特許拒絶査定不服審判
2022-003387
薬液注入装置及び薬液注入装置の動作方法
- 審判番号
- 2022-003387
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-214684外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月07日
- 審決日
- 2022年11月08日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (A61M) / P18 .575-Z (A61M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-214684「薬液注入装置及び薬液注入装置の動作方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月 6日出願公開、特開2019- 84043〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年11月 7日に出願されたものであって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 8月10日付け:拒絶理由通知書
令和3年10月 4日 :意見書及び手続補正書の提出
令和3年12月 2日付け:拒絶査定
令和4年 3月 7日 :審判請求書及び同時に手続補正書の提出
令和4年 5月16日 :上申書の提出
第2 令和4年3月7日に提出された手続補正書についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月7日に提出の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
アダプタを介して薬液シリンジを保持する保持部に前記アダプタが取り付けられると、
取り付けられた前記アダプタに対応する薬液の種類を特定する特定部と、
副作用歴のある薬液の種類を示す副作用情報を含む患者情報を設定する設定部と、
前記アダプタの取り付け、及び、前記患者情報の設定の両方を満たすと、それに応じて
、前記副作用情報の中に前記特定部に特定された前記薬液の種類が含まれるか判断する判断部と、
前記特定部に特定された前記薬液の種類が前記副作用情報に含まれる場合、警告を出力する出力部と、
を有し、
1つの薬液の種類に1つのアダプタが対応し、
前記出力部は、前記薬液シリンジを前記薬液注入装置に取り付けていない状態で前記警告を出力することができる薬液注入装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年10月4日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
アダプタを介して薬液シリンジを保持する保持部に前記アダプタが取り付けられると、
取り付けられた前記アダプタに対応する薬液の種類を特定する特定部と、
副作用歴のある薬液の種類を示す副作用情報を含む患者情報を設定する設定部と、
前記アダプタの取り付け、及び、前記患者情報の設定の両方を満たすと、それに応じて
、前記副作用情報の中に前記特定部に特定された前記薬液の種類が含まれるか判断する判断部と、
前記特定部に特定された前記薬液の種類が前記副作用情報に含まれる場合、警告を出力する出力部と、
を有し、
1つの薬液の種類に1つのアダプタが対応する薬液注入装置。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「出力部」について、「前記薬液シリンジを前記薬液注入装置に取り付けていない状態で前記警告を出力することができる」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2006/109778号(平成18年10月19日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
「[0001] 本発明は、薬液シリンジの薬液を薬液注入装置で被験者に注入する薬液注入システムに関し、特に、CT(Computed Tomography)スキャナなどの透視撮像装置で透視画像が撮像される被験者に造影剤を注入する薬液注入システムに関する。」
「[0009] 上述のような薬液注入システムでは、プレフィルドタイプの薬液シリンジに充填されている薬液の種別などを薬液注入装置が検出できるので、例えば、被験者に注入する薬液を間違う医療ミスなどを防止することが可能となる。しかし、被験者に注入する薬液を間違っていないのに、被験者が副作用を発症することがある。
