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特許拒絶査定不服審判

2022-012298

膨張弁

審判番号
2022-012298
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-048822
請求日
2022年08月08日
審決日
2023年03月06日
公報発行日
2023年06月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社不二工機
  • 【請求人代理人】弁理士法人第一国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 松下 聡
  • 審判官 西村 泰英
  • 審判官 白土 博之
分類
P18 .575-Z (F25B) / P18 .121-Z (F25B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018- 48822「膨張弁」拒絶査定不服審判事件〔令和1年9月19日出願公開、特開2019-158296〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成30年3月16日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 3年12月13日付け:拒絶理由通知書 令和 4年 2月16日 :意見書、手続補正書の提出 同 年 4月26日付け:拒絶査定 同 年 8月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和4年8月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和4年8月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「供給側流路と排出側流路との間に設けられた弁室に配置され、前記供給側流路から前記排出側流路へと向かう流体が通過する環状の弁座を備えた弁本体と、 前記弁座に着座することにより前記流体の通過を阻止し、前記弁座から離間することにより前記流体の通過を許容する弁体と、 前記供給側流路から流入する流体の流れに対して側面を向けて前記弁室に配置され、前記弁体を前記弁座に向かって付勢するコイルばねと、 前記コイルばねを内側に収容する管状部を備え、前記弁本体に取り付けられるばね受け部材と、 前記コイルばねによる付勢力に抗して、前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する作動部材と、 前記コイルばねを覆うカバー部材と、を有し、 前記カバー部材は、少なくとも前記供給側流路の入口から流入する流体の流れに対向する位置に配置され、前記コイルばねのうち前記管状部に収容された部位を除き前記コイルばねの周囲に密着した熱収縮チューブであり、 開弁状態において、前記カバー部材の前記ばね受け部材側の端部の一部が前記管状部の開口端に位置し、前記端部の周方向で前記端部の一部以外の他部が前記管状部の開口端に対して弁座側に位置する、 ことを特徴とする膨張弁。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和4年2月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「供給側流路と排出側流路との間に設けられた弁室に配置され、前記供給側流路から前記排出側流路へと向かう流体が通過する環状の弁座を備えた弁本体と、 前記弁座に着座することにより前記流体の通過を阻止し、前記弁座から離間することにより前記流体の通過を許容する弁体と、 前記供給側流路から流入する流体の流れに対して側面を向けて前記弁室に配置され、前記弁体を前記弁座に向かって付勢するコイルばねと、 前記コイルばねを内側に収容する管状部を備え、前記弁本体に取り付けられるばね受け部材と、 前記コイルばねによる付勢力に抗して、前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する作動部材と、 前記コイルばねを覆うカバー部材と、を有し、 前記カバー部材は、少なくとも前記供給側流路の入口から流入する流体の流れに対向する位置に配置され、前記コイルばねのうち前記管状部に収容された部位を除き前記コイルばねの周囲に密着した熱収縮チューブである、 ことを特徴とする膨張弁。