特許拒絶査定不服審判
2022-011172
多色感光性ガラス系部品および製造方法
- 審判番号
- 2022-011172
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-517197外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年07月19日
- 審決日
- 2023年04月28日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コーニング インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】柳田 征史
- 分類
- P18 .113-Z (C03C) / P18 .121-Z (C03C) / P18 .575-Z (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項、特許法第184条の6第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-517197「多色感光性ガラス系部品および製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日国際公開、WO2017/218468、令和 1年 8月15日国内公表、特表2019-522623〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)6月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2016年6月13日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、令和3年3月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月7日に意見書及び手続補正書が提出され、令和4年3月8日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年7月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
令和4年7月19日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
2 補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に対して、「前記ガラス系基板は、750MPa以上の表面圧縮応力を有する」との記載を追加する補正事項を含むものである。
(2)本件補正の適否についての当審の判断
本件補正における上記補正事項は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ガラス系基板」について、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」ものに限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後における請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
ガラス系基板を含む物品であって、
前記ガラス系基板が、
第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含む第1領域と、
前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む第2領域と、
前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む第3領域と
を含み、
前記ガラス系基板は、750MPa以上の表面圧縮応力を有する、物品。
イ 引用文献1の記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2004-339001号公報)には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を意味する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Auイオンを含有するガラスの内部に所定の波長のパルスレーザ光を集光照射し、該パルスレーザ光の出力を変化させつつ集光点を移動させて所定の軌跡パターンを形成した後、該ガラスを加熱することを特徴とする、内部にカラーパターンを有するガラスを製造する方法。
・・・
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内部にカラーパターンを有するガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
透明感のある着色ガラスは、従来から熱還元法や光還元法を用いて金属微粒子をガラスに分散させることにより作製されている。
・・・
【0005】
また、最近では、Ceイオンとともにその他の金属イオンを含有させたガラスの内部にパルスレーザ光を集光照射する方法が提案されている(特許文献1参照)。これにより、レーザ光を集光照射した部分のみが金属微粒子化し、その部分が着色したガラスが得られる。
【0006】
【特許文献1】
特開平11-60271号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1で提案されたガラスの製造方法では、ガラスに単色の着色しか行えない。このため、このような方法で製造されたガラスを使用して作製された装飾品や置物等は、色彩デザイン上限られたものとなる。
【0008】
一のガラスの任意の場所を様々な色に着色することが可能であって、しかもそのカラーパターンを所望の形状とすることが可能となれば、装飾品や置物等のように工業的に生産される物品に限らず、オブジェのような美術品に至るまで、任意のガラスデザインを施すことが可能となり、デザインの可能性を広げるものとなる。
また、装飾品等のようにデザインが重視されるもの以外にも、光学系多色フィルタのような産業用製品を製造することも可能となる。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、ガラス内部を様々な色に着色することが可能であって、しかもそのカラーパターンを所望の形状とすることができるガラスの製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係る内部にカラーパターンを有するガラスの製造方法は、Auイオンを含有するガラスの内部に所定の波長のパルスレーザ光を集光照射し、該パルスレーザ光の出力を変化させつつ集光点を移動させて所定の軌跡パターンを形成した後、該ガラスを加熱することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