[0010] 例えば、CT用の造影剤は、一般的にヨードを主成分として生成されているが、そのヨードの化学構造式は製品により微妙に相違している。このため、CTスキャナの被験者に適切なCT用の造影剤を注入しても、その造影剤の製品と被験者との組み合わせにより副作用が発生したり発生しなかったりする。
[0011] 前述のように、薬液シリンジのデータ記憶手段から薬液注入装置が各種データを読み出す薬液注入システムでは、その薬液シリンジの薬液がCT用の造影剤であるかなどは薬液注入装置が検出できるが、その薬液により副作用を発症するかなどは被験者ごとに相違するため、薬液注入装置が検出することはできない。
[0012] 本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、薬液シリンジの薬液を被験者に注入するときに、その薬液の種別などは適切でありながらも、その被験者への注入が副作用などの個人的な理由で不適な場合に、これを薬液注入装置が検出して警告を報知することができる薬液注入システムを提供することを目的とする。」
「[0023] 本発明の薬液注入システムでは、例えば、被験者に注入される薬液が種別などは適切でありながらも注入は不適な場合に、これを薬液注入装置により検出して警告を報知することができるので、薬液の製品や含有成分や化学分類などにより被験者に副作用が発生したり発生しなかったりするような場合に、その被験者に副作用が発生する薬液が注入されることを防止できる。」
「[0030] 本形態の薬液注入システム1000では、使用される薬液シリンジ200が基本的にプレフィルドタイプからなり、プレフィルドタイプの薬液シリンジ200では、シリンダ部材210に薬液が充填された状態で出荷される。このシリンダ部材210は、データ記憶手段としてRFIDチップからなる薬液チップ214が装着されており、その薬液チップ214には薬液データが登録されている。
[0031] この薬液データは、例えば、その薬液シリンジ200に関する、容量、シリンダ部材210の耐圧、シリンダ部材210の内径、ピストン部材220のストローク、個体ごとの識別データ、などの各種データと、充填されている薬液に関する、製品ID、化学分類、含有成分、粘度、消費期限、などの各種データからなる。
[0032] 薬液の製品IDは、その薬液の化学分類と含有成分と化学構造とに起因してデータ登録されており、シリンジ容量などには関連していない。例えば、CT用で心臓用の造影剤としてA社とB社との製品が存在している場合、薬液の種別である“CT用で心臓用の造影剤”は共通でも、水溶性か油性か、イオン性か非イオン性か、モノマー型かダイマー型か、などの化学分類が相違するならば、その製品IDは相違する。」
「[0037] 注入実行ヘッド110は、キャスタスタンド111の上端に可動アーム112で装着されており、図4に示すように、そのヘッド本体113の上面には、薬液シリンジ200が着脱自在に装着される半円筒形の溝状の凹部114が形成されている。この凹部114の前部には、薬液シリンジ200のシリンダフランジ211を着脱自在に保持するシリンダ保持機構116が形成されており、凹部114の後方には、ピストンフランジ221を保持してスライド移動させる薬液注入機構117が配置されている。
[0038] シリンダ保持機構116は、凹部114に異形の凹溝として形成されており、シリンダフランジ211が係脱自在に係合する。薬液注入機構117は、超音波モータやDCモータなどの駆動モータ118を駆動源として個々に有しており、ネジ機構(図示せず)などによりピストン部材220をスライド移動させる。また、薬液注入機構117にはロードセル119も個々に内蔵されており、そのロードセル119は、ピストン部材220を押圧する圧力を検出する。
[0039] 注入実行ヘッド110の2つの凹部114には、造影/生食シリンジ200C,Wが個々に装着されるので、これら2つの凹部114と2個の薬液注入機構117により、被験者に造影剤を注入する造影注入機構117Cと生理食塩水を注入する生食注入機構117Wとが形成されている。
[0040] 薬液シリンジ200のシリンダフランジ213は、単純な円環形状ではなく、外縁に平行な二辺が形成された小判型に形成されており、シリンダ保持機構116は、薬液シリンジ200のシリンダフランジ213を回転不能に所定方向に保持するので、薬液シリンジ200は、上述のように保持されたときに上方および下方となる位置に一対の薬液チップ214が個々に装着されている。