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「カバー部材」に対して、「開弁状態において、前記カバー部材の前記ばね受け部材側の端部の一部が前記管状部の開口端に位置し、前記端部の周方向で前記端部の一部以外の他部が前記管状部の開口端に対して弁座側に位置する」ことの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 上記付加された事項については、願書に付された図面の図2の図示内容とされた事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-257064号公報(平成25年12月26日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、「膨張弁」に関して、図面とともに、次の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 入口通路から弁室に導入される高圧の冷媒は、流れの向きを直角方向に変えて弁座に向かうが、その際、弁体を付勢するコイルばねに接する。これにより、弁室内の冷媒の流れが乱れやすくなるとともに、冷媒に含まれる気泡が潰れやすくなり、騒音の発生原因となる。 そこで、本発明の目的は、上述した不具合を解消する膨張弁を提供するものである。」 「【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明は、高圧冷媒が導入される入口通路と、入口通路に連通する弁室と、弁室に連通するオリフィスと、弁室内に配設されてオリフィスの入口に形成された弁座に対向する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢するコイルばねと、オリフィスを通過した冷媒を蒸発器へ向けて送り出す出口通路と、蒸発器から圧縮機へ戻る低圧の冷媒が通過する低圧通路と、低圧通路の冷媒の圧力と温度に対応して弁体を駆動するパワーエレメントとを備える膨張弁であって、入口通路からオリフィスに向かう高圧冷媒がコイルばねに接するのを防止するべく、コイルばねの外周部を覆うとともに弁室の内周面との間に冷媒整流通路を形成するばねカバー部材を設けたことを特徴とする。 【0006】 なお、ばねカバー部材は筒状の部材であって、その外周部が入口通路の弁室への開口部の全面に対向するように形成することができる。 【発明の効果】 【0007】 本発明の膨張弁は、上述した手段を備えることにより、弁室内を流れる冷媒の騒音を低減することができる。」 「【0009】 図1~3に示すように、本実施形態の膨張弁1は角柱状の弁本体10を有し、弁本体10の底部の近傍には高圧冷媒の入口通路20が設けられる。入口通路20は奥に向かって径が次第に小さくなる多段状に形成され、最奥部の小径部22を介して弁室30に連通している。弁室30の上端はオリフィス44に連通しており、その入口側には弁座42が形成されている。 【0010】 弁室30には弁体40が配設され、弁体40は弁座42と協働して弁部を構成する。弁体40と弁座42の間に形成される隙間を通過した高圧の冷媒は、オリフィス44を介して出口通路50に流入し、配管(図示せず)を通って蒸発器へ送られる。入口通路20と出口通路50は、それらの軸線が直交するように形成されており、凝縮器から入口通路20を介して弁本体10内に流入する高圧冷媒は、弁本体10内をL字状に流れ、出口通路50を介して蒸発器へ送り込まれる。 【0011】 弁体40は弁室30内に配設される弁支持部材60により支持され、弁支持部材60はコイルばね62により閉弁方向に常時付勢されている。コイルばね62は弁室30の下端開口部を封止するプラグ64により支持され、プラグ64のねじ込み量を調節することにより、コイルばね62の圧縮量を変更して弁体40への閉弁方向の付勢力を調整する。また、プラグ64の上端外周部に装着されたシールリング66により弁室30がシールされる。 【0012】 コイルばね62の外側には、コイルばね62を覆うばねカバー部材100が配設されている。ばねカバー部材100は金属製の板材をプレス加工して形成される円筒形状の部材であって、その外径寸法は弁室30の内径寸法より小さな寸法になっており、ばねカバー部材100の外周面と弁室30の内周面との間には環状の間隙からなる冷媒整流通路G1が形成されている。ばねカバー部材100の下端部102は小径部22の最下部よりもプラグ64側に延びており、ばねカバー部材100の外周面は小径部22の弁室30への開口部の全面に対向している。 