引用発明1が解決しようとする課題についても、引用例1の発明の詳細な説明の記載(上記(イ)~(エ))を勘案すると、「セルロースアセテートフィルムの劣化を防止すること」(上記(ア))のうち特に「セルロースアセテートが高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することを防止すること」であると理解できる。
(キ)さらに、上記(ウ)に指摘した事項によれば、「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルムを備える物や製品に係る分野」において、一般に脂肪酸セルロースエステルは通常触媒として硫酸を使用して製造されるため、極く微量の硫酸エステル及び遊離の硫酸が脂肪酸セルロースエステル中に残存していること、これらが加水分解の触媒となるために長期保存による劣化、とりわけ熱安定性不良、即ち熱による着色又は分解、分子鎖の切断といった問題の主原因となること、この問題を「酢酸塩などを添加すること」や「その構成原料の純度・品質のみにより解決しようとする方向」や「適当な劣化防止剤を組合せ配合すること」で解決しようと試みられてきたことが理解でき、また、上記(エ)によれば、引用発明1が、そのような試みの延長線上にある発明であることも理解できる。
(ク)そうすると、「セルロースアセテートが高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することを防止すること」という課題は、「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルムを備える物や製品に係る分野」、とりわけ、高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下にさらされることが想定される分野においては周知の課題であったと認められる。
(ケ)引用発明1は、その課題を解決するための手段として、「フィルム中もしくは隣接層中に、pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させること」を備えるものであり(上記(ア))、この手段は、「フィルム中もしくは隣接層中に」という部分に2つの選択肢があり、「pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させる」という部分には、具体的なアミン化合物として多数の化合物を想定することができので、多数の選択肢があるものである。
したがって、引用発明1は、それぞれの選択肢を組み合わせて得られる多数の具体的な態様を包含している発明であるが、引用例1(段落【0133】~【0142】)には、「フィルム中もしくは隣接層中に」という部分に係る2つの選択肢のそれぞれに対応する実施例1、2(実施例1は「フィルム中」を選択した場合に対応し、実施例2は「隣接層中に」を選択した場合に対応する。)が記載されている。また、「pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物を含有させる」という部分についても実施例1、2のそれぞれにおいて、18種類の具体的なアミン化合物(アミン化合物A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、A-15、A-24、A-31、A-36、A-42、A-44、A-53、A-55、A-72、A-73、B-1、B-13)が用いられている。そして、そのいずれについても、「アミン化合物添加によって顕著な劣化防止効果」が奏されている(段落【0139】、【0142】、【0187】の【表4】、【0188】)。
なお、アミン化合物A-1は、その化学構造式(段落【0022】)によれば、ヒンダードアミン系化合物である。
(コ)そうすると、引用例1の記載に基づき、引用発明1は、その具体的な態様のいずれであっても、その課題を解決することができるものであると理解できる。
イ 引用発明5の属する技術分野等について
引用発明5は、「基材フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム」を用いるものである。
また、引用発明5は、引用例5の実施例2の記載に着目して認定した発明である(上記(4))から、引用例5の特許請求の範囲に記載された発明の具体例であり、したがって、その属する技術分野は、引用例5の段落【0001】の記載に基づき、「画像表示装置用飛散防止フィルムおよびこれを備えた画像表示装置に関し、さらに詳しくは、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の画像表示装置を構成するガラス基板の破損による飛散を防止するために、そのガラス基板の表面に貼着される画像表示装置用飛散防止フィルム」の分野であると認められる。また、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器は、自動車内などの高温多湿条件下となる過酷な環境で用いられることが想定されている物品である。
すると、前記ア(ク)から、引用発明5の属する技術分野は、トリアセチルセルロースフィルムを用いる物品等に係る技術分野であって、特に高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することが問題となる分野であるといえるから、引用発明1とその属する技術分野が一致している。
ウ 相違点1の検討