[0041] そして、注入実行ヘッド110の凹部114の所定位置には、薬液データ取得手段としてRFIDリーダからなる薬液リーダ122が配置されており、この薬液リーダ122が凹部114に装着されてシリンダ保持機構116で保持された薬液シリンジ200の薬液チップ214から薬液データを取得する。
[0042] また、注入実行ヘッド110は、後部側面に警告報知手段に相当するサブタッチパネル121と、RFIDリーダライタからなるカルテリーダライタ123とが装着されており、このカルテリーダライタ123は、カルテデータ取得手段として被験者ごとに用意されているカルテチップ250から電子カルテをデータ読出する。
[0043] このカルテチップ250は、例えば、RFIDチップが内蔵されたIC(Integrated Circuit)カードとして形成されており、被験者の電子カルテが更新自在にデータ登録されている。その電子カルテには、被験者ごとの被験者ID、性別や年齢などの個人データ、疾病に関する各種データ、等の他、注入に不適な薬液の製品IDが不適IDとしてデータ登録されている。」
「[0046] データ照合手段141は、CPU131がROM132などに実装されているコンピュータプログラムに対応して薬液リーダ122とカルテリーダライタ123との検出データを照合する機能などに相当し、製品IDと不適IDとを照合する。動作制御手段142は、CPU131がコンピュータプログラムに対応して薬液注入機構117を動作制御する機能などに相当し、照合された製品IDと不適IDとが整合すると、薬液注入機構117を作動不能に動作制御する。
[0047] より具体的には、本形態の薬液注入システム1000では、薬液注入装置100の注入実行ヘッド110に薬液シリンジ200が適切に装填されると、その薬液チップ214から薬液リーダ122が製品IDを取得する。同様に、注入実行ヘッド110にカルテチップ250が適切に装填されると、そのカルテチップ250からカルテリーダライタ123が不適IDを取得する。
[0048] そして、このように製品IDと不適IDとが取得されると、これらをコンピュータユニット130が照合し、製品IDと不適IDとが整合すると、薬液注入機構117を作動不能に動作制御する。さらに、このコンピュータユニット130は、製品/不適IDが整合するとサブタッチパネル104などを警告報知手段として機能させるため、“この薬液は、この被験者には注入できません。”などの警告メッセージをメイン/サブタッチパネル104,121に表示出力させるとともにスピーカユニット105に音声出力させる。」
「[0056] [実施の形態の動作]
上述のような構成において、本形態の薬液注入システム1000が使用される場合、図3に示すように、CTスキャナ300の撮像ユニット301の近傍に薬液注入装置100が配置され、使用する薬液シリンジ200や延長チューブ230などとともに、被験者のカルテチップ250が用意される。本形態の薬液注入装置100は、初期状態では薬液注入機構117が作動不能に初期設定されているので(ステップS1)、誤操作により薬液注入機構117が誤作動することはない。
[0057] そこで、薬液注入装置100の注入実行ヘッド110に薬液シリンジ200が適切に装着されると、その薬液リーダ122に薬液チップ214が自動的に所定距離で対向されるので、図6に示すように、その薬液チップ214から薬液リーダ122に薬液データが取得される(ステップS2)。このように取得された薬液データは、コンピュータユニット130のCPU131によりRAM133に一時保持され、メイン/サブタッチパネル104,121に表示出力されるので(ステップS3)、作業者は薬液データの登録内容を確認することができる。
[0058] なお、薬液チップ214の薬液データには、データ表示の対象となる各種データと、対象とならない各種データとが登録されているので、例えば、その各種データごとに表示有無が2値フラグでデータ設定されており、薬液注入装置100は、薬液チップ214から取得された各種データから適切な一部をデータ表示する。
[0059] さらに、薬液チップ214から薬液注入装置100に取得された薬液データに“耐圧”や“容量”や“造影剤の注入速度を時間経過により変化させる可変パターン”などの制御データが内包されていた場合、その制御データがコンピュータユニット130に設定される(ステップS3)。一方、薬液チップ214から取得された薬液データに制御データが設定されていなかった場合は、デフォルトの制御データが設定される。
