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特許拒絶査定不服審判

2022-002718

CCR3アンタゴニストを含む医薬製剤

審判番号
2022-002718
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-080024外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年02月24日
審決日
2024年02月29日
公報発行日
2024年08月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (A61K) / P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020- 80024「CCR3アンタゴニストを含む医薬製剤」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月10日出願公開、特開2020-143080〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)4月2日(パリ条約による優先権主張、2012年4月4日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2015-503848号の一部を、平成30年4月4日に新たな出願とした特願2018-72309号の一部を、令和2年4月30日に新たな出願としたものであり、その主な手続の経緯は次のとおりである。 令和 3年 4月19日付け:拒絶理由通知 令和 3年 7月26日 :手続補正書・意見書の提出 令和 3年10月19日付け:補正却下の決定・拒絶査定 令和 4年 2月24日 :審判請求書・手続補正書の提出 令和 4年 4月19日付け:前置報告 令和 4年 7月 1日 :上申書の提出 令和 5年 6月22日付け:拒絶理由通知(当審) 令和 5年11月 9日 :手続補正書・意見書の提出 第2 本願発明について 本願の請求項1~16に係る発明は、令和5年11月9日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである(なお、この審決において、数字などは全て全角で統一して記載する。)。 「【請求項1】 有効成分として式1 【化1】 [図:0001412535000001.jpg] 1 (式中、R1は、H、C1-6-アルキル、C0-4-アルキル-C3-6-シクロアルキル、又はC1-6-ハロアルキルであり; R2は、H、又はC1-6-アルキルであり; Xは、クロライド又は1/2ジベンゾイルタートレートからなる群より選ばれるアニオンであり; jは、1又は2である) の化合物、第1の希釈剤、第2の希釈剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤を含む医薬組成物であって、崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムである、医薬組成物。」 第3 当審において通知した拒絶理由 令和5年6月22日付けで当審において通知した拒絶理由(理由2及び3)の概要は、次のとおりである。 1 理由2(サポート要件):請求項1~16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 理由3(進歩性):請求項1~16に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項、並びに、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.国際公開第2010/115836号 2.経口投与製剤の設計と評価,株式会社薬業時報社,1995年,p.74~80 3.医薬品添加物事典,2007年,p.66,93,220,253 8.国際公開第2006/095671号 9.国際公開第2011/049474号 10.国際公開第2009/004480号 11.特表2005-526020号公報 12.国際公開第2012/016683号 なお、引用文献2~10は、請求項1~16に対する技術常識を示す文献であり、引用文献11及び12は、請求項5及び10に対する技術常識を示す文献である。 第4 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 1 特許法第36条第6項第1号の判断手法について 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 2 本願明細書の記載 本願明細書には以下の記載がある。(なお、下線は強調のために当審で付与した。) (1)段落【0004】~【0010】 「【背景技術】 【0004】 ・・・ 【0007】 ・・・ 式1の置換ピペリジンが、副作用の少ないCCR3アンタゴニストとして非常に適していることがわかり、国際公開第2010 115836号パンフレットに開示されている、例えば、Watson PS,Bioorg Med Chem Lett.,16(21):5695-5699(2006)に記載されているようにノルエピネフリン(NET)、ドーパミン(DAT)又はセロトニン再取込み輸送体(5-HTT)の阻害、又はDe Lucca,J Med Chem.,48(6):2194-2211(2005)に記載されているように5HT2A、5HT2C又はドーパミンD2受容体の阻害、又はDe Lucca,Curr Opin Drug Discov Devel.,9(4):516-524(2006)に記載されているようにhERGチャネルの阻害、又はalpha1Bアドレナリン受容体の阻害。 従って、式1のこれらの化合物は、先行技術から知られているものと同様の医薬製剤の薬剤として用いることができる(List et al., Arzneiformenlehre,Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft mbH Stuttgart, 4.Auflage, p70ff)。 