特許異議申立
2021-700334
ドライバ状態検出装置
- 審判番号
- 2021-700334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-100977
- 登録番号
- 6775134
- 請求日
- 2021年04月09日
- 審決日
- 2022年03月29日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】マツダ株式会社
- 【権利者代理人】小谷 昌崇
- 【権利者代理人】小谷 悦司
- 【権利者代理人】平田 晴洋
- 【権利者代理人】西谷 浩治
- 【権利者】国立大学法人滋賀医科大学
- 【権利者代理人】小谷 昌崇
- 【権利者代理人】小谷 悦司
- 【権利者代理人】平田 晴洋
- 【権利者代理人】西谷 浩治
- 【異議申立人】田中 貞嗣
- 【異議申立人】小山 卓志
- 審判長/審判官
- 審判長 金澤 俊郎
- 審判官 佐々木 正章
- 審判官 鈴木 充
- 分類
- P1651.113-YAA(B60W) / P1651.121-YAA(B60W) / P1651.537-YAA(B60W)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6775134号発明「ドライバ状態検出装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6775134号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲、訂正後の請求項〔1~3、5~8〕について訂正することを認める。
特許第6775134号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6775134号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成28年5月20日に出願したものであって、令和2年10月8日に特許権の設定登録がされ、令和2年10月28日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年4月9日:特許異議申立人田中貞嗣 他1名(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年7月8日付け:取消理由通知書
令和3年9月9日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年10月1日:特許権者による手続補正書(方式)の提出
令和3年11月2日:申立人による意見書の提出
令和3年11月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年1月19日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年3月7日:申立人による意見書の提出
なお、令和3年9月9日提出の訂正請求書は、令和4年1月19日に訂正請求書が提出されたから、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和4年1月19日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6775134号の明細書、特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3及び請求項5~8について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(訂正事項1)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定する、
ドライバ状態検出装置。」とあるのを、
「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する、
ドライバ状態検出装置。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2、3、5~8についても同様に訂正する。)
(訂正事項2)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「請求項3~7のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。」とあるのを、
「請求項3又は4に記載のドライバ状態検出装置。」に訂正する。
(訂正事項3)
本件訂正前の明細書の【0006】に
「上述の課題を解決するために、ここに開示された技術の一態様は、車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、を備え、前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定するものである。」とあるのを、
「上述の課題を解決するために、ここに開示された技術の一態様は、車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、を備え、前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして運転支援が必要であると判定するものである。」に訂正する。
ここで、訂正前の請求項1~3及び5~8は、請求項2、3及び5~8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1~3、5~8〕について請求されている。
また、明細書の【0006】に係る訂正は、請求項1との記載を整合させるものであり、請求項1~3及び5~8に関係する訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4号に規定する一群の請求項〔1~3、5~8〕について請求されている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「状態判定部」について、「前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0061】~【0063】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ここで、申立人は、令和4年3月7日の意見書で、【0061】~【0063】には、「反応がある」と判定する条件について、具体的な3つの例示しかなく、あらゆる操作が対象であることは記載されておらず、また、どのような状態となった場合を「反応がない」と判定するかについて、具体的な記載がないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものでない旨主張する。