【0013】 蒸発器から圧縮機へ戻る低圧の冷媒は、弁本体10の上部に設けられる低圧冷媒の入口ポート70に入り、出口ポート72を介して圧縮機へ戻る。図3(c)に示すように、入口ポート70と出口ポート72は、それらの軸線が直交するように形成されており、蒸発器から入口ポート70を介して弁本体10内に流入する低圧冷媒は、弁本体10内をL字状に流れ、出口ポート72を介して圧縮機へ戻る。 【0014】 図1に示すように、弁本体10の頂部にはパワーエレメント80が装備される。パワーエレメント80は上蓋81と下蓋82の間に挟み込まれるダイアフラム83を有し、上蓋81とダイアフラム83の間には上部圧力作動室84が形成される。 上部圧力作動室84内には作動ガスが封入され、下部圧力作動室85に導入される低圧冷媒の圧力、温度に応じてダイアフラム83が変位する。 パワーエレメント80はカバー88で覆われ、作動ガスへの外部の温度の影響を防止する。 【0015】 ダイアフラム83の変位は、受け部材90を介して作動棒92に伝達され、作動棒92は弁体40を駆動して弁開度を制御する。 作動棒92は、弁本体10に形成された凹部10a内に装着されたリング状の防振バネ部材93により弾性支持されている。この防振バネ部材93は作動棒92に外嵌され、作動棒92の軸方向の移動を許容しつつ径方向の移動を抑制する。これにより、高圧冷媒の圧力変動に伴う騒音の発生が防止される。」 「【図1】 [図:0001398059000001.jpg] 」 「【図3】 [図:0001398059000002.jpg] 」 「【図4】 [図:0001398059000003.jpg] 」 コイルばね62とプラグ64の関係につき、図1及び図3の図示と、段落【0011】の記載とから、プラグ64の形状はコイルばね62の下端部の形状に合わせた環状であり、プラグ64の上部にはコイルばね62を収容し、支持する円環状の空間が設けられていると看て取れる。 また、コイルばね62を覆うばねカバー部材100について、図1及び図4の図示と、段落【0012】の記載から見て、図面での弁体40は、弁座42に接している状態、すなわち閉弁時とみられ、その際のばねカバー部材100の下端部102の位置は、入口通路20の最奥部である小径部22の最下部よりもプラグ64側に延びており、プラグ64の上端部よりわずか上方まで延びていると看て取れる。 さらに、図3及び図4からみて、弁座42は、環状であることが看て取れる。 (ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「高圧冷媒が導入される入口通路20とオリフィス44を通過した冷媒を蒸発器へ向けて送り出す出口通路50との間に設けられた弁室30に配置された環状の弁座42を備えた弁本体10と、 弁室30内に配設されて弁座42に対向する弁体40と、 弁体40を弁座42に向けて付勢するコイルばね62と、 コイルばね62の下端を収容し、該コイルばね62を支持するとともに弁本体10に取り付けられる環状のプラグ64と、 蒸発器から圧縮機へ戻る低圧の冷媒が通過する低圧通路と、 低圧通路の冷媒の圧力と温度に対応して弁体40を駆動するパワーエレメント80と を備える膨張弁1であって、 入口通路20からオリフィス44に向かう高圧冷媒がコイルばね62に接するのを防止するべく、コイルばね62の外周部を覆うばねカバー部材100であって、ばねカバー部材100の下端部102は入口通路20の最奥部である小径部22の最下部よりもプラグ64側に延びており、ばねカバー部材100の外周面は小径部22の弁室30への開口部の全面に対向しており、プラグ64の上端部よりわずか上方まで延びているばねカバー部材100を設けた、膨張弁1。」 イ 引用文献2 (ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-344752号公報(以下「引用文献2」という。)には、「リリーフ弁」に関し次の記載ないし図面の図示がある。 「【0006】 このリリーフ弁は、圧力回路に連通する弁孔と、該弁孔を開閉する弁体とを備え、前記圧力回路の内圧を弁孔を介して弁体に作用させる一方、この弁体を前記内圧の作用方向と逆向きにコイルばねにより付勢してなり、圧力回路の内圧が上昇したとき、前記コイルばねのばね力に抗して生じる弁体の移動により弁孔を開口させ、該弁孔から流出する高圧の流体を、前記弁体及びコイルばねを収納する筒形のバルブハウジングの内部を通路として低圧部に解放するリリーフ動作を行うように構成されている。 