2022-013996
抗がん療法の増感剤
- 審判番号
- 2022-013996
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-505267外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年09月07日
- 審決日
- 2024年01月17日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】合同会社KORTUC JAPAN
- 【請求人代理人】内山 務
- 【請求人代理人】深澤 憲広
- 分類
- P18 .113-WZ (A61K) / P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 22項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
この出願(以下「本願」という。)は、2021年(令和3年)6月14日(優先権主張 令和2年6月15日)を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。
第2 本願発明について
本願の請求項1~10に係る発明は、令和5年10月26日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである(なお、この審決において、数字などは全て全角で統一して記載する。)。
「【請求項1】(a)0.01~3.5%(w/v)の過酸化水素、及び(b)0.1~10%(w/v)のヒアルロン酸又はその塩、を含む抗がん療法の増感剤であって、腫瘍への前記増感剤の投与量が、腫瘍のサイズに応じて、(2)腫瘍塊の最大径の長さが3.0cm以上6.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、2.4mL以上6.0mL未満、続きを表示(全11行)(3)腫瘍塊の最大径の長さが6.0cm以上10.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)、及び(4)腫瘍塊の最大径の長さが10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)から選択されること、および抗がん作用に加えて、疼痛低減作用、皮膚毒性低減作用、または疼痛低減作用と皮膚毒性低減作用の両方の作用を有することを特徴とする、前記増感剤。」
第3 当審において通知した拒絶理由
令和5年7月26日付けで当審において通知した拒絶理由(理由1及び2)の概要は、次のとおりである。
1 理由1(新規性):この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(1)請求項1~10に係る発明は、引用文献11に記載された発明である。
(2)請求項1~5は、引用文献1に記載された発明である。
2 理由2(進歩性):この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(1)請求項1~10は、引用文献11に記載された発明及び引用文献11に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明である。
(2)請求項1~10は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1及び12~14に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明である。
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2008/041514号
11.Int. J. Radiation Oncol. Biol. Phys.,2020.06.22,Vol.108,No.4,pp.1019-1029
12.ONCOLOGY LETTERS,2016,Vol.12,pp.29-34
13.INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY, 2011,Vol.39,pp.553-560
14.国際公開第2006/106984号
第4 優先権主張について
1 基礎出願に記載された事項
本願は、2020年6月15日に出願された外国語書面出願である特願2020-103121号(以下「基礎出願」という。)に基づく優先権の主張を伴うものである。
そして、当該基礎出願に添付された明細書(外国語明細書。全頁に右肩上がりに大きく、“CONFIDENTIAL-DRAFT”の文言あり。)、特許請求の範囲及び図面には、腫瘍の大きさ及び抗がん療法の増感剤の投与量に関して、以下の事項が記載されている(原文は英文なので、訳文を示す。)。
(1)3/12頁最終段落~4/12頁第1段落
「製剤処方徐放性0.5%H2O2溶液(ブランド名KORTUC:Kochi Oxydol-Radiation Therapy for Unresectable Carcinomas)は、0.4mlの3%H2O2(Stockport Pharmaceuticals(英国)から供給された2.0 mlの滅菌アンプル)と2.0mlのOSTENIL(登録商標)(AAH Pharmaceuticals(UK)から提供された2.0mLプレロードシリンジ中に20mgヒアルロン酸ナトリウム)を混合することによって作成され、後者は関節炎の関節内注射のために認可されている(REFが必要)。低分子量の過酸化水素(34g/mol)がゲル中における薬物の迅速な平衡を保証する。KORTUCは無色の粘性溶液(pH 6.8-7.8)であり、室温で保存され、調製後2時間安定であった(Stockport Pharmaceuticalsによって行われた安定性試験)。注射に際して酸素のマイクロバブルが生成されることから示されるように、ゲルは、少なくとも24時間にわたりH2O2の緩やかな放出を可能にするものであり、このような特徴は、RT(当審注:放射線療法)中に週2回投与とすることの強力な根拠である(17)。この試験では、薬剤とゲルは、2ウェイタップを介して接続された2本のシリンジを使用して無菌条件下で混合した。混合すると、各シリンジは、0.5%のH2O2を2.4ml含んでおり、2本のシリンジの内容量は、通常、直径30~60mmと測定される腫瘍に必要な量である。」
(2)第4/12頁最終段落~5/12頁1段落
