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特許拒絶査定不服審判

2022-012317

投光装置およびこれを備えたTOFセンサ、距離画像生成装置

審判番号
2022-012317
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-048180外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年08月08日
審決日
2023年11月08日
公報発行日
2024年01月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (G01S)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-48180「投光装置およびこれを備えたTOFセンサ、距離画像生成装置」拒絶査定不服審判事件〔令和2年9月17日出願公開、特開2020-148706〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 9項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、平成31年(2019年)3月15日を出願日とする特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

令和3年10月15日付け:拒絶理由通知書
同月29日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 3月 8日付け:拒絶理由通知書(最後)
同月25日 :意見書、手続補正書の提出

同年 5月23日付け:補正の却下の決定

同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)

(同月31日 :原査定の謄本の送達)

同年 8月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出

令和5年 5月31日付け:拒絶理由通知書

同年 7月21日 :意見書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1-5に係る発明は、令和4年8月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次に特定されるとおりである。

「【請求項1】
所定の方向へ光を照射するLEDと、
前記LEDへ電力を供給する電源部と、
所定の周波数で変調された駆動電流の波形を、前記駆動電流に対する光量がゼロ点となる付近に非線形領域が発生しないように、DCオフセットさせて前記LEDに入力させる駆動回路と、
を備えている投光装置と、
前記投光装置から測定対象物に向かって照射された光の反射光を受光する受光部と、
前記投光装置から光が照射されてから前記受光部において前記反射光を受光するまでの光の飛行時間に基づいて、前記測定対象物までの距離を測定する測定部と、
を備え、
前記測定部における前記測定対象物までの距離計算では、前記駆動電流のオフセット処理は、引き算されることでキャンセルされる、
TOFセンサ。」

第3 当審において通知した拒絶の理由の概要

当審において令和5年5月31日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

(進歩性の欠如)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において発行された、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

記

<引用文献一覧>

引用文献7:特開2012-93131号公報
引用文献8:特開昭53-35355号公報(技術常識を示す文献)

第4 当審の判断

1 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定

(1) 引用文献7の記載事項及び引用発明の認定

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ア 引用文献7の記載事項

引用文献7には、次の事項が記載されている(下線は合議体が付した。以下同様である。)。

(ア) 【0001】-【0003】

「【技術分野】
【0001】
本発明は、強度を変調した変調光を対象空間に投光し、その反射光を受光して対象空間の物体について距離画像を生成する距離画像センサに関するものである。
【背景技術】
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【0002】
従来から、強度を正弦波状などに変調した変調光を対象空間に投光し、その反射光を受光することにより対象空間に存在する物体までの距離を画素値とした距離画像を生成する距離画像センサが知られている(たとえば、特許文献1参照)。この種の距離画像センサは、変調光の投光から受光までの位相差を検出し、位相差を投光から受光までの時間差に換算している。
【0003】
いま、強度が正弦波状に変化する変調光を用いる場合を想定する。変調光の周波数がf[Hz]、光束がc[m/sec]、変調光の投光から受光までの位相差がφ[rad]であるとすれば、物体までの距離d[m]は、以下の関係で求められる。
d=c・φ/4π・f
ところで、変調光の投光から受光までの位相差は、反射光を受光した時点における変調光の位相と受光強度との関係から求めることができる。ただし、受光強度は、物体までの距離により変化し、また対象空間の透過率および物体の反射率の影響も受けるから、実際に位相差を求めるには、3回以上の異なるタイミングでの受光強度を用いる必要がある。たとえば、変調光を生成する駆動信号の1周期において90度ずつ異なる位相でタイミングを規定し、各タイミングに対応する受光強度を、それぞれA0,A1,A2,A3とするときに、位相差φ〔rad〕は下式で表される。
φ=tan-1{(A0-A2)/(A1-A3)}
ここで、上式から明らかなように、位相差φが2πの正の整数倍だけ異なっていても位相差φを区別することができない。すなわち、上式ではアークタンジェントの主値を位相差φに用いるから、φとφ+2πとφ+4πとは区別することができない。たとえば、f=20MHzとすれば、距離画像の画素に与えることができる最大距離は、3×108×2π/4π・20×106=7.5[m]であり、7.5[m]を超える距離は7.5[m]以下の距離と区別することができない。一例を示すと、3[m]と10.5[m]とは区別することができない。このように動作原理によって決定される最大距離を、以下では、「限界距離」と呼ぶ。」

