2021-800084
植物の特性を増強する方法
- 審判番号
- 2021-800084
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2017-088327外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6300215
- 請求日
- 2021年10月13日
- 審決日
- 2022年10月05日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】AGREVO BIO 株式会社
- 【請求人代理人】桂田 健志
- 【請求人】農業法人神バナナ 株式会社
- 【請求人代理人】桂田 健志
- 【被請求人】田中 節三
- 【被請求人代理人】辻田 朋子
- 【被請求人代理人】村松 大輔
- 【被請求人】凍結解凍覚醒技術 株式会社
- 【被請求人代理人】辻田 朋子
- 【被請求人代理人】村松 大輔
- 分類
- P1113.1 -Y (A01H) / 標準データ:手続:無効 / 標準データ:113・1-Y (A01H) / 標準データ:確定ステータス:1 維持(出訴無し)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法169条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第123条第2項、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)、特許情報標準データ(審判)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第6300215号に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年4月27日を出願日とする出願であって、平成30年3月9日に設定登録がなされたものである。その後、令和3年10月13日に請求人 AGREVO BIO株式会社、および、農業法人神バナナ株式会社により、本件特許の請求項1~9に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判が請求された。手続の経緯及び提出された書面は、概略、以下のとおりである。
令和3年10月13日 審判請求書、及び甲第1~11号証の提出(請求人)
令和4年 2月10日 審判事件答弁書、及び乙第1~5-3号証の提出(被請求人)
同 年 5月12日付け 審理事項通知書
同 年 6月14日 口頭審理陳述要領書、並びに甲第10-2号証及び甲第12~20号証の提出(請求人)
同 年 同月24日 上申書、及び甲第21号証の提出(請求人)
同 年 同月28日 口頭審理陳述要領書、及び乙第5-1-1~22号証の提出(被請求人)
同 年 7月12日 口頭審理
同 年 同月15日 上申書、及び甲第22~23-2号証の提出(請求人)
同 年 7月29日 上申書(被請求人)
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、以下、項番に従い、「本件特許発明1」などといい、これらを総称して、「本件特許発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件特許明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】植物の成長特性及び/又は耐寒性の増強方法であって、植物組織を凍結する凍結工程と、凍結された植物組織を解凍する解凍工程と、解凍された植物組織から植物を発生させる発生工程と、を含み、前記凍結工程における凍結時最低温度が-55℃以下であり、続きを表示(全25行)前記凍結工程において、0.6℃/日以下の速度で温度降下させながら前記植物組織を凍結し、前記凍結工程の期間が160日以上であり、前記植物が、パパイヤ、パイナップル、バナナ、コーヒー、羅漢果、グアバ、スターフルーツ、いちじく、カカオ、セイロンシナモン、パッションフルーツ、ライチ、マンゴスチン、ブラックサポテ、ホワイトサポテ、棘葉シュガーアップル、デーツ椰子、レッドドラゴンフルーツ、アーモンドから選ばれる植物であることを特徴とする方法。【請求項2】前記凍結工程において、糖類水溶液中に浸漬した状態で前記植物組織を凍結することを特徴とする、請求項1に記載の特性増強方法。【請求項3】前記糖類がトレハロースであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の特性増強方法。【請求項4】請求項1~3の何れか一項に記載の方法を適用することにより、植物の成長特性及び/又は耐寒性が増強された植物を生産する方法。【請求項5】請求項4に記載の生産方法により生産された植物より得られる、接ぎ木のための穂木として用いられる植物組織。【請求項6】請求項5に記載の植物組織が穂木として接ぎ木された植物。【請求項7】請求項4に記載の生産方法により生産された植物又は請求項6に記載の植物を栽培する工程を含む、該植物とは独立した植物個体を発生可能な植物組織(種子を除く)を生産する方法。【請求項8】植物の特性の増強遺伝子の探索方法であって、請求項1~3の何れか一項に記載の方法によって植物を処理する工程と、前記処理を受けていない植物と比較して、前記処理を受けた植物において高い発現量を示すRNAを同定する工程と、を含むことを特徴とする、探索方法。【請求項9】請求項1~3の何れか一項に記載の方法による処理を受けていない植物と比較して、該処理を受けた植物において高い発現量を示すRNAを指標として、被験物質を適用した植物における前記RNAの発現量が、前記被験物質を適用していない植物における前記RNAの発現量に比して高いときに、該被験物質を植物の特性の増強因子としてスクリーニングすることを特徴とする、植物の特性の増強因子のスクリーニング方法。」