・・・
【0012】
上記母ガラスに、塩化金酸の水溶液、塩化金の塩酸溶液、塩化金酸塩等を添加することによりAuイオンを含有させる。・・・
・・・
【0014】
以上のガラス原料を使用して作製されたガラス内部の所定の部位にレーザ光を集光照射し、該ガラスを加熱すると、レーザ光が照射された部位にのみAu微粒子が析出し、Au微粒子分散ガラスとなる。ここで、ガラス内部とは、ガラスの内部だけでなくガラス表面も含む。
・・・
【0016】
光源から出射されたレーザ光がレンズ等の集光装置によりガラス内部に集光照射されると、集光点にAu微粒子が析出する。このため、集光点を連続的に移動させると、集光点の軌跡パターンにAu微粒子が析出する。・・・
【0017】
金属微粒子による着色は、金属微粒子による光の吸収と散乱に基づいており、ガラスの色調は析出した金属微粒子の粒径、濃度により変化する。ここで、本発明に係るガラスの製造方法では、パルスレーザ光をガラスの内部に集光照射することにより照射領域に結晶核を生成させた後、該ガラスを加熱することにより結晶を成長させる。このため、パルスレーザ光のパワーによって結晶核生成量を変化させることが可能であって、それによって析出するAu微粒子(結晶)の粒径を制御することができる。
【0018】
例えば、照射するパルスレーザ光のパワーが低く結晶核生成量が少ない場合には、結晶核とならずに残留しているAuイオン量が多いため、加熱時の結晶成長が促進され、一つ一つのAu微粒子の粒径は大きくなる。その結果、Au微粒子はより長波長の光を吸収するようになる。
一方、パルスレーザ光のパワーが高く核生成量が多い場合には、ガラス中にドープされたほとんどすべてのAuが核生成に使用されるため、加熱時の結晶成長は抑制される。その結果一つ一つのAu微粒子の粒径は小さくなり、Au微粒子はより短波長の光を吸収するようになる。
ここで、パルスレーザ光のピークパワーは、1パルス当りの出力エネルギ(J)をパルス幅(秒)で割った値であるワット(W)で表され、ピークパワー密度はそれを照射スポットの断面積で除したW/cm2で表される。
【0019】
上記メカニズムから、パルスレーザ光の出力を変化させつつ集光点を移動させて所定の軌跡パターンを形成させると、軌跡パターンが様々な色に着色した、内部にカラーパターンを有するガラスとなる。このパルスレーザ光の出力変化が連続的であれば、カラーパターンは連続的に変化し、出力変化が段階的であれば、カラーパターンも段階的に変化する。ここで、1×108W/cm2未満のピークパワー密度では、集光部分でAuイオンの還元反応が起こらずAu微粒子が析出しない場合があり、1×1018W/cm2を超えるピークパワー密度では、集光点以外の部分でもAuイオンが還元反応し、集光点以外でAu微粒子が析出する場合があるため、ピークパワー密度の範囲は1×108~1×1018W/cm2とするのが好ましい。この範囲の低ピークパワー密度では青紫色の着色が得られ、ピークパワー密度を高くするのに従って、紫色、赤紫色、赤色、橙色、黄色の着色が得られることとなる。なお、ガラス組成が異なると、一定のピークパワー密度でのレーザ照射により得られる着色は異なるものとなる。
【0020】
パルスレーザ光をガラス内部に集光照射した後、Au微粒子の結晶成長を促進させるため加熱処理を行う。ここで、450℃未満で加熱すると、結晶成長が促進されないため着色が得られない(か着色が可視域に入らない)場合があり、一方、650℃を超える温度で加熱すると、集光点以外の照射部分やレーザ光非照射部分にまでAu微粒子が析出し、ガラスが着色する場合があるため、450~650℃の範囲で加熱を行うのが望ましい。なお、加熱時間は3分~3時間程度であって、ガラス組成によって適宜定められる。
【0021】
【発明の効果】
本発明に係る方法によれば、内部に任意の形状のカラーパターンを有するガラスを作製することができる。これにより、装飾品や置物等のように工業的に生産される物品に限らず、オブジェのような美術品に至るまで任意のガラスデザインを施すことが可能となる。また、光学系多色フィルタのような産業用製品を製造することも可能である。
【0022】
【実施例】
(実施例1)
70SiO2・20Na20・10CaO・0.5Au(重量%)の組成を有するガラスを作製するため、SiO221.00g、Na2CO310.25g、CaCO35.35g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.31gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入した。これらを1550℃の大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、溶解したガラス原料を型に流し込んで厚み7mmの板に成形し冷却した。
【0023】
以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料10とし、試料10の内部にパルスレーザ光を照射した。
【0024】
試料10に対するパルスレーザ光の照射は、図1のようにして行った。すなわち、パルスレーザ光11をレンズ12で集光し、試料10内部の特定の部位に集光点13が位置するように調整後、集光点13が線状の軌跡を描くようにガラス試料10を平行に移動させながら、試料10内部にパルスレーザ光11を照射した。パルスレーザ光11としては、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅150fs、繰返し周期1kHz、波長750nmの光を使用し、3×1010,8×1012,1×1016W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に照射を行った。
レーザ光11を照射した後、ガラス試料10を電気炉に入れ、600℃で10分間加熱した。
【0025】
その結果、図2に示されるように、ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域、8×1012W/cm2の赤色領域、1×1016W/cm2の黄色領域から成る、線状のカラーパターン14を有するガラスが得られた。
【0026】
(実施例2)
70SiO2・15Na20・10CaO・5Al203・0.1Au・0.005CeO2(重量%)のガラス組成になるように、SiO221.00g、Na2CO37.69g、CaCO35.35g、Al2031.50g、CeO20.0015g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.063gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入した。これらを1550℃大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、型に流し込み、厚み7mmの板に成形し冷却した。
