特許無効審判
2021-800007
ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法
- 審判番号
- 2021-800007
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2016-027473
- 登録番号
- 6538584
- 請求日
- 2021年02月05日
- 審決日
- 2023年01月11日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東京窯業 株式会社
- 【請求人代理人】大矢 正代
- 【被請求人】JFEスチール 株式会社
- 【被請求人代理人】苫米地 正敏
- 【被請求人】品川リフラクトリーズ 株式会社
- 【被請求人代理人】苫米地 正敏
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 大山 健
- 審判官 見目 省二
- 分類
- P1113.121-Y (B22D) / P1113.537-Y (B22D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6538584号発明「ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第6538584号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
特許第6538584号の特許(以下「本件特許」という。)は、平成28年2月17日に出願されたものであって、令和1年6月14日に設定登録がなされ、同年7月3日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の本件無効審判における手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和3年 2月 5日 : 審判請求書の提出
同年 3月15日 : 上申書の提出(被請求人)
同年 5月28日 : 審判事件答弁書の提出
同年 8月19日付け: 審理事項通知(以下「審理事項通知1」という。)
同年 9月14日 : 口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書1」という。)の提出(請求人)
同月15日 : 口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書1」という。)の提出(被請求人)
同年 9月30日付け: 審理事項通知(以下「審理事項通知2」という。)
同年10月13日 : 口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書2」という。)の提出(請求人)
同日 : 口頭審理陳述要領書(2)(以下「被請求人陳述要領書2」という。)の提出(被請求人)
同年10月21日 : 口頭審理
同年11月10日 : 上申書(以下「請求人上申書」という。)の提出(請求人)
同月11日 : 上申書(以下「被請求人上申書」という。)の提出(被請求人)
令和4年 1月12日付け: 審尋
同年 3月 3日 : 上申書の提出(被請求人)
同月14日 : 回答書(以下「請求人回答書1」という。)の提出(請求人)
同月16日 : 上申書(2)の提出(請求人)
同年 4月13日 : 回答書(以下「被請求人回答書」という。)の提出(被請求人)
5月19日 : 上申書の提出(被請求人)
同年 6月 8日 : 回答書(2)(以下「請求人回答書2」という。)の提出(請求人)
第3 本件発明、関連する記載事項等
1 本件発明
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明7」という。また、これらを合わせて「本件発明」という場合がある。)は、本件特許の特許請求の範囲に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】
炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された、撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法において、
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)ことを特徴とするガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
【請求項2】
非酸化焼成を焼成温度400~1500℃、焼成時間1~20時間で行うことを特徴とする請求項1に記載のガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
【請求項3】
非酸化焼成を焼成温度800~1200℃で行うことを特徴とする請求項2に記載のガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
【請求項4】
製造されたガス吹き込みノズル用耐火物を構成する炭素含有耐火物の破壊エネルギーが120J/m2以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
【請求項5】
製造されたガス吹き込みノズル用耐火物を構成する炭素含有耐火物の気孔率が3%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
【請求項6】
非酸化焼成後における金属細管の炭素含有量を2.0質量%以下とすることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
【請求項7】
含浸処理において炭素含有耐火物に含浸させる有機物が、コールタールピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
2 本件発明に関連する明細書の記載事項
本件発明に関連して、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は、当審で付した。以下同様。)
「【0001】
本発明は、転炉や電気炉などにおいて、精錬効率や合金歩留まりの向上を目的として炉底などから溶湯内にガスを吹込むためのガス吹き込みノズル用の耐火物であって、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉や電気炉などでは、精錬効率や合金歩留まりの向上を目的として、炉底から撹拌ガス(通常、窒素やArなどの不活性ガス)や精錬ガスを溶湯内に吹込む、いわゆる底吹きが行われる。この底吹きの方式としては、(1)内管から脱炭を目的とした酸素を、外管から溶鋼接触部位の冷却を目的とした炭化水素ガス(プロパンなど)をそれぞれ吹込む二重管方式、(2)金属管と煉瓦の隙間にスリット状の開孔を設け、その開孔から不活性ガスを吹込む方式(スリット方式)、(3)カーボン含有煉瓦に複数本(数本~数百本)の金属細管を埋設し、煉瓦の底部からガス導入管とガス溜まりを介して不活性ガスを金属細管に供給し、この金属細管から不活性ガスを吹込む方式、などがある。
【0003】
これらのうち(1)、(2)の方式では、羽口用煉瓦を予め定法により製造し、二重管やスリットを形成する金属管の設置部分を加工したり、2分割ないし4分割とすることで金属管を設置する空間を形成し、施工時にはガスを吹き込む金属管を予めセットし、その周囲に羽口用煉瓦を施工するのが一般的である。
一方、(3)の方式で用いられるガス吹き込み用プラグ(ノズル)は、マルチプル・ホール・プラグ(以下、MHPという)と呼ばれる。例えば、特許文献1では、このMHPでは1~20倍のガス流量(0.01~0.20Nm3/min)が制御可能とされている。このため、MHPは二重管方式やスリット方式に比べて採用が容易である。
【0004】
MHPは、ガス溜まりに接続された複数本の金属細管がマグネシア-カーボン煉瓦などのカーボン含有耐火物に埋め込まれた構造であるため、その製造は、二重管方式やスリット方式のノズルとは異なり、以下のような方法が採られる。
すなわち、マグネシア原料などの骨材に鱗状黒鉛などの炭素源、ピッチや金属種、フェノール樹脂などのバインダーを加えた原料を、分散性能の高いハイスピードミキサーなどの混練手段を用いて混練し、金属細管を埋設する炭素含有耐火物を構成すべき混練物を得る。そして、この混練物の上に金属細管を敷設しながら積層状に金属細管を埋設した上で、プレス機により所定の圧力で成形を行い、その後、所定の乾燥を行う方法(金属細管は、その後、ガス溜まり用の部材に溶接で接合する)、或いは、予めガス溜まり用の部材に金属細管を溶接で接合しておき、その周囲の混練物を充填した上で、プレス機により所定の圧力で成形を行い、その後、所定の乾燥を行う方法、などによりMHPが製造される。
【0005】
底吹きノズルは炉壁などの耐火物に比べて損傷量(損耗量)が大きく、炉寿命を左右する重要な部材であるため、従来、損傷抑制のための様々な提案がなされており、MHPについても、例えば、以下のような改善が提案されている。
特許文献2では、MHPのガス吹込みノズル部分と周囲羽口を一体化させ、目地部からの先行溶損、磨耗の低減が図られている。しかし、MHPの損傷は、金属細管が埋め込まれた部分でも起こるため、この技術はあまり有効な対策とはなり得ない。
また、MHPの損傷要因の一つとして、耐火物内に埋設した金属細管の浸炭による低融点化(金属細管の先行損傷)が挙げられる。その対策として、以下のような提案がなされている。
【0006】
特許文献3には、マグカーボンなどの炭素含有耐火物に埋設されたステンレス製の金属細管の浸炭を抑制するために、金属細管表面に溶射によって酸化物層を形成することが提案されている。しかし、転炉などのように長期間使用される精錬炉(例えば2ヶ月~半年の使用期間)では、酸化物層の膜厚が十分ではなく、浸炭抑制効果が小さいという問題がある。
また、特許文献4には、金属細管の浸炭を抑制するために、金属細管と炭素含有耐火物と間に耐火性焼結体を配設することが提案されている。しかし、この技術は、浸炭の抑制効果は認められるものの、多数本の金属細管を埋設するノズルでは、金属細管の間隔が狭いため耐火性焼結体を配設することが困難であり、実用化は難しい。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、炭素含有耐火物に金属細管を埋設するタイプのガス吹きノズル(MHPなど)では、耐用性を高めるために耐火物材質や構造について種々検討がなされているが、十分な改善効果が得られていないのが現状である。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
転炉や電気炉で用いられるMHPの損傷の原因については、これまで、金属細管から勢いよくガスが吹き込まれることから、ノズル稼働面近傍での溶鋼流による溶損、磨耗が主体と考えられてきた。特許文献2の対策はこの考え方に立つものである。また、浸炭などにより金属細管が先に消耗することで、損傷が大きくなるとの考え方もあり、特許文献3や特許文献4のような手法で金属細管への浸炭を防止してきた。一方、吹錬時は不活性ガスを勢いよく吹き込むために耐火物が冷却され、吹錬時と非吹錬時の間の温度差によってスポーリング損傷するのではないかという考え方、さらには、炭素含有耐火物は600℃付近で強度が最低になるので、その部分で稼働面に亀裂が入り、損傷するのではないか、などのような様々な考え方があり、結論が出ていなかった。その結果、十分な対策が行われず、上記のように必ずしも満足する耐用性が得られていないのが現状である。
【0010】
そこで、本発明者らは、MHPの真の損傷原因を探るため、実炉で使用された使用後品(MHP)を回収し、ノズル稼働面近傍の耐火物組織について詳細に調査した。その結果、稼働面から深さ10~20mm程度の耐火物内部で500~600℃という非常に大きな温度変化が発生していることが判明し、さらにこの部位に稼働面と平行な亀裂を確認することができた。このような実炉使用後品の稼動面近傍の詳細な調査を重ねた結果から、MHPの損傷形態は、溶損や磨耗による損傷ではなく、稼働面近傍で生じている急激な温度勾配に起因した熱衝撃による損傷が主体であるとの結論が得られた。
【0011】
これまで耐熱衝撃性の考え方としては、ノズルの母材となる炭素含有耐火物そのものに亀裂を発生させないことを目的とし、材質の低弾性率化や低熱膨張化、高強度化を図るための改善が行われてきた。しかしながら、上記のように稼働面の非常に狭い範囲で急激な温度変化が生じるような条件下では、亀裂の発生自体を止めることは困難である。そこで、本発明者らは、亀裂が発生したとしても亀裂が伸展し難くすることで改善できないか検討を進め、炭素含有耐火物の破壊エネルギーについて着目した。
耐火物の破壊エネルギーは、亀裂が伸展して新しい表面が形成される際、その表面形成に必要なエネルギーとして定義される。耐火物に熱応力がかかり一定量の弾性エネルギーが蓄えられて、そのエネルギーによって亀裂が生成されるとすると、破壊エネルギーが大きいほど、亀裂が伸展しにくいことになる。
【0012】
従来、耐火物の破壊エネルギーを向上させる方法は様々検討されていて、例えば、炭素長繊維を添加することで破壊エネルギーが向上することが知られている。しかし、炭素長繊維を添加すると炭素含有耐火物の充填性が悪くなるという欠点があるため、現状では実用化されていない。そこで、比較的簡便に破壊エネルギーを向上させることができる方法について検討した。その結果、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法(以下、「非酸化焼成・有機物含浸」という場合がある)が破壊エネルギーの向上に有効であることを見出し、さらにその最適な条件を検討した。
【0013】
従来、主に炉の内張り用耐火物の耐食性や耐熱スポーリング性などの改善を目的として、耐火物を非酸化焼成・有機物含浸する技術が知られている。例えば、特許文献5では、金属Al粉末を添加したマグカーボン煉瓦を500~1000℃の非酸化性雰囲気下で焼成加熱し、その後、炭化収率25%以上の有機物を煉瓦気孔内に含浸させる処理を行い、熱間強度の向上とともに耐食性の向上を図っている。また、特許文献6では、仮焼無煙炭を0.5~10重量%添加したマグカーボン煉瓦を600~1500℃の還元雰囲気下で焼成することで、耐スラグ侵食性及び弾性率の低減による耐熱スポーリング性の改善が図られるとしている。この特許文献6では、耐スポーリング性の指標として、1400℃還元焼成後の弾性率で評価しており、弾性率が1.2×104MPa以下であることが重要であるとしている。さらに、還元焼成後にタールを含浸してもよく、この含浸により気孔の密封、強度アップ、耐消化性の向上が図られると説明されているが、実施例は記載されていない。
【0014】
以上のように、耐火物を非酸化焼成・有機物含浸する従来技術は、主に炉の内張り用耐火物の耐食性や耐熱スポーリング性の改善を目的としたものであり、本発明が狙いとする破壊エネルギー向上による亀裂の伸展抑制効果については、全く知られていない。また、ガス吹込み用の金属細管が埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物を製造するのに、非酸化焼成・有機物含浸技術を適用した例も知られていない。
【0015】
ここで、炭素含有耐火物を非酸化焼成・有機物含浸することにより破壊エネルギーが増大する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
炭素含有耐火物(煉瓦)は、一般にフェノール樹脂などをバインダーとして製造される。フェノール樹脂は、高温で熱分解され、一部が残炭し、炭素含有耐火物の結合材として機能する。しかし、その結合の程度は大きくなく、亀裂が発生すると容易に伸展するため破壊エネルギーはあまり大きくない。これに対して、非酸化焼成した後に有機物を含浸させた場合、有機物が耐火物の内部まで均等に拡散して浸透し、耐火物内のマトリックス部分や鱗状黒鉛の層間などに有機物が入り込む。これらの有機物は、ノズル使用時に加熱されることによって分解し、炭素結合が形成される。その結果、鱗状黒鉛などの炭素材料と耐火性骨材の間に緩い結合が生じ、結合の程度が高まる。その結果、亀裂が発生しても容易に伸展しにくくなる。加えて、緩い結合が生じたために適度な応力によって上述した有機物由来の炭素結合が引き剥がされ、炭素長繊維を添加した場合と同様に煉瓦組織間の架橋として働く、所謂、引き抜き性の向上効果が得られ、その結果として破壊エネルギーが増大する。
【0016】
一方、MHPの課題としては、特許文献3、4に示すように金属細管からガス吹きをする際に発生する金属細管への浸炭現象がある。金属細管への浸炭は、耐火物(煉瓦)に含まれる炭素源が実機稼働時の高温下で金属細管内に浸入することにより生じるものであり、この浸炭により金属細管が低融点化し、ノズル損傷量を増大させることが知られている。本発明では、ガス吹き込みノズル用耐火物を製造する際に、金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成・有機物含浸することにより破壊エネルギーを効果的に増大させ得ることを見出したものであるが、その非酸化焼成においても、熱処理条件によっては炭素含有耐火物由来の炭素成分が金属細管内に浸入し、浸炭に伴う細管の低融点化が起こることが判った。そこで、金属細管が埋設された炭素含有耐火物の非酸化焼成において、金属細管の浸炭による低融点化を防止するために、非酸化焼成条件(焼成温度、焼成時間)、さらには非酸化焼成後の金属細管の炭素含有量などについて詳細な検討を行い、金属細管の低融点化を抑制できる実用化可能な最適条件を見出した。