第3 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人は、
「特許第6300215号の特許請求の範囲の請求項1~9に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」
との審決を求め、以下の(1)の無効理由を主張し、証拠方法として以下の(2)に記載の証拠を提出した。
(1)無効理由の要点
本件特許発明1~9は、その特許請求の範囲に記載されている技術的手段が、当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して効果をあげることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されておらず、産業上利用できない未完成の発明であり、特許法第29条第1項柱書の規定に違反して特許されたものであるから、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)証拠方法
(以下、「甲1」、「甲2」等という。)
2 被請求人の主張及び証拠方法
折りたたみ中(クリックで表示)
被請求人は、主位的主張として「本件審判の請求を却下する、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、以下の(1)のとおり主張し、予備的主張として「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、以下の(2)のとおり主張し、証拠方法として以下の(3)に記載の証拠を提出した。
(1)請求人適格について
請求人の主張がその真意に基づくものであるならば、本件特許権の存在によって請求人の法律上の利益に影響があるものとは考えられず、請求人は特許法第123条第2項に定める利害関係人たりえないから、特許法第135条の規定により不適法なものとして却下されるべきものである。
(2)無効理由について
本件特許発明は、当業者が反復実施して効果をあげることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されており、特許法上の完成された「発明」に該当し、請求人が主張する無効理由には理由がない。
(3)証拠方法
録画対象 本件特許発明の紹介番組 録画者 被請求人役員(令和4年2月9日(DVDへの記録日))2017年1月21日放送 TBS「ひらめき!未来食堂」
乙第5-1-1号証:『【魚拓】特許証「特願2017-88327」-AGREVO BIO株式会社』https://megalodon.jp/2021-1221-2217-06/https://agrevobio.sakura.ne.jp:443/wp/technology/sample-company1/(2022年6月22日(出力日))
乙第5-1-2号証:『魚拓リスト-https://agrevobio.sakura.ne.jp:443/wp/technology/sample-company1/』https://https://megalodon.jp/?url=https%3A%2F%2Fagrevobio.sakura.ne.jp%2Fwp%2Ftechnology%2Fsample-company1%2F(2022年6月22日(出力日))
乙第5-2-1号証:『【魚拓】凍結解凍覚醒技術の全工程-AGREVO BIO株式会社』https://megalodon.jp/2021-1221-2214-54/https://agrevobio.sakura.ne.jp:443/wp/technology/sample-company2/(2022年6月22日(出力日))
乙第5-2-2号証:『魚拓リスト-https://agrevobio.sakura.ne.jp:443/wp/technology/sample-company2/』https://https://megalodon.jp/?url=https%3A%2F%2Fagrevobio.sakura.ne.jp%2Fwp%2Ftechnology%2Fsample-company2%2F(2022年6月22日(出力日))
乙第5-3-1号証:『【魚拓】AGREVO農法の研究成果-AGREVO BIO株式会社』https://megalodon.jp/2021-1221-2223-17/https://agrevobio.sakura.ne.jp:443/wp/technology/sample-company3/(2022年6月22日(出力日))