「ヒアルロン酸ナトリウムゲル中のH2O2の腫瘍内注射経皮腫瘍内KORTUC注射を、RTの2週目に開始して、週2回投与した。各患者は合計4から6回(中央値=5回)の注射を受け、回数がより少ない被検体は、6回の分割照射が施された。2週目にKORTUCを開始した理由は、1週目のRTで腫瘍間質圧を下げることができるようにし、それにより技術的により簡単でかつ被検体にとって許容性の高い注射を行うことができるようにするためであった。注射は、0.5%のリグノカインを注射して皮膚を麻酔した後、訓練を受けた放射線科医又は放射線技師が超音波(US)ガイド下で行った(23ゲージ針)。サイズが30~60mmの腫瘍の場合、ヒアルロン酸ナトリウムゲル中で0.5%H2O2の4.8mlを各時点で注射した。大きさが>60mmの腫瘍には3本のシリンジ(7.2ml)が必要であった。H2O2がゲル中で酸素と水に分解することによる酸素マイクロバブルの迅速な出現によって、2~3つの異なる角度の針跡を介したUSガイド下での均一で正確な送達が補助される(図2Aを参照)。針の引き抜き時にゲルが皮膚表面に戻ってきた場合は、速やかに滅菌ガーゼで拭き取った。乳房/腋窩に1つ以上の明確な腫瘍が被検体にあった場合、反応の評価を助けるために、注射が行われた病変(通常は最大のもの)を明確に文書化するよう臨床医/放射線科医に要請した。RTはH2O2注射後1~2時間以内に行われた。USによる腫瘍の反応は、RT後3、6、12ヶ月目に評価した。」
(3)5/12頁最終段落~6/12頁10行
「セカンダリエンドポイント・・・腫瘍反応は、USスキャンによってRT後3、6、9および12ヶ月に評価した。腫瘍体積は各時点で計算され、治療前の測定値と比較した。完全寛解(CR)は標的病変の消失と定義した。」
(4)7/12頁下から11行~8/12頁3行
「セカンダリエンドポイント・・・腫瘍反応図2B(i)と補足表2は、治療後の連続した時点でのUS測定に基づく腫瘍反応の詳細を示している。最後の画像評価では、図2B(ii)に示すように、腫瘍体積減少率は50と100%の間であった。この研究で評価された全ての被検体は、最終臨床フォローアップ時(中央値10ヶ月、2から24ヶ月にわたる)に照射標的病変における局所領域制御を維持していた。」
(5)12/12頁表S2
「[図:0001408429000001.jpg]表S2 治療後3~12ヶ月の腫瘍の大きさ(最終評価)と臨床反応評価 PR:部分寛解;CR:完全寛解*進行状態を示している非注射部位の更に2つの乳がん腫瘍と比較して、KORTUCを注射された腫瘍は部分寛解を示した。§乳房外では進行状態であるにもかかわらず、PETスキャン(治療後3ヶ月)では患者の乳房腫瘍は代謝的完全寛解を示した。¶腫瘍寸法は治療後12ヶ月(対6ヶ月)で増加した。USスキャンによって繊維化によるものであることが示された。¥サイズが大きいためCTで測定した肉腫性乳房腫瘍。ベースラインスキャンとRT開始の間に急速に増殖したが、RT後に増殖と潰瘍化は安定した。治療後6週間で患者は死亡。」
2 優先権主張の効果について
(1)上記1の記載によれば、基礎出願には、抗がん療法の増感剤(以下「増感剤」という。)の投与量について、0.4mlの3%H2O2と2.0mlの1%(=20mg/2.0ml)ヒアルロン酸ナトリウムを含む製剤(OSTENIL)とを混合した、H2O2を0.5%含む製剤(KORTUC)を、サイズが直径30mm~60mmの腫瘍には4.8mlを、大きさが60mmを超える腫瘍には7.2ml注射したことが開示されている。
一方、基礎出願には、本願発明の「(a)0.01~3.5%(w/v)の過酸化水素、及び(b)0.1~10%(w/v)のヒアルロン酸又はその塩、を含む抗がん療法の増感剤」「の投与量が、腫瘍のサイズに応じて、
(2)腫瘍塊の最大径の長さが3.0cm以上6.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、2.4mL以上6.0mL未満、
(3)腫瘍塊の最大径の長さが6.0cm以上10cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)、
及び
(4)腫瘍塊の最大径の長さが10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)
から選択されること」については開示されていない。
そして、特に、基礎出願の「サイズが直径30~60mmの腫瘍の場合、0.5%H2O2を含むヒアルロン酸ナトリウムゲルを4.8mL注射し、大きさが60mmを超える腫瘍には7.2mL注射」するという記載から、本願発明の上記(2)~(4)の投与量が設定されることは自明の事項でもない。
そうすると、本願発明は、基礎出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではないから、本願発明は、基礎出願に基づく優先権主張の効果を享受することはできない。
3 請求人の主張について
(1)請求人の主張の概要
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人は令和5年10月26日提出の意見書において、次のとおり主張する。
基礎出願の明細書では、もともと6cm以上のサイズの腫瘍に対する増感剤の投与量を設定するという発明が明確に記載されており、実際の患者リクルートの結果(表S2)は、6cm以上の腫瘍を、10cmを境界にさらに2つの区分に分けることが、当業者の一般的な認識から妥当と考えられるものであることから、本願発明の増感剤の投与量について、腫瘍のサイズに応じて、(2)~(4)に区別されることについて、基礎出願において実質的に開示されていたものであり、本願発明の新規性・進歩性に関する判断の基準日は、優先日であるべきである。
(2)請求人の主張についての判断
折りたたみ中(クリックで表示)
しかしながら、請求人の上記主張は、本願発明のとおり増感剤の投与量を(2)~(4)の3段階に分けることが、表S2に示された結果からみて妥当と考えられることを示すのみあって、表S2は、患者ごとの腫瘍サイズの推移を示すものにすぎないから、上記の3段階に分けるという具体的な技術思想が、基礎出願の明細書及び図面に記載されていた、又は、記載されていたに等しい自明な事項であることを示すものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
4 小括
以上のとおり、本願発明は、基礎出願に基づく優先権主張の効果を享受することはできないから、本願発明の新規性及び進歩性に関する判断の基準日は、国際出願日である2021年6月14日と認める。
第5 引用文献等の記載事項及び引用発明
折りたたみ中(クリックで表示)
1 引用文献11に記載された事項及び引用発明11について
上記第4のとおり、本願発明の新規性・進歩性に関する判断の基準日は2021年6月14日であるから、引用文献11(公開日:2020年6月22日)は、本願出願前に公開された文献である。
(1)引用文献11に記載された事項について
引用文献11には、次の記載がある。原文は英文なので当審による和訳を示す(下線は当審による。)。
ア タイトル
「局所進行性乳がんにおける放射線療法と組み合わせた腫瘍内過酸化水素:第1相臨床試験からの結果」
イ 要約
