特許異議申立
2021-700806
糖組成物及びその製造方法
- 審判番号
- 2021-700806
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-081897
- 登録番号
- 6830762
- 請求日
- 2021年08月17日
- 審決日
- 2021年11月30日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】昭和産業株式会社
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【異議申立人】金田 綾香
- 審判長/審判官
- 審判長 村上 騎見高
- 審判官 小堀 麻子
- 審判官 齊藤 真由美
- 分類
- P1652.113-Y (C07H) / P1652.121-Y (C07H) / P1652.536-Y (C07H) / P1652.537-Y (C07H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6830762号発明「糖組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6830762号の請求項1ないし3、7ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
1.手続の経緯
第1 手続の経緯
特許第6830762号の請求項1~13に係る特許についての出願は、平成28年4月15日に出願され、令和3年1月29日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月17日に特許異議申立人 金田 綾香(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
特許第6830762号の請求項1~13の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含み、数平均分子量(Mn)が250~1500、重量平均分子量(Mw)が1000以上、DEが40以下である糖組成物であって、
(a) 糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分が10~30%であり、
(b) 糖組成物に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である、上記糖組成物。
【請求項2】
数平均分子量(Mn)が1200以下である、請求項1に記載の糖組成物。
【請求項3】
糖組成物のDEをX、前記差分をYとしたとき、Y≦0.73X+4であり、Xが20~40である、請求項1または2に記載の糖組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物を製造する方法であって、
DEが5~60である澱粉分解物を基質として、デキストラン分解活性/マルトース分解活性の比率が0.06以上であり、GHファミリー31に属するアスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)由来またはアスペルギルスソヤ(Aspergillus sojae)由来のα-グルコシダーゼを50℃以上で作用させることを含む、上記方法。
【請求項5】
前記酵素のデキストラン分解活性/マルトース分解活性の比率が0.1以上である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素が、DALWIDMNEPANFYNRというアミノ酸配列を有するα-グルコシダーゼである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物の還元物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物または請求項7の還元物を含む、澱粉老化を抑制するための飲食品用改良剤。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物または請求項7の還元物を含む、タンパク質変性を抑制するための飲食品用改良剤。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物または請求項7の還元物を含む、油脂酸化を抑制するための飲食品用改良剤。
【請求項11】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物または請求項7に記載の還元物を飲食品に添加することを含む、飲食品の澱粉老化を抑制する方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物または請求項7に記載の還元物を飲食品に添加することを含む、飲食品のタンパク質変性を抑制する方法。
【請求項13】
請求項1~3のいずれかに記載の糖組成物または請求項7に記載の還元物を飲食品に添加することを含む、飲食品の油脂酸化を抑制する方法。」
(以下、請求項順に、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、・・・、「本件特許発明13」ともいう。)
第3 申立理由の概要及び証拠
1 申立理由
異議申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第3号証を提出して、以下の申立理由1-1~理由5を主張している。
申立理由1-1:
本件特許発明1~本件特許発明3、本件特許発明7~本件特許発明13は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由1-2:
本件特許発明1~本件特許発明3、本件特許発明7~本件特許発明13は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由1-3:
本件特許発明1~本件特許発明3、本件特許発明7~本件特許発明13は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由2-1:
本件特許発明1~本件特許発明3、本件特許発明7~本件特許発明13は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由2-2:
本件特許発明1~本件特許発明3、本件特許発明7~本件特許発明13は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由2-3:
本件特許発明1~本件特許発明3、本件特許発明7~本件特許発明13は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由3:
本件特許発明1及び本件特許発明3は、アスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)由来またはアスペルギルスソヤ(Aspergillus sojae)由来の酵素を用いて得られた糖質以外のα-1,6結合を有するいかなる糖質でも実現できるとはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1及び本件特許発明3を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明1及び本件特許発明3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
申立理由4:
本件特許発明1及び本件特許発明3は、アスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)由来またはアスペルギルスソヤ(Aspergillus sojae)由来の酵素を用いて得られた糖質以外のα-1,6結合を有するいかなる糖質でも実現できることが記載されていないから、本件特許発明1及び本件特許発明3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許発明1及び本件特許発明3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
申立理由5:
本件特許発明1及び本件特許発明3は、「連続α-1,6結合糖質量」を特定するものであるが、本件特許明細書には「連続α-1,6結合糖質量」がどのような作用効果をもたらすかについて何ら記載されておらず、その技術的意味が不明であるから、発明の範囲が不明確であり、本件特許発明1及び本件特許発明3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
2 異議申立人の提出した証拠
甲第1号証:再公表WO2008/136331号
甲第2号証:再公表WO2014/133060号
甲第3号証:特表2012-525840号公報
第4 当審の判断
1.申立理由1-1(新規性欠如)及び申立理由2-1(進歩性欠如)について
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。
記載(甲1-1)
「【請求項1】
グルコースを構成糖とするα-グルカンであって、メチル化分析において、下記の特徴を有する分岐α-グルカン:
(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である。
【請求項2】
グルコース重合度が10以上であって、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)が20未満である請求項1記載の分岐α-グルカン。
【請求項3】
イソマルトデキストラナーゼ(EC 3.2.1.94)消化により、消化物の固形物当たりイソマルトースを25質量%以上50質量%以下生成することを特徴とする請求項1又は2記載の分岐α-グルカン。」
記載(甲1-2)
「【0004】
グルカンにおけるグルコースの結合様式であるグルコシド結合(以下、本明細書では「グルコシド結合」を単に「結合」と略称する。)の内、α-1,6結合はα-1,4結合に比べてアミラーゼで分解され難いことから、α-1,6結合を多く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待できる。例えば、乳酸菌に属するロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来のデキストランスクラーゼ(EC 2.4.1.5)によりスクロースを原料として製造されるデキストランは、グルコースが主にα-1,6結合で重合したグルカンであって、α-1,2結合及びα-1,3結合の分岐を有する場合もある。ロイコノストック・メセンテロイデス B-512F株由来のデキストランスクラーゼを用いた場合、得られるデキストランにおける結合のα-1,6結合の含量は90%以上にもなり、難消化性であることが期待される。しかしながら、デキストランは、スクロースからの収率が低く、また、粘性が高いため精製操作が煩雑で、コスト高になることから、水溶性食物繊維として利用しようとする試みはほとんど行われていない。」
記載(甲1-3)
「【発明の開示】
【0006】
本発明は、水溶性食物繊維として有用なグルカンとその製造方法並びにその用途を提供することを課題とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らはマルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンを原料(基質)とし、分岐(本明細書において、「分岐」とは、グルカンにおけるグルコースの結合様式の内、α-1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味する)を比較的多く有する分岐α-グルカンを生成する酵素に期待を込めて、このような酵素を産生する微生物を広く探索した。その結果、土壌から単離した微生物、PP710株及びPP349株が、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンに作用し、α-1,4、α-1,6、α-1,3、α-1,4,6及びα-1,3,6結合を有する分岐α-グルカンを生成する新規なα-グルコシル転移酵素を菌体外に産生することを見出した。そして、この新規酵素が澱粉部分分解物などのα-1,4グルカンから、グルコースを構成糖とするα-グルカンであって、メチル化分析において、
(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;
ことを特徴とする分岐α-グルカンを効率よく生成することを見出した。
【0008】
また、本発明者らは、PP710株を培養して得たα-グルコシル転移酵素の粗酵素液には澱粉を分解するアミラーゼが混在しており、この粗酵素液を用いるか、又は単離した当該アミラーゼをα-グルコシル転移酵素と併用することにより、α-グルコシル転移酵素を単独で用いた場合よりも水溶性食物繊維含量を高めた分岐α-グルカンが製造できることを見出した。さらに、当該アミラーゼのみならず、公知のα-アミラーゼや澱粉枝切酵素などをα-グルコシル転移酵素と併用することによって、得られる分岐α-グルカンの重量平均分子量や水溶性食物繊維含量を調整することができることも見出した。加えて、本発明者らは、これらの方法によって得られる分岐α-グルカンは、原料α-1,4グルカンに比べα-1,6結合の割合が大幅に増加しており、且つ、α-1,3及びα-1,3,6結合を有し、顕著な難消化性を示すことから水溶性食物繊維として有用であり、血糖上昇抑制作用や生体内脂質低減作用をも有することを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、グルコースを構成糖とするα-グルカンであって、メチル化分析において、
(1)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;
ことを特徴とする分岐α-グルカンと、当該分岐α-グルカンを生成する新規なα-グルコシル転移酵素、それらの製造方法並びに用途を提供することによって上記課題を解決するものである。
【0010】
本発明によれば、食品分野をはじめとする様々な分野において、水溶性食物繊維として有用であり、着色の少ない難消化性の分岐α-グルカンを、収率よく大量・安価に製造し、供給することができる。」
記載(甲1-4)
「【0014】
本発明でいうメチル化分析とは、多糖又はオリゴ糖においてこれを構成する単糖の結合様式を決定する方法として一般的に知られている方法である。メチル化分析をグルカンにおけるグルコースの結合様式の分析に用いる場合、まず、グルカンを構成するグルコース残基における全ての遊離の水酸基をメチル化し、次いで、完全メチル化したグルカンを加水分解する。次いで、加水分解により得られたメチル化グルコースを還元してアノマー型を消去したメチル化グルシトールとし、さらに、このメチル化グルシトールにおける遊離の水酸基をアセチル化することにより部分メチル化グルシトールアセテート(以下、本明細書では、「部分メチル化グルシトールアセテート」におけるアセチル化された部位と「グルシトールアセテート」の表記を省略して、「部分メチル化物」と略称する場合がある。)を得る。得られる部分メチル化物を、ガスクロマトグラフィーで分析することにより、グルカンにおいて結合様式がそれぞれ異なるグルコース残基に由来する各種部分メチル化物は、ガスクロマトグラムにおける全ての部分メチル化物のピーク面積に占めるピーク面積の百分率(%)で表すことができる。そして、このピーク面積%から当該グルカンにおける結合様式の異なるグルコース残基の存在比、すなわち、各グルコシド結合の存在比率を決定することができる。本願明細書においては、部分メチル化物についての「比」は、メチル化分析のガスクロマトグラムにおけるピーク面積の比を意味し、部分メチル化物についての「%」はメチル化分析のガスクロマトグラムにおける「面積%」を意味するものとする。
【0015】
上述した(1)における、2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトール(以下、「2,3,6-トリメチル化物」と略称する)とはC-4位が1,4結合にあずかるグルコース残基を意味し、2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトール(以下、「2,3,4-トリメチル化物」と略称する)はC-6位が1,6結合にあずかるグルコース残基を意味する。そして、「2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比が1:0.6乃至1:4の範囲にある」とは、すなわちメチル化分析における部分メチル化グルシトールアセテートのガスクロマトグラムにおいて、本発明の分岐α-グルカンは、C-1位以外にC-4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計に対するC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の割合が37.5乃至80.0%の範囲を示すことを意味する。
【0016】
上述した(2)における、「2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物との合計が部分メチル化物の60%以上を占める」とは、本発明の分岐α-グルカンは、C-1位以外にC-4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC-1位以外にC-6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計がグルカンを構成する全グルコース残基の60%以上を占めることを意味する。
【0017】
同様に、上述した(3)における、「2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトール」(以下、「2,4,6-トリメチル化物」と略称する)とは、C-3位が1,3結合にあずかるグルコース残基を意味し、「2,4,6-トリメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上10%未満である」とは、本発明の分岐α-グルカンは、C-1位以外にC-3位のみが結合にあずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上10%未満存在することを意味する。
【0018】
さらに同様に、上述した(4)における「2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトール」(以下、「2,4-ジメチル化物と略称する」)とは、C-3位及びC-6位の両方がそれぞれ1,3結合と1,6結合にあずかるグルコース残基を意味し、「2,4-ジメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上である」とは、本発明の分岐α-グルカンは、C-1位以外にC-3位とC-6位が結合にあずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上存在することを意味する。
【0019】
上記の(1)乃至(4)の条件を全て充足する本発明の分岐α-グルカンは、これまで知られていない新規なグルカンである。本発明の分岐α-グルカンは、メチル化分析において、上記(1)乃至(4)の条件を充足する限り、グルコース残基の結合順序は特に限定されない。
【0020】
本発明の分岐α-グルカンは、通常、グルコース重合度が10以上の様々なグルコース重合度を有する分岐α-グルカンの混合物の形態にある。また、本発明の分岐α-グルカンにおいて、その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)は、通常、20未満である。
【0021】
さらに、本発明の分岐α-グルカンは、グルカンにおけるイソマルトース構造の還元末端側に隣接するα-1,2、α-1,3、α-1,4及びα-1,6結合のいずれの結合であっても加水分解する特徴を有するイソマルトデキストラナーゼ(EC 3.2.1.94)を作用させると、消化物の固形物当たりイソマルトースを、通常、25質量%以上50質量%以下生成する。」
記載(甲1-5)
「【0027】
本発明でいうα-グルコシル転移酵素とは、マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し、実質的に加水分解することなくα-グルコシル転移を触媒することにより、本発明の分岐α-グルカンを生成する酵素を意味する。本発明のα-グルコシル転移酵素は、加水分解活性が弱い点、低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点、及び、α-1,3及びα-1,3,6結合をも生成する点で、従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である。」
記載(甲1-6)
「【0042】
例えば、澱粉又はその部分分解物やアミロースの水溶液に、本発明のα-グルコシル転移酵素を作用させた場合の分岐α-グルカンの生成メカニズムは、以下のように推察される。
