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特許無効審判

2021-800024

鋼管杭式桟橋

審判番号
2021-800024
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2011-006001
登録番号
5967862
請求日
2021年03月30日
審決日
2024年10月03日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】日本製鉄 株式会社
  • 【請求人代理人】青木 篤
  • 【請求人代理人】三橋 真二
  • 【請求人代理人】福地 律生
  • 【請求人代理人】齋藤 学
  • 【請求人代理人】板谷 一弘
  • 【請求人代理人】岩田 純
  • 【被請求人】JFEスチール 株式会社
  • 【被請求人代理人】石川 壽彦
  • 【被請求人代理人】近藤 惠嗣
審判長/審判官
  • 審判長 古屋野 浩志
  • 審判官 西田 秀彦
  • 審判官 土屋 真理子
分類
P1113.121-Y (E02B) / P1113.536-Y (E02B) / P1113.537-Y (E02B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第123条、特許法第29条、特許法第169条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第5967862号「鋼管杭式桟橋」の特許無効審判事件についてされた令和5年1月20日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1及び2に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(令和05年(行ケ)第10020号、第10021号、令和6年1月23日判決言渡)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第5967862号の請求項1及び2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 一次審決までの主な手続の経緯 特許第5967862号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る発明についての出願は、平成23年1月14日に出願されたものであって、平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされたものである。 そして、本件無効審判事件における令和5年1月20日付け審決(以下「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。 令和3年 3月30日 :審判請求書提出 令和3年 7月20日 :審判答弁書提出 令和4年 3月24日付:審理事項通知(起案日) 令和4年 4月15日 :請求人より口頭審理陳述要領書提出 令和4年 5月13日 :被請求人より口頭審理陳述要領書提出 令和4年 5月27日 :第1回口頭審理 令和4年 9月26日付:審決の予告(起案日) 令和5年 1月20日付:一次審決(送達日:請求人及び被請求人いず れも同月30日) 一次審決の結論は「特許第5967862号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。特許第5967862号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。」というものである。 2 審決取消訴訟 被請求人及び請求人は、一次審決の取消しを求めて、それぞれ、令和5年2月27日及び令和5年3月1日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。 上記訴えは、知的財産高等裁判所において、それぞれ、令和5年(行ケ)第10020号事件(以下、「第1事件」という。)、及び、令和5年(行ケ)第10021号事件(以下、「第2事件」という。)として審理され、令和6年1月23日に、主文を「1 特許庁が無効2021-800024号事件について令和5年1月20日にした審決のうち、特許第5967862号の請求項1及び2に係る部分を取り消す。2 被告の請求を棄却する。3 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じて被告の負担とする。」とする判決(以下「本件判決」という。)の言渡しがあり、その後確定した。 3 当審における手続の経緯 令和6年3月15日 :上申書(請求人)提出 3月26日 :上申書(請求人)提出 5月27日付け:審理再開通知(起案日) 第2 取消判決の拘束力 審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。 したがって、当審の審理は、取消判決の判断に拘束されるものである。 第3 本件発明 本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、本件発明1及び2を合わせて「本件発明」という。)は、本件特許公報の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。 【請求項1】 海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列と、該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工とで構成される鋼管杭式桟橋において、 前記鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であって、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとしたことを特徴とする鋼管杭式桟橋。 【請求項2】 φp≧4.90×10-3/Dを満足することを特徴とする請求項1記載の鋼管杭式桟橋。 第4 請求人の主張及び証拠方法 1 請求人の主張の概要 請求人は、特許第5967862号の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書(以下「請求書」ということがある。)、請求人陳述要領書、第1回口頭審理調書参照。)、証拠方法として下記2のとおり、審判請求書に添付して甲第1号証~甲第16号証を提出している。 (1) 無効理由1(進歩性違反) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証又は甲第13号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証~甲第16号証)に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。 (2)無効理由2(サポート要件違反) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件明細書にサポートされていない発明を含むから、特許法36項6項1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条1項4号に該当し、無効とすべきである。 (3)無効理由3(明確性要件違反) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、不明確であり、特許法36項6項2号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。 (4)無効理由4(実施可能要件違反) 本件特許明細書は、軸力が存在する場合に関して、当業者が実施可能な程度に記載されていないから、特許法36項4項1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである。 2 請求人が提出した証拠 請求人の提出した証拠は、次のとおりである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2001-288725号公報 甲第2号証:特開2010-101159号公報 甲第3号証:特開2004-143500号公報 甲第4号証:特開2001-288512号公報 甲第5号証:「港湾の施設の技術上の基準・同解説(下巻)」,社団法人日本港湾協会,平成19年7月,p.1103-1105 甲第6号証:不服2015-7581号(特願2011-6001号)の平成27年9月18日に提出された上申書 甲第7号証:「港湾構造物設計事例集(平成19年改訂版)上巻 沿岸技術ライブラリーNo.24」,財団法人沿岸技術研究センター,平成19年3月,p.2-1~2-22 甲第8号証:「港湾構造物設計事例集(上・下巻) 沿岸開発技術ライブ ラリーNo.1」,財団法人沿岸技術研究センター,平成11年4月,p.4-1~4-48,6-4~6-12 甲第9号証:平成16年度 工事名「東京国際空港D滑走路建設外工事」の「桟橋部杭構成図(3)」,国土交通省関東地方整備局 甲第10号証:平成14年度 工事名「名古屋港飛鳥ふ頭南岸壁(-16m)本体製作及び据付工事」の「標準断面図(J3)」,国土交通省中部地方整備局名古屋港湾空港工事事務所 甲第11号証:港湾技研資料 No.749 直ぐい式横桟橋の構造諸元の統計的分析,運輸省港湾技術研究所,1993年6月,p.1-21 甲第12号証:港湾技術研究所報告,Vol.37,No.2,運輸省港湾技術研究所,1998年6月,p.75-130 甲第13号証:「PC桟橋の設計・施工に関する共同研究」,沿岸技術研究センター論文集No.1,一般財団法人沿岸技術研究センター,2001年8月 