特許拒絶査定不服審判
2021-014445
アクティブサスペンションシステム
- 審判番号
- 2021-014445
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-561326
- 請求日
- 2021年10月25日
- 審決日
- 2022年09月20日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アップル インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人大塚国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤井 昇
- 審判官 筑波 茂樹
- 審判官 八木 誠
- 分類
- P18 .113-Z (B60G) / P18 .121-Z (B60G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-561326号「アクティブサスペンションシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日国際公開、WO2018/208510、令和 2年 6月25日国内公表、特表2020-518514号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)4月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年5月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年11月 7日 :手続補正書の提出
令和2年10月28日付け :拒絶理由通知書
令和3年 1月28日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月18日付け :拒絶査定
同年 10月25日 :審判請求書の提出
第2 本願発明(本願発明の認定)
本願の請求項に係る発明は、令和3年1月28日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
車両の車体と前記車両のばね下構成要素との間の第1の荷重経路を形成するように構成されたばねと、
前記車体と前記ばね下構成要素との間の前記第1の荷重経路に平行な第2の荷重経路を形成するように構成されたボールねじアクチュエータであって、
シャフトと、
筐体と、
前記筐体に結合され、ステータ及びロータを有するモータと、
前記モータがトルクを加えて、前記筐体と前記シャフトとの間で前記第2の荷重経路の力を伝達するボールナットと、
前記シャフトにトルクを加えて、前記筐体に対する前記シャフトの回転を防止するボールスプラインと、
を含むボールねじアクチュエータと、
を備えるサスペンションシステムであって、前記筐体、前記ステータ、及び前記ボールスプラインが、互いに結合されて、固定アセンブリを形成し、前記ロータ及び前記ボールナットが、互いに結合されて、スラスト軸受を用いて前記固定アセンブリに対して回転可能に支持され、かつ軸方向に固定された回転アセンブリを形成し、
前記ばねは、前記第1の荷重経路の力を伝達する加圧ガスを収容する加圧キャビティを含む空気ばねであり、前記ロータ及びステータは、前記加圧キャビティ内に収容される、
サスペンションシステム。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
本願の請求項1~8に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内において頒布された特開2012-167757号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1~8に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項9~11に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項12~15に係る発明は、引用文献1及び優先日前に外国において頒布された米国特許出願公開第2013/0221625号明細書に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。)。
1 記載事項
(1)「【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態における電磁緩衝器Eは、螺子軸1と螺子軸1に回転自在に螺合されるボール螺子ナット2とを備えた運動変換機構Tと、運動変換機構Tにおけるボール螺子ナット2に連結されるモータMとを備えて構成されており、この実施の形態にあっては、螺子軸1の下端に流体圧ダンパDが連結されていて、電磁緩衝器Eと流体圧ダンパDとでサスペンション装置Sを構成している。
