特許拒絶査定不服審判
2022-000252
偏光板用粘着剤組成物、偏光板用粘着剤、並びに粘着剤層付偏光板
- 審判番号
- 2022-000252
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-206728外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年01月07日
- 審決日
- 2023年06月20日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱ケミカル株式会社
- 分類
- P18 .121-Z (C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-206728「偏光板用粘着剤組成物、偏光板用粘着剤、並びに粘着剤層付偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月17日出願公開、特開2018- 76489〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年10月26日(優先権主張 平成28年11月1日(以下「優先日」という。))の出願であって、令和3年1月19日付けの拒絶理由通知に対して、同年5月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月5日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同月12日)、これに対して令和4年1月7日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
なお、令和4年1月7日の手続補正は発明の詳細な説明について誤記の訂正を目的として補正するものであり、特許請求の範囲については補正されていない。
第2 本願発明
1 本願の請求項1~5に係る発明は、令和3年5月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。以下、請求項1に係る発明を「本願発明」ともいう。
「 アクリル系樹脂(A)、
カチオン部およびアニオン部からなるイオン性化合物(B)、
構造中に反応性官能基と、ケイ素原子と結合したアルコキシ基をそれぞれ1つ以上含有するシランカップリング剤(C)を含有する偏光板用粘着剤組成物であって、
前記アクリル系樹脂(A)が、カルボキシル基含有モノマー(a1)由来の構造単位を4~10重量%含有するアクリル系樹脂であり、
前記イオン性化合物(B)が、カチオン部が4級アンモニウムカチオンであり、アニオン部がN,N-ビス(フルオロスルホニル)イミドであるイオン性化合物であり、
シランカップリング剤(C)が、重量平均分子量1,200以上のオリゴマー型シランカップリング剤であり、エポキシ基及びメルカプト基から選択される少なくとも一つの反応性官能基を有することを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。」
2 オリゴマー型シランカップリング剤について
本願明細書の【0074】には、「一部が加水分解し重縮合したオリゴマー型シランカップリング剤」と記載されている。また、本願明細書の【0120】の実施例を参照すると、重量平均分子量が、2270ダルトン、3450ダルトン及び13700ダルトンの3種類が用いられていることから、本願発明にいう「オリゴマー型シランカップリング剤」は、ポリマー型のものを包含すると解される。
第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定には「この出願については、令和3年1月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶すべきものです。」と記載され、当該理由2は請求項1~5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2016-79237号公報
引用文献2:特開平7-331206号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開平8-199133号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:国際公開第2016/163287号(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2015-64574号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2016-186618号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
上記第3の原査定に引用された引用文献1には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)ポリオキシアルキレン基またはアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a1)の含有量が4質量%以下であり、水酸基含有単量体(a3)の含有量が3質量%以下である重合性単量体、を重合して得られる(メタ)アクリル系重合体と、
(B)架橋剤と、