乙第5-3-2号証:『魚拓リスト-https://agrevobio.sakura.ne.jp:443/wp/technology/sample-company3/』https://https://megalodon.jp/?url=https%3A%2F%2Fagrevobio.sakura.ne.jp%2Fwp%2Ftechnology%2Fsample-company3%2F(2022年6月22日(出力日))
(以下、「乙1」、「乙2」等という。)
第4 証拠の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人が提出した証拠のうちの甲12および13、被請求人が提出した証拠のうちの乙2および3には、それぞれ以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。
1 甲12の記載事項
福岡県遠賀郡水巻町頃末南二丁目13番1号 AGREVO BIO株式会社の履歴事項全部証明書である甲12には、以下の事項が記載されている。
(甲12-1)「1.植物の種苗の研究開発、培養、生産、販売及び輸出入
2.農業用種苗の研究開発、培養、生産、販売及び輸出入・・・
4.農産物の生産、販売及び輸出入」(目的欄)
2 甲13の記載事項
鹿児島県南九州市川辺町平山字京田4109番地 農業法人神バナナ株式会社の履歴事項全部証明書である甲13には、以下の事項が記載されている。
(甲13-1)「1.農産物の生産・加工・販売
2.農産物の貯蔵及び運搬・・・
4.苗及び種子等の育成・販売」(目的欄)
3 乙2の記載事項
「植物の乾燥と高塩ストレス応答と耐性の獲得」との標題の学術文献である乙2には、以下の事項が記載されている。
(乙2-1)「近年の植物ゲノム科学研究の進展により,乾燥や高塩ストレスによる特異的遺伝子発現(トランスクリプトーム),タンパク質発現(プロテオーム),また代謝産物の変化(メタボローム)を植物ゲノム全体で比較することが可能になり,これらの解析から耐性獲得で働く主要な遺伝子群が明らかにされつつある.」(265頁右欄1行~6行)
(乙2-2)「乾燥・高塩ストレス応答性遺伝子と耐性の獲得
近年発展してきたマイクロアレイ解析により,乾燥・高塩ストレス時に特異的な発現誘導を示す遺伝子群が同定され,多様な機能をもつメンバーから構成されていることがわかってきた(2).」(265頁右欄9行~13行)
4 乙3の記載事項
「生物情報科学・細胞生物学的手法から見えてきた植物栄養応答 3.大規模データが解き明かす植物の土壌ストレス耐性システム」との標題の学術文献である乙3には、以下の事項が記載されている。
(乙3-1)「3.生物分子情報解析の大規模化によるストレス応答機構解明への挑戦
ゲノム解読以前の環境ストレス耐性機構に関わる要因の探索は,主動遺伝子の個別探索が主流であった.QTL(Quantitative Trait Loci)解析やサブトラクション法などは,形質に大きな影響を与える原因遺伝子の同定に強力な手法であり,特に,作物におけるQTL解析は現在でもよく用いられている.2000年に完了したシロイヌナズナゲノム配列の解読以降は,多くの植物でゲノム配列や遺伝子の全体像が明らかになり,生体内分子の挙動を網羅的に捕捉できるようになった.cDNAクローンやT-DNA挿入変異体など逆遺伝学を行うためのバイオリソースの整備と相まって,ゲノム中に存在する遺伝子の機能解析と相互関係の同定が精力的に行われるようになった.現在では,公共データベースに収集された多量の生物学的データや解析ツールから必要な情報を取捨選択してそれらを再解析し,これに自己の研究データを統合することで新しい知見を生み出すアプローチが取られることが多くなり,ストレス耐性機構に関わる因子のハイスループットな探索やそれらの相互関係の解明に繋がっている.
このような研究展開を可能にしたのが,計測技術の開発とそれが生み出す大規模データの処理手法の発展である.特に次世代シーケンス(NGS:next generation sequencing)の登場以降は,ゲノム配列と転写配列が解読された生物種が増加し, NCBIでドラフトゲノムが公開された植物種数は150種を超える.その結果,複数系統の試料を用いたゲノム上の一塩基多型(SNPs:Single Nucleotide Polymorphisms)と挿入欠失(indels:insertions and deletions)の検出による変異解析や非モデル生物のトランスクリプトーム解析が,一研究室でも可能になっている.」(473頁左欄17行~47行)
(乙3-2)「5. 高精度トランスクリプトームデータの大規模解析
トランスクリプトーム研究は,マイクロアレイの登場によりオミクス階層の中で最も早く包括的な解析が普及した.トランスクリプトーム解析は今日に至るまで遺伝子の同定から遺伝子間相互作用の検出まで幅広く用いられ,植物の土壌環境ストレス研究への適用例も多い.遺伝子同定に用いられた研究例として,鉄欠乏時における経時的なトランスクリプトーム解析から鉄の吸収利用を制御する転写制御因子OsIRO2の発見に繋がった例や(Ogo et al., 2006),アジサイのcDNA マイクロアレイから Al の集積や耐性に関与するAl輸送体を同定した例が挙げられる(Negishi et al., 2012).」(475頁左欄9行~20行)
第5 当審の判断
1 請求人適格について
