特許拒絶査定不服審判
2022-001873
リソグラフィ装置および方法
- 審判番号
- 2022-001873
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-220832
- 請求日
- 2022年02月08日
- 審決日
- 2023年03月02日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 【請求人】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 金高 敏康
- 審判官 瀬川 勝久
- 分類
- P18 .121-Z (G03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-220832「リソグラフィ装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月26日出願公開、特開2020- 46680〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)2月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年(平成26年)2月24日(以下「優先日」という。)欧州特許庁)を国際出願日とする出願である特願2016-545280号の一部を2019年(令和1年)12月6日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年12月25日 :手続補正書の提出
令和2年12月23日付け:拒絶理由通知
令和3年 6月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年10月 5日付け:拒絶査定
令和4年 2月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年2月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年 2月 8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、
基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムである、投影システムと、
を備え、
前記第2方向における前記縮小率は4.5×より大きく、
前記スキャン方向における前記縮小率は、6×より大きく且つ8×より小さく、
前記マスクの前記パターン付きエリアは、104mmを超える前記第2方向における範囲及び132mm以下である前記スキャン方向における範囲を有する、
リソグラフィ装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年6月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、
基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムである、投影システムと、
を備え、
前記第2方向における前記縮小率は4.5×より大きく、
前記スキャン方向における前記縮小率は、6×より大きく且つ8×より小さい、
リソグラフィ装置。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「パターン付きエリア」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2013-541729号公報(平成25年11月14日公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(なお、下線は当審が付したものである。)
(ア)
「【請求項1】
投影露光系(1)のための結像光学系(9)であって、
少なくとも1つのアナモフィック結像投影レンズ系(26,27)を有し、
前記少なくとも1つの投影レンズ系(26,27)は、2つの主要平面の方向に同符号結像スケールを有する、
ことを特徴とする結像光学系(9)。」
「【請求項5】
第1の方向の第1の結像スケールと、該第1の結像スケールの少なくとも1.5倍大きい第2の方向の第2の結像スケールとを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の結像光学系(9)。」
「【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の結像光学系(9)を有し、
放射線(14)を放射線源(3)から物体視野(5)に伝達するための照明光学系(4)を有する、
ことを特徴とする光学系。
【請求項11】
請求項10に記載の光学系を有し、
放射線源(3)を有する、
ことを特徴とする投影露光系(1)
【請求項12】
走査方向に変位させることができる、レチクル(7)を保持するレチクルホルダ(8)を有し、
結像光学系(9)の走査方向の結像スケールが、それに垂直な方向のものよりも小さい、
