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特許異議申立

2021-700625

非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤、及びそれを配合した非水系塗料組成物

審判番号
2021-700625
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-512751
登録番号
6806401
請求日
2021年07月05日
審決日
2022年10月05日
公報発行日
2023年09月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】共栄社化学株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人眞久特許事務所
  • 【異議申立人】楠本化成 株式会社
  • 【異議申立人代理人】東田 潔
  • 【異議申立人代理人】小金澤 有希
審判長/審判官
  • 審判長 関根 裕
  • 審判官 蔵野 雅昭
  • 審判官 亀ヶ谷 明久
分類
P1651.55 -ZB (C09D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法17条の2第3項特許法113条1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第7項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6806401号発明「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤、及びそれを配合した非水系塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6806401号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6806401号の請求項1~9に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)10月17日(優先権主張 平成30年11月20日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年12月8日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許に対し、令和3年7月5日に特許異議申立人楠本化成株式会社(以下、「申立人」という。)が特許異議の申立てを行い、当審は、同年8月25日付けで取消理由を通知した。 この取消理由通知に対して、特許権者は、同年10月25日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は同年11月4日付けで訂正拒絶理由を通知した。この訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は、同年12月7日に意見書及び手続補正書の提出を行った。 その後、当審は、令和4年2月1日に付けで取消理由(決定の予告)を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年4月4日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は同年5月11日付けで訂正拒絶理由を通知した。この訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は、同年6月17日に意見書の提出を行った。 第2 訂正の可否についての判断 1 令和3年10月25日になされた訂正請求について 令和3年10月25日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 2 令和4年4月4日になされた訂正請求について (1) 訂正の内容 令和4年4月4日になされた訂正請求の訂正の内容は、令和4年4月4日付けの訂正請求書に記載された次の訂正事項1~3である。なお、訂正前の請求項1~7及び9は、請求項2~7及び9が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから一群の請求項であり、請求項8は独立請求項であり、訂正事項3は、全ての請求項に関係する明細書の訂正であるところ、本件訂正は、全ての請求項である請求項1~9について請求されている。 ア 訂正事項1 請求項1中、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」とあった記載を、「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、 「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」とあった記載を、「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正する。 請求項1を引用する請求項2~7、9も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項8中、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」とあった記載を、「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、 「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」とあった記載を、「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正する。 ウ 訂正事項3(なお、特許権者は訂正請求書において、請求項9の訂正を「訂正事項3」として、以下に記載する訂正事項を「訂正事項4」としているが、請求項9には文言上の訂正はなく、訂正事項4は引用する請求項1の訂正に伴うものなので、請求項9の訂正を訂正事項1に含めた。) 明細書の段落番号0012中、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」とあった記載を、「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油からから選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、 「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」とあった記載を、「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正し、 段落番号0020中、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」とあった記載を、「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油からから選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」に訂正し、 「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)と」とあった記載を、「酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし極性官能基を有するポリマー(C)と」に訂正し、 段落番号0051中、「(混合例II)」とあった記載を「(混合例II)(参考)」に訂正する。 (2) 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について ア 訂正事項1について (ア) 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量」についての発明特定事項が削除され、「重量平均分子量」について特定されない「マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれるもので軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」とするものを含む。 