特許無効審判
2021-800041
多環芳香族化合物
- 審判番号
- 2021-800041
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2015-555894
- 登録番号
- 5935199
- 請求日
- 2021年05月07日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エスエフシー カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】増井 和夫
- 【請求人代理人】橋口 尚幸
- 【請求人代理人】齋藤 誠二郎
- 【被請求人】学校法人 関西学院
- 【被請求人代理人】末吉 剛
- 【被請求人代理人】高橋 聖史
- 【被請求人】エスケーマテリアルズジェイエヌシー 株式会社
- 【被請求人代理人】末吉 剛
- 【被請求人代理人】高橋 聖史
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 瀬良 聡機
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1123.537-YAA(C07F) / P1123.536-YAA(C07F) / P1123.113-YAA(C07F) / P1123.121-YAA(C07F) / P1123.851-YAA(C07F) / P1123.853-YAA(C07F) / P1123.854-YAA(C07F) / P1123.855-YAA(C07F) / P1123.856-YAA(C07F) / P1123.857-YAA(C07F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第123条第1項第4号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5935199号発明「多環芳香族化合物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第5935199号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3~20〕、〔21~24〕、2、25、26、27、28について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許
特許第5935199号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2015年2月18日(優先権主張 平成26年2月18日、同年10月7日)を国際出願日とする出願(特願2015-555894号)であって、平成28年5月20日に特許権の設定登録がされたものである。設定登録時の請求項の数は24である。
2 本件審判請求
本件特許について、令和3年5月7日に、請求人 エスエフシー カンパニー リミテッドより、「特許第5935199号の請求項1乃至5、9乃至24に記載された各発明について特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との無効審判請求(以下「本件審判請求」という。)がされた。
本件審判請求の手続の経緯の概要は次のとおりである。
令和3年 5月 7日 審判請求書及び甲第1~5号証提出
(請求人)
同年 7月16日付け 手続続行通知(権利異動)
同日付け 請求書副本の送達通知(答弁指令)
同年 8月18日 上申書提出
(指定期間延長願い、被請求人)
同年 同月27日付け 通知書(指定期間延長)
同年11月16日 答弁書及び乙第1~13号証提出
(被請求人)
同日 訂正請求書提出
令和4年 1月12日 上申書及び乙第14号証提出(被請求人)
同年 2月 7日 通知書(審尋事項通知)
同年 3月 4日 面接記録(計画対話審理における口頭審尋)
同年 同月14日付け 訂正拒絶理由通知及び職権審理結果通知
同年 同月25日 上申書提出(請求人)
同年 4月 1日 手続補正書(訂正請求)及び意見書提出
(被請求人)
同年 同月15日付け 手続補正指令(方式)
同年 同月22日 手続補正書(方式)提出(被請求人)
同年 5月13日付け 審理事項通知
同年 6月 1日 上申書提出(被請求人)
同年 同月 6日 口頭審理陳述要領書及び
甲第6~14号証提出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年 同月20日 第1回口頭審理
同年 7月11日 上申書提出(被請求人)
同年 8月 1日 上申書提出(請求人)
第2 訂正の適否
1 訂正請求書の手続補正の適否について
令和3年11月16日提出の訂正請求書は、令和4年4月1日提出の手続補正書(訂正請求)による手続補正(以下「本件補正」という。)及び同22日提出の手続補正書(方式)による手続補正により補正されたので、その適否について検討する。
なお、上記手続補正書(方式)による手続補正は、令和4年4月1日提出の手続補正書(訂正請求)に添付した「訂正した特許請求の範囲」における、化学式を示す番号【化8】の誤記を、手続補正指令にしたがって【化9】に訂正するものである。
(1)本件補正の内容
本件補正の内容は、以下のとおりである(訂正事項については、下記2参照)。
ア 訂正事項1、2、5及び9~12による訂正において、訂正前の「多量体」との記載を「縮合系多量体」と訂正する訂正事項を削除する。
イ 訂正事項7及び8による訂正において、上記アの訂正事項1についてした補正に連動して、訂正前の記載に「、またはその縮合系多量体」を追加した訂正事項から「縮合系」との文言のみを削除する。
(2)本件補正の適否
訂正事項1に係る上記アの補正は、訂正事項1に含まれる複数の訂正事項の一部を削除する減縮的な変更であり、かつ当該複数の訂正事項が独立したものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものに該当しない。訂正事項2、5及び9~12に係る上記アの補正についても同様である。
また、上記イの補正は、請求項1のみを引用する訂正前の請求項7及び8について、上記アの請求項1についてする訂正事項1から一部の訂正事項を削除する補正に整合させるためのものであって、軽微な瑕疵の補正といえるから、訂正請求書の要旨を変更するものには該当しない。
したがって、本件補正による訂正請求書の補正を認める。
なお、令和4年3月14日付け職権審理結果通知に対して、請求人から意見書の提出はなかった。
2 請求の趣旨及び訂正の内容
上記1(2)のとおり、本件補正は認められるので、令和3年11月16日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、「特許第5935199号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし28について訂正することを求める。」というものであり、その内容は以下のとおりである。
なお、下線は訂正箇所を示す。また、記載の転記は、すべて全角にして記載する。以下、審決全体についても同様である。
(1)訂正事項1
請求項1に、
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体。
【化1】
[図:0001422770000001.jpg]
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、
Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」
と記載されているのを、
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態である、多環芳香族化合物またはその多量体。
【化1】
[図:0001422770000002.jpg]
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」
と訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~20についても、同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2に、
「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、
Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、
請求項1に記載する多環芳香族化合物またはその多量体。」
と記載されているのを、
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化532】
[図:0001422770000003.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、
多環芳香族化合物またはその多量体。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
請求項3に、
「下記一般式(2)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化2】
[図:0001422770000004.jpg]
(上記式(2)中、
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、
Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、
Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(2)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」
と記載されているのを、
「下記一般式(2)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化2】
[図:0001422770000005.jpg]
(上記式(2)中、
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(2)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」
と訂正する。
請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4、5及び9~20についても、同様に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項4に、
「R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリールまたはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールで置換されていてもよく、
Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、
Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-RまたはSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、
Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にOまたはSであるか、一方がOで他方がSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい、
請求項3に記載する多環芳香族化合物。」
と記載されているのを、
「R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリールまたはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールで置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-RまたはSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、
そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい、
請求項3に記載する多環芳香族化合物。」
と訂正する。
請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5及び9~20についても、同様に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項5に、
「前記ハロゲンはフッ素である、請求項1~4のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体。」
と記載されているのを、
「前記ハロゲンはフッ素である、請求項1、3および4のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体。」
と訂正する。
請求項5を直接又は間接的に引用する請求項9~20についても、同様に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項6に、
「下記式(1-1)、下記式(1-2)、下記式(1-4)、下記式(1-10)、下記式(1-49)、下記式(1-81)、下記式(1-91)、下記式(1-100)、下記式(1-141)、下記式(1-151)、下記式(1-176)、下記式(1-411)、下記式(1-447)、下記式(1-601)または下記式(1-701)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化3】
[図:0001422770000006.jpg]
」
と記載されているのを、
「下記式(1-1)、下記式(1-2)、下記式(1-4)、下記式(1-10)、下記式(1-49)、下記式(1-81)、下記式(1-91)、下記式(1-100)、下記式(1-141)、下記式(1-151)、下記式(1-176)、下記式(1-411)、または下記式(1-447)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化3】
[図:0001422770000007.jpg]
」
と訂正する。
請求項6を直接又は間接的に引用する請求項9~20についても、同様に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項7に、
「下記式(1-21)、下記式(1-23)、下記式(1-24)、下記式(1-50)、下記式(1-152)、下記式(1-201)、下記式(1-401)、下記式(1-422)、下記式(1-1048)、下記式(1-1049)、下記式(1-1050)、下記式(1-1069)、下記式(1-1084)、下記式(1-1090)、下記式(1-1092)、下記式(1-1101)、下記式(1-1102)、下記式(1-1103)、下記式(1-1145)、下記式(1-1152)、下記式(1-1159)、下記式(1-1187)、下記式(1-1190)、下記式(1-1191)、下記式(1-1192)、下記式(1-1201)、下記式(1-1210)、下記式(1-1247)、下記式(1-1250)、下記式(1-1251)、下記式(1-1252)または下記式(1-1271)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化4】
[図:0001422770000008.jpg]
【化5】
[図:0001422770000009.jpg]
」
と記載されているのを、
「下記式(1-21)、下記式(1-23)、下記式(1-24)、下記式(1-50)、下記式(1-152)、下記式(1-201)、下記式(1-401)、下記式(1-422)、下記式(1-1048)、下記式(1-1049)、下記式(1-1050)、下記式(1-1069)、下記式(1-1084)、下記式(1-1090)、下記式(1-1092)、下記式(1-1101)、下記式(1-1102)、下記式(1-1103)、下記式(1-1145)、下記式(1-1152)、下記式(1-1159)、下記式(1-1201)、下記式(1-1210)、または下記式(1-1271)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物、またはその多量体。
【化4】
[図:0001422770000010.jpg]
【化5】
[図:0001422770000011.jpg]
」
と訂正する。
請求項7を直接又は間接的に引用する請求項9~20についても、同様に訂正する。
(8)訂正事項8
請求項8に、
「下記式(1-1-1)、下記式(1-79)、下記式(1-142)、下記式(1-152-2)、下記式(1-158)、下記式(1-159)、下記式(1-721)、下記式(1-1006)、下記式(1-1104)、下記式(1-1149)、下記式(1-1150)、下記式(1-1301)、下記式(1-1351)、下記式(1-2305)、下記式(1-2626)、下記式(1-2657)、下記式(1-2662)、下記式(1-2665)、下記式(1-2676)、下記式(1-2678)、下記式(1-2679)、下記式(1-2680)、下記式(1-2681)、下記式(1-2682)、下記式(1-2683)、下記式(1-2691)、下記式(1-2699)、下記式(1-3588)、下記式(1-3654)、下記式(1-3690)、下記式(1-3806)、下記式(1-3824)、下記式(1-4114)、下記式(1-4150)、下記式(1-4341)、下記式(1-4346)、下記式(1-4401)、下記式(1-4421-1)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化6】
[図:0001422770000012.jpg]
【化7】
[図:0001422770000013.jpg]
」
と記載されているのを、
「下記式(1-1-1)、下記式(1-79)、下記式(1-142)、下記式(1-152-2)、下記式(1-158)、下記式(1-159)、下記式(1-1006)、下記式(1-1104)、下記式(1-1149)、下記式(1-1150)、下記式(1-1301)、下記式(1-1351)、下記式(1-2305)、下記式(1-2626)、下記式(1-2657)、下記式(1-2662)、下記式(1-2665)、下記式(1-2676)、下記式(1-2678)、下記式(1-2679)、下記式(1-2680)、下記式(1-2681)、下記式(1-2682)、下記式(1-2683)、下記式(1-2691)、下記式(1-2699)、下記式(1-4401)、下記式(1-4421-1)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物、またはその多量体。
【化6】
[図:0001422770000014.jpg]
【化7】
[図:0001422770000015.jpg]
」
と訂正する。
請求項8を直接又は間接的に引用する請求項9~20についても、同様に訂正する。
(9)訂正事項9
ア 訂正事項9-1
請求項9に、
「請求項1ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。」
と記載されているうちの請求項1の記載を引用する請求項2を引用するものについて、
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化533】
[図:0001422770000016.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、
多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。」
と訂正して、新たに請求項25とする。
イ 訂正事項9-2
請求項9に、
「請求項1ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。」
と記載されているのを、
「請求項1、請求項3ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。」
と訂正する。
請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10~20についても、同様に訂正する。
(10)訂正事項10
請求項10に、
「前記有機デバイス用材料が、有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、請求項9に記載する有機デバイス用材料。」
と記載されているうちの請求項9が請求項1の記載を引用する請求項2を引用するものについて、
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化534】
[図:0001422770000017.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、
有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、有機デバイス用材料。」
と訂正して、新たに請求項26とする。
(11)訂正事項11
請求項11に、
「発光層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。」
と記載されているうちの請求項10が引用する請求項9が請求項1の記載を引用する請求項2を引用するものについて、
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化535】
[図:0001422770000018.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、
発光層用材料である、有機電界発光素子用材料。」
と訂正して、新たに請求項27とする。
(12)訂正事項12
請求項14に、
「陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、請求項11に記載する発光層用材料を含有する発光層とを有する、有機電界発光素子。」
と記載されているうちの請求項11が引用する請求項10が引用する請求項9が請求項1の記載を引用する請求項2を引用するものについて、
「陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化536】
[図:0001422770000019.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、発光層用材料を含有する発光層とを有する、有機電界発光素子。」
と訂正して、新たに請求項28とする。
(13)訂正事項13
請求項21に、
「Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。
【化8】
[図:0001422770000020.jpg]
(上記(中間体)および式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」
と記載されているのを、
「Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。
【化8】
[図:0001422770000021.jpg]
(上記(中間体)および式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」
と訂正する。
請求項21を直接又は間接的に引用する請求項22~24についても、同様に訂正する。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は請求項1についての訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項1-1
訂正前の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」との記載を、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態である、多環芳香族化合物またはその多量体」として、多環芳香族多量体の特定事項を追加する。
訂正事項1-2
訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的に記載された選択肢(以下「択一的選択肢」という。)からP=O又はP=Sである場合を削除し、「Y1がBのとき、」という記載と、Y1がP=O又はP=Sである場合の説明の記載を削除する。
イ 訂正の目的について
訂正事項1-1は、多環芳香族化合物の多量体の結合形態を特定して限定するものであり、訂正事項1-2は、式(1)のY1の択一的選択肢の一部を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1-2において、「Y1がBのとき、」という記載を削除することは、Y1の選択肢がBのみとなったことと整合させるために行うものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
ウ 新規事項の追加について
訂正事項1-1は、本件特許明細書の段落【0063】の「また、本願発明は、一般式(1)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体、好ましくは、一般式(2)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体である。多量体は、2~6量体が好ましく、2~3量体がより好ましく、2量体が特に好ましい。多量体は、一つの化合物の中に上記単位構造を複数有する形態であればよく、例えば、上記単位構造が単結合、炭素数1~3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態に加えて、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環、a環、b環またはc環)を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態であってもよく、また、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環、a環、b環またはc環)同士が縮合するようにして結合した形態であってもよい。」との記載に基づくものであり、訂正事項1-2は、Y1の択一的選択肢の一部と「Y1がBのとき」という記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
エ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、上記イ及びウのとおり、特許明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮し、また明瞭でない記載を釈明するものであって、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
オ 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~20についての訂正も同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号を目的とするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は請求項2についての訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項2-1
訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改める。
訂正事項2-2
訂正前の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」との記載を、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」として、多環芳香族多量体の特定事項を追加する。
訂正事項2-3
訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からBである場合を削除し、「Y1がP=OまたはP=Sのとき、」という記載と、Y1がBである場合の説明の記載を削除する。
イ 訂正の目的について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用するものであったところ、請求項間の引用関係を解消して、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項2-2は、多環芳香族化合物の多量体の結合形態を特定して限定するものであり、訂正事項2-3は、式(1)のY1の択一的選択肢の一部を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2-3において、「Y1がP=OまたはP=Sのとき」という記載を削除することは、Y1の選択肢がP=O又はP=Sのみとなったことと整合させるために行うものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
ウ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2-2及び2-3は、削除する選択肢が異なる以外、実質的に訂正事項1-1及び1-2と同様であるから、上記(1)ウ及びエと同様に、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、訂正事項2-1が、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであることは明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3についての訂正であり、訂正前の式(2)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からP=O又はP=Sである場合を削除し、「Y1がBのとき、」という記載と、Y1がP=O又はP=Sである場合の説明の記載を削除するものであるから、実質的に訂正事項1-2と同様であり、上記(1)イ~エと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号を目的とするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4、5及び9~20についての訂正も同様である。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4についての訂正であり、訂正前の式(2)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からP=O又はP=Sである場合を削除し、「Y1がBのとき、」という記載と、Y1がP=O又はP=Sである場合の説明の記載を削除するものであるから、実質的に訂正事項1-2と同様であり、上記(1)イ~エと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号を目的とするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5及び9~20についての訂正も同様である。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項5についての訂正であり、請求項2を引用しないものとして、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項5が、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであることは明らかである。
請求項5を直接又は間接的に引用する請求項9~20についての訂正も同様である。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項6は、請求項6についての訂正であり、訂正前の式で表される多環芳香族化合物の選択肢から、「下記式(1-601)」及び「下記式(1-701)」の記載及びこれらの式の化合物の記載を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項6が、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであることは明らかである。