【0017】
以上のように、MHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物について、非酸化焼成・有機物含浸技術を用いて金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させることで、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができること、さらに、MHPの製造過程における金属細管へ浸炭を抑制することで、より高寿命とすることが可能となることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
・・・
【0024】
本発明では、炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、有機物の含浸処理を施すが、非酸化焼成しないと有機物の含浸ができない。基本的に炭素含有耐火物(煉瓦)は焼成工程を経ないで得られる不焼成耐火物であり、バインダーの硬化に伴い耐火物の気孔率は数%と非常に低く、不焼成品のままでは有機物を耐火物全体に含浸させることは困難である。そのため、有機物を含浸させるためには、事前に非酸化焼成が必要になる。さらに、非酸化焼成では、耐火物全体を熱処理することで、バインダーなどに由来する炭素成分が結合材として均質に生成するため、実機稼働時の受熱により耐火物組織が変化する不焼成品に対して均質な耐火物組織を得つつ、有機物を容易に含浸させることが可能となる。
【0025】
炭素含有耐火物の非酸化焼成での焼成温度(熱処理温度)は400℃以上1500℃以下が好ましい。焼成温度は400℃未満では、バインダー(通常、フェノール樹脂などの樹脂)の熱分解が十分に起こらず、非酸化焼成後の含浸処理において有機物の含浸が不十分となり、破壊エネルギーが十分に向上しない恐れがある。一方、焼成温度が1500℃を超えると、埋め込まれた金属細管が溶融したり、閉塞したりして、ガス吹き込みノズルとしてのガス吹き機能が失われる恐れがある。
【0026】
また、非酸化焼成後の含浸処理において有機物をより効果的に含浸させるには、焼成温度は800℃以上が好ましい。一方、焼成温度が1200℃を超えると、炭素含有耐火物由来の炭素成分の金属細管への浸炭により金属細管の低融点化を招く恐れがある。したがって、このような観点からは、焼成温度は1200℃以下、より望ましくは1100℃以下が好ましい。
非酸化焼成の焼成時間(保持時間)は、1~20時間とすることが好ましい。焼成時間が1時間未満では、ノズル全体の熱処理が不十分となりやすい。一方、焼成時間が20時間を超えると、焼成温度が1200℃を超える場合と同様に金属細管への浸炭が発生し、金属細管の低融点化を招く恐れがある。このような観点からより好ましい焼成時間は3~15時間である。
【0027】
本発明において炭素含有耐火物の焼成を非酸化焼成とするのは、炭素含有耐火物が本来有する耐熱スポーリング性や耐スラグ浸透性などの特性が損なわれないようにするためである。すなわち、炭素含有耐火物が含有する炭素が著しく減少するような焼成条件、例えば、酸化性の雰囲気下で高温・長時間加熱するような条件で焼成すると、炭素含有耐火物中の炭素が酸化消失し、炭素含有耐火物が有する耐熱スポーリング性や耐スラグ浸透性などの特性が失われてしまう。そこで、上記特性などが失われないように、非酸化性の条件で焼成するのである。
【0028】
非酸化焼成の条件は、炭素含有耐火物中に含まれる鱗状黒鉛などの炭素が実質的に消失しないような条件であれば特に制限はなく、例えば、還元焼成、還元雰囲気下での焼成、非酸化性雰囲気下での焼成、酸化雰囲気下での短時間焼成などが適用できる。
非酸化焼成の実施方法には特に制限はなく、常法で実施すればよい。例えば、焼成炉内に装入する台車上に煉瓦を組合せた鞘や金属製の容器を設置し、その内部に還元焼成する炭素含有耐火物(金属細管が埋設された炭素含有耐火物)をセットする。その後、炭素含有耐火物の周囲にコークスなどの炭素源を入れた後、上部に蓋をかけ、外気を遮蔽しながら、所定の温度、時間にて還元焼成(熱処理)を実施する。
・・・
【0032】
以上のような非酸化焼成工程を経た炭素含有耐火物に対して、有機物を含浸させる含浸処理を施す。
有機物の含浸処理において、含浸する有機物の残炭率は30質量%以上とする。この有機物の残炭率は、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。含浸する有機物の残炭率が30質量%未満では、残炭による耐火物組織強化の効果が小さく好ましくない。この観点から、より好ましい残炭率は35質量%以上である。
【0033】
含浸する有機物としては、コールタールピッチ(加熱溶解物)、フェノール樹脂(液状樹脂)、フラン樹脂(液状樹脂)などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができるが、そのなかでも、特にコールタールピッチが好ましい。コールタールピッチは、熱分解後の炭素が結晶化しやすいため、より破壊エネルギーの向上に寄与するためである。これに対して、フェノール樹脂は熱分解後の炭素が結晶化しにくく、グラッシーなカーボンとなりやすいため、破壊エネルギーの向上効果はコールタールピッチに比べて相対的に低い。
・・・
【0052】
【表1】
[図:0001405158000001.jpg]
【0053】
【表2】
[図:0001405158000002.jpg]
【0054】
【表3】
[図:0001405158000003.jpg]
」
3 本件発明の概要
本件発明の概要は、上記2の本件明細書の記載事項から、次のとおりと理解できる。
(1)本件発明は、転炉や電気炉などにおいて、精錬効率や合金歩留まりの向上を目的として炉底などから溶湯内にガスを吹込むためのガス吹き込みノズル用の耐火物であって、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法に関する。
(2)転炉や電気炉などでは、精錬効率や合金歩留まりの向上を目的として、炉底から撹拌ガスや精錬ガスを溶湯内に吹込む、いわゆる底吹きが行われる。この底吹きの方式としては、(1)二重管方式、(2)スリット方式、(3)カーボン含有煉瓦に複数本(数本~数百本)の金属細管を埋設し、煉瓦の底部からガス導入管とガス溜まりを介して不活性ガスを金属細管に供給し、この金属細管から不活性ガスを吹込む方式、などがあり、(3)の方式で用いられるガス吹き込み用プラグ(ノズル)は、マルチプル・ホール・プラグ(以下「MHP」という場合がある。)と呼ばれる。
底吹きノズルは炉壁などの耐火物に比べて損傷量(損耗量)が大きく、炉寿命を左右する重要な部材であるため、従来、損傷抑制のための様々な提案がなされ、耐用性を高めるために耐火物材質や構造について種々検討がなされているが、十分な改善効果が得られていないのが現状である。
本件発明の目的は、従来技術の課題を解決し、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することにある。
(3)本件の発明者らは、MHPの真の損傷原因を探るため、実炉で使用された使用後品(MHP)を回収し、ノズル稼働面近傍の耐火物組織について詳細に調査した結果、MHPの損傷形態は、溶損や磨耗による損傷ではなく、稼働面近傍で生じている急激な温度勾配に起因した熱衝撃による損傷が主体であるとの結論が得られた。
本件の発明者らは、亀裂が発生したとしても亀裂が伸展し難くすることで改善できないか検討を進め、炭素含有耐火物の破壊エネルギーについて着目した。
耐火物の破壊エネルギーは、亀裂が伸展して新しい表面が形成される際、その表面形成に必要なエネルギーとして定義されるものであり、耐火物に熱応力がかかり一定量の弾性エネルギーが蓄えられて、そのエネルギーによって亀裂が生成されるとすると、破壊エネルギーが大きいほど、亀裂が伸展しにくいことになる。
(4)比較的簡便に破壊エネルギーを向上させることができる方法について検討した結果、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法(以下「非酸化焼成・有機物含浸」という場合がある。)が破壊エネルギーの向上に有効であることを見出し、さらにその最適な条件を検討し、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることに至った。
(5)本件発明の構成により、MHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物について、非酸化焼成・有機物含浸技術を用いて金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させることで、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができることを見出した。
第4 無効理由、証拠方法及び請求人の主張の概要
1 無効理由
請求人の主張する無効理由は、以下のとおりである。
(1)特許法第29条第2項(進歩性欠如):無効理由1~10
ア 本件発明1について
(無効理由1:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである、又は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に示された技術常識及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由2:甲4発明に基づく進歩性の欠如)本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由3:甲5発明に基づく進歩性の欠如)本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由4:甲6発明に基づく進歩性の欠如)本件発明1は、甲第6号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
イ 本件発明2について
(無効理由5:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に示された技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
ウ 本件発明3について
(無効理由6:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に示された技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
エ 本件発明4について
(無効理由7:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
オ 本件発明5について
(無効理由8:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
カ 本件発明6について
(無効理由9:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に示された技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
キ 本件発明7について
(無効理由10:甲1発明に基づく進歩性の欠如)本件発明7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2)特許法36条6項1号(サポート要件違反):無効理由11~12
ア 本件発明1について
(無効理由11)本件明細書の特に段落【0025】の記載に鑑みると、非酸化焼成での焼成温度の温度条件に関して何ら規定されていない本件発明1は、段落【0008】に記載された課題を解決できる範囲を超えるものである。
イ 本件発明2について
(無効理由12)甲第7号証の図6-11によれば、転炉は溶融金属を受けた時点で1000℃を越え、吹錬が終了する(吹止め)までに、1600℃に達しており、本件発明2で規定している非酸化焼成の温度範囲は、実機稼働時の受熱によって耐火物組織が容易に変化してしまう温度範囲を含んでいることが明らかであるから、本件発明2は、課題を解決できる範囲を超えるものである。
なお、審理事項通知1においては、無効理由1-1~1-10及び無効理由2-1~2-2としたが、本審決では、当該無効理由1-1~1-10及び2-1~2-2にそれぞれ対応して番号を振り直した上で上記無効理由1~12の表記とした。
2 証拠方法
甲第1号証: 特開平11-158531号公報
甲第2号証: 特開昭57-41309号公報
甲第3号証: 耐火物技術協会編、「耐火物手帳」、改訂12版、耐火物技術協会、2015年8月31日発行、p.157-158
甲第4号証: 特開昭59-31808号公報
甲第5号証: 特開昭58-167716号公報
甲第6号証: 特開昭59-197513号公報
甲第7号証: 学校法人鉄鋼学園産業技術短期大学人材開発センター、「転炉製鋼法」、改訂3版、2刷、学校法人鉄鋼学園産業技術短期大学人材開発センター、2012年12月、p.196-197
甲第8号証-1: 特開2007-153977号公報
甲第8号証-2: 特開2007-131461号公報
甲第8号証-3: 特開2001-143973号公報
甲第8号証-4: 特開平9-157065号公報
甲第8号証-5: 特開平9-278558号公報
甲第8号証-6: 特開平8-104579号公報
甲第8号証-7: 特開平8-2979号公報
甲第8号証-8: 特開平7-57741号公報
甲第8号証-9: 特開平6-135770号公報
甲第8号証-10: 特開平6-329469号公報
甲第8号証-11: 特開平2-697号公報
甲第9号証: 耐火物技術協会編、「耐火物手帳」、改訂12版、耐火物技術協会、2015年8月31日発行、p.83-89、100-106
甲第9号証-2: 耐火物技術協会編、「耐火物手帳」、改訂12版、耐火物技術協会、2015年8月31日発行、執筆者のページ
甲第10号証: 大澤善次郎、「高分子の熱劣化」、マテリアルライフ、第8巻、第4号、1996年10月、p.165-175
甲第11号証: 「高分子大辞典」、丸善株式会社、平成6年9月20日発行、p.7
甲第12号証-1: 平成30年5月21日付け拒絶理由通知書
甲第12号証-2: 平成30年12月19日付け拒絶査定
甲第12号証-3: 平成30年7月19日提出の意見書
甲第13号証: 特許・実用新案ハンドブック 附属書D 「特許・実用新案審査基準」審判決例集(45)-10
甲第14号証: 進歩性検討会報告書(抜粋)
なお、請求人提出の甲号証について、以下では、例えば、甲第1号証を「甲1」、甲第8号証-1を「甲8-1」のように、それぞれ表記する。
3 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書、請求人陳述要領書1、請求人陳述要領書2、請求人上申書、請求人回答書1及び請求人回答書2において、総じて以下の点を主張している。
(1)特許法第29条第2項(進歩性欠如(無効理由1~10))について
・甲1発明の認定について、甲1発明における加熱処理が非酸化焼成であることは、刊行物に記載されているに等しい事項である。甲1発明では、段落【0014】で例示している樹脂(高分子)製の丸棒を、熱分解により単量体(モノマー)に分解しており、このように高分子を単量体に分解する熱分解は、酸素不存在下で進行する(甲10)。
・甲2に記載の技術的事項の認定について、甲2に開示されているのは、「大径の管(二重管)」についての技術的事項ではなく、「ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物の改善」に関する技術的事項である。
・甲2の耐火物について、甲2の特許請求の範囲には、マグネシア-カーボン煉瓦を「気体吹込羽口の周囲に使用する」と記載されており、「羽口」はガス吹込み用の金属管のことであるから、他の内張煉瓦とは区別すべきであり、ガス吹込み管を保持している「ガス吹込みノズル用耐火物」にほかならない。
・甲2の「炭化収率」と本件発明の「残炭率」について、当業者が「残炭率」と「炭化収率」とを用語として同義と解釈し得る技術的な背景(甲8-1~甲8-11)があることから、甲2における「炭化収率」の開示に接した当業者が、これを参照して「残炭率」を設定する示唆を受けることがあり得る。また、被請求人が、原審の審査過程において、引用文献2(甲2)の「炭化収率」について「残炭率」と同義であるような扱いをされたことに対し、意見書において(答弁書においても)何ら反論をしなかったのは、炭化収率が残炭率と同義と解釈され得ることを、当業者である被請求人がごく自然に受け容れていたためである。
・甲1、甲4、甲5、甲6発明の耐火物は、耐食性や寿命が必要であり、甲1、甲4、甲5、甲6発明は何れも、耐火物の耐食性、耐用性を向上させるという課題、すなわち甲2に記載の技術的事項と共通の課題を有しており、技術分野でも関連し、作用・機能においても共通しているから、組み合わせるための動機付けがある。甲2に記載の技術的事項を適用することによって技術的な利点がある場合に、コストや手間がかかることは、進歩性を肯定する要素とならない。また、「上吹きの技術分野」、「底吹きの技術分野」、「上底吹き(酸素底吹き)の技術分野」、「上底吹き(不活性ガス等の底吹き)の技術分野」のように、技術分野を細分化して捉えるべきではない。さらに、本件発明1は金属細管への浸炭が抑制できている発明ではないから、浸炭の恐れによって動機付けが否定されることはない。
