特許異議申立
2021-700252
臓器代用樹脂成形物
- 審判番号
- 2021-700252
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-184771
- 登録番号
- 6778565
- 請求日
- 2021年03月08日
- 審決日
- 2023年10月24日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社パイロットコーポレーション
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【権利者代理人】砂山 麗
- 【権利者】パイロットインキ株式会社
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【権利者代理人】砂山 麗
- 【異議申立人】秦 誠一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 藤本 義仁
- 審判官 松田 直也
- 審判官 門 良成
- 分類
- P1651.121-YAA(G09B) / P1651.537-YAA(G09B) / P1651.851-YAA(G09B) / P1651.853-YAA(G09B) / P1651.841-YAA(G09B) / P1651.854-YAA(G09B) / P1651.855-YAA(G09B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6778565号発明「臓器代用樹脂成形物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6778565号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6778565号の請求項1、2、4、6に係る特許を維持する。
特許第6778565号の請求項3、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 経緯
特許第6778565号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成28年9月21日に出願され、令和2年10月14日にその特許権の設定登録がされ、同年11月4日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年3月8日付けで特許異議申立人 秦 誠一郎(以下、「申立人」という。)より請求項1~6に対して特許異議の申立てがされ、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 6月30日 取消理由通知書(起案日)
令和3年 9月 3日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
令和3年11月11日 取消理由通知書(決定の予告)(起案日)
令和4年 1月17日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
令和4年 2月22日 訂正拒絶理由通知書(起案日)
令和4年 3月30日 意見書の提出(特許権者)
令和4年 5月24日 取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 6月30日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
令和4年 7月27日 通知書(特許法第120条の5の通知)
令和4年 8月23日 意見書の提出(申立人)
令和4年 9月30日 取消理由通知書(決定の予告)(起案日)
令和4年12月 5日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
令和5年 1月 6日 訂正拒絶理由通知書(起案日)
令和5年 2月10日 意見書の提出(特許権者)
令和5年 5月 9日 取消理由通知書(決定の予告)(起案日)
令和5年 7月11日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
令和5年 8月15日 通知書(特許法第120条の5の通知)
令和5年 9月15日 意見書の提出(申立人)
なお、令和3年9月3日付け、令和4年1月17日付け、令和4年6月30日付け、及び、令和4年12月5日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げたものとみなされる。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
特許第6778565号の特許請求の範囲を、令和5年7月11日に提出された本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。
なお、以下、本訂正請求書でする訂正を「本件訂正」という。
2 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物。」
との記載を、
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下であって、第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、前記温度t4が50~79℃の温度である、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、
「前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である請求項1記載の臓器代用樹脂成形物。」
との記載を、独立形式に改め、
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物であって、前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下の大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である、臓器代用樹脂成形物。」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項4、6についても同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4において、
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料について「前記温度t2が5℃未満の温度であり、温度t4が40℃以上の温度である請求項2又は3記載の」との記載を「前記温度t2が-10℃以上5℃未満の温度である、請求項2記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6において、
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料について、「前記温度t1が-50~0℃の温度である請求項2乃至5のいずれか一項に記載の」との記載を「前記温度t1が-20~-3℃の温度である請求項2,4のいずれか一項に記載の」に訂正する。
3 訂正事項についての当審の判断
(1)一群の請求項1~6についての説明
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセルの顔料について、「前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下であって、第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し」と限定し、完全に第2色相となる温度(完全消色温度)t4が、「前記温度t4が50~79℃の温度である」と、温度範囲を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料」、「完全に第2色相となる温度(完全消色温度)t4」について、上記アのとおり、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)本件特許明細書の実施例に記載されている事項
本件特許明細書等には次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。
「【請求項2】
前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である請求項1記載の臓器代用樹脂成形物。」
【0005】
本発明は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物を要件とする。
更には、前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する加温温度以下の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料であること、前記温度t4が体温を超える温度であること、前記温度t2が5℃未満の温度であり、温度t4が40℃以上の温度であること、前記温度t4が50~100℃の温度であること、前記温度t1が-50~0℃の温度であること、臓器の形状を模してなること等を要件とする。」
「【0009】
・・・
前記感温変色性色彩記憶性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性について説明する。
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t4(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t3(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t2(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t1(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
変色温度域は前記t1とt4間の温度域であり、着色状態と消色状態のいずれかの状態を呈することができ、色濃度の差の大きい領域であるt2とt3の間の温度域が実質変色温度域である。
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が小さいと変色前後の両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しえない。また、前記ΔH値が大きいと変色前後の各状態の保持が容易となる。」
(イ)本件特許明細書の実施例に記載されている事項
また、本件特許明細書等の実施例1ないし3、5及び6の「ΔH」及び「t4」について検討する(なお、実施例4は欠番である。)。
実施例1 ΔH:66℃、t4:56℃
実施例2 ΔH:68℃、t4:58℃
実施例3 ΔH:39℃、t4:43℃
実施例5 ΔH:79℃、t4:79℃
実施例6 ΔH:57℃、t4:52℃
そして、各実施例における「ΔH」及び「t4」の下限値及び上限値は、それぞれ以下のとおりである。
ΔH:39℃、79℃
t4:43℃、79℃
(ウ)本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるかについての検討
上記(ア)のとおり、本件特許明細書には、「前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性」が記載されており、「ΔH」及び「t4」について、上記(イ)のとおりであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 独立特許要件が課されないこと
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を独立形式に書き換えた上で、「大きなヒステリシス特性」という規定を、「ΔH:39℃以上79℃以下の大きなヒステリシス特性」と限定するとともに明確にし、温度t4に関して、「50~79℃の温度である」と、温度範囲を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び、同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前請求項2を独立形式に改めるとともに、記載を限定するとともに明確にするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前請求項2を独立形式に改めるとともに、記載を限定するとともに明確にするものであって、本件特許明細書等の上記(2)ウ(ア)及び(イ)の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 独立特許要件が課されないこと
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項3の削除であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、請求項3の削除であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、請求項3の削除であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 独立特許要件が課されないこと
