2021-018151
組織形成誘導用化合物及びその使用
- 審判番号
- 2021-018151
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-529726外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年12月28日
- 審決日
- 2023年11月07日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヒスタイド アクツィエンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】弁理士法人WisePlus
- 分類
- P18 .537-WZ (C07K) / P18 .536-WZ (C07K) / P18 .113-WZ (C07K) / P18 .121-WZ (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、平成28年8月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年8月25日 (US)米国、2015年12月23日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年8月30日付けで拒絶査定がなされ、令和3年12月28日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和 4年 2月15日 補正書(審判請求書の理由の補正)の提出
令和 5年 3月 7日付け 拒絶理由通知書
令和 5年 9月13日 意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~13に係る発明は、令和5年9月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】20~60個のアミノ酸を有するペプチドであって、下記一般式(I):PEP(A)-LINKER-PEP(B) (I)(式中、LINKERの一端は、PEP(A)の一端と共有結合的に相互作用する。LINKERの他端は、PEP(B)の一端と共有結合的に相互作用する。PEP(A)は、4個のアミノ酸を有するペプチドであるPEP1、および3個のアミノ酸を有するペプチドであるPEP3を含む。PEP(B)は、5個のアミノ酸を有するペプチドであるPEP2、および3個のアミノ酸を有するペプチドであるPEP4を含む。LINKERは、分子量が28~2,000Daである直鎖状又は分枝状の2価の有機基、部分又は化合物である。)で表され、前記PEP1は、SAIS、SSLS、NAIS、SATS、SPIS、EPIS、SPIN、KPLS、EPLP、EPLT、SNIT、RSVK、及びRPVQからなる群より選択され、前記PEP2は、LKNYQ、LKVYP、LKKYR、LRKHR、LKYHY、KFKYE、YGKIP、YKQYE、DHHKD、EQLSN、IGEMS、LGEMS、KEVQV、及びKKATVからなる群より選択され、前記PEP3は、VPT、VPE、APT、TPT、VPA、APV、VPQ、VSQ、SRV、及びTQVからなる群より選択され、前記PEP4は、VVE、TVE、VVR、VVK、VAE、AVS、VVD、VEE、VRS、VKS、QHN、EHS、EEH、及びEDHからなる群より選択され、配列番号1~11、配列番号13、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号29、配列番号31~34、配列番号36、配列番号37、配列番号40、配列番号43、配列番号44、配列番号49、配列番号50、配列番号53、配列番号54、配列番号56、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号65~70、配列番号72、配列番号73、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号80~1073、配列番号1146、配列番号1369、配列番号1371、配列番号1405、配列番号1407、配列番号1475、配列番号1477、配列番号1655、配列番号1869、配列番号1871、配列番号1901、配列番号1903、配列番号1962、配列番号1964、配列番号1994、配列番号1996、配列番号2122、配列番号2147~2157、配列番号2177、配列番号2180、配列番号2181、配列番号2182、配列番号2190、配列番号2198、配列番号2211~2223、配列番号2226~2268、配列番号6181~9