2021-014592
三次元データによる患者のリアルタイムビューの拡張
- 審判番号
- 2021-014592
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-503249外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年10月28日
- 審決日
- 2022年10月17日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ノバラッド コーポレイション
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 【請求人代理人】本田 淳
- 分類
- P18 .121-Z (G06T)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 6項目
第1 手続の経緯
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本願は、2018年(平成30年)3月16日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理2017年3月30日 米国、2018年2月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
同年 6月22日付け:拒絶査定
第2 本件発明について
1 本件発明
本願の請求項1ないし26に係る発明は、令和3年4月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。(符号A~C1は当審で付した。以下、発明特定事項A~C1という。)
(本件発明)
【請求項1】
A 三次元(3D)データにより患者のリアルタイム非画像実景を拡張する方法であって、
前記方法は、
B 前記患者の3Dデータを特定することと、
B1 前記3Dデータは患者の外層および患者の複数の内層を含むことと、
C 拡張現実(AR)ヘッドセットにおいて、前記患者の外層のリアルタイム非画像実景上に投影された前記3Dデータからの前記患者の内層のうちの1つを表示することと、
C1 前記投影された前記3Dデータからの前記患者の内層は所定体積の仮想3D形状内に限定されていることと
A を含む、方法。
2 引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、特表2005-500096号公報には、以下の記載がある(以降の下線は強調のために当審で付した。)。
ア 「【0001】本発明は、ガイドシステムに関し、さらに詳しくは、手術を実施する際に外科医を支援するための手術ナビゲーションシステムに関するが、これに限定されない。また、本発明は、そのようなシステムを制御するための方法および装置に関する。」
イ 「【0021】概略すると、本発明は、手術の対象者のコンピュータ生成画像(3Dおよび/または2Dスライス)を表示するためのディスプレイを有する画像に基づくガイドシステムを使用する際に形成される領域内で手術(例えば、外科手術)を行なう使用者によって保持されるプローブを提案する。該プローブの位置は、ガイドシステムによって追跡され、また、例えば、システムが、使用者がプローブを直接見ることを可能にしたり、または、コンピュータ生成画像がプローブの位置を示すアイコンを含むことにより、使用者はプローブの位置を見ることができる。プローブを動かすことによって、使用者はシステム内にプローブを制御するための情報を入力して、例えば、コンピュータによって示される画像内において対象者の肉体形状を変化させることができる。【0022】本発明は、形成された三次元領域で手術を実施する使用者が使用するためのガイドシステムであって、手術対象者の画像を対象者と相互に位置合わせした状態で生成するためのデータ処理装置と、画像を使用者に表示するためのディスプレイと、使用者がその位置を見ることができるプローブと、システムによってプローブの位置を追跡し、かつ、その位置をデータ処理装置に伝送するためのトラッキング装置を含み、該データ処理装置は、使用者がプローブを形成された領域の外側で、その領域の周囲にある選択領域に移動させると、システムへの対応する指示に各々関連付けられる1つまたはそれ以上の仮想ボタンを生成するように構成され、該データ処理装置は、使用者による前記仮想ボタンのいずれかの選択を登録し、該選択はその仮想ボタンの見かけの位置に対して前記プローブを配置されることを含んでおり、前記選択に基づいてコンピュータ生成画像を変更するように構成される、ガイドシステムを提供する。【0023】形成された領域は「バウンディングボックス(bounding box)」と称され、使用者はプローブをバウンディングボックスから外に移動させることによって、仮想領域を表示させることができる。これにより、使用者が仮想ボタンを表示させるために実行すべき動きを低減させることができる。」
