特許拒絶査定不服審判
2021-017439
γcサイトカイン活性を調節するための組成物および方法
- 審判番号
- 2021-017439
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-152602
- 請求日
- 2021年12月17日
- 審決日
- 2024年03月27日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオニズ セラピューティクス インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】岩谷 龍
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 福井 悟
- 審判官 飯室 里美
- 分類
- P18 .536-WZ (C07K) / P18 .537-WZ (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-152602「γcサイトカイン活性を調節するための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年1月9日出願公開、特開2020-2154〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月17日(パリ条約による優先権主張 2011年1月18日 (US)米国、2011年8月24日 (US)米国)を国際出願日とする特願2013-550541号の一部を平成29年4月28日に新たな特許出願とした特願2017-90501号の一部を更に令和1年8月23日に新たな特許出願としたものであって、令和3年8月11日付けで拒絶査定がなされ、令和3年12月17日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年 6月28日付け 拒絶理由通知書
令和6年 1月 4日 意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~25に係る発明は、令和6年1月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~25に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
D/E-F-L-E/Q/N-S/R-W/F/L-I/V/L-H/T/E-L/I-V/F/C-Qで示される11アミノ酸長のコアγcボックスアミノ酸配列を含み、かつIL-2、IL-9およびIL-15からなる群より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができ、19のアミノ酸からなる単離または精製されたペプチド。」
第3 当審で通知した拒絶理由の概要
令和5年6月28日付けで当審が通知した拒絶理由は、下記の理由1(サポート要件)、理由2(実施可能要件)を含むのであり、それらの理由の概要は、以下のとおりである。
理由1(サポート要件)
本願明細書の記載より、【0046】に記載された配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体が、本願発明の課題を解決できることは当業者が認識し得る。
しかし、本願明細書には、F、L、Q以外のアミノ酸が全て改変可能で、12個以上のアミノ酸の位置や側鎖が不明な配列番号2を含むペプチドが、おしなべて、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と同様にγcサイトカインの活性を阻害できることを当業者は推認できないので、本願発明は、本願明細書等の記載、及び、本願の出願時の技術常識を参酌しても、本願発明の課題を解決できるものとは認められない。
よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(実施可能要件)
本願発明の配列番号2を含むペプチドが、おしなべて、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と同様にγcサイトカインの活性を阻害できることを当業者は推認できないので、本願明細書の記載より、膨大なアミノ酸の組み合わせを配列中に含む、本願発明の配列番号2のペプチドから、γcサイトカインの活性を阻害するペプチドを、選択し、入手するには、当業者に過度の試行錯誤、実験を要すると認められる。
よって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願明細書等の記載
願書に添付した明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。)。
本a
「【0039】
マウスの生殖細胞系におけるγcサブユニットをコードする遺伝子の欠失またはヒトにおけるγcサブユニットの変異は、NK細胞、T細胞およびB細胞に形態異常をきたしたり、これら細胞の機能を破壊することによって、重症複合免疫不全症(SCID)を引き起こすことが知られている。このようなマウスおよびヒト患者から得られたリンパ球を用いてγcサイトカインに対する応答性を検証した研究において、γcサブユニットが、γcサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、およびIL-21)によるシグナル伝達に重要であることが示されている(Sugamuraら, 1995 Adv. Immunol. 59:225-277における検討)。このことは、γcサブユニットとγcサイトカインとの相互作用を破壊することによって、γcサイトカインファミリーメンバーによる細胞内シグナル伝達事象を効率的にブロックできることを示している。したがって、本発明の実施形態によるアンタゴニストペプチドは、γcサイトカインファミリーメンバーの制御異常を介した疾患に罹患したヒトにおける病原性変化を効果的にブロックできると期待される。
