特許無効審判
2021-800070
キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シート
- 審判番号
- 2021-800070
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2010-211837
- 登録番号
- 5302282
- 請求日
- 2021年08月11日
- 審決日
- 2023年04月25日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】日本カーバイド工業 株式会社
- 【請求人代理人】黒田 健二
- 【請求人代理人】松本 孝
- 【請求人代理人】吉村 誠
- 【被請求人】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
- 【被請求人代理人】根本 浩
- 【被請求人代理人】中野 亮介
- 【被請求人代理人】稲葉 良幸
- 【被請求人代理人】阿部 豊隆
- 【被請求人代理人】伊東 有道
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 川口 聖司
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1113.113-ZAA(G02B) / P1113.121-ZAA(G02B) / P1113.536-ZAA(G02B) / P1113.537-ZAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第134条の2第9項、特許法第123条、特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第3項、特許法第29条、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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上記当事者間の特許第5302282号発明「キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シート」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第5302282号の特許請求の範囲を、令和5年1月26日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4について、訂正することを認める。
特許第5302282号の請求項1~請求項4に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件の概要及び経緯
1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5302282号(以下「本件特許」という。)の請求項1~請求項4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める事案である。
2 本件の経緯
本件特許に係る出願は、平成16年2月26日(優先権主張の日:2003年3月6日 米国、2003年4月1日 米国、2003年4月1日 米国)を国際出願日とする出願である特願2006-508834号の一部を、平成22年9月22日に新たな特許出願としたものであって、その特許登録以後の経緯は次のとおりである。
平成25年 6月28日:特許登録
令和 3年 8月11日:本件審判請求
令和 3年10月12日:手続補正書
令和 4年 1月24日:答弁書
令和 4年 6月13日:審理事項通知書
令和 4年 8月10日:口頭審理陳述要領書(請求人)
令和 4年 8月10日:口頭審理陳述要領書(被請求人)
令和 4年 8月24日:口頭審理期日
令和 4年 9月 7日:上申書(請求人)
令和 4年 9月 7日:上申書(被請求人)
令和 4年 9月21日:上申書(請求人)
令和 4年 9月21日:上申書(被請求人)
令和 4年10月26日:審決の予告
令和 5年 1月26日:訂正請求書
令和 5年 1月26日:上申書(被請求人)
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第5302282号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
(1)本件訂正前後の特許請求の範囲の記載
ア 本件訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
キューブコーナー素子を有する物品であって、少なくともいくつかの該キューブコーナー素子が、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、少なくとも1つのキューブが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である、物品。
【請求項2】
前記キューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記二面角誤差が反復パターンで変化している、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
キューブコーナー素子を有する物品であって、少なくともいくつかの該キューブコーナー素子が、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、少なくとも1つのキューブコーナー素子が1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている、物品。」
イ 本件訂正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である、物品。
【請求項2】
前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1゜未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記二面角誤差が反復パターンで変化している、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている、物品。」
(2)本件訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項〔1~3〕に対しての訂正事項1及び2と、請求項4に対しての訂正事項3からなる。
訂正事項1は、訂正前の請求項1についてされたものであるところ、請求項2及び3は当該請求項を引用するものである。
したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「キューブコーナー素子を有する物品であって、少なくともいくつかの該キューブコーナー素子が、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、少なくとも1つのキューブが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し」と記載されているのを、「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記キューブコーナー素子が、名目上平行~1゜末満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」と記載されているのを、「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1゜未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「キューブコーナー素子を有する物品であって、少なくともいくつかの該キューブコーナー素子が、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、少なくとも1つのキューブコーナー素子が1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し」と記載されているのを、「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し」に訂正する。
3 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である、「物品」が「キューブコーナー素子を有する」ことについて、「キューブコーナー素子」が「複数」であることを具体的に特定して限定し、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である、「少なくともいくつかの該キューブコーナー素子」が、「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有して」いることについて、「前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が、当該形状・構造を有することを具体的に特定して限定し、「基準平面」が「前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味(する)」ことを具体的に特定して限定するものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である、「少なくとも1つのキューブ」が所定の「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有(する)」ことについて、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が、当該所定の二面角誤差を有することを具体的に特定して限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)本件特許の明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)には、次の記載がある。
「再帰反射シートは、キューブコーナー素子の列を有する。」【0023】
「PGキューブコーナー素子とは、(1)基準平面に対して非平行であり;かつ(2)隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である;少なくとも1つの非二面縁を有するキューブコーナー素子を意味する。・・・中略・・・PGキューブコーナー素子の定義に関連する「基準平面」とは、一群の隣接しているキューブコーナー素子・・・中略・・・の近傍の平面(この平面に沿ってキューブコーナー素子・・・中略・・・が配設される)を近似した平面または他の表面を意味する。」【0031】
「表5~8の例示的なキューブコーナー素子の特徴は、3つの二面角誤差(二面角誤差は互いに異なる)を有する・・・中略・・・複数のPGキューブコーナー素子が列内に形成されることである。」【0099】【表5】~【表8】
(イ)上記【0023】及び【0099】の記載からすると、物品が、「複数の」キューブコーナー素子を有するものであること、【0031】の記載からすると、複数のキューブコーナー素子が「隣接して」おり、複数のキューブコーナー素子の「それぞれ」が、「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有(する)」ものであり、「基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味(する)」こと、【0099】及び【表5】~【表8】の記載からすると、複数のキューブコーナー素子の「それぞれ」が、所定の「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差を含む3つの二面角誤差を有(する)」ものであることは、本件明細書等の記載から導き出せるといえる。
したがって、訂正事項1は、当業者によって、特許請求の範囲、本件特許明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らすと、訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項を、概念的により下位の「複数のキューブコーナー素子を有する物品」に限定するものであって、当該物品が有する、隣接する複数のキューブーコーナー素子の「それぞれ」が、訂正前の請求項1の発明特定事項である「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有」し、所定の「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有」するものであることに限定するものである。
また、訂正前の請求項1の発明特定事項である「かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符合において変化しており、」について、一つのキューブコーナー素子における「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差」が「大きさ及び/又は符合において」互いに異なることを意味するものであったところ、訂正事項1により、この意味内容が変更されるものではない。すなわち、「隣接している」「複数の」キューブコーナー素子間で、「二面角誤差が大きさ及び/又は符合において変化」することを意味するものはなく、キューブコーナー素子の「それぞれ」において、「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差が大きさ及び/又は符合において変化」するものであることは、「それぞれ」との記載からみて明らかである。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
以上のとおりであるから、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の発明特定事項である「前記キューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」ことについて、「キューブコーナー素子」が「複数」であることをより具体的に特定して限定したものであり、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、(1)と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないので、特許法第134条の2第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
以上のとおりであるから、訂正事項2は、訂正要件を満たす。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4の発明特定事項である、「物品」が「キューブコーナー素子を有する」ことについて、「キューブコーナー素子」が「複数」であることを具体的に特定して限定し、本件訂正前の請求項4の発明特定事項である、「少なくともいくつかの該キューブコーナー素子」が、「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有して」いることについて、「前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が、当該形状・構造を有することを具体的に特定して限定し、「基準平面」が「前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味(する)」ことを具体的に特定して限定するものである。
また、訂正事項3は、本件訂正前の請求項4の発明特定事項である、「少なくとも1つのキューブコーナー素子」が所定の「3つの二面角誤差を有(する)」ことについて、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が、当該所定の二面角誤差を有することを具体的に特定して限定するものである。
よって、訂正事項3は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)本件明細書等には、次の記載がある。
「再帰反射シートは、キューブコーナー素子の列を有する。」【0023】
「PGキューブコーナー素子とは、(1)基準平面に対して非平行であり;かつ(2)隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である;少なくとも1つの非二面縁を有するキューブコーナー素子を意味する。・・・中略・・・PGキューブコーナー素子の定義に関連する「基準平面」とは、一群の隣接しているキューブコーナー素子・・・中略・・・の近傍の平面(この平面に沿ってキューブコーナー素子・・・中略・・・が配設される)を近似した平面または他の表面を意味する。」【0031】
「表5~8の例示的なキューブコーナー素子の特徴は、3つの二面角誤差(二面角誤差は互いに異なる)を有する・・・中略・・・複数のPGキューブコーナー素子が列内に形成されることである。」【0099】【表5】~【表8】
(イ)上記【0023】及び【0099】の記載からすると、物品が、「複数の」キューブコーナー素子を有するものであること、【0031】の記載からすると、複数のキューブコーナー素子が「隣接して」おり、複数のキューブコーナー素子の「それぞれ」が、「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有(する)」ものであり、「基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味(する)」こと、【0099】及び【表5】~【表8】の記載からすると、複数のキューブコーナー素子の「それぞれ」が、所定の「3つの二面角誤差を有(する)」ものであることは、本件明細書等の記載から導き出せるといえる。
したがって、訂正事項3は、当業者によって、特許請求の範囲、本件特許明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らすと、訂正事項3は、訂正前の請求項4の発明特定事項を、概念的により下位の「複数のキューブコーナー素子を有する物品」に限定するものであって、当該物品が有する、隣接する複数のキューブーコーナー素子の「それぞれ」が、訂正前の請求項4の発明特定事項である「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有」し、所定の「3つの二面角誤差を有」するものであることに限定するものである。
また、訂正前の請求項4の発明特定事項である「該二面角誤差が互いに異なっている」について、一つのキューブコーナー素子における「3つの二面角誤差」が「互いに異なっている」ことを意味するものであったところ、訂正事項3により、この意味内容が変更されるものではない。すなわち、「隣接している」「複数の」キューブコーナー素子間で、「該二面角誤差が互いに異なっている」ことを意味するものはなく、キューブコーナー素子の「それぞれ」において、「3つの二面角誤差」が「互いに異なっている」ものであることは、「それぞれ」との記載からみて明らかである。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合する。
以上のとおりであるから、訂正事項3は、訂正要件を満たす。
なお、全ての請求項に対して特許無効審判が請求されているので、訂正事項1~3に関し、特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定される要件(独立特許要件)は課されない。
(4)訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は適法である。よって、訂正後の請求項1~4について、訂正を認める。
第3 本件特許発明の認定
前記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~請求項4に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明4」という。)は、以下のとおりのものと認められる(下線は訂正箇所である。)。
1 本件特許発明1
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である、物品。」
2 本件特許発明2
「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている、請求項1に記載の物品。」
3 本件特許発明3
「前記二面角誤差が反復パターンで変化している、請求項1に記載の物品。」
4 本件特許発明4
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている、物品。」
第4 請求人の主張の概要
1 請求人が主張する無効理由
(1)無効理由1
本件特許発明1~4に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」という。)を満たしていないから、本件特許は、特許法123条1項4号に該当し、無効とするべきである。
(2)無効理由2
本件特許発明1~4に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)を満たしていないから、本件特許は、特許法123条1項4号に該当し、無効とするべきである。
(3)無効理由3
本件特許発明1~4に係る発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」という。)を満たしていないから、本件特許は、特許法123条1項4号に該当し、無効とするべきである。
(4)無効理由4
本件特許発明1、2及び4は、甲32に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、甲32に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本特許発明1~4に係る特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とするべきである。
(5)無効理由5
本件特許発明1、2及び4は、甲37に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、甲37に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~4に係る特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とするべきである。
(6)無効理由6
本件特許発明1、2及び4は、甲43に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、甲43に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~4に係る特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とするべきである。
(7)無効理由7
本件特許発明1~4は、甲27に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~4に係る特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とするべきである。
2 請求人が提出した証拠方法
甲1:特許第5302282号公報
甲2:山内 和人 外11名、「高精度X線ミラーのための干渉計を
利用した形状計測システムの開発」、精密工学会誌、Vol.69、
No.6、2003年6月、856~860頁
甲3:特開2007-218852号公報
甲4:近藤 余範、「表面形状の計測技術と標準に関する調査研究」、
産総研計量標準報告、Vol.8、No.3、2011年9月、
299頁~310頁
甲5:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の訴状
(令和2年7月22日付け)
甲6:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の原告第1準備
書面(令和2年12月11日付け)
甲7の1:Googleで「“顕微干渉計” zygo」を検索した結果の画面の
1頁目、[online]、[2021年(令和3年)2月18日
検索]、インターネット
甲7の2:Googleで「“顕微干渉計” zygo」を検索した結果の画面の
2頁目、[online]、[2021年(令和3年)2月18日
検索]、インターネット
甲7の3:Googleで「“顕微干渉計” zygo」を検索した結果の画面の
3頁目、[online]、[2021年(令和3年)2月18日
検索]、インターネット
甲8:Googleで「“顕微干渉計”」を検索した結果の画面の7頁目、
[online]、[2021年(令和3年)2月19日検索]、
インターネット
甲9:2020年(令和2年)7月21日付け:Todd A. Ballen、
「Analysis Report-Privileged Communication」及びその翻訳
甲10:2021年(令和3年)2月3日付け:ZYGO社の日本国内
の総販売窓口であるアメテック株式会社の担当者からのメール
甲11:アメテック株式会社のHP、[online]、印刷日:2021年
(令和3年)2月19日、インターネット
<URL: https://www.ametek.co.jp/products/businessunits/
ultraprecisiontechnologies/zygo>
甲12:特開2005-156470号公報
甲13:2021年(令和3年)4月12日付け:請求人従業員による
陳述書
甲14:2021年(令和3年)2月22日付け:請求人従業員による
報告書1
甲15:2021年(令和3年)2月22日付け:長野県工業技術総合
センターによる試験成績書
甲16:本件特許出願の審査過程における、2010年(平成22年)
10月21日付けの被請求人による手続補正書
甲17:本件特許出願の審査過程における、2012年(平成24年)
10月3日付けの拒絶理由通知書
甲18:本件特許出願の審査過程における、2013年(平成25年)
4月5日付けの被請求人による手続補正書
甲19:本件特許出願の審査過程における、2013年(平成25年)
4月5日付けの被請求人による意見書
甲20:コトバンク「平行とは」内の「デジタル大辞泉」の解説の
画面、[online]、印刷日:2021年(令和3年)
2月19日、インターネット
甲21:Googleで「“二面縁”」を検索した結果の画面、[online]、
[2021年(令和3)年2月3日検索]、インターネット
甲22:J-PlatPatで本件特許の原出願日までに「二面縁」が用いら
れている出願を検索した結果の画面、「検索結果一覧(国内
文献)」、[online]、[2021年(令和3年)2月5日
検索]、インターネット
甲23:Googleで「“非二面縁”」を検索した結果の画面、[online]、
[2021年(令和3)年2月5日検索]、インターネット
甲24:J-PlatPatで本件特許の原出願日までに「非二面縁」が用いら
れている出願を検索した結果の画面、「検索結果一覧(国内
文献)」、[online]、[2021年(令和3年)2月5日
検索]、インターネット
甲25:米国特許第6015214号明細書及びその抄訳
甲26:国際公開第00/60385号
甲27:特表2002-541504号公報
甲28:国際公開第2004/081619号並びにその抄訳及び
対応する公表特許公報(特表2006-520019号公報)
甲29:欧州特許出願公開第0844056号明細書
甲30:国際公開第97/04940号
甲31:特表2002-507945号公報
甲32:吹野 正 外2名、「反射器のプリズムについての検討」、
照明学会雑誌、Vol.53、No.6、1969年6月25日、
283頁~286頁
甲33:藤田 宏 編、「理解しやすい代数・幾何」、株式会社
文英堂、1983年1月20日、234~235頁、
238~239頁
甲34:2021年(令和3年)7月14日付け:請求人従業員
による報告書
甲35:増進会指導部 編、「Z会 物理の講義 新課程」、
初版第三版、増進会出版社、1984年7月10日、
10頁~11頁
甲36:2021年(令和3年)7月15日付け:請求人従業員
による報告書
甲37:特開昭49-106839号公報
甲38:特表2002-508085号公報
甲39:特表2002-535692号公報
甲40:特表2000-503417号公報
甲41:特表2002-538485号公報
甲42:特許第2647103号公報
甲43:米国特許第3833285号明細書及びその抄訳
甲44:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の原告第3
準備書面(令和3年5月14日付け)
甲45:Googleで「“干渉計”」を検索した結果の画面の1頁目、
[online]、[2021年(令和3年)7月6日検索]、
インターネット
甲46:Googleで「“干渉計” “zygo”」を検索した結果の画面
の1頁目、[online]、[2021年(令和3年)7月6日
検索]、インターネット
甲47:2021年(令和3年)5月11日付け:
Affidavit of Kenneth L. Smith及びその翻訳
甲48:2021年(令和3年)5月11日付け:
Affidavit of James C. Wyant及びその翻訳
甲49:2021年(令和3年)5月12日付け:
Affidavit of James F. Biegen及びその翻訳
甲50:2021年(令和3年)5月13日付け:
AFFIDAVIT OF JAMES R. LEGER及びその翻訳
甲51:特表2015-520404号公報
甲52:Google ScholarによりJames R. Legerの学術論文を検索した
結果の画面、[online]、[2021年(令和3年)7月7日
検索]、インターネット<URL: https://scholar.google.com/
citations?user=YFy1vVcAAAAJ&hl=en>及びその抄訳
甲53:MSHシステムズ株式会社、「コーナーキューブ」の画面、
[online]、印刷日:2021(令和3年)7月7日、
インターネット
<URL: https://www.msh-systems.com/products/
em-prism-corner-cube/>