【0027】
以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料20とし、試料20の内部に実施例1と同様の方法で、集光点13が線状の軌跡を描くようにガラス試料20を平行に移動させながら、試料20内部にパルスレーザ光11を照射した。
パルスレーザ光11としては、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅200fs、繰返し周期1kHz、波長800nmの光を使用し、5×1011,3×1014,1×1017W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に照射を行った。
レーザ光11を照射した後、ガラス試料20を電気炉に入れ、550℃で20分間熱処理を行った。
【0028】
その結果、実施例1と同様、ピークパワー密度5×1011W/cm2で照射された青紫色領域、3×1014W/cm2の赤紫色領域、1×1017W/cm2の黄色領域から成る、線状のカラーパターンを有するガラスが得られた。
【0029】
(実施例3)
75SiO2・15Na20・10CaO・0.05Au・0.003Sb203・0.003SnO(重量%)のガラス組成になるように、SiO222.50g、Na2CO37.69g、CaCO35.35g、Sb2030.0009g、SnO0.0009g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.031gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入した。1550℃大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、型に流し込み、厚み7mmの板に成形し冷却した。
【0030】
以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料30とし、試料30の内部に実施例1と同様の方法で、集光点13が線状の軌跡を描くようにガラス試料30を平行に移動させながら、試料30内部にパルスレーザ光11を照射した。
パルスレーザ光11としては、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅800fs、繰り返し周期1kHz、波長630nmの光を使用し、1×1012,5×1015,5×1017W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に照射を行った。
照射後のガラス試料30を電気炉に入れ、500℃で60分間熱処理を行った。
【0031】
その結果、実施例1および実施例2と同様、ピークパワー密度1×1012W/cm2で照射された青紫色領域、5×1015W/cm2の橙色領域、5×1017W/cm2の黄色領域から成る、線状のカラーパターンを有するガラスが得られた。
【図1】
[図:0001402344000001.jpg]
【図2】
[図:0001402344000002.jpg]
ウ 引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1の上記イの記載によれば、引用文献1に記載された発明の概要は、以下のとおりである。
引用文献1に記載された発明は、内部にカラーパターンを有するガラスの製造方法に関するものである(【0001】)。
透明感のある着色ガラスは、従来から熱還元法や光還元法を用いて金属微粒子をガラスに分散させることにより作製されているが(【0002】)、従来のガラスの製造方法では、ガラスに単色の着色しか行えないため、このような方法で製造されたガラスを使用して作製された装飾品や置物等は、色彩デザイン上限られたものとなる(【0007】)。
引用文献1に記載された発明は、上記のような課題を解決するものであり、ガラス内部を様々な色に着色することが可能であって、しかもそのカラーパターンを所望の形状とすることができるガラスの製造方法を提供することを目的とするものである(【0009】)。
引用文献1に記載された発明は、内部にカラーパターンを有するガラスの製造方法であって、Auイオンを含有するガラスの内部に所定の波長のパルスレーザ光を集光照射し、該パルスレーザ光の出力を変化させつつ集光点を移動させて所定の軌跡パターンを形成した後、該ガラスを加熱するものである(【請求項1】、【0010】)。そして、それにより、内部に任意の形状のカラーパターンを有するガラスを作製することができるため、装飾品や置物等のように工業的に生産される物品に限らず、オブジェのような美術品に至るまで任意のガラスデザインを施すことが可能となるとともに、光学系多色フィルタのような産業用製品を製造することも可能であるという効果を奏するものである(【0021】)。
(イ)引用文献1には、上記(ア)のとおり、内部にカラーパターンを有するガラスの製造方法について記載されているところ、その具体例として、実施例1~3(【0022】~【0031】)が記載されている。
(ウ)以上によれば、特に、実施例1(【0022】~【0025】)、実施例2(【0026】~【0028】)、実施例3(【0029】~【0031】)にそれぞれ着目すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
なお、実施例1~3における「Na20」、「Al203」、「Sb203」は、それぞれ、「Na2O」、「Al2O3」、「Sb2O3」の誤記(「0」ではなく「O」)と認められる。
「70SiO2・20Na2O・10CaO・0.5Au(重量%)の組成を有するガラスを作製するため、SiO221.00g、Na2CO310.25g、CaCO35.35g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.31gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入し、1550℃の大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、溶解したガラス原料を型に流し込んで厚み7mmの板に成形し冷却し、
以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料とし、パルスレーザ光をレンズで集光し、試料内部の特定の部位に集光点が位置するように調整後、集光点が線状の軌跡を描くようにガラス試料を平行に移動させながら、試料内部にパルスレーザ光を照射し、
パルスレーザ光としては、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅150fs(フェムト秒)、繰返し周期1kHz、波長750nmの光を使用し、3×1010,8×1012,1×1016W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に照射を行い、