1)本酵素は、基質としてマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し、非還元末端グルコース残基を他のα-1,4グルカンの非還元末端グルコース残基に主としてα-1,4又はα-1,6グルコシル転移することにより、非還元末端グルコース残基の4位又は6位水酸基にグルコースがα-結合したα-1,4グルカン(グルコース重合度が1増加したα-グルカン)と、グルコース重合度が1減じたα-1,4グルカンを生成する。
2)本酵素はさらに、1)で生じたグルコース重合度が1減じたα-1,4グルカンに作用し、1)で生じたグルコース重合度が1増加したα-グルカンに対して、1)と同様に分子間α-1,4又はα-1,6グルコシル転移することにより、1)で生成したグルコース重合度が1増加したα-グルカンの非還元末端グルコース残基の4又は6位水酸基にグルコースをさらに転移し、鎖長を伸長する。
3)上記1)及び2)の反応を繰り返すことにより、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンからα-1,4及びα-1,6結合を有するグルカンを生成する。
4)本酵素は、さらに、頻度は低いながらも、α-1,3グルコシル転移やグルカンの内部にあるα-1,6結合したグルコース残基に対するα-1,4又はα-1,3グルコシル転移を触媒することにより、α-1,3結合、α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合をも有するグルカンを生成する。
5)上記1)乃至4)の反応が繰り返される結果として、グルコースが主としてα-1,4結合及びα-1,6結合で結合し、僅かながらα-1,3結合、α-1,4,6結合及びα-1,3,6結合を有する本発明の分岐α-グルカンを生成する。
【0043】
また、本発明のα-グルコシル転移酵素産生能を有するバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP-10771)は、その培養物中に本発明のα-グルコシル転移酵素のみならず、ある種のアミラーゼをも同時に産生し、意外にも、α-グルコシル転移酵素とこのアミラーゼを併用してマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用させると、α-グルコシル転移酵素を単独で作用させた場合よりも水溶性食物繊維含量を更に高めた分岐α-グルカンを製造できることが判明した。」
記載(甲1-7)
「【0116】
<実験12-2:マルトペンタオースからの生成物>
最終濃度1w/v%のマルトペンタオース水溶液に、最終濃度10mM酢酸緩衝液(pH6.0)を加えた後、実験6の方法で得たα-グルコシル転移酵素精製標品を、基質固形分1グラム当たり10単位加え、40℃、pH6.0で作用させ、経時的にサンプリングを行い、100℃で10分間保持して反応を停止した。その酵素反応液の糖組成を、HPLCを用いて測定した。HPLCは、実験4-2に記載の条件を用いて行った。また、酵素反応液について、常法に従って、メチル化分析を行いガスクロマトグラフィー法で部分メチル化物を調べた。生成する部分メチル化物の組成からグルコースの結合様式における各グルコシド結合の存在比を求めた。また、実験4-2と同様にイソマルトデキストラナーゼ消化試験も行った。反応中の糖組成の変化を表11に、反応生成物のメチル化分析とイソマルトデキストラナーゼ消化試験の結果を表12に示す。
【0117】
【表11】
[図:0001384176000001.jpg]
【0118】
【表12】
[図:0001384176000002.jpg]
」
記載(甲1-8)
「【0124】
<実験14:分岐α-グルカンの生成における精製α-グルコシル転移酵素と粗酵素の比較>
分岐α-グルカンの工業的生産を考慮した場合、α-グルコシル転移酵素の粗酵素が使用できれば酵素を精製する手間と労力が省けることとなり、より好適である。そこで、バチルス・サーキュランス PP710由来α-グルコシル転移酵素の粗酵素を用いて、実験1-2で調製したグルカンAと同等の分岐α-グルカンが得られるか否かを検討した。実験1-1に記載した方法でバチルス・サーキュランス PP710を培養し、培養上清を硫安塩析し、20mM酢酸緩衝液(pH4.5)に対して透析したものをα-グルコシル転移酵素の粗酵素液とした。この粗酵素液を実験1-2に記載した方法で澱粉部分分解物(商品名「パインデックス#100」、松谷化学工業株式会社販売)に作用させ、固形分濃度30%のグルカン溶液を、基質として用いた澱粉部分分解物から固形物当り88.2%の収率で得た。得られた分岐α-グルカンを「グルカンC」と名付け、そのメチル化分析を行った結果を表14に、また、実験4及び実験3に記載した方法によって分子量分布及び水溶性食物繊維含量を測定した結果を表15にそれぞれ示す。なお、表14及び表15には、比較のため表3及び表4より調製の原料とした澱粉部分分解物と部分精製α-グルコシル転移酵素を用いて調製したグルカンAのデータをそれぞれ再掲した。
【0125】
【表14】
[図:0001384176000003.jpg]
【0126】
【表15】
[図:0001384176000004.jpg]
【0127】
表14に示すように、バチルス・サーキュランス PP710由来α-グルコシル転移酵素の粗酵素を用いて調製したグルカンCは、意外にも、メチル化分析において、非還元末端グルコース残基に相当する2,3,4,6-テトラメチル化物と、α-1,6結合したグルコース残基に相当する2,3,4-トリメチル化物の含量がグルカンAに比べ増加していた。この結果は、グルカンCにはグルカンAに比べて非還元末端が多く、また、α-1,6結合がより多く存在することを物語っている。さらに、グルカンCでは2,4-ジメチル化物が4.8%と、グルカンAの0.8%に比べ増加していた。この結果は、1,3結合と1,6結合の両方にあずかるグルコース残基が増加していることを示している。
【0128】
また、表15から明らかなように、グルカンCは、グルカンAに比べ数平均分子量及び重量平均分子量がいずれも小さく(グルコース重合度が小さく)、遙かに高い水溶性食物繊維含量を示した。この結果は、バチルス・サーキュランス PP710由来α-グルコシル転移酵素の粗酵素には、α-グルコシル転移酵素とは相違する他の酵素が混在しており、その混在酵素が分岐α-グルカンにおけるα-1,6結合の増加、1,3結合と1,6結合の両方にあずかるグルコース残基の増加、低分子化、及び、水溶性食物繊維含量の増加に寄与していることを示唆するものである。」
記載(甲1-9)
「【0148】
<実験18-2:α-グルコシル転移酵素にα-アミラーゼを併用した分岐α-グルカンの調製と得られた分岐α-グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>
シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼに変えて市販のα-アミラーゼ(商品名「ネオスピターゼPK2」、ナガセ生化学工業株式会社製)を固形物1グラム当たり0、0.1、0.2、0.5又は1.0単位加えた以外は実験18-1と同様に反応させた。各反応条件によりそれぞれ得た分岐α-グルカンを実験4-4記載のゲル濾過HPLC法に供して得たクロマトグラムを、基質として用いた澱粉部分分解物のそれとともに図17に示した。図17において、符号aは基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラムであり、符号b、c、d及びeは、それぞれ、α-グルコシル転移酵素をいずれも10単位とし、α-アミラーゼを0.1単位、0.2単位、0.5単位及び1.0単位作用させて得られた分岐α-グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムである。また、これらゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づく各分岐α-グルカンの分子量分布分析の結果と、実験3記載の酵素-HPLC法にて調べた水溶性食物繊維含量を併せて表19に示す。
【0149】
【表19】
[図:0001384176000005.jpg]
【0150】
図17及び表19の結果から明らかなように、α-アミラーゼの作用量が多くなるにつれて得られる分岐α-グルカンの数平均分子量及び重量平均分子量が共に低下し、さらに重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)も低下したことから、分子量分布の幅が狭くなることが判明した。α-アミラーゼの作用量が固形物1グラム当たり1.0単位(図17の符号e)の場合、Mw/Mnは2.4まで低下し、分岐α-グルカンは、グルコース重合度11.8にピークを有する分子量分布を示した。一方、各反応条件により得られた分岐α-グルカンにおける水溶性食物繊維の含量は、α-アミラーゼの作用量が多くなるほど増加する傾向が認められた。
【0151】
この結果から、本発明のα-グルコシル転移酵素にα-アミラーゼを併用して澱粉部分分解物に作用させることにより、水溶性食物繊維含量が増加し、分子量が低下した分岐α-グルカンを製造できることが判明した。」
記載(甲1-10)
「【実施例5】
【0210】
27.1質量%トウモロコシ澱粉液化液(加水分解率3.6%)に、最終濃度0.3質量%となるように亜硫酸水素ナトリウムを、また、最終濃度1mMとなるように塩化カルシウムを加えた後、50℃に冷却し、これに実施例1の方法で調製した濃縮粗酵素液を固形物1グラム当たり11.1単位加え、さらに、50℃、pH6.0で68時間作用させた。その反応液を80℃で60分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮、噴霧乾燥して分岐α-グルカン粉末を得た。本分岐α-グルカンは、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比が1:2.5を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の68.4%を占めていた。また、2,4,6-トリメチル化物及び2,4-ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の2.6及び6.8%を示した。また、本分岐α-グルカンは、重量平均分子量4,097ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.1であった。さらに、本分岐α-グルカンは、イソマルトデキストラナーゼ消化において、消化物の固形物当たりイソマルトースを35.6質量%生成し、酵素-HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量は79.4質量%であった。本分岐α-グルカンは、非う蝕性、難消化性の性質、適度の粘度を有し、水溶性食物繊維、脂肪代替食品材料、ダイエット用飲食物、品質改良剤、安定剤、賦形剤、増粘剤、増量剤などとして、食品、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例6】
【0211】
濃縮粗酵素液に替えて実験6の方法で調製したバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP-10771)由来の精製α-グルコシル転移酵素を用い、シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり1,000単位加えた以外は実施例5と同様にして分岐α-グルカン粉末を得た。本分岐α-グルカンは、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比は1:4を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の67.9%を占めていた。また、2,4,6-トリメチル化物及び2,4-ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の2.3及び5.3%を示した。また、本分岐α-グルカンは、重量平均分子量2,979ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.0であった。さらに、本分岐α-グルカンはイソマルトデキストラナーゼ消化において、消化物の固形物当たりイソマルトースを40.6質量%生成し、酵素-HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量は77質量%であった。本分岐α-グルカンは、非う蝕性、難消化性の性質、適度の粘度を有し、水溶性食物繊維、脂肪代替食品材料、ダイエット用飲食物、品質改良剤、安定剤、賦形剤、増粘剤、増量剤などとして、食品、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。」
(2)甲1に記載された発明
記載(甲1-7)から、甲1には、
「マルトペンタオース水溶液に、α-グルコシル転移酵素精製標品を24時間作用させて得られた酵素反応液であって、糖組成は、DP1が6.9質量%、DP2が3.7質量%、DP3が8.1質量%、DP4が8.2質量%、DP5が12.5質量%、DP6が14.2質量%、DP7が13.9質量%、DP8が11.2質量%、DP9以上が21.1質量%であり、部分メチル化物の組成は、2,3,4,6-テトラメチル化物が28.6面積%、3,4,6-トリメチル化物が0.0面積%、2,4,6-トリメチル化物が0.8面積%、2,3,6-トリメチル化物が37.0面積%、2,3,4-トリメチル化物が30.8面積%、2,4-ジメチル化物が1.6面積%、2,3-ジメチル化物が1.2面積%であり、イソマルトース含量は、40.9質量%である酵素反応液。」の発明(以下、「甲1A発明」という。)が記載されていると認められる。
記載(甲1-9)から、甲1には、
「澱粉部分分解物に、10単位のα-グルコシル転移酵素と1.0単位の市販のα-アミラーゼを作用させて得られた分岐α-グルカンであって、数平均分子量(Mn)が1,475ダルトン、重量平均分子量(Mw)が3,552ダルトン、Mw/Mnが2.4、水溶性食物繊維含量が54.0%である分岐α-グルカン。」の発明(以下、「甲1B発明」という。)が記載されていると認められる。
記載(甲1-10)から、甲1には、
「トウモロコシ澱粉液化液に、精製α-グルコシル転移酵素とイソアミラーゼを作用させて得られた分岐α-グルカン粉末であって、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比は1:4を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の67.9%を占め、2,4,6-トリメチル化物及び2,4-ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の2.3及び5.3%を示し、重量平均分子量は2,979ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.0であり、イソマルトデキストラナーゼ消化において、消化物の固形物当たりイソマルトースを40.6質量%生成し、水溶性食物繊維含量は77質量%である、分岐α-グルカン粉末。」の発明(以下、「甲1C発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件特許発明についての検討
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と、甲1A発明との対比
記載(甲1-7)から、甲1A発明の「酵素反応液」には、DP2以上の連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質が含まれていると認められるから、甲1A発明の「酵素反応液」は、「連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含」む「糖組成物」に相当する。
本件特許発明1と甲1A発明とを対比すると、
連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含む、糖組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点(1A-1)
連続して結合したグルコースが、本件特許発明1では、「α-」かつ「1,6結合によって」連続して結合したものであるのに対し、甲1A発明では、「α-」かつ「1,6結合によって」連続して結合したものであるか不明である点。
相違点(1A-2)
糖組成物が、本件特許発明1では、「数平均分子量(Mn)が250~1500」であるのに対し、甲1A発明では、数平均分子量(Mn)(以下、「Mn」という。)が特定されていない点。
相違点(1A-3)
糖組成物が、本件特許発明1では、「重量平均分子量(Mw)が1000以上」であるのに対し、甲1A発明では、重量平均分子量(Mw)(以下、「Mw」という。)が特定されていない点。
相違点(1A-4)
糖組成物が、本件特許発明1では、「DEが40以下である」のに対し、甲1A発明では、DEが特定されていない点。
相違点(1A-5)
糖組成物が、本件特許発明1では、「糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分が10~30%」であるのに対し、甲1A発明では、糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分(以下、「差分」という。)が特定されていない点。
相違点(1A-6)
糖組成物が、本件特許発明1では、「グルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である」のに対し、甲1A発明ではα-1,6結合の割合が特定されていない点。
(イ)申立理由1-1A(新規性欠如)についての検討
事案に鑑み、相違点(1A-6)について検討する。
記載(甲1-7)から、甲1A発明の「2,3,4,6-テトラメチル化物」、「3,4,6-トリメチル化物」、「2,4,6-トリメチル化物」、「2,3,6-トリメチル化物」、「2,3,4-トリメチル化物」、「2,4-ジメチル化物」、「2,3-ジメチル化物」はそれぞれ、「非還元末端グルコース残基」、「1,2結合したグルコース残基」、「1,3結合したグルコース残基」、「1,4結合したグルコース残基」、「1,6結合したグルコース残基」、「1,3,6結合したグルコース残基」、「1,4,6結合したグルコース残基」であると認められ、記載(甲1-3)から、それらの結合はいずれもα結合であると認められる。
そうすると、甲1A発明におけるα-1,6結合の面積%は、「1,6結合したグルコース残基」、「1,3,6結合したグルコース残基」、及び「1,4,6結合したグルコース残基」の面積%を足した、30.8+1.6+1.2=33.6である。
同様に、α-1,4結合の面積%は、「α-1,4結合したグルコース残基」及び「α-1,4,6結合したグルコース残基」の面積%を足した37.0+1.2=38.2であり、α-1,3結合の面積%は、「α-1,3結合したグルコース残基」及び「α-1,3,6結合したグルコース残基」の面積%を足した、0.8+1.6=2.4である。
したがって、グルコース間の結合のうち、α-1,6結合の割合は、33.6/(33.6+38.2+2.4)=45.3である。
よって、相違点(1A-6)は、実質的な相違点ではない。
次に、相違点(1A-1)について検討する。
記載(甲1-6)から、甲1のα-グルコシル転移酵素は、グルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し、非還元末端グルコース残基を他のα-1,4グルカンの非還元末端グルコース残基に主としてα-1,4又はα-1,6グルコシル転移するメカニズムによりグルコースを転移するものと認められる。
理論上、α-1,6グルコシル転移が連続すると、α-1,6結合によって連続したグルコースが生成するといえるが、甲1には、α-グルコシル転移酵素を作用させた際に、α-1,6グルコシル転移が連続して生じたとの記載も、甲1A発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲1A発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。
そうすると、甲1には、甲1A発明が、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとする根拠はないから、相違点(1A-1)は、実質的な相違点である。
相違点(1A-5)について検討する。
甲1には、甲1A発明をデキストラナーゼ処理することが記載されておらず、デキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を算定し、差分を計算することも記載されていない。
また、差分は、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量と解されるが、相違点(1A-1)で検討したとおり、技術常識に照らしても、甲1A発明はα-1,6結合によって連続したグルコースを含むとはいえないから、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含むともいえない。