・有機物の残炭率について、甲2には、「含浸材の炭化収率が低いと期待するほどの改善効果が得られないので、炭化収率は少なくとも25%以上と限定したのである。」との記載があり、この記載から、当業者は、含浸する有機物の残炭率(炭化収率)は、少なくとも25%であるが、より多ければより望ましいとの示唆を受ける。そして、含浸用の有機物として、どのようなものが入手できたかによって、実施例の設定は影響を受けるものであり、入手できた含浸用の有機物が、25%以上の範囲では30%が最小であり、25%未満の範囲では15%が最大であれば、本件明細書に示された実施例のようになり、15%の結果が望ましくなく、30%の結果を許容できると判断すれば、下限値は「30%」と設定される。残炭率が30%未満である実施例は、残炭率が15%である比較例4の一つだけであり、残炭率が25%以上30%未満の範囲にある実施例はないから、入手できた含浸用の有機物を使用した実施例のうち、許容できる効果であると判断した実施例の中で、残炭率が最小であった実施例に基づいて、本件発明は残炭率を「30%以上」と規定したに過ぎない。
また、先行技術文献に「25%以上がよい」と開示されている場合に、後願が「30%以上」と規定することに意義がある場合は、25%以上30%未満の範囲が不適であることを立証した場合であって、30%が臨界的意義を有する数値である場合に限られるが、本件明細書には、残炭率が25%以上30%未満の範囲にある実施例が一つもなく、その場合の破壊エネルギーがどの程度であったかが分からないから、残炭率を30%以上とすることによって、破壊エネルギーが顕著に大きくなったか否かを判断できない。さらに、本件発明1において、「残炭率の下限値30質量%」に臨界的意義はない。
・本件発明にとって、破壊エネルギーが有利な効果であるといえるのは、主引用発明(甲1、甲4、甲5、甲6発明)に甲2に記載の技術的事項を適用した構成が奏する効果と対比して、顕著な効果であるか否かを考慮する必要があり、主引用発明に甲2に記載の技術的事項を適用した構成も、その構成に応じた破壊エネルギーを有するものであるから、それに比べて顕著な効果でなければ、引用文献にその効果に関する記載がないとしても、単なる効果の追認に過ぎない。また、甲2は、熱衝撃による亀裂の発生や剥離による損傷の生起を課題の一つとしており、「剥離」は、亀裂が「伸展」した結果として生じる現象であるところ、熱衝撃による亀裂の伸展抑制には破壊エネルギーが関係している(破壊エネルギーが大きいほど亀裂伸展が抑制される)ことは、当業者にとっての技術常識(甲9)であるから、亀裂の伸展が抑制されていると考えられる甲2に記載の技術的事項を、主引用発明に適用するにあたり、破壊エネルギーがどの程度であるかを確認してみることは、当業者のなし得る自然な行為である。
・甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用することについて、耐火物のマトリクス内部まで含浸していくような含浸材は、仮に貫通孔内に浸入したとしても、貫通孔の内壁を構成する耐火物の内部に含浸していくはずであるから、貫通孔が含浸材によって閉塞されることはなく、甲1発明に甲2の有機物含浸を適用することに阻害要因はない。
・甲4発明に甲2に記載の技術的事項を適用することについて、甲4発明は、ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物を焼成した後でピッチ含浸するものであり、甲2は、ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後で、残炭率が25%以上の有機物で含浸するものであり、含浸させる有機物としてコールタールピッチの加熱融解物が例示されており、甲4発明と甲2に記載の技術的事項は極めて近似しているから、有機物として甲4号証のピッチに替えて、甲2号証の有機物を適用することは、当業者の普通の創作力で想到し得る。
・被請求人は、甲4発明と甲2に記載の技術的事項では、炉底部からの吹き込みガス量のレベルに圧倒的な差があり、損傷要因・機構が異なるのは、このような吹き込みガス量のレベルの圧倒的な差も影響している旨を主張しているが、実際には、吹き込みガス量のレベルに圧倒的な差などない。
(2)特許法36条6項1号(サポート要件違反(無効理由11~12))について
・本件明細書の特に段落【0025】の記載に鑑みると、非酸化焼成での焼成温度の温度条件に関して何ら規定されていない本件発明1は、段落【0008】に記載された課題を解決できる範囲を超える。
・甲7の図6-11によれば、転炉は溶融金属を受けた時点で1000℃を越え、吹錬が終了する(吹止め)までに、1600℃に達しており、本件発明2で規定している非酸化焼成の温度範囲は、実機稼働時の受熱によって耐火物組織が容易に変化してしまう温度範囲を含んでいることが明らかであるから、本件発明2は、課題を解決できる範囲を超えるものである。本件発明2の焼成温度の範囲内である400℃の焼成は、一般的な「乾燥」工程の温度とせいぜい100℃程度しか変わらず、「実機稼働時の受熱により耐火物組織が変化する不焼成品」に近いものであり、このような400℃焼成品では、本件発明の課題(「ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させる」。段落【0008】。)を解決できないし、400℃焼成品である本発明例No.2については、実機を使用した耐損耗試験(耐用性の試験の一種)の結果は示されていない。
・焼成温度も焼成時間も規定していない本件発明1が、不適な例である比較例3の焼成条件(焼成温度300℃、焼成時間5時間)を包含していることに変わりはない。
・耐火物の分野では、成形後に加熱乾燥したものを不焼成品とすることも少なくないため、加熱乾燥後の不焼成品との区別のためにも、「非酸化焼成」の意義・目的を知ろうとするのは、当業者にとって当然であり、この区別は、本件発明の特定のために必要である。
第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書、被請求人陳述要領書1、被請求人陳述要領書2、被請求人上申書及び被請求人回答書により、総じて以下の点を主張している。
(1)特許法第29条第2項(進歩性欠如(無効理由1~10))について
被請求人は、概ね、以下の点を根拠として、甲1、甲4、甲5、甲6発明に、甲2に記載の技術的事項を適用することの動機がなく、適用することを想到したとしても本件発明が容易になし得るものではない旨を主張している。
・甲2には、「炭化収率」の定義(計算式)が示されておらず、技術常識をもってしてもその定義が明らかでない以上、甲2の「炭化収率」と本件発明の「残炭率」が同義であると理解することはできない。請求人が提示した甲8-1ないし甲8-11において、「炭化収率」と同義であるとしている「残炭率」は、「JIS K6910」の測定方法によるものではなく、甲2の「炭化収率」は本件発明の「残炭率」と同義ではない。
・甲2は、羽口周囲に使用される内張煉瓦を、「900~1450℃で焼成する」ことを基本とする発明であり、有機物の含浸処理は、その焼成後に付加的(選択的)に行われるものであるところ、甲1、甲4、甲5、甲6発明が対象とする「金属細管が埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物」は、甲2の内張煉瓦(すなわち、炉の鉄皮を保護するための炉体構成部材)ではなく、「ガス吹き込み手段」であって、炉体を保護する部材として機能するようなものではなく、特に過酷な使用条件で使用される部材でもないから、甲2の羽口周囲で使用される内張煉瓦のように、含浸処理により耐火物の圧縮強度および曲げ強さを高めて耐食性を向上させたいという事情や課題も存在しないから、甲1、甲4、甲5、甲6発明に、甲2に記載の技術的事項を適用する動機がない。
・本件発明は、MHPの損傷に関する「新規な課題」、すなわち、MHPの損傷形態は、溶損や磨耗による損傷ではなく、稼働面近傍で生じている急激な温度勾配に起因した熱衝撃による損傷が主体であることを知見し、この課題を解決するには「破壊エネルギー」を大きくすることが有効であり、「破壊エネルギー」を大きくするにはMHPを特定の条件で非酸化焼成-有機物含浸することが有効であるという事実を見出しなされたものであり、このような新規な課題を知見し、その解決手段を見出したことが、非酸化焼成-有機物含浸を適用する「特別な動機」となったものであり、甲2に示されるような「内張煉瓦」の耐食性を向上させるという従来技術の延長上にあるのではない。
・本件発明によれば、「ガス吹き込みノズル用耐火物の破壊エネルギーが高められることにより熱衝撃による損傷(亀裂の伸展)が抑えられる」という、甲1、甲4、甲5、甲6発明及び甲2には開示も示唆もない有利な効果が得られる。
・本件明細書の段落【0016】に記載のとおり、MHPを高温焼成すると、炭素含有耐火物由来の炭素成分が金属細管内に浸入し、浸炭に伴う金属細管の低融点化が起こり、ノズル損傷量を増大させる危険があり、したがって、あえてそのような危険を冒してまで、高温焼成(900~1450℃)を行う甲2の技術的事項を、甲1、甲4、甲5、甲6発明のMHPに適用する動機となり得る事情や課題は存在しない。
・甲1発明に甲2の有機物含浸を適用することについて、コールタールピッチやフェノール樹脂等のような含浸材(液体)は粘性が高く、このような粘性が高い液体は、圧力をかけなければ細孔(微細な空隙)内に浸み込ませる(含浸させる)ことはできないから、甲1発明において一旦貫通孔内に浸入した含浸材(粘性の高い液体)は、貫通孔内壁の細孔(微細な空隙)に浸み込んでいくようなことはなく、その貫通孔内に留まって貫通孔を閉塞することになるから、甲1発明に甲2の有機物含浸を適用することには明らかな阻害要因がある。
・甲1発明のガス吹き込み用耐火物の「貫通孔」は、埋設した樹脂丸棒を加熱処理で「焼失」させて形成されるものであり、酸化雰囲気で加熱処理することは明らかである。また、ポリメタクリル酸メチルの単量体収率が高いからといって、酸化雰囲気での「焼失」を生じないという訳ではない。
・酸素を吹き込む羽口及びその周囲の内張煉瓦(甲2)と、酸素を吹き込まないMHP(甲4等)は、使用条件(苛酷さの度合い)が大きく異なり、損傷要因及び機構が異質なものである。
・仮に、甲1、甲4、甲5、甲6発明に甲2に記載された技術事項を適用できるとした場合であって、かつ、甲2に記載された有機物の「炭化収率」が本件発明の「残炭率」と同義であるとした場合であっても、残炭率の高い有機物は粘度が大きく、そのため微細な空隙まで含浸するためには、残炭率の高い有機物ほど高い加圧力で含浸処理を行う必要があるところ、設備能力や設備コストなどの面で加圧力を高めるのには限界があり、有機物の残炭率が高すぎると処理効率も低下することから、残炭率を非常に高い値とすることはできない。そして、甲2は、特に過酷な使用条件になる羽口周囲(二重管羽口などの気体吹込羽口の周囲)に使用される内張煉瓦のみを含浸処理の対象としており、そのこと自体が、過酷な使用条件の耐火物でなければ含浸処理を行わないことを黙示的に示している。
(2)特許法36条6項1号(サポート要件違反(無効理由11~12))について
・本件明細書の段落【0025】~【0026】の説明及び実施例の結果、さらには技術常識からして、適正な焼成条件は温度と時間の相対的な関係で決まり、本件発明において焼成温度400~1500℃が絶対的に必要な温度範囲でないことは明らかである。例えば、本発明例No.4は焼成条件400℃×5時間で破壊エネルギーが120J/m2となっているが、本発明例No.1、7~10をみると、焼成温度が1000℃で一定でも焼成時間が長いほど破壊エネルギーは高くなっており、これらの結果に照らせば、焼成温度が400℃未満であっても十分な焼成時間(例えば15時間以上)をとれば、破壊エネルギーが120J/m2に以上なることは容易に理解できる。また、炭素含有量によって鋼の融点が異なることは技術常識であるから、焼成温度が1500℃超であっても、金属細管の炭素含有量によっては金属細管が溶融するなどの問題を生じない場合があることも明らかである。
第6 当審の判断
1 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明等
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶融金属精錬時などにおいて、溶融金属内にガスを吹き込むために用いられる、耐熱性、耐用性に富み、通気性及び流量制御性に優れたガス吹き込み用装置に関する。
・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来の製造法における問題点を解消するもので、耐熱性、耐用性に富み、通気性、流量制御性さらにはシール性に優れ、高い信頼性と耐用性を有するガス吹き込み用装置を安価に提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、ガス吹き込み用耐火物の耐火物ブロックの成形時に金属係止部品を耐火物ブロックに付帯させ、この金属係止部品と風箱を溶接することにより耐火物ブロックと風箱を固定結合し、かつ風箱と耐火物の接触部を耐熱性シール剤によってシールすることにより、優れた性能を有するガス吹き込み用装置が簡便な工程により得られることを見い出して、その課題を達成した。
【0007】本願発明のガス吹き込み用装置は、全貫通孔数の80%以上が、耐火物そのものに直接形成された貫通孔であり、残りが金属パイプで構成される貫通孔とした。本願発明のガス吹き込み用装置は、複数の貫通孔を有するガス吹き込み用耐火物の一方の端部に金属製の風箱を有するガス吹き込み用装置であって、全貫通孔数のうち、金属パイプで構成される貫通孔数が20%以下であり、その耐火物下部に当接する風箱に当該金属パイプを溶接することによって、風箱を耐火物に固定結合し、かつ風箱と耐火物の接触部に耐熱性シール剤を塗布することによって製造できる。
【0008】本願発明のガス吹き込み用装置のガス吹き込み耐火物は、耐火物に直接形成された貫通孔が、耐火物組成坏土中にメタクリル酸メチル系高分子とその誘導体とから成る樹脂を埋設し、成形後、加熱処理によってその樹脂を焼失させて得られる。
【0009】このガス吹き込み用耐火物としては、500~1000℃の加熱処理温度で樹脂を焼失させたカーボン含有耐火物が使用できる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明にいう金属係止部品としては、耐火物ブロック成形時に加圧成形面に耐火物ブロック内部側へツメやリペットの様なアンカー効果を有する突起物を付帯せしめた金属板でも良いし、貫通孔形成のために成形時に埋め込まれた金属パイプを利用することもできる。また単に金属棒の様な部品を耐火物ブロック中の適当な部位に同時成形しても良い。
・・・
【0013】また、耐火物に形成される貫通孔のうちの80%以上を耐火物そのものに直接形成された貫通孔とし、残部を耐火物成形時に金属パイプを埋設して得られる貫通孔とすることで、より耐用性に富み、経済性に優れたガス吹き込み用装置を得ることができる。
・・・
【0025】実施例3
図3に示すガス吹き込み用装置30を以下の要領で製造した。同図に示す符号は、図1の場合と同じである。
【0026】(貫通孔と金属パイプを有するガス吹き込み用耐火物の製造)天然黒鉛17%と焼結マグネシア原料78%及び金属アルミニウム3%と金属シリコン2%からなる混合物に液状のフェノールレジン約3%を添加しつつ加圧ミキサーにより混練してマグネシア・カーボン質耐火物坏土を調製する。150mm×520mmサイズの成形金枠に予め定められた分量の当該耐火物坏土を投入後、外径3mm/内径1mm×520mm長さのSUS304製パイプ3を50mm間隔で3本、成形金枠の500mm長さ方向と平行に設置する。その後定められた分量を上面を均しながら投入し、直径1mm/長さ500mmのメタクリル酸メチル樹脂製丸棒(分解温度Td=330℃、単量体収率95%)を10mmピッチで9本ずつ成形金枠の520mm長さ方向と平行に配列し、埋設する。これを4層繰り返して5層目に、メタクリル酸メチル樹脂製丸棒9本に加え、その両外側10mmの位置にSUSパイプ3を2本配列、埋設する。更に、6層から9層までメタクリル酸メチル樹脂丸棒を9本ずつ配列、埋設した後、最後の10層目に再びSUSパイプ3を50mm間隔で3本配列、埋設する。所定量の耐火物坏土を投入後に、上方から1.5ton/cm2の圧力により成形して概寸200mm×200mm×520mmの成形体を得る。この成形体を150℃にてフェノール樹脂の硬化処理を行った後、500mm長さ方向の両端を約10mm切断して埋設したメタクリル酸メチル樹脂製丸棒とSUSパイブの端部を露出させた後、コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理を行った。その結果、煉瓦母材中に直接形成された直径1mmの貫通孔4(9層×9列=81個)と、これを囲む外側に外径3mm、内径1mmのSUSパイプ3を8本備えたキレツ及びクラックの無いガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物を得る。また、煉瓦母材に直接形成された貫通孔全てにピアノ線を通したところ、全てが屈曲のない直線状の貫通孔であることが確認された。