しかし、本件特許明細書の【0024】、【0025】を参照すると、本件発明は、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出するために「通常の運転姿勢から逸脱した前傾姿勢になっている」ことを検出するものであるから、運転者の反応がある場合は、当然に「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っている」場合でないことは明らかである。
そして、本件特許明細書の【0061】には、「ステップS804において、状態判定部312は、ステップS803の警報音発生器201の作動に対して、運転者23の反応があるか否かを判定する。」と記載されている。また、【0062】及び図8には、運転者の反応があると判定された(ステップS804でYES)場合以外は、運転者23の反応がない(ステップS804でNO)場合と判定されることが記載されている。
そうすると、本件特許明細書(【0061】~【0063】等)には、運転者の反応があると判定された場合以外は、運転者の反応がない場合と判定し、運転者の反応がない場合に運転支援を行うことが記載されている。
さらに、運転者の反応がある場合とは、車両に対する操作がある場合を含むことは技術常識であって、そして、本件特許明細書の【0061】には、車両に対する操作がある場合に関して、具体的に「例えば操作スイッチ106が操作されて警報音発生器201がオフにされる」場合、「ブレーキペダル107が操作される」場合、「ステアリングセンサ108の検出値に基づき、ステアリングホイールが操作されたと判定する」場合が記載されている。
そうすると、本件特許明細書の【0061】の具体的な3つの例示は、単なる例示でしかなく、車両に対する操作がない場合に運転者の反応がないものとすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、当該申立人の主張は当を得ないものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正前の請求項8の「請求項3~7のいずれか1項」を引用するものから、「請求項3又は4」を引用するものに、引用する請求項について、請求項5~7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、訂正事項1により請求項1が訂正されたことにより、明細書の【0006】の記載を、請求項1の記載に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、本件特許明細書の【0061】及び【0062】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3、5~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1~8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備え、
前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する、
ドライバ状態検出装置。
【請求項2】
前記姿勢判定部は、前記運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角を前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から判定する、
請求項1に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項3】
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、をさらに備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する、
請求項1又は2に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項4】
車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部と、
予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する、
ドライバ状態検出装置。
【請求項5】
前記環境検出部は、前記車両の速度を検出する車速センサを含み、
前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3または4に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項6】
前記環境検出部は、前記車両の進行方向に配置された交通信号機の点灯色を検出する信号センサを含み、
前記環境判定部は、前記信号センサにより検出された前記交通信号機の点灯色が赤色である場合に、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3~5のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項7】
前記環境検出部は、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
前記車両と同一方向に走行する前方の他車を検出する車両センサと、を含み、
前記環境判定部は、前記車速センサにより検出された前記車両の速度と、前記車両センサにより検出された前記他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かを判定し、交通渋滞であると判定すると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3~6のいずれか1項に記載のドライバ状態検出装置。
【請求項8】
前記環境検出部は、
前記車両の速度を検出する車速センサと、
運転者用シートの座面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力分布を検出する第1圧力センサと、
前記運転者用シートの背面部に配置され、前記運転者用シートに着座する前記運転者の圧力の有無を検出する第2圧力センサと、を含み、
前記環境判定部は、
前記第1圧力センサにより検出された前記圧力分布から、前記運転者の左足による左圧力値と前記運転者の右足による右圧力値との差圧を算出し、
前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第2速度以下であり、前記差圧が所定圧力値以上であり、かつ、前記第2圧力センサによって前記運転者の圧力が無いことが検出されると、前記運転環境が前記環境条件を満たすと判定する、
請求項3又は4に記載のドライバ状態検出装置。」
第4 当審の判断
1 令和3年11月18日付け取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した令和3年11月18日付け取消理由通知書(決定の予告)による取消理由の概要は、以下のとおりである。
