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特許拒絶査定不服審判

2022-010935

膀胱がんのバイオマーカーとしてのケラチン17

審判番号
2022-010935
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-527778
請求日
2022年07月13日
審決日
2023年03月06日
公報発行日
2023年08月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ザ・リサーチ・ファウンデーション・フォー・ザ・ステイト・ユニヴァーシティ・オブ・ニューヨーク
  • 【請求人代理人】村山 靖彦
  • 【請求人代理人】実広 信哉
  • 【請求人代理人】阿部 達彦
  • 【請求人】ケーディーエックス・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド
  • 【請求人代理人】村山 靖彦
  • 【請求人代理人】実広 信哉
  • 【請求人代理人】阿部 達彦
審判長/審判官
  • 審判長 樋口 宗彦
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 松本 隆彦
分類
P18 .121-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2019-527778「膀胱がんのバイオマーカーとしてのケラチン17」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 8日国際公開、WO2018/027091、令和 1年10月10日国内公表、特表2019-528460〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)8月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年8月5日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和3年5月31日付けで拒絶理由が通知され、同年12月7日に意見書及び手続補正書が提出され、令和4年3月7日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたのに対し、同年7月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。そして、同年9月15日に上申書が提出されている。 なお、上記上申書は、前置報告書に対する意見を述べる上申書を同年12月12日までに提出する旨を記載したものであるが、その後上申書は提出されていないことから、請求人の主張については、下記第2の2(2)ウ(ウ)で記載する審判の請求時における主張に対して判断することとする。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の請求項13の記載 本件補正により、本件補正前の請求項19は、本件補正後の請求項13として次のとおり補正された。 「【請求項13】 対象の膀胱がんを診断する方法であって、 対象から尿試料を受け取る工程であって、前記対象の尿試料が複数の膀胱細胞を含む、工程と、 定量的検出方法を使用して前記対象の尿試料の前記膀胱細胞中のK17タンパク質の量を検出する工程であって、 対照尿試料のK17発現の量と比較して、前記対象の尿試料中でK17タンパク質発現の量の10倍~60倍の間の増加が、前記対象が膀胱がんを有することを示す、工程と を含む、方法。」(下線は補正箇所である。) (2)本件補正前の請求項19の記載 本件補正前の請求項19の記載は次のとおりである。 「【請求項19】 対象の膀胱がんを診断する方法であって、 対象から尿試料を受け取る工程であって、前記試料が複数の膀胱細胞を含む、工程と、 定性的又は定量的検出方法を使用して前記試料の前記膀胱細胞中のK17タンパク質の量を検出する工程であって、 対照尿試料のK17発現の量と比較して、前記尿試料中でK17タンパク質発現の量の10倍~60倍の間の増加が、前記対象が膀胱がんを有することを示す、工程と を含む、方法。」 2 補正の適否 (1)補正の目的について 本件補正の請求項13についての補正は、少なくとも、補正前の「定性的又は定量的検出」を「定量的検出」とする択一的記載の一方を削除する補正事項を含むものであり、そして、本件補正前の上記請求項19に記載された発明と本件補正後の請求項13に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、当該補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 そこで、上記1(1)で記載した本件補正後の請求項13に係る発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (2)独立特許要件について ア 引用文献1について (ア)記載事項 本願の優先日前に頒布され、下記第3の2で記載する原査定の拒絶の理由において主引用例として引用された引用文献1(横野秀樹、外2名、「膀胱移行上皮癌におけるサイトケラチン17発現の意義」、日本臨床細胞学会雑誌、第38巻補冊2号、平成11年9月、p.571)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。 