【0014】
このサスペンション装置Sは、この実施の形態の場合、電磁緩衝器Eに連結される環状のエアチャンバ7と、流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8と、エアチャンバ7とエアピストン8とに架け渡される筒状のダイヤフラム9とで画成されるエア室Gによって懸架ばねとして機能するエアばねASを外周側に備えている。
【0015】
そして、このサスペンション装置Sは、電磁緩衝器Eを車両の車体へ連結し、流体圧ダンパDの下端となるダンパ本体6を車両の車軸へ連結することで、車両の車体と車軸との間に介装することができるようになっている。すなわち、このサスペンション装置Sにあっては、基本的には、図示しない車両の車体と車軸との間に介装するにあたり、電磁緩衝器Eを車体へ流体圧ダンパDを車軸へと連結するようにして介装されるようになっていて、電磁緩衝器Eが減衰力を発揮するのみならずアクチュエータとしても機能することで車体の振動を抑制することができるようになっている。
【0016】
また、流体圧ダンパDは、サスペンション装置Sに入力される高周波振動を吸収する目的で設けられており、運動変換機構TおよびモータMとでなる回転系の慣性で高周波振動に対して動きづらくなる電磁緩衝器Eを補助して車体振動の抑制を良好ならしめるものである。
【0017】
流体圧ダンパDは、ダンパ本体6と、ダンパ本体6内に挿入されるロッド5とを備えており、ダンパ本体6に対してロッド5が図1中上下方向となる軸方向の相対移動を呈する伸縮時に所定の減衰力を発生するようになっている。
【0018】
電磁緩衝器Eは、モータMと、モータMのロータ3に連結されるボール螺子ナット2とボール螺子ナット2に螺合する螺子軸1とを備えた運動変換機構Tとを備えて構成されており、モータMを駆動することでボール螺子ナット2を回転させて螺子軸1を直線方向に駆動することが可能であり、上述したように、螺子軸1の直線運動をモータMのトルクで抑制することもでき、アクチュエータとしても減衰力を発揮するダンパとしても機能することができるようになっている。
【0019】
詳しくは、モータMは、有頂筒状のフレーム11と、フレーム11内に固定したステータコア12と、ステータコア12に巻回される巻線13と、フレーム11の開口端に嵌合される環状のキャップ14と、フレーム11内にボールベアリング15,16を介して回転自在に収容された筒状のロータ3と、ロータ3の外周に装着されてステータコア12に対向する磁石17とを備えて構成されており、ボール螺子ナット2を回転自在に保持するとともにエアチャンバ7に連結される筒状のケース18内に収容されて固定されている。
【0020】
したがって、このモータMにあっては、巻線13に通電して周方向に回転磁界を発生させることで、磁石17を吸引してロータ3を回転駆動することができる、ブラシレスモータとして構成されている。
【0021】
なお、このモータMの場合、モータM内をも上述のエアばねASのエア室Gの一部として機能させるため、ケース18とモータMのフレーム11との間およびフレーム11とキャップ14との間は、それぞれ、シールリング19,20によって密にシールされている。」
(2)「【0034】
また、ボール螺子ナット2は、ケース18の内周に設けた段部18aとケース18の内周に螺合する固定ナット21とで挟持されてケース18内周に固定されるボールベアリング22を介してケース18に回転自在に保持されている。なお、ボールベアリング22のボール22aがボール螺子ナット2のナット本体30の外周に形成された環状溝30cを走行するようになっており、ボール螺子ナット2自体がボールベアリング22の内輪として機能するとともに、ケース18にボールベアリング22の外輪22bを固定することでボール螺子ナット2をケース18に固定することが可能となっている。
【0035】
このケース18は、ボール螺子ナット2のほかに、ボールスプラインナット23を保持している。このボールスプラインナット23は、ボール螺子ナット2の回転駆動によって螺子軸1を直線運動させるため、螺子軸1の回り止めとして機能するものである。ボールスプラインナット23は、周知であるので詳細には図示しないが、筒状の本体と、本体内周に設けた螺子軸1の外周に設けたスプライン溝1bに対向する直線状の通路と、本体内に設けられ上記通路の両端を連通する循環路と、該通路および循環路に収容されるとともにスプライン溝1bを走行する複数のボールと、各ボール間に介装されるスペーサとを備えて構成され、各ボールは、上記ループ状に形成された通路と循環路を循環することができるようになっていて、螺子軸1はボールスプラインナット23に対して図1中上下方向となる軸方向への移動は許容されるものの、周方向への回転が阻止される。