ここで、「マイクロクリスタリンワックス」、及び、「水素添加ひまし油」の重量平均分子量がいずれも1000未満であることは、周知であり、かつ、特許権者も訂正請求書の5頁20~22行で同旨の主張をしている。また、「ポリオレフィンワックス」において、「軟化点を低くても70℃とする」ものであって、「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000~100,000」を満たすものと、満たさないものとが存在することは周知である(たとえば、特開2010-241997号公報の【0090】には、「ポリオレフィンワックス」として、「分子量2300、軟化点123℃であるクラリアントジャパン製リコセンPE42010」が例示され、これは、「ポリスチレン換算で1,000~100,000」を満たすものであり、特開2014-24901号公報の【0114】には、「ポリエチレンワックス」(「ポリオレフィンワックス」に相当する。)として、「分子量500、軟化点88℃のベーカー・ペトロライト社製ポリワックス500」が例示され、これは、「ポリスチレン換算で1,000~100,000」を満たさないものである。)。 以上によれば、訂正前の「非アミドワックス成分(B)」には、「ポリオレフィンワックス」において、「軟化点を低くても70℃とする」ものであって、「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000~100,000」を満たすもののみが含まれ、重量平均分子量がポリスチレン換算で1,000~100,000ではない「マイクロクリスタリンワックス」、及び、「水素添加ひまし油」は、含まれないものであった。 これに対し、訂正後の「非アミドワックス成分(B)」には、上述の「マイクロクリスタリンワックス」、及び、「水素添加ひまし油」のような訂正前の「非アミドワックス成分(B)」に含まれていなかったもののみが含まれるようになる。 したがって、訂正事項1の「非アミドワックス成分(B)」についての訂正は、「非アミドワックス成分(B)」に含まれる物質を変更するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しない。 次に、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量」についての発明特定事項を削除する訂正が、誤記の訂正を目的とするものであるといえるか検討する。 「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが 、当該明細書、特許請求の範囲、若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないと解される(知財高裁、平成28年(行ケ)第10154号判決、平成29年5月30日言渡参照。)ところ、上述のとおり、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」という記載は、これに含まれるものが、「ポリオレフィンワックス」において、「軟化点を低くても70℃とする」ものであって、「重量平均分子量」が「ポリスチレン換算で1,000~100,000」を満たすもののみであることを明確に理解できる。そうすると、この記載(「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし」という記載を含む。)には、誤記があるとはいえないから、訂正事項1の「非アミドワックス成分(B)」についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであるとはいえない。 また、上記のとおり、訂正事項1の「非アミドワックス成分(B)」についての訂正は、特許請求の範囲を変更するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとはいえないし、特許法第120条の5第2項ただし書3、4号に掲げられた事項を目的とするものでもない。 よって、さらに検討するまでもなく、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではなく、特許法第120条の5第2項ただし書の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものでもないから、訂正事項1に係る訂正は認められない。 (イ) 特許権者の主張について a 特許権者の主張 特許権者は、令和4年6月17日提出の意見書(6頁18行~10頁6行)において、下記(a)の証拠方法に基づき、下記(b)の主張をしている。 (a) 証拠方法 (令和4年4月4日提出の意見書に添付) 乙第1号証 「化学大辞典7」 縮刷版第24版、共立委出版株式会社、昭和55年9月15日、351頁及び513頁 (令和4年6月17日提出の意見書に添付) 乙第2号証 中山信弘他、「新・注解 特許法 第2版 [下巻]」 株式会社青林書院、2017年10月5日 2556~2559頁 乙第3号証 竹田稔他、「知的財産権訴訟要論(特許編)」第7版 一般社団法人発明推進協会2017年12月18日、584~587頁 乙第4号証 「審判便覧(第19版)」 38-03訂正要件の項 (b) 主張 『(2) 即ち、この訂正前の請求項1の訂正事項1に係るこの構成: 「(構成I)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、 (構成II)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、 (構成III)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックスと (構成IV)から選ばれる非アミドワックス成分(B)」 とあった技術的内容を、この訂正によって、 「(構成i)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、 (構成ii)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、 (構成iv)から選ばれる非アミドワックス成分(B)」 という技術的内容に、訂正するというものです。 ・・・ (5) この(構成III)中のポリオレフィンワックスだけに関していえば、ご指摘のとおり、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」の文言は、明確であって、誤記ではありません。・・・ (6)・・・誤記を含むから不明瞭となってしまう(構成I)及び(構成II)と、明確である(構成III)とを、別個に考慮しないで、(構成IV)の非アミドワックス成分(B)の訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものであるとご判断されている・・・ (7)・・・乙第1号証・・・マイクロクリスタリンワックスは分子量1000未満であり・・・水素添加ひまし油は分子量1000未満ですから、マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれる非アミドワックス成分(B)が「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」であることはあり得ず、誤記であることは明らかです。 (8) 従って、(構成I)「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックス」と、(構成II)「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油」との「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし」という誤記を削除しても、技術的に正しくマイクロクリスタリンワックスや水素添加ひまし油を間違うことなく認識できるので、(構成i)「軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックス」と、(構成ii)「軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油」とに訂正することは、誤記の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を変更または拡張するものではありません。』 