そうすると、相違点(1A-5)は、実質的な相違点である。
相違点(1A-2)について検討する。
甲1には、甲1発明のMnが記載されておらず、甲1には、DP9以上の糖質について、重合度、含量などの具体的な組成が記載されていないから、技術常識に照らしても、甲1A発明の糖組成物のMnが250~1500であるとすることはできない。
そうすると、相違点(1A-2)は、実質的な相違点である。
相違点(1A-3)について検討する。
甲1には、甲1A発明のMwが記載されておらず、甲1には、DP9以上の糖質について、重合度、含量などの具体的な組成が記載されていないから、技術常識に照らしても、甲1A発明のMwが1000以上であるとはいえない。
そうすると、相違点(1A-3)は、実質的な相違点である。
相違点(1A-4)について検討する。
グルコースの分子量は180であるから、DP1の分子量は180である。グルコース2分子が脱水縮合すると水1分子が脱離するから、DP2の分子量は180×2-18=342であり、同様に、DP3~10の分子量は順に、504、666、828、990、1152、1314、1476である。
DP9以上の糖質の分子量を一律に1476と仮定して、甲1A発明のMnの最小値を計算すると、99.8÷(6.9÷180+3.7÷342+8.1÷504+8.2÷666+12.5÷828+14.2÷990+13.9÷1152+11.2÷1314+21.1÷1476)≒703.5となる。
算出したMnから計算すると、甲1A発明の平均重合度「DP」(決定注:DPの上に横線、以下同じ。)は、「DP」≧(703.5-180)/162+1≒4.2となる。
さらに、平均重合度「DP」から、甲1A発明のDEは、DE≒100/4.2≦23.8であり、40以下であると推算される。
したがって、相違点(1A-4)は、実質的な相違点ではない。
(ウ)異議申立人の主張1-1Aについて
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(1-1A-1))
甲1A発明には、α-グルコシル転移酵素により6位への転移が繰り返されたものも含まれるから、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースが含まれる。
異議申立人の主張(1-1A-1)について検討する。
理論上、α-グルコシル転移酵素によりα-1,6グルコシル転移が繰り返される可能性はあるが、甲1には、α-1,6グルコシル転移が連続したことを示す記載も、甲1A発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲1A発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。、
そうすると、甲1には、甲1A発明が連続したα-1,6結合によって連続したグルコースを含むといえる根拠を見出すことはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1A-1)は、採用することができない。
(異議申立人の主張(1-1A-2))
甲1A発明は、表11に記載の組成におけるDP9以上の分子量を全て1476と仮定した場合、Mnの最低値は703となる。実質的にはDP9よりも大きい成分も含まれるので、実際のMnの値はそれより大きくなるが、1500を大きく下回っているため、Mnが1500を超えないであろうと判断される。
異議申立人の主張(1-1A-2)について検討する。
上記(3)ア(イ)の相違点(1A-4)で検討したとおり、DP9以上の糖質の分子量を全て1476と仮定した場合、Mnの最低値は703.5であり、異議申立人の主張するとおり、甲1A発明には、DP9以上の糖質も含まれる可能性があるから、実際のMnの値は703.5より大きくなると認められる。
しかしながら、甲1には、DP9以上の糖質について、重合度、含量などの具体的な組成が記載されていないから、技術常識に照らしても、甲1A発明のMnが1500を超えないということはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1A-2)は、採用することができない。
(異議申立人の主張(1-1A-3))
甲1A発明は、表11に記載の組成におけるDP9以上の分子量を全て1476と仮定した場合、Mnの最低値は985となる。Mwの最低値は1000を僅かに下回るが、実際にはDP9より大きい成分も含まれるので、実質的にMwは1000を超える値となると判断される。
異議申立人の主張(1-1A-3)について検討する。
甲1A発明には、DP9より大きい糖質も含まれる可能性があるが、甲1には、DP9以上の糖質について、重合度、含量などの具体的な数値が記載されていないから、技術常識に照らしても、甲1A発明のMwが1000以上であるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張(1-1A-3)は、採用することができない。
(異議申立人の主張(1-1A-5))
甲1に記載されたイソマルトデキストラナーゼは、グルカンをイソマルトース単位で加水分解してイソマルトースを生成する酵素であり、生成するイソマルトースの量は、糖質中の連続したα-1,6結合の量の多寡を反映するものである。デキストラナーゼとイソマルトデキストラナーゼのα-1,6結合の分解率は必ずしも同じとはいえないが、いずれも連続したα-1,6結合に作用する酵素であり、当業者であれば、本件発明1における差分と、甲1A発明におけるイソマルトデキストラナーゼによるイソマルトースの生成は、連続したα-1,6結合の量を反映するという点で同義であることを充分に理解できる。
イソマルトースがα-1,6以外で結合している場合、α-1,6結合が連続していなくてもイソマルトデキストラナーゼによりイソマルトースが生じるから、甲1A発明において生成されるイソマルトースは、その全てが連続したα-1,6結合に由来するとはいえず、特に、比較的重合度が小さい場合は、末端のα-1,6結合の鎖長が短いため、イソマルトースがα-1,6以外で結合した構造も存在している可能性が高く、実際の連続したα-1,6結合の量はイソマルトース生成量から見積もられるよりも低くなる傾向にあると考えられる。
甲1A発明は、イソマルトデキストラナーゼによりイソマルトースを40.9%生成するが、「DP」が約4と比較的小さいため、内部に分解されずに残るα-1,6結合は少なく、イソマルトースがα-1,6結合以外で結合した構造も多く含まれる可能性は高いから、差分は10~30%である蓋然性が高い。
異議申立人の主張(1-1A-5)について検討する。
異議申立人が主張するとおり、イソマルトースがα-1,6以外で結合している場合のように、α-1,6結合が連続していなくてもイソマルトデキストラナーゼによりイソマルトースが生じるから、イソマルトースの生成が連続したα-1,6結合の存在を裏付けるとも、連続したα-1,6結合の量を反映するともいえない。
そうすると、甲1A発明の差分が10~30%であるとすることはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1A-5)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-1A-1)で主張するように、甲1A発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(1A-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(1A-5)、(1A-2)、(1A-3)が実質的な相違点であるとの判断に影響しない。
(エ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、相違点(1A-1)、(1A-5)、(1A-2)、(1A-3)の点で、甲1A発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(オ)申立理由2-1A(進歩性欠如)についての検討
相違点(1A-1)について検討する。
記載(甲1-3)には、α-グルコシル転移酵素と、それに混在するアミラーゼ、または公知のアミラーゼや澱粉枝切り酵素などを併用することにより得られる分岐α-グルカンは、原料α-1,4グルカンに比べα-1,6結合の割合が大幅に増加していることが記載されているが、甲1には、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させることは記載がなく、特に連続する結合が好ましいとの示唆もされていない。
そうすると、甲1A発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできない。
次に、相違点(1A-5)について検討する。
相違点(1A-1)について検討したとおり、甲1A発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできないから、さらに差分を10~30%という特定の数値範囲とすることにも動機付けはない。
相違点(1A-2)及び相違点(1A-3)について検討する。
記載(甲1-3)には、PP710株を培養して得たα-グルコシル転移酵素と、それに混在するアミラーゼ、または公知のアミラーゼや澱粉枝切り酵素などを併用することにより、得られる分岐α-グルカンの重量平均分子量を調整することが記載され、記載(甲1-4)には、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)は、通常20未満であることが記載されているが、甲1には、MnまたはMwの好適な数値範囲は記載されておらず、一方、記載(甲1-8)、記載(甲1-9)には、広範なMn、Mwを有する分岐α-グルカンが製造されたことが記載されているから、甲1A発明のMnを250~1500、Mwを1000以上という特定の数値範囲にすることは、当業者が容易に想到し得たものでない。
そして、本件発明1は、甲1A発明及び甲1の記載から当業者が予測できない顕著な効果を奏すると認められる。
(カ)異議申立人の主張2-1Aについて
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(2-1A))
本件発明1は、甲1A発明を、当業者が通常の創作能力によって調整することで得られる糖組成物であり、当業者が容易に想到できるものである。
しかしながら、上記(3)ア(オ)で検討したとおり、異議申立人の主張(2-1A)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-1A-1)で主張するように、甲1A発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(1A-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(1A-5)、(1A-2)、(1A-3)は当業者が容易に想到し得たものでないとの判断に影響しない。
(キ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1A発明及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
(ク)本件特許発明1と、甲1B発明との対比
「α-グルカン」はグルコースから構成される多糖であり、グルコースがα-結合によって連続して結合したものといえる。
そうすると、甲1B発明の「分岐α-グルカン」は、本件特許発明1の「α-結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含」む「糖組成物」に相当する。
本件特許発明1と甲1B発明とを対比すると、
α-結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含み、数平均分子量(Mn)が250~1500、重量平均分子量(Mw)が1000以上である、糖組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点(1B-1)
α-結合が、本件特許発明1では、「α-1,6」であるのに対し、甲1B発明では、α-1,6結合であるか不明である点。
相違点(1B-2)
糖組成物が、本件特許発明1では、「DEが40以下である」のに対し、甲1B発明では、DEが特定されていない点。
相違点(1B-3)
糖組成物が、本件特許発明1では、「糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分が10~30%」であるのに対し、甲1B発明では、差分が特定されていない点。
相違点(1B-4)
糖組成物が、本件特許発明1では、「グルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である」のに対し、甲1B発明ではα-1,6結合の割合が特定されていない点。
(ケ)理由1-1B(新規性欠如)についての検討
相違点(1B-1)について検討する。
理論上、α-グルコシル転移酵素によるα-1,6グルコシル転移が連続すると、α-1,6結合によって連続したグルコースが生成するといえるが、甲1には、α-グルコシル転移酵素を作用させた際に、α-1,6グルコシル転移が連続して生じたとの記載も、甲1B発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲1B発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。
そうすると、甲1には、甲1B発明が、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとする根拠はないから、相違点(1B-1)は、実質的な相違点である。
相違点(1B-2)について検討する。
甲1B発明のMnは1,475であるから、甲1B発明の平均重合度「DP」は、「DP」≧(1475-180)/162+1≒9.0となる。
さらに、平均重合度「DP」から、甲1B発明のDEは、DE≒100/9.0≦11.1であり、40以下であると推算される。
したがって、相違点(1B-2)は、実質的な相違点ではない。
相違点(1B-3)について検討する。
甲1には、甲1B発明をデキストラナーゼ処理することが記載されておらず、デキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を算定し、差分を計算することも記載されていない。
また、差分は、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量と解されるが、相違点(1B-1)で検討したとおり、技術常識に照らしても、甲1B発明はα-1,6結合によって連続したグルコースを含むとはいえないから、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含むともいえない。
そうすると、相違点(1B-3)は、実質的な相違点である。
相違点(1B-4)について検討する。
甲1には、甲1B発明に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合について記載がなく、また、甲1B発明をメチル化分析することも記載されていないから、技術常識に照らしても、甲1B発明のグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合は明らかでない。
そうすると、相違点(1B-4)は、実質的な相違点である。
(コ)異議申立人の主張1-1Bについて
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(1-1B-1))
甲1B発明には、α-グルコシル転移酵素により6位への転移が繰り返されたものも含まれるから、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースが含まれる。
異議申立人の主張(1-1B-1)について検討する。
理論上、α-グルコシル転移酵素によりα-1,6グルコシル転移が繰り返される可能性はあるが、甲1には、α-1,6グルコシル転移が連続したことを示す記載も、甲1B発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲1B発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。、
そうすると、甲1には、甲1B発明が連続したα-1,6結合によって連続したグルコースを含むといえる根拠を見出すことはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1B-1)は、採用することができない。
(異議申立人の主張(1-1B-3))
甲1B発明は、イソマルトデキストラナーゼ消化でイソマルトースを25~30%生成するものといえる。
また、「DP」が約9と比較的小さいため、内部に分解されずに残るα-1,6結合は少ないと考えられる。さらに、甲1B発明は、鎖長も短いと考えられ、イソマルトースがα-1,6結合以外で結合した構造も多く含まれる可能性は高いから、差分は10~30%である蓋然性が高い。
異議申立人の主張(1-1B-3)について検討する。
イソマルトースがα-1,6以外で結合している場合のように、α-1,6結合が連続していなくてもイソマルトデキストラナーゼによりイソマルトースが生じるから、イソマルトースの生成が連続したα-1,6結合の存在を裏付けるとも、連続したα-1,6結合の量を反映するともいえない。
そうすると、甲1B発明の差分が10~30%であるとすることはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1B-3)は、採用することができない。
(異議申立人の主張(1-1B-4))
記載(甲1-1)の請求項1の分岐α-グルカンは、α-1,6結合を32.4~79.3%程度含むから、甲1B発明のα-1,6結合の割合は、35~80%であることは明らかである。
また、甲1B発明と記載(甲1-8)の「グルカンC」は、いずれもα-グルコシル転移酵素とα-アミラーゼを併用して得られたものであり、類似した構造及び物性等を有すると考えられる。「グルカンC」は、α-1,6結合を約53.8%含むと算出されるから、甲1B発明も、α-1,6結合の割合は同程度であると推察される。
異議申立人の主張(1-1B-4)について検討する。
記載(甲1-9)には、実験18-2が、α-グルコシル転移酵素にα-アミラーゼを併用したα-グルカンの調製と得られたα-グルカンの分子量分布を調べる目的で実施されたものであること、α-アミラーゼの作用量が多くなるにつれて得られる分岐α-グルカンの数平均分子量及び重量平均分子量が共に低下し、さらに重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)も低下したことから、分子量分布の幅が狭くなることが判明したことが記載されている。
そうすると、実験18-2は、実施例ではなく、酵素の併用による分子量分布の変化を調べる目的で実施されたものであるから、製造されたα-グルカンが全て、記載(甲1-1)の請求項1の分岐α-グルカンに相当するとはいえない。
また、甲1B発明が、記載(甲1-1)の請求項1の分岐α-グルカンに相当するとしても、請求項1に記載された32.4~79.3%との数値範囲は、本件特許発明1の35~80%と一部重複するものの、32.4~35%の範囲においては相違するから、甲1B発明のα-1,6結合の割合が明らかでない以上、35~80%の範囲であるという根拠もない。
一方、記載(甲1-8)には、「グルカンC」は、α-グルコシル転移酵素の粗酵素を作用させることにより得られたことが記載されており、記載(甲1-6)には、粗酵素がある種のアミラーゼを含むこと、記載(甲1-8)には、粗酵素の混在酵素が分岐α-グルカンにおけるα-1,6結合の増加、1,3結合と1,6結合の両方にあずかるグルコース残基の増加に寄与していることを示唆することが記載されている。
甲1には、粗酵素の混在酵素がある種のアミラーゼであることは記載されているが、α-アミラーゼであることは記載されていないから、グルカンCはα-グルコシル転移酵素とα-アミラーゼを併用して得られたものではない。
そうすると、甲1B発明と「グルカンC」は、いずれもα-グルコシル転移酵素とα-アミラーゼを併用して得られたものとはいえない。
そして、作用させる酵素により、得られる生成物の化学構造や物性が異なることは技術常識であるが、甲1B発明と「グルカンC」のMn及びMwについてみると、甲1B発明はそれぞれ1,475、3,552であり、「グルカンC」はそれぞれ、2,840、6,220であるように、両者は大きく相違するから、「グルカンC」のMnやMwが甲1B発明と同程度であるとすることはできない。
そうすると、α-1,6結合の割合については、甲1B発明と「グルカンC」は同程度であるとする根拠を見出すことはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1B-4)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-1B-1)で主張するように、甲1B発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(1B-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(1B-3)、(1B-4)が実質的な相違点であるとの判断に影響しない。