【0007】 しかしながら、以上の如く構成されたリリーフ弁においては、バルブハウジングの内部に配されたコイルばねが螺旋状に巻回されたばね線の相互間に隙間を有しており、前述したリリーフ動作により弁孔から流出してバルブハウジング内を流れる高圧の流体が前記隙間を通過する際に、前記コイルばね及び流体に自励振動が発生し、この振動に起因する異音(うなり音)が発生するという問題があり、前述した車載用のポンプ装置への適用例においては、リリーフ動作毎に発生する前記うなり音が運転者に聴取され、不快感をもたらす虞れがある。 【0008】 本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、弁体の一側に弾接するコイルばね、及び流体の自励振動を抑制し、この振動に起因するうなり音の発生を有効に低減することが可能なリリーフ弁を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明の第1発明に係るリリーフ弁は、筒形のバルブハウジングの内部に、一側に弾接するコイルばねのばね力と他側に加わる圧力回路の内圧との力バランスに応じて移動する弁体を備え、該弁体の移動により開口する弁孔から流出する高圧の流体を、前記バルブハウジングの内部を介して低圧部に解放するリリーフ弁において、前記コイルばねの外側を略全長に亘って覆うカバー体を備えることを特徴とする。 【0010】 本発明においては、弁体の一側に弾接するコイルばねの外側を略全長に亘ってカバー体により覆い、リリーフ動作時に弁体及びコイルばねが配されたバルブハウジングの内部に流出する高圧の流体をカバー体の外側に沿って流し、コイルばねのばね線間の隙間を通過することを防止して、この通過により発生するコイルばね及び流体の自励振動を抑制し、この振動に起因するうなり音の発生を低減する。 【0011】 また本発明の第2発明に係るリリーフ弁は、第1発明におけるカバー体が、前記コイルばねの外周に嵌装されたチューブであることを特徴とする。 【0012】 この発明においては、コイルばねの外周にチューブを嵌め込み、コイルばねのばね線間の隙間を全周に亘って覆い、これらの線間の流体の通過をより有効に防止して、自励振動及びうなり音の発生を低減する。 【0013】 更に本発明の第3発明に係るリリーフ弁は、第2発明におけるチューブが、前記コイルばねの伸縮に追随して伸縮可能な弾性材料製であることを特徴とする。 【0014】 この発明においては、コイルばねの外周に嵌め込むチューブを、樹脂、ゴム等の弾性材料製とし、コイルばねの伸縮を阻害することなく、該コイルばねのばね線間を密に覆い、ばね線間の流体の通過を略完全に遮断して、自励振動及びうなり音の発生を一層有効に低減する。弾性材料製のチューブは、ばね線間の隙間に撓みを有して嵌装することができ、これによりコイルばねの伸縮への影響をより軽微に抑えることが可能である。」 「【0023】 以上の如きコイルばね5の外側は、本願発明の特徴であるカバー体6により、略全長に亘って覆われている。カバー体6は、樹脂、ゴム等の弾性材料製の薄肉のチューブとし、コイルばね5の全周を覆うように嵌装されているのが望ましい。 【0024】 図3は、カバー体6の嵌装手順の一例を示す説明図である。図示のカバー体6は、加熱により収縮する性質を有する熱収縮製樹脂製のチューブであり、コイルばね5の外径よりもやや大きい内径を有しており、図3(a)に示す如く、コイルばね5の一側端部から外側を覆うように外嵌し、その後、図3(b)に示す如く、外側からの加熱により収縮させて、図3(c)に示す如く、コイルばね5の線間に夫々撓み部6a,6a…が生じるように嵌装される。 【0025】 このように嵌装されたカバー体6は、コイルばね5の各線間の隙間を、全長に亘って、また全周に亘って覆うこととなり、また、この状態でのコイルばね5の伸縮に対し、各線間の撓み部6a,6a…の撓みの増減を伴って追随することができ、コイルばね5の伸縮動作を阻害しない。」 「【図1】 [図:0001398059000004.jpg] 」 「【図3】 [図:0001398059000005.jpg] 」 (イ)上記記載及び図面からの認定事項をまとめると、引用文献2には、次の技術的事項(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「弁が備える、流体の流路に設けられたコイルばね5に、加熱により収縮する性質を有する熱収縮性樹脂製のチューブであるカバー体6を外嵌し、外側から加熱して収縮嵌装させると、コイルばね5の各線間の隙間を、全周に亘って覆うことになること。