・・・
【0027】以上により得られたガス吹き込み用装置のガス吹き込みパイプから背圧5Kg/cm2にてN2ガスを吹き込んだところ、出口側より流量600NL/min.のN2ガスの流出が認められ、良好な通気性を有することが実証された。また、出口側のパイプと貫通孔を塞いで圧縮空気を吹き込んだ際にも接着剤によるシール部からのリークは認められなかった。更に、当該溶融金属用ガス吹き込み装置を、100tonの溶鋼を滞留する容器の側壁に設置し、初期背圧5Kg/cm2にて流量600NL/min.のN2ガスを10時間流したところ、ガスリークや流通異常に起因する背圧上昇及び流量の低下は殆ど無く、また耐火物の損耗も軽微であり、安定した耐用を示すことが確認された。」
「【図3】
[図:0001405158000004.jpg]
」
(2)甲1から理解できる事項
ア 上記段落【0025】の「実施例3」について、「その結果、煉瓦母材中に直接形成された直径1mmの貫通孔4(9層×9列=81個)と、これを囲む外側に外径3mm、内径1mmのSUSパイプ3を8本備えたキレツ及びクラックの無いガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物を得る。」との記載から、製造されたガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物は、SUSパイプ3の本数に比して貫通孔4の本数が多く、さらに、段落【0027】の「N2ガスを吹き込んだところ、出口側より流量600NL/min.のN2ガスの流出が認められ、良好な通気性を有することが実証された。」との記載から、耐火物は通気性が要求されており、その貫通孔4の閉塞は避ける必要があることは理解できる。
イ 上記段落【0025】の「実施例3」について、「コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理を行った。」との記載から、SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物坏土に対して、コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理を行ったことは理解できるものの、該加熱処理が、「非酸化焼成」又は「酸化焼成」のいずれであるかについては記載はない。
(3)甲1発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「マグネシア・カーボン質耐火物にガス吹込み用のSUSパイプ3が複数本埋設されるとともに貰通孔4が複数形成された、
N2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物の製造方法において、
SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物杯土を、コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理して、メタクリル酸メチル樹脂製丸棒を焼失して得た貫通孔4とSUSパイプ3を備えたマグネシア・カーボン質耐火物を得る、
ガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物の製造方法。」
2 甲4の記載事項及び甲4に記載された発明等
(1)甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
酸素を上吹きすることにより溶鋼を精錬する容器において、溶鋼面下に径が0.1~3.0mmの細孔を30~100個有しその化学成分がC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する耐火物より一体成形されたマルテイホールプラグを1又は2以上配置したことを特徴とする製鋼用攪拌容器。」(1頁左下欄4~11行)
「第2図は本発明の製鋼用攪拌容器に設置するマルテイプルホールプラグ(以下MHPと称呼する)の一例であり、・・・(1)は一体成形された耐火物であり、(2)は貫通孔であって例えば1.3mmφステンレス管を埋込んで一体成形された耐火物を金属製カバー(3)でカバーしたものである。」(2頁右上欄10~17行)
「又、ノズル耐火物の原料として用いられるものを次に示す。
〔酸化物〕MgO,・・・
〔炭素及び炭化物〕C,・・・
・・・
上記の配合物を主成分とする不焼成品又は焼成品及び焼成後ピッチ含浸したものを本発明の対象としており、この場合の耐火物の製造方法は通常の方法によるものとする。」(2頁左下欄14行~右下欄4行)
「
[図:0001405158000005.jpg]
」(3頁左上欄)
「又、本発明の耐火物は化学成分を限定したことから、耐スポーリング製、耐摩耗性、強度等の面で優れており耐用寿命が著しく延長される。」(3頁左下欄2~5行)
「
[図:0001405158000006.jpg]
」(第2図)
(2)甲4から理解できる事項
ア 第1表から、甲4の耐火物は、CO2、N2、Arを吹込ガスとすることが理解できる。
イ 上記「上記の配合物を主成分とする・・・焼成後ピッチ含浸したものを本発明の対象としており」との記載から、配合物を、焼成した後、ピッチ含浸することが記載されており、焼成及びピッチ含浸を繰り返すことの記載がないことや、焼成することにより物性が変化してしまうことに鑑みれば、焼成及びピッチ含浸は1回のみ行われるものであると解される。
(3)甲4発明
上記(1)及び(2)から、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「化学成分がC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する耐火物にステンレス管の細管が複数本埋設された、
CO2、N2、Arを吹込ガスとする細管を多数有する一体成形された耐火物の製造方法において、
細管が埋設されたC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する配合物を焼成した後、ピッチ含浸する(但し、前記焼成及びピッチ含浸は1回のみ行う)
細管を多数有する一体成形された耐火物の製造方法。」
3 甲5の記載事項及び甲5に記載された発明等
(1)甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
(1)連続ガス吹込みができる定置式溶融金属容器に設置し、容器内の溶融金属にガスを吹込む耐火物製ノズルであり、該ノズルにはガスを通過せしめるための多数の細孔管が設けられていることを特徴とするガス吹込用ノズル。
・・・
(6)予め混練された耐火物材料に細孔管を配置しフリクションスクリュープレスにより成形し、焼成することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のガス吹込用ノズルの製造法。」(1頁左下欄4行~右下欄4行)
「次に、本発明のガス吹込用ノズルを図に基づいて説明する。第7-1図、第7-2図において、符号(6)は非多孔質耐火物からなるノズルであり、(5)はガスを通過せしめるため該耐火物製ノズルに設けられた多数の細孔管であって、ステンレス等の耐熱性鋼管からなる。」(2頁左下欄13~18行)
「一方、アイソスタテイックプレスは、最大1.5ton/cm3程度の成形機であるが、耐火物の組成としてMgO80(重量)%、C20(重量)%のものを1500mm長さのノズルとし、耐火物中に細孔管を点在配置したものを成形したところ、極めて嵩密度の小さいものが得られた。」(3頁右上欄6~11行)
「
[図:0001405158000007.jpg]
」(第7-1図)
「
[図:0001405158000008.jpg]
」(第7-2図)
(2)甲5発明
上記(1)から、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成がMgO80(重量)%、C20(重量)%である耐火物にガス吹込み用のステンレス等の耐熱性鋼管からなる細孔管5が複数本埋設された、
ガス吹込用ノズルの製造方法において、
細孔管5が埋設された耐火物材料を焼成した
ガス吹込用ノズルの製造方法。」
4 甲6の記載事項及び甲6に記載された発明等
(1)甲6の記載事項
甲6には、次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
1 羽口耐火物ブロック中に複数本の細管を有し、この細管が風箱に接合されているガス吹込み装置において、耐火物中に複数本の細管が一体強固に固定された羽口耐火物ブロックの一面に突出せしめた複数本の細管の端面を、風箱の上板の上面に直接転写して穴開け加工し、この穴に上記突出細管を挿入して固定してのち、風箱の上板と下板を接合することを特徴とするガス吹込み装置の製作方法。」(1頁左下欄4~14行)
「本発明は、転炉等における溶融金属中にガスを吹込むために用いる溶融金属容器用ガス吹込み装置の製作法に関する。
・・・溶融金属容器用ガス吹込ノズルにより、溶融金属中へ不活性ガスを吹込むことが知られている。」(1頁右下欄1~9行)
「第1図(ア)において、1はノズル耐火物ブロックで、耐火物2内に多数本の細管3(例えばSUS製)が貫通して埋設されている。このノズル耐火物ブロック1は、非多孔質耐火物2内に多数本の細管3を配して加圧成型して作ったもので、耐火物2と細管3とは強固に一体結合されている。このノズル耐火物ブロック1は、常法により加熱硬化するか、或いは焼成する。」(2頁左下欄8~15行)
(2)甲6発明
上記(1)から、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「ノズル耐火物ブロック1にSUS製の細管3が多数本埋設された、
不活性ガスを吹込むノズル耐火物ブロック1の製造方法において、
細管3が埋設された耐火物2を焼成した
ノズル耐火物ブロック1の製造方法。」
5 その他の甲号証に記載の技術的事項
(1)甲2に記載の技術的事項
ア 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
1 マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で焼成したマグネシア-カーボン煉瓦を気体吹込羽口の周囲に使用したことを特徴とする気体吹込羽口を有する精錬容器。
2 マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で焼成した後、加熱による炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させたマグネシア-カーボン煉瓦を気体吹込羽口の周囲に使用したことを特徴とする気体吹込羽口を有する精錬容器。」(1頁左下欄4~16行)
「本発明は焼成したマグネシア-カーボン煉瓦あるいは前記煉瓦を焼成した後有機物を含浸処理したマグネシア-カーボン煉瓦を気体吹込み羽口の周囲に使用した精錬容器に関する。
気体吹込羽口を有する精錬容器として用いられているものは、Q-BOPのような底吹転炉、LD-OB,LD-ABといった上底吹転炉、AODのような横吹転炉、RH-OBのような酸素羽口を有する真空脱ガス装置等がある。これらの精錬容器の羽口周辺部の内張耐火物は使用条件が極めて苛酷であるため損傷が著しい。
羽口は通常二重の金属製管で構成されており、吹錬時は内管から酸素、外管から炭化水素あるいはアルゴン窒素等の不活性ガスを溶融金属中に吹込んでいる。このように羽口周囲の内張耐火物には吹錬中は酸素と溶鋼の接触によって生じるホットスポットによる高熱と、炭化水素、不活性ガスによる冷却作用によって生じる激しい温度勾配あるいは非吹錬時の不活性ガスの吹込による熱衝撃が加えられ、亀裂の発生や剥離による損傷を生起する。
さらには吹込気体による激しい溶鋼の摩耗作用および衝撃作用による損傷も著しい。」(1頁左下欄下から3行~右下欄末行)
「その原因を追究したところ前記不焼成マグネジア-カーボン煉瓦は400~700℃間の低温域でクリープ変形を示し、これが前記煉瓦の損傷を促進することが分った。それ故前記煉瓦で容器を内張し、昇温していくと内張煉瓦の熱膨脹がクリープ変形によって吸収される。また容器の温度を高温に維持する場合には問題はないが温度が低下してくると内張煉瓦間に目地開きが生じ、目地が開くと目地溶損を惹起する。
さらに熱応力によって亀裂が発生した際には周囲の煉瓦と接触していないため溶鋼の摩粍作用および衝撃が加えられて容器に剥離現象を呈する。
この対策として種々検討を重ねた結果マグネシア-カーボン煉瓦を900~1450℃間で焼成し、添加している有機質結合剤を炭化させることによってクリープ変形が全く起らなくなることを見出し、本発明を完成させたのである。」(2頁左上欄7行~右上欄3行)
「原料のマグネシア-カーボンに前記の有機結合剤を添加混合し、混練成形した後カーボンが酸化されない雰囲気中で900~1450℃間で焼成することによって結合材を炭化させる。」(2頁左下欄13~16行)
「第2の発明は前記したマグネシア-カーボン煉瓦に炭化収率25%以上の有機物を含浸処理させたところである。含浸材としてはコールタールピッチの加熱溶解物、レゾール型の液状フェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂をメタノールあるいはエチレングリコールといった溶媒に溶解したものを真空含浸装置を用いて含浸処理する。
またフラン樹脂に重合触媒としてトルエンスルホン酸エステル、ペンゼンスルホン霰エステル、塩化アルミニウム等を添加したものを含浸した後熱処理して樹脂を硬化させることによって圧縮強さおよび曲げ強さを一段と高めて耐食性を向上させた。
以上のような含浸材の含浸処理によって焼成マグネシア-カーボン煉瓦の曲げ強さをさらに高めて耐食性を大巾に向上させ得る。
この場合に含浸材の炭化収率が低いと期待するほどの改善効果が得られないので炭化収率は少くとも25%以上と限定したのである。
このようにして得られたマグネシア-カーボン煉瓦を気体吹込み羽口の周囲に使用することによって、従来の不焼成マグネシア-カーボン煉瓦のクリープ変形の生起もなく、内張煉瓦間の目地溶損が少く、従って内張煉瓦の耐食性を著しく改善し、精錬容器の連続操業期間を大巾に延長できる等の効果を奏する。」(2頁右下欄15行~3頁左上欄末行)
「
[図:0001405158000009.jpg]
」(4頁上欄)
イ 甲2から理解できる事項
(ア)上記「原料のマグネシア-カーボンに前記の有機結合剤を添加混合し、混練成形した後カーボンが酸化されない雰囲気中で900~1450℃間で焼成することによって結合材を炭化させる。」との記載から、「カーボンが酸化されない雰囲気中で900~1450℃間で焼成」とは「非酸化焼成」であることが理解できる。
(イ)甲2には、焼成(非酸化焼成)及び含浸を複数回行うことは記載されていないこと及び焼成することにより物性が変化してしまうことに鑑みれば、甲2において、900~1450℃間で非酸化焼成した後、加熱による炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させることは、1回のみ行われていると解される。
ウ 甲2に記載の技術的事項
上記ア及びイから、甲2には、次の技術的事項(以下「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲2に記載の技術的事項>
「気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシア-カーボン煉瓦の製造方法において、
マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で非酸化焼成した後、炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させて(但し、前記非酸化焼成及び含浸は1回のみ行う)、マグネシア-カーボン煉瓦を製造することで、クリープ変形を防ぎ、曲げ強さ及び耐食性を高めること。」
(2)甲3に記載の技術的事項
甲3には、次の事項が記載されている。
「1)用途と特徴
マグネシア-カーボン質(以下、MgO-Cと略記)煉瓦は・・・1970年代に電気炉ホットスポットで適用され、その優れた耐用性が顕在化して以降、用途、使用量は急速に拡大し、現在では多くの精錬容器における製鋼用耐火物として汎く適用されている。
転炉、電気炉はもとより、・・・適用が拡大されている。・・・
・・・高い耐食性、耐スポーリング性、スラグ浸潤抑制能を有している。」(157頁左欄4~28行)
「(4)焼成、含浸
ほとんどが不焼成煉瓦として製品化されるが、ごく一部の大型煉瓦などは800℃から1200℃程度の還元雰囲気下で焼成して製品化される場合がある。また焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多い。」(158頁左欄5~10行)
「(1)酸化
煉瓦中の炭素成分が酸化消失する現象で、カーボン含有耐火物では常に想定される損傷要因であり、その酸化部はスラグ浸潤により容易に損傷していく。」(158頁左欄23~27行)
以上から、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲3に記載の技術的事項>
「製鋼用耐火物として用いられる、マグネシア-カーボン質煉瓦を、800℃から1200℃程度の還元雰囲気下で焼成し、焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸すること。」
