特許無効審判
2021-800078
5-アミノレブリン酸リン酸塩、その製造方法及びその用途
- 審判番号
- 2021-800078
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2005-051217外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 4417865
- 請求日
- 2021年09月13日
- 審決日
- 2022年07月15日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P1123.113-Y (C07C) / P1123.121-Y (C07C) / 標準データ:手続:無効 / 標準データ:123・113-Y (C07C) / 標準データ:123・121 / 標準データ:出訴:令和04年10091 / 標準データ:確定ステータス:2 維持(出訴有り)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条特許法123条1項2号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)、特許情報標準データ(審判)
事件の表示
上記当事者間の特許第4417865号発明「5-アミノレブリン酸リン酸塩、その製造方法及びその用途」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許第4417865号の請求項1~8に係る発明についての特許出願は、平成17年2月25日(優先権主張 平成16年3月30日、平成16年11月30日)にされ、平成21年12月4日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数8。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」といい、特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。
2 本件特許について、本件特許の利害関係人である、株式会社東亜産業(以下「請求人」という。)から、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。
令和3年9月13日 審判請求書・証拠説明書、甲第1号証、甲第2号証及び甲1号証の翻訳を甲第1号証の訳文として提出(請求人)
令和4年1月24日 審判事件答弁書・証拠説明書、乙第1号証及び乙第1号証の2の提出(被請求人)
令和4年3月18日付け 審理事項通知書
令和4年4月 1日 上申書・証拠説明書、甲第3号証の提出(請求人)
令和4年4月 4日 上申書の提出(被請求人)
令和4年4月22日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
令和4年4月25日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
令和4年5月16日 口頭審理の実施
第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、登録時の本件特許請求の範囲の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
【請求項1】
下記一般式(1)
HOCOCH2CH2COCH2NH2・HOP(O)(OR1)n(OH)2-n (1)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し;nは0~2の整数を示す。)で表される5-アミノレブリン酸リン酸塩。
第3 請求人の主張の概要
1 本件審判の請求の趣旨
請求人の主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4417865号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」である。
2 請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要
請求人は、以下の無効理由1-1、1-2、2-1、2-2を主張し、証拠方法として、甲第1号証~甲第3号証を提出した。
3 審判請求書、上申書、口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する無効理由1-1~2-2は、概略以下のとおりである(審判請求書7(1)(3)、第1回口頭審理調書)。
(1)無効理由1-1(新規性)
本件発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものでないから、本件発明1の特許は、同法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
(2)無効理由1-2(進歩性)
本件発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものでなく、本件発明1の特許は、同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由2-1(新規性)
本件発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものでないから、本件発明1の特許は、同法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
(4)無効理由2-2(進歩性)