(C)アニオンがN,N-ビス(フルオロスルホニル)イミドおよびN,N-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドから選ばれ、カチオンが有機カチオンであり、かつ融点が25℃以上であるイオン性化合物と
を含有し、偏光板とガラス基板との貼り合わせに用いられることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。
・・・
【0001】
本発明は、偏光板用粘着剤組成物、粘着シート、粘着剤層付き偏光板および積層体に関する。
・・・
【0091】
[添加剤]
本発明の粘着剤組成物は、上記成分のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、金属腐蝕防止剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋促進剤、界面活性剤、前記(A)以外の(メタ)アクリル系重合体およびリワーク剤から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
・・・
【0098】
本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層は、偏光板の歪み抑制、凝集力、接着力、再剥離性の観点から、ゲル分率が、好ましくは20~98質量%、より好ましくは30~98質量%、さらに好ましくは35~95質量%である。
・・・
【0114】
【表1】
[図:0001400991000001.jpg]
・・・
【0117】
[合成例A1]
撹拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えた反応装置に、n-ブチルアクリレート94部、アクリル酸6部、および酢酸エチル溶媒250部を仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃に昇温した。次いで、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を加え、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、固形分濃度28.5質量%のポリマー溶液を調製した。得られた(メタ)アクリル系重合体A1のMwは180万であり、Mw/Mnは5.9であった。
・・・
【0123】
【表2】
[図:0001400991000002.jpg]
・・・
【0124】
[実施例1]
(1)粘着剤組成物の調整
合成例A1で得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液(固形分濃度28.5質量%)と、架橋剤(B)として(B1):日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートL」(固形分濃度75質量%)と、(B3):綜研化学(株)製「E-5CM」(固形分濃度5質量%)と、イオン性化合物(C)として(C1):(n-C4H9)3(CH3)N+(CF3SO2)2N-と、シランカップリング剤(D)として信越化学工業(株)製「KBM-403」とを混合して、粘着剤組成物を得た。なお、各成分の比率は、合成例A1で得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液に含まれる重合体A1を100部に対して、(B1)0.6部、(B3)0.01部、(C1)2.0部、(D)0.2部となる量である(いずれも固形分値)。
・・・
【0128】
架橋剤(B)
B1:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体
(日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートL、固形分濃度75質量%)
B2:キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体
(綜研化学(株)製、TD-75、固形分濃度75質量%)
B3:エポキシ系架橋剤(綜研化学(株)製、E-5CM、固形分濃度5質量%)
イオン性化合物(C)
前記〔イオン性化合物の評価〕で使用したイオン性化合物C1~C4に同じである。
シランカップリング剤(D)
D:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(信越化学工業(株)製、KBM-403)
・・・
【0134】
【表3】
[図:0001400991000003.jpg]
」
(2)引用文献2
上記第3の原査定に引用された引用文献2には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】アクリル系ポリマーと、
無機物に対する官能基および有機物に対する官能基を有すると共に、主鎖がシロキサン骨格で形成されているポリマー型シランカップリング剤とからなり、
該アクリル系ポリマー100重量部に対して、該ポリマー型シランカップリング剤を0.001~4重量部の量で含有することを特徴とする液晶素子用感圧接着剤組成物。
・・・
【請求項4】 アクリル系ポリマーが、アルキル(メタ)アクリレート60~99重量%、官能基を有するモノマー1~20重量%および他の共重合可能なモノマー0~20重量%との共重合体であることを特徴とする請求項第1項記載の液晶素子用接着剤組成物。