レーザ光を照射した後、ガラス試料を電気炉に入れ、600℃で10分間加熱して得られた、
ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域、8×1012W/cm2の赤色領域、1×1016W/cm2の黄色領域からなる、線状のカラーパターンを有するガラス板からなる試料。」(以下、「引用発明1」という。)
「70SiO2・15Na2O・10CaO・5Al2O3・0.1Au・0.005CeO2(重量%)のガラス組成になるように、SiO221.00g、Na2CO37.69g、CaCO35.35g、Al2O31.50g、CeO20.0015g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.063gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入し、1550℃大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、型に流し込み、厚み7mmの板に成形し冷却し、
以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料とし、
パルスレーザ光をレンズで集光し、試料内部の特定の部位に集光点が位置するように調整後、集光点が線状の軌跡を描くようにガラス試料を平行に移動させながら、試料内部にパルスレーザ光を照射し、
パルスレーザ光としては、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅200fs(フェムト秒)、繰返し周期1kHz、波長800nmの光を使用し、5×1011,3×1014,1×1017W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に照射を行い、
レーザ光を照射した後、ガラス試料を電気炉に入れ、550℃で20分間熱処理を行って得られた、
ピークパワー密度5×1011W/cm2で照射された青紫色領域、3×1014W/cm2の赤紫色領域、1×1017W/cm2の黄色領域からなる、線状のカラーパターンを有するガラス板からなる試料。」(以下、「引用発明2」という。)
「75SiO2・15Na2O・10CaO・0.05Au・0.003Sb2O3・0.003SnO(重量%)のガラス組成になるように、SiO222.50g、Na2CO37.69g、CaCO35.35g、Sb2O30.0009g、SnO0.0009g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.031gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入し、1550℃大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、型に流し込み、厚み7mmの板に成形し冷却し、
以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料とし、パルスレーザ光をレンズで集光し、試料内部の特定の部位に集光点が位置するように調整後、集光点が線状の軌跡を描くようにガラス試料を平行に移動させながら、試料内部にパルスレーザ光を照射し、
パルスレーザ光としては、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅800fs(フェムト秒)、繰り返し周期1kHz、波長630nmの光を使用し、1×1012,5×1015,5×1017W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に照射を行い、
照射後のガラス試料を電気炉に入れ、500℃で60分間熱処理を行って得られた、
ピークパワー密度1×1012W/cm2で照射された青紫色領域、5×1015W/cm2の橙色領域、5×1017W/cm2の黄色領域からなる、線状のカラーパターンを有するガラス板からなる試料。」(以下、「引用発明3」という。)
エ 引用発明1との対比
(ア)対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1における「70SiO2・20Na2O・10CaO・0.5Au(重量%)の組成を有するガラスを作製するため、SiO221.00g、Na2CO310.25g、CaCO35.35g、および塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)0.31gを混合し、これらのガラス原料を白金ルツボに投入し、1550℃の大気雰囲気中で3時間撹拌しながら加熱溶解した後、溶解したガラス原料を型に流し込んで厚み7mmの板に成形し冷却し、以上で得られたガラス板を切断・研磨して厚み5mmの試料とし」た「ガラス板」は、本件補正発明における「ガラス系基板」に相当する。
b 引用発明1において、厚み5mmの試料としたガラス板が有する線状のカラーパターンにおける「ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域」、「ピークパワー密度」「8×1012W/cm2の赤色領域」、「ピークパワー密度」「1×1016W/cm2の黄色領域」は、それぞれ、本件補正発明において、ガラス系基板に含まれる「第1領域」、「第2領域」、「第3領域」に相当する。
c 本件補正発明における「ガラス系基板を含む物品」と、引用発明1における「ガラス板からなる試料」とは、いずれも「ガラス系基板を含む物体」である限りで共通する。
d 以上によれば、本件補正発明と引用発明1とは、
「ガラス系基板を含む物体であって、
前記ガラス系基板が、
第1領域と、
第2領域と、
第3領域と
を含む、物体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1-1
本件補正発明では、第1領域が、「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」み、第2領域が、「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」み、第3領域が、「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」のに対して、引用発明1では、「ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域、8×1012W/cm2の赤色領域、1×1016W/cm2の黄色領域」の各領域が、それぞれ、上記のような各「金属ナノ粒子」を含むかどうか不明である点。
・相違点1-2
ガラス系基板を含む物体が、本件補正発明では、「ガラス系基板を含む物品」であるのに対して、引用発明1では、「ガラス板からなる試料」である点。