・・・
【0041】
γcボックスの発見
γcサイトカインのC末端(Dヘリックス)には、マルチユニットサイトカイン受容体の共通γcサブユニットと相互作用するとされている部位が含まれている(Bernardら, 2004 J. Biol. Chem. 279:24313-21)。マウスおよびヒトにおいて同定されたすべてのγcサイトカインのアミノ酸配列について生化学的特性を比較することによって、これらのアミノ酸配列の疎水性、親水性、塩基性/酸性などの化学的性質がγcサイトカインファミリーのメンバー間で保存されており、これらの化学的性質が全く同一でない場合でもDヘリックスの多くの位置において保存されていることが明らかとなっている。これとは対照的に、γcサイトカインであるIL-4と関連性を有しているがγcサブユニットとは結合しないIL-13の配列は、Dヘリックス領域においてγcサイトカインと有意な相同性を示さない。このことは、Dヘリックス領域における配列相同性がγcサブユニットに対する結合性と相関することを示唆している。図1に示すように、ヒトγcサイトカインファミリーメンバーのDヘリックス領域のアミノ酸配列をアライメントすると、これらのサイトカインにおいて中程度の配列相同性を有するモチーフ(本明細書において「γcボックス」と呼ぶ)が存在することが分かる。」
「[図1A]
[図:0001413665000001.jpg]
[図1B]
[図:0001413665000002.jpg]
」
「【0042】
γcボックスは、19個のアミノ酸を含み、19の位置のうち、4位、5位および13位が完全に保存されており、それぞれフェニルアラニン、ロイシンおよびアスパラギンである。γcボックスの6位、7位および11位においては保存性が低く、同じ生理化学的特性を有する2個または3個の関連アミノ酸のうちの1個がこれらの位置を占めている。・・・γcサイトカインサブファミリー間では、γcボックスのアミノ酸組成の9位および6位において相違が見られる。種間でγcサイトカインを比較すると、IL-2/15サブファミリーにおいてはイソロイシンが9位および6位に存在するのに対し、他のγcファミリーメンバー(たとえばIL-4、IL-21)ではリシンがこれらの位置を占めることが分かる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、イソロイシンとリシンとは生化学的に異なるため、IL-2/15サブファミリーと他のγcサイトカインとの間の特定の立体構造の差異はこれらのアミノ酸に由来している可能性がある。
【0043】
γcサイトカイン間におけるγcボックスモチーフの保存性は、Dヘリックス領域に存在するアスパラギン(Asn、Q)残基がγcサイトカインのγcサブユニットへの結合に決定的に重要であるという知見に裏付けられている(Bernardら, 2004 J. Biol. Chem. 279: 24313-21)。」
本b
【0044】
γcサイトカイン活性のペプチド阻害剤
γcファミリーサイトカインの活性は、γcサイトカインとγcサブユニットとの相互作用を破壊することによりブロックしてもよい。たとえば、マルチサブユニットサイトカイン受容体のシグナル伝達を刺激することなく、γcサブユニットと相互作用することが可能な競合阻害剤を導入することにより上記のブロッキングを行ってもよい。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、γcファミリーサイトカインのγcサブユニットへの結合に関与する保存γcボックスモチーフは、γcサイトカインシグナル伝達のペプチド阻害剤の設計に利用することが可能な、コアとなる基本的なアミノ酸配列を提示するものである。
【0045】
コアとなるγcボックスのアミノ酸配列は、D/E-F-L-E/Q/N-S/R-X-I/K-X-L/I-X-Q(配列番号2)(式中、Xは任意のアミノ酸を示す)を含む。本明細書に記載の実施形態は、1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することが可能なコアγcボックスアミノ酸配列のカスタムペプチド誘導体に関する。カスタムペプチド誘導体には、コアγcボックスアミノ酸配列と約50%、50~60%、60~70%、70~80%、80%、90%、95%、97%、98%、99%または99.8%の相同性を示す部分アミノ酸配列を有する任意のペプチドが包含される。さらに、カスタムペプチド誘導体には、コアγcボックスに含まれるアミノ酸と類似した生理化学的特性を有するアミノ酸を含む部分アミノ酸配列を有する任意のペプチドが包含される。・・・
【0046】
本出願人らは、γcサブユニットに結合するサイトカインに保存されているγcボックスモチーフの同定に基づき、ヒトIL-2およびIL-15に存在するγcボックスのアミノ酸配列を組み込んだ人工複合ペプチドである19merの新規カスタムペプチド誘導体を考案した。この19merのペプチド(本明細書においてBNZ-γと称す)は、
[図:0001413665000003.jpg]
で示されるアミノ酸配列からなり、太字で表記したアミノ酸はIL-2とIL-15との間で保存されており、下線を引いたアミノ酸は当該アミノ酸の生理化学的特性が保存されている位置を示している。
【0047】
本出願人らは、19merのBNZ-γがIL-15またはIL-19により誘導された細胞増殖を抑制するが、IL-2またはIL-4により誘導された細胞増殖は抑制しないことを見出した。図3Aおよび実施例2を参照されたい。さらに本出願人らは、BNZ-γが、IL-15の媒介による細胞内サイトカインシグナル伝達分子(STAT-5)のリン酸化を阻害することを実証した。図3Cおよび実施例5を参照されたい。
・・・
【0051】
