特許無効審判
2016-800096
ボロン酸化合物製剤
- 審判番号
- 2016-800096
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2002-559432
- 登録番号
- 特許第4162491号(P4162491)
- 請求日
- 2016年08月05日
- 審決日
- 2020年11月27日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】高田製薬 株式会社
- 【請求人代理人】辻田 朋子
- 【請求人代理人】村松 大輔
- 【被請求人】アメリカ合衆国
- 【被請求人代理人】高島 一
- 【被請求人代理人】鎌田 光宜
- 【被請求人代理人】土井 京子
- 【被請求人代理人】當麻 博文
- 【被請求人代理人】竹井 増美
- 【被請求人代理人】伊藤 洋介
- 【被請求人代理人】北脇 大
- 【被請求人代理人】中 正道
- 審判長/審判官
- 審判長 大熊 幸治
- 審判官 村上 騎見高
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1113.121-YAA(C07F) / P1113.536-YAA(C07F) / P1113.537-YAA(C07F) / P1113.851-YAA(C07F) / P1113.853-YAA(C07F) / P1113.854-YAA(C07F) / P1113.857-YAA(C07F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第181条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条、特許法第134条の2第3項、特許法第36条第4項、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4162491号発明「ボロン酸化合物製剤」の特許無効審判事件について平成30年 6月25日にした審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項17、19、20、44、46に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成30年(行ケ)第10158号及び平成30年(行ケ)第10113号、令和2年7月2日判決言渡)があり、その後確定したので、当該判決及び特許法第181条第2項の規定により審決が取消された部分の請求項1~20、44、46に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4162491号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~20]、44、46について訂正することを認める。
特許第4162491号の請求項17、19、20、44、46に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
特許第4162491号の請求項1~16、18に係る発明についての審判請求を却下する。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 本件特許出願
特許第4162491号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし47に係る発明についての出願は、2002年1月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年1月25日(US)米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成20年8月1日に特許権の設定登録がされたものである。
2 本件無効審判の請求
審判請求人(高田製薬株式会社、以下「請求人」という。)は、平成28年8月5日に、「特許第4162491号の請求項1~47に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件無効審判を請求した。
3 一次審決までの主な手続
平成28年 9月 7日:審判請求書の手続補正書(請求人)
同年 12月28日:審判事件答弁書及び訂正請求書提出(被請求人)
平成29年 2月 1日:訂正請求書の手続補正書(被請求人)
同年 3月16日:上申書及び弁駁書提出(請求人)
同年 4月11日:補正許否の決定
同年 6月13日:審判事件答弁書提出
同年 7月19日:審理事項通知
同年 8月 1日:上申書提出(請求人)
同年 9月 8日:上申書提出(請求人)(被請求人)
同年 9月22日:口頭審理陳述要領書提出(請求人)(被請求人)
同年 10月 6日:第1回口頭審理
同年 10月12日:営業秘密に関する申出書提出(請求人)
同年 11月 6日:上申書提出(請求人)(被請求人)
同年 11月16日:営業秘密に関する申出書提出(請求人)
同年 12月 4日:上申書提出(請求人)(被請求人)
同年 12月21日:営業秘密に関する申出書提出(請求人)
平成30年 1月22日:審決の予告
同年 4月16日:上申書提出(請求人)
同年 6月25日:審決(以下、「一次審決」という。)
4 一次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟
(1)一次審決の結論
一次審決の結論は次のとおりであった。
「特許第4162491号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~20]、[21~43、45、47]、44、46について訂正することを認める。
特許第4162491号の請求項17、19、20、44、46に係る発明についての特許を無効とする。
特許第4162491号の請求項21、38~42に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
特許第4162491号の請求項1~16、18、22~37、43、45、47に係る発明についての審判請求を却下する。
審判費用は、その47分の6を請求人の負担とし、47分の41を被請求人の負担とする。」
(2)一次審決取消訴訟の経緯及び判決主文
被請求人は、一次審決のうち「特許第4162491号の請求項17,19,20,44,46に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消すことを求めて、平成30年11月2日に審決取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成30年(行ケ)第10158号、以下、「A事件」という。)。
請求人は、一次審決のうち「特許第4162491号の請求項21,38~42に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消すことを求めて、平成30年8月3日に審決取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成30年(行ケ)第10113号、以下、「B事件」という。)。
知的財産高等裁判所において、これら二つの審決取消訴訟は審理され、令和2年7月2日に両審決取消訴訟の判決(以下、「判決」という。)が言渡された。
その主文は、次のとおりであった。
「1 特許庁が無効2016-800096号事件について平成30年6月25日にした審決のうち,「特許第4162491号の請求項17,19,20,44,46に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2 B事件原告高田製薬株式会社の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,A事件・B事件を通じてA事件被告・B事件原告高田製薬株式会社の負担とする。」
上記判決はその後確定したため、特許法第181条第2項の規定により、一次審決のうち、特許第4152491号の請求項17、19及び20とともに一群の請求項を構成する請求項1~16、18についての部分も取り消して、更に審理を行うことを、令和2年10月30日付けの審理再開通知書により請求人及び被請求人に通知した。
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。
1-1 請求項1~20、44、46に係る訂正
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1~16、18を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項17に
「化合物D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」
とあるのを、
「凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」
に訂正する。
(3)訂正事項3
上記訂正事項1の訂正に伴い、請求項19及び20の引用請求項番号を、それぞれ「18」から「17」へと訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項44に
「(i)請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物、および
(ii)医薬的に許容される担体
を含む、組成物。」
とあるのを、
「(i)D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート、および(ii)医薬的に許容される担体を含む、凍結乾燥粉末の形態の組成物。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項46に
「請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物を含む、凍結乾燥されたケーキ。」
とあるのを、
「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む、凍結乾燥されたケーキ。」
に訂正する。
1-2 請求項21~43、45、47に係る訂正
(1)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項21に
「式(1):
【化2】
(式中、
Pは水素又はアミノ基保護部分であり;
Rは水素又はアルキルであり;
Aは0、1又は2であり;
R1、R2、R3は各々独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、又は-CH2-R5であり;
R5は各々の場合に、アリール、アラルキル、アルカリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、又は-W-R6であり、ここで、Wはカルコゲンであり、R6はアルキルであり;
ここで、R1、R2、R3、又はR5のいかなるアリール、アラルキル、アルカリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、又はヘテロアリールの環部分も置換されていてもよく;そして
Z1とZ2は、糖部分由来である)
の凍結乾燥された化合物の調製方法であって、
(a)(i)水、
(ii)式(3)
【化3】
(式中、P、R、A、R1、R2、R3は上記のとおりであり;そして
Z’とZ”はOHである)
の化合物、及び
(iii)糖由来の部分
を含む混合物を調製すること;及び
(b)混合物を凍結乾燥すること;
を含む方法。」
とあるのを、
「(a)(i)水、
(ii)N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸、及び
(iii)D-マンニトール
を含む混合物を調製すること;及び
(b)混合物を凍結乾燥すること;
を含む、凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートの調製方法。」
に訂正する。
それに伴い、請求項38及び39に記載の「糖由来の部分」及び「式(3)の化合物」も、それぞれ「D-マンニトール」及び「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸」
に訂正する。
(2)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項22~37、43、45及び47を削除する。
(3)訂正事項8
上記訂正事項6及び7の訂正に伴い、請求項38及び39の引用請求項番号を、それぞれ「21」へと訂正すると共に、請求項40の引用請求項番号を、「21~39」から「21、38及び39」へと訂正する。
2 訂正の適否
上記第1 4(2)の判決及び特許法第181条第2項の規定により一次審決が取消された部分の請求項1~20、44、46に係る訂正事項1~5について、その適否を検討する。
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正前の請求項を削除するものであるから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項17に記載の化合物を、請求項18の「凍結乾燥された化合物」の記載、本件特許明細書の段落【0010】、【0058】及び【0064】における「凍結乾燥粉末の、式(2)の化合物を含む組成物」及び「本発明のこの局面に従う組成物は、凍結乾燥粉末の形態である。」との記載に基づき、「凍結乾燥粉末の形態」であると特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
本件特許明細書の実施例で、高速原子衝撃(FAB)質量分析によって、凍結乾燥品の中にD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートが存在していることを確認している。凍結乾燥品は粉末の形態にあるところ、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートも他の構成成分と同様に凍結乾燥品中で粉末の形態にあることは明らかであるから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
なお、請求人は、平成29年9月8日付け上申書 「9 訂正要件違反について」で、「(本件特許明細書には、)化合物については「凍結乾燥されたボルテゾミブ(N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸)のマンニトールエステル」という記載しかなく、「凍結乾燥粉末」において化合物分子がとる何らかの状態を特定するような記載ではありません。すると、本件発明17(凍結乾燥粉末形態のボルテゾミブのマンニトールエステル)は、本件特許明細書に記載がなかったものであり、本件訂正により新たに導入された技術的事項であると言えます」と主張する(第28頁)。
しかしながら、前記のとおり、本件特許明細書の実施例の記載から、凍結乾燥品中でD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートは粉末の形態にあったことを読みとれるから、凍結乾燥粉末形態のボルテゾミブのマンニトールエステルが本件特許明細書に記載がなかったとまではいえない。そうすると、請求人の斯かる主張を採用することはできない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1により請求項1~16、18が削除されたことに伴い、請求項19及び20での引用関係の整理を行ったものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、引用関係を整理したものであるから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項44における「請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物」を、請求項17に記載の「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」に限定し、かつ、これを独立形式請求項へ改めると共に、本件特許明細書の段落【0010】、【0058】及び【0064】における「凍結乾燥粉末の、式(2)の化合物を含む組成物」及び「本発明のこの局面に従う組成物は、凍結乾燥粉末の形態である。」との記載に基づき、「凍結乾燥粉末の形態」のものに限定するための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第4号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
本件特許明細書の実施例の記載によれば、凍結乾燥品中にD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートが存在していることが確認されていて、凍結乾燥には医薬的に許容される担体も使用されているから、訂正事項4による訂正は、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項46における「請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物」を、訂正前の請求項17に記載の「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」に限定することにより、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改める訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第4号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
本件特許明細書の実施例の記載によれば、凍結乾燥品中にD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートが存在していることが確認されていて、凍結乾燥品がケーキ状になっていることは凍結乾燥品として当然のことであるから、訂正事項5による訂正は、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(6)一群の請求項
訂正事項1~5の訂正は、訂正後の請求項1ないし20、44、46についての訂正であるが、訂正前の請求項2~20、44、46は訂正前の請求項1を直接的に又は間接的に引用していることから、訂正前の請求項1~20、44、46は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~5の訂正は、一群の請求項ごとにされており、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。
3 小括
上記訂正事項1ないし5は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項並びに同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。
訂正後の請求項44に係る訂正事項4及び訂正後の請求項46に係る訂正事項5は、引用関係の解消を目的とする訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項44及び46について訂正が認められる場合には、請求項44及び46は、請求項1~20とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項44及び46について請求項ごとに訂正することを認める。
したがって、訂正後の請求項[1~20]、44、46について、訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2 3で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし20、44、46に係る発明(以下、順次「本件発明1」のようにもいう。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし20、44、46に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)
【請求項8】 (削除)
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】 (削除)
【請求項12】 (削除)
【請求項13】 (削除)
【請求項14】 (削除)
【請求項15】 (削除)
【請求項16】 (削除)
【請求項17】
凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート。
【請求項18】 (削除)
【請求項19】
少なくとも1ヶ月間0℃で安定である、請求項17に記載の化合物。
【請求項20】
少なくとも1ヶ月間40℃で安定である、請求項17に記載の化合物。
・・・
【請求項44】
(i)D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート、及び(ii)医薬的に許容される担体を含む、凍結乾燥粉末の形態の組成物。
・・・
【請求項46】
D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む、凍結乾燥されたケーキ。
・・・」
第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、
・審判請求書及び手続補正書とともに下記甲第1号証から18号証を、
・弁駁書とともに下記甲第19号証から27号証を、
・平成29年8月1日付け上申書とともに下記甲第28号証を、
・平成29年9月8日付け上申書とともに下記甲第29号証から31号証を、
・口頭審理陳述要領書とともに下記甲第32号証から36号証を、
・平成29年11月6日付け上申書とともに下記甲第37号証を、
・平成29年12月4日付け上申書とともに下記甲第38号証から46号証を、
それぞれ証拠方法として提出した。
そして、請求人は、「特許第4162491号の請求項1~47に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、次の無効理由を主張している(審判請求書、手続補正書、弁駁書、請求人提出の上申書及び口頭審理陳述要領書を参照)。
(1)無効理由1(特許法第29条第2項違反(その1)) :審理事項通知書 第1 3-2(1)
本件発明17、19~21、38~42、44、46は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第7号証(主引用例)に記載された発明及び本件優先日当時の周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明17、19~21、38~42、44、46の特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2(サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反(その1)) :審理事項通知書 第1 3-2(2)
本件の特許請求の範囲の記載は、以下の点で、その特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明17、19~21、38~42、44、46の特許が同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