(サ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、相違点(1B-1)、(1B-3)、(1B-4)の点で、甲1B発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(シ)申立理由2-1B(進歩性欠如)についての検討
相違点(1B-1)について検討する。
記載(甲1-3)には、α-グルコシル転移酵素と、それに混在するアミラーゼ、または公知のアミラーゼや澱粉枝切り酵素などを併用することにより得られる分岐α-グルカンは、原料α-1,4グルカンに比べα-1,6結合の割合が大幅に増加していることが記載されているが、甲1には、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させることは記載がなく、特に連続する結合が好ましいとの示唆もされていない。
そうすると、甲1B発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできない。
相違点(1B-3)について検討する。
相違点(1B-1)について検討したとおり、甲1B発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできないから、さらに差分を10~30%という特定の数値範囲とすることにも動機付けはない。
そして、本件発明1は、甲1B発明及び甲1の記載から当業者が予測できない顕著な効果を奏すると認められるから、相違点(1B-4)については検討するまでもなく、本件特許発明1に係る発明は、甲1B発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ス)異議申立人の主張2-1Bについて
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(2-1B))
本件発明1は、甲1B発明を、当業者が通常の創作能力によって調整することで得られる糖組成物であり、当業者が容易に想到できるものである。
しかしながら、上記(3)ア(シ)で検討したとおり、異議申立人の主張(2-1B)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-1B-1)で主張するように、甲1B発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(1B-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(1B-3)は当業者が容易に想到し得たものでないとの判断に影響しない。
(セ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1B発明及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
(ソ)本件特許発明1と、甲1C発明との対比
甲1C発明の「分岐α-グルカン粉末」は、本件特許発明1の「α-結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含」む「糖組成物」に相当する。
本件特許発明1と甲1C発明とを対比すると、
α-結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含み、重量平均分子量(Mw)が1000以上である、糖組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点(1C-1)
α-結合が、本件特許発明1では、「α-1,6結合」であるのに対し、甲1C発明では、α-1,6結合であるのか不明である点。
相違点(1C-2)
糖組成物が、本件特許発明1では、「数平均分子量(Mn)が250~1500である」のに対し、甲1C発明では、Mnが特定されていない点。
相違点(1C-3)
糖組成物が、本件特許発明1では、「DEが40以下である」のに対し、甲1C発明では、DEが特定されていない点。
相違点(1C-4)
糖組成物が、本件特許発明1では、「糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分が10~30%」であるのに対し、甲1C発明では、差分が特定されていない点。
相違点(1C-5)
糖組成物が、本件特許発明1では、「グルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である」のに対し、甲1C発明ではα-1,6結合の割合が特定されていない点。
(タ)申立理由1-1C(新規性欠如)についての検討
相違点(1C-1)について検討する。
理論上、α-グルコシル転移酵素によるα-1,6グルコシル転移が連続すると、α-1,6結合によって連続したグルコースが生成するといえるが、甲1には、α-グルコシル転移酵素を作用させた際に、α-1,6グルコシル転移が連続して生じたとの記載も、甲1C発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲1C発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。
そうすると、甲1には、甲1C発明が、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとする根拠はないから、相違点(1C-1)は、実質的な相違点である。
相違点(1C-2)について検討する。
甲1C発明において、Mwは2,979であり、Mw/Mnは2.0であるから、Mnは1489.5であると認められる。
そうすると、相違点(1C-2)は、実質的な相違点ではない。
相違点(1C-3)について検討する。
甲1C発明のMnは1489.5であるから、甲1C発明の平均重合度「DP」は、≧(1489.5-180)/162+1≒9.1となる。
さらに、平均重合度「DP」から、甲1C発明のDEは、DE≒100/9.0≦11.0であり、40以下であると推算される。
そうすると、相違点(1C-3)は、実質的な相違点ではない。
相違点(1C-4)について検討する。
甲1には、甲1C発明をデキストラナーゼ処理することが記載されておらず、デキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を算定し、差分を計算することも記載されていない。
また、差分は、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量と解されるが、相違点(1C-1)で検討したとおり、技術常識に照らしても、甲1C発明はα-1,6結合によって連続したグルコースを含むとはいえないから、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含むともいえない。
そうすると、相違点(1C-4)は、実質的な相違点である。
相違点(1C-5)について検討する。
甲1C発明は、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比は1:4を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の67.9%を占め、2,4,6-トリメチル化物及び2,4-ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の2.3及び5.3%を示すことから、α-1,4結合と、α-1,6結合の合計が67.9%を占め、そのうち、α-1,4結合が13.58%、α-1,6結合が54.32%を占めるといえる。
また、α-1,3結合は2.3%、α-1,3,6結合は5.3%であると認められる。
さらに、原料となるトウモロコシ澱粉はα-1,2結合を含まないものと認められ、記載(甲1-6)によれば、α-グルコシル転移酵素はα-1,2転移を触媒しないから、甲1C発明はα-1,2結合を含まないといえる。
記載(甲1-10)には、2,3,4,6-テトラメチル化物、または2,3-ジメチル化物の割合は記載されていないから、甲1C発明の非還元末端、α-1,4,6結合の割合は不明である。
相違点(1C-3)で検討したとおり、甲1C発明はDEが11であるから、非還元末端は少なくとも11%存在するといえる。
そうすると、残るα-1,4,6結合の割合は、0%~13.5%(100-67.9-5.3-2.3-11)である。
α-1,4,6結合が0%の場合、α-1,6結合の割合は、(α-1,6結合+α-1,3,6結合)/全結合で計算すると、(54.32+5.3)/(0+2.3+67.9+5.3×2+0×2)=73.8%である。
α-1,4,6結合が13.5%の場合、α-1,6結合の割合は(α-1,6結合+α-1,3,6結合+α-1,4,6結合)/全結合=(54.32+5.3+13.5)/(0+2.3+67.9+5.3×2+13.5×2)=67.8%である。
したがって、甲1C発明のグルコース間の結合のうち、α-1,6結合の割合は、67.0~73.8%であると認められるから、相違点(1C-5)は実質的な相違点でない。
(チ)異議申立人の主張1-1Cについて
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(1-1C-1))
甲1C発明には、α-グルコシル転移酵素により6位への転移が繰り返されたものも含まれるから、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースが含まれる。
異議申立人の主張(1-1C-1)について検討する。
理論上、α-グルコシル転移酵素によりα-1,6グルコシル転移が繰り返される可能性はあるが、甲1には、α-1,6グルコシル転移が連続したことを示す記載も、甲1C発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲1C発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。
そうすると、甲1には、甲1C発明が連続したα-1,6結合によって連続したグルコースを含むといえる根拠を見出すことはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1C-1)は、採用することができない。
(異議申立人の主張(1-1C-4))
甲1C発明は、イソマルトデキストラナーゼ消化でイソマルトースを40.6質量%生成するが、また、「DP」が約9と比較的小さいため、内部に分解されずに残るα-1,6結合は少ないと考えられる。さらに、甲1C発明は、鎖長も短いと考えられ、イソマルトースがα-1,6結合以外で結合した構造も多く含まれる可能性は高いから、差分は10~30%である蓋然性が高い。
異議申立人の主張(1-1C-4)について検討する。
異議申立人が主張するとおり、イソマルトースがα-1,6以外で結合している場合のように、α-1,6結合が連続していなくてもイソマルトデキストラナーゼによりイソマルトースが生じるから、イソマルトースの生成が連続したα-1,6結合の存在を裏付けるとも、連続したα-1,6結合の量を反映するともいえない。
そうすると、甲1C発明の差分が10~30%であるとすることはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-1C-4)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-1C-1)で主張するように、甲1C発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(1C-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(1C-4)が実質的な相違点であるとの判断に影響しない。
(ツ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、相違点(1C-1)、(1C-4)の点で、甲1C発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(テ)申立理由2-1C(進歩性欠如)についての検討
相違点(1C-1)について検討する。
甲1には、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させることは記載がなく、特に連続する結合が好ましいとの示唆もされていない。
そうすると、甲1C発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできない。
相違点(1C-4)について検討する。
相違点(1C-1)について検討したとおり、甲1C発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできないから、さらに差分を10~30%という特定の数値範囲とすることにも動機付けはない。
そして、本件発明1は、甲1C発明及び甲1の記載から当業者が予測できない顕著な効果を奏すると認められる。
(ト)異議申立人の主張2-1Cについて
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(2-1C))
本件発明1は、甲1C発明を、当業者が通常の創作能力によって調整することで得られる糖組成物であり、当業者が容易に想到できるものである。
しかしながら、上記(3)ア(テ)で検討したとおり、異議申立人の主張(2C-1)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-1C-1)で主張するように、甲1C発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(1C-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(1C-4)は当業者が容易に想到し得たものでないとの判断に影響しない。
(ナ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1C発明及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
イ 本件特許発明2、3、7~13について
本件特許発明2、3、7~13は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件特許発明1が、甲1に記載されたものでも、甲1から当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2、3、7~13も、甲1に記載されたものでも、甲1から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2.申立理由1-2(新規性欠如)及び申立理由2-2(進歩性欠如)について
(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
記載(甲2-1)
「【請求項1】
下記(A)乃至(D)の特徴を有する分岐α-グルカンを含有する、抗生活習慣病用剤;
(A)グルコースを構成糖とし、
(B)α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、
(C)グルコース重合度が6乃至430であって、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)が20以下で、
(D)本文記載の高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が20質量%以上である。
【請求項2】
前記分岐α-グルカンがメチル化分析において下記(1)乃至(4)の特徴を有する、請求項1記載の抗生活習慣病用剤;
(1) 2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にあり、
(2) 2,3,6-トリメチル-1,4,5-トリアセチルグルシトールと2,3,4-トリメチル-1,5,6-トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占め、
(3)2,4,6-トリメチル-1,3,5-トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%以下であり、
(4)2,4-ジメチル-1,3,5,6-テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である。」
記載(甲2-2)
「【0020】
本発明において、抗生活習慣病用剤の有効成分として用いられる分岐α-グルカンは、本出願人が先に国際公開第WO2008/136331号パンフレットにおいて開示した分岐α-グルカンであり、斯かる分岐α-グルカンは以下の(A)乃至(D)の特徴を有している。
(A)グルコースを構成糖とし、
(B)α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有し、
(C)グルコース重合度が6乃至430であって、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)が20以下で、
(D)本文記載の高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が20質量%以上である。
【0021】
すなわち、本発明で抗生活習慣病用剤の有効成分として用いられる分岐α-グルカン(以下、「本分岐α-グルカン」という。)は、グルコースを唯一の構成糖とするグルカン(特徴(A))であり、α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有している(特徴(B))。なお、「非還元末端グルコース残基」とは、α-1,4結合を介して連結したグルカン鎖のうち、還元性を示さない末端に位置するグルコース残基を意味し、「α-1,4結合以外の結合」とは、文字どおりα-1,4結合以外の結合であり、α-1,2結合、α-1,3結合、α-1,6結合、α-1,4,6、及びα-1,3,6結合が挙げられる。」
記載(甲2-3)
「【0032】
本分岐α-グルカンは、上記(A)乃至(D)の特徴を有しているか、或いは、メチル化分析において上記(1)乃至(4)の特徴を有している限り、如何なる方法で製造されたものであっても良いが、例えば酵素反応によって製造するのが好ましい。酵素反応によって本分岐α-グルカンを製造する際には、α-グルコシル転移作用(糖転移作用)を有する酵素を用いて製造することができる。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、α-グルコシル転移作用を有する酵素を「α-グルコシル転移酵素」という。
【0033】
本分岐α-グルカンを製造するα-グルコシル転移酵素としては、例えば、本出願人が先に国際公開第WO2008/136331号パンフレットにおいて開示したα-グルコシル転移酵素を挙げることができる。前記α-グルコシル転移酵素は、マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し、実質的に加水分解することなくα-グルコシル転移を触媒することにより、本分岐α-グルカンを生成する。前記α-グルコシル転移酵素は、加水分解活性が弱い点、低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点、及び、α-1,3のみならずα-1,3,6結合をも生成する点に特徴のある酵素である。α-グルコシル転移作用を有する酵素としては、α-グルコシダーゼ(EC.3.2.1.20)などが挙げられる。酵素の添加量および酵素の反応時間、反応条件については、水溶性食物繊維含量、分子量分布、α-1,4結合以外の結合の割合を調節する目的等で、当業者が適宜決定できる。
【0034】
本分岐α-グルカンの製造に用いられるα-グルコシル転移酵素は、その給源によって制限されず、市販のものを用いても、微生物等から単離したものを用いてもよく、給源となる微生物は、天然由来の微生物に加えて、α-グルコシル転移酵素生産能を有する組換え微生物であってもよい。好ましい給源としては、国際公開第WO2008/136331号パンフレットに記載された、土壌より単離した微生物バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP-10771)(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、2007年2月1日付けで、受託番号FERM BP-10771として寄託)や、アルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP-10770)(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、2007年2月1日付けで、受託番号FERM BP-10770として寄託)などが挙げられる。
【0035】
