2021-017490
低オフセットグラフェンホールセンサ
- 審判番号
- 2021-017490
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-512142外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年12月17日
- 審決日
- 2022年10月06日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】テキサス インスツルメンツ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】佐藤 仁
- 分類
- P18 .113-Z (G01R) / P18 .121-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、平成28年9月6日を国際出願日とする外国語特許出願(パリ条約による優先権主張、2015年9月3日、米国、2015年11月9日、米国)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
同年 8月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月18日 :原査定の謄本の送達)
第2 令和3年12月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年12月17日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和3年12月17日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】グラフェンホールセンサを動作させるための方法であって、変調されたゲート信号を前記グラフェンホールセンサ(GHS)の第1のゲートに提供することであって、前記変調されたゲート信号が、前記GHSに第1の導電状態を生成する第1の電圧と前記GHSに第2の導電状態を生成する第2の電圧との間の変調周波数で交番し、前記第2の導電状態が前記第1の導電状態と同じ導電性を有する、前記変調されたゲート信号を提供することと、前記GHSの第1の軸を介してバイアス電流を提供することと、変調されたホール電圧とオフセット電圧とを含む結果の出力電圧信号を前記ホールセンサの第2の軸を介して得ることであって、前記ホール電圧が前記変調周波数で変調される、前記結果の出力電圧信号を得ることと、前記オフセット電圧を含まない前記ホール電圧の振幅を抽出することと、を含む、方法。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】グラフェンホールセンサ(GHS)を動作させるための方法であって、変調されたゲート信号を前記GHSの第1のゲートに提供することであって、前記変調されたゲート信号が前記GHSに第1の導電状態を生成する第1の電圧と前記GHSに第2の導電状態を生成する第2の電圧との間の変調周波数で交番し、前記第2の導電状態が前記第1の導電状態と同じ導電性を有する、前記変調されたゲート信号を提供することと、適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加することと、前記GHSの第1の軸を介してバイアス電流を提供することと、変調されたホール電圧とオフセット電圧とを含む結果の出力電圧信号を前記GHSの第2の軸を介して得ることであって、前記ホール電圧が前記変調周波数で変調される、前記結果の出力電圧信号を得ることと、前記オフセット電圧を含まない前記ホール電圧の振幅を抽出することと、を含む、方法。」
2 本件補正の適否についての当審の判断
(1) 本件補正の目的について
本件補正による請求項1についての補正は、GHSへの信号提供について、「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」を含むものに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2) 独立特許要件について
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、以下では、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、について検討する。
ア 明確性要件違反について
(ア) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載には、「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」という技術事項が記載されているところ、当該技術事項における「適応制御された電圧」の意味について検討する。
(イ) 前記「適応制御された電圧」という語句は、通常の日本語の記載として意味を把握することができず、また、磁気センサーの技術分野において確立した専門用語でもなく、明細書においてその定義がされているものでもない。
したがって、当業者の出願当時における技術常識を基礎として検討しても、それが示す技術的意味内容は明確でなく、当該語句が指す外延も不明である。
(ウ)a(a) 請求人は審判請求書において、前記技術事項を追加する補正は、次の明細書の段落【0052】の記載に基づく旨を主張している。なお、下線は、当合議体が付したものであり、後述の(b)において説明するとおり、誤訳であると認められる。
「 【0052】別の実施形態において、低伝導率点を実現しない又はゼロ感度点をシフトしない不純物密度、最低伝導率点をシフトしゼロ感度点をシフトする非ゼロディラック電圧、及び2つの側について異なる伝導率及び/又は2つの側について異なる感度をもたらす電子及び正孔の等しくない移動度、などの影響を緩和するためにバックゲートバイアスを制御するように適応論理が提供され得る。」