ことを特徴とする請求項11に記載の投影露光系(1)。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の投影露光系のためのレチクル( 7 ) であって、
少なくとも104mmの幅と、
132mmよりも大きい長さと、
を有することを特徴とするレチクル( 7 )。」
「【0012】
請求項5により、第1の方向の結像スケールは、第2の方向の結像スケールの少なくとも1.5倍大きい。第1の方向の結像スケールは、特に、第2の方向の結像スケールの少なくとも2倍大きい。この場合及び以下において、結像スケールは、物体サイズに対する結像サイズの比、すなわち、物体視野内の結像される構造のサイズに対する投影レンズ系の像視野内の結像される構造のサイズを意味すると捉えられたい。その結果、所定のレチクル、特に、所定のサイズのレチクルにおける所定の幅を有する照明視野を全幅にわたって走査方向と垂直に露光することができる。照明視野の幅に対して垂直な方向の小さい結像スケール、すなわち、強度の縮小は、特に、高い走査速度によって別途補償することができ、従って、不利な効果はない。走査方向に対して垂直な方向の減ぜられた結像スケールは、スループット損失を招かない。」
「【0020】
走査方向の臨界寸法が、この方向に対して垂直な臨界寸法と異なるレチクルは、アナモフィック結像投影光学系における使用に特に適切である。レチクル上の結像される構造とその合計サイズの両方が、好ましくは、走査方向又はそれに対する垂直方向において異なる結像スケールに従って構成される。より大きい縮小を考慮するために、レチクルは、特に走査方向に相応により大きく構成される。」
「【0024】
図1は、マイクロリソグラフィのための投影露光系1の構成要素を子午断面内に略示している。投影露光系1の照明系2は、放射線源3以外に、物体視野5を物体平面6内に露光するための照明光学系を含む。物体視野5に配置され、抜粋的にしか示していないレチクルホルダ8によって保持されるレチクル7が、この物体視野内で露光される。
【0025】
図1には概略的にしか示していない投影光学系9は、物体視野5を像平面11の像視野10に結像するのに使用される。従って、投影光学系9を結像光学系とも呼ぶ。像平面11の像視野10の領域に配置され、同じく概略的にしか示していないウェーハホルダ13によって保持されるウェーハ12の感光層上に、レチクル7上の構造が結像される。
【0026】
放射線源3は、EUV放射線14を放出するEUV放射線源である。EUV放射線源3の放出される有利放射線の波長は、5nmから30nmの範囲にある。リソグラフィに使用され、適切な光源に対して利用可能な他の波長も可能である。放射線源3は、プラズマ光源、例えば、DPP光源又はLPP光源とすることができる。シンクロトロンに基づく放射線源を放射線源3として使用することができる。当業者は、この種の放射線源に関する情報を例えばUS6859515B2に見出すことができるであろう。EUV放射線源3からのEUV放射線14を光束にするために、コレクター15が設けられる。」
「【0030】
照明光学系4は、伝達光学系23を形成する更に別のミラー20、21、及び22を有することができる。伝達光学系23の最後のミラー22は、かすめ入射ミラーである。瞳ファセットミラー18と伝達光学系23は、照明光を物体視野5内に伝達するための後続光学系を形成する。瞳ファセットミラー18が投影光学系9の入射瞳に配置される場合には、伝達光学系23を不要にすることができる。」
「【0035】
レチクルホルダ8は、投影露光系においてレチクル7を物体平面6内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができる。それに応じてウェーハホルダ13は、ウェーハ12を像平面11内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができる。その結果、レチクル7及びウェーハ12を一方で物体視野5を通じて、他方で像視野10を通じて走査することができる。図内の変位方向は、y方向と平行である。下記ではこの変位方向を走査方向とも呼ぶ。レチクル7及びウェーハ12の走査方向の変位は、好ましくは、互いに対して同期して発生させることができる。」
「【0059】
投影光学系9は、y方向、すなわち、走査方向に1:8の結像スケールを有し、すなわち、物体視野5内のレチクル7は、走査方向に像視野10内のその像の8倍大きい。投影光学系9は、x方向、すなわち、走査方向と垂直に1:4の結像スケールを有する。従って、投影光学系9は縮小系である。投影光学系9の像側開口数は0.5である。投影光学系9の像側開口数は、特に、少なくとも0.4である。像視野10は、2mm×26mmのサイズを有し、2mmは走査方向におけるものであり、26mmは、走査方向に対して垂直なものである。特に、走査方向には、像視野10は、異なるサイズを有することができる。像視野10のサイズは、少なくとも1mm×10mmである。走査方向と垂直に像視野10は、特に13mmよりも大きい幅を有する。像視野10は、特に矩形である。投影光学系9は、特に少なくとも13mm、特に13mmよりも大きい、特に少なくとも26mmの像側走査スロット幅を有する。投影光学系9は、視野中心点において6°の物体側主ビーム角度を有する。視野中心点における物体側主ビーム角度は、特に最大で7°である。投影光学系9は、2000mmの光学全長を有する。