【0036】
したがって、モータMでロータ3に連結されたボール螺子ナット2を回転駆動すると、螺子軸1は、ボールスプラインナット23によって回り止めされるので、図1中上下方向へ直線運動することになり、逆に、螺子軸1を直線運動させると、ボール螺子ナット2を介してロータ3を回転運動させることができる。なお、螺子軸1の回り止めは、ボールスプラインナット23以外にも、たとえば、螺子軸1にキー溝を設け、ケース18側にキー溝内に挿入されるキーを設けるようにして行うこともできる。」
(3)図1
「
[図:0001394591000001.jpg]
」
2 認定事項
(1)段落【0014】に記載の「エアチャンバ7と、・・(略)・・エアピストン8と、・・(略)・・ダイヤフラム9とで画成されるエア室G」及び「流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8」を踏まえると、図1から、エアピストン8の下部は、流体圧ダンパDのダンパ本体6に連結されることが看取できる。
(2)段落【0014】に記載の「螺子軸1の下端に流体圧ダンパDが連結されていて」を踏まえると、図1から、螺子軸1の下部に流体圧ダンパDのロッド5が連結されることが看取できる。
(3)図1から、外輪22bにはボールベアリング22のボール22aを保持する溝が、ナット本体30の外周に形成された環状溝30cに対向して設けられていることが看取できる。また、段落【0034】の「ボールベアリング22のボール22aがボールねじナット2のナット本体30の外周に形成された環状溝30cを走行するようになっており」との記載から、ボールベアリング22のボール22aは外輪22bの溝を走行するようになっていると認められる。
3 引用発明
上記1及び2から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「サスペンション装置Sは、電磁緩衝器Eに連結される環状のエアチャンバ7と、流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8と、エアチャンバ7とエアピストン8とに架け渡される筒状のダイヤフラム9とで画成されるエア室Gによって懸架ばねとして機能するエアばねASを外周側に備え、エアピストン8の下部は流体圧ダンパDのダンパ本体6に連結され、
電磁緩衝器Eは、モータMと、モータMのロータ3に連結されるボール螺子ナット2とボール螺子ナット2に螺合する螺子軸1とを備えた運動変換機構Tとを備えて構成されており、モータMを駆動することでボール螺子ナット2を回転させて螺子軸1を直線方向に駆動することが可能であり、螺子軸1の直線運動をモータMのトルクで抑制することもでき、アクチュエータとしても減衰力を発揮するダンパとしても機能することができるようになっており、螺子軸1の下部に流体圧ダンパDのダンパ本体6内に挿入されるロッド5が連結され、
サスペンション装置Sは、電磁緩衝器Eを車両の車体へ連結し、流体圧ダンパDの下端となるダンパ本体6を車両の車軸へ連結することで、車両の車体と車軸との間に介装することができるようになっており、
モータMは、有頂筒状のフレーム11と、フレーム11内に固定したステータコア12と、ステータコア12に巻回される巻線13と、フレーム11の開口端に嵌合される環状のキャップ14と、フレーム11内にボールベアリング15、16を介して回転自在に収容された筒状のロータ3と、ロータ3の外周に装着されてステータコア12に対向する磁石17とを備えて構成され、ボール螺子ナット2を回転自在に保持するとともにエアチャンバ7に連結される筒状のケース18内に収容されて固定されており、
ボール螺子ナット2は、ケース18内周に固定されるボールベアリング22を介してケース18に回転自在に保持されており、ボールベアリング22のボール22aがボール螺子ナット2のナット本体30の外周に形成された環状溝30cと外輪22bの溝を走行するようになっており、ボール螺子ナット2自体がボールベアリング22の内輪として機能するとともに、ケース18にボールベアリング22の外輪22bを固定することでボール螺子ナット2をケース18に固定することが可能となっており、
ケース18は、ボールスプラインナット23を保持しており、このボールスプラインナット23は、ボール螺子ナット2の回転駆動によって螺子軸1を直線運動させるため、螺子軸1の回り止めとして機能するものであり、
