特許拒絶査定不服審判
2022-016711
精神的側面におけるQOL改善又は維持剤
- 審判番号
- 2022-016711
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-092716
- 請求日
- 2022年10月19日
- 審決日
- 2024年03月21日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オリザ油化株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 中村 和正
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P18 .113-WZ (A23L) / P18 .121-WZ (A23L) / P18 .537-WZ (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 92716「精神的側面におけるQOL改善又は維持剤」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月21日出願公開、特開2019-198233〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年5月14日の出願であって、令和4年2月22日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月3日付けで拒絶査定がされ、同年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、当審において、令和5年12月21日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和6年1月24日に意見書及び手続補正書(以下「本件補正」という。)が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年1月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
<本願発明>
「【請求項1】
トケイソウ抽出物を有効成分とする、健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。
1.理由1(明確性)
本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.理由2(新規性)
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1又は4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
3.理由3(進歩性)
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1又は4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
引用文献1:特開2018-43970号公報
引用文献4:オリザ油化株式会社のパッションフラワーのカタログ(改訂日2017年10月10日)、2017年(https://www.oryza.co.jp/cms/wp-content/uploads/2017/10/cdcea284c996f8399f176f7817f0be23.pdfから入手可能)
第4 当審の判断
1 明確性について
請求項1には「トケイソウ抽出物を有効成分とする、健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」と記載されているが、特に、「概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く」との記載が意味する技術的内容が次のとおり不明である。
請求項1における「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善」作用とは、トケイソウ抽出物の概日リズム改善作用によりもたらされる効果の一側面であるといえ、トケイソウ抽出物がもたらす効果として、「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善」作用を「概日リズム改善作用」と切り離すことは困難である。
すると、請求項1において「概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く」とすることの技術的意義が不明であるといわざるを得ない。
さらに、本件明細書の全体の記載を参照しても、用法・用量や製剤として区別できるものともいえない。
このように、「トケイソウ抽出物を有効成分とする」剤において、「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤」と「概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤」とは「物」として、用法・用量の点を考慮してもどのような差異があり区別できるのか不明であるから、請求項1における「トケイソウ抽出物を有効成分とする、健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」との記載は、その技術的内容が不明である。
審判請求人は、令和6年1月24日の意見書において、「引用文献4には、後述するように、概日リズムが改善されると活力の低下を抑制する作用を有するが活力を改善する作用を有する旨は記載されていない。
そこで、本願請求項1に係る発明を「(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)」に修正する補正を行った。
即ち、引用文献4に記載された概日リズム改善剤のうちそれに起因する活力低下抑制剤を除くことを明確にするために上記補正を行った。これにより、上記補正により上記拒絶理由は解消したものと思料する。」と主張するが、明確性に係る当審拒絶理由は、上記のとおり、「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」が意味する技術的内容が不明というものであり、「引用文献4に記載された概日リズム改善剤のうちそれに起因する活力低下抑制剤を除くことを明確にする」ことで解消されるものではない。
よって、本願発明は依然として明確でない。
2 引用文献1又は4に基づく新規性・進歩性について
(1)引用文献1に記載された事項等
ア 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由で引用された引用文献1には、「概日リズム改善剤」に関して、おおむね次の記載がある。
・「【請求項10】
トケイソウ抽出物を有効成分とするドーパミン分泌リズム改善剤。
【請求項11】
トケイソウ抽出物を有効成分とするセロトニン分泌リズム改善剤。」
・「【0052】
試験例7.ICRマウスにおけるPFEの脳内ドーパミンとセロトニンの分泌リズム改善作用
6週齢雄ICRマウス16匹をControl投与群、PFE (100mg/kg/day)投与群に各.群8匹ずつ、無作為に振り分けた。投与期間は5日間で、毎日AM8:00~AM9:00の間に投与した。投与を開始してから5日目に実験4と同様の手法にてペンタバルビタール睡眠試験を行った。その翌日のAM8:00及びPM8:00にマウスを解剖しGlowinsky法にて脳を摘出した。得られた脳組織より視床下部と大脳を取り出し、ドーパミンとセロトニン量を、電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフィーにより定量した。それぞれのデータは視床下部もしくは大脳の組織重量(g)で補正した。その結果を図8に示す。
図8に示されるように、ドーパミンに関して、PFEはContorolと比較して視床下部及び大脳、共にAM8:00においては減少し、PM8:00においては増加していた。また、セロトニンにおいてもドーパミンと同様に結果を示した。PFEによって活動期(PM8:00)はドーパミンやセロトニンの分泌量が増加し、逆に安静期(AM8:00)では分泌量が減少することが分かった。よって、PFEによって脳内モノアミンの分泌においても肝臓や肌の線維芽細胞と同様に活動期と安静期のメリハリがより顕著になり、体内リズムの乱れに起因する種々の疾患の発症リスクを低減する作用を有することが確認された。」
・「
[図:0001410730000001.jpg]
」
イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1に記載された事項を、特に請求項10及び11に関して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
「トケイソウ抽出物を有効成分とするドーパミン分泌リズム又はセロトニン分泌リズム改善剤。」
(2)引用文献4に記載された事項等
ア 引用文献4に記載された事項
当審拒絶理由で引用された引用文献4には、「パッションフラワー」に関して、おおむね次の記載がある。
・「