[0060] また、本形態の薬液注入装置100では、注入実行ヘッド110のカルテリーダライタ123にカルテチップ250が装填されると、カルテチップ250からカルテリーダライタ123に電子カルテが取得される(ステップS4)。このように取得された電子カルテも一時保持されてメイン/サブタッチパネル104,121に表示出力されるので(ステップS5)、作業者は電子カルテの登録内容も確認することができる。
[0061] そして、上述のように薬液データと電子カルテとの両方がデータ保持されると(ステップS6)、その電子カルテに不適IDがデータ登録されているかが確認される(ステップS7)。電子カルテに不適IDがデータ登録されていない場合は、その被験者に注入不適な薬液は発生していないことになるので、これで薬液注入機構117の初期設定による作動不能が解除される(ステップS10)。
[0062] 一方、電子カルテに不適IDがデータ登録されていた場合は(ステップS7)、その被験者には副作用が発生するなどして注入不適な薬液が存在することになる。この場合、不適IDと製品IDとが照合され(ステップS8)、これが整合しない場合と、その薬液は被験者に注入不適な薬液ではないことになるので、薬液注入機構117の初期設定による作動不能が解除される(ステップS10)。
[0063] 一方、不適IDと製品IDとが整合すると(ステップS8)、その薬液は被験者に注入不適な薬液なので、“この薬液は、この被験者には注入できません。”などの警告メッセージがメイン/サブタッチパネル104,121で表示出力されるとともにスピーカユニット105で音声出力される(ステップS9)。
[0064] この場合、薬液注入機構117の初期設定による作動不能は解除されず、薬液注入装置100は初期状態に復帰するので(ステップS1)、不適な薬液が被験者に注入されることはない。さらに、薬液を被験者に注入できないことを警告メッセージにより作業者に認識させることができるので、例えば、この作業者は薬液シリンジ200を他種と交換するなどの対処を実行することができる。
[0065] そして、電子カルテに不適IDがデータ登録されていなかったり、不適/製品IDが整合しないなどして、薬液注入機構117の作動不能が解除された状態で(ステップS10)、作業者によりメイン/サブタッチパネル104、121やメイン操作パネル103に作業開始が入力操作されると、これを検知した薬液注入装置100は(ステップS11)、作業開始をCTスキャナ300にデータ送信する(ステップS14)。」
「[0109] さらに、上記形態では説明を簡単とするため、薬液チップ214が装着されている薬液シリンジ200が、薬液リーダ122が搭載されている薬液注入装置100に直接に装填されることを例示したが、現在の実際の薬液注入装置100は、最大サイズの薬液シリンジ200のみ直接に装填され、最大以外のサイズの薬液シリンジ200は各々に専用のシリンダアダプタを介して装填される。
[0110] そこで、このシリンダアダプタに薬液リーダ122を搭載しておき、シリンダアダプタを注入実行ヘッド110に装填すると、その薬液リーダ122が薬液注入装置100に接続されることも可能である。また、シリンダアダプタにも薬液チップ214を搭載しておき、薬液シリンジ200をシリンダアダプタとともに注入実行ヘッド110に装填すると、その薬液リーダ122で薬液シリンジ200とシリンダアダプタとの薬液チップ214が検出されることも可能である。」
「請求の範囲
[1] 薬液が充填されているシリンダ部材にピストン部材がスライド自在に挿入されている薬液シリンジと、交換自在に装填される前記薬液シリンジの前記シリンダ部材と前記ピストン部材とを薬液注入機構で相対移動させて前記薬液を被験者に注入する薬液注入装置と、
を少なくとも有している薬液注入システムであって、
前記薬液シリンジは、充填されている前記薬液の少なくとも製品ID(Identity)がデータ記録されているデータ記憶手段を有しており、
前記薬液注入装置は、
前記データ記憶手段から前記製品IDを取得する薬液データ取得手段と、
前記被験者ごとに少なくとも注入に不適な前記薬液の製品IDが不適IDとしてデータ登録されている外部の電子カルテから前記不適IDを取得するカルテデータ取得手段と、
取得された前記製品IDと前記不適IDとを照合するデータ照合手段と、
前記製品IDと前記不適IDとが整合すると警告を報知する警告報知手段と、
を有している薬液注入システム。」