(b) 前記段落【0052】の記載において「低伝導率点を実現しない又はゼロ感度点をシフトしない不純物密度」との記載は、本願の国際出願日における明細書の対応する記載である「Impurity density that does not achieve low conductivity point or shifts zero sensitivity point」を参酌すると、これは「低導電率点を達成しない又はゼロ感度点をシフトする不純物密度」と訳されるべきものと認められる。以下、当該記載は「低導電率点を達成しない又はゼロ感度点をシフトする不純物密度」という意味であるとして検討する。
b(a) 前記段落【0052】の記載は、「適応制御された電圧」という語句の意味を定義するものではない。
(b)また、当該記載により、「適応制御された電圧」という語句の意味が明らかになるものでもない。すなわち、当該記載を参酌することによりいえることは、当該段落【0052】に例示されて記載されている事項が前記「適応制御された電圧」に含まれるものであると請求人は意図していることが理解できるのにとどまるのであって、それ以外にどのようなものが含まれ、また、含まれないのか、「適応制御された電圧」という語句が指す意味、及びその概念範囲の外延は依然として不明である。
(c) したがって、請求人の説明を踏まえて、明細書の段落【0052】の記載を参酌しても、前記「適応制御された電圧」なる表現を含む請求項1に係る発明の概念及びその外延は不明瞭であり、それにより、第三者に不測の不利益を及ぼす可能性を否定できない。
(エ) 以上検討のとおり、本件補正発明は不明確であり、本願は、本件補正発明について、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとは認められない。
イ 新規性及び進歩性の欠如について
(ア) 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
a 引用文献1の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
原査定の拒絶の理由において引用された特開2012-215498号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。
(a) 【特許請求の範囲】
「【請求項1】ホール効果を有するホールプレートと、前記ホールプレートと電気的に接続されるように形成された入出力端子と、前記ホールプレートの上部または下部の少なくとも一方に絶縁膜を介して形成されたゲート電極とからなるホール素子を備え、前記ホールプレートは、前記ホールプレートを移動するキャリアの種類を、前記ゲート電極の電位により電子または正孔のいずれか一方に変更することが可能な両極性材料を用いて形成され、前記入出力端子は、前記ホールプレートの面内で互いにそれぞれ対向し合う2組の入出力端子であって、一方の組の入出力端子が電流入力端子対になり、他方の組の入出力端子が電圧出力端子対になり、前記電流入出力端子対と前記電圧出力端子対とが互いに直交するような位置に形成されたことを特徴とする磁気センサ。続きを表示(全30行)【請求項2】前記ゲート電極のゲート電圧を制御するゲート電圧制御回路を備えることを特徴とする、請求項1記載の磁気センサ。【請求項3】前記ゲート電極は、前記ホールプレートを挟み込むように、当該ホールプレートの上部に形成されたゲート電極と、当該ホールプレートの下部に形成されたゲート電極とからなり、前記ゲート電圧制御回路は、前記ホールプレートの上部に形成されたゲート電極のゲート電圧と、前記ホールプレートの下部に形成されたゲート電極のゲート電圧とを個別に制御することを特徴とすることを特徴とする請求項2記載の磁気センサ。【請求項4】クロックを生成するクロック生成回路を備え、前記クロック生成回路により生成されたクロックが前記ゲート電圧制御回路に入力され、当該クロックに同期して前記ゲート電圧制御回路により前記ゲート電圧が変調されることによって、前記電圧出力端子対間に出力される電位差が交流信号に変換されることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の磁気センサ。【請求項5】前記電流入力端子対間に印加する電圧が一定値になるように制御する定電圧回路を備えることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の磁気センサ。【請求項6】前記電流入力端子対間に流れる電流が一定値になるように制御する定電流回路を備えることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気センサ。【請求項7】前記ホールプレートは、材料にグラフェンを用いて形成されたグラフェン層であって、当該グラフェン層の層数が単層または複層で形成されたことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁気センサ。【請求項8】前記ホールプレートは、材料にグラフェンを用いて形成されたグラフェン層であって、当該グラフェン層の層数が2層で形成されたことを特徴とする、請求項7記載の磁気センサ。【請求項9】前記ホール素子の信号処理を行う信号処理回路と前記ホールプレートとは、同一の半導体基板上に形成されたことを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の磁気センサ。」
(b) 【発明の概要】