「目的:過酸化水素(H2O2)は正常な細胞プロセスにおいて重要な役割を果たすが、生理学的濃度を超えると酸化ストレスと細胞毒性を引き起こし、この性質は放射線療法(RT)と組み合わせた癌の治療に利用できる可能性がある。我々は、乳がん患者における新規併用療法としての腫瘍内H2O2+外部光線放射線療法の安全性と忍容性を試験した最初の第1相試験と、考えられる作用機序を調査する探索的血漿マーカー分析について報告する。方法と材料:3cm以上の乳房腫瘍(外科的又は医学的に手術不能)患者12名は、単一施設における非ランダム化研究において、乳房全体±局所領域リンパ節に対して、週2回、6回に分けて36Gy(n=6)又は毎日、18回に分けて49.5Gy(n=6)の照射とともに、腫瘍内へのH2O2を受けた。薬剤の放出を遅らせ、局所的な不快感を最小限に抑えるために、投与前にH2O2は1%ヒアルロン酸ナトリウムゲル中に混合された(最終H2O2濃度は0.5%)。混合物は、週に2回、放射線療法の1時間前に、超音波ガイド下で腫瘍内に注射された。主要評価項目は、注射前及び注射後24時間で患者が報告した最大腫瘍内疼痛強度であった。副次評価項目は、グレード3以上の皮膚毒性と超音波による腫瘍反応が含まれる。細胞死及び免疫マーカー分析のために、治療前、治療中、治療終了時に血液サンプルを採取した。結果:H2O2と放射線療法の遵守率は100%であった。12人の患者のうち5人が、注射後に中等度の痛み (有害事象に関する共通用語基準v4.02に基づくグレード2)を報告し、持続時間の中央値は60分(四分位範囲、20~120分)であった。皮膚毒性は放射線療法単独と同等であり、最終追跡調査時(中央値12ヶ月)では患者12人中11人でベースラインと比較して部分的/完全な腫瘍反応が維持されていた。血液マーカー分析により、TRAIL、IL-1b、IL-4、及びMIP-1aと腫瘍反応との有意な関連が明らかになった。結論:放射線療法を併用した腫瘍内H2O2は、放射線療法単独と比較して追加の毒性がなく、良好な忍容性を示す。ランダム化第2相試験で有効性が確認されれば、このアプローチは、放射線療法単独では局所領域制御が不十分な多種のがんにおいて、費用対効果の高い放射線応答増強剤となる可能性を有する。」
ウ 第1021頁左欄第2段落1行~右欄第1段落1行
「製剤処方徐放性0.5%H2O2溶液は、0.4mLの3%H2O2(Stockport Pharmaceuticals(英国)から供給された2.0mlの滅菌アンプル)と2.0mLのOSTENIL(AAH Pharmaceuticals(UK)から提供された2.0mLプレロードシリンジ中に20mgヒアルロン酸ナトリウム)を混合することによって作成され、後者は関節炎の関節内注射のために認可されている。低分子量の過酸化水素(34g/mol)がゲル中における薬物の迅速な平衡を保証する。」
エ 第1021頁右欄第2段落~第1022頁左欄第1段落
「放射線治療6人の患者は、49.5Gyを18回に分けて、2.75Gyを毎日、6人は36Gyを6回に分けて、6Gyを週2回、乳房局所領域リンパ節全体に照射を受けた。」
オ 第1022頁左欄第3段落~第1022頁右欄第1段落
「ヒアルロン酸ナトリウムゲル中のH2O2の腫瘍内注入経皮腫瘍内KORTUC注射を、RTの第2暦週から開始して週に2回投与した。各患者は合計4から6回(中央値=5回)の注射を受け、回数がより少ない被検体は、6回の分割照射が施された。・・・サイズが30から60mmの腫瘍の場合、ヒアルロン酸ナトリウムゲル中の0.5%H2O2がシリンジ2本 (4.8mL)各時点で注射された。サイズが60mmを超える腫瘍には シリンジ3本 (7.2mL) が必要であった。」
カ 第1024頁右欄最終段落~第1025頁左欄第1段落(第1024頁右欄下から4、3行目、第1025頁左欄13、14行目)
「結果患者の特徴・・・乳がんのサイズは(最大寸法)30mmから164mmであった。」
キ 第1025頁左欄第2段落~右欄第1段落(第1025頁左欄下から3行目、1行目~右欄3行目)
「治療プロトコルの遵守とフォローアップ・・・間違ってH2O2の注入前に1回放射線療法を行った1例を除き、全ての患者は、処方されたH2O2注射後1~2時間以内に放射線療法を受けた。」
ク 第1026頁左欄第1段落
「セカンダリエンドポイント皮膚毒性と腫瘍溶解報告された最も高いグレードの皮膚毒性は、12人の患者のうちの5人がグレード3、12人の患者のうちの4人がグレード2、12人の患者のうちの1人がグレード1、12人の患者のうちの2人がグレード0であった(表2と図E1[iv])。・・・治験において確認された急性放射線皮膚毒性は、皮膚上にがんが浸潤している被検体を含め、標準的な放射線療法単独から予測されるものと同程度であった。」
ケ 第1026頁表2
「[図:0001408429000002.jpg]」
コ 第1023頁図2B
「[図:0001408429000003.jpg]」
(2)引用発明11について
上記(1)の記載によれば、引用文献11には、0.5%の過酸化水素(H2O2)及びヒアルロン酸ナトリウムを含む溶液が記載され(上記(1)ウ)、当該溶液におけるヒアルロン酸ナトリウムの含有量は、計算すると約0.83%となる。
具体的には、0.4mLの3%H2O2と2.0mLのOSTENIL (ヒアルロン酸ナトリウムを20mg含有)を混合しているので、2.4mL中にヒアルロン酸ナトリウムを20mg含み、20/2.4≒8.3(mg/mL)であり、質量対容積百分率(g/100mL)に換算すると、約0.83%となる。
また、上記溶液は、放射線応答増強剤として用いられるものであるといえる(上記(1)イ)。
さらに、腫瘍への上記溶液の投与量は、30~60mmのサイズの腫瘍に対しては4.8mL、60mmを超えるサイズの腫瘍に対しては7.2mLである(上記(1)オ)。
そして、「乳がんのサイズ(最大寸法)」(上記(1)カ)との記載から、引用文献11における腫瘍のサイズは、腫瘍の最大寸法の長さで表記されていると解される。
そうすると、引用文献11には、次の発明が記載されていると認められる。
「0.5%の過酸化水素、及び、約0.83%のヒアルロン酸ナトリウムを含む放射線応答増強剤であって、腫瘍への前記放射線応答増強剤の投与量は、腫瘍の最大寸法で表されるサイズについて、・30~60mmのサイズの腫瘍に対しては4.8mL、・60mmを超えるサイズの腫瘍に対しては7.2mLである、前記放射線応答増強剤。」(以下「引用発明11」という。)
2 引用文献1に記載された事項及び引用発明1について
(1)引用文献1に記載された事項について
引用文献1には、次の記載がある(下線は当審による。)。
ア 特許請求の範囲(請求項1、4~6及び21)
「[1](a)過酸化水素、および(b)ヒアルロン酸またはその塩を組み合わせてなる放射線または抗がん化学療法増感剤。・・・[4]注入剤の形態を有するか、または注入剤として用いられる、請求項1に記載の放射線または抗がん化学療法増感剤。[5]最終製剤中の過酸化水素の含有量が0.01~3.5重量%である、請求項1に記載する放射線または抗がん化学療法増感剤。[6]最終製剤中のヒアルロン酸またはその塩の含有量が0.1~10重量%である、請求項1に記載する放射線または抗がん化学療法増感剤。・・・[21](a)過酸化水素に、(b)ヒアルロン酸またはその塩を組み合わせることを特徴とする、放射線または抗がん化学療法増感剤の腫瘍患部に対する疼痛の緩和方法。」