(イ) 【0018】-【0032】、【図1】、【図2】

「【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態において説明する距離画像センサは、対象空間に投光するとともに、対象空間に存在する物体(人間や動物を含む)からの反射光を受光し、投光から受光までの時間差に相当する情報を用いて物体までの距離を検出する構成を備える。この種の技術は、飛行時間法(Time Of Flight)と呼ばれている。
【0019】
距離画像センサは、図1に示すように、発光源11から対象空間に投光し、対象空間における物体からの反射光をCCDイメージセンサのような撮像素子12で受光するアクティブ型に構成されている。発光源11からは時間とともに強度が変化する変調光が出射され、物体で反射され撮像素子12で受光された変調光と投光した変調光との位相差を、投光から受光までの時間差に相当する情報として用いる。変調光の変調波形は、正弦波、三角波、鋸歯状波、方形波などから選択する。また、変調光の周期は一定とする。
」
「【図1】
[図:0001405342000001.jpg]
」
「【0020】
撮像素子12は、複数個の受光領域(画素)が二次元配列されたCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサとして周知の構成のものを用いることができる。ただし、撮像素子12は、距離画像センサに適する特別な構造を有するように設計されていてもよい。この種の撮像素子12は、基本的な構造については、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサと類似しているが、1画素について複数個の受光領域を有し、受光領域ごとの受光感度が電気信号により制御可能になっている。
【0021】
撮像素子12の各受光領域では受光強度(実際には、受光量)に応じた量の電荷を生成する。受光領域の受光感度を制御するのは、変調光を受光するタイミングを制御することによって投光と受光との位相差を含む情報を検出するためである。また、この撮像素子は、各受光領域で生成された電荷を変調光の変調周期の整数倍の期間に亘って蓄積する蓄積領域を有し、さらに、受光領域で生成した電荷のうち変調光ではない環境光ないし周囲光の成分を低減させる機能を備える場合もある。
続きを表示(全25行)
【0022】
以下では、距離画像センサの一構成例として下記構成を想定して説明する。ただし、変調光の変調波形、撮像素子の構成、撮像素子の制御などに関して、周知の種々の距離画像センサに提供された構成に置換することが可能である。
【0023】
距離画像センサは、図1に示すように、画像生成部10とフィルタ処理部20とを備える。画像生成部10は、発光源11から対象空間に変調光を投光し、その反射光を撮像素子12で受光することにより、撮像素子12の視野内に設定された対象空間に存在する物体について距離画像と濃淡画像とを生成する。一方、フィルタ処理部20は、画像生成部10で生成された距離画像において、濃淡画像の光量が所定の閾値以下の画素に規定値を付与する。さらに、フィルタ処理部20は、規定値の画素に隣接する規定値以外の画素に対して隣接する画素の画素値を付与する。
【0024】
画像生成部10は、光を出射する発光源11と、対象空間からの光を受光する撮像素子12とを備える。発光源11には、発光ダイオードやレーザダイオードのように入力の瞬時値に比例した光出力が得られる発光素子を用いる。また、発光源11から出射する光量を確保するために、発光源11は適数個の発光素子を用いて構成される。発光源11から出射された変調光は投光光学系13を通して対象空間に投光される。一方、撮像素子12は、受光光学系14を通して対象空間からの光を受光する。投光光学系13と受光光学系14とは、投受光の方向を平行にして互いに近接して配置してある。
【0025】
画像生成部10は、発光源11と撮像素子12とに与える駆動信号を出力するタイミング制御部15と、発光源11に与える駆動信号と撮像素子12の各受光領域の受光量との関係により濃淡画像および距離画像を出力する画像出力部16とを備える。
【0026】