「【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0008】しかしながら、上記のスピニングカレント法を用いたホール素子100では、入出力端子TA,TA’,TB,TB’を、電流入力端子対と電圧出力端子対とに交互に切り替えた時に、ホールプレートHの内部を流れる電流の領域が中央部を除いて異なる。このため、オフセット電圧及びフリッカノイズを十分に除去することができない場合があった。続きを表示(全36行)また、上記のホール素子100では、ホール素子の4つの入出力端子TA,TA’,TB,TB’に対して、それぞれを電流入力端子対または電圧出力端子対として切り替えて使用するためのスイッチング素子を含むスイッチング回路を設ける必要がある。従って、ホール素子100の信号処理を行う信号処理回路は、スイッチング回路の制御も行わなければならないため、その分だけ信号処理回路の回路構成が複雑になる場合があった。そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、ホール素子を有する磁気センサにおいて、簡易な回路構成である信号処理回路で、ホール素子の出力電圧に含まれるオフセット電圧及びフリッカノイズを除去することのできる磁気センサを提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】【0009】本発明による発振器は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。本発明による第1の磁気センサは、ホール効果を有するホールプレートと、前記ホールプレートと電気的に接続されるように形成された入出力端子と、前記ホールプレートの上部または下部の少なくとも一方に絶縁膜を介して形成されたゲート電極とからなるホール素子を備え、前記ホールプレートは、前記ホールプレートを移動するキャリアの種類を、前記ゲート電極の電位により電子または正孔のいずれか一方に変更することが可能な両極性材料を用いて形成され、前記入出力端子は、前記ホールプレートの面内で互いにそれぞれ対向し合う2組の入出力端子であって、一方の組の入出力端子が電流入力端子対になり、他方の組の入出力端子が電圧出力端子対になり、前記電流入出力端子対と前記電圧出力端子対とが互いに直交するような位置に形成されたことを特徴とする。【0010】上記の第1の磁気センサによれば、ホールプレートが両極性材料を用いて形成される。このため、ホールプレートを移動するキャリアを、ゲート電極に印加する電圧により電子または正孔のいずれか一方に変えて、電圧出力端子対に出力される電位差の極性を反転させることができる。但し、ホールプレートに磁界が印加された状態でゲート電極に印加する電圧によりキャリアの種類を変更した時に、電圧出力端子対に出力される電位差は位相が反転するが、オフセット電圧は位相が反転しない。従って、ホールプレートを移動するキャリアの種類を変更する前後の電圧出力端子対間に出力される電位差の差分をとることにより、電圧出力端子対間に出力される電位差に含まれるオフセット電圧及びフリッカノイズを容易に除去することが可能となる。【0011】本発明による第2の磁気センサは、前記ゲート電極のゲート電圧を制御するゲート電圧制御回路を備えることを特徴とする。上記の第2の磁気センサによれば、ゲート電圧制御回路が、ゲート電極のゲート電圧を変調することが可能となる。【0012】本発明による第3の磁気センサは、前記ゲート電極は、前記ホールプレートを挟み込むように、当該ホールプレートの上部に形成されたゲート電極と、当該ホールプレートの下部に形成されたゲート電極とからなり、前記ゲート電圧制御回路は、前記ホールプレートの上部に形成されたゲート電極のゲート電圧と、前記ホールプレートの下部に形成されたゲート電極のゲート電圧とを個別に制御することを特徴とすることを特徴とする。【0013】上記の第3の磁気センサによれば、ゲート電圧制御回路が、2つのゲート電極のゲート電圧を、個別に変調することが可能となる。また、ゲート電圧制御回路が、ホールプレートと電気的に接続された入力電流端子の電位に対するゲート電極の電圧と、ホールプレートの面に対して垂直方向の電界の強度とを、個別に制御することが可能となる。本発明による第4の磁気センサは、クロックを生成するクロック生成回路を備え、前記クロック生成回路により生成されたクロックが前記ゲート電圧制御回路に入力され、当該クロックに同期して前記ゲート電圧制御回路により前記ゲート電圧が変調されることによって、前記電圧出力端子対間に出力される電位差が交流信号に変換されることを特徴とする。【0014】上記の第4の磁気センサによれば、クロック生成回路から生成されたクロックによってゲート電極に印加する交流電圧が変調され、出力される。これにより、ホール素子から出力された出力電圧を交流信号に変換することが可能となる。フィルタ回路等で電圧出力端子対に出力された電位差から直流成分を除去し、交流成分のみを抽出することにより、オフセット電圧及びフリッカノイズを除去することができる。【0015】本発明による第5の磁気センサは、前記電流入力端子対間に印加する電圧が一定値になるように制御する定電圧回路を備えることを特徴とする。上記の第5の磁気センサによれば、定電圧回路が、電流入力端子対間に印加される電圧が一定値にすることが可能となる。【0016】本発明による第6の磁気センサは、前記電流入力端子対間に流れる電流が一定値になるように制御する定電流回路を備えることを特徴とする。上記の第6の磁気センサによれば、定電流回路が、ホールプレートを流れる電流が一定値になるように制御する。オフセット電圧は、電流入力端子対間に流す電流値に依存する。しかしながら、電流入力端子対間に流す電流値が一定値であれば、オフセット電圧はキャリアの種類によらず同じにすることが可能となる。【0017】本発明による第7の磁気センサは、前記ホールプレートは、材料にグラフェンを用いて形成されたグラフェン層であって、当該グラフェン層の層数が単層または複層で形成されたことを特徴とする。上記の第7の磁気センサによれば、ホールプレートが、グラフェンを用いて形成された単層または複層のグラフェン層で形成される。単層のグラフェン層は、バンドギャップがゼロの半導体である。これにより、ゲート電極に印加する電圧によって、電圧出力端子対に出力される電位差の極性を容易に反転することができる。このため、ゲート電圧に対するキャリアの濃度及び電流量を、電子と正孔の濃度が等しいディラックポイントを中心にして、その前後で同じになるようにすることが可能となる。・・・(中略)・・・【発明の効果】【0020】本発明の磁気センサによれば、従来より簡易な構成の信号処理回路で、ホール素子の出力電圧に含まれるオフセット電圧及びフリッカノイズを容易に除去することができる。」