モータM内をも上述のエアばねASのエア室Gの一部として機能させるため、ケース18とモータMのフレーム11との間およびフレーム11とキャップ14との間は、それぞれ、シールリング19、20によって密にシールされている、
サスペンション装置S。」
第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「車両」及び「車体」は、その機能及び構造からみて、本願発明の「車両」及び「車体」に相当し、以下同様に、
「エアばねAS」は、「ばね」及び「空気ばね」に、
「車軸」は、エアばねASを含むサスペンション装置Sの下に連結されるから「ばね下構成要素」に、
「螺子軸1」は、「シャフト」に、
「ケース18」は、「筐体」に、
「ステータコア12」及び「巻線13」は、「ステータ」に、
「ロータ3」及び「磁石17」は、「ロータ」に、
「モータM」は、「モータ」に、
「ボール螺子ナット2」は、「ボールナット」に、
「ボールスプラインナット23」は、「ボールスプライン」に、
「エア室G」は、「加圧キャビティ」に、
「サスペンション装置S」は、「サスペンションシステム」に、それぞれ相当する。
(2)引用発明の車体と車軸との間に介装されるサスペンション装置Sが、車体への連結部と車軸への連結部との間で、車体の重量を車軸に伝え、また、車軸からの力を車体に伝える荷重経路を形成することは、明らかである。そして、引用発明の「電磁緩衝器Eを車両の車体へ連結し、流体圧ダンパDの下端となるダンパ本体6を車両の車軸へ連結」し、「電磁緩衝器Eに連結される環状のエアチャンバ7と、流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8と、エアチャンバ7とエアピストン8とに架け渡される筒状のダイヤフラム9とで画成されるエア室Gによって懸架ばねとして機能するエアばねASを外周側に備え、エアピストン8の下部は流体圧ダンパDのダンパ本体6に連結され」る構成は、車体と車軸との間の荷重を懸架ばねとして機能するエアばねASが支えるものと認められ、エアばねASの構成要素であるエアチャンバ7及びエアピストン8が電磁緩衝器E及びダンパ本体6の構造部分(筐体)を介して車体と車軸にそれぞれ連結されることで、電磁緩衝器E、エアチャンバ7、エア室G、エアピストン8、ダンパ本体6を経由して、車体と車軸との間の荷重を伝える荷重経路を形成していると認められるから、上記(1)の相当関係も踏まえると、本願発明の「車両の車体と前記車両のばね下構成要素との間の第1の荷重経路を形成するように構成されたばね」の構成に相当する。
(3)引用発明の「モータMは」、「ステータコア12と、ステータコア12に巻回される巻線13と、」「筒状のロータ3と、ロータ3の外周に装着されてステータコア12に対向する磁石17とを備えて構成され」、「筒状のケース18内に収容されて固定されており」の構成は、上記(1)の相当関係を踏まえると、本願発明の「前記筐体に結合され、ステータ及びロータを有するモータ」の構成に相当する。
(4)上記(2)で説示したように、引用発明の車体と車軸との間に介装されるサスペンション装置Sが、車体への連結部と車軸への連結部との間で、車体の重量を車軸に伝え、また、車軸からの力を車体に伝える荷重経路を形成することは、明らかである。そして、引用発明の「電磁緩衝器Eを車両の車体へ連結し、流体圧ダンパDの下端となるダンパ本体6を車両の車軸へ連結」し、「電磁緩衝器Eは、モータMと、モータMのロータ3に連結されるボール螺子ナット2とボール螺子ナット2に螺合する螺子軸1とを備えた運動変換機構Tとを備えて構成されており」、「モータMは」「筒状のケース18内に収容されて固定されており」、「ボール螺子ナット2は」「ケース18に回転自在に保持されており」、「螺子軸1の下部に流体圧ダンパDのダンパ本体6内に挿入されるロッド5を連結され」る構成は、電磁緩衝器Eとダンパ本体6が車体と車軸にそれぞれ連結されることで、電磁緩衝器Eと流体圧ダンパDとが車体と車軸の間の荷重を支えるものと認められ、電磁緩衝器EのモータM、ケース18、ボール螺子ナット2、螺子軸1、ロッド5、ダンパ本体6を経由して、車体と車軸との間の荷重を伝える荷重経路を形成していると認められるから、上記(1)の相当関係も踏まえると、本願発明の「車両の車体と前記車両のばね下構成要素との間の」「第2の荷重経路を形成する」構成に相当する。
