特許拒絶査定不服審判
2022-009302
結晶格子湾曲のないA-B結晶
- 審判番号
- 2022-009302
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-106290外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月16日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .536-Z (C30B) / P18 .537-Z (C30B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第5項第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-106290「結晶格子湾曲のないA-B結晶」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月 1日出願公開、特開2020-158388〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)3月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月20日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願である特願2017-549197号(以下「原出願」という。)の一部を2020年(令和2年)6月19日に新たな特許出願(特願2020-106290号)としたものであって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 6月19日 :上申書の提出
令和 3年 7月30日付け:拒絶理由通知
同年10月29日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 2月22日付け:拒絶査定
同年 6月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年12月23日 :上申書の提出
第2 本願発明
令和4年6月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本願の特許請求の範囲についてするものであって、補正前の請求項2の「補助物質が存在し」を、補正後の請求項2の「補助物質としてのインジウムが存在し」とする補正事項のみからなるものである。
そして、本件補正の適法性について検討すると、前記補正事項は、拒絶査定に係る補助物質の内容の不明瞭さに関する拒絶の理由についてするものであって、審判請求人も、審判請求書において、「・請求項2 補正により、補助物質がインジウムであることを明確にしましたので、請求項2に係る発明及び請求項2を引用する請求項3に係る発明は明確になりました。」と主張するものである。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」との事項を目的としたものといえる。
してみれば、本件補正は適法なものであるから、本願の請求項1~3に係る発明は、令和4年6月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである(なお、請求項1についての補正はない。)。
「【請求項1】
III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶であって、それぞれIII-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度が、最大で1×104cm-3であることを特徴とする単結晶。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由である、令和3年7月30日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。
1 理由1(実施可能要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由2(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
●理由1(実施可能要件)、理由2(明確性)について
請求項1には「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」と記載されているが、上記濃度は、検出する析出物やインクルージョンのサイズや、非化学量論的III-V-、IV-IV-又はII-VIインクルージョンの種類によって異なるため、「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」の定義が不明りょうである。
また、「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」の測定方法について、発明の詳細な説明には、「適切な方法は、例えば、M. Naumannn et al. 、「Laser scattering experiments in VCz GaAs」J. of Crystal Growth 210 (2000) 203-206およびSteinegger et al. 、「Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor process Optimization」Solid State Phenomena Vols. 108-109(2005)第597~602頁に記載されるような、レーザ散乱トモグラフィ(簡潔にLST)である。」(【0058】)と記載されているが、レーザ散乱トモグラフィに用いる、レーザの波長、強度、ビーム径、検出感度等の具体的な測定条件が不明であり、「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」はどのような測定条件で決定された濃度であるのかが不明である。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
●理由1(実施可能要件)について
発明の詳細な説明には、「妨害する析出物または非化学量論的なインクルージョン、例えばIII-析出物または非化学量論的III-V-インクルージョン、同様にII-またはIV-析出物またはII-VI-またはIV-IV-インクルージョンは、記載のプロセスによって回避または低減できる。」(【0137】)と記載されているが、「記載のプロセス」は、具体的にどのプロセスであるのかが不明である。
さらに、「III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶」には、様々な化合物結晶が含まれるが、発明の詳細な説明には、特定の化合物について言及されているのみである。その特定の化合物についても、温度、圧力、H2分圧、H2流量、Cl2分圧、Cl2流量、HCl分圧、HCl流量、補助物質の分圧、補助物質の流量、NH3分圧、NH3流量、III/V比等の各種条件について、数値範囲の記載がないか、広範な数値範囲が記載されているのみである。HVPE装置の具体的な構成も不明である。特に、H2、Cl2、HClガス導入部の形成箇所が不明であり、物質が反応器内に導入されない又は物質が反応器から出されない構成であるのか否かも不明である。
よって、発明の詳細な説明には、具体的な製造条件については記載されておらず、請求項1に記載の単結晶を得ることは、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤等を必要とするものである。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
第4 当審の判断
1 発明の詳細な説明の記載内容
本願の明細書の発明の詳細な説明には、次の内容が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同様。)。
(1)製造プロセスについて
「【0021】
(1)III-V、IV-IVまたはII-VI化合物半導体結晶の製造プロセスであって、
a)成長させるべき半導体結晶の結晶層(バッファ層)を任意に含む基板を結晶成長反応器に提供する工程と、
b)バッファ層を任意に含むa)に従って提供された基板上方に気相を提供する工程であって、この気相が、化合物半導体のための元素(II、III、IV、V、VI)の少なくとも2つの反応体を含み、これらの反応体が、結晶成長反応器中の反応温度で気体であり、選択された反応条件にて互いに反応性であり、これらの反応体が、適切なIII-、IV-またはII-前駆体または元素およびV-、IV-またはVI-前駆体または元素の反応から誘導され、
これらの反応体2つの濃度比は、化合物半導体結晶が気相から結晶化するように調整され、
少なくとも1つの共反応体が気相に存在し、これが少なくとも1つのIII-、IV-またはII-反応体または前駆体または元素と反応する、工程と、
c)バッファ層を任意に含む基板の表面上への化合物半導体結晶の堆積工程であって、
b)に従って提供された気相は、工程c)の少なくとも1つの堆積過程の間、前駆体化合物または元素の少なくとも1つを結晶成長が可能となる十分な出発材料が提供されるように高濃度で含み、III-、IV-またはII-化合物それぞれを還元する還元剤および共反応体の添加または調整によって、III-、IV-またはII-化合物の気相中での活性を低下させ、結果として結晶の成長速度を、共反応体のない状態と比べて遅くするが、半導体結晶成長は停止しない、工程と
を含むプロセス。」
「【0023】
(3)III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物半導体結晶の製造プロセスであって、