本件発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものでなく、本件発明1の特許は、同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
4 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)審判請求書とともに提出した証拠
甲第1号証:「Degradation Mechanism and Stability of 5-Aminolevulinic Acid」、Journal of Pharmaceutical Sciences、Volume 89、No. 10、October 2000、1335-1341頁
甲第2号証:特表2003-526637号公報
(2)令和4年4月1日付け上申書において提出した証拠
甲第3号証:竹内敬人、化学の基礎 化学入門コース1、株式会社岩波書店、2002年4月5日、第8刷発行、153~173頁
第4 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める。
そして、被請求人は請求人が主張する上記無効理由1-1~2-2は、審判事件答弁書、上申書、口頭審理陳述要領書において、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。
2 被請求人の提出した証拠方法
被請求人は、令和4年1月24日付け審判事件答弁書において乙第1号証を証拠として提出している。
乙第1号証:田中徹、土屋京子「臨床試験に基づいた5-アミノレブリン酸リン酸塩含有機能性表示食品の開発」、生物工学、日本生物工学会、2017年9月、第95巻、第9号(2017)、529-532頁
第5 証拠の記載
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出した甲第1号証の翻訳を参照して、合議体が作成した。
ア「本研究では、水溶液中でのALAの分解メカニズムとその安定性を改善する可能性を調べた。ALA及び2つの分解産物の定量に適したキャピラリー電気泳動法を開発した。」(1335頁要約5、6行)
イ「
[図:0001402113000001.jpg]
図1 文献(2-9参照)によるALAの縮合生成物」
ウ「実験部
材料
5-アミノレブリン酸塩酸塩は、ゾヒナーツ(スイス、ヴィオナ)から購入した。ピラジン、ピラジンカルボン酸、レブリン酸、Na2B407、NaH2P04、Na2HPO4及びNaOHはフルカケミー(スイス、ブックス)から入手し、セチルトリメチルアンモニウム硫酸水素塩はメルク(ドイツ、ダームスタット)から入手した。全体を通して、二重蒸留水を使用した。」(1336頁右欄下から4行~1336頁左欄6行)
エ「キャピラリー電気泳動(CE)
CEは、カラム上UV検出器又はダイオードアレイ検出器を備えたP/ACE5010CE装置(ベックマン、カリフォルニア州、フラートン)を用いて実施した。
・・・
構造解明
PYは、5Nの水酸化カリウム5mLにALA1.5gを溶かし、続けてHgCl2100mgを添加することで合成した。
・・・
安定性試験
溶液中のALA安定性を、図2~4に示すように、種々の貯蔵条件下で試験した。
・・・
結果と考察
ALA及び分解生成物の分析のためのCE
ここで開発され最適化されたCE方法は、pH9.4以下の水溶液におけるALA及びその主要分解生成物の測定に適していることが見出された。
・・・
構造解明
最終分解産物PY(エレクトロフェログラムにおける第3のピーク)を、フランク及びスタートマンの方法によって合成した。
・・・
ALA分解の速度論
ALAを激しく脱気した(O2除去)200mMリン酸緩衝液(pH5.5及び7.4:測定値)中に50℃で保存すると、ALA濃度の低下が経時的に測定されるように、ALAは可逆的な二次反応によって二量体化するように見えた。
・・・
したがって、ALA溶液の窒素パージは、DHPYのPYへの酸化を遅くすることによってALAを安定化させるのに役立つはずである。」(1337頁左欄7行~1339頁右欄下から5行、審決注:「・・・」は記載の省略を表す。)
オ「種々の潜在的に安定化する化学物質を含む溶液中でのALAの安定性
溶液pHの最適化は、ALA安定性を制御するための効率的な手段を表す。中間分解生成物DHPYは、ALAとのpH依存平衡で存在する。説明のために、ALAがNaOHによってDHPYに完全に変換された場合、ALAは、溶液の再酸性化後にほぼ完全に回復することができた。より高いpH値はDHPY形成を促進するので、非緩衝ALA水溶液(0.3 gmL-1;pH=1.7)のpH値の低下は、ALA安定性を改善することが期待された。確かに、0.3 gmL-1のALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4:全て1N)に溶解されると、40℃6週間で顕著な劣化は全く見られなかったが、同一の保管条件の純水においては5%のALA劣化が測定された。しかし、最も明らかに、このような強酸性ALA溶液は、臨床的使用に関連性がなく、そのため、安定化のための他の方法が見出される必要がある。さらに、pH調整なしの単純なALA水溶液中における5%ALA分解は、市販の投薬形態として許容されないであろう。」(1339頁右欄下から4行~1340頁左欄21行)
(2)甲第2号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】
25℃で80より小さい誘電率εを有する、非水性液体中に溶解または分散した5-アミノレブリン酸(5-ALA)および/またはその誘導体から選択される作用物質を含有する組成物。」