本発明の実施形態に従って提供されるカスタムペプチド誘導体について言及する場合、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は区別なく使用することができ、任意の長さの一連のアミノ酸残基を指すために使用することができる。本発明の実施形態によるペプチドは非天然アミノ酸を含んでいてもよい。ペプチド結合または化学的結合を介してリンカー成分を本発明の実施形態のペプチドに結合することができる。本発明の実施形態のペプチドは直鎖状でも環状でもよく、また、L-アミノ酸およびD-アミノ酸を含んでいてもよい。また、本発明の実施形態のペプチドは、希少アミノ酸(4-ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシンなど)、有機酸、もしくはアミド、および/または一般的なアミノ酸の誘導体の1以上を含んでいてもよい。一般的なアミノ酸の誘導体としては、たとえば、C末端カルボン酸のエステル化(たとえばベンジルエステル、メチルエステルもしくはエチルエステル)もしくはアミド化、および/またはN末端のアミノ基の修飾(たとえばアセチル化、もしくはアルコキシカルボニルアミノ)を有し、側鎖において様々な修飾および/または置換(たとえばメチル化、ベンジル化、t-ブチル化、もしくはトシル化、アルコキシカルボニルアミノなど)を有していてもよいアミノ酸が挙げられる。一般的なアミノ酸以外に含まれていてもよい残基としては、ペニシラミン、テトラメチレンシステイン、ペンタメチレンシステイン、メルカプトプロピオン酸、ペンタメチレン-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトベンゼン、2-メルカプトアニリン、2-メルカプトプロリン、オルニチン、ジアミノ酪酸、アミノアジピン酸、m-アミノメチル安息香酸、およびジアミノプロピオン酸が挙げられるが、これらに限定されない。」
本c
「【0092】
実施例2
BNZ-γペプチドによるIL-9およびIL-15の増殖促進活性の特異的阻害
上記のPT-18β細胞を使用して、選択したγcサイトカインの増殖促進活性に対するBNZ-γペプチドの特異的阻害能を測定した(図3A)。PT-18β細胞の増殖を補助する非γcサイトカインであるIL-3をネガティブコントロールとして使用した。・・・IL-3(非γcサイトカイン)の増殖促進活性はBNZ-γによって阻害されなかった。これに対して、IL-15およびIL-9の活性は、BNZ-γペプチドによって顕著に低下した(p<0.01、スチューデントt検定)。別のγcサイトカインであるIL-4によって刺激された細胞増殖は、BNZ-γペプチドの添加による影響を受けなかった。IL-3、IL-9、IL-15およびIL-4についての結果を図3Aに示す。
【0093】
同様のアッセイにおいてマウス細胞株CTTL2を使用した。・・・データを図3Bに示す。」
「[図3A]
[図:0001413665000004.jpg]
[図3B]
[図:0001413665000005.jpg]
」
「【0096】
実施例5
アンタゴニスト(BNZ-γおよびその誘導体)による細胞内シグナル伝達の阻害
・・・γcサイトカインがその受容体に結合すると、即座にJak3(ヤヌスキナーゼ3)と称されるチロシンキナーゼが形質膜上の受容体に動員される。このキナーゼは、γcサブユニット、STAT5(シグナル伝達兼転写活性化因子5)、PI3(ホスファチジルイノシトール3)キナーゼのサブユニットなどの多種類のタンパク質のチロシン残基をリン酸化する。・・・公表されているこれらの資料に従って、BNZ-γペプチドが、IL-15によって刺激されたPT-18β細胞におけるSTAT5分子のチロシンリン酸化を阻害するかどうかを試験した(図3Cに結果を示す)。
・・・
【0098】
これらの結果により、シグナル伝達の指標となるSTAT5のチロシンリン酸化はPT-18β細胞においてIL-15により誘導されること、およびSTAT5のチロシンリン酸化はBNZ-γペプチドによって顕著に低下することが実証された。」
「[図3C]
[図:0001413665000006.jpg]
」
第5 当審の判断
1.理由1(サポート要件)の検討
(1)本願発明が解決しようとする課題
本願明細書等の【0015】に、「γcサイトカインは多くのヒト疾患に関連すると考えられており、このためγcサイトカインファミリーの活性を阻害してγcサイトカイン関連疾患を治療する方法が提案されている。」、同【0021】に「γcサイトカイン関連疾患を治療するための代替戦略が強く求められている。」と記載されていること、請求項1に「IL-2、IL-9およびIL-15からなる群より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができ、19のアミノ酸からなる単離または精製されたペプチド。」と記載されていることから、本願発明が解決しようとする課題は、γcサイトカイン関連疾患を治療するための代替戦略で使用される、IL-2、IL-9およびIL-15からなる群より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができるペプチドを提供することにあると認められる。
(2)本願発明のサポート要件の判断
本願明細書等の【0046】には、「本出願人らは、γcサブユニットに結合するサイトカインに保存されているγcボックスモチーフの同定に基づき、ヒトIL-2およびIL-15に存在するγcボックスのアミノ酸配列を組み込んだ人工複合ペプチドである19merの新規カスタムペプチド誘導体を考案した。」と記載され(本b)、同【0092】~【0093】、図3A、及び図3Bによると、【0046】に記載された配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体がIL-2、IL-9、IL-15の活性を顕著に低下させること、また、【0096】~【0098】、及び図3Cによると、上記の配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体が、IL-15によるSTAT5のチロシンリン酸化を顕著に低下させることが記載されているので(本c)、本願明細書等の記載より、【0046】に記載された配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体(本b)は上記(1)で示した課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。