(c) 【0022】~【0027】
「【0022】以下、添付図面を参照しながら、本発明の磁気センサの好適な実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。(磁気センサ10の回路構成)まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る磁気センサ10の回路構成を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る磁気センサ10の回路構成を示すブロック図である。続きを表示(全18行)【0023】図1に示す磁気センサ10は、ホール素子11と、クロック生成回路12と、ゲート電圧制御回路13と、定電圧回路15と、定電流回路16と、フィルタ17と、復調回路18とを備えて構成される。ホール素子11は、ホール素子100と同様に、ホール効果を用いて磁界の強度を検出する検出素子である。【0024】クロック生成回路12は、ゲート電圧制御回路13がホール素子11に出力するゲート電圧を変調する処理と、復調回路18がフィルタ17を介してホール素子11から出力された出力電圧を復調する処理との同期をとるためのクロックを生成する。ゲート電圧制御回路13は、変調回路を兼ねており、クロック生成回路12により生成されたクロックに同期して、後述するゲート電極のゲート電圧を変調する。これによって、ホール素子11の電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差も変調される。【0025】定電圧回路15は、ゲート電圧制御回路13によりホール素子11に入力されるゲート電圧が変調される時に、ホール素子11の入力電流端子対TA-TA’間を流れる電圧が一定値になるように制御する。定電流回路16は、ゲート電圧制御回路13によりホール素子11に入力されるゲート電圧が変調される時に、ホール素子11の入力電流端子対TA-TA’間を流れる電流が一定値になるように制御する。また、定電流回路16は、ホール素子11に入力されるゲート電圧の値も制御する。【0026】フィルタ17は、ホール素子11の電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差から、オフセット電圧(直流成分)を除去して、変調されている交流信号の周波数成分(交流成分)のみを抽出する。復調回路18は、クロック生成回路12により生成されたクロックに同期して、変調されている交流信号を復調して、ホール素子11に印加された磁界の磁束密度に比例した電位差を出力する。【0027】上記のゲート電圧制御回路13と、定電圧回路15と、定電流回路16とが、ホール素子11の動作を制御する制御回路19として機能する。さらに、クロック生成回路12と、フィルタ17と、復調回路18と、制御回路19とが、ホール素子11の信号処理を行う信号処理回路として機能する。また、上記のホール素子11は、その信号処理回路が形成された図示しない半導体基板上に形成される。ホール素子11と信号処理回路とを別々の半導体基板上に形成した時よりも、磁気センサ10のサイズの小型化を図ることができる。」
(d) 【図1】
「【図1】[図:0001394691000001.jpg]」
(e) 【0028】~【0035】
「【0028】(ホール素子11の積層構造)続いて、図2及び図3を参照して、磁気センサ10が有するホール素子11の積層構造を説明する。図2は、本発明の実施形態に係る磁気センサ10が有するホール素子11を上面から見た時の上面図である。また、図3は、ホール素子11の断面線A-Aにおける断面を表す断面図である。続きを表示(全22行)【0029】図2及び図3に示すホール素子11は、半導体基板21と、絶縁膜22と、ホールプレートHと、ゲート電極Gと、入出力端子TA,TA’,TB,TB’を備えて構成される。半導体基板21としては、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)等の材料を用いて形成される。なお、半導体基板21は、半導体デバイスの製造で用いられる一般的な材料を用いて形成することができるが、シリコンを用いて形成されたシリコン基板が特に好ましい。【0030】絶縁膜22は、酸化シリコン、窒化シリコン、六方晶窒化ホウ素、アルミナ、ハフニア、ジルコニア、イットリア等の半導体デバイスの製造で用いられる周知の材料を用いて形成される。絶縁膜22は、六方晶窒化ホウ素を用いて形成された六方晶窒化ホウ素絶縁膜が特に好ましい。また、絶縁膜22は、CVD法やスパッタリング法等の半導体デバイスの製造で用いられる周知の製造方法を用いて形成することができる。より低いゲート電圧で極性を反転することができるように制御するためには、絶縁膜22の比誘電率をより大きくし、厚みをより薄くすると良い。【0031】ホールプレートHは、半導体基板21の上部に絶縁膜22を介して形成される。ホールプレートHは、一般的なホール素子100と同様にホール効果を有する材質を用いて形成される。しかしながら、ホール素子11のホールプレートHは、ホールプレートHを移動するキャリアの種類を、ゲート電極の電位により電子または正孔のいずれか一方に変更することが可能な両極性材料を用いて形成される。【0032】一般的なホール素子100は半導体材料により形成されている。従って、ホールプレートHを移動するキャリアは、ホールプレートHがn型半導体である場合には電子になり、ホールプレートHがp型半導体である場合には正孔になる。