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(5)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項4の「温度t2が5℃未満の温度」を「前記温度t2が-10℃以上5℃未満の温度」と限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項4は、請求項4の引用する引用元の請求項について、訂正事項3に連動して、「請求項2又は3記載の」を「請求項2」とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、又は、同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記アのとおり、温度t2の範囲を限定する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書等の実施例1ないし3、5及び6の「t2」について検討する(なお、実施例4は欠番である。)。
実施例1 t2:-10℃
実施例2 t2:-10℃
実施例3 t2:5℃
実施例5 t2:1℃
実施例6 t2:-8℃
そして、各実施例における「t2」の下限値及び上限値は、-10℃、5℃である。
よって、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 独立特許要件が課されないこと
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(6)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、請求項5の削除であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、請求項5の削除であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、請求項5の削除であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 独立特許要件が課されないこと
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(7)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、請求項6の「温度t1が-50~0℃の温度」を「温度t1が-20~-3℃の温度」と限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項6は、請求項6の引用する引用元の請求項について、訂正事項3、5に連動して、「請求項2乃至5のいずれか一項」を「請求項2,4のいずれか一項」とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、又は、同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、上記アのとおり、温度t1の範囲を限定する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書等の実施例1ないし3、5及び6の「t1」について検討する(なお、実施例4は欠番である。)。
実施例1 t1:-20℃
実施例2 t1:-20℃
実施例3 t1:-3℃
実施例5 t1:-10℃
実施例6 t1:-16℃
そして、各実施例における「t2」の下限値及び上限値は、-20℃、-3℃である。
よって、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 独立特許要件が課されないこと
本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正の適否についての小括
上記のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、又は、同項ただし書第3号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されないので、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲
上記「第2」のとおり、訂正請求による特許請求の範囲の訂正は認められることから、訂正後の特許請求の範囲は、訂正請求書に添付した、次の特許請求の範囲のとおりのものである(以下、「請求項1」~「請求項6」に係る発明を、それぞれ、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明6」という。なお、下線は、特許権者が付与した。)。
「【請求項1】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下であって、第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、前記温度t4が50~79℃の温度である、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物。
【請求項2】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物であって、前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下の大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である、臓器代用樹脂成形物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記温度t2が-10℃以上5℃未満の温度である、請求項2記載の臓器代用樹脂成形物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記温度t1が-20~-3℃の温度である請求項2,4のいずれか一項に記載の臓器代用樹脂成形物。」
第4 取消理由の概要
当審では、令和5年5月9日付け取消理由通知書(決定の予告)で、次のとおりの取消理由を通知した。
理由1(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由2(進歩性)本件特許発明1~6は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 理由1(明確性)について
訂正前の請求項2には、「色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、」との記載がある。しかしながら、上記「大きなヒステリシス特性」との記載は、比較の基準が示されておらず、どの程度の大きさを意味するものであるのかが不明確であると、令和5年5月9日付け取消理由通知書(決定の予告)で指摘したところ、訂正事項2のとおり「色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下の大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、」と訂正されたことから、この理由は解消した。
2 理由2(進歩性)について
(1)引用文献に記載されている事項、引用文献に記載されている発明
ア 参考文献(本件訂正発明1に対して、異議申立人が令和4年8月23日に提出した意見書とともに提出した参考文献の記載事項及び認定事項)
(ア)本件特許に係る出願の出願前に出願公開がされた参考文献(特開平8-39936号公報)には、以下の事項が記載されている、又は、記載されているといえる。
a 「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物を呈色反応の反応媒体として適用した系にあって、ヒステリシス幅(ΔH)の大きい熱変色特性を示し、効果的な色彩記憶性効果を発現させ、更に発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる非常に高いコントラストが得られることを見出し、本発明を完成させた。本発明は(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物の三成分を必須成分とする均質相溶体からなる、色濃度-温度曲線に関し、8℃乃至80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して変色する感温変色性色彩記憶性組成物。更には、前記アリールアルキルケトン類がフェニルアルキルケトン類から選ばれる化合物である感温変色性色彩記憶性組成物であり、更には、前記感温変色性色彩記憶性組成物は、マイクロカプセルに内包されたマイクロカプセル顔料であることを要件とする。」
b 「【0005】以下に本発明の感温変色性色彩記憶性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を図1のグラフについて説明する。図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する最低温度T4(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは完全呈色状態を保持できる最高温度T3(以下、最高保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは完全消色状態を保持できる最低温度T2(以下、最低保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全呈色状態に達する最高温度T1(以下、完全呈色温度と称す)における濃度を示す点である。温度TAにおいては呈色状態E点と消色状態F点の2相が共存する状態にある。この温度TAを含む、呈色状態と消色状態が共存できる温度域が変色の保持可能な温度域であり、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。本発明者らの実験では実用上の変色前後の各状態の保持できるΔH値は8℃乃至80℃の範囲である。又、前記において、呈色状態と消色状態の二相が実質的に保持され、実用に供される温度、即ち、TAを含むT3とT2の間の温度幅は2℃以上80℃未満の範囲が有効である。」
c 「【0008】以下に(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について具体的に化合物を例示する。本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、従来より公知のジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリルキノリン類、ピリジン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類等がある。以下にこれらの化合物を例示する。3、3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、2-N-シクロヘキシル-N-ベンジルアミノ-6-ジエチルアミノフルオラン、2-P-ブチルフェニルアミノ-6-ジエチルアミノ-3-メチルフルオラン、1、3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジエチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3、6-ジメトキシフルオラン、3、6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1、2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1、2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、3-(ブチル-2-メチルインドール-3-イル)-3-(1-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-1(3H)イソベンゾフラノン、1、2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、3、3-ビス(1-n-ブチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3、3-ビス(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリルキノリン、4-(4’-メチルベンジルアミノフェニル)-ピリジン、2、6-ジフェニル-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2、6-ビス(4’-メトキシフェニル)-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2、6-ジメチル-3、5-ビスカルボエトキシ-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2-(2’-オクトキシフェニル)-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-6-フェニル-ピリジン、2、6-ジエトキシ-4-(4’-ジエチルアミノフェニル)-ピリジン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-メトキシ-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-ニトロフェニルオキシ)-キナゾリン、2-(4’-フェニルメチルアミノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン 2-(4’-ピペリジノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-クロロフェニルオキシ)-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-メトキシフェニルオキシ)-キナゾリン、4、4’-(エチレンジオキシ)-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-〔プロピレンジオキシ(1、3)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-〔ブチレンジオキシ(1、3)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-〔ブチレンジオキシ(1、4)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-(オキシジエチレン)-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-エチレン-ビス〔2-(4-ピペリジノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-エチレン-ビス〔2-(4-ジ-n-プロピルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-(エチレンジオキシ)-ビス〔2-(4-ジ-n-ブチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4、4’-シクロヘキシレン-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕等が好適に用いられる。