前記バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP-10771)由来のα-グルコシル転移酵素や、アルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP-10770)由来のα-グルコシル転移酵素の反応メカニズムは、国際公開第WO2008/136331号パンフレット記載の通りであるが、下記に説明すると、前記α-グルコシル転移酵素は、
(1)基質としてマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し、非還元末端グルコース残基を他のα-1,4グルカンの非還元末端グルコース残基に主としてα-1,4またはα-1,6グルコシル転移することにより、非還元末端グルコース残基の4位または6位水酸基にグルコースがα-結合したα-1,4グルカン(グルコース重合度が1増加したα-グルカン)と、グルコース重合度が1減じたα-1,4グルカンを生成する。
(2)(1)で生じたグルコース重合度が1減じたα-1,4グルカンに作用し、(1)で生じたグルコース重合度が1増加したα-グルカンに対して、(1)と同様に分子間α-1,4又はα-1,6グルコシル転移することにより、(1)で生成したグルコース重合度が1増加したα-グルカンの非還元末端グルコース残基の4又は6位水酸基にグルコースをさらに転移し、鎖長を伸長する。
(3)上記(1)及び(2)の反応を繰り返すことにより、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα-1,4グルカンからα-1,4及びα-1,6結合を有するグルカンを生成する。
(4)また前記α-グルコシル転移酵素はさらに、頻度は低いながらもα-1,3グルコシル転移やグルカンの内部にあるα-1,6結合したグルコース残基に対するα-1,4又はα-1,3グルコシル転移を触媒することにより、α-1,3結合、α-1,4,6結合、及びα-1,3,6結合をも有するグルカンを生成する。
(5)上記(1)乃至(4)の反応が繰り返される結果として、グルコースが主としてα-1,4結合及びα-1,6結合で結合し、僅かながらα-1,3結合、α-1,4,6結合、及びα-1,3,6結合を有する本分岐α-グルカンを生成する。
記載(甲2-4)
「【0061】
2.本分岐α-グルカンの製造
2-1.製造例1
前記調製例1で調製した濃縮粗酵素液1を用いた本分岐α-グルカンの製造方法例について説明する。まず、30.0質量%トウモロコシ澱粉液化液(DE3.5)に、最終濃度1mMとなるように塩化カルシウムを加えた後、50℃に冷却し、これに濃縮粗酵素液1を、α-グルコシル転移酵素活性として基質固形物1グラム当たり11.3単位加え、更に、50℃、pH6.0で48時間作用させた。その反応液を80℃で60分間保った後、冷却し、濾過し、得られる濾液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型およびOH型イオン樹脂により脱塩・精製し、更に濃縮し、噴霧乾燥して、分岐α-グルカン1の粉末を得た。得られた分岐α-グルカン1は、前述したα-グルコシル転移酵素の反応メカニズムにより、α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有する。
【0062】
得られた分岐α-グルカン1の分子量分布をゲル濾過HPLC法にて分析した。ゲル濾過HPLCは、カラムに「TSKGEL α-3000」(株式会社東ソー製)を2本連結したものを用い、溶離液に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、カラム温度40℃
、流速0.5ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID-10A(株式会社島津製作所製造)
を用いて行った。図1に分岐α-グルカン1のゲル濾過HPLCクロマトグラムを示した。ゲル濾過HPLCクロマトグラムから明らかなように、製造例1の方法で得られた分岐α-グルカン1には、分岐α-グルカンとしての画分(S1画分)と高分子量の水溶性多糖画分(S2画分)が含まれることが判明し、その質量比はS1画分を100質量%としたとき、S2画分は0.9質量%であった。また、ゲル濾過HPLCクロマトグラムから、分岐α-グルカン1はグルコース重合度が6乃至210の分岐α-グルカンの混合物であることが判明した。
【0063】
上記S1画分とS2画分の平均分子量をそれぞれ調べるために、各画分をそれぞれサイズ排除クロマトグラフィーにより分離し、各画分の平均分子量を多角度光散乱検出器および示差屈折率検出器により測定した。カラムに「ShodexSB-806M」(昭和電工株式会社製)を用い、溶離液に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、流速1ml/分の条件で行い、検出は多角度光散乱検出器「DAWN HELEOS(Wyatta Technology社製)」、及び示差屈折率検出器「Optilab
rEX(Wyatta Technology社製)」を用いて行った。その結果、各画分の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は表1に示す通りであった。
【0064】
【表1】
[図:0001384176000006.jpg]
【0065】
分岐α-グルカン1の水溶性食物繊維含量を、栄養表示基準(平成8年5月厚生省告示第146号)における栄養成分等の分析方法等(栄養表示基準別表第1の第3欄に掲げる方法)、8.食物繊維、(2)高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)記載の方法に準じて下記の方法により調べた。なお、酵素処理用のキットとして、総食物繊維測定キット(「Dietary Fiber,Total,Assay,Control Kit」、シグマ社製)を用いた。
【0066】
被験試料として0.1gの分岐α-グルカン1を試験管にとり、0.08Mリン酸緩衝液5mlを添加しpHを6.0に調整した。これに、食物繊維測定キット付属の熱安定α-アミラーゼ(バチルス・リケニホルミス由来耐熱性α-アミラーゼ、シグマ社製)溶液0.01mlを加え、アルミ箔で覆い、沸騰水浴中で5分毎に攪拌しつつ30分間反応させ、冷却した。得られた反応液に、0.275M水酸化ナトリウム溶液約1mlを添加しpHを7.5に調整した後、キット付属のプロテアーゼ(バチルス・リケニホルミス由来、シグマ社製)溶液0.01mlを加え、アルミ箔で覆い、60℃の水浴中で振盪しつつ30分間反応させ、冷却した。得られたプロテアーゼ処理液に0.325M塩酸を約1ml添加し、pHを4.3に調整した後、キット付属のアミログルコシダーゼ(アスペルギルス・ニガー由来、シグマ社製)溶液0.01mlを加え、アルミ箔で覆い、60℃の水浴中で振盪しつつ30分間反応させ、冷却した。次いで、得られた反応液約7mlを、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社販売のアンバーライトIRA-67(OH型)とアンバーライト200CT(H型)を1:1で混合)にSV1.0で通液することにより脱塩し、さらに約3倍量の脱イオン水にて溶出し、溶出液の総量を約28mlとした。得られた溶出液をエバポレーターにて濃縮し、孔径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過した後、メスフラスコで25mlに定容したものを分析用試料溶液とした。得られた分析用試料溶液は、下記の条件による高速液体クロマトグラフィーに供した。カラムとして
「TGKgel G2500PWXL(内径7.8mm×長さ300mm,株式会社東ソー製)」2本を直列に連結したものを用い、溶離液は脱イオン水、試料濃度は0.8質量%、カラム温度80℃、流速0.5ml/分、分析時間50分で、示差屈折計で検出した。上記で得られたクロマトグラムにおいて、酵素処理によっても分解されずに残存する未消化グルカンを水溶性食物繊維とした。この水溶性食物繊維と分解されて生成したグルコースのピーク面積をそれぞれ求め、別途、常法のグルコース・オキシダーゼ法にて定量した分析用試料溶液中のグルコース量を用いて、下記の式1により水溶性食物繊維量を求めた。さらに、下記の式2により被験試料の水溶性食物繊維含量を求めた。斯かる酵素-HPLC法により求めた分岐α-グルカン1の水溶性食物繊維含量は80.0質量%であった。
【0067】
[図:0001384176000007.jpg]
【0068】
[図:0001384176000008.jpg]
【0069】
以上のとおり、製造例1で製造された分岐α-グルカン1は、グルコースを構成糖とし、α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有する分岐α-グルカンであり、グルコース重合度が6乃至210の混合物で、Mw/Mnが1.2、水溶性食物繊維含量が80.0質量%の分岐α-グルカンであった。
【0070】
分岐α-グルカン1を構成するグルコースの結合様式を常法に従ってメチル化分析により測定した。また、下記条件によるガスクロマトグラフィー法で部分メチル化物を調べた。カラムに「DB-5キャピラリーカラム(内径0.25mm×長さ30m×膜厚1μm,J&WScientific社製)、キャリアーガスにヘリウムを用いて、カラム温度は130℃で2分間保持した後、250℃まで5℃/分で昇温し、250℃で20分間保持した。流速は1ml/分の条件、検出はFID法にて行った。その結果、分岐α-グルカン1は、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比が1:2.4を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の70.5%を占めていた。また、2,4,6-トリメチル化物は部分メチル化物の2.4%を示し、2,4-ジメチル化物は部分メチル化物の6.4%を示した。
【0071】
分岐α-グルカン1の構造をさらに特徴づける目的で、イソマルトデキストラナーゼ消化試験を行った。分岐α-グルカン1の水溶液(最終濃度1質量%)にアルスロバクター・グロビホルミス由来のイソマルトデキストラナーゼ(株式会社林原製)を基質固形物1グラム当たり100単位加え、50℃、pH5.0で16時間作用させ、100℃で10分間保持して反応を停止した後、その反応液中の糖組成を高速液体HPLCおよびガスクロマトグラフィーを用いて調べた。HPLCは、カラムに「MCI GEL CK04SS」(株式会社三菱化学製)2本を用い、溶離液に水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID-10A(株式会社島津製作所製)を用いて行った。ガスクロマトグラフィーは、常法に従って糖質をトリメチルシリル化(TMS化)した後、カラムに「2%シリコンOV-17 Chromosorb W/AW-DMS」(株式会社ジー・エル・サイエンス製)を用い、1分間当たり7.5℃の昇温速度で温度160℃から320℃まで昇温した。キャリアーガスとして窒素ガスを用い、検出はFID法にて行った。その結果、イソマルトデキストラナーゼ消化において、分岐α-グルカン1からは糖組成として35.0質量%のイソマルトースが生成した。この結果は、分岐α-グルカン1がイソマルトース構造をそれぞれ、少なくとも35.0質量%程度含んでいることを示すものである。」
(2)甲2に記載された発明
記載(甲2-4)から、甲2には、
「グルコースを構成糖とし、α-1,4結合を介して連結したグルコース重合度3以上の直鎖状グルカンの一端に位置する非還元末端グルコース残基にα-1,4結合以外の結合を介して連結したグルコース重合度1以上の分岐構造を有する分岐α-グルカンであり、グルコース重合度が6乃至210の混合物で、数平均分子量Mnが4345、重量平均分子量Mwが5042、Mw/Mnが1.2、水溶性食物繊維含量が80.0質量%の分岐α-グルカンであって、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比が1:2.4を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の70.5%を占め、2,4,6-トリメチル化物は部分メチル化物の2.4%を示し、2,4-ジメチル化物は部分メチル化物の6.4%を示し、イソマルトース構造を少なくとも35.0質量%程度含む、分岐α-グルカン。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件特許発明についての検討
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と、甲2発明との対比
甲2発明の「分岐α-グルカン」は、本件特許発明1の「α-結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含」む「糖組成物」に相当する。
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、
α-結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含み、重量平均分子量(Mw)が1000以上である、糖組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点(2-1)
α-結合が、本件特許発明1では、「α-1,6結合」であるのに対し、甲2発明では、α-1,6結合であるのか不明である点。
相違点(2-2)
数平均分子量(Mn)が、本件特許発明1では、「250~1500」であるのに対し、甲2発明では、4345である点。
相違点(2-3)
糖組成物が、本件特許発明1では、「DEが40以下である」のに対し、甲2発明では、DEが特定されていない点。
相違点(2-4)
糖組成物が、本件特許発明1では、「糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分が10~30%」であるのに対し、甲2発明では、差分が特定されていない点。
相違点(2-5)
糖組成物に含まれるグルコース結合様式が、本件特許発明1では、「α-1,6結合の割合が35~80%」であるのに対し、甲2発明では、α-1,6結合の割合が特定されていない点。
(イ)申立理由1-2(新規性欠如)についての検討
相違点(2-1)について検討する。
記載(甲2-3)から、甲2のα-グルコシル転移酵素は、グルコース重合度が3以上のα-1,4グルカンに作用し、主としてα-1,4又はα-1,6グルコシル転移するメカニズムによりグルコースを転移するものと認められる。
理論上、α-1,6グルコシル転移が連続すると、α-1,6結合によって連続したグルコースが生成するといえるが、甲2には、α-グルコシル転移酵素を作用させた際に、α-1,6グルコシル転移が連続して生じたとの記載も、甲2発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとの記載もなく、技術常識に照らして、甲2発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとも認められない。
そうすると、甲2には、甲2発明が、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含むとする根拠はないから、相違点(2-1)は、実質的な相違点である。
相違点(2-2)について検討する。
相違点(2-2)は実質的な相違点である。
相違点(2-3)について検討する。
甲2発明のMnは4345であるから、甲2発明の平均重合度「DP」は、「DP」≧(4345-180)/162+1≒26.7となる。
さらに、平均重合度「DP」から、甲2発明のDEは、DE≒100/26.7≒3.7であり、40以下であると推算される。
そうすると、相違点(2-3)は、実質的な相違点ではない。
相違点(2-4)について検討する。
甲2には、甲2発明をデキストラナーゼ処理することが記載されておらず、デキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を算定し、差分を計算することも記載されていない。
また、差分は、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量と解されるが、相違点(2-1)で検討したとおり、技術常識に照らしても、甲2発明はα-1,6結合によって連続したグルコースを含むとはいえないから、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含むともいえない。
そうすると、相違点(2-4)は、実質的な相違点である。
相違点(2-5)について検討する。
甲2発明は、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の比は1:2.4を示し、2,3,6-トリメチル化物と2,3,4-トリメチル化物の合計は部分メチル化物の70.5%を占め、また、2,4,6-トリメチル化物は部分メチル化物の2.4%を示し、2,4-ジメチル化物は、部分メチル化物の6.4%を示すことから、α-1,4結合と、α-1,6結合の合計が70.5%を占め、そのうち、α-1,4結合が120.74%、α-1,6結合が49.76%を占めるといえる。
また、α-1,3結合は2.4%、α-1,3,6結合は6.4%であると認められる。
さらに、原料となるトウモロコシ澱粉はα-1,2結合を含まないものと認められ、記載(甲2-3)によれば、α-グルコシル転移酵素はα-1,2転移を触媒しないから、甲2発明はα-1,2結合を含まないといえる。
記載(甲2-4)には、2,3,4,6-テトラメチル化物、または2,3-ジメチル化物の割合は記載されていないから、非還元末端、α-1,4,6結合の割合は不明である。
相違点(2-3)で検討したとおり、甲2発明はDEが3.7であるから、非還元末端は少なくとも3.7%存在するといえる。
そうすると、残るα-1,4,6結合の割合は、0%~17.0%である。
α-1,4,6結合が0%の場合、α-1,6結合の割合は、(α-1,6結合+α-1,3,6結合)/全結合で計算すると、(49.76+6.4)/(0+2.4+70.5+6.4×2)=65.5%である。
α-1,4,6結合が17.0%の場合、α-1,6結合の割合は(α-1,6結合+α-1,3,6結合+α-1,4,6結合)/全結合=(54.32+5.3+17.0)/(0+2.4+70.5+6.4×2+17.0×2)=64.0%である。
したがって、甲2発明のグルコース間の結合のうち、α-1,6結合の割合は、64.0~65.5%であると認められるから、相違点(2-5)は実質的な相違点ではない。
(ウ)異議申立人の主張1-2について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(1-2))
甲2発明の分岐α-グルカンは、甲1の分岐α-グルカンと類似の構造を有するものであるから、甲1発明と同様に、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を有し、差分が10~30%であり、糖組成物に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である蓋然性が高い。
分子量990(DP6)以上の糖は、甲2発明に含まれ得るから、重合度が7の場合の分子量が1152であり、これは、本件特許発明1のMn、Mwに相当する。また、重合度が7の分岐α-グルカンは、DE=100/DP=14.3であるから、本件特許発明のMn、Mw、DEを満たす。
異議申立人の主張(1-2)について検討する。
甲2発明は、上記2.(2)で認定したとおりのものであり、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を有する点、差分が10~30%である点、糖組成物に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である点については、それぞれ上記2.(3)(イ)の相違点(2-1)、相違点(2-4)、相違点(2-5)で検討したとおりである。
また、甲2全体の記載をみても、DP6以上の糖や重合度が7の分岐α-グルカンを選択して糖組成物とするとの記載はないから、そのような糖組成物を甲2発明として認定し、そのMn、Mw、DEを本件特許発明のMn、Mw、DEと対比することはできない。
したがって、異議申立人の主張(1-2)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(1-2)で主張するように、甲2発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(2-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(2-4)、(2-5)は当業者が容易に想到し得たものでないとの判断に影響しない。
(エ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、相違点(2-1)、(2-2)、(2-4)の点で、甲2発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(オ)申立理由2-2(進歩性欠如)についての検討
相違点(2-1)について検討する。