化合物による初期安定性実験から、薬剤物質が、医薬品登録当局の規則に従って薬剤の標準条件下で充分な安定性を可能にする製造プロセス及び/又は製剤成分のため安定効果を必要とすることが明らかになった。更に嵩密度或いはハウスナー比を誘導すること、静電帯電、表面接着性のような薬剤物質の物理的特性のため、直接圧縮又は水性造粒のような広く用いられている標準製造プロセスを化合物に適用することができない。これらの特性は、流動性や圧縮率のような鍵となる特徴に著しく影響することになり、これは医薬剤形を製造するために薬剤物質の加工に重要である。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 従って、当業者は、製剤中の薬剤物質の分解、特に空気中の湿度及び標準医薬賦形剤の含水量に起因し得る加水分解開裂を妨げるために、式1の化合物の新規で且つ本発明の医薬製剤を見出す必要性を予想した。」 (2)段落【0011】~【0016】 「【0011】発明の詳細な説明 本発明の第1の目的は、式1 【0012】 【化2】 [図:0001412535000002.jpg] 1 【0013】 (式中、R1は、H、C1-6-アルキル、C0-4-アルキル-C3-6-シクロアルキル、C1-6-ハロアルキルであり; R2は、H、C1-6-アルキルであり; Xは、クロライド又は1/2ジベンゾイルタートレートからなる群より選ばれるアニオンであり; jは、1又は2である) の化合物を含有する医薬組成物、その調製方法、及びCCR3受容体と関係がある疾患を治療するその使用に関する。 ・・・ 【0016】 塩酸塩として下記の表の例1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10を含有する医薬組成物が好ましい。更に、二塩酸塩として下記の表の例1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10を含有する医薬組成物が好ましい。 ・・・」 (3)段落【0019】~【0036】 「【0019】 剤形/成分 式1の化合物から作られる用時使用/経口摂取の固体医薬組成物は、散剤、顆粒剤、ペレット剤、錠剤、カプセル剤、咀嚼錠、分散錠、トローチ剤及びロゼンジ剤を含んでいる。 詳細には: ・・・ 【0021】 詳細には、医薬賦形剤は、第1及び第2の希釈剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤であり得る;追加の崩壊剤及び追加の流動促進剤は、更なる選択である。 ・本発明の医薬組成物に適している希釈剤は、セルロース粉末、ミクロクリスタリンセルロース、・・・である。これらの希釈剤の中でも、二塩基性リン酸カルシウム無水物及びミクロクリスタリンセルロースが好ましい。 ・第2の希釈剤として好ましい希釈剤は、上述の希釈剤二塩基性リン酸カルシウム無水物及びミクロクリスタリンセルロースである。 ・本発明の医薬組成物に適している滑沢剤は、タルク、・・・である。好ましい滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウムである。 ・本発明の医薬組成物に適している結合剤は、コポビドン(ビニルピロリドンと他のビニル誘導体とのビニルピロリドンの共重合体)、・・・であり、コポビドン及び予備糊化デンプンが好ましい。上述の結合剤予備糊化デンプンとL-HPCは、追加の希釈剤と崩壊剤の特性を示し、第2の希釈剤又は崩壊剤としても使用し得る。 ・本発明の医薬組成物に適している崩壊剤は、コーンスターチ、・・・;好ましくはクロスカルメロースナトリウムである。 ・任意の流動促進剤として、コロイド二酸化ケイ素が使用し得る。 ・・・ 【0025】 本発明の錠剤製剤は、被覆されなくてもよく、最終製剤の溶解特性に負に影響しないことが知られている適切なコーティングを用いて被覆されてもよく、例えばフィルムコートされてもよい。例えば、錠剤は、・・・ 【0026】 投薬量 式1の化合物の投薬量範囲は、・・・ 【0027】 製造方法 直接圧縮 薬剤物質の悪い流動特性及び約1.40の高いハウスナー比のため、錠剤を製造する直接圧縮プロセスは実行できない。それ故、造粒プロセス(湿式又は乾式造粒)が行われなければならない。 湿式造粒 湿式造粒プロセスにおいて、・・・ 【0030】 流動床造粒 湿式造粒プロセスにおいて、・・・ 【0032】 ホットメルト造粒 ホットメルトプロセスにおいて、・・・ 【0034】 ローラー圧縮 乾燥造粒プロセスにおいて・・・ 【0036】 ホットメルト押出し ホットメルト押出しプロセスにおいて、・・・」 (4)段落【0038】~【0063】 「【実施例】 【0038】 本発明は、CCR3受容体に関係のある疾患の治療用の医薬製剤の調製のための式1の化合物の使用に関する。この活性を示すCCR3受容体結合試験は、国際公開第2010115836号パンフレットですでに開示した。式1の化合物のKi値(ヒトCCR3受容体におけるヒトエオタキシン-1)を下記の表に示す。本明細書に用いられる「活性」は、上述した分析で測定したときの阻害において1μM以上で50%の阻害を示す化合物を意味するものである。そのような結果は、CCR3受容体活性の阻害剤として化合物の固有の活性を表している。 式1の化合物の例は、国際公開第2010115836号パンフレットの説明に従って合成することができ、この明細書の記載は本願明細書に援用されている。これらの例の塩は、HClを含有する溶液から遊離塩基を結晶化することによって形成することができる。好ましくは、例1、2 3、4、5、6、7、8、9及び10は、二塩酸塩の形である。 【0039】 [図:0001412535000003.jpg] [図:0001412535000004.jpg] [図:0001412535000005.jpg] 【0040】 分解に対する実施例 逆相カラム及び緩衝剤/アセトニトリルによる勾配を有する高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)及びUV定量化を分解産物の定量化のために用いた。 