イ 段落[0009]
「[0009]上記課題を解決するために鋭意検討を行っていたところ、過酸化水素にヒアルロン酸またはその塩を併用することで過酸化水素の皮膚への刺激性のみならず、粘膜や組織に対する刺激性をも軽減することができることを見出し、さらに過酸化水素にヒアルロン酸またはその塩を併用することにより、過酸化水素の不安定で酸素を放出しやすい性質が抑えられ、さらに体内に注入した場合でも抗酸化酵素の働きによる急速な分解が有意に抑制されて、より安全にしかも効果的に放射線増感効果および抗がん化学療法増感効果が発揮できることを見出した。」
ウ 段落[0071]
「[0071]また、本発明の増感剤が液状またはゲル状の注入剤である場合、放射線照射時に放射線照射する腫瘍患部に、注射器などを用いてそのまま注入するか、または血管造影のカテーテルを介して注入する方法を挙げることができる。またこの場合、抗がん剤投与時(前後または同時)に、対象とする腫瘍患部に、注射器などを用いてそのまま注入するか、または血管造影のカテーテルを介して注入することもできる。注入は、具体的には超音波検査でのガイド下にて増感剤の組織への浸透状況を確認しながら、注射器などで21ゲージ程度の注射針を用いて行なうことが好ましい。この場合、超音波ガイドで注入針の深さや方向を変えることにより、増感剤を組織に広くいきわたらすことができる。なお、増感剤の腫瘍患部への投与量は、対象とする腫瘍の大きさや投与方法によって異なるが、例えば腫瘍患部に注入する場合は、通常1回投与量(注入量)として約1~5ml程度、好ましくは3ml程度を挙げることができる。」
エ 段落[0076]
「[0076]本発明の放射線増感剤を用いた放射線治療は、本発明の放射線増感剤を放射線照射する腫瘍患部に適用した後、当該患部に、好ましくはリニア・アクセラレータを用いてエックス線照射もしくは電子線照射を行うことによって実施することができる。ここでエックス線照射の条件は、腫瘍の進行度や大きさなどによって異なるが、通常1回線量1.5~3Gy,好ましくは2Gy程度の照射を、週に2~5回、好ましくは週4~5回 程度、1~5週間にわたって行う方法を挙げることができる。総線量としては20~70Gy,好ましくは40~70Gy程度、より好ましくは50~60Gy程度を挙げることができる。また電子線照射の条件は、やはり腫瘍の進行度や大きさなどによって異なるが、通常1回線量2~5Gy、好ましくは4Gy程度の照射を、週1~5回、好ましくは週2~3回程度、1~5週間にわたって行う方法を挙げることができる。総線量としては30~70Gy、好ましくは40~60Gy程度を挙げることができる。」
オ 段落[0080]
「[0080]処方例1ヒアルロン酸ナトリウム濃度1%のヒアルロン酸製剤(商品名「アルツ ディスポ」、生化学工業(株)製)〔1シリンジ(2.5ml)中にヒアルロン酸ナトリウム25mg含有。その他、L-メチオニン2.5mg、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、結晶リン酸二水素ナトリウム、等張化剤を含む。無色透明の粘ちょう水性液、pH6.8~7.8、浸透圧比1.0~1.2(生理食塩水に対する比)、重量平均分子量60万~120万〕1シリンジ中(2.5ml)に、使用直前に、約3%の過酸化水素水を0.5ml添加してよく混和して、本発明の放射線増感剤または抗がん化学療法増感剤を作成した。これらの増感剤のヒアルロン酸ナトリウムの濃度は0.83%、過酸化水素の濃度は約0.5%となる。以下の実施例では、当該製剤を使用した。」
カ 段落[0091]~[0092」
「[0091]実施例2手術不能の再発の悪性線維性組織球腫(右大腿部皮下の3cm大の腫瘍)の症例に対して、処方例1の方法に従って調製した放射線増感剤を用いて、リニアー・アクセラレータによる電子線照射を行った(増感放射線療法)。並行してパワードプラ超音波を用いて腫瘍内の血流信号を測定し、放射線治療効果を評価した。結果を図2に示す。[0092]上記悪性線維性組織球腫に対して、1回線量4Gyによる放射線照射を、週3回 2週間にわたって(計6回、総線量24Gy)行った時点では、腫瘍内に豊富な血流信号が観察され、放射線治療効果は乏しいことがわかった(図A:Recurrent MFH 24Gy)。そこで、腫瘍内に放射線増感剤を3ml注入し、放射線照射を行った。腫瘍内に放射線増感剤を注入して放射線照射を継続したところ、総線量36Gyの時点で腫瘍内の血流信号はかなり減少していることが認められた(図B:36Gy)。そこで、さらに腫瘍内に放射線増感剤を注入(3ml)して放射線照射を行ったところ、48Gyの放射線治療終了時には腫瘍内の血流はさらに減少した(図C:48Gy)。48Gyの放射線治療終了1週間後には腫瘍内の血流信号はほとんどみられず(図D:1week after 48Gy)、 本発明による増感放射線療法によって腫瘍は壊死におちいったことがわかる。」
(2)引用発明1について
上記(1)の記載によれば、引用文献1には「(a)過酸化水素、および(b)ヒアルロン酸またはその塩を組み合わせてなる放射線または抗がん化学療法増感剤。」(上記(1)ア)が記載され、実施例2においては、2.5ml中にヒアルロン酸ナトリウムを25mg含有するヒアルロン酸製剤と約3%の過酸化水素水を0.5ml混和して製造したものであり、「質量対容積百分率(%(w/v)」として計算すると、0.83%(w/v)(=25mg/3.0ml)となる「ヒアルロン酸ナトリウムの濃度は0.83%、過酸化水素の濃度は約0.5%」の放射線増感剤を、3cm大の腫瘍に3ml注入し放射線照射をしたところ、腫瘍は壊死したことが記載されている(上記(1)オ及びカ)。
そうすると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「約0.5%の過酸化水素、0.83%のヒアルロン酸ナトリウムを含む放射線増感剤であって、3cm大の腫瘍に前記増感剤を3ml注入する、増感剤。」(以下「引用発明1」という。)
3 引用文献12に記載された事項について
(1)引用文献12には、次の記載がある。原文は英文なので当審による和訳を示す。
ア 第30頁右欄第10行目~22行目
「3~6mlのKORTUC II(0.83%w/vヒアルロン酸ナトリウムと0.5%w/v過酸化水素溶液からなる)の注射を6回目の放射線照射時に開始し、週2回(月曜日と木曜日)実施した。・・・放射線増感剤の注入量は腫瘍の大きさに応じて調整し、総注入数は5~6回であった。KORTUC IIの患者データと治療効果を表1に示す。」
イ 第31頁表1
「[図:0001408429000004.jpg]」
(2)上記(1)の記載から、引用文献12には、7.0~54.0mmのサイズの腫瘍に対し、0.83%w/vヒアルロン酸ナトリウムと0.5%w/vの過酸化水素溶液からなる放射線増感剤を、腫瘍の大きさに応じて3~6ml注射したことが記載されている。