【0060】
この実施形態における物体視野5は、16mm×104mmのサイズを有する。この場合、16mmは走査方向におけるものであり、104mmは、走査方向に対して垂直なものである。」
「【0094】
微細構造化構成要素及びナノ構造化構成要素を生成するために、投影露光系1は、以下の通りに使用される。最初に、レチクル7及びウェーハ12が準備される。次に、投影露光系1を用いて、レチクル7上の構造がウェーハ12の感光層上に投影される。次に、感光層を現像することにより、ウェーハ12上に微細構造又はナノ構造が生成され、従って、微細構造化構成要素、例えば、高集積回路の形態にある半導体構成要素が生成される。
【0095】
ウェーハ12上の感光層の露光中に、ウェーハ12は、ウェーハホルダ13を用いて走査方向に変位される。この場合、この変位は、特に、レチクルホルダ8を用いたレチクル7の走査方向の変位に対して同期して発生する。投影光学系9の走査方向の縮小結像スケールは、より高い走査速度によって補償することができる。」
(イ)
図1は、次のとおりである。
「【図1】
[図:0001399941000001.jpg]
」
イ 上記アから引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、参考までに、認定に用いた引用文献の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。)
「少なくとも1つのアナモフィック結像投影レンズ系(26,27)を有し、
前記少なくとも1つの投影レンズ系(26,27)は、2つの主要平面の方向に同符号結像スケールを有し、(【請求項1】)
第1の方向の第1の結像スケールと、該第1の結像スケールの少なくとも1.5倍大きい第2の方向の第2の結像スケールである、結像光学系(9)と、(【請求項2】)
放射線(14)を放射線源(3)から物体視野(5)に伝達するための照明光学系(4)と、(【請求項10】)
放射線源(3)と、(【請求項11】)
走査方向に変位させることができる、レチクル(7)を保持するレチクルホルダ(8)を有し、
結像光学系(9)の走査方向の結像スケールが、それに垂直な方向のものよりも小さく、(【請求項12】)
少なくとも104mmの幅と、132mmよりも大きい長さと、からなるレチクル(7)が用いられるものであって、(【請求項13】)
結像スケールは、物体サイズに対する結像サイズの比、すなわち、物体視野内の結像される構造のサイズに対する投影レンズ系の像視野内の結像される構造のサイズを意味し、(【0012】)
物体視野5に配置されたレチクルホルダ8によって保持されるレチクル7が、この物体視野内で露光され、(【0024】)
放射線源3は、EUV放射線14を放出するEUV放射線源であり、(【0026】)
EUV放射線14は照明光又は結像光とも呼ばれ、(【0027】)
投影光学系9は、物体視野5を像平面11の像視野10に結像するのに使用され、像平面11の像視野10の領域に配置されるウェーハホルダ13によって保持されるウェーハ12の感光層上に、レチクル7上の構造が結像され、(【0025】)
レチクルホルダ8は、投影露光系においてレチクル7を物体平面6内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができ、それに応じてウェーハホルダ13は、ウェーハ12を像平面11内で変位方向に変位させることができるように制御方式で変位させることができ、(【0035】)
投影光学系9は縮小系である、(【0059】)
マイクロリソグラフィのための投影露光系1。(【0024】)」
ウ 上記アから引用文献には、次の技術的事項(以下「引用文献に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「投影光学系9は、y方向、すなわち、走査方向に1:8の結像スケールを有し、すなわち、物体視野5内のレチクル7は、走査方向に像視野10内のその像の8倍大きく、像視野10は、2mm×26mmのサイズを有し、2mmは走査方向におけるものであり、26mmは、走査方向に対して垂直なものであり、
投影光学系9は、x方向、すなわち、走査方向と垂直に1:4の結像スケールを有し、
走査方向には、像視野10は、異なるサイズを有することができる。 像視野10のサイズは、少なくとも1mm×10mmであり、(【0059】)
物体視野5は、16mm×104mmのサイズを有し、この場合、16mmは走査方向におけるものであり、104mmは、走査方向に対して垂直なものであること。(【0060】)」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明の「放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、」との特定事項について
(ア)引用発明の「レチクル7」、「走査方向」及び「レチクルホルダ8」は、それぞれ本件補正発明の「マスク」、「スキャン方向」及び「サポート構造」に相当する。