よって、磁界が印加された時のホール素子100から出力された出力電圧の位相は、ホールプレートHを移動するキャリアの種類により定められていた。【0033】ところが、ホール素子11のホールプレートHは、両極性材料により形成されている。この場合には、ホールプレートHを移動するキャリアを、ゲート電極Gの電位により電子または正孔のいずれか一方に変えることができる。具体的な両極性材料としては、グラフェン、有機半導体等のπ共役系材料がその一つであるが、その中でもグラフェンが特に好ましい。例えば、炭素により構成されたグラフェンは、単層ではエネルギーギャップがゼロである半導体である。しかしながら、グラフェンをチャネルにした電界効果トランジスタでは、チャネルに誘起されるキャリアが、ゲート電極に印加する電圧により、電子あるいは正孔となる両極性を有することが知られている。【0034】ホールプレートHをグラフェンを用いたグラフェン層として形成する場合には、例えば「 W . Zhu, V. Pererbeinos, M . Freitag and P. Avouris: Carrier scattering, mobilities and electrostatic potential in mono?, bi? and tri?layer graphenes: Phys. Rev. B 80, 235402 (2009)」の文献に記載されるような半導体デバイスの製造で用いられる周知の製造方法を用いて、ホールプレートHを形成することができる。また、グラフェン層は、単層または複層のどちらでも形成することができるが、単層または2層で形成したものが特に好ましい。【0035】ホールプレートHが単層のグラフェン層で形成される場合には、ホールプレートHは、バンドギャップがゼロの半導体である。よって、グラフェン層は、ゲート電極Gに印加する電圧により、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差の極性を反転させることができる。また、グラフェン層は、ゲート電圧に対するキャリアの濃度及び電流量を、電子と正孔の濃度が等しくなるディラックポイントを中心にして、その前後で同じになるようにすることができる。」
(f) 【図2】、【図3】
「【図2】[図:0001394691000002.jpg]」
「【図3】[図:0001394691000003.jpg]」
(g) 【0039】~【0044】
「【0039】また、ホール素子11は、上記のホールプレートHの上部のゲート電極Gの他にも、半導体基板21をホールプレートHの下部のゲート電極として機能させることが可能である。従って、ゲート電圧制御回路13は、ホールプレートHの上部及び下部に形成された2つのゲート電極として機能する部分のゲート電圧を個別に制御する。これにより、ホールプレートHと電気的に接続された電流入力端子TAあるいは電流入力端子TA’の電位に対するゲート電極の電圧と、ホールプレートHの面に垂直方向の電界の強度とを、ゲート電圧制御回路13によって個別に制御することができる。また、半導体基板21に限らず、さらに別のゲート電極を形成しても良い。【0040】(磁気センサ10の検出動作)続きを表示(全20行)続いて、図4を参照して、磁気センサ10が備えるホール素子11の検出動作を説明する。図4は、ホール素子11の電流入力端子対TA-TA’間に電圧を印加した時の、ゲート電極Gに印加するゲート電圧Vgと、電流入力端子対TA-TA'間に流れる電流Idとの関係を示すグラフである。ゲート電極Gと同様に機能する半導体基板21の電位は、図4のグラフに示すように、ゲート電圧Vg=0(V)の時に、電流入力端子対TA-TA'間に流れる電流Idが最小値になることが好ましい。この場合に、半導体基板21は、電荷中性点を設定するもう一つのゲート電極として機能する。従って、半導体基板21の電位を変化させることで、電荷中性点をずらすことができる。【0041】また、図4のグラフに示すように、ゲート電圧Vg>0(V)の時に、電流入力端子対TA-TA’間に流れる電流Idは、ホールプレートHを移動するキャリアが主に電子によるものである。また、ゲート電圧Vg<0(V)の時に、電流入力端子対TA-TA’間に流れる電流Idは、ホールプレートHを移動するキャリアが主に正孔によるものである。電流入力端子対TA-TA’間に印加した電圧を固定し、ゲート電圧Vg>0(V)の時に、電流入力端子対TA-TA'間に流れる電流Idが所定の電流値Ibになるゲート電圧をVg1とする。また、ゲート電圧Vg<0(V)の時に、電流入力端子対TA-TA'間に流れる電流Idが所定の電流値Ibになるゲート電圧をVg2とする。【0042】図3に示すホール素子11において、図3中の上側から下側に向かって磁束密度Bの磁場を印加した時に、オフセット電圧Voffがゼロである理想的な状態では、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差Vhは、次のようになる。まず、ゲート電圧Vg>0(V)の時に、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差Vh=-Vh1(V)になる。また、ゲート電圧Vg<0(V)の時に、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差Vh=Vh2(V)になる。この時、Vh1(V)の値と、Vh2(V)の値とは、同じ符号である。従って、オフセット電圧Voffが存在する時に、電流入力端子対TA-TA’間に印加した電圧が一定値であれば、ゲート電圧Vg>0(V)の時のオフセット電圧と、ゲート電圧Vg<0(V)の時のオフセット電圧とは、ほぼ同じ値となる。【0043】ゲート電圧Vg>0(V)の時に、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差Vh+を、下記の式(3)に示す式のように表わすことができる。