特許異議申立
2021-701199
塗料
- 審判番号
- 2021-701199
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-512985
- 登録番号
- 6889248
- 請求日
- 2021年12月17日
- 審決日
- 2024年07月10日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ヨツン エーエス
- 【権利者代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 【異議申立人】森川 恭子
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D) / P1651.854-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6889248号発明「塗料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6889248号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17、20、21〕、〔18-19〕について訂正することを認める。
特許第6889248号の請求項1ないし21に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許にかかる出願は、平成29年(2017年)9月8日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2016年9月8日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和3年5月24日に特許権の設定登録(請求項の数21)がされ、同年6月18日に特許掲載公報が発行された。その後、同年12月17日に特許異議申立人 森川 恭子(以下「申立人」という。)により請求項1~21に係る特許に対して特許異議の申立がされた。
その後の手続は、次のとおりのものである。
令和4年 5月18日付 取消理由通知
令和4年 8月19日 訂正の請求及び意見書の提出
令和5年 2月16日付 訂正拒絶理由通知書
令和5年 7月27日付 取消理由通知(決定の予告)
令和5年10月27日 訂正の請求及び意見書の提出
令和5年12月14日 申立人による意見書の提出
なお、令和4年8月19日にされた訂正の請求は取り下げたものとみなされる。
第2 本件訂正について
1 令和5年10月27日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第6889248号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~21について訂正することを求める」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は、次の訂正事項1~訂正事項6からなるものである。
(1)訂正事項1
請求項1における「(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つの反応性希釈剤」という記載を、「(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つのポリ官能性反応性希釈剤」と訂正する。(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~21も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
請求項1において、「プライマー塗料組成物であって、」という記載を「プライマー塗料組成物であって、ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、」へ訂正する。(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~21も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
請求項10において、「前記反応性希釈剤」という記載を「前記ポリ官能性反応性希釈剤」と訂正する。(請求項10を直接または間接的に引用する請求項11~17、20、21も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
請求項14において、「前記反応性希釈剤」という記載を「前記ポリ官能性反応性希釈剤」と訂正する。(請求項14を直接または間接的に引用する請求項15~17、20、21も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
請求項18における「(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つの反応性希釈剤」という記載を「(iv)1.0~15重量%の、少なくとも一つのポリ官能性反応性希釈剤」と訂正する。(請求項18を引用する請求項19も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項18において、「キットであり、」という記載を「キットであり、ただし、前記塗料組成物においてl.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、」と訂正する。(請求項18を引用する請求項19も同様に訂正する。)
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~21は、直接または間接的に請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項1~21に対応する訂正後の請求項1~21は、一群の請求項である。したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定のように一群の請求項ごとにされたものである。
4 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1及び2
訂正事項1及び2を合わせて検討する。
ア 訂正の目的要件
訂正事項2によって、プライマー組成物に含有される「反応性希釈剤」の存在量が全体で1.0~15重量%である特定を保持しながら、訂正事項1によって、「反応性希釈剤」の種類として「ポリ官能性反応性希釈剤」であることを新たに特定したものであるから、訂正事項1及び2は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
前記アの目的からも、訂正事項1及び2は、合わせて特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1における「ポリ官能性反応性希釈剤」は、本件明細書の「【0083】前記反応性希釈剤が、モノ官能性とは逆のポリ官能性である場合、これにより乾燥プロセスがスピードアップし、かつ、架橋密度が増加するため、好ましい。」という記載に基づく訂正であり、新規事項を追加するものではない。
訂正事項2により、追加された、ただし書は、訂正前の請求項1に記載されていたものであって、新規事項を追加するものではない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、訂正事項1及び2によって、反応性希釈剤をポリ官能性反応性希釈剤のみに限定し、その濃度が0.1~15質量%と特定したことを前提として、新規事項を追加する訂正事項と主張する。
(イ)しかしながら、訂正後の請求項1において、「ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、」とあるのは、モノ官能性反応性希釈剤を含有することが排除されておらず、モノ官能性反応性希釈剤とポリ官能性反応性希釈剤の合計濃度が0.1~15質量%と特定されていることと同義と解されるから、申立人の主張は、前提に誤りがあり採用できない。
オ したがって、訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項3~5
ア 訂正の目的
訂正事項3~5は、いずれも「反応性希釈剤」を「ポリ官能性反応性希釈剤」と訂正するものである。そうすると、訂正事項3~5は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
前記アの目的から、訂正事項3~5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を実質上の拡張・変更するものでないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
前記(1)ウにおいて検討したように、訂正事項3~5における「ポリ官能性反応性希釈剤」は、本件明細書の段落【0083】に記載された事項に基づくものであり、新規事項を追加するものでないから、訂正事項3~5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正後の請求項18においては、訂正事項5により「ポリ官能性反応性希釈剤」についての含有量を特定した結果、訂正前に特定されていた反応性希釈剤の合計含有量について別途規定する必要があるところ、訂正事項6により「ただし、前記塗料組成物においてl.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、」とその合計含有量を規定するものであるから、訂正事項6は訂正事項5と併せて特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項6により追加された前記アのただし書は、訂正前の請求項18に規定されたものであるから、訂正事項6により、特許請求が実質上の拡張・変更をすることはないから、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項6により追加された前記アのただし書は、訂正前の請求項18に規定されたものであるから、訂正事項6により、新規事項が追加されることはないから、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
5 独立特許要件
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~21に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される要件は課されない。
6 小括
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~21〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件請求項1~21に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明21」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、令和5年10月27日に訂正された以下のとおりのものである。なお、分説のために記号A1~U2を当審が付した。
「【請求項1】
A1:(i)5.0~50重量%の少なくとも一つのビスフェノールFエポキシ樹脂;
A2:(ii)1.5~12重量%の少なくとも一つのシラン;
A3:(iii)0~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂;
A4:(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つのポリ官能性反応性希釈剤;および
A5:(v)少なくとも一つの硬化剤;を含む超高い固形分のプライマー塗料組成物であって、
A4’:ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成物において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、
A6:前記組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり;
A7:前記組成物は、23℃、50%RHでの粘度(ASTM D4287)が200~800cpsであり;
A8:前記硬化剤中の活性水素当量と、前記塗料組成物のエポキシ当量との比が、50:100~120:100の範囲であり、
A2’:前記シランは、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートまたは一般式(I)または(II)のものである