請求項6を直接又は間接的に引用する請求項9~20についての訂正も同様である。
イ 独立特許要件について
訂正事項6は、本件審判請求がされていない請求項6についてするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、いわゆる独立特許要件の適否について検討を要するものである。
そこで検討するに、訂正事項6は、択一的選択肢の一部を削除するものであるから、本件訂正後の請求項6について特許法第29条第1項第3号又は第2項等に関して(新規性・進歩性等に関して)見直すべき新たな事情は存在せず、訂正事項6により特許法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正事項6は、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
(7)訂正事項7について
ア 訂正事項7は請求項7についての訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項7-1
訂正前の式で表される多環芳香族化合物の選択肢から、「下記式(1-1187)」、「下記式(1-1190)」、「下記式(1-1191)」、「下記式(1-1192)」、「下記式(1-1247)」、「下記式(1-1250)」、「下記式(1-1251)」及び「下記式(1-1252)」の記載及びこれらの式の化合物の記載を削除する。
訂正事項7-2
「、またはその多量体」という特定事項を追加する。
イ 訂正の目的について
訂正事項7-1は、訂正前の式で表される多環芳香族化合物の選択肢を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項7-2は、請求項7の式で表される多環芳香族化合物の選択肢に、請求項7が引用する請求項1における一般式(1)で表される多環芳香族化合物に該当するものに加えて、一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体に該当するものが含まれているのに、「請求項1に記載する多環芳香族化合物。」と多量体について記載していないことから、請求項1との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、請求項7を直接又は間接的に引用する請求項9~20についての訂正も同様である。
ウ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項7-1は、実質的に訂正事項6と同様であり、上記(6)アと同様に、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合することは明らかである。
また、訂正事項7-2は、請求項7の式で表される多環芳香族化合物について、その本来の意を明らかにしたものであって、選択肢以外の多環芳香族化合物の多量体が含まれることになるものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する
そして、請求項7を直接又は間接的に引用する請求項9~20についての訂正も同様である。
エ 独立特許要件について
訂正事項7は、本件審判請求がされていない請求項7についてするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるから、いわゆる独立特許要件の適否について検討を要するものである。
そこで検討するに、訂正事項7は、上記イ及びウのとおり、択一的選択肢の一部を削除するものであって、選択肢以外のものが含まれることになるものでもないから、本件訂正後の請求項7について特許法第29条第1項第3号又は第2項等に関して(新規性・進歩性等に関して)見直すべき新たな事情は存在せず、訂正事項7により特許法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正事項7は、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
(8)訂正事項8について
ア 訂正事項8は請求項8についての訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項8-1
訂正前の式で表される多環芳香族化合物の選択肢から、「下記式(1-721)」、「下記式(1-3588)」、「下記式(1-3654)」、「下記式(1-3690)」、「下記式(1-3806)」、「下記式(1-3824)」、「下記式(1-4114)」、「下記式(1-4150)」、「下記式(1-4341)」及び「下記式(1-4346)」の記載及びこれらの式の化合物の記載を削除する。
訂正事項8-2
「、またはその多量体」という特定事項を追加する。
イ 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項8-1及び8-2は、請求項1を引用する請求項8について、実質的に訂正事項7-1及び7-2と同様の訂正をするものであるから、上記(7)イ及びウと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号を目的とするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、請求項8を直接又は間接的に引用する請求項9~20についての訂正も同様である。
ウ 独立特許要件について
訂正事項8は、本件審判請求がされていない請求項8についてするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるから、いわゆる独立特許要件の適否について検討を要するものである。
そこで検討するに、訂正事項8は、上記イのとおり、択一的選択肢の一部を削除するものであって、選択肢以外のものが含まれることになるものでもないから、本件訂正後の請求項8について特許法第29条第1項第3号又は第2項等に関して(新規性・進歩性等に関して)見直すべき新たな事情は存在せず、訂正事項8により特許法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正事項8は、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
(9)訂正事項9-1について
ア 訂正事項9-1は請求項25を追加する訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項9-1-1
訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2を引用する請求項9について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改める。
訂正事項9-1-2
訂正前の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」との記載を、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」として、多環芳香族多量体の特定事項を追加する。
訂正事項9-1-3
訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からBである場合を削除し、「Y1がP=OまたはP=Sのとき、」という記載と、Y1がBである場合の説明の記載を削除する。
イ 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項9-1-1~9-1-3は、それぞれ実質的に訂正事項2-1~2-3と同様の訂正であるから、上記(2)イ及びウと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号を目的とするものであって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(10)訂正事項9-2について
訂正事項9-2は、実質的に訂正事項5と同様であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号を目的とするものであって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであることは明らかである。
請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10~20についての訂正も同様である。
(11)訂正事項10について
ア 訂正事項10は請求項26を追加する訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項10-1
訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2を引用する請求項9を引用する請求項10について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改める。
訂正事項10-2
訂正前の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」との記載を、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」として、多環芳香族多量体の特定事項を追加する。
訂正事項10-3
訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からBである場合を削除し、「Y1がP=OまたはP=Sのとき、」という記載と、Y1がBである場合の説明の記載を削除する。
イ 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項10-1~10-3は、それぞれ実質的に訂正事項2-1~2-3と同様の訂正であるから、上記(2)イ及びウと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号を目的とするものであって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(12)訂正事項11について
ア 訂正事項11は請求項27を追加する訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項11-1
訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2を引用する請求項9を引用する請求項10を引用する請求項11について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改める。
訂正事項11-2
訂正前の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」との記載を、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」として、多環芳香族多量体の特定事項を追加する。
訂正事項11-3
訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からBである場合を削除し、「Y1がP=OまたはP=Sのとき、」という記載と、Y1がBである場合の説明の記載を削除する。
イ 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項11-1~11-3は、それぞれ実質的に訂正事項2-1~2-3と同様の訂正であるから、上記(2)イ及びウと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号を目的とするものであって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(13)訂正事項12について
ア 訂正事項12は請求項28を追加する訂正であるところ、その訂正の内容は次のように分けられる。
訂正事項12-1
訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2を引用する請求項9を引用する請求項10を引用する請求項11を引用する請求項14について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改める。
訂正事項12-2
訂正前の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」との記載を、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」として、多環芳香族多量体の特定事項を追加する。
訂正事項12-3
訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からBである場合を削除し、「Y1がP=OまたはP=Sのとき、」という記載と、Y1がBである場合の説明の記載を削除する。
イ 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項12-1~12-3は、それぞれ実質的に訂正事項2-1~2-3と同様の訂正であるから、上記(2)イ及びウと同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号を目的とするものであって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(14)訂正事項13について
訂正事項13は、請求項21についての訂正であり、訂正前の式(1)の説明の記載について、Y1の択一的選択肢からP=O又はP=Sである場合を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項13が、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであることは明らかである。
請求項21を直接又は間接的に引用する請求項22~24についての訂正も同様である。
(15)一群の請求項について
訂正前の請求項1~20について、請求項2~20は、直接又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~20に対応する訂正後の請求項1~20及び25~28は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項21~24について、請求項22~24は請求項21を引用しているものであって、訂正事項13によって記載が訂正される請求項21に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項21~24に対応する訂正後の請求項21~24は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
なお、本件訂正は、一群の請求項〔1~20、25~28〕について請求されているところ、訂正後の請求項2、25、26、27及び28のそれぞれに係る訂正については、被請求人は、当該訂正が認められる場合には、それぞれを、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
なお、本件訂正について、請求人は、意見はないとしている(口頭審理陳述要領書4ページ「6-1」)。
4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項~第7項に規定する要件に適合する。
よって、結論のとおり本件訂正を認める。
第3 本件訂正発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~5及び9~28に係る発明(以下、それぞれ請求項順に「本件訂正発明1」などといい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。)は、令和4年4月22日提出の手続補正書(方式)に添付された訂正した特許請求の範囲の請求項1~5及び9~28に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態である、多環芳香族化合物またはその多量体。
【化1】
[図:0001422770000022.jpg]
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化532】
[図:0001422770000023.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、
多環芳香族化合物またはその多量体。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。
【化2】
[図:0001422770000024.jpg]
(上記式(2)中、
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(2)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)
【請求項4】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリールまたはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールで置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-RまたはSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、
そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい、
請求項3に記載する多環芳香族化合物。
【請求項5】
前記ハロゲンはフッ素である、請求項1、3および4のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体。」、
「【請求項9】
請求項1、請求項3ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。
【請求項10】
前記有機デバイス用材料が、有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、請求項9に記載する有機デバイス用材料。
【請求項11】
発光層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。
【請求項12】
電子注入層用材料または電子輸送層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。
【請求項13】
正孔注入層用材料または正孔輸送層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。
【請求項14】
陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、請求項11に記載する発光層用材料を含有する発光層とを有する、有機電界発光素子。
【請求項15】
陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陰極および前記発光層の間に配置され、請求項12に記載する電子注入層用材料および/または電子輸送層用材料を含有する電子注入層および/または電子輸送層とを有する、有機電界発光素子。
【請求項16】
陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置され、請求項13に記載する正孔注入層用材料および/または正孔輸送層用材料を含有する正孔注入層および/または正孔輸送層とを有する、有機電界発光素子。
【請求項17】
さらに、前記陰極と該発光層との間に配置される電子輸送層および/または電子注入層を有し、該電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、キノリノール系金属錯体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ボラン誘導体およびベンゾイミダゾール誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項14~16のいずれかに記載する有機電界発光素子。
【請求項18】
前記電子輸送層および/または電子注入層が、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項17に記載の有機電界発光素子。
【請求項19】
請求項14~18のいずれかに記載する有機電界発光素子を備えた表示装置。
【請求項20】
請求項14~18のいずれかに記載する有機電界発光素子を備えた照明装置。
【請求項21】
Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。
【化8】
[図:0001422770000025.jpg]
(上記(中間体)および式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)
【請求項22】
有機アルカリ化合物を用いて下記中間体におけるX1とX2の間の水素原子をオルトメタル化する反応工程と、
Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬を用いて前記メタルとY1とを交換する反応工程と、
ブレンステッド塩基を用いて連続的な芳香族求電子置換反応により下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程と
を含む、請求項21に記載する下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。
【化9】
[図:0001422770000026.jpg]
【請求項23】
前記連続的な芳香族求電子置換反応により前記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程において、さらにルイス酸を加えて反応を促進させることを特徴とする、請求項21または22に記載する製造方法。
【請求項24】
さらに中間体におけるX1とX2の間の水素原子をあらかじめハロゲン化する反応工程を含む、請求項21~23のいずれかに記載する製造方法。
【請求項25】
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化533】
[図:0001422770000027.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、
多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。
【請求項26】
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化534】
[図:0001422770000028.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、
有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、有機デバイス用材料。
【請求項27】
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化535】
[図:0001422770000029.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、
発光層用材料である、有機電界発光素子用材料。
【請求項28】
陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、
下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、
【化536】
[図:0001422770000030.jpg]
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、
Y1は、P=OまたはP=Sであり、
X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、発光層用材料を含有する発光層とを有する、有機電界発光素子。」
第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の請求の趣旨及びその主張の概要並びに証拠方法
(1)請求人の請求の趣旨及び無効理由の概要
前記第2のとおり、本件訂正は認められるので、請求人の請求の趣旨は、「特許第5935199号の請求項1乃至5、9乃至28に記載された各発明について特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である
そして、請求人が、審判請求書、令和4年3月25日提出の上申書、口頭審理陳述要領書及び令和4年8月1日提出の上申書において主張する無効理由1~6は、概略以下のとおりである(第1回口頭審理調書)。
ア 無効理由1(サポート要件違反)
請求項1~5及び9~28に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(ア)請求項1~5(化合物の発明)について
本件特許の解決しようとする課題は、有機EL素子材料として有用な化合物を提供することである。
請求項1~2に係る発明は、特許請求の範囲の記載が無限定かつ非常に広範なため、請求項1~2に包摂される化合物は無数に存在する。
実施例を参酌しても、実施例で使用された化合物は限られており、以下の記載不備が認められる。
ヘテロ原子であるB、P、O、N、S、Seなどを含む中央の縮合2環構造(D構造)の周囲にベンゼン環などを配することを特徴としているが、縮合2環構造を構成するヘテロ原子は、相互に電子的性質が大きく相違するのであるから、例えばX1及びX2がOの場合に効果があるとしても、N、S又はSeでも同様の効果があると認識し得る根拠は存在しない。
縮合2環構造のヘテロ原子の作用を特徴としているのであるから、ヘテロ原子が直接結合する芳香環が、ベンゼン環であるか、それ自体がヘテロアリール環であるかは、重要な相違点であり、ベンゼン環との電子状態の相違により、実施例と同等の効果が得られると認識することはできない。
最も大きい実施例73(化合物1-1006)の環構造にしても、炭素数は18個であり、炭素数がさらに多いアリール環又はヘテロアリール環であれば、有機EL素子材料にとって重要なπ電子の広がりの状態が大きく異なるのであるから、実施例の化合物と同視することはできない。
A~C環の置換基は無限定であるのに実施例はフェニル基とジフェニルアミノ基が多く、実施例と同様の作用効果が得られることの裏付けにはなり得ず、極性の異なる置換基について、どのような影響があるかを知ることは、本件明細書の開示からは不可能である。なお、A~C環の構造や置換基によって、有機EL素子材料としての作用効果に大きな相違を生ずることは、本件明細書の実施例及び比較例のデータからも明らかに認められる。
特にハロゲンで置換された場合には、ベンゼン環等の電子状態に影響を与えるので、結果的に有機EL素子材料としての特性にも影響するはずであり、実施例なしにハロゲンを含む化合物の発明が開示されているとは認められない。
請求項3~4に係る発明は、請求項1~2に係る発明よりは限定はされているが、請求項1~2に係る発明と同様に実施例にない組み合わせを含んでいる。
請求項5に係る発明は、実施例がなく、本件明細書の記載においてもフッ素を含有することが如何なる技術的意義を有するかについても不明である。
(イ)請求項9~20及び25~28(用途の発明)について
請求項9~20及び25~28に係る発明は、請求項1などを引用する用途発明であるから、請求項1などがサポート要件を満たしていない以上、同様に無効である。
(ウ)請求項21~24(製造方法の発明)について
請求項21~24に係る発明は、請求項1に対応する化合物の製造方法の発明であるところ、本件発明の課題は有機EL素子材料として有用な化合物を提供することであり、製造方法それ自体が課題を解決する発明ではないから、製造される化合物が有機EL素子材料に適していることが明細書の記載から理解できなければならないが、請求項1などがサポート要件を満たしていない以上、同様の無効理由がある。
イ 無効理由2(実施可能要件)
請求項1、2、5及び9~28に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(ア)請求項1、2、5、9~20及び25~28(化合物及び用途の発明)について
本件明細書に記載の合成例はすべて、A~C環とD構造とが結合を共有している位置の環がベンゼン環であるところ、マーカッシュ形式で記載された請求項の残りの選択肢について、当業者が「過度の試行錯誤を要することなく」実施できるとする根拠が説明されていないし、技術常識でもない。
(イ)請求項21~24(製造方法の発明)について
Y1と結合を形成する環がヘテロアリール環(5員環又は6員環)である場合の実施例は存在せず、発明の詳細な説明の一般記載にも、ヘテロアリール環がY1と結合する化合物の具体的な構造式の開示すらないところ、ヘテロアリール環とベンゼン環では電子状態が異なり、特に5員環の場合はその形状の相違も大きいから、A~C環がヘテロアリール環である場合は、当業者といえども、式(1)の化合物を得ることができるかどうか判断できないのであり、使用すべき試薬や反応条件も不明である。
ウ 無効理由3
(ア)無効理由3-1(新規性欠如)
請求項1~5に係る発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(イ)無効理由3-2(進歩性欠如)
請求項1~5、9~20及び25~28に係る発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である、甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
エ 無効理由4(進歩性欠如)
請求項1~5、9~20及び25~28に係る発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
オ 無効理由5(進歩性欠如)
請求項1~5、9~20及び25~28に係る発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である、甲第3号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
カ 無効理由6(進歩性欠如)
請求項21~24に係る発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である、甲第4号証に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、これらの請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)証拠方法
請求人は、証拠方法として以下の書証を提出している。
甲第1号証:国際公開第2012/118164号
甲第2号証:特開2012-234873号公報
甲第3号証:特表2009-512628号公報
甲第4号証:Organic Letters,2011,Vol.13
,No.8,p.2130-2133
甲第5号証:国際公開第2010/104047号
甲第6号証:特開平11-167991号
甲第7号証:特開平11-307255号
甲第8号証:特許第3148176号公報
甲第9号証:特表2012-506879号
甲第10号証:特許第5237090号
甲第11号証:R&D Review of Toyota CRDL,
2001.9,Vol.36,No.3,p.57
甲第12号証:Chemistry-An Asian Journal
,2009,Vol.4,p.42-49
甲第13号証:Advanced Synthesis & Catal
ysis,2013,Vol.355,p.3625-3
632
甲第14号証:Chemical Science,2013,Vol.