【0009】成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群〔酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群〕、電子空孔を有する化合物群等がある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0010】以下に具体例を挙げる。フェノール、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4、4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2、2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4-ヒドロキシ-4’-イソプロポキシジフェニルスルホン1-フェニル-1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、等がある。前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2~5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3-トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。
【0011】次に(ハ)成分の総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類について具体的に化合物を例示する。n-オクタデカノフェノン、n-ヘプタデカノフェノン、n-ヘキサデカノフェノン、n-ペンタデカノフェノン、n-テトラデカノフェノン、4’-n-ドデカノアセトフェノン、n-トリデカノフェノン、4’-n-ウンデカノアセトフェノン、n-ラウロフェノン、4’-n-デカノアセトフェノン、n-ウンデカノフェノン、4’-n-ノニルアセトフェノン、n-デカノフェノン、4’-n-オクチルアセトフェノン、n-ノナノフェノン、4’-n-ヘプチルアセトフェノン、n-オクタノフェノン、4’-n-ヘキシルアセトフェノン、4’-n-シクロヘキシルアセトフェノン、4-tert-ブチルプロピオフェノン、n-ヘプタノフェノン、4’-n-ペンチルアセトフェノン、シクロヘキシルフェニルケトン、ベンジル-n-ブチルケトン、4’-n-ブチルアセトフェノン、n-ヘキサノフェノン、4-イソブチルアセトフェノン、1-アセトナフトン、2-アセトナフトン、シクロペンチルフェニルケトン等が挙げられる。本発明の(ハ)成分は前記アリールアルキルケトン類を用いるが、必要に応じてヒステリシス特性を大きく変動しない範囲で他のエステル類、アルコール類、カルボン酸類、アミド類等を加えることができる。この場合、その添加量は本発明のアリールアルキルケトン50部に対して50部以下(重量部)が所期の色彩記憶性効果を有効に発現させる上で好ましい。
【0012】前記した(イ)、(ロ)、(ハ)の必須三成分の組成物の均質相溶体は、公知の微小カプセル化技術により微小カプセルに内包させることができ、微小粒子化(0.5~50μm、好ましくは1~30μm)により、ΔH値は必須3成分の組成物の均質相溶体のΔHと比較し、更にΔHを拡大することができる。又、カプセル膜壁で保護されていることにより、酸性物質、塩基性物質、過酸化物等の化学的に活性な物質又は他の溶剤成分と接触しても、その機能を低下させることがないことは勿論、耐熱安定性が保持できる。利用できる微小カプセル化技術としては、界面重合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。尚、微小カプセルの表面は、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0013】
【作用】本発明における前記アリールアルキルケトン類から選ばれる化合物を電子授受による呈色反応の反応媒体として配合することにより、色濃度-温度曲線に関して、ヒステリシス幅(ΔH)の大きい熱変色特性を発現させ、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラスト(ΔV)を有する熱変色性組成物として機能し、更に前記組成物を微小カプセルに内包させることによる微粒子形態となすことにより、色彩記憶性効果を発現させるのに有効なΔHが8℃乃至60℃のヒステリシス特性を発現させ得る。前記作用の理論的解明は未だ不十分であるが、高コントラストに関しては、エステル化合物に比べ、本発明のアリールアルキルケトン類は、同一融点下での分極性が高くなることに起因していると推察される。又、後述する実施例の熱変色特性の測定データにみられる如き、熱変色挙動を繰り返し再現させる。」
d 「【0017】実施例12
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の製造方法
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン3.0部、(ロ)フェノール化合物として、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン8.0部、(ハ)n-ラウロフェノン50.0部からなる3成分を120℃にて加温溶解して均質相溶体となし、エポン828〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂〕10部とメチルエチルケトン10部の混合溶液に混合したのち、これを10%ゼラチン水溶液100部中に滴下し、微小滴になるよう攪拌する。別に用意した5部の硬化剤エピキュアU〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂のアミン付加物〕を45部の水に溶解させた溶液を前記攪拌中の溶液中に徐々に添加し、液温を80℃に保って約5時間攪拌を続け、マイクロカプセル原液を得た。前記原液を遠心分離処理することにより、含水率約40重量%の黒色から無色に変化する平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。
【0018】ヒステリシス特性の測定方法
前記の如くして得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料40部をエチレン-酢酸ビニルエマルジョン50部、消泡剤1部、レベリング剤1部、水8部の中に均一に分散してなるインキを180メッシュのスクリーン版を用いて、明度値9.2の白色上質紙上にベタ印刷し、完全乾燥させ、塗膜厚みが20μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を用いた印刷物を得た。得られた印刷物を以下の方法で加熱、冷却して変色挙動をグラフ上にプロットした。前記印刷物を色差計〔TC-3600型色差計、(株)東京電色製〕の所定箇所に貼りつけ、その部分を温度幅70℃の範囲内で10℃/minの速度で印刷物を加熱、冷却した。例えば、実施例1の場合は、-10℃を測定開始温度として、10℃/minの速度で60℃まで加温し、続いて、10℃/minの速度で再び-10℃まで冷却した。各温度において色差計に表示された明度値をグラフ上にプロットして、図1に例示の変色曲線を作成し、T1、T2、T3、T4、TH(着色過程における色濃度の中点の温度)、TG(消色過程における色濃度の中点の温度)、及びΔH(線分HG)の各値を得た。」
e 【表2】「
[図:0001405765000001.jpg]
」
f 「【0029】
【発明の効果】本発明感温変色性色彩記憶性組成物、殊にマイクロカプセル化した顔料は、色濃度-温度曲線に関して、8℃~80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して発色-消色の可逆的変色を生起させ、変色温度より低温側の色と高温側の色の両方を常温域で互変的に記憶保持でき、必要に応じて熱又は冷熱を適用することにより、いずれかの色を可逆的に再現させて記憶保持できる特性を効果的に発現させることができ、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラストを発現させることができる。本発明の感温変色性色彩記憶性組成物、殊にマイクロカプセル化した顔料は、塗料或いは印刷インキとして、多様な塗装乃至印刷物への適用や、該顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態の賦形物として適用される。」
g 【図1】「
[図:0001405765000002.jpg]
」
h 上記eの【表2】より、実施例12のT1、T2、T4、ΔH(線分HG)は、それぞれ-6℃、4℃、46℃、40℃である。
i 上記bの段落【0005】及びgの【図1】より、参考文献の温度変化による色濃度の変化は、色濃度-温度曲線上の完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点、完全呈色状態を保持できる最高温度T3における濃度を示すB点、完全消色状態に達する最低温度T4における濃度を示すA点、完全消色状態を保持できる最低温度T2における濃度を示すC点、完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点の順に進行することが認められる。
j 上記bの段落【0005】及びgの【図1】より、参考文献のヒステリシス特性は、完全呈色状態にあって温度が上昇する過程では、温度T3に達すると、完全呈色状態における色相は変色し始め、温度T3より高い温度T4以上の温度域で完全に完全消色状態における色相となり、完全消色状態にあって温度が下降する過程では、温度T2に達すると、完全消色状態における色相は変色し始め、温度T2より低い温度T1以下の温度域で完全に完全呈色状態における色相となり、前記温度T2と温度T3の間の温度域で完全呈色状態における色相或いは完全消色状態における色相が保持されるヒステリシス特性を示すことが認められる。
k 参考文献の「感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料」が、温度T3以上、温度T4未満に温度が上昇して降温する過程でB→G→A→Fの順に、呈色状態に戻る変色挙動を示すことは、技術常識から見て明らかであると認められる。
(イ)参考文献に記載された発明
上記(ア)の記載事項及び認定事項を総合すると、参考文献には、次の発明(以下、「参考文献発明」という。)が記載されているものと認められる。
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物の三成分を必須成分とする均質相溶体からなる感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセル化した顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態とした賦形物であって、前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して40℃のヒステリシス幅を示して完全呈色状態における色相と完全消色状態における色相間の可逆的な熱変色特性を有し、温度変化による色濃度の変化は、完全呈色状態にあって温度が上昇する過程では、温度T3に達すると、完全呈色状態における色相は変色し始め、温度T3より高い温度T4以上の温度域で完全に完全消色状態における色相となり、完全消色状態にあって温度が下降する過程では、温度T2に達すると、完全消色状態における色相は変色し始め、温度T2より低い温度T1以下の温度域で完全に完全呈色状態における色相となり、前記温度T2と温度T3の間の温度域で完全呈色状態における色相或いは完全消色状態における色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度T3以上、温度T4未満に温度が上昇して降温する過程で完全呈色状態における色相に戻り、T1、T2及びT4は、それぞれ-6℃、4℃及び46℃である、賦形物。」
イ 甲第2号証
(ア)本件特許に係る出願の出願前に出願公開がされた甲第2号証(特開平7-33997号公報)には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料に関する。さらに詳細には、温度変化により大きなヒステリシス特性を示して発色-消色の可逆的変色を呈し、変色に要した熱又は冷熱の適用を取り去った後にあっても、着色状態と消色状態のいずれかを互変的且つ可逆的に常温域で保持する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料に関する。」