776、配列番号13573~17046、配列番号18703~20150、配列番号21807~23254、配列番号27320~31198、配列番号32301~33354、配列番号34457~35510、配列番号38499~41268、配列番号42280~43242、配列番号44795~46297、配列番号46304、配列番号46381、配列番号46512、配列番号46566、配列番号46704、配列番号46763、配列番号46779、配列番号47121、配列番号47170、配列番号47346、配列番号47368、配列番号47582、配列番号47583、配列番号47793、配列番号47797、配列番号48178、配列番号48187、配列番号48707、配列番号49048、配列番号49056、配列番号49195、配列番号49243、配列番号49281、配列番号49331、配列番号49335、配列番号49339、配列番号49398、配列番号49406、配列番号49576、配列番号49776、配列番号49912、配列番号49917、配列番号49977、配列番号50331、配列番号50379、配列番号50836、配列番号50838、配列番号51237、配列番号51312、配列番号51337、配列番号51354~56129、配列番号57234~58199、配列番号65208~74112、配列番号79046~81604、配列番号81611、配列番号81683、配列番号81817、配列番号81823、配列番号81831、配列番号81832、配列番号81839、配列番号81848、配列番号81898、配列番号81899、配列番号81977、配列番号82037、配列番号82052、配列番号82080、配列番号82104、配列番号82117、配列番号82119、配列番号82121、配列番号82123、配列番号82171、配列番号82178、配列番号82227、配列番号82234、配列番号82328、配列番号82354、配列番号82357、配列番号82465、配列番号82523、配列番号82562、配列番号82669、配列番号82697、配列番号82706、配列番号82713、配列番号82772、配列番号82785、配列番号82789、配列番号82865、配列番号82896、配列番号82899、配列番号82904、および配列番号82913~84108で表されるペプチドのいずれか1種を含む、ペプチド。」
第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審が通知した令和5年3月7日付け拒絶理由通知書は、以下の拒絶理由を含むものである。以下では、その概要を示す。
理由2(サポート要件)
請求項1に係る発明の解決しようとする課題は、請求項1及び本願明細書の段落【0001】の記載からみて、成長因子受容体結合能を有し、組織形成を誘導する、医療的方法に使用するためのペプチドの提供であると認められる。
本願明細書の記載からでは、本願の出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の実施例で使用された特定のペプチドが、実施例に示された生理活性に関係するなんらかの成長因子受容体に結合することがあったとしても、実施例で使用されたペプチド以外にも多種多様な広範なペプチドを包含する、一般式(I)の構造とパラメータにより特定されるペプチドが、おしなべて「成長因子受容体」の用語に包含される受容体に結合能を有すること、すなわち、上記の課題を解決できることを、当業者が認識し得るとは認められない。
よって、請求項1に係る発明は、サポート要件に適合するものではないから、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願明細書等の記載
願書に添付した明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。)。
本a
「【0001】本発明は、組織形成誘導用化合物、該化合物を含む生体材料及び医療機器、医療的方法に使用するための該化合物、並びに非医療的方法における該化合物の使用に関する。」
本b
「【0129】すなわち、RMSDは、重ねたポリペプチド又はペプチド模倣体の原子(通常は骨格原子)間の平均距離の尺度である。球状タンパク質立体構造の研究においては、習慣的に、剛体の重ね合わせを最適化してから、Cα原子座標のRMSDによって3次元構造の類似性を測定している。【0130】具体的に選択した参照構造(以下、「PEPREF」ともいう)に対する所定のペプチド又はペプチド模倣体のRMSDは、当業者に周知の各種方法によって算出できる。だが、本開示の目的のため、及び疑義を回避するため、本開示で使用する所定のペプチド又はペプチド模倣体のRMSDは、以下の手順で正確に得られる。続きを表示(全19行)【0131】(STEP1)・・・【0141】(STEP2)・・・【0143】PEPREFの3D構造座標本明細書中、別段の指示がない限り又は文脈に矛盾しない限り、PEPREFの3D構造座標は以下の通りである。【0144】【表1-1】・・・【0150】【表1-7】・・・」