a)成長させるべき半導体結晶の結晶層(バッファ層)を任意に含む基板を結晶成長反応器に提供する工程と、
b)バッファ層を任意に含むa)に従って提供された基板上方に気相を提供する工程であって、この気相が、化合物半導体のための元素(II、III、IV、V、VI)の少なくとも2つの反応体を含み、これらの反応体が、結晶成長反応器中の反応温度で気体であり、選択された反応条件にて互いに反応性であり、これらの反応体が、適切なIII-、IV-またはII-前駆体または元素およびV-、IV-またはVI-前駆体または元素の反応から誘導され、
これら反応体2つの濃度比は、化合物半導体結晶が気相から結晶化するように調整され、
少なくとも1つの共反応体が気相に存在し、これが少なくとも1つのII-、III-またはIV-反応体または前駆体または元素と反応する、工程と、
c)バッファ層を任意に含む基板の表面への化合物半導体結晶の堆積工程であって、
b)に従って提供された気相は、工程c)の少なくとも1つの堆積過程の間、前駆体または元素の少なくとも1つを結晶成長が可能となる十分な出発材料が提供できるように高濃度で含み、III-、IV-またはII-化合物それぞれを還元する還元剤の添加または調整によって、化合物半導体の結晶成長ゾーンの表面へIII-、IV-またはII-元素の元素状金属、好ましくは液体金属膜を形成する工程とを含むプロセス。」
「【0031】
(11)A-B結晶の製造プロセスであって、Aが元素周期表の第3(III)、第4(IV)または第2(II)主族/副族の少なくとも1の元素であり、Cd、Zn、Hg、Al、Ga、In、Si、CおよびGeから選択され、Bは元素周期表のV-、IV-またはVI-主族/副族の少なくとも1つの元素であり、C、Ge、N、P、As、Sb、S、Se、Teから選択され、
i)A-Bバッファ層を任意に含む基板を提供する工程と、
ii)A-B-バッファ層を任意に含む基板上側にエピタキシャル「3D」成長モードでA-B-層を成長させる工程であって、ここで基板または任意のバッファ層は、所望の総成長方向に垂直ではない表面を含み、隆起部および隆起部間の下方ギャップを有する構造化表面が形成される工程と、
iii)基板上方に平滑な表面を得るためのさらなるA-B材料の成長または堆積による、工程ii)から得られた隆起部間のギャップの充填工程、ならびに iv)エピタキシャル「2D」成長モードでのiii)によって得られた平滑な表面上にさらにA-B層を成長させる工程であって、
少なくとも工程ii)、任意でさらに工程iii)および/またはiv)が、存在するIII-、IV-またはII-元素または所定の半導体化合物とは異なるが等電子的である、1つまたは複数の補助物質の存在下で行われ、
堆積過程の間における提供および堆積により、化合物半導体の結晶成長ゾーンの表面に液体金属膜の形態でIII-、IV-またはII-元素の元素状金属を形成する、工程とを含むプロセス。」
「【0119】
III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物半導体結晶の製造のための上述の反応は、基本的にHVPE配列または設定で行うことができるが、ここで条件はそれぞれ記載されるように適応される。」
(2)温度について
「【0038】
(18)工程iii)において、好ましくは工程(iv)においても、横方向(「2D」)結晶成長が、温度を上昇させること・・・によって得られる、項目11から17の1つに記載のプロセス。」
「【0050】
(30)項目11から29の1つに記載のプロセスであって、特に、III-NがGaNを意味する場合、工程ii)の「3D」成長モードについて、700~850℃の範囲の第1の相対的に低い温度が選択され、および工程iv)の「2D」成長モードについて、第1の温度と比較して、約900~1050℃の範囲の相対的に高い第2の温度が選択され、工程iii)において、第1の温度と第2の温度との間の温度が選択されるか、または「3D」成長温度から「2D」成長温度まで適宜温度を上昇させるプロセス。」
「【0071】
GaはCl2と反応しGaCl(より高い温度で)またはGaCl3(より低い温度で)となり、それ故、所定のプロセス条件(≧800℃)では主にGaClとして存在する。Cl2またはHClの追加的な過剰化学量論的添加により、GaClが安定化され、それによってGaClまたはGaCl3の活性(a)が低下し、故にゆっくりと反応するが、これはGaNの形成にとって特に重要である(反応3aを参照)。」
「【0104】
GaAsの場合、基板が、例えば、転位密度が5×104~3×105cm-2のGaAs-LEC基板(Liquid Encapsulated Czochalskiプロセスに従って作製される)であるように配列が選択できる。この上に、GaCl/GaCl3およびAsH3が、650℃~850℃の温度範囲で送達され、反応させられる。先の配列と同様に、InCl/InCl3は、GaAs上に液体In膜を形成するために系に挿入される。」
「【0105】
GaPの場合、基板が、例えば5×104~3×105cm-2の転位密度を有するGaAs基板(例えば、LEC-GaAsとして作製される)であるように配列が選択できる。この上に、InCl/InCl3およびPH3を挿入し、例えば850℃~1050℃の温度範囲で反応させる。GaP結晶を成長させるための補助物質の有利で好ましい使用に関して、先の配列と同様に、例えばInCl/InCl3を用いて、GaP上方にGaを有する液体In膜を形成するために、インジウムのような補助物質を系に挿入するという本発明による特異性がある。」
「【0107】
反応温度は、好ましくは450℃~1200℃の範囲、さらに好ましくは可能な限り高く、約1000℃以上、例えば1050℃であるべきであり、ここで絶対温度は、圧力およびガス雰囲気の化学組成に依存して影響される。」
「【0116】
しかし、液相Gaは、GaClが少量の原子状窒素と平衡状態にある場合、固体GaNの他、適切な温度(例えば、900℃)で熱化学的平衡計算に存在し、これは相境界で直接的に実現可能である。水素が系に加えられると、GaNの量が減少し、Gaの量が増加する(図1参照)。
【0117】
図1は、増加する水素濃度(10-3~10-1モル)における熱化学平衡に存在するGaとGaNのモル数を示す。ここで、GaNの量はほぼ同じであるが、GaClは水素と反応してHClおよびGaになるという事実によって生じるようにGaの量が大きく増加する。これにより、水素濃度の増加に伴う熱化学平衡における固体GaNの他、900℃における液相Gaの存在が実証される。」
(3)圧力について
「【0106】
一般的なプロセスに関する好ましい実施形態では、反応器内の圧力は100mbar~100atm、好ましくは1atm以上、最良には10atm以上でなければならない。高い気相濃度を得るためには、少なくとも1atmの圧力が好ましい。」
(4)A/B比について
「【0038】
(18)工程iii)において、好ましくは工程(iv)においても、横方向(「2D」)結晶成長が、・・・A/B比の増大によって得られる、項目11から17の1つに記載のプロセス。」
「【0049】
(29)工程iv)の「2D」成長モードのそれぞれの条件と比較して、工程ii)の「3D」成長モードに関して下記条件のうち少なくとも1つが選択される、先行する項目11から28の1つに記載のプロセスであって、下記条件とは、「2D」成長モードと比較してより低い成長温度と、例えばより高いNH3濃度を介した「2D」成長と比較して高いN/III比である。」
「【0102】
例えばAlNの成長中、Alは約600℃でAlCl3に変換され、1400℃~1600℃でNH3によりAlNに転化される。ここで、上述の境界条件では、III/V比は1に近いかそれ以上であるが、少なくとも1/50でなければならない。」
「【0110】
III/VまたはII/VI比は1~1/1000、通常は1/10~1/100であるべきであるが、1/10以上の値が好ましい。」
(5)厚さについて
「【0052】
(32)工程ii)において、「3D」層は、層が析出した支持体から最も高い点まで測定される場合、約50~500μm、好ましくは100~150μmになり、工程c)において、この得られた厚さは、この厚さがさらに工程iv)の「2D」層形態において増大する前、好ましくは顕著に増大する前に、増大しないか、または最大100μm、好ましくは最大30μmだけ増大する、先行する項目11から31の1つに記載のプロセス。
【0053】
(33)工程iv)において、先に得られた厚さが、少なくとも100μm、好ましくは少なくとも500μm、さらに好ましくは少なくとも1mm、特に好ましくは少なくとも5mm、1cm、2cm、5cmまたは少なくとも10cm増大する、先行する項目11から32の1つ、特に先行する項目に記載のプロセス。」
(6)液相について
「【0076】
GaClは、ガス状の還元手段または還元剤(ここではH2)を用いてGaおよびHClに転化することができ、したがって、(本発明のプロセスにとって重要であり有利な)Ga膜を基板上に、特に成長すべき結晶上に導くことができる。成長すべき結晶の相境界におけるさらなる反応体の濃度は、液体膜によって溶液成長の条件まで増大させることができる。しかし、液相の層の厚さは、薄くまたは非常に薄く、適切にはより低いμmまたはさらにはnmの範囲で、原子寸法にまでさえ維持できる。」
「【0114】
前駆体を(必要に応じて任意の補助物質も)元素状金属またはそれぞれの元素に還元できるように、水素が添加される。これにより、成長させるべき結晶上に液相を形成することができ、原子の原子移動度を高める。(上述の反応の境界条件に影響を与えることによって実現可能なように)液相の層の厚さが薄い場合、または極めて薄い場合でも、化合物半導体結晶の直上の拡散限界のため、成長速度は実質的にもまたは認識できる程度にも低下しない。液相の存在の証拠は、直接的または間接的に提供することができる。」