(3)上記(1)アの記載によれば、放射線増感剤の注入量を腫瘍の大きさに応じて調整することは、本願出願日当時における技術常識であったといえる。
4 引用文献13に記載された事項について
(1)引用文献13には、次の記載がある。原文は英文なので当審による和訳を示す(下線は当審による。)。
ア 第554頁右欄第6段落
「放射線増感剤の腫瘍内注射この薬剤は、注射に安全な0.5%過酸化水素と0.83%ヒアルロン酸ナトリウムで構成されており、局所組織の刺激を回避しながら、腫瘍内注射後24時間以上腫瘍組織内の酸素濃度を効果的に維持する(10)。生存がん細胞が微小血管に移動するのを避けるために、放射線療法の2週目に薬剤の注射を開始した。放射線療法を実施するそれぞれ直前に、超音波ガイド下で週に2回、最大6mlを腫瘍組織内に注射した。」
イ 第556頁右欄第2段落~第557頁左欄第1段落
「症例2.KORTUC IIで治療を受けた腎細胞癌の右腋窩転移のある70歳の男性(図4)。治療前、右腋窩部に長径10cmを超える巨大な転移リンパ節が認められた(A)。KORTUC II治療から6か月後、腫瘍が完全に消失し、cCR(臨床完全奏効)と評価された(D)。」
ウ 第557頁左欄第3段落
「症例4.局所進行顔面皮膚がん(SCC)を患っている74歳の男性(図6)のKORTUC II前(A)とKORTUC II 1か月後(B)。当初直径10cm以上あった巨大腫瘍は治療前のサイズに比べて90%以上の顕著な縮小を示し、cPRと評価された。」
(2)引用文献13の記載事項について
上記(1)の記載から、引用文献13には、0.5%の過酸化水素と0.83%のヒアルロン酸ナトリウムからなる放射線増感剤を、腫瘍組織に最大6ml注射し、症例には、当初直径10cm以上あった巨大腫瘍が含まれていたことが記載されている。
5 引用文献14に記載された事項について
(1)引用文献14には、次の記載がある(下線は当審による。)。
「[0015]式(1)の化合物の投与と放射線治療とを併用すれば、放射線治療単独の場合に比べて放射線による癌治療効果が顕著に増強される。従って、式(1)の化合物は、放射線治療増強剤として有用である。また、放射線治療効果が増強される結果、より少ない放射線量で十分な癌治療効果が得られるので、式(1)の化合物は癌治療における放射線量低減剤としても作用する。さらに、従来は、高用量の放射線治療を継続すると、血液毒性、消化器毒性、食欲不振、倦怠感、体重減少等の副作用が生じるため長期治療ができないケースがあるが、式(1)の化合物と放射線療法とを併用すれば、放射線量が低減でき、副作用も軽減できるため、より長期の放射線治療が可能となり、結果として癌治療効果が向上する。また、放射線治療を施した場合、放射線を照射した部位の皮膚が強い皮膚炎を呈し、発赤、乾燥、皮膚剥離、水疱、びらん等の皮膚障害を生じ、後に色素沈着や関節の拘縮・手足のむくみ等がおこることがあるが、式(1)の化合物を併用することにより、放射線による皮膚の副作用を予防又は軽減することが可能となる。従って、式(1)の化合物は、放射線による副作用予防又は軽減剤、特に、放射線による皮膚の副作用予防又は軽減剤としても有用である。」
(2)上記(1)の記載によれば、放射線治療増強剤との併用によって放射線治療効果を増強できれば、より少ない放射線で十分な癌治療効果を得ることができ、それによって癌治療における放射線量を低減できることで、放射線によって生じる皮膚炎等の副作用を予防又は軽減しうることは、本願出願日当時における技術常識であったといえる。
6 文献Aに記載された事項について
(1)文献Aには、次の記載がある(下線は当審による。)。
ア 小川先生のコメント(2つ目)
「コータックとは「Kochi Oxydol-Radiation Therapy for Unresectable Carcinomas:高知大学発のオキシドールによる増感作用を利用した切除不能ながんに対する放射線治療法」の略で、さまざまな固形がん(血液のがん以外の乳がんや肺がん、大腸がんなど、臓器やさまざまな組織などで塊をつくるがんのこと)に効果を発揮する「増感放射線療法」です。がん細胞は、正常細胞と違いあまり酸素を必要とせずに増殖することなどから、がん組織とその周囲は低酸素状態になることが知られています。また、放射線からがんを守る働きをする抗酸化酵素(ペルオキシダーゼ)が増加します。この低酸素状態と酵素の働きにより、放射線治療の効果は3分の1程度まで低下してしまいます。そこで私は抗酸化酵素の働きを抑え、腫瘍組織の低酸素状態を改善する方法を模索し続け、消毒液として使われるオキシドールが抗酸化酵素を失活させることを発見したのです。さらに、その効果を持続させると同時に、オキシドールの注射の痛みを和らげるにはヒアルロン酸を混ぜると効果的であることも、研究の過程でわかりました。この増感剤「オキシドール+ヒアルロン酸」を腫瘍に注射すると、抗酸化酵素を分解し酸素が発生するため、放射線治療の本来の力を発揮することができるのです。この放射線増感剤と、それを併用した放射線治療のことを「KORTUC(コータック)」と呼んでいます。」
イ 小川先生のコメント(3つ目)
「コータックによる治療の症例は、私自身が行ったものと、柏原先生の東京放射線クリニックをはじめ全国の医療機関で行われたものを含め、これまでに1,000例を超えています。中にはリンパ節転移した局所進行乳がんや、直径15センチに達した乳がんの症例、骨に転移した末期の巨大な大腸がんを治療した例もあり、特に大きい腫瘍や放射線治療抵抗性(放射線治療が効きにくい)のがんに効果が期待できます。」
ウ 柏原先生のコメント(2つ目)
「私のクリニックでは主に高精度放射線治療を行っていますが、放射線治療のみでは難しい大きながんに対しては、増感剤を併用するコータックも選択肢としてご提案しています。コータックはまだ公的保険の適用になっていない治療ですが、当クリニックでもこれまでに100例以上の方に治療を実施しています。小川先生のお話にもありましたが、大きながんや放射線が効きにくいがんに対して効果が期待でき、当クリニックでは特に乳がんの方に対して治療を行うケースが多いです。コータック治療では、通常の放射線治療(照射)前に増感剤を注射し、放射線の感受性を高めた後で照射を行います。放射線治療は通院で毎日照射を行いますが、コータックは毎回注射するわけではなく、治療経過に合わせて数回注射する場合が多いです。注射の本数や量などは、がんの大きさや治療経過により異なります。」
(2)上記(1)の記載によれば、オキシドール(過酸化水素)を含む放射線増感剤を腫瘍に注射する量が、腫瘍の大きさによって異なること(上記(1)ウ)、及び、直径15センチ程度の大きな腫瘍に対しても当該放射線増感剤を適用すること(上記(1)イ)は、本願出願日当時における技術常識であったといえる。
第6 当審の判断
1 引用文献11に基づく新規性・進歩性の判断
(1)対比
本願発明と引用発明11との対比を行う。