ウ 「【0025】コンピュータ生成画像は、対象者の実際の画像に重ねられることが最も好ましく、かつ、外科医が装着する半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)に表示されることが好ましい。これにより、外科医は半透明ディスプレイ(例えば、半透明接眼鏡)を通して得られる手術対象者の実際の光景に重ねてコンピュータ生成画像を見ることができる。このHDMは追跡され、コンピュータはこの追跡に基づいて画像を生成するので、外科医が動いても、実際の画像およびコンピュータ生成画像は位置合わせ状態を維持する。【0026】システムは2つのモードで使用することができる。第1に、肉眼による手術中、使用者は、半透明モードでディスプレイを覗き込み、手術領域上に重ねられた立体コンピュータグラフィックスを見る。これにより、外科医が切開を行なう前に「通常の視線を超えて」見ること、例えば、腫瘍の位置、頭蓋底、その他の目標の構造の可視化が可能となる。」
エ 「【0031】本発明の実施形態を使用して外科手術を実施する前に、標準的CTおよび/またはMRIスキャナなどによって、患者を走査する。こうして生成された画像系列は、前記デキストロスコープ(Dextroscope)の仮想現実環境に転送される。データは、前述したデキストロスコープについて記述する刊行物に開示された方法で、相互に位置合わせされ、多モード立体オブジェクトとして表示される。デキストロスコープのプランニングセッション中に、使用者は関連する外科構造を識別し、それらを3Dオブジェクトとして表示する(セグメンテーションと呼ばれるプロセス)。加えて、目印点および手術経路を標識化することができる。実際の手術前に、3DデータはOR(手術室:手術シアターとしても知られている)内のナビゲーションシステムに転送される。」
オ 「【0035】画像と患者の位置合わせ手順が完了した後、外科医はHMD1を着用し、セグメント化された画像データが立体的に再構成されて表示されたディスプレイ1の半透明画面を通して、患者21を見る。外科医は、実際の患者に直接重ねられ、かつX線で見るのとほぼ同様の3Dデータを知覚し、観察位置を変えることで、患者の頭の「内部」に現れる3D構造を異なる角度から見ることができる。【0036】最初に、顕微鏡3を使わないシステムの使用法を説明する。このシステムを「STAR」(See Through Augmented Reality:シースルー補強現実)と称する。コンピュータ11で生成された立体画像の右目および左目の映像を、HMD1の右および左のLCDにそれぞれ表示する。患者の頭の大きさおよびHMD1までの距離を校正した後、コンピュータ11は外科医の目に映る実際の患者21と正確に一致する画像を生成し、これにより外科医は、プランニング中に形成された手術のコンセプトと実際の患者21との間の正確な対応を理解することができる。仮想のターゲット構造を見ながら、外科医は手術場面から目を逸らすことなく、理想的な皮膚切開、開頭術、および病巣への経路を選択することができる。STARの適用は神経外科を越えて、頭蓋顔面外科または整形外科の分野にまで及び、プランニングセッション中に生成された補強3Dデータの仮想誘導により、骨の再建作業をより正確に実行することができる。【0037】使用者はまた、外科医の手中にある実際のペン形被追跡プローブ9に対応する仮想プローブを見る。このプローブにより、使用者は、3Dデータの制御を可能にする仮想3Dインタフェースを作動させ、かつ制御する。後述する通り、プローブ自体も独特のシミュレーションおよびナビゲーションツールにすることができる。・・・【0039】STARおよびMAARの両方で、HMD1によって使用者に提示される、コンピュータ生成画像の内に仮想プローブとして表示される被追跡プローブ9を使用することにより、仮想物体に対する操作がリアルタイムで可能となる。」