(7)水素濃度、水素分圧について
「【0068】
【図1】増加する水素濃度における熱化学平衡に存在するGaとGaNのモル数を示すグラフである。」
「【図1】
[図:0001407119000001.jpg]
」
「【0075】
水素は存在する他の物質と平衡状態にあり、従って他の平衡に影響を与えるので、H2分圧の適応は重要である。」
「【0109】
水素濃度は少なくとも30モル%、例えば約50モル%、最大で約80モル%まででなければならない。」
(8)HCl、Cl2の量について
「【0072】
所望のGaN形成確率/成長速度のために、GaCl濃度は、HClの添加および一定のNH3濃度の場合に増大させることができる、または、増大させなければならない。これは、GaN成長の間の表面近傍の気相のGa欠損を避けるために重要であり、これが成長させるべき結晶の結晶性の改善が得られる理由である。」
「【0111】
しかし、物質輸送に必要であり、平衡の形成に好ましい効果を有するCl2の量に関して、GaClの形成に必要なCl2のほぼ2倍、最大で3倍の量が使用されるべきである。」
(9)共反応体について
「【0113】
基本的にエピタキシャル成長が生じることが確実にされるべきであり、これは支持体の結晶構造が、同じ物質であるか異なる物質であるかにかかわらず、成長する結晶内で継続されることを意味する。結晶成長は、定量的に添加された共反応体、例えば、ハロゲン(Cl、I、Br)または結合したハロゲン(HCl、HI、HBr)を用いてそれぞれ生じる。ハロゲンまたはハロゲン化合物は過剰の(過)化学量論的な濃度で添加され、結晶化面から生じる濃度低下を可能な限り回避することができるので、結晶品質の向上に繋がる。この場合、同時に、成長する結晶の成長速度はIII、IVまたはIIの必要濃度に依存して低下する。」
(10)反応について
「【0070】
平衡反応1:
【化1】
[図:0001407119000002.jpg]
」
「【0074】
平衡反応2:
【化2】
[図:0001407119000003.jpg]
」
「【0078】
反応3a:
GaCl+NH3→GaN+HCl+H2
またはGaCl3+NH3→GaN+3HCl (3a)」
「【0080】
反応3b:
2GaN+Cl2→2GaCl+N2または
2GaN+2HCl→2GaCl+N2+H2 (3b)」
「【0082】
さらに、原理的に2つのさらなる副反応が可能である。
2GaN+H2→2GaH+N2 (4a’)
2GaN+H2→2GaNH (4a”)
【0083】
しかし、両方の反応4a’および4a”について、熱力学的データおよび実験証明は利用できない。」
「【0084】
GaおよびNH3からのGaNの形成も可能である。
2Ga+2NH3→2GaN+3H2 (4b)
【0085】
原理的には、ClおよびHの影響を受けない分解がさらに起こり得る。
2GaN(s)→N2(g)+2Ga(l) (5)
(用語「s」は固体を示し、「g」は気体を示し、「l」は液体を示す。)
【0086】
GG2の他、潜在的に追加的な液体ガリウムもこの反応によって生成することができ、これは830℃を超える温度で起こり得る。
【0087】
全ての反応式(平衡反応+不可逆反応)では、元素Ga、Cl、Hが存在し、平衡に影響するため、各反応式の分離は労なくは不可能である。系内のHおよびClの濃度の目標とする調整を介して、例えば、それぞれの反応温度、所望の平衡濃度およびIII/N比について反応体H2およびCl2の分圧を介して、所望の方向、例えば結晶表面上の液体Ga膜の有利な形成および調整のために、GG2の生成物側の方向において種々の平衡に対して個々に影響を及ぼすことが可能である。HClの濃度はまた非常に適した様式で調整することができるが、この場合HおよびClの濃度は当量比で変化し、これが調整性が制限される理由である。
【0088】
反応3、4および5は不可逆反応である。NH3への逆反応は既存の境界条件では起こらず、最終的に活性な原子状窒素はもはや利用できなくなる。それにもかかわらず、不可逆反応は、それぞれの反応速度論による平衡反応の調整および位置に影響を及ぼす。
【0089】
平衡反応GG1およびGG2は、反応ゾーン内の還元手段(H2)もしくは還元物質および/または共反応体(Cl2、HCl)の添加または調整を介して、目標とする態様で影響を受けおよび/または調整され得る。
【0090】
他の物質(ここでは例えばGaCl)をそれらの成分または他の化合物に転化できるすべての薬剤/物質は、熱力学的観点から、還元手段または還元物質として理解されるべきである。ここでは、それら自体は還元されるべき物質(例えば、GaN)と反応する。とりわけ、物質の熱化学的ポテンシャル、それらの量および温度によって、還元効果が物質に起因する可能性があるかどうかが決定される。
【0091】
還元手段/試剤の添加または調整を介して、特にGaNと液体Gaとの比が影響を受けるか、または制御される。さらに、H2または共反応体は、気相中のGaまたはGa含有反応体の活性が低下することを確実にする。さらに、H2または共反応体は、高濃度の前駆体化合物(GaCl、GaCl3および/またはNH3)にもかかわらず、反応3aがあまり速く進行しないことを確実にするが、停止することもない。III-前駆体(ここではGaCl、GaCl3)およびV-前駆体(ここではNH3)の好ましくは高濃度が特に重要であり、この場合、十分な出発材料は、GaNの好ましくは選択可能な高成長速度にて常に提供されるので、高品質な結晶の成長を確実にする。液体Ga膜が存在すると、この高濃度は相界面領域で直接利用可能である。
【0092】
固体GaNがGaNバッファ層の意図された除去のために分解されることを意図した非特許文献2に記載されている系とは対照的に、本発明では、液体Gaとの反応によって、例えばCl2、HClまたは局所的に十分な濃度のCl2および成長ゾーン中のHClを添加または調整し、これらが相界面領域で直接利用できるようにすることによって、「新しい」前駆体を形成することが可能である(式1および式2参照)。非特許文献2とは対照的に、液体Gaは、平衡状態に依存して、さらなる反応のために常に適切な平衡状態で利用可能である。
【0093】
GaNの形成中にInなどの、任意だが、好ましくは使用される等電子的な補助物質はまた、他の反応体に類似した共反応体と反応することができる。補助物質もまた形成されることができ、したがって化合物半導体結晶が成長するときに化合物半導体結晶の上方に液相で設けることができる。
【0094】
本系では、好ましくはGaNの直接分解(式5)は避けるべきである。液体Gaは、上述の平衡反応の繋がりを介して平衡濃度でのみ存在する方がよい。」
(11)成長速度について
「【0112】
成長速度は、総ガス流量によってさらに影響され得るが、配列およびデバイス設定の幾何学的形状も成長速度の進展に影響を及ぼす。さらに、成長速度は、軸方向および半径方向の温度勾配、反応器材料およびガス組成に依存する。」
「【0131】
この目的のために、例えば、「3D」表面(工程iii))の充填/閉鎖の期間における成長速度は、主結晶成長の後の成長速度に比較して最初に遅く維持され、その後、温度を「2D」成長温度に達するまで段階的にその温度まで上昇させる。温度上昇の代わりに、またはそれに加えて、III/V比または圧力を変化させることも可能である。」
(12)析出物、インクルージョンの濃度について
「【0057】
(37)III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶であって、それぞれIII-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度が、最大で1×104cm-3、好ましくは最大1×103cm-3、さらに好ましくは最大1×102cm-3である単結晶。
【0058】
上述の析出物およびインクルージョンの決定または測定は、析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴(すなわち、小さいサイズ、大きいサイズおよび場合によっては中程度のサイズ)を捉えることができるように行われるべきである。したがって、適切な方法は、例えば、M. Naumannn et al. 、「Laser scattering experiments in VCz GaAs」J. of Crystal Growth 210 (2000) 203-206およびSteinegger et al. 、「Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor process Optimization」Solid State Phenomena Vols. 108-109(2005)第597~602頁に記載されるような、レーザ散乱トモグラフィ(簡潔にLST)である。」
「【0138】
このような析出物またはインクルージョンの本発明による制限または回避は、それぞれ、本発明の単結晶において検出可能、例えばLST(レーザ散乱トポグラフィ)(M. Naumannn et. al. 、Laser scattering experiments in VCz GaAs、 Steinegger et al. 、 J. of Crystal Growth 210 (2000) 203-206、Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor process Optimization、 Solid State Phenomena Vols. 108-109(2005)第597~602頁)により測定可能および検証可能である。(本発明によらない)析出物または非化学量論的インクルージョンを有する結晶の場合、これは、従来の混晶、例えばGaN(およびそれぞれGaInN混晶を、例えばInと共にそれぞれ形成する)の場合にもあるように、補助物質がIII-Vー、II-IV-およびIV-IV-結晶に実質的に取り込まれないが、別個の相として堆積するような混晶と区別される。これに対して、本発明の結晶中には、補助物質と化合物結晶との混晶は存在せず、補助物質が別個の相を形成することもない。」