b 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この種の色彩記憶性効果は、前記特公平4-17154号公報に開示されている如く、呈色反応をコントロールするエステル類から選ばれる化合物のうち特定の化合物を構成成分として適用した系のみが発現できる熱変色性効果であって、エステル類の選択の自由度を満足させておらず、この種の熱変色性材料の利用度が制約されており、新たに効果的な化合物の発見が待ち望まれていた。本発明者らは前記色彩記憶性効果を発現させる反応媒体となる化合物について、更に追求し、反応媒体の選択の自由度を大幅に高め、この種の感温変色性色彩記憶性材料の利用度を更に高めようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、奇数の炭素数の特定の脂肪族一価アルコールと偶数の脂肪族カルボン酸から得られる特定の脂肪酸エステルを呈色反応の反応媒体として適用した系にあって、ヒステリシス幅(ΔH)の大きい熱変色特性を示し、効果的な色彩記憶性効果を発現させることを見出し、本発明を完成させた。本発明は(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールするエステル類の三成分を必須成分とする均質相溶体を構成し、前記エステル類から選ばれる化合物を特定することにより、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス幅を示して準可逆的な熱変色特性を有する感温変色性色彩記憶性材料において、前記エステル類が下記(1)及び/又は(2)に示される化合物群から選ばれてなる、前記必須三成分を含む均質相溶体が微小カプセルに内包されており、8℃乃至30℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して変色する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を要件とする。
(1) 炭素数9以上の奇数の脂肪族一価アルコールと炭素数が偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステル化合物、(2) n-ペンチルアルコール又はn-ヘプチルアルコールと炭素数10乃至16の偶数の脂肪族カルボン酸より得られる総炭素数17乃至23の脂肪酸エステル化合物。更には前記において、脂肪酸エステル化合物は、n-ノリルアルコール、n-ウンデシルアルコール、n-トリデシルアルコール又はn-ペンタデシルアルコールから選ばれてなる、総炭素数17乃至37の脂肪酸エステル化合物であることを要件とする。
【0005】以下に本発明の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を図1のグラフについて説明する。図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する最低温度T4(以下、発消色分岐温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは完全呈色状態を保持できる最高温度T3(以下、最高保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは完全消色状態を保持できる最低温度T2(以下、最低保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全呈色状態に達する最高温度T1(以下、完全呈色温度と称す)における濃度を示す点である。温度TAにおいては呈色状態E点と消色状態F点の2相が共存する状態にある。この温度TAを含む、呈色状態と消色状態が共存できる温度域が変色の保持可能な温度域であり、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。本発明者らの実験では実用上の変色前後の各状態の保持できるΔH値は8℃乃至30℃の範囲である。ここで、発消色分岐温度T4と最高保持温度T3の差Δtが変色の鋭敏性を示す尺度であり、1℃乃至10℃の範囲が実用上、有効である。又、前記において、呈色状態と消色状態の2相が実質的に保持され、実用に供される温度、即ち、TAを含むT3とT2の間の温度幅は2℃以上30℃未満の範囲が有効である。」
c 「【0007】以下に(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について具体的に化合物を例示する。本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、従来より公知のジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリノキノリン類等がある。以下にこれらの化合物を例示する。3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリノキノリン等がある。」
d 「【0012】
【作用】本発明における前記炭素数が奇数の脂肪族一価アルコールと偶数の脂肪族カルボン酸から得られる特定の脂肪酸エステルを電子授受による呈色反応の反応媒体として配合することにより、色濃度-温度曲線に関して偶数の脂肪族アルコールによる脂肪酸エステルを配合した系では奏しえないヒステリシス幅(ΔH)の大きい熱変色特性を発現させる熱変色性組成物として機能し、更に前記組成物を微小カプセルに内包させることによる微粒子形態となすことにより、色彩記憶性効果を発現させるのに有効なΔHが8℃乃至30℃のヒステリシス特性を発現させ得る。前記作用の理論的解明は未だ不充分であるが、後述する実施例の熱変色特性の測定データにみられる如き、熱変色挙動を繰り返し再現させる。」
e 「【0014】
【表1】
[図:0001405765000003.jpg]
」
f 「【0016】〔適用例1〕
(イ)前記実施例に準じて、2-クロロ-3-メチル-6-ジエチルアミノフルオラン、(ロ)2、2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、(ハ)ラウリン酸ウンデシルの三成分を含む均質相溶体を内包させた、朱色-無色の可逆的熱変色特性を有するマイクロカプセル顔料〔T1:6℃、T4:33℃〕を調製し、該顔料の40部をエチレン酢酸ビニルエマルジョン60部に分散させてなる印刷インキにより、「DEVILE」、「ANGEL」の英単語を印刷すると共に、「悪魔」、「天使」の訳語を一般印刷インキ(非熱変色性インキ)にて前記英単語の近傍に印刷、同様にして他の単語及びその訳語を印刷して英単語暗記シートを作製した。前記暗記シートは常態では和英両単語を視覚させており、33℃以上の加熱により、英単語はいずれも消色して不可視状態となる。この状態は約25℃の室温下で保持されており、和単語のみが視覚される。次に約6℃以下に冷却したところ、朱色の英単語が顕出し、視覚された。室温下ではこの状態が保持された。前記の英単語の可視、不可視状態のいずれかの状態は、常温域で任意に互変的に保持でき英単語の暗記学習に反復して供することができた。
【0017】〔適用例2〕
(イ)1、3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、(ロ)2、2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、(ハ)ステアリン酸n-ノリルの三成分を含む均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径約10μmのマイクロカプセル顔料を得た。得られたマイクロカプセル顔料は、橙色-無色の可逆的熱変色特性〔T1:22℃、T4:40℃〕を有する。次に前記マイクロカプセル顔料5部と非変色性黄色顔料1部をポリエチレンチップ94部と約170℃で溶融混合し、熱変色性チップを得た。次いで、前記熱変色性チップを適用し、熱変色性プラスチック製金魚をブロー成形機により約150℃で成型して得た。得られた金魚は25~35℃において橙色を視覚させており、40℃以上の湯中において黄色の金魚に変色する。この状態は25~35℃において維持され、黄色の金魚が視覚される。22℃以下においては金魚は橙色となり、25~35℃において、この状態が保持される。前記の金魚の橙色、黄色の様相は、25~35℃の温度域で互変化的に保持された。
【0018】〔適用例3〕
(イ)3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、(ロ)1、1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、(ハ)ミリスチン酸ウンデシルの三成分の均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径10μmのマイクロカプセル顔料を得た。得られたマイクロカプセル顔料は黒色-無色の可逆的熱変色特性(T1:16℃、T4:34℃)を有する。白色上質紙の表面に前記マイクロカプセル顔料を含むエチレン-酢酸ビニルエマルジョンに分散されてなるインキをスクリーン版(180メッシュ)を用いて印刷し、感温変色性記録紙を作製した。前記記録紙は常態では黒色を視覚させており、34℃以上の加熱により、白色となる。この状態は約25℃の室温下で保持される。次に約16℃以下に冷却したところ、黒色となり、室温下ではこの状態が保持された。前記記録紙の黒色、白色のいずれかの状態は、常温域で互変的に保持させることができた。室温下で黒色状態にある前記記録紙上を加熱ペン(45℃)で筆記すると白色の筆跡が視覚された。一方、白色状態にある前記記録紙上を冷熱ペン(3℃)で筆記すると黒色の筆跡を現出させた。この状態は前記室温下で保持された。
【0019】
【発明の効果】本発明マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して、8℃~30℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して発色-消色の可逆的変色を生起させ、変色温度より低温側の色と高温側の色の両方を常温域で互変的に記憶保持でき、必要に応じて熱又は冷熱を適用することにより、いずれかの色を可逆的に再現させて記憶保持できる特性を効果的に発現させることができる。しかも、前記熱変色特性が炭素数が奇数の脂肪族一価アルコールと偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステルを呈色反応の反応媒体として適用することにより構成できるので実用性を満足させることができる。本発明のマイクロカプセル顔料は、塗料或いは印刷インキとして、多様な塗装乃至印刷物への適用や、該顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態の賦形物として適用される。」
g 上記bの【0005】及び図1より、温度変化による色濃度の変化は、色濃度-温度曲線上の完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点、完全呈色状態を保持できる最高温度T3における濃度を示すB点、完全消色状態に達する最低温度T4における濃度を示すA点、完全消色状態を保持できる最低温度T2における濃度を示すC点、完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点の順に進行することが認められる。
(イ)甲第2号証に記載された発明
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「(イ)ジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリノキノリン類等から選択される電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)電子授受による呈色反応の反応媒体であって、前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールするエステル類の三成分を必須成分とする均質相溶体が微小カプセルに内包された感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態とした賦形物であって、
前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス幅を示して準可逆的な熱変色特性を有し、前記ヒステリシス幅は8℃乃至30℃の範囲であり、
温度変化による色濃度の変化は、色濃度-温度曲線上の完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点、完全呈色状態を保持できる最高温度T3における濃度を示すB点、完全消色状態に達する最低温度T4における濃度を示すA点、完全消色状態を保持できる最低温度T2における濃度を示すC点、完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点の順に進行し、前記温度T1が16~22℃の温度であり、前記温度T4が34~40℃の温度である、
賦形物。」
ウ 甲第1号証
(ア)甲第1号証に記載された事項
本件特許に係る出願の出願前に出願公開がされた甲第1号証(米国特許出願公開第2013/0288218号公報)には、以下の事項が記載されている。(なお、日本語訳は、特許異議申立書に添付された甲第1号証の翻訳文を参考にした。)
a 「[0001] The present invention relates generally to medical simulation systems and methods of use thereof.」
([0001] 本発明は、一般に、医療シミュレーションシステムおよびその使用方法に関する。)