カ 「【0041】ナビゲーション手順中に、MAARまたはSTARのいずれかにより、使用者は、実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見る。特に、仮想データは通常、異なる画像スケッチおよびそれらの3Dセグメンテーション(腫瘍、血管、頭蓋底の部分、マーカ、および目印など)から構成されるので、使用者は、それをナビゲーション上の必要に適応させるために、手術中にデータを操作できることが必要である。例えば、3Dデータの透明性を隠し/示しまたは制御し、クロップ面を調整し、距離を測定し、あるいはデータをインポートするために、ツールが必要とされる。本発明によれば、外科医は、受動的被追跡ペン形プローブ9およびフットスイッチ15を使用するだけで、したがって手術室でのキーボードおよびマウスの使用を回避して、コンピュータ11を操作してHMD1に表示される3Dデータを変更することができる。【0042】外科医が患者の頭部付近で被追跡プローブを動かすと、プローブ9は患者の頭の周囲に形成された仮想バウンディングボックス内に存在する。これを図2(a)に示す。マーカの位置は25で示される。バウンディング(bounding)ボックス(これは仮想空間ではなく、現実空間にある)は、破線で示されるが、手術が行われる対象領域を取り囲んでいる。この状態で、コンピュータ生成画像は、対象者の画像化データを使用者に示す。さらに、プローブ9に対応する仮想プローブがHMD1の、仮想3D画像化データの現実に対応する位置に表示される。【0043】プローブがトラッキングシステムに見えない場合、すなわち、その反射型マーカが隠れるか、あるいはトラッキングボリュームの外にある場合、仮想プローブは消え、外科医はHMDに表示された補強患者データだけを見る。これを図2(c)に示す。【0044】外科医がプローブ9を患者の頭部から離し、仮想バウンディングボックスの外に出したが、それがトラッキングシステムの視界内に維持されている場合(図2(b)に示す)、透視システムは、使用者がコントロールパネルであるコンピュータ生成画像だけを見るように、光景を切り替える。このパネルを図3に示す。次いで仮想ハンドヘルドプローブ27が、その先端から光線29が発射される状態で表示され、仮想世界における仮想レーザプローブのように見える。コントロールパネル上のボタン31は、仮想光線をそれらに向けることによって選択することができる。選択されると、フットスイッチを使用してボタンを押すことにより、スイッチオン/オフを切り換えることができる。」
キ 「【0048】・ 様々な画像形式および/または3Dオブジェクトを隠す/示す。例えば、軟組織の手術では、幾つかのMRIにより得たセグメンテーション(またはオリジナルのMRI面そのもの)に切り替える必要がある。一方、骨に対する作業中は、CTにより得た構造を切り替える必要がある。」
ク 「【0060】第2に、我々は、本実例により実行することのできる新規のシミュレーション機能を説明する。仮想ドリルツールは、仮想プローブに取り付けられ、ドリルとして作用する仮想球体からなり、ボクセル(3Dピクセル)を切除することによって、リアルタイムで補強仮想データ内に導入できる。球形ドリルは、上述の通りフットスイッチを交互に押すことによって、プローブと球形ドリルとの間に伸長するように描かれる線の長さを変化させることで仮想的に伸長させたり、後退させることが可能である。外科医はこうして、ハンドヘルドプローブを動かすことによって、任意の位置を穿孔することができる。使用者に見える実際の画像とコンピュータ生成画像の組合せを図6に示す。図6aは、患者の頭蓋骨の仮想画像を仮想ツールと共に示す。図6bは、患者の実際の頭蓋骨を、外科医の手中にある実際のペンと共に示し、この場合、その先端は実際の骨の上に載っているか、またはそのわずか上にある。図6cは使用者の頭部装着ディスプレイを通した使用者の視界を示し、そこでは図6aの仮想画像が図6bの実際の画像にそれと相互に位置合わせされて重ねられ、仮想骨内の可視腔部が、伸長可能なボクセル切除球体により穿孔されている。」
ケ 「【0062】この実施例によって提供される手術中のシミュレーションツールは、頭蓋底における微細な骨作業中に特に有用である。これにより、外科医は、正確に重ね合わされた3DのCTデータを使用することにより、幾つかの方向に沿って骨の切除のシミュレーションを行なうことができる。実際の骨作業を実行する前に、周囲の構造に関連する最適な穿孔経路を探索し、仮想的にリハーサルすることができる。実際の穿孔中は、重ねられた仮想穿孔データに正確に従うことができる。穿孔の他、上述の伸長可能な仮想プローブは、実際の手術の前に、重ね合わされたデータ上で、軟組織を収縮したり、あるいはクリップまたはボーンスクリューを配置するなど、他の外科手術をシミュレートするためにも使用することができる。仮想プローブは、その後の実際の外科手術におけるステップをより正確かつ安全に実行するために、まさしく手術現場で補強3Dデータを精査しかつ正しく操作することを可能にするツールと見ることができる。」