・相違点1-3
本件補正発明では、ガラス系基板が、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」のに対して、引用発明1では、ガラス板からなる試料が、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」かどうか不明である点。
(イ)相違点1-1の検討
a 引用発明1における厚み5mmの試料としたガラス板は、「ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域、8×1012W/cm2の赤色領域、1×1016W/cm2の黄色領域」の各領域からなる線状のカラーパターンを有するものである。
上記の各領域からなる線状のカラーパターンは、Ti-サファイアレーザから発振されたパルス幅150fs(フェムト秒)、繰返し周期1kHz、波長750nmのパルスレーザ光をレンズで集光し、試料内部の特定の部位に集光点が位置するように調整後、集光点が線状の軌跡を描くようにガラス試料を平行に移動させながら、3×1010,8×1012,1×1016W/cm2の3条件のピークパワー密度で段階的に、試料内部にパルスレーザ光を照射し、その後、ガラス試料を電気炉に入れ、600℃で10分間加熱して得られたものである。
b ここで、引用文献1には、
(a)ガラス内部の所定の部位にレーザ光を集光照射し、該ガラスを加熱すると、レーザ光が照射された部位にのみAu微粒子が析出し、Au微粒子分散ガラスとなること(【0014】)、
(b)集光点を連続的に移動させると、集光点の軌跡パターンにAu微粒子が析出すること(【0016】)、
(c)金属微粒子による着色は、金属微粒子による光の吸収と散乱に基づいており、ガラスの色調は、析出した金属微粒子の粒径、濃度により変化すること(【0017】)、
(d)パルスレーザ光をガラスの内部に集光照射することにより照射領域に結晶核を生成させた後、該ガラスを加熱することにより結晶を成長させるため、パルスレーザ光のパワーによって結晶核生成量を変化させることが可能であり、それによって析出するAu微粒子の粒径を制御することができること(【0017】)、
(e)例えば、照射するパルスレーザ光のパワーが低く結晶核生成量が少ない場合には、結晶核とならずに残留しているAuイオン量が多いため、加熱時の結晶成長が促進され、一つ一つのAu微粒子の粒径は大きくなり、その結果、Au微粒子はより長波長の光を吸収するようになること、一方、パルスレーザ光のパワーが高く核生成量が多い場合には、ガラス中にドープされたほとんどすべてのAuが核生成に使用されるため、加熱時の結晶成長は抑制され、その結果、一つ一つのAu微粒子の粒径は小さくなり、Au微粒子はより短波長の光を吸収するようになること(【0018】)、
(f)上記メカニズムから、パルスレーザ光の出力を変化させつつ集光点を移動させて所定の軌跡パターンを形成させると、軌跡パターンが様々な色に着色した、内部にカラーパターンを有するガラスとなること、また、このパルスレーザ光の出力変化が連続的であれば、カラーパターンは連続的に変化し、出力変化が段階的であれば、カラーパターンも段階的に変化すること(【0019】)、
(g)ピークパワー密度の範囲は1×108~1×1018W/cm2とするのが好ましく、この範囲の低ピークパワー密度では、青紫色の着色が得られ、ピークパワー密度を高くするのに従って、紫色、赤紫色、赤色、橙色、黄色の着色が得られること(【0019】)、
が記載されている。
c 引用文献1の上記bの記載によれば、ガラス内部の所定の部位にパルスレーザ光を集光照射することにより照射領域に結晶核を生成させた後、該ガラスを加熱することにより結晶を成長させると、パルスレーザ光が照射された部位にのみAu微粒子が析出し、Au微粒子分散ガラスとなるところ、そのAu微粒子による光の吸収と散乱に基づいてガラスが着色し、その色調は析出したAu微粒子の粒径により変化し、その粒径はパルスレーザ光のパワーによって制御することができ(パルスレーザ光のパワーが低く結晶核生成量が少ない場合は、加熱後のAu微粒子の粒径は大きくなり、パルスレーザ光のパワーが高く核生成量が多い場合は、加熱後のAu微粒子の粒径は小さくなる。)、1×108~1×1018W/cm2のピークパワー密度の範囲のうち、低ピークパワー密度では、青紫色の着色が得られ、ピークパワー密度が高くなるほど、紫色、赤紫色、赤色、橙色、黄色の着色が得られることが理解できる。
また、引用文献1の上記bの記載によれば、パルスレーザ光の集光点を連続的に移動させると、加熱後に集光点の軌跡パターンにAu微粒子が析出するところ、パルスレーザ光の出力を段階的に変化させつつ集光点を移動させて所定の軌跡パターンを形成させると、加熱後に軌跡パターンが段階的に様々な色に着色した、内部にカラーパターンを有するガラスとなることが理解できる。
d 以上を踏まえると、引用発明1における「ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域、8×1012W/cm2の赤色領域、1×1016W/cm2の黄色領域」の各領域は、各領域に照射されたパルスレーザ光のピークパワー密度に応じて、加熱後にそれぞれ所定の着色が得られているものであり、それらの着色は、各領域に析出したAu微粒子によるものと解される。そして、上記の各領域では、それぞれ異なる色調の着色が得られていることから、各領域にそれぞれ析出したAu微粒子の粒径(Au微粒子が複数析出していることは明らかであるから、それらAu微粒子の平均粒径)は、互いに異なっていると解される。
以上によれば、引用発明1における上記の各領域はAu微粒子を含み、上記の各領域におけるAu微粒子の平均粒径は互いに異なるものと認められる。
e ところで、引用発明1においては、「塩化金酸塩(AuHCl4・4H2O)」を混合することにより、ガラスにAuイオンを含有させているところ(引用文献1の【0012】を参照。)、Auイオンを含有させたガラスにフェムト秒レーザ(パルスレーザ)を集光照射後、熱処理することにより、ガラス中に「金ナノ粒子」が析出すること、また、その析出した「金ナノ粒子」によりガラスが着色することは、本願優先日の技術常識である(例えば、参考文献1、2を参照。)。
・参考文献1:平尾一之、外1名、「ナノ構造制御・ナノ加工技術による新機能性ガラスの開発と未来」、応用物理、応用物理学会、2006年、第75巻、第7号、833~842頁
「フェムト秒レーザーの集光照射と熱処理とを組み合わせることで,ガラス内部の局所領域に金属ナノ微粒子を析出させることに成功している.図15は,金イオンを添加したガラスに異なるエネルギー密度でフェムト秒レーザーを照射後,550℃で1時間熱処理することにより得られた,イメージ化した着色領域と,その一部を拡大した透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope :TEM)像である.