イ「【0001】
本発明は、非水性液体に溶解または分散した5-アミノレブリン酸および/またはその誘導体を含有する組成物および第1室に非水性5-アミノレブリン酸製剤を有し、第2室に水性担持剤系を有する二重室系に関する。」
ウ「【0007】
5-ALAは分解反応の幅広いスペクトルにもとづく化学的にきわめて不安定な物質である(例えばGranick und Mauzerall、J.Biol.Chem.232(1958)1119-1140、Franck und Stratmann Heterocycles 15(1991)919-323、Jaffe und RajagopALAn Bioorg.Chem.18(1990)381-394、Butler und George Tetrahedron 48(1992)、7879-7886、Novo等、J.PHotochem.PHotobiol.B:Biol、34(1996)143-148、Scott、Biochem.J62(1955)6P、Dalton等、PHarmRes.16(1999)285-295参照)。この分解反応は図1に示される。α-アミノケトンとして5-ALAはダイマーのシッフ塩基(DHPY)を形成し、これは容易に酸化して芳香族化合物PYを生じる。副反応として、ポルホビリノーゲンまたはプソイドポルホビリノーゲンへの反応が生じることがある。すべての分解工程の第1反応段階、図1に示される不安定な中間段階を介したシッフ塩基の形成は強いpH依存性平衡であり、その際例えばpH5より高い、より高いpH値は5-ALA分解を促進する。5-ALAHClの酸性水溶液のみが充分に安定であると示される。しかしpH値の最適化は薬剤として5-ALAを安定化する剤として適してなく、それというのも強い酸性媒体は治療に使用できないからである。
【0008】
5-ALAの不安定性のほかにその際立ったイオン特性が生体利用可能性に関する問題である。5-ALAは生理的に認容されるpH範囲(pH5~8)で両性イオンとして、すなわち解離したカルボキシル基およびプロトン化したアミノ基を有して存在する。知られているように、この種の荷電した物質は膜透過性が悪く、すなわち少ない規模でのみ上皮および細胞膜を通過して運ばれる。従って生体利用可能性が低い。これは、5-ALAが従来の臨床的適用できわめて高い用量で使用しなければならないことを示す。
【0009】
従って本発明の課題は、技術水準から公知の欠点が少なくとも部分的に除去され、特に改良された化学的安定性および改良された膜透過性を有する5-ALAを含有する組成物を提供することである。」
エ「【0012】
本発明により、組成物は5-アミノレブリン酸および/またはその誘導体から選択される作用物質を含有する。誘導体は、特に塩、エステル、錯体および付加化合物であると理解される。作用物質は、特に有利には5-アミノレブリン酸またはその塩またはエステルである。塩およびエステルの有利な例は5-ALAヒドロクロリド、5-ALAスルフェート、5-ALAニトレート、5-ALAホスフェート、5-ALAボラート、5-ALAタンネート、5-ALAラクテート、5-ALAグリコラート、5-ALAスクシネート、5-ALAシトレート、5-ALAタルトレート、5-ALAエンボネート、5-ALAメチラート、5-ALAエチラート、5-ALAプロピオネート、5-ALAブチレート、5-ALAヘキサノエート、5-ALAオクタノエート、5-ALAデカノエート、5-ALAミリステート、5-ALAパルミテート、5-ALAオレエートである。」
オ「【0047】
実施例
1.非水性5-ALA組成物の製造
1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液を製造した。完全に溶解した後に黄色い着色が見出されたが、これは5-ALAから図1に示される分解生成物への分解に帰因しない。従って毛管電気泳動の際にDHPY、PYも、ポルホビリノーゲンも検出できなかった。
【0048】
従って溶液の変色は5-ALAのエノール形の形成に帰因した。これはUV-VIS測定により確認された。グリセリン中でおよび1、2-プロピレングリコール中で447nmで吸収バンドが見出され、これは光学的に認識される黄色の着色の原因であった。このスペクトルの移動は、5-ALAのエノール化に帰因し、これはすでにアルカリ性水溶液中で認められた(Monteiro等、Arch.Biochem.BiopHys.271(1989)206-207)。
【0049】
無水の10%5-ALA溶液に水を1:1の比で添加した場合に、数分以内に溶液の黄色の着色の消失が認められた。これは447nmでの吸光の減少の測定により理解できる(図2)。引き続き水で1:100に希釈した溶液中で5-ALAのUVスペクトルを副生成物の存在なしに観察した。」
カ「【図1】
[図:0001402113000002.jpg]
」
(3)甲第3号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア「酸性の強さは電離定数あるいは電離指数で定義される.電離定数が大きいほど,また電離指数が小さいほど,酸性は強い.表9.1に主要な酸の電離定数と電離指数を示した.」(第160頁20~22行)
イ「表9.1 主な弱酸の電離定数と電離指数(25℃).K1,K2などについては本文参照
[図:0001402113000003.jpg]
」(第161頁)
ウ「これはとくに,硫酸に比べるとかなり弱い酸であるリン酸H3PO4などにはっきり現れている.3価の酸であるリン酸には3段階の電離がある.