純粋な薬剤物質及び異なる錠剤製剤についてストレス条件(40℃/60℃の瓶)下の貯蔵及び25℃/60% r.h.での屋外貯蔵の安定性の結果は、製剤によって著しい安定性改善が達成されたことを証明している。 25℃/60% r.h.で1週間開封して貯蔵した薬剤物質は液化し、分解(2.5%の全分解)を伴っている。密閉した容器内で3ヶ月間貯蔵すると、43%の全分解が定量化された。 開発した異なる製剤成分は、同一条件及び同様の包装下で分解を示さず(alu/aluブリスターは3ヶ月後>0.1%の分解産物を示さない)、25℃/60% r.h.(1週間)の屋外貯蔵条件下で0.7%の全分解を示す。 国際的に認められたガイドライン(例えばICH Q3b)に従って改良された安定特性は、患者に新規な化学物質の投与を可能にする。 【0041】 錠剤 上記の化合物、すなわち塩酸塩の形の例1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10又は二塩酸塩の形の例1、2 3、4、5、6、7、8、9及び10による固体医薬組成物の下記の限定されない実施例を行うことができる: 【0042】 実施例1 - 錠剤製剤 - 湿式造粒 コポビドンをエタノールに周囲温度で溶解して、造粒液体を得る。CCR3アンタゴニスト有効成分、ラクトース及びクロスポビドンの一部を適切なミキサー内で混和して、プレミックスを得る。プレミックスを造粒液体で湿らせ、引き続き顆粒化する。湿った顆粒物を、必要により1.6~3.0mmのメッシュを有する篩で篩過してもよい。顆粒物を、1~3%の乾燥減量に対応する残留水分含量まで適切な乾燥機内で45℃において乾燥する。乾燥した顆粒物を1.0mmのメッシュを有する篩で篩過する。顆粒物を、クロスポビドンの一部及びミクロクリスタリンセルロースと適切なミキサー内で混和する。ステアリン酸マグネシウムをこのブレンドに添加した後、細分するために1.0mmの篩を通過させる。引き続き、適切なミキサー内で最終混和することによって最終ブレンドを生成し、錠剤に圧縮する。下記の錠剤組成物を得ることができる: 【0043】 [図:0001412535000006.jpg] 【0044】 実施例2 - 錠剤製剤 - 溶融造粒 ・・・ 【0056】 実施例7.2 - 錠剤製剤 - ローラー圧縮 CCR3アンタゴニスト有効成分をローラー圧縮機で圧縮し、引き続き顆粒化する。必要により、顆粒物を0.8mmのメッシュサイズを有する篩で篩過してもよい。顆粒物を二塩基性リン酸カルシウム無水物、ミクロクリスタリンセルロース及びクロスカルメロースナトリウムと適切なミキサー内で混和する。このブレンドにステアリン酸マグネシウムを添加した後、細分するために1.0mmの篩を通過させる。引き続き、適切なミキサー内で最終混和することによって最終ブレンドを生成し、錠剤に圧縮する。下記の錠剤組成物を得ることができる: 【0057】 [図:0001412535000007.jpg] ・・・ 【0062】 実施例9.2 - コート錠製剤 上述した製剤の錠剤コアを使用して、フィルムコート錠を得ることができる。ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄を精製水に周囲温度で適切なミキサー内で懸濁して、コーティング懸濁液を得る。錠剤コアを約3%の質量増加分までコーティング懸濁液で被覆して、フィルムコート錠を得る。下記のフィルムコーティング組成物を得ることができる: 【0063】 [図:0001412535000008.jpg] 」 3 本願発明の課題について 本願明細書の段落【0007】及び【0010】の記載によれば、従来、式1の化合物(以下「化合物1」という。)(薬剤物質)を含む製剤においては、当該化合物の分解が生じていたところ、「製剤中の化合物1(薬剤物質)の分解、特に空気中の湿度及び標準医薬賦形剤の含水量に起因し得る加水分解開裂を妨げるために、化合物1の新規な医薬製剤を提供すること」を本願発明の課題とするものと理解することができる。 なお、請求人も上記課題の認定について、意見書において何ら反論をしていない。 そうすると、本願発明が、当該発明の課題を解決できるというためには、本願発明に係る医薬組成物からなる製剤が、「標準医薬賦形剤」と共に化合物1を含む製剤に比べて、より製剤中の化合物1の分解(特に空気中の湿度及び標準医薬賦形剤の含水量に起因し得る加水分解開裂)が妨げられていることを当業者が認識できることが必要であり、単に製剤化されていない化合物1の薬剤物質(原末)と比べて、本願発明に係る医薬組成物における化合物1が、より分解が妨げられたことを示すだけでは足りない。 4 判断 本願発明には、式1におけるXがクロライドである「塩酸塩」に関する発明と、当該Xが1/2ジベンゾイルタートレートである「1/2ジベンゾイルタートレート塩」に関する発明が含まれるところ、以下においては、本願発明のうち「1/2ジベンゾイルタートレート塩」に関する発明について判断を行う。 (1)本願明細書の発明の詳細な説明には、有効成分について、化合物1の「塩酸塩」又は「1/2ジベンゾイルタートレート塩」を用いることが記載されている(段落【0011】~【0013】)。さらに、医薬賦形剤については、「第1及び第2の希釈剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤」を用いることができ、希釈剤としてはセルロース粉末等を、第2の希釈剤としては二塩基性リン酸カルシウム無水物等を、結合剤としてはコポビドン等を、崩壊剤としてはコーンスターチ等を、滑沢剤としてはタルク等を用いることも記載されている(段落【0021】)。 また、散剤、錠剤、カプセル剤などの剤形とすることや(段落【0019】)、錠剤とする場合の製造方法についても記載されている(段落【0025】、【0027】~【0036】)。 