本件発明17、19~21、38~42、44、46が解決しようとする課題は、「安定性及び再構成性を有するボロン酸化合物の改良された製剤を提供すること」にあるものと認められるところ、発明の詳細な説明には、実施例の特定の凍結乾燥条件において、ボロン酸と糖のエステルが形成されたこと、前記課題が解決されたことが記載されているだけであって、実施例以外の凍結乾燥条件で得られた凍結乾燥製剤が、前記課題を解決できることを推認することはできず、本件特許請求の範囲の請求項17、19~21、38~42、44、46に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化できない。
(3)無効理由3(実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)違反) :審理事項通知書 第1 3-2(3)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、以下の点で、当業者が本件発明17、19~21、38~42、44、46を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明17、19~21、38~42、44、46の特許が同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
発明の詳細な説明には、実施例で開示された特定の凍結乾燥条件以外の条件で製造された形態について、本件発明17、19~21、38~42、44、46を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(4)無効理由4(特許法第29条第2項違反(その2)) :審理事項通知書 第1 3-2(4)
本件発明17、19、20、44、46は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び本件優先日当時の周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明17、19、20、44、46の特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(5)無効理由5(サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反(その2))
本件特許の特許請求の範囲の記載は、凍結乾燥粉末の形態のボルテゾミブのマンニトールエステルの化合物そのものが、本件特許の課題を解決することが示されていない点で、その特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものといえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものはなく、本件発明17、19~21、38~42、44、46の特許が同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(6)無効理由6
本件訂正によって対象となる請求項が存在しないこととなった。(口頭審理調書)
(7)無効理由7(明確性要件(特許法第36条第6項第2号)違反) :審理事項通知書 第1 3-2(6)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下の点で、その特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件発明17、19、20の特許が同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
本件発明17は、「凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」であるが、化合物の構造は、凍結乾燥粉末の形態をとっている場合であっても、その他の形態をとっている場合でも通常変わることはないから、当該記載が化合物自体の構造を特定しようとするものなのか、化合物の集合体の構造を特定しようとするものなのか、あるいは化合物と他の成分との複合体の構造を特定しようとするものかが不明である。
仮に、本件発明17が、「凍結乾燥をすることにより製造されたD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」ないしは、「凍結乾燥をすることにより製造された特定構造を有するD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートの集合体」であるとすると、実質的に、物の発明を製造方法により特定しようとするものであって、本件出願時の技術常識に鑑みれば、その物の構造又は性質によって特定できるものであって、不可能・非実際的事情は存在しなかった。
したがって、本件発明17及びこれを引用する本件発明19、20は明確ではない。
なお、本件訂正が認められた場合に、請求人が主張する無効理由1~7が上記のとおりであることは、口頭審理で確認されている。(第1回口頭審理調書)
2 証拠方法
甲第1号証 特表平10-510245号公報
甲第2号証 Ferrier, R.J., "Carbohydrate Boronates", Volume 35, 1978
甲第3号証 Pikal, M., "Freeze Drying", from the Encycropedia of Pharmaceutical Technology, Vol.6, p275-303, 1994
甲第4号証 Pharmazeutische Tecnologie : fur Studium und Beruf, p23-24, 2000
甲第5号証 旧東ドイツ特許159289号
甲第6号証 マスキュレート静注用の添付文書
甲第7号証 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, VOL. 89, NO. 6, p.758-765, JUNE 2000
甲第8号証 国際公開第00/57887号
甲第9号証 S. Shinkai 他, Angew. Chem. Int Ed Engl., 1996, 35, 1911-1922
甲第10号証 化学大辞典、第6巻 第331頁~第332頁、昭和36年7月15日初版
甲第10-2号証 化学大辞典、第6巻 第331頁~第332頁、昭和47年9月15日初版第14刷
甲第11号証 Stability and Characterization of Protein and Peptide Drugs, pp. 277-286, 1993
甲第12号証 Journal of Pharmaceutical Sciences, 1998, Vol.87,No.8, pp. 931-935
甲第13号証 Pharmaceutical Research Vol 11, No. 10, 1994, pp1467-1473
甲第14号証 The Journal of Biological Chemistry, Vol 259,No.24, pp. 15106-15114, 1984
甲第15号証 Drug Development and Industrial Pharmacy, 22(6), 475-494 (1996)
甲第16号証 International Journal of Pharmaceutics, 43, 191-199 (1988)
甲第17号証 油化学 第43巻 第10号 (1994) 第845頁~第856頁
甲第18号証 東京高裁平成17年3月23日判決(平成16(行ケ)427)、東京高等裁判所
甲第19号証 実験報告書(2015年1月26日、作成者:サンド社、本件特許の欧州における対応特許(EP1355910)に対する異議申立ての特許取消審決(Decision of Technical Board of Appeal 3.3.01 of 29 September 2016)において引用された証拠番号(55)の資料)
甲第20号証 ANIMAL CELL BIOTECHNOLOGY, 1985, 2, p251-288
甲第21号証 Journal of pharmaceutical sciences, (1965) Vol. 54, No. 4, pp.617-624
甲第22号証 医薬品の開発 第11巻 製剤の単位操作と機械、表紙、第383頁、奥付、平成元年11月10日初版
甲第23号証 GMPテクニカルレポート5 凍結乾燥注射剤の製造に関するバリデーション、表紙、第4~5頁、奥付、平成5年8月31日発行
甲第24号証 医療薬学 41(8) 550-555 (2015)
甲第25号証 ジェムザール注 添付文書(2001年4月改訂版(第3版)、日本イーライリリー株式会社)
甲第26号証 塩酸ゲムシタビン及びジェムザール注 医薬品輸入承認申請書添付資料概要、日本イーライリリー株式会社、1999年2月
甲第27号証 Recueil des Travaux Chimiques des Pays-Bas, 104/9, 230-235, 1985
甲第28号証 無効2016-800130事件 平成29年4月4日付け答弁書
甲第29号証 広辞苑 第六版、2012年3月11日 第三刷発行、岩波書店、第1538頁~第1539頁、第1646頁~第1647頁、表紙、奥付
甲第30号証 調査結果報告書、高田製薬株式会社、平成29年9月6日
甲第31号証 有機合成化学協会誌、第56巻第10号、第831頁~第840頁、1998年
甲第32号証 試験報告書(1)、高田製薬株式会社分析研究部、2017年9月21日
甲第33号証 試験報告書(2)、高田製薬株式会社分析研究部、2017年9月21日
甲第34号証 AAPS PharmSciTech, Vol. 12, No. 2, p.461-467, June 2011
甲第35号証 審議結果報告書、医薬食品局審査管理課、平成18年8月31日
甲第36号証 SCIENTIFIC DISCUSSION, EMEA, 2004
甲第37号証 試験報告書(3)、高田製薬株式会社分析研究部、2017年11月2日
甲第38号証 試験報告書(4)、高田製薬株式会社分析研究部、2017年11月30日
甲第39号証 J. Am. Chem. Soc., 1992, 114, 5874-5875
甲第40号証 Journal of Chromatographic Science, Vol.9, January 1971, 18-24
甲第41号証 J. inorg. nucl. Chem., 1980, Vol.42, 1559-1575
甲第42号証 J. Am. Chem. Soc, 1994, 116, 9343-9344
甲第43号証 Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol.85, No.3, March 1996, 266-269
甲第44号証 有機合成化学協会誌 第57巻第12号(1999年)第1084頁~第1091頁
甲第45号証 高分子 49巻9月号(2000年)668-673頁
甲第46号証 J. Neurochem., Vol.73, No.1, 1999, 195-204
第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、
・平成28年12月28日付け審判事件答弁書とともに下記乙第1号証から3号証を、
・平成29年6月13日付け審判事件答弁書とともに下記乙第4号証から5号証を、
・平成29年9月8日付け上申書とともに下記乙第6号証から8号証を、
・口頭審理陳述要領書とともに下記乙第9号証から11号証を、
・平成29年11月6日付け上申書とともに下記乙第12号証から22号証を、
・平成29年12月4日付け上申書とともに下記乙第23号証から26号証を、
それぞれ証拠方法として提出した。
そして、被請求人は、「訂正を認める。本件の審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている(審判事件答弁書、被請求人提出の上申書及び口頭審理陳述要領書を参照)。
2 証拠方法
乙第1号証 南山堂,医学大辞典 第17版,第1706頁,1990年2月1日発行
乙第2号証 S. Shinkai 他, Angew. Chem. Int Ed Engl., 1996, 35, 1911-1922
乙第3号証 国際公開第00/57887号
乙第4号証 J. D. Jonkman-de Vries et al., Drug Development and Industrial Pharmacy, 22(6), 475-494 (1996)
乙第5号証 S. Shinkai 他, Angew. Chem. Int Ed Engl., 1996, 35, 1911-1922
乙第6号証 実験成績証明書
乙第7号証 実験成績証明書
乙第8号証 実験成績証明書
乙第9号証 岩波 理化学大辞典 第5版、1998年2月20日発行、第950頁、第1164頁、第1395頁、第1484頁
乙第10号証 Ferrier, R.J., "Carbohydrate Boronates", Volume 35, 1978
乙第11号証 医薬品添加物事典、薬事日報社、1994年1月14日発行,116頁
乙第12号証 海洋化学研究、vol.20, No.2, Nov. 2007, p99-103
乙第13号証 ぶんせき、2004, No.2, p106-110
乙第14号証 Bunseki Kagaku, vol.59, No.11, p985-1001, 2010
乙第15号証 Cell, vol.78, 761-771, September 9, 1994
乙第16号証 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, Vol.259, No.24, December 25, pp15106-15114, 1984
乙第17号証 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, Vol.272, No.42, October 17, pp26103-20109, 1997
乙第18号証 Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 8 (1998), 333-338
乙第19号証 Clinical Cancer Research, Vol.5, 2638-2645, September 1999
乙第20号証 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY, Vol.250, No.18, September 25, pp7120-7126, 1975
乙第21号証 Structure, 14, 451-456, March 2006
乙第22号証 Blood, 4 JUNE 2009, Volume 113, No.23, 5927-5937
乙第23号証 Reagents for Organic Synthesis, John Wiley & Sons, New York (1967) p833-834
乙第24号証 Synthesis, 1980, p935-936
乙第25号証 Synthesis, 1980, p936-937
乙第26号証 安定性試験ガイドラインについて、平成11年4月8日 医薬審第666号 一部改正
なお、請求人は、乙第6号証~乙第8号証は、当事者である請求人に対して乙第6号証~乙第8号証中の黒塗り部分の開示がなく、証拠の信用性を検証することができないという理由で、その成立を争っている(第1回口頭審理調書)。
第6 本件特許の請求項1~20、44、46に係る発明についての当審の判断
1 甲各号証及び乙各号証の記載
1-1 甲号証の記載
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。また、甲第2号証~甲第46号証、乙第1号証から乙第26号証も、同様に、甲2~甲46、乙1~乙26という。)
次の記載がある。
・1.式:
(ここで、
Pは、R7-C(O)-またはR7-SO2-であり、R7は、それぞれその環部分が置換されていてもよいアリール、アラルキル、ヘテロアリールまたはヘテロアリールアルキルであり、またはPがR7-C(O)-である場合、R7はN-モルホリニルでもあり得る;
B1は、それぞれ独立に、NまたはCHの1つであり;
X1は、それぞれ独立に、-C(O)-NH-、-CH2-NH-、-CH(OH)-CH2-、-CH(OH)-CH(OH)-、-CH(OH)-CH2-NH-、-CH=CH-、-C(O)-CH2-、-SO2-NH-、-SO2-CH2-または-CH(OH)-CH2-C(O)-NH-の1つであり、ただし、B1がNのとき、該B1に結合したX1は-C(O)-NH-であり;
X2は、-C(O)-NH-、-CH(OH)-CH2-、-CH(OH)-CH(OH)-、-C(O)-CH2-、-SO2-NH-、-SO2-CH2-または-CH(OH)-CH2-C(O)-NH-の1つであり;
Rは、水素またはアルキルであり、またはRは、隣接するR1とともに、もしくはAがゼロであるとき隣接するR2とともに、ケト、ヒドロキシ、アルキル、アリール、アラルキル、アルコキシまたはアリールオキシの1または2により置換されていてもよい4~14環員を有する窒素含有モノ、ビもしくはトリ環状飽和もしくは部分飽和の環系を形成し;
R1は、それぞれ独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、5~10員の飽和、部分不飽和もしくは芳香族複素環または-CH2-R5の1つあって、該アリール、アラルキル、アルカリールもしくは複素環のいずれもの環部分は置換されていてもよいものであり;
R2は、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、5~10員の飽和、部分本飽和もしくは芳香族複素環もしくは-CH2-R5の1つであって、該アリール、アラルキル、アルカリールもしくは複素環のいずれもの環部分は置換されていてもよいものであり;
R3は、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、5~10員の飽和、部分不飽和もしくは芳香族複素環もしくは-CH2-R5の1つであって、該アリール、アラルキル、アルカリールもしくは複素環のいずれもの環部分は置換されていてもよいものであり;
R5は、それぞれ、アリール、アラルキル、アルカリール、シクロアルキル、5~10員の飽和、部分不飽和もしくは芳香族複素環もしくは-W-R6の1つであって、WはカルコーゲンおよびR6はアルキルであり、該アリール、アラルキル、アルカリールもしくは複素環のいずれもの環部分は置換されていてもよいものであり;
Z1およびZ2は、独立に、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシもしくはアリールオキシの1つであり、またはZ1とZ2とは、炭素および、場合に応じて、N、SまたはOであり得るヘテロ原子を含有する鎖もしくは環中の少なくとも2つの連結原子により隔てられている少なくとも2つのヒドロキシ基を有するジヒドロキシ化合物から誘導された基を形成し;および
Aは、0、1、または2である)を有する化合物または薬学的に許容され得るその塩。
・・・
57.N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸、・・・または
その・・・ボロネートエステルの1つである請求項51記載の化合物。
・・・。(特許請求の範囲)
・本発明のボロン酸化合物のボロネートエステルも好ましい。これらのエステルは、ボロン酸の酸基をヒドロキシ化合物と反応することによって得られる。好ましいヒドロキシ化合物は、ジヒドロキシ化合物、特にピナコール、パーフルオロピナコール、ピナンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、グリセロール又はジエタノールアミンである。(第58頁第14行~第19行)
(2)甲2
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ボロン酸炭水化物(標題)
・2.ボロン酸糖エステル
ボロン酸の糖エステルのいくつかの特性に関しては、表IIIを参照。
調製された炭水化物エステルのなかで、ボロン酸糖エステルは、最初のものであったが7、構造的な研究はn.m.r.分光分析法、質量分光測定法が発達するまでなされなかった。(第43頁第32行~第36行)
・全ての他の証拠は、ボロン酸の炭化水素エステルは、有機溶媒中のそれらの溶液への水の添加時に、容易に加水分解されることを示している。したがって、当該化合物の歴史の早期において、 L-アラビノース ビス(フェニルボロネート)7及びD-マンニトール トリス(フェニルボロネート)9の非常に緩和な加水分解により、各々の出発物質が得られ、それらは互いに容易に分離されることができた。(第50頁下から第9行~同第4行)
(3)甲3
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・凍結乾燥(標題)
・賦形剤の選択
凍結乾燥製品に関しては、製剤と方法が相互に関連している。製剤の性質、特に崩壊温度が凍結乾燥法の設計に大きな影響を持ち、賦形剤の選択は、多くの場合、この方法の経済性を決定する可能性がある。特定の目的のため、活性成分(薬)に加えて他の諸成分を添加することができる。外観を向上させたり、製品の"漏出(blow out)"を阻止したりするため、充填剤(例えばマンニトールまたはグリシン)が添加される。全固形成分が非常に少ない(約1%)製剤だと、水蒸気流がケーキ構造を破壊して乾燥材料の一部または全部を水蒸気流とともに容器の外に運び出し、製品を"漏出"させる可能性がある。 pHを制御するため緩衝液がしばしば添加される。塩(例えばNaCl)を添加して等張溶液を生成させることができる。製剤でNaClを用いると、NaClが結晶化しない場合には系の崩壊温度をより低くすることができ、NaClが結晶化する場合には共融温度を比較的低くすること(-21℃)ができる。これらの問題を回避するには、固形成分の再構成のために用意される希釈液を調製するときに張性を制御するのが最良である。特別な場合において、溶解度及び安定性を増大させるために、賦形剤が使用されてもよい。例えば組織プラスミノーゲンアクチベータは、安定性と両立するpH 範囲(pH 約7.4)で臨床利用するときに十分な溶解度がないが、アルギニンを製剤に組み込むと pH7.4での溶解度が許容可能な値になる。それに加え、溶液の安定性はアルギニンの存在下で増大する[20]。(第295頁下から第4行~第296頁第16行)
・崩壊温度を増大させるために、賦形剤がまた、添加されてもよい。通常は、混合物の崩壊温度は個々の成分の崩壊温度の中間だが、候補製剤の崩壊温度は測定されねばならない。(第296頁第17行~第20行)
・特にタンパク質において、賦形剤(いわゆる「凍結乾燥保護剤」)が、凍結乾燥工程中における安定性を向上させるために、及び、貯蔵中における凍結乾燥された固体の安定性を増大させるために、しばしば添加される。一般に、糖(例えばトレハロース、スクロース)とタンパク質(例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン)が、溶解保護剤として用いられる。残念ながら、凍結乾燥中又は凍結乾燥後にタンパク質を安定化させることが示された多くの物質の中で、ごく少数の物質(マンニトール、グリシン、アルギニン、ラクトース)が、非経口療法のための製品の製剤化における使用において「一般的に許容されてきた」という歴史を有する。(第296頁第26行~第33行)
(4)甲4
次の記載がある。(原文は独文。訳文で示す。)
・数多くのヒドロキシル基を分子中に有する補助剤(マンニトール、ソルビトール)は水素架橋を形成することができ、これにより凍結乾燥物の溶解を容易にする。さらに、このような糖アルコールによって、すぐに使用可能な溶液の等張化が行われる。(第24頁右欄下から第6行~最終行)
(5)甲5
次の記載がある。(原文は独文。訳文で示す。)
・凍結乾燥物の極度の吸湿性という欠点は、室温で固体のポリオール、特にマンニトールを添加することによって取り除くことができる。しかしながら、大きい技術的手間の他に、顕著な分解、及び溶解されない微粒子の発生という欠点がさらにもたらされる。(第3頁第25行~第30行)