[図:0001402113000004.jpg]
」(第162頁8~13行)
エ「(b) 塩
酸,塩基にはそれぞれ対イオンがあり,それらを含めた反応が起こる.典型的な中和反応
HCl + NaOH → H2O +NaCl
酸 塩基 水 塩
では,水のほかに酸の対イオンである塩化物イオンCl-と,塩基の対イオンであるナトリウムイオンNa+から,塩化ナトリウムNaClが生じる.中和反応によって生じたこのような物質を塩(えん)という.水溶液中で反応が進行する限り,ナトリウムイオンと塩化物イオンはそれぞれイオンとして独立に存在していて,塩化ナトリウムになっているわけではない.しかし水分を蒸発させれば,後には塩化ナトリウムが残る.」(第165頁11~20行)
2 乙号証の記載事項
(1)乙第1号証
ア「5-ALAは不安定でフリー体の結晶を得ることができず,塩酸塩とリン酸塩の二つの安定な塩が知られている(表1).」(第529頁左欄6~8行)
イ「表1.ALAの二つの塩とその物性
[図:0001402113000005.jpg]
」(第529頁)
第6 無効理由についての当審の判断
1 当審は、以下に示すとおり、無効理由1-1、1-2、2-1、2-2には、いずれも理由がないものと判断する。
理由は以下のとおりである。
2 無効理由1-1について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、「水溶液中でのALAの分解メカニズムとその安定性の改善」に関する技術論文であって(摘記第5の1(1)ア、イ参照)、摘記第5の1(1)ウの実験部の記載を前提に、水溶液中でのALAの分解メカニズムとその安定性の改善の実験結果が示されたものと理解できる(摘記第5の1(1)エ、オ参照)。
そして、0.3 gmL-1のALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4:全て1N)に溶解されたことが記載されている。そして、「強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4:全て1N)に溶解」との記載は、「強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4(全て1N)の4種の混合溶液)」に溶解することを意味するのではなく、技術常識からみて「HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4(全て1N)のいずれか」に溶解することを意味すると解される。
以上のことから、甲第1号証には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「0.3 gmL-1のALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4(全て1N)のいずれか)に溶解された、溶液。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「5-アミノレブリン酸に関する物」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:本件発明1は、「下記一般式(1)
HOCOCH2CH2COCH2NH2・HOP(O)(OR1)n(OH)2-n (1)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し;nは0~2の整数を示す。)で表される5-アミノレブリン酸リン酸塩」であるのに対して、甲1発明は「0.3 gmL-1の5-ALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4(全て1N)のいずれか)に溶解された、溶液。」である点。
イ 相違点の判断
(ア)本件発明1の塩の技術的意味について
本件発明1は、「一般式(1)
HOCOCH2CH2COCH2NH2・HOP(O)(OR1)n(OH)2-n (1)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し;nは0~2の整数を示す。)で表される5-アミノレブリン酸リン酸塩」という特定化合物のリン酸塩を発明特定事項とするものであるので、まず、塩の技術的意味について検討し、その技術的意味を前提として相違点の判断を行うこととする。
(イ)塩の技術的意味について
a 「塩」とは、用語の意味として、「酸と塩基との中和反応によって生ずる化合物で,酸の陰性成分と塩基の陽性成分とから成るもの.」(化学大辞典1 縮刷版、共立出版株式会社、昭和38年7月1日発行、第1014頁)、「酸の水素原子を金属または他の金属性基で置きかえた化合物の総称。すなわち酸を塩基で中和する時、水とともに生ずるもの。塩化ナトリウム・硫酸アンモニウムの類。」(広辞苑 第5版、株式会社岩波書店、1998年11月11日発行、第310頁)、「中和反応によって生じたこのような物質を塩(えん)という.」(第5の1(3)エの摘記)と記載されるとおり、「酸と塩基との中和反応によって生成する化合物」を意味するのが本件優先日当時の技術常識である。