本c
「【0159】成長因子受容体本明細書中、別段の指示がない限り又は文脈に矛盾しない限り、「成長因子受容体」及び「GFR」という用語は、細胞成長、増殖、治癒、及び細胞分化等を刺激できる天然物質である成長因子に結合する受容体である。本発明の実施形態を実施するために好適な成長因子受容体としては、上皮成長因子受容体(EGFR)、繊維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、血管内皮細胞成長因子受容体(VEGFR)、神経成長因子受容体(NGFR)、インスリン受容体ファミリー、Trk受容体ファミリー、Eph受容体ファミリー、AXL受容体ファミリー、LTK受容体ファミリー、TIE受容体ファミリー、ROR受容体ファミリー、DDR受容体ファミリー、RET受容体ファミリー、KLG受容体ファミリー、RYK受容体ファミリー、MuSK受容体ファミリー、肝細胞成長因子受容体(HGFR)、ソマトメジン又はインスリン様成長因子受容体(SGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-6)スーパーファミリータンパク質(AMH、ARTN、BMP10、BMP15、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、GDF1、GDF10、GDF11、GDF15、GDF2、GDF3、GDF3A、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDNF、INHA、INHBA、INHBB、INHBC、INHBE、LEFTY1、LEFTY2、MSTN、NODAL、NRTN、PSPN、TGFB1、TGFB2、及びTGFB3等)、並びにこれらの組み合わせ等が挙げられる。」
本d
「【0217】一態様において、本開示はGFR結合化合物を提供し、上記GFR結合化合物は、20~60個(特に20~50個、より具体的には20~45個)のアミノ酸を有し、下記一般式(I):PEP(A)-LINKER-PEP(B) (I)(式中、LINKERの一端は、PEP(A)の一端と共有結合的に相互作用する。LINKERの他端は、PEP(B)の一端と共有結合的に相互作用する。PEP(A)はPEP1を含む。PEP(B)はPEP2を含む。LINKERは、分子量(Mw)が約28~約2,000Da、特に約300~約1000Daである直鎖状又は分枝状の2価の有機基、部分又は化合物である。)で表され、RMSDが2.45Å以下である本明細書で定義されるペプチド、その変異体若しくは類似体、又はペプチド模倣体である(以下、化合物(I)又はペプチド(I)ともいう)。・・・【0220】一態様において、本開示は、一般式(I)(式中、PEP(A)はPEP1を含む。PEP(B)はPEP2を含む。PEP(A)はPEP3を更に含む。PEP(B)はPEP4を更に含む。)で表され、RMSDが2.45Å以下であるGFR結合化合物を提供する。・・・【0331】具体的な一例示において、上記GFR結合化合物は、配列番号1~2157及び2242~84108のペプチドのうちのいずれか1つ又は複数であってもよい。」
本e
「【1194】(実施例4:前駆体骨細胞の増殖)本明細書に記載した本発明のGFR結合化合物(配列番号9~14)の骨芽前駆細胞(MC3T3-E1細胞、ATCC(登録商標))の増殖に対する効果を調査した。・・・これらのデータを分析したところ、本明細書に記載した本発明のGFR結合化合物で共有結合的に修飾したアパタイトセラミックでは、従来の非修飾セラミックと比較して増殖が顕著に増大したことが分かった(図2)。・・・続きを表示(全102行)【1195】(実施例5:ヒト間葉系幹細胞の骨形成分化)・・・本明細書に記載した本発明のGFR結合化合物(配列番号15~20)で共有結合的に修飾したチタン上で62時間細胞培養した後、幹細胞表現型を分析した。・・・【1197】図3に示す通り、本発明の共有結合的に修飾したチタンで培養した場合、ヒト骨髄間葉系幹細胞の大多数が付着、伸展し、骨芽細胞様細胞に分化することが、Runx2及びOsterixタンパク質の発現が増大したことで確認された(図3)。