タイミング制御部15は、図2(a)のように、発光源11に対して駆動信号を間欠的に与える。駆動信号は、[当審注:ここに「図2(a)」の脱字があると考えられる。]に示すように、電圧が一定周波数(たとえば、20MHz)の正弦波形で変化し、図2(b)に示すように、光出力(光の強度)が正弦波状に変化する変調光を発光源11から対象空間に投光させる。発光源11に駆動信号を与えることにより、強度が変調された変調光が投光されるから、この駆動信号を以下では、「変調信号」と呼ぶ。変調信号を発光源11に与えている期間T1は対象空間に変調光を投光する投光期間に対応し、変調信号を発光源11に与えていない期間(休止期間)T2は変調光を投光しない非投光期間に対応する。発光源11が発光ダイオードである場合には、電流制限抵抗を介して発光ダイオードに変調信号の電圧を印加することにより、発光ダイオードの通電電流を変化させ変調光を出射させる。
【0027】
撮像素子12は、電子シャッタの技術を用いることで、駆動信号に同期する期間にのみ各受光領域において受光強度に応じた電荷を生成する。また、撮像素子12は、受光領域で生成された電荷を、遮光された蓄積領域に転送し、蓄積領域において変調信号の複数周期(たとえば、10000周期)に相当する蓄積期間に蓄積した後に、受光出力として外部に取り出す。
【0028】
撮像素子12を駆動する駆動信号は、発光源11に与える変調信号(駆動信号)に同期するように生成される。ここでは、変調信号の1周期における異なる4位相を規定し、これらの位相ごとに一定時間幅の受光期間を設定する4種類の駆動信号を生成する。また、撮像素子12の駆動に際しては蓄積期間が設定され、蓄積期間ごとに4種類の駆動信号のうちの各1種類の駆動信号を撮像素子12に与える。この駆動信号は、撮像素子12の各受光領域での受光期間を規定する。以下では、この駆動信号を「受光タイミング信号」と呼ぶ。
【0029】
1種類の受光タイミング信号で規定される受光期間において受光領域で生成された電荷は1回の蓄積期間において蓄積され、蓄積後の電荷が受光出力として撮像素子12の外部に取り出される。ここでは、撮像素子12の1画素に1個の受光領域を対応付けている場合を想定している。したがって、受光領域で生成された電荷を蓄積期間に蓄積する処理を4回繰り返すことにより、4回の蓄積期間で4種類の受光タイミング信号に対応する受光出力が撮像素子12の外部に取り出される。
【0030】
いま、図2(c)のように、変調信号の1周期において90度ずつ異なる4位相を規定し、各位相ごとに受光タイミング信号を規定する。この場合、各受光タイミング信号に対応する受光出力(電荷量)を、それぞれA0,A1,A2,A3とするときに、位相差φ〔rad〕は下式で表される。
φ=tan-1{(A0-A2)/(A1-A3)}
変調信号の周波数をf〔Hz〕とすれば、投光から受光までの時間差Δtは位相差φを用いて、Δt=φ/2π・fと表されるから、光速をc〔m/s〕とすると、物体までの距離は、c・φ/4π・fと表すことができる。
」
「【図2】
[図:0001405342000002.jpg]
」
「【0031】
すなわち、4種類の受光出力(電荷量)A0~A3により物体までの距離を求めることができる。なお、受光タイミング信号で規定される受光期間の時間幅は、受光領域において適正な受光量が得られるように、適宜に設定することができる(たとえば、変調信号の4分の1周期に相当する時間幅とすることができる)。ただし、各受光期間の時間幅は互いに等しくする必要がある。
【0032】
画像出力部16は、上述のように、受光出力(電荷量)A0~A3に基づいて投光から受光までの時間差に相当する情報としての位相差φを求め、対象空間の物体までの距離に換算する。したがって、画像出力部16は、受光領域(すなわち、画素)に物体までの距離を対応付けた距離画像を出力する距離画像出力部17を備える。さらに、画像出力部16は、投光期間と非投光期間との受光量の差を求めることにより、変調光の反射光成分に相当する濃淡値を各受光領域に対応付けた濃淡画像を出力する濃淡画像出力部18も備える。画像出力部16は、マイコンを用いて構成され、上述した処理は、マイコンにより実行されるプログラムで実現される。」