被請求人は、第3の2(1)で上述したとおり、請求人は「利害関係人」に該当しない旨主張している。具体的には、本件特許発明が技術的効果を奏しないものであるという主張が請求人の真意であるならば、請求人自身による本件特許発明の実施はあり得ないといえ、本件特許権の存在によって請求人の法律上の利益に影響があるとは考えられないため、「利害関係人」に該当しない、というものである(審判答弁書5頁)。
これについて検討すると、本件特許発明は、上記第2のとおり、「パパイヤ、パイナップル、バナナ、コーヒー、羅漢果、グアバ、スターフルーツ、いちじく、カカオ、セイロンシナモン、パッションフルーツ、ライチ、マンゴスチン、ブラックサポテ、ホワイトサポテ、棘葉シュガーアップル、デーツ椰子、レッドドラゴンフルーツ、アーモンドから選ばれる植物」の「特性増強」や「生産」等に関する発明である。
それに対して、請求人「AGREVO BIO株式会社」は、その履歴事項全部証明書の記載(上記摘記事項(甲12-1))からみて、「植物の種苗の研究開発、培養、生産、販売及び輸出入」、「農業用種苗の研究開発、培養、生産、販売及び輸出入」、「農産物の生産、販売及び輸出入」等を事業内容とする会社であって、その事業の実施に当たって本件特許発明との抵触があり得ると認められるから、本件特許の無効を求めることについて利害関係を有するものといえる。
また、請求人「農業法人神バナナ株式会社」は、その履歴事項全部証明書の記載(上記摘記事項(甲13-1))からみて、「農産物の生産・加工・販売」、「苗及び種子等の育成・販売」等を事業内容とする会社であって、その事業の実施に当たって本件特許発明との抵触があり得ると認められるから、本件特許の無効を求めることについて利害関係を有するものといえる。
よって、請求人は特許法第123条第2項でいう利害関係人に該当し、本件無効審判事件の請求人適格を有する。
2 無効理由について
当審は請求人の主張する無効理由は理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
(1)本件特許発明1~7についての判断
ア 本件特許明細書(甲1)の記載内容
本件特許発明1~7は、上記第2のとおり、「植物の成長特性及び/又は耐寒性の増強」に関する発明で、植物に対して「凍結工程」、「解凍工程」及び「発生工程」を施すことを特徴とするものである。
これについて、本件特許明細書(甲1)の【発明を実施するための形態】の項には、概ね、以下のとおり記載されている。
「凍結工程」について、用いる植物組織は、植物個体を発生可能な植物組織が好ましいこと(【0027】)、植物組織を液体に浸漬した状態で凍結することが好ましいこと(【0029】)、凍結時最低温度は、好ましくは-20℃以下、-200℃以上であること(【0030】)、温度降下は緩慢であることが好ましく、好ましくは0.8℃/日以下であること(【0031】)、期間(温度降下を開始した時点から、解凍工程を開始するまでの期間)は、好ましくは100日以上であること(【0032】、【0033】)。
「解凍工程」について、解凍方法は、自然凍結、流水によるすすぎなど、特に制限されないこと(【0034】)。
「発生工程」について、植物組織が種子であれば、播種して発生させ、種子以外であれば、そのまま土壌や培地で発芽させたり、細かく裁断してカルス誘導、不定胚誘導、不定芽誘導を行うこと(【0035】、【0036】)。
さらに、本件特許明細書には、本件特許発明を具体的に実施した【実施例】として、次の通りの実験データが記載されている。
<試験例1>パパイヤの特性増強(【0051】~【0057】、図1~5)
パパイヤの種子をトレハロース水溶液に浸漬した状態で、プログラムフリーザー内に静置し凍結した。凍結は0.5℃/日の温度降下速度で180日間かけて緩慢に行い、凍結時最低温度が-60℃となるように行った。
凍結したパパイヤの種子を流水ですすぐことにより解凍し、これを播種し岡山県にて栽培した。
[図:0001392814000001.jpg]
[図:0001392814000002.jpg]
[図:0001392814000003.jpg]
[図:0001392814000004.jpg]
[図:0001392814000005.jpg]
<試験例2>パイナップルの特性増強(【0058】~【0059】、図6)
パイナップルの種子を試験例1と同様の方法により凍結解凍処理し、これを播種し栽培した。
[図:0001392814000006.jpg]
<試験例3>バナナの特性増強(1)(【0060】~【0062】、図7)
バナナの子株の根を輪切りにし、これを試験例1と同様の方法により凍結解凍した。凍結解凍後の子株の根を細断し、この断片化した生長細胞塊を培地上で培養し発芽させ、ある程度成長した苗を土壌に移し、岡山県にて栽培を行った。
[図:0001392814000007.jpg]
」
<試験例4>バナナの特性増強(2)(【0063】)
バナナの株元から生えたわき芽を切り取り、葉と根を切り落とし、タケノコ状に加工したものを試験例1と同様の方法により凍結解凍し、解凍後のわき芽を鉢に植えたところ、新芽が発芽することを確認し、この新芽を栽培した。
<試験例5>コーヒーの特性増強(【0064】~【0065】、図8)
台湾の台南市で栽培されているコーヒーノキの種子を試験例1と同様の方法で凍結解凍処理し発芽させ、岡山県にて栽培した。
[図:0001392814000008.jpg]
」