(イ)引用文献1の請求の範囲の請求項1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「薬液が充填されているシリンダ部材にピストン部材がスライド自在に挿入されている薬液シリンジと、交換自在に装填される前記薬液シリンジの前記シリンダ部材と前記ピストン部材とを薬液注入機構で相対移動させて前記薬液を被験者に注入する薬液注入装置と、
を少なくとも有している薬液注入システムであって、
前記薬液シリンジは、充填されている前記薬液の少なくとも製品ID(Identity)がデータ記録されているデータ記憶手段を有しており、
前記薬液注入装置は、
前記データ記憶手段から前記製品IDを取得する薬液データ取得手段と、
前記被験者ごとに少なくとも注入に不適な前記薬液の製品IDが不適IDとしてデータ登録されている外部の電子カルテから前記不適IDを取得するカルテデータ取得手段と、
取得された前記製品IDと前記不適IDとを照合するデータ照合手段と、
前記製品IDと前記不適IDとが整合すると警告を報知する警告報知手段と、
を有している薬液注入システム。」
イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2003-220136号公報(平成15年8月5日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリンジの薬液を被験者に注入する薬液注入装置に関し、特に、シリンジがシリンジアダプタを介して注入ヘッドに装着される薬液注入装置に関する。」
「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の実施の一形態を図面を参照して以下に説明する。本実施の形態の薬液注入装置100は、図5に示すように、MRI装置300の近傍での使用を想定して形成されており、同図および図3に示すように、注入ヘッド101が装置本体102にスタンド103で装着されている。
【0011】装置本体102の側部にはアーム104が装着されており、このアーム104の先端に注入ヘッド101が装着されている。この注入ヘッド101は、同図および図1に示すように、上面に半円筒形の溝状のホルダ部106が形成されており、このホルダ部106にシリンジ200がシリンジアダプタ107を介して着脱自在に装着される。
【0012】より詳細には、本形態では複数種類の薬液ごとに専用のシリンジ200が用意されているが、複数種類のシリンジ200は外形が様々であるために注入ヘッド101のホルダ部106に一様に装着することはできない。しかし、本形態では複数種類のシリンジ200ごとに専用のシリンジアダプタ107が用意されているので、そのシリンジアダプタ107により複数種類のシリンジ200が注入ヘッド101のホルダ部106に一様に装着される。
【0013】シリンジ200は、シリンダ部201とピストン部202からなり、シリンダ部201にピストン部202がスライド自在に挿入されている。シリンダ部201の末端にはシリンダフランジ203が形成されており、ピストン部202の末端にはピストンフランジ204が形成されている。
【0014】シリンジアダプタ107は、図1および図2に示すように、U字形状に湾曲して底面に補強リブ110が形成された本体部111を有しており、この本体部111がシリンジ200のシリンダ部201を保持する。本体部111の末端には、シリンジ200のシリンダフランジ203を把持する把持部112が形成されており、本体部111の両側には、注入ヘッド101の凹部113に係合する係合部114が形成されている。
【0015】このシリンジアダプタ107の係合部114の下面には、図2に示すように、シリンジ識別手段として4つの所定位置の少なくとも一部に凸部115が形成されており、この4箇所の凸部115の有無によりシリンジ200の種類ごとの識別データが記録されている。
【0016】注入ヘッド101の凹部113には、図1に示すように、シリンジアダプタ107の凸部115に対応した4箇所にシリンジ検出手段として押圧スイッチ116が配置されており、これらの押圧スイッチ116が凸部115の有無を個々に検出する。押圧スイッチ116は、凸部115に押圧されると信号を出力する単純な機械スイッチからなり、非磁性体で形成されている。
【0017】また、同図および図4に示すように、注入ヘッド101のホルダ部106の後方には、超音波モータ117を駆動源としたスライダ機構118が形成されており、このスライダ機構118がピストンフランジ204を把持してスライドさせる。
【0018】このスライダ機構118には、燐青銅合金などの非磁性体からなるロードセル119が内蔵されており、このロードセル119は、スライダ機構118がピストン部202を押圧する応力に対応した電気信号を発生する。