上記イのとおり、引用発明5が属する技術分野は、トリアセチルセルロースフィルムを用いる物品等に係る技術分野であって、特に高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することが問題となる分野であるから、当業者であれば、引用発明5において、この技術分野において周知の課題である「セルロースアセテートが高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することを防止すること」(上記ア(ク))を動機付けとし、その解決手段として引用発明5と同じ技術分野に属する(上記イ)引用発明1を組み合わせる程度のことは、容易に着想し得ることである。
また、引用発明1は、上記ア(コ)で説示したとおり、その具体的な態様のいずれであっても、その課題を解決することができるものであるから、これを引用発明5と組み合わせる際に、隣接層にアミン化合物を含有させることを選択するともに、pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物としてヒンダードアミン系化合物を選択する程度のことは、当業者であれば適宜なし得ると認められる。
したがって、当業者であれば、引用発明5と引用発明1に基づき容易に本件発明1を発明することができたと認められる。
エ 阻害要因について
引用発明5に引用発明1を組み合わせる際に、「pKa(酸解離定数の負の対数)が4以上のアミン化合物」としてヒンダードアミン系化合物を選択することには阻害要因がある、等の引用発明5に引用発明1を組み合わせることを阻害するような事情は何も見いだせない。
オ 効果について
相違点1に係る構成を備えることによって本件発明1が奏する効果は、当該構成を備えなえない場合(比較例1)よりも湿熱耐久性が優れているというものに限られ、当業者に予測できない効果が奏されているとはいえない。
カ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、令和3年10月8日提出の意見書(3頁38~末行)において、概略、引用文献5の画像表示装置用飛散防止フィルムと、引用文献1のハロゲン化銀写真感光材料とは技術分野が全く異なり、また、引用文献5において、アセチルセルロースフィルムが湿熱環境下において加水分解し、劣化しやすいという問題については、何ら指摘されておらず、アセチルセルロースフィルムの劣化を防止するという課題は、当業者にとって自明な課題でもなく、容易に着想し得る課題でもないから、引用文献5に記載の発明と引用文献1に記載の発明は、課題も全く異なっており、引用文献5にはヒンダードアミン系化合物を用いることについて記載も示唆もないから、引用文献5に記載の発明に引用文献1に記載の技術的事項を適用する動機付けはない旨主張している。
(イ)しかしながら、上記イのとおり、引用発明5と引用発明1は、その属する技術分野が一致しており、上記ア(ク)のとおり、「セルロースアセテートが高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下において劣化することを防止すること」という課題は、「セルロースアセテートフィルム、またはセルロースアセテートフィルム上に隣接層を有するセルロースアセテートフィルムのフィルムを備える物や製品に係る分野」、とりわけ、高温多湿条件下で密閉保存される等の過酷な条件下にさらされることが想定される分野においては周知の課題であったと認められるものであり、上記ウで説示したとおり、当該周知の課題を解決するために引用発明5と同じ技術分野に属する引用発明1を組み合せる程度のことは、容易になし得ることであるから、主張はいずれも採用できない。
キ 小括
したがって、本件発明1は、引用例5及び引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について(特29条2項を適用する場合)
1 本願発明
令和4年6月8日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和3年10月8日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1の記載は、前記第2の[理由]1に記載のとおりである。また、以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」ともいう。
2 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、「この出願については、令和 3年 8月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」というものである。
また、令和 3年 8月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由2は、「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであって、主たる引用文献等として特開2011-209512号公報(前記第2の[理由]2(2)の引用例5に一致する。)、従たる引用文献等として特開平5-194789号公報(前記第2の[理由]2(2)の引用例1に一致する。)、及び、周知技術を示すために引用する文献として特開2010-280852号公報、特開2008-143976号公報及び国際公開第2009/082019号を引用するものである。
3 対比・判断
本願発明1は、前記第2の[理由]2で検討した本件発明1から、「前記粘着剤層が、シランカップリング剤を含有する」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件発明1が、前記第2の[理由]2に記載したとおり、引用例5及び引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、引用例5及び引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由によって拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-008820