甲2には、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させることは記載がなく、特に連続する結合が好ましいとの示唆もされていない。
そうすると、甲2発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできない。
相違点(2-2)について検討する。
甲2発明のグルコース重合度は6乃至430であり、グルコース重合度が6乃至430であればMnは990~約70,000と広範囲にわたるから、Mnを250~1500という特定の範囲にすることは当業者が容易に想到し得たものでない。
相違点(2-4)について検討する。
相違点(2-1)について検討したとおり、甲2発明において、グルコースをα-1,6結合によって連続して結合させる動機付けを見出すことはできないから、さらに差分を10~30%という特定の数値範囲とすることにも動機付けはない。
そして、本件発明1は、甲2発明及び甲2の記載から当業者が予測できない顕著な効果を奏すると認められる。
(カ)異議申立人の主張2-2について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(2-2))
重合度7の糖質に他の糖質を組み合わせて糖組成物とすることは、当業者にとって格別困難性はないから、本件特許発明1は、甲2発明から当業者が容易に想到できるものである。
異議申立人の主張(2-2)について検討する。甲2全体の記載をみても、重合度が7の分岐α-グルカンを選択して糖組成物とするとの記載はないから、そのような糖組成物を甲2発明として認定することはできない。
したがって、異議申立人の主張(2-2)は、採用することができない。
仮に、異議申立人が(2-2)で主張するように、甲2発明がα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含み、相違点(2-1)が実質的な相違点でないとしても、相違点(2-2)、(2-4)は当業者が容易に想到し得たものでないとの判断に影響はない。
(キ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲2発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
イ 本件特許発明2、3、7~13について
本件特許発明2、3、7~13は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件特許発明1が、甲2に記載されたものでも、甲2から当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2、3、7~13も、甲2に記載されたものでも、甲2から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3.申立理由1-3(新規性欠如)及び申立理由2-3(進歩性欠如)について
(1)甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
記載(甲3-1)
「【請求項1】
少なくとも2つのα-1→4結合D-グルコース単位をその非還元末端に含む多糖基質および/またはオリゴ糖基質を、(α1→4)グルコシド結合を切断し、新しい(α1→4)グルコシド結合および(α1→6)グルコシド結合を形成することができるα-グルカノトランスフェラーゼ酵素と接触させるステップを含む、1つまたは複数の連続する(α1→6)グルコシド結合および1つまたは複数の連続する(α1→4)グルコシド結合を有するグルコオリゴ糖の混合物を生成する方法。
【請求項2】
前記α-グルカノトランスフェラーゼが、(α1→6)分枝点、(α1→2)結合、および(α1→3)結合のいずれも導入しない、請求項1に記載の方法。」
記載(甲3-2)
「【請求項12】
AとBとの間の結合が(α1→6)グルコシド結合であり、Bが少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの連続する(α1→4)結合グルコース残基を含む、一般式A-Bの直鎖状のグルコオリゴ糖もしくはグルコオリゴ糖部分、または一般式A-Bの異なる直鎖状のグルコオリゴ糖もしくはグルコオリゴ糖部分を含む混合物。
【請求項13】
(α1→6)グルコシド結合と(α1→4)グルコシド結合の比が、20:80~90:10、好ましくは少なくとも30:70~70:30の範囲にある、請求項12に記載のグルコオリゴ糖またはグルコオリゴ糖混合物。
【請求項14】
Aが、2つ以上の連続する(α1→6)グルコシド結合を含む、好ましくは、Aが、少なくとも4つのグルコース残基の重合度を有するイソマルトオリゴ糖を含む、請求項12または13に記載のグルコオリゴ糖またはグルコオリゴ糖混合物。」
記載(甲3-3)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、機能特性を変化させ、栄養学的価値を高めるために、デンプン、デンプン誘導体、および/または様々な鎖長のMOSの(酵素的)修飾のためのさらなる手段および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、グリコシドヒドロラーゼファミリーGH70[http://www.cazy.org]のメンバーであり、GTFBタイプのグルカンスクラーゼであるα-グルカノトランスフェラーゼを使用することによって、これらの目的が満たされ得ることを見出した。グルカンスクラーゼ酵素はスクロースをα-グルカンの多糖およびオリゴ糖へ変換することを触媒するが、GTFBはスクロースと全く反応しないことが以前報告された(Kralj 2004)。GTFBが、(α1→4)結合グルコース残基を含む、マルトオリゴ糖(MOS)などのグルコオリゴ糖に対して高活性を示すことを本明細書において開示する。GTFBは、不均化タイプの反応を触媒し、1つの基質分子を短くし、別の基質分子を延長する。両方の生成物は、次の反応で再び基質になることができる。したがって、GTFB活性は、少なくともDP35までの一連の直鎖状グルコオリゴ糖を生じさせることができる。生成物の構造分析によって、GTFBが(α1→4)グルコシド結合を切断し、新しい(α1→4)結合および(α1→6)結合を形成することが明らかとなった。これは、この反応特異性および生成物特異性を有する酵素の最初の例である。したがって、この酵素を、(1→4)-α-D-グルカン:(1→4)(1→6)-α-D-グルカンα-D-グルカノトランスフェラーゼ、または、別名として、α-グルカノトランスフェラーゼと命名した。グルカンスクラーゼ酵素もMOSを使用するが、ドナー基質としてのスクロースの存在下でアクセプター基質としてのみ使用する。このことにより、例えば、デキストランスクラーゼの場合には、(α1→6)結合を介して結合した一連のグルコース単位で延長されたマルトースなどの様々なオリゴ糖の合成が起こる。しかし、グルカンスクラーゼの場合には、MOS基質中の(α1→4)結合は切断されず、MOSは単にアクセプター基質として使用される。この点が、スクロースに作用せず、その代わりにドナー基質およびアクセプター基質としてMOSを使用し、その(α1→4)結合を切断し、不均化タイプの反応を介して新しい(α1→6)結合および(α1→4)結合を導入するGFTB酵素との主な相違である。GTFBがデンプンまたはデンプン誘導体から合成することができる生成物は比較的長いイソマルトオリゴ糖(IMO)側鎖、特に、4以上の重合度を有するIMO側鎖を含有する。IMO-マルトデキストリン(IMO-MALT)の一部は、小腸内で分解されるが、その部分は未修飾デンプン/誘導体が摂取された場合に分解されることになる部分より少ない。この理由は、アミラーゼが作用するためには一定の長さの直鎖状(α1→4)結合グルコース残基が必要となるため、IMO部分に近接するマルトデキストリンのその部分が、腸内アミラーゼによって分解されることはないからである。したがって、IMO-MALTは、未修飾マルトデキストリンから生じるより少ないグルコースを小腸内で生成する、部分的に難消化性のデンプン誘導体とみなすことができる。このことは、有益であると考えられ、健康的なライフスタイルに寄与する(迅速に分解可能なデンプン/誘導体の過剰摂取と関連した肥満、II型糖尿病、心疾患および冠疾患を発症するリスクを軽減する)。未修飾の状態で結腸へと通過したIMO-MALT部分は、残りの微生物叢によってさらに分解されることになる。(α1→6)結合を含有するIMO-MALTのIMO部分は、有益なビフィズス菌に特異的な基質として作用し、IMO-MALTをプレバイオティック成分にすることができる。したがって、IMO-MALTには少なくとも次の便益がある。
1.部分的に難消化性のマルトデキストリン/デンプンであり、グルコースの生成が少なく、それにより肥満およびII型糖尿病の予防に寄与する。
2.有益な腸内ビフィズス菌を刺激するプレバイオティック効果を有し、それにより腸の健康を促進する。」
記載(甲3-4)
「【0032】
基質としてマルトオリゴ糖(例えば、DP7またはDP6)を使用する場合、一連の直鎖状グルコオリゴ糖が生成され、多くの場合、所与のDPの様々な構造が観察される。例えば、各構造が(α1→6)グルコシド結合および(α1→4)グルコシド結合の数に関して異なる、少なくとも4つのDP8構造が同定された。図6も参照されたい。概して言えば、(α1→4)グルコシド結合に対する(α1→6)グルコシド結合の比および構造多様性は、鎖長の増加と共に増加する。
【0033】
一態様では、結合の少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%は(α1→6)である。(α1→6)グルコシド結合と(α1→4)グルコシド結合の比は、通常、20:80から90:10の間の範囲にある。例えば、2つの連続する(α1→6)結合および4つの連続する(α1→4)結合を有する直鎖状DP7生成物;2つの連続する(α1→6)結合および5つの連続する(α1→4)結合を有する直鎖状DP8生成物;または3つの連続する(α1→6)結合および4つの連続する(α1→4)結合を有するDP8;5つの連続する(α1→6)結合および3つの連続する(α1→4)結合を有するDP9;4つの連続する(α1→6)結合および4つの連続する(α1→4)結合を有するDP9;5つの連続する(α1→6)結合および4つの連続する(α1→4)結合を有するDP10が提供される(図6を参照されたい)。
【0034】
プレバイオティック繊維およびエネルギー源を消費者に提供する栄養学的成分としての適用のためには、オリゴ糖(混合物)は相当な量の(α1→6)グルコシド結合および(α1→4)グルコシド結合の両方を含むことが好ましい。したがって、一実施形態では、(α1→6)グルコシド結合と(α1→4)グルコシド結合の比は、30:70から70:30の間である。」
記載(甲3-5)
「【0065】
MOS DP7を組換えGFTBと共にインキュベートして得られた反応混合物において、DP2~DP10の範囲にある様々な17個の構造(図6)をNMR分光法によって詳細に解明することができた。解明された構造は、形成された化合物の総数の一部だけを構成する。多糖を含めて、より多くの高分子量生成物が存在する。DP7より小さなオリゴ糖は、基質[(α1→4)のみを含有する生成物]に対するGTFBの加水分解活性、および形成されたオリゴ糖[(α1→4)および(α1→6)を含有する生成物]に対する加水分解活性から生じているにちがいないことは明らかである。6-置換された還元末端グルコース残基を有する構造が見出されなかったことに留意されたい。これまでに、連続する(α1→4)結合グルコース残基が伸長する(α1→6)結合グルコース残基を有する構造(DP8)は1つのみ見出された。他の場合では、(連続する)(α1→6)の伸長のみが生じていた。オリゴ糖はすべて還元末端に4-置換されたグルコース残基を有している。しかし、全生成物混合物の1D 1H NMRスペクトル(図7)において、微量の末端還元-(1→)-D-Glc単位が見出されたが(δ5.240のH-1αおよびδ4.669のH-16)、この単位は解明された構造には見出されなかった。
【0066】
したがって、組換えGTFBは、(α1→4)結合のみの切断を触媒し、新しい(α1→4)結合および(α1→6)結合の形成を開始する。このようにして、単糖から多糖(DP>30)に至るまで多くの生成物が形成される。形成されたDP7-およびDP8-オリゴ糖(-アルジトール)について明確に示されるように、単一分子量の生成物に対して様々な構造が可能である。さらに、(α1→4)結合に対する(α1→6)結合の量は、鎖長の増加と共に、最大50:50まで増加することが観察された。4、6-、および他のタイプの分枝点は導入されない。組換えGTFB酵素が、遊離マルトオリゴ糖およびその還元体(マルトオリゴ糖-アルジトール)に対して類似の活性を示したという事実より、非還元末端伸長メカニズムが実証される。」
記載(甲3-6)
「【図6】
[図:0001384176000009.jpg]
」
(2)甲3に記載された発明
記載(甲3-3)、記載(甲3-5)、記載(甲3-6)から、甲3には、
「マルトオリゴ糖MOS DP7を組換えGFTBと共にインキュベートして得られた反応混合物であって、DP2~DP10の範囲にある17個の化合物を含む、反応混合物。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件特許発明についての検討
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と、甲3発明との対比
記載(甲3-6)から、甲3発明の「反応混合物」は、DP7、DP8などのα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含むと認められるから、「α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含」む、「糖組成物」に相当する。
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、
α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含む、糖組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点(3-1)
糖組成物が、本件特許発明1では、「数平均分子量(Mn)が250~1500」であるのに対し、甲3発明では、Mnが特定されていない点。
相違点(3-2)
糖組成物が、本件特許発明1では、「重量平均分子量(Mw)が1000以上」であるのに対し、甲3発明では、Mwが特定されていない点。
相違点(3-3)
糖組成物が、本件特許発明1では、「DEが40以下である」のに対し、甲3発明では、DEが特定されていない点。
相違点(3-4)
糖組成物が、本件特許発明1では、「糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分が10~30%」であるのに対し、甲3発明では、差分が特定されていない点。
相違点(3-5)
糖組成物が、本件特許発明1では、「グルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である」のに対し、甲3発明では、α-1,6結合の割合が特定されていない点。
(イ)申立理由1-3(新規性欠如)についての検討
相違点(3-1)について検討する。
甲3には、甲3発明に含まれる17の化合物の化学構造は記載されているが、甲3発明の具体的な組成は記載されていないから、技術常識に照らしても、甲3発明のMnは明らかでない。
そうすると、相違点(3-1)は、実質的な相違点である。
相違点(3-2)及び相違点(3-3)について検討する。
甲3には、甲3発明に含まれる17の化合物の化学構造は記載されているが、甲3発明の具体的な組成は記載されていないから、技術常識に照らしても、甲3発明のMw、DEは明らかでない。
そうすると、相違点(3-2)及び相違点(3-3)は、実質的な相違点である。
相違点(3-4)について検討する。
甲3には、甲3発明をデキストラナーゼ処理することが記載されておらず、デキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を算定し、差分を計算することも記載されていない。
また、差分は、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量と解されるが、甲3には、甲3発明の具体的な組成は記載されていないから、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量も明らかでない。
そうすると、相違点(3-4)は、実質的な相違点である。
相違点(3-5)について検討する。
甲3には、甲3発明に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合について記載がなく、また、甲3発明をメチル化分析することは記載されていないから、技術常識に照らしても、甲3発明のグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合は明らかでない。
そうすると、相違点(3-5)は、実質的な相違点である。
(ウ)異議申立人の主張1-3について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(1-3))
甲3には、2つの連続する(α1→6)結合及び4つの連続する(α1→4)結合を有する直鎖状DP7生成物、2つの連続する(α1→6)結合及び5つの連続する(α1→4)結合を有する直鎖状DP8生成物が記載されており、DP7生成物、DP8生成物の分子量は、1152~1314、DEは12.5~14.3、差分は14~50%、α-1,6結合の割合は33.3~42.9%であるから、本件特許発明1の構成要件に相当する構成要件が開示されている。
異議申立人の主張(1-3)について検討する。
甲3には、反応混合物から、DP7またはDP8を選択して糖組成物を構成することは記載されていないから、甲3に、異議申立人のいうようなDP7生成物、DP8生成物が記載されているとはいえない。
したがって、異議申立人の主張(1-3)は、採用することができない。
(エ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、相違点(3-1)、(3-2)、(3-3)、(3-4)、(3-5)の点で、甲3発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(オ)申立理由2-3(進歩性欠如)についての検討
相違点(3-1)、相違点(3-2)及び相違点(3-3)について検討する。
甲3には、甲3発明のMn、Mw、DEを調整することが記載も示唆もされていないから、甲3発明のMn、Mw、DEを特定の値にすることは、当業者が容易に想到し得たものでない。
相違点(3-4)について検討する。
甲3には、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分に着目し、その重量割合を調整することが記載も示唆もされていないから、甲3発明の差分を10~30%という特定の値にすることを動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は、甲3発明及び甲3の記載から当業者が予測できない顕著な効果を奏すると認められるから、相違点(3-5)については検討するまでもなく、本件特許発明1に係る発明は、甲3発明及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)異議申立人の主張2-3について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張(2-3))
DP7、8の糖質に他の糖質を組み合わせて糖組成物とすることは、当業者にとって格別困難性はないから、本件特許発明1は、甲3発明から当業者が容易に想到できるものである。
異議申立人の主張(2-3)について検討する。
甲3には、反応混合物から、DP7またはDP8を選択して糖組成物を構成することは記載されていないから、甲3に、異議申立人のいうようなDP7生成物、DP8生成物が記載されているとはいえない。
したがって、異議申立人の主張(2-3)は、採用することができない。
(キ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲3発明及び甲3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
イ 本件特許発明2、3、7~13について
本件特許発明2、3、7~13は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件特許発明1が、甲3に記載されたものでも、甲3から当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2、3、7~13も、甲3に記載されたものでも、甲3から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
4.申立理由3(実施可能要件違反)及び申立理由4(サポート要件違反)について