4,p.3298-3303
なお、以下、甲第1号証などを「甲1」などという。
また、証拠の認否について、被請求人は、甲1~14について成立を認めている(第1回口頭審理調書)。
2 被請求人の答弁の趣旨及びその主張の概要並びに証拠方法
(1)答弁の趣旨及びその主張の概要
被請求人の答弁の趣旨は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」である。
そして、被請求人は、答弁書、令和4年1月12日提出の上申書、口頭審理陳述要領書及び令和4年7月11日提出の上申書において、請求人が主張する無効理由1~6は、いずれも理由がない旨主張している(第1回口頭審理調書)。
(2)証拠方法
被請求人は、証拠方法として以下の書証を提出している。
乙第1号証:井上晴夫,伊藤攻監訳,「分子光化学の原理」,丸善出版株
式会社,令和元年10月20日第5刷,p.45-53
乙第2号証:The Chemical Times,2010,No.
2,p.2-8
乙第3号証:J.Vac.Soc.Jpn.,2015,Vol.58,
No.3,p.1-6
乙第4号証:Angew.Chem.Int.Ed.,2015,Vol
.54,p.13581-13585
乙第5号証:名古屋大学大学院工学研究科 有機・高分子化学専攻 教授
山下 誠,「陳述書」,2020年11月24日
乙第6号証:C.A.Ramsden編,“Science of Sy
nthesis,Vol.31a,Compounds w
ith Two Carbon-Heteroatom B
onds Arene-X(X=Hal,O,S,Se,T
e)”,June 25,2007,p.975-1000
乙第7号証:C.A.Ramsden編,“Science of Sy
nthesis,Vol.31a,Compounds w
ith Two Carbon-Heteroatom B
onds Arene-X(X=Hal,O,S,Se,T
e)”,June 25,2007,p.1107,113
2-1134
乙第8号証:Organic Chemistry:Structure
and Function(sixth edition)
,2009,p.1175-1177
乙第9号証:J.Am.Chem.Soc.,2013,Vol.135
,p.474-487
乙第10号証:豊田中央研究所R&Dレビュー,1998,Vol.33
,No.2,p.3-22
乙第11号証:JNC石油化学株式会社市原研究所 グループリーダー
笹田康幸,「実験報告書」,2021年10月19日
乙第12号証:市原研究所研究第2センタ-20G 笹田康幸,「追加実
験報告書」,2017年3月8日
乙第13号証:JNC石油化学株式会社市原研究所 主務 馬場大輔,「
特許第1,955,647号関連実験報告書」,2019
年11月20日
乙第14号証:J.Am.Chem.Soc.,2010,Vol.13
2,No.45,p.15914-15917
なお、以下、乙第1号証などを「乙1」などという。
また、証拠の認否について、請求人は、乙1~14について成立を認めている(第1回口頭審理調書)。
第5 証拠の記載
なお、第6では、証拠に記載された事項について、単に(甲1a)などと記載して示す。
1 甲1に記載された事項
(甲1a)「[請求項1] 下記一般式[1]で表される化合物。
[化1]
[図:0001422770000031.jpg]
[一般式[1]において、Ar1は単結合または下記の何れかの構造を表し;
[化2]
[図:0001422770000032.jpg]
・・・
n1は2以上のいずれかの整数を表し、・・・]
・・・
[請求項9] 請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物を用いた有機デバイス。」
(甲1b)「[0002] 有機エレクトロルミネッセンス素子や有機薄膜太陽電池などの有機デバイスには、電荷移動度が大きな電荷輸送材料が必要とされている。そして、これまでに種々の電荷輸送材料が提案されており、特にトリフェニルアミン構造を有する化合物が比較的高い電荷移動度を示すことが知られている。
[0003] トリフェニルアミン構造を有する化合物としては、例えば、以下に示す構造を有するN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン[TDP]やN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(1-ナフチル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン[α-NPD]といったトリフェニルアミン二量体が広く知られており実用化されている。
[化1]
[図:0001422770000033.jpg]
[0004] また、トリフェニルアミンを構成する芳香環同士を連結基で連結してトリフェニルアミンの平面性を高めたことを特徴とするトリフェニルアミン誘導体(単量体)も知られている(特許文献1参照)。このトリフェニルアミン誘導体は、TPDよりもホール輸送能に優れていることが示されている。しかしながら、当該文献中にはトリフェニルアミン誘導体の二量体を製造することについてはまったく記載されていない。
・・・
[0008] 上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、分子内に特定の環状構造を複数有する化合物が熱的に安定で電荷輸送材料として優れた特性を有しており、有機デバイスに効果的に利用できることを見出した。」
(甲1c)「[0013][一般式[1]で表される化合物]
本発明の化合物は、一般式[1]で表される構造を有する。
・・・
[0027] 一般式[1]で表される化合物の別の好ましい範囲として、下記の一般式[2]で表される化合物を挙げることができる。
・・・
[0030] 一般式[2]の好ましい構造として、下記の一般式[2-1]および一般式[2-2]を挙げることができる。・・・
[0031]
[化13]
[図:0001422770000034.jpg]
・・・
[0052]
以下に一般式[1]で表される化合物の具体例を例示する。なお、本発明の一般式[1]で表される化合物の範囲は、以下の具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。以下の表1および2は一般式[2-1]で表される化合物の具体例であり、以下の表3および4は一般式[2-2]で表される化合物の具体例であり、・・・
[0053]
[表1-1]
[図:0001422770000035.jpg]
・・・
[0055]
[表3-1]
[図:0001422770000036.jpg]
」
(甲1d)「[0063] [一般式[1]で表される化合物の合成]
一般式[1]で表される化合物の合成法は特に制限されない。一般式[1]で表される化合物の合成は、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることにより行うことができる。
[0064] 例えば、好ましい合成法として、下記のスキーム1で表される合成法を挙げることができる。ここでは一般式[2]で表される化合物の合成スキームとして記載する。
[0065][化22]
[図:0001422770000037.jpg]
[0066]・・・一般式[11]および一般式[12]におけるZはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であることが好ましく、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であることがより好ましく、臭素原子であることがさらに好ましい。
スキーム1の反応はカップリング反応であり、通常はカップリング剤を用いて行う。すなわち、一般式[12]のZをメタル化し、パラジウム(0)やニッケル(0)を用いた既知のクロスカップリング反応により一般式[1]で表される化合物を合成することができる。反応条件は、既知の条件を参考にして最適化することができる。
・・・
[0073] スキーム1およびスキーム2の出発物質である一般式[11]および[12]で表される化合物や、上記の一般式[13]で表される化合物は、例えば以下のスキーム3により合成することができる。スキーム3では、一般式[11]のX1が-O-であり、L1とL2が互いに結合して-O-を形成し、Y1が>N-である化合物の合成法を例にとって説明する。Zは臭素原子であることが好ましい。
[0074]
[化26]
[図:0001422770000038.jpg]
・・・
[0079] スキーム1の出発物質である一般式[12]や一般式[13]で表される化合物も、同様にしてスキーム3により合成することが可能である。また、その他の類似化合物も同様にして合成することが可能である。」
(甲1e)「[0085][一般式[1]で表される化合物の物性]
一般式[1]で表される化合物は、準平面構造を持っているため、結晶化を抑制しながら分子同士を密にパッキングさせることが可能である。計算化学により、一般式[1]で表される化合物は再配列エネルギーが小さくて、分子間トランスファー積分が大きい材料であることが本発明者らにより確認されている。また、一般式[1]で表される化合物は十分な分子サイズを有している。以上の特徴を有することから、一般式[1]で表される化合物はガラス転移温度が高くてアモルファス状態が安定に存在しうる。さらに、一般式[1]で表される化合物は、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)の軌道準位が電荷輸送材料として適したレベルにある。なかでも、一般式[1]のY1およびY2が>N-または>P-である場合は、一般式[1]で表される化合物は特にホール輸送材料として有用な性質を示す。また、Y1およびY2が>B-または>P(=O)-である場合は、一般式[1]で表される化合物は特に電子輸送材料として有用な性質を示す。本発明における電荷輸送材料という用語は、このようなホール輸送材料と電子輸送材料を包含する概念である。
一般式[1]で表される化合物は電荷輸送材料として優れているため、様々な有機デバイス、特に有機電子デバイスに効果的に用いることができる。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子や電子写真用感光体に有効に用いることができる。また、光電変換素子にも効果的に用いることができるため、有機薄膜太陽電池にも有効に用いることができる。さらに有機トランジスタとしても有効に用いることができる。以下において、代表的な有機デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子と有機薄膜太陽電池について説明する。
[0086][有機エレクトロルミネッセンス素子]
典型的な有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラスなどの透明基板上にITOなどの陽極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が積層された構造を有する。一般式[1]で表される本発明の化合物は、その物性に応じて、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の材料として用いることが可能である。例えば、電子輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物(特にY1およびY2が>B-または>P(=O)-である化合物)を電子輸送層に使用すれば、陰極から電子注入層を経由して電子輸送層に注入される電子を効率良く発光層へ輸送することができる。このため、発光層における電子とホールの再結合効率を上げて、消費電力と発熱量を抑えながら高い発光効率を実現することができる。また、それによって有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化も実現することができる。別の例として、ホール輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物(特にY1およびY2が>N-または>P-である化合物)をホール輸送層に使用すれば、陽極からホール注入層を経由してホール輸送層に注入されるホールを効率良く発光層へ輸送することができる。このため、発光層における電子とホールの再結合効率を上げて、消費電力と発熱量を抑えながら高い発光効率を実現することができる。また、それによって有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化も実現することができる。
本発明の化合物を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子には、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる既知の材料を適宜選択して組み合わせて用いることができる。本発明の化合物を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子には、公知の技術や公知の技術から容易に想到しうる様々な改変を必要に応じて加えることができる。」
(甲1f)「[0130](試験例1)
実施例1~4で得られた化合物1、化合物2、化合物24、化合物201(二量体)と比較化合物である化合物A~C(単量体)についてサイクリックボルタンメトリーを行った結果を図1および図2に示す。なお、サイクリックボルタンメトリーは、n-Bu4N+PF6-(0.1mol/l)を支持電解質に用い、参照電極としてAg/Ag+、作用極としてグラッシーカーボン、対極としてPtを用いて、CH2Cl2溶液中で行った。サイクリックボルタンメトリーの結果より、化合物1、化合物24、化合物201は二段階の可逆な酸化波を示し、この測定条件下において、対応するラジカルカチオンおよびジカチオンが安定に生成することが確認され、ホール輸送材料として優れた特性を示すことが示唆された。」
2 甲2に記載された事項
(甲2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)または一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
【化1】
[図:0001422770000039.jpg]
式(1)中、「X1」、「Y1」は各々独立にN、P、P=O、P=S、SiAr1のいずれかを表し、「Z1」は単なる結合手またはNAr2、O、S、PAr3、P(=O)Ar4、P(=S)Ar5、SiAr6Ar7のいずれかを表す。
「Ar1~Ar7」は芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
「A1~A14」は各々独立にC-Rx1又はNを表し、複数のRx1はそれぞれ同じであっても異なっていても良い。
「Rx1」は各々独立に水素原子又はアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、複素環基、芳香族複素環基、ハロゲン原子、アルコキシル基、シクロアルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、ウレイド基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、アルキルシリル基又はアリールシリル基、アルキルホスフィノ基又はアリールホスフィノ基、アルキルホスホリル基又はアリールホスホリル基、アルキルチオホスホリル基又はアリールチオホスホリル基から選ばれる何れかの基である。
【化2】
[図:0001422770000040.jpg]
式(2)中、「X2」、「Y2」は各々独立に前記一般式(1)におけるX1、Y1と同義の基を表し、「Z2」は前記一般式(1)におけるZ1と同義の基を表す。
「A15~A28」は各々独立にC-Rx2又はNを表し、複数のRx2はそれぞれ同じであっても異なっていても良い。
「Rx2」は各々独立に前記一般式(1)におけるRx1と同義の基を表す。」
(甲2b)「【0044】
以下に、本発明に係る化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
・・・
【0048】
【化10】
[図:0001422770000041.jpg]
・・・
【0058】
【化20】
[図:0001422770000042.jpg]
」
(甲2c)「【実施例1】
【0140】
《有機EL素子1-1の作製》
有機EL素子を以下のように作製した。
・・・
【0144】
《有機EL素子1-2~1-34の作製》
有機EL素子1-1の作製において、表1に記載のよう発光層のCBPを表1に示す化合物に置き換えた。
それ以外は同様にして、「有機EL素子1-2~1-34」を作製した。
・・・
【0146】
《有機EL素子の評価》
以下のようにして有機EL素子の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
・・・
【0151】
【表1】
[図:0001422770000043.jpg]
【0152】
(5)まとめ
表1に示すとおり、有機EL素子1-1~1-6と有機EL素子1-7~1-34とを比較すると、有機EL素子1-7~1-34は、発光効率に優れ、耐久性が高く長寿命化が達成され、更には駆動電圧やその経時変化率が低下していることがわかる。
以上から、一般式(1)または一般式(2)の化合物をホスト化合物として使用することは、発光効率の向上や発光寿命の長寿化、駆動電圧の低下、駆動時の電圧上昇の抑制を実現するうえで、有用であることがわかる。」
3 甲3に記載された事項
(甲3a)「【請求項1】
式(1)及び式(2)の化合物。
【化1】
[図:0001422770000044.jpg]
ここで、使用される記号及び添字は、以下が適用される:
Xは、出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり;
Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C=S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若しくは化学結合であり;
R1は、出現毎に同一であるか異なり、H、OH、F、Cl、Br、I、CN、CHO、NO2、N(Ar)2、Si(R2)3、B(OR2)2、C(=O)Ar、P(=O)Ar2、S(=O)Ar、S(=O)Ar2、CR2=CR2Ar、C≡CAr、OSO2R2、1~40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基又は3~40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-R2C=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、NR2、-O-、-S-若しく-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は1以上の基R2により置換されていてもよい、5~40個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造、又は1以上のR2基により置換されていてもよい、5~24個の芳香族環原子を有するアリールオキシ若しくはヘテロアリールオキシ基、又は、2、3、4若しくは5個のこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2以上の置換基R1は、同一環上及びまた異なる環上で、互いにモノ或いはポリ環状、脂肪族、芳香族若しくは複素環式芳香族環構造を形成するものであってもよく;
Rは、R1と同様に定義され、少なくとも1つの基Rは、水素ではなく;
R2は、出現毎に同一であるか異なり、H若しくは1~20個のC原子を有する脂肪族芳香族及び/又は複素環式芳香族炭化水素基であって、2以上の基R2は、互いに環構造を形成するものであってもよく;
Arは、出現毎に同一であるか異なり、5~30個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の非芳香族基R1により置換されていてもよく;
Lは、1~40個のC原子を有する少なくとも2価の直鎖アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基、又は3~40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-CR2=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、-O-、-S-若しくは-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は5~40個の芳香族環原子を有する少なくとも2価の芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の基R2、若しくはP(R1)3-P、P(=O)(R1)3-P、C(R1)4-P、Si(R1)4-P、N(Ar)3-Pにより置換されていてもよく、又は2、3、4若しくは5個のこれら系の組み合わせ;又はLは化学結合であり;
nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であり、ここで、n=0は、水素若しくは基R1がYの代わりに存在することを意味するが、但し少なくとも2個の添字nは、0でなく;
pは、2、3、4、5若しくは6であり、但し、pは、Lの最大原子価より大きくはなく;
但し、以下の化合物は除く。
【化2】
[図:0001422770000045.jpg]
・・・
【請求項10】
請求項1乃至7何れか1項記載の少なくとも1つの化合物を含む有機電子素子。」
(甲3b)「【0020】
式(1)及び式(2)の好ましい化合物は、記号Xが、窒素、燐若しくはP=Oを、特に好ましくは、窒素若しくは燐を、非常に特に好ましくは、窒素を表わすものである。
【0021】
更に、式(1)及び式(2)の好ましい化合物は、記号Yが、出現毎に同一であるか異なり、O、S、(CR1)2、C=O、P(=O)R1、C=C(R1)2、NR1、SO若しくはSO2又は化学結合を、特に好ましくは、2個の同一の基R1で置換されたO、S、C=O若しくはC(R1)2を、非常に特に好ましくは、2個の同一の基R1、好ましくは、アルキル置換基、特にメチル置換基で置換されたO、C=O若しくはC(R1)2を、特に2個の同一のR1基、好ましくは、メチル置換基で置換されたC(R1)2を表わすものである。
・・・
【0027】
更に、好ましい化合物は、添字nは、出現毎に同一であるか異なり、0若しくは1を表し、n=0は、水素若しくはR1基がYの代わりに存在することを意味し、但し、少なくとも2個の添字nは0ではなく、添字nは、特に好ましくは1である。