甲54:INSTRUCTION MANUAL FOR Siris, WYKO Corporation,
January 1987
甲55:「トワイマン・グリーン干渉計」、機械工学事典、
一般社団法人 日本機械学会、[online]、
印刷日:2021年(令和3年)7月7日、
インターネット
<URL: https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/15:1009331>
甲56:「Weblio 辞書」内の研究社 英和コンピュータ用語辞典
での「artifact」の意味の検索結果の画面、[online]、
印刷日:2021年(令和3年)7月19日、インターネット
甲57:James C. Wyantの講義を録画した動画、[online]、
公開日:2016年(平成28年)8月24日、
インターネット
<URL: https://www.youtube.com/watch?v=fyI2tFShpXY>
甲58:令和3年7月15日付け:請求人代理人弁護士
吉村 誠、動画報告書
甲59:James C. Wyantの講義を録画した動画、[online]、
公開日:平成28年8月24日、インターネット
<URL: https://www.youtube.com/watch?v=Yy6gP-IpFwM>
甲60:ZYGO CORPORATION, Corner Cube, OMP-0384C,
MetroPro Application, 2002年(平成14年)7月
及びその抄訳
甲61:新村 出 編、「広辞苑」の「まじわる【交わる】」の項、
第五版、株式会社岩波書店、1998年11月11日
甲62:松村 明 編、「大辞林」の「まじわる【交わる】」の項、
第二版、株式会社三省堂、1995年11月3日、2426頁
甲63:特表2000-509164号公報
甲64:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の原告第4
準備書面(令和3年5月14日付け)
甲65:経済情報プラットフォーム「Strainer」内の「市光工業の
歴史・創業ストーリー」の頁の画面、[online]、
印刷日:2021年(令和3年)7月8日、
インターネット
<URL: https://strainer.jp/companies/2371/history>
甲66:市光工業株式会社のホームページ内の会社情報「市光の歩み」
の英語頁の画面、[online]、印刷日:2021(令和3年)
7月20日、インターネット
<URL: https://www.ichikoh.com/en/company/history.html>
甲67:2021年(令和3年)7月20日付け:請求人従業員
による報告書
甲68:株式会社ミツトヨ、「明視野用対物レンズ(ガラス厚補正)
G Plan Apo」の商品頁、[online]、印刷日:2022年
(令和4年)8月1日、インターネット
<URL: https://www.mitutoyo.co.jp/products/
sensors-and-devices-incorporated-units/
built-in-optical-instruments/tube-and-objective-lenses-
and-eyepiece/visible-light/378-847/>
甲69:株式会社ミツトヨ、「技術仕様 光学用語(顕微鏡編)」
のウェブサイト、[online]、印刷日:2022年(令和4年)
8月1日、インターネット
<URL: https://www.mitutoyo.co.jp/public/cms-assets/
products/sensors-and-devices-incorporated-units/pdf/
optical-term-microscopes.pdf>
甲70:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の原告技術
説明会資料(令和4年7月15日付け)
甲71:新村 出 編、「広辞苑」の「まじわる【交わる】」の項、
第五版、株式会社岩波書店、1998年11月11日
甲72:松村 明 編、「大辞林」の「まじわる【交わる】」の項、
第二版、株式会社三省堂、1995年11月3日、2426頁
甲73:米国特許第4775219号明細書及びその抄訳
甲74:特表2002-509495号公報
甲75:特表2002-535692号公報
甲76:特表2000-503417号公報
甲77:特表2000-538485号公報
甲78:特表2000-509168号公報
甲79:特開平2-85884号公報
甲80:特表平11-507746号公報
甲81:特表平6-501111号公報
甲82:特表2002-508085号公報
甲83:2021年(令和3年)10月26日付け:請求人従業員
による陳述書
甲84:山本 健太郎、「微小平面の法線方向の測定」、
精密機械 25、1959年7月4日受付、384~389頁
甲85:2020年(令和2年)6月30日付け:被請求人従業員
による「キューブコーナー素子の解析を実施した「日本
カーバイド工業株式会社製ニッカライト再帰反射シート」
について」
甲86:株式会社コベルコ科研技術本部、「昨年3月にお尋ねした
測定案件の再相談」と題する電子メール、2022年
(令和4年)3月24日
甲87:株式会社コベルコ科研、「報告書 コーナーキューブ測定」、
2022年(令和4年)5月11日
甲88:セイコーアイ・テクノリサーチ株式会社、「昨年3月にお尋ね
した案件の再相談」と題する電子メール、2022年
(令和4年)3月24日
甲89:株式会社日東分析センター、「昨年3月にお尋ねした案件の
再相談」と題する電子メール、2022年(令和4年)
3月23日
甲90:日本機械学会 編、「機械工学便覧」、新版9刷、
社団法人 日本機械学会、2001年9月25日、
B2-199頁
甲91:武藤 一夫 著、「図解 よくわかる機械計測」、
初版第1刷、共立出版株式会社、2016年10月25日、
90~91頁
甲92:太田 敏 著、「角度測定器」、日刊工業新聞社、
1963年(昭和38年)1月25日、2頁~9頁
甲93:米国特許第2380447号明細書
第5 被請求人の主張の概要
1 被請求人の答弁
無効理由1~7は理由がないから、本件特許発明1~4についての特許は無効にされるべきものではない。
2 被請求人が提出した証拠方法
乙1の1:一般社団法人日本標識工業会のウェブサイト、[online]、
印刷日:2020年(令和2年)6月10日、
インターネット
<URL: http://www.signs-nsa.jp/index.html>
乙1の2:一般社団法人日本標識工業会、「反射材料」の1~3頁の
ウェブサイト、印刷日:2020年(令和2年)
6月10日、インターネット
<URL: http://www.signs-nsa.jp/pdf/top/
hansya_all.pdf>
乙2:シーシーエス株式会社、「第4回 光の話 再帰(再帰性)
反射」のウェブサイト、[online]、印刷日:2020年
(令和2年)6月10日、インターネット
<URL: https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/
light_color_part2/vol04.html>
乙3:David A. Thomas and J. C. Wyant, “Determination of the
dihedral angle errors of a corner cube from its
Twyman-Green interferogram”, Journal of the Optical
Society of America, Vol. 67, No. 4, April 1977,
p.467-472及びその抄訳
乙4:2021年(令和3年)5月12日付け:
Affidavit of Todd A. Ballen並びにその翻訳及び
添付資料1~2
乙5:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の原告第6
準備書面(令和3年9月30日付け)
乙6:2021年(令和3年)9月27日付け:Todd A. Ballen、
「Analysis Report-Privileged Communication」並びにその
翻訳、添付資料及び添付資料の抄訳
乙7:米国特許第6643024号明細書及びその抄訳
乙8:2021年(令和3年)9月29日付け:横浜市立大学、
データサイエンス学部、教授 越仲 孝文による「鑑定意見書」
並びに別紙1及び別紙2
乙9:特許技術用語委員会編、「特許技術用語集 第3版」、第3版、
2006年8月31日、日刊工業新聞社、
159頁(「配設」の項)
乙10:株式会社ミツトヨの「テクノロジー|技術紹介」のウェブ
サイト、[online]、印刷日:2021年(令和3年)
3月30日、インターネット
<URL:http://www.mitutoyo.co.jp/technology/product/
introduction_03/index.html>
乙11:2022年(令和4年)3月4日付け:横浜市立大学、
データサイエンス学部、教授 越仲 孝文による
「鑑定意見書2」及び別紙
乙12:東京大学教養学部統計学教室 編、「統計学入門」、
初版第42刷、一般財団法人 東京大学出版会、
2020年8月20日、162頁~165頁、
194頁~195頁、233頁~241頁、281頁
乙13:別件侵害訴訟(令和2年(ワ)第18421号)の原告第9
準備書面(令和4年3月4日付け)
第6 無効理由1について
請求人は、本件特許発明1は、(i)「二面角誤差」及び「二面角誤差の大きさが1分~60分」の測定方法及び測定条件が不明であること、(ii)「二面角誤差」と製造上生じる可能性のある形成誤差との区別がつかないこと、(iii)「実質的に平行」が不明確であること、(iv)「非二面縁」の意義が不明であること、(v)「基準平面」が理解不能であり不明確であること、(vi)「1-2二面角」及び「1-3二面角」の意味が不明確であること、(vii)「隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁」がどこを指しているのか不明確であることから、発明が明確であるとはいえないと主張する。また、訂正前の請求項2には、「前記キューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」と記載されていたところ、その意義が不明確であり、本件特許発明3の「前記二面角誤差が反復パターンで変化している」の意義が不明確であることから、発明が明確であるとはいえないと主張する。
1 当合議体の判断
(1)本件特許発明1~4について
ア 事案にかんがみ、まず、(iii)、(iv)、(v)及び(vii)に関し、請求項1の「前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、」との記載(以下「本件前提記載」という。)について検討する。
(ア)本件前提記載においては、それに含まれる「基準平面」、「非二面縁」、「実質的に平行」及び「隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁」の意味が、その文言及び本件出願時の技術常識に照らして直ちに明らかであるとはいえないから、本件前提記載の意味内容や技術的意味の解釈にあたり、本件明細書等の記載を参照する。
本件明細書等の【0031】には、「PGキューブコーナー素子は、基準平面に沿って延在するキューブコーナー素子の構造化表面に関連付けて定義しうる。本出願の目的では、PGキューブコーナー素子とは、(1)基準平面に対して非平行であり;かつ(2)隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である;少なくとも1つの非二面縁を有するキューブコーナー素子を意味する。・・・PGキューブコーナー素子の定義に関連する「基準平面」とは、一群の隣接しているキューブコーナー素子または他の幾何学的構造体の近傍の平面(この平面に沿ってキューブコーナー素子または幾何学的構造体が配設される)を近似した平面または他の表面を意味する。」と記載されており、この記載は、「PGキューブコーナー素子」が本件前提記載と同様に特定されることを示しているといえる。
そうすると、本件前提記載は、請求項1に記載された「キューブコーナー素子」が「PGキューブコーナー素子」であることを特定するものと解される。
(イ)そこで、「PGキューブコーナー素子」が本件明細書等においてどのように説明されているかを検討する。
まず、本件明細書等の【0007】には「直接機械加工法では、平面状基材・・・の表面に一連の溝を形成することにより切頭キューブコーナー素子を有するマスター成形型を形成する。周知の一方法では、3組の平行溝を60度の夾角で互いに交差させてキューブコーナー素子(それぞれ等辺底面三角形を有する)のアレイを形成する・・・。」と記載され、【0009】には「切頭キューブコーナーアレイの隣接しているキューブコーナー素子の底面縁は、典型的には共面上にある。「完全キューブ」または「好適形状(PG)キューブコーナー素子」として記述される他のキューブコーナー素子構造体は、典型的には、共面上にない少なくとも2つの非二面縁を有する。」と記載されている。
これらの記載によれば、PGキューブコーナー素子は、少なくとも2つの「非二面縁」が共面上にないものとして説明されているところ、この説明は、隣接しているキューブコーナー素子の底面縁が典型的には共面上にある「切頭キューブコーナーアレイ」との対比においてなされている。そのため、隣接している切頭キューブコーナー素子の「底面縁」の意味を検討すると、「底面」及び「縁」の文言に照らせば、「底面縁」とは、一の切頭キューブコーナー素子の(それと隣接している切頭キューブコーナー素子との境界にある)「縁」が「底面」にあることを表現していると解するのが自然である。そして、この「縁」は、上記【0007】記載の「3組の平行溝」を互いに交差させて得られた「底面三角形」によって構成されるものと解され、換言すれば、「底面縁」とは、一の切頭キューブコーナー素子の3本の外縁であって、これら3本の外縁は同一平面上に存在している。
次に、「PGキューブコーナー素子」の例は、本件明細書等の【0031】に「3つの反射面が長方形(正方形を有する)、台形、または五角形を有するキューブコーナー素子は、PGキューブコーナー素子の例である。」と記載されていることも踏まえると、図5及び図6に係る物品に含まれるキューブコーナー素子がそれに該当すると解される。すなわち、これらの図面からみて、当該物品においては、第3の溝表面40aと第4の溝表面42bと主要溝面50とによって一のキューブコーナー素子(以下「第1素子」という。)が形成されており、以下同様に、第3の溝表面40bと第4の溝表面42cと主要溝面50とによって、第3の溝表面40cと第4の溝表面42dと主要溝面50とによって、第3の溝表面40dと第4の溝表面42eと主要溝面50とによって、それぞれ一のキューブコーナー素子(以下、それぞれ「第2素子」、「第3素子」及び「第4素子」という。)が形成されているところ、これらの各素子は、いずれも、3つの反射面が2つの台形と1つの五角形からなっているといえるから、当該物品に形成されたキューブコーナー素子はPGキューブコーナー素子である。そして、第2素子についてみると、その外縁として、隣接する第1素子との境界線(つまり、40b及び42bの交線と当該交線を主要溝面50上で略延長した線とからなる折れ線)と、隣接する第3素子との境界線(つまり、42c及び40cの交線と当該交線を主要溝面50上で略延長した線とからなる折れ線)というそれぞれが折れ線からなる2本の外縁を観念することができ、第3素子についても、同様に、それぞれが折れ線からなる2本の外縁を観念できる。このように、第2素子及び第3素子の外縁は、いずれも折れ線からなっているところ、各折れ線は、PGキューブコーナー素子が配設されている平面(図5及び図6でいえば紙面)又はそれと平行な平面とは非平行であって、かつ、同一平面上に存在しないといえるのであり、このことは、図8及び図9からみても明らかである。
(ウ)a 上記(イ)のとおり、PGキューブコーナー素子は、少なくとも2つの「非二面縁」が典型的には共面上にないこと、このようなPGキューブコーナー素子が、隣接しているキューブコーナー素子の「底面縁」が典型的には共面上にある切頭キューブコーナーアレイとの対比において説明されていること、切頭キューブコーナー素子の「底面縁」は3本の外縁であって、これらは同一平面上に存在すること、例示されたPGキューブコーナー素子の外縁は、キューブコーナー素子が配設されている平面又はそれと平行な平面とは同一平面上に存在しないことがいえるのであり、そうであれば、請求項1に記載の「非二面縁」とは、PGキューブコーナー素子の外縁を意味するのであって、より具体的には、一のPGキューブコーナー素子における縁のうち、典型的には、当該素子と隣接する他のPGキューブコーナー素子との境界線として観念される縁(上記(イ)のとおり、折れ線となる。)を意味すると解するのが相当である。
そして、この理解は、本件明細書等の図10a~cの記載、及び、当該図面が引用される【0052】の「アライメント角は、平面図中のキューブの面にほぼ直角な二面縁11(たとえば二面角2-3)からこの図中で反時計回りに測定される。」との記載とも符合する。すなわち、これらの図面及び当該段落に記載された「二面縁」とは、【0074】の「キューブコーナーは、一般に、3つのキューブ面の交線に帰属する3つの二面角を有する」との記載にも照らすと、二面角を形成する二つのキューブ面の交線、つまり、一のPGキューブコーナー素子に含まれる任意の二面によって形成される縁(内縁)に他ならず、そうである以上、「非二面縁」とは、「二面縁」でない縁、つまり、一のPGキューブコーナー素子の縁のうち、内縁以外の縁(外縁)と解されることと符合する。
b 上記aのとおり、「非二面縁」とは、一のPGキューブコーナー素子における縁のうち、典型的には、当該素子と隣接する他のPGキューブコーナー素子との境界線として観念される縁を意味するところ、これを踏まえて、請求項1の隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に「実質的に平行である」の意味についてみると、隣接するPGキューブコーナー素子は「非二面縁」を共有していることになるから、「実質的に平行である」とは「共有する」ことを意味すると、むしろ自然に解される。
加えて、請求項1の「基準平面」の意味についてみると、「前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、」との当該請求項1中の定義に加え、上記のとおり、PGキューブコーナー素子(少なくとも2つの「非二面縁」が典型的には共面上にない)が、切頭キューブコーナーアレイ(隣接しているキューブコーナー素子の「底面縁」が典型的には共面上にある)との対比において説明されていることに照らせば、「基準平面」とは、キューブコーナー素子が、「底面縁」が共面上にある「切頭型」のものではなく、少なくとも2つの「非二面縁」が、共面上にないタイプのもの(PGキューブコーナー素子)であることを判定するために、複数のキューブコーナー素子が配設されている平面として想定される面であることも、当業者は理解できる。
c したがって、請求項1の「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二縁面に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、」については、本件明細書等の記載を考慮すれば、当該複数のキューブコーナー素子が、基準平面に配設された複数の「PGキューブコーナー素子」であることを意味しており、しかも、「PGキューブコーナー素子」がどのようなものであるかについても、当業者が明確に把握できるといえる。
イ 次に、(vi)に関し、請求項1の記載のうち「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、」について検討する。
「二面角誤差」に関し、請求項1には、上記記載に続けて、「二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義」される旨記載されている。
そこで、まず、当該定義中の「キューブコーナー素子の二面角」についてみると、二面角が、一のキューブコーナー素子を構成する3つのキューブ面のうちのうちの2つのキューブ面がなす角を意味することは、その文言、及び、【0074】の「キューブコーナーは、一般に、3つのキューブ面の交線に帰属される3つの二面角を有する」との記載からみて、明らかである。そうすると、「1-2二面角」及び「1-3二面角」とは、一のキューブコーナー素子の「3つのキューブ面」を、「1」、「2」及び「3」と命名した場合の、「1」と「2」のキューブ面がなす角、及び、「1」と「3」のキューブ面がなす角を、それぞれ意味すると解される。
ここで、面の命名法につき、本件明細書等の【0074】には、「1つの命名規約では、図22に示されるように、キューブ二面角1-3は、溝表面82と主要溝面50との交差により形成され、キューブ二面角1-2は、溝表面84と主要溝面50との交差により形成され、そしてキューブ二面角2-3は、溝表面84と溝表面82との交差により形成される。他の選択肢として、第3の面が主要溝面ではなく作用表面12または14である場合、同一の命名規約を利用しうる。」との記載がされているところ、当該「1つの命名規約では」との記載からみて、命名規約は1つに限らないことになる。
しかしながら、本件明細書等に上記段落の記載以外に命名規約についての開示はなく、かえって、【0044】に、「層状体は、好ましくは、実質的に層状体の全長に延在する主要溝面50を有する」と記載されるように、本件明細書等全体にわたり、「主要溝面」が存在することを前提とした記載がされているのであるから、主要溝面を「1」とし、他の溝表面を「2」及び「3」とする、図22に示される命名に定まると解することが自然である。また、本件特許発明1に係る「複数のキューブコーナー素子を有する物品」が、「層状体」でない態様についても、【0116】に、「再帰反射シートの作製方法に関係なく、しかもマスターツールが層状体法または他の方法から誘導されたかに関係なく、本発明に係るシートは、先に記載したように顕微鏡又は干渉計を用いてシートを調べることにより検出することのできる特定のユニークな光学的特徴を有する。」と記載されることからみて、層状体法で作製されたか否かにかわらず、複数のキューブコーナー素子の並ぶ方向との関係で、主要溝面とそれ以外の溝表面に対応する形状を区別することが可能なのであるから、複数のキューブコーナー素子の並ぶ方向の全長に延在する溝を「主要溝面」と定めることができる。
よって、請求項1に記載の「1-2二面角」及び「1-3二面角」は、それぞれ、「溝表面84と主要溝面50との交差により形成される角」及び「溝表面82と主要溝面50との交差により形成される角」であると解される。
そして、上記の「二面角誤差」の定義を併せると、「1-2二面角誤差」及び「1-3二面角誤差」とは、「1-2二面角」及び「1-3二面角」の2つの二面角の90度からの偏差を意味することになる。
したがって、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、」とは、隣接している複数のキューブコーナー素子それぞれについて、「3つのキューブ面の交線に帰属する3つの二面角」のうちの主要溝面を「1」とし、他の溝表面を「2」及び「3」としたときの、「1-2二面角」及び「1-3二面角」の2つの二面角が、90度から偏差を有することを意味すると、当業者であれば明確に把握できる。
ウ さらに、(i)に関し、請求項1の記載のうち、該二面角誤差の大きさが「1分~60分である、」について検討する。
(ア)上記「該二面角誤差」は、「1-2二面角誤差」及び「1-3二面角誤差」を意味しているところ、これらの意味が当業者にとり明確に把握できることは上記イで検討したとおりである。
そして、「該二面角誤差」とは、要するに、面と面とがなす角度に係るものであって、このような角度は、直感的に観念可能なごく基本的な量にすぎないから、該二面角誤差の大きさが「1分~60分である」ことの意味も、当業者が明確に把握できるものである。
(イ)しかも、本件明細書等の記載及び本件出願時の技術常識に照らせば、ある具体的なキューブコーナー素子の「二面角誤差の大きさ」が「1分~60分」の範囲に入るか否かの測定方法を当業者が理解できると認められる。
すなわち、本件明細書等には、「顕微鏡を用いてまたは干渉計で側方溝の二面角もしくは平行度を測定する」(【0043】)こと、「好適な顕微干渉計は、ザイゴ・コーポレーション(Zygo Corporation)(コネチカット州ミドルフィールド(Middlefield,CT))およびビーコ(Veeco)の1部門であるワイコ(Wyko)(アリゾナ州トゥーソン(Tucson,AZ))から商業的に入手可能である。」(【0104】)ことが記載されたうえ、【0116】に「本発明に係るシートは、先に記載したように顕微鏡または干渉計を用いてシートを調べる」ことが記載されている。
そして、甲32の「4.1 角度の測定装置」及び「4.2 角度の測定方法及び結果」に記載されているように、本件出願時において、コーナーキューブ素子の面がなす角度を分単位で測定することは通常行われていたことであったと認められる。また、甲12の段落【0002】及び【0003】の記載からみて、本件出願時において、干渉計には測定対象を拡大するためのレンズが装着されるものであること、測定物の大きさに合わせて、干渉計に対物レンズを装着して測定すること等は、当業者に知られた事項であったと認められる。
このように、本件明細書等には、二面角の大きさを顕微鏡又は干渉計を用いて測定することが記載されているところ、「1分~60分」という微細な角度であっても、その大きさに応じて当業者は適宜の補助手段を用いて測定をすることができるといえるから、当業者は、本件明細書等の記載及び本件出願時の技術常識を考慮して、ある具体的なキューブコーナー素子の「二面角誤差の大きさ」が「1分~60分」の範囲に入るか否かの測定方法を理解できたものである。
(ウ)したがって、請求項1に記載の「二面角誤差の大きさが1分~60分である、」との記載により、ある物が特許発明の技術的範囲に属するか否かが不明となることはない。
エ 最後に、(ii)に関し、本件特許発明1に係る特許請求の範囲には、「二面角誤差」と製造上生じる可能性のある形成誤差との区別に係る発明特定事項はない。この点については、下記2(2)で説示するとおりである。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足する。本件特許発明2~3の請求項1を引用する部分及び本件特許発明4についても同様である。
(2)本件特許発明2について
請求項2の「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」との記載について検討する。
まず、「二面縁」とは、上記(1)ア(ウ)aで検討したとおり、二面角を形成する二つのキューブ面の交線である。
次に、「名目上平行~1°未満非平行」の記載については、その中の「~」の記号の存在から明らかなとおり、「名目上平行」が数値範囲の下限を意味するといえることから、当該記載は、平行か、平行でないとしても1°未満であることを意味すると解釈することができる。
そして、「列」とは、その文言に照らして、図5及び21のように、「複数のキューブコーナー素子」が、列状に並んでいることを意味するといえる。
したがって、「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」とは、「複数のキューブコーナー素子」が列状に並んでいるとともに、当該各「キューブコーナー素子」の対応する二面縁同士が、平行か、平行でないとしても1°未満であることを意味しているといえるから、本件特許発明2について、当業者は明確に把握できる。
以上のとおりであるから、本件特許発明2に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足する。
(3)本件特許発明3について
請求項3の「前記二面角誤差が反復パターンで変化している」との記載について検討する。
請求項3は請求項1を引用するものであるところ、上記記載は、請求項1の「前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有」するとの発明特定事項において、「複数のキューブコーナー素子」のそれぞれが有する「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差」の組合せが、反復されるパターンでもって変化していることを意味すると当業者は明確に把握できる。
以上のとおりであるから、本件特許発明3に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足する。
2 請求人の主張について
(1)二面角誤差の角度の測定方法について
ア 請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(1)ア」(第7頁)において、「本件特許発明に含まれる微細構造(一辺が0.1mm~0.2mm程度の素子)のキューブコーナー素子の二面角誤差の測定方法については、標準的な規格で定められた測定方法は存在せず、また、本件明細書においては、キューブコーナー素子の二面角誤差の測定方法が記載されていない」とし、「「微細構造」のキューブコーナー素子の二面角誤差の測定方法を特に問題としている」旨主張する。
しかしながら、本件明細書等の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、ある具体的なキューブコーナー素子の「二面角誤差の大きさ」が「1分~60分」の範囲に入るか否かの測定方法を当業者が理解できることは、上記1(1)ウ(イ)で説示したとおりである。
イ 請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(1)イ」(第7~11頁)において、「アパーチャコンバータから出射される光束は平行光束であるのに対し、本対物レンズから出射される光束は収束光であって、アパーチャコンバータと対物レンズは異なること」、「測定対象物が小さい場合に用いられるアパーチャコンバータについては、2021年の時点で、一般に市販されているアパーチャコンバータの最大倍率は4倍にすぎない(甲10「1-1」の回答)。そして、4倍のアパーチャコンバータでは、100μm角のキューブコーナー素子を測定することはできない(甲10「2-6」回答)。そのため、アパーチャコンバータを装着したとしても、再帰反射シートのキューブコーナー素子の大きさに合わせて、干渉計で二面角誤差の測定をすることは不可能である。」旨、「図21-1のフィゾー型干渉計の光学系の模式図」にそのまま対物レンズを装着した光学系の模式図を用いて、「参照平面に対物レンズを接続すると、参照平面に平面波を入射するという干渉計による測定の前提が崩れることになる」旨主張する。