A9;超高い固形分のプライマー塗料組成物。
A2’’: Y-R(4-z)SiXz (I)または
Y-R(3-y)R1SiXy (II)
[式中、zは、1~3の整数であり、
yは、1~2の整数であり、
Rは、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基または、エーテルもしくはアミノリンカーを含む1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり、
R1は、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり;
Yは、対応する硬化剤またはエポキシ樹脂官能基と反応し得るRに結合した官能基であり、
各Xは、独立して、ハロゲン基またはアルコキシ基を意味する。]
【請求項2】
B1:0.5~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂を含む
B2:請求項1に記載の超高い固形分のプライマー塗料組成物。
【請求項3】
C1:請求項1または2に記載の塗料組成物であって、
C2:前記組成物は、5℃、50%RHでの粘度が300~600cpsである塗料組成物。
【請求項4】
D1:請求項1~3のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
D2:前記ビスフェノールFは、エポキシ当量重量が、300またはそれ以下である塗料組成物。
【請求項5】
E1:前記シランは、
メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、
3-メルカプトプロピルトリ(メ)エトキシシラン、
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
ガンマ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、
ベータ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、
ガンマ-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、
(メタクリルオキシメチル)トリメトキシシラン、
イソシアナートメチルトリメトキシシラン、
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、
ジエチレントリアミノプロピルトリメトキシシラン、
ビス(ガンマ-トリメトキシシリルプロピル)アミン、
N-エチル-ガンマ-アミノイソブチル(isobytyl)トリメトキシシラン、
N-フェニル-ガンマ-アミノプロピルトリメトキシシラン、
4-アミノ-3,3-ジメチルブチルトリメトキシシラン、
(N-シクロヘキシルアミノメチル)トリエトキシシラン、
(N-フェニルアミノメチル)トリメトキシシラン、
3-アミノプロピルトリエトキシシラン、
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、
N-(アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン、
3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、
3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、
(H2NCH2CH2NHCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2)、
[3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル]トリエトキシシラン、
[3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル]トリメトキシシランまたはそれらの混合物である
E2:請求項1~4のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
F1:請求項1~5のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
F2:前記シランは、エポキシ官能性シランである塗料組成物。
【請求項7】
G1:請求項1~6のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
G2:前記シランは、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランである塗料組成物。
【請求項8】
H1:請求項1~7のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
H2:前記組成物は、溶媒含有量が、5重量%未満である塗料組成物。
【請求項9】
I1:請求項1~8のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
I2:前記シランは、前記塗料組成物の2.0~10重量%を形成し、
I3:かつ/または前記炭化水素樹脂は、前記塗料組成物の2~10重量%を形成する塗料組成物。
【請求項10】
J1:請求項1~9のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
J2:前記ポリ官能性反応性希釈剤は、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルまたは1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルである塗料組成物。
【請求項11】
K1:請求項1~10のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
K2:前記塗料組成物は、固形分が少なくとも95%である塗料組成物。
【請求項12】
L1:請求項1~11のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
L2:前記硬化剤は、フェナルカミンであるか、またはポリアミン硬化剤である塗料組成物。
【請求項13】
M1:請求項1~12のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
M2:前記反応性希釈剤は、粘度が50cPsまたはそれ以下である塗料組成物。
【請求項14】
N1:請求項1~13のいずれか一項に記載の塗料組成物であって、
N2:前記ポリ官能性反応性希釈剤は、脂肪族反応性希釈剤であり、かつ、二官能性である塗料組成物。
【請求項15】
O1:23℃でのポットライフが70分より長い、
O2:請求項1~14のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項16】
P1:23℃で測定した円錐平板粘度が500cPs未満である、
P2:請求項1~15のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項17】
Q1:VOCが100g/Lまたはそれ以下である、
Q2:請求項1~16のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項18】
R1:(i)20~60重量%の少なくとも一つのビスフェノールFエポキシ樹脂;
R2:(ii)2.0~15重量%のトリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートまたは一般式(I)もしくは(II)の少なくとも一つのシラン;
R3:(iii)0~20重量%の、少なくとも一つの炭化水素樹脂;および
R4:(iv)1.0~15重量%の、少なくとも一つのポリ官能性反応性希釈剤;を含む
成分(A)と、
R5:少なくとも一つの硬化剤を含む成分(B)とを含む請求項1に記載の塗料組成物を製造するためのキットであり、
R4’:ただし、前記塗料組成物において1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、
R6:前記成分(A)と(B)とを合わせたとき、生じた塗料組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり、
R7:前記組成物は、23℃、50%RHでの粘度(ASTM D4287)が200~800cpsであり;
R8:前記硬化剤中の活性水素当量と、前記塗料組成物のエポキシ当量との比が、50:100~120:100の範囲であるキット。
R2’: Y-R(4-z)SiXz (I)または
Y-R(3-y)R1SiXy (II)
[式中、zは、1~3の整数であり、
yは、1~2の整数であり、
Rは、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基または、エーテルもしくはアミノリンカーを含む1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり、
R1は、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり;
Yは、対応する硬化剤またはエポキシ樹脂官能基と反応し得るRに結合した官能基であり、
各Xは、独立して、ハロゲン基またはアルコキシ基を意味する。]
【請求項19】
S1:請求項18に記載のキットであって、
S2:前記炭化水素樹脂が、ホルムアルデヒドと1,3-ジメチルベンゼンとの反応生成物を含むキット。
【請求項20】
T1:金属基板であって、
T2:その上に請求項1~17のいずれか一項に記載の塗料組成物が被覆された金属基板。
【請求項21】
U1:金属基板を保護するための、
U2:請求項1~17のいずれか一項に記載の塗料組成物の使用。」
第4 異議申立て理由の概要
1 証拠について
以下、甲第1号証を「甲1」などという。
(1)申立人の提示した証拠
ア 申立人は、甲第1号証~甲第41号証を提示した。
甲1:本件特許公報
甲2:申立人作成、実施例及び比較例の整理
甲3:特許第5913762号公報
甲4:国際公開第2006/016625号
甲5:特開平4-22624号公報
甲6:特開2007-191527号公報
甲7:経済産業省産業技術環境局、揮発性有機化合物(VOC)排出抑制における自主的取組の成果(日本語版)(平成29年3月)、https://www.meti.go.jp/policy/voc/nihongo2.pdf
甲8:環境省環境管理局長、大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について(通知)、平成17年6月17日
甲9:上野絵里子、コンテナ船大型化の動向、掲載年月201606(=2016年6月)
甲10:株式会社三井住友銀行企業調査部、国内の港湾の現状と今後の方向性、2019年1月
甲11:猪俣茂男外2名、船舶タンク用無溶剤型エポキシ樹脂塗料の塗装作業性改良とその計測評価、塗料の研究、No.148、64~70頁、2007年9月
甲12:社団法人日本造船工業会塗装小委員会資料、造船業における塗装作業について、1~27頁
甲13の1:申立人撮影、カーゴホールド/防食塗料のエアレス塗装と題する写真、撮影日不明
甲13の2:申立人撮影、外板/防食塗料のエアレス塗装と題する写真、撮影日不明
甲14:佐藤義雄外1名、講座「成形材料」(24)-エポキシ樹脂-、成形加工、Vol.15、No.3号(2003)
甲15:日本規格協会、JISハンドブック30「塗料(2007)」、76及び80頁
甲16の1:中道敏彦(外1名)、「トコトンやさしい塗料の本」、50~51頁、初版1刷2008年、初版17刷2021年9月30日
甲16の2:小林敏勝、「わかる!使える!塗料入門」、10~11頁、初版1刷2018年8月30日
甲17:丹田煕人、出版グラビアおよび包装グラビアインキ、色材、Vol.70、No.5、344~350頁、(1997年)
甲18:土屋昌子、顔料添加に依る合成高分子物溶液の粘度変化について、色材、Vol.28、No.2、54~56頁、(昭和31年)
甲19;国際公開第2017/146193号
甲20:特開平3-227315号公報
甲21:特開平10-168147号公報
甲22:特開2003-119234号公報
甲23:特開2007-297610号公報
甲24:須藤俊雄、無溶剤型およびハイソリッド型エポキシ樹脂塗料について、色材、Vol.53、No.11、668~675頁、(1980年)
甲25:国際公開00/46317号