(イ)引用発明の「レチクル7上の構造」は、「投影光学系9」により、「ウェーハ12の感光層上に、」「結像され」るものであることから、引用発明の「レチクル7上の構造」は本件補正発明の「パターン付き放射ビームを形成可能」なものといえる。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、引用発明の、「レチクル7」を「露光」する光、及び、「ウェーハ12の感光層上に、」「結像され」る光は、それぞれ本件補正発明の「放射ビーム」及び「パターン付き放射ビーム」に相当する。
(エ)引用発明において、本件補正発明の「パターン付きエリア」に相当するものが不明である。
(オ)「レチクルホルダ8」(本件補正発明の「サポート構造」に相当。)において、引用発明の「走査方向に変位させることができる」ことは、本件補正発明の「スキャン方向に移動可能である」ことに相当する。
(カ)上記(ア)~(オ)から、引用発明は、「放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能である」「マスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、」との上記特定事項を満たすが、一方で、引用発明の「レチクル7」が本件補正発明の「パターン付きエリアを備える」との特定事項を満たすか不明である。
イ 本件補正発明の「基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、」との特定事項について
(ア)引用発明の「ウェーハ12」及び「『ウェーハ12』が『保持される』『ウェーハホルダ13』」は、それぞれ本件補正発明の「基板」及び「『基板を保持する』『基板テーブル』」に相当する。
(イ)「ウェーハホルダ13」(本件補正発明の「基板テーブル」に相当。)において、引用発明の「変位方向」及びその方向に「変位させる」ことは、それぞれ本件補正発明の「スキャン方向」及びその方向に「移動可能である」ことに相当する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用発明は、上記特定事項を満たす。
ウ 本件補正発明の「前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムである、投影システムと、」との特定事項について
(ア)引用発明の「結像光学系9」は、本件補正発明の「投影システム」に相当する。
(イ)引用発明の「結像光学系9」において、「『走査方向』『に垂直な方向』」は、本件補正発明の「スキャン方向に垂直な第2方向」に相当する。
(ウ)引用発明において、「投影光学系9は縮小系」であること、及び、「結像スケールは、物体サイズに対する結像サイズの比」を意味するものであること、を踏まえると、引用発明の「結像スケール」は縮小の比率を表すものである。そうすると、引用発明の「結像スケール」は、本件補正発明の「縮小率」と、表記上の差異があるものの、実質的に同一の技術的事項を意味するものといえる。
(エ)上記(ウ)の対比を踏まえると、引用発明の「走査方向の結像スケールが、それに垂直な方向のものよりも小さ」いことは、本件補正発明の「前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する」ことに相当する。
(オ)上記(ア)~(エ)から、引用発明は、上記特定事項を満たす。
エ 本件補正発明の「前記第2方向における前記縮小率は4.5×より大きく、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を満たしているか不明である。
オ 本件補正発明の「前記スキャン方向における前記縮小率は、6×より大きく且つ8×より小さく、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を満たしているか不明である。
カ 本件補正発明の「前記マスクの前記パターン付きエリアは、104mmを超える前記第2方向における範囲及び132mm以下である前記スキャン方向における範囲を有する、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項をみたしているかが不明である。
キ 本件補正発明の「リソグラフィ装置」との特定事項について
引用発明の「マイクロリソグラフィのための投影露光系1」は、本件補正発明「リソグラフィ装置」に相当する。
よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を満たす。
ク 上記ア~キから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「放射ビームの断面にパターンを付与してパターン付き放射ビームを形成可能であるパターン付きエリアを備えるマスクを支持するとともに、スキャン方向に移動可能であるサポート構造と、
基板を保持するとともに、スキャン方向に移動可能である基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板の露光領域上に投影し、前記スキャン方向において、前記スキャン方向に垂直な第2方向における縮小率を超える縮小率を有する投影システムである、投影システムと、