しかしながら、上記「一般に市販されているアパーチャコンバータ」とは、甲10に記載のとおり、アメテック社により販売されているものを指すが、一般的にサードパーティ社製(本件の場合はミツトヨ製)のものを用いることは通常行われていることであり、その際に装置に装着できるように適宜設計変更を行うことは通常行われる事項である。
また、上記主張において、「光学系の模式図」に「対物レンズ」をそのまま装着することで、「参照平面に対物レンズを接続すると、参照平面に平面波を入射するという干渉計による測定の前提が崩れることになる」旨主張するが、当業者であれば前提が崩れないように設計することは当然に行う事項である。
したがって、上記主張は採用できない。
ウ 請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(1)ウ」(第12頁)において、「(i)キューブコーナー素子の取り付け平面の精度による誤差・・・中略・・・(viii)位相計算時の丸め誤差等、考えられる誤差があり、これらの誤差について、どのような測定方法や測定条件を採ることで解消されるのかも不明である。」旨主張する(当合議体注:表記の都合上、前記主張中の丸付きの数字を(i)等に置き換えている。以下同様である。)。
しかしながら、測定値の求められる精度に応じ、必要な精度の測定手段で測定することは、当業者の技術常識であり、本件明細書等に許容される誤差の程度が記載されていないからといって、本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確とはならない。
したがって、上記主張は採用できない。
(2)形成誤差について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(2)ア」(第12~13頁)において、「この点、本件についてみると、・・・中略・・・例えば、1-2二面角、1-3二面角及び2-3二面角について、いずれも10.0分(すなわち、大きさが変化していない)の二面角誤差としていた場合、形成誤差により、それぞれの二面角誤差が、1-2二面角については10.1分、1-3二面角については9.9分、2-3二面角については10.0分となった場合、本件特許発明の技術的範囲に含まれることとなる。これは、本件特許発明の外延が不明確であり、形成誤差による二面角誤差が含まれていることによるものである。」旨主張する。
しかしながら、本件特許発明において、「二面角誤差」は、請求項1に明確に定義されている一方、「二面角誤差」と「形成誤差」とを区別することについて、何ら発明特定事項として特定されていない。したがって、当該「二面角誤差」が、意図して形成されたものなのか「形成誤差」であるかにかかわらず、発明特定事項として特定されるとおり「大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分」である点で、その外延は明確であって、ある具体的な物が、「本件特許発明の技術的範囲に含まれる」か否かを明確に判断できるのであるから、この点で、本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載が、不明確であるということにはならない。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)「二面縁」及び「非二面縁」について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(4)ア」(第15~16頁)において、「段落【0052】における「平面図中のキューブの面にほぼ直角」という記載を根拠としても、下図でいえば、周囲の縁である赤線は、緑色の面(キューブの面)対してほぼ直角である。
[図:0001436417000001.jpg]
そうすると、段落【0052】の記載を根拠としても、やはり、当業者は、「二面縁」について、二面の「交線」ではなく、二面の周囲の縁も含むと理解する可能性も十分にある。
また、段落【0074】において、「一般に、3つのキューブ面の交線に帰属される3つの二面角を有する」と記載しているが、「交線」と「二面縁」を区別して用いている以上、3つの交線が全て「二面縁」かも不明である。
・・・中略・・・
次に、・・・中略・・・非二面縁が、二面縁でない縁であることを意味するという根拠は一切ない。」旨主張する。
しかしながら、「二面縁」及び「非二面縁」の記載の意味が上記1(1)ア(ウ)aで説示したとおりであることは、切頭キューブコーナーアレイとの対比も踏まえて、本件明細書等の記載と整合的に導かれたものである。
したがって、上記主張は採用できない。
(4)面の名称について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(6)ア」(第15~19頁)において、「「1-2二面角」及び「1-3二面角」が、3つの二面角のうちの任意の2つであるとすると、本件明細書の段落【0087】の表4において、任意の2つである以上、二面角2-3と記載されている箇所を二面角1-3として、二面角1-3と記載されている箇所を二面角2-3と修正することも可能であるということになる(下記参照)。
[図:0001436417000002.jpg]
」旨主張する。
しかしながら、上記1(1)イで説示したとおり、主要溝面を「1」とし、他の溝面を「2」及び「3」とした場合には、「二面角1-2」及び「二面角1-3」と「二面角2-3」とは、明確に区別できることから、上記主張は採用できない。
(5)「平行」について
ア 請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(7)」(第19~21頁)において、「名目上平行」は範囲を有するようなものではなく、平行そのものなのか又は平行でない何分かの角度なのか不明である。そうすると、本件特許発明2の特許請求の範囲の記載を見た当業者は、完全に平行な場合に、本件特許発明2の技術的範囲なのか理解できない。」と主張する。
しかしながら、請求項2の記載から、「名目上平行」は、平行か、平行でないとしても1°未満の角度を指すものであることは明らかであるから、上記主張にある「完全に平行な場合」は、請求項2の「平行」であるものに該当し、本件特許発明2の技術的範囲に含まれることは明確に理解できる。
イ 次に、請求人は、「「名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁」について、当該二面縁と「名目上平行」又は「非平行」となる対象が、何であるのかが全く不明である。」旨を下記図を挙げて主張する。
[図:0001436417000003.jpg]
[図:0001436417000004.jpg]
しかしながら、上記図の(i)については、本件特許発明2において、あるキューブコーナー素子の二面縁と、当該キューブコーナー素子に隣接するキューブコーナー素子の二面縁が「名目上平行~1°未満非平行」となるように列をなしている場合に該当し、(ii)については、本件特許発明2において、あるキューブコーナー素子の二面縁と、当該キューブコーナー素子を含む列を形成している、任意の位置のキューブコーナー素子の二面縁が「名目上平行~1°未満非平行」となるように列をなしている場合に該当する。図(iii)及び(iv)についても同様である。
以上のように、請求人が提示する図(i)~(iv)は、本件特許発明2の異なる態様であって、いずれも本件特許発明2の技術的範囲に含まれるものであることを、当業者は明確に理解できる。
ウ 上記ア及びイのとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(6)「反復パターン」について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「1(8)」(第21~24頁)において、「表5~8においては、二面角誤差が反復パターンで変化している態様は一切開示されていない。例えば、表5について(下記参照)、二面角1-2は、キューブコーナーの番号1~4に従って、「5.1」、「0.8」、「0.8」、「5.1」となっており、反復していない。同様に、二面角1-3についても、「-7.9」、「-7.9」、「-3.7」、「-3.7」となっており、反復していない。
[図:0001436417000005.jpg]
」等主張する。
しかしながら、「前記二面角誤差が反復パターンで変化している」態様とは、その文言のとおり、1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差の組合せがキューブコーナーの番号に従って反復している態様であることは、具体的な態様の記載がなくとも明確に理解できることである。
したがって、上記主張は採用できない。
第7 無効理由2について
請求人は、(1)「少なくとも1つのキューブ」又は「少なくとも1つのキューブコーナー素子」という発明特定事項、(2)「二面角誤差の大きさが1分~60分である」という発明特定事項、(3)「二面角誤差」という発明特定事項、(4)「物品」という発明特定事項及び(5)「キューブコーナー素子」という発明特定事項が、いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないので、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないと主張する。
1 当合議体の判断
(1)本件特許発明が解決しようとする課題について
ア 本件明細書等の記載
本件明細書等には、本件特許発明の課題に関連する記載として、以下の記載がある。
【0001】
本発明は、キューブコーナー素子を有する層状体、層状体のアセンブリーを有するツール、およびその複製物(とくに再帰反射シート)に関する。
【0002】
再帰反射材料は、材料に入射した光を再方向付けして元の光源の方向に戻す能力により特性付けられる。この特性のおかげで、さまざまな交通安全用途および人的安全用途で再帰反射シートが広く使用されるようになった。再帰反射シートは、乗物や衣類のための再帰反射テープだけでなく、道路標識、防柵、ライセンスプレート、路面標示、標示テープなどのさまざまな物品で一般に利用される。
【0015】
当技術分野では、さまざまな再帰反射設計およびそれらの測定または計算された再帰反射性能が報告されているが、業界としては、新しいキューブコーナー光学設計を有する再帰反射シート、ならびにとくに、改善された性能および/または改善された製造効率に寄与する特徴を有する再帰反射シートの製造方法が有利であろう。
【0025】
好ましい実施形態では、開示された再帰反射シートは、改善された特性を有する。一実施形態では、再帰反射シートは、少なくとも1の均一性指数を呈する。そのような均一性は、2つ以上の方位でタイリングすることなく取得可能である。均一性指数は、好ましくは少なくとも3、より好ましくは少なくとも5である。他の好ましい実施形態では、再帰反射シートは、ASTM D4596-1aに準拠して-4°の照射角および0.5°の観測角で少なくとも375カンデラ/ルクス/m2の0°および90°の方位における平均輝度を呈する好適形状キューブコーナー素子のアレイを有する。好ましくは、シートは、他の観測角においても改善された輝度を呈する。
【0063】
種々の光学設計の全光反射(TLR)の均一性を比較するために、いずれも固定照射角において、0°、45°、および90°の方位における平均TLRを、0°、45°、および90°の方位におけるTLRの範囲(すなわち、これらの角度における最大TLRと最小TLRとの差)で割ることが可能である。照射角は、好ましくは少なくとも30°以上、より好ましくは40°以上である。好ましい設計では、平均TLRとTLR範囲との最大比を呈する。図13および14の前方および後方キャンテッドキューブのそれぞれで、さらには図15~19の種々のティルト度を有する側方キャンテッドキューブで、40°の照射角に対して、この比(すなわち「均一性指数(UI)」)を計算した。表1に関して、側方溝の間隔は、層状体の厚さに等しい(すなわちアスペクト比=1)。計算された均一性指数を以下の表1にまとめる。
【0064】
【表1】
[図:0001436417000006.jpg]
【0065】
均一性指数(UI)=(0°、45°、90°の平均TLR)/(0°、45°、および90°における範囲)
【0066】
均一性指数が1よりも大きい場合、改善された方位均一性が得られる。好ましくは、均一性指数は、3超(たとえば4)、より好ましくは5超(たとえば、6、7、8)である。均一性指数は、キューブ形状(たとえば、キャントの量およびタイプ、キューブのタイプ、平面図中のキューブの形状、アパーチャー内のキューブ峰の位置、キューブ寸法)、照射角、および屈折率のような変動因子の関数として変化するであろう。
【0088】
以上の例(すなわち、図24~26)は、さまざまな半角誤差を有する後方キャンテッドキューブに対するものであった。同様にして、前方キャンテッドキューブが定性的に類似の反射スポット図(すなわち、とくに水平軸および鉛直軸に沿って局所化されたスポットを有する実質的に不均一な反射スポット図)を有することを示すことができる。前方キャンテッドキューブの二面角1-2および二面角1-3もまた、同一の大きさおよび符号を有するので、実質的に反対に変化しない。キューブコーナー型再帰反射シートの使用を考慮すると、局在化された不均一なスポット図(たとえば、図24~26)は一般的には望ましくないことは明らかである。シートは、背景色としてもさらにはいくつかの場合には切抜き文字としても、多種多様な方位で標識上に配置することが可能である。さらに、標識は、典型的には、道路の右側、左側、または上に位置決めすることが可能である。人目を引くために再帰反射シートで標示された乗物の場合、目視者に対する乗物の位置は絶えず変化している。乗物の左右両方のヘッドライトにより再帰反射標的が照明され、運転者の位置は、これらのヘッドライトとはかなり異なる(さまざまな観測角および提示角)。運転者がヘッドライトの真上にくるオートバイのような乗物が一般に使用される。最後に、目視形状を画定している関連角度はすべて、運転者/観測者と再帰反射シートまたは標的との距離と共に変化する。これらの因子をすべて考慮すれば、反射スポットの比較的均一な広がりが再帰反射シートにきわめて望ましいことは明らかである。反対に変化している二面角1-2および二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差を容易に導入できる柔軟性のおかげで、スキュー角および/またはインクリネーション角を利用して比較的均一なスポット反射図を提供することが可能である。
イ 本件特許発明が解決しようとする課題
上記アに示した本件明細書等の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「新しいキューブコーナー光学設計を有する再帰反射シート、ならびにとくに、改善された性能および/または改善された製造効率に寄与する特徴を有する再帰反射シートを提供すること」であって、当該「改善された性能」とは、「再帰反射材料は、材料に入射した光を再方向付けして元の光源の方向に戻す能力により特性付けられる」ところ、「全光反射(TLR)の均一性」を有し、「局在化された不均一なスポット図」ではなく「反射スポットの比較的均一な広がり」を有することであると認められる。
言い換えると、材料に入射した光を再方向付けして元の光源の方向に戻す能力により特性付けられる再帰反射シートにおいて、局在化された不均一なスポット図となるという欠点を解決し、反射スポットが比較的均一に広がり、全光反射(TLR)の均一性を有するという改善された性能の、新しいキューブコーナー光学設計を有する再帰反射シートを提供することである。
(2)発明の詳細な説明により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲について
ア 本件明細書等の記載
本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件特許発明の課題解決に関連する記載として、以下の記載がある。
【0082】
図24の作成に使用したのと同一の誤差で、主要溝半角誤差の関数としての二面角誤差を表3に示す。二面角1-2および二面角1-3は、同一の大きさおよび符号を有するので、反対に変化しないことに留意されたい。
【0083】
【表3】
[図:0001436417000007.jpg]
【0084】
-20、-15、-10、-5、および0分の角度の二面角2-3誤差を有する同一タイプの後方キャンテッドキューブの反射スポット図を図25に示す。この例では、主要溝の半角誤差はゼロ(二面角1-3=二面角1-2=0)であり、スキュー角およびインクリネーション角についても同様である。先に述べたように、側方溝の半角変化を用いて、二面角2-3誤差を生成することが可能である。二面角2-3誤差により、主に水平軸に沿って位置する反射スポットが得られる。
【0085】
図26は、図24~25に対して記載したのと同一タイプの後方キャンテッドキューブで主要溝半角誤差を側方溝の半角変化と組み合わせることにより得られた反射スポット図を示している。この例では、主要溝半角誤差は10分の角度であり、一方、二面角2-3誤差は、層状体上の4つの異なる隣接しているキューブに対して、それぞれ、0、2、4、および6分の角度である。+3分の角度の一定夾角誤差を用いて、表4に示されるような対向半角誤差を有するこれらの側方溝を作製することが可能である。反射スポットは、この場合にも、主に鉛直軸および水平軸に沿って位置し、二面角2-3に対する値がゼロでないことに基づいて水平平面内にいくらかの広がりを有する。全体的に、反射スポット図は局所化されて不均一である。
【0086】
図26の作成に使用した誤差で、主要溝半角誤差の関数としての二面角誤差を表4に示す。二面角1-2および二面角1-3は、同一の大きさおよび符号を有するので、反対に変化しない(すなわち、実質的に反対に変化していることはない)ことに留意されたい。所与のキューブコーナーが2つの隣接している側方溝および好ましくは主要溝表面により形成されることに留意されたい。図22中の上側側方溝は二面角1-3を形成し、一方、下側側方溝は二面角1-2を形成する。上側および下側側方溝の交差は二面角2-3を形成する。側方溝夾角は、隣接しているキューブを形成する溝の上側および下側半角誤差の合計である(たとえば、表4に関して、全夾角は+3分の角度であり、第1のキューブの上側半角に隣接しているキューブの下側半角を加えることにより得られる)。
【0087】
【表4】
[図:0001436417000008.jpg]
【0089】
図27は、図24~26で使用したのと同一の後方キャンテッドキューブを有する単一層状体でインクリネーション角だけ変化させて得られる反射スポット図を示している。側方溝の半角誤差は、各サイドで+1.5分の角度であり(二面角2-3および側方溝の角度誤差は+3分の角度である)、主要溝誤差は、ゼロである。スキュー角は、この例では+7分の角度で一定である。インクリネーション角は、4つの溝ごとに反復パターンで変化している(すなわち、2つの溝で+5分の角度、次に、2つの溝で-1分の角度)。スポットパターンは、図24~26と比較して半径方向(観測方向)にも円周方向(表示方向)にもかなり均一に分布している。
【0091】
【表5】
[図:0001436417000009.jpg]
【0092】
図28は、スキュー角がすべての側方溝に対して+7分の角度の代わりに-7分の角度である以外は図27のときと同一の形状から得られる反射スポット図を示している。スポット図は、この場合にも、図24~26と比較して均一に分布し、さらに図27に示されるスポット図と相補的である。さまざまなインクリネーション角を有するこの例の二面角誤差を表6に示す。この場合にも、二面角1-2および二面角1-3が反対に変化し、大きさおよび/または符号の両方が異なることに留意されたい。スキュー角の符号の変化により、表5と比較して、二面角1-2および1-3の大きさおよび符号が切り換った。
【0093】
【表6】
[図:0001436417000010.jpg]
【0094】
2つの以上の例の正のスキュー角および負のスキュー角を組み合わせることが可能であり、これにより図29のスポット図が得られる。この組合せは、+7分の角度のスキュー角を持たせて層状体の半分を機械加工し、-7分の角度のスキュー角を持たせて残りの半分を機械加工することにより、達成しうる。他の選択肢として、正のスキュー角および負のスキュー角を各層状体内で組み合わせれば、所与の層状体内でスキュー角とインクリネーション角の両方を同時に変化させることが可能になる。後者の場合、正のスキュー角領域と負のスキュー角領域との境界に位置決めされたキューブから少数の他の反射スポットが得られるであろう。スポット図は、図27および28のスポット図の組合せから得られるので、図24~26と比較してとくに均一に分布する。表5および6に示される二面角誤差の組合せは、このスポット図に関連付けられ、二面角1-2および二面角1-3は、対立して大きさおよび符号が変化している。
【0095】
図30は、7.47°前方キャンティングされたキューブであること以外は図29のときと同一の半角誤差、スキュー角、およびインクリネーション角を示す。スポット図は、同様に均一に分布するが、図29の後方キャンテッドスポット図とわずかに異なる。このスポット図に関連付けられる二面角誤差を表7にまとめる。この場合にも、二面角1-2および二面角1-3は、反対に変化し、二面角1-2および二面角1-3の大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる。
【0096】
【表7】
[図:0001436417000011.jpg]
【0097】
均一に分布したスポット図を提供すべく、同一のスキュー角およびインクリネーション角の組合せを側方キャンテッドキューブコーナーと組み合わせて有利に利用することも可能である。側方キャンテッドキューブは、先に論述したように、同一の列内に2つの異なるキューブ方位を有する。好ましくは、種々の照射角と方位角との組合せで均一な性能を得るために、所与の列内の両方のタイプのキューブ(たとえば、アルファ(α)およびベータ(β))に等しくスキュー角および/またはインクリネーション角の組合せを適用するように注意すべきである。スキュー角およびインクリネーション角を利用する6.03°側方キャンティングされたキューブの反射スポット図(図6、アライメント角90°または270°)を図31に示す。+7および-7分の角度のスキュー角と-1および5分の角度のインクリネーション角との同一の組合せを、アルファ(α)およびベータ(β)キューブの両方に等しく適用した。側方溝の半角誤差は、各サイドで+1.5分の角度であり(二面角2-3および側方溝の角度誤差は+3分の角度である)、主要溝誤差は、ゼロである。スポット図は、観測角および提示角に関して非常に均一に分布する。このスポット図に関連付けられる二面角誤差を表8にまとめる。この場合にも、二面角1-2および二面角1-3は、反対に変化し、二面角1-2および二面角1-3の大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる。
【0098】
【表8】
[図:0001436417000012.jpg]
【0124】
実施例1Aおよび1B
先に引用した2003年3月6日出願の米国特許出願第10/383039号明細書に記載されているように、個別層状体中に溝を形成し、個別層状体を集成し、そして微細構造化表面を複製した。米国特許出願第10/383039号は、本出願が優先権を請求する仮特許出願特許出願第60/452464号と同時に出願された。機械加工された層状体はすべて、図6および7に示された形状を有し、側方溝の半角誤差、スキュー角、およびインクリネーション角の変化に基づくわずかな変化を有していた。層状体厚さは0.0075インチ(0.1905mm)であり、側方溝間隔は、直前に記載のわずかな変化を除いて0.005625インチ(0.1428mm)であった。8つのキューブの反復パターンを各層状体上に逐次的に形成した。以下に記載の表10~14に示されるように、側方溝の半角誤差、スキュー角、およびインクリネーション角を変化させることにより、このキューブ反復パターンを形成した。表中の各列は、個別側方溝の機械加工時に使用したパラメーターを規定している。図22に規定されているキューブコーナー二面角誤差は、各キューブを形成する主要溝表面と交差する2つの隣接している側方溝により形成される。したがって、二面角誤差を画定している列は、それらの隣接している側方溝を明確にすべく、表中で位置をずらして配置されている。
【0140】
実施例1Aのシートは2.0°以内の観測角における全光反射に対して測定された均一性指数が2.04であることが判明した。
【0142】
【表10】
[図:0001436417000013.jpg]
【0143】
【表11】
[図:0001436417000014.jpg]
【0144】
【表12】
[図:0001436417000015.jpg]
【0145】
【表13】
[図:0001436417000016.jpg]
【0146】
【表14】
[図:0001436417000017.jpg]
【図24】
[図:0001436417000018.jpg]
【図25】
[図:0001436417000019.jpg]
【図26】
[図:0001436417000020.jpg]
【図27】
[図:0001436417000021.jpg]
【図28】
[図:0001436417000022.jpg]
【図29】
[図:0001436417000023.jpg]
【図30】
[図:0001436417000024.jpg]
【図31】
[図:0001436417000025.jpg]
イ 課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲
上記アで摘記したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明には、【0091】の表5に示される二面角誤差を有するものについて、「スポットパターンは、図24~26と比較して半径方向(観測方向)にも円周方向(表示方向)にもかなり均一に分布している。」こと(【0089】、図27)、【0093】の表6に示される二面角誤差を有するものについて、「スポット図は、この場合にも、図24~26と比較して均一に分布し、さらに図27に示されるスポット図と相補的である。・・・中略・・・この場合にも、二面角1-2および二面角1-3が反対に変化し、大きさおよび/または符号の両方が異なることに留意されたい。」こと(【0092】、図28)、これら表5および6に示される二面角誤差の組合せたものについて、「図27および28のスポット図の組合せから得られるので、図24~26と比較してとくに均一に分布する。表5および6に示される二面角誤差の組合せは、このスポット図に関連付けられ、二面角1-2および二面角1-3は、対立して大きさおよび符号が変化している。」こと(【0094】、図29)、【0096】の表7に示される二面角誤差を有するものについて、「スポット図は、同様に均一に分布する・・・中略・・・この場合にも、二面角1-2および二面角1-3は、反対に変化し、二面角1-2および二面角1-3の大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる。」こと(【0095】、図30)、【0098】の表8に示される二面角誤差を有するものについて、「スポット図は、観測角および提示角に関して非常に均一に分布する。・・・中略・・・この場合にも、二面角1-2および二面角1-3は、反対に変化し、二面角1-2および二面角1-3の大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる。」こと(【0097】、図31)が、それぞれ記載され、再帰反射シートにおける均一性指数の改善に係るメカニズムが説明されたうえで、実施例には、表10~表14に示されるとおり、「1分~60分の角度の二面角誤差」を有し、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差」が「大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる」再帰反射シートを具体的に製造し、これらについて、均一性指数を測定した結果、全光反射に対して測定された均一性指数が改善されたスポット反射図が得られることが示されている。
他方、「主要溝の半角誤差はゼロ(二面角1-3=二面角1-2=0)」のものについて「主に水平軸に沿って位置する反射スポットが得られる。」こと(【0084】、図25)、「二面角1-2および二面角1-3は、同一の大きさおよび符号を有する」ものについて、図24、図26に示される結果が得られたこと(【0085】、【0086】)、「キューブコーナー型再帰反射シートの使用を考慮すると、局在化された不均一なスポット図(たとえば、図24~26)は一般的には望ましくないことは明らかである。」(【0088】)ことが記載されるように、二面角1-2誤差及び二面角1-3誤差が大きさ及び/又は符号において変化していないキューブコーナー素子による反射光のスポット図は不均一で望ましくないことが記載されている。
すなわち、1つのキューブコーナー素子では、その3つのキューブ面により、6つまでの異なる反射スポットに入射光線が分割されることが知られているところ、二面角1-2誤差および二面角1-3誤差が、同一の大きさおよび符号を有し、二面角2-3誤差がゼロであるキューブコーナー素子では、図24に示されるように、入射光線が4つの反射スポットに分割され、二面角1-3誤差および二面角1-2誤差がゼロであるキューブコーナー素子では、図25に示されるように、入射光線が2つの反射スポットに分割され、二面角1-2誤差および二面角1-3誤差が、同一の大きさおよび符号を有し、二面角2-3誤差がゼロでないものについては、図26に示されるように、入射光線が6つの反射スポットに分割されるものの周方向に局在することが示されているといえる。