2 理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
そこで、この観点から検討する。
(2)判断
ア 請求項1に記載された発明は、上記第2に記載したとおりのものであって、「それぞれIII-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度が、最大で1×104cm-3であること」(以下、「本件濃度要件」という。)を特徴とする発明である。
そして、本件濃度要件に係る単位は「cm-3」であるから、「III-、IV-またはII-の析出物」「の濃度」、及び、「III-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」(以下、両濃度を併せて「本件濃度」という。)は、1cm3当たりに存在する当該析出物及び当該インクルージョンの個数を表すものと解される。
ここで、個数で評価する場合、例えば、検出限界を1nm又は1μmの何れにするかで微細粒子を数えるか否かが変わり、ひいては測定結果が変わり得るように、本件濃度は、測定対象とする析出物及びインクルージョンのサイズ次第で測定結果が変わり得るものといえる。
しかしながら、当該測定対象とする析出物及びインクルージョンのサイズの定義は、請求項1に記載されておらず、また当業者に慣用されているものであったとも認められない。
したがって、請求項1の記載は、定義が明らかでない不明瞭な特定を含むものであるから、請求項1に記載された発明を、特許請求の範囲の記載のみからは明確に理解することができない。
イ(ア) そこで、まず発明の詳細な説明の記載についてみると、そこには本件濃度の定義は明記されていない。
なお、発明の詳細な説明には、上記1(12)(【0058】)のとおり、析出物、インクルージョンの濃度について、「上述の析出物およびインクルージョンの決定または測定は、析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴(すなわち、小さいサイズ、大きいサイズおよび場合によっては中程度のサイズ)を捉えることができるように行われるべきである。」と記載されている。
しかしながら、「析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴」が、具体的にどのような特徴であるのかは説明されておらず、また、「小さいサイズ」、「大きいサイズ」及び「中程度のサイズ」の、それぞれが、どのような下限・上限を有する寸法であるのか特定されていない。そのため、いかなるサイズの析出物及びインクルージョンを検出対象とする濃度なのか明らかでなく、当該記載を考慮しても、本件濃度の定義を明確に理解することはできない。
(イ) さらに、測定装置の種類(製造会社及び製品名)、及び具体的な測定条件が、発明の詳細な説明の実施例等に記載されていれば、検出対象の定義が明示されていなくとも、当該装置及び条件から測定されるものとして、本件濃度の定義を推定することが可能な場合もあり得る。しかしながら、後記3(2)で検討するとおり、発明の詳細な説明には、本件濃度を、実際に測定したことが記載されていないから、このような手段によっても、本件濃度の定義を推定することはできない。
ウ 次に、当業者の出願当時における技術的常識に目を向けても、本件濃度の定義を理解するに足りる事実は見当たらない。
エ したがって、本願発明に係る本件濃度の定義は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても明確に理解することができない。
そして、本件濃度の定義が不明確である以上、本件濃度要件の発明特定事項により、本願発明は一義的に特定されないこととなり、また、このように本願発明が判然としない事態は、まさに第三者に不測の不利益を及ぼすほどの状況といえる。
そうである以上、上記(1)の判断手法に従えば、本願の特許請求の範囲の記載は、明確性要件に適合しないというほかない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、明確性要件に関して、審判請求書及び上申書において以下のとおり主張する。
(ア)主張1
「本願における「濃度」の意味については、段落[0067]に記載されており、「結晶に取り込まれる量は、通常、典型的なドーピングのための通常量未満、例えば、最大濃度で1×1017cm-3、好ましくは5×1016cm-3である。」と明確に記載されています。さらに、「濃度」について補助物質を考慮すると、段落[0133]に記載されているように、補助物質としてのInは、好ましくは取り込まれていないか、または検出可能ではなく、最大1×1017cm-3のわずかな濃度、好ましくは最大5×1016cm-3の濃度まであると明確に記載されています。そして、これらの濃度は、単位cm3当たりの析出物の量を意味しており明確です。」(審判請求書の「(2-1)拒絶理由1、2について」)
(イ)主張2
「濃度は、単位体積当たり量、すなわち単位cm3当たりの析出物および/またはインクルージョンの量を意味することが明らかであり、析出物および/またはインクルージョンのサイズや種類とは無関係です。
そして、レーザ散乱トモグラフィ(LST)における測定パラメータについては、測定される物質に依存するため、いくつかのパラメータを設定することは可能ですが、当業者であれば、特定の測定を実行するために測定機器を較正するが必要であることは常識です。このようなLSTの測定条件として、本願明細書の段落[0058]に、析出物および/またはインクルージョンが小さいサイズ、大きいサイズ、及び任意選択で中程度のサイズをとることができることが明示的に記載されています。
従って、「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」の定義は明確であります。」(令和4年12月23日提出の上申書2.(1)中、2~4段落)
(ウ)主張3
「なお、出願人がLSTの測定条件について調べたところ、例えばGaN及びGaAsについて検索することができましたので、当業者であれば、本願の記載や公知文献の記載に基づいて、適切な測定条件をどのように選択するか、特に特別な較正または定量化をどのように実行するかについては十分に理解することができます。」(令和4年12月23日提出の上申書2.(1)中、5段落)
イ 請求人の主張に対する当審の判断
(ア)主張1について
当該主張は、本件濃度が、単位cm3当たりの析出物の量を意味することを主張するものの、本件濃度において、いかなるサイズの析出物及びインクルージョンを検出対象とするのか何ら説明するものでない。
そうすると、当該主張を考慮しても、本件濃度の定義を明確に理解することはできず、当該主張は採用できない。
(イ)主張2について
当該主張は、本件濃度が、単位体積当たりの量(単位cm3当たりの量)を意味することが明らかであって、析出物および/またはインクルージョンのサイズや種類とは無関係であると主張するものである。
しかしながら、「レーザ散乱トモグラフィ(LST)における測定パラメータについては、測定される物質に依存するため、いくつかのパラメータを設定することは可能で」あり、「当業者であれば、特定の測定を実行するために測定機器を較正するが必要であることは常識」であるとし、「LSTの測定条件として、本願明細書の段落[0058]に、析出物および/またはインクルージョンが小さいサイズ、大きいサイズ、及び任意選択で中程度のサイズをとることができることが明示的に記載されています。」と説示されるように、LSTの測定条件次第で、検出対象となる物質やサイズが変わることが技術常識であり、検出対象が変われば測定結果としての「濃度」も変わるといえるから、「本件濃度」が「析出物および/またはインクルージョンのサイズや種類とは無関係である」ということはできない。
よって、当該主張は採用できない。
(ウ)主張3について
当該主張は、少なくとも「出願人がLSTの測定条件について調べた」結果の具体的な証拠が提示されておらず採用できない。仮に具体的な証拠が提示されたとしても、特定の実験における測定条件をもって、直ちに「本件濃度」の定義が明らかになるともいえない。
(4)小括
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であることという特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3 理由1(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを求めるものである。
そして、物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。
そうすると、物の発明について、同号の要件(実施可能要件)を充足するためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明の記載があることを要するといえる。
そこで、この観点から、以下で検討する。
(2)判断
上記第2のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本件濃度要件を備える「III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶」という「物」の発明である。