・・・
【0001】
【発明の技術分野】本発明は、液晶素子あるいは液晶表示装置(以下単に、「液晶素子」と記載することもある)用の感圧接着剤組成物およびこの感圧接着剤組成物を用いて製造された液晶素子に関する。さらに詳しくは本発明は、液晶表示装置製造時には剥離可能であって、高温高湿条件下における耐久性に優れた液晶素子用の感圧接着剤組成物およびこの感圧接着剤組成物を用いて製造された液晶素子に関する。
・・・
【0017】・・・本発明の液晶素子用感圧接着剤組成物は、主鎖がポリシロキサン骨格で形成されているポリマー型シランカップリング剤を用いており、再剥離性に優れ、このような構成を有しないものを用いた組成物は、後述の比較例2に示すように、再剥離性が良好でない。
・・・
【0072】上記の反応液220重量部(アクリル系ポリマー100重量部に相当)にポリマー型シランカップリング剤[A](商品名:MAC-2101、日本ユニカー(株)製)[主鎖:ポリジメチルシロキサン(側鎖にポリエーテル基含有、官能基:アルコキシ基、エポキシ基]0.02重量部と、架橋剤としてポリイソシアネート化合物(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン(株)製)2重量部とを加えてよく攪拌して本発明の接着剤組成物を得た。
・・・
【0081】
【比較例2】実施例1において、ポリマー型シランカップリング剤[A]を使用せずに、γ-グリシドキシトリメトキシシラン[C]0.2重量部を使用した以外は同様にして接着剤組成物を得た。
・・・
【0083】
【表1】
[図:0001400991000004.jpg]
」
(3)引用文献4
上記第3の原査定に引用された引用文献4には以下の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、粘着剤組成物、およびそれを用いてなる粘着剤並びに偏光板用粘着剤に関し、さらに詳しくは、室温及び低温条件下での帯電防止性、耐久性、およびエージング特性に、バランスよく優れた粘着剤を形成する粘着剤組成物、およびそれを用いてなる粘着剤、並びに偏光板用粘着剤に関するものである。
・・・
[0013] さらに、上記粘着剤組成物およびそれを用いて得られる粘着剤は、耐久性のみならず、耐光漏れ性やリワーク性にも優れるものである。
・・・
[0076] これらのなかでも、エポキシ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤が好ましく用いられ、エポキシ基含有シランカップリング剤とメルカプト基含有シランカップリング剤を併用することも、湿熱耐久性の向上と粘着力が上がり過ぎない点で、好ましい。また、一部が加水分解し重縮合したオリゴマー型シラン化合物も、耐久性とリワーク性に優れる点で好ましい。」
2 引用文献1に記載された発明
(1)上記1(1)で摘記した引用文献1の【0117】、【0123】【表2】の記載から、合成例1の重合性単量体成分として「n-ブチルアクリレート94部」、「アクリル酸6部」を重合した「(メタ)アクリル系重合体」が記載されている。
(2)また、引用文献1の【0114】【表1】、【0124】、【0128】、【0134】【表3】の記載から、実施例2の粘着剤組成物は、「合成例1で得られた(メタ)アクリル系重合体(A1)」、「架橋剤(B1)」として「トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体」、「架橋剤(B3)」として「エポキシ系架橋剤」、「イオン性化合物(C2)」として「(C12H25)(CH3)3N+(FSO2)2N-」、「シランカップリング剤(D)」として「グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」とを混合したものであることが記載されている。
(3)そして、引用文献1の請求項1、【0001】には、実施例2の態様を含む粘着剤組成物は「偏光板用粘着剤組成物」であることが記載されている。
(4)以上まとめると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明)
「n-ブチルアクリレート94部、アクリル酸6部を重合した(メタ)アクリル系重合体、架橋剤(B1)としてトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、架橋剤(B3)としてエポキシ系架橋剤、イオン性化合物(C2)として(C12H25)(CH3)3N+(FSO2)2N-、シランカップリング剤(D)としてグリシドキシプロピルトリメトキシシランとを混合したものである偏光板用粘着剤組成物」
3 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「n-ブチルアクリレート94部、アクリル酸6部を重合した(メタ)アクリル系重合体」は、合成されたポリマー中にカルボキシル基含有モノマー由来の構造単位を6重量%程度含んでいるアクリル系樹脂であるといえることから、本願発明における「アクリル系樹脂(A)」及び「アクリル系樹脂(A)が、カルボキシル基含有モノマー(a1)由来の構造単位を4~10重量%含有するアクリル系樹脂」に相当する。