そうすると、発明の詳細な説明には、「1分~60分の角度の二面角誤差」を有し、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差」が「大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる」ことにより、反射スポットが比較的均一に広がり、全光反射に対して測定された均一性指数が改善されたスポット反射図が得られることが、実施例と比較例の対比をもって示されているといえる。
ウ サポート要件の適合性
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。
これを本件についてみると、上記イに示したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載から、「1分~60分の角度の二面角誤差」を有し、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差」が「大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる」ことで、上記アに示した本件特許発明の課題を解決できると当業者は認識し得る。
そして、本件特許請求の範囲においては、「複数のキューブコーナー素子を有する」ことがより具体的に特定されているのであり、訂正前の「少なくとも1つのキューブ」が、「1分~60分の角度の二面角誤差」を有し、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差」が「大きさおよび/または符号が異なる」ものにおいてさえ、本件特許発明の課題を解決し得るのであるから、かかるキューブコーナー素子を「複数」「隣接して」有するものに限定されたものについてはなおのこと、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではない。
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。
2 請求人の主張について
(1)訂正前の「少なくとも1つのキューブ」及び「少なくとも1つのキューブコーナー素子」という発明特定事項について
請求人は、「本件特許発明1においては、約8万個~21万個ものキューブコーナー素子がある場合においてすら、1つのキューブが「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度からの偏差として定義され、かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符合において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」との発明特定事項が定められている。そうすると、約8万個~21万個あるキューブコーナー素子のうち、わずか1個のキューブコーナー素子のみが、当該発明特定事項を備えていた場合に完成品の発散プロファイルを改善し、反射スポットが均一に広がるという課題を解決することは、本件明細書に記載も示唆もされていない。」と主張する。
この点、1つのキューブコーナー素子に着目すると、発明の詳細な説明の記載によれば、「1分~60分の角度の二面角誤差」を有し、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差」が「大きさおよび/または符号が異なる少なくとも1つのキューブが含まれる」ことで、反射スポットの入射光線が6つに分割され、周方向への局在が防止されること、すなわち「改善された性能」に係る本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるよう記載されていることは上記1(2)ウのとおりである。
さらに、本件明細書等には、「3つのキューブ二面角誤差が規定されれば、光線ビームを中心とする円周方向の位置だけでなく光線ビームからの反射スポットの半径方向の広がりをも計算することが可能である」(【0080】)ことが記載されているのであるから、当該特定のキューブコーナー素子が物品に含まれる数については、物品、典型的には再帰反射シートの用途に応じて、上記の課題が解決できるように適宜設定されるべきものである。
そして、本件特許請求の範囲の記載においては、訂正前の「少なくとも1つのキューブ」及び「少なくとも1つのキューブコーナー素子」という発明特定事項は、両者ともに「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」という発明特定事項に訂正されており、「複数のキューブコーナー素子」のそれぞれが、「1分~60分の角度の二面角誤差」を有し、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差」が「大きさおよび/または符号が異なる」ものであって、これにより、「改善された性能」に係る本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるよう記載されているのであるから、かかるキューブコーナー素子を「複数」、「隣接して」有することを発明特定事項として含む特許請求の範囲に記載された発明が、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるよう記載されていることは明らかである。
したがって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているともいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。
(2)「二面角誤差の大きさが1分~60分である」という発明特定事項について
請求人は、「本件特許発明は、「二面角誤差の大きさが1分~60分」という発明特定事項を備えるものであるところ、本件明細書の実施例においては、二面角誤差の絶対値が最大であるのは「-19.8」分である(段落【0144】表12)。そうすると、二面角誤差の絶対値が19.8分を超えた場合にも、「完成品の発散プロファイルを改善」し、反射スポットが均一に広がるという課題を解決できるということは、本件明細書に記載も示唆もされていない。」と主張する。
しかしながら、「二面角誤差」が大きくなれば、反射光の広がりはより大きくなることは当業者が光の反射の原理から当然に理解することができ、実施例に示される「二面角誤差」の絶対値が最大で「19.8分」であるからといって、当該値を超えた場合に、本件特許発明が、課題が解決できると当業者が認識できるとはいえないものを含むことにはならない。
この点、請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「2(2)」(第25頁)において、「反射光が広がるとしても、「均一なスポット反射図」という課題とは必ずしも関係しない。すなわち、反射光が広がった場合、当然に「均一なスポット反射図」となるものではない(下図参照)。
[図:0001436417000026.jpg]
実際、光が広がっているが、分布が均一ではないこともあり得るし、逆に光は広がっていないが分布が均一であることもあり得る。」と主張する。
しかしながら、本件明細書等の【0080】に記載されるとおり、3つのキューブ二面角誤差が規定されれば、光線ビームを中心とする円周方向の位置だけでなく光線ビームからの反射スポットの半径方向の広がりも計算することは可能である。本件特許発明の課題は、物品、典型的には、再帰反射シートについての「改善された性能」を達成するものであるところ、本件明細書等の発明の詳細な説明には、「二面角1-2及び二面角1-3」の「二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」という構成を採用することにより、「キューブコーナー素子」により反射される入射光線が、局在した2つ、4つ、及び6つの反射スポットに分割されるのではなく、不規則な形状の6つの反射スポットに分割され、これらのキューブコーナー素子の複数の組み合わせにより、全体として反射スポットが均一に広がることが実施例及び比較例の対比をもって示されている。そうすると、キューブコーナー素子を複数組み合わせるに当たっては、円周方向の位置及び半径方向の広がりを計算し、再帰反射シートにおいて、スポットが局在化することがないよう、所定の二面角誤差を有するキューブコーナー素子を選択すれば、均一な広がりを示すスポット反射図が得られ、課題を解決できると当業者であれば認識し得る。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)「二面角誤差」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「2(3)」(第26~27頁)において、「しかしながら、「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差」を「1分~60分」の間で、「大きさ及び/又は符号において変化」させるという課題解決手段が提供できるのは、「スキュー角」及び「インクリネーション角」に起因するものであるからである。すなわち、段落【0077】には、「機械加工時にスキュー角および/またはインクリネーション角を組み合わせると、所与の層状体上のキューブコーナー素子の二面角誤差を変化させるうえで有意な柔軟性が提供される」と記載されている。この「柔軟性」の意味については、段落【0088】の「反対に変化している二面角1-2および二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差を容易に導入できる柔軟性のおかげで、スキュー角および/またはインクリネーション角を利用して比較的均一なスポット反射図を提供することが可能である」という記載から、広範囲の角度の二面角誤差を容易に導入できるということを意味していることは明らかである。そうすると、「スキュー角」及び「インクリネーション角」を導入しない場合、「反対に変化している二面角1-2および二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差を容易に導入できる柔軟性」がなく、「均一なスポット反射図を提供する」ことができなくなるのであり、課題が解決できない。」旨主張する。
しかしながら、上記段落【0077】及び【0088】には、「スキュー角および/またはインクリネーション角」を利用する方法は、「二面角1-2および二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差」を「容易に導入」することができる方法として記載されているのであって、「スキュー角および/またはインクリネーション角」を利用しなければ、「二面角1-2および二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差」を導入することができないことを記載しているものではない。
したがって、上記主張は採用できない。
(4)「物品」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「2(4)」(第27頁)において、「しかしながら、段落【0007】には、平面状基材(たとえば金属プレート)の表面に一連の溝を形成するという直接機械加工法の場合には、製造しうるキューブコーナージオメトリータイプの設計柔軟性が低減されるので、結果として、全反射が影響を受けることが記載されている。しかも、【0008】には、上記のとおり、柔軟性のおかげで均一なスポット反射図を提供できることが記載されているところ、平面上基材で柔軟性が低減されるということは、均一なスポット反射図が提供されないということを意味するのであるから、本件特許発明の課題が解決できないことが明らかである。このように、本件明細書の記載からすれば、平面状基材を用いる直接機械加工法では、設計の柔軟性が低減されてしまうのに対し、層状体を利用することで、二面角誤差を変化させるうえで有意な柔軟性が提供されるという本件特許発明の課題が解決されるのである。
したがって、当業者は、層状体以外を用いる場合には、本件特許発明の課題が解決可能であると認識できないのであり、本件特許発明の課題は、「キューブコーナー素子を有する層状体、層状体のアセンブリーを有するツール、及びその複生物(特に再帰反射シート)」でなければ解決することができないのである。」と主張する。
しかしながら、本件特許発明は「物品」に係る物の発明であり製造方法の発明ではない。そして、上記1(2)イで説示したとおり、本件特許発明の課題解決手段は、キューブコーナー素子の反射面の間の角度誤差とその変化によって決まるものであるところ、本件特許の発明の詳細な説明は、そのようなキューブコーナー素子を有する物品の一つの態様として、層状体とその製造方法が発明の詳細な説明に記載されたものである。
してみれば、層状体以外を用いる場合においても、本件特許発明1において規定される「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」キューブコーナー素子を複数有する物品であれば、本件特許発明の課題が解決できると当業者であれば認識できる。
したがって、上記主張は採用できない。
(5)「キューブコーナー素子」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「2(5)」(第28頁)において、「しかしながら、本件明細書の記載からは、当業者は、六角形完全キューブコーナー素子の場合に、完成品の発散プロファイルを改善すること、キューブコーナー素子の二面角誤差を変化させるうえで有意な柔軟性が提供されることという、本件特許発明の課題がどのように解決されるのか理解できない」旨主張する。
しかしながら、本件特許発明における課題解決手段は、「少なくとも1つの」キューブコーナー素子において、「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差」が「1分~60分」の間で、「大きさ及び/又は符号において変化」していることにあり、キューブコーナー素子の各反射面のなす角度が定まれば、反射光の方向は光学的な計算から一義的に定まるものである。そして、このことは、平面視で四角形であるか六角形であるかにかかわらず、3つの面の反射面からなるキューブコーナー素子において、同様の作用機序であることは光学的に明らかな事項である。そうすると、平面視で「四角形」のキューブコーナー素子の場合について記載されていれば、平面視で「六角形」のキューブコーナー素子でも同様に、本件特許発明の課題が解決できることを、当業者であれば認識できる。
したがって、上記主張は採用できない。
第8 無効理由3について
請求人は、本件特許発明は、(1)「複数のキューブコーナー素子」という発明特定事項、(2)「二面角誤差の大きさが1分~60分である」という発明特定事項、(3)「二面角誤差」という発明特定事項、(4)「物品」という発明特定事項、(5)「キューブコーナー素子」という発明特定事項及び(6)「二面角誤差」の測定方法について、当業者が実施できる程度に本件特許明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、本件特許発明2の「キューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」ことについて、本件特許発明を実施するための明確でかつ十分な事項を開示していないから、特許法36条4項1号の規定を満たしていない旨主張する。
1 当合議体の判断
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の記載がある。また、上記「第5」「1(2)」において摘記したとおり、本件明細書等の【実施例】には、本件特許発明1に係る発明特定事項を備えたキューブコーナー素子が記載されている。
【0100】
層状体を機械加工し、層状体を複数有するマスターツールを形成する方法は、米国特許第6,257,860号明細書(ルトレル(Lutrell)ら)に記載されているように公知である。側方溝がスキュー角および/またはインクリネーション角を実質的に含まない実施形態では、側方溝は、米国特許第6,257,860号明細書(ルトレル(Lutrell)ら)および米国特許第6,159,407号明細書(クリンケ(Krinke)ら)に記載されているように複数のスタックド層状体として形成可能である。
【0101】
したがって、1つまたは複数の層状体を提供し、層状体の作用表面16上にV字形溝を形成することにより、層状体を機械加工する方法が本明細書にさらに記載されている。ここで、先に記載した特徴のいずれか1つまたは組合せを有する溝が形成される。
【0102】
一般的には、層状体(単数または複数)は、縁上に直接機械加工された溝を形成するのに好適な任意の基材を有しうる。好適な基材は、バリ生成を伴うことなくクリーンに機械加工され、低い延性および低い粒状性を呈し、そして溝形成後に寸法確度を保持する。さまざまな機械加工可能なプラスチックまたは金属を利用しうる。好適なプラスチックは、熱可塑性材料または熱硬化性材料、たとえば、アクリルまたは他の材料を含む。機械加工可能な金属としては、アルミニウム、黄銅、銅、無電解ニッケル、およびそれらの合金が挙げられる。好ましい金属としては、非鉄金属が挙げられる。好適な層状体材料は、たとえば、圧延、キャスティング、化学堆積、電気堆積、または鍛造により、シートの形態に形成可能である。好ましい機械加工材料は、典型的には、溝の形成時のカッティングツールの摩耗を最小限に抑えるように選択される。
【0103】
使用に好適なダイヤモンドツールは、ケイ・アンド・ワイ・ダイヤモンド(K&Y Diamond)(ニューヨーク州ムーアーズ(Mooers,NY))またはチャードン・ツール(Chardon Tool)(オハイオ州チャードン(Chardon,OH))から購入することのできるダイヤモンドツールのように高品質である。とくに、好適なダイヤモンドツールは、先端から10ミル以内がスクラッチフリーである。これは、2000倍の白色光顕微鏡を用いて評価できる。典型的には、ダイヤモンドの先端は、約0.00003インチ(0.000762mm)~約0.00005インチ(0.001270mm)の範囲内のサイズのフラット部分を有する。さらに、好適なダイヤモンドツールの表面仕上げは、好ましくは約3nm未満の粗さ平均および約10nm未満の峰から谷までの粗さを有する。表面仕上げは、機械加工可能な基材にテストカットを形成して、ビーコ(Veeco)の1部門であるワイコ(Wyko)(アリゾナ州トゥーソン(Tucson,AZ)から購入できるような顕微干渉計によりテストカットを評価することにより、評価可能である。
【0104】
V字形溝は、各溝を高精度で形成することのできるダイヤモンドツール機械を用いて形成される。コネチカット州ブリッジポートのムーア・スペシャル・ツール・カンパニー(Moore Special Tool Company,Bridgeport,CT);ニューハンプシャー州キーンのプレシテック(Precitech,Keene,NH);およびペンシルバニア州ピッツバーグのエアロテック・インコーポレーテッド(Aerotech Inc.,Pittsburg,PA)は、そのような目的に好適な機械を製造している。そのような機械は、典型的にはレーザー干渉計位置決めデバイスを含む。好適な精密ロータリーテーブルは、エイエイ・ゲイジ(AA Gage)(ミシガン州スターリング・ハイツ(Sterling Heights,MI))から商業的に入手可能であり;一方、好適な顕微干渉計は、ザイゴ・コーポレーション(Zygo Corporation)(コネチカット州ミドルフィールド(Middlefield,CT))およびビーコ(Veeco)の1部門であるワイコ(Wyko)(アリゾナ州トゥーソン(Tucson,AZ))から商業的に入手可能である。溝間隔および溝深さの精度(すなわち、ポイントツーポイント位置決め)は、好ましくは少なくとも±500nm程度の精度、より好ましくは少なくとも±250nm程度の精度、最も好ましくは少なくとも±100nm程度の精度である。溝角の精度は、カットの長さ(たとえば、層状体の厚さ)にわたり、少なくとも±2分の角度(±0.033度)程度の精度、より好ましくは少なくとも±1分の角度(±0.017度)程度の精度、さらにより好ましくは少なくとも±1/2分の角度(±0.0083度)程度の精度、最も好ましくは少なくとも±1/4分の角度(±0.0042度)程度の精度である。さらに、解像度(すなわち、電流軸位置を検出する溝形成機の能力)は、典型的には精度の少なくとも約10%である。したがって、±100nmの精度では、解像度は少なくとも±10nmである。短い距離(たとえば、約10隣接している平行溝)では、精度は解像度にほぼ等しい。そのような高確度の複数の溝を継続時間にわたり終始一貫して形成するために、プロセス温度は、±0.01℃以内、好ましくは±0.1℃以内に保持される。
(2)発明の詳細な説明の記載内容についての検討
ア 上記(1)に摘記したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件特許発明に係る物品につき、層状体の作用表面16上に、各溝を高精度で形成することのできるダイヤモンドツール機械を用いてV字形溝を形成することにより製造することができることが記載され、実施例には、本件特許発明において特定された二面角誤差を有するキューブコーナー素子を備える再帰反射シートが具体的に開示されている。
また、上記「第5」「1(1)」に摘記したとおり、本件特許発明に係る物品は、「キューブコーナー素子を有する層状体、層状体のアセンブリーを有するツール、およびその複製物(とくに再帰反射シート)に関する」(【0001】)ものであって、「再帰反射シートは、乗物や衣類のための再帰反射テープだけでなく、道路標識、防柵、ライセンスプレート、路面標示、標示テープなどのさまざまな物品で一般に利用される」(【0002】)ものである。
イ 発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号の要件、いわゆる実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載があることが必要である。
そして、特許請求の範囲に記載された発明が、物の発明である場合、物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、当業者が、物の発明について明確に理解でき、その物を作れ、かつ、その物を使用できる程度に具体的な記載が求められる。
しかるところ、上記アのとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件特許発明に係る物品の一般的な製造方法が記載されたうえに、実施例には、当該物品を構成するキューブコーナー素子について具体的な開示があるのだから、その物を作れるように記載されているといえる。そして、そのように製造された物品が、再帰反射シートとして段落【0002】に掲げられる態様で使用されることも明らかであって、すなわち使用できる程度に具体的に記載されているといえる。
したがって、発明の詳細な説明には、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たす。
2 請求人の主張について
(1)「複数のキューブコーナー素子」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「3(1)」(第28~29頁)において、「本件特許発明は、発明特定事項を「二面角誤差の大きさが1分~60分である」というものであるから、キューブコーナー素子の二面角誤差が60分に近いものも含まれる。例えば、1-2二面角誤差が53分、1-3二面角誤差が54分、2-3二面角誤差が55分というキューブコーナー素子も本件特許発明のキューブコーナー素子である。・・・中略・・・当該再帰反射シートに入射した光は、約3度広がって出射する。・・・中略・・・反射光は、光源の約1.5m上に戻ってくることとなる。
・・・中略・・・
このような再帰反射シートは、もはや「再帰反射」とすら言えないものであり、当業者は、当該再帰反射シートを、再帰反射するものとして、実際に使用することはできない。
・・・中略・・・
以上からすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された数値範囲全体についての実施例の開示がなく、かつ、実施例のない部分について実施可能であることが理解できる程度の技術的な説明もないのであるから、実施可能要件に違反する」旨主張する。
しかしながら、再帰反射の観測角は、光源と観測者の位置関係により適宜設計されるものであり、「約3度広がって出射」し、「反射光は、光源の約1.5m上に戻ってくる」再帰反射シートを「再帰反射するものとして、実際に使用することはできない」との主張には根拠がなく、採用することができない。
(2)「二面角誤差の大きさが1分~60分である」という発明特定事項について
「二面角誤差の大きさ」は、例えば上記【0104】に記載されている各溝を高精度で形成することのできるダイヤモンドツール機械を用いて形成されるV字形溝の溝角度を調整することで適宜設計でき、それは、実施例に記載されている19.8分の二面角誤差を製造する際と同様である。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、19.8分を超える二面角誤差を導入することができるように明確かつ十分に記載されたものといえる。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)「二面角誤差」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「3(2)」(第29~30頁)において、「しかしながら、(i)主要溝面を有さない素子や、(ii)二面角誤差がスキュー角やインクリネーション角に起因しない場合に関しては、本件明細書には記載も示唆もされておらず、本件特許発明が包含する上記(i)又は(ii)の場合において、「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差」が「1分~60分」の間で、「大きさ及び/又は符号において変化」しているキューブコーナー素子を作製するには、当業者において過度の試行錯誤を要する」旨主張する。
しかしながら、上記【0104】に記載されるダイヤモンドツール機械を用いて形成されるV字形溝の溝角度により、キューブコーナー素子の二面の角度は適宜設計できるのであるから、「二面角誤差」が主要溝の有無、スキュー角やインクリネーション角に起因するか否かによらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差」が「1分~60分」の間で、「大きさ及び/又は符号において変化」しているキューブコーナー素子を作ることができ、また、【0002】の記載から当該キューブコーナー素子を使用できるといえる。
したがって、上記主張は採用できない。
(4)「物品」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「3(3)」(第30~31頁)において、「本件明細書には、「反対に変化させる」という定義については、・・・中略・・・層状体であることが必須となっている。また、本件明細書には、具体的な実施態様は、全て層状体を用いたものが開示されているのみであり、層状体を用いる場合以外において、特に、直接機械加工法を用いた実施例も記載されていない。
また、・・・中略・・・平面状基材の場合、対向する素子の非二面縁を互いに接触させることはできない。そのため、「隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁」を実施することができない」旨主張する。
しかしながら、本件特許発明は、「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差」が「1分~60分」の間で、「大きさ及び/又は符号において変化」しているキューブコーナー素子を作ることができ、かつ、使用できるように明確かつ十分に記載されていれば足りるのであって、実施形態として層状体を用いた場合以外の記載がないことをもって、本件特許発明に係る発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反しているということはできない。
したがって、上記主張は採用できない。
(5)「キューブコーナー素子」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「3(4)」(第31頁)において、「しかしながら、本件明細書においては、特定形状の四角形の完全キューブコーナー素子しか開示されておらず、他の形状の四角形の完全キューブコーナー素子や六角形完全キューブコーナー素子が開示されていない」旨主張する。
しかしながら、キューブコーナー素子が「四角形」であれ「六角形」であれ、「1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差」が「1分~60分」の間で、「大きさ及び/又は符号において変化」し、キューブコーナー素子の各反射面のなす角度が定まれば、反射光の方向は光学的な計算から一義的に定まるものであって、同様の作用機序に基づくことは光学的に明らかな事項である。
そうすると、「四角形」のキューブコーナー素子の場合について記載されていれば、「六角形」のキューブコーナー素子でも同様に、その物が作れ、かつ、使用できることが認識できるので、この点で、本件特許発明に係る発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するということはできない。
したがって、上記主張は採用できない。
(6)「二面角誤差」の測定方法が不明である点について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「3(5)」(第31~32頁)において、「本件明細書においては、二面角誤差の測定方法が記載されていないし、微小のキューブコーナー素子の二面角誤差の測定について技術常識も存在しない」旨主張する。
しかしながら、上記「第4」「2(1)」で説示したのと同様の理由で、上記主張は採用することができず、この点において、本件特許発明に係る発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反しているということはできない。
(7)「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」という発明特定事項について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「3(6)」(第32頁)において、「「名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁」について、当該二面縁と「名目上平行」又は「非平行」となる対象が、何であるのか全く不明である」旨主張する。