b 上記aで述べたとおり、本件優先日において、「塩」は化合物を意味することが技術常識であるから、混合物である溶液は塩には該当しないものの、本件発明1における「塩」の技術的意味について、本件特許明細書全体の記載を参照し理解した上、念のため次のように判断するものとする。すなわち、本件特許明細書【0017】における「本発明の5-アミノレブリン酸リン酸塩は、固体でも溶液でもよい。溶液とは、水をはじめとする溶媒に溶解又は分散した状態を示すが、そのpHがpH調整剤等によって調整されたものでもよい。」という記載を参照すると、5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散したものも本件発明1の「5-アミノレブリン酸リン酸塩」に該当すると判断し、以下で検討することとする。
(ウ)甲1発明における「ALA」について
a 甲第1号証は、水溶液中でのALAの分解メカニズムとその安定性を改善する可能性を調べ、ALA及び2つの分解産物の定量に適したキャピラリー電気泳動法を開発することを主題とした論文であり(前記第5の1(1)ア、イ)、実験部では、材料の欄に、5-アミノレブリン酸塩酸塩を、ゾヒナーツ(スイス、ヴィオナ)から購入したことが記載されている(前記第5の1(1)ウ)。さらに、具体的な実験として、「キャピラリー電気泳動(CE)」、「構造解明」及び「安定性試験」を行い(前記第5の1(1)エ)、結果と考察の欄では、「ALA及び分解生成物の分析のためのCE」、「構造解明」、「ALA分解の速度論」及び「種々の潜在的に安定化する化学物質を含む溶液中でのALAの安定性」について検討している(前記第5の1(1)エ、オ)。
b そして、結果と考察の欄において、「より高いpH値はDHPY形成を促進するので、非緩衝ALA水溶液(0.3 gmL-1;pH=1.7)のpH値の低下は、ALA安定性を改善することが期待された。確かに、0.3 gmL-1のALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4:全て1N)に溶解されると、40℃6週間で顕著な劣化は全く見られなかったが、同一の保管条件の純水においては5%のALA劣化が測定された。」との記載(前記第5の1(1)オ)によると、上記第1文でpH値の低下による安定性の改善を予測し、それに続く上記第2文で強酸による安定性の改善を実際に確認していることが理解される。
c 化学技術論文の記載形式として、使用する材料の入手先を前もって実験部に明示し、第三者の実験再現性を担保することが通常である。そして、甲第1号証には、ALAについて、その他に使用した物質に関する記載はない。
したがって、上記第2文の、少なくとも「ALA」が「強酸に溶解された溶液」において、具体的に使用している物質は、「5-アミノレブリン酸」ではなく、「ゾヒナーツ(スイス、ヴィオナ)から購入した5-アミノレブリン酸塩酸塩」であるものと認められる。
d なお、上記「非緩衝ALA水溶液」が、pH=1.7という高「H+」濃度であることは、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」を使用していることと整合し、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」である「ALA塩酸塩」の「pH(1M)」が1.7(前記第5の2(1)ア、イの摘記)であるという乙第1号証の記載とも整合するものである。
(エ)判断
a まず、上記(ア)の本件発明1の5-アミノレブリン酸リン酸塩が上記(イ)aで本件優先日における技術常識として示した、「酸と塩基との中和反応によって生成する化合物」である場合について検討する。
塩が化合物である場合、溶質と溶媒の混合物である甲1発明の溶液とは異なることが明らかである。
b つぎに、上記(イ)bの本件発明1の5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散されたものとした場合について検討する。
まず、甲1発明が記載されている甲第1号証には、(イ)bで述べたとおりの「5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散したもの」であるとの記載は存在しない。
また、この場合においても、本件発明1の塩を技術常識から理解した場合と同様に、本件発明1の技術的意義は、5-アミノレブリン酸リン酸塩を提供した点にあることに変わりないものの、この場合は、5-アミノレブリン酸リン酸塩の提供によって、5-アミノレブリン酸リン酸塩を溶媒に溶解又は分散したものも一形態として含むことを意味していることになる。
一方、甲1発明は、5-アミノレブリン酸の分解を抑制し安定化させるために、原料として「5-アミノレブリン酸塩酸塩」を使用して強酸に溶解させて低pH状態としたものにすぎない。
したがって、両者の発明の技術的意義はそもそも異なっており、甲1発明の分解を抑制し安定化させるために5-アミノレブリン酸塩酸塩を用いたALAを強酸に溶解させて低pH状態にした溶液は、5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散されたものではないし、本件発明1の5-アミノレブリン酸リン酸塩を、溶媒に溶解又は分散したものと同一の状態になっているということを具体的に説明できる証拠も存在しない(甲第3号証(前記第5の1(3)のア~ウ)は、単にリン酸の3段階解離の技術常識が示されるだけである。)。
よって、相違点1は実質的相違点である。
ウ 甲1発明に関する審判請求人の主張の検討