【1198】(実施例6:骨芽前駆細胞の骨形成分化)本実施例では、本明細書に記載したGFR結合化合物(配列番号21)で従来のPEEK担体を共有結合的に修飾して本発明の生体材料を作製し、そこでマウス間葉系前骨芽細胞(MC3T3-E1、ATCC(登録商標)製)を培養した。・・・【1199】図4に示す通り、細胞外基質の合成(ECMsynthesis)で示されるように、本発明のPEEK生体材料、すなわち本明細書に記載した本発明のGFR結合化合物の少なくとも1種で共有結合的に修飾した従来のPEEK生体材料を用いると、24時間培養後にマウス間葉系前骨芽細胞が成熟骨芽細胞へ分化できる。【1200】最後に、骨形成性バイオマーカーRunx2(Cbfa-1ともいう)の発現を分析することで、共有結合的に修飾したPEEK生体材料上で培養した場合に骨芽前駆細胞が成熟骨芽細胞へと形質転換したことが確認された。方法の項で記載した定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応から、従来の非修飾PEEK生体材料と比較して、24時間培養後にRunx2遺伝子発現の上昇が見られた(図5)。・・・(実施例8:前駆体骨細胞の増殖)本明細書に記載した本発明のGFR結合化合物(配列番号24~27)の骨芽前駆細胞の増殖に対する効果を調査した。・・・これらのデータを分析したところ、骨形成性ペプチドと結合させたアパタイトセラミック及びI型コラーゲンスポンジでは、天然アパタイトセラミック及び天然I型コラーゲンスポンジと比較して細胞増殖が顕著に進んだことが分かった(図8)。【1205】(実施例9:ヒト間葉系幹細胞の骨形成分化)本明細書に記載したGFR結合化合物を、アパタイトセラミック又はI型コラーゲン、アパタイトセラミック又はI型コラーゲンスポンジに非共有結合的に堆積した。ヒト間葉系幹細胞(hMSC)はLonza(登録商標)製のものを使用した。・・・【1206】骨形成性ペプチド(配列番号28~31)と結合したアパタイトセラミック又はI型コラーゲンスポンジ上で96時間細胞培養した後、細胞表現型を分析した。本明細書に記載したGFR結合化合物と結合したアパタイトセラミック及びI型コラーゲンスポンジにおいて、ヒト骨髄間葉系幹細胞の大多数が付着、伸展し、骨芽細胞様細胞に分化することが、Runx2及びOsterixの発現を分析することで確認される(図9a)。・・・【1207】最後に、骨形成性バイオマーカーALPの活性(アルカリフォスファターゼ活性)を分析することで、hMSCが成熟骨芽細胞に分化したことが確認された。本明細書に記載したGFR結合化合物(配列番号32)と結合したI型コラーゲンスポンジ上で1週間培養した後にALP活性が増大したことを確認した(図9b)。【1208】(実施例10:骨芽前駆細胞の骨形成分化)成熟骨芽細胞は骨形成に関与する細胞であり、前駆体骨芽細胞に由来する。成熟骨芽細胞は、Runx2等の骨芽細胞マーカーの発現及び細胞外基質タンパク質の合成によって得られ、特徴付けられる。【1209】本明細書に記載したGFR結合化合物(配列番号33)の骨芽前駆細胞の分化に対する効果を評価した。・・・【1210】最後に、骨形成性バイオマーカーRunx2の発現を分析することで、骨芽前駆細胞が成熟骨芽細胞へ分化したことが確認された。方法の項で記載した定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応から、24時間培養後にRunx2遺伝子発現の上昇が見られた(図11)。【1211】(実施例11:軟骨再生)硬度が14kPaの天然ヒドロゲル(アクリルアミド・アクリル酸共重合体)及び本明細書に記載したGFR結合化合物(配列番号36及び37)で共有結合的に修飾したヒドロゲル(同様に硬度14kPa)上でhMSCを培養した。96時間培養後にSox9タンパク質の発現が見られたことから、hMSCは軟骨細胞様細胞への分化にコミットしたことが示された(図12a)。【1212】その後、軟骨細胞遺伝子バイオマーカーであるAggrecanの発現を分析することで、共有結合的に修飾したヒドロゲル上で培養したhMSCが軟骨細胞へ分化したことが確認された。96時間培養後、この遺伝子の発現の増加が確認された(図12b)。・・・【1213】(実施例12:内皮化)天然ポリマー(PET)、及び本明細書に記載した内皮化GFR結合化合物(配列番号38)で共有結合的に修飾したポリマー(PET)上でヒト臍静脈内皮細胞を培養した。共有結合的に修飾したPET上で36時間培養後、接着結合(CD31)面積の増大が確認された(図13)。得られた結果から、本明細書に記載したGFR結合化合物はステントの内皮化を迅速に誘導できることが分かった。