b 「[0041] FIG. 10A shows a fabricated Cardiac Model 1000. The CAD drawings such as those of FIG. 3A-3D are further edited to incorporate ports for the insertion of cameras into the completed model. The model is also edited to extend the branches of the pulmonary veins for the attachment of tubing and quick disconnects to their ends. A physical, three-dimensional model is then fabricated.」
([0041] 図10Aは、製造された心臓モデル1000を示す。図3A~3DのようなCAD図面は、完成したモデルにカメラを挿入するためのポートを組み込むためにさらに編集される。モデルはまた、チューブおよびクイックディスコネクトをそれらの端部に取り付けるための肺静脈の枝を延長するように編集される。その後、物理的な3次元モデルが製作される。)
c 「[0042] In this embodiment of the model, it is fabricated from silicone with a durometer of approximately 30 in the Shore A hardness scale. The wall thickness of the model is approximately 3 mm. Greater fidelity to the actual compliance of a human heart could be achieved with a reduced wall thickness or through the use of lower-durometer silicone. The inside of the heart model is coated with a glass microbead surface, which allows for the model to be lubricious while using pure water as its pumping fluid.」
([0042] 本実施形態では、モデルは、ショアA硬度スケールで約30のデュロメータを有するシリコーンから作製される。モデルの壁の厚さは約3mmとなる。人間の心臓の実際のコンプライアンスへのより大きな忠実度は、壁の厚さを減少させるか、またはより低デュロメータのシリコーンを使用することによって達成され得る。心臓モデルの内部はガラスマイクロビーズ表面でコーティングされており、ポンプ液として純水を使用しても潤滑性を保つことができる。)
d 「[0043] In this embodiment, the silicone contains a thermochromic pigment. The pigment is binary; that is, below a certain temperature it is dark, and above a certain temperature it is not. The transition temperature for the pigment in this embodiment is approximately 10 degrees C., but response temperatures all the way down to 10 C are possible. This low-temperature threshold permits the user to observe the effectiveness of cryogenic procedures performed on the cardiac model. The pigment is mixed with the silicone prior to molding. The final percent by weight in the model is about 0.05%. More than one pigment with different transition temperatures could be mixed into the same silicone, allowing color changes at multiple temperature thresholds. A thermochromic pigment that changed color at a high temperature (50 C, for example), would allow for lesion visualization while using RF energy.」
([0043] この実施形態では、シリコーンはサーモクロミック顔料を含んでいる。顔料は二進法で、ある温度以下では暗く、ある温度以上では暗くならない。この実施形態における顔料の転移温度は約10℃だが、反応温度は-10℃まで可能である。この低温閾値は、使用者が心臓モデル上で実行される極低温処置の有効性を観察することを可能にする。顔料は、成形前にシリコンと混合される。モデルの最終的な重量パーセントは約0.05%となる。異なる転移温度を有する2つ以上の顔料を同じシリコーンに混合して、複数の温度閾値での色の変化を可能にすることができた。高温(例えば50℃)で色が変化するサーモクロミック顔料は、RFエネルギーを使用しながら病変の可視化を可能にする。)
e 「[0052] Occlusion verification can also be accomplished clinically by observing real-time pressure waveforms. Following occlusion, the cryoablation balloon is cooled to its operating temperature, and a visual indication of its effectiveness provided by the color change of the thermochromic additive.」
([0052] 閉塞の確認は、リアルタイムの圧力波形を観察することにより、臨床的にも達成することができる。閉塞後、凍結融解のバルーンはその使用温度まで冷却され、サーモクロミック添加剤の色の変化によってその有効性が視覚的に示される。)
f 「[0053] FIG. 12 depicts the use of the model to simulate an RF ablation procedure. In this example, RF ablation device 1200, such as the Medtronic Ablation Frontiers PVAC pulmonary vein ablation catheter is inserted into the model's left atrium. The RF ablation device is then pressed against the ostium of a pulmonary vein in the model, energized with RF energy. The RF energy is transmitted to the material of the model. If a thermochromic material that is responsive to high temperatures has been added to the model, the effectiveness of the RF ablation may be observed by the color change of the thermochromic material.」
([0053] 図12は、RFアブレーション手順をシミュレートするためのモデルの使用を示す。この例では、Medtronic Ablation Frontiers PVAC(登録商標)肺静脈アブレーションカテーテルなどのRFアブレーションデバイス1200がモデルの左心房に挿入される。次に、RFアブレーション装置をモデルの肺静脈の骨膜に押し当て、RFエネルギーで通電する。RFエネルギーは、モデルの材料に送信される。模型の材料に高温に反応するサーモクロミック材料を添加した場合には、サーモクロミック材料の色の変化により、RFアブレーションの効果を観察することができる。)
g 「[0054] FIG. 13 is a series of images demonstrating the response of the resilient cardiac model material containing thermochromic material to a cryoablation balloon. Image 1300 shows an inflated cryoablation balloon placed against the resilient material. In image 1302, the balloon has been cooled to its operating temperature of 50 degrees C. As the balloon cools the cardiac model material, the thermochromic material within it begins to change color, as can be observed in Image 1302. After the balloon has been held in contact with the cardiac model material for four minutes, a typical duration of an ablation of a single location in the atrium, Image 1308 shows a more widespread color change, indicating that a larger area of the cardiac model material has been cooled below the thermochromic material's temperature threshold. After the cryoablation balloon has been removed from contact with the cardiac model material, the cardiac model material returns to a temperature above the thermochromic material's color change threshold, and the color reverts to that of the cardiac model material. Image 1310 shows the reversal of the color change of the thermochromic material after the temperature of the cardiac model material has risen.」
([0054] 図13は、サーモクロミック材料を含む弾力性のある心臓モデル材料のクライオアブレーションバルーンに対する応答を示す一連の画像である。画像1300は、弾力性のある材料に対して配置された膨張したクライオアブレーションバルーンを示す。画像1302では、バルーンはその動作温度-50℃まで冷却されており、バルーンが心臓モデル材料を冷却すると、画像1302で観察されるように、その中のサーモクロミック材料が色を変え始める。心房の一箇所のアブレーションの典型的な持続時間である4分間、バルーンを心臓モデル材料と接触させた後、画像1308は、心臓モデル材料のより広い領域がサーモクロミック材料の温度閾値以下に冷却されたことを示す、より広範な色の変化を示している。クライオアブレーションバルーンが心臓モデル材料との接触から取り除かれた後、心臓モデル材料はサーモクロミック材料の色変化閾値以上の温度に戻り、色は心臓モデル材料の色に戻る。画像1310は、心臓モデル材料の温度が上昇した後のサーモクロミック材料の色変化の反転を示している。)
(イ)甲第1号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「サーモクロミック顔料を含み、シリコーンから作製される心臓モデル1000において、当該サーモクロミック顔料の色の変化により、RFアブレーションデバイス1200によるRFアブレーションの効果が観察できる心臓モデル1000。」
エ 甲第3号証
(ア)甲第3号証に記載された事項
本件特許に係る出願の出願前に出願公開がされた甲第3号証(特開2013-332公報)には、以下の事項が記載されている。
a 「【0008】
上記構成とすることにより、乳房外層部は、所定色の顔料と、所定色から所定色へと温度によって色変化する示温塗料と、所定色のファイバーによる三種類の色要素によって所定色の合成色で発色できるため、合成色のバリエーションが増え、着用者の肌色に対する乳房近似色の再現性を高めることや、着用者の幅広いニーズにも対応可能とする人工乳房を提供できる。また、乳房外層部を、常温時には着用者の肌色に近似する乳房近似色に発色させ、入浴時のように常温より高い温度にさらされている状態では、示温塗料は消色されて例えば白色となるが、顔料とファイバー(例えば、ファイバーが赤色)の二種類による合成色の色となり、そのため示温塗料が白色に変色してもその白色による影響を小さくすることができ、不自然にピンク色ぽっくならず、乳房近似色が赤みを増したときの自然な色となり、乳房外層部に自然な色変化を与えることができ、着用時での周囲環境の温度変化時(例えば、通常時から入浴時での温度変化)でも安心して着用できることとなる。」