しかしながら、以下に示すとおり、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明の記載があるとはいえないから、上記(1)の判断手法に照らし、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合しないというほかない。
ア まず、本願の明細書の発明の詳細な説明をみると、そこには、本件濃度要件を備えた「III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶」を製造した具体的な事例が、全く記載されていない。
さらに、発明の詳細な説明には、上記1に記載したとおり、単結晶を製造する際の温度、圧力等の個々の条件について、それぞれ個別には説明がされてはいるものの、これらの個々の条件の全てを組み合わせて、本件濃度要件を備えた「III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶」を製造することができる、具体的な製造条件の組み合わせの例も記載されていない。
そして、前記個々の条件の説明についても、例えば、温度については、「好ましくは450℃~1200℃の範囲、さらに好ましくは可能な限り高く、約1000℃以上、例えば1050℃であるべきであり」と特定する一方で、「ここで絶対温度は、圧力およびガス雰囲気の化学組成に依存して影響される」として、実際にどのような温度を選択すべきかについては、その指針が存在せず不明確なものとなっている(上記1(2)の【0107】)。また、圧力、A/B比、厚さ、液相、及び、各種ガスの分圧・流量等についても、「反応器内の圧力は100mbar~100atm」(上記1(3)の【0106】)、「III/VまたはII/VI比は1~1/1000」(上記1(4)の【0110】)、「少なくとも100μm、好ましくは少なくとも500μm、さらに好ましくは少なくとも1mm、特に好ましくは少なくとも5mm、1cm、2cm、5cmまたは少なくとも10cm増大する」(上記1(5)の【0053】)、「液相の層の厚さは、薄くまたは非常に薄く、適切にはより低いμmまたはさらにはnmの範囲で、原子寸法にまでさえ維持できる」(上記1(6)の【0076】)等として、極めて広い数値範囲が記載されるにとどまり、具体的な数値範囲が特定されておらず、これらの条件をどのように組み合わせるかについての指針も示されていない。
そのうえ、前記個々の製造条件を組み合わせて現に単結晶を製造する装置の具体的な様式、形状、構造、寸法等も記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載に基いて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件濃度要件を備えた「III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶」を製造することはできないというべきである。この点は、出願時の技術常識に照らしても同じである。
イ(ア) 加えて、本件濃度要件を備えた「III-V-、IV-IV-またはII-VI-化合物結晶を含む単結晶、特に(任意に存在する他の微量成分または不純物のほかに)これら化合物結晶からなる単結晶」という「物」を製造できるというためには、製造した前記「物」が、本件濃度要件を備えていることを検証することができることを要することは自明である。
すなわち、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというためには、製造した「単結晶」について、発明の特徴である特許請求の範囲に記載された、「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度が、」「それぞれ」「最大で1×104cm-3」であることの検証が必要であるところ、本件濃度を測定する、標準的に用いられている測定方法が確立されているとは認められないから、そもそも前記検証をすることができないというべきである。
事実、発明の詳細な説明には、「単結晶」の本件濃度の測定値は示されておらず、「それぞれ」「最大で1×104cm-3」であったことの確認はされていない。
このように、適正な検証ができないことから、この点からみても本件濃度要件を備えた「物」を製造できるとはいい難い。
(イ) ここで、発明の詳細な説明には、上記1(12)のとおり、析出物、インクルージョンの濃度について、「上述の析出物およびインクルージョンの決定または測定は、析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴(すなわち、小さいサイズ、大きいサイズおよび場合によっては中程度のサイズ)を捉えることができるように行われるべきである。したがって、適切な方法は、例えば、M. Naumannn et al. 、「Laser scattering experiments in VCz GaAs」J. of Crystal Growth 210 (2000) 203-206およびSteinegger et al. 、「Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor process Optimization」Solid State Phenomena Vols. 108-109(2005)第597~602頁に記載されるような、レーザ散乱トモグラフィ(簡潔にLST)である。」との記載、及び「このような析出物またはインクルージョンの本発明による制限または回避は、それぞれ、本発明の単結晶において検出可能、例えばLST(レーザ散乱トポグラフィ)(M. Naumannn et. al. 、Laser scattering experiments in VCz GaAs、 Steinegger et al. 、 J. of Crystal Growth 210 (2000) 203-206、Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor process Optimization、 Solid State Phenomena Vols. 108-109(2005)第597~602頁)により測定可能および検証可能である。」との記載がある。
さらに、審判請求人は、審判請求書に添付して、請求の理由で引用する参考文献[1]「Minya Maら「Study on defects in EMCZ-Si crystal by infrared light scattering tomography」J. of. Crystal Growth 208(2000)282-288」を提示する。
そこで、これらの文献の記載に基づいて、本件濃度を測定することが当業者にとって技術常識であったといえるかについて、以下、検討をする。
a 各文献の記載事項
(a)文献1
M. Naumannn et al. 、「Laser scattering experiments in VCz GaAs」J. of Crystal Growth 210 (2000) 203-206(以下、「文献1」という。)には、次の記載がある。(日本語訳は当審で作成した。以下、同じ))
「Laser scattering experiments in VCz GaAs(VCz GaAsにおけるレーザー散乱実験)」(論文タイトル)
「Abstract
The method of laser scattering tomography (LST) was adapted to investigate scatterers in semi-insulating GaAs grown by the vapour pressure controlled Czochralski (VCz) technique. The LST method was extended to evaluate quantitatively the scattering for macroscopic fields. The LST images of as-grown VCz GaAs crystals showed a reduced number of scattering particles in comparison with conventional LEC crystals. The dependency of the total scattered intensities along a wafer radius and intensity histograms are discussed.(概要 レーザー散乱トモグラフィー(LST)の手法を、蒸気圧制御Cz(VCz)法で成長させた半絶縁性GaAsの散乱体を調べるために適用した。LST法を拡張し、巨視的な場の散乱を定量的に評価することができるようになった。成長したままのVCz GaAs結晶のLST画像は、従来のLEC結晶と比較して散乱粒子の数が減少していることがわかった。ウェーハ半径に沿った全散乱強度の依存性と強度ヒストグラムについて説明する。)」(203ページ上段)
「2. Experimentals
The LST experiments were performed on 4" semi-insulating GaAs samples grown by the VCz technique [6]. Mainly halfwafers of about 4 mm thickness were used in the as-grown state. Both the large {100} surfaces and the small surface along a dividing diameter (mainly <110>) were chemically-mechanically polished.