(進歩性)本件発明1及び2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第4号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第4号証:特開2016-38793号公報
(以下「甲4」という。)
2 令和3年11月18日付け取消理由(決定の予告)についての当審の判断
(1)本件発明1の進歩性について
ア 甲4に記載された事項及び発明
甲4には、以下の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置では、脇見や居眠り等により姿勢が崩れた場合だけでなく、運転者の癖により姿勢が崩れた場合にも、危険な状態にあると判定され、運転者に警告が行われるおそれがある。」
・「【0013】
検出手段21は、カメラ31により撮影された画像に基づいて、ドライバの姿勢崩れを検出する。詳しくは、検出手段21は、カメラ31により撮影された画像を認識して、姿勢崩れ量Lを算出する。姿勢崩れ量Lの定義は色々考えられるが、例えば図3に示すように、ヘッドレスト51aの中心を基準点とし、基準点とドライバの顔中心との距離を姿勢崩れ量Lとする。ヘッドレスト51aの中心の代わりに、ステアリング52の中心を基準点としてもよい。あるいは、ドライバが正面を向いた適切な姿勢でシート51に着座した時の顔中心を基準点として登録しておき、この基準点と画像から認識したドライバの顔中心との距離を姿勢崩れ量Lとしてもよい」
・「【0021】
設定スイッチ36(設定手段)は、ドライバが姿勢情報を提示する頻度を設定するためのスイッチである。設定スイッチ36は、機械スイッチでもよいし、ディスプレイ33と一体的に形成されたタッチスイッチでもよい。癖による姿勢崩れの場合、頻繁に姿勢情報を提示すると、煩わしく感じるドライバも存在する。このようなドライバは、設定スイッチ36を操作して、例えば1トリップ中に1回や数時間毎に1回のように、都合のよい頻度で姿勢情報を取得できるように設定できる。」
・「【0023】
まず、姿勢崩れを検出したか否か判定する(S10)。すなわち、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定する。姿勢崩れを検出していない場合は(S10:NO)、S10の処理を繰り返し実行する。姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、次に、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出しているか否か判定する(S11)。時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出していない場合は(S11:NO)、S10の処理に戻る。
【0024】
一方、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定する(S12)。運転開始直後から姿勢崩れを検出している場合、すなわち、運転開始直後から時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合に、癖による姿勢崩れと判定する(S12:YES)。ここでは、運転開始直後を、シフトポジションをパーキングから移動させてから所定時間内、又は車両の走行を開始してから所定時間内とする。シフトポジションや走行開始は、車両センサ41の検出値に基づき判断する。一方、運転開始直後から姿勢崩れを検出していない場合、すなわち、運転開始直後よりも以降に、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合に、癖以外の姿勢崩れと判定する(S12:NO)。
【0025】
癖による姿勢崩れと判定した場合、次に、停車中か否か判定する(S13)。詳しくは、車両センサ41の検出値に基づいて、車速がVkm/h以下か否か判定する。Vkm/hは、0km/h(完全な停車)でもよいし、停車とみなせる程度に十分に低い速度(例えば1km/h)でもよい。停車中でないと判定した場合は(S13:NO)、S13の処理を繰り返し実行する。
【0026】
一方、停車中と判定した場合は(S13:YES)、適切な運転姿勢及び姿勢崩れの影響を提示する(S14)。図6に、提示する適切な運転姿勢の一例を示す。図6に示す例では、正しい運転姿勢を図解するイラストレーションをディスプレイ33に表示させ、さらに、正しい運転姿勢を取る手順A~Dをディスプレイ33に表示させるとともに、スピーカ34から音声出力させる。手順Aは、「正面を向いて座り、背もたれの位置を調整して、運転操作時に背もたれから離れないようにする」である。手順Bは、「シート位置を調整して、ペダルがしっかりと踏み込め、ハンドルを握ったときにひじが少し曲がるようにする」である。手順Cは、「ヘッドレストの中央が耳の上端あたりになるようにする」である。手順Dは、「シートベルトを正しく装着する」である。
【0027】
また、姿勢崩れの影響を、ディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。姿勢崩れの影響の例としては、「崩れた姿勢で運転を続けると、疲労が蓄積して体に負担をかけることになります」、「崩れた姿勢で運転していると、運転操作がスムーズではなくなり、事故を起こす可能性が高くなります」といったものが挙げられる。
【0028】
さらに、癖による姿勢崩れの崩れ方に応じて、姿勢情報の内容を変化させて提示してもよい。詳しくは、姿勢崩れの崩れ方を、前かがみになっている、リラックスしすぎている(仰け反っている)、ドアにもたれかかっている等のパターンに分類し、分類した姿勢崩れのパターンに対応した姿勢情報を提示する。
【0029】
姿勢崩れのパターンの分類は、例えば、予め姿勢崩れのパターンを分類したテーブルを用意しておき、このテーブルと画像認識により検出したドライバの姿勢とを比較して行うことができる。その他の方法を用いて姿勢崩れのパターンの分類を行ってもよい。以下に、姿勢崩れのパターンに応じて提示する姿勢情報の例を説明する。
【0030】
例えば、背中がシート51の背もたれについておらず、前かがみの姿勢になっている場合、図7(a)に示す例のように、前かがみの姿勢のイラストレーションをディスプレイ33に表示させる。これにより、ドライバは、自分の姿勢の癖を客観的に把握することができる。さらに、前かがみ姿勢の影響として、内容(1)及び(2)をディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。内容(1)は、「エアバッグが開いたときに強い衝撃を受けます」、内容(2)は、「ルームミラーやドアミラーに映る後方や後側面の位置がずれてしまうので、死角の範囲が広くなり十分な状況の確認がしにくくなります」である。この場合、適正な運転姿勢の情報として、図6の手順Aだけを提示するようにしてもよい。