また、上記主張のように考えれば、上記訂正が誤記の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を変更または拡張するものではないことは、乙2~4号証に記載されている事項とも整合する旨主張する(10頁7行~18頁18行)。 b 主張の検討 上記主張は、要するに、 (a)訂正前の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」という記載を、「(構成I)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、 (構成II)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、 (構成III)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックスと (構成IV)から選ばれる非アミドワックス成分(B)」と読み替えることができ、 (b)(構成III)の「ポリスチレン換算で1,000~100,000とし」は誤記ではない(明確である)が、 (c)(構成I)と(構成II)の「ポリスチレン換算で1,000~100,000とし」については、マイクロクリスタリンワックスの分子量が1000未満であり、水素添加ひまし油の分子量1000未満であることから、マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油から選ばれる非アミドワックス成分(B)が「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」であることはあり得ず、誤記であることは明らかである。 (d)したがって、「(構成I)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと」は、「(構成i)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」の誤記であり、「(構成II)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」は、「(構成ii)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」の誤記である、 という主張を含むものである。 (e) しかし、乙2~4のいずれをみても、訂正前の記載を((構成I)~(構成IV)に)読み替えた上で誤記の訂正を目的とするものであるといえるか否かを判断することができる、などという主旨のことは記載されていないし、訂正前の請求項1の記載そのものは、(構成I)から(構成IV)のように個別に分けられた記載ではなく、非アミドワックス成分(B)の3つの選択物質「から選ばれるもの」として物質を選んだ上で、その物質で重量平均分子量及び軟化点の特定範囲を満たすもの「とする」とした記載であるから、当該主張は採用できない。 また、特許権者の主張のとおりの前記(構成I)から(構成IV)に読み替えたとしても、(構成IV)の「非アミドワックス成分(B)」としてみれば、(構成I)及び(構成II)に該当する成分がなくなっても、(構成III)に該当する成分が存在する以上、読み替えの有無によって、訂正の可否の結論が変わるものではない。 (f) 当業者は、マイクロクリスタリンワックス、及び水素添加ひまし油の重量平均分子量がいずれも1000未満であることを踏まえると、前記(構成I)及び(構成II)に該当する物質が存在しないことを理解するが、特許請求の範囲の記載は、論理式の集合体といえるようなものであって、条件を絞った(分子量を特定の範囲に限定した)結果、該当する物質が存在しなくなることは、一般に起こりうることである。そうすると、(構成I)あるいは(構成II)の記載を個別に解釈すると該当する物質が存在しないとしても、特許請求の範囲の記載を理解するにあたり、そのこと自体に論理的な矛盾や不自然さを感じることはないし、特許請求の範囲が不明確となることもない。 (g) また、訂正前の記載を((構成I)~(構成IV)に)読み替えることにより、(構成I)及び(構成II)に誤りがあると理解したとしても、訂正前の請求項1の記載からは、(構成I)及び(構成II)を削除するという訂正、すなわち「(構成III)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするポリオレフィンワックス(構成IV)からなる非アミドワックス成分(B)」と訂正する選択肢も存在するから、訂正後の「(構成i)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」や「(構成ii)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」という記載が、訂正後の正しい記載として直ちに明らかであるとまではいえない。 上記特許権者の主張する誤記(「(構成I)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと」は、「(構成i)軟化点を低くても70℃とするマイクロクリスタリンワックスと、」の誤記であり、「(構成II)重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」は、「(構成ii)軟化点を低くても70℃とする水素添加ひまし油と、」の誤記である)は、上記したような、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲、若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合に該当するようなものとまではいえない。 (h) 以上のとおり、特許権者の主張する読み替えに沿って検討したとしても、訂正前の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」という記載は明確に理解できるものであって、上記(ア)で引用したような、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲、若しくは図面の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合に該当するような誤記とはいえない。 c 小括 したがって、主張は採用できない。 (ウ) 審査の経緯について 令和4年4月4日付けの訂正請求書(3頁23行~4頁1行)において、訂正事項1の訂正の目的について、「請求項1中、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」であるという構成は、極性官能基を有するポリマー(C)について限定するべきものであったにも関わらず、令和2年10月27日付け手続補正書で補正する際に、誤って、「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)」のように限定してしまった。」と主張している。 しかしながら、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし」という限定は、令和2年10月27日付けの手続補正で加入されたものではなく、令和2年7月10日付けで出願当初の「非アミドワックス成分(B)」という記載を補正する際に請求項1に加入したものであって、令和2年10月27日付けの手続補正の際に削除することが可能であったにもかかわらず、削除することなく残したものである。 (エ) よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではなく、かつ、特許法第120条の5第2項ただし書の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものではないから、訂正事項1に係る訂正は認められない。 イ 訂正事項2及び3について 訂正事項2及び3において、「非アミドワックス成分(B)」についての訂正は、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」の文言を削除するものであり、訂正事項1と同様な理由から、訂正事項2及び3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではなく、しかも、かつ、特許法第120条の5第2項ただし書の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものではないから、認めることができない。 3 まとめ 上記2で述べたように、訂正事項1~3は、特許法第120条の5第2項ただし書の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものと認められず、しかも、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するとは認められない。 したがって、訂正後の請求項1~9について訂正することは認められない。 第3 取消理由の概要 訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 「(新規事項)令和2年7月10日付け手続補正書(当審注:2通提出されているが内容は同じものである。)でした補正及び同年10月27日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件の請求項1~9に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。」 第4 当審の判断 本件特許請求の範囲の記載において、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」に関する請求項1は、令和2年7月10日付け手続補正書において、「炭素数2~8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。」から、「炭素数2~8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであり、 前記アミド化合物(A)と、前記非アミドワックス成分(B)と、前記極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)を1~95質量%、前記非アミドワックス成分(B)を1~95質量%、及び前記極性官能基を有するポリマー(C)を0.1~10質量%とすることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。」(下線部は補正箇所を表す。以下同様。)に補正され、さらに、令和2年10月27日付け手続補正書において、「炭素数2~8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸とが縮合したアミド化合物(A)と、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)とを、含み、増粘性及び/又は液だれ防止性と、揺変性とを付与するためのものであり、 前記アミド化合物(A)と、前記非アミドワックス成分(B)と、前記極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)を1~95質量%、前記非アミドワックス成分(B)を1~95質量%、及び前記極性官能基を有するポリマー(C)を0.1~10質量%とすることを特徴とする非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤。」と補正されたものである。 また、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法」に関する請求項9は、令和2年7月10日付け手続補正書において、「炭素数2~8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)とを加熱して融解させ、混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。」(請求項9)から「炭素数2~8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)の1~95質量%と、前記非アミドワックス成分(B)の1~95質量%と、前記極性官能基を有するポリマー(C)の0.1~10質量%とを加熱して融解させ、混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。」(請求項10)に補正され、さらに、令和2年10月27日付け手続補正書において、「炭素数2~8のプライマリージアミンと、水素添加ひまし油脂肪酸及び/又は炭素数4~18の脂肪族モノカルボン酸とを縮合させたアミド化合物(A)と、マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、酸化ポリオレフィン、ポリオール、ポリエーテル、ポリカルボン酸、ポリアミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリリン酸、及びポリスルホン酸から選ばれるもので極性官能基を有するポリマー(C)との合計質量を基準として、前記アミド化合物(A)の1~95質量%と、前記非アミドワックス成分(B)の1~95質量%と、前記極性官能基を有するポリマー(C)の0.1~10質量%とを加熱して融解させ、混合した後、冷却し、その冷却物を微粉砕することにより、非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤を製造する方法。」(請求項8)と補正されたものである。 しかしながら、いずれの請求項においても、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」とすることについては、当初明細書等には一切記載されていない。また、そのようなことが、当初明細書等の記載から、当業者にとって明らかであるとは認められない。 そして、「非アミドワックス成分(B)」の重量平均分子量の大きさによって、「非アミドワックス成分(B)」の粘性等の特性が変化して、「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」の揺変性に影響を与えることは、当業者にとって明らかである。 そうすると、上記手続補正書により、「非アミドワックス成分(B)」について、「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000」と特定する補正は、「非アミドワックス成分(B)」や「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤」について、当初明細書等の記載からは明らかではない特性を新たに導入して限定するものであるといえ、当初明細書等の全ての記載を総合して導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。 したがって、令和2年7月10日付け手続補正書でした補正及び同年10月27日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。 以上のことから、本件請求項1及び請求項1を引用する請求項2~7及び請求項9、並びに、本件請求項8に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。 第5 むすび 本件請求項1~9に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700625

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