しかしながら、上記「第4」「2(5)」で説示したのと同様の理由により、「複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている」という発明特定事項については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から明確に理解できるので、この点において、本件特許発明に係る発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反しているということはできない。
したがって、上記主張は採用できない。
第9 無効理由4について
1 甲32の記載及び甲32に記載された発明
(1)甲32の記載
甲32には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
「 1.まえがき
自動車の反射装置や道路標識に使用されている反射器(Reflex Reflector)は,コーナキューブと呼ばれる全反射プリズムによって構成されている。・・・中略・・・
2.反射器の構造
・・・中略・・・図1は反射器の構造の一例で,プリズム素子の配列を示したものである。・・・中略・・・
[図:0001436417000027.jpg]
・・・中略・・・実際の反射光は反射器の表面の曲率による屈折,直交してないプリズム反射面などのためある程度広がり,標識としてつごうがよいわけである6)。
3.プリズム内の反射
・・・中略・・・図2に示す
[図:0001436417000028.jpg]
ように反射器のプリズム素子を直角座標で考え,プリズム反射面Sの法線ベクトルをSv(当合議体注:ベクトルである太字の代用表記として、「Sv」や「iv」のように「v」を用いる。以下同じ。)とすると,各面のベクトルは
Svi=liiv+mijv+nikv
Svj=ljiv+mjjv+njkv・・・・・・・・・・・(1)
Svk=lkiv+mkjv+nkkv
で表され、l,m,nは法線の方向余弦である。・・・中略・・・反射面間の角が互いに直角であれば入射光Iviと反射光Rvkは平行で逆向きになるが,二面角が90°より離れ,ある角を有すると反射光と平行にならず,ある角度を持つ,そのときの反射面の法線ベクトルSvは
Sv=Sv0+ΔSv・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
で表わされ,Sv0は理想面の場合のベクトル,ΔSvはそれからの偏差である。図2でSk面についてはSvk=Sv0k+ΔSvkとなり,ΔSvkを反射面の対角線上の方向に分けてδkを法線角の偏差,εkを方向角の偏差とする。
4.プリズムの角度
反射器に用いられるプリズムの角度を考えてみると,もしプリズム素子が1個の場合には,反射面間の角度を設定することも容易であろうが,プリズムが多数集まってできている反射器では,反射器の取付け面などに対する反射面の角度を測定するほうが,反射性能との関連を知るためにもつごうがよい。
図1に示すような取付け面に直角な反射器の中心軸を考える。今,この中心軸に平行な直線と各プリズムの反射面の法線とのなす角を法線角と呼ぶことにする。理想的なプリズムの場合には法線角Δは各面とも等しくなり、Δ=cos-1√3/3で表される。
また,一つのプリズムにおいて,ある反射面の法線を基準としたとき,他の面の法線とのなす各を方向角と呼ぶことにする。理想的なプリズムにおける方向角Eはそれぞれ2/3・πになる。
4.1 角度の測定装置
実際の反射器では法線角,方向角の測定は反射面の面積が4mm2)程度と非常に小さいため,角度ゲージなどによる直接の測定は困難である。そこで顕微鏡光学系を用いた角度測定装置を用いた。
・・・中略・・・
4.2 角度の測定方法および結果
・・・中略・・・図4は1列13個のプリズムの反射面について測定した一例で,法線角と方向角の偏差を示したもので
[図:0001436417000029.jpg]
ある。
・・・中略・・・
5.反射性能とプリズム角度
反射器の要求される性能は確認距離として国内では「道路運送車両の保安基準」に規定されており,JISあるいはアメリカのSAE規格*には反射性能の要求最小値や観測角が定められている。
・・・中略・・・図9はSAE規格に定められている反射器の測光試験方法で,一定光度の光源で反射器を照射し,その反射光を観測点の受光器で
[図:0001436417000030.jpg]
測定する。測光距離は観測角を小さく取る関係もあって,30.48m(100ft)で行う。
・・・中略・・・
以上の結果より,法線角偏差が大きく,方向角偏差が小さいようなプリズムで構成された反射器は,観測角が小さい所での反射光光度が高いが,一方,法線角偏差が小さくても,方向角偏差が分散しているようなプリズムで構成された反射器は,観測角の大きい所での反射光光度が高くなっており,いわゆる中ぼけの配光になる。
6.むすび
・・・中略・・・
反射面の傾きをプリズム角度で表わし,反射器の性能との関連を容易にするため,法線角と方向角という概念を定義した。同じ形状の2種類の金型によって同一条件で作られた反射器のプリズム角度を角度測定装置で測定し角度偏差を求め,SAE規格に基づいて測定した反射性能と比較した結果,プリズム角度との関係は,法線角度偏差が±40′程度にあっても,方向角偏差が±20′以内であれば観測角0.3°において,SAE規格の3~5倍の反射性能が得られビームの狭い反射配光になった。この結果,反射性能はプリズム角度に起因することが明らかになり,プリズムの反射面が必ずしも直交していなくとも,性能の良好な反射器を得られることがわかった。」
(2)甲32に記載された発明
ア 甲32には、「コーナキューブと呼ばれる全反射プリズム」によって構成される「反射器」が記載されている。また、図1の構成から、各プリズムが3つの四角形の反射面からなり、平面視で六角形をなしていることが見て取れる。
イ 甲32の図1から、複数のプリズムが、隣接しているプリズム同士はその外縁を共有していること、すなわち、隣接している外縁に平行である外縁を有していることが見て取れる。
ウ 甲32の図1から、反射器は、取付け面に直角な中心軸を有するとともに、その表面が曲率を有しており、全反射プリズムも曲率を有する面に沿って配置されていることが見て取れる。
エ 甲32の図2及び図4から、各プリズムの反射面における法線ベクトルSvは、Sv=Sv0+ΔSv(Sv0は理想面の場合の法線ベクトル,ΔSvはそれからの偏差)で表され、例えばプリズム反射面Skについて、Svk=Sv0k+ΔSvkとなり,ΔSvkを反射面の対角線上の方向に分けてδkを法線角の偏差,εkを方向角の偏差とするとき、1列13個のプリズムにおける各反射面Si~Skの法線ベクトルSvi~Svkの各偏差δi~δk及びεi~εkが、図4に示されるように、各プリズム毎に0~±30′の範囲で0から偏差した値を有し、かつ各プリズム間で変化していることが見て取れる。
オ 上記ア~エを総合すると、甲32には、「反射器」の発明(以下「甲32発明」という。)として、以下のものが記載されている。
「コーナキューブと呼ばれる、各反射面が四角形であり、平面視で六角形の形状をした複数の全反射プリズムを有する反射器であって、
複数の全反射プリズムが、隣接している全反射プリズムの隣接している外縁に平行である、少なくとも1つの外縁を有しており、
複数の全反射プリズムにおける反射面の法線ベクトルSvは、Sv=Sv0+ΔSv(Sv0は理想面の場合の法線ベクトル,ΔSvはそれからの偏差)で表され、例えばプリズム反射面Skについて、Svk=Sv0k+ΔSvkとなり,ΔSvkを反射面の対角線上の方向に分けてδkを法線角の偏差,εkを方向角の偏差とするとき、偏差δi~δk及びεi~εkが、それぞれ、0~±30′の範囲で0から偏差した値を有しており、
取付け面に直角な中心軸を有するとともに、その表面が曲率を有しており、全反射プリズムも曲率を有する面に沿って配置されている、反射器。」
2 本件特許発明1についての対比及び判断
(1)対比
本件特許発明1と甲32発明とを対比する。
ア キューブコーナー素子及び物品
甲32発明の「全反射プリズム」は、「コーナキューブと呼ばれる、平面視で六角形の形状をした」ものであり、その構成からみて、本件特許発明1の「キューブコーナー素子」に相当する。また、甲32発明の「反射器」が、本件特許発明1の「物品」に相当することは明らかである。
イ 非二面縁
甲32発明の「全反射プリズム」が有する「外縁」は、その構成からみて、本件特許発明1の「非二面縁」に相当し、本件特許発明1の「隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である」という要件を備えている。
(2)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲32発明とを対比すると、一致点及び相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有している、物品。」
イ 相違点
(相違点32-1)
本件特許発明1は、複数のキューブコーナー素子のそれぞれが有する、少なくとも1つの非二面縁が、基準平面に対して非平行であり、ここで、基準平面とは複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味するのに対し、甲32発明は、この点が明らかでない点。
(相違点32-2)
本件特許発明1が、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」のに対し、甲32発明においては、この点が明らかでない点。
(3)判断
ア 相違点32-1について
(ア)本件特許発明1の「基準平面」は、上記「第4 1(1)ア」のとおり、キューブコーナー素子が、「底面縁」が共面上にある「切頭型」のものではなく、少なくとも2つの「非二面縁」が共面上にないタイプのもの(PGキューブコーナー素子)であることを判定するために、キューブコーナー素子が配設されている平面として想定される面である。
これを甲32発明についてみると、甲32発明は、各反射面が四角形でありかつ平面視で六角形の形状をした全反射プリズムからなるものであるから、当該全反射プリズムは「PGキューブコーナー素子」といえるものである。しかしながら、甲32発明では、全反射プリズムが曲率を有する面に沿って配置されていることから、「基準平面」、つまり、切頭型とは異なるタイプであることを判定するためのキューブコーナー素子(甲32発明の「全反射プリズム」)が配設されている「平面」を観念することができず、それが配設されている面として、むしろ「曲面」を観念できるにとどまる。
そうすると、甲32発明において相違点32-1に係る本件特許発明1の構成に至るためには、甲32発明の反射器で観念される上記「曲面」を「平面」に変更することを少なくとも要することになる。しかしながら、甲32には、「実際の反射光は反射器の表面の曲率による屈折・・・のためある程度広がり,標識としてつごうがよいわけである」との記載があることから、甲32発明から出発した当業者が、わざわざ上記「曲面」を「平面」に変更する動機があるとはいえない。
(イ)これに対し、請求人は、甲32発明の反射器の「取付け面」がドーナッツ状の平面であるから、全反射プリズムが配設されているのは「平面」でないことにはならない旨主張する。しかしながら、「基準平面」は、上記のとおり、キューブコーナー素子が、「底面縁」が共面上にある「切頭型」のものではなく、少なくとも2つの「非二面縁」が共面上にないタイプのもの(PGキューブコーナー素子)であることを判定するためのものであることから、甲32発明の反射器に「基準平面」が存在するかどうかは、複数の全反射プリズムが全体としてどのように配設されているかによって判断されるべきであり、よって、「取付け面」がドーナッツ状の平面かどうかは、上記(ア)の説示を左右しない。
また、請求人は、甲32の図9における反射器のプリズムが配設されている面が平面であり、これが「基準平面」である旨主張する。しかしながら、当該図9は、「SAE規格に定められている反射器の測光試験方法」を説明するためのものであるから、この図におけるプリズムが配設されている面が仮に平面であるとしても、それは試験方法を説明するためにサンプルを模式的に表現したにとどまると解されるものであって、そうだとすると、当該記載をもって、甲32発明の上記「曲面」を「平面」に変更する動機があることにはならない。
(ウ)よって、甲32発明及び甲32の記載に基づいて、当業者が相違点32-1に係る本件特許発明1の構成に容易に想到できるとはいえない。
イ 相違点32-2について
(ア)甲32は、「1.まえがき」に記載されるように、「理想的な直交した反射面のプリズムで構成された反射器を仮定」した、さきの検討を踏まえ、「実際の反射器についてプリズムの角度と、反射性能とに関し比較検討した結果」が示されたものである。そして、当該プリズムの角度につき、「取付け面に直角な反射器の中心軸に平行な直線と各プリズムの反射面の法線とのなす角を法線角」と定義し、また、「一つのプリズムにおいて、ある反射面の法線を基準にしたとき、他の面の法線とのなす角を方向角」と定義したうえで、角度測定装置により実際の反射器について、プリズムの法線角、方向角を測定したことが記載され、図4には、1列13個のプリズムの各反射面Si~Skについて測定した結果である、法線角と方向角の偏差が、それぞれ法線角の偏差δi~δk及び方向角の偏差εi~εkとしてグラフに示されている。
ここで、各反射面Si~Skの法線ベクトルSvi~Svkが理想面の法線ベクトルSvOi~Sv0kに一致するとき、各反射面の間のなす角度は90度であること、また、一つのプリズムの各反射面の法線ベクトルSvi~Svkの偏差ΔSvi~ΔSvkは法線角の偏差δi~δkと方向角の偏差εi~εkから求められることは、当業者の技術常識に照らし明らかであるから、図4から読み取れる測定値に基づき、各反射面の法線ベクトルSvi~Svkを算出できることは、当業者にとり明らかである。
そして、図4において、1列13個のプリズムの、どのプリズムに着目した場合についても、偏差δi~δk及びεi~εkが、0~±30の範囲でさまざまな値を有していることは、各プリズムを構成するi、j、k3つの面の法線ベクトルが、それぞれ90°からの偏差を有することに他ならない。
(イ)しかしながら、当該法線ベクトルの90°からの偏差は、あくまで、実際の反射器についての測定値に基づき算出した法線ベクトルについての偏差であるから、「反射器の表面の曲率による屈折」を排除した値であるとはいえない。すなわち、「4.プリズムの角度」の項に示されるように、実際の反射器では、反射面の面積が4mm2程度と非常に小さいため、法線角及び方向角の測定は、角度ゲージなどによる直接の測定は困難であって、図4の測定結果は、顕微鏡光学系を用いた角度測定装置を用いて、反射器を中心軸が鉛直になる治具に取付け、載物台に置き、微動ダイヤルで載物台を左右に移動させながら隣接した反射面を測定した結果であるが、実際の反射器では、図1に示されるように、取付け面の表面が曲率を有しているところ、実際の反射器を測定した結果には、当該表面の曲率に起因する屈折も含まれ得る。また、このような微少な部材の測定を行うにあたって、曲率の異なる各面における屈折による影響を、厳密に除去ないし補正されたものであるとまではいえない。
したがって、甲32からは、複数のプリズムのそれぞれを構成するi、j、k3つの面について算出される法線ベクトルの間の3つの角度が、互いに異なる値を有することは読み取れるものの、甲32発明において、キューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有するとも、その二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、かつ1分~60分であるとまでは、直ちには認められない。
(ウ)そして、甲32には、「実際の反射光は反射器の表面の曲率による屈折,直交してないプリズム反射面などのためある程度広がり,標識としてつごうがよい」との記載(「2.反射器の構造」)、「反射面間の角が互いに直角であれば入射光Iviと反射光Rvkは平行で逆向きになるが,二面角が90°より離れ,ある角を有すると反射光と平行にならず,ある角度を持つ」との記載(「3.プリズム内の反射」)があるものの、実際の反射光は、「反射器の表面の曲率による屈折」、「直交してないプリズム反射面」などの複数の要因によりある程度広がることが記載されているにとどまり、3つの「プリズム反射面」間が形成する3つの角度のうち、どの角度について、どの程度「直交していない」角度とするかについての設計指針等を見出すことはできず、「理想的な直交した反射面」について、あえて偏差を設ける動機付けに乏しい。
そうすると、「直交していないプリズム反射面」により、反射光がある程度の広がりを持つことが周知技術であるにしても、甲32発明において、わざわざ二面角誤差を設け、かつ、「直交していない角度」として90度からの偏差を特に「1分~60分」にすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、「1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し」、「該二面角誤差の大きさが1分~60分」で、「大きさ及び/又は符号において変化」しているキューブコーナー素子を複数有することで、均一化され、均一化指数が大きいスポット反射図に示される、改善された性能を得ることができるという、格別な効果を奏するものである。
エ 小括
上記ア~ウを総合すると、本件特許発明1は、甲32に記載された発明であるということはできず、甲32に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
3 本件特許発明2~4について
(1)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接的に引用するものであるから、上記2(3)と同様の理由により、甲32に記載された発明であるということはできず、甲32に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
(2)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲32発明との対比について、「キューブコーナー素子」、「物品」及び「非二面縁」並びにそれらが満たす要件については、上記2(1)ア、イ及びウと同様である。
イ 一致点
本件特許発明4と甲32発明とは、以下の点で一致する。
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有している物品。」
ウ 相違点
本件特許発明4と甲32発明とは、以下の点で相違する。
(相違点32-3)
本件特許発明4は、複数のキューブコーナー素子のそれぞれが有する、少なくとも1つの非二面縁が、基準平面に対して非平行であり、ここで、基準平面とは複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味するのに対し、甲32発明は、この点が明らかでない点。
(相違点32-4)
本件特許発明4が、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている」のに対し、甲32発明においては、この点が明らかでない点。
エ 判断
上記2(3)と同様に、本件特許発明4は、甲32に記載された発明であるということはできず、甲32に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
4 請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「4(2)イ」(第34~36頁)において、「甲32図4には法線角と方向角の偏差がグラフに示されている。そして、各反射面の法線ベクトルSの偏差ΔSは法線角の偏差と方向角の偏差から求められる。すなわち、図4をもとに、各反射面の法線ベクトルを算出することができるのであり、その結果、各反射面の二面角誤差を算出できるのである(審判請求書132頁)。」と主張する。そして、当該審判請求書(131~132頁)には、「甲32文献の図4をA3判に拡大コピーして、物差しを当てて数値を読み取」り、「三次元CADソフトウェアを用いて計算する方法」で、「それぞれ法線ベクトルを算出し、1列13個のプリズムの各プリズム各面における二面角誤差を算出した」結果から、「各素子の3つの二面角について、全て二面角誤差があり、かつ、当該二面角誤差の大きさが1分~60分の範囲内であり、かつ、1つの素子における二面角誤差は大きさ及び/又は符号において変化していた」ことが記載されている。
しかしながら、上述のとおり、算出される角度は、あくまで、取付け面の曲率を含む可能性の高い法線ベクトルの偏差であるうえ、特に「甲32文献の図4をA3判に拡大コピーして、物差しを当てて数値を読み取」る点について、正確性を欠くものであり、そのようにして読み取られた数値を用いた計算では誤差も大きくなると考えられるところ、二面角誤差の大きさが「1分~60分」であると認識することはできない。
したがって、上記主張は採用できない。
第10 無効理由5について
1 甲37の記載及び甲37に記載された発明
(1)甲37の記載
甲37には、以下の記載がある。
ア 「1 発明の名称
逆反射体
2 特許請求の範囲
隣接する二面間角度が90°±2.8′なる三つの面より構成される立方体角隅の複数が互いに交叉する境界において、同一平面内に含まれ互いに60°の角度をなして3方向より複数の共通交叉点を通過する三組の平行線によつて形成される等辺三角形の窓を有し、且つ主として六角形に密に充てんされた立方体角隅の配列より成ることを特徴とする逆反射体。但し該立方体の角隅の三面はすべて反射係数0.6以上の鏡面より成り、互いに交叉する三組の平行線の隣接線は15.5乃至830μの範囲の三組に共通した間隔をへだてているものとする。
3 発明の詳細な説明
本発明は逆反射効率の高い光学的反射シートに関するものである。
・・・中略・・・
逆反射体の完全なものは、全入射光を逆反射軸に沿つて直接光源に送り返すものであるので、この用途のように観測者の目が逆反射軸からはずれている場合には実用に適しない。しかしすべての逆反射体は多少とも不完全であるので反射光は逆反射軸から発散(diverge)する。このような発散の度合が本発明における制限事項である。何となれば観測者の目が発散光の円錐中にあるように、しかも反射光の観測者の目に入る強さが不当に弱まらぬ程度の適度の発散が必要であるから。」(第1頁左下欄~右下欄)
イ 「キユーブーブコーナー(cube corner)(立方体の角隅)(以下c.c.と略記する)反射体の逆反射性が知られ、数種の用途に用いられている。」(第2頁左上欄11~13行)
ウ 「完全に作成したc.c.鏡(充てん)又はc.c.プリズムから予測しうる回折像の鮮明度および強度分布は約0.01インチの間隔で作られた溝格子が大きな観測距離に対する逆反射体として充分に役立つことを示す。さらに回折像は2面角90°について容認しうる最大誤差を定める手段を提供する。これらの最大誤差値から実際の刻線作業に関する許容公差が決定出来る。
自動車の運転者の目は運転者側のヘツドライトの約2.5フイート上部にある。500フイートの観測距離では、目はヘツドライトの光軸から約0.005ラジアン(0.3°)外れている。2面角が90°からずれる最大誤差を計算するために、我々は誤差はすべて角分散を最大にする方式で加わると仮定する。この仮定からすべての三つの角度はほぼ同じ量だけずれる且つ6個の逆反射光束の回折像を生じこれら像の0次のものは正六角形の頂点にあるとする。・・・中略・・・充てんc.c.鏡又はc.c.プリズムでは90°についての誤差(d)は次式によつて決定される
・・・中略・・・
三角錐の2面角90°の角度は90°±2.8分となる。
次に90°の角度における最大誤差を機械的線引き作業の許容誤差に換算する。その際4種類の誤差が存在する。それらは(i)溝の角度の誤差、(ii)施工する面に対する工具の角の2等分線が垂直線から外れる角度、(iii)一組の溝が他の二組の溝のそれぞれとなす角度が60°(又は120°)から外れる角度、および(iv)溝と溝との間隔の精度である。
・・・中略・・・
上に挙げた各種の誤差は90°の面間角に正確に同一の数値誤差を生ずることはない。例えばもし切削工具の角度が小さく、二等分線が工作物表面に垂直であるとすると、角錐の面は角錐の軸に対し正しい角度より工具の偏角の1/2だけ急な角をなす。これがすべての面について起きるので二面間の角は鋭く任意の2面間の角度の誤差は概略溝又は工具の角度の誤差に等しい。明らかに最終製品の光学性が正確であるためにはc.c.鏡又はc.c.プリズムの二面間の角の精度が重要である。またレプリカに用いる方法がこれらの角度を変えることもおこりうる。もしそれならば線引き作業のレプリカ後の最終製品における二面間の角度の誤差を90°±2.8′の範囲に止めるような適当な手段がとられねばならぬ。」(第10頁左上欄5行~右下欄18行)
エ 「実施例1
・・・中略・・・軟質アルミニウム板の一枚の片面を研磨して鏡仕上げとなし、鋭い尖端のv形ダイヤモンド工具によりこの面に三組の溝を引く。
・・・中略・・・各組の溝はその組では互に平行であるが他の二組に属する溝とは60°の傾斜を持たせる。
・・・中略・・・
前述の指定角度のv形工具を指定方式で使用して溝を引く方法は大きさと形が同一で内部二面間角が90°の数千の三角錐を自動的に作る方法であるが、これを三角錐中の1対、2対又は3対間の角度を故意に既知量の誤差を加える方式に使用することもできる。これによつて、レプリカによるc.c.鏡又はc.c.プリズムの90°の二面間角に同様の誤差を生ずる。さらにこれによつて反射光の像に変化を生じ、像中の最大輝度は光源部でなく、或る視距離において望む量だけ軸から外れることも可能である。(このようなことは円形口径を用いた反射体では不可能である。)得られる像の変化は次の方に抱含される。
(a) 一つの90°角は90°から外れ(より鋭角又はより鈍角)、二つの90°角は正しい。これは二つの光線束が軸外で光軸に関して対称的な亜鈴型像を生ずる。これら二つの光線束を水平に、垂直に又は水平又は垂直方向に望む角度だけ傾斜するようになし得る。
(b) 一つの90°角は正しく、二つの90°角は外れ(一つは鋭角一つは鈍角:又は両者共に鋭角又は鈍角)これによつて軸に関して対称的に置かれた菱形の隅にある四種の退出線束を生ずる。」(第13頁右下欄16行~第16頁左下欄6行)
オ 「第1図
[図:0001436417000031.jpg]
」
(2)甲37に記載された発明
甲37の特許請求の範囲及びその実施の形態である実施例1(b)には、以下の「逆反射体」の発明(以下「甲37発明」という。)が記載されている。
「隣接する二面間角度が90°±2.8′なる三つの面より構成される立方体角隅の複数が互いに交叉する境界において、同一平面内に含まれ互いに60°の角度をなして3方向より複数の共通交叉点を通過する三組の平行線によつて形成される等辺三角形の窓を有し、且つ主として六角形に密に充てんされた立方体角隅の配列より成り、一つの90°角は正しく、二つの90°角は外れ(一つは鋭角一つは鈍角:又は両者共に鋭角又は鈍角)これによつて軸に関して対称的に置かれた菱形の隅にある四種の退出線束を生ずる、逆反射体。」
2 本件特許発明1ついての対比及び判断
(1)対比
本件特許発明1と甲37発明とを対比する。
ア キューブコーナー素子及び物品
甲37発明の「三つの面より構成される立方体角隅」及び「逆反射体」はそれぞれ、その構成からみて、本件特許発明1の「キューブコーナー素子」及び「物品」に相当する。
イ 非二面縁
甲37発明における「立方体角隅の複数が互いに交叉する境界」における「三組の平行線」は、隣接する立方体角隅が共有する外縁である。また、外縁を共有しているので、それぞれの外縁は互いに平行であるといえる。
そうすると、甲37発明の「平行線」は、本件特許発明1の「隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である」という要件を備えた「非二面縁」に相当する。
そして、甲37発明は、複数の立方体角隅のそれぞれが、少なくとも1つの「平行線」を有しているところ、本件特許発明1の「前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有して」いるという要件を満たす。
ウ 二面角誤差
甲37発明における「二面間角度」及び「±2.8′」は、本件特許発明1の「複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が有する「二面角」及び「二面角誤差」に相当し、「該二面角誤差の大きさが1分~60分である」という要件を満たす。
(2)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲37発明とを対比すると、一致点及び相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差の大きさが1分~60分である、物品。」
イ 相違点
(相違点37-1)
本件特許発明1においては、「少なくとも1つの非二面縁」が、「基準平面に対して非平行であり」、「ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味」するのに対し、甲32発明においては、そのように特定されていない点。
(相違点37-2)
本件特許発明1においては、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し」、「該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化して」いるのに対し、甲37発明においては、そのように特定されていない点。
(3)判断
上記相違点37-1について検討する。
甲37発明は、「同一平面内に含まれ」る「三組の平行線によつて形成される等辺三角形の窓を有」するものである。すなわち、甲37発明の「三つの面より構成される立方体角隅」の「三組の平行線によつて形成される等辺三角形の窓」は、共面上に位置するものであって、このことは、本件明細書等おける「切頭キューブコーナ素子」に係る記載、すなわち、「3組の平行溝を60度の夾角で互いに交差させてキューブコーナー素子(それぞれ等辺底面三角形を有する)のアレイを形成する」(【0007】)及び「切頭キューブコーナーアレイの隣接しているキューブコーナー素子の底面縁は、典型的には共面上にある」(【0009】)との記載に照らせば、甲37発明に係る「立方体角隅」が、「切頭型」のキューブコーナー素子であることに他ならない。