また、ゲート電圧Vg<0(V)の時に、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差Vh-を、下記の式(4)に示す式のように表わすことができる。Vh+=-Vh1 + Voff ・・・式(3)Vh-= Vh2 + Voff ・・・式(4)【0044】この時に、上記の式(3)に示す式と、式(4)に示す式との差分をとると、電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電圧Vhを、下記の式(5)に示す式のように表わすことができる。Vh=Vh1 + Vh2 ・・・式(5)従って、ゲート電圧VgによりホールプレートHを移動するキャリアの種類を変更する前後の電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差の差分をとると、オフセット電圧Voffを除去することができる。」
(h) 【図4】
「【図4】[図:0001394691000004.jpg]」
b 引用発明の認定
前記aの記載事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「ホール効果を有するホールプレートと、前記ホールプレートと電気的に接続されるように形成された入出力端子と、前記ホールプレートに絶縁膜を介して形成されたゲート電極とからなるホール素子(【請求項1】)を動作させるための方法であって、前記ホールプレートは、材料にグラフェンを用いて形成されたグラフェン層であって、当該グラフェン層の層数が単層で形成されたものであり(【請求項7】)、前記入出力端子は、前記ホールプレートの面内で互いにそれぞれ対向し合う2組の入出力端子であって、一方の組の入出力端子が電流入力端子対になり、他方の組の入出力端子が電圧出力端子対になり、前記電流入出力端子対と前記電圧出力端子対とが互いに直交するような位置に形成され(【請求項1】)、前記ゲート電極は、前記ホールプレートを挟み込むように、当該ホールプレートの上部に形成されたゲート電極と、当該ホールプレートの下部に形成されたゲート電極とからなり(【請求項3】)、続きを表示(全16行)前記ゲート電極のゲート電圧を制御するゲート電圧制御回路を備え(【請求項2】)、ゲート電圧制御回路は、前記ホールプレートの上部に形成されたゲート電極のゲート電圧と、前記ホールプレートの下部に形成されたゲート電極のゲート電圧とを個別に制御し(【請求項3】)、クロックを生成するクロック生成回路を備え、前記クロック生成回路により生成されたクロックが前記ゲート電圧制御回路に入力され、当該クロックに同期して前記ゲート電圧制御回路により前記ゲート電圧が変調されることによって、前記電圧出力端子対間に出力される電位差が交流信号に変換され(【請求項4】)、前記電流入力端子対間に流れる電流が一定値になるように制御する定電流回路を備え(【請求項6】)、半導体基板21をホールプレートの下部のゲート電極として機能させ、ゲート電圧Vg=0(V)の時に、電流入力端子対間に流れる電流Idが最小値になるように電荷中性点をずらし(【0039】、【0040】)、電流入力端子対間に流す電流値が一定値であれば、オフセット電圧はキャリアの種類によらず同じになり(【0016】)、単層のグラフェン層は、バンドギャップがゼロの半導体であり、これにより、ゲート電極に印加する電圧によって、電圧出力端子対に出力される電位差の極性を容易に反転することができ、ゲート電圧に対するキャリアの濃度及び電流量を、電子と正孔の濃度が等しいディラックポイントを中心にして、その前後で同じになるようにすることが可能となるものであり(【0017】)、前記ホール素子11の信号処理を行う信号処理回路として機能する、フィルタ17及び復調回路18を備え(【0027】)、復調回路18がフィルタ17を介してホール素子11から出力された出力電圧を復調する処理するものであり(【0024】)、前記フィルタ17は、ホール素子11の電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差から、オフセット電圧(直流成分)を除去して、変調されている交流信号の周波数成分(交流成分)のみを抽出し(【0026】)、前記復調回路18は、変調されている交流信号を復調して、ホール素子11に印加された磁界の磁束密度に比例した電位差を出力する(【0026】)、方法。」
(イ) 対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
a 次の引用発明の欄に記載した引用発明の各構成は、それぞれ、対応する本件補正発明の欄に記載した次の本件補正発明の構成に相当する。
<引用発明> <本件補正発明>
ホールプレートの上部に形成されたゲート電極 第1のゲート
半導体基板21(下部のゲート電極) 第2のゲート
電流入力端子対 第1の軸
電圧出力端子対 第2の軸
b 引用発明の「ホール素子」は、「材料にグラフェンを用いて形成されたグラフェン層であって、当該グラフェン層の層数が単層で形成されたものであ[る]」「ホール効果を有するホールプレート」を含むものであるから、本件補正発明の「グラフェンホールセンサ(GHS)」に相当する。
c(a) 引用発明は、「クロックを生成するクロック生成回路を備え、前記クロック生成回路により生成されたクロックが前記ゲート電圧制御回路に入力され、当該クロックに同期して前記ゲート電圧制御回路により前記ゲート電圧が変調されることによって、前記電圧出力端子対間に出力される電位差が交流信号に変換され[る]」ことを含む。
このことは、前記aも踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「変調されたゲート信号を前記GHSの第1のゲートに提供することであって、前記変調されたゲート信号が前記GHSに第1の導電状態を生成する第1の電圧と前記GHSに第2の導電状態を生成する第2の電圧との間の変調周波数で交番[させる]」「前記変調されたゲート信号を提供すること」に相当する。