(5)上記(4)で説示したとおり、引用発明の電磁緩衝器EのモータM、ケース18、ボール螺子ナット2、螺子軸1、ロッド5、ダンパ本体6を経由して、車体と車軸との間の荷重を伝える荷重経路(以下「荷重経路2」という。)と、上記(2)で説示したとおり、電磁緩衝器E、エアチャンバ7、エア室G、エアピストン8、ダンパ本体6を経由する荷重経路(以下「荷重経路1」という。)とは、いずれも同じ部分で車体と車軸とを支持するものであるから、荷重経路1及び荷重経路2は平行な関係にあることは明らかである。そうすると、引用発明の荷重経路1に平行な荷重経路2は、本願発明の「第1の荷重経路に平行な第2の荷重経路」に相当する。
(6)引用発明の「モータMを駆動することでボール螺子ナット2を回転させて螺子軸1を直線方向に駆動することが可能であり、螺子軸1の直線運動をモータMのトルクで抑制することもでき」、「ボール螺子ナット2は」「ケース18に回転自在に保持されており」の構成は、モータMを駆動する際又は螺子軸1の直線運動をモータMのトルクで抑制する際にモータがトルクを加えることは当然であるから、上記(1)の相当関係及び(4)の説示を踏まえると、本願発明の「前記モータがトルクを加えて、前記筐体と前記シャフトとの間で前記第2の荷重経路の力を伝達するボールナット」の構成に相当する。
(7)引用発明の「ケース18は、ボールスプラインナット23を保持しており、このボールスプラインナット23は、ボール螺子ナット2の回転駆動によって螺子軸1を直線運動させるため、螺子軸1の回り止めとして機能する」構成は、螺子軸1を回り止めするためにトルクを加えることは明らかであるから、上記(1)の相当関係を踏まえると、「前記シャフトにトルクを加えて、前記筐体に対する前記シャフトの回転を防止するボールスプライン」の構成に相当する。
(8)上記(1)、(3)~(7)の相当関係を踏まえると、引用発明の「螺子軸1」、「ステータコア12及び巻き線13」、「ロータ3及び磁石17」、「ケース18」、「ボール螺子ナット2」、「ボールスプラインナット23」を含む構成は、本願発明の「ボールねじアクチュエータ」に相当する。
(9)上記(8)で説示した引用発明の「螺子軸1」、「ケース18」、「ステータコア12及び巻き線13」、「ロータ3及び磁石17」、「ケース18」、「ボール螺子ナット2」、「ボールスプラインナット23」を含む構成(本願発明の「ボールねじアクチュエータ」に相当する構成)は、上記(4)で説示した、電磁緩衝器EのモータM、ケース18、ボール螺子ナット2、螺子軸1、ロッド5、ダンパ本体6を経由して車体と車軸との間の荷重を伝える第2の荷重経路を形成していると認められる。
(10)上記(3)~(9)の説示を総合すると、引用発明の「電磁緩衝器Eを車両の車体へ連結し、流体圧ダンパDの下端となるダンパ本体6を車両の車軸へ連結」し、「電磁緩衝器Eは、モータMと、モータMのロータ3に連結されるボール螺子ナット2とボール螺子ナット2に螺合する螺子軸1とを備えた運動変換機構Tとを備えて構成されており」、「モータMは」「筒状のケース18内に収容されて固定されており」、「ボール螺子ナット2は」「ケース18に回転自在に保持されており」、「螺子軸1の下部に流体圧ダンパDのダンパ本体6内に挿入されるロッド5を連結され」、「モータMを駆動することでボール螺子ナット2を回転させて螺子軸1を直線方向に駆動することが可能であり、螺子軸1の直線運動をモータMのトルクで抑制することもでき」、「ケース18は、ボールスプラインナット23を保持しており、このボールスプラインナット23は、ボール螺子ナット2の回転駆動によって螺子軸1を直線運動させるため、螺子軸1の回り止めとして機能する」構成は、本願発明の「前記車体と前記ばね下構成要素との間の前記第1の荷重経路に平行な第2の荷重経路を形成するように構成されたボールねじアクチュエータ」の構成に相当する。
(11)引用発明の「モータMは」、「フレーム11内に固定したステータコア12」を備え、「筒状のケース18内に収容されて固定されており」、「ケース18は、ボール螺子ナット2のほかに、ボールスプラインナット23を保持して」いるから、引用発明の「ケース18」、「ステータコア12」及び「ボールスプラインナット23」からなる構成は、上記(1)の相当関係を踏まえると、本願発明の「前記筐体、前記ステータ、及び前記ボールスプラインが、互いに結合されて、固定アセンブリを形成し」の構成に相当する。
(12)引用発明の「モータMのロータ3に連結されるボール螺子ナット2」の構成は、本願発明の「前記ロータ及び前記ボールナットが、互いに結合されて」の構成に相当する。