【1214】(実施例13:血管新生)天然ポリマー(PET)、及び血管ペプチド(配列番号39)で共有結合的に修飾したポリマー(PET)上でヒト臍静脈内皮細胞を培養した。共有結合的に修飾したPET上で18時間培養後、管状構造の形成が確認された(図14)。得られた結果から、本明細書に記載したGFR結合化合物は血管新生を迅速に誘導できることが分かった。【1215】(実施例14:創傷治癒及び集団細胞遊走の増大)天然ポリマー(PET)、及び組織閉鎖ペプチド(配列番号40)で共有結合的に修飾したポリマー(PET)上でヒト上皮細胞を培養した。・・・18時間培養後、ペプチドで共有結合的に修飾したPET上で培養した細胞については細胞遊走速度の上昇が見られた。細胞は集団的に遊走し、細胞間の連絡が維持されていた(図15b)。実際に、本明細書に記載したGFR結合化合物で共有結合的に修飾したポリマー上で培養した細胞については損傷が迅速に閉鎖された。得られた結果から、本明細書に記載したGFR結合化合物は、創傷治癒等の組織閉鎖を迅速に誘導できることが分かった。【1216】(実施例15:毛包幹細胞の静止状態の喪失及び活性化)硬度が73kPaである天然ヒドロゲル(アクリルアミド・アクリル酸共重合体)、及び本明細書に記載した毛包幹細胞GFR結合化合物(配列番号41及び42)で共有結合的に修飾したヒドロゲル(同様に硬度73kPa)上で、単離した毛包幹細胞を培養した。Sox2タンパク質発現の上昇が見られ、上記幹細胞が活性化されたことが示された(図16a)。同時に、細胞培地においてBMP-6放出の減少が見られた(図16b)。これらの状況において、BMP-6放出の減少は、毛包幹細胞が活性化され、発毛プロセスが誘導されたことを示している。【1217】(実施例16:ヒト間葉系幹細胞の筋肉分化)硬度が28kPaである天然ヒドロゲル(アクリルアミド・アクリル酸共重合体)、及び筋原性ペプチド(配列番号43~48)で共有結合的に修飾したヒドロゲル(同じく硬度28kPa)上でhMSCを培養した。共有結合的に修飾したヒドロゲル上で培養した細胞について、62時間培養後に細胞面積の増大が見られたことから、hMSCは筋肉への分化にコミットしたことが示された(図17a)。【1218】その後、筋原性バイオマーカーCOMP(軟骨オリゴマー基質タンパク質)の発現を分析することで、共有結合的に修飾したヒドロゲル上で培養した上記hMSCが筋肉細胞へ分化したことが確認された。96時間培養後、この遺伝子の発現の上昇が見られた(図17b)。・・・【1219】(実施例17:ニューロン成長)天然チタン(コントロール)、及び神経原性ペプチド(配列番号49)で共有結合的に修飾したチタン上でニューロンを培養した。共有結合的に修飾したチタン上で6時間培養後、樹状突起成長による細胞間接触の迅速な確立が観察された(図18a)。・・・【1220】(実施例18:幹細胞性の喪失)本明細書に記載した各種GFR結合化合物(配列番号50~88)の溶液の存在下又は非存在下、細胞培地を用いて従来の細胞培養プラスチック皿でhMSCを培養した。本明細書に記載したGFR結合化合物の存在下、細胞培養液で培養した細胞について、幹細胞性マーカーSTRO-1の迅速な(48時間)喪失が観察された(図19)。・・・いずれの配列も、表4で示す通り、本明細書で定義されるRMSDが2.45Å以下である。・・・【1222】(実施例19:ヒト造血幹細胞の分化)本明細書に記載した各種GFR結合ペプチド(配列番号2147~2157)の溶液の存在下又は非存在下、細胞培地を用いて従来の細胞培養プラスチック皿でhMSCを培養した。本明細書に記載したGFR結合ペプチドの存在下、細胞培養液で培養した細胞について、幹細胞性マーカーCD34+の迅速な(48時間)喪失が観察された。・・・CD-34+陽性骨髄細胞は多分化能であり、各種のあらゆる血液細胞型に分化できる。いずれの配列も、表5で示す通り、本明細書で定義されるRMSDが2.45Å以下である。【1223】[図:0001408227000001.jpg]【1224】(実施例20:RMSD測定及び生物学的活性)RMSDは、本明細書で定義されるあらゆる考えられ得る生理活性担体親和性基を除いたGFR結合ペプチド配列について常に算出する。・・・【1225】本明細書で詳述した方法を用いて、これまでに報告した57種のペプチド配列のRMSDを求め(表6)、溶液中でのSTRO-1発現と相関させた。これらのデータから、RMSDの算出値が2.45Åを超える、特に2Åを超える、より具体的には1.79Åを超えるものは、処理細胞の顕著なhMSCコミットメント及び/又は分化と必ずしも相関を示さないことが分かる。なお、細胞におけるSTRO-1発現は、実質的に非分化状態の細胞を示しており、その発現の低下率が少なくとも約20%であれば、分化プロセスを開始しているものの、細胞の分化には至らないかもしれない細胞を示していることが一般的に認められている。