Fig. 1 shows the experimental arrangement. The beam of an Nd-YAG laser (c.w., 1W, 1064 nm) is extended by a telescope. The subsequent anamorphotic optics consisting of a cylindrical and a spherical lens focuses the beam on the sample surface as a vertical line. The incident light irradiates the scatterers in a ribbon extended in the x-y plane to a few mm and in the z-direction with a dffraction-limited intensity profile with a full-width at half-maximum (FWHM) of about 15 μm. A zoom microscope images the irradiated scatterers on the target of a CCD matrix camera (688x512 pixels, 8 bit,Γ=1). Images with high resolution in large fields in x- or y-direction are obtained by stringing adjacent images in a computer.(2.実験 LST実験は、VCz法 [6]で成長させた4インチの半絶縁性GaAs試料で行った。主に厚さ4mm程度のハーフウェーハを成長したままの状態で使用した。大きな{100}面と分割径に沿った小さな面(主に<110>)の両方を化学機械的に研磨した。図1に実験配置を示す。Nd-YAGレーザー(c.w.、1W、1064 nm)のビームは、テレスコープで延長される。その後、シリンドリカルレンズと球面レンズからなるアナモルフォティック光学系により、ビームは垂直線として試料表面に集光される。入射光は、x-y平面で数mm、z方向で約15μmの半値全幅(FWHM)を持つ回折限界の強度プロファイルでリボン状に延びた散乱体に照射される。ズーム顕微鏡は、照射された散乱体をCCDマトリックスカメラ(688x512ピクセル、8bit、Γ=1)のターゲット上に結像させる。コンピュータで隣接する画像をつなぎ合わせることで、x方向、y方向の大フィールドで高解像度の画像を得ることができる。」(203ページ右下欄~204ページ左欄)
「
[図:0001407119000004.jpg]
(図1. 実験セットアップ。1-レーザー、2-アナモルフォティック・ビームシェーパー、3-移動ステージ上の試料、4、5-CCDカメラ付きズームマイクロスコープ。)」(204ページ左上)
「This result is restricted to scatterers observed in the dynamic range of our measurements. An enlarged dynamic range and improved evaluation procedures would be welcome to extract more information about the distribution of the volumes of the precipitates than was possible in this first attempt.(この結果は、我々の測定のダイナミックレンジで観測された散乱体に限定されるものである。沈殿物の体積分布について、この最初の試みで可能だった以上の情報を引き出すためには、ダイナミックレンジの拡大や評価方法の改善が望まれる。)」(206ページ左欄8~14行)
(b)文献2
「Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor process Optimization」Solid State Phenomena Vols. 108-109(2005)第597~602頁(以下、「文献2」という。)には、次の記載がある。
「Laser Scattering Tomography on Magnetic CZ-Si for Semiconductor Process Optimization(半導体プロセス最適化のための磁性体CZ-Siのレーザー散乱トモグラフィー)」(論文タイトル)
「Abstract. Laser scattering tomography (LST) and band-to-band photoluminescence (PL) are applied for supporting a MEMS process optimization. Process wafers are based on magnetic CZ grown silicon material. LST allows the characterization of number-size distributions of oxygen precipitates in various stages of the process flow. Precipitation is shown to be affected by the design of high-temperature anneal post initial oxidation. PL gives useful information on relative concentration level and radial distribution of recombination centers within process wafers. The initial oxidation leads to significant reduction of recombination centers. The combined LST/PL information enables valuable conclusions towards process optimization.(概要 レーザー散乱トモグラフィー(LST)とバンド間フォトルミネッセンス(PL)は,MEMSプロセスの最適化を支援するために適用されている.プロセスウェーハは、磁性CZ成長シリコン材料をベースにしている。LSTにより、プロセスフローの様々な段階における酸素析出物の数-サイズ分布を評価することができた。析出物は、初期酸化後の高温アニールの設計に影響されることが示された。PLは、プロセスウェーハ内の相対的な濃度レベルと再結合中心の半径方向分布に関する有用な情報を与える。初期酸化により、再結合中心は大幅に減少する。LST/PL情報を組み合わせることで、プロセスの最適化に向けた貴重な結論が得られる。)」(597ページ上段)
「Laser scattering tomography (LST) has become a well established method [1, 2] for investigating bulk defect distributions in materials like mono-crystalline CZ-Si [1] or multi-crystalline Si [3]. A special LST setup [3] allows monitoring of laser scattering and band-to-band photoluminescence (PL), as indicated in Fig. 1. Working modes LST, PL and LST/PL (both superimposed) can be applied by appropriately selecting interference and notch filters. The minimum defect size detectable with this LST setup is not exactly known at this point.(レーザー散乱トモグラフィー(LST)は、単結晶CZ-Si [1]や多結晶Si [3]などの材料におけるバルク欠陥分布を調べるための手法として確立されている [1, 2]。図1に示すように、特別なLSTセットアップ[3]により、レーザー散乱とバンド間フォトルミネッセンス(PL)のモニタリングが可能である。干渉フィルターやノッチフィルターを適切に選択することで、LST、PL、LST/PL(いずれも重畳)の動作モードが適用可能である。このLST装置で検出可能な最小の欠陥サイズは、現時点では正確にはわかっていない。)」(597ページ中段))