一方、本願発明は、「D/E-F-L-E/Q/N-S/R-W/F/L-I/V/L-H/T/E-L/I-V/F/C-Qで示される11アミノ酸長のコアγcボックスアミノ酸配列を含」む「19のアミノ酸からなる単離または精製されたペプチド」であるところ、かかるペプチドは、実施例に記載された配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と比較すると、3~13個目の11個のアミノ酸は、F、L、Q以外の8個のアミノ酸が全て改変可能とされ、その外側に存在する1~2個目及び14個~19個目の8個のアミノ酸はその位置や側鎖が全く特定されていない。
そして、本願明細書等の【0051】によると、アミノ酸にはL-アミノ酸およびD-アミノ酸等の立体異性体や、非天然アミノ酸や側鎖において様々な修飾および/または置換を有していてもよいアミノ酸誘導体を含むと定義されていること、更に、ペプチドの構造も直鎖状でも環状でもよいことを踏まえると、本願発明のペプチドには、アミノ酸配列や構造を異にする膨大な化合物が含まれることになるといえる(本b)。
ここで、本願明細書等の【0041】に「γcサイトカインのC末端(Dヘリックス)には、マルチユニットサイトカイン受容体の共通γcサブユニットと相互作用するとされている部位が含まれている」、「Dヘリックス領域における配列相同性がγcサブユニットに対する結合性と相関することを示唆している。図1に示すように、ヒトγcサイトカインファミリーメンバーのDヘリックス領域のアミノ酸配列をアライメントすると、これらのサイトカインにおいて中程度の配列相同性を有するモチーフ(本明細書において「γcボックス」と呼ぶ)が存在することが分かる。」との記載、同【0042】に、「γcボックスは、19個のアミノ酸を含み、19の位置のうち、4位、5位および13位が完全に保存されており、それぞれフェニルアラニン、ロイシンおよびアスパラギンである。」との記載、同【0043】に、「γcサイトカイン間におけるγcボックスモチーフの保存性は、Dヘリックス領域に存在するアスパラギン(Asn、Q)残基がγcサイトカインのγcサブユニットへの結合に決定的に重要であるという知見に裏付けられている」との記載がある(いずれも本a)。
しかし、本願明細書等には、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体において、どの位置のアミノ酸が、サイトカイン特異的受容体サブユニットに対して作用し、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインに対して活性の阻害が生じるかについての情報や1種以上のγcサイトカインに対する活性の阻害の作用メカニズム等は何ら記載されていない。
加えて、図1Aに記載されたIL-2、IL-9、IL-15のアミノ酸配列に対応する個々のペプチド(これらは、単に中程度の配列相同性を有するモチーフであることが示されるに止まる。)についてみても、どの位置のアミノ酸が、サイトカイン特異的受容体サブユニットに対して作用し、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインに対する活性の阻害が生じるかについての情報や1種以上のγcサイトカインに対する活性の阻害の作用メカニズム等は何ら記載されていない。
そうすると、上記のとおり、アミノ酸配列や構造等を異にする膨大な化合物が含まれる本願発明のペプチドが、おしなべて、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と同様に、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができることを当業者が推認できるとはいえない。
また、「受容体等に結合するペプチドは、その結合する領域の1~数個のアミノ酸を変異させただけでも、受容体との結合親和性が変化すること」(例えば、不服2013-25515号審決。なお、同審決に対する平成27年(行ケ)第10188号判決では、「受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基がどこかということが技術常識であったとしても,そのアミノ酸残基を変異させた場合に,結合親和性の高いペプチドが得られるとは限らない」と説示されている。)、及び、特定の受容体のγCとの親和性が低い場合であっても、特定のγcサイトカインのアンタゴニストになり得る場合があり(審判請求書における審判請求人の主張)、このことから、特定の受容体のγCとの親和性が高い場合であっても、特定のγcサイトカインのアンタゴニストになり得えない場合があること(例えば、アゴニストになり得る場合があること)は、本願発明の属するペプチド分野の技術常識であると認められることからすると、本願明細書等の記載を参照しても、当業者は、アミノ酸配列や構造等を異にする膨大な化合物が含まれる本願発明のペプチドが、おしなべて、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と同様に、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができることを推認できるとはいえない。
よって、本願発明は、本願明細書等の記載、及び、本願の出願時の技術常識を踏まえても、上記(1)で示した課題を解決できるものとは認められないから、本願発明は、サポート要件に適合していない。