【0028】
更に、式(2)の好ましい化合物は、添字pは、2、3、4若しくは5、特に好ましくは、2、3若しくは4、非常に特に好ましくは、2若しくは3であり、但し、pは、Lの最大原子価より大きくはない。」
4 甲4に記載された事項(訳文で示す。)
(甲4a)「リン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造へのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応」(表題)
(甲4b)「
[図:0001422770000046.jpg]
タンデムホスファフリーデルクラフツ反応は、ジクロロ(m-テラリル)ホスフィンを、リン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造を含むトリアリールホスフィン誘導体へと変換する。堅固な分子骨格構造は前例のないホスフィン化合物が分子全体に広がる拡張π共役を保持することを可能にする。」(2130ページABSTRACT)
(甲4c)「我々は、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応を発展させて、Scheme1に示されているようにヘテロ原子の結合部を有するπ共役骨格構造を容易に入手できるようになり得ると考えた。・・・我々は、最終的に、ジクロロ(m-テラリル)ホスフイン)(XY2=PCl2)のタンデムホスファフリーデルクラフツ反応により、特定の条件における選択的6,6-閉環を経てホスファペリレン1が得られることを見出した。」(2130ページ右欄7行~2131ページ左欄4行)
(甲4d)「
[図:0001422770000047.jpg]
」(2131ページ左欄Scheme1)
(甲4e)「
[図:0001422770000048.jpg]
」(2131ページ左欄Scheme2)
(甲4f)「合成経路はScheme2に記載する。1,3-ジクロロベンゼンの2位での選択的リチウム化とそれに続く2当量のアリールグリニャール試薬で処理すると、m-ヨウ化テラリル2a-2cがヨウ化時に32-79%の収率で得られた。2a-2cにおいてリチウム-ハロゲン交換をし、得られたアリールリチウムをそれに続くトリクロロホスフィンによる捕集により、m-テラリルホスフィンジクロリド3a-3cが得られた。添加剤と反応条件を注意深くスクリーニングした後、S8、AlCl3及びNEt(i-Pr)2を併用し、3a-3cのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応を達成した。特に、タンデム反応は選択的に6,6-閉環を形成し、硫化ホスフィン4a-4c(E=S)が11-43%の収率で得られ、現在の反応条件下では5,5-又は5,6-閉環の形成は観察されなかった。」(2131ページ左欄7~20行)
(甲4g)「
[図:0001422770000049.jpg]
」(2131ページFigure1)
(甲4h)「4a-4cをトリエチルホスフィンで硫酸化すると、目的物のホスフィン、15b-ホスファナフト[1,8-ab]ペリレン1a、6,10-ジメチル-15b-ホスファナフト[1,8-ab]ペリレン1b、及び15b-ホスファ-3,4,12,13-テトラヒドロアセナフト[5,6-ab]シクロペンタ[lm]ペリレン1cが、75-80%の収率で得られた。同様にH2O2で酸化すると、対応するホスフィンオキシド5a-5cが70-79%の収率で得られた(Figure1)。」(2131ページ右欄1~7行)
(甲4i)「要約すると、我々はリン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造へのタンデム分子内ホスファフリーデルクラフツ反応を開発した。・・・堅固な分子骨格構造は前例のないホスフィン化合物が分子全体に広がる拡張π共役を保持することを可能にする。このシンプルで実用的な戦略はπ共役骨格構造の更なる拡張と、複数のリン及び/又は他のヘテロ原子の導入に適するであろう。」(2132ページ右欄下から3行~2133ページ左欄9行)
5 甲5に記載された事項
甲4のScheme2と同様な製造方法に関する実施例が記載されている(30ページ~46ページ)。
6 甲6~11に記載された事項
正孔(ホール)輸送層と発光層に共通の化合物が使用されている例が記載されている。
7 甲12~14に記載された事項
BuLiが、水素又はハロゲン原子のいずれかと置換反応することが記載されている。
8 乙1に記載された事項
有機EL素子に関する技術的事項として、ホルムアルデヒドのS0及びS1並びにT1の状態及びS1とT1とのエネルギー差(△EST)は、HOMO及びLUMOを占有している2電子間の交換積分(交換相互作用)に比例し、交換積分は、2つの軌道の空間的な重なりの程度に比例することが記載されている。
9 乙2に記載された事項
(乙2a)「キャリアバランス因子とは、電極から注入された電子と正孔が再結して励起状態を生成する確率を示す。仮に発光量子効率が100%の蛍光材料を用いてキャリアバランスの取れた理想的な有機ELデバイスを試作したとすると、「発光の外部量子効率」は5~7.5%(光取り出し効率が20~30%と仮定)の値が導き出せるが、この値が一般に言われる、蛍光材料を用いた外部量子効率の理論限界値である。」(4ページ右欄下から11~4行)
(乙2b)「有機ELデバイスの発光効率は前述したようにいくつかの因子によって支配されている。発光量子効率の高い材料を用いるとともにキャリアバランス因子を理想的な値である1.0に近づける必要がある。そのためには、材料の組み合わせや膜厚制御などの素子構造の最適化が不可欠である。電子輸送層、発光層、正孔輸送層の3層構成であれば基本的には注入された電子と正孔を発光層に閉じ込めて100%近い確率で再結合させて励起状態を生成させることが可能である。そうすることによって、発光材料として蛍光材料を用いた場合の理論限界値(5~7.5%)に近づくことができる。現在は、赤、緑、青色の3色の場合とも、ほぼ理論限界に近い値が達成されている。」(5ページ左欄下から6行~右欄6行)
10 乙3~4に記載された事項
乙3~4は、本件特許の優先日以降に公開された論文であり、有機EL素子に関する技術的事項として、乙3には、T1からS0への遷移は、光としてはリン光をもたらすはずであるが、スピン禁制であるため、通常は熱として消失すること、しかし、S1とT1とのエネルギー差(△EST)が小さい場合、T1からS1への逆項間交差(RICS)により、T1からS1を経由してS0へ遷移することにより、蛍光を得ることができる(熱活性化遅延蛍光(TADF))こと、そのため、△ESTを小さくすることは、T1を発光に利用して発光効率を上げるために重要であることが記載され、乙4には、本件訂正発明1におけるY1がBである多環芳香族化合物のSOMO1及びSOMO2の局在化の例と、当該化合物では、SOMO1及びSOMO2の局在化により、△ESTが小さくなることが記載されている。
11 乙5~7及び14に記載された事項
本件特許明細書記載の製造方法に関する技術的事項が記載されている。
12 乙8に記載された事項(被請求人提出の翻訳文で示す。)
(乙8a)「求電子置換反応におけるベンゼンおよび3種類のヘテロ環化合物の相対的な反応性は,各環の芳香族性および中間体カチオンの安定性の寄与によって決まる.この反応性はベンゼン<<チオフェン<フラン<ピロールの順に増大する.」(1177ページ1~3行)
13 乙9に記載された事項
(乙9a)「
[図:0001422770000050.jpg]
[図:0001422770000051.jpg]
」(476~477ページ)
14 乙10に記載された事項
有機EL素子の正孔輸送材料として、トリフェニルアミンの連結系多量体の研究が積み重ねられてきたことが記載されている。
15 乙11に記載された事項
本件訂正発明1の化合物の効果を示す実験結果が記載されている。
16 乙12に記載された事項
(乙12a)「1.比較実験の概要
本願発明の化合物は、例えば以下の式(1-1)や式(1-401)で表される多環芳香族化合物である。一方、Wakamiya(US2014/0058099)には、例えば以下のWakamiya化合物60(連結系多量体)が記載されており(表1)、Wakamiyaに記載されたスキーム3によれば、当該Wakamiya化合物60を製造するためには、以下のWakamiya化合物(A)や(B)(繰り返し構造体)を使用することが想定される。そこで、これらの化合物を発光層のドーパント材料として用いた有機EL素子を作製し、有機EL特性を比較した。
[図:0001422770000052.jpg]
」(1ページ)
(乙12b)「3.有機EL素子の作製と評価
<有機EL素子の作製>
今回評価に用いた5種類の有機EL素子の層構成をTable1に示す。
[図:0001422770000053.jpg]
・・・
<駆動電圧並びに外部量子収率の算出>
上記有機EL素子について、それぞれ1000cd/m2の輝度が得られる駆動電圧を算出し、その電流密度で駆動した際の外部量子効率を測定した。その結果をTable2に示す。
[図:0001422770000054.jpg]
[図:0001422770000055.jpg]
Table2に示すとおり、本願発明の化合物(1-1)及び化合物(1-401)を用いた有機EL素子は、Wakamiya化合物と比較して、駆動電圧がいずれも低く、かつ外部量子収率が高いことが確認できる。」(5~7ページ)
17 乙13に記載された事項
本件訂正発明1及び2の化合物の効果を示す実験結果が記載されている。
第6 無効理由についての判断
当審合議体は、無効理由1~6にはいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下に示すとおりである。
1 無効理由1(サポート要件違反)について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件訂正発明の記載
本件訂正発明1~5及び9~28の記載は、前記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
ア 技術分野及び背景技術に関して次のような記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、多環芳香族化合物と、これを用いた有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタおよび有機薄膜太陽電池、並びに、表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
・・・
【0004】
発光層用材料としては、例えばベンゾフルオレン系化合物などが開発されている(・・・)。また、正孔輸送材料としては、例えばトリフェニルアミン系化合物などが開発されている(・・・)。また、電子輸送材料としては、例えばアントラセン系化合物などが開発されている(・・・)。
【0005】
また、近年では有機EL素子や有機薄膜太陽電池に使用する材料としてトリフェニルアミン誘導体を改良した材料も報告されている(国際公開第2012/118164号公報)。この材料は既に実用化されていたN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD)を参考にして、トリフェニルアミンを構成する芳香環同士を連結することでその平面性を高めたことを特徴とする材料である。この文献では例えばNO連結系化合物(63頁の化合物1)の電荷輸送特性が評価されているが、NO連結系化合物以外の材料の製造方法については記載されておらず、また、連結する元素が異なれば化合物全体の電子状態が異なるため、NO連結系化合物以外の材料から得られる特性も未だ知られていない。このような化合物の例は他にも見られる(・・・)。例えば、三重項励起子のエネルギー(T1)が大きい共役構造を有する化合物は、より短い波長の燐光を発することができるため、青色の発光層用材料として有益である。また、発光層を挟む電子輸送材料や正孔輸送材料としてもT1が大きい新規共役構造を有する化合物が求められている。
【0006】
有機EL素子のホスト材料は、一般に、ベンゼンやカルバゾールなどの既存の芳香環を単結合やリン原子やケイ素原子で複数連結した分子である。これは、比較的共役系の小さな芳香環を多数連結することで、ホスト材料に必要とされる大きなHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)が担保されるからである。さらに、燐光材料や熱活性型遅延蛍光材料を用いた有機EL素子のホスト材料には、高い三重項励起エネルギー(ET)も必要となるが、分子にドナーあるいはアクセプター性の芳香環や置換基を連結することで、三重項励起状態(T1)のSOMO1およびSOMO2を局在化させ、両軌道間の交換相互作用を小さくすることで、三重項励起エネルギー(ET)を向上させることが可能となる。しかし、共役系の小さな芳香環はレドックス安定性が十分ではなく、既存の芳香環を連結していった分子をホスト材料として用いた素子は寿命が十分ではない。一方、拡張π共役系を有する多環芳香族化合物は、一般に、レドックス安定性は優れているが、HOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)や三重項励起エネルギー(ET)が低いため、ホスト材料に不向きと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
・・・
【特許文献4】国際公開第2012/118164号公報」
イ 発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段に関して次のような記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するように、有機EL素子に用いられる材料としては種々のものが開発されているが、有機EL素子用材料の選択肢を増やすために、従来のものとは異なる化合物からなる材料の開発が望まれている。特に、特許文献1~4で報告されたNO連結系化合物以外の材料から得られる有機EL特性やその製造方法は未だ知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ホウ素原子と酸素原子などで複数の芳香族環を連結した新規な多環芳香族化合物を見出し、その製造に成功した。また、この多環芳香族化合物を含有する層を一対の電極間に配置して有機EL素子を構成することにより、優れた有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。」
ウ 発明の効果及び作用機序に関して次のような記載がある。
「【発明の効果】
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、例えば有機EL素子用材料として用いることができる、新規な多環芳香族化合物を提供することができ、この多環芳香族化合物を用いることで優れた有機EL素子を提供することができる。
【0035】
具体的には、本発明者らは、芳香環をホウ素、リン、酸素、窒素、硫黄などのヘテロ元素で連結した多環芳香族化合物が、大きなHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)と高い三重項励起エネルギー(ET)を有することを見出した。これは、ヘテロ元素を含む6員環は芳香属性が低いため、共役系の拡張に伴うHOMO-LUMOギャップの減少が抑制されること、ヘテロ元素の電子的な摂動により三重項励起状態(T1)のSOMO1およびSOMO2が局在化することが原因となっていると考えられる。また、本発明に係るヘテロ元素を含有する多環芳香族化合物は、三重項励起状態(T1)におけるSOMO1およびSOMO2の局在化により、両軌道間の交換相互作用が小さくなるため、三重項励起状態(T1)と一重項励起状態(S1)のエネルギー差が小さく、熱活性型遅延蛍光を示すため、有機EL素子の蛍光材料としても有用である。また、高い三重項励起エネルギー(ET)を有する材料は、燐光有機EL素子や熱活性型遅延蛍光を利用した有機EL素子の電子輸送層や正孔輸送層としても有用である。更に、これらの多環芳香族化合物は、置換基の導入により、HOMOとLUMOのエネルギーを任意に動かすことができるため、イオン化ポテンシャルや電子親和力を周辺材料に応じて最適化することが可能である。」
エ 多環芳香族化合物及びその多量体に関して次のような記載があり、化合物の具体例が多数記載されている。
「【0037】
1.多環芳香族化合物およびその多量体
本願発明は、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体である。本願発明は、好ましくは、下記一般式(2)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(2)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体である。
【化19】
[図:0001422770000056.jpg]
【0038】
一般式(1)におけるA環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換基で置換されていてもよい。この置換基は、置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ(アリールとヘテロアリールを有するアミノ基)、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシが好ましい。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、アリール、ヘテロアリールまたはアルキルがあげられる。また、上記アリール環またはヘテロアリール環は、Y1、X1およびX2から構成される一般式(1)中央の縮合2環構造(以下、この構造を「D構造」とも言う)と結合を共有する5員環または6員環を有することが好ましい。
【0039】
ここで、「縮合2環構造(D構造)」とは、一般式(1)の中央に示した、Y1、X1およびX2を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造を意味する。
・・・
【0063】
また、本願発明は、一般式(1)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体、好ましくは、一般式(2)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体である。多量体は、2~6量体が好ましく、2~3量体がより好ましく、2量体が特に好ましい。多量体は、一つの化合物の中に上記単位構造を複数有する形態であればよく、例えば、上記単位構造が単結合、炭素数1~3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態に加えて、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環、a環、b環またはc環)を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態であってもよく、また、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環、a環、b環またはc環)同士が縮合するようにして結合した形態であってもよい。
・・・
【0069】
また、本発明に係る多環芳香族化合物およびその多量体は、有機デバイス用材料として用いることができる。有機デバイスとしては、例えば、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などがあげられる。特に、有機電界発光素子においては、発光層のドーパント材料として、Y1がB、X1およびX2がN-Rである化合物、Y1がB、X1がO、X2がN-Rである化合物、Y1がB、X1およびX2がOである化合物が好ましく、発光層のホスト材料として、Y1がB、X1がO、X2がN-Rである化合物、Y1がB、X1およびX2がOである化合物が好ましく、電子輸送材料として、Y1がB、X1およびX2がOである化合物、Y1がP=O、X1およびX2がOである化合物が好ましく用いられる。
・・・
【0246】
また、本発明の多環芳香族化合物およびその多量体は、A環、B環およびC環(a環、b環およびc環)の少なくとも1つにおける、Y1に対するパラ位にフェニルオキシ基、カルバゾリル基またはジフェニルアミノ基を導入することで、T1エネルギーの向上(およそ0.01~0.1eV向上)が期待できる。特に、Y1がB(ホウ素)、X1およびX2がOまたはN-R(Rは上記説明どおり)の場合に、B(ホウ素)に対するパラ位にフェニルオキシ基を導入することで、A環、B環およびC環(a環、b環およびc環)であるベンゼン環上のHOMOがよりホウ素に対するメタ位に局在化し、LUMOがホウ素に対するオルトおよびパラ位に局在化するため、T1エネルギーの向上が特に期待できる。
・・・
【0263】
化合物中の末端のフェニル基やp-フェニレン基のオルト位における少なくとも1つの水素をメチル基などで置換することにより、隣り合う芳香環同士が直交しやすくなって共役が弱まる結果、三重項励起エネルギー(ET)を高めることが可能となる。」
オ 多環芳香族化合物及びその多量体の製造方法に関して次のような記載があり、構造に応じた製造方法のスキームが例示されている。
「【0281】
2.多環芳香族化合物およびその多量体の製造方法
一般式(1)や(2)で表される多環芳香族化合物およびその多量体は、基本的には、まずA環(a環)とB環(b環)およびC環(c環)とを結合基(X1やX2を含む基)で結合させることで中間体を製造し(第1反応)、その後に、A環(a環)、B環(b環)およびC環(c環)を結合基(Y1を含む基)で結合させることで最終生成物を製造することができる(第2反応)。第1反応では、例えばエーテル化反応であれば、求核置換反応、ウルマン反応といった一般的反応が利用でき、アミノ化反応で有ればブッフバルト-ハートウィッグ反応といった一般的反応が利用できる。また、第2反応では、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応(連続的な芳香族求電子置換反応、以下同様)が利用できる。
【0282】
第2反応は、下記スキーム(1)や(2)に示すように、A環(a環)、B環(b環)およびC環(c環)を結合するY1を導入する反応であり、例としてY1がホウ素原子、X1およびX2が酸素原子の場合を以下に示す。まず、X1とX2の間の水素原子をn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムまたはt-ブチルリチウム等でオルトメタル化する。次いで、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等を加え、リチウム-ホウ素の金属交換を行った後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等のブレンステッド塩基を加えることで、タンデムボラフリーデルクラフツ反応させ、目的物を得ることができる。第2反応においては反応を促進させるために三塩化アルミニウム等のルイス酸を加えてもよい。