レーザー照射により金イオンが還元された後,還元された金原子は熱処理によりクラスター化することでナノ微粒子が形成されたもので,照射エネルギーが大きいほど析出する金ナノ微粒子の粒径は小さくなり,熱処理温度は高いほど粒径が大きくなる.着色領域の色調差は,ガラス中に析出した金ナノ微粒子の表面プラズモン吸収であり,吸収領域が粒径により異なる量子効果に起因する.」(840頁右欄「4.2 フェムト秒レーザーの応用展開」)
・参考文献2(令和3年3月30日付けの拒絶理由通知で引用):Shiliang Qu et al., " Optical nonlinearities of space selectively precipitated Au nanoparticles inside glasses ", Chemical Physics Letters,米国,2003年,368,352~358頁
「The glass samples with same composition of 70SiO2・20Na2O・10CaO doped with 0.1Au2O and 0.1Sb2O3 (mol%) were irradiated by a regeneratively amplified 800 nm, 120 fs, 1 kHz Ti:sapphire laser (Spectra-Physics Company) followed by heat treatment for half an hour at 550℃ for the precipitation of Au nanoparticles. The irradiated locus was controlled by a computer drived three-dimensional XYZ stage with precision of 100 nm. The laser power density at given irradiated area inside the glasses was adjusted through focusing lenses in a microscope. And thus the laser induced Au nanoparticle size was then controlled. The average sizes of the Au nanoparticles estimated by transmission electron microscopy (TEM) are shown in Table 1. The non-irradiated glass is transparent and colorless.」(353頁「2. Samples and experiments」)
当審訳
「0.1Au2Oおよび0.1Sb2O3(mol%)をドープした70SiO2・20Na2O・10CaOの同一組成のガラス試料に、Auナノ粒子の析出のために、再生増幅された800nm,120fs,1kHz Ti:サファイアレーザ(Spectra-Physics Company)を照射した後、550℃で30分間熱処理した。照射された軌跡は、100nmの精度でコンピュータ駆動の3次元XYZステージによって制御された。ガラス内部の所定の照射領域でのレーザ出力密度は、顕微鏡の集光レンズによって調整された。こうしてレーザ誘起Auナノ粒子サイズが制御された。透過型電子顕微鏡(TEM)により推定したAuナノ粒子の平均サイズを表1に示す。無照射ガラスは透明で無色である。」(353頁「2.サンプルと実験」)
「
[図:0001402344000003.jpg]
」(353頁の表1)
当審訳
「表1
フェムト秒レーザの誘導条件とそれに対応するAu粒子パラメータ
最終サンプル Au1 Au2 Au3
・・・
平均粒径(nm) 10-30 5-20 5-15
サンプル色 紫色 薄紫色 茶色 」
f そうすると、上記eの技術常識を踏まえると、引用発明1における上記の各領域にそれぞれ含まれるAu微粒子が「Auナノ粒子」であることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって、明らかである。
g 以上のとおりであるから、引用発明1における上記の各領域はAuナノ粒子を含み、上記の各領域におけるAuナノ粒子の平均粒径は互いに異なるものと認められる。
すなわち、引用発明1においては、「ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域」(本件補正発明における「第1領域」に相当する。)は、「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」み、「ピークパワー密度」「8×1012W/cm2の赤色領域」(同「第2領域」に相当する。)は、「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」み、「ピークパワー密度」「1×1016W/cm2の黄色領域」(同「第3領域」に相当する。)は、「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」ものと認められる。
以上によれば、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、引用発明1において、「ピークパワー密度3×1010W/cm2で照射された青紫色領域」を「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」むものとし、「ピークパワー密度」「8×1012W/cm2の赤色領域」を「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」むものとし、「ピークパワー密度」「1×1016W/cm2の黄色領域」を「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」ものと特定することは、当業者が容易に想到することである。
(ウ)相違点1-2の検討
a 引用発明1は、所定の線状のカラーパターンを有する「ガラス板からなる試料」であるところ、当該「試料」は、試験のために実施例1において製造された一種の「物品」と解されることから、引用発明1に係る「ガラス板からなる試料」も、一種の「ガラス板を含む物品」ということができる。
以上によれば、相違点1-2は実質的な相違点ではない。
b 仮に、そうでないとしても、引用文献1には、「本発明に係る方法によれば、内部に任意の形状のカラーパターンを有するガラスを作製することができる。これにより、装飾品や置物等のように工業的に生産される物品に限らず、オブジェのような美術品に至るまで任意のガラスデザインを施すことが可能となる。」(【0021】)と記載されていることから、引用発明1に係るガラス板からなる試料は、装飾品等の物品に用いられることを想定して、試験のために実施例1において製造したものといえる。
そうすると、引用発明1におけるガラス板を装飾品等の物品に用いることとし、所定の線状のカラーパターンを有する「ガラス板を含む」装飾品等の「物品」とすることは、当業者が容易に想到することである。
(エ)相違点1-3の検討
a 上記(ウ)のとおり、引用発明1に係るガラス板からなる試料は、装飾品等の物品に用いられることを想定して、試験のために実施例1において製造したものである。
b ここで、装飾性や美観が必要とされる用途に用いられるガラスにおいて、高い強度が求められること、ガラスの強度を高めるために、ガラスの表面に圧縮応力層を形成させること、その際、表面圧縮応力を750MPa以上とすることは、本願優先日における周知技術である(例えば、参考文献3、4を参照。)。
・参考文献3:国際公開第2015/137285号
「本発明は、電子機器、例えば携帯して使用可能な通信機器や情報機器等の筐体や装飾品に用いられる化学強化用ガラスおよび化学強化ガラスに関する。
携帯電話等の電子機器の筐体や装飾品は、装飾性、耐傷性、加工性、コスト等の様々な要因を考慮し、樹脂、金属等の素材から適宜のものが選択され、用いられている。
近年、従来用いられていなかったガラスを筐体の素材として用いる試みがされている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、携帯電話等の電子機器において、筐体本体をガラスで形成することにより、透明感のある独特の装飾効果を発揮することができるとされている。
携帯電話等の携帯して使用可能な電子機器の筐体や装飾品は、使用時の落下衝撃による破損や長期間の使用による接触傷を考慮し、高い強度が求められる。