イ 引用文献7の記載から読み取れる事項の認定

(ア)a 前記アで摘記した段落【0026】には、次の記載がある。

「発光源11が発光ダイオードである場合には、電流制限抵抗を介して発光ダイオードに変調信号の電圧を印加することにより、発光ダイオードの通電電流を変化させ変調光を出射させる。」

b ここで、距離画像センサの画像生成部10において、「発光源11」の「発光ダイオード」は、「変調信号の電圧」が「印加」され、これにより「通電電流」が「変化」して「変調光」を生ずるものであるから、「発光源11」の「発光ダイオード」に電力を供給する構成が距離画像センサの画像生成部10に備わっていることは、明らかである。

c したがって、引用文献7の記載から次の事項(以下「認定事項1」という。)を認定することができる。

[認定事項1]

「画像生成部10は、発光源11に電力を供給する構成を備えること。」

(イ) 前記アで摘記した【図2】(b)を次に再掲する。

[図:0001405342000003.jpg]

段落【0026】の「図2(b)に示すように、光出力(光の強度)が正弦波状に変化する変調光を発光源11から対象空間に投光させる。」との記載を参酌しつつ【図2】(b)を参照すると、【図2】(b)の横軸は時間である。そうすると、【図2】(b)から、次の事項(以下「認定事項2」という。)が見て取れる。

[認定事項2]

「投光強度の時間波形は、投光強度の時間平均値に相当する直流成分と正弦波成分からなること。」

ウ 引用発明の認定

前記アで示した摘記事項及び前記イで示した引用文献7の記載から読み取れる事項を総合すると、引用文献7には、次に示す発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]

「対象空間に投光するとともに、対象空間に存在する物体からの反射光を受光し、投光から受光までの時間差に相当する情報を用いて物体までの距離を検出する、飛行時間法(Time Of Flight)による距離画像センサであって、(【0018】)
距離画像センサは、画像生成部10を備え、(【0023】)
画像生成部10は、光を出射する発光源11と、対象空間からの光を受光する撮像素子12とを備え、(【0024】)
発光源11には、発光ダイオードのように入力の瞬時値に比例した光出力が得られる発光素子を用い、
続きを表示(全15行)
発光源11から出射された変調光は投光光学系13を通して対象空間に投光され、(【0024】)
画像生成部10は、発光源11と撮像素子12とに与える駆動信号を出力するタイミング制御部15と、発光源11に与える駆動信号と撮像素子12の各受光領域の受光量との関係により距離画像を出力する画像出力部16とを備え、(【0025】)
距画像生成部10は、発光源11に電力を供給する構成を備え、(前記認定事項1)
タイミング制御部15は、発光源11に対して駆動信号を与え、駆動信号は、電圧が一定周波数(たとえば、20MHz)の正弦波形で変化し、光出力(光の強度)が正弦波状に変化する変調光を発光源11から対象空間に投光させるものであって、発光源11が発光ダイオードである場合には、電流制限抵抗を介して発光ダイオードに変調信号の電圧を印加することにより、発光ダイオードの通電電流を変化させ変調光を出射させるものであり、(【0026】)
投光強度の時間波形は、投光強度の時間平均値に相当する直流成分と正弦波成分とからなり、(前記認定事項2)
画像出力部16は、受光出力(電荷量)A0~A3に基づいて投光から受光までの時間差に相当する情報としての位相差φを求め、対象空間の物体までの距離に換算するものであり、(【0032】)
位相差φ〔rad〕は、次に示す(式A)で表わされ、
(式A)φ=tan-1{(A0-A2)/(A1-A3)}
物体までの距離は、変調信号の周波数をf〔Hz〕とし、光速をc〔m/s〕として、次に示す(式B)で表わされる、
(式B)c・φ/4π・f(【0030】)
距離画像センサ。」

(2) 引用文献8の記載事項及び技術常識の認定

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ア 引用文献8の記載事項

引用文献8の1頁左欄13行-同項右欄14行及び第1図には、次の事項が記載されている。

「発光ダイオード(以下LEDと略す)を用いた光のIM変調(強度変調)を行う場合、LEDの電流対光出力の非線形特性のため、出力信号に歪が生じることが知られている。第1図に示すのはLEDの駆動電流対出力光パワーの関係を示す一例である。図において駆動電流Iを増加していけばLEDの光出力パワーPは次第に増加するがその関係は非線形となつている。
領域Aの非線形部分はダイオードの電圧対電流特性の非線形に起因するもので、又領域Bの非線形部分は駆動電流による温度上昇の為発光効率が低下することに起因している。以下に述べる本発明は領域Bの非線形を問題にしており、A領域は対象としていない。このAとBの領域の間は、はは直線領域となっており、従来LEDをアナログ変調する場合歪の小さい信号を送るためにはこの直線領域のほぼ中間に固定バイアス電流をとつて、この領域内で振幅変調をしなければならず変調度を大きくすることができなかった。逆に変調度を大きくすると振幅は非線形領域に入り込み、歪率特性の劣化をもたらす。」
「
[図:0001405342000004.jpg]
」