<試験例6>その他の植物種の特性増強(【0067】)
羅漢果、グアバ、スターフルーツ、いちじく、カカオ、セイロンシナモン、パッションフルーツ、ライチ、マンゴスチン、ブラックサポテ、ホワイトサポテ、棘葉シュガーアップル、デーツ椰子、レッドドラゴンフルーツ、アーモンドの種子を試験例1と同様の方法により凍結解凍処理し、処理後の植物組織から植物個体を発生させ栽培した。
イ 判断
上記アによれば、本件特許明細書には、本件特許発明1~7について、【発明を実施するための形態】において一般的な説明が記載されたうえで、【実施例】として、パパイヤ、パイナップル、バナナ及びコーヒーについて本件特許発明を実施した手順が当業者が理解できる程度に具体的に記載されるとともに、その技術効果が確認できる写真が記載されているということができる。すなわち、図1~5から、本件特許発明1~4の凍結解凍処理を受けた種子と未処理の種子の成長の経時的な成長の違いを客観的に確認することができ、一貫して、本件特許発明1~4の凍結解凍処理を受けた個体が未処理の個体に比べて大きく成長していることが一見して理解できる。同様に、上記アによれば、本件特許明細書の記載から、パイナップル、バナナ、コーヒーノキについて、いずれもパパイヤと同様に、本件特許発明1~4の凍結解凍処理を受けた植物と未処理の植物とを栽培したものと認識でき、図6~8による客観的証拠により、これらの複数の植物種についても、本件特許発明の凍結解凍処理が成長速度を向上させることが記載されており、本件特許発明1~4の凍結解凍処理を受けることにより異なる植物であっても成長特性を増強させるという技術的効果が示されているといえる。さらに、本件特許明細書中には、各々の実験結果について明らかに矛盾が生じることを示す記載は見いだせないし、上記アの試験例が実際に行われたことに疑いを抱かせる記載も見当たらない。
したがって、本件特許明細書には本件特許発明1~4の技術内容が、当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されて記載されているといえる。
また、本件特許発明5~7について、植物から、穂木のための植物組織を得ること、穂木を接ぎ木すること、および、接ぎ木によって元の植物と同一の特性を有する新たな植物個体を取得できることは技術常識であるから、本件特許明細書には本件特許発明5~7の技術内容が、当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されて記載されているといえる。
よって、本件特許発明1~7が未完成で、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」に該当しないものということはできない。
(2)本件特許発明8、9についての判断
ア 本件特許明細書の記載内容
本件特許発明8、9は、上記第2のとおり、「植物の特性の増強」に関与する遺伝子や因子を探索することに関する発明であり、本件特許発明1~3の方法により処理を受けた植物において、受けていない植物と比較して高い発現量を示すRNAを用いることを特徴とするものである。
これについて、本件特許明細書の【発明を実施するための形態】の項には、上記(1)アに記載した内容のほか、概ね、以下のとおり記載されている。
本件特許発明の特性増強方法による処理を受けた植物は、同処理を受けていない植物と比較して、細胞内で発現しているRNAの量が顕著に増加し、このRNA量の顕著な増加が、特性増強の要因であるといえる(【0044】)から、本件特許発明の特性増強方法によって植物を処理する工程と、前記処理を受けていない植物と比較して、前記処理を受けた植物において高い発現量を示すRNAを同定する工程とを含む方法により、植物の特性の増強遺伝子の探索を行うことが可能である(【0045】~【0046】)。その際の「RNAを同定する工程」は、マイクロアレイやRNAシーケンスなどのトランスクリプトーム解析により行うことができる(【0047】)。
また、被験物質を適用した植物における前記RNAの発現量が、被験物質を適用していない植物における前記RNAの発現量に比して高いときに、この被験物質を植物の特性増強因子としてスクリーニングすることができ(【0048】~【0049】)、RNAの発現量の確認は、ノザンブロッティングやリアルタイムPCRなどの常法により行うことができる(【0050】)。
さらに、本件特許明細書には、本件特許発明8を具体的に実施した【実施例】として、次のとおりの記載がある。
<試験例7>分子生物学的解析(【0068】~【0070】)
上記試験例において凍結解凍処理により特性が増強されたパパイヤ、バナナ、パッションフルーツ、グアバフルーツについて、同処理を受けていない植物を比較対象としてトランスクリプトーム解析を行った。その結果、何れの植物においても凍結解凍処理を受けることにより、mRNAの発現量が32~38倍程度向上することがわかった。
イ 判断
上記アによれば、本件特許明細書には、本件特許発明8、9について、【発明を実施するための形態】において一般的な説明が記載されたうえで、【実施例】として、本件特許発明の凍結解凍処理を受けた植物においてトランスクリプトーム解析を実施した手順が当業者が理解できる程度に具体的に記載されているということができる。