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
記載事項(本-1)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、糖組成物及びその製造方法、その還元物、当該糖組成物を含む食品の改良剤に関する。特に本発明に係る糖組成物は、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含むものであって、α-1,6結合を比較的多く含み、かつ、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含んでおり、食品用途に好適である。
【背景技術】
【0002】
澱粉は、α-1,4結合によってグルコースが直鎖状に結合したアミロースと、α-1,4結合が連なった直鎖の途中でα-1,6結合により分岐した構造を有するアミロペクチンとの混合物である。また、澱粉や澱粉分解物は広く飲食品に使用されており、澱粉や澱粉分解物に転移酵素を作用させて結合様式を変換した各種糖質も開発されている。
【0003】
α-1,6結合を有する糖質としては、主に基質よりも重合度が1つ大きい糖質を生成するアスペルギルス ニジュール(Aspergillus niger)由来のα-グルコシダーゼを澱粉加水分解物に作用させて得られるもの(特許文献1、2、3)や、発酵生産及び加水分解を組合せて製造されるデキストランが知られている。デキストランは、アミロースや澱粉の分解物にデキストリンデキストラナーゼを作用させること(特許文献4、5、6、7)や、少なくとも2つのα-1→4結合D-グルコース単位をその非還元末端に含む多糖基質及び/又はオリゴ糖基質にα-グルカノトランスフェラーゼを作用させること(特許文献8)、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物にデキストラングルカナーゼを作用させること(特許文献9)によっても得られることが知られている。
【0004】
α-1,6結合を有する糖質は、加工食品の品質改良効果があることが知られている。低分子を主成分とする糖組成物では、畜肉及び/又は魚肉を主体とするタンパク質系食品に添加することで肉が持つジューシーでソフトな食感を強める効果(特許文献10)、野菜加工飲食物、卵加工飲食物に添加すると冷凍耐性が向上し保形性や離水性を保持する効果(特許文献11)が知られている。また、高分子を主成分とする糖組成物では、パンやクッキーなどに配合することでふんわりとした食感やしっとりした食感になる効果(特許文献2)、揚げ物用バッターに配合することで油ちょう後の揚げ物が軽い食感になる効果(特許文献12)が知られている。」
記載事項(本-2)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した通り、α-1,6結合を有する糖質の製造方法や機能は知られているが、アスペルギルス ニジュール由来のα-グルコシダーゼを利用して製造されるα-1,6結合を有する低分子成分を主成分とする糖組成物は、単糖類~三糖類が主成分であり四糖類以上の成分は少ない(「食品と容器」第52巻 第2号 72ページ~ 2011年)。α-1,6結合を有する四糖類以上の成分を主成分とする糖組成物は、アスペルギルス ニジュール由来のα-グルコシダーゼを高分子の澱粉分解物に作用することで調製可能であるが、α-1,6結合の含有量は高くなく、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分はほとんど含まれない。また、デキストランは、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を主成分とするが、発酵生産は製造工程が複雑でコストが高く、食品分野への利用は進んでいない。デキストランを澱粉から酵素を利用して製造する技術的な知見もあるが、その場合、酵素の耐熱性が40℃以下のため、低温で反応を行う必要があり、雑菌汚染の観点から衛生面や効率面で課題があるため、実用化されてはいない。
【0007】
このように、α-1,6結合を比較的多く含み、かつ、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物について、その利用は進んでいない。
【0008】
本発明の課題は、澱粉や澱粉分解物を含む原料から製造されるα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含む糖組成物に関して、α-1,6結合を比較的多く含み、かつ、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を提供することである。また、本発明は、このような糖組成物の製造方法を提供することもその課題とする。
【0009】
さらに本発明は、前記糖組成物の還元物、前記糖組成物を含む飲食品の製造方法、並びに前記糖組成物を含む飲食品の改良剤を提供することもその課題である。」
記載事項(本-3)
「【発明を実施するための形態】
【0016】
糖組成物
本発明に係る糖組成物は、α-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含むものである。本発明に係る糖組成物は、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含み、かつ、α-1,6結合を比較的多く含む。具体的には、(a)糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合(A)と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合(B)との差分(Y=A-B)が10~30%であり、(b)糖組成物に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である。
【0017】
本発明に係る糖組成物は、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含むが、この点は、上記(a)によって定義される。すなわち、糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合から、糖組成物をデキストラナーゼ処理によって消化した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を差し引いた差分が10~30%である。デキストラナーゼは、ケトミウム(Chaetomium)属の細菌などの培養液から精製することができる酵素であり、グルコースがα-1,6結合した多糖デキストランに作用してグルコースや少糖類のイソマルトオリゴ糖を生成する。そのため、糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合から、糖組成物をデキストラナーゼ処理によって消化した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を差し引くことによって、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量を評価することができる。本発明の糖組成物は、糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合から、糖組成物をデキストラナーゼ処理によって消化した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合を差し引いた差分が10~30%であるが、10~28%でもよく、10~26%であってもよい。
【0018】
また、本発明の糖組成物は、糖組成物に含まれるグルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合が35~80%である。すなわち、本発明に係る糖組成物は、α-1,6結合を比較的多く含むところ、グルコース間の結合様式のうち、α-1,6結合の割合は、好ましくは35~78%であり、より好ましくは39~78%でありさらに好ましくは39~70%である。
【0019】
糖の結合様式については、メチル化分析法(Journal of Biochemistry, 第55巻、205ページ~、1964年)やNMR分析法などにより測定することができる。
【0020】
なお、本発明の糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分は、グルコースを含んで構成されるが、グルコースのみから構成されるものであってもよく、α-1,6結合が三糖以上または四糖以上連続して結合した成分を含んでもよい。
【0021】
さらに、本発明に係る糖組成物は、そのDE(Dextrose Equivalent)が15~75であり、好ましくは18~71、より好ましくは20~70である。一般に、DEは澱粉分解物の分解度を示す指標であり、DEの値が大きい程、澱粉分解物が低分子であることを示す。具体的には、DEが0であれば澱粉、DEが100であればグルコースを示す。本発明の好ましい態様において、糖組成物のDEは50以下であるが、42以下であるとさらに好ましく、40以下としてもよい。糖組成物のDEは、「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編、5~6ページ)に記載のレインエイノン法に基づいて測定することができる。
【0022】
一つの態様において、本発明に係る糖組成物は、その重量平均分子量(Mw)が60000以下であり、態様によっては55000以下や40000以下、30000以下とすることもできる。重量平均分子量(Mw)の下限は特に制限されないが、400以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明に係る糖組成物は、その数平均分子量(Mn)が250~1500であることが好ましく、300~1300がより好ましく、400~1200がさらに好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.0~50.0であることが好ましく、1.3~50.0がより好ましく、1.3~30.0がさらに好ましい。
【0024】
また本発明に係る糖組成物は、糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と、糖組成物をデキストラナーゼ処理によって消化した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分をY、DEをXとしたとき、Y≦-0.55X+51であることが好ましい。また、Y≦0.73X+4であると、さらに好ましい。
【0025】
本発明の糖組成物は、後述の本発明の製造方法にて製造が可能であるが、酵素分解条件の調整や分離/精製によって、上記のパラメーターを調整することが可能である。
また、糖組成物については、クロマト分離などを用いて生成し、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の含有量を適宜調製できる。」
記載事項(本-4)
「【0030】
糖組成物の製造方法
本発明の糖組成物の製造方法は特に限定されないが、好ましい態様において、澱粉分解物等の糖原料に酵素を作用させて製造することができる。
【0031】
本発明の糖組成物の製造に使用可能な酵素は、α-グルカン、α-グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む澱粉分解物(澱粉を部分的に分解物したものを含む)等の糖原料に作用して、連続したα-1,6結合を生じるような酵素である。例えば、転移酵素などが挙げられる。糖組成物を工業的に製造することを考慮すると、反応温度を50℃以上とすることが好ましいため(GLUCOSE SYRUPS: SCIENCE AND TECHNOLOGY、ELSEVIER APPLIED SCIENCE PUBLISHERS、82ページ~、1984年)、本発明で使用する酵素は、50℃以上の温度で酵素反応可能なものが好ましい。反応温度は50℃以上であればよいが、温度が高くなると製造時に菌の繁殖が生じにくいため、55℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。特に基質の粘度が高い場合、反応温度が低いとハンドリングが悪くなることがあり、基質濃度を下げる必要が生じるところ、基質濃度が下がると製造効率が低下し、また、菌の繁殖リスクも高まってしまう。反応に用いられる温度の上限は特に制限されないが、酵素が反応液中で安定である温度域ならばよく、90℃以下が望ましく、80℃以下がより望ましく、70℃以下としてもよい。したがって、本発明で使用する酵素の温度安定性は、50℃以上で反応が可能であることが好ましく、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上で反応が可能であることが好ましい。
【0032】
一般に、澱粉糖におけるグルコース間の結合様式としては、α-1,2結合、α-1,3結合、α-1,4結合、α-1,6結合などが知られているが、本発明の糖組成物は、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分が含まれるものである。後述するように、本発明で定義される酵素を使用すると、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を効率的に得ることが可能になる。
【0033】
本発明においては、基質である澱粉分解物に作用して、連続したα-1,6結合を生成する酵素として、GH(Glycoside Hydrolase:糖質加水分解酵素)ファミリー31に属する酵素を使用するとよいが、糖組成物を食品用途に用いることを踏まえると、食品製造において使用例のある微生物由来のものが望ましい。そのような微生物としては、例えば、糸状菌(Absidia、Acremonium、Actinomadura、Alternaria、Aspergillus、Chaetomium、Coprinus、Coriolus、Geotrichum、Humicola、Monascus、Mortierella、Mucor、Nocardiopsis、Oidiodendron、Penicillium、Rhizomucor、Rhizopus、Trichoderma、Verticillium)、担子菌(Coliolus、Corticium、Cyathus、Irpexs、Polyporus、Pycnoporus、Trametes)、細菌(Aeromonas、Agrobacterium、Alcaligenes、Alteromonas、Arthrobacter、Bacillus、Brevibacterium、Chromobacterium、Corynebacterium、Crypnohectria、Erwinia、Escherichia、Flavobacterium、Klebsiella、Lactobacillus、Lactococcus、Leuconostoc、Microbacterium、Micrococcus、Pimelobacter、Plesiomonas、Protaminobacter、Pseudomonas、Serratia、Streptococcus、Streptoverticillium、Sulfolobus、Thermus、Xanthomonas)、放線菌(Actinomadura、Actinomyces、Actinoplanes、Amycolatopsis、Eupenicillium、Nocardiopsis、Streptomyces、Thermomonospora)、酵母(Aureobasidium、Candida、Irpex、Kluyveromyces、Pycnoporus、Saccharomyces、Trichosporon)などが望ましい。
【0034】
本発明で使用する連続したα-1,6結合を生成する酵素としては、中でも、アスペルギルス属由来のα-グルコシダーゼが好ましく、特にアスペルギルス属フラビ節由来であることがより好ましく、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来であることがさらに好ましい。使用する酵素は、公知の方法によって精製して利用することができる。例えば、培養液の処理物を濃縮した粗酵素標品を透析後、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル瀘過クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィーなどによって、電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。」
記載事項(本-5)
「【0041】
本発明で使用する連続したα-1,6結合を生成する酵素は、デキストラン分解活性とマルトース分解活性の比率(デキストラン分解活性/マルトース分解活性)が0.06以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。このような特性を有する酵素を使用すると、本発明に係る連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を得ることが容易である。ここで、デキストラン分解活性とマルトース分解活性の比率は、それぞれの活性を測定した上で両者の比を求めることにより算出することが可能であり、後述する実施例において具体的に説明するように測定すればよい。」
記載事項(本-6)
「【0121】
実験9:連続したα-1,6結合を多く含む糖組成物の調製
(1)NBRC4239株由来α-グルコシダーゼを用いた糖組成物の調製
<サンプルA~D>
重合度の異なる市販の澱粉分解物(MR750:DE57、マルデックPH400:DE35、M-SPD:DE20(いずれも昭和産業製))を濃度30%になるように水に溶解し、温度50℃、pH6.0に調整した後、実験3(1)で得られたNBRC4239株由来α-グルコシダーゼをマルトース分解活性で各澱粉分解物の固形分1g当たりそれぞれ1U添加し48時間作用させ、pH4.0に調整後約100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止させた。不溶物を濾過して除去した後、活性炭・イオン精製処理し凍結乾燥した。得られた糖組成物をそれぞれサンプルA、サンプルB、サンプルCとした。さらに、MR750に作用させて得られた糖組成物の一部については、固形分50%の水溶液を調製し、60℃に加熱した強酸性カチオン交換樹脂(FX1040、オルガノ製)を充填した連続式クロマト分離装置(トレソーネ、オルガノ製)に供し、グルコースを除去した。回収した溶液は活性炭・イオン精製処理した後凍結乾燥し、サンプルDとした。
【0122】
<サンプルE>
市販の澱粉分解物(M-SPD:DE20(昭和産業製))を濃度30%になるように水に溶解し、温度50℃、pH6.0に調整した後、実験3(1)で得られたNBRC4239株由来α-グルコシダーゼをマルトース分解活性で澱粉分解物の固形分1g当たり1U添加し、同時に枝切酵素としてプルラナーゼ(クライスターゼPLF、天野エンザイム製)を澱粉分解物の固形分1g当たり0.25%、及び、イソアミラーゼ(GODO-FIA、合同酒精製)を澱粉分解物の固形分1g当たり0.07%を添加し48時間作用させ、pH4.0に調整後約100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止させた。不溶物を濾過して除去した後、活性炭・イオン精製処理し凍結乾燥した。得られた糖組成物はサンプルEとした。
【0123】
<サンプルF>
固形分30%のとうもろこし澱粉液化液(DE13)を温度55℃、pH6.0に調整した後、実験3(1)で得られたNBRC4239株由来α-グルコシダーゼをマルトース分解活性で固形分1g当たり4U添加し48時間作用させ、pH4.0に調整後約100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止させた。不溶物を濾過して除去した後、活性炭・イオン精製処理し凍結乾燥した。得られた糖組成物はサンプルFとした。
【0124】
<サンプルG>
固形分30%の甘蔗澱粉液化液(DE8)を温度55℃、pH6.0に調整した後、実験3(1)で得られたNBRC4239株由来α-グルコシダーゼをマルトース分解活性で固形分1g当たり4U添加し48時間作用させ、pH4.0に調整後約100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止させた。不溶物を濾過して除去した後、活性炭・イオン精製処理し凍結乾燥した。得られた糖組成物はサンプルGとした。
【0125】
<サンプルH>
固形分30%のワキシーコーン澱粉液化液(DE5)を温度55℃、pH6.0に調整した後、実験3(1)で得られたNBRC4239株由来α-グルコシダーゼをマルトース分解活性で固形分1g当たり4U添加し48時間作用させ、pH4.0に調整後約100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止させた。不溶物を濾過して除去した後、活性炭・イオン精製処理し凍結乾燥した。得られた糖組成物はサンプルHとした。