イ 技術常識の認定

前記アで示した引用文献8の記載に例示されるように、次に示す技術事項は技術常識であると認められる(以下「技術常識」という。)。

[技術常識]

「LEDの駆動電流が小さくLEDの光出力パワーがゼロとなる付近においては、LEDの駆動電流とLEDの光出力パワーの関係が非線形となるため、歪の小さい光出力の信号とするために、LEDの駆動電流とLEDの光出力パワーの関係が線形領域となる部分のほぼ中間に固定バイアス電流をとって、この領域内で振幅変調をすること。」

2 対比

(1) 対比分析

本願発明と引用発明を対比する。

ア 「TOFセンサ」の発明である本願発明と「飛行時間法(Time Of Flight)による距離画像センサ」の発明である引用発明は、「TOFセンサ」の発明である点において一致する。

イ(ア)a 引用発明における、「発光ダイオード」が「用いられ[た]」「発光源11」は、本願発明の「LED」に相当する。

b 引用発明の「発光源11」は、変調光を投光光学系13を通して対象空間に投光するものであるところ、「発光源11」からみて「対象空間」がある方向は、本願発明の「所定の方向」に相当する。

c したがって、引用発明における「発光ダイオード」が「用いられ[た]」「発光源11」は、本願発明における「所定の方向へ光を照射するLED」に相当する。

(イ) 引用発明の「発光源11に電力を供給する構成」は、本願発明の「前記LEDへ電力を供給する電源部」に相当する。

(ウ)a 引用発明の「タイミング制御部15」は、「電流制限抵抗を介して発光ダイオードに変調信号の電圧を印加することにより、発光ダイオードの通電電流を変化させ変調光を出射させるものであ[る]」から、変調された駆動電流の波形をLEDに入力させる駆動回路であるといえる。

b そして、引用発明においては、「タイミング制御部15は、発光源11に対して駆動信号を与え、駆動信号は、電圧が一定周波数(たとえば、20MHz)の正弦波形で変化し、光出力(光の強度)が正弦波状に変化する変調光を発光源11から対象空間に投光させるもの」であるから、変調された駆動電流は、所定の周波数で変調されているといえる。

c さらに、引用発明においては、「投光強度の時間波形は、投光強度の時間平均値に相当する直流成分と正弦波成分とからな[る]」から、変調された駆動電流の波形は、DCオフセットさせてLEDに入力させているといえる。

d 前記aからcの検討結果をまとめると、引用発明の「タイミング制御部15」と本願発明の「駆動回路」は、次の点において共通する。

「所定の周波数で変調された駆動電流の波形を、DCオフセットさせて前記LEDに入力させる駆動回路」である点。

(エ) 引用発明の「画像生成部10」は、「光を出射する発光源11」、「発光源11に電力を供給する構成」及び「発光源11と撮像素子12とに与える駆動信号を出力するタイミング制御部15」を備えるから、本願発明の「所定の方向へ光を照射するLED」と「前記LEDへ電力を供給する電源部」と「所定の周波数で変調された駆動電流の波形を」「DCオフセットさせて前記LEDに入力させる駆動回路」を備えている「投光装置」に相当する。

(オ) 前記(ア)から(エ)の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の点において共通する。

「所定の方向へ光を照射するLEDと、
前記LEDへ電力を供給する電源部と、
所定の周波数で変調された駆動電流の波形を、DCオフセットさせて前記LEDに入力させる駆動回路と、
を備えている投光装置」を備える点。

ウ 引用発明の「画像生成部10」における、「対象空間に投光するとともに、対象空間に存在する物体からの反射光を受光[する]」「撮像素子12」は、本願発明の「前記投光装置から測定対象物に向かって照射された光の反射光を受光する受光部」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。

「前記投光装置から測定対象物に向かって照射された光の反射光を受光する受光部」を備える点。

エ 引用発明の「受光出力(電荷量)A0~A3に基づいて投光から受光までの時間差に相当する情報としての位相差φを求め、対象空間の物体までの距離に換算する」「画像出力部16」は、本願発明の「前記投光装置から光が照射されてから前記受光部において前記反射光を受光するまでの光の飛行時間に基づいて、前記測定対象物までの距離を測定する測定部」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。