そして、【実施例】において、化合物1の具体例である例1~10の化合物の塩酸塩(好ましくは二塩酸塩)が記載され(段落【0039】)、「分解に対する実施例」として、「薬剤物質」を、1週間開封して貯蔵(25℃/60%r.h)した場合は、液化、分解(2.5%の全分解)し、密閉した容器内で3ヶ月貯蔵すると43%の全分解が定量化されたのに対し、「異なる錠剤製剤」は、同一条件及び同様の包装下で分解を示さず、1週間の屋外貯蔵条件下(25℃/60%r.h)で0.7%の全分解を示したことが記載されている(段落【0040】)。 最後に、実施例1~9.2として、上記した例1~10の塩酸塩(又は二塩酸塩)のいずれかを「有効成分」とした固体医薬組成物の製剤例が複数示されており、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを含む実施例7.2の製剤例として、以下のものが記載されている(段落【0057】)。 「有効成分 66.0% ミクロクリスタリンセルロース 10.0% 二塩基酸リン酸カルシウム 18.5% クロスカルメロースナトリウム 4.0% ステアリン酸マグネシウム 1.5%」 (2)上記(1)の記載について検討すると、「分解に対する実施例」(段落【0040】)において、比較の対象とされた「薬剤物質」と、「異なる錠剤製剤」がそれぞれどのようなものであるのかについて何ら具体的な説明はないものの、「薬剤物質」は具体的に記載されている上記例1~10のいずれかの化合物の塩酸塩(又は二塩酸塩)の原末自体であり、「異なる錠剤製剤」は「薬剤物質」と何らかの添加剤とを用いて製造された製剤であると解される。 しかし、本願発明の化合物1のXが1/2ジベンゾイルタートレートである態様については、分解性に関する説明が存在せず、本願発明の化合物1において、塩酸塩と1/2ジベンゾイルタートレートとの分解性が同程度であるとの技術常識があることは示されていないから、塩酸塩の分解性に関する試験結果から1/2ジベンゾイルタートレート塩の分解性を推認することは困難である。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、化合物1のXが1/2ジベンゾイルタートレートである化合物を有効成分とした場合の分解性に関する手がかりとなる記載が全くないから、化合物1の1/2ジベンゾイルタートレート塩を、第1と第2の希釈剤、結合剤、崩壊剤としてのクロスカルメロースナトリウム及び滑沢剤と共に含有させた製剤が、「標準医薬賦形剤」を用いて製造された製剤と比べて、当該塩の分解が妨げられていることを、当業者は認識することができない。 (3)仮に、化合物1の塩酸塩と1/2ジベンゾイルタートレート塩とが、同程度の分解性を示すとの技術常識が存在した場合について、以下検討する。 本願明細書の段落【0040】に記載された「分解に対する実施例」は、段落【0039】に記載された例1~10の化合物の塩酸塩(化合物1の塩酸塩に相当)のいずれかを、「薬剤物質」としたものであり、「純粋な薬剤物質」に比べて、当該薬剤物質を含む「異なる錠剤製剤」は、化合物1の分解が妨げられたことが記載されていると理解できる。 しかしながら、化合物1の塩酸塩を含む「異なる錠剤製剤」が、「標準医薬賦形剤」と共に化合物1の塩酸塩を含む製剤に比べて、化合物1の分解が妨げられたことは示されていないし、「異なる錠剤製剤」が、本願発明で特定される賦形剤を全て含むものであるのか、特に、クロスカルメロースナトリウムを含むものであるのかも記載されていない。 また、クロスカルメロースナトリウムを含む実施例7.2の製剤例は、ミクロクリスタリンセルロースが第1の希釈剤でもあると共に結合剤でもあり、二塩基性リン酸カルシウムが第2の希釈剤であり、クロスカルメロースナトリウムが崩壊剤であり、ステアリン酸マグネシウムが滑沢剤であると理解すれば、本願発明の添加剤を全て含むものと理解できるが、この製剤例についても、有効成分(化合物1の塩酸塩)の分解性については確認されていない。 そうすると、化合物1の塩酸塩について、「標準医薬賦形剤」と共に含む製剤に比べて、本願発明に係る医薬組成物の製剤が、製剤中の化合物1の分解が妨げられていることを当業者が認識できない。 したがって、化合物1の塩酸塩と1/2ジベンゾイルタートレート塩とが、同程度の分解性を示すとの技術常識が存在したとしても、化合物1の1/2ジベンゾイルタートレート塩に関する本願発明に係る医薬組成物からなる製剤が、化合物1の1/2ジベンゾイルタートレート塩を「標準医薬賦形剤」と共に含む製剤に比べて、製剤中の化合物1の分解が妨げられていることを当業者は認識できない。 (4)以上によれば、本願出願時の技術常識に照らし、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者は、化合物1の1/2ジベンゾイルタートレート塩に関する本願発明に係る医薬組成物が、当該発明の課題を解決できることを認識することができないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 5 請求人の主張について (1)請求人は、審判請求書及び令和5年11月9日提出の意見書において、追加実験結果(資料2)を示し、以下のとおり主張している(2頁7行~19行)。 請求人によって行われた、化合物#2(二塩酸塩:【0039】表の2番目の化合物)を用いた追加実験結果(資料2)によれば、原末の分解率は2.4%と高かったのに対し、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを含む下記組成物C及びDの分解率は1.5%及び1.4%、下記組成物C及びDの倍量のクロスカルメロースナトリウムを含む下記組成物Aの分解率は0.7%と更に低くなっているので、クロスカルメロースナトリウムを崩壊剤として含むことにより、「製剤中の薬剤物質の分解、特に空気中の湿度及び標準医薬賦形剤の含水量に起因し得る加水分解開裂を妨げる」という本願発明の課題を解決することができることを当業者は認識することが可能であり、サポート要件を満たす。 <資料2> [図:0001412535000009.jpg] ここで、実施例7.2のタブレット(コア)及び実施例9.2のフィルムコートに用いられた組成物については、段落【0056】及び【0063】に記載されている(上記第4の2(3))。 [図:0001412535000010.jpg] [図:0001412535000011.jpg] (2)上記(1)の主張について検討する。 