(6)甲6
次の記載がある。
(第1頁左欄、【組成・性状】)
(7)甲7
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ペプチドボロン酸誘導体、2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2、の分解経路(標題)
・ペプチドボロン酸誘導体 2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2は、20Sプロテアソームの強力な阻害剤であり、抗がん剤の一つとして提案されている。製剤化研究の際に、この化合物は不規則な安定性を示した。分解生成物を単離して同定しようとしてなされた努力が、可能性のある分解メカニズムの同定の助けとなった。2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2を過酸化水素と反応させると、水性緩衝液中での加水分解で見られる初期分解生成物を単離する便利な方法が得られただけでなく、主要な初期分解経路がおそらく本質的に酸化性であることもわかった。単離した分解生成物は、核磁気共鳴法、質量分析法、旋光分散法によって特徴を明らかにした。ボロン酸基は、過酸化水素の存在下で2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2から開裂し、原初の立体化学を保持しているように見えるアルコールを生成させる。その後、それに続く異性体化とさらなる加水分解が見られた。驚くべきことに、添加したアスコルビン酸塩とEDTAは、分解を抑制するのではなく、加速させた。酸性条件と塩基性条件における2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の分解は、過酸化水素で処したときと同様の初期酸化性分解経路であると考えられる。(第758頁、要約)
・製剤の観点から見たペプチドボロン酸誘導体の化学的安定性は、われわれが知る限り、これまで文献に詳細には報告されていない5。非経口投与のために2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2を製剤化する試みにおいて、当該化合物は不規則な安定性の挙動を示し、そして特定の溶媒に極めて不安定であった。(第758頁右欄下から第8行~最終行)
・例えばポリエチレングリコール300 (PEG300) : EtOH :H2O (40 : 10 : 50) 溶媒中での25℃における24時間での平衡溶解度を求めたとき、2種類の分解生成物AとBが大量に観察され、Aが主要な分解生成物であった(図1a)。これら2種類の分解生成物を合わせると、分解の20%までが説明された。エタノール:生理食塩溶液 (2 : 98 、pH2.8) の中では、2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2 (0.5mg/ml)は25℃で1ヶ月の間に20%が分解し、分解生成物AおよびBと、別の2種類の分解生成物CおよびDが、痕跡量観察された(図1b) 。プロピレングリコール:エタノール:水 (50 : 10 : 40) の中では、この化合物の安定性が向上したが、それでも25℃で保管すると8ヶ月の間に20%が分解し、分解生成物としてA、B、C、Dが観察された。水性での酸性pHと塩基性 pHの条件における2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の安定性も調べた。酸性条件下と塩基性条件下では、Dが主要な分解生成物として観察された。したがって、 2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の分解は極めて複雑であった。(第758頁右欄最終行~第759頁第左欄第22行)
・
(第761頁、図4)
・Dを得るため、2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2を1.0M HCl(1.5 mg/mL)に溶かし、70℃で5日間インキュベートした。この反応混合物を3mlのC-18抽出カラムに装填し、Dを35%アセトニトリル:水で溶離させた。分画を回収し、凍結乾燥させ、1H NMRスペクトルと質量スペクトルを得た。1H NMR (400MHz、CDCl3、δ) : 3.22~3.38(dddd,2H)、5.04~5.09(dd,1H)、7.21~7.30(m,5H)、8.19~8.20(d,1H)、8.51(s,1H)、8.4(d,1H)、9.36(s,1H)。MS (FAB+): M-1/e 271。
アルカリ条件下で形成された分解生成物Dも単離して特徴を明らかにし、それが酸性条件下で得られたDと同じであることを確認した。濃NaOH溶液を添加することによって2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2水溶液 (0.5 mg/ml) をpH 12に調節した。次にこの溶液を70℃で48時間インキュベートし、すべての親化合物を分解させた。(第762頁左欄第27行~第45行)
・2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の安定性に対するアスコルビン酸の効果を明らかにするため、この化合物(1.3mM)を、5.7mMのアスコルビン酸ありとなしの2%EtOH+98%生理食塩水(PH2.8 、塩酸で調節)の混合溶媒に溶かした。これら溶液をアンプルの中に密封し、25℃でインキュベートした。サンプルをそれぞれ5日後と14日後に分析した。結果を表1に示す。
2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の安定性に対するEDTAを明らかにするため、この化合物(1.3 mM)を、2.97mMのEDTAありとなしの2%EtOH及び98%生理食塩水(pH 6.9)の混合溶媒に溶かした。これら溶液をアンプルの中に密封し、25℃でインキュベートした。8ヶ月にわたってサンプルを定期的に分析した。結果を図5に示す。(第762頁右欄第17行~第33行)
・
(第763頁、図5)
・(前に議論したように)非経口投与のための薬を調製する初期の試みに見られる2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の主要な分解経路は、本来的に酸化であるように見えた。この経路は、2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2を過酸化水素で処理すると、 PEG300 : EtOH : H2O (40 : 10 : 50) や他の溶液で見られる主要分解生成物Aが生成したという事実によって示唆された。(第762頁右欄下から第2行~第763頁左欄第7行)
・すなわち、添加したEDTAは、2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2の加水分解を加速するように見えた。(第764頁右欄下から第2行~第765頁左欄第1行)
・まとめると、ペプチドボロン酸誘導体2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2は、多数の実験条件下で酸化による分解を受けやすいように見えた。分解は、過酸化物とおそらくは分子酸素とによって断然加速された。(第765頁左欄第6行~第11行)
(8)甲8
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・p-BPAの溶解度を高める方法の1つは、有機錯体を使用することである。
ホウ酸、ホウ素酸塩、および芳香族ボロン酸と種々のポリオールとの錯体の形成がかねてから知られてきた。(第3頁第6行~第8行)
・例えば、研究により、マウス・メラノーマモデルにおいてp-BPA-フルクトース錯体の全身投与が10Bの取り込みを増大させることが示されている(Coderreら、Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys. 30: 643-652 [1994])。(第3頁第24行~第26行)
・従って、NaCl塩を含まないp-BPA 錯体を製造する方法を見出すことが望まれる。さらに、p-BPAとフルクトースとの錯体の化学的性質を理解することにより、他の新たな錯体が発見できる可能性もある。また、長期間保存でき、かつ、濃い酸および塩基を取り扱う必要のない新たなp-BPA錯体を見出すことが望まれる。(第4頁第13行~第17行)
・本質的に塩を含まない、または塩を含まないp-ボロノフェニルアラニン-ポリオール錯体凍結乾燥物としては、限定されるものではないが、L-p-ボロノフェニルアラニン-D-ソルビトール錯体、L-p-ボロノフェニルアラニン-D-マンニトール錯体、L-p-ボロノフェニルアラニン-ズルシトール錯体、およびL-p-ボロノフェニルアラニン-キシリトール錯体が挙げられる。(第8頁第3行~第7行)
・10BリッチなL-p-ボロノフェニルアラニン-D-マンニトール錯体の製造
10BリッチなL-p-ボロノフェニルアラニン(0.104g)およびマンニトール(0.096g)を蒸留水(1mL)に懸濁し、穏やかに加熱しながら 0.5M NaOH(1mL)を添加することでL-p-ボロノフェニルアラニンを溶かした。激しく撹拌しながら Dowex 50WX4-50 イオン交換(H+)樹脂を加えることで、この溶液のpHを7.3から7.5の間まで低下させた。溶液を樹脂から取り出し、懸濁しているL-p-ボロノフェニルアラニンは溶液を穏やかに温めると再溶解できる。次に室温の溶液を0.2μフィルターで濾過した後に凍結乾燥して、白色固体としてナトリウムL-p-ボロノフェニルアラニン-D-マンニトール錯体(0.186g) を得た。(第26頁第17行~第25行)
(9)甲9
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ボロン酸を基にした分子レセプターによる糖類の検出(標題)
・ジボロン酸種である6は、二糖と環状複合体を塩基性水性媒体中で選択的に形成し、それはセンサー分子の蛍光特性を変更する[24]。励起されたスチルベンは、エチレン二重結合の回転の結果としての無放射崩壊によって消光される。この回転の妨害によって、蛍光が増大する。したがって、二糖の結合時における6の硬化は、スチルベンの蛍光を増大させる。特に6は、他の一般的な二糖及びいくつかの三糖よりも、メリビオースとより高い選択性を示す(図 7)。(第1919頁左欄第2行~第11行)
・
図7.スチルベンボロン酸6の蛍光滴定(1.0x10-5 mol dm-3)、pH 10.6 (0.1 mol dm-3炭酸ナトリウム/重酸水素ナトリウムバッファー)、lgc (二糖) (λex = 310 nm λem = 358 nm) の関数として;l=相対的蛍光強度,○ D-(+)-メリビオース,▼イソマルトース,◇ゲンチオビオース,× D-(+)-ラクトース,+D-(+)-マルトース,△D-(+)-サッカロース,●D-(+)-トレハロース,■マルトトリオース,◆ D-(+)-グルコース(破線);▲D-(+)-マンノース(点線)(第1919頁左欄、図7)
(10)甲10
「凍結乾燥」の項目に、「・・・固結しやすい試料も溶解性のよい粗粉末として得られるなどの利点がある・・・タンパク質をはじめ生化学的材料に多く用いられ・・・特殊薬品類を,それらの生物活性を損せずに乾燥保存する場合に用いる」の記載がある。(第331頁~第332頁)
(11)甲11
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・5. 2. 凍結乾燥
凍結乾燥は、増大した貯蔵寿命を有する高品質の生産物を産生することができる。安定性の問題を有するタンパク質又は小分子薬剤は、凍結乾燥に好適な候補である。凍結乾燥は真空下低温で昇華することによって製剤から水が除去される工程である。低温で乾燥されたタンパク質の生物学的活性は、十分良好に保存され、それらの貯蔵寿命は乾燥状態で延長される。(第279頁下から第7行~最終行)
・医薬研究者は、凍結乾燥を確実に成功させるため適切な賦形剤を選択する際に非常に重要な役割を担っている。緩衝液、充填剤、等張性変更剤、酸化防止剤、キレート剤が、凍結乾燥された製品を安定化させるのに使用されている。マンニトール、グリシン、ポピドン、スクロース、ラクトースなどの充填剤が、製品の外観と凍結乾燥させたケーク機械的強度を向上させるのに使用される。(第280頁第9行~第14行)
(12)甲12
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・凍結乾燥後のマンニトールの物理的状態:マンニトール濃度、凍結速度及び非結晶性溶質の効果(標題)
・マンニトールは、凍結乾燥医薬製剤において最も一般的に使用される賦形剤の1つである。マンニトールが広く使用されている理由の一つは、それが凍結水性溶液から結晶化する傾向があること、そしてマンニトール/氷の共結晶混合物の融解温度(約-1.5℃)が高い傾向にあることがある。この特性は、効率的な凍結乾燥を促進し、物理学的に安定な、医薬として優れた凍結乾燥固体を促進する。(第931頁左欄第28行~第35行)
(13)甲13
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・凍結乾燥Methylprednisolone Sodium Succinateの固体状態安定における充填剤の効果(標題)
・マンニトールは通常、製剤を開発する科学者の間で充填剤として第一選択である。なぜならば、それは高価ではなく、無毒性であり、凍結乾燥生産物の所望の特性を完全に維持しながら、比較的高い温度で凍結乾燥することができるからである。(第1472頁右欄第18行~第22行)
(14)甲14
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ペプチドボロン酸によるセリンプロテアーゼ白血球エラスターゼ、膵臓エラスターゼ、カセプシンG及びキモトリプシンの阻害(標題)
・MeO-Suc-Ala-Ala-Pro-DL-boro-Val-OH 及びそのピナコールエステルの安定性をかなり広範囲にわたって調べた。ピナコールエステルは、遊離酸と比較して、白血球エラスターゼの初期阻害活性が約100倍未満である。しかし、0.10Mのリン酸バッファー中pH7.5で1時間未満インキュベーションした後におけるその阻害活性は、遊離酸と同等である。(第15108頁左欄第5行~第11行)
(15)甲15
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・非経口使用のための(研究中の)抗がん剤の製薬学的発展-総説(標題)
・設備に対する初期資本投資額が高いうえに、ランニングコストも高いにもかかわらず、凍結乾燥は希釈液中での有効期間が限られた不安定な医薬品を安定化させるための最も重要な方法となっている(145)。凍結乾燥過程は3段階より成る:凍結、一次乾燥、及び二次乾燥。凍結段階で、完全に凍結するまで溶液を冷却する。この過程により、溶液から水分が分離される。一次乾燥段階は産物からの氷の昇華に関係し-通常凍結乾燥室における減圧と産物への加熱によって達成される。二次乾燥段階中、吸収された水分が産物から除去される(146)。凍結乾燥の重要な長所として:(a)一般に、水分含量が少ないほど、安定性が高くなること;(b)産物が通常蒸気又は不活性ガス中に密閉されるため、酸化変性又は酸化分解が大幅に少ないこと;(c)一般に、凍結乾燥品は無菌の乾燥充填粉末より速やかかつ完全に再構成され、製剤化過程中の膜ろ過の結果として粒子状物質の混入が少ないことがあげられる。(第489頁左欄第18行~第40行)
・薬剤は液剤を調製するためにある程度水溶性でなければならない。t-ブタノール及びt-ブタノール/水混合液は水溶性が適切でない薬剤の凍結乾燥に対して容認できる溶媒として示唆されている(149)。(第489頁右欄第16行~第20行)
・安定な凍結乾燥された薬剤の例として次の薬剤があげられる:マイトマイシンC、これはバルキング剤としてマンニトール又は塩化ナトリウムのいずれかを含有する(151);(第489頁右欄第26行~第28行)
・AG-331は水溶性であり、最終産物の安定性を増大させるためにマンニトールの存在下で凍結乾燥される(156)。(第490頁左欄第10行~第12行)
・水に十分解けないため、リゾキシンとマンニトールは40% t-ブタノールに溶解され、その後凍結乾燥された。バイアル中のt-ブタノールの残留量は1%未満であった。(第490頁左欄第29行~第32行)
(16)甲16
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・40% t-ブタノール/水溶媒からリゾキシン及びマンニトール(0.5%)を含有する凍結乾燥バイアルを調製することによって、リゾキシンの1 mg/mlの非経口投与製剤を作製することができた。(要約の第6行~第8行)
(17)甲17
次の記載がある。
・ボロン酸を含む「糖質インターフェース」の分子設計(標題)
・1・2 糖質認識部位としてのボロン酸
ホウ酸や,そのヒドロキシル基の1つを炭化水素又はアリール基で置換したボロン酸は,cis-1,2-ジオール構造を有する化合物と下式のように速やかに反応し,環状エステルを生成するという事実は古くから知られている(Fig.-1)22)。
この反応は,水中においても室温で容易かつ速やかに進行する。また,ある種のジオール(例えばピナコール)の場合,反応は非可逆的であり,水中においても加水分解を伴わずエステル化が完全に進行することが知られている。さらに,こうした反応は,糖分子中のcis-1,2-ジオールについても同様に起こることを利用して,糖のヒドロキシル基の保護基として用いられた例も報告されている23),24)。(846頁左欄第9行~第22行)
(18)甲18
平成16年(行ケ)第427号審決取消請求事件(「室温硬化性組成物」事件)での判決である。
(19)甲19
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・再構成性と加速試験による安定性の研究についての報告(標題)
・1.サンプルの準備
1.1.サンプル021P/A、021P/B、021P/C、022P/A、022P/B、023P/A及び023P/B
特定の実験室サンプル用溶媒が入っている容器内に、ボルテゾミブ(ボロキシンの形態)を秤量した。サンプル021P/A及び021P/Bの場合は、溶媒として注射用水(WFI)のみを使用した。021P/Cの場合は、40%tert-ブタノール(t-BuOH)のWFI溶液を使用した。
サンプル022P/A及び022P/Bの場合は、マンニトールの水(WFI)溶液にボルテゾミブを秤量した。サンプル023P/A及び023P/Bの場合は、40%tert-ブタノール(t-BuOH)のWFI溶液にマンニトールを溶解した溶液にボルテゾミブを秤量した。サンプル022P/B及び023P/Bは、化学量論(等モル)量のボルテゾミブ及びマンニトールを含むが、サンプル022P/A及び023P/Aでは、10倍過剰な量のマンニトール(異議申立のあった特許EP1355910の実施例1で説明されているように)を添加した。
・・・
得られた溶液/懸濁液を、1バイアル当たりのボルテゾミブ投与量が表1(項目3)記載となるように、12mLのバイアルに一定分量で入れた。Iglueゴム栓をバイアルに挿入し、そのバイアルを初期棚温度を5℃とした凍結乾燥器に入れた。
・・・
1.2.サンプル024P/A及び024P/B
サンプル024P/A及び024P/Bは、それぞれ、ボルテゾミブとマンニトールとの物理的混合物(024P/A)及びボルテゾミブのみ(024P/B)を含む乾燥粉末サンプルである。
・・・
(第1頁~第3頁、1.サンプルの準備)
・2.再構成の研究の結果
0.9%w/v生理食塩水を用いてバイアルを再構成し、ボルテゾミブ濃度を1mg/mLにした。サンプルの再構成(溶解)時間は、表2に示す。
溶解時間は、透明溶液を形成するのに要する時間(バイアルに0.9%w/v生理食塩水を添加した後)として、目視で判断した。30分後、溶液が透明でなかった場合(手による緩やかな振とうを伴う)、そのサンプルは不溶性とみなした。
ボルテゾミブに対して10倍過剰量のマンニトールを使用した、2つのサンプル、022P/A及び023P/Aのみが、迅速な再構成を示した。凍結乾燥溶媒にt-BuOHを添加すると、ケーキの溶解に有益な効果がある。理論量のマンニトール及びボルテゾミブを使用したサンプル(022P/B及び023P/B)の場合、溶解時間がより長かった。サンプル022P/B(t-BuOHを含まない)のケーキは30分以内で溶解しなかったが、サンプル023P/B(t-BuOHを含む)は、10倍過剰量のマンニトールを使用したサンプルよりも溶解にかなり長い時間がかかった。したがって、マンニトールは溶解補助賦形剤として機能することが明らかである。
物理的混合物の形態のマンニトールを含む、コントロールサンプル(024P/A)は、溶解しなかった。
(第3頁~第4頁、2.再構成の研究の結果)
(20)甲20
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・形成及び貯蔵(章の標題)
・9.凍結乾燥
9.1.一般的な検討事項と利点
高い初期設備投資費用と高いランニングコストがかかるにもかかわらず、凍結乾燥は、医薬材料、診断試薬および同様の高価な熱不安定性生物製剤を脱水するための最も重要な方法となっていることは間違いない。この方法は、Flosdorf and Mudd(20)が1935年に商業規模で開発したもので、脱水中に高レベルの無菌性を維持しながらバッチ間の汚染を最小限に抑える条件下で、さまざまな医薬品を乾燥させなければならない場合に特に有用である。
凍結乾燥のより重要な利点のいくつかは次のとおりである。
1. 製品の含水量を非常に低く抑えることができる。一般に、含水率が低いほど、製品の安定性は向上するが、過剰乾燥は製品の安定性を低下させる可能性がある。
2. 製品は通常真空または不活性ガス中で密閉されているため、酸化的変性が大幅に減少する。
3. 水を除くことは製品重量を低下させることに相当し、これは輸送コストが重要な製品にとって重要となる可能性がある。(第266頁第28行~第267頁第14行)
(21)甲21
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・凍結乾燥の技術は、溶液中での安定性が低い注射可能な医薬品に使用される。この方法は、物質を水に溶解し、細菌フィルターを通過させることによって溶液を滅菌し、個々の容器に充填し、次いで水を凍結状態から蒸気として除去することからなる。このようにして、感熱性であり、水溶液中で急速分解する化合物を安定した注射可能な形態に処方することができる。適切な条件下で、凍結乾燥は、安定で、迅速に溶解し、エレガントな注射可能な調製物を与える。(第617頁左欄第8行~第20行)
(22)甲22
次の記載がある。(丸付き数字を<>で示す。)
・凍結乾燥・・・は,医薬品食品関係・・・水にかかわるあらゆる分野で利用されており,今後ますます発展応用されていくことが予想できる1,2,3).
医薬品の製造に凍結乾燥を用いる理由としては,<1>薬液を容器へ充填する直前にろ過することで無菌性・無塵性を硬度に確保できる.<2>液濃度を調整することで医薬品の微量製剤化が可能となる.・・・などを挙げることができる.
一般に,薬物の結晶もしくは粉末を無菌無塵で得る方法としては,凍結乾燥法のほかにスプレードライ法や閉鎖系での晶析法などがあるが,これらの方法と比較するとき,凍結乾燥法は<1>装置が比較的高価であること.<2>運転保全費用が高いこと.<3>使用できる溶媒に制限があること.<4>作業者教育のタスクが大きいこと,などの不利な点があるが,注射剤などの異物夾雑を忌避する製剤の製法としては最も信頼性が高い方法といえる4).