「前記投光装置から光が照射されてから前記受光部において前記反射光を受光するまでの光の飛行時間に基づいて、前記測定対象物までの距離を測定する測定部」を備える点。

オ(ア) 引用発明においては、「(式B)」を用いて「物体までの距離」を算出することに先立って、「(式A)」を用いて「位相差φ〔rad〕」を算出する。

(イ) 引用発明の「(式A)」における「(A0-A2)」及び「(A1-A3)」は、「受光出力(電荷量)A0~A3」の各々の差分を演算するものであるから、受光強度(前記1(1)ア(イ)の【図2】(c)参照)の時間平均値に相当する直流成分はその成分の大小にかかわらず当該差分を取る演算過程において相殺される。

(ウ) ここで、受光強度の直流成分は、投光強度の直流成分に起因するものであるから、引用発明の「(式A)」における「(A0-A2)」及び「(A1-A3)」というそれぞれの差分の演算により、引用発明の投光強度の直流成分が相殺されることは、明らかである。

すなわち、前記イ(ウ)及び前記エの検討結果も踏まえると、引用発明は、「前記測定部における前記測定対象物までの距離計算では、駆動電流のオフセット処理は、引き算されることでキャンセルされる」ものであるといえる。

(エ) 前記(ア)から(ウ)の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。

「前記測定部における前記測定対象物までの距離計算では、前記駆動電流のオフセット処理は、引き算されることでキャンセルされる」ものである点。

(2) 一致点及び相違点の認定

前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記のイに示す相違点において相違すると認められる。

ア 一致点

「所定の方向へ光を照射するLEDと、
前記LEDへ電力を供給する電源部と、
所定の周波数で変調された駆動電流の波形を、DCオフセットさせて前記LEDに入力させる駆動回路と、
を備えている投光装置と、
前記投光装置から測定対象物に向かって照射された光の反射光を受光する受光部と、
前記投光装置から光が照射されてから前記受光部において前記反射光を受光するまでの光の飛行時間に基づいて、前記測定対象物までの距離を測定する測定部と、
を備え、
前記測定部における前記測定対象物までの距離計算では、前記駆動電流のオフセット処理は、引き算されることでキャンセルされる、
TOFセンサ」である点。

イ 相違点

所定の周波数で変調された駆動電流の波形を、DCオフセットさせてLEDに入力させるに際して、

本願発明においては、「前記駆動電流に対する光量がゼロ点となる付近に非線形領域が発生しないように、DCオフセットさせ[る]」ものであるのに対して、

引用発明においては、駆動電流に対する光量がゼロ点となる付近に非線形領域が発生しないようにDCオフセットさせるものではない点。

3 相違点についての判断

前記相違点について検討する。

前記1(2)イにおいて認定したとおり、「LEDの駆動電流が小さくLEDの光出力パワーがゼロとなる付近においては、LEDの駆動電流とLEDの光出力パワーの関係が非線形となるため、歪の小さい光出力の信号とするために、LEDの駆動電流とLEDの光出力パワーの関係が線形領域となる部分のほぼ中間に固定バイアス電流をとって、この領域内で振幅変調をすること」は、LEDの駆動における極めて基本的な技術常識である。

したがって、引用発明の距離画像センサ」は、「発光源11」に「発光ダイオード」が用いられ、そして、「発光源11から対象空間に」向けて「光出力(光の強度)が正弦波状に変化する変調光」を「投光させるもの」であるところ、より歪みが少ない正弦波形状の変調光となるように、引用発明に対して当該技術常識を採用して、発光ダイオードの線形領域のほぼ中間に固定バイアス電流をとるようにDCオフセットさせ、当該線形領域内で振幅変調をするようにすることにより、前記駆動電流に対する光量がゼロ点となる付近に非線形領域が発生しないように、DCオフセットさせるという前記相違点に係る構成を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計上の事項にすぎない。

そして、本願発明の奏する作用効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について

(1) 請求人の具体的な主張内容

請求人は、令和5年7月21日に提出した意見書において、次の主張をしている。

本願発明の「前記測定部における前記測定対象物までの距離計算では、前記駆動電流のオフセット処理は、引き算されることでキャンセルされる」という構成によれば、TOFセンサにおける測定対象物までの距離計算において、LEDの駆動電流のオフセット処理が悪影響を及ぼすことなくキャンセルされることで、高精度な距離測定を実施することができる、という効果を奏する。