ガラスの強度を高める方法として、ガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法が一般的に知られている。
ガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法としては、軟化点付近まで加熱したガラス板表面を風冷などにより急速に冷却する風冷強化法(物理強化法)と、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的にはLiイオン、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的にはLiイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に交換する化学強化法が代表的である。」([0001]~[0005])
「また、本発明の化学強化用ガラスは、上述したように、化学強化処理することで、化学強化されたガラスを得られるが、ガラス表面に形成される圧縮応力層の表面圧縮応力は、300MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましく、700MPa以上であることがさらに好ましい。また、表面圧縮応力層の表面圧縮応力は、1400MPa以下が好ましく、1300MPa以下がより好ましい。典型的には1200MPa以下である。」([0063])
(なお、表1~3には、実施例として、CS(表面圧縮応力)が750MPa以上であるガラスが多数記載されている。)
・参考文献4:特開2016-668号公報
「ヤング率が71.5GPa未満であり、かつ、B2O3を実質的に含有しない化学強化用ガラスをイオン交換して得られる化学強化ガラスであって、表面圧縮応力が800~1200MPaであり、圧縮応力層の厚みが25μm以上であり、内部引張応力が25~45MPaである化学強化ガラス。」(【請求項1】)
「本発明の実施形態は、モバイル機器に用いられるカバーガラス、ディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ等として有用な化学強化ガラスに関する。
近年、携帯電話や携帯情報端末(PDA)等のモバイル機器だけでなく、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等のディスプレイ装置の保護ならびに美観を高めるために、化学強化ガラス等の薄い板状のカバーガラスが用いられている(特許文献1及び特許文献2参照)。」(【0001】~【0002】)
「化学強化ガラスの表面圧縮応力(CS)は、化学強化用ガラスを化学強化する際の化学強化条件や化学強化用ガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。」(【0073】)
c そうすると、上記bの周知技術を踏まえると、装飾品等の物品に用いることが想定された引用発明1におけるガラス板において、強度を高めるために、その表面に表面圧縮応力が750MPa以上である圧縮応力層を形成することは、当業者が容易に想到することである。
(オ)本件補正発明の効果について
本件補正発明は、(特許法184条の6第2項の規定によりみなされた)本願明細書の記載によれば、本件補正後の請求項1に記載される発明特定事項を備えることにより、多色を有するガラス系物品を提供できる(【0003】、【0045】)とともに、ガラス系基板を強化できる(【0064】、【0080】、【0083】)という効果を奏するものであるところ、そのような効果は、引用文献1の記載(上記イを参照。)、本願優先日の技術常識(上記(イ)eを参照。)、同周知技術(上記(エ)bを参照。)から当業者が予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。
(カ)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オ 引用発明2との対比
(ア)対比
本件補正発明と引用発明2とを対比すると、上記エ(ア)と同様に、両者は、
「ガラス系基板を含む物体であって、
前記ガラス系基板が、
第1領域と、
第2領域と、
第3領域と
を含む、物体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2-1
本件補正発明では、第1領域が、「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」み、第2領域が、「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」み、第3領域が、「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」のに対して、引用発明2では、「ピークパワー密度5×1011W/cm2で照射された青紫色領域、3×1014W/cm2の赤紫色領域、1×1017W/cm2の黄色領域」の各領域が、それぞれ、上記のような各「金属ナノ粒子」を含むかどうか不明である点。
・相違点2-2
ガラス系基板を含む物体が、本件補正発明では、「ガラス系基板を含む物品」であるのに対して、引用発明2では、「ガラス板からなる試料」である点。
・相違点2-3
本件補正発明では、ガラス系基板が、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」のに対して、引用発明2では、ガラス板からなる試料が、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」かどうか不明である点。
(イ)相違点2-1の検討
相違点2-1は、上記相違点1-1と同様のものであるから、上記エ(イ)で相違点1-1について述べたのと同様の理由により、引用発明2においては、「ピークパワー密度5×1011W/cm2で照射された青紫色領域」(本件補正発明における「第1領域」に相当する。)は、「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」み、「ピークパワー密度」「3×1014W/cm2の赤紫色領域」(同「第2領域」に相当する。)は、「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」み、「ピークパワー密度」「1×1017W/cm2の黄色領域」(同「第3領域」に相当する。)は、「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」ものと認められる。
以上によれば、相違点2-1は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、引用発明2において、「ピークパワー密度5×1011W/cm2で照射された青紫色領域」を「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」むものとし、「ピークパワー密度」「3×1014W/cm2の赤紫色領域」を「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」むものとし、「ピークパワー密度」「1×1017W/cm2の黄色領域」を「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」ものと特定することは、当業者が容易に想到することである。
(ウ)相違点2-2の検討
相違点2-2は、上記相違点1-2と同様のものであるから、上記エ(ウ)で相違点1-2について述べたのと同様の理由により、相違点2-2は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、上記エ(ウ)で相違点1-2について述べたのと同様の理由により、引用発明2におけるガラス板を装飾品等の物品に用いることとし、所定の線状のカラーパターンを有する「ガラス板を含む」装飾品等の「物品」とすることは、当業者が容易に想到することである。
(エ)相違点2-3の検討
相違点2-3は、上記相違点1-3と同様のものであるから、上記エ(エ)で相違点1-3について述べたのと同様の理由により、装飾品等の物品に用いることが想定された引用発明2におけるガラス板において、強度を高めるために、その表面に表面圧縮応力が750MPa以上である圧縮応力層を形成することは、当業者が容易に想到することである。