上記の特徴を持つ凍結乾燥法は大別して,<1>液の凍結 <2>一次乾燥 <3>二次乾燥,の3工程に分けることができる.(第383頁第2行~第17行)
(23)甲23
次の記載がある。
・凍結乾燥注射剤の選択は,上記の品質的な面のほか,製造工程上の種々の面において評価されている。・・・凍結乾燥法は,初期設備費および運転経費にはマイナス面があるが,品質的には高い評価が得られ,総合的には一番良い評価となっている(表2)。・・・このように、凍結乾燥法は品質の高い注射剤を製造するのに非常に有益な方法である。しかし,前述のように熱に不安定で滅菌できない医薬品がその対象となることが多く,凍結乾燥注射剤製造は、無菌操作による製造工程となることから無菌管理が重要な要素となる。(第4頁下から第6行~第5頁最終行。)
(24)甲24
次の記載がある。
・ゲムシタビン塩酸塩は,1999年に承認された代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤であり,2015年現在,非小細胞肺がん,膵がん,胆道がんなどの治療に用いられている.・・・
注射用ゲムシタビン塩酸塩製剤の先発医薬品(先発品)については,・・・混在する可能性のある夾雑物として同定されている・・・.これらのうち,β-ウリジンは・・・ゲムシタビンから生成することが報告されている.この分解を防ぐために,注射用ゲムシタビン塩酸塩製剤の先発品は凍結乾燥製剤として供されており,・・・pH調節剤が添加されている.(第550頁左欄第2行~第551頁左欄第3行)
・考察
β-ウリジンは,ゲムシタビンの加水分解により生成する.・・・これらの生成を抑制するために,注射用ゲムシタビン塩酸塩製剤は凍結乾燥した状態で供されており,・・・pH調節剤が添加されている.(第554頁左欄第1行~第12行)
(25)甲25
「ジェムザール注」の添付文書((第3版)(日本イーライリリー株式会社))であって、販売開始が「1999年8月」であること、性状が「白色の軽質の塊又は粉末(凍結乾燥製剤)(注射剤)」であることが記載されている。
(26)甲26
次の記載がある。
・本品は、表ロ-54に示した塩酸ゲムシタビン及び以下の成分をとり、日局製剤総則注射剤の製法によって製された凍結乾燥製剤である。(第109頁第2行~第3行)
(27)甲27
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ボロン酸エステルの研究III 水中でのD-マンニトール、D-グルコース、D-フラクトース及びD-グルコースのボロン酸エステル(標題)
・ボレートアニオンとD-マンニトールとの相互作用
異なるD-マンニトール/ホウ酸塩比(図2)でpH6~12で11B NMR分光法を用いて、D-マンニトールとホウ酸塩との間のエステル形成を研究した。モデルジヒドロキシ化合物を用いて得られた結果によれば、エステル化されたホウ酸塩の量はpHの増加に伴って増加する。特に、低いD-マンニトール濃度(L = 0.01M)では、エステル化されたホウ酸塩の量は、添加されたD-マンニトールの量を大幅に上回ることに留意しなければならない。明らかに、B2L2-(および場合によってはB3L3-)型のエステルが形成された。しかしながら、11B NMRは、これらの化合物を区別することができない。このタイプの挙動は他の基質も関連する。
高いD-マンニトール/ホウ酸塩比(図2; L> 0.1M)では、ビス(D-マンニトール)ホウ酸塩(BL2 - )が主に発生する。 BL2 -には多くの異なる構造的可能性があるが、11B NMRはδ-9.5で主要なシグナルを示す。 D-マンニトールおよび2-(2H)-D-マンニトールの13C NMRスペクトルは、それ自体またはホウ酸塩の存在下で、ホウ酸エステル形成時にC-1 / C-6(δ64)に対する余分なシグナルを示さないが、C- 2 / C-5(δ72)およびC-3 / C-4(δ70)では、それぞれδ74およびδ76にさらなるシグナルが観察される。ホウ酸エステル形成時のC-3 / C-4の大きな低磁場シフトは、ビス(D-マンニトール)3,4:3',4'(図3)につながるD-マンニトールの3-および4- OHとの選択的ホウ酸エステル形成を示す。D-マンニトールのC2対称性のために、このエステルのジアステレオマーは存在せず、11Bおよび13C NMRスペクトルデータの両方の単純さをさらに説明する。ホウ酸塩誘起13Cシフトは、1,2:5,6-ジ-o-イソプロピリデン-o-マンニトールとフェニルボロン酸との間のエステル形成についてGorinによって報告されたものと一致する。選択的な3,4-D-マンニトールホウ酸エステル形成は、水中におけるD-マンニトールの優先的なジグザグ構造から理解することができ、ここで、3-および4- OH基は、エステル形成にとって好ましい位置にある。
図3. ビス(D-マンニトール)3,4:3',4'-ボロン酸エステル
1-および2-OHまたは5-および6-OHによるホウ酸エステルの生成は、ヒドロキシメチル基の回転の自由度が大きくなり、エステル化の際にエントロピーが不利に変化するため好ましくない。(第231頁右欄下から第10行~第232頁左欄下から第11行)
(28)甲28
無効2016-800130号事件での被請求人が平成29年4月4日付けで提出した答弁書である。
(29)甲29
「製剤」の項目として、「医薬品を治療目的に応じて調合・成型すること。また、その製品。錠剤・カプセル剤・粉末剤などがある。」との記載(第1539頁)が、
「組成」の項目として、「複数の要素・成分をくみたてて成ること」との記載(第1646頁)がある。
(30)甲30
平成29年9月6日付けの高田製薬株式会社知的財産室作成の「調査結果報告書」との表題の文書であり、次の記載がある。
・調査期間:2017年7月25日~2017年8月3日
調査担当者:駒田さやか
調査方法
特許第4162491号の優先日・・・前に発行された保険薬事典平成12年8月版(じほう)の注射薬の項目から・・・主薬が低分子薬である用時溶解注射剤(先発品)を抽出した。次いで、・・・添付文書情報に基づき・・・137製剤(69成分)を選び出した。これらの各製剤について、使用されている添加物を添付文書で確認し、添加物ごとに,使用されている製剤数を集計した。
・なお、「賦形剤として使用」の欄において、『医薬品添加物一覧表 昭和62年9月(昭和61年調査)』(社団法人東京医薬品工業協会、大阪医薬品協会 発行)で、使用目的として「61賦形剤」が記載されているものに○をつけた。
また、調査結果の項目で、「添加物」として「マンニトール(D-マンニトール)」のものが、「製剤数」が「30」であって、「賦形剤として使用」が「○」であることが表から読みとれる。
(31)甲31
次の記載がある。
・ボロン酸を用いた人工糖質レセプターの設計と機能(標題)
・ボロン酸は,水中でシス-ジオールと平衡下速やかに環状エステルを形成することが知られている(スキーム1)。(第832頁左欄第3行~第5行)
・
(第832頁左欄、スキーム1)
(32)甲32
2017年9月21日付けの「高田製薬株式会社分析研究部」による「試験報告書(1) 「特許第4162491号の検証」」との標題の文書であり、証拠説明書によれば、請求人が「ボルテゾミブのマンニトールエステルは、被請求人が主張するように凍結乾燥工程、すなわち、「凍結された媒体中」、あるいは「水が完全に凍結し、各反応基質の分子の運動性が制限される低温下」で形成されるのではなく、凍結乾燥よりも前の混合溶液の調製段階で形成されていること。(訂正発明21、38~42の想到容易性)」を立証するために提出したものとされている。
(33)甲33
2017年9月21日付けの「高田製薬株式会社分析研究部」による「試験報告書(2) 「ベルケイド注射用3mgにおけるボルテゾミブのマンニトールエステル体の存在の検証」」との標題の文書であり、証拠説明書によれば、請求人が「本件訂正発明の凍結乾燥製剤を溶解しても、ボルテゾミブのマンニトールエステルの加水分解は進行せず、大部分がエステルの形態のまま水溶液中で維持されること。(訂正発明17、19~21、38~42、44及び46の想到容易性、並びに、訂正発明17、19~21、38~42、44及び46の技術的範囲には、本件特許発明の課題を解決できない形態の発明が含まれていこと。)」を立証するために提出したものとされている。
(34)甲34
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・市販で利用可能な2つのボルテゾミブ製品の分析:有効成分と不純物プロファイルのアッセイの差(標題)
・ボルテゾミブ(遊離ボロン酸)の化学構造を図1aに示している(2)。薬物製品は、マンニトールボロン酸エステル(図1b)として提供されている。これが生理食塩水に溶解したものは、マンニトールエステルとその加水分解生成物である単量体ボロン酸と平衡状態にある(2)。(第461頁右欄第15行~第20行)
・結果
ボルテゾミブの特性
Bortenat 2mgおよび3.5mgサンプル、ならびにVELCADE 3.5mg サンプルを1D 1H-NMRスペクトロスコピーで分析した。DMSO-d6に溶かしたBortenat 2mgサンプルのNMRスペクトルが、VELCADE 3.5mgサンプルのものと極めてよく似ており、Bortenat 2mgサンプル中にボルテゾミブが存在していることを示していた。加えて、1H-NMRスペクトルでは、10% D2O/90% H2Oに溶かした0.9% NaCl水溶液中に遊離ボロン酸が存在していることを示していた(図2)。H4プロトン共鳴シグナルを積分して、ボロン酸エステルに対するボロン酸の比がBortenat 2 mgサンプルでは0.27:1、Bortenat 3.5 mgサンプルでは0.13:1であることがわかった。これに対して、VELCADE 3.5mgサンプルでは、ボロン酸エステルに対するボロン酸の比は約0.10:1であった(図2)。(第463頁左欄下から第8行~右欄第8行)
・VELCADEならびにBortenatの水溶液中でのNMRスペクトルを0分と180分の時点でも収集した。得られたボロン酸エステルに対するボロン酸の比は、両方の測定時点で同じであった。このことは、VELCADEとBortenatの違いが、平衡状態に達していると思われる時間から長時間経過しても、そのまま持続することを示している。マンニトールに対するボルテゾミブの比も、BortenatのほうがVELCADEより高かった(0.55:1 対 0.33:1)。このことは、ボロン酸エステルに対するボロン酸の比が水溶液で一貫して維持されていることの理由の一つと考えられる。(第463頁右欄第25行~第33行)
・Bortenat 2mgサンプルについては、直接注入MS法でも分析した。Bortenat 2mgサンプル水溶液のマススペクトルでは、ボロン酸エステル (m/z 529)のピークと遊離ボロン酸 (m/z 383)のピークの存在を明確に示していた(データは示していない)。Bortenat水溶液を、2、5、8、24時間後の時点でもMSでモニターし、遊離酸に対するエステルの相対比は一定であった。(第463頁右欄下から第7行~最終行)
・
図2. a Bortenat 3.5 mgサンプルとb VELCADE 3.5 mgサンプルの1H-NMRスペクトルの比較。サンプルを10% D2O/90% H2Oに溶かした0.9% NaCl水溶液中に溶解させた。2.35から2.85 ppmの領域が共鳴を示しており、ボロン酸およびボロン酸エステルのH4プロトンを積分した領域であった。H4プロトンは、図1のホウ素原子と同じ炭素に付着しているプロトンである。およそ2.73 ppmにあるピークはボロン酸によるものであり、およそ2.62 ppmにあるピークはボロン酸エステルである。ピークシフトは、“結果”のセクションに記述したように、2つのサンプルでのchemical exchange(化学交換)の違いによるものと考えられる。(第464頁、図2)
・ボロン酸エステルに対する遊離ボロン酸の比は、VELCADE 3.5mgバイアル(0.10:1)と比較してBortenatの2mgバイアル(0.27:1)と3.5mgバイアル(0.13:1)で高かった。比に関するデータは、VELCADEの規制当局への申請文書の中に含まれており、ボロン酸エステルに対するボロン酸の比は、イノベータ製剤を特徴づけるのに使われている。これらの比に関するデータも、Bortenatボルテゾミブ製剤が、イノベータ製剤と同等ではないことを示している。(第465頁右欄第29行~第36行)
(35)甲35
販売名 ベルケイド注射用3mg、一般名 ボルテゾミブの承認申請に係る報告書であり、次の記載がある。
・なお、3.0mg製剤については、申請時点で得られている安定性データには限りがあることから、既に海外で市販されている3.5mg製剤の24カ月までの安定性データも参考として提出された。申請者は3.0mg製剤と3.5mg製剤は、充填量のみが異なる同一処方製剤であり製剤の品質特性に本質的な相違があるとは予想されないため、3.5mg製剤の安定性試験から3.0mg製剤の安定性が推定できるものと考察している。(第10頁第2行~第6行)
・安定性試験(3.0mg製剤)
長期保存試験では、25℃/60%RH保存及び30℃/65%RH保存とも12ヶ月まで、いずれの試験項目においても経時的変化は認められなかった。
加速試験では、6ヶ月までいずれの試験項目においても経時的な変化は認められなかった。(第10頁、「安定性試験(3.0mg製剤)」)
(36)甲36
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・このモジュールは、ベルケイドの承認に対する最初の科学的議論を反映している。この科学的議論は、2004年5月1日までにアップデートされた。それ以降の変化についての情報は、モジュール8を参照されたい。(第1頁、序文)
・ベルケイドは、充填剤としてのマンニトールとともに3.5mgのボルテゾミブを含む、一回使用の10mlガラスバイアルに窒素雰囲気下でブロモブチル栓で封入された滅菌凍結乾燥製剤である。
注射用0.9%塩化ナトリウム水溶液3.5mlで再構成した場合、1 ml当たり1mgのボルテゾミブおよび10mgのマンニトールを含有する。(第2頁第35行~第38行)
・早期臨床研究で使用された液体製剤で直面した安定性の問題を克服し、0.9%生理食塩水中の迅速な再構成を達成するために、凍結乾燥剤形が開発された。マンニトール(1%(w / v))は、その再構成特性およびボルテゾミブと凍結乾燥したときの安定性を促進するために選択された。マンニトールは組成物中で挙げられる唯一の賦形剤である。注射用水と第3級ブチルアルコールは、調合過程で使用される共溶媒であり、凍結乾燥の過程で除去される。ボルテゾミブ製剤の市販製剤には、過剰なものはない(第3頁下から第10行~同第4行)
(37)甲37
2017年11月2日付けの「高田製薬株式会社分析研究部」による「試験報告書(3) 「特許第4162491号の検証II」」との標題の文書であり、証拠説明書によれば、請求人が「ボルテゾミブのマンニトールエステルは、被請求人が主張するように凍結乾燥工程、すなわち、「凍結乾燥された媒体中」、あるいは「水が完全に凍結し、各反応基質の分子の運動性が制限される低温下」で形成されるのではない。凍結乾燥工程前の混合溶液の調製段階で、大部分のボルテゾミブがマンニトールとエステルを形成している(訂正発明17、19~21、38~42、44及び46の想到容易性)」を立証するために提出したものとされている。
(38)甲38
2017年11月2日付けの「高田製薬株式会社分析研究部」による「試験報告書(4) 「特許第4162491号の検証III」」との標題の文書であり、証拠説明書によれば、請求人が「ボルテゾミブのマンニトールエステルは、被請求人が主張するように凍結乾燥工程、すなわち、「凍結乾燥された媒体中」、あるいは「水が完全に凍結し、各反応基質の分子の運動性が制限される低温下」で形成されるのではない。凍結乾燥工程前の混合溶液の調製段階で、大部分のボルテゾミブがマンニトールとエステルを形成している(訂正発明17、19~21、38~42、44及び46の想到容易性)」を立証するために提出したものとされている。
(39)甲39
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・水中のアントリルボロン酸13は、アントラセン自体によって示されるものと同様の構造の416nmを中心とする蛍光発光を示す。塩基の添加により、蛍光は減少する。蛍光は可逆的に変調することができるので、消光は分解ではなく、ホウ酸塩2(図1)に至る過程におけるイオン化によるものである。ホウ酸塩2の蛍光がアントリルボロン酸1の蛍光に比べて消光され得ることにはいくつかの理由があるが、ホウ酸塩の酸化可能性から、電子移動による消光が示唆される。アルキルトリフェニルホウ酸塩からの光誘起電子移動の結果として生じる消光はSchusterによって記述されている。図2に示すバッファーなしで得られたアントリルボロン酸1のpH-蛍光プロファイルから得られるpKaは8.8と計算される。これは、公知のフェニルボロン酸pKa8.83に匹敵する。
フルクトースを添加すると、見かけのpKa値は減少し、図2に示す残りの4つの曲線につながる。この観察結果の原因は、アントリルボロン酸1のフルクトース錯体がアントリルボロン酸1自体よりも強い酸であるという事実にある。この結果は、1959年にフェニルボロン酸のポリオール複合体において同じ傾向を報告したEdwardsの研究からも予測される。ほぼ飽和量のフルクトース(100mM)の存在下で測定すると、フルクトース-1複合体の見かけのpKaは5.9である。したがって、利用可能な最も大きいシグナル範囲は、pKa(1)およびpKa(1・fructose)または7.35の平均であるpHにある。選択されたポリオールの滴定(pH7.4で測定)を図3に示す。そのpHにおける見かけのフルクトース解離定数は3.7mMである7。本発明者らが観察した安定性の傾向は、フェニルボロン酸を水中で使用する報告された傾向とよく一致している6。錯化促進消光(CHEQ)は、本質的に、図1の平衡をアントリルボロン酸1(より高い蛍光)からホウ酸塩4(より低い蛍光)にシフトすることによって、一定のpHにおけるボリオール結合において得られる。(第5874頁左欄第13行~第43行)
・
図1 一般式で表されたポリオールの存在下におけるアントリルボロン酸1の水溶液に適用できる平衡式。種1及び3は、種2及び4よりも高い蛍光を示す。(第5874頁、図1)
・
図2 フルクトース濃度の関数としてのアントリルボロン酸1(0.75M)のpH-蛍光滴定(●,0mM;△,2mM,+,5mM;○,50mM;▲,100mM)。すべての溶液は1%(v/v)のDMSOを含む。これらの濃度における見かけのpKaは,それぞれ8.8,7.8,7.0,6.2および5.9である。(第5874頁、図2)
(40)甲40
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ガスクロマトグラフィー及び質量分析のための極性二官能基性の誘導体としての環状n-ブチルボロネート(標題)
・n-ブチルボロン酸と種々の極性二官能性化合物との反応についての分析研究がなされている。1,2及び1,3ジオール、a-及びβ-ヒドロキシ酸、並びに、1,2及び1,3-ヒドロキシアミンは急速に環状ボロン酸誘導体に変換され、これらは十分なガスクロマトグラフィーの挙動を示す。マススペクトルの特徴を報告する。(第18頁左欄第2行~第8行)
・天然多官能性化合物のための特定の誘導体の範囲を、特にガスクロマトグラフィーに不安定な化合物に適用するための範囲を広げたいという要望は、ボロン酸への関心を高めている。(I;R=アルキルまたはアリール)
RB(OH)2I
環状ボロネートエステルは、マンニト―ル、ソルビトール、およびいくつかの単純なシゾイドジオールを水性媒体中で、フェニルボロン酸で処理することにより、Kuivilaら(11)によって最初に調製された。(第18頁左欄最終行~右欄第9行)
・ヒドロキシ酸のn-ブチルボロネートは、放置すると徐々に分解する白色の結晶性固体である。アセトン溶液中のある種の誘導体は、2~3日でいくらかの変色を示すが、ほとんどが無水のDMF中に劣化させることなく貯蔵することができる。マンデル酸およびサリチル酸について、それらのn-ブチルボロネート誘導体が50%水性DMF中で安定であるだけでなく、収率の低下にもかかわらず水溶液中で調製できることが実証された。(第20頁右欄第11行~第19行)
(41)甲41
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・化学親和性系 I 水溶液中のボロン酸-ジオール親和性のpH依存性(標題)
・仮説
数多くの定量的研究の基礎とされている最も広く使用されているモデルは、Edwards[3a]およびAntikainen[5]によるものである。ここで与えられる処理は、ジオールまたは他のキレート化種のイオン化を説明するための彼らのモデルの拡張である。Hermans[6]の元の定式化によれば、次の化学種は、モノアルキルホウ酸R-B (OH)2、および環状キレートを形成することができるジオール‡の水溶液を混合すると、平衡状態で存在すると仮定することができる。
‡2重にイオン化された化学種
も可能であるが、研究されたケースでは中程度のpH値では濃度が消失する程に低いため無視されている。(第1559頁右欄第8行~最終行、同頁注釈)
・結果
表2および3の値は、図4にグラフで示されている。式(5)によって予測される予想されるベル型の挙動は、4,5-ジオールの場合の低pH領域の逸脱を伴って、両方の場合に観察される。これは、特定の場合には、[H2AL]<<[HAL-]という当初の仮定が、十分に低いpH値では有効でない可能性があるために予期されることである。したがって、平滑化は、複合体のこのタイプの共役酸の平衡における最初の観察を表す。(第1562頁左欄下から第5行~右欄第5行)
・4、5-ジオールの場合のH2ALの分光光度的観測は、その構造に関して仮の結論を引き出すことを可能にする。表5に見られるように、pH7(複合体はすべてHAL-型)からpH1.11(少なくとも90%の複合体がH2AL型)を通過すると、高HA濃度の存在下でHLのスペクトルにほとんど変化は生じない。(第1572頁右欄第18行~第24行)
(42)甲42
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ボロン酸は、脂質二重層を通してのグルコース輸送を選択的に促進する(標題)
・
(第9343頁、図1)
・
(第9344頁、第1表)
・液体有機膜を用いたこれまでの研究により、ボロン酸は可逆的に三配位型または四配位型のジオール-ボロナート錯体を形成することによってジオール化合物を輸送できることが示されている4。表1の検査は、流出がボロン酸の親油性(pKで判断される)よりも酸性度(疎水性定数πで判断される)に依存することを示唆している8,14。(第9344頁左欄下から2行~右欄第4行)
(43)甲43
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ボロン酸は、脂質二重層を通してのリボヌクレアシド輸送を促進する(標題)
・
(第266頁右欄最上部)
・ボロン酸添加後の外部溶液のUV吸収の変化からヌクレオシド流出速度を測定した。5つのボロン酸について試験を行った;3,5-ビス-(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(1)、3,5-ジクロロフェニルボロン酸(2)、4-tert-ブチルフェニルボロン酸(3)、1-ブチルボロン酸(4)、および4-カルボキシフェニルボロン酸(5)。図2は、ボロン酸の存在下および非存在下におけるウリジン6の典型的な流出プロットを示す。ヌクレオシド6-10の相対流出増強を表1に記録する。ウリジン誘導体6-10の流出速度はボロン酸担体の4つにより促進され、担体有効性の順序は1>3>2>>4であった。極めて親水性のボロン酸5は、測定可能な輸送増強をもたらさなかった。前述のように、ボロン酸輸送能は親油性および酸性度の両方で増加するようである。(第267頁右欄第11行~第268頁左欄第3行)
・リボヌクレオシド輸送がリボース環上のポロン酸とシス-2,3-ジオールとの共有結合錯化によって媒介されることは疑いがないので、二重層輸送機構の問題は、輸送された種が式1で表されるイオンペアなのか、それとも表2で表される中性三配位型ポロネートエステルなのかということに集約される。2つの対照実験は後者であることを強く示唆する。(第268頁右欄下から6行~第269頁左欄第2行)