【0126】
(2)NBRC4239株由来酵素製剤を用いた糖組成物の調製
固形分30%のとうもろこし澱粉液化液(DE20)を温度55℃、pH6.0に調整した後、実験5(1)で得られたNBRC4239株由来酵素製剤をマルトース分解活性で固形分1g当たり4U添加し48時間作用させ、pH4.0に調整後約100℃で10分加熱処理をすることで反応を停止させた。不溶物を濾過して除去した後、活性炭・イオン精製処理し凍結乾燥した。得られた糖組成物はサンプルIとした。
【0127】
(3)調製した糖組成物の分析
調製した糖組成物サンプルA~Iについて、実験1(2)に記載の分析方法に従ってDE、分子量分布、連続α-1,6結合糖質量、α-1,6結合の割合を分析した。その結果を表9に示す。なお、サンプルAのα-1,6結合の割合の算出に用いた1H-NMR測定によって得られるチャートを図7に示す。
【0128】
得られたサンプルは、DE22~60、Mw541~51570、Mn334~1059、Mw/Mn1.4~48.7、連続α-1,6結合糖質量10~22%、α-1,6結合の割合は39~78%の範囲であった。
【0129】
【表9】
[図:0001384176000010.jpg]
【0130】
実験10:連続したα-1,6結合を含む糖組成物の食品への応用
実験9で取得した糖組成物について、以下の試験を実施し、主に食品用途における有用性を評価した。
【0131】
(1)澱粉の老化抑制機能
本発明の糖組成物の添加が澱粉の老化性に与える影響を検討した。固形分12%の小麦澱粉溶液と固形分10%の糖液を等量で混合し、RVA4500(Perten Instruments製)を用いて澱粉の老化性を評価した。糖液は、サンプルA~I、グルコース、トレハロース、及び市販の澱粉分解物(MR750:DE57、マルデックPH400:DE35、M-SPD:DE20(いずれも昭和産業製))、イソマルトオリゴ糖(IMO900:DE44(昭和産業製))に水を加えて調製した。また試験は、図8に示す条件で処理し、セットバック値(最終粘度と糊化後の最小粘度の差)を算出、その値で老化性を評価した。結果はDE別に図9に示す。
【0132】
DE50以上では、グルコースや市販の澱粉分解物(MR750)の添加区に比べ、トレハロース、サンプルA、Iの添加区はセットバック値が小さい値であった。また、トレハロースとサンプルA、Iを比較すると、サンプルA、Iを添加した方が小さい値を示した。
【0133】
DE30~50では、市販の澱粉分解物(マルデックPH400)の添加区に比べ、イソマルトオリゴ糖(IMO900)、サンプルB、D、Eの添加区はセットバック値が小さい値であった。また、イソマルトオリゴ糖(IMO900)とサンプルB、D、Eを比較すると、サンプルB、D、Eを添加した方が小さい値を示した。
【0134】
DE20~30では、市販の澱粉分解物(M-SPD)の添加区に比べ、サンプルC、F、G、Hの添加区はセットバック値が小さい値であった。
【0135】
以上の結果より、重合度が同程度のもので比較した場合、本発明の糖組成物はグルコース、トレハロース、澱粉分解物、既存のイソマルトオリゴ糖より澱粉老化抑制機能が高いことが明らかになった。」
記載事項(本-7)
「【0140】
(3)タンパク質の変性抑制機能
本発明の糖組成物の添加がタンパク質の変性に与える影響を検討した。卵から卵黄を分け、卵黄の重量に対して2/3量の7.5%糖液と混合し、冷解凍による粘度上昇を指標にタンパク質の変性を評価した。糖液は、サンプルA~I、市販の澱粉分解物(MR750:DE57、マルデックPH400:DE35、M-SPD:DE20(いずれも昭和産業製))、イソマルトオリゴ糖(IMO900:DE44(昭和産業製))に水を加えて調製した。結果は冷凍前の粘度に糖液による差は認められなかったので、解凍後の粘度のみをDE別に図11に示す。
【0141】
DE50以上では、澱粉分解物(MR750)の添加区に比べ、サンプルA、Iの添加区は解凍後の粘度が小さい値であった。
【0142】
DE30~50では、澱粉分解物(マルデックPH400)の添加区に比べ、イソマルトオリゴ糖(IMO900)、サンプルB、D、Eの添加区は粘度が小さい値であった。また、イソマルトオリゴ糖(IMO900)とサンプルB、D、Eを比較すると、サンプルB、D、Eを添加した方が小さい値を示した。
【0143】
DE20~30では、澱粉分解物(M-SPD)の添加区に比べ、サンプルC、F、G、Hの添加区は粘度が小さい値であった。
【0144】
以上の結果より、重合度が同程度のもので比較した場合、本発明の糖組成物は、澱粉分解物、既存のイソマルトオリゴ糖よりタンパク質変性抑制機能が高いことが明らかになった。」
記載事項(本-8)
「【0147】
(5)油脂の酸化抑制機能
本発明の糖組成物の添加が油脂の酸化に与える影響を検討した。大豆油に1.5倍量の33%糖液、全量の1%量のカルボキシメチルセルロースを添加し、ヒスコトロン(日音医理科器械製作所製)を用いて20000rpmで30秒の混合を5回繰り返した。この混合物を加圧条件下で120℃、90分間加熱し、酸化臭を評価した。糖液は、サンプルA~I、砂糖、トレハロース、イソマルトオリゴ糖(IMO900:DE44(昭和産業製))を用いた。また、比較として糖を添加しない無添加区も実施した。評価は10人の被験者により無添加に対して酸化臭が抑えられていると答えた人数とした。結果を表11に示す。
【0148】
無添加に比べ、サンプルA~Iを添加することで酸化臭を抑える結果となった。また、砂糖、トレハロースの添加よりも好ましい結果であった。IMO900と比べると、いくつかのサンプルで変わらない結果になったものがみられたが、大半は好ましい結果であった。本発明の糖組成物を添加することで、油脂の酸化が抑制される可能性がある。
【0149】
【表11】
[図:0001384176000011.jpg]
」
(2)実施可能要件(申立理由3)について
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 本件特許発明1、本件特許発明3の実施可能要件
(ア)検討
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明の糖組成物は、澱粉分解物等の糖原料に酵素を作用させて製造すること、連続したα-1,6結合を生成する酵素として、GH(Glycoside Hydrolase:糖質加水分解酵素)ファミリー31に属する酵素を使用するとよいが、糸状菌、担子菌などの食品製造において使用例のある微生物由来のものが望ましいこと、中でもアスペルギルス属由来のα-グルコシダーゼが好ましく、特にアスペルギルス属フラビ節由来であることがより好ましく、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来であることがさらに好ましく、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を効率的に得ることが可能になること(記載事項(本-4))、デキストラン分解活性とマルトース分解活性の比率が0.06以上である酵素を使用すると、本件特許発明の糖組成物を得ることが容易であること(記載事項(本-5))、差分によって、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を評価することができること、本件特許発明の差分は10~30%であること、差分をY、DEをXとしたとき、Y≦0.73X+4であると好ましいこと(記載事項(本-3))、酵素分解条件の調整や分離/精製によってパラメーターを調整することが可能であり、クロマト分離などを用いて糖組成物を生成(決定注:「精製」の誤記であると認められる)し、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の含有量を適宜調製(決定注:「調整」の誤記であると認められる)できることが記載されている(記載事項(本-3))。
そして、重合度の異なる市販の澱粉分解物、または、とうもろこし、甘蔗など由来の異なる澱粉液化液に、アスペルギルス・ソヤNBRC4239株由来α-グルコシダーゼを作用させ、本件特許発明の糖組成物、特にY≦0.73X+4であり、Xが20~40である糖組成物を製造したこと、本件特許発明の糖組成物は、澱粉の老化抑制機能、タンパク質の変性抑制機能、油脂の酸化抑制機能を有することが実施例として記載されている(記載事項(本-6)、記載事項(本-7)、記載事項(本-8))。
これらの記載に接した当業者は、本件特許発明1、本件特許発明3の物を生産し、かつ、その物を使用できるから、これらの記載は、当業者が、本件特許発明の物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載であるといえる。
(イ)異議申立人の主張について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張3)
連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量を差分で表すことが、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来の酵素を用いて得られたα-1,6結合を含む糖質に限り、適用できたとしても、α-1,6結合を有するいかなる糖質においても適用できるとはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1を当業者が実施可能な程度に記載されたものではない。
また、本件実施例等の糖質がY≦0.73X+4であり、Xが20~40であることを満たすとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来の酵素以外を用いてそのような糖質を得ることは記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明3を当業者が実施可能な程度に記載されたものではない。
異議申立人の主張3について検討する。
本件特許発明の発明の詳細な説明には、上記(ア)に示したとおり、本件特許発明の糖組成物は、澱粉分解物等の糖原料に酵素を作用させて製造すること、連続したα-1,6結合を生成する酵素として、GH(Glycoside Hydrolase:糖質加水分解酵素)ファミリー31に属する酵素を使用するとよいが、糸状菌、担子菌などの食品製造において使用例のある微生物由来のものが望ましいこと、中でもアスペルギルス属由来のα-グルコシダーゼが好ましく、特にアスペルギルス属フラビ節由来であることがより好ましく、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来であることがさらに好ましく、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を効率的に得ることが可能になること(記載事項(本-4))、デキストラン分解活性とマルトース分解活性の比率が0.06以上である酵素を使用すると、本件特許発明の糖組成物を得ることが容易であること(記載事項(本-5))、差分によって、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を評価することができること、本件特許発明の差分は10~30%であること、差分をY、DEをXとしたとき、Y≦0.73X+4であると好ましいこと(記載事項(本-3))、酵素分解条件の調整や分離/精製によってパラメーターを調整することが可能であり、クロマト分離などを用いて糖組成物を生成(決定注:「精製」の誤記であると認められる)し、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の含有量を適宜調製(決定注:「調整」の誤記であると認められる)できることが記載されているから(記載事項(本-3))、これらの記載に接した当業者は、記載事項(本-6)、記載事項(本-7)、記載事項(本-8)に実施例として具体的に示された酵素を用いて得られた糖質でなくても、本件特許発明1、本件特許発明3を、当業者に期待される程度を超える過度の試行錯誤なく、実施できるといえる。
したがって、異議申立人の主張3は、採用することができない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明1、本件特許発明3について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
(3)サポート要件(申立理由4)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。
イ 本件特許発明のサポート要件
(ア)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許発明1、本件特許発明3の解決しようとする課題は、本件特許の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載(特に、記載事項(本-2))から、澱粉や澱粉分解物を含む原料から製造されるα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含む糖組成物に関して、α-1,6結合を比較的多く含み、かつ、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を提供することであると認められる。
(イ)検討
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1、本件特許発明3の糖組成物は、澱粉分解物等の糖原料に酵素を作用させて製造すること、連続したα-1,6結合を生成する酵素として、GH(Glycoside Hydrolase:糖質加水分解酵素)ファミリー31に属する酵素を使用するとよいが、糸状菌、担子菌などの食品製造において使用例のある微生物由来のものが望ましいこと、中でもアスペルギルス属由来のα-グルコシダーゼが好ましく、特にアスペルギルス属フラビ節由来であることがより好ましく、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来であることがさらに好ましく、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を効率的に得ることが可能になること(記載事項(本-4))、デキストラン分解活性とマルトース分解活性の比率が0.06以上である酵素を使用すると、本件特許発明の糖組成物を得ることが容易であること(記載事項(本-5))、差分によって、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を評価することができること、本件特許発明の差分は10~30%であること、差分をY、DEをXとしたとき、Y≦0.73X+4であると好ましいこと(記載事項(本-3))、酵素分解条件の調整や分離/精製によってパラメーターを調整することが可能であり、クロマト分離などを用いて糖組成物を生成(決定注:「精製」の誤記であると認められる)し、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の含有量を適宜調製(決定注:「調整」の誤記であると認められる)できることが記載されている(記載事項(本-3))。
そして、重合度の異なる市販の澱粉分解物、または、とうもろこし、甘蔗など由来の異なる澱粉液化液に、アスペルギルス・ソヤNBRC4239株由来α-グルコシダーゼを作用させ、本件特許発明の糖組成物、特にY≦0.73X+4であり、Xが20~40である糖組成物を製造したこと、本件特許発明の糖組成物は、澱粉の老化抑制機能、タンパク質の変性抑制機能、油脂の酸化抑制機能を有することが実施例として記載されている(記載事項(本-6)、記載事項(本-7)、記載事項(本-8))。
これらの記載は、本件特許発明1、本件特許発明3の糖組成物が、澱粉や澱粉分解物を含む原料から製造されるα-1,6結合によって連続して結合したグルコースを含んで構成される糖質を含む糖組成物に関して、α-1,6結合を比較的多く含み、かつ、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物であることを示すものであるから、これらの記載に接した当業者は、本件特許発明1、本件特許発明3が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると認識できるといえる。
(ウ)異議申立人の主張について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
(異議申立人の主張4)
連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量を差分で表すことが、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来の酵素を用いて得られたα-1,6結合を含む糖質に限り、適用できたとしても、α-1,6結合を有するいかなる糖質においても適用できるとはいえないから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、本件実施例等の糖質がY≦0.73X+4であり、Xが20~40であることを満たすとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)由来又はアスペルギルス ソヤ(Aspergillus sojae)由来の酵素以外を用いてそのような糖質を得ることは記載されていないから、本件特許発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
異議申立人の主張4について検討する。
本件特許発明の発明の詳細な説明には、上記(ア)に示したとおり、澱粉分解物等の糖原料に酵素を作用させて製造すること、澱粉分解物に作用して、連続したα-1,6結合を生成する酵素として、GH(Glycoside Hydrolase:糖質加水分解酵素)ファミリー31に属する酵素を使用するとよく、糸状菌、担子菌などの食品製造において使用例のある微生物由来のものが望ましく、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分を含む糖組成物を効率的に得ることが可能になること(記載事項(本-4))、デキストラン分解活性とマルトース分解活性の比率が0.06以上である酵素を使用すると、本件特許発明の糖組成物を得ることが容易であること(記載事項(本-5))、酵素分解条件の調整や分離/精製によってパラメーターを調整することが可能であり、クロマト分離などを用いて糖組成物を生成(決定注:「精製」の誤記であると認められる)し、連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の含有量を適宜調製(決定注:「調整」の誤記であると認められる)できることが記載されている(記載事項(本-3))から、これらの記載に接した当業者は、記載事項(本-6)、記載事項(本-7)、記載事項(本-8)に実施例として具体的に示された酵素を用いなくても、本件特許発明1、本件特許発明3が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張4は、採用することができない。
(エ)小括
以上のとおり、本件特許発明1、本件特許発明3について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
5.申立理由5(明確性)について
(1)申立理由5について
本件特許発明1、本件特許発明3は、「連続α-1,6結合糖質量」を特定するものであるが、本件特許明細書には「連続α-1,6結合糖質量」がどのような作用効果をもたらすかについて何ら記載されておらず、その技術的意味が不明である。
(2)判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、デキストラナーゼは、ケトミウム(Chaetomium)属の細菌などの培養液から精製することができる酵素であり、グルコースがα-1,6結合した多糖デキストランに作用してグルコースや少糖類のイソマルトオリゴ糖を生成する酵素であること、糖組成物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合と糖組成物をデキストラナーゼ処理した後の処理物に含まれる四糖類以上の成分の重量割合との差分は、糖組成物に含まれる連続したα-1,6結合を有する四糖類以上の成分の量を評価するものであることが記載されており(【0017】)、本件特許発明1、本件特許発明3において特定事項となっている記載に、その技術的意味が当業者に理解できないものはない。
したがって、異議申立人の主張5は、採用することができない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1、本件特許発明3について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1~3、7~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~3、7~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700806