本願明細書には、そもそもクロスカルメロースナトリウムは、希釈剤、結合剤、滑沢剤などと並列に記載された崩壊剤として、好ましいものとして記載されたものであるが、どのような点について好ましいものであるかは記載されていないし、有効成分の分解を妨げる作用を有することが記載されているわけでもない。そして、組成物B~Dも本願明細書に記載されていない組成物である。 したがって、追加実験結果(資料2)に示された、クロスカルメロースナトリウムの存在により分解率が低くなるという結果は、本願出願時の技術常識に照らし、本願明細書の記載から当業者が認識できるものではないから、本願明細書の記載不備を補うデータとして参酌することはできない。 仮に、化合物#2(二塩酸塩)の追加実験結果を、化合物#2を1/2ジベンゾイルタートレート塩とした場合と同等の結果を示すものとして参酌して、以下検討する。 製剤中に含まれるクロスカルメロースナトリウムが、有効成分の分解を妨げる効果を有するというためには、クロスカルメロースナトリウム以外の成分に由来する有効成分の分解性への影響を排除し、クロスカルメロースナトリウムを減量した製剤との比較を行い、クロスカルメロースナトリウムの存在によって有効成分の分解を妨げられたことを確認する実験が必要である。しかし、組成物Aと組成物C及びDとでは、組成物C及びDは二塩基性リン酸カルシウム含んでいないにもかかわらず組成物Aは二塩基性リン酸カルシウムを含んでいるなど、タブレットコアのクロスカルメロースナトリウムの配合量以外にも構成成分に差異があるため、組成物C及びDと比較した組成物Aの不純物の増加量の減少が、クロスカルメロースナトリウムの増量に起因するものなのか、二塩基性リン酸カルシウムなど他の成分の存在に起因するものなのかを当業者は判別することができない。 そうすると、原末並びに組成物A、C及びDにおける化合物#2の分解性の比較から、クロスカルメロースナトリウムを崩壊剤として含むことによって、化合物1の塩酸塩である化合物#2の分解が妨げられることを、当業者が認識することはできない。 次に、組成物Aと組成物Bの不純物の増加量を比較すると、クロスカルメロースナトリウムを含む組成物Aがクロスカルメロースナトリウムを含まない組成物Bよりも不純物の増加量が少ないという結果が示されており、一見すると、クロスカルメロースナトリウムを配合することによって化合物#2の分解が抑制されているようにもみえる。しかし、組成物Aと組成物Bとでは、二塩基性リン酸カルシウムの有無も異なるなど、タブレットコアのクロスカルメロースナトリウムの有無以外にも構成成分に差異があるため、組成物Bと比較した組成物Aの不純物の増加量の減少が、クロスカルメロースナトリウムの存在に起因するものなのか、二塩基性リン酸カルシウムなど他の成分の存在に起因するものなのかを当業者は判別することができない。 そうすると、化合物#2(二塩酸塩)の追加実験結果を、化合物#2を1/2ジベンゾイルタートレート塩としたものと同等の結果を示すものとして参酌しても、化合物1の1/2ジベンゾイルタートレート塩に関する本願発明が、クロスカルメロースナトリウムを崩壊剤として含むことによって、「製剤中の薬剤物質の分解、特に空気中の湿度及び標準医薬賦形剤の含水量に起因し得る加水分解開裂を妨げる」という本願発明の課題を解決することができることを当業者は認識することはできない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 6 小括 以上のとおり、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないため、特許法第36条第6項第1号の要件に適合するとはいえない。 第5 特許法第29条第2項(進歩性)について 1 引用文献1に記載された事項及び引用発明について (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。また、引用文献1は外国語文献なので、当審による訳文で記載する。)。 ア 特許請求の範囲(請求項1及び9) 「【請求項1】 式1 【化1】 [図:0001412535000012.jpg] 1の化合物。 [式中、 AはCH2、・・・であり、 R1は ・・・・、 ・NHR1.2、NMeR1.2、 ・・・から選ばれ、 ・・・ R1.2は ・ヘテロアリール(必要によりC1-6-アルキル、・・・、CONR1.2.1R1.2.2、・・・からなる群から選ばれた1個又は2個の残基で置換されていてもよい)、 ・・・から選ばれ、 R1.2.1はH、C1-6-アルキル、C1-6-アルキレン-C3-6-シクロアルキル、・・・、C1-6-ハロアルキル又は・・・であり、 R1.2.2はH、C1-6-アルキルであり、 ・・・、 R2はC1-6-アルキレン-フェニル、・・・からなる群から選ばれ、夫々必要によりC1-6-アルキル、・・・、ハロゲンからなる群から選ばれた1個、2個又は3個の残基で置換されていてもよく、 R3はH、・・・であり、 R4はH、・・・であり、・・・] 【請求項9】 請求項1から8の1項記載の式1の一種以上の化合物を含むことを特徴とする、医薬組成物。」 イ 46頁23行~45行 「本明細書に開示された化合物は治療上許される塩として存在し得る。本発明は酸付加塩を含む、塩の形態の先にリストされた化合物を含む。好適な塩として、有機酸及び無機酸の両方で生成された塩が挙げられる。このような酸付加塩は通常医薬上許されるであろう。しかしながら、医薬上許されない塩の塩が当該化合物の調製及び精製に利用し得る。塩基付加塩がまた生成されてもよく、医薬上許されるかもしれない。塩の調製及び選択の更に完全な説明につき、Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use (Stahl, P. Heinrich. Wiley- VCHA, Zurich, Switzerland, 2002)を参考のこと。 本明細書に使用される“医薬上許される塩”という用語は、水溶性もしくは油溶性又は水分散性もしくは油分散性であり、かつ本明細書に定義されたように治療上許される本明細書に開示された化合物の塩又は双性イオン形態を表す。