2.理由2(実施可能要件)の検討
上記1(2)でも検討したように、本願明細書等には、【0046】に記載された配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体が、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することが記載されている。
しかし、本願明細書等の記載、及び、上記の本願発明の属するペプチド分野の技術常識を参酌しても、当業者は、アミノ酸配列や構造等を異にする膨大な化合物が含まれる本願発明のペプチドが、おしなべて、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と同様に、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができることを推認できない。
そうすると、本願の出願時の技術常識を踏まえても、本願明細書等の記載に基づき、本願発明のペプチドから、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することができるペプチドを、選択し、入手するには、当業者に過度の試行錯誤、実験を要するものと認められるので、本願明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、実施可能要件に適合していない。
3.審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年1月4日に提出の意見書において、コアγcボックスのアミノ酸配列と効果が示された活性との間には直接的な相関があり、複合ペプチドは、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、およびIL-21からなる群から選択される1以上のγcサイトカインの活性を阻害することができると主張する。
しかし、上記1(2)で示したとおり、本願明細書等において、アミノ酸配列とIL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインに対する活性の阻害効果が確認されているのは、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体にとどまるから、この1例のペプチド誘導体の実験結果より、コアγcボックスのアミノ酸配列と阻害効果(IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性の阻害効果)との間に直接的な相関があることは認定できないし、アミノ酸配列や構造等を異にする膨大な化合物が含まれる本願発明のペプチドより、所望の阻害効果を示すペプチドを選択し、入手するには、当業者に過度の試行錯誤、実験を要するものと認められる。
また、審判請求人は、審判請求書及び令和6年1月4日に提出の意見書において、表Aの記載に基づき、1、4~10位のアミノ酸を、表A中のIL-9、IL-15、IL-2の対応するアミノ酸等に改変することができ、11アミノ酸長のコアγcボックスのアミノ酸配列の外側の8つの位置も非常に限定的であるので、当業者は、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体(BNZ-γ)の阻害効果より、本願発明のペプチドが、IL-2、IL-9、IL-15より選択される1種以上のγcサイトカインの活性を阻害することを予想できると主張する。
しかし、上記1(2)で示したとおり、「受容体等に結合するペプチドは、その結合する領域の1~数個のアミノ酸を変異させただけでも、受容体との結合親和性が変化すること」、及び、「特定の受容体のγCとの親和性が高い場合であっても、特定のγcサイトカインのアンタゴニストになり得ない場合があること」は、本願発明の属するペプチド分野の技術常識であり、これらの技術常識を踏まえると、11アミノ酸長のコアγcボックスのアミノ酸配列の外側の8つのアミノ酸による阻害効果への影響が限定的であるとは解されない。
また、11アミノ酸長のコアγcボックスのアミノ酸配列を、実施例に記載された配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体と比較すると、3~13個目の11個のアミノ酸の7割以上((11-3)÷11×100=72.7)に亘るアミノ酸が改変可能とされ(コアγcボックスの外側の8個のアミノ酸を含めると全体でその8割以上((19-3)÷19×100=84.2)に亘るアミノ酸が改変可能とされ)、本願発明のペプチドには、アミノ酸配列や構造等を異にする膨大な化合物が含まれるので、本願発明の属するペプチド分野の技術常識を踏まえると、本願発明のペプチドが、おしなべて、配列番号1の19merのカスタムペプチド誘導体(BNZ-γ)と同様の阻害効果を備えていることを当業者が予想できるとは認められない。
したがって、審判請求人の上記主張は、いずれも理由がない。
4.理由1(サポート要件)及び理由2(実施可能要件)の検討のまとめ
上記1~3によると、この出願は、特許請求の範囲の記載が、本願発明について、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、発明の詳細な説明の記載が、本願発明について、当業者が実施することができる程度に十分かつ明確に記載されたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、請求項1に係る発明について、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、請求項2~25について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-017439