【0019】本形態の薬液注入装置100では、図3に示すように、装置本体102の上部に操作パネル121と液晶ディスプレイ122とが搭載されており、装置本体102にプロセッサユニット123が内蔵されている。このプロセッサユニット123は、コンピュータプログラムに対応して各種の処理動作を実行することにより、薬液注入装置100の各部を統合制御する各種手段として機能する。
【0020】例えば、プロセッサユニット123は、シリンジ200がシリンジアダプタ107を介して注入ヘッド101に装着されると、その4個の押圧スイッチ116の出力信号からシリンジ200の識別データを検出する。また、プロセッサユニット123は、シリンジ200の各種データが識別データごとに記録されており、上述のように押圧スイッチ116の出力信号からシリンジ200の識別データを検出すると、その識別データでシリンジ200の各種データを読み出して液晶ディスプレイ122にデータ表示させる。」
「【0025】[実施の形態の動作]上述のような構成において、本実施の形態の薬液注入装置100を使用する場合、作業者は被験者に注入する薬液に対応して適切なシリンジ200を選択し、そのシリンジ200をMRI装置300の撮像ユニット301に位置する被験者に延長チューブで連結する(図示せず)。
【0026】つぎに、そのシリンジ200に専用のシリンジアダプタ112を用意し、図1に示すように、そのシリンジアダプタ112をシリンジ200のシリンダ部201に装着する。そして、このシリンジ200をシリンジアダプタ112とともに注入ヘッド101に装着することにより、シリンダ部201をホルダ部106に保持させるとともにピストン部202をスライダ機構118に把持させる。
【0027】このとき、図2に示すように、シリンジアダプタ112の規定の4箇所の少なくとも一つに位置する凸部115が、注入ヘッド101の4個の押圧スイッチ116の少なくとも1個を押圧するので、図6に示すように、その押圧スイッチ116の出力信号をシリンジ200の識別データとして装置本体102のプロセッサユニット123が取得する(ステップS1)。
【0028】すると、このプロセッサユニット123は、入力された識別データでデータベースからシリンジ200の各種データを検索して保持し(ステップS2,S3)、その各種データの少なくとも一部を装置本体102の液晶ディスプレイ122に表示させる(ステップS4)。
【0029】これで液晶ディスプレイ122には、薬液の名称やシリンジ200の容量などが表示されるので、作業者は適切なシリンジ200が装着されていることを確認することができる。そこで、これを確認した作業者が装置本体102の操作パネル121に注入開始を入力すると(ステップS5)、プロセッサユニット123は、超音波モータ117を動作させることなくロードセル119の電気抵抗を取得して保持する(ステップS6,S7)。
【0030】これが完了すると、プロセッサユニット123は超音波モータ117を作動させるので(ステップS8)、これでスライダ機構118がシリンジ200のピストン部202をスライドさせ、シリンジ200の薬液が被験者に注入される。このとき、プロセッサユニット123は、ロードセル119の電気抵抗をリアルタイムに取得し(ステップS9)、その電気抵抗と初期状態に保持した電気抵抗との差分から、シリンジ200の内径数値などに対応して薬液の圧力を算出する(ステップS10)。
【0031】さらに、この圧力からプロセッサユニット123は経時グラフをリアルタイムに生成し、この経時グラフを液晶ディスプレイ122に表示させる(ステップS12)。そして、本形態の薬液注入装置100は、スライダ機構118のストロークなどから薬液の注入完了を検出すると(ステップS13)、超音波モータ117の駆動を停止させて初期状態に復帰する(ステップS14)。
【0032】なお、薬液の検出圧力が所定の上限圧力に到達すると(ステップS11)、プロセッサユニット123は超音波モータ117の駆動を強制停止させ(ステップS15)、液晶ディスプレイ122に“以上圧力が発生しました、シリンジなどを確認して下さい”等のエラーガイダンスを表示する(ステップS16)。
【0033】[実施の形態の効果]本実施の形態の薬液注入装置100では、複数種類のシリンジ200ごとに専用のシリンジアダプタ107が用意されているので、様々な外形の複数種類のシリンジ200を注入ヘッド101に一様に装着することができる。