「Experimental
In this study we have applied LST/PL primarily for investigating the influence of thermal treatments on oxygen precipitation, based on processing of unpatterned Si wafers. The technique is briefly introduced in Fig. 1. In this study, we have used point focus conditions indicated in Fig. 1. For excitation a Nd:YAG laser working at λ = 1064 nm was used [2]. The relative volumes V of the oxygen precipitates were determined from the scattered intensities I using the Rayleigh law: V ∝I.(実験本研究では,LST/PLを主に酸素析出に対する熱処理の影響を調べるために,未パターンのSiウェーハの加工をもとに適用した。図1に本技術を簡単に紹介する。本研究では、図1に示すポイントフォーカス条件を用いた。励起には、λ = 1064 nmで動作するNd:YAGレーザーを使用した[2]。酸素析出物の相対体積Vは、レイリー則を用いて、散乱強度Iから求めた: V ∝I.)」(598ページ上段)
「
[図:0001407119000005.jpg]
(図1:本研究で適用したLST/PL測定技術の基本構成要素)」(598ページ上段)
(c)文献3
「Minya Maら「Study on defects in EMCZ-Si crystal by infrared light scattering tomography」J. of. Crystal Growth 208(2000)282-288」(以下、「文献3」という。)には、次の記載がある。(当審で作成した訳文を摘記する。)
「赤外光散乱トモグラフィーによるEMCZ-Si結晶の欠陥の研究」(論文タイトル)
「概要 CZ-Si結晶を成長させるために新たに開発された電磁気チョクラルスキー法は、この方法で得られた結晶をEMCZ-Si結晶と呼んでいる。このEMCZ-Si結晶の欠陥を、多波長赤外光散乱トモグラフィーで初めて調べた。レイヤーバイレイヤートモグラフィー法により、結晶内の局所的な位置で、異なる方向に沿ったいくつかの結晶面上に位置する転位線を観察した。EM CZ-Si結晶の欠陥特性や、成長に用いたV/G比(Vは成長速度、Gは軸方向温度勾配)が、3種類のカスプ磁場配置で成長したCZ-Si結晶と類似していることから、EMCZ-Si結晶の欠陥もインタースティシャル型であり、さらに凝集して転位線、転位クラスターを形成すると考えられる。なお、この欠陥が格子間型であるとする根拠は、本論文および他の参考論文で説明されている。」(282ページ上段)
「本研究では、EMCZ-Si結晶の欠陥を、より低密度の結晶中の欠陥を測定するために最近開発されたマルチクロイック赤外光散乱トモグラフィー(MC-IR-LST)により検出した。さらに、CMF構成で成長させたCZ-Si結晶の欠陥特性と解析的に比較した[5]。」
(283ページ右欄9~16行)
「
[図:0001407119000006.jpg]
」(284ページ下段)
「MC-IR-LST法により、EMCZ-Si結晶中の2種類の欠陥の形態が検出された。一つは、3種類のカスプ磁場配置で成長させたCZ-Si結晶で観察されたものと同様のスポット状の転位クラスターであり、一方、転位線はこのEMCZ-Si結晶の別の欠陥特性として見られ、これはスロープルという結晶成長法で得られたCZ-Si結晶の欠陥形態と似ている。結晶中の欠陥の形成は、るつぼ内の溶融シリコンの流れや結晶成長中の融液の温度変動と相対的である必要がある。我々は、CMF配置で成長したCZ-Si結晶の欠陥について、軸方向の溶融シリコン流の存在と安定した温度分布が、欠陥密度が低く光散乱強度の弱いCZ-Si結晶の成長に明らかに有効であると、以前の研究で述べた[5]。しかし、異なる電磁場下でのメルトシリコンフローと温度変動の系統的な物理測定に関する報告はまだない。そのため、EMCZ-Siの欠陥の変形機構は不明である。欠陥が格子間型であると判断するための詳細な解析と考察は、カスプ磁場下で成長したCZ-Si結晶の欠陥に関する我々の以前の論文で提供されている[5]。」(287ページ左欄29行~右欄26行)
b そうすると、上記a(a)から、文献1には、「レーザー散乱トモグラフィー(LST)の手法を、蒸気圧制御Cz(VCz)法で成長させた半絶縁性GaAsの散乱体を調べるために適用した」こと、及び「Nd-YAGレーザー(c.w.、1W、1064 nm)のビームは、テレスコープで延長される。その後、シリンドリカルレンズと球面レンズからなるアナモルフォティック光学系により、ビームは垂直線として試料表面に集光される。入射光は、x-y平面で数mm、z方向で約15μmの半値全幅(FWHM)を持つ回折限界の強度プロファイルでリボン状に延びた散乱体に照射される。ズーム顕微鏡は、照射された散乱体をCCDマトリックスカメラ(688x512ピクセル、8bit、Γ=1)のターゲット上に結像させる。コンピュータで隣接する画像をつなぎ合わせることで、x方向、y方向の大フィールドで高解像度の画像を得ることができる」ことが記載されていると認められる。
同様に前記a(b)から、文献2には、「LSTにより、プロセスフローの様々な段階における酸素析出物の数-サイズ分布を評価することができた」こと、「レーザー散乱トモグラフィー(LST)は、単結晶CZ-Si [1]や多結晶Si [3]などの材料におけるバルク欠陥分布を調べるための手法として確立されている」こと、及び「励起には、λ = 1064 nmで動作するNd:YAGレーザーを使用した」こと、さらに前記a(c)から、文献3には、「レイヤーバイレイヤートモグラフィー法により、結晶内の局所的な位置で、異なる方向に沿ったいくつかの結晶面上に位置する転位線を観察した」こと、「EMCZ-Si結晶の欠陥を、より低密度の結晶中の欠陥を測定するために最近開発されたマルチクロイック赤外光散乱トモグラフィー(MC-IR-LST)により検出した」こと、及び「MC-IR-LST法により、EMCZ-Si結晶中の2種類の欠陥の形態が検出された。一つは、3種類のカスプ磁場配置で成長させたCZ-Si結晶で観察されたものと同様のスポット状の転位クラスターであり、一方、転位線はこのEMCZ-Si結晶の別の欠陥特性として見られ、これはスロープルという結晶成長法で得られたCZ-Si結晶の欠陥形態と似ている」ことが、それぞれ記載されていると認められる。
c しかしながら、いずれの文献にも、本件濃度を測定したことは記載されていない。
むしろ、文献1には、「この結果は、我々の測定のダイナミックレンジで観測された散乱体に限定されるものである。沈殿物の体積分布について、この最初の試みで可能だった以上の情報を引き出すためには、ダイナミックレンジの拡大や評価方法の改善が望まれる」との記載がある。