甲第14号証:「横荷重を受ける杭と矢板の縦梁解法」,株式会社山海堂,平成4年2月20日,p.120-121 甲第15号証:「構造力学公式集 昭和61年版」,社団法人土木学会,平成15年3月31日(第2版・第9刷),p.43-45,49 甲第16号証:「港湾の施設の技術上の基準・同解説(上巻)」,社団法人日本港湾協会,平成11年5月発行,p.317―319 甲第17号証:平成16年度 工事名「東京国際空港D滑走路建設外工事」の「新滑走路島横断図(7)」,国土交通省関東地方整備局 甲第18号証:「国土交通省 関東地方整備局東京空港整備事務所 羽田空港の情報 羽田空港の歴史」,令和4年4月13日出力,インターネット<URL:https://www.pa.ktr.mlit.go.jp/haneda/haneda/05-info/history.html> 甲第19号証:「五洋建設株式会社 ホームページソリューション技術プロジェクト紹介 プロジェクトストーリー 東京国際空港D滑走路建設外工事」,令和4年4月13日出力,インターネット<URL:https://www.penta-ocean.co.jp/business/project/pj_story/024.html> 甲第20号証:「鹿島:KAJIMAダイジェスト特集:羽田Report-D滑走路建設工事」,令和4年4月13日出力,インターネット<URL:https://www.kajima.co.jp/news/digest/feb_2009/tokushu/tokushu.htm> 甲第21号証:平成15年1月20日 官報(号外政府調達第7号),平成15年1月20日,財務省印刷局,p.28 以下、各甲号証をその番号に応じて「甲1」等と略すことがある。 第5 被請求人の主張及び証拠方法 1 被請求人の主張の概要 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、本件発明を無効にすることはできないと主張する。 そして、下記2のとおり、審判答弁書に添付して乙第1号証を提出している。 2 被請求人が提出した証拠 <証拠方法> 乙第1号証:「土木系 大学講義シリーズ5 構造力学」,株式会社コロナ社,昭和63年6月10日(初版第3刷),p.34―39 第6 証拠の記載事項 1 甲1 (1) 甲1に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付与した(以下同様)。 ア 【0002】 「【0002】 【従来の技術】通常、例えば、港湾等の水域における杭式桟橋,杭式防波堤あるいは河川等における橋脚基礎などに使用する鋼管杭9の頭部は、図29に示すように鉄筋コンクリート製の梁や頂版コンクリートにより互いに連結されている杭式基礎構造物40aが知られている。従来、この杭式基礎構造物40aにおける鉄筋コンクリート製の梁43は、鋼管杭9を水底地盤に打設後、海洋上の現位置において施工する、いわゆる場所打ちコンクリート方式により施工されていた。すなわち、杭頭や杭間への配筋、支保工の設置、型枠の配置、コンクリートの打設、硬化養生,型枠等の撤去が鋼管杭9の打設後の海洋上の現位置において行われていた。」 イ 【図29】 「 [図:0001418385000001.jpg] 」 ウ 【図29】から読み取れる事項 上記アの記載を踏まえ【図29】の記載内容から、次の事項が読み取れる。 「複数の鋼管杭9は、列状に配置されている。」 (2) 甲1発明 前記(1)の記載から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 <甲1発明> 「 港湾等の水域における杭式桟橋に使用する鋼管杭9の頭部が鉄筋コンクリート製の梁により互いに連結されている杭式基礎構造物40aにおいて、 複数の鋼管杭9は、列状に配置され、 杭式基礎構造物40aにおける鉄筋コンクリート製の梁43は、鋼管杭9 を水底地盤に打設後、海洋上の現位置において施工された、 杭式基礎構造物40a」 2 甲2 (1) 甲2に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲2には、次の事項が記載されている。 ア 【0006】 「【0006】 ところが、最近では、降伏強度のさらなる高強度の鋼管杭用の材料が開発されつつあり、このような高強度の材料を用いれば前述した基礎杭形状のスリム化を実現できることになる。 しかしながら、鋼管コンクリート複合杭における鋼管およびコンクリートの相互作用は、鋼管の早期座屈やコンクリート圧壊による杭の強度低下、あるは鋼管拘束度合いによるコンクリート強度増減など複雑であり、単純に鋼管やコンクリートの高強度化を図ればよいというものではない。 ところが、現状では、高強度の鋼材を用いた場合における鋼管コンクリート複合杭の最適な構造について示した文献等はなく、その開発が望まれている。」 イ 【0030】 「【0030】 図1は本発明の実施例1の説明図であり、図1(a)が実施例1、図1(b)が比較例としての従来例を示している。 図1(a)に示す実施例1は、上端に端板1が設置された鋼管3の内面に コンクリート5がライニングされ、中央が中空になった「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」において、高強度鋼管を用いた場合の例を示したものであり、鋼管3には径1000mmで肉厚9mm、設計降伏強度485N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用した例である。 また、図1(b)に示す従来例では、従来「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」として用いられている強度の材料を用いて、実施例1と同程度の断面耐力となるように仕様を決めた例を示す。この比較例は、鋼管3は径 1200mmで肉厚9mm、設計降伏強度325N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用している。 実施例1と従来例の仕様を表1に示す。なお、表1には実施例1の他の例として、径1000mmで肉厚9mm、設計降伏強度450N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度120N/mm2の材料を使用したものも示している。」 ウ 【0037】 「【0037】 本実施例3は、実施例1と同様に、「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC 杭)」において、高強度鋼管を用いた場合の例を示したものであり、鋼管3には径1000mmで肉厚9mm、実降伏強度485N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用した例である。 また、比較例として、従来「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」として用いられている強度の材料を用いて、実施例3と同程度の断面耐力となるように仕様を決めた例を示す。この比較例は、鋼管3は径1200mmで肉厚9mm、実降伏強度325N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用している。 実施例3と従来例の仕様を表3に示す。なお、表3には実施例3の他の例として、径1000mmで肉厚9mm、実降伏強度450N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度120N/mm2の材料を使用したものも示している。」 エ 【図1】 「 [図:0001418385000002.jpg] 」 (2) 甲2記載技術 前記(1)イ及びウから甲2には次の技術(以下「甲2記載技術」という。)が記載されている。 <甲2記載技術> 「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)において、高強度鋼管を用いること。」 3 甲3 (1) 甲3に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲3には、次の事項が記載されている。 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、ラインパイプ等の配管、あるいは、鋼管柱、鋼管杭等の構造用鋼 管に好適な、圧縮および曲げによる耐座屈特性に優れた高強度鋼管およびその製造方法を提供するものである。」 (2) 甲3記載技術 前記(1)から甲3には次の技術(以下「甲3記載技術」という。)が記載されている。 <甲3記載技術> 「鋼管杭に高強度鋼管を用いること。」 4 甲4 (1) 甲4に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲4には、次の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は溶接構造用鋼としての十分な強度を有し、かつ降伏比が低く、一様伸び等の延性特性に優れるとともに、低温靱性にも優れた靭性と延性に優れた高張力鋼の製造方法に関するものである。この方法で製造した鋼は、例えば、海洋構造物、圧力容器、造船、橋梁、建築物、ラインパイプなどの溶接鋼構造物一般に用いることができるが、低降伏比、高延性と靭性とが両立できることから、特に耐震性を必要とする建築、橋梁等の構造物用鋼材として有用である。また、鋼材の形態としては特に問わないが、構造部材として用いられ、低温靭性が要求される鋼板、特に厚板、鋼管素材、あるいは形鋼で特に有用である。」 (2) 甲4記載技術 前記(1)から甲4には次の技術(以下「甲4記載技術」という。)