【0034】しかも、シリンジ200は複数種類の薬液ごとに用意されているが、そのシリンジ200をシリンジアダプタ107で注入ヘッド101に装着すると、そのシリンジ200の識別データが自動的に検出されるので、作業者はシリンジ200の識別データを操作パネル121に入力する必要がない。
【0035】さらに、シリンジアダプタ107の規定の4箇所の少なくとも一部に形成された凸部115を注入ヘッド101の押圧スイッチ116が検出することでシリンジ200の識別データが検出されるので、簡単な構造で確実にシリンジ200の識別データを検出することができる。」
「【0056】
【発明の効果】本発明の薬液注入装置では、シリンジアダプタにシリンジの種類ごとの識別データが記録されており、注入ヘッドは装着されたシリンジアダプタから識別データを検出するので、シリンジアダプタを介して注入ヘッドに装着されたシリンジの識別データを自動的に検出することができる。」
「
[図:0001392914000001.jpg]
」
「
[図:0001392914000002.jpg]
」
(イ)上記記載から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「薬液注入装置100において、外形が様々であるシリンジ200をホルダ部106に一様に装着するために、複数種類のシリンジ200ごとに専用のシリンジアダプタ107を用意し、ホルダ部106にシリンジ200がシリンジアダプタ107を介して着脱自在に装着され、シリンジアダプタ107を介して注入ヘッド101に装着されたシリンジ200の識別データを自動的に検出する点。」
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「薬液シリンジ」の「前記データ記憶手段から前記製品IDを取得する薬液データ取得手段」は、引用文献1の[0030]~[0042]を参照すると、薬液に関する製品ID等の各種データを取得するものであり、薬液の種類を特定するものといえるから、本件補正発明の「取り付けられた前記アダプタに対応する薬液の種類を特定する特定部」と、「薬液の種類を特定する特定部」である限りで一致する。
イ 引用文献1の[0062]には、不適IDがデータ登録されていた場合は、被験者に副作用が発生するなどして注入不適な薬液が存在することを意味する点が記載されている。そうすると、引用発明の「前記被験者ごとに少なくとも注入に不適な前記薬液の製品IDが不適IDとしてデータ登録されている外部の電子カルテから前記不適IDを取得するカルテデータ取得手段」は、副作用が発生する薬液を示す不適IDを設定する部であるから、本件補正発明の「副作用歴のある薬液の種類を示す副作用情報を含む患者情報を設定する設定部」に相当する。
ウ 引用発明の「取得された前記製品IDと前記不適IDとを照合するデータ照合手段」は、引用文献1の[0043]を参照すると、「不適ID」が被験者に注入不適な薬液の製品IDのデータであって、不適IDの中に製品IDが含まれるか照合するものであるから、本件補正発明の「前記副作用情報の中に前記特定部に特定された前記薬液の種類が含まれるか判断する判断部」に相当する。
エ 引用発明の「前記製品IDと前記不適IDとが整合すると警告を報知する警告報知手段」は、本件補正発明の「前記特定部に特定された前記薬液の種類が前記副作用情報に含まれる場合、警告を出力する出力部」に相当する。
オ 引用発明の「薬液注入システム」は、本件補正発明の「薬液注入装置」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「薬液の種類を特定する特定部と、
副作用歴のある薬液の種類を示す副作用情報を含む患者情報を設定する設定部と、
前記副作用情報の中に前記特定部に特定された前記薬液の種類が含まれるか判断する判断部と、
前記特定部に特定された前記薬液の種類が前記副作用情報に含まれる場合、警告を出力する出力部と、
を有する、
薬液注入装置。」
[相違点]
本件補正発明では、特定部が「1つの薬液の種類に1つのアダプタが対応」する「アダプタを介して薬液シリンジを保持する保持部に前記アダプタが取り付けられると、取り付けられた前記アダプタに対応する薬液の種類を特定」するものであり、「前記アダプタの取り付け、及び、前記患者情報の設定の両方を満たすと、それに応じて、」判断部と出力部が動作し、「前記出力部は、前記薬液シリンジを前記薬液注入装置に取り付けていない状態で前記警告を出力することができる」ものであるのに対し、引用発明では、アダプタを介さず薬液シリンジが交換自在に装填されるものである点。
(4)判断
上記相違点について、検討する。