甲26:特開平2-166144号公報
甲27:特開2008-75033号公報
甲28:特開2016-194045号公報
甲29:室井宗一、入門エポキシ樹脂技術[9]、月刊建築仕上技術、1991年6月号、77~81頁
甲30:中道敏彦、図解入門よくわかる顔料分散、6頁、(2009年)
甲31:石田鉄二、<高耐食性塗料>ガラスフレーク塗料について、装置と配管1991年8月号、21~26頁
甲32:特開昭63-179973号公報
甲33:荒牧輝夫、エポキシ樹脂、高分子、Vol.27、No.5、360~337頁、(1978年)
甲34:Clive H. Hare、Protective Coatings,195頁,(1994年)
甲35:田中良平、エポキシ樹脂、色材、Vol.64、No.10、655~665頁、(1991年)
甲36:アルケマ社、CRAYVALLAC ULTRA TECHNICAL DATAの出力物
甲37:T&K TOKA社、エポキシ樹脂用硬化剤 変性アミン系:フジキュアーの出力物
甲38:T&K TOKA社、エポキシ樹脂用硬化剤 ポリアミノアミド系、トーマイドの出力物
甲39:特開2014-227427号公報
甲40:Cardolite(R)(当審注:(R)は、○の中にR、以下同じ。) LITE2513HP Reactive Diluent for Epoxy Resins(Technical Datasheet)の出力物、平成21年3月
甲41:エアープロダクツジャパン株式会社、Epoxy Curing Agents and Diluents Product Guide、44頁、(1998年)
イ 申立人は、意見書の提出時に次の参考資料を提出した。
参考資料1:エアープロダクツジャパン株式会社、Epoxy Curing Agents and Diluents Product Guide、5~6頁、42頁、(1998年)
参考資料2:青木 援、「10.エポキシ系反応性希釈剤」、接着の技術、Vol.29、No.2、61~66頁、(2009年)
参考資料3:山本 充、「2.エポキシ樹脂」、接着の技術、Vol.20、No.4
(2)特許権者の提出した証拠
乙1:Anders Solli、2020年4月27日付けの実験成績証明書
乙2:Ku-sik Jung、2022年8月17日付けの実験成績証明書
乙3:TRIISO社、Epotec RD-106のデータシート
乙4:シグマ-アルドリッチ社、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのデータシート
2 申立理由の概要
申立人の主張する申立理由は次のとおりである。
(1)甲3を主引用例とする進歩性欠如
(2)甲4を主引用例とする進歩性欠如
(3)甲5を主引用例とする進歩性欠如
(4)サポート要件違背
(5)実施可能要件違背
(6)明確性要件違背
第5 取消理由に採用した証拠方法の記載事項
当審が取消理由に採用した申立理由は、前記第4、2(1)の理由である。
1 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲3には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、エポキシ系防食塗料組成物に関する。また本発明は、当該防食塗料組成物から形成された防食塗膜、並びに当該防食塗膜を備える船舶、海洋構造物等の被塗物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶のほか、橋梁、タンク、プラント等の海洋構造物には、厳しい腐食環境下に対する防食性を付与する目的で、その表面に防食塗装が施される。防食塗装の上に防汚塗料を塗り重ねることも多い。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エポキシ樹脂系の防食塗料組成物は、被塗物に対する密着性や防食性に優れる点で有利であるが、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤との組み合わせは、ポットライフが比較的短いという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、改善されたポットライフを示すエポキシ系防食塗料組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、当該防食塗料組成物を用いて形成された塗膜(防食塗膜)、並びに当該塗膜を備える船舶及び海洋構造物を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、改善されたポットライフを示すエポキシ系防食塗料組成物、これを用いて形成された塗膜、並びに当該塗膜を備える船舶及び海洋構造物を提供することができる。本発明の防食塗料組成物は、例えば船舶のほか、橋梁、タンク、プラント等の海洋構造物等に適用される防食用塗料として有用である。
・・・
【0021】
<ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)>
防食塗料組成物の第1剤(主剤)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を含有する。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を用いることにより、防食塗料組成物の低温硬化性を向上させることができるとともに、ブラスト鋼板、ショップ塗装鋼板、有機ジンク塗装鋼板等の基材(被塗物)に対する密着性を良好なものとすることができ、これにより良好な防食性を得ることができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
防食塗料組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂を含有することができる。ただし、低温硬化性、下地又は上塗り塗膜に対する密着性等の観点から、エポキシ樹脂全量に占めるビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等を挙げることができる。」
「【0050】
<シランカップリング剤(D)>
防食塗料組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤(D)を含有することができる。シランカップリング剤(D)を含有させることにより、下地及び上塗り塗膜に対する密着性、防食性、硬化性等を高め得る。シランカップリング剤(D)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
シランカップリング剤(D)の好適な例は、アルコキシシラン化合物である。アルコキシシラン化合物としては、例えば、γ-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等のγ-グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリプロポキシシラン等のγ-アミノアルキルトリアルコキシシラン;N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリプロポキシシラン等のN-フェニル-γ-アミノアルキルトリアルコキシシラン等が挙げられる。
【0052】
シランカップリング剤(D)〔固形分〕は、防食塗料組成物の固形分中に0.1~15質量%含まれることが好ましく、0.2~10質量%(例えば1~5質量%)含まれることがより好ましい。シランカップリング剤(F)の含有量が上記範囲内であると、下地及び上塗り塗膜に対する密着性、防食性、硬化性等を高めるうえで有利である。
・・・
【0059】
<その他の配合成分>
防食塗料組成物は、必要に応じて、その他の配合成分を1種又は2種以上含有することができる。その他の配合成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、溶剤、顔料、ダレ止め剤(沈降防止剤)、色分れ防止剤、消泡・ワキ防止剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、ツヤ消し剤、硬化促進剤、分散剤、粘性調整剤、表面調整剤、可塑剤、防腐剤、反応性希釈剤、非反応性希釈剤等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、石油系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂を含有させることにより、塗膜物性を改善することができることがある。」
「【0064】
<防食塗料組成物の調製>
本発明に係る防食塗料組成物は、エポキシ樹脂を用いた一般的な防食塗料と同様にして調製することができる。本発明に係る防食塗料組成物は2液型であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を少なくとも含有する第1剤(主剤)と、脂環式アミン系硬化剤(B)及びモノエポキサイド化合物(C)を少なくとも含有する第2剤(硬化剤)とからなる。第1剤、第2剤はいずれも溶剤を含有することができる。通常、使用する直前に第1剤と第2剤とを混合して被塗物に塗装する。
【0065】
2液型の防食塗料組成物において、シランカップリング剤(D)、(メタ)アクリレート化合物(E)、及びその他の配合成分は、第1剤、第2剤のいずれに配合されてもよく、あるいは両者に配合されてもよい。通常、シランカップリング剤(D)及び(メタ)アクリレート化合物(E)は第1剤に配合される。」
「【0066】
<防食塗料組成物の塗装>
防食塗料組成物の被塗物への塗装は、刷毛、ローラー、スプレー等の一般的な方法により行うことができる。具体的には、使用する直前に第1剤と第2剤とを混合することにより得られる塗料組成物を、上記方法を用いて塗装する。第1剤と第2剤とを混合することにより得られる塗料組成物の被塗物への塗装は、第1剤と第2剤との混合後、ポットライフ(可使時間)内に行う。本発明に係る防食塗料組成物によれば、ポットライフが長いため、塗装作業性を向上させることができる。塗装を行った後、乾燥処理を行って防食塗膜を形成することができる。乾燥温度は、通常、常温(20~35℃程度)であるが、これより低い温度で行うことも可能である。
【0067】
被塗物(防食塗料組成物が塗装される対象物)としては、防食を必要とするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、船舶(船舶のバラストタンク内表面や、船底部、外板部等)のほか、橋梁、タンク、プラント(石油プラント等)、パイプ等の海洋構造物等であることができる。防食塗料組成物が塗装される被塗物表面の材質は、例えば、鋼等の鉄系金属、非鉄金属、コンクリート、旧塗膜等の塗料からなる塗膜等であることができる。旧塗膜とは、以前に形成され、使用に供されたことのある塗膜又はその一部をいう。
【0068】
本発明に係る防食塗料組成物は、被塗物の表面に下塗り塗膜を形成した後、その上に上塗り塗膜を形成する塗装方法(複合塗膜の製造方法)に好適に適用することができる。この方法において本発明に係る防食塗料組成物は、下塗り塗膜の形成に用いることができる。下塗り塗膜は複数の塗膜の積層構造であってもよく、この場合、本発明に係る防食塗料組成物は、例えば、最表面の(上塗り塗膜に接する)下塗り塗膜の形成に用いられる。
【0069】
本発明に係る防食塗料組成物からなる下塗り塗膜の下地は、例えば、さび止め塗装、ショップ塗装、有機又は無機ジンクプライマー塗装された塗膜等を挙げることができる。被塗物の表面はブラスト処理されていてもよい。」
「【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、表中の「PVC」を除き、特に明記しない限り、部及び%は質量基準である。
【0075】
<実施例1~7、比較例1~4>
表1に示される配合処方に従い、各配合成分を混合して、第1剤(主剤)及び第2剤(硬化剤)をそれぞれ調製し、2液型防食塗料組成物を得た。表1に示される各配合成分の詳細は次のとおりである。なお、表に示す配合量の単位は、固形分換算した質量部である。
【0076】
〔1〕ビスフェノールA(BFA)型エポキシ樹脂(A):ダウケミカル社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名「DOW331」、エポキシ当量:189g/eq、数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算):355、不揮発分(固形分):100質量%、