50%を超えて低下している場合、分化状態へ顕著にシフトしていることを示している。70%を超えて低下している場合、分化状態へ極めて顕著にシフトしていることを示している。50%又は70%を超える低下が継続している(例えば、少なくとも96時間)場合、分化状態へ更に顕著にシフトしていることを示している。【1226】・・・[図:0001408227000002.jpg]【1227】・・・[図:0001408227000003.jpg]【1228】同様に、本明細書で詳述した方法を用いて、これまでに報告した別の27種のペプチド配列のRMSDを求め(表7)、溶液中でのSTRO-1及びCD-105の発現と相関させた。これらのデータから、RMSDの算出値が2.45Åを超える、特に2Åを超える、より具体的には1.79Åを超えるものは、処理細胞の顕著なhMSCコミットメント及び/又は分化と必ずしも相関を示さないことが分かる。データは、溶液中のペプチド(すなわち、生理活性担体と組み合わせていない状態)で得た。【1229】・・・[図:0001408227000004.jpg]【1230】同様に、本明細書で詳述した方法を用いて、本発明を代表する75種のGFR結合ペプチド配列のRMSDを求め(表8)、STRO-1発現と相関させた。配列番号1~49は、実施例の項で定義したように生理活性担体(すなわち、チタン、セラミック、コラーゲン等)と組み合わせて試験し、一方、配列番号2242~2267は溶液中で試験した。これらのデータから、RMSDの算出値が2.45Å以下、特に2Å以下、より具体的には1.79Å以下であるものは、処理細胞の顕著なhMSCコミットメント及び/又は分化と常に相関を示すことが分かる。【1231】・・・[図:0001408227000005.jpg]【1232】・・・[図:0001408227000006.jpg]【1233】・・・[図:0001408227000007.jpg]【1234】(実施例21:骨粗鬆症治療への適用)以下の研究は、骨粗鬆症ラットモデルの臨界サイズ骨折誘導性欠損においてGFR結合化合物の骨誘導性、骨伝導性、及び破骨細胞阻害活性を実証することを目的とする。・・・【1238】B.2.化合物投与手術から8週間後、J0においてOVXラットの大腿骨顆部に3mmの臨界サイズ欠損を穿孔し、GFR結合化合物(配列番号609及び2268)の混合物を部位投与した。・・・【1244】試験混合物をカプセルに入れた溶液として欠損部位に投与し、欠損領域で連続的に放出させた。HTD-PCL-M06の投与から12週間後に、欠損侵入部で骨膜線維組織の閉鎖が確認できる(図23)。・・・結論として、投与から3週間及び12週間後に類骨及び石灰化骨組織の形成が増大したことから明らかな通り、HTD-PCL-M06は良好に許容され、臨界欠損部位において効率的に骨形成を誘導する。この骨形成性活性の増大は、骨芽細胞の存在と関連しており、骨誘導の始動を確認できる。加えて、活性破骨細胞が検出されなかったことから、骨吸収活性が大きく低下していることが示された。従って、HTD-PCL-M06は、効率的な骨粗鬆症関連骨折の骨の再構築、並びに骨粗鬆症の治療及び予防に極めて好適であり、溶液として全身投与又は局所投与することで達成できる可能性がある。・・・【1248】従って、本開示のGFR結合化合物は、骨粗鬆症用の新規な治療溶液であって、骨形成の増大及びそれに伴う骨吸収の低減によって、骨吸収を骨形成から切り離すことができるユニークな能力を有する。」
第5 当審の判断
1.本願発明が解決しようとする課題
本願明細書の【0001】に「本発明は、組織形成誘導用化合物、該化合物を含む生体材料及び医療機器、医療的方法に使用するための該化合物、並びに非医療的方法における該化合物の使用に関する。」との記載(本a)、同【0331】に「具体的な一例示において、上記GFR結合化合物は、配列番号1~2157及び2242~84108のペプチドのうちのいずれか1つ又は複数であってもよい。」との記載(本d)があり、同【0159】によると、「GFR」は「細胞成長、増殖、治癒、及び細胞分化等を刺激できる天然物質である成長因子に結合する受容体」(本c)を意味するから、本願発明が解決しようとする課題は、GFR(成長因子受容体)に結合能を有し、組織形成を誘導する、医療的方法等に使用するためのペプチドを提供することにあると認められる。
2.本願明細書の実施例に記載されている事項
本願明細書の実施例(本e)には、実施例で使用されたペプチドが生理活性を示す記載として、
実施例4に、配列番号9~14のペプチドが、骨芽前駆体細胞を増殖させたこと(【1194】)、