b 「【0016】
図1~図4において、人工乳房1は乳がん等において乳房を切除した後の胸部における乳房欠損個所100(図6参照)を補うように、又は膨らみが不充分な胸部を補うように医療用材料である粘着剤301(図9)を介して装着するものであり、軟質樹脂(例えばシリコーンゴム)で形成され、かつ、図4に示すように着色された袋状部2と、その袋状部2の内部に封入されたジェル材3(例えばシリコーンゲル)とを備えている。なお、乳首部1cは別体成形したものを接着したり、一体成形することも可能である。
【0017】
袋状部2は乳房欠損個所100に装着するために、所定の厚みで成形した基層部2aと、表面の凸曲面が乳房近似形態で形成され、かつ、所定の厚みで成形した乳房外層部2bとから構成される。」
c 「【0021】
人工乳房1の乳房外層部2bを成形する素材の軟質樹脂には、当該軟質樹脂を着色するための一般的な着色剤(非熱変色性)としての所定色の顔料が使用される。
【0022】
また、乳房外層部2bの着色には、示温塗料が併用される。この示温塗料として、感温変色性色彩記憶性組成物や、それを内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料が使用される。
【0023】
この示温塗料は、温度変化により大きなヒステリシス特性を示して発色-消色(白色)の可逆的変色を呈し、変色に要した熱又は冷熱の適用を取り去った後にあっても、発色状態と消色状態のいずれかを互変的、かつ、可逆的に保持するものである。」
d 「【0029】
図8は合成色の温度による変化を示す変色模式図である。この図のようにその合成色としては、着用者の残存する乳房200の皮膚色に近似させるものであり、着用者の生活状態において、着用者の皮膚色の肌色が赤みを増すようになるといわれている、例えば入浴時の温度(38℃~43℃程度)よりも低い周囲環境での生活状態を基準(皮膚温度の理想としての理想温度32℃~34℃)として、その生活環境温度で呈する合成色を乳房近似色としている。」
e 「【0035】
また、示温塗料としてのマイクロカプセル顔料は、その平均粒子径として0.5~50μm、好ましくは1~30μm、より好ましくは、1~20μmの範囲がよい。このマイクロカプセル顔料は、最大外径の平均値が、50μmを越えると、軟質樹脂中への混合に際して、分散安定性が欠け、均一化しにくくなる。一方、最大外径の平均値が0.5μm以下では、高濃度の発色性を示し難くなる。
【0036】
この示温塗料の例として、「記録素材総合研究所社製:サーマルカラー ORシリーズ」、「パイロットインキ社製:メタモカラー」などを挙げることができる。」
f 「【0043】
成形におけるシリコーンゴムには、乳房近似色を生じるために、顔料としては少なくとも赤色の顔料と白色の顔料とを含み、また、示温塗料は常温(生活基準環境での周囲温度20℃~30℃)での発色は黄色であって、この常温(生活基準環境での周囲温度)より高い温度において黄色が消色して白色に近づくものである。また、ファイバー4は、少なくとも赤色に着色されるものである。」
(イ)甲第3号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲第3号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「袋状部2を備える人工乳房1であって、
袋状部2は基層部2aと乳房外層部2bとから構成され、
乳房外層部2bを成形する素材の軟質樹脂には、当該軟質樹脂を着色するための一般的な着色剤(非熱変色性)としての所定色の顔料が使用され、乳房外層部2bの着色には、示温塗料が併用され、
入浴時の温度(38℃~43℃程度)よりも低い周囲環境での生活状態を基準(皮膚温度の理想としての理想温度32℃~34℃)として、その生活環境温度で呈する合成色を乳房近似色とし、
示温塗料は、温度変化により大きなヒステリシス特性を示して発色-消色(白色)の可逆的変色を呈し、変色に要した熱又は冷熱の適用を取り去った後にあっても、発色状態と消色状態のいずれかを互変的、かつ、可逆的に保持し、示温塗料の例として、「記録素材総合研究所社製:サーマルカラー ORシリーズ」、「パイロットインキ社製:メタモカラー」などを挙げることができ、示温塗料は常温(生活基準環境での周囲温度20℃~30℃)での発色は黄色であって、この常温(生活基準環境での周囲温度)より高い温度において黄色が消色して白色に近づくものである、
人工乳房1。」
オ 甲第4号証
(ア)甲第4号証に記載された事項
本件特許に係る出願の出願前に出願公開がされた甲第4号証(特開2016-121344号公報)には、以下の事項が記載されている。
a 「【0001】
本発明は、固形筆記体に関する。更には、可逆熱変色性を有する筆跡を形成することが可能な固形筆記体とそれを用いた固形筆記体セットに関する。」
b 「【0006】
本発明は、前述の利便性の高い固形筆記体による筆跡の装飾効果を高めるものであって、筆跡に光輝性を付与することができるとともに、加熱消色時には光輝感を残すことなく確実に筆跡を消すことができる装飾効果の高い固形筆記体を提供するものである。
更に、前記光輝性を有する固形筆記体において生じ易い変色特性不良を抑制できる技術を提供するものである。」
c 「【0007】
本発明による固形筆記体は、少なくとも(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、透明性金属光沢顔料と、賦形材と、フィラーと、バインダー樹脂とを含んでなることを要件とする。
更に、前記透明性金属光沢顔料が、天然雲母、合成雲母、ガラス、酸化アルミニウム、タルクから選ばれる材料を芯物質とし、前記芯物質を金属酸化物で被覆した顔料であること、前記透明性金属光沢顔料の粒子径が、10~500μmの範囲にあること、前記透明性金属光沢顔料の添加量が、5~50質量%であること、前記透明性金属光沢顔料と可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の配合比率が、1:1~5:1であることを要件とする。
更に、前記バインダー樹脂とは別にスチレン系樹脂を添加してなること、前記スチレン系樹脂が、スチレンアクリル樹脂であること、前記スチレン系樹脂の添加量が、0.1~10質量%であることを要件とする。
更に、前記いずれかに記載の固形筆記体を内芯とし、前記内芯の外周面を被覆する外殻を具備してなることを要件とする。
更には、前記いずれかに記載の固形筆記体と、摩擦体とからなる固形筆記体セットを要件とする。」
d「【0012】
本発明による固形筆記体で筆記した際の筆跡の変色挙動について、加熱消色型を例に、図1と共に説明する。図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t4(以下、完全消色温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t3(以下、消色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t2(以下、発色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t1(以下、完全発色温度ということがある)における濃度を示す点である。変色温度域は前記t1とt4間の温度域であり、発色状態と消色状態の両状態が共存でき、t2とt3の間の温度域において完全発色状態と完全消色状態を選択的に呈することができる温度域となる。また、線分EFの長さが変色の割合を示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ΔHと言うことがある)である。本発明において、このΔH値を有することで、一定の温度域で第1の発色状態と第2の発色状態が選択的に保持されるヒステリシス特性を示すこととなる。」
e 「【0088】
(マイクロカプセル顔料Aの製造)
(イ)成分として2-(2-クロロアニリノ)-6-ジ-n-ブチルアミノフルオラン5質量部、(ロ)成分として2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5質量部、4,4’-(2-メチルプロピリデン)ビスフェノール3.0質量部、(ハ)成分としてラウリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50質量部からなるからなる可逆熱変色性組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0質量部、助溶剤40.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に攪拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル懸濁液を得た。前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセルを単離した。なお、前記マイクロカプセルの平均粒子径は2.3μmであり、t1:-8℃、t2:-1℃、t3:52℃、t4:65℃のヒステリシス特性を有する挙動を示し、黒色から無色、無色から黒色へ可逆的に色変化した。
【0089】
(マイクロカプセル顔料Bの製造)
(イ)成分として9-エチル(3-メチルブチル)アミノ-スピロ[12H-ベンゾ(α)キサンテン-12,1′(3′H)-イソベンゾフラン]-3′-オン5.0質量部、(ロ)成分として4,4′-(2-エチルヘキサン-1、1-ジイル)ジフェノール3.0質量部、2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部からなる感温変色性色彩記憶組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0質量部、助溶剤40.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に攪拌を続けて熱変色マイクロカプセル懸濁液を得た。前記懸濁液を遠心分離して熱変色マイクロカプセルを単離した。
尚、前記マイクロカプセルの平均粒子径は2.3μmであり、t1:-20℃、t2:-10℃、t3:48℃、t4:58℃のヒステリシス特性を有する挙動を示し、ピンク色から無色、無色からピンク色へ可逆的に色変化した。
【0090】
(マイクロカプセル顔料Cの製造)
(イ)成分として3-(4-ジエチルアミノ-2-ヘキシルオキシフェニル)-3-(1)-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド2.0質量部、(ロ)成分として1,1-ビス(4‘-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン4.0質量部、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-デカン4.0質量部、(ハ)成分としてカプリル酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル(融点57℃)50.0質量部からなる感温変色性色彩記憶組成物とした以外は、マイクロカプセル顔料Aと同じ方法で、マイクロカプセル顔料を得た。尚、前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は3.0μmであり、t1:-24℃、t2:-10℃、t3:42℃、t4:55℃のヒステリシス特性を有する挙動を示し、青色から無色、無色から青色へ可逆的に色変化した。」
(イ)甲第4号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲第4号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料において、
完全発色温度t1、発色開始温度t2、消色開始温度t3、完全消色温度t4とした際に、t1:-8℃、t2:-1℃、t3:52℃、t4:65℃のヒステリシス特性を有する挙動、t1:-20℃、t2:-10℃、t3:48℃、t4:58℃のヒステリシス特性を有する挙動、または、t1:-24℃、t2:-10℃、t3:42℃、t4:55℃のヒステリシス特性を有する挙動を示す、
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料。」
(2)参考文献発明を主引用発明とする場合
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と参考文献発明とを対比する。
a 参考文献発明の「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物」、「(ロ)電子受容性化合物」は、それぞれ、本件訂正発明1の「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物」、「(ロ)電子受容性化合物」に相当する。
b 参考文献発明の「(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物」は、「電子授受による呈色反応の反応媒体として配合(段落【0013】参照)」されるものであり、「熱変色挙動を繰り返し再現(段落【0013】参照)」させるものである。
さらに、参考文献発明の「(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物」には、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0012】ないし【0014】に記載される物質と共通するものが用いられ、参考文献発明の実施例12で用いられる「n-ラウロフェノン」についても、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0014】に記載されていることから、本件訂正発明1の「(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体」に相当する。