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「高圧冷媒が導入される入口通路20」、「オリフィス44を通過した冷媒を蒸発器へ向けて送り出す出口通路50」、「弁室30」、「環状の弁座42」は、それぞれ本件補正発明の「供給側流路」、「排出側流路」、「弁室」、「弁座」に相当するので、引用発明の「弁本体10」は、本件補正発明の「弁本体」に相当する。 (イ)引用発明の「弁座42に対向する弁体40」は、弁体40が作動棒92に従い上下に変位することで弁室30内の流体の通過量を調整することが、上記【0015】に記載の「弁開度を制御する」の記載などから明らかであるから、本件補正発明の「前記弁座に着座することにより前記流体の通過を阻止し、前記弁座から離間することにより前記流体の通過を許容する弁体」に相当する。 (ウ)引用発明の「弁体40を弁座42に向けて付勢するコイルばね62」は、段落【0005】において「入口通路からオリフィスに向かう高圧冷媒がコイルばねに接するのを防止するべく」とされていることや、【図1】及び【図3】の図示から、「コイルばね62」が「入口通路20の最奥部である小径部22」に側面を向けていることが明らかなので、本件補正発明の「前記供給側流路から流入する流体の流れに対して側面を向けて前記弁室に配置され、前記弁体を前記弁座に向かって付勢するコイルばね」に相当する。 (エ)引用発明の「コイルばね62の下端を収容し、該コイルばね62を支持するとともに弁本体10に取り付けられる環状のプラグ64」は、本件補正発明の「前記コイルばねを内側に収容する管状部を備え、前記弁本体に取り付けられるばね受け部材」に相当する。 (オ)引用発明の「低圧通路の冷媒の圧力と温度に対応して弁体を駆動するパワーエレメント80」は、弁体40を作動棒92に従いコイルばね62に抗して上下に変位させることで弁室30内の流体の通過量を調整することが、上記【0015】の「弁開度を制御する」とした記載などから明らかであるから、本件補正発明の「前記コイルばねによる付勢力に抗して、前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する作動部材」に相当する。 (カ)引用発明の「入口通路20からオリフィス44に向かう高圧冷媒がコイルばね62に接するのを防止するべく、コイルばね62の外周部を覆うばねカバー部材100であって、ばねカバー部材100の下端部102は入口通路20の最奥部である小径部22の最下部よりもプラグ64側に延びており、ばねカバー部材100の外周面は小径部22の弁室30への開口部の全面に対向しており、プラグ64の上端部よりわずか上方まで延びているばねカバー部材100」と、本件補正発明の「少なくとも前記供給側流路の入口から流入する流体の流れに対向する位置に配置され、前記コイルばねのうち前記管状部に収容された部位を除き前記コイルばねの周囲に密着した熱収縮チューブであ」って、「開弁状態において、前記カバー部材の前記ばね受け部材側の端部の一部が前記管状部の開口端に位置し、前記端部の周方向で前記端部の一部以外の他部が前記管状部の開口端に対して弁座側に位置する」とされた「前記コイルばねを覆うカバー部材」とは、「前記コイルばねのうち前記管状部に収容された部位を除」いて「コイルばねを覆」い、「少なくとも供給側流路の入口から流入する流体の流れに対向する位置に配置され」る「カバー部材」という限りにおいて一致する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「供給側流路と排出側流路との間に設けられた弁室に配置され、前記供給側流路から前記排出側流路へと向かう流体が通過する環状の弁座を備えた弁本体と、 前記弁座に着座することにより前記流体の通過を阻止し、前記弁座から離間することにより前記流体の通過を許容する弁体と、 前記供給側流路から流入する流体の流れに対して側面を向けて前記弁室に配置され、前記弁体を前記弁座に向かって付勢するコイルばねと、 前記コイルばねを内側に収容する管状部を備え、前記弁本体に取り付けられるばね受け部材と、 前記コイルばねによる付勢力に抗して、前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する作動部材と、 前記コイルばねを覆うカバー部材と、を有し、 前記カバー部材は、少なくとも前記供給側流路の入口から流入する流体の流れに対向する位置に配置され、前記コイルばねのうち前記管状部に収容された部位を除いて覆っている、 膨張弁。」 