・・・
【0284】
・・・多量体については、複数のA環(a環)、B環(b環)およびC環(c環)を有する中間体を用いることで製造することができる。・・・この場合、使用するブチルリチウム等の試薬の量を2倍量、3倍量とすることで目的物を得ることができる。
・・・
【0286】
上記スキームにおいては、オルトメタル化により所望の位置へリチウムを導入したが、下記スキーム(6)および(7)のようにリチウムを導入したい位置に臭素原子等を導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができる。
・・・
【0290】
この方法によれば、置換基の影響でオルトメタル化ができないようなケースでも目的物を合成することができ有用である。
【0291】
上述の合成法を適宜選択し、使用する原料も適宜選択することで、所望の位置に置換基を有し、Y1がホウ素原子、X1およびX2が酸素原子である多環芳香族化合物およびその多量体を合成することができる。
【0292】
次に、例としてY1がホウ素原子、X1およびX2が窒素原子の場合を下記スキーム(11)および(12)に示す。・・・
・・・
【0296】
次に、例としてY1がリンスルフィド、リンオキサイドまたはリン原子であり、X1およびX2が酸素原子である場合を下記スキーム(16)~(19)に示す。・・・
・・・
【0300】
ここでは、Y1が、B、P、P=OまたはP=Sであり、X1およびX2がOまたはNRである例を記載したが、原料を適宜変更することで、Y1が、Al、Ga、As、Si-RまたはGe-Rであったり、X1およびX2がSである化合物も合成することができる。
【0301】
以上の反応で用いられる溶媒の具体例は、t-ブチルベンゼンやキシレンなどである。
・・・
【0307】
また、上記スキーム(1)~(17)および(20)~(25)の合成法では、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等を加える前に、X1とX2の間の水素原子(またはハロゲン原子)をブチルリチウム等でオルトメタル化することで、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応させた例を示したが、ブチルリチウム等を用いたオルトメタル化を行わずに、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等の添加により反応を進行させることもできる。
【0308】
また、Y1がリン系の場合には、下記スキーム(26)や(27)に示すように、X1とX2(下記式ではO)の間の水素原子をn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムまたはt-ブチルリチウム等でオルトメタル化し、次いで、ビスジエチルアミノクロロホスフィンを加え、リチウム-リンの金属交換を行った後、三塩化アルミニウム等のルイス酸を加えることで、タンデムホスファフリーデルクラフツ反応させ、目的物を得ることができる。この反応方法は国際公開第2010/104047号公報(例えば27頁)にも記載されている。
・・・
【0310】
なお、上記スキーム(26)や(27)においても、ブチルリチウム等のオルトメタル化試薬を中間体1のモル量に対して2倍、3倍のモル量を使用することで多量体化合物を合成することができる。」
カ 有機電界発光素子及びその他の有機デバイスに関して次のような記載がある。
「【0318】
3.有機電界発光素子
本発明に係る多環芳香族化合物およびその多量体は、例えば、有機電界発光素子の材料として用いることができる。・・・
【0319】
<有機電界発光素子の構造>
・・・
【0323】
<有機電界発光素子における基板>
・・・
【0324】
<有機電界発光素子における陽極>
・・・
【0327】
<有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層>
・・・
【0329】
正孔注入層103および正孔輸送層104を形成する材料としては、上記一般式(1)で表される多環芳香族化合物またはその多量体を使用することができる。・・・
・・・
【0331】
<有機電界発光素子における発光層>
・・・本発明では、発光層用の材料として、上記一般式(1)で表される多環芳香族化合物またはその多量体を用いることができる。
・・・
【0333】
・・・上記一般式(1)で表される多環芳香族化合物またはその多量体はホスト材料としても使用することもできる。
【0334】
・・・上記一般式(1)で表される多環芳香族化合物またはその多量体はドーパント材料としても使用することもできる
・・・
【0357】
<有機電界発光素子における電子注入層、電子輸送層>
・・・
【0359】
電子輸送層106または電子注入層107を形成する材料(電子輸送材料)としては、上記一般式(1)で表される多環芳香族化合物またはその多量体を使用することができる。
・・・
【0385】
<有機電界発光素子における陰極>
・・・
【0388】
<各層で用いてもよい結着剤>
・・・
【0389】
<有機電界発光素子の作製方法>
・・・
【0392】
<有機電界発光素子の応用例>
また、本発明は、有機電界発光素子を備えた表示装置または有機電界発光素子を備えた照明装置などにも応用することができる。
・・・
【0397】
4.その他の有機デバイス
本発明に係る多環芳香族化合物およびその多量体は、上述した有機電界発光素子の他に、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などの作製に用いることができる。」
キ 実施例に関して次のような記載がある。
【0402】~【0758】に、多環芳香族化合物及びその多量体の合成例(1)~(86)の記載があり、収率やNMR測定などの物性値が示されている。
【0760】~【0932】に、実施例1~80及び比較例1~3として、上記合成例で合成した化合物を発光層のドーパント又はホスト材料や電子輸送層に用いて有機EL素子を作製し、青色又は緑色の発光色とその波長、外部量子効率やCIE色度が示されている。
なお、外部量子効率は、100cd/m2又は1000cd/m2の輝度が得られる電流密度で駆動した際の測定値であり、2~8%程度(リン光材料としてIr(PPy)3を使用した場合は、5~17%程度)の測定値が示されている。
(4)判断
ア 本件訂正発明の解決しようとする課題
上記(3)アの技術分野及び背景技術に関する記載、上記(3)イの発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段に関する記載及び本件特許明細書全体の記載からみて、本件訂正発明1~5の解決しようとする課題は、有機EL素子材料として有用な化合物の提供にあり、本件訂正発明9~20及び25~28の解決しようとする課題は、本件訂正発明1~5の化合物を含有する、有機電界発光素子用材料などの有機デバイス用材料、有機電界発光素子、表示装置及び照明装置の提供にあり、本件訂正発明21~24の解決しようとする課題は、本件訂正発明1の製造方法の提供にあるものと認める。
イ 本件訂正発明1~5について
(ア)本件訂正発明1~5の構造上の特徴
本件訂正発明1は、一般式(1)で表される多環芳香族化合物又は一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体(以下「本件化合物」という。)であって、A環、B環及びC環が、それぞれ独立して、アリール環又はヘテロアリール環であり、Y1がBであり、X1及びX2が、それぞれ独立して、O、N-R、S又はSeであることが特定されたものである。そして、本件訂正発明3~5は、本件訂正発明1について、A環、B環及びC環の構造やそれらの置換基及びY1、X1又はX2の選択肢が特定されたものである。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1と同じ一般式(1)で表される構造を有するが、Y1がP=O又はP=Sであり、X1及びX2は共にO、S又はSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、又は、一方がSで他方がSeであることが特定されたものである。
ここで、上記(3)エの【0037】~【0039】に、一般式(1)の中央のY1、X1及びX2を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造を縮合2環構造(D構造)ともいうことが記載されていることを参酌すると、本件訂正発明1~5は、A環、B環及びC環という芳香環を、ホウ素又はリンと、酸素、窒素、硫黄又はセレンである、いずれもヘテロ元素を含む縮合2環構造(D構造)で連結した多環芳香族化合物という構造を備えることに特徴を有するものといえる。
(イ)発明の詳細な説明の一般記載について
上記(3)ウの【0035】に、上記(ア)の構造上の特徴を備えることによって、大きなHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)と高い三重項励起エネルギー(ET)を有することが記載されている。
そして、その理由について、ヘテロ元素を含む6員環(すなわち、縮合2環構造(D構造))は芳香属性が低いため、共役系の拡張に伴うHOMO-LUMOギャップの減少が抑制されること、ヘテロ元素の電子的な摂動により三重項励起状態(T1)のSOMO1及びSOMO2が局在化することが説明されている。
このことから、芳香環が縮合したアントラセンのような3環以上の芳香族化合物では、中央の環において炭素原子がsp2混成軌道によるπ結合を形成して、縮合環中でのπ電子の非局在化を促進する共役系の拡張によって、HOMO-LUMOギャップが減少するのに対し、本件訂正発明1~5では、本件化合物が、ヘテロ元素を含む飽和炭化水素環による単結合で芳香環が縮合されているため、芳香環の各々にπ電子が閉じ込められた、より分断された状態となり、共役系は維持された状態で、芳香環の間のHOMO-LUMOギャップの減少が抑制されることが理解できる。
(ウ)発明の詳細な説明の実施例の記載について
上記(3)キのとおり、実施例において、本件化合物を合成し、発光層のドーパント又はホスト材料や電子輸送層に用いて有機EL素子を作製し、得られた素子について、青色又は緑色の発光色とその波長、外部量子効率やCIE色度を確認したことが具体的に示されている。
HOMO-LUMOギャップが大きくなるほど、発光は短波長(青色)側にシフトするため、得られた素子が青色又は緑色の発光色であることから、上記(ア)の構造上の特徴を備えることによって、大きなHOMO-LUMOギャップを有することが裏付けられている。
(エ)小括
以上のことから、当業者であれば、本件訂正発明1~5は、その構造上の特徴から、有機EL素子に利用可能な化合物であることが理解でき、上記アの本件訂正発明1~5の課題を解決できると認識できるといえる。
ウ 本件訂正発明9~20及び25~28について
上記(3)カに、本件化合物が、有機電解発光素子における正孔注入層及び正孔輸送層を形成する材料、発光層用の材料、ホスト材料又はドーパント材料、電子輸送層又は電子注入層を形成する材料として使用することができることが説明されており、上記(3)エの【0069】には、ドーパント材料、ホスト材料又は電子輸送材料とした場合の、好ましいY1、X1及びX2の組合せが記載されている。
また、上記(3)カには、有機電界発光素子の応用例として、表示装置や照明装置について説明されている。
そして、上記イ(ウ)のとおり、実施例において有機EL素子を作製したことが示されている。
以上のことから、当業者であれば、上記アの本件訂正発明9~20及び25~28の課題を解決できると認識できるといえる。
エ 本件訂正発明21~24について
上記(3)オに、本件訂正発明21~24で特定する製造方法による本件化合物の製造方法についての説明があり、上記イ(ウ)のとおり、実施例においてその製造方法により本件化合物を製造したことが示されている。
以上のことから、当業者であれば、上記アの本件訂正発明21~24の課題を解決できると認識できるといえる。
オ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~5及び9~28は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
よって、無効理由1(サポート要件違反)には、理由がない。
(5)請求人の主張の検討
請求人の無効理由1の主張の概要は、前記第4 1(1)ア(ア)~(ウ)のとおりのものであるところ(審判請求書6ページ2行~10ページ4行、47ページ1行~58ページ11行)、以下順に検討する。
ア 本件訂正発明1~5について(前記第4 1(1)ア(ア)について)
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、本件訂正発明1~5は、特許請求の範囲に包摂される化合物は無数に存在するのに対し、実施例で使用された本件化合物は限られている上、縮合2環構造(D構造)を構成するヘテロ原子の種類及び縮合2環構造(D構造)と結合する芳香環の種類も限られており、これらの違いによって電子状態が相違するから、実施例と同等の効果が得られると認識できないというものである。
そして、実施例及び比較例について詳細に検討し、本件化合物に含まれるY1、X1及びX2の組合せ、A環、B環及びC環の種類、置換基の種類において、実施例が存在しないものが存在することを指摘している。
さらに、実施例では、外部量子効率の数値を示しているので、この数値により本件化合物の効果を評価するのが妥当であることを指摘して、比較例1の比較化合物は公知の有機EL素子材料を用いて外部量子効率が3.67%であるのに対し、実施例には比較例1より外部量子効率の数値が低いものがあるから(実施例35では3.54%、実施例42では2.75%など)、実施例のない本件化合物には、比較例1より劣り実用性のないものが多数含まれていることが示唆されていると主張し、乙12(上記(乙12a)及び(乙12b))には、Wakamiya Compound(A)という、本件化合物に包含されるが実施例にはない化合物は、外部量子効率が1.3%と低いことや、Inventive Compound(1-1)(外部量子効率2.3%)に対してハロゲンが1個置換しただけのものであるのに、外部量子効率の数値が大きく低下することが示されていることも主張している(口頭審理陳述要領書12ページ2行~21ページ2行)。
(イ)主張の検討
請求人の主張は、本件訂正発明1~5の解決しようとする課題を、審判請求書で主張していた「有機EL素子材料として有用な化合物を提供すること」(審判請求書58ページ2~3行)から、「優れた有機EL素子の提供」(令和4年8月1日提出の上申書2ページ最終行~3ページ3行)にまで高め、実施例の外部量子効率の数値は、理論限界値の5%程度((乙2a)及び(乙2b))よりも低い数値であるから課題を解決できないというものと解される。
しかしながら、本件訂正発明1~5の解決しようとする課題は、上記(4)アのとおり、「有機EL素子材料として有用な化合物を提供すること」であって、従来公知の有機EL素子より優れた外部量子効率を実現する化合物を提供することではないから、実施例に示された外部量子効率の数値自体は課題解決に直接関係しない。
また、実施例に外部量子効率の数値が低いものがあることや、乙12にハロゲンの置換により外部量子効率の数値が下がることが示されているとしても、乙1の理論のあること、外部量子効率には元々数%程度という限界のあることが技術常識であることを考慮すると、有機EL素子として利用できないことが示されているとはいえないし、実施例のない本件化合物について、実施例と同等の効果が得られると認識できなければ、課題が解決できないということにもならない。
そして、本件訂正発明1~5が、本件化合物の構造上の特徴を備えることで、当業者が課題を解決できると認識できることは、上記(4)イで述べたとおりである。
よって、請求人の主張は採用できない。
イ 本件訂正発明9~28について(前記第4 1(1)ア(イ)及び(ウ)について)
請求人の主張は、本件訂正発明1~5がサポート要件を満たしていない以上、本件訂正発明1~5を引用してそれらを含む材料などの用途を特定する本件訂正発明9~20及び25~28も、サポート要件を満たしておらず、本件訂正発明21~24の製造方法に関する発明も、その方法により生産した物を使用することが前提であり、製造される化合物が有機EL素子材料に適していることが発明の詳細な説明の記載から理解できなければならないから、同様にサポート要件を満たしていないというものである(口頭審理陳述要領書12ページ2行~21ページ2行及び21ページ4~15行)。
しかしながら、上述のとおり、本件訂正発明1~5はサポート要件を満たしており、請求人の主張はその前提において誤っている。
そして、本件訂正発明9~28が、当業者が課題を解決できると認識できることは、上記(4)ウ及びエで述べたとおりである。
よって、請求人の主張はいずれも採用できない。
2 無効理由2(実施可能要件違反)について
(1)判断の前提
物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をする行為をいうから、物の発明については、当業者が、発明の詳細な説明及び図面に記載されたその物を製造すること及び使用することについての説明と、出願時の技術常識とに基づいて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等を必要とすることなく、その物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を製造する方法の発明における発明の実施とは、その方法の使用及びその方法により生産した物の使用等をする行為をいうから、物を製造する方法の発明については、当業者が、発明の詳細な説明及び図面に記載されたその製造方法により物を製造できること及び製造した物を使用することについての説明と、出願時の技術常識とに基づいて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等を必要とすることなく、その製造方法により物を製造し、製造した物を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)判断
ア 本件訂正発明1~5について
発明の詳細な説明には、上記1(3)エの【0037】~【0039】に、本件化合物の構造上の特徴の説明があり、さらに【0039】~【0062】及び【0067】~【0068】にA環、B環及びC環とその置換基の例示や、Y1、X1及びX2の例示の記載があり、【0064】~【0066】に多量体の構造の記載があり、【0070】~【0245】及び【0247】~【0280】に本件化合物の具体例が多数記載されている。
そして、上記1(3)オに、本件化合物の製造方法が記載されており、上記1(3)キの実施例に、本件化合物の合成例が記載されている。
これらの記載から、当業者であれば、本件化合物の製造方法の説明及び実施例に示された製造方法に基づいて、実施例以外の例示された本件化合物を製造することができるといえる。
また、上記1(3)カに、有機電界発光素子における本件化合物の使用を含めた有機電界発光素子及びその応用例の記載があり、上記1(3)キの実施例に、合成した本件化合物を使用した有機EL素子の具体例が記載されている。
これらの記載から、当業者であれば、本件化合物を使用することができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1~5の本件化合物を製造し、使用することができるように記載されている。
イ 本件訂正発明9~20及び25~28について
上記アのとおり、発明の詳細な説明には、本件訂正発明1~5の本件化合物を使用した有機電解発光素子について、その物を製造し、使用することができるように記載されている。
これらの記載から、当業者であれば、本件特許の出願時の技術常識に基づいて、有機電解効果トランジスタ用材料又は有機電解薄膜太陽電池用材料などの他の有機デバイス用材料や、有機電界発光素子を備えた表示装置又は照明装置を製造し、使用することができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件訂正発明9~20及び25~28の有機デバイス用材料などを製造し、使用することができるように記載されている。
ウ 本件訂正発明21~24について
上記アのとおり、発明の詳細な説明には、本件訂正発明1~5の本件化合物を製造する方法が記載されているところ、これらの製造方法は、本件訂正発明21~24で特定する製造方法に該当する。そして、その製造方法により製造した物を使用することができるように記載されている。
したがって、発明の詳細な説明は、本件訂正発明21~24の製造方法について、その製造方法により化合物を製造し、製造した化合物を使用することができるように記載されている。
エ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~5及び9~28について、発明の詳細な説明は、物の発明について、その物を製造し、使用することができ、物を製造する発明について、その製造方法により物を製造し、製造した物を使用することができる程度に記載されているといえ、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。
よって、無効理由2(実施可能要件違反)には、理由がない。
(3)審判請求人の主張の検討
請求人の無効理由2の主張の概要は、前記第4 1(1)イ(ア)~(イ)のとおりのものであるところ(審判請求書10ページ5~22行、58ページ12行~61ページ16行)、以下に検討する。
ア 請求人の主張
請求人の主張は、本件訂正発明1~5及び9~28の本件化合物及びその用途並びに製造方法の発明のいずれについても、実施例の合成例はすべて、A環、B環及びC環がベンゼン環であり、それ以外について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できるとする根拠が説明されていないし、技術常識でもないというものである。
さらに、特に、Y1と結合を形成するB環及びC環がヘテロアリール環である化合物を製造する方法の場合のタンデムヘテロフリーデルクラフツ反応といった連続的な芳香族求電子置換反応(以下「第2反応」という。)が起きることについての説明がなく、ヘテロアリール環とベンゼン環では電子状態が異なり、5員環の場合はその形状の相違も大きいと主張している(口頭審理陳述要領書21ページ16行~24ページ10行)。