c 参考文献発明の「ヒステリシス幅」は、本件訂正発明1の「ヒステリシス特性」に相当する。
d 参考文献発明の「完全呈色状態における色相」は、本件訂正発明1の「第1色相」に相当する。
e 参考文献発明の「完全消色状態における色相」は、本件訂正発明1の「第2色相」に相当する。
f 上記c乃至eで認定した参考文献発明と本件訂正発明1との相当関係を踏まえれば、参考文献発明の「前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関して40℃のヒステリシス幅を示して完全呈色状態における色相と完全消色状態における色相間の可逆的な熱変色特性を有し、温度変化による色濃度の変化は、完全呈色状態にあって温度が上昇する過程では、温度T3に達すると、完全呈色状態における色相は変色し始め、温度T3より高い温度T4以上の温度域で完全に完全消色状態における色相となり、完全消色状態にあって温度が下降する過程では、温度T2に達すると、完全消色状態における色相は変色し始め、温度T2より低い温度T1以下の温度域で完全に完全呈色状態における色相となり、前記温度T2と温度T3の間の温度域で完全呈色状態における色相或いは完全消色状態における色相が保持されるヒステリシス特性を示し温度T3以上、温度T4未満に温度が上昇して降温する過程で完全呈色状態における色相に戻」ることは、温度t4範囲が相違するものの、本件訂正発明1の「前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下であって、第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示」すことに相当する。
g 参考文献発明の「賦形物」は、熱可塑性樹脂に感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を溶融ブレンドして諸種の形態としたものであるところ、本件訂正発明1の「臓器代用樹脂成形物」と参考文献発明の「賦形物」とは、「感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有する樹脂成形物」である限りにおいて共通する。
h 上記aないしgによれば、本件訂正発明1と参考文献発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1-1A、1-2Aで相違する。
<一致点>
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下であって、第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示す樹脂成形物。」
<相違点1-1A>
本件訂正発明1は、「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」であるのに対し、参考文献発明は、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態とした賦形物であるものの、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物ではない点。
<相違点1-2A>
本件訂正発明1は、「前記温度t4が50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料であるのに対し、参考文献発明は、T4は46℃の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である点。
(イ)相違点の判断
事案に鑑み相違点1-1A、1-2Aをまとめて判断をする。
a 上記2(1)イ(イ)のとおり、引用発明も、T4の値に関して明示的な構成を有しておらず、甲第2号証には、適用例1として「暗記シートは常態では和英両単語を視覚させており、33℃以上の加熱により、英単語はいずれも消色して不可視状態となる」(【0016】)と記載され、適用例2として「得られた金魚は25~35℃において橙色を視覚させており、40℃以上の湯中において黄色の金魚に変色する」(【0017】)と記載され、適用例3として「34℃以上の加熱により、白色となる。この状態は約25℃の室温下で保持される」、「室温下で黒色状態にある前記記録紙上を加熱ペン(45℃)で筆記すると白色の筆跡が視覚された」(【0018】)と記載されているものの、いずれの適用例においても、本件訂正発明1のような医療行為におけるシミュレーションの用途は記載されておらず、示唆もされていない。
このため、参考文献発明に引用発明を適用しても、上記相違点1-2Aの構成には至らない。
b さらに、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、甲第4号証に記載された技術的事項も、それぞれ、上記2(1)ウ(イ)、上記2(1)エ(イ)、上記2(1)オ(イ)のとおりであって、いずれも、「前記温度t4が50~79℃の温度である」との構成を有していない。
このため、参考文献発明に甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点1-2Aの構成には至らない。
c また、上記相違点1-1A、1-2Aの構成について、本件訂正発明1は、本件明細書の段落【0006】において、「本発明は、医療機器による臓器の加温部位を明瞭且つ永続的に確認することができ、医療行為におけるシミュレーションを十分に行うことが可能な利便性の高い臓器代用樹脂成形物を提供することができる」と記載されているとおり、医療機器による臓器の加温部位を明瞭且つ永続的に確認することができ、医療行為におけるシミュレーションを十分に行うことが可能な利便性の高い臓器代用樹脂成形物を提供することを目的としている。そして、完全消色温(t4)について、本件特許明細書には、次の事項が記載されている。
d 「【0009】
・・・
更に、前記温度t4が体温を超える温度であることにより、より現実的なシミュレーションを行うことができる。
なお、前記温度t2は、感温変色性色彩記憶性組成物が発色しない常温域未満の5℃以下の温度であり、温度t4は、常温を超え、且つ、臓器に対する加温温度以下である40℃以上の温度である。
ここで、何故温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する加温温度以下の温度であり、且つ、温度t2が常温未満の温度であるかを説明すると、発色状態から消色開始温度(t3)を経て完全消色温度(t4)に達しない状態で加温を止めると、再び第一の状態に復する現象を生じること、及び、消色状態から発色開始温度(t2)を経て完全発色温度(t1)に達しない状態で冷却を中止しても発色を生じた状態が維持されることから、完全消色温度(t4)が常温を超え、且つ、臓器に対する加温温度以下の温度であれば、発色状態は加温前の通常の使用状態において維持されることになり、発色開始温度(t2)が常温域を下回る温度であれば消色状態は加温後の通常の使用において維持される。
よって、前記温度設定は感温変色性色彩記憶性組成物の加温部位が変色した状態を択一的に視認させるためには重要な要件であり、利便性と実用性を満足させることができる。
前述の完全消色温度(t4)の温度設定において、発色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより高い温度であることが好ましい。
よって、完全消色温度(t4)は、好ましくは50~100℃、より好ましくは50~80℃である。
前記完全消色温度(t4)は、臓器代用樹脂成形物の実用に適した温度に設定することにより、より好適なシミュレーションを行うことができる。
・・・」
d このように、本件訂正発明1においては、医療行為におけるシミュレーションを十分に行うという技術的課題の見地から、完全消色温(t4)が体温(概ね40℃)を超え、かつ臓器に対する加温温度の中から適切な温度帯を選択する必要があり、本件訂正発明1における「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」、「前記温度t4が50~79℃の温度である」との構成は、課題解決手段として重要な意味を有する。
e このため、上記相違点1-1A、1-2Aの構成は、設計的事項であるともいえない。
g このように、上記相違点1-2Aの構成は、参考文献発明、引用発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができないことから、参考文献、甲第1号証~甲第4号証のいずれにも、上記cのとおりの医療行為におけるシミュレーションを十分に行うという技術的課題は考慮されていないことは明らかである。このため、上記相違点1-1Aの構成も、参考文献発明、引用発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものでないことは明らかである。
h そして、本件訂正発明1は、相違点1-1A、1-2Aの構成を有することで、「医療機器による臓器の加温部位を明瞭に確認することができ、医療行為におけるシミュレーションを十分に行うことが可能な利便性の高い臓器代用樹脂成形物を提供することができる」(【0006】)との格別顕著な作用効果を奏するものである。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、参考文献発明、引用発明、甲第1号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2について
(ア)本件訂正発明2は、「温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって」との限定を除き、本件訂正発明1と実質的に同じである。
そして、本件訂正発明2の「常温」とは、本件特許明細書の「前記常温域は、JIS Z 8703に記載されている5~35℃の範囲であることが好ましく」(【0009】)との記載を参照すると、参考文献発明の「T2」が「4℃」であることは、本件訂正発明2の「温度t2が常温未満の温度」であることに相当する。
そうすると、本件訂正発明2と参考文献発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点2-1A、2-2Aで相違する。
<一致点>
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなる樹脂成形物であって、前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下の大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である、樹脂成形物。」
<相違点2-1A>
本件訂正発明2は、「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」であるのに対し、参考文献発明は、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態とした賦形物であるものの、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物ではない点。
<相違点2-2A>
本件訂正発明2は、「前記温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料であるのに対し、参考文献発明は、T4は常温を超える46℃の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料であるものの、「臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度」ではない点。
(イ)相違点の判断
上記相違点2-1Aは上記相違点1-1Aと同じであり、上記相違点2-2Aは上記相違点1-2Aを含むものである。
そうすると、当該相違点2-1A、2-2Aは、上記ア(イ)と同様の理由で、参考文献発明、引用発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものでないことは明らかである。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明2は、参考文献発明、引用発明、甲第1号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明4、6について
本件訂正発明4、6は、本件訂正発明2を引用する発明であって、本件訂正発明2の、「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料が「前記温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度である」と同一の構成を備えるものである。このため、本件訂正発明2、4、6は、いずれも、参考文献発明、引用発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)引用発明を主引用発明とする場合
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
a 引用発明の「(イ)ジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリノキノリン類等から選択される電子供与性呈色性有機化合物」、「(ロ)電子受容性化合物」は、それぞれ、本件訂正発明1の「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物」、「(ロ)電子受容性化合物」に相当する。