実施例5に、配列番号15~20のペプチドが、ヒト骨髄間葉系幹細胞の大多数を骨芽細胞様細胞に分化させたこと(【1195】~【1197】)、
実施例6に、配列番号21のペプチドが、マウス間葉系前骨芽細胞を成熟骨芽細胞へ分化させたこと(【1198】~【1200】)、
実施例8に、配列番号24~27のペプチドが、骨芽前駆細胞の細胞増殖を顕著に進めたこと(【1204】)、
実施例9に、配列番号28~31のペプチドが、ヒト骨髄間葉系幹細胞の大多数を骨芽細胞様細胞に分化させたこと、配列番号32のペプチドが、骨形成性バイオマーカーALPの活性を増大させたこと(【1205】~【1207】)、
実施例10に、配列番号33のペプチドが、骨芽前駆細胞を成熟骨芽細胞へ分化させたこと(【1208】~【1210】)、
実施例11に、配列番号36~37のペプチドが、hMSC(ヒト骨髄間葉系幹細胞)を軟骨細胞様細胞へ分化させたこと(【1211】~【1212】)、
実施例12に、配列番号38のペプチドが、ステントの内皮化を迅速に誘導できたこと(【1213】)、
実施例13に、配列番号39のペプチドが、血管新生を迅速に誘導できたこと(【1214】)、
実施例14に、配列番号40のペプチドが、損傷を迅速に閉鎖したこと(【1215】)、
実施例15に、配列番号41~42のペプチドが、毛包幹細胞を活性化させたこと(【1216】)、
実施例16に、配列番号43~48のペプチドが、hMSC(ヒト骨髄間葉系幹細胞)を筋肉細胞へ分化させたこと(【1217】~【1218】)、
実施例17に、配列番号49のペプチドが、樹状突起成長による細胞間接触を迅速に確立したこと(【1219】)、
実施例18に、配列番号50~88のペプチドが、幹細胞性マーカーSTRO-1を迅速に喪失させたこと(【1220】~【1221】)、
実施例19に、配列番号2147~2157のペプチドが、幹細胞性マーカーCD34+を迅速に喪失させたこと(【1222】~【1223】)、
実施例21に、配列番号609及び2268のペプチドの混合物が効率的な骨粗鬆症関連骨折の骨の再構築、並びに骨粗鬆症の治療及び予防に極めて好適であったこと(【1234】~【1248】)が記載されている。
また、実施例20(【1224】~【1233】)においては、表6(【1226】~【1227】)に記載された配列番号2158~2214のペプチド、及び、表7(【1229】)に記載された配列番号2215、2230、2235、2238、2240のペプチドは、RSMDが2.45Åを超えており、それらのペプチドで処理した細胞は、幹細胞性マーカーSTRO-1発現%が高く、実質的に非分化状態であることが示されている(表7の上記ペプチドで処理した細胞については、CD-105発現%が高いことも記載されている。しかし、表7の上記以外のペプチドで処理した細胞は、幹細胞性マーカーSTRO-1発現%、CD-105発現%が空欄になっている。)。一方、表8(【1231】~【1233】)に記載された配列番号1~49、2242~2267のペプチドは、RSMDが2.45Å以下で、それらのペプチドで処理した細胞は、幹細胞性マーカーSTRO-1発現%が低く、それらのペプチドは、処理細胞を分化状態にシフトさせたことが示されている。
以上の実施例4~6、8~21の記載からすると、配列番号9~21(実施例4~6)、24~33(実施例8~10)、36~88(実施例11~18)、2147~2157(実施例19)、609及び2268(実施例21)、1~49(実施例20)、2242~2267(実施例20)のペプチドは、成長因子受容体に対して結合能を有するか否かは不明であるものの、細胞成長、増殖、治癒、及び細胞分化において、生理活性を示すことが記載されている。
しかし、実施例20の表6、7によると、配列番号2158~2214、2215、2230、2235、2238、2240(実施例20)のペプチドで処理した細胞は、幹細胞性マーカーSTRO-1発現%が高く、それらのペプチドは、処理細胞を分化させる生理活性すら示さないことが記載されている。
3.本願発明のサポート要件の判断
本願発明は、上記の実施例4~6、8~21の記載より、細胞成長、増殖、治癒、及び細胞分化において生理活性を示すことが理解できる、「配列番号1~11、配列番号13、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号29、配列番号31~34、配列番号36、配列番号37、配列番号40、配列番号43、配列番号44、配列番号49、配列番号50、配列番号53、配列番号54、配列番号56、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号65~70、配列番号72、配列番号73、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号80」、「配列番号2147~2157」、及び、配列番号81~88、609、2242~2268のペプチドを含むものである。