〔2〕ビスフェノールF(BFF)型エポキシ樹脂:DIC株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂、商品名「EPICLON 830」、エポキシ当量:180g/eq、数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算):290、不揮発分(固形分):100質量%、
〔3〕硬化剤(B-1):エアープロダクツ社製の変性脂環式ポリアミン、商品名「アンカミン 2280」、アミン当量:110mg KOH/g、不揮発分(固形分):54質量%、
〔4〕硬化剤(B-2):大都産業株式会社製の脂肪族ポリアミン、商品名「ダイトクラール D-6017」、アミン当量:104mg KOH/g、不揮発分(固形分):100質量%、
〔5〕モノエポキサイド化合物(C-1):Cardolite社製の3-n-ペンタデカジエニルフェニルグリシジルエーテル、商品名「Cardolite Lite 2513HP」、エポキシ当量:413、不揮発分(固形分):100質量%、
〔6〕モノエポキサイド化合物(C-2):エアープロダクツ社製のアルキルグリシジルエーテル化合物(アルキル部分の炭素数12~14)、商品名「Epodil 748」、エポキシ当量:288、不揮発分(固形分):100質量%、
〔7〕ジエポキサイド化合物:エアープロダクツ社製のネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、商品名「Epodil 749」、エポキシ当量:137、不揮発分(固形分):100質量%、
〔8〕シランカップリング剤(D):EVONIK DEGUSSA社製のγ-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、商品名「DYNASYLAN GLYMO」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔9〕着色顔料1:石原産業株式会社製の酸化チタン(白色顔料)、商品名「CR50」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔10〕着色顔料2:チタン工業社製の黄色酸化鉄、商品名「TAROX 合成酸化鉄 LL-XLO」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔11〕体質顔料1:日本板硝子株式会社製のガラスフレーク、商品名「RCF-140」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔12〕体質顔料2:富士タルク工業株式会社製のタルク、商品名「タルク 34-N」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔13〕防錆顔料:株式会社ノリタケカンパニー製の半水石膏(β石膏):商品名「TA-85N」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔14〕ダレ止め剤:楠本化成株式会社製のダレ止め剤、商品名「ディスパロン6700」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔15〕消泡剤:楠本化成株式会社製の消泡剤、商品名「ディスパロン#1983」、不揮発分(固形分):100質量%、
〔16〕溶剤:ベンジルアルコール。
【0077】
硬化剤(B-1)は、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンを主成分として含み(60質量%以上)、この他、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)シクロヘキシルアミン、及び、部分的に水素化されたトリメチレンテトラアニリン又はその類似体等を含むポリアミンの混合物である。
【0078】
【表1】
[図:0001415246000001.jpg]
【0079】
なお、表1において、「アミン/エポキシ 当量比」における「アミン」とは、上記成分〔3〕~〔5〕の総称であり、「エポキシ」とは、上記成分〔1〕、〔2〕、〔5〕~〔7〕の総称である。また表1において、「(C)/(B)当量比(第2剤)」とは、第2剤に含有されるモノエポキサイド化合物(C)〔固形分〕とアミン系硬化剤(B)〔固形分〕との当量比を意味し、「(C)/(B)当量比(防食塗料組成物)」とは、防食塗料組成物全体に含有されるモノエポキサイド化合物(C)〔固形分〕とアミン系硬化剤(B)〔固形分〕との当量比を意味する。
【0080】
得られた2液型防食塗料組成物の第1剤(主剤)と第2剤(硬化剤)とを表1における「合計」欄に示される量比(例えば実施例1の場合、第1剤:第2剤=79.32質量部:18.26質量部)で混合し、十分に攪拌、均一化させた。得られた混合塗料(防食塗料組成物)について、以下の評価試験を行った。試験結果を表2に示す。ただし、比較例4においては、第2剤(硬化剤)がゲル化を生じたため、ポットライフについて評価試験を実施することができなかった。」
「【0081】
[1]ポットライフ評価試験
JIS K 5600-2-6:1999に準拠し、5℃、10℃、及び25℃における防食塗料組成物のポットライフを測定した。
【0082】
[2]耐電気防食性評価試験(陰極防食試験)
まず、グリッドブラスト鋼板(7cm×15cm×3.2mm)に、日本ペイントマリン(株)製の無機ジンクショッププライマー(商品名「セラモ」)を、その乾燥塗膜厚が約15μmとなるように塗装し、7日間乾燥させることにより、プライマー処理鋼板を作製した。次いで、当該プライマー処理鋼板に、乾燥塗膜厚が約250μmとなるように、調製直後の上記防食塗料組成物を、エアスプレーを用いて塗装し、23℃×65%RHの雰囲気下で7日間乾燥させることにより各試験塗板を得た。この試験塗板を用いて、ASTM G8-90に準じて試験を行い、評価した。すなわち、まず当該試験塗板の試験面(塗装面)の浸漬部分の中央に6.3mmφのドリルの刃を用いて6.3mmφ大の素地露出部を形成した板を作製した。次いで、この板を、NaCl、Na2SO4、及びNa2CO3をそれぞれ1重量%含む40℃の水溶液に浸漬しながら1.5Vの電位をかけ、1ヶ月後の素地露出部からの塗膜の剥離部の長さ〔クリープ幅、mm〕を測定した。表2に記載の数値(クリープ幅)は、上記3種類の水溶液に浸漬した結果の平均値である。
・・・
【0086】
【表2】
[図:0001415246000002.jpg]
」
2 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲4には次の記載がある。
「[0002] 船舶の塗装は、従来は、船底、水線部、外弦部、暴露甲板、ボイドスペース、コファーダム、エンジンフレーム、カーゴホールド、カーゴタンク、ウォーターバラストタンクなどの部位に分かれており、この船体の各部位毎に、異なる配合と銘柄の防食塗料を塗装し、その上に、場合によっては該防食塗料の塗膜表面に更にバインダーコートを形成し、さらにその上に、非スズ系防汚塗料あるいは、甲板用上塗り塗料等のそれぞれ異なる上塗り塗料を塗装していた。
[0003] しかし、船舶はブロック毎に製造し、これを組立てて製造するため、塗装作業は作業性の面から各ブロック毎に行われている。各ブロックにおいても、さらに部位別に異なる塗料を塗装する必要があり、塗装作業は非常に煩雑となり、塗装ミスも多かった。また、このような塗装法において塗料の使用間隔が空いてしまうことが多く、一般の二液反応硬化型のエポキシ塗料では、次に使用する際には硬化してしまうため塗料の無駄が多かった。
[0004] このような造船工程において、耐候性、各種上塗り塗料との付着性、防食性等に優れたユニバーサルプライマー(単一プライマー)を用いれば、下地処理を行った全てのブロックに単一のプライマー塗装をすることができ、煩雑さ、塗装ミス、塗料の無駄などが解消される。
このようなユニバーサルプライマーとして、エポキシ樹脂、塩化ビニル系共重合体、およびポリアミドまたはその変性物からなる硬化剤からなる防食塗料組成物が開発されている(例えば、特許文献1および2)。
[0005] しかしながら、この防食塗料組成物は、エポキシ樹脂およびアミン系硬化剤に固形のものが用いられるため塗料組成物の固形分含量(ボリュームソリッド)が60%前後になり、溶剤の含有量が残り40%前後と多く、VOC規制(溶剤総量規制)に対しては不充分であった。つまり、ユニバーサルプライマーは全てのブロックおよびその塗装部位に単一のプライマーとして使用されるので、溶剤の総量が多くなり環境中に放出される溶剤量に影響を及ぼす。したがって、環境保護の面からは低溶剤性であることが望まれていた。このような観点から、ハイソリッド(固形分含量72~100容量%)であれば、溶剤の含有量が少なくなるためVOC規制(溶剤総量規制)の観点から好ましく、環境への影響が軽減される。」
「[0011]また、本発明は、特に、塗装時の固形分含量が高く溶剤含量は少量で、1日に2回ものコーティング(1day 2 coatings,2coat/day)が実現できハイソリッド性、急速硬化性に優れ、しかも低温硬化性に優れ、容易に厚膜塗膜を得ることができ塗装の作業効率と作業者の作業環境を向上させることができ、しかも得られた塗膜は防食性と層間接着性に優れ、従来のタールエポキシ防食塗料を用いた塗膜と同等程度の防食性を発揮でき、カーゴタンク、バラストタンク等の船体各部位に好適に使用し得る非タール系防食塗料を提供することを目的としている。」
「[0016] 本発明のハイソリッド防食塗料組成物においては、防食塗料組成物の塗膜形成成分の固形分含量が72~100容量%であることが好ましく、特に75~85容量%であることがより好ましい。
本発明に係るプライマー組成物は、上記のいずれかに記載のハイソリッド防食塗料組成物からなることを特徴とする。」
「[0021] ・・・
本発明においては、ハイソリッド防食塗料組成物、およびハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物の何れの場合においても、エポキシ樹脂(al)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、およびビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種選択されることが好ましい。
[0022]本発明では、ハイソリッド防食塗料組成物、およびハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物の何れの場合においても、エポキシ基を有する反応性希釈剤(a2-l)が、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、バーサティック酸グリシジルエステル、α-オレフィンエポキサイド、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、およびアルキルフェニルグリシジルエーテルからなる群から少なくとも1種選択されることが好ましい。」
「[0044] 本発明に係るハイソリッド防食塗料組成物は、固形分含量が多く低溶剤性に優れるため、塗装作業者の衛生面の向上や環境保護の面において有効である。さらに、本発明のハイソリッド防食塗料組成物は、防食塗料の種類や配合を、船体の各塗装部位毎に変えなくても、1種類の防食塗料により船舶の各塗装部位に適用することができ、この防食塗料から得られる塗膜は、防食性、耐候性、各種上塗り塗膜との付着性に優れ、上塗り塗装までのインターバルが長くても上塗り塗膜との密着性が劣ることがない。」
「[0050] 特に、このハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物は、該塗料を構成する成分(後述する主剤成分(A)と硬化剤成分(B))をそれぞれ別々の導入管を介して予めスタティックミキサーに圧送し混合した後、形成されたハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物をスプレーガン(2シリンダーエアレススプレー塗装機)に導いて基材表面に塗装することができる。なお上記スタティックミキサーに代えて、ライン輸送中に攪拌、混合するようにしてもよい。
[0051] ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物の好適な塗装条件は例えば、1次(空気)圧l~5kgf/cm2、2次(塗料)圧100~300kgf/cm2が採用でき、より具体的には、例えば、1次(空気)圧3kgf/cm2、二次(塗料)圧240kgf/cm2でスプレーガン移動速度50~120cm/秒、被塗物とスプレーガンとの距離15~100cmが挙げられる。