「膀胱移行上皮癌におけるサイトケラチン17発現の意義 北里研究所メディカルセンター病院 中央検査科1)、病理部2) ○横野秀樹(CT)1)、今井忠朗(CT) 1)、本告 匡(MD) 2) 【はじめに】サイトケラチン(CK)17は正常組織では喉頭、気管の基底細胞、子宮頸部の予備細胞、膀胱の基底層などに認められ、子宮頸部では腫瘍性病変の増殖とCK17の発現が相関することが示唆されている。今回、我々は、膀胱移行上皮癌におけるCK17の発現を免疫染色を用いて検討したので報告する。 【対象および方法】病理組織学的に移行上皮癌と診断された膀胱の手術・生検材料のホル マリン固定パラフィン切片(G1:13例、G2:25例、G3:15例)の癌部、非癌部を用いて、酵素抗体間接法によりCK17(E3,DAKO社)の発現を検討した。また、尿細胞診で陰性、陽性、classIIIと判定したPapanicolaou染色標本を脱色後、同様の検討を行った。 【結果】組織標本でのCK17の発現は非癌部では、ごく少数の基底側の細胞のみにみられた。癌部では、G1:9例(70%)、G2:22例(88%)、G3:15例 (100%)の腫瘍細胞に発現を認め、異型度が増すにつれ陽性率が高くなった。また深達度が深くなるにつれても陽性率が高くなった。 尿細胞診標本では、陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となった。陽性例では大部分の異型細胞で陽性となった。また、classIIIとした標本のうちその後の精査で良性疾患と考えられた症例と比較し、悪性であった症例ではより多くの細胞で陽性となった。 【まとめ】CK17の免疫染色は膀胱移行上皮の癌・非癌の鑑別に有用であり、尿細胞診においてはclassIIIの症例数を減らし、移行上皮癌の診断率を向上させることができる と思われた。」 (イ)引用発明について 上記引用文献1の記載事項(特に下線部参照)から、引用文献1には、次の発明が記載されていると求められる。 「膀胱移行上皮癌におけるサイトケラチン(CK)17の発現を免疫染色(酵素抗体間接法)を用いて尿細胞診で陰性、陽性、classIIIと判定する方法であって、 組織標本でのCK17の発現は非癌部では、ごく少数の基底側の細胞のみにみられ、癌部では、G1:9例(70%)、G2:22例(88%)、G3:15例 (100%)の腫瘍細胞に発現を認め、異型度が増すにつれ陽性率が高くなり、尿細胞診標本では、陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性となり、また、classIIIとした標本のうちその後の精査で良性疾患と考えられた症例と比較し、悪性であった症例ではより多くの細胞で陽性となることから、 CK17の免疫染色は膀胱移行上皮の癌・非癌の鑑別に有用であり、尿細胞診においてはclassIIIの症例数を減らし、移行上皮癌の診断率を向上させる、方法。」(以下「引用発明」という。) イ 対比 補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)「尿細胞診」とは、尿試料に出現する細胞について検査を行うことであり、引用発明1の「尿細胞診で」「膀胱移行上皮癌」を「陰性、陽性、classIIIと判定する」には、その尿試料に膀胱移行上皮細胞(すなわち膀胱細胞)を含まれていなければならないことから、引用発明の「尿細胞診」は、補正発明の「対象から尿試料を受け取る工程であって、前記対象の尿試料が複数の膀胱細胞を含む、工程」を有するものといる。 (イ)引用発明の「サイトケラチン(CK)17」は、K17タンパク質と同じものであることは技術常識(本願明細書の【0007】にも「ケラチン17(K17、KRT17、又はサイトケラチン17)」と記載されている)であるから、補正発明の「K17タンパク質」に相当する。 (ウ)補正発明における「定量的検出」について、本願明細書の【0011】に「方法は、定性的(すなわち、試料中で検出されたK17のどんな量も膀胱がんを示す)、又は定量的(所定のレベルを超える量のみ、対象が膀胱がんを有することを示す)であってもよい。」と記載され、K17の発現レベルについては、本願明細書の【0036】に「試料中のK17発現のレベルは、当業者によって既知の様々な技術を使用して決定されうる。本開示ある実施形態において、K17発現レベルは、免疫組織化学(IHC)、qRT-PCR、ノーザンブロッティング、ウエスタンブロッティング、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、マイクロアレイ分析、又は質量分析によって測定されてもよい。」と記載されている。 