引用文献7には、「距離画像における物体と背景との境界における誤検知の発生を防止した距離画像センサ」について開示されているだけであって、「投光装置における駆動電流のオフセット処理をキャンセルして測定対象物までの距離を算出する」という本願発明の主要な特徴部分については開示も示唆もされていない。このため、当然、「駆動電流のオフセット処理は、TOFセンサ20における測定対象物40までの距離計算において引き算されることでキャンセルされる」ことについても、引用文献7には開示されていない。

同様に、引用文献8においても、「投光装置における駆動電流のオフセット処理をキャンセルして測定対象物までの距離を算出する」という本願発明の主要な特徴部分については開示も示唆もされていない。

本願発明は、引用文献7、8には開示も示唆もされていない独自の構成を備えており、これにより本願発明特有の効果を奏するものであることから、引用文献7、8に基づいて当業者が容易に想到できたとは到底考えられない。

(2) 請求人の主張に対する当審の判断

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ア 「前記測定部における前記測定対象物までの距離計算では、前記駆動電流のオフセット処理は、引き算されることでキャンセルされる」点は、引用文献7にこのような直接の表現の記載がないとしても、前記2(1)オにおいて検討したとおり、引用発明も備えているものであるから、請求人の主張は採用できない。

イ なお、前記2(1)オにおける検討を数式で表現したものとして特開2006-153773号公報を挙げる。

当該文献には、次の事項が記載されているところ、段落【0018】を参照すると、「直流成分(外光成分と反射光成分との平均値)」である「B」が、「(A2-A0)」等の差分の演算によって相殺されることが理解できる。

「【0006】
本発明は、強度変調した光の投光時と受光時との位相差を用いて対象物までの距離を測定する構成を採用しながらも、移動する対象物について三次元空間における存在範囲を特定できるようにした距離画像センサを提供することを目的とする。」
「【0018】
図2(a)に示すように、発光源2から空間に放射する光の強度が曲線イのように変化し、光検出素子1で受光した受光光量が曲線ロのように変化するとすれば、位相差ψは飛行時間に相当するから、位相差ψを求めることにより対象物Obまでの距離を求めることができる。また、位相差ψは、曲線イの複数のタイミングで求めた曲線ロの受光光量を用いて計算することができる。たとえば、曲線イにおける位相が0度、90度、180度、270度の位相で求めた曲線ロの受光光量がそれぞれA0、A1、A2、A3であるとする(受光光量A0、A1、A2、A3を斜線部で示している)。ただし、各位相における受光光量A0、A1、A2、A3は、瞬時値ではなく所定の受光期間Twで積算した受光光量を用いる。いま、受光光量A0、A1、A2、A3を求める間に、位相差ψが変化せず(つまり、対象物Obまでの距離が変化せず)、かつ対象物Obの反射率にも変化がないものとする。また、発光源2から放射する光の強度を正弦波で変調し、時刻tにおいて光検出素子1で受光される光の強度がA・sin(ωt+δ)+Bで表されるものとする。ここに、Aは振幅、Bは直流成分(外光成分と反射光成分との平均値)、ωは角振動数、δは初期位相である。光検出素子1で受光する受光光量A0、A1、A2、A3を受光期間Twの積算値ではなく瞬時値とし、変調の周期に同期した時刻t=n/f(n=0、1、2、…、fは変調の周波数)における受光光量を、A0=A・sin(δ)+Bとすれば、受光光量A0、A1、A2、A3は、次のように表すことができる。なお、反射光成分とは、発光源2から放射され対象物Obにより反射された後に光検出素子1に入射する光の成分を意味する。
A0=A・sin(δ)+B
A1=A・sin(π/2+δ)+B
A2=A・sin(π+δ)+B
A3=A・sin(3π/2+δ)+B
図2では位相差がψであるから、光検出素子1で受光する光の強度変化の波形における初期位相δ(時刻t=0の位相)は-ψになる。つまり、δ=-ψであるから、A0=-A・sin(ψ)+B、A1=A・cos(ψ)+B、A2=A・sin(ψ)+B、A3=-A・cos(ψ)+Bであり、結果的に、各受光光量A0、A1、A2、A3と位相差ψとの関係は、次式のようになる。
ψ=tan-1{(A2-A0)/(A1-A3)}・・・(1)
(1)式では受光光量A0、A1、A2、A3の瞬時値を用いているが、受光光量A0、A1、A2、A3として受光期間Twにおける積算値を用いても(1)式で位相差ψを求めることができる。」
「【図2】
[図:0001405342000005.jpg]
」

第5 むすび

以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-012317

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