[0052] 本発明では、このハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物の塗装にこの塗装方法を採用することにより、特に、塗料の乾燥硬化時間と船舶等の建造工程、工期に合わせて、例えば、塗料の可使時間を10分以上、塗装後塗膜の乾燥硬化に必要な時間を8時間以内とするように、塗料の適正な可使時間の調整が良好に可能となっている。このように、VOCフリーとも言うべきこのハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物を、塗装機として上記2液混合エアレス塗装機を使用して塗装することで、塗装工期短縮と大幅な合理化を図ることができ、1日に2回もの塗装が可能である。
[0053] しかもこの第2の塗料は、揮発性有機化合物特に溶剤として常圧での沸点が150℃以下の低沸点有機溶媒を実質上含まず、溶剤としては、実質上、その沸点が常圧下で150℃を超え、好ましくはベンジルアルコール(沸点205.45℃)のようにその沸点が150℃を超える高沸点有機溶剤(のみ)を含有している点に特徴があり、揮発性有機溶剤の使用を解消(VOCフリー)し作業者の塗装環境の改善、揮発性有機化合物(VOC、volatile organic compounds)規制への対策の点でも有利である。またその高沸点有機溶剤の沸点の上限値は、特に限定されないが通常350℃かそれ以下程度までである。
[0054]この第2の塗料(ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物)中には、高沸点有機溶剤は、例えば、0.01~20重量%、好ましくは1~7重量%程度の量で、換言すれば塗料中の固形分(塗膜形成性成分)100重量部に対して、0.01~20重量部、好ましくは1~7重量部の量で含有していることが塗装作業性、被塗物表面の防食性の確保の点で望ましい。」
「[0067] しかも、本発明では、反応性希釈剤(a2-l)などの添加剤(a2)と、石油樹脂等の塗膜改質剤(ab)は、塗料組成物中に、多くの場合主剤成分(A)100重量部中に、合計{(a2)+(ab)}で、通常、1~20重量部、好ましくは3~15重量部、特に好ましくは5~15重量部の量で配合されてなることが望ましい。なお、本発明では、例えば、後述する表1~2、表7に示すように、上記添加剤(a2)と塗膜改質剤(ab)の何れか一方のみを上記量で用いることが作業効率、塗料の調製コストの点から多い。」
「[0070] このようなエポキシ樹脂(al)としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、たとえば、エピクロルヒドリン-ビスフェノールAエポキシ樹脂等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;
エピクロルヒドリン-ビスフェノールADエポキシ樹脂等のビスフェノールAD型エポキシ樹脂;
エピクロルヒドリンとビスフェノールF(4,4’-メチレンビスフェノール)とが反応した構造のエポキシノボラック樹脂等のビスフェノールF型エポキシ樹脂;
3,4-エポキシフェノキシ-3’,4’-エポキシフェニルカルボキシメタン等の脂環式エポキシ樹脂;
エピクロルヒドリン-ビスフェノールAエポキシ樹脂中のベンゼン環に結合している水素原子の少なくとも一部が臭素置換された構造の臭素化エポキシ樹脂;
エピクロルヒドリンと脂肪族2価アルコールとが反応した構造の脂肪族エポキシ樹脂エピクロルヒドリンとトリ(ヒドロキシフェニル)メタンとが反応した構造の多官能性エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、好ましいエポキシ樹脂(al)は、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型およびビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂である。」
「[0076] これらの反応性希釈剤(a2-l)のうちでは、アルキルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテルが低粘度であり、希釈効果(塗料の低粘度化)を発揮でき、塗料のハイソリッド化(すなわち、塗料中の固形分濃度が高く、低溶剤含量となり、少ない塗装回数で塗膜の厚膜化を図ることができること。)を図ることができ、塗装作業性の改善、可使時間の調整、低公害化を図ることができるため好ましい。
[0077] これら反応性希釈剤(a2-1)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。このような反応性希釈剤(a2-l)としては、「エポジール759」{アルキル(C12―C13)グリシジルエーテル、エアープロダクツ社製、エポキシ当量285}、「カードライトNX4764」{アルキルフェノールグリシジルエーテル、カードライト社製、エポキシ当量400}が挙げられる。」
「[0105] その他の成分
本発明で用いられる主剤成分(A)中に、上記諸成分の他に、必要に応じて、顔料、溶剤、シランカップリング剤、タレ止め・沈降防止剤、可塑剤、無機脱水剤(安定剤)、防汚剤、その他の塗膜形成成分などを、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
・・・
[0111] 主剤成分(A)の構成成分として必要に応じて用いられるシランカップリング剤は、通常、同一分子内に2種の官能基を有し、無機質基材に対する接着力向上、塗料粘度の低下等に寄与でき、たとえば、式:X-Si(OR)3[Xは、有機質との反応が可能な官能基(例:アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、またはこれらの基を含有する炭化水素基等の基を示し、この炭化水素基にはエーテル結合等が存在していてもよい。)またはアルキル基を示し、ORは、加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基)を示す。]で表わされる。
[0112] このようなシランカップリング剤としては、具体的には、たとえば、「ΚΒΜ403」(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)、「シランS-510」(チッソ(株)製)等が挙げられる。
このようなシランカップリング剤を配合する場合には、シランカップリング剤は、塗料組成物100重量部中に、0.1~10重量部、好ましくは0.5~5重量部の量で含有されていることが望ましい。このような量でシランカップリング剤を主剤成分(Α)の中に含む塗料組成物を用いると、付着性などの塗膜性能が向上し、特にハイソリッド防食塗料組成物では塗料粘度を下げ作業性が向上する。」
「[0265][実施例16~18、比較例5]
<ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物の製造例>
表7に示す配合組成にしたがい、防食塗料組成物の主剤成分および硬化剤成分を調製した。実施例16~18のハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物を製造するに際しては、主剤成分、硬化剤成分共に、ハイスピードディスパーを用い配合物を均一に混合して製造した。
[0266] ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物を塗装する際にはこの主剤成分、硬化剤成分を表7に示した重量比で混合して用いた。
このハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物等について、上記実施例1と同様にして各種性能を試験した(但し、上記実施例1等における試験と相違する点は、上記各試験の説明、または表7~9及びその<注(表7~9)>で記載)。
[0267]試験結果を表8~9に示す。
[0268][表7]
[図:0001415246000003.jpg]
[0269][表8]
[図:0001415246000004.jpg]
[0270][表9]
[図:0001415246000005.jpg]
」
「[0271]<注(表7~9)>
(使用原材料)
(a1)エポキシ樹脂:
「AER260」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(常温で液状)、旭化成エポキシ(株)、エポキシ当量190、NV100%)
(a2)添加剤:
(a2-1)反応性希釈剤:
「Epodil 759」(アルキル(C12-C13)グリシジルエーテル、エアープロダクツ社製、エポキシ当量285)。
[0272]
(ab)石油樹脂:
「Necires EPX-L2」(インデン・スチレン系、Nevcin Polymers co.製)。
(bl)脂環式アミン系硬化剤:
ノルボルナンジアミンとエポキシ樹脂とのアダクト(NBDAアダクト)、
(イ)「NAD-7」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量140)。
[0273]
(ロ)「SUNMIDE NB-905」(エアープロダクツ社製、活性水素当量90)。
(b2)マンニッヒ型硬化剤:
「WH-039」(MXDAマンニッヒポリアミン、大日本インキ(株)製、活性水素当量98)。
<その他の成分>:
(イ)マイカ(商品名「スゾライトマイカ200HK」、クラレ(株)製)。
(ロ)ベンジルアルコール(東ソー(株)製、沸点:205.45℃。)
(ハ)カーボンブラック(「MA-100」、三菱化学(株)製)。
(ニ)「シランS-510」(シランカップリング剤、チッソ(株)製)。
(ホ)タレ止め剤(商品名「ASA T-250FJ、伊藤精油(株)製)。
(へ)3級アミン(商品名「Ancamine K-54」、エアープロダクツ社製)。
(ト)カリ長石(商品名「KM-325」、コマーシャルミネラル社製)。
(チ)硫酸バリウム(商品名「Barico 300W」、白水化学工業(株)製)。
<比較例5>
(イ)「ノバ5000 ライトグレー主剤」(製品の一般名:無溶剤エポキシ塗料、中国塗料(株)製)。
(ロ)「ノバ5000 硬化剤」(製品の一般名:無溶剤アミン硬化剤(変性ポリアミン)、中国塗料(株)製)。」
3 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲15には次の記載がある。
「K5500
番号:用語 :定義
1094:プライマー:塗装系の中で素地に初めに用いる塗料。・・・」
4 技術常識を示す甲16の1の51頁には次の記載がある。
「
[図:0001415246000006.jpg]
」
5 技術常識を示す甲16の2には次の記載がある。
「
[図:0001415246000007.jpg]
」
6 公知の化合物の物性を示す甲40には訳文にして次の記載がある。
「Cardolite(R) LITE 2513HP
25℃での粘度(cPs)の標準値は30cPsである。」
第6 令和5年7月27日付けで通知した取消理由についての判断
前記取消理由は、甲3を主引用例とした進歩性についてのものである。
1 甲3発明
前記第4、3(6)に摘記した甲3の実施例2から次の発明(以下「甲3発明」という。)が認定できる。「BFA型エポキシ樹脂を18.37重量部、BFF型エポキシ樹脂を15.86重量部、シランカップリング剤(D)を1.50重量部、着色顔料1を0.44重量部、着色顔料2を0.39重量部、体質顔料1を14.27重量部、体質顔料2を19.72重量部、防錆顔料を5.36重量部、ダレ止め剤を1.11重量部、消泡剤を0.30重量部、溶剤を2.00重量部の計79.32重量部である第1剤及び硬化剤(B-1)を16.60重量部、モノエポキサイド化合物(C-1)1.66重量部の計18.26重量部である第2剤を含有し、第1剤と第2剤とを混合した後のアミン/エポキシ当量比が0.81であり、NVが89.82質量%である防食塗料組成物。」
2 本件発明1との対比
(1)甲3発明の「BFF型エポキシ樹脂」は、本件発明1の「ビスフェノールFエポキシ樹脂」に相当する。また、甲3発明における、BFFエポキシ樹脂の「15.86重量部」は、重量%に換算すると15.86/(79.32+18.26)=15.86/97.58=16.25重量%であるから、本件発明1のA1「5.0~50重量%」を充足する。