(3)甲7に記載の技術的事項
甲7には、次の事項が記載されている。
「図6-10のように炉体に孔をあけ保護管つきの熱電対を挿入して、連続して鋼浴温度を測定しようとするものである。その結果の一例を図6-11に示す。」(197頁9~13行)
「 図6-11
[図:0001405158000010.jpg]
」
6 無効理由1(甲1発明に基づく進歩性の欠如)について
(1)対比
甲1発明は上記1(3)のとおりである。甲1発明と本件発明1とを以下に対比する。
本件発明1の「炭素含有耐火物」は、焼成前後のいずれも表すところ、甲1発明の「マグネシア・カーボン質耐火物」及び「マグネシア・カーボン質耐火物杯土」は本件発明1の「炭素含有耐火物」に相当し、以下同様に、「ガス吹込み用のSUSパイプ3」は「ガス吹込み用の金属細管」に、「N2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物」は「撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物」に、「ガス吹き込み用マグネシア・カーボン質耐火物」は「ガス吹き込みノズル用耐火物」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「マグネシア・カーボン質耐火物にガス吹込み用のSUSパイプ3が複数本埋設されるとともに貰通孔4が複数形成された」ことと、本件発明1の「炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された」こととは、「炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された」ことである限りで共通する。
さらに、甲1発明の「SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物杯土」は、本件発明1の「金属細管が埋設された炭素含有耐火物」と、「金属細管が埋設された炭素含有耐火物」である限りで共通する。
さらに、甲1発明の「コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理して、メタクリル酸メチル樹脂製丸棒を焼失して得た貫通孔4とSUSパイプ3を備えたマグネシア・カーボン質耐火物を得る」ことは、本件発明1の「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」ことと、「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を加熱処理した」限りで共通する。
上記相当関係に鑑みると、本件発明1と、甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された、撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法において、
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を加熱処理したガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
<相違点1>
本件発明1は、「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成」するものであるのに対し、甲1発明は、SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が複数本埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物坏土を、コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理して、メタクリル酸メチル樹脂製丸棒を焼失して得た貫通孔4とSUSパイプ3を備えたマグネシア・カーボン質耐火物を得るものであって、非酸化焼成をするものであるかは不明である点。
<相違点2>
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成(又は加熱処理)した後に、本件発明1は、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」のに対し、甲1発明は、有機物の含浸処理を施すことについて不明である点。
なお、被請求人は、甲1の請求項3、段落【0008】、【0009】の記載等から、樹脂を消失させるということは燃焼させて消失させること、すなわち、「酸化焼成」することに他ならない旨を主張するが、甲1には、耐火物組成坏土を酸化焼成することの明記はないことから、甲1発明を、上記1(3)のとおり認定するとともに、相違点を上記相違点1のとおり認定した。
また、相違点1に係る本件発明1の「非酸化焼成」及び相違点2に係る本件発明1の「有機物を含浸させる含浸処理」に関して、被請求人は、「非酸化焼成」は有機物含浸の前処理として行うものであり(本件明細書の段落【0024】等)、「非酸化焼成-有機物含浸」はワンセットの処理である旨(例えば、被請求人回答書2頁等)を主張するが、「非酸化焼成」について、本件明細書の段落【0024】には「有機物を含浸させるためには、事前に非酸化焼成が必要になる。」と記載されている一方、段落【0027】に、「本発明において炭素含有耐火物の焼成を非酸化焼成とするのは、炭素含有耐火物が本来有する耐熱スポーリング性や耐スラグ浸透性などの特性が損なわれないようにするためである。」とも記載されていることに鑑みれば、「非酸化焼成」が、必ずしも有機物含浸を行うための前処理としてのみ行われるものということはできないから、「非酸化焼成-有機物含浸」でワンセットの処理である旨の被請求人の主張は採用せず、上記のとおり相違点1、2を認定した。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点2から検討する。
上記5(1)ウのとおり、甲2には、「気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシア-カーボン煉瓦の製造方法において、マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で非酸化焼成した後、炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させて(但し、前記非酸化焼成及び含浸は1回のみ行う)、マグネシア-カーボン煉瓦を製造することで、クリープ変形を防ぎ、曲げ強さ及び耐食性を高めること。」との技術的事項が開示されている。
しかしながら、甲1発明は、SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が複数本埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物坏土を、コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理して、メタクリル酸メチル樹脂製丸棒を焼失して得た貫通孔4とSUSパイプ3を備えたマグネシア・カーボン質耐火物を得るものであって、製造されたマグネシア・カーボン質耐火物がSUSパイプ3以外に貫通孔4を備えることが必須の要件であり、該貫通孔4は煉瓦母材中に直接形成される直径が1mmのもの(甲1の段落【0026】)であるところ、この貫通孔4はガス吹き込みに用いるもの(甲1の段落【0007】等)であるから、マグネシア・カーボン質耐火物が完成品となって使用される際に閉塞されていないことが必要であることは理解できる(上記1(2)アを参照。)。このような甲1発明の貫通孔4が形成されたマグネシア・カーボン質耐火物に対し、仮に甲2に記載の技術的事項を適用することが動機付けられるとしても、甲2に記載の技術的事項のように有機物を含浸する処理をすれば、貫通孔4が有機物によって閉塞され、又は狭窄を生じ、貫通孔としての機能が損なわれ、又は機能の低下が生じる恐れがあることは明らかであるから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用することが、当業者にとって容易になし得るものとはいえない。
また、仮に、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用することが容易に想到できるとした場合についても、以下に検討する。
甲2には、「炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させ」ることが記載されているところ、この炭化収率が如何なる定義のものであり、どのような測定方法による値であるかについては記載がない。
一方、本件明細書の段落【0032】に、「有機物の含浸処理において、含浸する有機物の残炭率は30質量%以上とする。この有機物の残炭率は、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。」と、本件発明における「残炭率」の定義について記載があるから、本件発明における有機物の「残炭率」とは「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものであることが認められる。
そして、甲2に記載の「炭化収率」が、如何なる定義によるものかについては、上記のとおり、甲2には一切記載がなく不明であるところ、本件明細書の段落【0013】には、「例えば、特許文献5では、金属Al粉末を添加したマグカーボン煉瓦を500~1000℃の非酸化性雰囲気下で焼成加熱し、その後、炭化収率25%以上の有機物を煉瓦気孔内に含浸させる処理を行い、熱間強度の向上とともに耐食性の向上を図っている。」との記載があり、本件明細書においては、「残炭率」と「炭化収率」とが区別されて使用されていることが認められる。
これらの事情に鑑みれば、そもそも本件発明の「残炭率」と甲2に記載の技術的事項の「炭化収率」とが同じものであると解することはできない。
また、請求人が提出した甲8-1~甲8-11を見ても、「炭化収率」と「残炭率」とが、慣用的に等価に扱われる場合があることは推認し得るが、当該「炭化収率」が、本件発明の「残炭率」と同じ定義によるもの(「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるもの)として当業者に認識されていたとする証拠はない。むしろ、甲8-1の段落【0051】を見れば、本件発明の「残炭率」とは異なる定義(残炭率の測定方法)が記載されていることからすれば、当業者が甲2の「炭化収率」の記載を見ても、本件発明の定義による「残炭率」を示すものと理解するとはいえない。
さらに、本件明細書の表2の本発明例No.16と17の比較から、有機物の種類が同じ「コールタールピッチ」であっても、残炭率が異なること(本発明例No.16は「42」、本発明例No.17は「35」)、すなわち、有機物の種類によって、直ちにその残炭率が決定されるものではないことが理解できる。ここで、甲2には、「炭化収率25%以上の有機物」として、「コールタールピッチの加熱溶解物、レゾール型の液状フェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂をメタノールあるいはエチレングリコールといった溶媒に溶解したもの」との有機物の種類についての記載しかなく、上記のとおり「炭化収率」の定義についての記載も甲2にはないことから、甲2の炭化収率と、本件発明の残炭率との関係性については不明と言わざるを得ないところ、甲2の「炭化収率25%以上の有機物」が、本件発明の残炭率30質量%以上のものと対応するとも言えないから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用しても、SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が複数本埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物坏土を非酸化焼成した後に、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。
加えて、上記第3の3のとおり、本件発明1は、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することを目的とするものであるところ、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法がMHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物において破壊エネルギーの向上に有効であって、特に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることにより、金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させ、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができるとの作用効果を奏するものであると認められるところ、甲1及び甲2には、そのような作用効果について記載も示唆もないから、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に対し、予測し得ない効果を奏するものと認めることができる。
また、他の証拠を見ても、相違点2に係る本件発明1の「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが、当業者にとって容易になし得ると判断できる技術的事項は見当たらない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明、甲2及び甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
(3)小括
以上のとおり、無効理由1により、本件特許を無効とすることはできない。
7 無効理由2(甲4発明に基づく進歩性の欠如)について
(1)対比
甲4発明は上記2(3)のとおりである。甲4発明と本件発明1とを以下に対比する。
本件発明1の「炭素含有耐火物」は、焼成前後のいずれも表すところ、甲4発明の「化学成分がC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する耐火物」及び「C5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する配合物」は本件発明1の「炭素含有耐火物」に相当し、以下同様に、「ステンレス管の細管」及び「細管」は「ガス吹込み用の金属細管」及び「金属細管」に、「CO2、N2、Arを吹込ガスとする細管を多数有する一体成形された耐火物」は「撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物」及び「ガス吹き込みノズル用耐火物」に、それぞれ相当する。
また、甲4発明の「細管が埋設されたC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する配合物を焼成した後、ピッチ含浸する(但し、前記焼成及びピッチ含浸は1回のみ行う)」ことと、本件発明1の「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」こととは、「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を焼成した後、該炭素含有耐火物に、有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」限りで共通する。
上記相当関係に鑑みると、本件発明1と、甲4発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された、撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法において、
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を焼成した後、該炭素含有耐火物に、有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記焼成及び含浸処理は1回のみ行う)ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
<相違点3>
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を、本件発明1は、「非酸化焼成」し、「非酸化焼成は1回のみ行う」のに対し、甲4発明は、焼成するとはしているものの、非酸化焼成をするものであるかは不明である点。
<相違点4>
金属細管が複数本埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成(又は焼成)した後に、本件発明1は、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」のに対し、甲4発明は、ピッチ含浸はしているものの、ピッチの残炭率等は不明である点。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点4から検討する。