ここで、本件補正発明と引用文献2に記載の事項を対比すると、引用文献2記載の事項の「薬液注入装置100」は、本件補正発明の「薬液注入装置」に相当し、同様に、「外形が様々であるシリンジ200をホルダ部106に一様に装着するために、複数種類のシリンジ200ごとに専用のシリンジアダプタ107を用意」することは、本件補正発明の「1つの薬液の種類に1つのアダプタが対応」することに、「ホルダ部106にシリンジ200がシリンジアダプタ107を介して着脱自在に装着され」ることは、「アダプタを介して薬液シリンジを保持する保持部に前記アダプタが取り付けられる」に、「シリンジアダプタ107を介して注入ヘッド101に装着されたシリンジ200の識別データを自動的に検出する」ことは、「取り付けられた前記アダプタに対応する薬液の種類を特定する」ことに、それぞれ相当する。
そうすると、引用文献2記載の事項を本願補正発明の文言で表現すると、「薬液注入装置において、外形が様々である薬液シリンジを保持部に一様に装着するために、1つの薬液の種類に1つのアダプタが対応し、アダプタを介して薬液シリンジを保持する保持部に前記アダプタが取り付けられる取り付けられた前記アダプタに対応する薬液の種類を特定する点。」と表現できる。
一方、引用文献1の段落[0109]-[0110]には、シリンダアダプタに薬液チップを搭載しておき、シリンダアダプタを用いて、薬液シリンジをシリンダアダプタとともに注入実行ヘッドに装填することが記載されているが、シリンダアダプタの具体的な構造は記載されていない。
また、引用発明においても様々な外形のシリンジを用いることを可能とすることは当然の課題である。
そして、引用発明において、上記引用文献1の記載に従いシリンジアダプタを用いるに際して、又は、前記当然の課題に照らして、引用文献2記載の事項を適用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、その結果、引用発明の「データ照合手段」と「警告報知手段」は、シリンジアダプタ107の取り付け、及び識別データの特定の両方を満たすと、それに応じて動作することとなり、さらに、引用文献2の図1、2の具体的なアダプタ101の構造を参照すると、アダプタ101のみがホルダ部106に取り付けられた状態において、警告を出力できるものとなることは明らかである。
したがって、引用発明に引用文献2記載の事項を適用して、上記相違点に係る本件補正発明の事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本件補正発明の効果は、引用発明及び引用文献2記載の事項から当業者が容易に想到し得る範囲のものであって、格別なものでない。
請求人は、令和4年3月7日に提出した審判請求書や令和4年5月16日に提出した上申書において、「しかしながら、「アダプタをシリンジに装着してから、アダプタ及びシリンジを保持部に取り付ける構成」と、「アダプタを保持部に取り付けてから、アダプタにシリンジを装着する構成」は、その内容の特性上、同時に引用文献1に記載の発明に採用することはできません。引用文献1に記載の発明に採用できるのは、「アダプタをシリンジに装着してから、アダプタ及びシリンジを保持部に取り付ける構成」及び「アダプタを保持部に取り付けてから、アダプタにシリンジを装着する構成」のいずれか一方のみです。」と主張している。
しかしながら、本願明細書の段落【0094】には、「アダプタの取り付け、及び、患者情報の設定の両方を満たしたタイミングで副作用に関する警告を出力する本実施形態の薬液注入装置10によれば、薬液シリンジを薬液注入装置に取り付ける前に警告を出力することができる。かかる場合、薬液シリンジを包装資材から取り出す前に警告を出力することが可能となるので、包装資材から取り出されたが使用されない薬液シリンジの発生を抑制できる。」との記載はあるものの、そもそも「アダプタを保持部に取り付けてから、アダプタにシリンジを装着する構成」は、明細書に記載されていないし、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、令和3年10月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「出力部」に係る「前記薬液シリンジを前記薬液注入装置に取り付けていない状態で前記警告を出力することができる」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同じ理由で引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-003387