(オ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果については、上記エ(オ)で述べたとおりであり、引用文献1の記載、本願優先日の技術常識、同周知技術から当業者が予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。
(カ)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
カ 引用発明3との対比
(ア)対比
本件補正発明と引用発明3とを対比すると、上記エ(ア)と同様に、両者は、
「ガラス系基板を含む物体であって、
前記ガラス系基板が、
第1領域と、
第2領域と、
第3領域と
を含む、物体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3-1
本件補正発明では、第1領域が、「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」み、第2領域が、「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」み、第3領域が、「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」のに対して、引用発明3では、「ピークパワー密度1×1012W/cm2で照射された青紫色領域、5×1015W/cm2の橙色領域、5×1017W/cm2の黄色領域」の各領域が、それぞれ、上記のような各「金属ナノ粒子」を含むかどうか不明である点。
・相違点3-2
ガラス系基板を含む物体が、本件補正発明では、「ガラス系基板を含む物品」であるのに対して、引用発明3では、「ガラス板からなる試料」である点。
・相違点3-3
本件補正発明では、ガラス系基板が、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」のに対して、引用発明3では、ガラス板からなる試料が、「750MPa以上の表面圧縮応力を有する」かどうか不明である点。
(イ)相違点3-1の検討
相違点3-1は、上記相違点1-1と同様のものであるから、上記エ(イ)で相違点1-1について述べたのと同様の理由により、引用発明3においては、「ピークパワー密度1×1012W/cm2で照射された青紫色領域」(本件補正発明における「第1領域」に相当する。)は、「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」み、「ピークパワー密度」「5×1015W/cm2の橙色領域」(同「第2領域」に相当する。)は、「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」み、「ピークパワー密度」「5×1017W/cm2の黄色領域」(同「第3領域」に相当する。)は、「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」ものと認められる。
以上によれば、相違点3-1は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、引用発明3において、「ピークパワー密度1×1012W/cm2で照射された青紫色領域」を「第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含」むものとし、「ピークパワー密度」「5×1015W/cm2の橙色領域」を「前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含」むものとし、「ピークパワー密度」「5×1017W/cm2の黄色領域」を「前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む」ものと特定することは、当業者が容易に想到することである。
(ウ)相違点3-2の検討
相違点3-2は、上記相違点1-2と同様のものであるから、上記エ(ウ)で相違点1-2について述べたのと同様の理由により、相違点3-2は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、上記エ(ウ)で相違点1-2について述べたのと同様の理由により、引用発明3におけるガラス板を装飾品等の物品に用いることとし、所定の線状のカラーパターンを有する「ガラス板を含む」装飾品等の「物品」とすることは、当業者が容易に想到することである。
(エ)相違点3-3の検討
相違点3-3は、上記相違点1-3と同様のものであるから、上記エ(エ)で相違点1-3について述べたのと同様の理由により、装飾品等の物品に用いることが想定された引用発明3におけるガラス板において、強度を高めるために、その表面に表面圧縮応力が750MPa以上である圧縮応力層を形成することは、当業者が容易に想到することである。
(オ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果については、上記エ(オ)で述べたとおりであり、引用文献1の記載、本願優先日の技術常識、同周知技術から当業者が予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。
(カ)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~15に係る発明は、令和3年10月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
ガラス系基板を含む物品であって、
前記ガラス系基板が、
第1平均粒径を有する成分の金属ナノ粒子を含む第1領域と、
前記第1平均粒径とは異なる第2平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む第2領域と、
前記第1平均粒径および前記第2平均粒径とは異なる第3平均粒径を有する前記成分の金属ナノ粒子を含む第3領域と
を含む、物品。
第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
1 拒絶理由1(新規性)
本願の請求項1~7に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記3の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
2 拒絶理由2(進歩性)
本願の請求項1~7に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記3の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献
・引用文献1:特開2004-339001号公報
第5 当審の判断
1 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明(引用発明1~3)は、上記第2の2(2)イ、ウのとおりである。
2 本願発明と引用発明との対比、判断
(1)本願発明は、上記第2で検討した本件補正発明において、「前記ガラス系基板は、750MPa以上の表面圧縮応力を有する」点を省いたものに相当する。
(2)本願発明と引用発明1とを対比すると、上記第2の2(2)エ(ア)と同様に、相違点1-1と同様の点、及び、相違点1-2と同様の点で相違し、その余の点で一致するところ、上記第2の2(2)エ(イ)、(ウ)、(オ)と同様の理由により、これらの相違点はいずれも実質的な相違点ではないか、あるいは、当業者が容易に想到するものである。
(3)本願発明と引用発明2とを対比すると、上記第2の2(2)オ(ア)と同様に、相違点2-1と同様の点、及び、相違点2-2と同様の点で相違し、その余の点で一致するところ、上記第2の2(2)オ(イ)、(ウ)、(オ)と同様の理由により、これらの相違点はいずれも実質的な相違点ではないか、あるいは、当業者が容易に想到するものである。
(4)本願発明と引用発明3とを対比すると、上記第2の2(2)カ(ア)と同様に、相違点3-1と同様の点、及び、相違点3-2と同様の点で相違し、その余の点で一致するところ、上記第2の2(2)カ(イ)、(ウ)、(オ)と同様の理由により、これらの相違点はいずれも実質的な相違点ではないか、あるいは、当業者が容易に想到するものである。
3 まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないか、あるいは、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないか、あるいは、同法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-011172