(2)また、引用発明における「イオン性化合物(C2)として(C12H25)(CH3)3N+(FSO2)2N-」は、本願発明における「カチオン部およびアニオン部からなるイオン性化合物(B)」及び「イオン性化合物(B)が、カチオン部が4級アンモニウムカチオンであり、アニオン部がN,N-ビス(フルオロスルホニル)イミドであるイオン性化合物」に相当する。
(3)そして、引用発明における「シランカップリング剤(D)としてグリシドキシプロピルトリメトキシシラン」は構造中に反応性官能基であるエポキシ基と、ケイ素原子と結合したアルコキシ基をそれぞれ1つ以上含有していることから、本願発明における「構造中に反応性官能基と、ケイ素原子と結合したアルコキシ基をそれぞれ1つ以上含有するシランカップリング剤」に相当する。
(4)してみると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「アクリル系樹脂(A)、
カチオン部およびアニオン部からなるイオン性化合物(B)
構造中に反応性官能基と、ケイ素原子と結合したアルコキシ基をそれぞれ1つ以上含有するシランカップリング剤(C)を含有する偏光板用粘着剤組成物であって、
前記アクリル樹脂(A)が、カルボキシル基含有モノマー(a1)由来の構造単位を4~10重量%含有するアクリル系樹脂であり、
前記イオン性化合物(B)が、カチオン部が4級アンモニウムカチオンであり、アニオン部がN,N-ビス(フルオロスルホニル)イミドであるイオン性化合物であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。」
<相違点>
本願発明は「シランカップリング剤(C)が、重量平均分子量1,200以上のオリゴマー型シランカップリング剤であり、エポキシ基及びメルカプト基から選択される少なくとも一つの反応性官能基を有する」ものであるのに対し、引用発明はシランカップリング剤が「グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」である点
4 判断
(1)上記相違点について検討する。引用発明の「偏光板用粘着剤組成物」について、上記1(1)より、引用文献1には「本発明の粘着剤組成物は・・・リワーク剤・・・を含有してもよい」(【0091】)こと、「本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層は、・・・接着力、再剥離性の観点から、ゲル分率が・・・である」(【0098】)ことが記載されており、粘着剤組成物がリワーク性、再剥離性の観点も考慮されているものといえる。また、偏光板用粘着剤組成物においてリワーク性を考慮することは本願優先日前周知の技術的課題であり、シランカップリング剤としてオリゴマー型シラン化合物ないしポリマー型シラン化合物がリワーク性に優れることも周知である(たとえば、引用文献2(【0001】、【0017】)、引用文献4(段落0001、段落0013、段落0076)参照)。
(2)また、上記1(2)より、引用文献2には「アクリル系ポリマーと、・・・官能基を有すると共に、主鎖がシロキサン骨格で形成されているポリマー型シランカップリング剤とからな」る「液晶素子感圧接着剤組成物」(請求項1、4)が記載されており、「主鎖がポリシロキサン骨格で形成されているポリマー型シランカップリング剤を用いており、再剥離性に優れ、このような構成を有しないものを用いた組成物は、後述の比較例2に示すように、再剥離性が良好でない」(【0017】)こと、実施例1では「ポリマー型シランカップリング剤[A](商品名:MAC-2101、日本ユニカー(株)製)[主鎖:ポリジメチルシロキサン(側鎖にポリエーテル基含有、官能基:アルコキシ基、エポキシ基]」(【0072】)を使用し、比較例2では「実施例1において、ポリマー型シランカップリング剤[A]を使用せずに、γ-グリシドキシトリメトキシシラン[C]・・を使用」(【0081】)したところ、【0083】【表1】の結果より、比較例2では「80℃10時間後の接着強度」が大幅に上昇し、接着強度を測定した際の「のり残り」が発生していることから、接着剤組成物を配合成分であるシランカップリング剤として「γ-グリシドキシトリメトキシシラン」に代えて「ポリマー型シランカップリング剤[A](商品名:MAC-2101)」を用いることで再剥離性が改善されるといえる。また、引用文献2の実施例1で使用された「ポリマー型シランカップリング剤[A](商品名:MAC-2101)」は、たとえば、特開2006-299251号公報の【0107】に「Mw=10,000のオキシアルキレン基含有オルガノシロキサンオリゴマー(日本ユニカー(株)製、商品名:MAC-2101)」と記載されているように、重量平均分子量1,200以上のオリゴマー型シランカップリング剤であり、反応性官能基としてエポキシ基を有するものであるといえる。
(3)してみると、引用発明のシランカップリング剤として、本願優先日前周知の課題である再剥離性を改善すべく、グリシドキシプロピルトリメトキシシランに代えて、引用文献2に記載されたポリマー型シランカップリング剤(MAC-2101)を採用することにより、「エポキシ基・・・を含有する重量平均分子量1,200以上のオリゴマー型シランカップリング剤」とすることは、当業者が容易に想到しうることである。そして、その効果も予測しうる範囲のものである。