【0031】
また、腰がシート51についておらず、リラックスしすぎた姿勢になっている場合、図7(b)に示す例のように、リラックスしすぎた姿勢のイラストレーションをディスプレイ33に表示させる。さらに、リラックスしすぎた姿勢の影響として、内容(1)及び(2)をディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。内容(1)は、「衝突したときにシートベルトの下に体が潜り込んでしまう可能性があります」、内容(2)は、「前方の視界が悪くなります」である。この場合、適正な運転姿勢の情報として、図6の手順Bだけを提示するようにしてもよい。
【0032】
次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、直ちに注意を喚起する(S15)。具体的には、スピーカ34から警告音を出力する。
あるいは、「休息を取ってください」といった注意を、ディスプレイ33に表示させるとともにスピーカ34から音声出力させる。
【0033】
続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定する(S16)。
姿勢崩れ量Lが閾値Th以下になった場合には、ドライバの姿勢が改善したと判定して(S16:YES)、本処理を終了する。
【0034】
一方、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きい状態のままの場合には、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じているか否か判定する(S17)。すなわち、時間T2よりも長い間、目の開度が閾値Thoよりも小さいか否か判定する。
【0035】
時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す。また、周囲の車両に危険を知らせるために、車両制御装置40へヘッドライトの灯火及びクラクションの吹聴の指示を出す。さらに、車両の他の搭乗者に危険を知らせるために、スピーカ34へ警報出力の指示を出す。
【0036】
一方、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じていない場合(S17:NO)、S13の処理と同様に停車中か否か判定し(S19)、停車中の場合には(S19:YES)、S14の処理と同様に、適切な運転姿勢及び姿勢崩れの影響を提示する(S20)。以上で本処理を終了する。」
・「【0045】
・癖以外の姿勢崩れとの判定に伴い注意を喚起した後に、ドライバの姿勢が改善されず、且つドライバが時間T2を超えて目を閉じている場合には、ドライバは意識喪失等により運転不能な状態であるおそれが高い。そのため、このような場合には、車両を安全に停車させることにより、事故を防ぐことができる。」
・「【図2】
[図:0001385155000001.jpg]
」
・「【図5】
[図:0001385155000002.jpg]
」
・「【図7】
[図:0001385155000003.jpg]
」
上記記載を総合し、【0030】の前かがみ姿勢に関する姿勢の崩れに着目すると、甲4には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「カメラ31により撮影された画像に基づいて、ドライバの前かがみ姿勢崩れを検出する検出手段21を有し、
まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、
前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、
次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、
続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す、
運転者監視装置。」
イ 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「ドライバ」は、本件発明1の「運転者」に相当し、同様に「運転者監視装置」は「ドライバ状態検出装置」にそれぞれ相当する。
また、甲4発明の「癖以外」の「前かがみ姿勢崩れ」は、甲4の「脇見や居眠り等により姿勢が崩れた場合だけでなく、運転者の癖により姿勢が崩れた場合にも、危険な状態にあると判定され、運転者に警告が行われるおそれがある。」(【0004】)及び「癖以外の姿勢崩れとの判定に伴い注意を喚起した後に、ドライバの姿勢が改善されず、且つドライバが時間T2を超えて目を閉じている場合には、ドライバは意識喪失等により運転不能な状態であるおそれが高い。」(【0045】)の記載を参照すると、脇見や居眠り等により姿勢が崩れた場合や意識喪失等により運転不能な状態等の危険な状態を意味するから、本件発明1の「異常状態」に相当する。
(イ)甲4発明の「カメラ31」は、図2を参照すると、車両の室内に配置されており、「ドライバの前かがみ姿勢崩れを検出する検出手段21」であるから、本件発明1の「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部」に相当する。
(ウ)甲4発明の「カメラ31により撮影された画像に基づいて、ドライバの前かがみ姿勢崩れを検出する検出手段21」と、本件発明1の「前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢の角度を判定する姿勢判定部」とは、「前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢を判定する姿勢判定部」の限りで一致する。
(エ)甲4発明の「癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、」「警告音を出力」する「スピーカ34」は、本件発明1の「前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器」に相当する。
したがって、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「車両の室内に配置され、運転者を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から、前記運転者の前傾姿勢を判定する姿勢判定部と、
前記運転者が異常状態になっていると判定されると作動して、前記運転者に対する警報音を発生する警報音発生器と、
を備える、
ドライバ状態検出装置。」
<相違点1>