イ 主張の検討
芳香族求電子置換反応はアリール環かヘテロアリール環かに依らず、芳香環において進行する。すなわち、ヘテロフリーデルクラフツ反応は、芳香環に対する求電子置換反応であるから、ヘテロアリール環も求電子剤の攻撃を受ける。
そして、乙8には、ピロール、フラン及びチオフェンの芳香族求電子置換反応は、ベンゼン環より反応性が高いことが記載されている(乙8a)。また、乙9には、チオフェン環、ピロール環又はフラン環などのヘテロアリール環を有する化合物が、ベンゼン環であるアリール環を有する化合物よりも低い温度で、BCl3などのホウ素を求電子剤とし、アミン及びAlCl3の存在下で、ヘテロフリーデルクラフツ反応が進行する例が示されている(乙9a)。
以上のことから、当業者であれば、B環及びC環がヘテロアリール環である場合も、アリール環の場合と同様の第2反応が進行することを理解でき、発明の詳細な説明に記載された製造方法を参照して、過度の試行錯誤を要することなく本件化合物を製造できるといえる。
また、ヘテロフリーデルクラフツ反応では、求電子剤であるヘテロ元素として、ホウ素及びリンの何れも使用できることは、甲4からも理解できる(甲4d)。
よって、請求人の主張はいずれも採用できない。
3 無効理由3について
(1)甲1に記載の発明
甲1は、一般式[1]で表される化合物及びその化合物を用いた有機デバイスの発明に関し(甲1a)、一般式[1]で表される化合物の好ましい範囲として、一般式[2]で表される化合物が挙げられ、その好ましい構造として、一般式[2-1]及び[2-2]が挙げられており、[表1-1]及び[表3-1]に、化合物の具体例が示されている(甲1c)。
これらの記載から、甲1には、次の甲1発明1及び2が記載されていると認める。
ア 甲1発明1
「下記一般式[2-1]又は一般式[2-2]で表され、Y1~Y2、X1~X6、R1~R7、R10~R15、R18~R20、及びL11~L18が、以下の表で示される組み合わせである、化合物60~69又は化合物260~269。
[図:0001422770000057.jpg]
[図:0001422770000058.jpg]
[図:0001422770000059.jpg]
」
イ 甲1発明2
「下記一般式[2-1]又は一般式[2-2]で表され、Y1~Y2、X1~X6、R1~R7、R10~R15、R18~R20、及びL11~L18が、以下の表で示される組み合わせである、化合物60~69又は化合物260~269を用いた有機デバイス。
[図:0001422770000060.jpg]
[図:0001422770000061.jpg]
[図:0001422770000062.jpg]
」
ウ 被請求人の主張について
被請求人は、甲1には、一般式[1]について1160個、その下位概念である一般式[2-1]及び[2-2]についてもそれぞれ160個もの化合物が列挙されており、これら多数の化合物は、上位概念としての一般式の各部位の置換基について、あり得る順列組合せを機械的に列挙したものにすぎないこと、表から、各行における特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず、引用発明を認定することはできないことを主張している(答弁書32ページ3行~35ページ20行及び口頭審理陳述要領書3ページ18行~4ページ10行)。
そこで検討するに、甲1には、いわゆるマーカッシュ形式の一般式[1]で表される化合物の発明が記載され、その好ましい構造として、一般式[2-1]及び[2-2]が挙げられ、さらに表1~4にそれらの具体例を示したことが記載されているから(甲1c)、あり得る順列組合せを単に機械的に列挙したものとはいえない。
そして、甲1には、一般式[1]で表される化合物の合成法は特に制限されず、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることにより行うことができることが記載され、一般式[2]で表される化合物の合成スキームが例示されていることを踏まえれば(甲1d)、表1~4の化合物は製造できるように記載されているといえる。また、電子輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物として、Y1及びY2が>B-又は>P(=O)-である化合物が挙げられており、ホール輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物として、Y1及びY2が>N-又は>P-である化合物が挙げられている(甲1e)。
したがって、甲1全体の記載から、表に示された各化合物について、甲1に記載された技術的思想の具体化である発明として認定できるといえる。
よって、被請求人の主張は採用できない。
(2)無効理由3-1(新規性欠如)について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明1とを対比する。
a 甲1発明1の化合物60~64は、Y1、X1及びX2を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する部分構造(左側の部分構造)と、Y2、X4及びX5を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する部分構造(右側の部分構造)とが、同一の構造であり、いずれも本件訂正発明1の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」に該当する。
そして、甲1発明1の化合物60~64は、上記2つの部分構造が単結合で結合した2量体といえるから、本件訂正発明1とは、「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」であって、「式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。」で一致する。
b 甲1発明1の化合物60~64の2つの部分構造それぞれの3つのベンゼン環は、本件訂正発明1の「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、」と、「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、」で一致する。
c 甲1発明1の化合物60~64のY1(及びY2)が>B-であることは、本件訂正発明1と「Y1は、Bであり、」で一致し、X1及びX2(及びX4及びX5)が-O-であることは、本件訂正発明1の「X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と、「X1およびX2は、それぞれ独立して、Oであり」で一致する。
d 甲1発明1の化合物260~264は、Y1、X1及びX3を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する部分構造(左側の部分構造)と、同一の構造である右側の部分構造とを、単結合で結合する位置が異なる以外、化合物60~64と同様であり、上記a~cの点で、本件訂正発明1と一致する。
e したがって、本件訂正発明1と甲1発明1の化合物60~64又は260~264とは、次の一致点及び相違点1-1を有する。
一致点:
「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体。
(一般式(1)省略)
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
Y1は、Bであり、
X1およびX2は、Oであり、
そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」である点。
相違点1-1:
本件訂正発明1は、多量体について、「一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態である」、「多量体」と特定しているのに対し、
甲1発明1の化合物60~64又は260~264は、そのような構造の多量体ではない点。
(イ)判断
甲1発明1の化合物60~64又は260~264は、本件訂正発明1とは相違点1-1において相違するから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
イ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と甲1発明1とを対比する。
a 甲1発明1の化合物65~69は、Y1、X1及びX2を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する部分構造(左側の部分構造)と、Y2、X4及びX5を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する部分構造(右側の部分構造)とが、同一の構造であり、いずれも本件訂正発明2の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」に該当する。
そして、甲1発明1の化合物65~69は、上記2つの部分構造が単結合で結合した2量体といえるから、本件訂正発明2とは、「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」で一致し、本件訂正発明2の「式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、」と、「式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2個有する2量体である、」で一致する。
b 甲1発明1の化合物65~69の2つの部分構造それぞれの3つのベンゼン環は、本件訂正発明2の「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、」と、「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する6員環を有し、」で一致する。
c 甲1発明1の化合物65~69のY1(及びY2)が>P(=O)-であることは、本件訂正発明2の「Y1は、P=OまたはP=Sであり、」と、「Y1は、P=Oであり、」で一致し、X1及びX2(及びX4及びX5)が-O-であることは、本件訂正発明2の「X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と、「X1およびX2は共にOであり、」で一致する。
d 甲1発明1の化合物265~269は、Y1、X1及びX3を含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する部分構造(左側の部分構造)と、同一の構造である右側の部分構造とを、単結合で結合する位置が異なる以外、化合物65~69と同様であり、上記a~cの点で、本件訂正発明2と一致する。
e したがって、本件訂正発明2と甲1発明1の化合物65~69又は265~269とは、次の一致点及び相違点2-1を有する。
一致点:
「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、
(一般式(1)省略)
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する6員環を有し、
Y1は、P=Oであり、
X1およびX2は共にOであり、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2個有する2量体である、
多環芳香族化合物の多量体。」である点。
相違点2-1:
本件訂正発明2は、多量体について、「一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」と特定しているのに対し、
甲1発明1の化合物65~69又は265~269は、そのような構造の多量体ではない点。
(イ)判断
甲1発明1の化合物65~69又は265~269は、本件訂正発明2とは相違点2-1において相違するから、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明ではない。
ウ 本件訂正発明3~4について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1を引用して、多環芳香族化合物についてさらに限定するものであり、本件訂正発明4は、本件訂正発明3を引用してさらに限定するものである。すなわち、本件訂正発明1が有する、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」(以下「単量体」ともいう。)と、「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」という選択肢について、単量体に限定するとともに、その構造についてさらに限定するものである。
一方、甲1発明1の化合物60~64及び260~264は、上記ア(ア)aで述べたとおり、本件訂正発明1の「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」に相当する。
よって、本件訂正発明3~4は単量体であるのに対し、甲1発明1の化合物60~64及び260~264は多量体である点で相違するから、本件訂正発明3~4は、甲1に記載された発明ではない。
エ 本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1、3又は4を引用して、ハロゲンはフッ素であると特定するものである。
そうすると、本件訂正発明5と、甲1発明1の化合物60~64及び260~264とは、少なくとも相違点1-1で相違するから、本件訂正発明5は、甲1に記載された発明ではない。
オ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~5は、甲1に記載された発明でなく、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
よって、無効理由3-1(新規性欠如)には、理由がない。
カ 請求人の主張について
請求人は、本件訂正発明1~2は、置換基の種類が一切無限定であり、本件訂正発明3~5は、置換基の種類をある程度限定しているのみであることを理由として、甲1発明1は、2つの部分構造の一方が本件訂正発明1の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」に該当し、残りの部分構造が、その置換基に該当するといえるので、甲1発明1は、本件訂正発明1~5の単量体に該当する旨主張している(審判請求書67ページ下から7~最終行及び口頭審理陳述要領書27ページ5~15行)。
しかしながら、上記1(3)エの【0063】に記載されているとおり、本件特許明細書に開示される技術的思想においては、多量体とは、甲1発明1のような単位構造を連結基で複数結合した形態(以下「連結系二量体」という。)と、本件訂正発明1~5で特定されている、単位構造に含まれる任意の環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態及び単位構造に含まれる任意の環同士が縮合するようにして結合した形態を意味するといえる。したがって、甲1発明1は、本件訂正発明1~5では除外された、連結系二量体にあたると解するのが相当である。なお、このことは、請求人が、口頭審理陳述要領書7ページ3~5行などで、「本件訂正発明1では、多量体の構造が甲1発明の連結系二量体を含まないように限定されたため」と述べているとおり、請求人も理解しているところである。
また、本件訂正発明1~5は、上記1(4)アで述べたとおり、有機EL素子材料として有用な化合物を提供することを解決しようとする課題とし、上記1(4)イ(ア)の構造上の特徴を有することで課題を解決したものであり、置換基としては、上記1(3)ウの【0035】に記載の構造上の特徴により奏される作用機序を損なわない程度のもので、本件特許明細書に例示されているようなものを想定していると考えるのが自然である。このことからも、同じ構造である2つの部分構造を単結合で結合した甲1発明1について、一方の部分構造が本件訂正発明1~5におけるA環、B環又はC環の置換基に該当するということは、上記置換基の考え方から妥当ではない。
よって、請求人の主張は採用できない。
(3)無効理由3-2(進歩性欠如)について
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲1発明1とは、上記(2)ア(ア)eのとおりの一致点及び相違点1-1を有する。
そこで、相違点1-1について検討する。
甲1発明1の化合物60~64及び260~264は、それぞれ甲1の一般式[1]で表される化合物の具体例であるから、これをほかの構造の化合物とする動機付けはない。
また、甲1の一般式[1]で表される化合物は、請求項1の記載からも理解できるとおり、単結合かAr1で示される構造を介して、3つのベンゼン環を有する構造を2以上有することが特定されたものである(甲1a)。そうすると、仮に、甲1発明1の化合物20~64及び260~264について、甲1全体の記載を参酌して異なる化合物とすることを試みたとしても、一般式[2-1]又は[2-2]について選択し得る置換基について変更したり、単結合で結合した2つの部分構造をAr1で示される構造を介して結合するように変更したりすることに留まり、相違点1-1で特定される構造の多量体とする動機付けはない。
よって、本件訂正発明1は、甲1発明1に基いて容易になし得たものではない。
イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲1発明1とは、上記(2)イ(ア)eのとおりの一致点及び相違点2-1を有する。
そこで、相違点2-1について検討するに、上記アで検討したのと同様の理由により、甲1発明1の化合物65~69及び265~269について、これをほかの構造の化合物とする動機付けはなく、相違点2-1で特定される構造の多量体とする動機付けもない。
よって、本件訂正発明2は、甲1発明1に基いて容易になし得たものではない。
ウ 本件訂正発明3~4について
本件訂正発明3~4と甲1発明1とは、上記(2)ウのとおり、本件訂正発明3~4は単量体であるのに対し、甲1発明1は多量体である点で相違する。
そして、上記アのとおり、甲1発明1の化合物60~64及び260~264をほかの構造の化合物とする動機付けはない上、単量体とすることが動機付けられるところもない。
よって、本件訂正発明3~4は、甲1発明1に基いて容易になし得たものではない。
エ 本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1、3又は4を引用して、ハロゲンをフッ素に限定するものである。
したがって、本件訂正発明5は、上記ア又はウと同様の理由により、甲1発明1に基いて容易になし得たものではない。
オ 本件訂正発明9について
(ア)対比
本件訂正発明9は、本件訂正発明1、3~5の何れかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料であるから、甲1発明2の化合物60~64又は260~264を用いた有機デバイスとは、有機デバイス用材料である点で一致し、上記(2)ア(ア)又はウで検討したのと同様に、少なくとも次の相違点9-1を有する。
相違点9-1:
本件訂正発明9は、含有する化合物について、「一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態である」、「多量体」か、一般式(1)で表される多環芳香族化合物をさらに特定した単量体であると特定しているのに対し、
甲1発明2は、含有する化合物が、そのような構造の多量体でも単量体でもない点。
(イ)判断
上記相違点9-1は、上記(2)ア(イ)又はウで検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基いて容易になし得たものではない。
カ 本件訂正発明10~20について
本件訂正発明10~20は、直接又は間接的に本件訂正発明9を引用する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子、表示装置又は照明装置に関するものである。
そうすると、本件訂正発明10~20は、本件訂正発明9の構成をすべて含む発明であるから、上記オと同様の理由により、甲1発明2に基いて容易になし得たものではない。
キ 本件訂正発明25について
(ア)対比
本件訂正発明25は、実質的に本件訂正発明2に記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する、有機デバイス用材料に関するものであるから、甲1発明2の化合物65~69又は265~269を用いた有機デバイスとは、有機デバイス用材料である点で一致し、上記(2)イ(ア)で検討したのと同様に、少なくとも次の相違点25-1を有する。
相違点25-1:
本件訂正発明25は、含有する多量体について、「一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」と特定しているのに対し、
甲1発明2は、含有する多量体が、そのような構造ではない点。
(イ)判断
上記相違点25-1は、上記オで検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基いて容易になし得たものではない。
ク 本件訂正発明26~28について
本件訂正発明26~28は、それぞれ実質的に本件訂正発明2に記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料又は有機電界発光素子に関するから、上記キで検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基いて容易になし得たものではない。
ケ まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1~5、9~20及び25~28は、甲1発明1又は甲1発明2及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
よって、無効理由3-2(進歩性欠如)には、理由がない。
コ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張
請求人は、甲1発明1について、単結合で結合した2つの部分構造のうちの一方のみからなる単量体とすることは容易であるとして、概要、次のように主張している(審判請求書69ページ7~10行、口頭審理陳述要領書32ページ下から5行~最終行及び令和4年8月1日提出の上申書7ページ17行~8ページ最終行)。