【相違点】 「前記コイルばねのうち前記管状部に収容された部位を除」いて「コイルばねを覆」い、「少なくとも供給側流路の入口から流入する流体の流れに対向する位置に配置され」る「カバー部材」について、本件補正発明は、「コイルばねの周囲に密着した熱収縮チューブであ」って、「開弁状態において、前記カバー部材の前記ばね受け部材側の端部の一部が前記管状部の開口端に位置し、前記端部の周方向で前記端部の一部以外の他部が前記管状部の開口端に対して弁座側に位置する」のに対し、引用発明は、カバー部材100に関して、材質の特定も開弁状態における端部の位置の特定もされていない点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 上記「(2)引用文献の記載事項」の「イ 引用文献2」(ウ)に示したように、弁に備えるコイルばね5のカバー体6として、加熱により収縮する性質を有する熱収縮性樹脂製のチューブを用い、該コイルばね5に該チューブを外嵌し、外側から加熱して収縮嵌装させると、コイルばね5の各線間の隙間を、全周に亘って覆うことになることは、本願の出願前に当業者に知られた技術的事項である。 引用文献2でコイルばね5に熱収縮性樹脂製のチューブをかぶせる理由は、バルブハウジング内を流れる高圧の流体が前記隙間を通過する際に、コイルばね及び流体に自励振動が発生し、この振動に起因する異音(うなり音)が発生するという問題を解決するためとされており(引用文献2の明細書【0014】参照)、本願発明の膨張弁が備えるコイルばねに起因する課題(本願の明細書【0003】、【0007】参照)、引用発明の課題(引用文献1の【0004】参照)とも共通している。 そうすると、引用発明と、引用文献2の技術的事項とは、ばねのカバー部材という技術分野において共通し、かつ、解決しようとする課題にも共通性がある。 加えて、引用発明のカバー部材を、引用文献2の技術的事項の熱収縮性樹脂製のチューブに置換して収縮嵌装させると、コイルばね5の各線間の隙間を、全周に亘って覆うことになるが、チューブの端部は、収縮によりらせん状のコイルに密着することにより、チューブの端部もコイルの形状に倣って、らせん状の形態となることは当業者にとって明らかであるから、上記相違点で挙げたうち、「前記端部の周方向で前記端部の一部以外の他部が前記管状部の開口端に対して弁座側に位置する」こと、すなわち、本件の添付図面の図3(c)に見られる、巻き方向に伴う端部位置のずれ(図示で見られる、左右どちらかがより下側になる)が自然に生じることになり、その状態は、開弁時にも維持されると認められる。 さらに、引用発明のばねカバー部材100の外径は、引用例1の図1の図示内容からみて、プラグ64の径と略同じであるから、弁体40の上下動と共に上下動するばねカバー部材100は、構造上、下方向の最大変位時にばねカバー部材100の下端部はプラグ64に、ほぼ接すると見られ、引用発明のばねカバー部材100の開弁状態での位置は、当該相違点にかかる構成特定事項と同じく、カバー部材のばね受け部材側の端部の一部が管状部の開口端に位置することになると判断される。 よって、引用発明における、ばねカバー部材100に代えて、引用例2の技術的事項における、熱収縮性樹脂製のチューブを採用することにより、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、当該相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2の技術的技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和4年8月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年2月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、2に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2013-257064号公報 引用文献2:特開2005-344752号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明における「コイルばね」についての「開弁状態において、前記カバー部材の前記ばね受け部材側の端部の一部が前記管状部の開口端に位置し、前記端部の周方向で前記端部の一部以外の他部が前記管状部の開口端に対して弁座側に位置する」とした限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-012298

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