コ 「【図2】[図:0001395760000001.jpg]」
サ 「【図6a】[図:0001395760000002.jpg]」
シ 「【図6b】[図:0001395760000003.jpg]」
ス 「【図6c】[図:0001395760000004.jpg]」
(2) 引用発明
ア 【0001】、【0022】、【0026】の記載によれば、引用文献1には、手術を実施する際に使用者(外科医)が使用するガイドシステムを制御するための方法が記載されている。
【0031】の「本発明の実施形態を使用して外科手術を実施する前に、標準的CTおよび/またはMRIスキャナなどによって、患者を走査する。こうして生成された画像系列は、・・・仮想現実環境に転送される。」、「実際の手術前に、3DデータはOR(手術室:手術シアターとしても知られている)内のナビゲーションシステムに転送される。」との記載から、引用文献1の3Dデータは、患者のCTおよび/またはMRI画像系列であるといえる。
また、患者のCTおよび/またはMRI画像系列は、外科手術を実施する前に患者を走査して生成され、ガイドシステムに転送されるといえる。
次に、【0025】の「コンピュータ生成画像は、対象者の実際の画像に重ねられることが最も好ましく、かつ、外科医が装着する半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)に表示されることが好ましい。これにより、外科医は半透明ディスプレイ(例えば、半透明接眼鏡)を通して得られる手術対象者の実際の光景に重ねてコンピュータ生成画像を見ることができる。」との記載から、コンピュータ生成画像が患者の実際の光景に重ねられて表示されるといえる。
当該コンピュータ生成画像について、【0031】の「本発明の実施形態を使用して外科手術を実施する前に、標準的CTおよび/またはMRIスキャナなどによって、患者を走査する。こうして生成された画像系列は、前記デキストロスコープ(Dextroscope)の仮想現実環境に転送される。データは、前述したデキストロスコープについて記述する刊行物に開示された方法で、相互に位置合わせされ、多モード立体オブジェクトとして表示される。デキストロスコープのプランニングセッション中に、使用者は関連する外科構造を識別し、それらを3Dオブジェクトとして表示する(セグメンテーションと呼ばれるプロセス)。」との記載、【0021】の「手術の対象者のコンピュータ生成画像(3Dおよび/または2Dスライス)を表示するためのディスプレイを有する画像に基づくガイドシステム」との記載、および【0041】の「使用者は、実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見る」との記載から、コンピュータ生成画像には、患者のCTおよび/またはMRI画像系列を立体オブジェクトとして表示した患者の3D画像化データが含まれるといえる。
また、【0039】の「HMD1によって使用者に提示される、コンピュータ生成画像の内に仮想プローブとして表示される被追跡プローブ9を使用する」との記載から、コンピュータ生成画像には、仮想プローブが含まれるといえる。
そして、【0044】の「透視システムは、使用者がコントロールパネルであるコンピュータ生成画像だけを見るように、光景を切り替える」との記載から、コンピュータ生成画像には、コントロールパネルが含まれるといえる。
してみると、患者のCTおよび/またはMRI画像系列を立体オブジェクトとして表示した患者の3D画像化データ、仮想プローブ、およびコントロールパネルが含まれるコンピュータ生成画像が患者の実際の光景に重ねられて表示されるといえる。
また、表示される立体オブジェクトの具体例としては、【0026】の「例えば、腫瘍の位置、頭蓋底、その他の目標の構造の可視化」との記載、【0041】の「使用者は、実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見る。特に、仮想データは通常、異なる画像スケッチおよびそれらの3Dセグメンテーション(腫瘍、血管、頭蓋底の部分、マーカ、および目印など)から構成される」との記載、および【0060】の「患者の頭蓋骨の仮想画像」、図6a、図6b、図6cの記載から、表示される立体オブジェクトとしては、腫瘍、血管、頭蓋底、頭蓋骨などを含むものであるといえる。