(ア)請求人は、上申書第2の2(1)又は口頭審理陳述要領書第2の2において、主位的主張と称して、甲第1号証に記載された発明として、「0.3 gmL-1のHOCOCH2CH2COCH2NH2である5-ALA(アミノレブリン酸)が強酸(H3PO4)に溶解された、溶液。」が認定できるし、少なくとも予備的主張として「0.3 gmL-1のHOCOCH2CH2COCH2NH2である5-ALA(アミノレブリン酸)が4種類の強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4:全て1N)のいずれかに溶解された、溶液。」が認定できることを主張している。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)で述べたとおり、甲1発明の「ALA」が強酸に溶解された溶液は、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」を原料として使用したものである。
上述のとおり、請求人の主張は、「ALA」が強酸に溶解された溶液が、塩ではないフリー体の「5-アミノレブリン酸」を原料として使用していることを前提として、主位的主張及び予備的主張をしているのであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。
(イ)請求人は、上申書第4の2(1)及び口頭審理陳述要領書第2の3(1)において、5-アミノレブリン酸塩酸塩は、強酸の溶液中では、5-アミノレブリン酸(-NH2を有する)と「H+」を受容した5-アミノレブリン酸(-NH3+を有する)とCl-とそれぞれがイオン結合した状態との平衡状態にあり、この溶液にさらに強酸であるリン酸H3PO4が存在すると、「H+」を受容した5-アミノレブリン酸(-NH3+を有する)とH2PO4-とがイオン結合した状態との平衡状態になり、完全に電離することはなく、「水溶液中にALAとHClとH3PO4が解離して別々に存在」するというのは誤りである旨の主張をしている。
しかしながら、請求人が主張の根拠としている甲第3号証には、酸・塩基の水溶液中における「H+」又は「OH-」との平衡についての記載があるものの、「H+」を受容した5-アミノレブリン酸(-NH3+を有する)とH2PO4-とがイオン結合した状態との平衡状態になり、そのような塩が完全に電離しないことは記載されていない。
また、そのような特定の平衡状態で塩が生成すると認定できる技術的な根拠が不明であるだけでなく、そのように解する証拠も提出されていない。
したがって、上記イ(エ)で検討したとおり、塩が化合物であっても、塩を溶媒に溶解又は分散されたものであっても、『「H+」を受容した5-アミノレブリン酸(-NH3+を有する)とH2PO4-とがイオン結合した状態』である「HOCOCH2CH2COCH2NH2・H3PO4」が存在するとはいえないから、請求人の主張は採用できない。
(3)小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。
よって、請求人の主張する無効理由1-1には理由がなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1-1により無効とすべきものではない。
3 無効理由1-2について
(1)甲第1号証に記載された発明
無効理由1-1に関し、認定したとおりである(前記2(1)参照)。
(2)対比・判断
ア 対比
無効理由1-1で対比したとおりの一致点及び相違点である(前記2(2)ア参照)。
イ 相違点についての容易想到性の検討
前記2(2)イで述べたとおり、甲1発明は、「0.3 gmL-1のALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4(全て1N)のいずれか)に溶解された、溶液」に関する発明であって、「ALA」は、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」を原料として使用したものである。そして、甲第1号証には、当該酸性の溶液から溶媒及び塩化水素の除去により5-アミノレブリン酸リン酸塩を採取することは記載されていないし、前記第5の1(1)アに摘示したように、水溶液中でのALAの分解メカニズムとその安定性を改善する可能性を調べ、ALA及び2つの分解産物の定量に適したキャピラリー電気泳動法を開発したとされることからみて、甲1発明において、5-アミノレブリン酸リン酸塩を採取すること又は該リン酸塩を溶媒に溶解又は分散したものとすることを動機づけられるとはいえない。
そうすると、甲1発明「0.3 gmL-1のALAが強酸(HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4(全て1N)のいずれか)に溶解された、溶液」において、5-アミノレブリン酸リン酸塩又は該リン酸塩を溶媒に溶解又は分散したものを得ることは、甲第1号証の記載ではその手法が不明であるし、更に5-アミノレブリン酸リン酸塩又は該リン酸塩を溶媒に溶解又は分散したものを得る動機付けも存在しないから、当業者が容易に想到することとはいえず、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由1-2には理由がなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1-2により無効とすべきものではない。
4 無効理由2-1について
(1)甲第2号証に記載された発明