上記相違点37-1に係る構成は、上記「第6」で説示したとおり、キューブコーナー素子が「PGキューブコーナー素子」であることを特定するものであるのだから、相違点37-1は実質的な相違点である。
そこで、甲37発明における「切頭型」のキューブコーナー素子を、「PGキューブコーナー素子」に置換する動機付けの存否について検討する。
甲37には、「六角窓の配列は密充てんの三角窓のものより良好な反射効率を有する。・・・しかし、このような記述に反して三角窓を持つ密に充てんされたc.c.配列を充分に正確にしかもある範囲の非常に小さい窓と高反射率の鏡表面を組み合わせて作製すると、後に詳細に述べるように逆反射軸を中心とした狭い円錐中に予期以上の高反射効率を有する逆反射体が得られる。」(第2頁右上欄)と記載されており、当該記載における「六角窓」及び「三角窓」が、それぞれ「PGキューブコーナー素子」及び「切頭型」のキューブコーナー素子を意味することは当業者の技術常識に照らし明らかである。このように、甲37発明は、そもそも、「PGキューブコーナー素子」と比較して反射効率の劣る「三角窓」の「切頭型」のキューブコーナー素子について、反射効率を向上させるべくなされたものであるといえる。
そうすると、甲37発明は、あくまで「切頭型」のキューブコーナー素子の反射効率の向上を目的としたものであるから、甲37発明において、その前提となる「切頭型」のキューブコーナー素子に代えて、「PGキューブコーナー素子」を採用することは、甲37の上記記載に接した当業者にとり動機付けられるものとはいえない。
したがって、相違点37-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲37に記載された発明であるということはできず、甲37に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
3 本件特許発明2~4について
(1)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接的に引用するものであるから、上記2(3)と同様の理由により、甲37に記載された発明であるということはできず、甲37に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
(2)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲37発明との対比について、「キューブコーナー素子」、「物品」及び「非二面縁」並びにそれらが満たす要件については、上記2(1)ア及びイと同様である。
そして、「二面角誤差」について、甲37発明は、「隣接する二面間角度が90°±2.8′なる三つの面より構成され」、「一つの90°角は正しく、二つの90°角は外れ(一つは鋭角一つは鈍角:又は両者共に鋭角又は鈍角)これによつて軸に関して対称的に置かれた菱形の隅にある四種の退出線束を生ずる」ものである。
そうすると、甲37発明の「二面間角度」は、本件特許発明4の「二面角誤差」に相当し、「複数のキューブコーナー素子のそれぞれが3つの二面角誤差を有」するという要件及び「該二面角誤差が互いに異なっている」という要件を満たす。
イ 一致点
本件特許発明4と甲37発明とは、以下の点で一致する。
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている、物品。」
ウ 相違点
本件特許発明4と甲37発明とは、以下の点で相違する。
(相違点37-3)
本件特許発明4では、「非二面縁」が、「基準平面に対して非平行であり」、「ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味」するのに対し、甲37発明はそのように特定されていない点。
エ 判断
上記相違点37-3について検討すると、上記相違点37-3に係る構成は、当該構成を有するキューブコーナー素子が「PGキューブコーナー素子」であることを特定するものである。
一方で、上記2(3)で説示したとおり、甲37発明は、「PGキューブコーナー素子」ではないから、上記2(3)と同様の理由で、本件特許発明4は、甲37発明であるということはできず、また、甲37発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
4 請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「5(1)」(第36~37頁)において、「甲37の8頁左上欄2~6行」における記載及び「第4図は本発明の種々の型の反射体の図である」(18頁左下欄2~3行)との記載から、「明らかに切頭型ではな」く、「甲37には、六角形のコーナキューブの形状をしたプリズムを有する逆反射体が開示されている。」旨主張する。
しかしながら、上記1(1)アで摘記したとおり、甲37の特許請求の範囲における「逆反射体」の「立方体角隅」は、「同一平面内に含まれ互いに60°の角度をなして3方向より複数の共通交叉点を通過する三組の平行線によつて形成される等辺三角形の窓を有」するものであり、「切頭型」のものである。
そして、第4A図には、「この回折像は第4A図に示される配列から生じ」という記載から、「回折像」を説明するためのものとして、第4A図の六角形キューブコーナーが記載されているものの、あくまで、甲37に記載された発明及びその実施例は、上記のとおり「切頭型」の「立方体角隅」を備えた「逆反射体」である。
そして、上記請求人の主張は、「甲37には、六角形のコーナキューブの形状をしたプリズムを有する逆反射体が開示されている。」との主張にとどまり、甲37の特許請求の範囲に記載された発明及びその実施例が「六角形のコーナキューブの形状をしたプリズムを有する逆反射体」であることを示す根拠を見出すことはできない。
したがって、上記主張は採用できない。
第11 無効理由6について
1 甲43の記載及び甲43に記載された発明
(1)甲43の記載
甲43には、以下の記載がある。
ア 「BACKGROUND OF THE INVENTION
A cube-corner retrodirective reflector operates to reflect incident light substantially back to the source of the light. Theoretically a beam emanating from the source and striking such a cube-corner reflector will travel back toward the source essentially along the path of the incident light. If such an “ideal” reflector were mounted on a roadway to be impinged by light emanating from a vehicle head lamp, the reflected light would be directed substantially back to the head lamp. The reflector would appear dark to the driver of the vehicle, since no light would be directed to his eyes.
However, a cube-corner reflector does not have such perfect characteristics but rather, the reflected light takes the form of a narrow cone. This conical pattern is due to inaccuracies in the reflector elements, particularly curvature in the cube-corner faces thereof. The cone is defined by an angle of divergence (angle between cone element and cone axis) at any point within which the specific intensity of the reflected light exceeds a selected value.」(第1欄5行目~25行目)
(参考訳:発明の背景
キューブコーナー逆行反射器は、入射光を実質的に光源に反射して戻すように働く。理論的には、光源から発してそのようなキューブコーナー反射器に当たる光線は、実質的に入射光の光路に沿って光源に戻ることになる。このような「理想的な」反射器を道路に設置して車両のヘッドランプから発する光を入射させるとしたら、反射光は実質的にヘッドランプに戻る様に向けられるであろう。反射器は車両の運転者には暗く見えるであろう、なぜなら運転者の目には光が向けられないからである。
しかし、キューブコーナー反射器はそのような完全な特性は持たず、むしろ、反射光は細い円錐の形態を取る。この円錐パターンは、反射素子の不正確さ、特にそのキューブコーナー面における曲率によるものである。円錐は、その範囲内では反射光の比強度が選択値を超える任意の点における発散角(円錐要素と円錐軸の間の角度)により定義される。)
イ 「DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENT
Turning now to the drawings and more particularly to FIG.1 thereof, there is shown a reflector 20 incorporating therein the features of the present invention. The reflector 20 comprises a body 21 of transparent material formed of a synthetic organic plastic resin, the preferred resin being methyl methacrylate. The body 21 has a smooth front face 22 which is also flat in the embodiment shown. The body 21 is provided with a configurated rear 23 schematically shown in FIG.1.As will be described presently, the configurated rear 23 is made up of a multiplicity of retrodirective reflector elements 40 (represented by shaded and unshaded squares) which serve to return the incoming ray back toward the source.In the specific form illustrated, the reflector 20 has 320 unshaded reflector elements 40 (hereinafter characterized as “standard” reflector elements) and 30 shaded reflector elements 40 (hereinafter characterized as “unique” reflector elements).」(第2欄55行目~第3欄6行目)
(参考訳:好ましい実施形態の説明
続いて図面、特にそのうち図1を見ると、本発明の特徴を内部に含む反射器20が示されている。反射器20は、合成有機プラスチック樹脂からなる透明材料の本体21を備え、好ましい樹脂はメチルメタクリレートである。本体21は、滑らかな前面22を持つが、これもまた図示の実施形態では平坦である。本体21には、図1に略示した表面に模様のある後部23が設けられる。本明細書で説明する様に構成された後部23は、入射光線を光源に戻すように機能する複数の逆行反射素子40(陰影付きおよび陰影の無い正方形で示す)からなる。図示の特定の形態では、反射器20は、320個の陰影の無い反射素子40(以下「標準的な」反射素子とする)および30個の陰影付き反射素子40(以下「独特な」反射素子とする)を有する。)
ウ 「Reference is now made to FIGS.3-6 which illustrate the details of each of the reflector elements that make up the configurated rear 23 of the reflector. The reflector element is designated by the number 40 and includes three faces 41, 42, and 43 which intersect along edges 44, 45, and 46. The faces 41, 42, 43 are inclined away from a common peak or apex. 47. The reflector element 40 has an axis 48.
Each reflector element 40 is square, although the outline could be rectangular, hexagonal, etc. Each reflector element 40 has one side 50 which is recilinear and is contained by the face 41. The end of the edge 44 divides a second side 51 into shorter and longer portions; the edge 45 intersects a third side 52 and divides it into portions of equal length; and the edge 46 intersects a fourth side 53 and divides it into longer and shorter portions. In each reflector element 40, the angle between the faces 41 and 42 is substantially 90°; similarly, in each reflector element 40, the angle between the faces 41 and 43 is also substantially 90°. Finally, most of the reflector elements 40 also have an angle of substantially 90° between the faces 42 and 43, which are the “standard” reflector elements 40 that are unshaded in FIG.1. An angle can exceed 90° by as much as 6’or 7’and still be “substantially”90°.」(第3欄23行目~第3欄48行目)
(参考訳:続いて、反射器の構成された後部23を構成する各反射素子の詳細を示す図3~6を参照する。反射素子は数字40で示され、縁部44、45、46で交差する3つの面41、42、43を含む。面41、42、43は共通のピークまたは頂点47から離れる方向に傾斜している。反射素子40は軸48を有する。
各反射素子40は正方形であるが、輪郭は長方形、六角形などもあり得る。各反射素子40は、直線状であり面41に含まれる一つの辺50を有する。縁部44の端部は、第二の辺51をより短い部分とより長い部分に分割する。縁部45は、第三の辺52と交差し、これを等しい長さの部分に分割する。縁部46は第四の辺53と交差し、これをより短い部分とより長い部分に分割する。各反射素子40では、面41と42の間の角度は実質的に90°である。同様に、各反射素子40では、面41と43の間の角度はまた実質的に90°である。最後に反射素子40のほとんども、面42と43の間の角度は実質的に90°であるが、これは図1中の陰影の無い「標準的な」反射素子40である。角度は6′または7′も90°を超えることがあるが、それでも「実質的には」90°である。)
エ 「The “unique” reflector elements 40 (those shaded in FIG.1) have an angle between the faces 42 and 43 substantially greater than the angle between the faces 41 and 42 and the angle between the faces 41 and 43; for example, the angle between the faces 42 and 43 can be 90°30′. The angle between the faces 41 and 42 and the angle between the faces 41 and 43 remains substantially 90°. In either event, because the edge 45 is and remains substantially perpendicular to the face 41, the above-described swivel of the face 42 does not affect the angle it forms with the face 41.」(第3欄49行目~第3欄59行目)
(参考訳:「独特な」反射素子40(図1中の陰影付きのもの)は、面41と42の間の角度および面41と43の間の角度よりも実質的に大きい角度を面42と43の間に有する。例えば、面42と43の間の角度は90°30′が可能である。面41と43の間の角度および面41と42の間の角度は実質的に90°のままである。いずれの場合でも、縁部45は面41に実質的に垂直でありかつ垂直のままであるので、面42の上記の面取りは、面41に対してそれが形成する角度に影響しない。)
オ 「Reference is now made to FIGS. 8 and 9 to describe the manner in which the reflected light pattern is affected by changing the angle 55. FIG. 8 illustrates a piece of film 32 which has been exposed to a light beam reflected by a “standard” reflector element 40. An irregular area 60 centered about the hole 33 represents light reflected from the reflector 20. Since the light diverges, as exemplified by the rays 31a and 31b in FIG. 2, the light will not be concentrated at the center of the hole 33, but, rather will have some finite size. The intensity at the center of the returning beam will have a maximum value; the farther from the center, the lower the intensity of the beam. Accordingly, the size of the area 60 will be determined by the time the film 32 is exposed. Because the angles between the faces 41-42, 42-43, and 41-43 are substantially 90°, the “nominal divergence axis” along which the intensity of the returning light beam is greatest, is at an angle of substantially 0°. The light reflected by a “standard” element is in the pattern of a narrow, cone having a given angle of divergence.」(第4欄8行目~第4欄28行目)
(参考訳:続いて図8と図9を参照して、角度55を変えることにより反射光のパターンが影響される方式を説明する。図8は、「標準的な」反射素子40により反射された光線に晒された膜32の部分を示す。穴33に中心がある不規則な領域60は、反射器20から反射された光を示す。図2の光線31aおよび31bで例示するようにこの光は発散するので、この光は穴33の中心に集中せず、むしろある有限の寸法を有することになる。戻り光線の中心での強度が最大値を持つことになる。中心から遠いほど光線の強度は低くなる。それに従い、領域60のサイズは、膜32が晒される時間により決定されることになる。面41-42、42-43および41-43の間の角度は実質的に90°であるので、戻り光線の強度がそれに沿って最大となる「名目発散軸」は実質的に0°の角度にある。「標準的な」素子により反射される光は、所定の発散角をもつ細い円錐のパターンとなる。)
カ 「On the other hand, for the “unique” reflector elements 40 in which the angle 55 between the faces 42 and 43 is, for example 90°30′ (the angles between the faces 41-42 and 41-43 are substantially at 90°), the pattern illustrated in FIG. 9 results. The exposed areas are displaced in a direction normal to planes containing the edges 45 and the element axes 48. If these planes are horizontal, which is the orientation illustrated in FIG. 3, then the displacement takes place vertically. The reflected light will cause an area 61 displaced upwardly a distance 62 from the center of the hole 33. Similarly, the reflected light will cause an area 63 displaced downwardly from the center of the hole 33 a distance 64. By measuring the distances 62 and 64 and knowing the distance the film 32 is from the reflector 20, the angle of the nominal divergence axis can be calculated. With the angle between the faces 42 and 43 about 90°30′, the angle of the nominal divergence axis in each direction is about 1.3°. It is at this angle (up and down) where the peak light response is achieved. In much the same way as the irregular area 60 in FIG. 8 represented varying intensities of the beam about a nominal divergence area at 0°, the areas 61 and 63 represent varying intensities of the beam about a nominal divergence axis at an angle of 1.3°.」(第4欄29行目~53行目)
(参考訳:他方で、面42と43の間の角度55が例えば90°30′である(面41-42と41-43の間の角度は実質的に90°である)「独特な」反射素子では、図9に示すパターンが生じる。晒された領域は、縁部45と素子軸48を含む平面に垂直な方向に変位する。これらの平面が、図3に示した向きである水平方向である場合、変位は垂直に起こる。反射光は穴33の中心から上方に距離62だけ領域61を変位させることになる。同様に、反射光は穴33の中心から下方に距離64だけ領域63を変位させることになる。距離62と64を計測し、膜32の反射器20からの距離を知ることにより、名目発散軸の角度を計算できる。面42と43の間の角度が約90°30′では、各方向における名目発散軸の角度は約1.3°である。ピークの光反応が得られるのはこの角度(その前後)である。図8の不規則な領域60が0°で名目発散域の周りの光線の異なる強度を示すのとほぼ同様に、領域61と63は1.3°の角度で名目発散軸の周りの光線の異なる強度を示す。)
キ 「It is to be understood that the total number of reflector elements 40 in the reflector 20, and the ratio in the number of “standard” elements to the number of “unique” elements control the values of specific intensity. The curves illustrated in FIG.10 and 11 are merely exemplary. Thus, while the “standard” reflector elements in the instant embodiment have angles of substantially 90°, so as to furnish a nominal divergence axis at an angle of substantially 0°, all three angles can be as much as a few minutes greater than 90°, so that the nominal divergence axis angle would be as much as a few tenths of a degree. Similarly, the angle 55 associated with the “unique” reflector elements 40 can have any value substantially greater than the other two angles, depending upon at what angle the nominal divergence axis or peak value of specific intensity is required.
In essence the “unique” reflector elements 40 have a divergence angle characteristic similar to the divergence angle characteristic of the “standard” reflector elements, except the nominal divergence axis has been shifted from 0° to some other value such as 1.3°. The result is that the “standard” reflector elements 40 enable the reflector 20 to be visible at the usual small observation angles, while the “unique” reflector elements 40 enable the reflector 20 to be visible at greater observation angles. If desired, reflector elements having nominal divergence axes at other angles may be employed. For example, reflector elements 40 having a nominal divergence axis at an angle of 0.8° may be provided to increase the response of the reflector 20 at that angle. Reflector elements having nominal divergence axes at several intermediate angles will flatten out the curves of FIGS.10 and 11.
The angle of divergence or spread of the curves in FIGS.10 and 11 in the region of the peak response can be controlled by modifying the faces of the reflector elements 40. By adding some cylindrical curvature thereto, the spread may be increased.