甲2及び甲3は共に、縮合2環構造(D構造)を有する単量体の多環芳香族化合物が有機EL素子材料として好適であることを開示しており、技術常識である((甲2a)及び(甲3a))。また、甲1は、連結系二量体の中間体として、多環芳香族化合物の単量体の構造を具体的に開示する(甲1d)。縮合2環構造(D構造)を有する単量体が有機EL素子材料として好適であることを踏まえれば、中間体である単量体をあえて連結系二量体とはせずに、単量体のままで使用しようとする動機付けが生じることから、当業者であれば単量体を得るのは容易である。そして、本件訂正発明1~5、9~20及び25~28は、作用効果の裏付けのない化合物を極めて多数含んでいるから、発明全体として顕著な作用効果は認められない。
(イ)主張の検討
a 甲1の記載について
甲1には、従来技術について、有機デバイス材料としてトリフェニルアミン構造を有する化合物やその二量体が知られており、トリフェニルアミンを構成する芳香環同士を連結基で連結してトリフェニルアミンの平面性を高めたトリフェニルアミン誘導体(単量体)が知られているが、その二量体については知られていないことが記載され、甲1では、分子内に特定の環状構造を複数有する化合物が熱的に安定で電荷輸送材料として優れた特性を有しており、有機デバイスに効果的に利用できることを見出したことに基づいて、本発明を提供することに至ったと記載されている(甲1b)。実施例においても、二量体と単量体とを比較したことが記載されている(甲1f)。
そうすると、甲1の記載から、分子内に特定の環状構造を複数有する化合物が熱的に安定で電荷輸送材料として優れた特性を有していることを前提とした甲1発明1の化合物60~69及び260~269について、二量体にかえて敢えて単量体とすることの動機付けがあるとはいえない。
b 甲2、甲3及び技術常識と組合せについて
甲2には、有機EL素子材料として、縮合2環構造(D構造)を含む構造を有する化合物が記載されているということもできるが、一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物全体の構造を有するものが、有機EL素子材料として記載されているのであって、縮合2環構造(D構造)のみに着目した記載はない。また、甲3には、縮合2環構造(D構造)を有する場合があるといえる式(1)の化合物が記載されているに留まる。
したがって、縮合2環構造(D構造)を有する単量体の多環芳香族化合物が有機EL素子材料として好適であることが技術常識であるということはできず、甲1に中間体として単量体が示されていることや、甲2及び甲3の記載を考慮しても、甲1発明1の化合物60~69及び260~269について、二量体にかえて単量体とすることが動機付けられるものではない。
c 効果について
上記1(4)イで述べたとおり、本件訂正発明1~5は縮合2環構造(D構造)を含む構造上の特徴を有することで、有機EL素子材料として有用な化合物であることが理解でき、実施例において有機EL素子材料としての効果が確認されている。
また、乙12には、連結系2量体である甲1発明1の化合物60(Wakamiya Compound 60)と、その単量体であり、本件訂正発明1の化合物に該当する化合物(Inventive Compound(1-1))とを発光層のドーパント材料として用いた有機EL素子を作製して、有機EL特性を比較した結果、連結系2量体を用いたWakamiya Element 1-1よりも、単量体を用いたInventive Element 2-1が、優れていることが示されている((乙12a)及び(乙12b))。
そうすると、本件訂正発明1~5、9~20及び25~28は、連結系二量体を開示する甲1及び技術常識からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
d 以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
4 無効理由4(進歩性欠如)について
(1)無効理由4の対象について
審判請求書における請求人の主張する無効理由4は、概要、本件化合物におけるY1がBである場合についての進歩性欠如をいうものである。
それに対し、被請求人は、答弁書において、本件訂正により本件訂正発明2はY1がBであるものを含まないものとなったため、本件訂正発明2及び25~28は、無効理由4の対象ではないと主張した(62ページ5~6行)。
請求人は、口頭審理陳述要領書において、甲2に基づく無効理由4は、Y1がBであることを念頭に置いた無効の主張であり、Y1からBが除外された本件訂正発明2及び25~28に対しては、特に追加の主張はしないと述べている(36ページ下から3~1行)。
したがって、以下では、本件訂正発明1、3~5及び9~20について検討する。
(2)甲2に記載の発明
甲2は、一般式(1)又は(2)で表される化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子材料の発明に関し(甲2a)、一般式(1)で表される化合物の具体例として、化合物(1-52)が、一般式(2)で表される化合物の具体例として、化合物(2-54)が、それぞれ示されており(甲2b)、それらを用いて有機EL素子を作製し、評価をした結果が示されている(甲2c)。
これらの記載から、甲2には、次の甲2発明1及び2が記載されていると認める。
ア 甲2発明1
「下記の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物。
[図:0001422770000063.jpg]
」
イ 甲2発明2
「下記の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
[図:0001422770000064.jpg]
」
(3)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲2発明1とを対比する。
(ア)甲2発明1の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物におけるP=Oと2つのNを含んで構成される2つの飽和炭化水素環が縮合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する構造は、本件訂正発明1と、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」であって、「式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。」で一致する。
(イ)甲2発明1の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物の上記3つのベンゼン環は、本件訂正発明1の「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、」と、「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、」で一致する。
(ウ)甲2発明1の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物のフェニル基が置換したNと、上記3つのベンゼン環の一つと結合を有するフェニル基が置換したNは、本件訂正発明1の「X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と、「X1およびX2は、それぞれ独立して、N-Rであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリールであり、また、前記N-RのRは単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」で一致する。
(エ)したがって、本件訂正発明1と甲2発明1の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物とは、次の一致点及び相違点1-2を有する。
一致点:
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物。
(一般式(1)省略)
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
X1およびX2は、それぞれ独立して、N-Rであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリールであり、また、前記N-RのRは単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、
そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」である点。
相違点1-2:
本件訂正発明1は、「Y1は、B」であると特定しているのに対し、
甲2発明1は、Y1に相当する部分がP=Oである点。
イ 判断
甲2発明1は、式(1-52)又は式(2-54)で表される個別の化合物として完成されたものとして認定されたものであるから、これをほかの化合物とする動機付けはなく、仮に、ほかの化合物とすることを試みるとしても、式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物の構造について、特にP=Oに着目して、それをBにかえることを動機付けられるところはない。
よって、本件訂正発明1は、甲2発明1に基いて容易になし得たものではない。
(4)本件訂正発明3~5について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1を引用して、多環芳香族化合物の構造を限定するものであり、本件訂正発明4は、本件訂正発明3を引用して、更に限定するものである。
また、本件訂正発明5は、本件訂正発明1、3又は4を引用して、ハロゲンはフッ素であると特定するものである。
したがって、本件訂正発明3~5は、上記(3)と同様の理由により、甲2発明1に基いて容易になし得たものではない。
(5)本件訂正発明9について
ア 対比
本件訂正発明9は、本件訂正発明1、3~5の何れかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料であるから、甲2発明2の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子材料とは、有機デバイス用材料である点で一致し、上記(3)又は(4)で検討したのと同様に、少なくとも次の相違点9-2を有する。
相違点9-2:
本件訂正発明9は、含有する化合物について、「Y1は、B」であると特定しているのに対し、
甲2発明2は、含有する化合物が、Y1に相当する部分がP=Oである点。
イ 判断
上記相違点9-2は、上記(3)又は(4)で検討したのと同様の理由により、甲2発明2に基いて容易になし得たものではない。
(6)本件訂正発明10~20について
本件訂正発明10~20は、直接又は間接的に本件訂正発明9を引用する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子、表示装置又は照明装置に関するものである。
そうすると、本件訂正発明10~20は、本件訂正発明9の構成をすべて含む発明であるから、上記(5)と同様の理由により、甲2発明2に基いて容易になし得たものではない。
(7)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、3~5及び9~20は、甲2発明1又は甲2発明2及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
よって、無効理由4(進歩性欠如)には、理由がない。
(8)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人の主張の骨子は、概要、次のとおりである(審判請求書78ページ5行~18行及び口頭審理陳述要領書38ページ1~11行)。
甲1~3はいずれも、3個のヘテロ原子を含む縮合2環構造を芳香族環が取り巻く構造が有機EL素子用材料に適することを開示しており、この点は周知であったと認められる((甲1a)、(甲2a)及び(甲3a))。本件訂正発明1、3~5のY1に相当するヘテロ原子として、甲1はB、P=O、Nの具体例を多数開示しており、これらのいずれを使用しても優れた有機EL素子用材料が得られることを教示している。甲3も、X1及びX2に相当するヘテロ原子としてであるが、Bが選択できることを教示している。したがって、甲2発明1について、甲1及び甲3を参酌すれば、Y1としてP=OではなくBを当業者が選択するのは単なる設計変更であり容易である。
イ 主張の検討
甲2発明1の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物は、甲2の一般式(1)又は(2)で表される化合物の具体例であるところ、(甲2a)には、本件訂正発明1、3~5のY1に相当するといえる一般式(1)又は(2)で表される化合物のY1について「各々独立にN、P、P=O、P=S、SiAr1のいずれかを表し」と記載されており、選択肢にBを記載していない。
そして、甲1~3には、本件訂正発明1、3~5の縮合2環構造(D構造)に該当するといえる構造が記載されているとしても、いずれもそのような構造自体に着目したことについては記載されていないし、縮合2環構造(D構造)のY1に相当するヘテロ原子について、甲2に選択肢としても記載されていないBを、P=Oにかえて選択することを動機付けるような記載もない。
よって、請求人の主張は採用できない。
5 無効理由5(進歩性欠如)について
(1)無効理由5の対象について
審判請求書における請求人の主張する無効理由5は、概要、本件化合物におけるY1がP=Oである場合についての進歩性欠如をいうものである。
それに対し、被請求人は、答弁書において、本件訂正により本件訂正発明1はY1がP=Oであるものを含まないものとなったため、本件訂正発明1、3~5及び9~20は、無効理由5の対象ではないと主張した(67ページ19~22行)。
請求人は、口頭審理陳述要領書において、甲3に基づく無効理由5は、Y1がP=Oであることを念頭に置いた無効の主張であり、Y1からP=Oが除外された本件訂正発明1、3~5及び9~20に対しては、特に追加の主張はしないと述べている(38ページ15~17行)。
したがって、以下では、本件訂正発明2及び25~28について検討する。
(2)甲3に記載の発明
甲3は、式(1)又は式(2)の化合物及びその少なくとも1つを含む有機電子素子に関するもので(甲3a)、甲3には、次の甲3発明1及び2が記載されていると認める。
ア 甲3発明1
「下記式(1)又は式(2)の化合物。
[図:0001422770000065.jpg]
ここで、使用される記号及び添字は、以下が適用される:
Xは、出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり;
Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C=S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若しくは化学結合であり;
R1は、出現毎に同一であるか異なり、H、OH、F、Cl、Br、I、CN、CHO、NO2、N(Ar)2、Si(R2)3、B(OR2)2、C(=O)Ar、P(=O)Ar2、S(=O)Ar、S(=O)Ar2、CR2=CR2Ar、C≡CAr、OSO2R2、1~40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基又は3~40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-R2C=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、NR2、-O-、-S-若しく-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は1以上の基R2により置換されていてもよい、5~40個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造、又は1以上のR2基により置換されていてもよい、5~24個の芳香族環原子を有するアリールオキシ若しくはヘテロアリールオキシ基、又は、2、3、4若しくは5個のこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2以上の置換基R1は、同一環上及びまた異なる環上で、互いにモノ或いはポリ環状、脂肪族、芳香族若しくは複素環式芳香族環構造を形成するものであってもよく;
Rは、R1と同様に定義され、少なくとも1つの基Rは、水素ではなく;
R2は、出現毎に同一であるか異なり、H若しくは1~20個のC原子を有する脂肪族芳香族及び/又は複素環式芳香族炭化水素基であって、2以上の基R2は、互いに環構造を形成するものであってもよく;
Arは、出現毎に同一であるか異なり、5~30個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の非芳香族基R1により置換されていてもよく;
Lは、1~40個のC原子を有する少なくとも2価の直鎖アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基、又は3~40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-CR2=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、-O-、-S-若しくは-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は5~40個の芳香族環原子を有する少なくとも2価の芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の基R2、若しくはP(R1)3-P、P(=O)(R1)3-P、C(R1)4-P、Si(R1)4-P、N(Ar)3-Pにより置換されていてもよく、又は2、3、4若しくは5個のこれら系の組み合わせ;又はLは化学結合であり;
nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であり、ここで、n=0は、水素若しくは基R1がYの代わりに存在することを意味するが、但し少なくとも2個の添字nは、0でなく;
pは、2、3、4、5若しくは6であり、但し、pは、Lの最大原子価より大きくはなく;
但し、以下の化合物は除く。
[図:0001422770000066.jpg]
」
イ 甲3発明2
「下記式(1)又は式(2)の化合物を含む有機電子素子。
[図:0001422770000067.jpg]
ここで、使用される記号及び添字は、以下が適用される:
Xは、出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり;
Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C=S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若しくは化学結合であり;
R1は、出現毎に同一であるか異なり、H、OH、F、Cl、Br、I、CN、CHO、NO2、N(Ar)2、Si(R2)3、B(OR2)2、C(=O)Ar、P(=O)Ar2、S(=O)Ar、S(=O)Ar2、CR2=CR2Ar、C≡CAr、OSO2R2、1~40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基又は3~40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-R2C=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、NR2、-O-、-S-若しく-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は1以上の基R2により置換されていてもよい、5~40個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造、又は1以上のR2基により置換されていてもよい、5~24個の芳香族環原子を有するアリールオキシ若しくはヘテロアリールオキシ基、又は、2、3、4若しくは5個のこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2以上の置換基R1は、同一環上及びまた異なる環上で、互いにモノ或いはポリ環状、脂肪族、芳香族若しくは複素環式芳香族環構造を形成するものであってもよく;
Rは、R1と同様に定義され、少なくとも1つの基Rは、水素ではなく;
R2は、出現毎に同一であるか異なり、H若しくは1~20個のC原子を有する脂肪族芳香族及び/又は複素環式芳香族炭化水素基であって、2以上の基R2は、互いに環構造を形成するものであってもよく;
Arは、出現毎に同一であるか異なり、5~30個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の非芳香族基R1により置換されていてもよく;
Lは、1~40個のC原子を有する少なくとも2価の直鎖アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基、又は3~40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-CR2=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、-O-、-S-若しくは-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は5~40個の芳香族環原子を有する少なくとも2価の芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の基R2、若しくはP(R1)3-P、P(=O)(R1)3-P、C(R1)4-P、Si(R1)4-P、N(Ar)3-Pにより置換されていてもよく、又は2、3、4若しくは5個のこれら系の組み合わせ;又はLは化学結合であり;
nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であり、ここで、n=0は、水素若しくは基R1がYの代わりに存在することを意味するが、但し少なくとも2個の添字nは、0でなく;
pは、2、3、4、5若しくは6であり、但し、pは、Lの最大原子価より大きくはなく;
但し、以下の化合物は除く。
[図:0001422770000068.jpg]
」
(3)本件訂正発明2について
ア 対比
本件訂正発明2と甲3発明1とを対比する。
(ア)甲3発明1の式(1)又は式(2)の化合物は、2つのベンゼン環を結合する(Y)nを3つ有するところ、nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であるとされているから、そのうち1つの(Y)n(n=0)を有さず、(Y)n(n=1)を2つ有することができ、Xと2つのYを含んで構成される2つの飽和炭化水素環が結合した構造と結合を共有する3つのベンゼン環を有する構造ということができる。