イ 【0026】の「肉眼による手術中、使用者は、半透明モードでディスプレイを覗き込み、手術領域上に重ねられた立体コンピュータグラフィックスを見る。これにより、外科医が切開を行なう前に『通常の視線を超えて』見ること・・・が可能となる。」との記載、【0035】の「外科医は、実際の患者に直接重ねられ、かつX線で見るのとほぼ同様の3Dデータを知覚し」との記載、および【0041】の「使用者は、実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見る」との記載から、引用文献1には、肉眼による手術中、外科医が装着する半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を覗き込むと、実際の患者に直接重ねられ、かつX線で見るのとほぼ同様の患者の3D画像化データを「通常の視線を超えて」見ることを可能とすることが記載されているといえる。
すなわち、【0041】の「使用者は、実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見る」との記載、および【0036】の「仮想のターゲット構造を見ながら、外科医は手術場面から目を逸らすことなく、理想的な皮膚切開、開頭術、および病巣への経路を選択することができる」との記載にもあるように、外科医は実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見ることで、手術場面から目を逸らすことなく、理想的な皮膚切開、開頭術、および病巣への経路を選択することができるといえる。
また、【0048】には「様々な画像形式および/または3Dオブジェクトを隠す/示す。例えば、軟組織の手術では、幾つかのMRIにより得たセグメンテーション(またはオリジナルのMRI面そのもの)に切り替える必要がある。一方、骨に対する作業中は、CTにより得た構造を切り替える必要がある」との記載があることから、軟組織の手術では、幾つかのMRIにより得たセグメンテーション(またはオリジナルのMRI面そのもの)に切り替え、骨に対する作業中は、CTにより得た構造を切り替えるなど、当該CTおよび/またはMRI画像系列に基づく様々な画像形式や立体オブジェクトの表示/非表示を変更することが可能であるといえる。
ウ 図6b、図6cの記載から、患者の実際の頭蓋骨は皮膚に覆われず露出したものであると見て取れる。
してみると、上記ア、イで述べた半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して外科医に見える患者の実際の光景は、【0037】、【0060】、【0062】、図6a、図6b、図6cの記載から、皮膚に覆われず露出した患者の実際の頭蓋骨と、外科医の手中にあり、その先端が実際の骨の上に載っているか、またはそのわずか上にある実際のペン形被追跡プローブとが示された光景であるといえる。
また、患者の3D画像化データには、仮想骨内の可視腔部が穿孔された患者の頭蓋骨の仮想画像が含まれるといえる。
そして、患者の実際の光景にコンピュータ生成画像を重ねて見る際には、相互に位置合わせして重ねられるといえる。
エ 【0023】、【0042】の記載から、半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して得られる外科医の視界には更に、外科医が患者の頭部付近で被追跡プローブを動かすと、現実空間における手術が行われる対象領域を取り囲むバウンディングボックスと称される領域が形成されることが記載されており、図2の破線から当該バウンディングボックスは六面体形状をしているといえる。
【0060】、図6a、図6b、図6cの記載から、図6a、図6cにおいて患者の3D画像化データが示される六面体形状の領域は、手術が行われる対象領域を取り囲んでいることから、バウンディングボックスである。
してみると、患者の3D画像化データは、半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して得られる外科医の視界に更に形成される、現実空間における手術が行われる対象領域を取り囲むバウンディングボックスと称される六面体形状の領域内に示されるといえる。
上記(1)および(2)を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
なお、引用発明の各構成の符号(a)~(d)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成(a)~構成(d)という。
(引用発明)