(2)甲3発明の「シランカップリング剤」は、前記第4、1(6)に摘記した甲3の段落0076の記載から、γ-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである。そうすると、本件発明1における式(1)において、Xがメトキシ基、zが3、Rが炭素数3のヒドロカルビル基であって、Yがグリシジルオキシ基であって、グリシジルオキシ基は硬化剤であるアミンと反応可能であることは技術常識であるから、甲3発明の「シランカップリング剤」は、本件発明1の構成A2’’に規定された「シラン」に相当する。また、前記(1)と同様に、その重量部1.50重量部は、有効数字を考慮すると、本件発明1の「1.5~12重量%」を充足する。
(3)甲3発明の「硬化剤(B-1)」は、本件発明1の「硬化剤」に相当する。また、甲3発明の硬化剤のアミン当量及びエポキシ当量は、それぞれ、硬化剤中の活性水素の当量及びエポキシ当量に相当し、甲3発明の「アミン/エポキシ当量比が0.81」は、本件発明1の「前記硬化剤中の活性水素当量と、前記塗料組成物のエポキシ当量との比が、50:100~120:100の範囲」を充足する。
(4)甲3発明には石油樹脂は含まれていないので、本件発明1における構成A3「0~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂」のうち0重量%を選択したものに相当する。
(5)甲3発明の「モノエポキサイド化合物(C―1)を1.66重量部」は、反応性希釈剤であるから、本件発明1の「A4’:ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成物において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、」に相当する。
(6)甲3の段落【0068】には、「本発明に係る防食塗料組成物は、下塗り塗膜の形成に用いることができる。」と記載されているから、甲3発明は下塗り、すなわち「プライマー塗料組成物」であるといえる。
(7)甲3発明のNVが89.82質量%という事項は、有効数字を考慮すれば、本件発明1の「A6:前記組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり」及び「A9;超高い固形分のプライマー塗料組成物。」に相当する。
3 本件発明1との一致点・相違点
以上から、甲3発明と一致点・相違点は以下のとおり。
(1)一致点
本件発明1と甲3発明は次の点で一致する。
「A1:(i)5.0~50重量%の少なくとも一つのビスフェノールFエポキシ樹脂;
A2:(ii)1.5~12重量%の少なくとも一つのシラン;
A3:(iii)0~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂;
A5:(v)少なくとも一つの硬化剤;を含むプライマー塗料組成物であって、
A4’:ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成物において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、
A6:前記組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり、
A8:前記硬化剤中の活性水素当量と、前記塗料組成物のエポキシ当量との比が、50:100~120:100の範囲であり、
A2’:前記シランは、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートまたは一般式(I)または(II)のものである
A9;超高い固形分のプライマー塗料組成物。
A2’’: Y-R(4-z)SiXz (I)または
Y-R(3-y)R1SiXy (II)
[式中、zは、1~3の整数であり、
yは、1~2の整数であり、
Rは、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基または、エーテルもしくはアミノリンカーを含む1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり、
R1は、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり;
Yは、対応する硬化剤またはエポキシ樹脂官能基と反応し得るRに結合した官能基であり、
各Xは、独立して、ハロゲン基またはアルコキシ基を意味する。]」
(2)相違点
本件発明1と甲3発明とは次の2点で相違する。
ア 相違点3-1
本件発明1においては、「A4:(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つのポリ官能性反応性希釈剤」を有するのに対して、甲3発明においては、モノ官能性反応性希釈剤が用いられている点。
イ 相違点3-2
本件発明1においては、「A7:前記組成物は、23℃、50%RHでの粘度(ASTM D4287)が200~800cpsであ」るのに対して、甲3発明においては、粘度が不明である点。
4 相違点についての判断
(1)相違点3-1について
ア 甲3の段落【0076】には、ポリ官能性反応性希釈剤に相当する「〔7〕ジエポキサイド化合物:エアープロダクツ社製のネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル」について記載されているが、同段落【0078】【表1】において、モノエポキサイド化合物に代えて比較例1に用いられているものである。
イ そして、同段落【0086】【表2】によると、ポリ官能性反応性希釈剤を用いた比較例1においては、ポットライフが短くなっていることから、甲3発明のモノエポキサイドをポリエポキサイドに置き換えること、すなわち、モノ官能性反応性希釈剤をポリ官能性反応性希釈剤に置き換えることには、阻害要因があることになる。
ウ そうすると、相違点3-1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたということができない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、ポリ官能性反応性希釈剤は、モノ官能性反応性希釈剤に比べて、硬化特性が高いことから、甲3発明におけるモノ官能性反応性希釈剤をポリ官能性反応性希釈剤に置き換えることは容易であると主張する。
(イ)しかしながら、甲3に接した当業者にとって、モノ官能性反応性希釈剤に代えてポリ官能性反応性希釈剤を採用することに阻害要因があることは前記イに検討したとおりである。したがって、申立人の主張は採用できない。
(ウ)申立人は、意見書において、甲3の比較例1において、ポットライフが短くなっているが、反応性希釈剤の選択以外の手段でポットライフを伸ばせることは技術常識であるから、ポリ官能性反応性希釈剤を採用することの阻害要因はないと主張するが、反応性希釈剤の選択以外の手段を採用しなければならないということ自体が阻害要因であるから、申立人の主張は採用できない。
(2)相違点3-2について
ア 特許権者が提示した乙1によると、甲3の実施例4を再現した組成物の23℃での粘度は、2000cps以上と認められる。そして、甲3の実施例4と甲3発明とでは、第1剤(主剤)が一致し、硬化剤が少し異なるだけであるので、甲3発明においても、23℃での粘度は2000cps以上と推測できるから、相違点3-2は実質的な相違点である。そして、甲3発明の粘度を200~800cpsとする動機付けがあったとしても、2000cps以上の粘度の組成物を固形分濃度をキープしたまま、800cps以下とすることが可能であるとはいえない。したがって、相違点3-2を当業者が容易に想到しうるということはできない。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許権者が乙1によってした甲3の実施例4における粘度の証明は、甲3の実施例2における粘度に当てはまるといえないから、取消理由は解消していないと主張する。
(イ)しかしながら、甲3の実施例2の粘度について、申立人が証明しているわけではなく、また、甲3発明の23℃での粘度が200~800cpsの範囲内と認めるに足りる証拠はない。そうすると、甲3発明の23℃における粘度は甲3の実施例4における粘度と同程度とみるほかない。申立人の主張は採用できない。
5 本件発明2~21に対して
本件発明2~21は、本件発明1を包含し、更に発明特定事項を追加した発明であるから、本件発明1と同様に甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
6 小括
以上から、本件発明1~21は、甲3発明に及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明といえないから、特許法第113条第2号に該当ぜず、本件発明1~21に係る特許を取り消すことはできない。
第7 前記第4、2(2)の申立理由(進歩性)についての判断
1 甲4には、次の記載がある。
「請求の範囲
・・・
[19] 請求項1~18のいずれかに記載のハイソリッド防食塗料組成物からなるプライマー組成物。」
「[0265][実施例16~18、比較例5]
<ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物の製造例>
表7に示す配合組成にしたがい、防食塗料組成物の主剤成分および硬化剤成分を調製した。実施例16~18のハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物を製造するに際しては、主剤成分、硬化剤成分共に、ハイスピードディスパーを用い配合物を均一に混合して製造した。
[0266] ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物を塗装する際にはこの主剤成分、硬化剤成分を表7に示した重量比で混合して用いた。
このハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物等について、上記実施例1と同様にして各種性能を試験した(但し、上記実施例1等における試験と相違する点は、上記各試験の説明、または表7~9及びその<注(表7~9)>で記載)。
[0267]試験結果を表8~9に示す。
[0268][表7]
[図:0001415246000008.jpg]
[0269][表8]
[図:0001415246000009.jpg]
[0270][表9]
[図:0001415246000010.jpg]
」
「[0271]<注(表7~9)>
(使用原材料)
(a1)エポキシ樹脂:
「AER260」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(常温で液状)、旭化成エポキシ(株)、エポキシ当量190、NV100%)。
(a2)添加剤:
(a2-1)反応性希釈剤
「Epodil 759」(アルキル(C12-C13)グリシジルエーテル、エアープロダクツ社製、エポキシ当量285)。
[0272] (ab)石油樹脂:
「Necires EPX-L2」(インデン・スチレン系、Nevcin Polymers co.製)。
(bl)脂環式アミン系硬化剤:
ノルボルナンジアミンとエポキシ樹脂とのアダクト(NBDAアダクト)、
(イ)「NAD-7」(大竹明新化学(株)製、活性水素当量140)。
[0273] (ロ)「SUNMIDE NB-9O5J (エアープロダクツ社製、活性水素当量90)。
(b2)マンニッヒ型硬化剤:
「WH-039」(MXDAマンニッヒポリアミン、大日本インキ(株)製、活性水素当量98)。
<その他の成分>:
(イ)マイカ(商品名「スゾライトマイカ200HK」、クラレ(株)製)。
(ロ)ベンジルアルコール(東ソー(株)製、沸点:205.45℃。)
(ハ)カーボンブラック(「MA-100」、三菱化学(株)製)。
(ニ)「シランS-510」(シランカップリング剤、チッソ(株)製)。
(ホ)タレ止め剤(商品名「ASA T-250F」、伊藤精油(株)製)。
(へ)3級アミン(商品名「Ancamine K-54」、エアープロダクツ社製)。
(卜)カリ長石(商品名「KM-325」、コマーシャルミネラル社製)。
(チ)硫酸バリウム(商品名「Barico 300W」、白水化学工業(株)製)。」
2 甲4発明の認定
申立人の指摘する甲4の実施例17及び請求項19から、次の発明(以下「甲4発明」という。)が把握できる。