(44)甲44
次の記載がある。
・フェニルボロン酸をレセプターとする分子集合体の糖質応答性(標題)
・フェニルボロン酸は水中でジオール化合物とジオール-ボロン酸の共有結合によって可逆的に複合体を形成することが知られている8)(図1)。特に糖質の環状構造においてはシス-ジオールといった特定の水酸基配列と選択的に結合する8,9)。(第1085頁右欄下から第2行~第1086頁第3行)
・
(第1086頁、図1)
(45)甲45
次の記載がある。
・分子集合体の糖質応答性(標題)
・
(第669頁、図2)
・水中において糖質を認識するためには水素結合以外の相互作用が必要である.近年,ボロン酸誘導体の糖質レセプターとしての有用性が注目されている14~16).ボロン酸誘導体は水中でcis-ジオール,モノアルコール,アミンと相互作用することが古くから知られている17).とくにcis-ジオールとボロン酸誘導体は水中でジオール-ボロン酸の共有結合によって可逆的にエステル化合物を形成する18)(図2a).ボロン酸はcis-ジオールと結合した際,sp2からsp3へ変化しアニオン電荷を帯びることで生成物が安定化する.ちなみに,ボロン酸は有機溶媒中でも糖質レセプターとして有効であり,脱水条件下においてもcis-ジオールと非可逆的にエステル結合を形成する19)(図2b).(第669頁右欄第27行~第38行)
(46)甲46
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・アルツハイマー病:培養細胞からのβアミロイドペプチド分泌抑制の、プロテアソームのキモトリプシン様活性阻害との相関(標題)
・N-acetyl-Leu-Leu-Nle-H(またはALLN)などのプロテアソームのキモトリプシン様活性(CLIP)のペプチドアルデヒド阻害剤は、これまでに細胞からのβ-アミロイドペプチド(Aβ)の分泌を阻害することが示されている。(第195頁左欄第1行~第5行)
・ボロン酸エステル(化合物7)と遊離酸(化合物8)との間には、活性に有意差はなかった。(第199頁左欄第1行~第3行)
また、表1(第198頁)に化合物7及び化合物8の構造が以下のものであると記載されている。
1-2 乙号証の記載
(1)乙1
「賦形剤」の項目として、「製剤の調製時に,増量,希釈のために用いられる添加剤で,それ自体は薬理作用を示さず,治療効果を妨害しない物質」との記載がある。
(2)乙2
甲9と同一文書であって、次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ボロン酸類は、非水媒体又は塩基性水性媒体中で、1,2-又は1,3-ジオール類と共有結合を形成し、5員又は6員の環状エステルを生成する(スキーム1)。(第1911頁左欄第18行~第21行)
・スキーム1.ボロン酸類とのエステル形成.塩基性水性環境中での反応(a);脱水剤存在下での非水環境中での反応(b)(第1911頁スキーム1の説明部分)
(3)乙3
甲8と同一文書であって、次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・本発明は、本質的に塩を含まない又は塩を含まない(p-ボロノフェニルアラニン)-炭水化物錯体の製造方法に関し、
a)
i)p-ボロノフェニルアラニン、
ii)水、
iii)炭水化物、
iv)塩基、及び
v)イオン交換媒体
を準備する工程、
b)上記p-ボロノフェニルアラニン、水、炭水化物及び塩基を混合して、p-ボロノフェニルアラニンと該炭水化物がそこに溶解している塩基性溶液を作製する工程、
c)p-ボロノフェニルアラニンと炭水化物を含む上記塩基性溶液に上記イオン交換媒体を加え、それにより上記塩基性溶液のpHを約7.3から7.5の範囲に調整して、生理学的pHで混合物を作製する工程、並びに
d)上記混合物から上記イオン交換媒体を除去して、塩を含まない又は本質的に塩を含まない(p-ボロノフェニルアラニン)-炭水化物錯体を溶液中で作製する工程
を含んでなる、前記方法に関する。
いくつかの態様において、本発明は、さらにf)塩を含まない又は本質的に塩を含まない(p-ボロノフェニルアラニン)-炭水化物錯体の溶液を凍結乾燥して、凍結乾燥された、塩を含まない又は本質的に塩を含まない(p-ボロノフェニルアラニン)-炭水化物錯体を作製する工程を含む。(第5頁第1行~第14行)
・p-ボロノフェニルアラニン、水、炭水化物若しくはポリオール、及び塩基は、共に混合され、p-ボロノフェニルアラニンと該炭水化物若しくはポリオールが実質的にそこに溶解している塩基性溶液が作製される(例、8と10の間のpH)。p-ボロノフェニルアラニン、水、塩基、及び炭水化物若しくはポリオールは、特定の順序で混合されることは意図されていない。上記イオン交換媒体はその後に該塩基性溶液に加えられ、それによりそのpHを生理学的pH(7.3から7.5の間のpH)に調整する。該溶液のpHを生理学的pHに調製後、上記イオン交換媒体を濾過又はデカントにより除去して、塩を含まない又は本質的に塩を含まない(p-ボロノフェニルアラニン)-炭水化物若しくは(p-ボロノフェニルアラニン)-ポリオール錯体の溶液を作製する。該溶液の凍結乾燥により、本質的に塩を含まない又は塩を含まない(p-ボロノフェニルアラニン)錯体を白色固体として得る。(凍結乾燥方法は、周知である。例えば、Flosdorf, Freeze-drying; drying by sublimation, Reinhold Pub. Corp., 1949; Mellor, Fundamentals of Freeze-drying, Academic Press, New York, 1978; 及びDay et al., Cryopreservation and freeze-drying protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 38, Humana Press, New Jersey, 1995参照)(第10頁第1行~第15行)
(4)乙4
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・非経口使用のための(研究中の)抗がん剤の製薬学的発展-総説(標題)
・この総説の目的は、1986年以降からの抗腫瘍薬の製剤の現状を評価することにある。抗腫瘍薬の医薬開発の諸相の中で論じられているのは、以下のもの、すなわち、製剤開発の過程、可溶化技術、いくつかのコロイド系の適用、プロドラッグの使用、及び凍結乾燥製剤である。製剤の過程、その異なる戦略の利点や欠点、及び毒性の危険性について記載され、文献からの例を以て示されている。(第475頁、ABSTRACTの第4行~第11行)
・抗悪性腫瘍剤の可溶化における界面活性剤の使用は、製剤アプローチにおいて慣用のものである。ミセル状の界面活性剤溶液への薬物の取り込みによりしばしば溶解性及び安定性が増加する。(第480頁右欄第13行~第17行)
・錯形成は、第一には、薬物の水溶性や安定性を増大させるために、第二には、腫瘍細胞により特異的に細胞毒性化合物を標的化するために、今日より広く用いられている。(第481頁右欄第27行~第30行)
・リポソーム、マイクロカプセル、マイクロスフェア、ナノ粒子及び高分子錯体等のコロイド系は、薬物の分子環境の変化により薬物の溶解性や安定性を高める可能性がある(17)。(第482頁右欄下から第4行~第483頁左欄第1行)
・コンジュゲートドラッグの溶解性や安定性は、親薬物であるNSCと比較してもインビボでの有意な抗腫瘍効果を誘発するのに十分高かった。(第489頁左欄第1行~第4行)
・その方法には高い初期設備投資費用及び高い維持費の両方がかかるにも拘わらず、凍結乾燥は、希薄溶液中で限られた貯蔵寿命を有する不安定な医薬製品を安定にするための最も重要な方法になった(145)。(第489頁左欄第18行~第22行)
・薬だけでは良好な凍結乾燥特性を示さない場合および/またはバイアルごとの薬の総量が非常に少ない場合、ケーキの外観をよくするため賦形剤が使用される(14)。(第489頁右欄第6行~第9行)。
(5)乙5
甲9と同一文書であって、次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・
(第1912頁左欄、表1)
・
[a] MeOH/H2O (1/2)中で測定.[b] MeOH/H2O (2/1)中で測定.
[c] 糖濃度に対する相対的な蛍光強度のプロットは、1:1錯体が形成したと仮定した単純なBenesi-Hildebrand式によっては正確には解析出来なかった.
(第1917頁右欄、表3)
(6)乙6
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・実験成績証明書
日付:2017年9月6日
SIMPSON, Tobias Rutger
ヨーロッパ特許弁理士
Mathys & Squire LLP を代表して
ヨーロッパ特許第1355910号の異議申立手続におけるヨーロッパ特許庁に対する特許権者の代理人である、我々、Mathys & Squire LLPは、下記第2節に示した実験結果が、この手続において特許権者が提出したものであることを、ここに証明する。
・・・
2.実験の内容及び結果
・・・
(1)強制分解試験
・・・
この試験の結果を以下の表2に示す。
この試験結果が実証するように、ボルテゾミブ薬物を過剰量のD-マンニトールと混合しても、該薬物の安定性を改善しない。
・・・
(2)再構成試験
・・・
この試験の結果を以下の表4に示す。
この試験の結果が実証するように、ボルテゾミブ薬物を過剰量のD-マンニトールと混合しても、該薬物の再構成特性を改善しない。
3.実験結果の情報源(部外秘)
(合議体注:黒塗りがなされていて、内容は不明。)
(7)乙7
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・実験成績証明書
日付:2017年9月6日
SIMPSON, Tobias Rutger
ヨーロッパ特許弁理士
Mathys & Squire LLP を代表して
ヨーロッパ特許第1355910号の異議申立手続におけるヨーロッパ特許庁に対する特許権者の代理人である、我々、Mathys & Squire LLPは、下記第2節に示した実験結果が、この手続において特許権者が提出したものであることを、ここに証明する。
・・・
2.実験の内容及び結果
・・・
強制分解試験
この試験においては、ボルテゾミブ薬物及び凍結乾燥されたボルテゾミブのマンニトールエステルを窒素雰囲気下に置き、加速安定性アッセイにおいて高温(85℃)に暴露した。
この試験の結果を以下の表1に示す。
上述のデータから、凍結乾燥されたボルテゾミブのマンニトールエステルは、ボルテゾミブ薬物よりも、強制分解条件下において、より高い安定性を有することが分かる。
3.実験結果の情報源(部外秘)
(合議体注:黒塗りがなされていて、内容は不明。)
(8)乙8
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・実験成績証明書
日付:2017年9月6日
SIMPSON, Tobias Rutger
ヨーロッパ特許弁理士
Mathys & Squire LLP を代表して
ヨーロッパ特許第1355910号の異議申立手続におけるヨーロッパ特許庁に対する特許権者の代理人である、我々、Mathys & Squire LLPは、下記第2節に示した実験結果が、この手続において特許権者が提出したものであることを、ここに証明する。
・・・
2.実験の内容及び結果
・・・
異なる賦形剤を用いた再構成試験
第1の試験において、1mgのボルテゾミブ及び10mgのD-マンニトール又はトレハロースを含む凍結乾燥製剤を調製した。次に、該製剤について、水中おける再構成の速度を試験した。・・・この試験結果を以下の表1に示す。再構成時間は、最も近い「分」として示す。
これらのデータから、D-マンニトールを用いて調製された製剤は、水中で急速な再構成を生じた(1分)のに対して、トレハロース含有製剤は、非常に長い時間を要した(15分)ことに気付くであろう。・・・
第2の試験において、3.5mgのボルテゾミブと、35mgのD-マンニトール、グリシン又はデキストランを含有する凍結乾燥製剤を調製した。・・・この試験の結果を以下の表2に示す。再構成時間は、最も近い「分」として示した。
これらのデータが実証するように、マンニトールを用いて調製したボルテゾミブの凍結乾燥製剤は、デキストリン又はグリシンを用いて調製された製剤と比較して優れた再構成性を示す。
3.実験結果の情報源(部外秘)
(合議体注:黒塗りがなされていて、内容は不明。)
(9)乙9
「凍結乾燥」の項目として、「熱に対し不安定で水溶液として放置しておくと変化しやすい物質,または常法では泡立ちなどのために減圧濃縮しにくい物質や動物組織の乾燥に用いられる」との記載(第950頁)が、
「不可逆反応」の項目として、「化学反応において正方向の反応速度が逆反応にくらべて著しく大きく,逆反応が無視できる反応をいう」との記載(第1164頁)が、
「有機ホウ素化合物」の項目として、「炭素とホウ素の直接結合をもつ化合物の総称」との記載(第1395頁)が、
「ル・シャトリエの法則」の項目として、「化学平衡にある系は,平衡を決める因子の1つの変動の結果変化をうけるが,その変化は考えている因子を逆方向に変動させるようにはたらくという法則」との記載(第1484頁)がある。
(10)乙10
甲2と同一文書であって、次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・2’, 3’-フェニルボロネート保護基を用いることにより、Yurkevich及び彼の共同研究者は、アデノシン、ウリジン、シチジン、及びグアノシンの5’-ホスフェートを調製した。(第54頁第14行~第16行)
・フェニルボロネート基は、Koenigs-Knorrグリコシル化条件下で安定であることが示されてきた。そして、溶媒としてニトロメタンを使用することにより、ベンジルβ-D-キシロピラノシド 2,4-フェニルボロネートから、3-O-β-D-グルコピラノシル-D-キシロース及び3-O-α-及びβ-D-キシロピラノシル-D-キシロースが合成されてきた。(第55頁第24行~第28行)
・最も直接的には、D-グルコース 1,2: 3,5-ビス(フェニルボロネート)は、ボロモホルム中及び四塩化炭素中で別々にトリフェニルホスフィンにより処理され、そして、初期生成物は、脱ボロネート化され、6-ブロモ-及び6-クロロ-6-デオキシ-D-グルコースをそれぞれ、81%及び79%の収率で与えた。(第56頁第1行~第5行)
・d. 酸化反応.―フェニルボロネート基は、ヒドロキシ基の無水酢酸-ジメチルスルホキシド酸化の過程において、安定であることが分かった。(第57頁第4行~第6行)
(11)乙11
ホウ酸は、「参考規格」で「溶状 1.0g,水25ml又は熱エタノール10ml」であること、その用途は、安定(化)剤、緩衝剤、等張化剤、pH調節剤、防腐剤、保存剤、溶解補助剤であることが記載されている。
(12)乙12
次の記載がある。
・質量分析による溶液内イオン平衡の観測(標題)
・溶液内に存在する複数のイオン間に平衡関係が成り立つ場合,ESI-MSによって,それらのイオンの量的関係を求めることができれば,平衡定数もまた,求めることが可能となるはずである.しかしながら,ESIにおける脱溶媒和過程で,溶液内平衡が変化するため,質量スペクトルを解釈する際には注意する必要がある.・・・試料溶液の噴霧ネブライザーガスの流量やニードル電圧,脱溶媒和過程における温度も影響する.筆者らも,脱溶媒和時の温度上昇に伴ってイオン対生成が増大する点に配慮し,溶液内平衡の定量的観察をする際には,加温せずに測定を試みている.(第101頁左欄下から第11行~右欄第7行)
(13)乙13
次の記載がある。
・コールドスプレー質量分析法の開発(標題)
・コールドスプレー(CSI)は基本的には熱,電界を必要とせず,スプレーを冷却し溶媒和を積極的に利用したソフトなイオン化法である。(第107頁左欄第11行~第13行)
・CSIによれば不安定な溶液試料の質量分析が可能となり,さらに溶液中の平衡状態や不安定で短寿命の反応中間体を直接検出できる可能性が出てきた。(第107頁左欄第18行~第20行)
・ESIでは溶媒との相互作用を熱などを利用して断ち切ることによりシグナルを単純化し,高感度を得ている。(第108頁左欄下から第7行~下から第5行)
・コールドスプレーのイオン化機構はESIに類似する点も多いが,基本的に溶媒を濃縮しないので,クーロン爆発等の過程は経ないと考えている。(第108頁右欄第2行~第4行)
(14)乙14
次の記載がある。
・コールドスプレーイオン化質量分析を中心とした連携機器分析によるクラスター構造の解析(標題)
・従来,溶液中での分子及びその集合体の動的挙動を直接観測することは困難とされてきた.近年,質量分析(MS)のイオン化法としてコールドスプレーイオン化(cold-spray ionization;CSI)が登場し,これらの解析に応用されるようになった.(第985頁左欄第2行~第6行)
・溶液構造解析は従来NMR解析が主流であり,質量分析は気相におけるイオンの構造解析であると理解されていた.CSIは低温で溶媒除去を抑制するため,溶液構造が反映されると考えられる.(第987頁左欄第4行~第7行)
(15)乙15
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・ペプチドAMC基質及びDMSO中の阻害剤(1-10μl)を・・・アッセイバッファーに加えた。37℃(プロテアソーム類及びカテプシンB)又は20℃(カルパイン)で平衡化した後、酵素(1~5μl)を加え、反応の進行を、440nmにおける蛍光発光(1ex、380nm)の増加によりモニターした。(第769頁左欄第30~39行)
(16)乙16
甲14と同一文書であって、次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・白血球プロテアーゼ類、膵臓エラスターゼ、及びキモトリプシンのより選択的で効果的な阻害剤の探索において我々が取ったアプローチはペプチドボロン酸を調製することだった。・・・ペプチドボロン酸の結合の提案されたメカニズムを図1に示す。(第15106頁右欄第5行~第17行)
・基質加水分解
ボロン酸結合
図1 ペプチドボロン酸についての結合のメカニズムのスキーム(第15106頁、図1)
・
図2 ペプチドボロン酸とそれに対応するエステルの構造。R’はMeO-Suc-Ala-Ala-Pro-であり;Rは、MeO-Suc-Ala-Ala-Pro-boro-Phe-OHに関してはベンジルであり、MeO-Suc-Ala-Ala-Pro-boro-Ala-OHに関してはメチルであり、MeO-Suc-Ala-Ala-Pro-boro-Val-OHに関してはイソプロピルである。(第15107頁、図2)
・ピナンジオールエステルを用いて得られた結果は、このエステルも加水分解されて遊離ボロン酸を生成することを示している。白血球エラスターゼの阻害に関し、リン酸塩緩衝液中でのインキュベーション後のMeO-Suc-Ala-Ala-Pro-L-boro-Val-ピナンジオールの有効性と、MeO-Suc-Ala-Ala-Pro-DL-boro-Val-OHの有効性との比較は、エステルの遊離ボロン酸への加水分解と整合していた。我々が研究した他の酵素でも同様の結果が得られたため、MeO-Suc-Ala-Ala-Pro-boro-Val-ピナンジオールの遊離ボロン酸の特徴づけは実施しなかったが、その後の研究でのアッセイのため、代わりにピナンジオールエステルを0.10Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)の中で1時間あらかじめインキュベートした。他のペプチドボロン酸は、特に断らない限り、遊離ボロン酸として化学的に特徴づけられた。(第15108頁左欄第17行~第30行)
・より効果的なプロテアーゼ阻害剤であるペプチドボロン酸がプロテアーゼの活性部位セリンと遷移状態様複合体を形成することについては疑問の余地がほとんどない。・・・活性部位のセリンとボロン酸部位との間の四配位複合体の寄与がなければ、ペプチドボロン酸の高い親和性を説明することは困難である。(第15111頁左欄第24行~第37行)
(17)乙17
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・Rhodococcus 20Sプロテアーゼの活性部位指向の阻害剤(標題)
・β-ラクトンによるプロテアソームの完全な阻害は、ボロン酸由来阻害剤の結合により完全に抑止された。ボロン酸由来阻害剤は、トロンビンの活性部位セリンのOγ残基と共有結合的に反応して、基質加水分解における四配位中間体を模倣した四配位ホウ素付加物を生じることが示されている(18)。アナロジーとして、我々は、ボロン酸に基づく阻害剤が、同様の様式で、プロテアソームのβ-サブユニットのN末端Thr上のOγと相互作用することを提唱する。(第26108頁右欄第17行~第26行)
・
スキーム1 異なるクラスの阻害剤によるプロテアソーム阻害の提唱メカニズム(第20109頁、スキーム1)
(18)乙18
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・プロテアソームの強力で選択的な阻害剤:ジペプチドボロン酸(標題)
・セリンプロテアーゼ阻害剤としてのペプチジルボロン酸の活性は、十分に裏付けられており、活性部位のセリン残基の酸素のローンペアを受け入れるのに適したホウ素上の空のp-軌道の有用性に起因する。類推により、ボロン酸化合物はまた、触媒的に活性なプロテアソームのβ-サブユニットのN-末端のスレオニン残基と安定な4配位中間体を形成する。(第334頁下から第4行~第335頁第1行)
・
表3 アルデヒド及びボロン酸プロテアソーム阻害剤の比較(第336頁、表3)
・
(第337頁、スキーム1)
(19)乙19
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・癌治療におけるプロテアソーム阻害剤PS-341(標題)
・PS-341は、ボロン酸ジペプチド誘導体である(図1)。ボロン酸ペプチド類は、セリンプロテアーゼ(例、トロンビン、エラスターゼ、ジペプチジルプロテアーゼIV)を阻害することが示されている。ジペプチドボロネート誘導体は、おそらく、プロテアーゼの活性部位において形成される、ホウ素-Thr’Og供与結合の安定性を通した、強力なプロテアソーム阻害剤である。(第2638頁右欄第28行~第33行)
(20)乙20
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・サブチリシン BPN’(Novo)とのボロン酸付加物のX線結晶学的研究(標題)
・これらの著者らは、多様なボロン酸-酵素複合体の可能性のある構造を提示し、最も確からしいのは、セリン195のOγ又はヒスチジン57のNε2の何れか、又は両方に共有結合的に結合した四配位ホウ素を含むものであると提案している。もし、最も確からしい構造である(I)が正しかったなら、
それは、四配位中間体に近似したアナログを提供し、触媒的セリンのアシル化及び脱アシル化の遷移状態に近い配置を有するであろう。四配位中間体におけるオキシアニオンのボロン酸中の水酸基による置換は、オキシアニオンホール周囲の骨格及び側鎖からの水素結合を受け入れる結合基の能力に深刻な影響を与えないはずである。(第7120頁右欄第26行~第39行)
・ホウ素原子は、共有結合的に結合した、活性部位Ser-221のOγとの四配位付加物を形成した。ボロン酸の1つの水酸基(表IのO1’)は、触媒的ヒスチジン側鎖に隣接し、Nε2から2.8Aである。これは、2者の間の水素結合の予想距離であるが、そのような水素結合のいずれの角度が幾分ゆがんでいるかもしれない。・・・第2の阻害剤水酸基(表IのO2’)は、オキシアニオンホール(3)に位置し、Asn-155の側鎖アミドとSer-221の骨格アミド基の両方と、水素結合できる。これらの水素結合の長さは、2.5及び3.0Aである。(第7121頁右欄第37行~第47行)
(21)乙21
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・イースト20Sプロテアソームとの複合体におけるボロン酸ベースのプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブの結晶構造(標題)