(13)引用発明の「ボールベアリング22のボール22aがボールねじナット2のナット本体30の外周に形成された環状溝30cと外輪22bの溝を走行するようになっており、ボール螺子ナット2自体がボールベアリング22の内輪として機能するとともに、ケース18にボールベアリング22の外輪22bを固定することでボール螺子ナット2をケース18に固定することが可能となっており、」との構成は、ボール22aがボール螺子ナット2の環状溝30cと外輪22bの溝に保持されることで、ボール螺子ナット2と外輪22bとが軸方向、すなわちスラスト方向の力を受け止めているものということができるので本願発明の「スラスト軸受を用いて前記固定アセンブリに対して回転可能に支持され、かつ軸方向に固定された」構成とは、「スラスト方向の力を受け止める軸受を用いて前記固定アセンブリに対して回転可能に支持され、かつ軸方向に固定された」構成で共通する。
(14)上記(1)及び(11)~(13)の相当関係を踏まえると、引用発明の「ロータ3」及び「ボール螺子ナット2」からなる構成は、本願発明の「前記ロータ及び前記ボールナットが、互いに結合されて、スラスト軸受を用いて前記固定アセンブリに対して回転可能に支持され、かつ軸方向に固定された回転アセンブリを形成し」の構成と「前記ロータ及び前記ボールナットが、互いに結合されて、軸受を用いて前記固定アセンブリに対して回転可能に支持され、かつ軸方向に固定された回転アセンブリを形成し」の点で共通する。
(15)引用発明の「電磁緩衝器Eに連結される環状のエアチャンバ7と、流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8と、エアチャンバ7とエアピストン8とに架け渡される筒状のダイヤフラム9とで画成されるエア室Gによって懸架ばねとして機能するエアばねAS」の構成は、懸架ばねとして機能するエアばねASのエア室Gに加圧ガスを収容することは明らかであり、また、上記(2)で説示したとおり、エア室Gは荷重経路を形成することから、本願発明の「前記ばねは、前記第1の荷重経路の力を伝達する加圧ガスを収容する加圧キャビティを含む空気ばね」の構成に相当する。
(16)引用発明の「モータM内をも上述のエアばねASのエア室Gの一部として機能させる」構成は、本願発明の「前記ロータ及びステータは、前記加圧キャビティ内に収容される」構成と、「モータは、前記加圧キャビティ内に収容される」点で共通する。
上記(1)~(16)から、本願発明と引用発明は次の点で一致する。
[一致点]
「車両の車体と前記車両のばね下構成要素との間の第1の荷重経路を形成するように構成されたばねと、
前記車体と前記ばね下構成要素との間の前記第1の荷重経路に平行な第2の荷重経路を形成するように構成されたボールねじアクチュエータであって、
シャフトと、
筐体と、
前記筐体に結合され、ステータ及びロータを有するモータと、
前記モータがトルクを加えて、前記筐体と前記シャフトとの間で前記第2の荷重経路の力を伝達するボールナットと、
前記シャフトにトルクを加えて、前記筐体に対する前記シャフトの回転を防止するボールスプラインと、
を含むボールねじアクチュエータと、
を備えるサスペンションシステムであって、前記筐体、前記ステータ、及び前記ボールスプラインが、互いに結合されて、固定アセンブリを形成し、前記ロータ及び前記ボールナットが、互いに結合されて、スラスト方向の力を受け止める軸受を用いて前記固定アセンブリに対して回転可能に支持され、かつ軸方向に固定された回転アセンブリを形成し、
前記ばねは、前記第1の荷重経路の力を伝達する加圧ガスを収容する加圧キャビティを含む空気ばねであり、前記モータは、前記加圧キャビティ内に収容される、
サスペンションシステム。」
そして、次の点で相違する。
[相違点1]
スラスト方向の力を受け止める軸受について、本願発明では、「スラスト軸受」であるのに対し、引用発明では、「ボールベアリング22」である点。
[相違点2]
モータが加圧キャビティに収容される点に関し、本願発明では、「ロータ及びステータが加圧キャビティ内に収容される」構成であるのに対し、引用発明では、モータM内もエア室Gの一部として機能するが、ロータ及びステータがエア室Gに収容されるかどうか明らかでない点。
2 判断
(1)相違点についての検討
ア 相違点1について
スラスト方向の力を受け止める引用発明のボールベアリング22の構成をスラスト軸受としての機能をも有すると解すれば、相違点1に係る本願発明の構成は、実質的な相違点であるとはいえない。
また、仮にそうでないとしても、ボールベアリングの一種であるスラスト軸受がスラスト方向の力を受け止める構造を有していることは、例示するまでもなく周知の技術であることを踏まえると、スラスト方向の力を受け止める引用発明のボールベアリング22としてスラスト軸受を選択する程度のことは、当業者にとって何ら困難性はない。
イ 相違点2について