また、甲3発明1の式(2)の化合物のLは、化学結合、1~40個のC原子を有する少なくとも2価の直鎖アルキレン、5~40個の芳香族環原子を有する少なくとも2価の芳香族若しくは複素環式芳香族環構造などであり、pは、2、3、4、5若しくは6であるとされているから、単結合かアルキル基などを介して結合する2量体又は3量体であることができる。
その場合には、本件訂正発明2と、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」であって、「式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体」で一致する。
(イ)甲3発明1の式(1)又は式(2)の化合物の3つのベンゼン環は、本件訂正発明2の「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、」と「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する6員環を有し、」で一致する。
(ウ)甲3発明1の式(1)又は式(2)の化合物は、XがP=Oであることができ、上記(ア)のように2つの(Y)n(n=1)が存在し、それらがともにO、Sであるか、一方がOで他方がSであることができる。
その場合は、本件訂正発明2の「Y1は、P=OまたはP=Sであり、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と、「Y1は、P=Oであり、X1およびX2は共にO、Sであるか、一方がOで他方がSである」と一致する。
(エ)したがって、本件訂正発明2と甲3発明1の式(1)又は式(2)化合物とは、次の一致点及び相違点2-3の1~2-3の3を有する。
一致点:
「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であることができ、
(一般式(1)省略)
(A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する6員環を有し、
Y1は、P=Oであることができ、
X1およびX2は共にO、Sであるか、一方がOで他方がSであることができ、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、
多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、
多環芳香族化合物またはその多量体。」である点。
相違点2-3の1:
本件訂正発明2は、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」「多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、」と特定しているのに対し、
甲3発明1は、甲3発明1の式(1)又は式(2)の構造をもち、一般式(1)で表される多環芳香族化合物又はその多量体の構造に特定されていない点。
相違点2-3の2:
本件訂正発明2は、「Y1は、P=OまたはP=Sであり、」と特定しているのに対し、
甲3発明1は、Y1に相当するXが「出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり」と特定している点。
相違点2-3の3:
本件訂正発明2は、「X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と特定しているのに対し、
甲3発明1は、X1及びX2に相当する部分である(Y)nのYが、「Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C=S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若しくは化学結合であり」であり、「nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であり、ここで、n=0は、水素若しくは基R1がYの代わりに存在することを意味するが、但し少なくとも2個の添字nは、0でなく;」と特定されている点。
イ 判断
相違点2-3の1~2-3の3は課題及び解決手段との関係で関連するものであるので、まとめて検討する。
甲3には、(Y)nのnについて、少なくとも2個の添字nは0でなく、添字nは、特に好ましくは1であることは記載されているが、2個の添字nが0ではないことが好ましいとはされていない(甲3b【0027】)。
そして、Xについては、選択肢にP=Oを含むものの、非常に特に好ましくは、窒素を表すものであることが記載され(甲3b【0020】)、(Y)nのYついては、選択肢に、O又はSを含むものの、好ましくは、メチル置換基で置換されたC(R1)2を表わすものであることが記載されている(甲3b【0021】)。
そうすると、甲3発明1の選択肢に、本件訂正発明2と重複する場合が含まれているとしても、多数の選択肢の組合せから、(Y)n及びXについて、好ましいとして示されてもいないものを選択して、相違点2-3の1~2-3の3に係る構成となる、3つのベンゼン環をP=Oと、2つのO、2つのS又はOとSとを含む縮合2環構造(D構造)で連結した構造とすることの動機付けはない。
加えて、多量体についても、非常に特に好ましくは2量体又は3量体であることは示されているものの(甲3b【0028】)、Lは化学結合であるか、アルキル基や芳香族環などであるから、本件特許明細書における連結系二量体に相当し、それにかえて、本件訂正発明2で特定する多量体にすることが動機付けられるところもない。
よって、本件訂正発明2は、甲3発明1に基いて容易になし得たものではない。
(4)本件訂正発明25について
ア 対比
本件訂正発明25は、実質的に本件訂正発明2に記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する、有機デバイス用材料に関するものであるから、甲3発明2の式(1)又は式(2)の化合物を含む有機電子素子とは、有機デバイス用材料である点で一致し、上記(3)アで検討したのと同様に、少なくとも次の相違点25-3の1~25-3の3を有する。
相違点25-3の1:
本件訂正発明25は、含有する化合物について、「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、」「多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、」と特定しているのに対し、と特定しているのに対し、
甲3発明2は、含有する化合物が、そのような構造に特定されていない点。
相違点25-3の2:
本件訂正発明2は、含有する化合物について、「Y1は、P=OまたはP=Sであり、」と特定しているのに対し、
甲3発明2は、含有する化合物が、Y1に相当するXは「出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり」と特定している点。
相違点25-3の3:
本件訂正発明2は、含有する化合物について、「X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と特定しているのに対し、
甲3発明2は、含有する化合物が、X1及びX2に相当する部分である(Y)nのYは、「Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C=S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若しくは化学結合であり」であり、「nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であり、ここで、n=0は、水素若しくは基R1がYの代わりに存在することを意味するが、但し少なくとも2個の添字nは、0でなく;」と特定されている点。
イ 判断
上記相違点25-3の1~25-3の3は、上記(3)イで検討したのと同様の理由により、甲3発明2に基いて容易になし得たものではない。
(5)本件訂正発明26~28について
本件訂正発明26~28は、それぞれ実質的に本件訂正発明2に記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料又は有機電界発光素子に関するから、上記(4)で検討したのと同様の理由により、甲3発明2に基いて容易になし得たものではない。
(6)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明2及び25~28は、甲3発明1又は甲3発明2及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
よって、無効理由5(進歩性欠如)には、理由がない。
(7)請求人の主張について
請求人は、甲3に記載された発明と本件訂正発明2とが、非常に広い範囲で重複しており、本件訂正発明2が甲3に記載された発明の下位概念ではなくても、重複範囲については選択発明の考え方が適用され、顕著な作用効果を有するのでなければ、進歩性が否定されると主張している(審判請求書85ページ6行~89ページ5行及び口頭審理陳述要領書38ページ下から6行~41ページ11行)。
しかしながら、請求人の主張は、マーカッシュ形式で記載された甲3発明1について、多数の選択肢の組合せには、本件訂正発明2に該当する組合せがあり得るというものに留まり、甲3に開示された技術的事項からひとまとまりの技術的思想として把握できる個々の化合物が、本件訂正発明2と広く重複していることは示していない。
そして、上記(3)イで甲3の記載について検討したとおり、甲3に開示された技術的事項から、本件訂正発明2に該当する個々の化合物をひとまとまりの技術的思想として把握することはできないから、両発明について選択発明の考え方を適用して検討する余地はない。
よって、請求人の主張は採用できない。
6 無効理由6(進歩性欠如)について
(1)甲4に記載の発明
甲4は、リン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造へのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応と題する論文であって(甲4a)、その反応を具体的に示したスキーム2、図1及びその説明の記載からみて((甲4b)~(甲4i))、次の甲4発明が記載されていると認める。
甲4発明:
「以下の反応式で示される、中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)に、リチウム-ハロゲン交換をし、得られたアリールリチウムをそれに続くトリクロロホスフィン(PCl3)を使用して、へテロ原子Pを導入して、m-テラリルホスフィンジクロリド(化合物3a-3c)を得、S8、AlCl3及びブレンステッド塩基(NEt(i-Pr)2)を用いて、連続的な芳香族求電子置換反応(タンデムホスファフリーデルクラフツ反応)により、選択的に6,6-閉環を形成し、ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)を製造する方法。
[図:0001422770000069.jpg]
」
(2)本件訂正発明21について
ア 対比
(ア)甲4発明の生成物である「ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)」は、本件訂正発明21の「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」と、「多環芳香族化合物」である限りにおいて一致する。
そして、「ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)」のPと直接結合する3つのベンゼン環は、本件訂正発明21の式(1)の化合物におけるY1と直接結合するA環、B環及びC環に相当するといえるので、中間体生成物であるm-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)における対応する3つのベンゼン環も、本件訂正発明21の中間体におけるA環、B環及びC環に相当するといえ、「中間体生成物であるm-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)」は、本件訂正発明21と、「中間体」である限りにおいて一致する。
そして、甲4発明の「中間体生成物であるm-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)」と「ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)」の3つのベンゼン環は、本件訂正発明21の「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、」と、「A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、」で一致し、甲4発明の「ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)」は、本件訂正発明21の「式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。」と、「多環芳香族化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。」である限りにおいて一致する。
(イ)甲4発明の「中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)に、リチウム-ハロゲン交換をし、得られたアリールリチウムをそれに続くトリクロロホスフィン(PCl3)を使用して、へテロ原子Pを導入して、m-テラリルホスフィンジクロリド(化合物3a-3c)」を得る工程における「トリクロロホスフィン(PCl3)」は、本件訂正発明21の「Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬」の「Y1のハロゲン化物から選択される試薬」に相当する。
(ウ)甲4発明の「ブレンステッド塩基(NEt(i-Pr)2)を用いて、連続的な芳香族求電子置換反応(タンデムホスファフリーデルクラフツ反応)により、選択的に6,6-閉環を形成し、ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)を製造」する工程は、本件訂正発明21の「場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法」と「ブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程により、中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、多環芳香族化合物を製造する方法」である限りにおいて一致する。
(エ)したがって、本件訂正発明21と甲4発明とは、次の一致点及び相違点21-4の1~21-4の3を有する。
一致点:
「Y1のハロゲン化物から選択される試薬と、ブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程により、中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、多環芳香族化合物を製造する方法。
(上記中間体および多環芳香族化合物中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
多環芳香族化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)」である点。
相違点21-4の1:
本件訂正発明21は、「下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。
[図:0001422770000070.jpg]
」と特定しているのに対し、
甲4発明は、上記(中間体)のA環に直接結合したHがIである中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)に、リチウム-ハロゲン交換を行ってIをLiに交換し、次いでY1に相当する部分にPを導入して、m-テラリルホスフィンジクロリド(化合物3a-3c)を得てから、選択的に6,6-閉環を形成する反応工程である点。
相違点21-4の2:
本件訂正発明21は、「Y1は、B」であると特定しているのに対し、
甲4発明は、Y1に相当する部分がP、P=O又はP=Sである点。
相違点21-4の3:
本件訂正発明21は、「X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、」と特定しているのに対し、
甲4発明は、X1およびX2に相当する部分がCである点。
イ 判断
(ア)相違点21-4の1について
甲4には、タンデムホスファフリーデルクラフツ反応については、甲4発明を認定したScheme2及びその説明が記載されているだけである((甲4e)及び(甲4f))。
そして、甲4に示されたタンデムホスファフリーデルクラフツ反応について、1,3-ジクロロベンゼンから得られる中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)にかえて、m-位にヨウ素を導入することなく1,3-ジアリール化合物を中間体として用いる動機付けはない。
(イ)相違点21-4の2について
甲4には、甲4発明のホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)又はホスフィンオキシド(化合物5a-5c)におけるP、P=O又はP=SがB、SiRなどであっても、タンデムホスファフリーデルクラフツ反応と同様な反応が生じることが記載されているといえるから((甲4c)及び(甲4d))、甲4発明について、本件訂正発明21のY1に相当するP、P=O又はP=SがBである化合物とすることは容易になし得たことといえる。
(ウ)相違点21-4の3について
甲4に開示されるタンデムホスファフリーデルクラフツ反応は、いずれもPやBが結合するベンゼン環に直接ベンゼン環骨格が結合した構造を有する化合物を中間体及び生成物とするものである((甲4b)~(甲4i))。
このような甲4の開示から、PやBが結合するベンゼン環に直接ベンゼン環骨格が結合した構造を有する化合物について、特にその構造に着目して、本件訂正発明21のX1及びX2を介してベンゼン骨格が結合した化合物を中間体及び生成物とすることが動機付けられるところはない。
(エ)相違点21-4の1~21-4の3について
相違点21-4の1~21-4の3のとおり、本件訂正発明21と甲4発明とは、中間体も生成物も反応経路も全く異なるものである。
したがって、製造方法全体としてみても、甲4発明について、本件訂正発明21のY1に相当するP=OをBとすることは容易であるとしても、中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)にかえて、ベンゼン環の1,3-位に本件訂正発明21のX1及びX2に相当するO、N-R、S又はSeを介してアリール基が結合した化合物であって、2-位に置換基を有さない化合物を中間体として用いて、トリクロロホスフィン(PCl3)にかえて、例えばBCl3などと反応させてから、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応を実施して、本件訂正発明21の一般式(1)で表される多環芳香族化合物を製造する方法に変更する動機付けはなく、ましてや下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法とする動機付けもない。
よって、本件訂正発明21は、甲4発明に基いて容易になし得たものではない。
(3)本件訂正発明22~24について
本件訂正発明22~24は、本件訂正発明21を直接又は間接的に引用して反応工程や試薬を限定するものであるから、甲4発明とは、少なくとも上記(2)ア(エ)のとおりの相違点21-4の1~21-4の3で相違する。
したがって、上記(2)イと同様の理由により、本件訂正発明22~24は、甲4発明に基いて容易になし得たものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明21~24は、甲4発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
よって、無効理由6(進歩性欠如)には、理由がない。
(5)請求人の主張について
請求人は、相違点21-4の1について、この相違点は、BuLiの反応する中央の位置が水素かヨウ素(ハロゲン)かが本質的な点であって、いずれの場合もLi化された段階で同一になること、出発物質におけるBuLiとの反応位置が相違していても、いずれもLi化されるのであり、Li化された後は相違が解消するので、実質的な差はないか、少なくとも単なる設計事項であり、当業者であれば容易想到であることを主張している(口頭審理陳述要領書9ページ12~16行及び42ページ5行~43ページ2行)。
また、相違点21-4の3について、甲1に、本件訂正発明21のY1がB又はP=Oであり、本件訂正発明21のX1及びX2がいずれもOである化合物60~69及び260~269が、有機EL素子材料として有用であると記載されているから、X1及びX2がいずれもOである化合物を得る動機付けがあるので、Y1がB又はP=Oであり、X1及びX2がいずれもOである化合物を製造することを意図する当業者であれば、甲4発明においての中間体のナフチル基をフェノキシ基に置換すれば、X1及びX2がいずれもOである化合物を合成できることが容易に理解されると主張している(口頭審理陳述要領書43ページ下から8行~45ページ5行)。
しかしながら、製造方法の工程の途中で同じ化合物を経由することがあるからといって、製造方法の工程全体について差がないとか、単なる設計事項ということはできない。
また、甲4は、有機EL素子材料を製造することに関するものではないから、甲1~3の記載と組み合わせる動機付けがない。また、甲4発明の生成物の構造から、有機EL素子材料として有用な化合物であることが理解できるとしても、甲1~3に開示された事項から、甲4発明の生成物において、P=EがBである化合物であって、かつ、ナフチル基がフェノキシ基である化合物が、有機EL素子材料として有用であることを理解できるところはない。
したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~5及び9~28についての特許は、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800041