が記載されている。 <甲4記載技術> 「耐震性を必要とする橋梁の構造物用鋼管に高張力鋼が有用であること。」 5 甲5 (1) 甲5に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲5には、次の事項が記載されている。 「 ・杭の全塑性 杭の全塑性の照査とは、当該桟橋を構成する杭の中に、二箇所以上で全塑性に達している杭が存在しないことを照査する。全塑性に達している杭とは、杭に生じる曲げモーメントが全塑性モーメントに達している杭のことである。」(1104頁) (2) 甲5記載技術 前記(1)から甲5には次の技術(以下「甲5記載技術」という。)が記載されている。 <甲5記載技術> 「桟橋を構成する杭の中に、二箇所以上で全塑性に達している杭が存在しないことを照査することであって、ここで、全塑性に達している杭とは、杭に生じる曲げモーメントが全塑性モーメントに達している杭のことであること。」 6 甲7 (1) 甲7に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲7には、次の事項が記載されている。 ア 2-1頁左欄 「a)構造の特徴 横桟橋は,図-2.1に示すように,桟橋本体とその背後の土留護岸より構成される係留施設である.土留護岸は,斜面及び土留壁で構成され,背後の土圧及びすべりに抵抗する構造が多い.桟橋は,杭などの支柱の上に床版を載せた軽量構造物である.」 イ 2-10頁左欄 「(1) 安定性の照査 a)考慮すべき事項 直杭式横桟橋の性能照査においては,以下に示す事項のうち,必要な項目 を適切に設定して検討する. ○1上部工に生じる断面力(船舶の作用,レベル1地震動,載荷重,波浪の作用:変動状態,レベル2地震動:偶発状態)(当審注:「○1」等は数字を○で囲む文字を表す。以下同様である。) ○2上部工の疲労破壊(載荷重の繰り返し作用:変動状態) ○3杭に発生する応力(船舶の作用,レベル1地震動,載荷重:変動状態,レベル2地震動:偶発状態) ○4杭の支持力(船舶の作用,レベル1地震動,載荷重,波浪の作用:変動状態,レベル2地震動:偶発状態) ○5変形量(レベル2地震動:偶発状態)」 ウ 2―13頁右欄 「g)鋼管杭の板厚及び材質の変更 鋼管杭の板厚及び材質の変更を行う場合は,杭の断面力の分布及び施工性を十分配慮する. ○1鋼管杭の板厚又は鋼種の変更を行う場合は,杭の断面力の分布及び施工性を十分考慮すべきである. ○2杭の断面力は,深さ方向に変化し,地中部の深いところでは小さくなるのが一般的である.このため,経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更することがある. ○3鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する場合,変更する位置は杭に生じる断面力が大きくならないところですべきであるただし,大きな負の周面抵抗力が作用する場合には,これらの変更ができないことがあるので注意すること.」 エ 2-20頁左欄 「i)弾塑性解析法 本解析法は,桟橋を杭-ラーメン構造モデルに置換して,地盤の水平抵抗及び鋼管杭と上部工の弾塑性挙動を考慮して保有耐力を評価する方法である.構造が複雑な場合や斜杭を含む場合には,断面力再配分効果の影響が大きくなるものと考えられる.このような場合には,弾塑性法等による詳細な解析が必要である. 桟橋に生じる損傷イベント(塑性ヒンジの発生,地盤バネの降伏,上部工の損傷等)から桟橋の破壊形態を求める.また,最大変位及び残留変位の大きさを照査する. 弾塑性法による解析は,一般に以下の方法で行う. ○1鋼管杭 鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲げ剛性を低下させて解析を行う.」 オ 2-20頁右欄 「 [図:0001418385000003.jpg] 」 カ 図-2.1 「 [図:0001418385000004.jpg] 」 キ 図-2.2 「 [図:0001418385000005.jpg] 」 (2) 甲7記載技術 前記(1)から甲7には次の技術(以下「甲7記載技術1」及び「甲7記載技術2」という。)が記載されている。 <甲7記載技術1> 「直杭式横桟橋の性能照査においては、杭に発生する応力(船舶の作用,レベル1地震動,載荷重:変動状態,レベル2地震動:偶発状態)、杭の支持力(船舶の作用,レベル1地震動,載荷重,波浪の作用:変動状態,レベル2地震動:偶発状態)、変形量(レベル2地震動:偶発状態)を適切に設定して検討し、 杭の断面力は、深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さくなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更することがあること。」 <甲7記載技術2> 「鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲げ剛性を低下させて解析を行うこと(前記エ及びオ)。」 7 甲8 (1) 甲8に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲8には、次の事項が記載されている。 ア 4-47頁右欄 「iii)杭の継手に対する検討 本検討に使用した鋼管杭は,外径1,500mm,肉厚t=16mmである.この肉厚t=16mmは「道路橋示方書・同解説IV下部構造編」によると,外径との関係からみた最小肉厚であることから,応力に余裕の生じる下杭部でも肉厚の低減は行わない.なお,海側と陸側のクレーン基礎杭の下杭部については材質をSKK490からSKK400に下げる.」 イ 6-4頁左~右欄 「b)杭の諸元 杭の材質には,一般にSKK490あるいはSKK400が使用される.応力で決定される構造物では耐力の大きなSKK490が経済的となる場合が多い.一方,変位量の制約を受ける場合には,断面二次モーメントの大きな部材を使用することにより,許容応力度に対して発生応力度の余裕を残すことが多いため,SKK400が経済的である. また,杭の断面力は,深さ方向に変化し,地中部の深いところで小さくなる.このため,経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましい.通常の長杭の場合には,地表面下2/β~3/β(β;後述する杭の特性値)で板厚及び材質を変更するのが一般的である.」 ウ 6-11頁右欄 「c)鋼管杭について 杭のピッチを3m,斜杭の打設角度を15°とする.鋼管杭断面は港外側φ500×9mm,港内側φ500×9mmとし,その材質には応力度の大きさに応じて上部をSKK490, 下部をSKK400とする.」 エ 図-6.12 「 [図:0001418385000006.jpg] 」 (2) 甲8記載技術 前記(1)から甲8には次の技術(以下「甲8記載技術」という。)が記 載されている。 <甲8記載技術> 「応力で決定される構造物では耐力の大きなSKK490が経済的となる場合が多 いが、変位量の制約を受ける場合には,断面二次モーメントの大きな部材を使用することにより、許容応力度に対して発生応力度の余裕を残すことが多いため,SKK400が経済的であり、杭の断面力は、深さ方向に変化し、地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと。」 8 甲11 (1) 甲11に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲11には、次の事項が記載されている。 ア 12頁左~右欄 「4.2.5 くいの材質 設計外力の大きくなる場合が多い陸側のくいの材質の分布を,岸壁の計画水深別に図-24に示す。この図によると,計画水深-10m未満の岸壁では,STK400の鋼管ぐいを使用している事例がほとんどであるが,計画水深-10m以上の岸壁では設計外力が大きくなるためか,STK400の綱管ぐいを使用している割合は38%に減少し,強度の大きいSTK490の鋼管ぐいを使用している割合が62%と大きなシェアを占めるようになる。」 イ 18頁左欄 「4.2.10 くいの肉厚 くいの肉厚は,直径により最低の肉厚が決まり,その上で,応力度等の検討を行い腐食代を考慮して決定される。全体としてどのような分布になっているかを設計外力の大きくなる場合が多い陸側の上ぐい肉厚の分布で図-48に示した。この図をみると,10mm~15mm未満となっている事例が50%,15mm~20mm未満となっている事例が32%あり,この両者で全体の82%を占めている。」 (2) 甲11記載技術 前記(1)から甲11には次の技術(以下「甲11記載技術」という。)が記載されている。 <甲11記載技術> 「設計外力の大きくなる場合が多い陸側のくいの材質の分布は、計画水深-10m未満の岸壁では、STK400の鋼管杭を使用している事例がほとんどであるが、計画水深-10m以上の岸壁では設計外力が大きくなるためか、STK400の綱管ぐいを使用している割合は38%に減少し、強度の大きいSTK490の鋼管ぐいを使用している割合が62%と大きなシェアを占めるようになること。」 9 甲12 (1) 甲12に記載された事項 本件特許の出願前に発行された甲12には、次の事項が記載されている。 ア 図-4~6 「 [図:0001418385000007.jpg] [図:0001418385000008.jpg] [図:0001418385000009.jpg] 」 イ 図から読み取れる事項 図-5から、次の事項が読み取れる。 「海側よりも陸側の杭の板厚が大きく、陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚が大きいこと。」 (2) 甲12記載技術 前記(1)から甲12には次の技術(以下「甲12記載技術」という。)が記載されている。 <甲12記載技術> 「海側よりも陸側の杭の板厚を大きくすること、及び、陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること。」 10 甲13 本件特許の出願前に発行された甲13には、次の事項が記載されている。 (1) 甲13に記載された事項 ア 1頁目左~右欄 「1. はじめに PC桟橋構造とは,プレキャストPC桁と鋼管杭で支持された受梁とを現場打ちコンクリートによって連結し,連続ラーメンを形成する構造である. PC桟橋上部工は,使用限界状態においてひび割れを発生させない構造として設計されるので,塩害や中性化に対して耐久性の高い構造物となる.また,長スパンに対応可能であることから下部構造の杭の間隔を広げることができるとともに,工場製作のプレキャスト部材であることから,海上作業期間の短縮化およびコスト縮減に有効である. 本報告では,四日市港霞ヶ浦岸壁で計画されている直杭式のPC桟橋について,実構造と同じPC桁断面を有する連結部模型試験体を使用して繰返し載荷実験を行い,連結部の力学特性の確認・評価および現地施工の可能性について検討した.なお,本研究は,(独)港湾空港技術研究所,国土交通省中部地方整備局四日市港湾工事事務所,(社)日本埋立浚渫協会との共同研究により実施した. 2. 本共同研究の目的 PC桟橋において,PC梁端部の連結部(図-2の○部分)は構造的に重要な個所の一つである.その理由として,地震荷重が交番載荷される際,この個所に最大の正負繰返し断面力が発生し,桟橋の性能・構造を決定する上でこの個所の力学的評価が重要なためである. 本研究の対象である四日市港霞ヶ浦岸壁は直杭式の桟橋であり(図-1),上部工主梁が法線直角方向に配置され,地震力が上部工連結部に大きく伝わる構造となっているため,上部工主梁断面を連結部付近で大きくし(H=750mm),太径の連結鉄筋(D29)で連結する構造となっている(図-2).」 イ 図-1 「 [図:0001418385000010.jpg] 」 ウ 図-1から読み取れる事項 上記アの記載を踏まえ、図-1の記載内容から、次の事項が読み取れる。 「直杭式の桟橋は、海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭からなる鋼管杭列と法線直角方向に配置され、海面上に突出した部位にある上部工主梁からなり、 少なくとも陸側(図面右側)の鋼管杭の地中部は、φ1300mm×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK400からなる下杭で構成されている。」 (2) 甲13発明 前記(1)の記載から、甲13には次の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されている。 <甲13発明> 「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭からなる鋼管杭列と法線直角方向に配置され、海面上に突出した部位にある上部工主梁からなる直杭式の桟橋であって、 少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300mm×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK400からなる下杭で構成されている、 直杭式の桟橋。」 11 周知技術について 前記2(2)、3(2)及び4(2)から、本件特許の出願前に次の技術は周知であった。 <周知技術> 「鋼管杭に高強度鋼管を採用すること。」 12 乙1 本件特許の出願前に発行された乙1には、次の事項が記載されている。 (1)乙1に記載された事項 ア 34頁 4~15行 「 [図:0001418385000011.jpg] 」 イ 38頁3~9行 「 [図:0001418385000012.jpg] ・・・」 第7 当審の判断 事案に鑑み、以下では、無効理由3、無効理由2、無効理由4、無効理由1の順で判断する。 1 無効理由3(明確性違反)について (1)請求人の主張について 請求人は、審判請求書において次の主張をしている。 (請求人主張1) 本件発明1~3においては、「鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分」については変形性能が高いものとし、「鋼管杭の地中部の他の部分」は上記部分よりも変形性能が低いものとすることを規定している。 ここで、本件発明1~3においては、「鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分」及び「鋼管杭の地中部の他の部分」について具体的な特定がない。また、本件発明1~3において、鋼管杭のうちどこからどこまでが「鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分」であり、どこからどこまでが「鋼管杭の地中部の他の部分」であるのか、本件特許明細書を見ても明確に理解することはできない(審判請求書51頁15~23行)。 (2)判断 本件特許明細書の段落【0020】、【0021】には、港湾基準の記載と、「杭の二箇所で全塑性に達する場合は、杭と上部工の境界部分一箇所と、地中部の一箇所以上で全塑性に達することが一般的である」との理解とを前提に、「本事例のレベル2地震に対する要求性能」の一つとして「地中部で全塑性に対応する曲率を超えない」ことを定めた上で、初期断面(鋼管杭として直径900mm、板厚14mmのSKK490材を用いたもの)に対して、偶発状態のレベル2地震に対する地震応答解析を行った旨が記載されている。 そして、実施の形態1に関する段落【0023】では、初期断面では「陸側の鋼管杭の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を1.4倍程度越えてしまっている(φ=6.11×10-3)」と記載され、対応する図面である【図2】には当該部分が「○」で示されている。同様に、実施の形態2に関する段落【0033】でも、初期断面では「陸側の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を1.9倍程度越えてしまっている(φ=8.56×10-3)」と記載され、対応する図面である【図8】には当該部分が「○」で示されている。その上で、実施の形態3に対応する段落【0037】には、「実施の形態2の初期断面では、陸側の鋼管杭の地中部で全塑性モーメントに対応する曲率が発生している(図8参照)。この断面に対して、地中部における発生曲率が大きい部分に変形性能が優れる鋼管杭を用いることを検討した。」と記載され、対応する図面である【図13】には、【図8】にて「○」が付された部分付近(-15m~-23.3m)に、変形性能が優れる鋼管杭が用いられることが示されている。 以上の記載を踏まえると、請求項1における「鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分」とは、初期断面に対する地震応答解析の結果、鋼管杭の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を上回った部分を示すものと理解できる。また、「鋼管杭の地中部の他の部分」とは、鋼管杭の地中部において、初期断面に対する地震応答解析の結果、鋼管杭の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を上回った部分以外の部分を示すものと理解できる。 したがって、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された「鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分」及び「鋼管杭の地中部の他の部分」が表す内容は不明確であるとはいえない。 そして、本件特許請求の範囲の請求項1の他の記載、及び、同請求項2の記載についても不明確な点は見いだせない。 (3)請求人の主張について 審判請求人は、本件判決後において、令和6年3月15日付け上申書を提出し、次の主張(以下、「請求人主張A」という。)をしている。なお、当該上申書には、「地震応答解析法の種類を示す書面」(以下「添付物件」という。)との物件が添付されている。 (請求人主張A) 明確性要件に関し、「初期断面」は一意的に定まらず任意に変動することとなり、仮に「地震応答解析」が一意的に定められていたとしても、「鋼管杭の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を上回った部分」も一意的に定まらず、任意に変動することになり、また、「地震応答解析」で用いる地震動は一意的に定まらず任意に変動することとなり、仮に「初期断面」が一意的に定められているとしても、「鋼管杭の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を上回った部分」も一意的に定まらず任意に変動することになり、さらに、「地震応答解析」自体も、例えば添付物件に示されるように複数の手法が存在し、手法毎に解析結果が異なるものであり一意的に定まらないため、このことによっても「鋼管杭の地中部において全塑性モーメントに対応する曲率を上回った部分」は一意的に定まらず任意に変動することになる。 本件特許発明において、「鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分」が任意に変動して一意的に定まらない場合には、具体的な鋼管杭が本件特許発明の範囲に入るか否かを当業者が理解することができないことになり、本件特許発明は明確性違反するものとなる旨主張している。