(ア)引用発明におけるエア室Gは「電磁緩衝器Eに連結される環状のエアチャンバ7と、流体圧ダンパDの外周に設けたエアピストン8と、エアチャンバ7とエアピストン8とに架け渡される筒状のダイヤフラム9とで画成される」ものであり、かつ、「モータM内をも」「エア室Gの一部として機能させる」ものであることから、引用発明の「エア室」は、エアチャンバ7、エアピストン8及びダイヤフラム9とで画成される領域とモータM内であるといえる。
(イ)ここで、「モータM内」は、モータMの内部を意味すると認められるところ、モータMの構造について具体的に確認する。引用文献1の段落【0019】に「モータMは、有頂筒状のフレーム11と、フレーム11内に固定したステータコア12と、ステータコア12に巻回される巻線13と、フレーム11の開口端に嵌合される環状のキャップ14と、フレーム11内にボールベアリング15、16を介して回転自在に収容された筒状のロータ3と、ロータ3の外周に装着されてステータコア12に対向する磁石17とを備えて構成されており」と記載されている。そうすると、引用発明のモータMは、有頂筒状のフレーム11とその開口端に嵌合される環状のキャップ14からなる筒状の筐体の内部に空間が形成され、この空間に、ステータコア12や巻線13、ロータ3や磁石17が収容されたものであるといえる。
(ウ)そうすると、モータMの内部とは、有頂筒状のフレーム11と環状のキャップ14によって形成された筒状の筐体の内部空間を指すものと解すのが当然であり、当該内部空間がエア室Gの一部を構成するものであるといえる。
(エ)さらに、引用文献1の段落【0019】の記載によれば、モータMは、筒状のケース18内に収容されて固定されていることから、引用発明のフレーム11及びキャップ14は筒状のケース18内に収容されて固定されていることは明らかである。そして、同【0021】の記載によれば、モータM内をもエアばねASのエア室Gの一部として機能させる、つまり、モータMの内部空間をサスペンション装置Sの外部に対して気密状態に保つために、当該内部空間と当該外部との空気流通部となりうるケース18とフレーム11との間およびフレーム11とキャップ14との間をそれぞれシールリング19、20によって密にシールするものである。
(オ)上記(ウ)及び(エ)を踏まえれば、モータMの内部空間は、サスペンション装置S外部に対して気密状態に保ち、エア室Gの一部として機能するものであるといえる。
(カ)そうすると、上記1(1)の相当関係を踏まえると、引用発明のロータ及びステータは、エア室の一部に収容されるものであるので、本願発明の「前記ロータ及びステータは、前記加圧キャビティ内に収容される」構成に相当する。
よって、相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。
(2)請求人の主張について
ア 相違点2に関して、審判請求人は以下のとおり主張する。
「モータMの上部と下部とはシールリング19、20の位置で流体的に遮断されているので、ロータ3とステータコア12は、シールリング19、20によってエア室Gとは流体的に隔離されたモータM内の領域に配置されていると、素直に理解したはずです。」
「なお、引用文献1には「モータM内でエア室Gの一部として機能させるため、・・・シールリング19、20によって密にシールされている」との記載がありますが、これはモータM内のすべての空間がエア室Gとして機能するわけではなく、モータM内のうちシールリング20からボール螺子ナット2までの限定的な空間(図1において黒の太い実線でハッチングされた領域)がエア室の一部として機能することを意味するものです。すなわち、モータMのロータ3にボール螺子ナット2が連結されるとの記載(段落0018)に基づけば、モータMはフレーム11の頂上部からロータ3が結合されるボール螺子ナット2までの部分となります。上記の通り、モータMのフレーム11とエアチャンバ7に連結されるケース18との間がシールされているだけでなく、モータMのフレーム11とモータMのキャップ14との間までもがシールリング20によって密にシールされていることから、シールリング20はエア室Gからのエアをキャップ14及びシールリング20の位置で遮断していると理解されます。言い換えれば、モータM内のロータ3とステータコア12は、エア室Gからのエアにさらされない(つまり、収容されないことと同義)と解されます。」
「この理解は、引用文献1で先行技術文献として引用されている特許文献1の記載にも裏付けられます。すなわち、引用文献1の発明の前提である特許文献1は、引用文献1のシールリング19及び20に対応する位置にある特許文献1のシールリングについて、「アダプタ14とホルダ5との間、アダプタ14とケーシング11との間、および、ケーシング11とキャップ13との間は、それぞれ、符示しないシールリングによってシールされ、モータM内は気密状態に維持されている。」ことを記載しているからです。