ここで、上記第4の3の乙2の摘記事項(乙2-1)、(乙2-2)、(乙3-1)、(乙3-2)のとおり、特定の外的影響を受けた植物が通常の植物と異なる表現型を示す場合に、その表現型を出現させる原因となる遺伝子を、発現量を指標としたトランスクリプトーム解析によって探索できることは、本件特許出願日当時の技術常識であった。
一方、上記(1)で述べたとおり、本件特許明細書には、本件特許発明の凍結解凍処理により、植物の成長特性を増強できることが記載されているといえ、上記アのとおり、本件特許明細書では、本件特許発明の凍結解凍処理がされた植物について、トランスクリプトーム解析によって「mRNAの発現量が32~38倍程度向上」することを確認したことが記載されている。そして、本件特許明細書中の記載及び技術常識より、そのように発現量が向上したRNAの中には、特性の増強に関与する遺伝子の発現産物が含まれている蓋然性が高いから、発現量が向上したRNAを同定して植物の特性の増強遺伝子の探索を行う方法である本件特許発明8や、当該RNAを指標として植物の特性の増強因子のスクリーニングを行う方法である本件特許発明9は、当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げる程度にまで具体的、客観的なものとして構成されて本件特許明細書に記載されていると認められる。
よって、本件特許発明8、9が未完成で、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」に該当しないものということはできない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、裁判例(甲2。判決全文は、乙4。)において、
「目的とする技術効果を挙げることができるものであることの立証において,有力な手段は,上記効果を奏することを裏付けるものとして明細書に記載された実験ないし試験に関する原資料(データ)であろう。したがって,特許権者としては,特許査定後も上記原資料(データ)を保管し,争われた場合の立証に備えるのが適切な措置であり,これらを廃棄した場合には,原資料(データ)以外の手段によって、証明することも不可能ではないが、相当困難な立証になることも予想される。しかし、いずれにしても、証明ができなかったことの不利益は、特許権者が負うべきものである。」
と判示されていることを根拠として、本件特許明細書の記載から「本件特許発明が本件特許出願日当時に完成していた」という事実を認定できないことから、原資料(データ)によって「本件特許明細書の記載から本件特許発明が本件特許出願日当時に完成していた」ことを被請求人が証明する必要があるところ、原資料(データ)は提出されず、本件特許発明の効果を確認したことを証明できていないことから、証明できなかったことの不利益は、被請求人が負うべきものである旨主張している。
ここで、上記裁判例は、ニトロイミダゾールを有効成分とするアトピー性皮膚疾患用外用剤の発明に関して、特許明細書には5人の患者において技術的効果を挙げることができたことを具体的に示すと解される臨床試験例が記載されているところ、この臨床試験で用いられた外用剤の有効成分がニトロイミダゾールであったことに多大の疑いを生じさせる特段の事情(臨床試験で用いられた外用剤にアトピー性皮膚疾患に効果があることが知られていたステロイドが配合されていたことを示唆する別訴確定判決等)が認められた事例である。
一方で、本件では、上記(1)及び(2)で述べたとおり、本件特許発明の凍結解凍処理を受けた複数の植物において、成長特性の増強という本件特許発明の効果が写真という客観的な証拠をもって本件特許明細書中に記載されているといえるし、当業者であれば、本件特許明細書の記載および技術常識(乙2、3)から、植物の特性の増強遺伝子を探索、スクリーニングできると理解できるものであるところ、以下イ~ケのとおり、請求人が提出した証拠をみても、本件特許明細書中の記載事項について、疑いを生じさせる特段の事情があるとまでは認定できない。
したがって、本件においては、原資料(データ)を用いて本件特許発明の完成を立証する必要性があるとは認められない。
イ 請求人は、本件特許明細書に記載されている試験例1~6は、用いた種子等の品種、数、質量、トレハロース水溶液の濃度、解凍処理のタイミングや温度、栽培の際の温度、湿度、日照等の諸条件に関する記載が一切ないことから、実際に行われたかは疑わしい、または、捏造されたものとの疑いを抱くものであるため、本件特許発明が未完成である旨主張する。
また、請求人は、試験例1~6における本件特許発明の凍結解凍処理による成長特性の増強効果を示した図1~7について、撮影日時、撮影時の地上高さや質量などに関する具体的なデータが記載されていないことから、凍結解凍処理を受けた種子と未処理の種子との播種後の成長速度の違いを具体的・客観的に知ることはできない旨主張する。
この点、上記第5の2の(1)のアにおいて記載したとおり、本件特許明細書中には本件特許発明で特定された「凍結工程」、「解凍工程」及び「発生工程」の範囲内の条件の凍結解凍処理を受けた複数の植物体を栽培したことが記載され、図1~7の記載から、本件特許発明の凍結解凍処理を受けた植物体は、いずれも未処理の植物体と比較して、大きく成長していることが一見して理解できる。そして、用いた種子等の品種、数等、請求人が挙げる諸条件は、いずれも植物栽培の技術分野における当業者であれば適宜選択ないし設定し得る程度の事項であるし、写真の撮影日時等を記載しないことが不自然であるとまではいえない。その他にも、実験内容や結果に明らかに矛盾が生じることを示す記載は本件特許明細書中にはない。そうすると、実験条件等の詳細が記載されていないこと、および、図1~7についての詳細な記載がないことをもって、試験例1~6が実施されなかった、または、捏造されたとの疑いを生じさせる特段の事情があるとまではいえない。