[図:0001410730000002.jpg]
」(第11頁)
・「
[図:0001410730000003.jpg]
」(第12頁)
イ 引用文献4に記載された発明
引用文献4に記載された事項を整理すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明4>
「パッションフラワー抽出物 60%、澱粉分解物 38%、微粒二酸化ケイ素 2%の構成物であるパッションフラワーエキス。」
(3)本願発明と引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1を対比する。
引用発明1は、「トケイソウ抽出物を有効成分とする」「剤」であるから、本願発明における「トケイソウ抽出物を有効成分とする」「剤」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「トケイソウ抽出物を有効成分とする剤。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1>
トケイソウ抽出物を有効成分とする剤について、本願発明においては、「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)」と特定されているのに対して、引用発明1においては、そのようには特定されていない点。
相違点1について検討する。
上記1のとおり、本願発明における「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」が意味する技術的内容が不明であり、引用発明は、本願発明と同様、「トケイソウ抽出物を有効成分とする」「剤」であることから、本願発明は、引用発明1と区別できない。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は引用発明1であるか、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
審判請求人は、令和6年1月24日の意見書において、「引用文献1の図8によれば、有意差があるのは、セロトニンの大脳におけるAM8:00のみでありそれ以外には有意差がない。これにより、トケイソウ抽出物がドーパミン分泌リズム改善を有するとは判断できない。したがって、引用文献1には「トケイソウ抽出物を有効成分とするドーパミン分泌リズム改善剤」及び「トケイソウ抽出物を有効成分とするセロトニン分泌リズム改善剤」の発明が記載されているとはいえない」と主張するが、引用文献1の【0052】及び図8より、PFE投与群では、活動期(PM8:00)はドーパミンやセロトニンの分泌量が増加し、安静期(AM8:00)では分泌量が減少し、セロトニンの大脳におけるAM8:00において有意差も認められることから、引用文献1に上記引用発明1が記載されていないとはいえない。
また、審判請求人は、「これに対し、本願請求項1に係る発明は、トケイソウ抽出物が、健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善作用を有することを技術的特徴とする。
これらは、上述したように、引用文献1には記載も示唆もされていない。
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載されたものではなく、引用文献1に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。」と主張するが、上記1のとおり、「トケイソウ抽出物を有効成分とする、健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」との記載はその技術的意味が不明確であり、「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤」と「概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤」とは「物」として区別することができない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
(4)本願発明と引用発明4との対比・判断
本願発明と引用発明4を対比する。
引用発明4は、「パッションフラワー抽出物 60%、澱粉分解物 38%、微粒二酸化ケイ素 2%の構成物」であるから、本願発明における「トケイソウ抽出物を有効成分とする」「剤」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「トケイソウ抽出物を有効成分とする剤。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2>
トケイソウ抽出物を有効成分とする剤について、本願発明においては、「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)」と特定されているのに対して、引用発明4においては、そのようには特定されていない点。
相違点2について検討する。
上記1のとおり、本願発明における「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」が意味する技術的内容が不明であり、引用発明は、本願発明と同様、「トケイソウ抽出物を有効成分とする」「剤」であることから、本願発明は、引用発明4と区別できない。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は引用発明4であるか、引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
審判請求人は、令和6年1月24日の意見書において、「引用文献4の社内ボランティア16名(男性11名,女性5名)を対象に二重盲検オーバー試験における「気分」の項目は、「いつもどおり」から「非常にめいった」まで4段階であり、「活動」の評価項目は、「いつもどおり」から「非常に低下」までの4段階となっており、何れも、最も良い評価項目が「いつもどおり」となっている。これにより、引用文献4の上記試験は、活動等(これを本願発明の「活力」と解釈する。)の低下を抑制するかどうかを評価するものであって、活力を向上、改善する作用を評価する試験ではない。
これにより、引用文献4に記載されている上記試験の結果は、活力低下を抑制する作用を有することが記載されているに過ぎず、活力改善作用を有することは記載も示唆もされていないといえる。
また、概日リズム改善剤は、活力の低下を抑制するのみであり、活力を改善する作用を有することは上記引用文献4の引用発明4は示唆されていないといえる。
これに対し本願請求項1に係る発明は、トケイソウ抽出物が、健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善作用を有することを技術的特徴とする。
すなわち、本願請求項1に係る発明は、トケイソウ抽出物が概日リズム改善作用から得られなかった「活力改善作用」を有することを技術的特徴としている。
具体的には、実施例のSF-36v2(登録商標)MCSおよび下位尺度の「活力」の評価において有意に改善する作用を有することにより本発明を完成させたものである。なお、活力」の評価項目には、「元気いっぱい」等の項目があり、活力の抑制低下ではなく、改善を示す評価項目が最も良い評価項目であり、「抑制低下」ではなく「改善」とならなければ、有意に改善する結果は得られない。これらのことは引用文献4には記載も示唆もされていない。
以上により、本願請求項1に係る発明は引用文献4に記載されたものではなく、当業者が引用文献4に基づいて容易に想到できたものではない。」と主張するが、上記1のとおり、本願発明における「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善剤(概日リズム改善剤に起因する活力低下抑制剤を除く。)。」が意味する技術的内容が不明であり、本願発明は、引用発明4と区別できないものであるし、仮に、本願発明が「健常な成人男女であって生活リズムが乱れがちな者もしくは仕事や家事に従事する際に身が入らないやる気が出ない者に対する活力改善作用」という効果を有するとしても、当該効果は、トケイソウ抽出物を有効成分とする剤によってもたらされるものにすぎないし、引用文献4には、「試験の結果,サンプル摂取前後の総合スコア変化量,日中の「気分」「活動」「眠気」に関する質問のスコア変化量ともに,パッションフラワーエキス摂取後はプラセボ摂取後と比較して改善傾向が見られました」と記載され、図10及び11によると、高いスコア(例えば3)から低いスコア(例えば0)になる場合も含まれ、それは「改善」の作用効果を有するものと認められることから、本願発明の効果は、予測できない顕著なものとはいえない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるか、同法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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