塩は化合物の最後の単離及び精製中に、又は遊離塩基の形態の適当な化合物を好適な酸と反応させることにより別々に調製し得る。代表的な酸付加塩として、酢酸塩、アジピン酸塩、・・・、塩酸塩、・・・、トリフルオロ酢酸塩、・・・が挙げられる。・・・医薬上許される付加塩を形成するのに使用しうる酸の例として、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸・・・が挙げられる。・・・」 ウ 60頁4行~9行(化合物B1) 「S.2.2.式Bを有するビルディングブロックの合成 ビルディングブロックB1の合成 [図:0001412535000013.jpg] 」 エ 104頁1行~16行(化合物135)及び106頁(化合物150) 「S.4.2.操作Bによる実施例の合成(実施例132-191) 実施例132の合成 [図:0001412535000014.jpg] 室温のDMF(2ml)中のビルディングブロックB1(120mg)の撹拌溶液に、DIPEA(0.2ml)、HATU(175mg)を添加した。20分後、ピロリジン(49mg)を添加し、その混合物を更に1.5時間撹拌した。数滴の水及びTFAを添加し、その混合物を逆相HPLCにより分離した。所望の画分を集め、合わせ、凍結乾燥して実施例132(30mg)をそのTFA塩として得た。HPLC:Rt=1.29分(方法D) 下記の実施例を実施例132と同様にしてビルディングブロックB1~B18から合成した。 [図:0001412535000015.jpg] [図:0001412535000016.jpg] ・・・ [図:0001412535000017.jpg] ・・・ [図:0001412535000018.jpg] 」 オ 120頁50行~53行、122頁(化合物135)、及び123頁(化合物150) 「ここで使用される“活性”は上記アッセイで測定される場合の抑制で1μMで50%以上の抑制を示す化合物を意味することが意図されている。このような結果がCCR3受容体活性のインヒビターとしての化合物の固有の活性を示す。 抑制%及びKi値は以下のとおりである (ヒトCCR3-受容体におけるヒトエオタキシン-1): [図:0001412535000019.jpg] [図:0001412535000020.jpg] [図:0001412535000021.jpg] [図:0001412535000022.jpg] [図:0001412535000023.jpg] [図:0001412535000024.jpg] [図:0001412535000025.jpg] 」 カ 127頁37行~第128頁3行 「医薬形態 式1の化合物を投与するのに適した製剤として、例えば、錠剤、カプセル、座薬、溶液及び粉末等が挙げられる。一種以上の医薬活性化合物の含量は全体としての組成物の0.05質量%から90質量%まで、好ましくは0.1質量%から50質量%までの範囲であるべきである。好適な錠剤は、例えば、一種以上の活性物質を既知の賦形剤、例えば、不活性担体、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はラクトース、崩壊剤、例えば、トウモロコシ澱粉又はアルギン酸、バインダー、例えば、澱粉又はゼラチン、滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム又はタルク及び/又は放出を遅延するための薬剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、又はポリ酢酸ビニルと混合することにより得られてもよい。錠剤はまた幾つかの層を含んでもよい。 被覆錠剤は錠剤と同様にして製造されたコアーを錠剤被覆に通常使用される物質、例えば、コリドン又はセラック、アラビアゴム、タルク、二酸化チタン又は糖で被覆することにより調製されてもよい。遅延放出を得、又は不適合性を防止するために、コアーはまた幾つかの層からなってもよい。同様に錠剤被覆物は遅延放出を得るために、おそらく錠剤について上記された賦形剤を使用して幾つかの層からなってもよい。」 キ 132頁17行~33行 「B)錠剤 錠剤当り 活性物質1 80 mg ラクトース 55 mg トウモロコシ澱粉 190 mg 微結晶性セルロース 35 mg ポリビニルピロリドン 15 mg ナトリウムカルボキシメチル澱粉 23 mg ステアリン酸マグネシウム 2 mg 400 mg 微細に粉砕された活性物質、トウモロコシ澱粉の一部、ラクトース、美結晶性セルロース及びポリビニルピロリドンを一緒に混合し、その混合物を篩分け、残りのトウモロコシ澱粉及び水で処理して顆粒を形成し、これを乾燥させ、篩分ける。ナトリウムカルボキシメチル澱粉及びステアリン酸マグネシウムを添加し、混合し、その混合物を圧縮して好適なサイズの錠剤を形成する。」 (2)引用発明について 引用文献1には、式1で示される化合物(請求項1、1頁1行~11行)、及び、該化合物の一種以上の化合物を含むことを特徴とする、医薬組成物(請求項9、1頁1行~11行)が記載されており(上記(1)ア)、式1で示される化合物として、実施例135及び150の化合物が記載されており、実施例132と同様に製造したと記載されているので(上記(1)エ)、実施例135と150の化合物もトリフルオロ酢酸塩であると認められる。 さらに、実施例135及び150は、高いCCR3抑制%と小さなKi値(合議体注:解離定数)を示す化合物であり(上記(1)オ)、Ki値が小さいほどより低濃度で高い効果を示すものといえるので、引用文献1における好ましい化合物であるといえる。 そうすると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。 「以下の構造を有する実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩を含む、医薬組成物。 [図:0001412535000026.jpg] [図:0001412535000027.jpg] [図:0001412535000028.jpg] [図:0001412535000029.jpg] 」(以下「引用発明」という。) 