b 引用発明の「前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールするエステル類」は、(イ)及び(ロ)の電子授受による呈色反応をコントロールする反応媒体であって、これにより、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料が、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス幅を示して準可逆的な熱変色特性を有するものとなるところ、引用発明の「前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールするエステル類」は、本件訂正発明1の「(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体」に相当する。
c 引用発明の「感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料」は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス幅を示して準可逆的な熱変色特性を有し、前記ヒステリシス幅は8℃乃至30℃の範囲であり、温度変化による色濃度の変化は、色濃度-温度曲線上の完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点、完全呈色状態を保持できる最高温度T3における濃度を示すB点、完全消色状態に達する最低温度T4における濃度を示すA点、完全消色状態を保持できる最低温度T2における濃度を示すC点、完全呈色状態に達する最高温度T1における濃度を示すD点の順に進行するものである。
そして、引用発明の「感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料」が、温度T3上、温度T4未満に温度が上昇して降温する過程で、呈色状態に戻る変色挙動を示すことは、技術常識から見て明らかである。(必要であれば、上記技術常識を示す文献として、例えば、特開昭62-156355号公報の第2頁右上欄第16行~左下欄第7行、特開昭62-138556号公報の第2頁右上欄第7行~第18行、特開昭62-138568号公報の第2頁右上欄第14行~左下欄第5行を参照。)
してみれば、引用発明の「(イ)ジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリノキノリン類等から選択される電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)電子授受による呈色反応の反応媒体であって、前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールするエステル類の三成分を必須成分とする均質相溶体が微小カプセルに内包された感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料」は、本件訂正発明1の「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関して」「第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示」すことに相当する。
d 引用発明の「賦形物」は、熱可塑性樹脂に感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を溶融ブレンドして諸種の形態としたものであるところ、本件訂正発明1の「臓器代用樹脂成形物」と引用発明の「賦形物」とは、「感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有する樹脂成形物」である限りにおいて共通する。
e 上記aないしdによれば、本件訂正発明1と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1-1B~1-3Bで相違する。
<一致点>
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなり、前記感温変色性色彩記憶性組成物は、色濃度-温度曲線に関して、第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示す感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有する樹脂成形物」
<相違点1-1B>
本件訂正発明1は、色濃度-温度曲線に関してヒステリシス特性が「ΔH:39℃以上79℃以下」であるのに対し、引用発明は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性が「8℃乃至30℃の範囲」である点。
<相違点1-2B>
本件訂正発明1は、「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」であるのに対し、引用発明は、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態とした賦形物であるものの、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物ではない点。
<相違点1-3B>
本件訂正発明1は、「前記温度t4が50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料であるのに対し、引用発明は、T4は34~40℃の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-2B、1-3Bから検討を行う、上記相違点1-2Bは上記相違点1-1Aと同じであり、上記相違点1-3Bは上記相違点1-2Aと実質的に同じである。
そうすると、当該相違点1-2B、1-3Bは、上記(2)ア(イ)と同様の理由で、引用発明に、参考文献発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。(ウ)よって、本件訂正発明1は、上記相違点1-1Bを検討するまでもなく、引用発明、参考文献発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2について
(ア)本件訂正発明2は、「温度t2が常温未満の温度であり、温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって」との限定を除き、本件訂正発明1と実質的に同じである。
そして、本件訂正発明2の「常温」とは、本件特許明細書の「前記常温域は、JIS Z 8703に記載されている5~35℃の範囲であることが好ましく」(【0009】)と記載されており、引用発明のT2はT1(16~22℃)とT4(34~40℃)間にある温度であるから、引用発明の当該「T2」の温度は、本件訂正発明2の「温度t2が常温未満の温度」であることに相当する。
そうすると、本件訂正発明2と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点2-1B~2-3Bで相違する。
<一致点>
「(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類から選ばれる化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を成形物中に含有してなる樹脂成形物であって、前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は、色濃度-温度曲線に関してΔH:39℃以上79℃以下の大きなヒステリシス特性を示して第1色相と第2色相間の互変性を呈し、第1色相にあって温度が上昇する過程では、温度t3に達すると、第1色相は変色し始め、温度t3より高い温度t4以上の温度域で完全に第2色相となり、第2色相状態にあって温度が下降する過程では、温度t2に達すると、第2色相は変色し始め、温度t2より低い温度t1以下の温度域で完全に第1色相となり、前記温度t2と温度t3の間の温度域で第1色相或いは第2色相が保持されるヒステリシス特性を示し、温度t2が常温未満の温度である感温変色性色彩記憶性組成物を内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である、樹脂成形物。」
<相違点2-1B>
本件訂正発明2は、色濃度-温度曲線に関してヒステリシス特性が「ΔH:39℃以上79℃以下」であるのに対し、引用発明は、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性が「8℃乃至30℃の範囲」である点。
<相違点2-2B>
本件訂正発明2は、「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」であるのに対し、引用発明は、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態とした賦形物であるものの、臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物ではない点。
<相違点2-3B>
本件訂正発明2は、「前記温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料であるのに対し、引用発明は、T4は常温を含む34~40℃の感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料である点。
(イ)相違点の判断
上記相違点2-2Bは上記相違点1-2Bと同じであり、上記相違点2-3Bは上記相違点1-3Bを含むものである。
そうすると、当該相違点相違点2-2B、2-3Bは、上記ア(イ)と同様の理由で、引用発明、参考文献発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項、及び、甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものでないことは明らかである。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明2は、引用発明、参考文献発明、甲第1号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件訂正発明4、6について
本件訂正発明4、6は、本件訂正発明2を引用する発明であって、本件訂正発明2の、「臓器の形状を模してなる医療機器による加温を確認する臓器代用樹脂成形物」、感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料が「前記温度t4が常温を超え、且つ、臓器に対する焼灼温度以下の温度であって、50~79℃の温度である」と同一の構成を備えるものである。このため、本件訂正発明2、4、6は、いずれも、引用発明、参考文献発明、甲第1号証に記載された技術的事項、甲第3号証に記載された技術的事項及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人による令和5年9月15日提出の意見書でする主張について
申立人は、令和5年9月15日提出した意見書で、新たに参考文献2を提示して、本件訂正発明1、2、4、6は、参考文献2に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項にもとづいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
しかしながら、申立人の上記主張は、特許異議申立書で主張する理由とは無関係の、特許異議申立期間満了後にする新たな理由であるから、時機に遅れたものである。
よって、申立人の上記主張は失当である。
第6 取消理由で採用しなかった申立人の取消理由について
申立人は、特許異議申立書で、甲第1号証又は甲第3号証を主引用発明とすることで、本件特許発明1~6の進歩性が否定される旨主張する(特許異議申立書24~30頁、37~44頁)。
しかしながら、上記「第5」2(2)ア(イ)、同(3)ア(イ)のとおり、甲第1号証、甲第3号証のどちらにも、本件訂正発明1、2の「前記温度t4」が「50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料(相違点2A又は相違点3B)は記載されておらず、甲第2号証、甲第4号証、参考文献のいずれにも、本件訂正発明1、2の「前記温度t4」が「50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は記載されていない。
このため、甲第1号証又は甲第3号証のどちらかを主引用発明にして、甲第3号証又は甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、参考文献に記載された技術的事項を適用しても、本件訂正発明1、2の「前記温度t4」が「50~79℃の温度である」感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料との構成に至らないことは明らかである。
よって、申立人の上記主張に理由はない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを認める。
また、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、6に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、本件訂正前請求項3及び5は、上記のとおり削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3及び5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、上記の結論のとおり決定する。
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2021-700252