一方、引用発明では「免疫染色(酵素抗体間接法)を用いて」「組織標本でのCK17の発現は非癌部では、ごく少数の基底側の細胞のみにみられ、癌部では、G1:9例(70%)、G2:22例(88%)、G3:15例 (100%)の腫瘍細胞に発現を認め、異型度が増すにつれ陽性率が高くなり、尿細胞診標本では、陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性となり、また、classIIIとした標本のうちその後の精査で良性疾患と考えられた症例と比較し、悪性であった症例ではより多くの細胞で陽性となる」との結果を得ており、ここで「酵素抗体間接法」は実質的に上記本願明細書における「免疫組織化学(IHC)」のことであり、さらに、引用発明では「ごく少数の基底側の細胞のみ」、「深層細胞の一部にのみ」及び「多くの細胞で」と、CK17の発現について細胞に対する量的把握もしているといえる。 そうすると、引用発明の「尿細胞診標本」について「サイトケラチン(CK)17の発現を免疫染色(酵素抗体間接法)を用いて」行い「陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性とな」るという結果を得ているということは、補正発明の「定量的検出方法を使用して前記対象の尿試料の前記膀胱細胞中のK17タンパク質の量を検出する工程」を有しているといえる。 (エ)引用発明の「膀胱移行上皮癌におけるサイトケラチン(CK)17の発現を免疫染色(酵素抗体間接法)を用いて尿細胞診で陰性、陽性、classIIIと判定する方法であって」「異型度が増すにつれ陽性率が高くなり、尿細胞診標本では、陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性とな」る「膀胱移行上皮の癌・非癌の鑑別」をするということは、補正発明の「対象の尿試料中でK17タンパク質発現の量の増加が、前記対象が膀胱がんを有することを示す、工程」を有しているといえる。 (オ)そして、引用発明の「膀胱移行上皮の癌・非癌の鑑別」であり「移行上皮癌の診断」する「方法」は、補正発明の「対象の膀胱がんを診断する方法」に相当する。 (カ)一致点・相違点について 上記(ア)~(オ)を踏まえると、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「対象の膀胱がんを診断する方法であって、 対象から尿試料を受け取る工程であって、前記対象の尿試料が複数の膀胱細胞を含む、工程と、 定量的検出方法を使用して前記対象の尿試料の前記膀胱細胞中のK17タンパク質の量を検出する工程であって、 前記対象の尿試料中でK17タンパク質発現の量の増加が、前記対象が膀胱がんを有することを示す、工程と を含む、方法。」 (相違点) 対象が膀胱がんを有することを示すK17タンパク質発現の量の増加が、補正発明では、「対照尿試料のK17発現の量と比較して」「10倍~60倍の間」の増加であるのに対し、引用発明では、そのような指標が記載されていない点。 ウ 判断 (ア)相違点について a 補正発明における「対照尿試料」とは、本願明細書の【0007】に「本開示は、膀胱がんを有する対象の膀胱組織において、健常な対象の膀胱組織及び尿試料から決定されたK17発現レベルと比較してK17発現のレベルが上昇していることを検出して、K17の検出により信頼性の高い膀胱がんの診断検査を可能にすることができることを初めて確認するものである。」と、【0025】に「対照試料は、健常な対象(すなわち、がんがない患者)から得た尿細胞診試料である。」と記載されているとおり、健常な対照(がんでない患者)から得た尿試料である。 そして、補正発明における「K17タンパク質発現の量の増加」については、本願明細書の【0026】に、 「「増加する」、又は「より高い」若しくは「上昇した」という用語は、少なくとも、対照試料で確認された、測定された、又は分析された実体(K17発現又は量など)の相対量を超えていることを意味する。非限定的な例としては、対照試料の量から50%の増加、又は陰性対照試料の量から少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%、500%、1000%、若しくはそれより高い増加が含まれるが、それだけに限定されない。特定の実施形態において、対象が膀胱がんを有することを示すK17発現には、対照試料が示したK17発現の量と比較して少なくとも1倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、13倍、15倍、20倍、25倍、30倍、又はそれより高い増加が含まれる。本開示で使用される「K17発現のレベルの増加」とは、対照若しくは正常なK17発現のレベルとの比較における、又は参照試料若しくは標準物質によるセットで測定したK17発現のレベルとの比較における、細胞、生物若しくは試料中に存在する、K17タンパク質若しくはそれらのペプチド断片又はRNAの量の増加を意味することとする。ある実施形態において、試料中の任意の量のK17の検出とは、対照の量を超える増加である。ある特定の実施形態において、膀胱がんと対応するケラチン17発現のレベルの増加は、対照試料又は標準物質としてのセットが示したK17発現の量と比較して少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、13倍、15倍、20倍、25倍、30倍、又はそれより高いK17発現の増加があることによって実証される。」と、本願明細書の【0049】に、 「他の実施形態において、対象が膀胱がんを有することを示すK17発現は、対照試料が示すK17発現の量と比較して少なくとも1倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、13倍、15倍、20倍、25倍、30倍、又はそれより高い増加を含む。