(a)手術を実施する際に外科医が使用するガイドシステムを制御するための方法であって、患者のCTおよび/またはMRI画像系列を立体オブジェクトとして表示した患者の3D画像化データ、仮想プローブ、およびコントロールパネルが含まれるコンピュータ生成画像が患者の実際の光景に重ねられて表示されるものであり、患者のCTおよび/またはMRI画像系列は、外科手術を実施する前に患者を走査して生成され、ガイドシステムに転送されたものであり、表示される立体オブジェクトとしては、腫瘍、血管、頭蓋底、頭蓋骨などを含み、
(b)肉眼による手術中、外科医が装着する半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を覗き込むと、実際の患者に直接重ねられ、かつX線で見るのとほぼ同様の患者の3D画像化データを「通常の視線を超えて」見ることを可能とし、すなわち外科医は実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見ることで、手術場面から目を逸らすことなく、理想的な皮膚切開、開頭術、および病巣への経路を選択することができ、軟組織の手術では、幾つかのMRIにより得たセグメンテーション(またはオリジナルのMRI面そのもの)に切り替え、骨に対する作業中は、CTにより得た構造を切り替えるなど、当該CTおよび/またはMRI画像系列に基づく様々な画像形式や立体オブジェクトの表示/非表示を変更することが可能であって、
(c)半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して外科医に見える患者の実際の光景は、皮膚に覆われず露出した患者の実際の頭蓋骨と、外科医の手中にあり、その先端が実際の骨の上に載っているか、またはそのわずか上にある実際のペン形被追跡プローブとが示された光景であり、患者の3D画像化データは、仮想骨内の可視腔部が穿孔された患者の頭蓋骨の仮想画像が含まれ、そして、患者の実際の光景にコンピュータ生成画像を重ねて見る際には、相互に位置合わせして重ねられ、
(d)患者の3D画像化データは、半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して得られる外科医の視界に更に形成される、現実空間における手術が行われる対象領域を取り囲むバウンディングボックスと称される六面体形状の領域内に示される、
(a)方法。
3 本件発明と引用発明との対比および判断
次に、本件発明と引用発明とを対比する。
(1)発明特定事項Aについて
引用発明における「手術を実施」する「外科医」が見る「実際の患者」および「実際の手術の光景」は、本件発明の「患者のリアルタイム非画像実景」に相当する。
本件発明の「三次元(3D)データ」について、本件明細書を参照すると、【0048】に「MRI画像、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン画像、X線画像、陽電子放出断層撮影(PET)画像、超音波画像、蛍光画像、赤外線サーモグラフィ(IRT)画像、または単光子放出断層撮影(SPECT)スキャン画像、またはそれらのいくつかの組み合わせが挙げられる」とあることから、引用発明における「患者のCTおよび/またはMRI画像系列」は、本件発明の「三次元(3D)データ」に相当する。
そして、引用発明は構成(a)、構成(b)から、CTおよび/またはMRI画像系列を立体オブジェクトとして表示した患者の3D画像化データを通常の視線を超えて見ること、すなわち実際の手術の光景に補強された患者の3D画像化データを見ることを可能とするものであることから、「三次元(3D)データにより患者のリアルタイム非画像実景を拡張する」といえるものである。
してみると、引用発明における構成(a)、構成(b)を備えた「方法」は、本件発明における「三次元(3D)データにより患者のリアルタイム非画像実景を拡張する方法」に相当する。
(2)発明特定事項Bについて
引用発明は患者の「CTおよび/またはMRI画像系列」を立体オブジェクトとして表示(構成(a)、構成(b))するものであるから、本件発明と引用発明とは、いずれも患者の3Dデータに基づく表示を行うものである点で共通する。
しかしながら、本件発明に係る方法では、表示に先立って患者の3Dデータを特定することを含むのに対して、引用発明では、患者の3Dデータを外科手術を実施する前に患者を走査して生成(構成(a))しているものの、表示に先立って当該生成した患者の3Dデータが手術対象の患者のものであることを特定することについて明示されていない点で、両者は相違する。
(3)発明特定事項B1について