第5 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、審判請求書において「前回の意見書でも言及しました通り、引用文献1には、本願発明の構成要件[I]および[II]を満足する実施例が記載されているものの、構成要件[I]~[III]のすべてを満足する偏光板用粘着剤組成物について全く記載も示唆もありません。さらに、引用文献1には、本願の特有の課題である長期間にわたる優れたリワーク性の維持については、全く考慮されておらず、課題として認識すらされていません。ましてや、構成要件[I]~[III]のすべてを満足する偏光板用粘着剤組成物により、長期間に亘り優れたリワーク性を示し、かつ、耐久性、帯電防止性にも優れた粘着剤層を得ることができるという技術思想については、示唆すらありません。」(【本願発明が特許されるべき理由】2-3.の項)と主張している。
ここで、構成要件[I]~[III]は次のとおりである(【拒絶査定の要点】の項)。
[I]アクリル系樹脂(A)として、カルボキシル基含有モノマー(a1)由来の構造単位を4~10重量%含有するアクリル系樹脂を用いること、
[II]帯電防止剤として、4級アンモニウムカチオンとN,N-ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンからなるイオン性化合物を用いること、
[III]シランカップリング剤(C)として、重量平均分子量1,200以上でエポキシ基及びメルカプト基から選択される少なくとも一つの反応性官能基を有するオリゴマー型シランカップリング剤を用いること、というものである。
しかしながら、本願の課題である長期間にわたる優れたリワーク性の維持について、上記4での検討のとおり、引用文献1の記載からみて引用発明の粘着剤組成物においてリワーク性、再剥離性の観点も考慮されているものといえること、偏光板用粘着剤組成物においてリワーク性を考慮することは本願出願前周知の技術的課題である。そして、前記構成要件[III]についても、上記4での検討のとおり、引用文献2に記載されたポリマー型シランカップリング剤を採用し、エポキシ基を含有する重量平均分子量1,200以上のオリゴマー型シランカップ剤とすることは、当業者が容易に想到しうることである。そして、その効果も予測しうる範囲のものである。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。
(2)また、審判請求人は、審判請求書において、シランカップリング剤を変えて対比実験を行い、「追加比較例1は、初期リワーク性、長期リワーク性に劣るものでした。特にアルカリガラスを被着体とした場合は、粘着力が上がり、被着体に対し、糊残りが発生しました。」(【本願発明が特許されるべき理由】2-3.の項)との結果から、「今回提出いたしました追加比較例1からも明らかであるように、分子量が小さいモノマー型シランカップリング剤を用いた粘着剤ではリワーク性に劣るものでありました。特にアルカリガラスを被着体をした場合は、経時で粘着力が上昇し、糊残りが発生しました。一方、本願発明の粘着剤組成物を用いた粘着剤は、被着体の種類が異なる場合においても長期リワークに優れることが示されました。」(【本願発明が特許されるべき理由】2-3.の項)と主張している。
しかしながら、分子量が小さいモノマー型シランカップリング剤と比較したリワーク性の効果について、本願明細書には、【0074】に「また、シランカップリング剤(C)は、モノマー型のシランカップリング剤でも、一部が加水分解し重縮合したオリゴマー型シランカップリング剤でもよいが、耐久性やリワーク性に優れる点や、粘着剤の塗工後の乾燥時に揮発しにくい点で、オリゴマー型シランカップリング剤を用いることが好ましい。」との記載があるものの、モノマー型シランカップリング剤が初期・長期リワーク性で劣る点について何ら記載されていない。また、実施例と比較例を対比した実験結果においても、本願発明のアクリル系樹脂(A-1)およびイオン性化合物(B-1)(B-2)を用いた実施例に対して、カルボキシル基含有モノマーの含有量が少ないアクリル系樹脂(A‘-1)(A’-2)やリチウムイオンを有するイオン性化合物(B‘-1)やアニオン部がトリフルオロメタンスルホニルイミド(B’-2)を用いた比較例では耐久性、長期リワーク性に劣ることが示されているものの、シランカップリング剤についてはオリゴマー型シランカップリング剤を用いた例があるのみであり、モノマー型シランカップリング剤との比較した具体的な性能、効果の差について記載されていない。そして、モノマー型シランカップリング剤と比較したリワーク性の効果についても、上記4での検討のとおり、引用文献2にはモノマー型シランカップリング剤を用いた比較例2では「80℃10時間後の接着強度」が大幅に上昇し、接着強度を測定した際の「のり残り」が発生しているのに対して、ポリマー型シランカップリング剤を用いた実施例1では再剥離性が改善されるという同様の効果を有することが記載されており、シランカップリング剤としてオリゴマー型シラン化合物がリワーク性に優れることも周知であることから、引用文献2に記載された事項から当業者が予測しうる範囲のものである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項についてさらに検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-000252