(b) 本件補正発明の「前記第2の導電状態が前記第1の導電状態と同じ導電性を有する、前記変調されたゲート信号を提供すること」に関し、本願明細書には次のように記載されている。
「 【0036】図6は、図1のGHS100などのGHSデバイスの頂部ゲート電圧の変調を図示するグラフである。別の実施形態において、バックゲートを変調することによって同様の応答が得られ得る。ゲート電圧600の振幅は、負の電圧振幅VG1 601と正の電圧振幅VG2 602との間で変調され得、そのため、式(3)によって示されるように、2つの等しい導電状態603及び604の間で切り替わる。」
「【図6】[図:0001394691000005.jpg]」
(c) 一方、引用発明においては、「前記ホールプレートは、材料にグラフェンを用いて形成されたグラフェン層であって、当該グラフェン層の層数が単層で形成されたものであり」、「前記電流入力端子対間に流れる電流が一定値になるように制御する定電流回路を備え」「半導体基板21をホールプレートの下部のゲート電極として機能させ、ゲート電圧Vg=0(V)の時に、電流入力端子対間に流れる電流Idが最小値になるように電荷中性点をずらし」、「電流入力端子対間に流す電流値が一定値であれば、オフセット電圧はキャリアの種類によらず同じになり」、「単層のグラフェン層は、バンドギャップがゼロの半導体であり、これにより、ゲート電極に印加する電圧によって、電圧出力端子対に出力される電位差の極性を容易に反転することができ、ゲート電圧に対するキャリアの濃度及び電流量を、電子と正孔の濃度が等しいディラックポイントを中心にして、その前後で同じになるようにすることが可能となるものであ[る]」から、「ゲート電圧制御回路に入力され[る]」電圧の値が同じで符号が異なる電圧(本願発明の「前記第2の導電状態」と「前記第1の導電状態」に相当する。)においては、「同一の導電性を有する状態」であるといえる。
(d) したがって、本件補正発明と引用発明は、「変調されたゲート信号を前記GHSの第1のゲートに提供することであって、前記変調されたゲート信号が前記GHSに第1の導電状態を生成する第1の電圧と前記GHSに第2の導電状態を生成する第2の電圧との間の変調周波数で交番し、前記第2の導電状態が前記第1の導電状態と同じ導電性を有する、前記変調されたゲート信号を提供すること」で一致する。
d(a) 前記アで説示したように、本件補正発明の「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」という技術事項の示す意味は不明確であるが、本件の審判請求書において当該記載箇所の補正の根拠と主張されている、本願明細書の段落【0052】には次の事項が記載されている。
「 別の実施形態において、低伝導率点を実現しない又はゼロ感度点をシフトする不純物密度、最低伝導率点をシフトしゼロ感度点をシフトする非ゼロディラック電圧、及び2つの側について異なる伝導率及び/又は2つの側について異なる感度をもたらす電子及び正孔の等しくない移動度、などの影響を緩和するためにバックゲートバイアスを制御するように適応論理が提供され得る。」
(b) したがって、請求人の意図としては、本件補正発明の「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」という技術事項は、「低伝導率点を実現しない又はゼロ感度点をシフトする不純物密度」及び「最低伝導率点をシフトしゼロ感度点をシフトする非ゼロディラック電圧」の影響を緩和するためにバックゲートバイアスを制御するものを含むものであると理解できる。
(c) そうすると、引用発明は「半導体基板21をホールプレートの下部のゲート電極として機能させ、ゲート電圧Vg=0(V)の時に、電流入力端子対間に流れる電流Idが最小値になるように電荷中性点をずら[す]」ものであるから、「低伝導率点を実現しない又はゼロ感度点をシフトする不純物密度」及び「最低伝導率点をシフトしゼロ感度点をシフトする非ゼロディラック電圧」の影響を緩和するためにバックゲートバイアスを制御するものということができる。
(d) したがって、本件補正発明と引用発明は、「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」を含む点で一致するといえる。
e 引用発明は「電流入力端子対」に電流が入力されるから、前記aも踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「前記GHSの第1の軸を介してバイアス電流を提供すること」を含む点で一致する。
f 引用発明は、「前記電流入力端子対間に流れる電流が一定値になるように制御する定電流回路を備え」、「電流入力端子対間に流す電流値が一定値であれば、オフセット電圧はキャリアの種類によらず同じにな[る]」ものであって、「交流信号に変換され[た]」「前記電圧出力端子対間に出力される電位差」を得るものである。ここで、引用発明の「フィルタ17」は、「ホール素子11の電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差から、オフセット電圧(直流成分)を除去して、変調されている交流信号の周波数成分(交流成分)のみを抽出」するものであり、すなわち、「電圧出力端子対間」からの出力はホール電圧とオフセット電圧を含むものであるから、前記「交流信号に変換され[た]」「前記電圧出力端子対間に出力される電位差」は、本件補正発明の「変調されたホール電圧とオフセット電圧とを含む結果の出力電圧信号」に相当する。
したがって、前記aも踏まえると、本件補正発明と引用発明は、「変調されたホール電圧とオフセット電圧とを含む結果の出力電圧信号を前記GHSの第2の軸を介して得ることであって、前記ホール電圧が前記変調周波数で変調される、前記結果の出力電圧信号を得ること」を含む点で一致する。