・予想されたように、ホウ素原子は、Thr1Oγの求核的酸素孤立電子対と共有結合的に相互作用し(図1B)、オキシアニオンホールを安定化するGly47Nは、酸性ボロネート水酸基の一方と水素架橋される。四配位ボロネート付加物は、N末端スレオニンアミン原子と水素架橋され、触媒的プロトンアクセプターとして機能する、第2の酸性ボロネート水酸基部分により更に安定化される(図2)。(第452頁右欄最終行~第453頁左欄第7行)
・
図2 キモトリプシン及びカスパーゼ様活性に責を負う活性部位残基へのボルテゾミブの重要な相互作用
(A)キモトリプシン様活性部位、及び(B)カスパーゼ様活性部位へ結合したボルテゾミブの模式的全体像。水素結合を、関連する距離(Å)とともに、茶色点線で示す。特徴的な酸素及び窒素原子は赤色又は青色の大文字で表す。阻害剤のP3-ピラジン-2-カルボキシ側鎖への特性及び結合様式に責を負うアミノ酸は、β型サブユニットに隣接して位置し、灰色で示す。タンパク質への強固な水素結合を形成する、明確化した水分子をマゼンタで表し、阻害剤を緑色で示す。(第453頁左欄、図2)
(22)乙22
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・緑茶ポリフェノールは、ボルテゾミブ及び他のボロン酸に基づくプロテアソーム阻害剤の抗癌効果をブロックする(標題)
・予期せぬことに、我々は、様々な緑茶成分、特に、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)や1,2-ベンゼンジオール部位を有する他のポリフェノールが、インビトロ及びインビボにおいてBZMにより誘発される腫瘍細胞死を効果的に阻害することを発見した。このEGCGの明白な拮抗機能は、ボロン酸に基づくプロテアソーム阻害剤(BZM,MG-262,PS-IX)においてのみ明白であるが、いくつかの非ボロン酸プロテアソーム阻害剤(MG-132,PS-I,nelfinavir)においては見られない。EGCGはBZMと直接反応し、そのプロテアソーム阻害機能を阻害した;その結果、BZMは、小胞体ストレス又はカスパーゼ7活性化を引き起こすことが出来ず、腫瘍細胞死を誘発しなかった。(第5927頁上段左欄最下行~右欄第5行)
・EGCGはBZMのボロン酸基との直接反応を経て、BZMを不活性化する
EGCGは抗酸化機能を有することが知られているので、我々は、この特徴が観察されたEGCGとBZMとの間の拮抗に寄与し得るか検討した。・・・結局、これらの結果は、EGCGがBZMのボロン酸部位と安定な環状ボロネート付加体を形成し、それによりBZMがプロテアソーム阻害剤として作用するのを阻害していることを立証している。(第5933頁右欄第17行~第5934頁左欄第32行)
・興味深いことに、1,2-ジオ-ル含有化合物でもあるビタミンCがBZMによる殺細胞を阻害することが以前に報告されている。43この後者の報告では、ビタミンCと蛍光モデルボロン酸化合物である5-DMANBAとの直接の相互作用を測定すると共に、ビタミンCのBZMに対する拮抗作用がボロン酸部位との直接結合に基づくものであることを証明している。また、別のごく最近の報告によれば、ケルセチンやミリセチンのような食物フラボノイドがBZMのボロン酸基と化学反応し、それによりBZMの腫瘍細胞においてアポトーシスを引き起こす能力を減弱させることが示された。44EGCGのBZMに対する重大な阻害作用に関する我々の本研究において報告された結果は、同じように2分子間での直接の分子相互作用によるものであり得る。(第5935頁左欄第1行~第14行)
(23)乙23
次の記載がある。(原文は英文。訳文で示す。)
・フェニルボロン酸、C6H5B(OH)2、分子量119.94、融点215-217℃・・・
ジオールの環状エステル 当該試薬は、1,2-、1,3-及び1,4-ジオール類と反応して環状エステル類を生成する。2 1,5-ジオールは、結晶性の生成物を与えない。シス及びトランスのシクロペンタン-1,2-ジオール並びにシス及びトランスのシクロヘキサン-1,2-ジオールは、共にエステルを与えるが、トランス異性体のエステルは、融点がずっと高い。当該試薬(その無水物やトリフェニルボラキソールも同様)は、六炭糖類と反応して結晶性の環状エステルを高収率で与える。メチルα-及びβ-キシロピラノキシド、(1)及び(2)において図示したように、ジアキシャル1,3-ジオール基と優先的に反応する。3 炭水化物は、1,3-プロパンジオールとの反応によりボロン酸エステルから遊離し得る。当該試薬は、二糖類合成における保護基を提供するために用いられてきた。4 (第833頁~第834頁、「フェニルボロン酸」)
(24)乙24
「オルガノボロン-モノサッカライド;IX 保護されたα-D-マンノフラノシル ブロマイドの効率的な合成方法」という標題の文書(英文)であって、2,3:5,6-ジ-O-エチルボランジイル-D-マンノフラノースを製造した実施例が記載されている。
(25)乙25
「オルガノボロン-モノサッカライド;X 二官能基的に保護されたα-D-リキソフラノシル ブロマイドの高収率合成」という標題の文書(英文)であって、1,2:3,5-ジ-O-エチルボランジイル-β-D-リキソフラノース及び異性体並びに2,3-O-エチルボランジイル-α-D-リキソフラノースを製造した実施例が記載されている。
(26)乙26
次の記載がある。
・安定性試験ガイドラインについて(標題)
・加速試験は,申請する貯蔵方法で長期間保存した場合の化学的変化を予測すると同時に,流通期間中に起こり得る上記貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を評価するための試験である。
加速試験は,原薬又は製剤の化学的変化又は物理的変化を促進する保存条件を用いて行う。(第2頁第10行~第12行)
・製剤の加速試験において,中間的な条件での加速試験を実施するのは例えば,次のような品質の変化があった場合である。
1 試験開始時の定量値(力価)から5%以上減少した場合
2 特定の分解生成物が規格値を超えた場合
3 pHが規格値を逸脱した場合
4 溶出試験で規格を逸脱した場合
5 色,相分離,再懸濁性,1回当りの噴霧量,ケーキング,硬度等が規格から逸脱した場合(第5頁下から第6行~第6頁第1行)
2 無効理由1(特許法第29条第2項違反(その1))
(1)甲7発明
甲7には「2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2」の式で示される化合物が記載されているから、甲7には、「ペプチドボロン酸誘導体2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2」の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。
(2)本件発明17について
ア 対比
本件発明17と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2」で、2-Pyzは2位で結合したピラジンを、COはカルボニルを、Pheはフェニルアラニンを、Leuはロイシンを、B(OH)2はボロン酸を意味することは明らかであって、「2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2」は「N-(2-ピラジン)カルボニル-フェニルアラニン-ロイシン ボロン酸」を意味している。なお、フェニルアラニン、ロイシンはいずれも広く知られたアミノ酸化合物であるところ、甲7発明中のこれらのアミノ酸に関し、甲7ではD体、L体の区別はなされていない。しかしながら、甲7発明の化合物は、抗がん剤として使用されることが前提になっているから、これらのアミノ酸はL体であるとすべきものである。
本件発明17と甲7発明とは、
「ペプチドボロン酸誘導体化合物」
である点で一致していて、以下の点で相違するものである。
相違点1
ペプチドボロン酸誘導体化合物が、本件発明17においては、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸」のD-マンニトールとのエステル体である「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」であるのに対し、
甲7発明では、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸」である点
相違点2
本件発明17においては、化合物が「凍結乾燥粉末の形態」と特定されているのに対し、
甲7発明では、そのような特定がない点
イ 相違点について検討すると、まず相違点1に関し、
甲7は、“Degradation Pathways of a Peptide Boronic Acid Derivative, 2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2”、すなわち「ペプチドボロン酸誘導体、2-Pyz-(CO)-Phe-Leu-B(OH)2、の分解経路」というタイトルのN-(2-ピラジン)カルボニル-フェニルアラニン-ロイシン ボロン酸の分解経路に関する文献であって、N-(2-ピラジン)カルボニル-フェニルアラニン-ロイシン ボロン酸を原料として別の化合物を合成して製造することについての記載は一切ない。そうしてみると、甲7発明に接した当業者が、甲7の記載から、N-(2-ピラジン)カルボニル-フェニルアラニン-ロイシン ボロン酸をD-マンニトールと反応させてD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを得ることを想到するものとすることができない。
次に、相違点2に関し、
甲7には、N-(2-ピラジン)カルボニル-フェニルアラニン-ロイシン ボロン酸を凍結乾燥処理して凍結乾燥粉末として得ることについての具体的な記載はない。
ウ 相違点1及び2に関し、請求人は、
(ア)甲7にはN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸が酸化、加水分解に不安定であることが開示されていて、その製剤化においては当該化合物の安定性を向上させることが公知の課題であったと認識できるところ、本件特許の優先日において、凍結乾燥技術は、特に液中で酸化・加水分解などにより分解を受けやすく不安定な化合物の製剤化において好適な最も重要で信頼性の高い方法であることが製剤分野における技術常識(甲15、甲21、甲24など)であり、その際には、薬剤の再構成性及び安定性を向上させるためにマンニトールを添加剤として用いて凍結乾燥を行うことは周知技術であったから、当業者は、非経口投与のためのN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の製剤化において、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の安定性を向上させるという公知の課題ないし安定性及び再構成性を有するボロン酸化合物の改良された製剤を提供するという本件発明の課題を解決するために、マンニトールを添加剤として用いて凍結乾燥を行うことに当然に動機付けられること;
(イ)調製された凍結乾燥製剤中に存在するN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸のマンニトールエステルは、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の凍結乾燥製剤の調製にあたって周知技術を適用したことにより必然的に生ずる化合物又はその集合体に過ぎないし、また、ボロン酸と糖が容易に反応してエステルを生成することは周知(甲8、甲9、甲17、甲27、甲31、甲39~46)であったこと、特に、ボロン酸であるL-p-BPAとマンニトールの混合物を凍結乾燥することで錯体(すなわち、ボロン酸の糖エステル)を形成できることが公知であったこと(甲8)に照らせば、ボロン酸であるN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とマンニトールの混合物の凍結乾燥製剤中にマンニトールエステルが生じることは特に予想外とも言えず、当該化合物又は集合体を特定することに何ら困難性もない、
旨を主張する(弁ぱく書第37頁~第44頁、平成29年12月4日付け上申書第27頁~第30頁、等)。
エ しかしながら、
(ア)凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製剤方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる賦形剤としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるものの、被請求人が主張するように、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲7発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、当該化合物の、すなわち、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の凍結乾燥物を得るために行われるものである。したがって、凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを得るためにN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸をマンニトールとともに凍結乾燥することは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできない。
(イ)a また、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸を凍結乾燥することによって、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを必然的に生ずるという技術常識があるものとは認められない。
b 次に、甲8は、“p-BORONOPHENYLALANINE COMPLEXES WITH FRUCTOSE AND RELATED CARBOHYDRATES AND POLYOLS”、すなわち「フルクトースおよび関連する炭水化物ならびにポリオールを有するp-ボロノフェニルアラニン錯体」という名称の国際公開公報であって、p-ボロノフェニルアラニンという特定の化合物に関する錯体に係るもの(錯体溶液を凍結乾燥して、錯体凍結乾燥物を得ることも記載されている)である。
甲8で得られたものはすべて「錯体」として記載されている。ここで、乙2や甲31、甲39、甲43~45によれば、当該技術分野では、ボロン酸の錯体とボロン酸エステルとは異なる化合物として理解されていて、ボロン酸の錯体が得られるのかボロン酸エステルが得られるのかは、溶液のpHによるとされている。そうしてみると、ボロン酸エステルの形成にはその液性も大きく影響することが理解できる。
c また、甲17には、ボロン酸とcis-1,2-ジオール構造を有する化合物とから環状エステルを生成することが知られているとした記載に続けて、「この反応は,水中においても室温で容易かつ速やかに進行する。また,ある種のジオール(例えばピナコール)の場合,反応は非可逆的であり,水中においても加水分解を伴わずエステル化が完全に進行することが知られている。」の記載がある。斯かる記載によれば、水中において、ボロン酸とジオールとのどのような組み併せでもエステルが形成されるというよりは、特定の組み合わせによってエステルが形成される場合があると解釈することが素直である。
また甲9にも、ボロン酸と各種の糖との複合体の形成に関するものであるが、反応に選択性があることが記載されている。
因みに、請求人も、審判請求書(第56頁~第57頁)で、「本件特許明細書の段落0086の記載と、甲第9号証の記載は、本件特許の請求項1の式(1)で表される化合物のボロン酸部位が,糖の種類によってはエステルを形成しないことを示唆するものである。」、「甲第9号証の記載を反対解釈すると、ボロン酸の糖エステルからボロン酸が遊離する性質は、糖の種類によって顕著に相違することが示唆されているものと認められる。つまり、・・・ボロン酸の糖エステルであっても、糖の種類によっては、水性媒体への溶解でボロン酸化合物を遊離する能力(再構成性)に劣り、前記課題を解決できない化合物が存在するものと推認される。」としているところである。
d また、ボロン酸の構造によってその反応性も異なるものとなることは明らかであるから、ボロン酸の構造は、ジオール化合物とのエステル形成反応にも影響を及ぼすものとすべきである。
e そうしてみると、請求人が提出する甲17、甲27、甲31、甲39~46を踏まえても、水溶液中にボロン酸と糖とを添加すると、両者が容易に反応してエステルを生成することが周知であるとまですることはできないし、ましてや、当業者が、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とマンニトールとを含む溶液には、両者によってエステルが形成されて、マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートが当然に含まれていると認識すると認めることができない。
オ さらに請求人は、甲32、甲33、甲37、甲38として実験報告書を提出して、マンニトールとN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とを含む溶液に実際にエステルが形成されていたことを実験によって確認したと主張する。これに対して被請求人は、乙12~14を挙げて、斯かる実験はマンニトールとN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とを含む溶液を正確に反映した結果ではないと反論している。
しかしながら、無効理由1は、「本件発明17、19~21、38~42、44、46は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第7号証(主引用例)に記載された発明及び本件優先日当時の周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」であるから、ここで検討すべきは、上記アの相違点1、2を当業者が周知技術から容易に想到し得るかである。そうしてみると、甲32、甲33、甲37、甲38とからマンニトールとN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とを含む溶液に実際にエステルが形成されていたことが示されたとしても、上記エ(イ)に記載したように、マンニトールとN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とを含む溶液にエステルが形成されることは周知の事項であると認められない中で、溶液中のエステルの形成を確認したことのみをもって、上記アの相違点1、2を当業者が周知技術から容易に想到し得たことを示したことにならないことは明らかである。
カ したがって、請求人の上記のウ及びオの主張を踏まえても、甲7発明に触れた当業者が、甲7発明を凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートにすることを容易に想到するものとすることができない。
キ そうしてみると、相違点1及び相違点2は、いずれも当業者が容易に想到するものとすることができないから、本件発明17の効果を検討するまでもなく、本件発明17は、甲7記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に成し得たものであるとすることができない。
(3)本件発明19、20について
請求項19、20は、請求項17を直接又は間接に引用するものである。
上記(2)のとおり、本件発明17は甲7記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものではないから、本件発明19、20も同様に、甲7記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
(4)本件発明44、46について
ア 対比
(ア)本件発明44
本件発明44と甲7発明とを対比する。(甲7発明については、上記(1)参照)
本件発明44と甲7発明とは、一致点はなく、以下の点で相違する。
相違点1
化合物が、本件発明44は、「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」であるのに対し、
甲7発明は、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸」である点
相違点2
本件発明44は、化合物に「医薬的に許容される担体」を含む「凍結乾燥粉末の形態」の「組成物」に係るものであるのに対し、
甲7発明は、形態が特定されていない化合物に係るものである点
(イ)本件発明46
本件発明46と甲7発明とを対比する。(甲7発明については、上記(1)参照)
本件発明46と甲7発明とは、一致点はなく、以下の点で相違する。
相違点1
化合物が、本件発明46は、「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」であるのに対し、
甲7発明は、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸」である点
相違点2
本件発明46は、化合物を含む「凍結乾燥されたケーキ」に係るものであるのに対し、
甲7発明は、形態が特定されていない化合物に係るものである点
イ 判断
(ア)本件発明44
凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製剤方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる賦形剤としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるものの、上記(2)エ(ア)に記載したとおり、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲7発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として、医薬的に許容される担体とともに凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、当該化合物の、すなわち、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の凍結乾燥物を得るために行われるものである。したがって、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む凍結乾燥粉末の形態の組成物を得るために、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸をマンニトール及び医薬的に許容される担体とともに凍結乾燥を行うことは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできない。
また、甲7発明とマンニトールとを混ぜて凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥混合物は、周知技術を考慮すれば当然に、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含むものと認められるわけではないことも、上記(2)エ(イ)及びオのとおりである。
(イ)本件発明46
凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製剤方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる賦形剤としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるものの、上記(2)エ(ア)に記載したとおり、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲7発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、当該化合物の、すなわち、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の凍結乾燥物を得るために行われるものである。したがって、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む凍結乾燥されたケーキを得るためにN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸をマンニトールとともに凍結乾燥を行うことは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできない。