The reflector 20 may be mounted so that planes containing the edges 45 of the reflector elements 40 are arranged horizontally. In that case displacement of the nominal divergence axes occurs in vertical planes.」(第5欄37行目~第6欄18行目)
(参考訳:反射器20中の反射素子40の総数および「標準的な」素子と「独特な」素子の数の比が比強度の値を左右することを理解すべきである。図10と11に示した曲線は単に例示的なものである。したがって、例示実施形態の「標準的な」反射素子は実質的に90°の角度を有し、それにより実質的に0°の角度で名目発散軸を提供するが、3つの角度全てが、90°よりも数分も大きいことが可能であり、それにより名目発散軸は一度の数十分の一と大きいものとなる。同様に、「独特な」反射素子40と関連する角度55は、比強度の名目発散軸またはピーク値がどの角度で必要となるか次第で、他の2つの角度よりも実質的に大きい任意の値を取り得る。
基本的に「独特な」反射素子40は、名目発散軸が0°から他の値、例えば1.3°にシフトしていることを除き、「標準的な」反射素子の発散角特性と同様な発散角特性をもつ。その結果、「標準的な」反射素子40は反射器20が通常の小さい観察角で可視にし、他方で「独特な」反射素子40は、より大きい観察角で反射器20を可視とする。望ましければ、他の角度に名目発散軸をもつ反射素子を用いてもよい。例えば、0.8°の角度に名目発散軸をもつ反射素子40を提供して、その角度での反射器20の反応を上げてもよい。いくつかの中間角度に名目発散軸をもつ反射素子は、図10と図11の曲線を平坦にする。
ピーク反応の領域における図10と図11の曲線の発散もしくは拡散の角度は、反射素子40の面を修正することにより制御可能である。円柱状の曲率を追加することにより拡散を増やしてもよい。
反射素子40の縁部45を含む平面が水平に配置されるように反射器20を取り付けてもよい。その場合には、名目発散軸の変位は垂直平面内で生じる。)
ク 「
[図:0001436417000032.jpg]
[図:0001436417000033.jpg]
」
(2)甲43に記載された発明
甲43には、「標準的な」反射素子(上記(1)オ)及び「独特な」反射素子(上記(1)エ)を有する「反射器」(上記(1)イ及びウ)の発明(以下「甲43発明」という。)として、以下のものが記載されている。
「反射器は本体を備え、
本体は、滑らかな前面22、後部23が設けられ、後部23は、入射光線を光源に戻すように機能する複数の逆行反射素子からなり、
反射素子は、縁部44、45、46で交差する3つの面41、42、43を含み、
各反射素子は正方形であり、
反射素子は、直線状であり面41に含まれる一つの辺50を有し、縁部44の端部は、第二の辺51をより短い部分とより長い部分に分割し、縁部45は、第三の辺52と交差し、これを等しい長さの部分に分割し、縁部46は第四の辺53と交差し、これをより短い部分とより長い部分に分割し、
面41-42、42-43および41-43の間の角度は実質的に90°である、標準的な反射素子と、
面42と43の間の角度は90°30′であり、面41-42と41-43の間の角度は実質的に90°である、独特な反射素子と、を有する反射器。」
2 本件特許発明1ついての対比及び判断
(1)対比
本件特許発明1と甲43発明とを対比する。
ア キューブコーナー素子及び物品
甲43発明の「反射素子」及び「反射器」はそれぞれ、その構成から見て、本件特許発明1の「キューブコーナー素子」及び「物品」に相当する。
イ 非二面縁及び基準平面
甲43発明の「第二の辺51」及び「第四の辺53」は、隣接する反射素子間で共有される辺であるとともに(図4)、上記1(1)ウの記載及び図4より、上記第5の1(1)ア(イ)で説示した本件特許発明における「非二面縁」の構成と同様に、それぞれが折れ線からなる2本の外縁を観念できることから、本件特許発明1の「非二面縁」に相当し、甲43発明の「反射素子」は、本件特許発明1の「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも一つの非二面縁を有して」いるという要件を満たす。
また、甲43発明の「標準的な反射素子」及び「独特な反射素子」は、反射面が「台形、または五角形」を有し、平面視で「正方形」をなすものであり、「PGキューブコーナー素子」であるといえる。
そうすると、甲43発明の「標準的な反射素子」及び「独特な反射素子」は、本件特許発明1の「PGキューブコーナー素子」であることを特定する「基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味」するという要件を満たす。
ウ 二面角誤差
上記「第4」に示したとおり、本件明細書等の【0074】に記載の命名規約に基づき命名すると、甲43発明における「面41」、「面42」及び「面43」は、それぞれ「1」、「2」及び「3」と命名されるから、面41-42、41-43及び42-43の間の角度は、それぞれ、「1-2二面角」、「1-3二面角」及び「2-3二面角」といえる。
(2)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲43発明とを対比すると、一致点及び相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味する、物品。」
イ 相違点
(相違点43-1)
本件特許発明1では、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分」であるのに対し、甲43発明では、「独特な反射素子」が、「30′」の「2-3二面角誤差」を有するが、「1-2二面角」及び「1-3二面角」は「実質的に90°」である点。
(3)判断
上記相違点43-1について検討する。
本件特許発明は、2-3二面角誤差を有するが、1-2二面角及び1-3二面角の半角誤差がゼロである場合には、2-3二面角誤差により、主に水平軸に沿って位置する反射スポットが得られるものの、「局所化されたスポットを有する実質的に不均一な反射スポット図」となり望ましくないという比較例に照らし(【0084】)、均一な反射スポット図とするという課題を解決すべく、大きさ及び符号において変化し、1~60分の大きさを有する1-2二面角誤差及び1-3二面角誤差を設けた点に、技術的意義を有するものである。
これに対し、甲43に、2-3二面角に30分の二面角誤差を設けた、すなわち、本件明細書等の比較例に相当する例は示されているものの、1-2及び1-3二面角については、実質的に90°とされている。
ここで「実質的に90°」につき甲43の記載を参照すると、甲43には、「An angle can exceed 90° by as much as 6’or 7’and still be “substantially”90°.」(上記ウ)(参考訳:角度は6′または7′も90°を超えることがあるが、それでも「実質的には」90°である。)と記載されているから、甲43における「実質的に90°」とは、90°から6′または7′程度のずれを包含し得るものであるところ、「独特な反射素子」の「1-2二面角」及び「1-3二面角」が、90°を6′または7′超える態様も想定し得る。
しかしながら、甲43には、「このような「理想的な」反射器を道路に設置して車両のヘッドランプから発する光を入射させるとしたら、反射光は実質的にヘッドランプに戻る様に向けられるであろう。反射器は車両の運転者には暗く見えるであろう、なぜなら運転者の目には光が向けられないからである。
しかし、キューブコーナー反射器はそのような完全な特性は持たず、むしろ、反射光は細い円錐の形態を取る。この円錐パターンは、反射素子の不正確さ、特にそのキューブコーナー面における曲率によるものである。」と記載されるように、反射光が「円錐の形態を取る」ことは、「反射素子の不正確さ、特にそのキューブコーナー面における曲率によるものである」ことが説明されるとともに、「独特な」反射素子において、「変位」が生じる機序については、「面42と43の間の角度55が例えば90°30′である(面41-42と41-43の間の角度は実質的に90°である)」旨、もっぱら、本件特許発明の2-3二面角誤差に相当する面42と43の間の角度に誤差を設けた例が示されるにとどまり、本件特許発明の1-2二面角及び1-3二面角に相当する面41-42と41-43の間の角度に、均一な反射光となるよう誤差を設けようとする技術思想を読み取ることはできない。
また、甲43発明の「独特な反射素子」において、1-2二面角及び1-3二面角が、90°から6′または7′の誤差を有しているものが存在するという明確な記載がそもそもない。
そうすると、甲43発明において、二面角1-2及び二面角1-3に、大きさ及び/又は符号において変化し、かつ、大きさが1分~60分である二面角誤差を設けることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点43-1に係る構成を備えたものとすることで、一方向の変位でなくより均一な反射光のスポット図を得ることができるという、相違点に係る構成から予測しがたい顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲43に記載された発明であるということはできず、甲43に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
3 本件特許発明2~4について
(1)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接的に引用するものであるから、上記2(3)と同様の理由により、甲43に記載された発明であるということはできず、甲43に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
(2)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲43発明との対比について、「キューブコーナー素子」、「物品」、「非二面縁」及び「基準平面」については、上記2(1)ア及びイと同様である。
イ 一致点
本件特許発明4と甲43発明とは、以下の点で一致する。
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味する、物品。」
ウ 相違点
本件特許発明4と甲43発明とは、以下の点で相違する。
(相違点43-2)
本件特許発明4では、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている」のに対し、甲43発明では、「独特な反射素子」が、「30′」の「2-3二面角誤差」を有するが、「1-2二面角」及び「1-3二面角」は「実質的に90°」である点。
エ 判断
上記相違点43-2について検討すると、甲43発明は、二面角のうちの1つを他の2つと異ならせて、反射光の名目発散軸の方向(図9の縦方向)を制御するものであるところ、甲43発明において、「面41」と「面42」との間の角及び「面41」と「面43」との間の角を、異なる(変化している)角度とする開示や示唆又はその動機付けを、甲43の記載に見出すことはできない。
したがって、本件特許発明4は、甲43発明であるということはできず、甲43に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
4 請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「第1」「6(2)ア」(第40~49頁)において、「219号公報(甲73)は、キューブコーナー素子の二面角を90度からずらして、円錐形状パターンに拡散させ光発散プロファイルを得るというものである」旨主張し、同「6(2)イ」(第49~54頁)において、「219号公報の記載内容は、技術常識であった」旨主張する。
しかしながら、上記2(3)及び3(2)エで説示したとおり、甲43の「逆行反射素子」は、反射光の「円錐の形態」については、「反射素子の不正確さ、特にそのキューブコーナー面における曲率によるもの」であり、また、反射光の「変位」については、反射光の名目発散軸の方向(図9の縦方向)を制御するものであるところ、上記主張のように、「219号公報」に記載の技術的事項が周知技術であったとしても、甲43には当該周知技術を採用する動機付けがない。
したがって、上記主張は採用できない。
第12 無効理由7について
1 甲27の記載及び甲27に記載された発明
(1)甲27の記載
甲27には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
背景
本発明は主に、微細複製技術を利用して作製される構造化表面に関する。本発明は、再帰反射性キューブコーナ要素を具備する構造化表面に特に適用される。
・・・中略・・・
【0004】
キューブコーナ再帰反射シート材は、典型的に、略平坦な前面と、複数の幾何学的構造を含む後部構造化表面とを有する薄い透明層を具備し、前記幾何学的構造のいくつかまたはすべては、キューブコーナ要素として構成された3つの反射面を含む。
・・・中略・・・
【0008】
直接機械加工技術では、一連の溝側面を平坦な基板面に形成して、マスタ型を形成する。周知の一実施形態では、3つの組の平行溝が互いに60°の開先角度で交差して、等辺の基部三角形を各々が有するキューブコーナ要素の配列を形成する(米国特許第3,712,706号(Stamm)参照)。他の実施形態では、2組の溝が60°よりも大きな角度で互いに交差し、また第3の組の溝が60°よりも小さな角度で他方の2つの組の各々と交差して、傾斜したキューブコーナ要素の適合対の配列を形成する(米国特許第4,588,258号(Hoopman)参照)。ピンバンドルまたは積層技術は、型の形成中または他の時間に互いに運動または移動し得る、また互いに分離するかもしれない構成部品に依存するので、直接機械加工技術は、ピンバンドルまたは積層技術を用いて達成できないより困難な方法で、非常に小さなキューブコーナ要素を正確に機械加工する機能を提供する。さらに、直接機械加工では、多数の個別面は切削工具の連続運動の中で典型的に形成され、またこのような個別面は型作製工程の全体にわたってそれらの整列を維持するので、直接機械加工技術は、ピンバンドルまたは積層技術によって造られる構造化表面よりも一般的により高い均一性と適合性を有する大きな領域の構造化表面を生成する。
【0009】
しかし、直接機械加工技術の大きな不都合は、製造し得るキューブコーナ形状の種類における低い設計柔軟性であった。例を挙げると、上に参照したStamm特許に示されたキューブコーナ要素の最高の理論的な全光再帰は約67%である。その特許の発行以来、構造と技術が開示されており、これらによって、直接機械加工を用いて設計家が利用できるキューブコーナの設計の多様性が大きく拡大されている。例えば、米国特許第4,775,219号(Appledorn等)、第4,895,428号(Nelson等)、第5,600,484号(Benson等)、第5,696,627号(Benson等)、および第5,734,501号(Smith)参照。これらの後者の参考文献に開示されたキューブコーナ設計のあるものは、ある特定の観測と入口形状において十分に67%を越える有効開口値を示し得る。
【0010】
にもかかわらず、「好ましい形状」または「PG」キューブコーナ要素と呼ばれるキューブコーナ要素のクラス全体は、今日まで、公知の直接機械加工技術の範囲内に留まっている。PGキューブコーナ要素の1つの型式を組み込んだ基板が図1の平面図に示されている。本図に示したキューブコーナ要素の各々は、3つの正方形の面と、平面図で六角形の輪郭とを有する。PGキューブコーナ要素の1つは、簡単に識別するために肉太の輪郭で強調表示されている。強調表示されたキューブコーナ要素は、構造化表面の面に対して傾斜した非二面角縁部(肉太に強調表示された6つの縁部の任意の1つ)を有し、またこのような縁部は隣接するキューブコーナ要素の隣接した非二面角縁部(肉太に強調表示されたこのような各縁部は、その隣接する6つのキューブコーナ要素の非二面角縁部に平行のみでなく、連続している)に平行であるので、PGキューブコーナ要素であることが理解できる。直接機械加工技術を利用するPGキューブコーナ要素のような幾何学的構造を製造するための方法が、本出願に開示されている。また、このような方法に従って製造される物品が開示され、このような物品は、特別に構成された少なくとも1つの複合面を有することを特徴とする。」
イ 「【0019】
例示的実施形態の詳細な説明
・・・中略・・・
【0033】
図9~図13を用いて、本発明における使用に適切な調製された基板を作製するための方法について、以下に説明する。例示目的のために、図6の構造化表面を形成するために有用な構造化表面について説明する。しかし、同一の原理は他の実施形態に直接適用できる。要約すると、突出部の配列を具備する構造化表面は、直接機械加工以外の方法によって第1の基板(図9~図10)に形成される。次に、構造化表面のネガ複製が、機械加工可能な材料から成る第2の基板(図11)に造られる。次に、第2の基板の構造化表面の突出部の上方部分が直接機械加工されて、キューブコーナ錐体(図12)を形成する。最後に、機械加工された第2の基板の構造化表面のネガ複製が第3の基板内に造られて(図13)、調製された基板を形成し、この基板内で、キューブコーナキャビティ(複製面を有する)の配列が突出部の配列とかみ合わせられる。機械加工された第2の基板は、望むなら、その後マスタとして使用することができ、このマスタから、多数の同一の調製された基板が電鋳されるか、さもなければ複製される。
・・・中略・・・
【0051】
本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる。例えば、PGキューブコーナ要素を形成する複合面は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができる。これは、溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)を、「溝の半角誤差」として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい。一連の連続した平行溝側面は、abbaabba...またはabcdabcd...,のような溝の半角誤差の繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯一の正または負の値である。一実施形態では、遷移面の上に完成された型の面を形成するために使用される溝の半角誤差のパターンは、遷移面の下に完成された型の面を形成するために使用される溝の半角誤差と一致させることができる。この場合、各複合面の機械加工部分および非機械加工部分は、実質的に角度を成して互いに整列される。他の実施形態では、一方の組の面を形成するために使用されるパターンは、他方の組の面を形成するために使用されるパターンと異なることができ、この場合、遷移面の下の面は非ゼロ角度誤差の所定のパターンを組み込み、遷移面の上の面は実質的に何の角度誤差も組み込まない。後者の場合、各複合面の機械加工部分および非機械加工部分は、正確に角度を成して互いに整列されない。
・・・中略・・・
【0068】
光学的に対向したキューブコーナを有する実施形態
キューブコーナキャビティなしの錐体
他の実施形態は図27~図29の順序で示される。図27は、突出部182およびキャビティ184(陰付きで示されている)の配列を具備する構造化表面を有する初期基板180の平面図であり、キャビティ184は、突出部182の実質的に垂直の壁部によって画定される。基板180は、基板180の突出部とキャビティが、三角形であるよりも、むしろ水平断面で4面のダイヤモンド形状であることを除いて、図12の基板と同様である。溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞれ軸186と188に沿って基板に形成されている。軸186、188は構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、c、dがすべて、このような面に平行な軸に沿って延在することを保証する。切削工具の形状は、表面cに対して実質的に垂直の表面「a’」を構成するように、また表面dに対して実質的に垂直の表面bを構成するように選択される。かくして、各突出部182は、構造化表面の面に対して傾斜すると共に点189によって識別される隆起ピークで出会う4つの面a、b、c、dを有する。面a、b、c、dがキューブコーナ要素を形成しないことに留意されたい。
【0069】
次に、この構造化表面のネガ複製は、電鋳法または他の適切な手段によって、本出願において調製された基板と呼ばれる基板190の中に造られる。初期基板180の面a-dは、調製された基板190内に複製面a’-d’を形成する。基板180のキャビティ184は、基板190内に突出部192を形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によって溝側面e、f、g、hが突出部の中に形成された後のこのような突出部が図28に示されている。対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhおよびd’とgが、複合面、すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’e、面c’hおよび面d’gを形成するように、それぞれの複製面に対して実質的に平行であり、またそれと実質的に位置合わせされたこのような表面を形成するために、切削工具は制御される。面a’fは面c’hに対して実質的に垂直であり、面b’eは面d’gに対して実質的に平行である。点198は、面e、f、g、hによって形成された錐体のピークを配置する。図の面に平行な共通の遷移面にすべてが実質的に配設された遷移線200は、機械加工面e-hを非機械加工面a’-d’から分離する。
【0070】
図29は、図示したような軸202に沿った切削工具の動作によって、対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝を基板190の中に形成した後の基板を示している。図示した実施形態では、表面iとjは、構造化表面の法線に対して同一の角度で傾斜しているが、これは全く必要ではない。このような溝は、遷移線200よりも深く基板190の中に延在し、面a’、b’、c’、d’の交差部に配設された局所最小値にほぼ等しい深さに延在することが好ましい。切削工具は、構造化表面の最も高い部分を除去し、最上部のピークを点198(図28)から点204に移動する。
【0071】
表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形成する。表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるように構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成する。錐体206、208はキューブコーナ要素の適合対であるが、これは、一方が、構造化表面に垂直の軸を中心とする他方の180°の回転に対応するからであり、また錐体206対錐体208の1対1の対応性があるからである。各錐体206、208が、正確に2つの複合的な面を有することに留意されたい。また、構造化表面がキューブコーナキャビティを含まないことに留意されたい。しかし、切頭の非機械加工面a’、b’、c’、d’はキャビティを形成し、また機械加工面e、g、iによって、あるいは機械加工面h、f、jによって形成される錐体は、このような複数の錐体が所定のキャビティに隣接するように、構造化表面に配設される。」
ウ 「【図12】
[図:0001436417000034.jpg]
【図13】
[図:0001436417000035.jpg]
・・・中略・・・
【図27】
[図:0001436417000036.jpg]
【図28】
[図:0001436417000037.jpg]
【図29】
[図:0001436417000038.jpg]
」
(2)甲27に記載された発明
甲27の【0068】及び図27の「図27は、突出部182およびキャビティ184(陰付きで示されている)の配列を具備する構造化表面を有する初期基板180の平面図であり、キャビティ184は、突出部182の実質的に垂直の壁部によって画定される。基板180は、基板180の突出部とキャビティが、三角形であるよりも、むしろ水平断面で4面のダイヤモンド形状であることを除いて、図12の基板と同様である。溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞれ軸186と188に沿って基板に形成されている。軸186、188は構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、c、dがすべて、このような面に平行な軸に沿って延在することを保証する。」との記載、【0069】及び図28の「次に、この構造化表面のネガ複製は、電鋳法または他の適切な手段によって、本出願において調製された基板と呼ばれる基板190の中に造られる。初期基板180の面a-dは、調製された基板190内に複製面a’-d’を形成する。基板180のキャビティ184は、基板190内に突出部192を形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によって溝側面e、f、g、hが突出部の中に形成された後のこのような突出部が図28に示されている。対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhおよびd’とgが、複合面、すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’e、面c’hおよび面d’gを形成するように、それぞれの複製面に対して実質的に平行であり、またそれと実質的に位置合わせされたこのような表面を形成するために、切削工具は制御される。面a’fは面c’hに対して実質的に垂直であり、面b’eは面d’gに対して実質的に平行である。点198は、面e、f、g、hによって形成された錐体のピークを配置する。」との記載、【0070】及び図29の「図29は、図示したような軸202に沿った切削工具の動作によって、対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝を基板190の中に形成した後の基板を示している。図示した実施形態では、表面iとjは、構造化表面の法線に対して同一の角度で傾斜しているが、これは全く必要ではない。」との記載、並びに、【0071】及び図29の「表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形成する。表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるように構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成する。」との記載から、甲27に記載された「錐体206」及び「錐体208」は、「PGキューブコーナー錐体」である。
以上のことから、甲27の【0068】~【0071】及び図29には、以下の「基板」の発明(以下「甲27発明」という。)が記載されている。
「突出部182およびキャビティ184の配列を具備する構造化表面を有する初期基板180において、
溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞれ軸186と188に沿って基板に形成され、
軸186、188は構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、c、dがすべて、このような面に平行な軸に沿って延在し、
次に、この構造化表面のネガ複製が、電鋳法または他の適切な手段によって基板190の中に造られ、
面a-dは、調製された基板190内に複製面a’-d’を形成し、
初期基板180のキャビティ184は、基板190内に突出部192を形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によって溝側面e、f、g、hが突出部の中に形成され、
対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhおよびd’とgが、複合面、すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’e、面c’hおよび面d’gを形成し、
軸202に沿った切削工具の動作によって、対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝を基板190の中に形成し、
表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形成し、表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるように構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成する、基板。」
2 本件特許発明1についての対比及び判断
(1)対比
本件特許発明1と甲27発明とを対比する。
ア キューブコーナー素子及び物品
甲27発明の「PGキューブコーナ錐体」及び「基板」は、その構成からみて、本件特許発明1の「キューブコーナー素子」及び「物品」に相当する。
さらに、甲27の「PGキューブコーナ錐体」は、【0010】の「キューブコーナ要素の各々は、3つの正方形の面と、平面図で六角形の輪郭とを有する。PGキューブコーナ要素の1つは、簡単に識別するために肉太の輪郭で強調表示されている。強調表示されたキューブコーナ要素は、構造化表面の面に対して傾斜した非二面角縁部(肉太に強調表示された6つの縁部の任意の1つ)を有し、またこのような縁部は隣接するキューブコーナ要素の隣接した非二面角縁部(肉太に強調表示されたこのような各縁部は、その隣接する6つのキューブコーナ要素の非二面角縁部に平行のみでなく、連続している)に平行である」との記載に照らし、本件特許発明1において「PGキューブコーナー素子」を特定する「複数キューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味」するという要件を満たす。
(2)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲27発明とを対比すると、一致点及び相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味する、物品。」
イ 相違点
(相違点27-1)
本件特許発明1では、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」のに対し、甲27発明では、それぞれのPGキューブコーナ錐体の反射面がなす角度にそのような特定はされていない点。
(3)判断
上記相違点27-1について検討する。
ア(ア)甲27発明は、「切頭型」キューブコーナにおいて、直接機械加工を用いたキューブコーナの設計の多様性が大きく拡大されている(【0008】、【0009】)一方で、PGキューブコーナ要素については、「公知の直接機械加工の範囲内に留まっている。」(【0010】)ことに鑑み、設計の多様性を拡大すべくなされたものであって、甲27の【0051】(以下、「本件段落」という。)には「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる。」ことが記載されている。そして、「物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロファイルに分布するように個別に調整する」ための手段として、「PGキューブコーナ要素を形成する複合面は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができる。」こと、「これは、溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)を、「溝の半角誤差」として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい」こと、「一連の連続した平行溝側面は、abbaabba...またはabcdabcd...,のような溝の半角誤差の繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯一の正または負の値である」こと、が記載されている。