一方、本願発明は、実施例20の表6、7の記載より、幹細胞性マーカーSTRO-1発現%が高く、処理細胞を分化させる生理活性すら示さない、「配列番号2177、配列番号2180、配列番号2181、配列番号2182、配列番号2190、配列番号2198」のペプチド、及び、配列番号2211~2214、2215、2230、2235、2238、2240のペプチドも含むものである。
更に、本願発明は、実施例4~6、8~21に記載がなく、生理活性を示すか否かが明らかでない、その他多数のペプチド、例えば、「配列番号6181~9776・・・および配列番号82913~84108」等のペプチドも含むものである。
そうすると、本願明細書の実施例4~6、8~21の記載より、本願発明に含まれる、「配列番号1~11、配列番号13、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号29、配列番号31~34、配列番号36、配列番号37、配列番号40、配列番号43、配列番号44、配列番号49、配列番号50、配列番号53、配列番号54、配列番号56、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号65~70、配列番号72、配列番号73、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号80」、「配列番号2147~2157」のペプチド、及び、配列番号81~88、609、2242~2268のペプチドが、実施例に示される生理活性に関係するなんらかの成長因子受容体に結合する可能性があることを当業者が理解し得るとしても、本願発明は、生理活性を示さない、「配列番号2177、配列番号2180、配列番号2181、配列番号2182、配列番号2190、配列番号2198」のペプチド、及び、配列番号2211~2214、2215、2230、2235、2238、2240のペプチドも含み、更に、生理活性を示すか否か明らかでない「配列番号6181~9776・・・および配列番号82913~84108」等のその他多数のペプチドも含むものである。
よって、本願発明のペプチドが、おしなべて、成長因子受容体に結合能を有し、組織形成を誘導すること、すなわち、本願発明が、上記の1で示した課題を解決できることを、当業者が、本願明細書等の記載から認識し得るものであるとは認められない。
したがって、本願発明は、サポート要件に適合するものではなく、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
4.審判請求人の主張
折りたたみ中(クリックで表示)
審判請求人は、令和5年9月13日付け意見書で、補正後の本願発明は、ペプチドの配列が、実施例で使用されたもの、およびそれらに極めて近縁のものに限定されており、実施例では、これらのペプチドが、生理活性に関係する成長因子受容体に結合することが示されているので、実施例に基づくと、当業者であれば請求項1のペプチドが実施例と同様の効果を奏することを容易に理解できると主張する。
しかるところ、本願発明は、実施例4~6、8~21に記載がなく、生理活性を示すか否か明らかでないその他多数のペプチド、例えば、「配列番号6181~9776・・・および配列番号82913~84108」等のペプチドや生理活性を示さない、例えば「配列番号2177」等のペプチドをも含むものである。そして、本願明細書の表8に示されたアミノ酸配列(本e)によると、生理活性を示すといえる配列番号1~49、2242~2267のペプチドをみても、アミノ酸配列の同一性が低く、重要な化学構造要素、すなわち、特別な技術的特徴を共有するものとはいえないので、その他多数のペプチドが実施例のペプチドと極めて近縁な関係にあるとはいえず、こうした関係にない以上、その他多数のペプチドが実施例と同様の効果を奏するとは認められない。
したがって、審判請求人の上記主張は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、請求項1について、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、請求項2~13について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-018151