2 引用文献2及び3に記載された事項について (1)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。(76頁11行~29行目) 「2)溶解度を増加させる方法 (1)塩 表5-3にFDA認可の塩の種類と市販医薬品に占める割合を示した26,27)。アニオンでは塩酸塩が多く,カチオンではナトリウム塩が最も多いことがわかる。どのような塩で開発するかどうかは,コスト面,結晶化のしやすさ,収率,安定性の改善(たとえば吸湿性)などから選択される。塩の変更により吸収が倍増し,投与量が半分となる結果,コストダウンが図れる場合もあり,塩の選択は極めて重要である。吸収面から塩選択の意味は,溶解度を上げて溶解速度を増加させることである。溶解度の増加はすでに述べた通り格子エネルギーの減少という固体状態の性質を変えることと,溶液状態における溶質の存在状態(解離性)を変える点にあり,塩の種類に依存してこれらが大きく変化することになる。図5-3に種々の薬物について,溶解度と溶解速度の関係を示したが,溶解速度は溶解度の2.24乗で増加することがわかる28)。」 (2)引用文献3に記載された事項 引用文献3には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 ア 66頁「カルボキシメチルスターチナトリウム」の項 「カルボキシメチルスターチナトリウム ・・・ 【用途】・・・崩壊剤・・・」 イ 93頁「クロスカルメロースナトリウム」の項 「クロスカルメロースナトリウム ・・・ 【用途】・・・崩壊剤・・・」 ウ 93頁「クロスポビドン」の項 「クロスポビドン・・・ 【用途】・・・崩壊剤・・・」 エ 220頁「微結晶セルロース」の項 「微結晶セルロース ・・・ 【用途】賦形剤・・・」 オ 253頁「ポビドン」の項 「ポビドン ・・・ 【別名】・・・ポリビニルピロリドン・・・ ・・・ 【用途】・・・結合剤・・・」 (3)本願優先日当時の技術常識について ア 上記(1)に記載されるように、溶解性の向上等を目的として医薬化合物の塩の種類を検討することは技術常識であり、さらに、塩酸塩は一般的に採用される塩である。 イ 上記(2)に記載されるように、微結晶セルロースが賦形剤であること、ポリビニルピロリドンが結合剤であること及びナトリウムカルボキシメチル澱粉(当審注:「カルボキシメチルスターチナトリウム」と同義)が崩壊剤であること、はそれぞれ周知である。 ウ 上記(2)に記載されるように、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムは周知の成分である。 3 対比・判断 本願発明には、式1におけるXがクロライドである「塩酸塩」に関する発明と、当該Xが1/2ジベンゾイルタートレートである「1/2ジベンゾイルタートレート塩」に関する発明が含まれるところ、以下においては、本願発明のうち「塩酸塩」に関する発明について判断を行う。 (1)対比 本願発明と引用発明との対比を行う。 引用発明の「実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩」は、本願発明の化合物1のR1及びR2に対応する構造がどちらもメチルである化合物(実施例135の化合物)、又は、一方がH、もう一方がメチルである化合物(実施例150の化合物)であり、それぞれ本願発明のR1及びR2がどちらもC1-6-アルキルである化合物、又は、一方がH、もう一方がC1-6-アルキルである化合物に相当するので、下記の構造(以下「構造1」という。)の化合物の塩である限りにおいて一致する。 [図:0001412535000030.jpg] (R1及びR2は、H又はC1-6-アルキルである。) さらに、引用文献1には「実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩」はCCR3インヒビターとして記載されており(上記1(1)オ)、引用発明の「医薬組成物」において「実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩」が有効成分として用いられていることは自明である。したがって、引用発明の「実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩を含む」「医薬組成物。」は、本願発明の「有効成分として」構造1の「化合物」の塩「を含む医薬組成物。」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「有効成分として、構造1の化合物の塩を含む医薬組成物。」 <相違点a> 構造1の化合物の塩について、本願発明の「化合物1」は、(HX)j(Xが、クロライドアニオンであり;jが、1又は2である))の塩であることが特定されるのに対し、引用発明の「実施例135又は150の化合物」はトリフルオロ酢酸塩である点。 <相違点b> 本願発明の「医薬組成物」は「第1の希釈剤、第2の希釈剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤含む医薬組成物であって、崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムである」ことが特定されるのに対して、引用発明の医薬組成物はそのような特定がない点。 (2)判断 ア 相違点aについて 引用文献1には、「式1」の化合物の代表的な塩として塩酸塩、トリフルオロ酢酸塩が示唆されており、引用発明の「実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩」は式1に包含される化合物の塩である(上記1(1)ア及びイ)。 そして、溶解性の向上等を目的として医薬化合物の塩の種類を検討することは技術常識であり、塩酸塩は一般的に採用される塩であった(上記2(3)ア)。 