(令和6年3月15日付け上申書1頁8行~2頁28行) 上記主張について検討するに、「初期断面」については、本件特許明細書の段落【0021】に「変動状態の荷重条件に対して決定された鋼管杭式桟橋(鋼管杭は、直径900mm、板厚14mmのSKK490材である。以下、この断面を「初期断面」と定義する。全塑性モーメントに対応する曲率φpは4.39×10-3(φp=3.95×10-3/D=3.95×10-3/0.9=4.39×10-3で算定)に対して、偶発状態のレベル2地震に対して地震応答解析を行った。」と記載されている。 前記「初期断面」については、上記のとおり定められており、また、「地震応答解析」で用いる地震動を「偶発状態のレベル2地震」としていることから、「初期断面」及び「地震応答解析」の内容が定まらないことにはならない。 審判請求人は、「地震応答解析」で用いる地震動について、本件明細書の実施の形態2において「実施の形態1で用いたレベル2地震動の最大加速度を7.5%大きくした。」(段落【0033】)点を指摘し、一意的に定まるものではないと主張するが、「地震応答解析」で用いる地震動をどのように想定するかは、設計の対象となっている鋼管杭式桟橋に要求する性能に応じて適宜選定すべき事項である(より加速度が大きい地震動を想定して設計しようとすれば、大きい地震動を選択することになる。)から、「地震応答解析」の内容が定まらないことにはならない。 さらに、添付物件のとおり、地震応答解析法には複数の種類がある点を指摘するが、本件明細書の段落【0005】に「地震時の耐震性が求められる「耐震強化施設」では、レベル2地震動に対する照査が必須で、有限要素法による地震応答解析で検討することが一般的である。」と記載されているとおり、耐震強化施設である鋼管杭式桟橋であれば、選択される「地震応答解析」として一般的なものが選択されることは明らかである。 したがって、審判請求人主張Aを採用することはできない。 (4)無効理由3の小括 前記(1)及び(2)において検討したとおり、本件発明1及び2は不明確とはいえないから、本件特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たす。 したがって、請求人が主張する無効理由3によっては、特許法123条1項4号の規定に違反するものとして請求項1及び2に係る特許を無効とすることはできない。 2 無効理由2(サポート要件違反)について (1)はじめに 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 (2)特許請求の範囲の記載 本件発明は前記第3のとおりであるが、次に再掲する(以下、「4.39×10-3/D」、「4.90×10-3/D」、「5.65×10-3/D」の各値を順に「φp1」、「φp2」、「φp3」ということがある。)。 【請求項1】 海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列と、該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工とで構成される鋼管杭式桟橋において、前記鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であって、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとしたことを特徴とする鋼管杭式桟橋。 【請求項2】 φp≧4.90×10-3/Dを満足することを特徴とする請求項1記載の鋼管杭式桟橋。 (3)本件各発明の課題及びその解決手段 本件各発明の課題及びその解決手段は、鋼管杭式桟橋において、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分の発生曲率が曲率φpを越えないようにしたものである。 (4)実施の形態について ア 実施の形態1 実施の形態1においては、当初、鋼管杭としてSKK490材(直径900mm、板厚14mm、曲率φp=3.95×10-3/D)を用いた鋼管杭式桟橋(以下、この鋼管杭の断面を「初期断面」という。)に対し、所定の地盤定数を用いて、レベル2地震動に対する地震応答解析を行ったところ、地中部で局所的に鋼管杭の変形性能が不足し、杭の全塑性の要求性能を満足しなかった。その結果は次の【図2】のとおりである。なお、図上部の左向き矢印上の数値は残留水平変位を指し、○印が付されている箇所は、発生曲率φが曲率φpを上回った箇所、すなわち全塑性に達した箇所を示している。(段落【0021】~【0023】、【図1】、【図2】) そこで、鋼管杭の変形性能を向上させた鋼管杭(具体的には、曲率φpをφp1、すなわち4.39×10-3/Dとしたもの。直径Dが0.9mであるから4.88×10-3となる。)を用いて同様の地震応答解析を行ったところ、地中部で曲率φpを越える曲率は発生せず(地中部の発生曲率は4.82×10-3)、杭の全塑性の要求性能を満足することができた。その結果は次の【図7】のとおりである。(【0030】、【0031】、【図7】) [図:0001418385000013.jpg] イ 実施の形態2 実施の形態2では、初期断面に対し、レベル2地震動の最大加速度を7.5%大きくして地震応答解析を行ったところ、地中部で局所的に鋼管杭の変形性能が不足し、杭の全塑性の要求性能を満足しなかった。その結果は次の【図8】のとおりである。(段落【0033】、【図8】)そこで、鋼管杭の変形性能を向上させた鋼管杭(具体的には、曲率φpをφp2、すなわち4.90×10-3/Dとしたもの。直径Dが0.9mであるから5.44×10-3となる。)を用いて同様の地震応答解析を行ったところ、地中部で曲率φpを越える曲率は発生せず(地中部の発生曲率は5.36×10-3)、杭の全塑性の要求性能をほぼ満足することができた。その結果は次の【図11】のとおりである。(段落【0035】、【図11】)また、鋼管杭の変形性能を更に向上させた鋼管杭(具体的には、曲率φpをφp3、すなわち5.65×10-3/Dとしたもの。直径Dが0.9mであるから6.28×10-3となる。)を用いて同様の地震応答解析を行ったところ、地中部で曲率φpを越える曲率は発生せず、杭の全塑性の要求性能を完全に満足することができた。その結果は次の【図12】のとおりである。(段落【0036】、【図12】) [図:0001418385000014.jpg] ウ 実施の形態3 実施の形態1及び2では、鋼管杭式桟橋を構成する鋼管杭は、全て同一の直径、板厚、変形性能のものを用いることを前提として検討してきたが、実施の形態3では、発生曲率が大きくなる部分にだけ、変形性能が優れる鋼管杭を用いた。すなわち、実施の形態2における初期断面(【図8】)のうち、地中部における発生曲率が大きい部分に変形性能が優れる鋼管杭(具体的には、曲率φpをφp3、すなわち5.65×10-3/Dとしたもの。直径Dが0.9mであるから6.28×10-3となる。)を用いて同様の地震応答解析を行ったところ、残留水平変位は初期断面と変わらないものの、地中部で曲率φpを越える曲率は発生せず、杭の全塑性の要求性能を満足することができた。その結果は次の【図13】のとおりである。(段落【0037】、【図8】、【図13】) [図:0001418385000015.jpg] (5)技術常識等 本件出願日前に日本国内で頒布された刊行物である乙1(青木徹彦「構造力学」(コロナ社、昭和61年))によると、一般的な構造材料において、塑性域に達するまでの弾性範囲内においては、一軸方向の応力とひずみとの間には比例関係が成り立ち(フックの法則)、その比例定数をヤング係数と呼ぶこと、構造物に一般的に用いられる構造用鋼(軟鋼)のヤング係数の値はどの鋼種でもほぼ一定値(2.1× 106kgf/cm2。なお、同数値は本件特許明細書の段落【0003】、【0011】にあるSKK490材のヤング率として記載されている108kPaに近似している。)であることが認められ、このことは、当業者にとって技術常識であったと認められる(上記第7の12(1)ア、イ)。本件出願日前に日本国内で頒布された刊行物である甲7によると、鋼管杭を用いた直杭式桟橋の性能照査に際し、弾塑性法による解析は、鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲げ剛性を低下させて解析を行うところ、鋼管杭の曲げモーメントと曲率の関係は、下記の図(図-2.14)に示すような全塑性モーメントを上限値とするトリリニアモデルを用いるが、一般的な諸元の桟橋では、トリリニアモデルに代えて、より計算が簡単なバイリニアモデルを用いても計算結果に差があまり見られないので、バイリニアモデルを用いてもよいとされていることが認められ、このことは、当業者にとって技術常識であったと認められる。なお、本件特許明細書は、段落【0007】にて、「曲率φpは全塑性モーメントMpを曲げ剛性EI(Eは杭の鋼材のヤング率、Iは杭の断面2次モーメント)で割ることで算定できる。」と記載しているから、地震応答解析に際し、バイリニアモデルを前提としていることが読み取れる。 (6)課題を解決できると認識できるか 本件各発明は、いずれも、形式的には本件特許明細書の段落【0012】~【0015】に記載されているといえるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、示唆及び本件出願日当時の技術常識に照らし、当業者において、本件各発明の構成を採用することにより本件各発明の課題を解決できると認識できるかを順に検討する。 なお、下記イにおいて、本件発明3に対応する実施の形態である実施の形態3を参酌するため、本件発明1及び2の判断に先立って、本件特許の請求項3に係る発明及び実施の形態3について触れておく。 