引用発明の「CTおよび/またはMRI画像系列を立体オブジェクトとして表示した患者の3D画像化データ」は、構成(a)から、腫瘍、血管、頭蓋底、頭蓋骨などを含むものであり、また構成(c)から、患者の実際の光景として、皮膚に覆われず露出した患者の実際の頭蓋骨が示されている。
次に、本件発明の患者の「外層」は、構成Cによれば拡張現実(AR)ヘッドセットにおいてリアルタイム非画像実景として見ることができるものである。
この点に関して、本件明細書【0049】には、「例えば、図1の患者106の外層は、図1の患者106の皮膚106aおよび/または患者106が着用している衣服107を含み得る。別の例では、皮膚が遺体から除去されている場合には、遺体の外層は筋肉または脂肪の層のような皮膚以外の組織層であることがある。患者106の内層は、患者106の内部の骨106b(図1に図示)、筋肉、器官、または流体を含み得るが、これらに限定されるものではない。」との記載があり、本件発明における「患者の外層」とは、拡張現実(AR)ヘッドセットの使用者が実際に見ている患者の外部に露出している組織層を意味するものといえる。
してみると、引用発明において外科医が実際の手術の光景として見ている「皮膚に覆われず露出した患者の実際の頭蓋骨」は、本件発明の「患者の外層」に相当し、引用発明の「腫瘍、血管、頭蓋底など」のうち頭骸骨よりも内側にあるものは、本件発明の「患者の複数の内層」に相当する。
そして、引用発明における「患者のCTおよび/またはMRI画像系列」は、本件発明における「3Dデータ」と同様に「患者の外層および患者の複数の内層を含む」ものであるといえる。
(4)発明特定事項Cについて
引用発明の「半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)」は、本件発明の「拡張現実(AR)ヘッドセット」に相当する。
引用発明では、構成(c)から、外科医が装着する半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して、皮膚に覆われず露出した患者の実際の頭蓋骨に、仮想骨内の可視腔部が穿孔された患者の頭蓋骨の仮想画像を重ねており、上記(3)において述べたように引用発明の「頭蓋骨」は「患者の外層」に相当することから、引用発明では「患者の外層のリアルタイム非画像実景上」に「投影」を行っているものであるといえる。
してみると、本件発明と引用発明とは、いずれも拡張現実(AR)ヘッドセットにおいて、前記患者の外層のリアルタイム非画像実景上に投影された前記3Dデータからの1つを表示する点で共通している。
しかしながら、本件発明に係る発明では、患者の内層のうちの1つを表示するのに対して、引用発明では、仮想骨内の可視腔部に表示する内容として患者の内層のうちの1つを表示することについて明示されていない点で、両者は一応相違する。
(5)発明特定事項C1について
構成(d)から、引用発明の「バウンディングボックス」は半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して得られる外科医の視界に更に形成される、現実空間における手術が行われる対象領域を取り囲む六面体形状の領域であることから、本件発明の「所定体積の仮想3D形状」に相当する。
また、引用発明はバウンディングボックス内に限定されて患者の3D画像化データが示されているといえるから、引用発明において患者の3D画像化データの表示が現実空間における手術が行われる対象領域を取り囲む六面体形状の領域すなわちバウンディングボックス内に限定されていることは、本件発明において「前記投影された前記3Dデータからの前記患者の内層は所定体積の仮想3D形状内に限定されている」ことに相当する。
(6)一致点、相違点
以上の対比に基づくと、本件発明と引用発明の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
A 三次元(3D)データにより患者のリアルタイム非画像実景を拡張する方法であって、
前記方法は、
B1’ 前記患者の3Dデータは患者の外層および患者の複数の内層を含むことと、
C 拡張現実(AR)ヘッドセットにおいて、前記患者の外層のリアルタイム非画像実景上に投影された前記3Dデータからの1つを表示することと、
C1 前記投影された前記3Dデータからの前記患者の内層は所定体積の仮想3D形状内に限定されていることと
A を含む、方法。
(相違点1)
患者の3Dデータについて、本件発明では特定することを含むのに対して、引用発明では手術対象の患者のものであることを特定することについて明示されていない点。
(相違点2)