ア 前記第5の1(2)ア、イ、オの摘記によると、「非水性液体に溶解または分散した5-アミノレブリン酸および/またはその誘導体を含有する組成物」であることを前提とする発明について、特許請求の範囲の記載に対応する実施例では、「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」が具体的に記載されている。
そうすると、甲第2号証には、実施例に係る発明として、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」(以下、「甲2発明」という。)
イ 甲2発明の認定に関する審判請求人の主張の検討
請求人は、上申書第2の1(2)及び2(2)又は口頭審理陳述要領書第3の1及び3(2)において、前記第5の1(2)エの摘記から、甲第2号証には「5-ALAホスフェート」(5-ALAリン酸塩)が明示され、「有利な例」と記載されているので、その選択は必然的であり、甲2発明として、「5-ALAホスフェート」が認定できる旨主張している。
当該主張について、以下検討する。
a 化合物の発明が刊行物に記載された発明であるというためには、その化合物の製造方法が技術常識である場合を除いて、製造方法を伴って記載されていることが必要である。
b 甲第2号証に記載の「5-ALAホスフェート」は、前記第5の1(2)エの摘記にあるように、特に有利として示された「酸、塩又はエステル」のうちの「塩又はエステル」として23個の多数列挙された物質名の一例であり、実施例においても5-アミノレブリン酸リン酸塩を用いたとの記載はない。
なお、前記第5の1(2)ウ、カによると、「図1に示される不安定な中間段階を介したシッフ塩基の形成は強いpH依存性平衡であり、その際例えばpH5より高い、より高いpH値は5-ALA分解を促進する。5-ALAHClの酸性水溶液のみが充分に安定であると示される。しかしpH値の最適化は薬剤として5-ALAを安定化する剤として適してなく、それというのも強い酸性媒体は治療に使用できないからである。」と記載され、「5-ALAHClの酸性水溶液のみが充分に安定」と記載されるにとどまる。
そして、酸性媒体となる酸との塩に関し、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」である「5-ALAHCl」以外について、背景技術における課題の言及や検討の記載はないし、「5-ALAホスフェート」の製造方法に関する記載もない。
請求人は、「5-ALAホスフェート」の製造方法が技術常識であることの根拠として、上申書第5の5(2)において、甲第1号証に基づいて、「溶液中の5-アミノレブリン酸をリン酸で弱塩基・強酸反応させればリン酸塩が容易に得られることは技術常識である」旨の主張をしているが、原料、製法及び生成物といった具体的に採取するための手法を根拠に基づいて明らかにしておらず、甲第1号証には、「5-ALAホスフェート」の製造方法の記載もないから、「5-ALAホスフェート」の製造方法が技術常識であることの根拠とはならない。
なお、本件特許明細書【0003】には、「5-アミノレブリン酸は塩酸塩としてのみ製造法が知られており」と記載され、本件特許明細書【0034】によると、実施例では、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」を原料とし、強酸性イオン交換樹脂を用いた多段階処理をすることで塩交換がなされ、結果として「5-アミノレブリン酸リン酸塩」を取得していることが記載されている。
以上のことから、甲第2号証には「5-アミノレブリン酸リン酸塩」である「5-ALAホスフェート」の製造法は記載されていなし、本件優先日前において、「5-アミノレブリン酸リン酸塩」を製造することは技術常識とはいえないから、「5-アミノレブリン酸リン酸塩」については、甲第2号証には、「5-アミノレブリン酸リン酸塩」が製造法を伴って記載されているとはいえず、発明として認定することはできない。
そうすると、請求人の甲2発明の認定に関する主張を採用することはできない。
ウ 甲2発明の認定に関する被請求人の主張の検討
被請求人は、上申書第2の2(1)イ又は口頭審理陳述要領書第2の1(1)において、甲第2号証の段落【0012】に記載された5-ALAの塩のうち本件優先日前に製造方法が知られていたのは「5-ALAヒドロクロリド」のみであったことから、その実施例に記載の「5-ALA」は、「5-アミノレブリン酸塩酸塩」である「5-アミノレブリン酸ヒドロクロリド」である旨を主張している。
甲第2号証には、特許請求の範囲の請求項1では、特定の非水媒体中に作用物質を含有する組成物について、当該作用物質が「5-アミノレブリン酸(5-ALA)および/またはその誘導体」であることが特定され(前記第5の1(2)ア)、発明の詳細な説明では、「組成物は5-アミノレブリン酸および/またはその誘導体から選択される作用物質を含有する。誘導体は、特に塩、エステル、錯体および付加化合物であると理解される。」(前記第5の1(2)エ)と記載されていることから、「5-アミノレブリン酸(5-ALA)」自体と「5-アミノレブリン酸(5-ALA)の誘導体」は異なる化合物を意味し、「5-アミノレブリン酸(5-ALA)の塩」は「5-アミノレブリン酸(5-ALA)の誘導体」の1種と解される。