ア 本件特許の請求項3に係る発明について 本件特許の請求項3に係る発明(以下「本件発明3」という。)は、鋼管杭式桟橋において、鋼管杭のうち少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分の変形性能につき、「曲率φp≧φp3」という関係を満足するものとし、地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能を低いものとしたものであるところ、実施の形態3に関する上記本件明細書の記載(段落【0037】、【図8】、【図13】)には、初期断面に対する地震応答解析の結果として局所的に鋼管杭の変形性能が不足していた部分付近のみの変形性能を「曲率φp=φp3」として、それ以外の部分を初期断面と同様の変形性能とした場合に、杭の全塑性の要求性能を満足したことが示されている。この場合において、曲率φpをφp3より大きいものとした場合(「曲率φp>φp3」とした場合)にも杭の全塑性の要求性能を満足することは自明であるし、地中部の他の部分の鋼管杭の変形性能を低くすることにより、建設コストの増加との課題を解決することができることも明らかである。 したがって、本件発明3は、本件特許明細書の記載及び技術常識に照らし、当業者において、その構成を採用することにより、発明の課題を解決できると認識できるものと認められる。 イ 本件発明1及び2について 本件発明1及び2、すなわち、鋼管杭式桟橋において、鋼管杭のうち少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分の変形性能につき、「曲率φp≧φp1」(本件発明1)又は「曲率φp≧φp2」(本件発明2)という関係を満足するものとし、地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能を低いものとしたものについて、本件特許明細書には、これをそのまま実施した実施例は記載されていない。 もっとも、本件特許明細書は、バイリニアモデルを前提とした地震応答解析により、杭の全塑性の要求性能を満足させられるかを照査しているところ、バイリニアモデルでは、塑性域に達するまでの弾性範囲内では、応力とひずみとの間にはヤング係数を定数とする比例関係が成り立ち(フックの法則)、構造物に一般的に用いられる構造用鋼(軟鋼)のヤング係数の値はどの鋼種でもほぼ一定値であるとの技術常識(乙1参照)を踏まえると、本件特許明細書に記載された実施の形態における鋼管杭に発生する曲率は、初期断面や実施の形態2のように鋼管杭の全部の変形性能を同じものとしても、実施の形態3のように地中部の一部のみの変形性能を高めたものとしても、ほぼ同じ結果が得られるであろうことが理解できる。このことは、本件特許明細書に記載された初期断面(【図8】)において、鋼管杭の地上部への発生曲率が海側から順に「4.37×10-2」「3.37×10-2」「2.33×10-2」であるのに対し、実施の形態3(【図13】)における変形性能を高めていない鋼管杭の地上部への発生曲率が海側から順に「4.38×10-2」「3.41×10-2」「2.34×10-2」とほぼ一致していることや、逆に、実施の形態2及び3において、変形性能を高めたために弾性範囲内であった地中部の鋼管杭への発生曲率が「5.36×10-3」(【図 11】)、「5.37×10-3」(【図12】)及び「5.35×10-3」(【図13】)とほぼ一致していることからも裏付けられる。 そうすると、本件特許明細書の実施の形態2及び3に関する上記記載に接した当業者は、上記技術常識に照らし、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分の変形性能を「曲率φp≧φp2」という関係を満足するものとしても、杭の全塑性の要求性能を満足しつつ、地中部の他の部分の鋼管杭の変形性能を低くすることにより、建設コストの増加との課題を解決することができることを認識できるというべきである。また、実施の形態1についても、実施の形態2とはレベル2地震動の最大加速度の条件が異なっているにすぎず、開示されている技術的思想において実施の形態2と異なるところはないから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、技術常識に照らし、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分の変形性能を「曲率φp≧φp1」という関係を満足するものとした場合であっても、発明の課題を解決できると認識できるものと認められる。 (7)無効理由2の小括 前記(1)~(6)において検討したとおり、本件発明1及び2は、発明の課題を解決できると認識できるものと認められるから、本件発明1及び2は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たす。 したがって、請求人が主張する無効理由2によっては、特許法123条1項4号の規定に違反するものとして請求項1及び2に係る特許を無効とすることはできない。 3 無効理由4(実施可能要件違反)について (1) 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において次の主張をしている。 (請求人主張5) 本件特許明細書の段落【0030】に「曲率の算定式はφp=4.39×10-3/D=4.39×10-3/0.9=4.88×10-3である。この変形性能を発揮させるためには、鋼材降伏強度の特性値を315N/mm2よりも1割程度高い350N/mm2を保証できる鋼管杭を用いることで可能となる。」と記載されており、段落【0032】に「SKK490よりも変形性能が高い鋼管杭を用いることで鋼管杭の直径、板厚を減らすことができる。」と記載され、本件特許明細書の段落【0030】及び【0032】に記載された事項は、軸力がない場合に正しいといえるが、軸力が発生している場合、必ずしも正しいとはいえないから、本件発明1~3は、特許法36条4項1号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法123条1項4号に該当し、無効とすべきである(52頁8~17行)。 (2) 主張についての判断 前記本件特許の発明の詳細な説明の段落【0011】の記載を踏まえると、鋼管杭の変形能力の指標として「φp=2εp/D」とすることを前提として、本件発明1及び2が導出され得るものであることが読みとれる。 そうすると、軸力の存在を前提としない本件発明1及び2を実施するにあたり、軸力の存在を必ずも考慮したものとする必然性は見いだせない。 よって、請求人主張5によって、本件発明1及び2が実施可能ではないという理由はない。 (3) 無効理由4の小括 前記(1)及び(2)で検討したとおり、本件発明1及び2について、本件特許明細書等の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たした出願にされたものである。 したがって、請求人の主張する無効理由4によっては、請求項1及び2に係る特許は、特許法123条1項4号の規定に違反するものとして無効とすることはできない。 4 無効理由1(進歩性違反)について (1) 甲1を主引用例とした場合について ア 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲1発明との対比 a 甲1発明の「複数の鋼管杭9」は、「水底地盤に打設」されるものであり、「列状に配置され」るから、本件発明1の「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列」に相当する。 b 甲1発明の「鉄筋コンクリート製の梁43」は、「鋼管杭9の頭部」を「互いに連結」するものであり、「海洋上の現位置において施工され」るから、本件発明1の「該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工」に相当する。 c 前記a及びbを踏まえると、甲1発明の「港湾等の水域における杭式桟橋に使用する鋼管杭9の頭部が鉄筋コンクリート製の梁により互いに連結されている杭式基礎構造物40a」は、本件発明1の「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列と、該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工とで構成される鋼管杭式桟橋」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点1で一致し、次の相違 点1Aで相違する。 <一致点1> 海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列と、該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工とで構成される鋼管杭式桟橋 <相違点1A> 本件発明1の「鋼管杭」が「前記鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であっ て、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配 置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとした」ものであるのに対し、甲1発明の「鋼管杭9」がそのようなものか不明である点。 (イ) 相違点1Aについての判断 a 本件発明1の相違点1Aに係る構成は、前記2(3)に示したとおり、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分の発生曲率が曲率φpを越えないようにしたものである。 