ある特定の実施形態において、対象の早期ステージの膀胱がんと対応する、PathSQによって測定されたK17発現は、対照(良性)試料のK17発現から10倍から60倍のK17発現の増加を示す試料中のK17染色によって実証される。他の実施形態において、対象の早期の膀胱がんは、対照試料のK17発現からの13倍から30倍のK17発現の増加を示す検査試料中のK17染色によって実証される。特定の実施形態において、対象の早期の膀胱がんは、対照試料のK17発現から約13倍、約15倍、又は約30倍のK17発現の増加を示す検査試料中のK17染色によって実証される。」と記載されているように、対照試料が示したK17発現の量と比較して、より高い増加である「10倍~60倍」という指標で対象が膀胱がんを有することを示しているといえる。 b 一方、引用発明は「尿細胞診標本では、陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性となり」と記載されているとこころ、ここで「陰性例」とは、上記aで述べた本願明細書における「健常な対照」といえ、「陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性」及び「陽性例では大部分の異型細胞で陽性」というように「陰性例」と「陽性例」とで比較しているともいえる。してみれば、引用発明の「尿細胞診」において、比較対象の「陰性例」が補正発明の「対照尿試料」に相当することになる。 また、膀胱癌において、マーカーとなるタンパク質の発現量が健常者と比べて有意に増加していることが、癌を有することを示していることは本願優先日前に周知である(例えば、(松本和将「膀胱癌関連蛋白の同定~二次電気泳動を含むプロテオーム解析~」電気泳動第59巻第2号2015年)の122頁左欄18~22行、等参照)。 c そうすると、引用発明の「膀胱移行上皮癌におけるCK17の発現を免疫染色を用い」た「尿細胞診」において、「陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性とな」り、「異型度が増すにつれ陽性率が高くな」るものであるから、「移行上皮癌の診断率を向上させる」ために、「陰性例」のサイトケラチン(CK)17の発現量と比較して、有意な増加を把握するべく、「膀胱移行上皮の癌」を有することを示すサイトケラチン(CK)17の発現量の増加として「10倍~60倍」を設定してみることは当業者が容易になし得たことである。 よって、上記相違点に係る補正発明の構成は、引用発明において当業者が容易になし得たことである。 (イ)効果について 本願明細書には実施例として(実施例1)~(実施例4)が記載されているが、いずれも「対照尿試料のK17発現の量と比較して」「10倍~60倍の間」の増加について記載するものではなく、これらの実施例から、対照尿試料のK17発現の量と比較して「10倍~60倍の間」の増加について、臨界的な技術上の意義を把握することはできない。そして、対照尿試料のK17発現の量と比較して「10倍~60倍の間」の増加について本願明細書に記載されている部分は、上記(ア)aで摘記したとおりである。 そうすると、対照尿試料のK17発現の量と比較して「10倍~60倍の間」の増加としたことによる効果として、より高い増加の場合に膀胱癌を有すると判断できること以上の効果は認められず、そして、より高い増加の場合に膀胱癌を有すると判断できるとの効果は、引用発明において当業者が予期し得る範囲の効果にすぎない。 よって、補正発明の効果は、引用発明と比較して、格別顕著な効果があるとはいえない。 (ウ)請求人の主張について a 請求人は、審判請求書の請求の理由で、引用文献1について、「本願発明では、「K17染色によりK17発現について前記細胞をスコアリングする工程であって、K17染色が2+であることが、前記対象が膀胱がん細胞を有することを示す、工程」及び「前記対照尿試料中のK17発現の量と比較して、対象の尿試料中でK17タンパク質発現の量の10倍~60倍の間の増加が検出される場合、対象が膀胱がんであると診断する工程」という、「膀胱がん」の判断指標が明確に規定されておりますが、引用文献1にはそのような規定は記載も示唆もされておりません。」と主張している。 b 請求人の主張に対する当審の判断 上記請求の主張のうち「前記対照尿試料中のK17発現の量と比較して、対象の尿試料中でK17タンパク質発現の量の10倍~60倍の間の増加が検出される場合、対象が膀胱がんであると診断する工程」の部分が、補正発明に対応する部分であり、上記イ「対比」で引用発明との(相違点)として記載したように、引用文献1には、請求人の主張のとおり、そのような判断指標は記載されているとはいえない。 しかし、上記ウ(ア)でその判断を説示したように、引用発明の「膀胱移行上皮癌におけるCK17の発現を免疫染色を用い」た「尿細胞診」において、「陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性とな」り、「異型度が増すにつれ陽性率が高くな」るものであるから、「移行上皮癌の診断率を向上させる」ために、「陰性例」のサイトケラチン(CK)17の発現量と比較して、有意な増加を把握するべく、「膀胱移行上皮の癌」を有することを示すサイトケラチン(CK)17の発現量の増加として「10倍~60倍」を設定してみることは当業者が容易になし得たことであるとの判断に変わりはない。 