(イ)上記(ア)のとおり、本件段落には、「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号・・・によって教示されているように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる」ことが記載されているところ、ここでいう「キューブコーナ要素は、・・・個別に調整する」とは、以下のとおり、PGキューブコーナ要素について、これに存在する3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することを意味しており、その具体的手段は、3組の平行溝側面の「溝の半角誤差」を当該3組の平行溝側面ごとに調整することにあるといえる。
すなわち、上記(ア)によれば、本件段落には、「物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように」する、つまり、発散プロフィルを調整するために、PGキューブコーナ要素を形成する複合面ないし溝側面(3つのキューブ面のうちの一のキューブ面)と他方の面(当該3つのキューブ面のうちの他の一のキューブ面)との相互直交性を崩す構成が開示されているといえるところ、このように構成することにより再帰反射される光が発散プロフィルに分布するメカニズムは、(i)3つのキューブ面同士が全て相互直交性を生成している理想的なPGキューブコーナ要素については、平行光線を入射させると、当該3つのキューブ面を順に経由して出射される光線として6とおりのものが考えられるが、これらいずれの出射光線も互いに平行となり、よって「発散」しない、(ii)他方、3つのキューブ面のうち相互直交性を生成していないキューブ面同士が存在するPGキューブコーナ要素については、当該3つのキューブ面を順に経由して出射される光線に互いに平行とはならないものが存在し、よって「発散」する、ことにあるのは明らかである(なお、本件段落で参照される「米国特許第4,775,219号」(甲73)、日本語対応:特許第2647103号公報(甲42)の2頁左欄下から2行~右欄13行には、キューブコーナ逆反射要素の面と面を垂直から意図的に傾けることにより、キューブコーナ逆反射要素によって反射される光は6本の異なる交線に分割され、発散して広範な角度に光を拡散させる旨記載されているし、また、本件明細書【0080】には、「キューブコーナーは、3つのキューブ面から光線を反射させる6つの可能なシーケンスに関連付けられる6つまでの異なる反射スポットに入射光線を分割することが知られている」と記載されている。)。
このように、再帰反射される光が所望の発散プロフィルに分布するようになるメカニズムが、相互直交性を生成していないキューブ面同士の存在により、出射光線に互いに平行とはならないものを存在させることからすれば、本件段落の「キューブコーナー要素は、・・・所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように」調整する、つまり、発散プロフィルを調整するためには、相互直交性を崩すか否かを調整することに加えて、崩したならばその程度を調整すればよいこともまた明らかである(以下、相互直交性を崩すか否かを調整することに加えて、崩したならばその程度を調整することを、単に「相互直交性を調整する」などということがある。)。そして、理想的なPGキューブコーナ要素では3つのキューブ面同士が全て相互直交性を生成していることや、本件段落において相互直交性を生成する配向から異なる配向に配設される対象として明記される「複合面」ないし「溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)」が、本件段落に先行する箇所で説明される図4~8に係るキューブコーナ物品では、1つのPGキューブコーナ要素につき3個存在しており、これらの3個の複合面ないし溝側面の配向を調整することにより3つのキューブ面同士の相互直交性がそれぞれ調整されるのが明らかであることにも照らせば、発散プロフィルを調整するためには、3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することが最も典型的であるということができ、この理解に反する甲27の記載は見当たらない。
以上によれば、本件段落の「本出願に開示したキューブコーナー要素は、・・・物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロファイルに分布するように個別に調整することができる」の「キューブコーナ要素は、・・・個別に調整する」とは、PGキューブコーナ要素について、これに存在する3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することを意味すると解するのが相当である。そして、このようなPGキューブコーナ要素についての3つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の調整は、3組の平行溝側面にそれぞれ導入する溝の半角誤差を調整することを通じて行われるといえるのであり、このことは、PGキューブコーナ要素の3つのキューブ面が上記のとおり3つの溝側面から構成されることに加えて、上述した図4~8などからも明らかなとおり当該3つの溝側面がそれぞれ3組の平行溝側面に属するといえること、さらに、本件段落の「・・・複合面は、・・・他方の面との相互直交性を生成する配向から、・・・小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができる。これは、溝側面・・・を、「溝の半角誤差」として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成できる。」の記載にあるように、キューブ面同士の相互直交性の調整が、溝側面に対して溝の半角誤差を導入することによって実現されること、を考慮すれば明らかである。
よって、本件段落の「本出願に開示したキューブコーナ要素は、・・・再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロファイルに分布するように個別に調整することができる」の「キューブコーナ要素は、・・・個別に調整する」とは、3組の平行溝側面における「溝の半角誤差」を当該3組の平行溝側面ごとに調整することによって実現されているといえる。
そして、この理解は、本件段落で参照される「米国特許第4,775,219号」(甲73)の「EXAMPLE 1」(第11欄13行目~第13欄34行目)及びFIG.6A~FIG.9に、再帰反射される光を所望のパターンとして分布するようにした再帰反射部材の例が示されていることや、その日本語対応文献である特許第2647103号(甲42)において、本発明は物体から逆反射された光を所望のパターンや光発散プロフィルに分布するように個々に製作可能な新型のキューブコーナ逆反射体を提供するものであること(3頁左欄5行~7行)、キューブコーナ逆反射要素アレイに係る3つの横反射面を画成する3組の隣接した平行V字溝のうち、少なくとも1組のV字溝が、もう1つの溝側角とは異なる少なくとも1つの溝側角を繰り返して含むようにされており、さらに、3組のV字溝のすべてが同じ組のもう1つの溝側とは異なる溝側角を繰り返して含むようにされていること(3頁左欄8行~30行)、キューブコーナ逆反射要素の一つもしくはいくつかの溝側面をその直径(原文ママ、「直交」の誤記と認める。)形成面から傾けると、要素はその出口開口内の6個の副開口が実際上1個の光学開口として機能するものから、6個の副開口が独立に機能して互いに特定位相関係を有するものへと変化し、副開口間の位相関係は光発散プロフィルに強い影響を及ぼすものであって、その効果は出口開口内の振幅と位相の両関係を考慮するフーリエ分析等の方法により計算することができること(7頁左欄20行~29行)、が記載されていることからも、首肯できるものである。
イ そこで、甲27発明において、上記アで説示した3組の平行溝側面がどれになるかについて検討すると、甲27には、
「溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞれ軸186と188に沿って基板に形成され」ること、
「軸194、196に沿って移動する切削工具によって溝側面e、f、g、hが突出部の中に形成され」ること、
「軸202に沿った切削工具の動作によって、対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝を基板190の中に形成」されることが記載されている。
これにより、甲27発明において、軸194方向の切削工具の動作によって対の個別面a’とf、b’とeからなる切削された溝側面が形成され、軸196方向の切削工具の動作によって対の個別面c’とhおよびd’とgからなる切削された溝側面が形成され、軸194方向の「複合面a’f」及び「複合面b’e」からなる溝側面、軸196方向の「複合面c’h」及び「複合面d’g」からなる溝側面、及び「軸202」に沿った切削工具の動作により形成される「対向溝側面iとj」が、切削工具により機械加工されて形成される「平行溝側面」であるといえる。そして、「対向溝側面iとj」に沿って、複数のキューブコーナー素子(錐体)が並んでいるのであるから、例えば図29で示される「錐体206」においてみれば、「表面i」は「1」と、「複合面b’e」と「複合面d’g」はそれぞれ「2」及び「3」と命名し得ることは無効理由1で述べた命名法に照らし明らかである。
ウ 上記ア(イ)によれば、甲27発明に接した当業者は、所望のパターンまたは発散プロフィルに分布する物品を得るべく、PGキューブコーナ要素について、これに存在する3つのキューブ面同士の相互直交性を崩すか否か、また、崩すならばその程度を調整するように、3組の平行溝側面における溝の半角誤差を調整し、そして、この調整を通じて、3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整するところ、甲27発明における3組の平行溝側面は、上記イのとおり、軸194方向の「複合面a’f」及び「複合面b’e」からなる平行溝側面、軸196方向の「複合面c’h」及び「複合面d’g」からなる平行溝側面、並びに「軸202」に沿った切削工具の動作により形成される「対向溝側面iとj」からなっている。
ここで、上記のとおり、PGキューブコーナ要素に存在する3つのキューブ面同士の相互直交性のそれぞれの調整は、発散プロフィルの調整のために行われるのであるが、上記ア(イ)で説示した再帰反射される光が所望の発散プロフィルに分布するメカニズムによれば、3つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度に基づきどのような発散プロフィルが得られるかを、当業者はたやすく導出できる。そして、本件段落には、溝側面を、「溝の半角誤差」として知られる値だけ機械加工することにより、「相互直交面を生成する角度と異なる角度」にできる旨が明記されているところ、当該「相互直交面を生成する角度と異なる角度」という文言に照らせば、「溝の半角誤差」の導入の目的がキューブ面同士の相互直交性の崩れる程度を調整することにあるのが明らかであることから、所望の発散プロフィルに調整しようとする当業者は、「溝の半角誤差」とキューブ面同士の相互直交性の崩れる程度との関係に着目するといえる。しかるに、平行溝側面における溝の半角誤差を定めれば、その溝側面の法線の方向が定まり、その法線の方向に基づいて、キューブ面同士の相互直交性が崩れる程度を幾何学的に計算できることが当業者にとって明らかであるし、また、このような幾何学的関係からすれば、所望の相互直交性の崩れる程度を得るために必要な「溝の半角誤差」を、少なくとも数値計算的には導出可能といえる。そして、本件段落では、導入される溝の半角誤差が、典型的には「±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい値」であることが記載されている。
このように、甲27の記載及び技術常識に照らせば、当業者は、発散プロフィルが3つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度に依存し、その崩れる程度が3組の平行溝側面における溝の半角誤差により調整できることを理解できるとともに、3つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度が定まれば、これによって発散プロフィルをたやすく導出できることから、甲27発明に接した当業者であれば、上記アに示した甲27中の本件段落の記載に基づき、再帰反射される光が分布する発散プロフィルを調整するために、3組の平行溝側面、つまり、軸194方向の「複合面a’f」及び「複合面b’e」からなる溝側面、軸196方向の「複合面c’h」及び「複合面d’g」からなる溝側面、並びに「軸202」に沿った切削工具の動作により形成される「対向溝側面iとj」について、これらの「溝の半角誤差」を、それぞれ、典型的には「±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい値」から適宜選択して、その結果として、3つのキューブ面同士の相互直交性が互いに異なるように崩れたPGキューブコーナ錐体を得ることは、容易に想到し得たことである。このとき、溝の半角誤差の調整は、平行溝側面、つまり、平行に配置された溝側面の集合に対してなされているのであるから、上記の相互直交性に係る崩れは、甲27発明の1つのPGキューブコーナ錐体のみに対して生じるのではなく、「206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群」及び「208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群」に対して生じることになる。
以上のことから、甲27発明において、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度からの偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」とする相違点27-1に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到することができたことである。
(4)本件特許発明の効果について
本件明細書等には、本件特許発明1の構成に基づく効果に関連する記載として、「反射スポットの比較的均一な広がりが再帰反射シートにきわめて望ましいことは明らかである。反対に変化している二面角1-2および二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差を容易に導入できる柔軟性のおかげで、スキュー角および/またはインクリネーション角を利用して比較的均一なスポット反射図を提供することが可能である。」と記載されている(【0088】)。
しかしながら、本件特許発明1の構成において、1つのキューブコーナー素子を構成する3つのキューブ面同士が直交していると、スポット反射が分割されないことは理論的に自明であり、また、上記3(ウ)で説示したとおり、3つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度が定まれば、これによって発散プロフィルをたやすく導出できるから、3つの二面角に互いに異なる二面角誤差を設けることにより、このような誤差を設けない場合と比較して、スポット反射が分割され、比較的均一な反射図となることは、当業者であれば予想できることである。
また、甲27の【0051】の「物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる」旨の記載からみても、本件特許発明の構成である「二面角誤差」の設計により奏される効果は、当業者が予測できた範囲内の効果である。
(5)小括
上記(1)~(4)を総合すると、本件特許発明1は、甲27発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件特許発明2~4について
(1)本件特許発明2について
甲27発明の「表面i」、「複合面b’e」及び「複合面d’g」で構成されるPGキューブコーナ錐体(206)の群に着目すると、各PGキューブコーナ錐体の「複合面b’e」及び「複合面d’g」で構成される二面縁は、互いに略平行をなしており、本件特許発明2は、甲27発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件特許発明3について
上記2(3)で説示したとおり、甲27発明において、PGキューブコーナ要素の二面角誤差を、再帰反射される光が所望のパターンまたは発散プロファイルとなるように設計することは、当業者が容易に想到し得たことであり、二面角誤差が反復パターンで変化するように設計することは、本件段落の「一連の連続した平行溝側面は、abbaabba...またはabcdabcd...,のような溝の半角誤差の繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯一の正または負の値である」の記載にも照らせば、所望のパターンまたは発散プロファイルの一態様として、容易に想到し得たことである。
(3)本件特許発明4について
上記2(3)と同様の理由で、甲27発明において、「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている」とする構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
4 被請求人の主張について
(1)溝の半角誤差と二面角誤差について
被請求人は、(i)甲27の本件段落に記載されている「溝の半角誤差」とは、溝を形成する2つの溝側面のうちの一方の溝側面がなしているキューブコーナ要素の反射面(キューブ面)と、当該キューブコーナ要素に存在する他方の反射面(キューブ面)と、の間に相互直交性をもたらす、溝の半角からの誤差を意味しており、溝の半角誤差は、キューブコーナ要素の内部の二面角誤差とは異なるものであるうえ、(ii)甲27には、いずれの溝に半角誤差を機械加工するのかについて開示はなく、(iii)甲27には、溝の半角誤差をどのように調整すれば、キューブコーナ要素の内部の複数の2面角誤差のそれぞれがどのように調整されるかについての開示はないので、甲27の記載に基づき、相違点27-1に係る構成に容易に想到し得たものではない旨主張する。
ア 上記(i)及び(iii)につき、「溝の半角誤差」と「二面角誤差」は、前者が、溝側面に導入される相互直交面を生成する角度からの誤差に係るものであり、後者が、キューブコーナ要素を構成する3つのキューブ面のうちの2つの面がなす角度の90度からの偏差である点で、別異のものである。しかしながら、上記2(3)ウでも説示したとおり、甲27における「溝の半角誤差」の導入の目的はキューブ面同士の相互直交性の崩れる程度を調整することにあるところ、キューブ面同士の相互直交性の崩れる程度、つまり、二面角誤差に相当する角度が「溝の半角誤差」が導入された溝側面の法線同士の角度から幾何学的に算出可能であることは、当業者の技術常識に照らし明らかであるし、このような幾何学的関係からすれば、所望の複数の二面角誤差を得るために必要な「溝の半角誤差」も、少なくとも数値計算的には導出可能といえる。また、一般に、1つのPGキューブコーナ要素に係る3個の溝側面に導入する溝の半角誤差がそれぞれ異なる値となれば、3つの二面角誤差は互いに異なることになる。よって、甲27発明から出発した当業者は、3組の平行溝側面に導入される「溝の半角誤差」を適宜調整して、相違点27-1に係る構成に至るといえる。
イ 上記(ii)につき、本件段落は、「溝の半角誤差」を導入する対象を「溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)」としているところ、上記2(3)ア(イ)でも説示したとおり、このような「溝側面」が、本件段落に先行する箇所で説明される図4~8に係るキューブコーナ物品では、1つのPGキューブコーナ要素につき3個存在することに照らせば、「溝の半角誤差」を導入する対象である「溝側面」も、1つのPGキューブコーナ要素に係る3個の溝側面と解することが、甲27の記載に接した当業者であれば、むしろ自然であって、しかも、この理解は、上記箇所でも説示した再帰反射される光が発散プロフィルに分布するメカニズムにも沿うものである。
さらにいえば、甲27は、ピンバンドルによるキューブコーナ要素の作製は小さなキューブコーナ要素を作製するには非現実的である(【0006】)一方、直接機械加工技術は、非常に小さいキューブコーナ要素を正確に機械加工でき、ピンバンドル等によって造られる構造化表面よりも、より高い均一性と適合性を有する大きな領域の構造化表面を生成できるものであるが、これにより製造し得るキューブコーナ形状の種類には低い設計柔軟性があった(【0008】・【0009】)ことから、直接機械加工技術を利用してPGキューブコーナ要素のような幾何学的構造を製造するための方法を開示する(【0010】)ものである。このように、甲27は、PGキューブコーナ要素に含まれるような面のように、高い正確性等を備える直接機械加工技術を簡単には利用できないと考えられる面に対してであっても、直接機械加工技術を利用できるようにした点に技術的意義を有するものであるから、本件段落における「溝の半角誤差」として知られる値を導入できる溝側面も、例えば、甲27発明の「対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝」に限定されることはなく、上記のとおり、1つのPGキューブコーナ要素に係る3個の溝側面と解することが当業者にとって自然でもある。
そして、上記箇所でも説示したとおり、PGキューブコーナ要素について、3つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性を調整するためには、3組の平行溝側面における溝の半角誤差を調整することを通じて、これを行えばよいことが明らかである。
ウ したがって、上記主張は採用できない。
(2)「相互直交性」について
被請求人は、(i)甲27は、キューブコーナー要素のキューブ面同士の相互直交性を崩すことについて具体的には何らの開示も示唆もしておらず、(ii)甲43に照らせば、キューブ面の相互直交性を複数調整しなければならない動機付けを当業者は何ら得ることができないし、(iii)本件明細書等の段落【0081】から【0083】及び表3に示すように、1-2二面角誤差と1-3二面角誤差が同じである場合であっても、両二面角ともに誤差がある以上、キューブ面同士の相互直交性は崩れているといえるが、本件明細書等の図24のように均一なスポット図を得ることはできないのであるから、仮に当業者がキューブ面同士の相互直交性を崩せばよいと理解したとしても、均一なスポット図を得ることができるキューブコーナ要素の具体的な構成には何ら想到し得ないと主張する。
ア 上記(i)につき、被請求人の主張は、甲27が、溝の半角誤差をどのように調整すれば、複数の二面角誤差のそれぞれがどのように調整されるかを開示していないとすることを前提にするものであるが、甲27の記載及び技術常識に照らせば、当業者であれば、溝の半角誤差をどのように調整すれば、複数の二面角誤差のそれぞれがどのように調整されるかを理解できることは、上記(1)ア及び上記2(3)ウで説示したとおりであるから、被請求人の主張は、その前提が失当である。
そして、本件段落には、「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる。」としたうえで、「PGキューブコーナ要素を形成する複合面は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができる。」こと、「これは、溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)を、「溝の半角誤差」として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい」こと、「一連の連続した平行溝側面は、abbaabba...またはabcdabcd...,のような溝の半角誤差の繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯一の正または負の値である」ことが記載されている。
そうすると、甲27には、「溝の半角誤差」として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することにより、キューブコーナー要素のキューブ面同士の相互直交性を崩すことができることが、具体的に開示されているといえる。
イ 上記(ii)につき、甲43は、上記無効理由6についての項で説示したとおり、もっぱら、面42と43の間の角度の誤差(2-3二面角誤差)を設けた例を示すにとどまるものであるが、このことは図1にあるように、「ユニーク」な反射素子が特に1組1列に配置されていることとも関連していると解されることから、甲43は、このような配置を前提としない甲27と異なるものといえる(なお、甲43がこのような技術であることは、甲27が本件段落において参照する「米国特許第4,775,219号」(甲73)の日本語対応文献である甲42の第2頁右欄第25行~末行にもその旨記載されている。また、上記甲42の同箇所には、甲43が、個々の成形ピンを精密に製作する必要があると解されるものであって、所望の公差内の逆反射体を得るのが困難な技術であると位置づけられるものであることも記載されていることからみて、甲43が、上記のような反射素子の配置の形態となっている理由には、このような事情があったものとも考えられる。これに対し、甲27は、上記(1)イで説示したとおり、PGキューブコーナ要素に含まれるような面のように、高い正確性等を備える直接機械加工技術を簡単には利用できないと考えられる面に対してであっても、直接機械加工技術を利用できるようにした点に技術的意義を有するものであるから、このような事情はない。)。
そして、甲27に接した当業者が、キューブ面同士の相互直交性を複数調整する動機付けを得るとともに、発散プロフィルを調整するためには、3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することが最も典型的であることを理解することは、上記2(3)ア(イ)で説示したとおりである。また、3つのキューブ面のそれぞれに対応する溝側面に対して溝の半角誤差を導入したときに、複数のキューブ面同士の相互直交性がそれぞれどのように崩れて、内部の複数の二面角誤差のそれぞれがどのように調整されるかについて、甲27に接した当業者が理解できることも、上記(1)ア及び上記2(3)ウで説示したとおりである。
ウ 上記(iii)につき、上述のとおり、上記2(3)ウで説示したとおり、甲27発明から出発した当業者は、相違点27-1に係る構成に至るところ、そのようにして至った構成が、比較的均一な反射図となることは、上記2(4)で説示したとおり、当業者であれば予想できることである。そして、このことは、本件段落によって参照される甲73に係る甲42において、その第9欄第61行~第10欄第5行に、「キューブコーナ逆反射要素の一つもしくはいくつかの溝側面をその直径(原文ママ、「直交」の誤記と認める。)形成面から傾けると、要素はその出口開口内の6個の副開口が実際上1個の光学開口として機能するものから、6個の副開口が独立に機能して互いに特定位相関係を有するものへと変化することからも証明される。副開口間の位置関係は光発散プロフィルに強い影響を及ぼす。効果は出口開口内の振幅と位相の両関係を考慮するフーリエ分析の方法により計算することができる。」と記載されていることとも符合する。すなわち、キューブコーナ要素の3つの直交形成面から傾けることにより、6個の光学開口(2+2+2)として機能し得るというメカニズムは技術常識といえるものであり、当該開口間の位置関係は光発散プロフィルに影響があって、そのプロフィルも計算可能であることが優先日当時の当業者の技術水準であったのであるから、甲27の「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許4,775,219号・・・によって教示されるように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整する」との記載に接した当業者であれば、再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように、PGキューブコーナ要素に存在する3つのキューブ面同士の相互直交性を複数、つまり光学開口が6となるよう「1-2二面角」、「1-3二面角」及び「2-3二面角」の相互直交性が全て異なるように調整すれば、比較的均一な反射図となることは、たやすく理解できる。
エ したがって、上記主張は採用できない。
(3)「個別に調整」について
被請求人は、甲27の本件段落の「本出願に開示したキューブコーナ要素は、・・・再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロファイルに分布するように個別に調整することができる。」との記載について、当該記載のみからは、キューブコーナ要素について何をどのように調整するのか不明であるころ、当該記載に引き続く記載からすれば、甲27は、「個別に調整」する具体例として、溝の半角誤差を繰り返しパターンで異ならせることを開示するのみであって、いずれの溝に半角誤差を加工するのか何ら開示も示唆もしておらず、3種類の溝の半角誤差を個別に調整することなど何ら開示も示唆もしていない旨主張する。
確かに、本件段落の上記記載は、「本出願に開示したキューブコーナ要素は、・・・物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる」とあるとおり、「個別に調整」する対象となる目的語についての明示はなく、この点は、被請求人が主張するとおりである。しかしながら、本件段落には、PGキューブコーナ要素について「調整」される旨の上記記載に続けて、当該「調整」のための具体的な手段として、「「溝の半角誤差」として知られる値だけ、・・・機械加工」することが記載され、その対象として「複合面」ないし「溝側面」が明記されている。そして、これら「複合面」ないし「溝側面」は、甲27発明の製造方法からみて、明らかに3種類存在するのであるし、このように理解することは、上記(1)イで説示した甲27に記載された技術的事項の意義にも沿うことから、「溝の半角誤差」として知られる値だけ、機械加工する対象となるものが、これらがそれぞれ属する3つの平行溝側面全てであることは明らかである。したがって、本件段落の「キューブコーナ要素は、・・・個別に調整する」とは、上記2(3)ア(イ)で説示したとおりになる。
これに対し、被請求人は、「個別に調整」することの意味を、平行する溝別に調整することである旨主張し、その根拠として、具体例が、溝の半角誤差を繰り返しパターンで異ならせることを開示するのみであることを挙げる。しかしながら、上記のとおり、本件段落には、「調整」される具体的なものとして「複合面」ないし「溝側面」が明記されていることから、当業者が、上記の具体例の存在をもって、「個別に調整」することの意味を被請求人が主張するように理解することはないといえる。
したがって、上記主張は採用できない。
第13 まとめ
本件特許の請求項1~請求項4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1項2号に該当し、無効理由7により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800070