そうすると、当該記載から、文献1に記載された「Nd-YAGレーザー(c.w.、1W、1064 nm)のビームは、テレスコープで延長される。その後、シリンドリカルレンズと球面レンズからなるアナモルフォティック光学系により、ビームは垂直線として試料表面に集光される。入射光は、x-y平面で数mm、z方向で約15μmの半値全幅(FWHM)を持つ回折限界の強度プロファイルでリボン状に延びた散乱体に照射される。ズーム顕微鏡は、照射された散乱体をCCDマトリックスカメラ(688x512ピクセル、8bit、Γ=1)のターゲット上に結像させる」との測定条件とは異なる、レーザの波長、強度、ビーム径、CCDマトリックスカメラの検出感度等の条件を用いて、測定のダイナミックレンジを拡大したり、評価方法を改善して、同じ試料を観測した場合に、散乱体の測定値として異なる値が得られる場合があることが理解される。
さらに、文献2の「このLST装置で検出可能な最小の欠陥サイズは、現時点では正確にはわかっていない」との記載からも、個々のLST装置には、検出可能な最小の欠陥サイズが存在し、したがって、装置によっては、存在している全ての欠陥を検出することができないこと、すなわち、検出可能な最小の欠陥サイズが異なるLST装置を使用した場合、あるいは、測定条件が異なる場合には、同じ試料を測定しても、異なる個数の欠陥が検出される場合があることが理解される。
d してみれば、上記1(12)の発明の詳細な説明の記載どおり、析出物、インクルージョンの濃度について、「上述の析出物およびインクルージョンの決定または測定は、析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴(すなわち、小さいサイズ、大きいサイズおよび場合によっては中程度のサイズ)を捉えることができるように行われるべきである。」との教示に従って、文献1及び文献2に記載されるようなレーザ散乱トモグラフィ(簡潔にLST)を適用して、「析出物およびインクルージョンの決定または測定は、析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴(すなわち、小さいサイズ、大きいサイズおよび場合によっては中程度のサイズ)を捉える」ように測定するためには、析出物およびインクルージョンの技術的に関連するすべての特徴を理解して、当該特徴を検出することができるように、レーザの波長、強度、ビーム径、CCDマトリックスカメラの検出感度等の条件を適切に設定して、測定装置のダイナミックレンジ等を決定する必要があるというほかない。そして、発明の詳細な説明には、単に「小さいサイズ、大きいサイズおよび場合によっては中程度のサイズ」と記載されているだけであって、サイズの具体的な大きさの下限及び上限が特定されておらず、さらに、上記2で検討したとおり、本件濃度の定義そのものも明確でないから、レーザ散乱トモグラフィのレーザの波長、強度等の条件を、析出物およびインクルージョンの検出に適したものに設定して、本件濃度を定量的に計測することができたとは認められない。
すなわち、発明の詳細な説明で引用された各文献、及び審判請求書で引用された文献に記載された事項を参酌しても、製造した「単結晶」の本件濃度を定量的に計測することができたとは認められない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、実施可能要件に関し、審判請求書において以下のとおり主張する。
(ア)主張4
「プロセスについては、どの結晶を成長させるかによって、異なる条件を設定することができます。そして、本願の記載に基づいて、当業者は、製品クレームに含まれる機能的基準をそれに応じて設定することができ、特に、実際には実験的に測定することが困難ではあるが計算することができる金属元素膜の発生を監視することができ、どの条件を設定することができるかにかかわらず、そのような製品特性を得ることができます。」として、「本願発明者らは、本願明細書において、すべての製造可能な半導体系について共通の原理、すなわち、還元剤の添加によって反応物の活性が遅くなり、その結果、ゆっくりとした成長が起こり、インクルージョンまたは沈殿物が形成されないという原理を説明しました。そして、結晶成長ゾーンの表面上の液晶金属膜の存在もこれに寄与します。元素金属膜の形成は、異なる化合物半導体について異なる条件で起こることは事実ですが、当業者は、本願の記載に基づいて、生成物特性が維持され得るか、または起こり得ることを認識することができます。そのため、当業者が、どのような条件が設定されるべきかを詳細に知ることまでは必要ないと考えます。」(審判請求書の「(2-2)拒絶理由1について」)
(イ)主張5
「濃度は、単位体積当たり量、すなわち単位cm3当たりの析出物および/またはインクルージョンの量を意味することが明らかであり、析出物および/またはインクルージョンのサイズや種類とは無関係です。
そして、レーザ散乱トモグラフィ(LST)における測定パラメータについては、測定される物質に依存するため、いくつかのパラメータを設定することは可能ですが、当業者であれば、特定の測定を実行するために測定機器を較正するが必要であることは常識です。このようなLSTの測定条件として、本願明細書の段落[0058]に、析出物および/またはインクルージョンが小さいサイズ、大きいサイズ、及び任意選択で中程度のサイズをとることができることが明示的に記載されています。
従って、「III-、IV-またはII-の析出物および/またはIII-V-、IV-IV-またはII-VI-結晶中の非化学量論的III-V-、IV-IV-またはII-VIインクルージョンの濃度」の定義は明確であります。
なお、出願人がLSTの測定条件について調べたところ、例えばGaN及びGaAsについて検索することができましたので、当業者であれば、本願の記載や公知文献の記載に基づいて、適切な測定条件をどのように選択するか、特に特別な較正または定量化をどのように実行するかについては十分に理解することができます。」(令和4年12月23日付けの上申書2.(1)中、2~5段落)
イ 請求人の主張に対する当審の判断
(ア)主張4について
「還元剤の添加によって反応物の活性が遅くなり、その結果、ゆっくりとした成長が起こ」るのみ、あるいは、「結晶成長ゾーンの表面上の液晶金属膜の存在」のみによって、例外なく、本件濃度要件を備えた単結晶が得られるとは、発明の詳細な説明には記載されておらず、また、技術常識に照らしても、そのような関係が存在することを認めることはできない。
すなわち、発明の詳細な説明の記載に基づいて、仮に、「還元剤の添加によって反応物の活性が遅くなり、その結果、ゆっくりとした成長が起こ」り、「結晶成長ゾーンの表面上の液晶金属膜の存在」を可能とすることができたとしても、そのような製造方法によって得られた単結晶に含まれる析出物、インクルージョンの濃度が、必ずしも、「最大で1×104cm-3」という条件を満たすということはできない。
したがって、本件濃度要件を備える単結晶を作ることができるというためには、単に、「還元剤の添加によって反応物の活性が遅くなり、その結果、ゆっくりとした成長が起こ」る、あるいは、「結晶成長ゾーンの表面上の液晶金属膜の存在」を可能とする以上の製造条件の特別な設定が必要とされるところ、発明の詳細な説明の記載からは、本件濃度要件を実現するための前記特別な設定である条件を理解することができない。
よって、当該主張は、採用することができない。
(イ)主張5について
上記2(3)イ(イ)~(エ)での検討と同様であり、「単位体積当たり量、すなわち単位cm3当たりの析出物および/またはインクルージョンの量」における「量」が、いかなるサイズの析出物および/またはインクルージョンを検出対象とするのか不明であるし、さらに、少なくとも「出願人がLSTの測定条件について調べた」結果の具体的な証拠も提示されていない。
したがって、本件濃度は明確であり、また本件濃度の測定において適切な測定条件をどのように選択するか当業者であれば十分に理解することができるとする当該主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることという、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009302