引用発明11の「放射線応答増強剤」、「ヒアルロン酸ナトリウム」、「腫瘍の最大寸法で表されるサイズ」は、本願発明の「抗がん療法の増感剤」、「ヒアルロン酸又はその塩」、「腫瘍塊の最大径の長さ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明11の「%」は、ヒアルロン酸ナトリウムの含有量が質量対容積百分率(上記第5の1(2))で表されていることから、過酸化水素の含有量についても質量対容積百分率で表されているものと解されるところ、本願発明の「%(w/v)」も質量対容積百分率を意味するものであるから、引用発明11の「%」は本願発明の「%(w/v)」に相当する。
したがって、引用発明11の「0.5%の過酸化水素、0.83%のヒアルロン酸ナトリウムを含む」は、本願発明の「0.01~3.5%(w/v)の過酸化水素、及び(b)0.1~10%(w/v)のヒアルロン酸又はその塩、を含む」に相当する。
そして、本願発明と引用発明11とは、増感剤の投与量が、腫瘍塊の最大径の長さで特定される腫瘍のサイズに応じて選択される点において、共通する。
そうすると、本願発明と引用発明11とは以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<一致点>
「(a)0.01~3.5%(w/v)の過酸化水素、及び(b)0.1~10%(w/v)のヒアルロン酸又はその塩、を含む抗がん療法の増感剤であって、腫瘍への前記増感剤の投与量が、腫瘍のサイズに応じて、選択される、前記増感剤。」
<相違点ア>
腫瘍のサイズに応じた腫瘍への増感剤の投与量について、本願発明は、
「(2)腫瘍塊の最大径の長さが3.0cm以上6.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、2.4mL以上6.0mL未満、(3)腫瘍塊の最大径の長さが6.0cm以上10cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)、及び(4)腫瘍塊の最大径の長さが10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)」と特定するのに対し、
引用発明11は、
「・30~60mmのサイズの腫瘍に対しては4.8mL、・60mmを超えるサイズの腫瘍に対しては7.2mL」と特定する点。
<相違点イ>
本願発明は、「抗がん作用に加えて、疼痛低減作用、皮膚毒性低減作用、または疼痛低減作用と皮膚毒性低減作用の両方の作用を有する」と特定するのに対し、引用発明11は、対応する作用について特定していない点。
(2)判断
ア 相違点アについて
(ア)引用発明11における「30~60mmのサイズの腫瘍に対しては4.8mL」は、本願発明の「(2)3.0cm以上6.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、2.4mL以上6.0mL未満」(当審注:「腫瘍塊の最大径の長さが」を省略して記載することがある。以下同様。)に相当する。
(イ)引用発明11の「60mmを超えるサイズの腫瘍に対しては7.2mL」は、上記第5の1(1)カのとおり、具体的には、60mmを超え164mmのサイズの腫瘍に対して7.2mLを投与したことを意味する。
本願発明は、「(3)6.0cm以上10.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)」及び「(4)10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6mL以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)」と2段階に分けているものの、(3)と(4)のいずれのサイズ(6.0cm以上10.0cm未満、及び、10.0cm以上)の腫瘍にも、「3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)」を共通して投与する態様を包含するものである。
そうすると、引用発明11において、具体的に、60mmを超え164mmのサイズの腫瘍に対して7.2mLを投与したことは、本願発明の6.0cm以上10.0cm未満及び10.0cm以上のサイズの腫瘍に対して「3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)」を投与すること、すなわち、本願発明の(3)及び(4)に、実質的に相当するといえる。
(ウ)したがって、相違点アは、実質的な相違点ではない。
(エ)仮に、引用発明11の「60mmを超えるサイズの腫瘍に対しては7.2mL」が、100mm(10.0cm)を境界としておらず、本願発明の(3)及び(4)のように分けるものではないことから、相違点アが実質的な相違点であるとした場合について、検討する。
本願出願日当時、過酸化水素を含む放射線増感剤を腫瘍に注射する量が、腫瘍の大きさによって異なることは、技術常識となっていたのであるから(上記第5の4(3)及び6(2))、引用文献11に記載された164mmのように10cmを超える非常に大きいサイズの腫瘍については、1本あたり2.4mLのシリンジで(上記第5の1(1)オに記載(シリンジ2本で4.8mLなので、1本は2.4mLである。))、7.2mL(3本分)よりも多い9.6mL(4本分)程度を投与することは、当業者が適宜なし得た事項であるといえる。
そうすると、引用発明11において、30~60mmのサイズの腫瘍には4.8mL、60mmを超えるサイズの腫瘍には7.2mLを投与し、特に、164mmのように10cmを超える大きなサイズの腫瘍については9.6mL程度を投与することとし、相違点アに係る本願発明の(2)~(4)の3段階の投与量を設定することは、当業者が容易に想到することができたことである。
イ 相違点イについて
(ア)本願発明の「抗がん作用に加えて、疼痛低減作用、皮膚毒性低減作用、または疼痛低減作用と皮膚毒性低減作用の両方の作用を有する」ことについて、本願明細書【0054】には、次の事項が記載されている。
(i)本発明の増感剤は、もともと抗がん療法の抗がん作用を増強させるために開発されたものであり、抗がん作用を有することは知られていたこと、
(ii)本発明の増感剤は、腫瘍細胞塊のサイズを大きく減少させるため、結果として腫瘍細胞塊により発生する疼痛を低減する作用が得られること、
(iii)本発明の増感剤を使用することにより、放射線線量を低減することができ、放射線照射により発生する皮膚毒性を低減する作用が得られること
上記(i)~(iii)の作用は、本願発明に特有の作用ではなく放射線増感剤が一般に有する作用を説明するものと解される。
そして、放射線応答増強剤との併用によって放射線治療効果を増強できれば、より少ない放射線で十分な癌治療効果を得ることができ、それによって、癌治療における放射線量を低減でき、放射線によって生じる皮膚炎等の副作用を予防又は軽減しうることは、本願出願日当時の技術常識となっていた(上記第5の5(2))。