本件発明では患者の内層のうちの1つを表示するのに対して、引用発明では仮想骨内の可視腔部に表示する内容として患者の内層のうちの1つを表示することについて明示されていない点。
(7)相違点に対する判断
上記相違点について検討する。
(相違点1)について
引用発明においては、半透明頭部装着立体ディスプレイ(HMD)を通して得られる患者の実際の光景に、患者の3D画像化データを重ねて表示するのに先立って、患者の3Dデータを特定するかどうかが明らかではないものの、手術のガイドシステムにおいて、手術対象の患者と当該患者に関する走査データ等の診療データとを誤りなく関連付ける必要があることは自明の課題であることから、引用発明において患者の3D画像化データを表示するのに先立って、手術対象となる患者に該当する3Dデータを特定する構成を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
(相違点2)について
上記(3)において述べたように、患者のCTおよび/またはMRI画像系列は患者の外層および患者の複数の内層を含むものであるから、引用発明の構成(b)が手術場面から目を逸らすことなく、理想的な皮膚切開、開頭術、および病巣への経路を選択することができるものであることを踏まえると、引用発明においては、仮想骨内の可視腔部に病巣である腫瘍すなわち内層が視認できるまで穿孔した状態の表示についても行われるものと考えられ、仮想骨内の可視腔部に表示される内容は、患者の3D画像化データであるCTおよび/またはMRI画像系列を立体オブジェクトとして表示したものと考えるのが自然である。
してみると、引用発明における患者の3D画像化データの表示に際しては、本件発明における「前記3Dデータからの前記患者の内層のうちの1つを表示すること」に相当する表示も行われるものと考えられることから、相違点2は実質的な相違点ではない。
(8)小括
以上のとおり、本件発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年4月5日付け意見書、および令和3年10月28日付け審判請求書において、以下の主張を行っている。(以降の下線は、請求人が付したものである。)
「引用文献1の段落0060及び図6cには、明確に、頭蓋骨の内層ではなく外層が患者の頭蓋骨に投影されています。段落0060には外科医が穿孔を行うことに関して記載されており、このような穿孔を行う際には、患者の外層に関して穿孔を行う位置を投影することが妥当であると言えます。段落0060の開示に接した当業者であれば、内層を表示するといった変形を行うことは考えられないと思料します。」
当該主張について検討する。
上記(7)において述べたように、引用発明における患者の3D画像化データの表示に際しては、「前記3Dデータからの前記患者の内層のうちの1つを表示すること」に相当する表示も行われるものと考えられることから、当該主張を採用することはできない。
また、審判請求人は、令和3年10月28日付け審判請求書において、以下の主張を行っている。
「 本願請求項1の「3Dデータセットに関する所定体積の仮想3D形状」と、引用文献1に係る仮想バウンディングボックスとは、異なります。まず、引用文献1に係る仮想バウンディングボックスは、手術が行われる対象領域を取り囲んでいるものであり、画像データセット(仮想画像)に関するものではありません。例えば、引用文献1の段落[0044]、図2によれば、仮想バウンディングボックスでは、プローブまたはポインターが仮想バウンディングボックスの外側にあるときにユーザーインターフェイスがポップアップするようになっており、プローブはシステムによって3D空間で追跡されており、ポインターが仮想バウンディングボックス内にある場合、ユーザーインターフェイスは表示されないようになっています。引用文献1には、画像データセット(つまり、CT画像データ)の3D形状または3Dボックスについて、何ら開示乃至示唆されておりません。」
当該主張について検討する。
上記(5)で述べたように、引用発明におけるバウンディングボックスは、現実空間における手術が行われる対象領域を取り囲んで形成される六面体形状の領域で、患者の3D画像化データをその領域内に表示するものであることから、本件発明の「所定体積の仮想3D形状」と、引用発明のバウンディングボックスとは、異なるものであるとはいえず、当該主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用できない。
第3 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-014592