上記5(1)ウのとおり、甲2には、「気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシア-カーボン煉瓦の製造方法において、マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で非酸化焼成した後、炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させて(但し、前記非酸化焼成及び含浸は1回のみ行う)、マグネシア-カーボン煉瓦を製造することで、クリープ変形を防ぎ、曲げ強さ及び耐食性を高めること。」との技術的事項が開示されており、甲4発明は、耐火物の製造方法において、細管が埋設されたC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する配合物を焼成した後、ピッチ含浸する(但し、前記焼成及びピッチ含浸は1回のみ行う)ものであるところ、両者は炭素含有耐火物の製造方法である点で共通し、マグネシアとカーボンの混合物を、その物性が変化するまで加熱(焼成又は非酸化焼成)した後、有機物を含浸させる点で共通しているから、甲4発明に甲2に記載の技術的事項を適用する動機付けを有する余地はある。
ここで、本件明細書の段落【0032】に、「有機物の含浸処理において、含浸する有機物の残炭率は30質量%以上とする。この有機物の残炭率は、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。」と、本件発明における残炭率の定義について記載があるから、本件発明における有機物の「残炭率」とは「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものであることが認められる。
そして、甲2に記載の「炭化収率」が、如何なる定義によるものかについては一切記載がなく不明であるところ、本件明細書の段落【0013】には、「例えば、特許文献5では、金属Al粉末を添加したマグカーボン煉瓦を500~1000℃の非酸化性雰囲気下で焼成加熱し、その後、炭化収率25%以上の有機物を煉瓦気孔内に含浸させる処理を行い、熱間強度の向上とともに耐食性の向上を図っている。」との記載があり、本件明細書においては、「残炭率」と「炭化収率」とが区別されて使用されていることが認められる。
これらの事情に鑑みれば、そもそも本件発明の「残炭率」と甲2に記載の技術的事項の「炭化収率」とが同じものであると解することはできない。
また、請求人が提出した甲8-1~甲8-11を見ても、「炭化収率」と「残炭率」とが、慣用的に等価に扱われる場合があることは推認し得るが、当該「炭化収率」が、本件発明の「残炭率」と同じ定義によるもの(「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるもの)として当業者に認識されていたとする証拠はない。むしろ、甲8-1の段落【0051】を見れば、本件発明の「残炭率」とは異なる定義(残炭率の測定方法)が記載されていることからすれば、当業者が甲2の「炭化収率」の記載を見ても、本件発明の定義による「残炭率」を示すものと理解するとはいえない。
さらに、本件明細書の表2の本発明例No.16と17の比較から、有機物の種類が同じ「コールタールピッチ」であっても、残炭率が異なること(本発明例No.16は「42」、本発明例No.17は「35」)、すなわち、有機物の種類によって、直ちにその残炭率が決定されるものではないことが理解できる。ここで、甲2には、「炭化収率25%以上の有機物」として、「コールタールピッチの加熱溶解物、レゾール型の液状フェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂をメタノールあるいはエチレングリコールといった溶媒に溶解したもの」との有機物の種類についての記載しかなく、上記のとおり「炭化収率」の定義についての記載も甲2にはないことから、甲2の炭化収率と、本件発明の残炭率との関係性については不明と言わざるを得ないところ、甲2の「炭化収率25%以上の有機物」が、本件発明の残炭率30質量%以上のものと対応するとも言えない。
以上を踏まえると、甲4発明に甲2に記載の技術的事項を適用しても、細管が埋設されたC5~30%残りはMgO、Al2O3、Cr2O3、ZrO2の1種又は2種以上を含有する配合物を非酸化焼成した後に、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。
加えて、上記第3の3のとおり、本件発明1は、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することを目的とするものであるところ、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法がMHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物において破壊エネルギーの向上に有効であって、特に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることにより、金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させ、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができるとの作用効果を奏するものであると認められるところ、甲4及び甲2には、そのような作用効果について記載も示唆もないから、本件発明1は、甲4発明及び甲2に記載の技術的事項に対し、予測し得ない効果を奏するものと認めることができる。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
(3)小括
以上のとおり、無効理由2により、本件特許を無効とすることはできない。
8 無効理由3(甲5発明に基づく進歩性の欠如)について
(1)対比
甲5発明は上記3(2)のとおりである。甲5発明と本件発明1とを以下に対比する。
本件発明1の「炭素含有耐火物」は、焼成前後のいずれも表すところ、甲5発明の「組成がMgO80(重量)%、C20(重量)%である耐火物」及び「耐火物材料」は本件発明1の「炭素含有耐火物」に相当し、以下同様に、「ガス吹込み用のステンレス等の耐熱性鋼管からなる細孔管5」及び「細孔管5」は「ガス吹込み用の金属細管」及び「金属細管」に、「ガス吹込用ノズル」は「ガス吹き込みノズル用耐火物」に、それぞれ相当する。
また、甲5発明の「細孔管5が埋設された耐火物材料を焼成した」ことと、本件発明1の「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」こととは、「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を焼成した」限りで共通する。
さらに、甲5発明の「ガス吹込用ノズル」と、本件発明1の「撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物」とは、「ガス吹き込みノズル用耐火物」である限りで共通する。
上記相当関係に鑑みると、本件発明1と、甲5発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された、ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法において、
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を焼成したガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
<相違点5>
ガス吹込ノズル用耐火物で吹込むガスが、本件発明1は、「撹拌ガスである不活性ガス」であるのに対し、甲5発明は、ガスの種類については不明である点。
<相違点6>
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を、本件発明1は、「非酸化焼成」するのに対し、甲5発明は、焼成するとはしているものの、非酸化焼成をするものであるかは不明である点。
<相違点7>
金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成(又は焼成)した後に、本件発明1は、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」のに対し、甲5発明は、含浸処理を施すことについて不明である点。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点7から検討する。
上記5(1)ウのとおり、甲2には、「気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシア-カーボン煉瓦の製造方法において、マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で非酸化焼成した後、炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させて(但し、前記非酸化焼成及び含浸は1回のみ行う)、マグネシア-カーボン煉瓦を製造することで、クリープ変形を防ぎ、曲げ強さ及び耐食性を高めること。」との技術的事項が開示されている。
しかしながら、甲5発明は、ガス吹込用ノズルの製造方法において、細孔管5が埋設された耐火物材料を焼成するものではあるものの、耐火物材料を、非酸化焼成することも、有機物を含浸することも記載も示唆もないから、甲5発明に甲2に記載の技術的事項を適用することの動機付けは見いだせない。
また、仮に、甲5発明に甲2に記載の技術的事項を適用できたとしても、本件明細書の段落【0032】に、「有機物の含浸処理において、含浸する有機物の残炭率は30質量%以上とする。この有機物の残炭率は、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。」と、本件発明における残炭率の定義について記載があるから、本件発明における有機物の「残炭率」とは「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものであることが認められる。
さらに、甲2に記載の「炭化収率」が、如何なる定義によるものかについては一切記載がなく不明であるところ、本件明細書の段落【0013】には、「例えば、特許文献5では、金属Al粉末を添加したマグカーボン煉瓦を500~1000℃の非酸化性雰囲気下で焼成加熱し、その後、炭化収率25%以上の有機物を煉瓦気孔内に含浸させる処理を行い、熱間強度の向上とともに耐食性の向上を図っている。」との記載があり、本件明細書においては、「残炭率」と「炭化収率」とが区別されて使用されていることが認められる。
これらの事情に鑑みれば、そもそも本件発明の「残炭率」と甲2に記載の技術的事項の「炭化収率」とが同じものであると解することはできない。
また、請求人が提出した甲8-1~甲8-11を見ても、「炭化収率」と「残炭率」とが、慣用的に等価に扱われる場合があることは推認し得るが、当該「炭化収率」が、本件発明の「残炭率」と同じ定義によるもの(「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるもの)として当業者に認識されていたとする証拠はない。むしろ、甲8-1の段落【0051】を見れば、本件発明の「残炭率」とは異なる定義(残炭率の測定方法)が記載されていることからすれば、当業者が甲2の「炭化収率」の記載を見ても、本件発明の定義による「残炭率」を示すものと理解するとはいえない。
さらに、本件明細書の表2の本発明例No.16と17の比較から、有機物の種類が同じ「コールタールピッチ」であっても、残炭率が異なること(本発明例No.16は「42」、本発明例No.17は「35」)、すなわち、有機物の種類によって、直ちにその残炭率が決定されるものではないことが理解できる。ここで、甲2には、「炭化収率25%以上の有機物」として、「コールタールピッチの加熱溶解物、レゾール型の液状フェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂をメタノールあるいはエチレングリコールといった溶媒に溶解したもの」との有機物の種類についての記載しかなく、上記のとおり「炭化収率」の定義についての記載も甲2にはないことから、甲2の炭化収率と、本件発明の残炭率との関係性については不明と言わざるを得ないところ、甲2の「炭化収率25%以上の有機物」が、本件発明の残炭率30質量%以上のものと対応するとも言えないから、甲5発明に甲2に記載の技術的事項を適用しても、細孔管5が埋設された耐火物材料を非酸化焼成した後に、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。
加えて、上記第3の3のとおり、本件発明1は、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することを目的とするものであるところ、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法がMHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物において破壊エネルギーの向上に有効であって、特に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることにより、金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させ、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができるとの作用効果を奏するものであると認められるところ、甲5及び甲2には、そのような作用効果について記載も示唆もないから、本件発明1は、甲5発明及び甲2に記載の技術的事項に対し、予測し得ない効果を奏するものと認めることができる。
したがって、相違点5、6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
(3)小括
以上のとおり、無効理由3により、本件特許を無効とすることはできない。
9 無効理由4(甲6発明に基づく進歩性の欠如)について
(1)対比
甲6発明は上記4(2)のとおりである。甲1発明と本件発明1とを以下に対比する。
甲6発明の「SUS製の細管3」及び「細管3」は本件発明1の「ガス吹込み用の金属細管」及び「金属細管」に相当し、以下同様に、「不活性ガスを吹込むノズル耐火物ブロック1」は「ガス吹き込みノズル用耐火物」に、それぞれ相当する。
また、甲6発明の「ノズル耐火物ブロック1」と、本件発明1の「炭素含有耐火物」とは、「耐火物」である限りで共通する。
さらに、甲6発明の「細管3が埋設された耐火物2を焼成した」ことと、本件発明1の「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」こととは、「金属細管が埋設された耐火物を焼成した」限りで共通する。
上記相当関係に鑑みると、本件発明1と、甲6発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された、撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法において、
金属細管が埋設された耐火物を焼成したガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法。
<相違点8>
耐火物が、本件発明1は、「炭素含有耐火物」であるのに対し、甲6発明は、耐火物が炭素を含有するかは不明である点。
<相違点9>
金属細管が埋設された炭素含有耐火物(又は耐火物)を、本件発明1は、「非酸化焼成」し、「非酸化焼成は1回のみ行う」のに対し、甲6発明は、焼成するとはしているものの、非酸化焼成をするものであるかは不明である点。
<相違点10>
金属細管が埋設された炭素含有耐火物(又は耐火物)を非酸化焼成(又は焼成)した後に、本件発明1は、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す(但し、前記非酸化焼成及び含浸処理は1回のみ行う)」のに対し、甲6発明は、含浸処理を施すことについて不明である点。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点10から検討する。
上記5(1)ウのとおり、甲2には、「気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシア-カーボン煉瓦の製造方法において、マグネシア90~70%、カーボン10~30%の混合物に有機質結合剤を加えて成形し、900~1450℃間で非酸化焼成した後、炭化収率25%以上の有機物を気孔中に含浸させて(但し、前記非酸化焼成及び含浸は1回のみ行う)、マグネシア-カーボン煉瓦を製造することで、クリープ変形を防ぎ、曲げ強さ及び耐食性を高めること。」との技術的事項が開示されている。
しかしながら、甲6発明は、ガス吹込用ノズルの製造方法において、細管3が埋設された耐火物2を焼成するものではあるものの、耐火物が、炭素を含有することも、非酸化焼成することも、有機物を含浸することも記載も示唆もないから、甲6発明に甲2に記載の技術的事項を適用することの動機付けは見いだせない。