そうすると、引用発明11の放射線応答増強剤は、より少ない放射線で十分な癌治療効果を得ることができ(「抗がん作用」に相当する。)、放射線によって生じる皮膚炎等の副作用を予防又は軽減し得る(「皮膚毒性低減作用」に相当する。)ものであり、相違点イに係る本願発明の構成を有することは、当業者において自明な事項であるといえる。
したがって、相違点イは、実質的な相違点とはいえない。
(イ)仮に、相違点イが、実質的な相違点であるとしても、引用発明11の放射線応答増強剤が、その放射線応答増強剤としての性質を発揮することにより、抗がん作用及び皮膚毒性低減作用を有し、加えて、腫瘍を小さくすることにより腫瘍により発生する疼痛を低減する作用を有し、相違点イに係る本願発明の構成を有することは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。
ウ 本願発明の効果について
(ア)本願明細書の実施例においては、0.4mlの3%H2O2と2.0mlのOSTENIL(ヒアルロン酸ナトリウムを20mg含有)を混合することによって得られた、0.5%のH2O2を含有する2.4mlのシリンジを用意し、13人の局所進行又は再発乳がんの被検体(表1)に対し、サイズが直径30から60mmの腫瘍の場合、2本のシリンジ(4.8ml)を注射し、大きさが60mmを超える腫瘍には3本のシリンジ(7.2ml)が必要であり、H2O2注射後1-2時間以内に放射線(RT)を照射した臨床試験の手法、各H2O2注射の前と24時間後の疼痛スコアとRT急性皮膚毒性スコアの結果(表2)、及び、治療後3,6,9,12ヶ月目の腫瘍の反応の結果(表5)が記載されている。
(イ)上記の実施例においては、サイズが直径30から60mmの腫瘍の場合は4.8ml(本願発明の「(2)」に対応する。)、大きさが60mmを超える腫瘍には7.2ml(本願発明の「(3)及び(4)」に対応する。)と、腫瘍のサイズを2段階に区分して、腫瘍のサイズが大きい方には増感剤の投与量を増やしたことが記載されているものの、(2)~(4)の3段階の投与区分を設定することで、当業者が予測できない格別顕著な効果を奏したことは示されていない。
したがって、本願発明が相違点アに係る構成を有することにより、当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)また、上記(ア)の本願明細書の実施例の臨床試験の手法及びその結果は、引用文献11に記載されたものと実質同じものであるから、本願発明が、抗がん作用、疼痛低減作用及び皮膚毒性低減作用(相違点イに係る構成)に関し、引用発明11よりも優れていることが示されているものでもない。
(エ)そうすると、本願発明は、引用発明11及び引用文献11の記載事項から当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものではない。
(3)請求人の主張について
請求人は、令和5年10月26日提出の意見書において、引用文献11を主引例とする拒絶理由については、本願発明に関して、基礎出願に基づく優先日が認められるべきであることを前提として、本願発明の新規性及び進歩性は否定されない旨を主張する。
しかしながら、上記第4のとおり、本件発明は、基礎出願に基づく優先権主張の効果を享受することはできないから、請求人の上記主張は、その前提において誤りがある。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(4)小括
したがって、本願発明は引用文献11に記載された発明であるか、引用発明11、並びに、引用文献11に記載された事項、本願出願日における技術常識(引用文献12及び14、文献A)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 引用文献1に基づく進歩性の判断
(1)対比
本願発明と引用発明1との対比を行う。
引用発明1の「放射線増感剤」、「ヒアルロン酸ナトリウム」は、本願発明の「抗がん療法の増感剤」、「ヒアルロン酸又はその塩」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「0.83%のヒアルロン酸ナトリウム」は、本願発明の「(b)0.1~10%(w/v)のヒアルロン酸又はその塩」に相当する。
そして、引用発明1の「約0.5%の過酸化水素」は、引用発明1のヒアルロン酸ナトリウムの含有量が質量対容積百分率で表されていることから、過酸化水素の含有量についても質量対容積百分率で表されているものと解されるところ、本願発明の「%(w/v)」も質量対容積百分率を意味するものであるから、本願発明の「0.01~3.5%(w/v)の過酸化水素」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1とは以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<一致点>
「(a)0.01~3.5%(w/v)の過酸化水素、及び(b)0.1~10%(w/v)のヒアルロン酸又はその塩、を含む抗がん療法の増感剤。」
<相違点ア>
本願発明は、
「(2)腫瘍塊の最大径の長さが3.0cm以上6.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、2.4mL以上6.0mL未満、(3)腫瘍塊の最大径の長さが6.0cm以上10cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)、及び(4)腫瘍塊の最大径の長さが10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)」と特定するのに対し、
引用発明1は、「3cm大の腫瘍に前記増感剤を3ml注入する」と特定する点。
<相違点イ>
本願発明は、「抗がん作用に加えて、疼痛低減作用、皮膚毒性低減作用、または疼痛低減作用と皮膚毒性低減作用の両方の作用を有する」と特定するのに対し、引用発明1は、対応する作用について特定していない点。
(2)判断
ア 相違点アについて
(ア)引用発明1の「3cm大の腫瘍に前記増感剤を3ml」は、「3cm大」が腫瘍の最大径の長さであるかが正確には不明であるものの、一般に、固形腫瘍は略球形であることを考慮すると、本願発明の「(2)腫瘍塊の最大径の長さが3.0cm以上6.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、2.4mL以上6.0mL未満」に実質的に相当するといえる。
そこで、引用発明1に接した当業者が、更に(3)及び(4)の腫瘍サイズに応じた増感剤の投与量を設定することが容易であったかについて検討する。
(イ)引用文献12には、7.0~54.0mmのサイズの腫瘍に対し、0.83%w/vヒアルロン酸ナトリウムと0.5%w/vの過酸化水素溶液を3~6mlを注射したことが記載されている(上記第5の3(2))。
また、引用文献13には、0.5%の過酸化水素と0.83%のヒアルロン酸ナトリウムからなる放射線増感剤を、最大6ml腫瘍組織に注射し、症例には、当初直径10cm以上あった巨大腫瘍が含まれていたことが記載されている(上記第5の4(2))。