また、甲7発明とマンニトールとを混ぜて凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥混合物は、周知技術を考慮すれば当然に、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含むものと認められるわけではないことも、上記(2)エ(イ)及びオのとおりである。
ウ したがって、本件発明44、46の効果を検討するまでもなく、本件発明44、46は、甲7記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
(5)小括
本件発明17、19、20、44、46は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第7号証(主引用例)に記載された発明及び本件優先日当時の周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
3 無効理由2(サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反(その1))及び
無効理由5(サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反(その2))
(1)判決の拘束力について
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、上記第1 4(2)の判決(平成30年(行ケ)第10158号及び平成30年(行ケ)第10113号、令和2年7月2日判決言渡)の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されるものである。
そして、上記判決では、
「2 特許請求の範囲の記載
・・・
(2) ・・・。
訂正後の請求項17の記載は,次のとおりである(以下「本件化合物発明」という。)。
・・・
(4) 「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸」を,以下「ボルテゾミブ」又は「Bz」という。」(判決書第3頁第13行~第4頁第15行)として、請求項17に係る発明を「本件化合物発明」と言い換えた上で、
「第5 裁判所の判断
1 特許権者取消事由について
・・・
(2) 本件化合物発明の課題について
本件明細書の記載によれば,本件化合物発明が解決しようとする課題は,製剤化したときに安定な医薬となり得て,また,水性媒体への溶解でボロン酸化合物を容易に遊離する組成物となり得る本件化合物(凍結乾燥粉末の形態のBME)を提供することである。そして,この課題が解決されたといえるためには,凍結乾燥粉末の状態のBMEが相当量生成したこと,並びに当該BMEが保存安定性,溶解容易性及び加水分解容易性を有することが必要であると解されるから,これらの点が,上記(1)で説示したような意味において本件明細書に記載又は示唆されているといえるかについて検討することとする。なお,ここでいう「相当量」とは,医薬として上記課題の解決手段になり得る程度の量,という意味である。
(3) 凍結乾燥粉末の状態のBMEが相当量生成したことについて
ア ・・・,本件明細書には,凍結乾燥粉末の状態のBMEが相当量生成したことが記載されていると認められる。
イ 請求人高田の主張について
・・・,請求人高田の上記主張は,上記アの判断を左右しない。
(4) 保存安定性について
ア ・・・,本件明細書には,本件化合物が,ボルテゾミブに比較して優れた保存安定性を有していることを当業者が認識し得る程度に記載されているといえる。
イ 請求人高田の主張について
・・・,請求人高田の上記主張は,上記アの判断を左右しない。
(5) 溶解容易性及び加水分解容易性について
ア ・・・本件明細書には,本件化合物がボルテゾミブに比較して優れた溶解容易性を有していることが,当業者が認識し得る程度に記載されているといえる。
・・・,すなわち本件化合物が加水分解容易性を有することを,当業者は認識し得るといえる。
・・・。
イ 請求人高田の主張について
・・・,請求人高田の上記主張は,上記アの判断を左右しない。
ウ 請求人高田の予備的主張(上記第4の1(2)イ)について
・・・,請求人高田が主張するような新たなサポート要件違反の問題は生じないといえるので,同主張は採用することができない。
(6) 技術的事項に関する各論的主張について
本件化合物発明のサポート要件充足性に関し,両当事者は別紙のとおり種々の主張をするところ,これらの主張に対する裁判所の検討結果は,別紙の右欄に記載したとおりであり,・・・,請求人高田の主張は,以上の認定を覆すに足りるものではない。」(判決書第18頁第19行~第24頁第15行)と判示した上で、
「(7) まとめ
上記(3)~(6)に検討したところによれば,本件化合物発明の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たすものというべきであり,これを否定した審決の判断は誤りである。」(判決書第24頁第16行~第19行)と判断している。
(2)本件発明17について
本件発明17は、上記判決にいう「本件化合物発明」であるので、上記判決の拘束力により、サポート要件を満たすものというべきである。
(3)本件発明19、20について
本件発明19は、本件発明17に「少なくとも1ヶ月間0℃で安定である」との発明特定事項を加えたものであり、本件発明20は、本件発明17に「少なくとも1ヶ月間40℃で安定である」との発明特定事項を加えたものである。
ここで、本件発明17が解決しようとする課題は、判決の拘束力により、上記判決の「第5 1(2)本件化合物発明の課題について」において判示されたとおりに認定されるべきであるところ、本件発明19が解決しようとする課題は、本件発明17が解決しようとする課題のうち、保存安定性の部分を「少なくとも1ヶ月間0℃で安定である」としたものであり、本件発明20が解決しようとする課題は、本件発明17が解決しようとする課題のうち、保存安定性の部分を「少なくとも1ヶ月間40℃で安定である」としたものであるといえる。
そして、本件特許明細書の【0094】~【0096】には、固体や液体のボルテゾミブは、2~8℃の低温で保存しても、3~6ヶ月超、6ヶ月超は安定ではなかったのに対して、実施例1により得られた凍結乾燥製剤(上記判決の第5 1(3)のとおり相当量のBMEを含む。)は、5℃、周辺温度、37℃、50℃で、いずれの温度でも、約18ヶ月間にわたって、薬物の喪失は無く、分解産物も産生しなかったとの試験結果が開示されている。
5℃、周辺温度、37℃、50℃のいずれの温度でも約18ヶ月間にわたって、薬物の喪失は無く、分解産物も産生しなければ、当業者は、少なくとも1ヶ月間0℃で安定であり、また、少なくとも1ヶ月間40℃で安定であると認識すると認められるから、本件発明17に「少なくとも1ヶ月間0℃で安定である」との発明特定事項を加えたものである本件発明19、本件発明17に「少なくとも1ヶ月間40℃で安定である」との発明特定事項を加えたものである本件発明20のいずれも、発明の詳細な説明の記載により当業者がその発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4)本件発明44について
本件発明44は、上記「第3 本件発明」において示したとおり、「(i)D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート、及び(ii)医薬的に許容される担体を含む、凍結乾燥粉末の形態の組成物。」の発明であり、本件発明17に「医薬的に許容される担体を含む」との発明特定事項を加えた上で凍結乾燥粉末の形態の組成物としたものである。
本件特許明細書の記載によれば、本件発明44が解決しようとする課題は、製剤化したときに安定な医薬となり得て、また、水性媒体への溶解でボロン酸化合物を容易に遊離し得る凍結乾燥粉末の形態の組成物を提供することである。
そして、本件発明17が、上記(2)に示したとおり、上記判決の拘束力により、サポート要件を満たすものというべきであるとされる以上、上記判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を基礎として、本件発明17に「医薬的に許容される担体を含む」との発明特定事項を加えた上で凍結乾燥粉末の形態の組成物とした本件発明44もまた、サポート要件を満たすものというべきである。
(5)本件発明46について
本件発明46は、上記「第3 本件発明」において示したとおり、「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む、凍結乾燥されたケーキ。」の発明であり、本件発明17を「凍結乾燥されたケーキ」としたものである。
本件特許明細書の記載によれば、本件発明46が解決しようとする課題は、製剤化したときに安定な医薬となり得て、また、水性媒体への溶解でボロン酸化合物を容易に遊離する組成物となり得る凍結乾燥されたケーキを提供することである。
そして、本件発明17が、上記(2)に示したとおり、上記判決の拘束力により、サポート要件を満たすものというべきであるとされる以上、上記判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を基礎として、本件発明17に対して「凍結乾燥されたケーキ」とした本件発明46もまた、サポート要件を満たすものというべきである。
(6)小括
本件特許請求の範囲の請求項17、20、44、46に記載された発明がサポート要件を満たしていないとすることはできない。
4 無効理由3(実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)違反)
(1)はじめに
実施可能要件の判断にあたっては、以下の観点に立って、検討する。
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と記載され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載しなければならない。」と規定している。同号は、明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を製造し、使用するための具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造し、使用することができる程度にその発明が記載されてなければならず、また、物を製造する方法の発明では、その物を製造する方法の具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
(2)請求人の主張
上記第4 1(3)に記載したとおりである。
(3)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には以下の記載がある。
ア「【0019】
「安定な製剤」とは、医薬としての利用性を有するのに十分な安定性を有する任意の製剤を意味する。製剤は、合理的な期間、好ましくは、1ヶ月超、より好ましくは3ヶ月超、より一層好ましくは6ヶ月超、最も好ましくは1年超の間、便利な温度、好ましくは0~40℃での保存を可能とするのに十分な安定性を好ましくは有する。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「ボロン酸」は、-B(OH)部分を含む任意の化学的化合物を指す。Snyderら, J. Am. Chem. Soc. 3611 (1958)は、アルキルボロン酸化合物が、ボロン酸部分の脱水によって、オリゴマー無水物を容易に形成することを教示している。従って、違っていることが文脈から明らかでなければ、用語「ボロン酸」は、遊離のボロン酸;ダイマー、トリマー、及びテトラマーを含むが、それらに限定されないオリゴマー無水物;並びにそれらの混合物を包含することが明白に意図される」(【0019】~【0020】)
イ「【0035】
本明細書で使用する用語「ウレイド」は、置換された、又は非置換の尿素部分を指す。
【0036】
第1の局面では、本発明は、式(1):
【0037】
【化7】
【0038】
(式中、
Pは水素又はアミノ基保護部分であり;
Rは水素又はアルキルであり;
Aは0、1又は2であり;
R1、R2、R3は独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、又は-CH2-R5であり;
R5は各々の場合に、アリール、アラルキル、アルカリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、又は-W-R6のうちの1つであり、ここで、Wはカルコゲンであり、R6はアルキルであり;
ここで、R1、R2、R3、又はR5のいかなるアリール、アラルキル、アルカリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、又はヘテロアリールの環部分も置換されていてもよく;そして
Z1とZ2は一緒に、糖由来の部分を形成し、ここで、各々の場合においてホウ素と結合した原子は、酸素原子である)
を有する化合物を提供する。」(【0035】~【0038】)
ウ「【0066】
本発明の第1と第2の局面に従う化合物及び組成物は、本明細書記載の方法によって、又は該化合物又は該組成物を製造するのに適した任意の方法によって調製されうる。例えば、式(1)のボロン酸エステルは、本明細書記載のように、マンニトール又はソルビトールの存在下、凍結乾燥によって対応するボロン酸から調製でき、あるいは、エステル転移反応によって別のボロン酸エステルから調製できる。あるいは、式(1)のボロン酸エステルは、合成の初期段階での糖部分の組み込みによって調製できる。」(「【0066】)
エ「【0079】
第4の局面では、本発明は、本発明の第3の局面の方法に従って調製された組成物を提供する。好適な実施態様の一部では、本発明の方法によるボロン酸の製剤化により、ボロン酸化合物の化学的誘導体の形成、好ましくはボロン酸エステルの形成が起こる。これらの実施態様では、本発明の方法によるボロン酸化合物の製剤化により、本発明の第2の局面の、ボロン酸エステル化合物を含む組成物が製造される。」(【0079】)
オ「【0081】
本発明の第2と第4の局面による組成物は、水性溶媒を加えることによって容易に再構成できる。好ましくは、再構成溶媒は、医薬投与に適している。適切な再構成溶媒の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられるが、限定されない。臨床用途のために、本発明の第2局面による組成物は好ましくは、滅菌生理食塩水(0.9%w/v)で再構成される。
【0082】
水性媒体で再構成するとき、組成物中に存在する任意のボロン酸エステルと、対応するボロン酸との間に平衡が確立される。典型的には、水の添加後素早く、例えば、10-15分以内に平衡に達する。平衡で存在するボロン酸エステルとボロン酸の相対濃度は、溶液のpH、温度、ジヒドロキシ化合物とボロン酸化合物との割合に依存する。」(【0081】~【0082】)
カ「【0084】
(実施例)
『実施例1:N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとの凍結乾燥製剤の調製』
容器に、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸 約40mgを秤量し、tert-ブタノール16mLを加えた。容器を閉め、化合物が完全に溶解するまで、懸濁液を約45℃まで5分間加温した。水(24mL)を撹拌しながら加え、次いで、添加剤としてマンニトール0.4gを加えた(1%w/v)。完全に溶解するまで、混合物を撹拌し、次いで周辺温度まで冷却した。0.45μmナイロンメンブレンで溶液を濾過した。1mLアリコートを5mL血清ボトルに入れた。割れたゴム製のストッパーを部分的にボトルに挿し込み、ボトルを、棚温度-45℃の凍結乾燥機に入れた。約1時間後、真空にした。棚温度を-35℃まで徐々に上昇し、氷がサンプルから無くなるまで(約40時間)-35℃に維持した。次いで、棚温度コントロールを切り、棚温度を0℃まで徐々に上昇させた。1.5時間に渡って、3区切りの増分で25℃まで棚温度を上昇させることによって、第2の乾燥サイクルを行なった。棚温度を25℃に2時間維持した。サンプルを窒素下密封し、凍結乾燥機から取り出した。
【0085】
3個の凍結乾燥品を使用して、サンプルの残留含水量をカール・フィシャー分析で決定した。含水量は0.88重量%であった。
【0086】
凍結乾燥品の高速原子衝撃(FAB)質量分析は、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとの間の共有結合のボロン酸エステル付加物の形成を示すm/z=531の強いシグナルを示した。グリセロールをマトリックスとして用い、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とのグリセロール付加物のシグナルは、m/z=441に観察された。しかし、m/z=441のシグナルの強度は、m/z=531のシグナルと比較して非常に小さく、このことは、D-マンニトール付加物の増大した安定性をおそらく示している。
【0087】
『実施例2:N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとの凍結乾燥製剤の生産規模での調製』
きれいな混合容器中で、必要量のtert-ブタノールを35℃に加温し、注射用水を加えることによって、97%tert-ブタノール/3%注射用水の溶液を調製した。溶液の約5%を濯ぎに使用するためにとっておいた。溶液を15-30℃に冷却し、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸を撹拌しながら加えた。容器をとっておいたtert-ブタノール/水溶液で濯ぎ、濯ぎ液を主容器に加えた。ボロン酸化合物が完全に溶解するまで、混合物を撹拌した。マンニトールを加え、残ったマンニトールは、新鮮な注射用水で反応容器中に濯ぎ入れた。合計アルコール含量を40%v/vまで減少させるために、十分な注射用水を加えた。マンニトールが完全に溶解するまで、混合物を撹拌した。0.22ミクロンフィルターで混合物を濾過した。濾過溶液のアリコートを、前もって滅菌しておいたバイアルに入れた。バイアルを凍結乾燥ストッパーで密封し、-45℃に維持した凍結乾燥機チャンバー棚に置いた。2時間後、凍結乾燥機チャンバーを脱気し、チャンバー圧力を、滅菌窒素で100-200ミクロンに調整した。適当なランプ速度を用い、凍結乾燥機チャンバー棚を-30℃まで加温し、その温度で10-15時間保った。製品熱電対の各々が-33℃以上を示した後、適当なランプ速度を用い、棚温度を7時間かけて-15℃まで調整し、その温度で5時間維持した。全ての製品熱電対が棚温度を記録した後、適当なランプ速度を用い、少なくとも7時間かけて、棚を0℃まで加温した。全ての熱電対が0℃を記録したとき、棚を27℃まで加温し、4時間その温度を保った。最後の乾燥フェーズの終わりに、滅菌窒素を用いてチャンバー圧力を戻し、バイアルを密封し、取り出した。
【0088】
『実施例3:N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の再構成』
N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとの凍結乾燥製剤を、実施例1に記載のように調製した。1サンプルを2mLの水で再構成した。振盪1-2分以内で、溶解は完全であった。溶液全体を、メスフラスコに移し、希釈し、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の含量に関しHPLCで分析した。合計薬物含量は1.09mgであった。第2のサンプルを1mLのプロピレングリコール:EtOH:H2O,40:10:50で再構成した。振盪1分で、溶解は完全であった。合計薬物含量は1.11mgであった。
【0089】
凍結乾燥製剤をまた、0.9%w/v生理食塩水で再構成した。凍結乾燥物質は、濃度6mg/mLまで容易に溶解した。それとは対照的に、固体のN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸は、濃度1mg/mLで0.9%w/v生理食塩水に可溶ではなかった。
【0090】
水性溶液中での凍結乾燥製剤の再構成の際、遊離のN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸が急速に遊離することを確かめるために、凍結乾燥製剤を希釈していないDMSOに溶解し、米国特許第5,780,454号に記載のように、20Sプロテアソームのキモトリプシン様活性の阻害に関しアッセイした。アッセイ条件下での加水分解が急速であるならば、プロテアソーム阻害のみ観察できる。観察されたKi値0.3nMは、遊離のN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸で観察されたものと等しく、これは、アッセイ条件下でのD-マンニトール付加物の完全で、急速な加水分解を示している。」(【0084】~【0090】)
キ「【0096】
凍結乾燥D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート
実施例1に従って凍結乾燥品を調製し、5℃、周辺温度、37℃、50℃で保存した。サンプルを周期的に再構成し、HPLCによってボトルの全含有量を分析することによって、安定性を約18ヶ月間モニターした。この期間にわたって、いずれの温度でも保存された凍結乾燥品中の薬物の喪失は無く、HPLCクロマトグラム中に分解産物ピークの証拠は無かった。」(【0096】)
ク「【0097】
N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の再構成溶液
実施例1に従って凍結乾燥品を調製し、サンプル(2.5mg/バイアル)を、2.5mLの0.9%w/v滅菌生理食塩水で再構成した。10秒以内に完全に溶解し、1mg/mLのN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸含有の無色透明溶液が得られた。周辺温度(23℃)で43時間保存したとき、溶液は分解の兆候を示さなかった。溶液を光から保護するのに、特別の注意は払わなかった。」(【0097】)
(4)本件発明17について
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、【0084】~【0086】の実施例1で、tert-ブタノールに溶解した約40mgのN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸に水を加えた後、添加剤として0.4gのマンニトールを加えた混合物を凍結乾燥した凍結乾燥品には、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートが含まれていたことが記載されている。
そうすると、本件特許明細書には、本件発明17の凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートについての具体的な記載があるといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明17の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。
(5)本件発明19、20について