「主材として、エポキシ樹脂(a1)「AER260」を43重量部、反応性希釈剤(a2-1)「Epodil 759」を13.3重量部、カリ長石「KM-325」を25重量部、硫酸バリウム「Barico 300W」を2重量部、チタン白「R-5N」を7重量部、シランカップリング剤「シランS-510」を1.4重量部、タレ止め剤「ASA T-250F」を2.6重量部、マイカ「200-HK」を5.4重量部、高沸点溶剤としてのベンジルアルコールを0.3重量部を合計で100重量部含有し、
硬化剤として、脂環式ポリアミン(b1)であるNBDAアダクト「NAD-7」を12重量部、マンニッヒ型硬化剤(b2)であるMXDAマンニッヒ「WH-039」を12重量部、石油樹脂(ab)「EPX-L2」を27.1重量部、3級アミン「K-54」を0.55重量部、カリ長石「KM-325」を25.95重量部、硫酸バリウム「300W」を10.3重量部、カーボンブラック「MA-100」を0.1重量部、タレ止め剤「ASA T-250F」を1重量部、マイカ「200HK」を4重量部、高沸点溶剤としてのベンジルアルコールを7重量部を合計で100重量部含有する、ハイソリッド急速硬化性防食塗料組成物からなるプライマー組成物」
3 本件発明1との対比及び判断
(1)ア 甲4発明は、主剤と硬化剤との合計で200重量部となるから、エポキシ樹脂(a1)「AER260」は、21.5重量%含有し、シランカップリング剤「シランS-510」を0.7重量%含有し、石油樹脂(ab)「EPX-L2」を13.55重量%含有し、マンニッヒ型硬化剤(b2)であるMXDAマンニッヒ「WH-039」を6重量%含有し、反応性希釈剤(a2-1)「Epodil 759」を6.65重量%含有する組成物からなるプライマー組成物である。
イ 甲4発明の「エポキシ樹脂(a1)「AER260」は、21.5重量%含有し」は、エポキシ樹脂である限りで本件発明1の構成A1と共通し、含有量については、構成A1を充足する。
ウ 甲4発明の「シランカップリング剤「シランS-510」を0.7重量%含有する」ことは、本件発明1の構成A2の数値範囲外であるが、含有する点で共通する。
エ 石油樹脂は、炭化水素樹脂に包含されるから、甲4発明の「石油樹脂(ab)「EPX-L2」を13.55重量%含有する」は、本件発明の構成A3を充足する。
オ 甲4発明はマンニッヒ型硬化剤を含有するから、本件発明1のA5の前半を充足する。
カ 甲4発明の反応性希釈剤は、アルキルグリシジルエーテルであるから、モノ官能性反応性希釈剤であるから、本件発明1の構成A4と反応性希釈剤である点で共通し、含有量は、構成A4及びA4’を充足する。
(2)甲4発明について、甲4の表7には、実施例17の容量NV(理論値)が100%であることが記載されているから、本件発明1の「A6:前記組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり;」及び構成A5の後半を充足すると推認できる。
(3)甲4発明のシランカップリング剤「シランS-510」は、その化学構造が記載されていないが、シランカップリング剤は通常本件発明1の構成A2’’の式(I)を充足するから、「シランS-510」も充足すると解される。
(4)ア 甲4発明のエポキシ樹脂(a1)「AER260」のエポキシ当量が190である。
イ 甲4発明の「脂環式ポリアミン(b1)であるNBDAアダクト「NAD-7」の活性水素当量が14098である。
ウ そうすると、活性水素当量とエポキシ当量との比は、73/100となり、本件発明1の構成A8を充足することになる。
(5)甲4発明の「組成物からなるプライマー」は、プライマー組成物といえるから、本件発明の構成A9を充足する。
(6)一致点
以上から、本件発明1と甲4発明とは次の点で一致する。
「a1:(i)5.0~50重量%の少なくとも一つのエポキシ樹脂;
a2:(ii)少なくとも一つのシラン;
A3:(iii)0~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂;
a4:(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つの官能性反応性希釈剤;および
A5:(v)少なくとも一つの硬化剤;を含む超高い固形分のプライマー塗料組成物であって、
A4’:ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成物において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在し、
A2’:前記シランは、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートまたは一般式(I)または(II)のものである
A9;超高い固形分のプライマー塗料組成物。
A2’’: Y-R(4-z)SiXz (I)または
Y-R(3-y)R1SiXy (II)
[式中、zは、1~3の整数であり、
yは、1~2の整数であり、
Rは、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基または、エーテルもしくはアミノリンカーを含む1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり、
R1は、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり;
Yは、対応する硬化剤またはエポキシ樹脂官能基と反応し得るRに結合した官能基であり、
各Xは、独立して、ハロゲン基またはアルコキシ基を意味する。]」
(7)相違点
本件発明1と;甲4発明との相違点は次の4点である。
ア 相違点4-1
構成A1において、本件発明においては、「ビスフェノールFエポキシ樹脂」であるのに対して、甲4発明においては、ビスフェノールAエポキシ樹脂である点。
イ 相違点4-2
構成A2におけるシランの含有量において、本件発明においては、「1.5~12重量%」であるのに対して、甲4発明では、0.7質量%である点。
ウ 相違点4-3
構成A4において、本件発明1においては「ポリ官能性反応性希釈剤」を用いるのに対して、甲4発明においては、モノ官能性反応性希釈剤を用いている点。
エ 相違点4-4
構成A7について、本件発明1においては、粘度が200~800cpsと特定されているのに対して、甲4発明においては、その粘度が明らかでない点。
(8)相違点についての判断
ア 相違点4-1、相違点4-3、相違点4-4について
甲4に接した当業者が、樹脂をビスフェノールAからビスフェノールFに変更し、かつ、モノ官能性反応性希釈剤をポリ官能性反応性希釈剤に置き換えることは、容易になし得ることといえる根拠はなく、しかも、粘度を200~800cpsとすることも、容易になし得ることといえない。したがって、本件発明1は、甲4発明及び甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものといえない。
イ 相違点4-4について
甲4発明における粘度は明らかでないから、相違点4-4は実質的な相違点である。そして、申立人の提示した証拠からは、エアレススプレーに適した粘度が、100~1000cpsとされているだけであるから、粘度を200~800cpsの範囲内とすることが、容易になし得ることということができない。
4 本件発明2~21について
本件発明2~21は、本件発明1を包含し、更に発明特定事項を追加した発明であるから、本件発明1と同様に甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
5 小括
以上から、本件発明1~21は、甲4発明に及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明といえないから、特許法第113条第2号に該当ぜず、本件発明1~21に係る特許を取り消すことはできない。
第8 前記第4、2(3)の申立理由(進歩性)についての判断
1 甲5には次の記載がある。
(1)4頁右上欄13~19行
「〈実施例〉
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中「部」、「%」は重量基準で示す。
以下の表-1に示す主剤成分を十分撹拌混合し、塗装置前に硬化剤成分を混合することにより、無溶剤型エポキシ樹脂塗料を調製した。」
(2)4頁左下欄
「
[図:0001415246000011.jpg]
」
(3)4頁右下欄1行~5頁左上欄20行
「注1) ビスフェノールF型エポキシ樹脂〔「エピクロン#830」(大日本インキ化学工業社製)、エポキシ当量175、粘度30~40PS)
注2) ビスフェノールF型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂の混合型エポキシ樹脂〔「アラルダイトXJ4100」(チバガイギー社製)、エポキシ当量170、粘度12~25PS]
注3) アクリル変性エポキシ樹脂〔「キャスコンKR810」(広栄化学社製)、エポキシ当量225、粘度3~4PS〕
注4) 「アルペーストRTA030」(東洋アルミニウム社製)、平均粒径20.1μm
注5) 「アルペーストRRA030」(東洋アルミニウム社製)、平均粒径8.8μm
注6) 「アルペースト1900XS」(東洋アルミニウム社製)、平均粒径25μm
注7) 塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体系バルーン、平均粒径40μm、比重0.04
注8) アクリル共重合体系バルーン、平均粒径70μm、比重0.02
注9) 硼珪酸ガラスバルーン、平均粒径80μm、比重0.15
注10) 「バーサミンDSX NS170」
(ヘンケル白水社製)、活性水素当量60
注11) 「ガスカミンGE-03B」
(三菱瓦斯化学社製)、活性水素当量62
実施例1~9及び比較例1~2
サンドブラスト処理鋼板(0.32×150×70mm)にエポキシ樹脂系ジンクリッチペイント〔「ゼッタールEP2」(大日本塗料社製)〕を乾燥膜厚30μmになるようエアレススプレー塗装し、20℃にて1日間乾燥させた。
次いで、表-2に示すような順序で、中塗り塗料(表-1)をエアレススプレーにより塗り重ね、20℃にて1日間乾燥させ、さらに上塗り塗料(表-1)をエアレススプレーにより塗り重ね、20℃にて1日間乾燥させ、塗板を作成した。」
(4)6頁
「
[図:0001415246000012.jpg]
」
2 甲5発明の認定
(1)申立人が指摘する、前記1(4)に摘記した甲5の実施例1に用いられている中塗り塗料Iに注目すると、主剤成分としてエポキシ樹脂-1 注1)を41重量部、チタンフレークを44重量部及びシランカップリング剤を2重量部含有し、硬化剤成分としてポリアミドアミン 注10)を13重量部、合計100重量部含有する無溶剤型エポキシ樹脂塗料が開示されている。
(2)ここで、前記1(3)を参照し、重量部を重量%で表すと、次の発明(以下「甲5発明」という。)が認定できる。
「主剤成分としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、粘度30~40PS)を41重量%、チタンフレークを44重量%及びシランカップリング剤を2重量%含有し、硬化剤成分としてポリアミドアミン(活性水素当量60)を13重量%含有する無溶剤型エポキシ樹脂塗料」
3 本件発明1との対比及び判断
(1)対比
ア 甲5発明における41重量%のビスフェノールF型エポキシ樹脂は、本件発明1における「A1:(i)5.0~50重量%の少なくとも一つのビスフェノールFエポキシ樹脂」に相当する。
イ 甲5発明における2重量%のシランカップリング剤は、本件発明1における「A2:(ii)1.5~12重量%の少なくとも一つのシラン」に相当する。また、前記第7、3と同様にシランカップリング剤は、本件発明1の構成A2’、A2’’を充足するものと認められる。
ウ 甲5発明においては、炭化水素樹脂を含有していないので、0重量%の炭化水素樹脂を含有しているといえるから、本件発明1の「A3:(iii)0~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂」に相当する。
エ 甲5発明における「硬化剤成分としてポリアミドアミン(活性水素当量60)」は、本件発明1における「A5:(v)少なくとも一つの硬化剤」に相当する。
オ 甲5発明は、「無溶剤塗料」であるから、本件発明の構成A5の「超高い固形分の」「塗料組成物」に相当し、かつ、「A6:前記組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり」を充足すると推認できる。
(2)一致点
以上から、本件発明1と甲5発明とは次の点で一致する。
「A1:(i)5.0~50重量%の少なくとも一つのビスフェノールFエポキシ樹脂;