エ 小括 以上のことから、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 3 本件補正についてのむすび したがって、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~25に係る発明は、令和3年12月7日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~25に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記(引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1、3~8、10~16、18~25 ・引用文献1 原査定では、以下のように説示している。 「引用文献1には、尿細胞診標本では、陰性例では深層細胞の一部にのみ弱陽性となり、陽性例では大部分の異型細胞で陽性となり、ClassIIIとして標本のうちその後の精査では良性疾患と考えられた症例と比較し、悪性であった症例ではより多くの細胞で陽性となったことが記載されている([結果]を参照。)。 ここで、バイオマーカーによる診断に関する技術分野において、バイオマーカーの発現量について判断指標を定めることは、例示するまでもなく周知・慣用の技術的事項であると認められる。 してみると、引用文献1に記載された発明において、どのような判断指標で癌・非癌を鑑別するかは、具体的データに基づいて当業者が通常の手順に従い設定すべき設計的事項であって、本願発明の効果は、引用文献1の開示から当業者が予測し得るものにすぎない。」 ・請求項2 ・引用文献1、2 ・請求項9、17 ・引用文献1、3 <引用文献等一覧> 1. 横野秀樹、外2名、「膀胱移行上皮癌におけるサイトケラチン17発現の意義」、日本臨床細胞学会雑誌、第38巻補冊2号、平成11年9月、p.571 2.米国特許出願公開第2016/0187341号明細書 3.Vita I GUELSTEIN, et al.,「Immunohistochemical localization of cytokeratin 17 in transitional cell carcinomas of the human urinary tract」, 1993, Virchows Archiv B Cell Pathology, Vol.64, pp.1-5 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。 4 対比・判断 (1)本願発明は、上記第2の[理由]2(1)で記載したように、補正発明の「定量的検出」を「定性的又は定量的検出」するものであるから、「定量的検出」という点において補正発明と同じである。 また、本願発明は、補正発明の「前記対象の尿試料」との記載部分が「前記試料」となるが、本願発明にはもともと「対象から尿試料を受け取る」との記載があり、本願発明の「前記試料」とは対象の尿試料のことであるから、「前記試料」という点においても補正発明と実質的に同じである。 してみれば、本願発明の「定性的又は定量的検出」の択一的記載において「定量的検出」を選択すると、本願発明と補正発明とは実質的に同一である。 (2)補正発明が、上記第2の[理由]2(2)ア~エに記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 付記 なお、原査定の拒絶の理由にはなっていないものの、令和3年5月31日付けで通知された拒絶理由において、令和3年12月7日になされた手続補正前の請求項32~41(原査定時の請求項19~25が対応)に係る発明は、人間を診断する方法に該当することから、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないことを指摘しているところ、原査定時の請求項19に係る発明(本願発明)は、上記第2[理由]1(2)で記載したとおり「対象の膀胱がんを診断する方法」となっていることから、依然として特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。

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2022-010935

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    共通の審決分類: 121・G01N、575・G01N
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    共通の審決分類: 121・G01N、575・G01N
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    共通の審決分類: 121・G01N、575・G01N

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