本件発明1は、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備えるのに対して、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定」する点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の反応がない場合に前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する、」のに対して、甲4発明は、「ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す」点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
<相違点1、2について>
本件発明1の、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備え、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことは、本件特許明細書の【0024】、【0025】及び令和4年1月19日の意見書((2-3-1)反論事項1の欄)を参照すると、「通常の運転姿勢から逸脱した前傾姿勢になっている」ことを検出するものであって、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出するものである。
これに対して、甲4の【0045】には、「癖以外の姿勢崩れとの判定に伴い注意を喚起した後に、ドライバの姿勢が改善されず、且つドライバが時間T2を超えて目を閉じている場合には、ドライバは意識喪失等により運転不能な状態であるおそれが高い」と記載されているから、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)」場合にドライバは意識喪失等により運転不能な状態であると判定するものである。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、共にドライバの意識喪失等を判定するものであるが、その判定手段が大きく異なるものである。
よって、上記相違点1、2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものでない。
また、申立人が提出した甲第3号証(特開2007-280061号公報)の【0043】~【0044】及び【図7】に記載されているように、前傾姿勢、すなわち前かがみ姿勢をドライバの姿勢の傾きで検知することが周知の事項であるとしても、上記相違点1、2に係る本件発明1の発明特定事項は、申立人が提出した甲第1号証(特開2016-9255号公報)、甲第2号証(特表2014-520607号公報)、甲第3号証、甲第5号証(特開平7-57172号公報)、甲第6号証(実願昭56-160949号(実開昭58-65135号)のマイクロフィルム)及び甲第7号証(特開2000-301963号公報)には、何ら示されていない。
<本件発明1の奏する作用効果について>
本件発明1は、上記相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項により、体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる場合を検知するという格別な効果を奏するものである。
エ 小括
したがって、本件発明1は、甲4発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2の進歩性について
ア 対比
本件発明2と甲4発明とを対比すると、上記相違点1及び2に加え、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点3>
本件発明2は、「前記姿勢判定部は、前記運転者の前傾姿勢の角度として、胴体の鉛直方向に対する傾斜角であるトルソー角を前記撮像部により撮像された前記運転者の画像から判定する」のに対して、甲4発明は、そのように特定されていない点。
イ 判断
相違点について検討するに、上記相違点1及び2については、上記(1)ウと同じである。
エ 小括
したがって、本件発明2は、甲4発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 令和3年11月18日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった異議申立理由についての当審の判断
(1)本件発明1~3の進歩性について
上記2(1)ウのとおり、甲第1号証には、本件発明1の、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備え、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことで、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出することについて、記載されていないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、上記2(1)ウのとおり、甲第1号証~甲第7号証には、本件発明1の、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と」を備え、「前記状態判定部は、前記警報音発生器の作動に対する前記運転者の反応があるか否かに基づき、前記運転者に対する運転支援が必要か否かを判定し、前記運転者の前記車両に対する操作がない場合に前記運転者の反応がないものとして前記運転者に対する運転支援が必要であると判定する」ことで、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出することについて、記載されていないから、本件発明1~3は、甲第1号証~甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明4の進歩性について
ア 対比
本件発明4と甲4発明とを対比するに、本件発明4と甲4発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点4>
本件発明4は、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する」のに対して、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、
前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、
次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、
続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)、適切な制動及び操舵を行い安全に停車するように、車両制御装置40へ指示を出す」点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
<相違点4について>