A2:(ii)1.5~12重量%の少なくとも一つのシラン;
A3:(iii)0~20重量%の少なくとも一つの炭化水素樹脂;
a5:(v)少なくとも一つの硬化剤;を含む超高い固形分の塗料組成物であって、
A6:前記組成物は、ASTM D5201-05に従い測定された固形分が少なくとも90重量%であり;
A2’:前記シランは、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートまたは一般式(I)または(II)のものである
A9;超高い固形分のプライマー塗料組成物。
A2’’: Y-R(4-z)SiXz (I)または
Y-R(3-y)R1SiXy (II)
[式中、zは、1~3の整数であり、
yは、1~2の整数であり、
Rは、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基または、エーテルもしくはアミノリンカーを含む1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり、
R1は、1~12のC原子を有するヒドロカルビル基であり;
Yは、対応する硬化剤またはエポキシ樹脂官能基と反応し得るRに結合した官能基であり、
各Xは、独立して、ハロゲン基またはアルコキシ基を意味する。]
(3)相違点
本件発明1と甲5発明との相違点は次の4点である。
ア 相違点5-1
本件発明1は「プライマー」であるのに対して、甲5発明はそのように特定されていない点。
イ 相違点5-2
本件発明1においては、「A4:(iv)1.0~15重量%の少なくとも一つのポリ官能性反応性希釈剤」を含有し、「A4’:ただし、前記超高い固形分のプライマー塗料組成物において全体で1.0~15重量%の反応性希釈剤が存在」するのに対して、甲5発明においては、反応性希釈剤が存在しない点。
ウ 相違点5-3
本件発明1においては、「A7:前記組成物は、23℃、50%RHでの粘度(ASTM D4287)が200~800cpsであり」と特定されているのに対して、甲5発明における粘度は明らかでない点。
エ 相違点5-4
本件発明1においては、「A8:前記硬化剤中の活性水素当量と、前記塗料組成物のエポキシ当量との比が、50:100~120:100の範囲であり」と特定されているのに対し、甲5発明においては、60/175=34:100であり、数値範囲外である点。
(4)相違点についての検討
ア 相違点5-2及び相違点5-3について合わせて検討する。甲5発明に対して、反応性希釈剤として、ポリ官能性反応性希釈剤を選択して、加えることの動機付けがあるといえないし、その結果として、組成物の粘度を200~800cpsという塗装に好適な粘度とすることが容易に想到しうるということはできない。
イ 相違点5-1について
甲5発明は、下塗り塗料の上に中塗りするものである。これを最も下塗りのプライマー組成物に用いることが容易になし得ることということはできない。
4 本件発明2~21について
本件発明2~21は、本件発明1を包含し、更に発明特定事項を追加した発明であるから、本件発明1と同様に甲5発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
5 小括
以上から、本件発明1~21は、甲5発明に及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明といえないから、特許法第113条第2号に該当ぜず、本件発明1~21に係る特許を取り消すことはできない。
第9 前記第4、2(4)~(6)の申立理由(記載要件)についての判断 1 サポート要件について
(1)申立人の主張
ア フィラーについて
抗腐食特性を考慮すると、塗料にはフィラーが必須であるが、本件発明1においては、特定事項となっていない。どのようなフィラーがどの程度含まれるかが、本件発明の課題解決に必須なものである、しがたって、本件発明1~21は、サポート要件違背である。
イ 硬化剤について
(ア)硬化剤の選択によって、ポットライフと硬化特性は大きく異なるところ、本件発明1においては、硬化剤の種類が特定されていない。本件発明の実施例で用いられているアミン硬化剤以外の硬化剤に拡張・一般化できないから、サポート要件違背となる。
(イ)ポリアミド硬化剤は、甲24の669頁によると、「硬化特性での面で不適当」とされており、本件発明の課題が解決できないから、サポート要件違背となる。
ウ ビスフェノールFエポキシ樹脂について
ビスフェノールFエポキシ樹脂には、様々な分子量のものが含まれるが、本件明細書の実施例では、全て「BFF液状エポキシ(EEW=172、n=0.13)」であるから、他の分子量、エポキシ当量重量を持つビスフェノールF樹脂に拡張・一般化できないから、サポート要件違背である。
エ 粘度を適切にし、ポットライフも確保するためには、前記ア~ウの成分の量のバランスが必要であるのに、本件発明1においてはそれらが特定されていないから、本件発明の課題が解決できるといえないから、サポート要件違背である。
(2)当審の判断
ア フィラーについて
申立人の主張は、課題が解決できない可能性があるということを主張するものであって、実際に本件発明の課題が解決できないことを立証していないから、採用できない。
イ 硬化剤について
(ア)申立人の主張は、課題が解決できない可能性があるということを主張するものであって、実際に本件発明の課題が解決できないことを立証していないから、採用できない。
申立人の主張は、課題が解決できない可能性があるということを主張するものであって、実際に本件発明の課題が解決できないことを立証していないから、採用できない。
(イ)甲25の699頁右欄3行目以下には、「しかし、無溶剤型、あるいはハイソリッド型塗料配合系に使用可能な硬化剤は、少なくとも常温速乾性、低温硬化性を持つものに限定される。したがって、溶剤型塗料配合系に使用されている硬化剤、たとえば、通常のポリアミド樹脂などは硬化特性の面で不適切といいえる。」と記載されている。本件発明においても、通常のポリアミド樹脂は、硬化剤として用いることは不適切と当業者であれば読み取りうることであるから、申立人の主張は採用できない。
ウ ビスフェノールFエポキシ樹脂について
ビスフェノールFエポキシ樹脂であれば、エポキシ当量重量などが異なっていても、共通の性質を有し、その共通の性質により、本件発明の課題を解決することが本件明細書の記載から読み取りうることから、申立人の主張は採用できない。
エ 申立人の主張は、課題が解決できない可能性があるということを主張するものであって、実際に本件発明の課題が解決できないことを立証していないから、採用できない。
2 実施可能要件について
(1)申立人の主張
ア 本件明細書の実施例において用いられた、「ビスフェノールFエポキシ樹脂(BFF液状エポキシ)」及び「硬化剤(修飾ポリアミンAHEW95)」の入手方法が記載されておらず、当業者が過度の試行錯誤を必要とすることから、実施可能要件違背がある。
イ 塗料の特性に大きな影響を与えるフィラー、硬化剤、ビスフェノールFエポキシ樹脂について、本件発明においては、それらの含有量が特定されていないから、そのような広範囲の本件発明の実施には、過度の試行錯誤を必要とするから、実施可能要件違背がある。
(2)当審の判断
ア ビスフェノールFエポキシ樹脂については、本件明細書の実施例においては、エポキシ当量重量及びn=0.13と特定されており、当業者であれば製造可能であり、入手方法が記載されていなくとも、実施可能である。硬化剤についても、商品名から当業者であれば入手可能であるから、実施可能要件違背といえない。
イ 本件明細書の実施例におけるフィラーなどの配合を参考にして、本件発明を実施することは可能であるから、申立人の主張は、広範囲の発明の全範囲において実施可能でなければならないという前提に誤りがあって採用できない。
3 明確性要件について
(1)申立人の主張
ア 本件特許の請求項1の構成A2’’における「アミノリンカー」という用語の意味が明確でない。
イ 本件特許の請求項1の構成A6などでは、「前記組成物」という用語が用いられている一方、請求項1の構成A8では、「前記塗料組成物」と記載され、それらが同じものを指すのか、別のものを指すのかが明確でない。請求項18においても同様である。
ウ 本件特許の請求項8において、特定事項とされている「溶媒含有量が、5重量%未満」という含有量が何に対する比率であるのかが明確でない。
エ 炭化水素樹脂については、本件明細書の段落【0157】に例示されたエポキシ基を有する炭化水素樹脂も含まれ、反応性希釈剤と区別ができないから、本件特許の請求項1及び18の記載は不明確である。
オ 本件特許の請求項12には、「フェナルカミンであるか、またはポリアミン」と記載されているが、フェナルカミンはポリアミンに属するものであるから、特定事項が全体として不明確である。
カ 本件特許の請求項13には、「粘度」と特定されているが、「前記粘度」と特定されていないから、請求項1に規定された粘度を示しているかどうか明確でない。
キ 本件特許の請求項15には、「ポットライフ」に関する特定がされているが、その測定方法が本件明細書の段落【0128】に記載されているものの、「最低100g」という記載からは、実際に何gのサンプルをどのような容器にいれるのかなどの測定条件が明らかでない。
ク 本件特許の請求項16には、「粘度」と特定されているが、「前記粘度」と特定されていないから、請求項1に規定された粘度を示しているかどうか明確でない。
ケ 本件特許の請求項19には、炭化水素樹脂が特定されているが、引用する請求項18は、炭化水素樹脂が0である態様も含んでいるから、その場合、存在しない成分を特定する請求項19は不明確である。
(2)当審の判断
ア 本件特許の請求項1には、「エーテルもしくはアミノリンカーを含む1~12のC原子を有するヒドロカルビル基」と記載されており、ヒドロカルビル基を基本としつつ、中間のC原子が-O-で置換されるか、-NH-で置換された基であることが読み取れる。「アミノリンカー」という用語が明確でないということはできない。
イ 本件特許の請求項1及び18に「前記組成物」と「前記塗料組成物」という統一されていない用語が用いられているが、それらが別のものを指していると解する余地はなく、いずれも「前記超高い固形分のプライマー塗料組成物」を指していると解される。これらの用語により、本件特許の請求項1及び18が不明確になっているといえない。
ウ 溶媒の含有量は、溶媒を含めた塗料組成物に対する比率の場合と、溶媒を除いた塗料組成物に対する比率の場合があり得るが、5重量%未満であれば、前者の場合は、5/105未満となるのに対して、後者の場合は、5/100未満となるが、微差であって、第三者に不測の不利益を与えるということはできず、明確性要件違背ということはできない。
エ 反応性希釈剤は、希釈のための剤であるから、常温で液体であるから、常温で固体の樹脂とは区別できるから、本件特許の請求項1及び請求項18の記載は明確である。
オ フェナルカミンがポリアミンに属するものであったとしても、いずれかを選択することは可能であるから、本件特許の請求項12に係る特定に不明確な点はない。
カ 本件特許の請求項13には、反応性希釈剤の粘度が特定されているところ、本件明細書の段落【0089】に「 好ましくは、前記反応性希釈剤の粘度は、23℃で50%RHにおいて、<50cP、好ましくは<30cP、最も好ましくは粘度<20cPである、方法は、ISO2884-1:2006に従って、円錐平板粘度計である。」と記載されており、その定義は明確である。
キ 本件明細書の記載から、「最低100gの前記ペンキ組成物」とあることから、当業者であれば、100gを少し超える程度以内(例えば、100~110g)のペンキ組成物を測定対象とし、その量に見合った容器を用いることが読み取れる。測定条件に不明確な点はない。
ク 本件特許の請求項16においては、「円錐平板粘度」を規定しており、これは、明細書の段落【0126】の記載からみて、ISO2884-1:2006により測定されるものであるから、請求項1における粘度と同義であることは読み取れる。「前記」と記載していないからといって不明確になるといえない。
ケ 請求項19は、引用する請求項18において、炭化水素樹脂が存在することを前提としていることが読み取れるから、請求項19の記載に不明確なところはない。
第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件発明1~21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~21に係る特許を取り消す理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701199