ウ 請求人は、図1~5を見る限りでは、植物の耐寒性、耐病害虫性、根腐れ耐性、豊産性を増強できるか不明である旨主張している。
通常、パパイヤが熱帯~亜熱帯地域の気候を好み、温帯での栽培に適していない植物であることを考慮すると、本件特許発明の凍結解凍処理を受けることにより、未処理の植物体と比較して、日本の岡山県での栽培で大きく成長しているパパイヤは、温帯での栽培でも適応するようになったことが理解でき、耐寒性が増強されているといえる。また、適していない条件下での栽培では、植物の耐病害虫性、根腐れ耐性、豊産性は低下することが一般的であるから、温帯での栽培にも適応するようになったパパイヤではこれらの性質が改善されているものと理解できる。
よって、本件特許明細書中の記載に不明な部分があるとはいえない。
エ 請求人は、本件特許明細書中で「パイナップル」の写真と説明されている写真の一部が明らかに 「パイナップル」の写真ではなかったり、経時的に記録した写真とされている各写真が「いつ撮影されたものか」に関する情報が欠落している状況から、被請求人である発明者が行ったとする試験において、育成条件の管理やその記録、及び記録(データ)の管理が適切になされていなかったものとの疑念を強く抱かざるを得ない旨主張している。
ここで、本件特許明細書【0059】の「図6に示すように、試験1における・・・」との記載、【0062】の「また、バナナも・・・できた(図7)。」との記載、【0064】の「コーヒーノキの種子を・・・栽培した(図8)。」を総合的にみると、【0058】の「図6~8に、同時に接種し栽培した・・・」との記載の「図6~8」は明らかな誤記で、正しくは、「図6」であると優に理解できる。この程度の図面番号の誤記は、不自然なものではなく、育成条件の管理やその記録、及び記録(データ)の管理が適切になされていなかったものとの疑いを生じさせるほどのものではない。また、本件特許明細書中に各写真が「いつ撮影されたものか」に関する情報が欠落していることが、育成条件の管理やその記録、及び記録(データ)の管理が適切になされていなかったことを示す理由にはならない。
オ 請求人は、図1~7において、「凍結解凍処理」されたとされる植物体がたまたま速く成長する個体であっただけであり、「そのような偶然の結果を観察し、それを発明の効果と誤認し、具体的・客観的な手法を用いて、偶然の結果なのか、発明の効果として反復実施可能なものなのかを確認することを怠っている可能性が高いと主張している。
しかしながら、上記第5の2(1)のアに記載されているとおり、本件特許明細書中では、複数の植物種において、凍結解凍処理による一定の技術効果を得られることが具体的に記載されていることをみると、個体による成長の差があることを考慮しても、有意な効果が示されているといえる。一方、本件特許明細書の実験が偶然の結果を観察しただけであると結論付けるに足る客観的な根拠はない。
カ 請求人は、被請求人田中氏による「耐寒性次世代作物講演会 配付資料」(甲10、甲10-2)において、
「トレハロース含浸処理後、緩慢に凍結させ緩慢に解凍する外部ストレスを与えたところ極めて速い成長速度と耐気候性が発現しました。」(3頁下から3行~下から1行)
「尚、トレハロース含浸処理の効果もかなりな部分で本件変異現象の要素と成っている事は、トレハロース以外ではこの様な現象が発生しない点も注目しています。トレハロースの秘めたる能力が存在して、凍結解凍後の蘇生に大きな影響を与えている事は紛れも無い事実です。」(5頁下から10行~下から7行)
と記載されていることから、被請求人が本件特許発明においてトレハロース含浸処理が必須の処理であると自認していること、試験例1~7はいずれもトレハロース含浸処理をしたものであることから、本件特許発明1~2が目的とする技術的効果を奏しないと主張している。
この点に関して、上記「配付資料」には、上記記載の「緩慢に凍結させ緩慢に解凍する外部ストレス」や「凍結解凍」について、解凍工程がどの程度の期間であったかが記載されていないから、上記記載が、「前記凍結工程の基幹が160日以上であり」という本件特許発明に関するものであると直ちには認めることができない。仮に、本件特許発明に関する記載であったとしても、上記「配付資料」には、請求人が指摘する上記記載に続けて、「トレハロース溶液中での蘇生率と溶液外での緩慢解凍では、極端に蘇生率に差が発生する」(5頁下から4~5行)と記載されていることから、トレハロース処理を行わない場合でも、率が低いながらも蘇生はするものと解され、本件特許発明1~2が目的とする技術的効果を奏しないとまでは認めることができない。
キ 請求人は、本件特許明細書中で、トランスクリプトーム解析の方法、装置、試薬、用いた植物品種等の具体的な記載は一切なく、「凍結工程における凍結時最低温度や温度降下速度など」をいろいろと変化させたことによって「成長特性に関与すると思われるたんばく質のmRNAの発現量」 、「耐寒性に関与すると思われるたんばく質のmRNAの発現量」がそれぞれ、どれだけ変化(増減)したかを具体的なデータを示して説明すべきと考えるが そのような説明からはかけ離れていることから、トランスクリプトーム解析は行われなかったものと考えざるを得ないと主張している。