b 前記第6の11のとおり、鋼管杭に高強度鋼管を採用することが周知技術であり、 (a) 甲7記載技術1の直杭式横桟橋の性能照査において、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定して検討すること、及び、杭の断面力は、深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さくなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更することがあること、 (b) 甲7記載技術2の鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲げ剛性を低下させて解析を行うこと、 (c) 甲8記載技術の応力で決定される構造物では耐力の大きなSKK490が経済的となる場合が多いが、変位量の制約を受ける場合には,断面二次ーメントの大きな部材を使用することにより、許容応力度に対して発生応力度の余裕を残すことが多いため,SKK400が経済的であり、杭の断面力は、深さ方向に変化し、地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと、 (d) 甲11記載技術の設計外力の大きくなる場合が多い陸側の杭の材質の分布は、計画水深-10m未満の岸壁では、STK400の鋼管杭を使用している事例がほとんどであるが、計画水深-10m以上の岸壁では設計外力が大きくなるためか、STK400の綱管ぐいを使用している割合は38%に減少し、強度の大きいSTK490の鋼管杭を使用している割合が62%と大きなシェアを占めるようになること、及び、 (e) 甲12記載技術の海側よりも陸側の杭の板厚を大きくすること、及び、陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすることが、各々周知技術であるとしても、何れの周知技術からも「変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分の発生曲率が曲率φpを越えない」ようにするという技術思想が導出され得ず、また、前記周知技術をどのように組み合わせても前記技術思想を想起し、さらに前記技術思想に基づき、曲率の条件式と変形能力の異なる鋼管杭の組み合わせを有する具体的な構成を設計し得る合理的な動機もなく、技術常識ともいえない。また、甲9、10、14~21を考慮しても同様である。 よって、当業者といえども、甲1発明の「鋼管杭9」を「鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であって、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとした」ものに設計し、相違点1Aのようにすることはできないから、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件発明2について (ア) 本件発明2と甲1発明との対比 前記ア(ア)で検討したことを踏まえると、本件発明2と甲1発明とは、前記ア(ア)の一致点1で一致し、次の相違点2Aで相違する。 <相違点2A> 本件発明2の「鋼管杭」が「前記鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であっ、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.90×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとした」ものであるのに対し、甲1発明の「鋼管杭9」がそのようなものか不明である点。 (イ) 相違点2Aについての判断 相違点2Aは、相違点1Aにおいて曲率の数値範囲が異なるものである。 よって、前記ア(イ)で相違点1Aについて検討したのと同様であるから、本件発明2は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (2) 甲13を主引用例とした場合について ア 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲13発明との対比 a 甲13発明の「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭からなる鋼管杭列」は、本件発明1の「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列」に相当する。 b 甲13発明の「法線直角方向に配置され、海面上に突出した部位にある上部工主梁」は、本件発明1の「該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工」に相当する。 c 前記a及びbを踏まえると、甲1発明の「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭からなる鋼管杭列と法線直角方向に配置され、海面上に突出した部位にある上部工主梁からなる直杭式の桟橋」は、本件発明1の「海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列と、該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工とで構成される鋼管杭式桟橋」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲13発明は、次の一致点2で一致し、次の相違点1Bで相違する。 <一致点2> 海底地盤に根入れされた複数の鋼管杭によって構成される鋼管杭列と、該鋼管杭列における海面上に突出した部位に構築される上部工とで構成される鋼管杭式桟橋 <相違点1B> 本件発明1の「鋼管杭」が「前記鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であって、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとした」ものであるのに対し、甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300mm×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK400からなる下杭で構成されているが、曲率との関係が不明な点。 (イ) 相違点1Bについての判断 相違点1Bにおける本件発明1の構成は、相違点1Aと同じものである。 よって、前記(1)ア(イ)で相違点1Aについて検討したのと同様であるから、本件発明1は、甲13発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件発明2について (ア) 本件発明2と甲13発明との対比 前記ア(ア)で検討したことを踏まえると、本件発明2と甲13発明とは、前記ア(ア)の一致点2で一致し、次の相違点2Bで相違する。 <相違点2B> 本件発明2の「鋼管杭」が「前記鋼管杭列を構成する鋼管杭の一部であって、外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.90×10-3/Dという関係を満足するものとし、前記鋼管杭の地中部の他の部分は前記部分よりも変形性能が低いものとした」ものであるのに対し、甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300mm×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK400からなる下杭で構成されているが、曲率との関係が不明な点。 (イ) 相違点2Bについての判断 相違点2Bは、相違点1Bにおいて曲率の数値範囲が異なるものである。 よって、前記ア(イ)で相違点1Bについて検討したのと同様であるから、本件発明2は、甲13発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3) 請求人の主張について ア 主張について 請求人は審判請求書において、次の主張をしている。 (請求人主張6) 鋼管杭式桟橋の分野において、 (ア)強度の観点のみならず、経済性の観点から、鋼管杭の板厚又は鋼種を、その設置位置や部位ごとに変更することがあること(構成要件D) (イ)海側より陸側の鋼管杭を高強度とすることが多いこと(構成要件E) (ウ)レベル2地震動においても杭に生じる曲げモーメントが二箇所以上で全塑性モーメントに達しないことが求められていること、すなわち、レベル2地震動に対する安全性を担保する上では、少なくとも地中部では、杭に生じる曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計することが望ましいこと(構成要件F、G) (エ)弾塑性法による解析は一般に鋼管杭に生じる軸力及びモーメントに応じて杭の曲げ剛性を低下させて行うこと(構成要件G) (オ)鋼管杭用の高強度鋼として、降伏強度が315N/mm2のSKK490等は普通に用いられていること(構成要件G) (カ)経済性の観点から、桟橋の強度が安全に保障され得る限りは、鋼管杭の地中部の他の部分(相対的に曲げモーメントが大きくないところ)を、その板厚や鋼種をより安価な降伏強度の低いものとすること(構成要件D・H)は、いずれも当業者の技術常識の範囲内の事項であるということができ、鋼管杭桟橋を構成する杭の鋼材として、より高い曲げモーメントが求められる箇所にはより降伏強度が高いSKK490などの普通に用いられる鋼管杭を使用することによって、当業者が適宜実施し得る態様という以上に出るものではない(審判請求書38頁1行~39頁下から1行)。 (請求人主張7) 本件特許発明1の曲率φpの関係式自体についても、甲第7号証に記載された軸力がない場合の関係式(2.26)から近似式として単純に導出することができるものであるか、或いは、公知の当業者によく知られた公式集から単純に導出することができるものであり、鋼管杭用鋼として普通に用いられるSKK490の特性値に基づいて、曲率φpを用いて特定することができるものである。すなわち、本件特許発明1は、強度が必要な箇所に強度が大きい鋼管を用いることを、曲率と半径という公知のパラメータによって表現したという以上に出るものではないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が上記の技術常識の範囲内で適宜行い得る態様であって、これを、曲率φpという指標を用いて表現したに過ぎないものというべきである。ちなみに、その効果も、経済的な要素として当然に指向される範囲のものに過ぎず、当業者が予測することができる範囲内のものである(審判請求書40頁1~15行)。 また、審判請求人は、本件判決後において、令和6年3月26日付上申書を提出し、次の主張(以下、「請求人主張B」という。)をしている。 なお、当該上申書には、令和6年3月15日付け刊行物等提出書が添付されていて、提出する刊行物等として、刊行物1(会計検査院による平成8年度決算検査報告(以下、「検査報告」という。))、刊行物2(特許権者のカタログ「JFE-HT570P」(以下、「カタログ」という。))が示されている。 (請求人主張B) 審決において「何れの周知技術からも『杭の局所的な変形能力を上げるために、曲率が大きくなる部分にだけ変形性能が優れる鋼管杭を用いて、鋼管杭が地中部で全塑性モーメントに対応する曲率を越えない』ようにするという技術思想が導出され得ず、また、前記周知技術をどのように組み合わせても前記技術思想を想起し、さらに前記技術思想に基づき、曲率の条件式と変形能力の異なる鋼管杭の組み合わせを有する具体的な構成を設計し得る合理的な動機もなく、技術常識ともいえない。」と認定され、また、判決において「本件審決が説示するとおり、被告は、『強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること』や『杭全体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること』が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。」と認定されているところ、「鋼管杭が地中部で全塑性モーメントに対応する曲率を越えない」ようにすることは、本件特許明細書の段落【0020】に記載されているように「港湾の施設の技術上の基準・同解説」に規定されている事項であり、従前から当然に行われている事項である。 また、「曲率が大きくなる部分」というのは、「地震力が主に作用する部分」に他ならず、当該部分に変形性能が優れる(鋼材降伏強度の高い)鋼管杭を使用すること、「地震力が僅かにしか作用しない部分」については「地震力が主に作用する部分」よりも変形性能が劣る(鋼材降伏強度の低い)安価な鋼管杭を使用すること、すなわち、「曲率が大きくなる部分にだけ変形性能が優れる鋼管杭を用いて鋼管杭が地中部で全塑性モーメントに対応する曲率を越えないようにする」ことは、「検査報告」に記載されていることから、従前から行われていた事項であり、 さらに、本件特許発明におけるパラメータ式は単にSKK490よりも鋼材降伏強度が高い鋼管杭を使用することを意味するものに過ぎないところ、「カタログ」には、SKK490よりも鋼材降伏強度の高い鋼管杭が平成21年10月26日に国土交通大臣の認定を受けたことが記載されており、斯かる鋼管杭が本件特許出願時において公知公用であったことが理解でき、「曲率が大きくなる部分」すなわち「地震力が主に作用する部分」に変形性能が優れる「JFE-HT570P」を採用することの動機付けが当然に生じ、他の部分については作用する地震力及び経済性の観点から「JFE-HT570P」より鋼材降伏強度の低い安価な鋼管杭を使用することも従前から行われてきた技術常識であり、当然に行われる旨主張する。(令和6年3月26日付け上申書2頁10行~3頁30行) イ 主張についての判断 (ア) a 請求人主張6について、請求人は請求人陳述要領書の4~11頁に前記請求人主張6の(ア)~(カ)と甲各号証の記載事項との関係について説明し、また、(ア)~(カ)を組み合わせることの動機及び組み合わせた結果に基づき導かれた技術常識から、具体的な構成がどのように導出されるかについての技術的視点での特段の主張はない。 よって、前記請求人主張6の(ア)~(カ)の各々が甲各号証からみて技術常識(または周知技術)といえるとしても、前記(1)ア(イ)で説示したとおり、それらを組み合わせたものまでも技術常識(または周知技術)ということまでいえない。 b そして、杭の局所的な変形能力を上げるために、曲率が大きくなる部分にだけ、変形性能が優れる鋼管杭を用いて、鋼管杭が地中部で全塑性モーメントに対応する曲率を越えないという要求性能を満足し、曲率の条件式と変形能力の異なる鋼管杭の組み合わせを有するように設計することについて前記(ア)~(カ)から導出し得ないものであるから、甲1発明又は甲13発明に対して、前記(ア)~(カ)の各技術常識を適用しても、相違点1A及び2A、1B及び2Bに係る本件発明1及び2の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たということはできない。 (イ) 請求人主張7について、本件発明1及び2の曲率の式は前記本件特許の発明の詳細な説明の段落【0011】等の記載を踏まえると、鋼管杭の変形能力の指標として「φp=2εp/D」とすることを前提として、杭の局所的な変形能力を上げるために、鋼管杭の変形能力の指標として、全塑性モーメントMpに対応する曲率φpを用い、曲率が大きくなる部分にだけ、変形性能が優れる鋼管杭を用いて、鋼管杭が地中部で全塑性モーメントに対応する曲率を越えないという要求性能を満足するように導出されたものであるが、前記(1)ア(イ)で説示したとおりであり、請求人が主張する技術常識を単に組み合わせたとしても、前記曲率の式を導出し得たとすることまではいえない。 (ウ) 請求人主張Bは、本件判決後において提出された刊行物等に基づくものであるが、念のため、検討する。 審判請求人が示した検査報告には、杭の上部や杭の下部について、その部分に作用する力の大きさに応じた杭の材質と厚さの組み合わせを選定することや、厚さを選定すること、杭の下部については、作用する力に対して安全な場合は、SKK490よりも安価なSKK400を選定し、より経済的な設計を行う必要があると認めていること等が記載され、また、カタログには、建築基礎用鋼管杭として従来品に比べ飛躍的に強度を向上させた高強度鋼管杭『JFE-HT570P』という商品を開発したこと、当該商品を使用することで合理的・経済的な設計が可能となること、杭の板厚を低減でき、杭打設工事における施工コストの削減に貢献すること等が記載されている。 しかしながら、上記検査報告及びカタログのいずれにも、変形性能の指標として全塑性モーメントに対応する曲率Φpを用いること、また、特定部分のみに変形性能の高い鋼管を用いて発生曲率が、前記曲率Φpを超えないようにすることについての記載も示唆はないことから、上記検査報告及びカタログから、杭の局所的な変形能力を上げるために、曲率が大きくなる部分にだけ変形性能が優れる鋼管杭を用いて、鋼管杭が地中部で全塑性モーメントに対応する曲率を越えないようにするという技術思想を導出することはできない。また、他の各甲号証とどのように組み合わせても、同様である。 したがって、上記検査報告及びカタログに記載された事項をふまえても、相違点3A又は相違点3Bに係る本件発明3に相当することができないのと同様に、相違点1A又は相違点1Bに係る本件発明1の構成に想到することはできないと言わざるを得ない。 よって、請求人主張6、7及びBは、前記(1)及び(2)で検討した結果を左右するものでなく、採用できない。 そして、本件発明1及び2により、変形性能の低い従来の鋼管杭を用いた鋼管杭式桟橋であれば、レベル2地震に対する要求性能に関して、残留水平変位に対する要求性能は満足しているが、地中部で鋼管杭が全塑性モーメントに対応する曲率を越えてしまうような場合であっても、板厚を厚くしたり径を大きくしたりすることなく要求性能を満足させることが可能となるという格別の作用効果を奏するものである。 (4) 無効理由1の小括 したがって、本件発明1及び2は、甲1発明又は甲13発明及び周知技術(甲2~5及甲7~13)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法29条2項の規定に違反してなされた出願にされたものではない。 したがって、請求人が主張する無効理由1によっては、特許法123条1項2号の規定に違反するものとして請求項1及び2に係る特許を無効とすることはできない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2についての特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-800024

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    共通の審決分類: 121・E02B、536・E02B、537・E02B
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