そうすると、甲第2号証の「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」との実施例の記載において、上述のように、「5-ALA」自体と「5-ALAの塩」は区別して記載されている事項であるから、被請求人の主張における、「5-アミノレブリン酸の誘導体」である5-ALAの塩のうち本件優先日前に製造方法が知られていたのが「5-ALAヒドロクロリド」のみであるかどうかは、上記記載とは直接関係がない主張といえる。
また、甲第2号証の上記記載において、「5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」が、「5-アミノレブリン酸」自体ではなく、塩である「5-ALAヒドロクロリド」を用いた「5-ALAヒドロクロリドの10%(質量%/容積%)溶液」であるとする裏付けもない。
したがって、被請求人の主張を採用することはできない。
(2)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「5-ALA」は、「5-アミノレブリン酸」自体を意味するから、両者は、
「5-アミノレブリン酸に関する物」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点2:本件発明1は、「下記一般式(1)
HOCOCH2CH2COCH2NH2・HOP(O)(OR1)n(OH)2-n (1)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し;nは0~2の整数を示す。)で表される5-アミノレブリン酸リン酸塩」であるのに対して、甲2発明は「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」である点。
イ 相違点についての検討
甲2発明は、「1、2-プロピレングリコールおよびグリセリン中の5-ALAの10%(質量%/容積%)溶液」であって、化合物である5-アミノレブリン酸リン酸塩ではないし、そもそも、「H3PO4」等の「HOP(O)(OR1)n(OH)2-n」に該当する化合物又は部分構造を有していない。さらに、甲2発明は、5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散されたものでもない。
したがって、相違点2は実質的相違点である。
(3)小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。
よって、請求人の主張する無効理由2-1には理由がなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2-1により無効とすべきものではない。
5 無効理由2-2について
(1)甲第2号証に記載された発明
無効理由2-1に関し、認定したとおりである(前記4(1)参照)。
(2)対比・判断
ア 対比
無効理由2-1で対比したとおりの一致点及び相違点である(前記4(2)ア参照)。
イ 相違点についての容易想到性の検討
前記4(2)イで述べたとおり、甲2発明は、化合物である5-アミノレブリン酸リン酸塩ではないし、5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散されたものであるともいえない。一方、前記第5の1(2)エの摘記には、「5-ALAホスフェート」が、特に有利として示された「酸、塩又はエステル」のうちの「塩又はエステル」として23個の多数列挙された物質名の一例として記載されているが、上記4の(1)イで示したとおり、本件優先日前において、「5-アミノレブリン酸リン酸塩」は、技術常識を考慮しても当業者がその物を作ることができることが明らかではない。そして、5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散されたものについての製造方法も、甲第2号証に記載されていないし、その製造方法は技術常識でもない。
すなわち、甲第2号証には、形式的物質名として5-アミノレブリン酸リン酸塩が一例として表記されているだけで、当業者が製造できるように記載されていないし、その製造方法が技術常識ではないから、甲2発明を「5-アミノレブリン酸リン酸塩」に変更することは容易ではない。また、それを用いて製造する5-アミノレブリン酸リン酸塩が溶媒に溶解又は分散されたものについても、製造できるようには記載されているとはいえない。
よって、甲2発明の溶液において、「5-アミノレブリン酸」に代えて、「5-ALAホスフェート」を採用し、本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることではない。
そうすると、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由2-2には理由がなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2-2により無効とすべきものではない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明1の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1-1~2~2いずれの理由によっても無効すべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり決定する。
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2021-800078