ここで、本件特許明細書では、mRNAの発現量について、「32~38倍程度向上」と具体的な数値が記載されていることからして、実際にトランスクリプトーム解析が行われて取得されたデータを根拠としていると解するのが自然である。そうすると、各種の条件を変えた場合のmRNA発現量の記載がなくても実験が実在しないとか、トランスクリプトーム解析が行われなかったとまではいえない。
ク 請求人は、被請求人田中氏が代表を務める桃太郎パパイヤ研究所のウェブサイト(甲7)に「弊社凍結解凍覚醒処理後の植物にRNA増加が確認されました。」と記載され、被請求人田中氏による「耐寒性次世代作物講演会 配布資料」(甲10、甲10-2)に「凍結解凍覚醒処理を行った植物は、RNA発現量が新規に増加している」と記載されているが、これらは単なるRNAの増加を意味し、mRNAの増加を意味するとは認められないこと、及び、本件特許明細書にも上記講演会資料にもRNA解析結果を報告する検査報告書を特定する情報や検査結果の具体的内容が記載されていないことから、本件特許明細書中の試験例7のトランスクリプトーム解析の結果である「何れの植物においても凍結解凍処理を受けることにより、mRNAの発現量が32~38倍程度向上することがわかった。」との記載は、本件特許明細書中の記載が客観的な事実に基づかないものである蓋然性が高く、「362個の転写産物(RNA)」が「耐寒性の向上現象、成長速度の向上現象、抗病原体能力の向上現象(無農薬栽培の実現)、等々にどの様に関与しているのか」は、本件出願日当時において全く不明確であり、本件特許発明8及び9は完成されていなかったものである旨主張している。
しかし、上記ウェブサイトには「弊社凍結解凍覚醒処理」の具体的工程は記載されていないから、本件特許発明に関する記載であるとは認めることができない。また、上記「配付資料」には、解凍工程がどの程度の期間であったかが記載されていないから、上記記載が「前記凍結工程の期間が160日以上であり」という本件特許発明に関するものであると直ちには認めることができない。さらに、本件特許明細書には、上記5の2(1)アのとおり、本件特許発明の処理を受けた植物において高い発現量を示すRNAを同定する方法として、マイクロアレイやRNAシーケンスなどのトランスクリプトーム解析の常法が挙げられており(【0047】)、試験例7の記載にも不自然はなく、RNA解析結果を報告する検査報告書を特定する情報や検査結果の具体的内容が記載されていないからといって、実験結果の信憑性に疑義が生じるほどのことはない。
さらに、特定の外的影響を受けた植物が通常の植物と異なる表現型を示す場合、当該表現型に特異的な遺伝子発現様式(トランスクリプトーム)があることや、その表現型を出現させる原因となる遺伝子をトランスクリプトーム解析によって探索できることは、本件特許出願日当時の技術常識であった(乙2、3)。
一方で、本件特許明細書には、本件特許発明の凍結解凍処理により、パパイヤ等の植物体が日本で大きく成長するようになるという未処理の植物体とは異なる表現型を示し、トランスクリプトーム解析によって、mRNAの発現量が32~38倍に上昇することが記載されているのだから、そのように高い発現量を示すRNAを同定して植物の特性の増強遺伝子の探索を行う方法(本件特許発明8)や、当該RNAを指標として植物の特性の増強因子のスクリーニングを行う方法(本件特許発明9)は、上記技術常識に照らすと、未完成な発明であるとは認められない。
ケ 請求人はさらに、甲14~甲23-2を引用して、請求人が本件特許発明の凍結解凍処理を行った植物体を栽培したところ、凍結解凍処理のみでは本件特許発明の目的とする技術効果を得られなかったことについて縷々主張している。
しかし、植物体が水やり、植え替え、追肥、日照等の栽培条件によって、必ずしもうまく生育できない場合があることは当該技術分野における技術常識であるから、上記の証拠のみをもって本件特許明細書の実験結果に多大の疑いを生じさせる特段の事情があるとまではいえない。一方で、上記(2)、(3)で上述したとおり、本件特許明細書の記載をみると、本件特許発明の凍結解凍処理を受けた複数の植物において、成長特性の増強という本件特許発明の効果が写真という客観的な証拠をもって記載されているから、当業者であれば、本件特許明細書の記載および技術常識(乙2、3)から、植物の特性を増強したり、それに関与する遺伝子や因子を探索、スクリーニングできると理解できる。
そうすると、請求人の提出した証拠方法のいずれをみても、本件特許発明により、本件特許発明の技術効果が得られないとまで認定することはできない。
(5)小括
以上によれば、請求人の主張する無効理由には理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1~9の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法61条の規定により請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-800084