また、仮に、甲6発明に甲2に記載の技術的事項を適用できたとしても、本件明細書の段落【0032】に、「有機物の含浸処理において、含浸する有機物の残炭率は30質量%以上とする。この有機物の残炭率は、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。」と、本件発明における残炭率の定義について記載があるから、本件発明における有機物の「残炭率」とは「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものであることが認められる。
さらに、甲2に記載の「炭化収率」が、如何なる定義によるものかについては一切記載がなく不明であるところ、本件明細書の段落【0013】には、「例えば、特許文献5では、金属Al粉末を添加したマグカーボン煉瓦を500~1000℃の非酸化性雰囲気下で焼成加熱し、その後、炭化収率25%以上の有機物を煉瓦気孔内に含浸させる処理を行い、熱間強度の向上とともに耐食性の向上を図っている。」との記載があり、本件明細書においては、「残炭率」と「炭化収率」とが区別されて使用されていることが認められる。
これらの事情に鑑みれば、そもそも本件発明の「残炭率」と甲2に記載の技術的事項の「炭化収率」とが同じものであると解することはできない。
また、請求人が提出した甲8-1~甲8-11を見ても、「炭化収率」と「残炭率」とが、慣用的に等価に扱われる場合があることは推認し得るが、当該「炭化収率」が、本件発明の「残炭率」と同じ定義によるもの(「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるもの)として当業者に認識されていたとする証拠はない。むしろ、甲8-1の段落【0051】を見れば、本件発明の「残炭率」とは異なる定義(残炭率の測定方法)が記載されていることからすれば、当業者が甲2の「炭化収率」の記載を見ても、本件発明の定義による「残炭率」を示すものと理解するとはいえない。
さらに、本件明細書の表2の本発明例No.16と17の比較から、有機物の種類が同じ「コールタールピッチ」であっても、残炭率が異なること(本発明例No.16は「42」、本発明例No.17は「35」)、すなわち、有機物の種類によって、直ちにその残炭率が決定されるものではないことが理解できる。ここで、甲2には、「炭化収率25%以上の有機物」として、「コールタールピッチの加熱溶解物、レゾール型の液状フェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂をメタノールあるいはエチレングリコールといった溶媒に溶解したもの」との有機物の種類についての記載しかなく、上記のとおり「炭化収率」の定義についての記載も甲2にはないことから、甲2の炭化収率と、本件発明の残炭率との関係性については不明と言わざるを得ないところ、甲2の「炭化収率25%以上の有機物」が、本件発明の残炭率30質量%以上のものと対応するとも言えないから、甲6発明に甲2に記載の技術的事項を適用しても、細管3が埋設された耐火物2を非酸化焼成した後に、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。
加えて、上記第3の3のとおり、本件発明1は、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することを目的とするものであるところ、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法がMHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物において破壊エネルギーの向上に有効であって、特に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることにより、金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させ、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができるとの作用効果を奏するものであると認められるところ、甲6及び甲2には、そのような作用効果について記載も示唆もないから、本件発明1は、甲6発明及び甲2に記載の技術的事項に対し、予測し得ない効果を奏するものと認めることができる。
したがって、相違点8、9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
(3)請求人(被請求人)の主張について
下記11でまとめて検討する。
(4)小括
以上のとおり、無効理由4により、本件特許を無効とすることはできない。
10 無効理由5~10について
本件発明2~7は、本件発明1を引用し、本件発明1の特定事項を全て含むものであり、甲1発明と対比すると、本件発明1と同様の相違点1及び相違点2(上記6(1)を参照。)を有するものであるから、本件発明1と同様の理由(上記6(2)を参照。)により、甲1発明及び甲2に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明、甲2及び甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
以上のとおり、無効理由5~10により、本件特許を無効とすることはできない。
11 無効理由1~10についての請求人の主張について
(1)甲1発明の認定について
【主張】
甲1発明における加熱処理が非酸化焼成であることは、刊行物に記載されているに等しい事項である。甲1発明では、段落【0014】で例示している樹脂(高分子)製の丸棒を、熱分解により単量体(モノマー)に分解しており、このように高分子を単量体に分解する熱分解は、酸素不存在下で進行するものであるから(甲10)、非酸化焼成である。
【判断】
甲1には、「加熱処理」が非酸化焼成であることの直接的な記載は見当たらないから、相違点1として抽出したものであるところ、相違点1に関わらず、相違点2に係る本件発明1の構成が甲1発明及び甲2に記載の技術的事項から、容易になし得るものでないことは、上記6(2)で説示したとおりであるから、無効理由1によって本件特許を無効とすることはできない。
(2)甲2に記載の技術的事項の認定について
【主張】
甲2に記載の技術的事項の認定について、甲2に開示されているのは、「大径の管(二重管)」についての技術的事項ではなく、「ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物の改善」に関する技術的事項である。
また、甲2の耐火物について、甲2の特許請求の範囲には、マグネシア-カーボン煉瓦を「気体吹込羽口の周囲に使用する」と記載されており、「羽口」はガス吹込み用の金属管のことであるから、他の内張煉瓦とは区別すべきであり、ガス吹込み管を保持している「ガス吹込みノズル用耐火物」にほかならないから、甲1発明、甲4発明、甲5発明または6発明に、甲第2号証に記載された発明を組み合わせるための動機付けを有する。
【判断】
甲2に記載の技術的事項について認定は、上記5(1)ウのとおりであり、「大径の管(二重管)」を要件として認定していない。すなわち、5(1)アで摘記したように、甲2の耐火物は、「羽口の周囲の内張耐火物」にすぎず、羽口そのものを構成する耐火物であるとまではいえず、マグネシア-カーボン煉瓦に「ガス吹込み管が埋設」されて製造されることも記載されていないから、「ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物の改善」に関する技術的事項であるとは認定できない。
さらに、甲2に、「気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシア-カーボン煉瓦の製造方法」についての技術的事項が開示されていることは、上記5(1)ウの認定のとおりである。
そして、甲1、甲4、甲5、甲6発明に、甲2に記載の技術的事項を組み合わせるための動機付けの有無にかかわらず、無効理由1~10によって無効とすることができないことは既に述べたとおりである。
(3)本件発明の「残炭率」と甲2の「炭化収率」について
【主張】
進歩性の議論において、本件発明の「残炭率」と甲2の「炭化収率」が同義であることを立証するところまでは要請されない。甲2に「炭化収率」の定義がなく、当業者が「残炭率」と「炭化収率」とを用語として同義と解釈し得る技術的な背景(甲8-1~甲8-11)があることから、甲2における「炭化収率」の開示に接した当業者が、これを参照して「残炭率」を設定する示唆を受けることがあり得る。また、被請求人は、原審の審査過程において、引用文献2(甲2)の「炭化収率」について「残炭率」と同義であるような扱いをされたことに対し、意見書において(答弁書においても)何ら反論をしなかった(甲12-1~甲12-3)のは、炭化収率が残炭率と同義と解釈され得ることを、当業者である被請求人がごく自然に受け容れていたためである。
【判断】
上記6(2)等で説示したとおり、本件明細書の段落【0032】に、「有機物の含浸処理において、含浸する有機物の残炭率は30質量%以上とする。この有機物の残炭率は、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。」と、本件発明における残炭率の定義について記載があるから、本件発明における有機物の「残炭率」とは「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものであることが認められる。そして、甲2に記載の「炭化収率」が、如何なる定義によるものかについて、甲2には一切記載がなく不明であるところ、本件明細書の段落【0013】には、「例えば、特許文献5では、金属Al粉末を添加したマグカーボン煉瓦を500~1000℃の非酸化性雰囲気下で焼成加熱し、その後、炭化収率25%以上の有機物を煉瓦気孔内に含浸させる処理を行い、熱間強度の向上とともに耐食性の向上を図っている。」との記載があり、本件明細書において「残炭率」と「炭化収率」とが区別されて使用されていることが認められる。
これらの事情に鑑みれば、そもそも本件発明の「残炭率」と甲2に記載の技術的事項の「炭化収率」とが同じものと解することはできない。
また、請求人が提出した甲8-1~甲8-11を見ても、「炭化収率」と「残炭率」とが、慣用的に等価に扱われる場合があることは推認し得るが、当該「炭化収率」が、本件発明の「残炭率」と同じ定義によるもの(「JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)」に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるもの)として当業者に認識されていたとする証拠はない。むしろ、甲8-1の段落【0051】を見れば、本件発明の「残炭率」とは異なる定義(残炭率の測定方法)が記載されていることからすれば、当業者が甲2の「炭化収率」の記載を見ても、本件発明の定義による「残炭率」を示すものと理解するとはいえない。
さらに、本件明細書の表2の本発明例No.16と17の比較から、有機物の種類が同じ「コールタールピッチ」であっても、残炭率が異なること(本発明例No.16は「42」、本発明例No.17は「35」)、すなわち、有機物の種類によって、直ちにその残炭率が決定されるものではないことが理解できるところ、甲2には、「炭化収率25%以上の有機物」として、「コールタールピッチの加熱溶解物、レゾール型の液状フェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂をメタノールあるいはエチレングリコールといった溶媒に溶解したもの」との有機物の種類についての記載しかなく、「炭化収率」の定義についての記載はないことから、甲2の「炭化収率」と、本件発明の「残炭率」との関係性については不明と言わざるを得ない。
(4)甲1、甲4、甲5、甲6発明に甲2に記載の技術的事項を適用する動機付けについて
【主張】
甲1、甲4、甲5、甲6発明の耐火物は、耐食性や寿命が必要であり、甲1、甲4、甲5、甲6発明は何れも、耐火物の耐食性、耐用性を向上させるという課題、すなわち甲2に記載の技術的事項と共通の課題を有しており、技術分野でも関連し、作用・機能においても共通しているから、組み合わせるための動機付けがあり、甲2に記載の技術的事項を適用することによって技術的な利点がある場合に、コストや手間がかかることは、進歩性を肯定する要素とならない。また、「上吹きの技術分野」、「底吹きの技術分野」、「上底吹き(酸素底吹き)の技術分野」、「上底吹き(不活性ガス等の底吹き)の技術分野」のように、技術分野を細分化して捉えるべきではない。さらに、本件発明1は金属細管への浸炭が抑制できている発明ではないから、浸炭の恐れによって動機付けが否定されることはない。
【判断】
甲1、甲4、甲5、甲6発明に甲2に記載の技術的事項を適用することが動機付けられるとしても、当業者にとって容易に想到し得ないものであることについては、上記6(2)、7(2)、8(2)、9(2)にてそれぞれ説示したとおりである。
(5)有利な効果について
【主張】
本件発明にとって、破壊エネルギーが有利な効果であるといえるのは、主引用発明(甲1、甲4、甲5、甲6発明)に甲2に記載の技術的事項を適用した構成が奏する効果と対比して、顕著な効果であるか否かを考慮する必要があり、主引用発明に甲2の記載事項を適用した構成も、その構成に応じた破壊エネルギーを有するものであるから、それに比べて顕著な効果でなければ、引用文献にその効果に関する記載がないとしても、単なる効果の追認に過ぎない。また、甲2は、熱衝撃による亀裂の発生や剥離による損傷の生起を課題の一つとしており、「剥離」は、亀裂が「伸展」した結果として生じる現象であるところ、熱衝撃による亀裂の伸展抑制には破壊エネルギーが関係している(破壊エネルギーが大きいほど亀裂伸展が抑制されること)は、当業者にとっての技術常識(甲9)であるから、亀裂の伸展が抑制されていると考えられる甲2に記載の技術的事項を、主引用発明に適用するにあたり、破壊エネルギーがどの程度であるかを確認してみることは、当業者のなし得る自然な行為である。
【判断】
上記6(2)、7(2)、8(2)、9(2)にて説示したとおり、甲1、甲4、甲5、甲6発明に甲2に記載の技術的事項を適用することができたとして、本件発明の「残炭率」と甲2に記載の技術的事項の「炭化収率」とが同じものであると解することはできない上に、甲2の「炭化収率25%以上の有機物」が、本件発明の残炭率30質量%以上のものと対応するとも言えないから、甲1発明等に甲2に記載の技術的事項を適用しても、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが当業者にとって容易になし得るということはできず、本件発明1には至らないところ、さらに、本件発明1は、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することを目的とするものであるところ、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法がMHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物において破壊エネルギーの向上に有効であって、特に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることにより、金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させ、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができるとの作用効果を奏するものであると認められ、甲1、甲4、甲5、甲6及び甲2には、そのような作用効果について記載も示唆もないから、本件発明1は、甲1発明等に対し、予測し得ない効果を奏するものと認めることができる。
さらに、主引用発明に甲2の記載事項を適用した構成も、その構成に応じた破壊エネルギーを有するものであるから単なる効果の追認に過ぎない旨の主張については、甲1、甲4、甲5、甲6及び甲2のいずれにも破壊エネルギーについての記載は見当たらないし、技術常識を考慮して効果を追認する必要も見いだせないから、主張は採用できない。
(6)「残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる」ことについて
【主張】
甲2には、「含浸材の炭化収率が低いと期待するほどの改善効果が得られないので、炭化収率は少なくとも25%以上と限定したのである。」との記載があり、この記載から、当業者は、含浸する有機物の残炭率(炭化収率)は、少なくとも25%であるが、より多ければより望ましいとの示唆を受ける。そして、含浸用の有機物として、どのようなものが入手できたかによって、実施例の設定は影響を受けるものであり、入手できた含浸用の有機物が、25%以上の範囲では30%が最小であり、25%未満の範囲では15%が最大であれば、本件明細書に示された実施例のようになり、15%の結果が望ましくなく、30%の結果を許容できると判断すれば、下限値は「30%」と設定される。残炭率が30%未満である実施例は、残炭率が15%である比較例4の一つだけであり、残炭率が25%以上30%未満の範囲にある実施例はないから、入手できた含浸用の有機物を使用した実施例のうち、許容できる効果であると判断した実施例の中で、残炭率が最小であった実施例に基づいて、残炭率を「30%以上」と規定したに過ぎない。