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、【0096】で、実施例1に従って得られた凍結乾燥品を約18ヶ月間、5℃、周辺温度、37℃、50℃で保存しても、保存された凍結乾燥品中の薬物の喪失は無く、HPLCクロマトグラム中に分解産物ピークの証拠は無かったことが記載されている。斯かる記載によれば、凍結乾燥品中のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートも分解していなかったとすべきである。
請求項19、20で規定されている保存の条件は、【0096】に記載のものよりも穏やかな条件であるから、本件特許明細書には、本件発明19、20に係る凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートについての具体的な記載があるといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明19、20の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。
(6)本件発明44について
本件特許明細書の実施例1には、上記(4)に記載のとおり、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む凍結乾燥粉末の形態の組成物が記載されているといえる。実施例1では、「医薬的に許容される担体」を使用したことについての記載はないが、凍結乾燥の技術分野においては、担体を用いて凍結乾燥することは技術常識ともいえるもの(例えば、審判請求書において「医薬的に許容される担体を含む凍結乾燥製剤を製造すること、及び凍結乾燥製剤をケーキ状とすることは製剤分野における周知技術」の記載がある。)である。
そうすると、上記(4)と同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明44の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。
(7)本件発明46について
本件特許明細書の実施例1には、上記(4)に記載のとおり、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む凍結乾燥品が記載されているといえる。実施例1では、凍結乾燥品の形態についての記載はないが、凍結乾燥された製品はケーキの形態を有していることは技術常識ともいえるもの(例えば、審判請求書において「医薬的に許容される担体を含む凍結乾燥製剤を製造すること、及び凍結乾燥製剤をケーキ状とすることは製剤分野における周知技術」の記載がある。)であるから、実施例1の凍結乾燥品もケーキの形態を有しているとすべきである。
そうすると、上記(4)と同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明46の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。
(8)請求人の主張
ア 請求人は、甲19を提出して、実施例1の方法に準じた方法で調製された22P/A、22P/B及び23P/Bは、訂正発明17、19、20、44、46の技術的範囲に含まれているにも関わらず、本件発明の課題を解決できていない。それがエステル体が生成されていないことによるものならば、本件特許明細書の記載は本件発明を実施しうる程度に記載されていないことを意味する旨主張する(弁ぱく書、平成29年9月8日付け上申書)ので、以下、検討する。
イ 甲19に記載されている、22P/A、22P/B及び23P/Bについての凍結乾燥の方法を、(ア)溶媒、(イ)溶質の溶解順序、(ウ)凍結乾燥の条件に着目して整理すると、概略、以下のようである。
(ア)溶媒
サンプル022P/A及び022P/B 注射用水
サンプル023P/B 40%tert-ブタノール(t-BuOH)の注射用水溶液
(イ)溶質の溶解順序
マンニトールの注射用水溶液/40%tert-ブタノール(t-BuOH)の注射用水溶液を作成した後、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸を溶解。
(ウ)凍結乾燥
サンプルを初期棚温度を5℃とした凍結乾燥器に入れ、温度を-45℃まで徐々に下げた。約3時間後、真空にした。棚温度を-35℃まで徐々に上げ、-35℃を約40時間保持した。次に、棚温度を0℃まで徐々に上げ、0℃を約3時間保持した。25℃まで徐々に昇温することにより、2次乾燥サイクルを行い、棚温度を25℃で約2時間保持した。
ウ 一方、本件特許明細書の実施例1に示されている凍結乾燥の方法を、上記と同様に整理すると、以下のようになる。
(ア)溶媒
tert-ブタノール16mL及び水24mL
(イ)溶質の溶解順序
N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸をtert-ブタノールに溶解し、水を加えた後、マンニトールを溶解。
(ウ)凍結乾燥
サンプルを棚温度-45℃の凍結乾燥機に入れた。約1時間後、真空にした。棚温度を-35℃まで徐々に上昇し、約40時間、-35℃に維持した。次いで、棚温度を0℃まで徐々に上昇させた。1.5時間に渡って、3区切りの増分で25℃まで棚温度を上昇させることで、第2の乾燥サイクルを行い、棚温度を25℃に2時間維持した。
エ 両者の条件を比較すると、(ア)、(イ)、(ウ)はいずれも異なる点があり、甲19に記載の凍結乾燥品は、本件特許明細書の実施例1と同一の方法で得られたものとすることはできない。
すなわち、
(ア)本件特許明細書の実施例1に示されている凍結乾燥でも最終的には40%(v/v)のtert-ブタノール水溶液となっているが、甲19の023P/Bでは当初から40%tert-ブタノール(t-BuOH)の注射用水溶液を用いているのに対して、本件特許明細書の実施例1では、まずtert-ブタノールを使用した後に、水を加えている。
(イ)N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とtert-ブタノールとを溶液に溶解させる順番が異なっている。
(ウ)2次乾燥サイクルの点で異なっている。
そうしてみると、上記の(4)~(7)のように、本件特許明細書の発明の詳細な説明、特に実施例1は、当業者が本件発明17、19、20、44、46の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許明細書の実施例1に記載されているものと異なる方法によって実験が行われている甲19によって、実施可能要件を満たしていないとすることはできないので、請求人の主張を採用することはできない。
(9)小括
「発明の詳細な説明には、実施例で開示された特定の凍結乾燥条件以外の条件で製造された形態について、本件発明17、19、20、44、46を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない」という理由によって、本件発明17、19、20、44、46の特許が同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものとすることはできない。
5 無効理由4(特許法第29条第2項違反(その2))
(1)甲1発明
甲1の特許請求の範囲請求項57の記載によれば、甲1には、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
(2)本件発明17について
ア 対比
本件発明17と甲1発明とは、
「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」である点で一致し、
相違点1
本件発明17は、ボロネートエステルが「D-マンニトール」エステルであるのに対し、
甲1発明は、ボロネートエステルがD-マンニトールのエステルに特定されていない点
相違点2
本件発明17は、「凍結乾燥粉末の形態」であるのに対し、
甲1発明は、形態が特定されていない点
イ 判断
相違点1に関し、甲1で、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸のエステルとして具体的に開示されているといえるのは、ピナンジオールのエステルのみである。また、他のボロン酸とのエステルについても、具体的に開示されているといえるのは、ピナンジオールのエステル又はジエタノールアミンのエステルのみに過ぎない。さらに、甲1で、ボロン酸とエステルを形成し得るヒドロキシ化合物について具体的な例示があるのは、「ピナコール、パーフルオロピナコール、ピナンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、グリセロール又はジエタノールアミン」のみであって、D-マンニトールについては記載も示唆もない。
そして、多数のヒドロキシ化合物が存在している中で、甲1には、その中からD-マンニトールを選択する動機付けになる記載はないし、D-マンニトールを選択するような技術常識があるものとも認めることができないから、甲1発明に接した当業者が、甲1で具体的な記載があるピナンジオールのエステルの記載から、「D-マンニトール」のエステルを想到するには、格別の創意を要するものと認める。
この点に関し、請求人は、平成29年9月8日付け上申書で、甲1の特にグリセロールの記載から、「(当業者は、)「還元糖を含むヒドロキシ基を2つ以上有する、炭素数2~10の化合物であって、ボロン酸とエステルを形成し、かつ、薬学的に許容される化合物」という一定の範囲に属する化合物群を把握する」と主張するが、甲1の記載は以上のとおりであって、斯かる記載から導き出せる範囲を超えているから、斯かる主張を採用することができない。
相違点2に関し、甲1には、薬剤を凍結乾燥することの記載はあるが、甲1に、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとのエステルについて、何ら記載も示唆もない以上、そのようなエステルを凍結乾燥粉末の形態で得ることを容易に成し得るとすることができない。
また、凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製造方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる充填剤(賦形剤)としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるが、被請求人が主張するように、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲1発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸の凍結乾燥物を得るために行うものであって、凍結乾燥粉末の状態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを得るためにN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸をマンニトールとともに凍結乾燥することは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできない。
また、甲1発明とマンニトールとを混ぜて凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥混合物は、当然に凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含むものと認められないことも、上記2(2)エ(イ)のとおりである。
そうしてみると、本件発明17の効果を検討するまでもなく、本件発明17は、甲1に記載された発明と周知技術とに基づき当業者が容易に成し得たものであるとすることができない。
ウ この点に関し、請求人は、
(ア)本件発明17は、甲1発明の選択発明であるが、本件発明17の効果は不明であって、甲1発明に対して異質な効果または同質だが際立って優れた効果を有するものとできない;
(イ)凍結乾燥技術は製剤化技術の分野における周知技術である;
から、本件発明17の進歩性は否定されると主張する(弁ぱく書、平成29年9月8日付け上申書、口頭審理陳述要領書)。
エ しかしながら、
(ア)当合議体が認定した甲1発明は、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」であって、上記の相違点2がある点で、甲1発明の選択発明にはなり得ないものであるから、請求人の主張はその前提から誤っている。
この点は、甲1発明を、審判請求書で請求人が甲1に記載されている発明であるとする、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸とジヒドロキシ化合物とのエステル」であるとしても、同様である。
(イ)凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製造方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる充填剤(賦形剤)としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるが、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲1発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸の凍結乾燥物を得るために行うものである。したがって、凍結乾燥粉末の状態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを得るためにN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸をマンニトールとともに凍結乾燥することは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできないことは、上記イに記載したとおりである。
また、甲1発明とマンニトールとを混ぜて凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥混合物は、当然に凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含むものと認められないことも、上記イに記載したとおりである。
オ したがって、請求人の主張を踏まえても、本件発明17は、甲1に記載された発明と周知技術とに基づき当業者が容易に成し得たものであるとすることができない。
(3)本件発明19、20について
請求項19、20は、請求項17を直接又は間接に引用するものである。
したがって、本件発明19、20も本件発明17と同様に、甲1に記載された発明と周知技術とに基づき当業者が容易に成し得たものであるとすることができない。
(4)本件発明44について
ア 対比
本件発明44と甲1発明とを対比する。(甲1発明については、上記(1)参照)
本件発明44と甲1発明とは、一致点はなく、以下の点で相違する。
相違点1
化合物が、本件発明44は、「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」であるのに対し、
甲1発明は、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」であるが、ボロネートエステルがD-マンニトールのエステルに特定されていない点
相違点2
本件発明44は、化合物に「医薬的に許容される担体」を含む「凍結乾燥粉末の形態」の「組成物」に係るものであるのに対し、
甲1発明は、形態が特定されていない化合物に係るものである点
イ 判断
相違点1に関し、上記(2)イに記載したように、甲1発明の「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」のエステル部分をD-マンニトールのエステルにすることを想起するような事項が甲1に記載されているとすることはできない。
相違点2に関し、甲1には、薬剤を凍結乾燥することの記載はあるが、甲1に、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとのエステルについて、何ら記載も示唆もない以上、そのようなエステルを凍結乾燥粉末の形態で得ることを容易に成し得るとすることができない。
また、凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製剤方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる賦形剤としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるものの、上記2(2)エ(ア)に記載したとおり、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲1発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、当該化合物の、すなわち、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸を含む凍結乾燥物を得るために行われるものである。したがって、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む凍結乾燥粉末の形態の組成物を得るために、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸をマンニトール及び医薬的に許容される担体とともに凍結乾燥を行うことは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできない。
また、甲1発明とマンニトールとを混ぜて凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥混合物は、当然に凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含むものと認められないことも、上記2(2)エ(イ)のとおりである。
そうすると、本件発明44は、甲1に記載された発明と周知技術とに基づき当業者が容易に成し得たものであるとすることができない。
(5)本件発明46について
ア 対比
本件発明46と甲1発明とを対比する。(甲1発明については、上記(1)参照)
本件発明46と甲1発明とは、一致点はなく、以下の点で相違する。
相違点1
化合物が、本件発明46は、「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」であるのに対し、
甲1発明は、「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」であるが、ボロネートエステルがD-マンニトールのエステルに特定されていない点
相違点2
本件発明46は、化合物を含む「凍結乾燥されたケーキ」に係るものであるのに対し、
甲1発明は、形態が特定されていない化合物に係るものである点
イ 判断
相違点1に関し、上記(2)イに記載したように、甲1発明の「N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸のボロネートエステル」のエステル部分をD-マンニトールのエステルにすることを想起するような事項が甲1に記載されているとすることはできない。
相違点2に関し、甲1には、薬剤を凍結乾燥することの記載はあるが、甲1に、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸とD-マンニトールとのエステルについて、何ら記載も示唆もない以上、そのようなエステルを凍結されたケーキの形態で得ることを容易に成し得るとすることができない。
また、凍結乾燥が安定性及び溶解性の点で有利な製剤方法であることは技術常識と認められ、凍結乾燥の際に用いる賦形剤としてマンニトールを選択することも周知技術と認められるものの、上記2(2)エ(ア)に記載したとおり、凍結乾燥は化合物の性質を変えないために行われるものであることもまた技術常識であるから、仮に、甲1発明に係る化合物を、マンニトールを賦形剤として凍結乾燥したものが当業者にとって容易に想到されるとしても、その凍結乾燥は、当該化合物の、すなわち、N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸の凍結乾燥物を得るために行われるものである。したがって、D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含む凍結乾燥されたケーキを得るためにN-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロン酸をマンニトールとともに凍結乾燥を行うことは、当業者にとって容易に想到することであるとすることはできない。
また、甲1発明とマンニトールとを混ぜて凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥混合物は、当然に凍結乾燥粉末の形態のD-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネートを含むものと認められないことも、上記2(2)エ(イ)のとおりである。
そうすると、本件発明46は、甲1に記載された発明と周知技術とに基づき当業者が容易に成し得たものであるとすることができない。
(6)小括
本件発明17、19、20、44、46は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び本件優先日当時の周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
6 無効理由7(明確性要件(特許法第36条第6項第2号)違反)
特許請求の範囲の請求項17の記載は上記第3に示したとおりであるところ、請求人は、「「凍結乾燥粉末の形態」をとる化合物の分子状態は、一般に「固体」の形態をとるときと変わることはないものと思料します。」とした上で、「「固体」の形態であるという意味を越えて「凍結乾燥粉末」における、ボルテゾミブのマンニトールエステルの分子がとる特定の性状(存在状態)を特定しようとしていると考えるのが通常です。そうすると、「固体」という表現では特定できない「凍結乾燥粉末」中の化合物の分子状態(立体配座や電子状態)を特定していると解すべきであるのか、それとも、「凍結乾燥粉末」という集合体において複数の化合物の分子がとる高次構造(結晶・非晶の別、結晶であればその構造、ポーラス・ノンポーラスの別)を特定していると解すべきであるのか、不明であると言わざるをえません。」と主張するものである(平成29年9月8日付け上申書第26頁)。
しかし、同請求項の「凍結乾燥粉末」とは、凍結乾燥という製造方法によって得られた粉末を示していることは明らかであるし、「凍結乾燥粉末の形態」とは、その文言通り、凍結乾燥により得られる粉末の形態であることも明確である。この点で、同請求項の記載はいわゆるPBPクレームの「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するが、出願時の技術常識を考慮すれば、「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか」明らかであって、「凍結乾燥粉末の形態」の化合物は、単なる「固体」粉末の形態にある化合物と区別できるものであることを当業者は理解することができるものである。
そして、凍結乾燥粉末の形態にあるとされている「D-マンニトール N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシン ボロネート」も、その名称から、構造が明確なものである。
したがって、特許請求の範囲の記載は明確であって、本件発明17に係る物を十分に理解できるものであるから、本件発明17は明確でないとすることはできない。また、請求項17を引用する請求項19及び20に係る本件発明19及び20についても同様に、明確でないとすることはできない。
第6 結語
以上のとおり、本件発明17、19、20、44、46に関して、いずれの無効理由についても理由がないので、本件発明17、19、20、44、46についての特許を無効とすることはできない。
請求項1~16、18は訂正により存在しないこととなったので、請求項1~16、18に係る発明についての特許に対する無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-800096