そうすると、引用発明の「実施例135又は150の化合物のトリフルオロ酢酸塩」を、塩酸塩にすることは当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、塩の価数(本願発明のjの規定に対応)については、化合物の構造(酸と塩を形成しうる化合物の部分構造の数)に由来するところ、「実施例135又は150の化合物」の構造中の酸と塩を形成しうる構造は、ピリジン環を構成する窒素原子とピペリジン環を構成する窒素原子の2つであり、必然的に塩の価数は1又は2となるので、その選択に格別の創意を要するものとは認められない。 イ 相違点bについて 引用文献1には、式1の化合物を投与するための製剤例として、ラクトース、トウモロコシ澱粉、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、ナトリウムカルボキシメチル澱粉及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤が記載されており(上記1(1)キ)、ラクトースは賦形剤(希釈剤)、トウモロコシ澱粉は崩壊剤、微結晶性セルロースは賦形剤(希釈剤)、ポリビニルピロリドンは結合剤、ナトリウムカルボキシメチル澱粉(当審注:「カルボキシメチルスターチナトリウム」と同義)は崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムは滑剤(滑沢剤)に該当するので(上記1(1)カ及び2(2))、上記製剤例は「第1の希釈剤」、「第2の希釈剤」、「結合剤」、「崩壊剤」及び「滑沢剤」を組み合わせたものといえるし、医薬組成物にこのような役割の各種成分を組み合わせて配合することも一般的である。さらに崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムは周知の成分である(上記2(3)ウ)。 そうすると、製剤化に際して添加剤の検討を行うことは通常行うことであるので、引用発明を、「第1の希釈剤」「第2の希釈剤」、「結合剤」、「崩壊剤」及び「滑沢剤」を組み合わせた医薬組成物とし、その際に、崩壊剤にクロスカルメロースを採用することは、当業者が容易になし得たことにすぎない。 ウ 本願発明の効果について 本願発明と引用発明との上記相違点に伴う効果について検討する。 上記(1)で述べたとおり、本願発明は引用発明と比較して、塩の選択とクロスカルメロースナトリウムを含む添加剤の種類を特定したことを相違点とするものであるが、本願明細書には、塩の違いによる効果も、クロスカルメロースナトリウムを含む添加剤の種類の選択による効果も、比較実験データが開示されていないことから(第4の4(3))、それらの効果を確認することができない。 したがって、本願発明は、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものともいえない。 4 請求人の主張について (1)請求人は、審判請求書及び令和5年11月9日提出の意見書において以下の点を主張する。 ア 3頁9行~34行 ある化合物についての塩の選択は、一般化して決定することができるようなものではなく、化合物毎に個別に決定されるべきであるというのが技術常識であり、特定の塩が親化合物の挙動に与える影響を予測するにあたっての信頼できる方法がなく、所望の薬物動態学的特性等を示す可能性が最も高い塩の選択を容易にする効率的なスクリーニング技術は存在しないことが知られているので、当業者は、引用文献1に記載の化合物のトリフルオロ酢酸塩を、塩酸塩や二塩酸塩に変更しようとは考えない。 イ 3頁36行~41行 請求人によって行われた実験(審判請求書に添付した資料2)によれば、原末の分解率は2.4%と高かったのに対し、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを含む組成物C及びDの分解率は1.5%及び1.4%であり、組成物C及びDを比較例として、これら組成物の倍量のクロスカルメロースナトリウムを含む組性物Aの分解率は0.7%と更に低くなっているので、クロスカルメロースナトリウムを崩壊剤として含むことにより、本願発明には、予期されない有利な効果が認められる。 (資料2については、上記第4の5(1)を参照) (2)上記(1)の主張について検討する。 上記(1)アについて、請求人が主張するような技術常識が存在するとしても、引用文献1において、トリフルオロ酢酸塩が、製剤化を行う上で他の塩よりも特に優れているといった技術常識が存在するわけでもないことから、引用発明において、塩の種類の検討すること自体が妨げられるものではない。 そして、引用文献1には式1の化合物の代表的な塩として塩酸塩が示唆されており(上記1(1)イ)、かつ、塩酸塩は一般的に採用される塩であったので(上記2(3)ア)、塩酸塩に変更する動機付けは存在する。 上記(1)イについて、本願明細書には、そもそもクロスカルメロースナトリウムが有効成分の分解を妨げる作用を有することが記載されているわけでもないし、本願明細書の記載からそのような効果を当業者が推認し得たともいえないことから、出願後に提出された実験結果を、本願発明の進歩性を推認するための有利な効果として参酌することはできない。 仮に参酌したとしても、上記第4の5(2)において検討したとおり、上記実験の結果からでは、クロスカルメロースナトリウムを崩壊剤として含むことによって、化合物♯2の分解が妨げられたとはいえないから、本願発明が予期できない顕著な効果を奏するものとはいえない。 したがって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。 5 小括 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項、並びに、引用文献2及び3によって示される技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び技術常識(引用文献2及び3)に基づいて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-002718

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