このような技術水準の下で、当業者は、特許文献1と同様に、引用文献1のシールリング19、20はモータM内(より正確にはモータM内のうちシールリング20より上部)を気密状態に維持する効果を有しているものと理解するはずです。」
審判請求書において請求人が示した図1
[図:0001394591000002.jpg]
イ 請求人の上記主張について検討する。
(ア)請求人が「モータMはフレーム11の頂上部からロータ3が結合されるボール螺子ナット2までの部分」と主張する根拠として指摘する段落【0018】には、「電磁緩衝器Eは、モータMと、モータMのロータ3に連結されるボール螺子ナット2とボール螺子ナット2に螺合する螺子軸1とを備えた運動変換機構Tとを備えて構成されており」と記載されている。
この「モータMのロータ3」との記載から、モータMはロータ3を含むものの、「ロータに連結されるボール螺子ナット2」との記載を踏まえると、ボール螺子ナット2はモータMに連結される別の部品であり、モータMの一部を構成するものではないというべきである。これは、引用文献1の段落【0019】の「モータMは、・・・フレーム11と、・・・ステータコア12と、・・・巻線13と、・・・キャップ14と、・・・ロータ3と、・・・磁石17とを備えて構成されて」いるとの記載からも、明らかである。
よって、「モータMはフレームの頂上部からロータ3が結合されるボール螺子ナット2までの部分になります」との請求人の主張は、引用文献1の記載に基づくものであるとはいえず、採用することはできない。
(イ)請求人は、モータMはボール螺子ナット2までを含むものと解した上で、モータM内のうちシールリング20からボール螺子ナット2までの限定的な空間(審判請求書で請求人が示した上記図1参照)をエア室Gとしたものと主張し、その根拠として、「シールリング20はエア室Gからのエアをキャップ14及びシールリング20の位置で遮断していると理解され」ることを挙げている。
しかしながら、引用文献1の段落【0021】の記載によれば、シールリング20は、ケース18とモータMのフレーム11との間及びフレーム11とキャップ14の間をシールするものであり、キャップ14とロータ3の間に介装されたボールベアリング16を流通する空気を遮断するとの記載も示唆もない。また、同【0034】の記載によれば、ボール螺子ナット2はボールベアリング22を介してケース18に回転自在に保持されるものであるが、このボールベアリング22を流通する空気を遮断するとの記載も示唆もない。
そうすると、引用発明のキャップ14とロータ3の間及びボール螺子ナット2及びケース18の間には、シール機能を有しない通常のボールベアリングが介装されていると解するのが自然であり、空気の流通は可能であると解すべきであるといえる。
よって、「シールリング20からボール螺子ナット2までの限定的な空間」をエア室Gとしたとする請求人の主張は、採用することができない。
(ウ)また、請求人は、引用文献1のシールリング19、20はモータM内のうちシールリング20より上部を気密状態に維持するという、請求人の理解は、引用文献1で先行技術文献として引用されている特許文献1(特開2010-91030号公報)の記載にも裏付けられるとも主張する。
しかしながら、特許文献1には、段落【0047】の「アダプタ14とホルダ5との間、アダプタ14とケーシング11との間、および、ケーシング11とキャップ13との間は、それぞれ、符示しないシールリングによってシールされ、モータM内は気密状態に維持されている。」との記載、同【0086】の「上記したようにモータM内は、気密状態とされているので、モータM内も気体室29の一部として機能しており、モータM内の各部および運動変換機構Tが外部とは隔絶される気体室29内に収容され、運動変換機構Tが水や埃等の干渉を受けることがない。」との記載を踏まえると、モータM内は、引用文献1と同様に気体室29の一部となっており、シールリングによってモータM内と気体室29とが隔絶されているとはいえない。
してみれば、特許文献1は、引用文献1のシールリング19、20はモータM内のシールリング20より上部を気密状態に維持することを裏付けているということはできない。
(エ)よって、請求人の上記主張は採用することができない。
(3)まとめ
以上によれば、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 むすび
上記のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、本願発明は、第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-014445