引用文献12に記載された過酸化水素溶液及び引用文献13に記載された放射線増感剤は、引用発明1の増感剤と、組成が同じものであるから、引用発明1の増感剤を、54.0mm(5.4cm)から10cm前後のサイズの腫瘍に対して、6ml程度投与し、本願発明の「(3)腫瘍塊の最大径の長さが6.0cm以上10.0cm未満のサイズの前記腫瘍に対しては、3.6mL以上9.0mL未満(ただし、5mL以下を除く)」及び「(4)腫瘍塊の最大径の長さが10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)」と同程度の投与量とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。
そして、引用文献1において、「腫瘍患部に注入する場合、通常1回投与量(注入量)として約1~5ml程度」(上記第5の2(1)ウ)と記載されていることは、引用発明1の増感剤を、5mlを超える投与量で用いることの阻害要因となるとはいえない。
(ウ)また、本願出願日当時、過酸化水素を含む放射線増感剤を腫瘍に注射する量が、腫瘍の大きさによって異なること(上記第5の4(3)及び6(2))、及び、15cm程度の大きな腫瘍に対して上記放射線増感剤を注射することは(上記第5の6(2))、技術常識となっていた。
そうすると、15cm程度の大きな腫瘍に対しては、1本あたり3mlのシリンジで(上記第5の2(2)オに記載)、2本分(6ml)又は3本分(9ml)程度の放射線増感剤を投与し、「(4)腫瘍塊の最大径の長さが10.0cm以上のサイズの腫瘍に対しては、3.6以上15.0mL以下(ただし、5mL以下を除く)」と同程度の投与量とすることも、当業者が容易に想到することができたものといえる。
(エ)そうすると、引用発明1の放射線増感剤を、腫瘍のサイズに応じて投与量を多くし、本願発明(2)~(4)の3段階の投与量とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
イ 相違点イについて
放射線増感剤との併用によって放射線治療効果を増強できれば、より少ない放射線で十分な癌治療効果を得ることができ、それによって癌治療における放射線量を低減でき、放射線によって生じる皮膚炎等の副作用を予防又は軽減しうることは、本願出願日当時の技術常識となっていた(上記第5の5(2))。
そうすると、引用発明1の放射線増感剤が、より少ない放射線で十分な癌治療効果を得ることができ(「抗がん作用」に相当する。)、及び、放射線によって生じる皮膚炎等の副作用を予防又は軽減し得る(「皮膚毒性低減作用」に相当する。)ものであり、引用発明1の放射線増感剤が、相違点イに係る本願発明の構成を有することは、当業者において自明な事項であるといえる。
したがって、相違点イは、実質的な相違点ではないか、又は、当業者が容易に想到することができたものである。
ウ 本願発明の効果について
上記1(2)ウで説示したとおり、本願明細書の実施例に示された結果を考慮しても、本願発明は、当業者が予測できない顕著な効果を奏することが具体的に示されているとはいえない。
(3)請求人の主張について
請求人は、令和5年10月26日提出の意見書において、次の(ア)~(ウ)を主張する。
ア 請求人の主張の概要
折りたたみ中(クリックで表示)
(ア)引用文献1においては、優先日当時の当業者により想定されていた3~6cmの腫瘍へ投与するための、単一の投与量の例示のみを記載しているにすぎず、最大径が6cm以上の腫瘍が、本願発明の増感剤の適用対象として存在し得ることは知られていなかった。
(イ)本願発明は、特に最大径が6cm以上の腫瘍と増感剤の投与量との紐付けは、本願明細書の表5の情報を参照することよって、初めて可能となったものであるから、引用文献1の記載を参照したとしても、本願発明において明らかにされた腫瘍サイズと投与量との関係性に関して、到底想到できないものであった。
(ウ)本願発明において、腫瘍のサイズに応じて(2)~(4)に区分けして投与量を定めたことにより、少なくとも最大径が6cm以上の腫瘍に対しては得られる効果が全て予測できない効果となっている。
イ 請求人の主張についての判断
折りたたみ中(クリックで表示)
(ア)上記主張(ア)について
過酸化水素を含む放射線増感剤の治療対象として、引用文献13には「10cm超」の腫瘍、文献Aには「直径15センチ」に達した乳がんが記載されていることから(上記第5の6(1)イ)、「最大径が6cm以上の腫瘍が、本願発明の増感剤の適用対象として存在し得ることは知られていなかった」との請求人の主張(ア)は採用できない。
(イ)上記主張(イ)について
本願明細書の表5に記載された、本願発明の増感剤7.2mLを投与した最大径が6cm以上の患者のデータをみると、最大径64mmの腫瘍(11番の被検体。本願発明の(3)に相当する。)は、12ヶ月後には最大径は25mmと小さくなっており、最大径164mmの腫瘍(12番の被検体。本願発明の(4)に相当する。)は、治療終了後2ヶ月以内に死亡したことが示されている。
しかしながら、上記(ア)に説示したように、表5に記載された最大径64mmや164mm程度の腫瘍は、本願出願日(又は優先日)前から投与対象とされていたものと解されることから、「特に最大径が6cm以上の腫瘍と増感剤の投与量との紐付けは、本願明細書の表5の情報を参照することよって、初めて可能となった」との請求人の主張(イ)は採用できない。
(ウ)上記主張(ウ)について
上記1(2)ウに説示したように、本願明細書の実施例によれば、本願発明が、腫瘍のサイズに応じて(2)~(4)の3段階に区分して投与量を定めたこと(相違点ア)により、当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、請求人の上記主張(ウ)は採用できない。
(エ)まとめ
よって、請求人の上記主張(ア)~(ウ)はいずれも採用することはできない。
(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明1、並びに、引用文献1、12、13に記載された事項及び技術常識(引用文献12及び14、文献A)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献11に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、引用文献11に記載された発明、引用文献11に記載された事項及び技術常識(引用文献12及び14、文献A)に基づいて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
さらに、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献1、12、13に記載された事項及び技術常識(引用文献12及び14、文献A)に基づいて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2022-013996