本件発明4は、「予め定められた第1閾値角度を保存する記憶部と、
前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が、前記記憶部に保存されている前記第1閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する状態判定部と、
前記運転者が前記車両を運転中の運転環境を検出する環境検出部と、
前記環境検出部により検出された前記運転環境が予め定められた環境条件を満たすか否かを判定する環境判定部と、を備え、
前記記憶部は、予め定められた、前記第1閾値角度より大きい第2閾値角度を保存し、
前記状態判定部は、前記運転環境が前記環境条件を満たすと前記環境判定部により判定された場合には、前記第1閾値角度に代えて、前記姿勢判定部により判定された前記運転者の前傾姿勢の角度が前記第2閾値角度を超えると、前記運転者が異常状態になっていると判定する」ことで、「体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる」場合を検出するものである。
これに対して、甲4発明は、「まず、姿勢崩れ量Lが閾値Thよりも大きくなったか否か判定することで、前かがみ姿勢崩れを検出したか否か判定し(S10)、前かがみ姿勢崩れを検出した場合(S10:YES)、時間T1よりも長く継続して姿勢崩れを検出している場合は(S11:YES)、次に、癖による姿勢崩れか否か判定し(S12)、次に、癖以外の姿勢崩れと判定した場合は(S12:NO)、スピーカ34から警告音を出力し、続いて、ドライバの姿勢が改善したか否か判定し、ドライバの姿勢が改善していないと判定して(S16:NO)、時間T2よりも長い間ドライバの眼が閉じている場合(S17:YES)」場合にドライバは意識喪失等により運転不能な状態であると判定するものである。
そうすると、本件発明4と甲4発明とは、共にドライバの意識喪失等を判定するものであるが、その判定手段が大きく異なるものである。
そして、上記相違点4に係る本件発明4の発明特定事項は、甲第1号証~甲第3号証及び甲第5号証~甲第7号証に何ら示されていないから、甲4発明において、上記相違点4に係る本件発明4の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとする理由はない。
<本件発明4の奏する作用効果について>
本件発明4は、上記判定手段により、体調の急変により意識レベルが低下し、場合によっては意識を失っていると思われる場合を検知するという格別な効果を奏するものである。
(3)本件発明5~8の進歩性について
本件発明5~8は、本件発明1又は4の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記2(1)及び3(2)の理由と同様の理由により、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)サポート要件について
申立人は、本件発明6に関して、本件特許明細書には、「環境検出部」が「交通信号機の点灯色検出する信号センサ」のみを含み、「環境判定部」が「交通信号機の点灯色が赤色である場合」に直ちに「環境条件を満たすと判定する」ことは記載されていないから、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨主張する。
また、本件発明8に関して、本件特許明細書には、「第2速度」について記載も示唆もないから、本件発明8は、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨主張する。
しかし、本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を加えた発明である。
そして、本件発明1が、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは、本件発明1にサポート要件違反に係る主張がされていないことからも明らかであるから、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明6は、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは明らかである。
また、本件発明6については、本件特許明細書の【0015】に、交通信号機の点灯色が赤色である場合、運転者の前傾姿勢の角度が第2閾値を超えると運転者が異常状態であると判定する点が記載されており、当該事項は、【0054】の「車両10の速度」等の判断に関係ないことは、技術的に明らかである。
したがって、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
さらに、本件発明8は、本件発明1又は4の発明特定事項を全て備え、さらに限定を加えた発明である。
そして、本件発明4が、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは、本件発明4にサポート要件違反に係る主張がされていないことからも明らかであるから、本件発明1又は4の発明特定事項を全て備える本件発明8は、本件発明が解決しようとする課題を解決していることは明らかである。
また、本件発明8については、【0018】~【0020】等に記載されており、本件発明8が、本件発明が解決しようとする課題を解決することが明らかであるから、本件発明8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(5)明確性要件について
申立人は、本件発明6及び7は、本件発明5を引用する場合、どのような場合に「環境条件を満たすと判定する」のかが明確でない旨主張する。
また、本件発明8は、本件発明5又は7を引用する場合、どのような場合に「環境条件を満たすと判定する」のかが明確でない旨主張する。
しかし、本件発明6は、本件発明5を引用する場合、その文言から、「前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合」であって、「前記信号センサにより検出された前記交通信号機の点灯色が赤色である場合に、」「前記運転環境が前記環境条件を満たす」ものであるから、明確である。
また、本件発明7は、本件発明5を引用する場合、その文言から、「前記車速センサにより検出された前記車両の速度が予め定められた第1速度以下の場合」であって、「前記車速センサにより検出された前記車両の速度と、前記車両センサにより検出された前記他車の数とに基づき、交通渋滞であるか否かを判定し、交通渋滞であると判定すると」、「前記運転環境が前記環境条件を満たす」ものであるから、明確である。
そして、本件発明8は、本件訂正により請求項5又は7を引用するものが削除されたため明確となった。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-700334