g 「前記ホール素子11の信号処理を行う信号処理回路として機能する、フィルタ17及び復調回路18を備え」、「復調回路18がフィルタ17を介してホール素子11から出力された出力電圧を復調する処理するものであり」、「前記フィルタ17は、ホール素子11の電圧出力端子対TB-TB’間に出力される電位差から、オフセット電圧(直流成分)を除去して、変調されている交流信号の周波数成分(交流成分)のみを抽出」し、「前記復調回路18は、変調されている交流信号を復調して、ホール素子11に印加された磁界の磁束密度に比例した電位差を出力する」から、本件補正発明と引用発明は、「前記オフセット電圧を含まない前記ホール電圧の振幅を抽出すること」を含む点で一致する。
h 前記a~gの検討結果をまとめると、引用発明は、本件補正発明の全ての構成を備えるから、本件補正発明と引用発明の間に相違点はなく、少なくとも、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件補正発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。また、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものでもある。
(ウ) 請求人の主張について
a 請求人の主張内容
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
本件補正発明は、グラフェンホールセンサ(GHS)に第1の導電状態と第2の導電状態とを生じさせる変調されたゲート信号をGHSの第1のゲートに印加し、GHSの第2のゲートに適応制御された電圧を印加する、という特徴的な構成を要求しており、それにより、「低伝導率点を実現しない又はゼロ感度点をシフトしない(当審注:「シフトする」の誤りである(前記ア(ウ)a(b)参照)。)不純物密度、最低伝導率点をシフトしゼロ感度点をシフトする非ゼロディラック電圧、及び2つの側について異なる伝導率及び/又は2つの側について異なる感度をもたらす電子及び正孔の等しくない移動度、などの影響を緩和する」ことができるという顕著な作用効果を奏する。
一方、引用文献1には、ホール素子11に対して、ホール素子11の端子対TA-TA’間に流れる電流がIdとなる正のゲート電圧Vg1と、ホール素子11の端子対TA-TA’間に流れる電流がIdとなる負のゲート電圧Vg2とを印加することが記載されていると認められるが、本件補正発明が要求する、グラフェンホールセンサ(GHS)に第1の導電状態と第2の導電状態とを生じさせる変調されたゲート信号をGHSの第1のゲートに印加し、GHSの第2のゲートに適応制御された電圧を印加する、という特徴的な構成について何ら記載がない。
したがって、本件補正発明は、引用発明と同一ではない。
b 請求人の主張の検討
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人の主張は要するに、引用発明は、第1の導電状態と第2の導電状態とを生じさせる変調されたゲート信号をGHSの第1のゲートに印加し、GHSの第2のゲートに適応制御された電圧を印加する、という構成を備えていない、というものであるが、前記(イ)c及びdにおいて検討したとおり、引用発明と本件補正発明は、「変調されたゲート信号を前記GHSの第1のゲートに提供することであって、前記変調されたゲート信号が前記GHSに第1の導電状態を生成する第1の電圧と前記GHSに第2の導電状態を生成する第2の電圧との間の変調周波数で交番し、前記第2の導電状態が前記第1の導電状態と同じ導電性を有する、前記変調されたゲート信号を提供すること」及び「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」を含む点で一致するものである。
よって、請求人の上記主張は採用できず、上記(イ)hで示した結論を左右するものでない。
ウ 独立特許要件についてのまとめ
以上検討のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件補正発明について、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
また、本件補正発明は、特許法29条1項3号に該当し、また、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3) 本件補正の適否についての当審の判断のむすび
前記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1~20に係る発明は、令和元年8月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に示した記載により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次のとおりである。
理由1(新規性)
本願発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2(進歩性)
本願発明は、下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
3 引用文献に記載された事項
前記引用文献1には、前記第2の2(2)イ(ア)bにおいて認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
4 対比・判断
本願発明は、実質的に本件補正発明の「適応制御された電圧を前記GHSの第2のゲートに印加すること」という限定を省いたものである。
そうすると、前記第2の2(2)イにおける検討を踏まえると、本願発明は、引用発明であるか、又は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-017490