また、先行技術文献に「25%以上がよい」と開示されている場合に、後願が「30%以上」と規定することに意義がある場合は、25%以上30%未満の範囲が不適であることを立証した場合であって、30%が臨界的意義を有する数値である場合に限られるが、本件明細書には、残炭率が25%以上30%未満の範囲にある実施例が一つもなく、その場合の破壊エネルギーがどの程度であったかが分からないから、残炭率を30%以上とすることによって、破壊エネルギーが顕著に大きくなったか否かを判断できない。さらに、本件発明1において、「残炭率の下限値30質量%」に臨界的意義はない。
【判断】
上記6(2)等で説示したとおり、甲2の炭化収率と、本件発明の残炭率との関係性については不明と言わざるを得ないところ、甲2の炭化収率25%以上の有機物が、本件発明の残炭率30質量%以上のものと対応するとも言えないから、甲1発明等に甲2に記載の技術的事項を適用しても、耐火物等を非酸化焼成した後に、「該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施す」ことが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできないから、請求人の主張は採用できない。
(7)甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用することの阻害要因について
【主張】
耐火物のマトリクス内部まで含浸していくような含浸材は、仮に貫通孔内に浸入したとしても、貫通孔の内壁を構成する耐火物の内部に含浸していくはずであるから、貫通孔が含浸材によって閉塞されることはなく、甲1発明に甲2の有機物含浸を適用することに阻害要因はない。
【判断】
上記6(2)にて説示したとおり、甲1発明は、SUSパイプ3及びメタクリル酸メチル樹脂製丸棒が複数本埋設されたマグネシア・カーボン質耐火物坏土を、コークス粒に埋設して25℃/時間の昇温速度で750℃×5時間加熱処理して、メタクリル酸メチル樹脂製丸棒を焼失して得た貫通孔4とSUSパイプ3を備えたマグネシア・カーボン質耐火物を得るものであって、製造されたマグネシア・カーボン質耐火物がSUSパイプ3以外に貫通孔4を備えることが必須の要件であり、該貫通孔4は煉瓦母材中に直接形成される直径が1mmのもの(甲1の段落【0026】)であるところ、この貫通孔4はガス吹き込みに用いるもの(甲1の段落【0007】等)であるから、マグネシア・カーボン質耐火物が完成品となって使用される際に閉塞されていないことが必要であることは理解できる(上記1(2)アを参照。)。このような甲1発明の貫通孔4が形成されたマグネシア・カーボン質耐火物に対し、仮に甲2に記載の技術的事項を適用することが動機付けられるとしても、甲2に記載の技術的事項のように有機物を含浸する処理をすれば、貫通孔4が有機物によって閉塞され、又は狭窄を生じ、貫通孔としての機能が損なわれ、又は機能の低下が生じる恐れがあることは明らかであるから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用することが、当業者にとって容易になし得るものとはいえず、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用した場合に、含浸材(有機物)が、貫通孔の内壁を構成する耐火物の内部に含浸していくはずである旨の主張は採用できない。
(8)甲4発明に甲2に記載の技術的事項を適用することが容易であることについて
【主張】
甲4発明は、ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物を焼成した後でピッチ含浸するものであり、甲2は、ガス吹込み管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後で、残炭率が25%以上の有機物で含浸するものであり、含浸させる有機物としてコールタールピッチの加熱融解物が例示されており、甲4発明と甲2の技術的事項は極めて近似しているから、有機物として甲4号証のピッチに替えて、甲2号証の有機物を適用することは、当業者の普通の創作力で想到し得る。
また、被請求人は、甲4発明と甲2の技術的事項では、炉底部からの吹き込みガス量のレベルに圧倒的な差があり、損傷要因・機構が異なるのは、このような吹き込みガス量のレベルの圧倒的な差も影響している旨を主張しているが、実際には、吹き込みガス量のレベルに圧倒的な差などない。
【判断】
上記7(2)にて説示したとおり甲4発明のピッチに替えて、甲2号証の有機物(炭化収率が25%以上の有機物)を適用しても、本件発明1には至らないというべきである。
12 無効理由1~10についてのむすび
以上により、請求人が主張する無効理由1~10によっては、本件発明1~7を無効とすることはできない。
13 無効理由11~12(サポート要件違反)について
(1)判断
【主張】
請求人は、概ね、非酸化焼成での焼成温度の温度条件に関して何ら規定されていない本件発明1は、段落【0008】に記載された課題を解決できる範囲を超えるものである旨主張している(無効理由11)。また、本件発明2で規定している非酸化焼成の温度範囲は、実機稼働時の受熱によって耐火物組織が容易に変化してしまう温度範囲を含んでいることが明らかであるから、本件発明2は、課題を解決できる範囲を超えるものである旨を主張している(無効理由12)。
【判断】
これについて検討する。
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
上記第3の3のとおり、発明の詳細な説明の記載から把握できる本件発明の概要は次のとおりのものである。
「(1)本件発明は、転炉や電気炉などにおいて、精錬効率や合金歩留まりの向上を目的として炉底などから溶湯内にガスを吹込むためのガス吹き込みノズル用の耐火物であって、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法に関する。
(2)転炉や電気炉などでは、精錬効率や合金歩留まりの向上を目的として、炉底から撹拌ガスや精錬ガスを溶湯内に吹込む、いわゆる底吹きが行われる。この底吹きの方式としては、(1)二重管方式、(2)スリット方式、(3)カーボン含有煉瓦に複数本(数本~数百本)の金属細管を埋設し、煉瓦の底部からガス導入管とガス溜まりを介して不活性ガスを金属細管に供給し、この金属細管から不活性ガスを吹込む方式、などがあり、(3)の方式で用いられるガス吹き込み用プラグ(ノズル)は、マルチプル・ホール・プラグ(以下、MHPという)と呼ばれる。
底吹きノズルは炉壁などの耐火物に比べて損傷量(損耗量)が大きく、炉寿命を左右する重要な部材であるため、従来、損傷抑制のための様々な提案がなされ、耐用性を高めるために耐火物材質や構造について種々検討がなされているが、十分な改善効果が得られていないのが現状である。
本件発明の目的は、従来技術の課題を解決し、炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が1本以上埋設されたガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法であって、ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させることができるガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法を提供することにある。
(3)本件の発明者らは、MHPの真の損傷原因を探るため、実炉で使用された使用後品(MHP)を回収し、ノズル稼働面近傍の耐火物組織について詳細に調査した結果、MHPの損傷形態は、溶損や磨耗による損傷ではなく、稼働面近傍で生じている急激な温度勾配に起因した熱衝撃による損傷が主体であるとの結論が得られた。
本件の発明者らは、亀裂が発生したとしても亀裂が伸展し難くすることで改善できないか検討を進め、炭素含有耐火物の破壊エネルギーについて着目した。
耐火物の破壊エネルギーは、亀裂が伸展して新しい表面が形成される際、その表面形成に必要なエネルギーとして定義されるものであり、耐火物に熱応力がかかり一定量の弾性エネルギーが蓄えられて、そのエネルギーによって亀裂が生成されるとすると、破壊エネルギーが大きいほど、亀裂が伸展しにくいことになる。
(4)比較的簡便に破壊エネルギーを向上させることができる方法について検討した結果、耐火物を非酸化条件で焼成した後、有機物を含浸する方法(以下、「非酸化焼成・有機物含浸」という場合がある)が破壊エネルギーの向上に有効であることを見出し、さらにその最適な条件を検討し、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させることに至った。
(5)本件発明の構成により、MHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物について、非酸化焼成・有機物含浸技術を用いて金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させることで、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができることを見出した。」
上記発明の概要として示したとおり、破壊エネルギーの向上による亀裂の進展を抑制することは、金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成した後、該炭素含有耐火物に、残炭率が30質量%以上の有機物を含浸させる含浸処理を施すことによって実現されることが理解できる。そして、本件発明1は、当該構成を発明特定事項として有するから、本件発明1(及び本件発明1を引用する本件発明2)には、課題を解決するための手段が記載されているというべきである。
なお、請求人の主張する無効理由11に関し、本件明細書の段落【0016】には、「金属細管が埋設された炭素含有耐火物の非酸化焼成において、金属細管の浸炭による低融点化を防止するために、非酸化焼成条件(焼成温度、焼成時間)、さらには非酸化焼成後の金属細管の炭素含有量などについて詳細な検討を行い、金属細管の低融点化を抑制できる実用化可能な最適条件を見出した。」との記載、及び、段落【0017】には、「MHPの製造過程における金属細管へ浸炭を抑制することで、より高寿命とすることが可能となることを見出した。」との、金属細管の低融点化に関する記載はあるものの、段落【0016】には、その前文として「本発明では、ガス吹き込みノズル用耐火物を製造する際に、金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成・有機物含浸することにより破壊エネルギーを効果的に増大させ得ることを見出したものであるが、・・・」と記載されるとともに、段落【0017】には、その前文として「MHP用の金属細管が埋設された炭素含有耐火物について、非酸化焼成・有機物含浸技術を用いて金属細管の周囲を形成する耐火物の破壊エネルギーを向上させることで、MHPの稼働面付近に発生する亀裂の伸展を抑制することができ、MHPの寿命を大きく向上させることができること、さらに、・・・」と記載されていることからみて、本件発明の第1の目的は、破壊エネルギーの向上による亀裂の進展を抑制することであり、金属細管の低融点化を抑制することは、それに加えた目的と理解できるから、請求人が主張する課題解決手段までを、本件発明1にて特定する必要性は見いだせない。
また、本件発明はガス吹き込みノズル用耐火物の製造方法に関するものであって、実炉で使用された使用後品(MHP)を回収し、ノズル稼働面近傍の耐火物組織について詳細に調査した結果として得られた知見に基づいて、破壊エネルギーの向上による亀裂の進展を抑制すべくなされたものであるから、本件発明によれば実機稼働時の受熱による変化に関わらず破壊エネルギーの向上による亀裂の進展を抑制する効果を奏するものと考えるのが自然である。
よって、本件発明2について課題を解決できる範囲を超えるとの主張にも理由がない。
以上より、本件発明1~2が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定される要件(サポート要件)に適合しないということはできない。
(2)請求人の主張について
ア 請求項1について
【主張】
請求人は、無効理由11において、本件明細書の特に段落【0025】の記載に鑑みると、非酸化焼成での焼成温度の温度条件に関して何ら規定されていない本件発明1は、段落【0008】に記載された課題を解決できる範囲を超える、及び不適な例である比較例3の焼成条件(焼成温度300℃、焼成時間5時間)を包含していることに変わりはない旨を主張している。
【判断】
ここで、本件明細書の段落【0025】には、「炭素含有耐火物の非酸化焼成での焼成温度(熱処理温度)は400℃以上1500℃以下が好ましい。焼成温度は400℃未満では、バインダー(通常、フェノール樹脂などの樹脂)の熱分解が十分に起こらず、非酸化焼成後の含浸処理において有機物の含浸が不十分となり、破壊エネルギーが十分に向上しない恐れがある。一方、焼成温度が1500℃を超えると、埋め込まれた金属細管が溶融したり、閉塞したりして、ガス吹き込みノズルとしてのガス吹き機能が失われる恐れがある。」との記載があるところ、当該記載に接した当業者は、「炭素含有耐火物の非酸化焼成での焼成温度(熱処理温度)」を「400℃以上1500℃以下」とすることは好ましい要件と理解するものの、本件発明1には、バインダーの種類や具体的な組成の特定や金属細管の種類、材質等の特定がないことに鑑みれば、上記段落【0024】の記載に接したとしても、「炭素含有耐火物の非酸化焼成での焼成温度(熱処理温度)」を「400℃以上1500℃以下」とすることが必須の要件であると解釈するとはいえない。
また、「焼成」とは、「原料を高熱で焼いて性質に変化を生じさせること。粘土を窯かまで加熱して石質にするなど。」を意味するところ(デジタル大辞泉)、本件発明1には、「炭素含有耐火物にガス吹込み用の金属細管が複数本埋設された、撹拌ガスである不活性ガス吹き込みノズル用耐火物」との特定、及び「金属細管が埋設された炭素含有耐火物を非酸化焼成」するとの特定があることに鑑みると、本件発明1は、炭素含有耐火物を焼成、すなわち性質に変化を生じさせることができないような低い温度条件で加熱処理をすることや、金属細管が溶融して閉塞し不活性ガスを吹き込みできなくなるような高い温度条件での加熱処理は含まないと解されるものである。
さらに、本件発明1が不適な例である比較例3の焼成条件(焼成温度300℃、焼成時間5時間)を包含している旨の主張については、本件明細書の段落【0025】には、「焼成温度は400℃未満では、バインダー(通常、フェノール樹脂などの樹脂)の熱分解が十分に起こらず、非酸化焼成後の含浸処理において有機物の含浸が不十分となり、破壊エネルギーが十分に向上しない恐れがある。」と記載されているところ、本件発明1において「バインダー」の種類や具体的な組成は特定されていないことに鑑みれば、ただちに、本件発明1が不適な実施例を含むとまではいうことができない。
イ 請求項2について
請求人は、無効理由12において、甲7の図6-11によれば、転炉は溶融金属を受けた時点で1000℃を越え、吹錬が終了する(吹止め)までに、1600℃に達しており、本件発明2で規定している非酸化焼成の温度範囲は、実機稼働時の受熱によって耐火物組織が容易に変化してしまう温度範囲を含んでいることが明らかであるから、本件発明2は、課題を解決できる範囲を超えるものである、及び本件発明2の焼成温度の範囲内である400℃の焼成は、一般的な「乾燥」工程の温度とせいぜい100℃程度しか変わらず、「実機稼働時の受熱により耐火物組織が変化する不焼成品」に近いものであり、このような400℃焼成品では、本件発明の課題(「ガス吹き込みノズルの耐用性を向上させる」。段落【0008】。)を解決できないし、400℃焼成品である本発明例No.2については、実機を使用した耐損耗試験(耐用性の試験の一種)の結果は示されていない旨を主張している。
甲7(上記2(3)を参照。)から、転炉は溶融金属を受けた時点で1000℃を越え、吹錬が終了する(吹止め)までに、1600℃に達していることが理解できるとしても、上記(1)で説示したとおり、本件発明1は、課題を解決するための構成を有するものであり、本件発明1を引用する本件発明2も課題を解決するための構成を有するものと理解できるから、請求人の主張には理由がない。
ウ 無効理由11~12についてのその他の請求人の主張について
請求人は、耐火物の分野では、成形後に加熱乾燥したものを不焼成品とすることも少なくないため、加熱乾燥後の不焼成品との区別のためにも、「非酸化焼成」の意義・目的を知ろうとするのは、当業者にとって当然であり、この区別は、発明の特定のために必要である旨を主張している。
しかしながら、上記アのとおり、「焼成」すなわち性質に変化を生じさせることが本件発明の要件であるから、加熱乾燥しただけの不焼成品はそもそも本件発明に含まれず、請求人の主張には理由がない。
(3)無効理由11~12についてのむすび
以上により、請求人が主張する無効理由11~12によっては本件発明1、2を無効とすることはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1~12によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
また、請求人の主張及び証拠によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800007