を備える、
リソグラフィ装置。」
【相違点1】
本件補正発明は「前記第2方向における前記縮小率は4.5×より大きく、前記スキャン方向における前記縮小率は、6×より大きく且つ8×より小さく」なっているのに対して、引用発明は、そのようになっているのか不明である点。
【相違点2】
マスクについて、本件補正発明は、「パターン付きエリア」を備え、「前記パターン付きエリアは、104mmを超える前記第2方向における範囲及び132mm以下である前記スキャン方向における範囲を有する、」のに対して、引用発明は、そのようになっているのか不明である点。
(4)判断
ア 相違点1について
(ア) 引用発明は、「第1の方向」と「走査方向の垂直方向」が同じ方向、「第2の方向」及び「走査方向」が同じ方向、をそれぞれ示すところ、引用文献の図1の記載を参酌して、以下、前者の方向を「垂直方向」、後者の方向を「走査方向」という。なお、引用発明の「垂直方向」及び「走査方向」は、それぞれ本件補正発明の「第2方向」及び「スキャン方向」に相当する方向である。
(イ) 引用発明における「結像光学系」の「結像スケール」(本件補正発明の「縮小率」に相当。)は、「垂直方向」「の第1の結像スケールと、該第1の結像スケールの少なくとも1.5倍大きい」「走査方向」「の第2の結像スケール」であり、また、引用文献に記載された技術的事項(上記(2)ウ)では、「結像スケール」は、「走査方向」で「1:8」(本件補正発明の「縮小率」が×8である場合に相当。)、「垂直方向」で「1:4」(本件補正発明の「縮小率」が×4である場合に相当。)と設定することが示されている。
引用発明は、アナモフィック結像投影レンズ系において縮小系の構成を備えるところ、「垂直方向」及び「走査方向」のそれぞれにおいて、どの程度の「結像スケール」(本件補正発明の「縮小率」に相当。)とするかは当業者が適宜設定しうるものであり、その際の「結像スケール」として、「垂直方向」「の第1の結像スケールと、該第1の結像スケールの少なくとも1.5倍大きい」「走査方向」「の第2の結像スケール」との条件の下、それぞれの方向において引用文献に記載された技術的事項で示された「結像スケール」近傍の大きさとすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
イ 相違点2について
引用発明の「レチクル」は、「レチクル上の構造」を有しているところ、当該「レチクル上の構造」を有しているエリアは、本件補正発明の「パターン付きエリア」に相当する。
また、EUV放射線を用いたリソグラフィ装置において、6インチ(約152mm)四方のサイズのレチクルが一般に用いられているところ、引用発明は「少なくとも104mmの幅と、132mmよりも大きい長さと、からなるレチクル(7)」を用いるものであることを踏まえると、当該引用発明は前記6インチ(約152mm)四方のサイズのレチクル(7)を用いることを想定しているといえ、「レチクル上の構造」を有するエリアのサイズは、前記6インチ(約152mm)四方よりも小さいエリアであることは明らかである。
引用発明において、前記6インチ(約152mm)四方よりも小さいエリア内で「レチクル上の構造」を有するエリアのサイズを調整することは当業者が適宜なし得る事項であり、上記相違点2に係る構成の数値範囲に含まれるサイズとすることは設計的事項である。
ウ 小括
相違点1に係る発明の構成の「縮小率」及び相違点2に係る発明の構成の「パターン付きエリア」のサイズ、は、両者ともに「基板の露光領域」のサイズに影響を与えるものであるところ、当該「基板の露光領域」は、作成しようとする半導体チップのサイズやリソグラフィ装置のスループット等に鑑みて、当業者が適宜設定しうるものである。
相違点1に係る構成の「縮小率」及び相違点2に係る構成の「パターン付きエリア」のサイズのそれぞれは、上記ア及びイで説示したとおり、当業者が適宜調整しうるものである。
そうすると、引用発明において、所定の「基板の露光領域」のサイズが得られるように、相違点1に係る構成の「縮小率」及び相違点2に係る構成の「パターン付きエリア」のサイズを調整し、相違点1及び相違点2に係る発明の構成をなすことは、当業者が容易に想到し得るものである。
エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年2月8日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年6月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、ことを含むものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記マスクの前記パターン付きエリアは、104mmを超える前記第2方向における範囲及び132mm以下である前記スキャン方向における範囲を有する」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-001873