2021-012133
振動式流量メータのノッチフィルタ
- 審判番号
- 2021-012133
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-569297外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年09月10日
- 審決日
- 2022年05月26日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マイクロ モーション インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人 有古特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成29年6月14日を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
同年 4月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 5月11日 :原査定の謄本の送達
同年 9月10日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 本願発明について
本願の請求項1~12に係る発明は、令和3年9月10日に提出された手続補正書により補正された請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。
「【請求項1】振動式メータ(5)のセンサアセンブリ(10)からのセンサ信号をフィルタ処理するように構成されたノッチフィルタ(26)を有しているメータ電子機器(20)であって、前記ノッチフィルタ(26)が、前記センサアセンブリ(10)に通信可能に接続され、前記センサアセンブリ(10)の共振周波数にある第1の成分と、非共振周波数にある第2の成分とで構成されるセンサ信号を、前記センサアセンブリ(10)から受信し、前記第1の成分を通過させ、前記第2の成分を該ノッチフィルタによって実質的に減衰させ、前記第1の成分は、前記ノッチフィルタの通過帯域を介して実質的にゼロの位相シフトで通過され、前記通過帯域は、前記センサアセンブリの前記共振周波数を含む、ように構成されている、メータ電子機器(20)。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願の請求項1に係る発明についての理由の概要は、次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、下記の引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
第4 当審の判断
1 引用文献等
(1) 引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
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原査定の拒絶の理由において引用した引用文献1(特表2009-509163号公報)には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同様である。)。
「【0002】典型的には、コリオリ流量計や振動管密度計のような振動管路センサは、流動物質を含む振動管路の運動を検出することによって動作する。管路における物質に関連する質量流量、密度などの特性は、管路に関連する運動変換器から受信される測定信号を処理することによって決定することができる。一般に、振動物質で充填された系の振動モードは、収容する管路とそこに含まれる物質との結合された質量、剛性及び減衰特性によって影響される。【0003】振動型流量計の管路は1つ以上の流管を備えることができる。流管は共振周波数で振動するよう強制され、管の共振周波数は流管における流体の密度に比例する。管の入力側及び出力側に配置されたセンサが、管の端部間の相対振動を測定する。流れ期間に、振動管と流れる質量とがコリオリの力に起因して結合され、管の端部間での振動に位相ずれを生じさせる。位相ずれは質量流量に正比例する。続きを表示(全14行)【0004】典型的なコリオリ質量流量計は、パイプライン又は他の移送システムにおいてインライン接続されていて流体やスラリ等の物質をシステムにおいて運搬する1つ以上の管路を備える。それぞれの管路は、単純な曲げモード、捻れモード、放射モード、結合モードなどを含む一組の固有振動モードを持つものとみなされる。典型的なコリオリ質量流量測定の応用においては、物質が流れるとき、管路は1つ以上の振動モードで励振され、管路の運動が管路に沿って離れた点で測定される。典型的には、励振は、管路を周期的に振動させるボイスコイル型駆動装置のような例えば電気機械的な装置であるアクチュエータによって提供される。質量流量は、変換器の位置における運動間の時間遅延又は位相差を測定することによって決定される。典型的には、1つ又は複数の流管の振動応答を測定するために、2つのこうした変換器(又はピックオフ・センサ)が用いられ、典型的にはアクチュエータの上流側又は下流側の位置に配置される。2つのピックオフ・センサはケーブルによって電子的機器に接続される。機器は2つのピックオフ・センサから信号を受け取り、その信号を処理して質量流量測定値を導出する。【0005】2つのセンサ信号間の位相差は、1つ又は複数の流管を通って流れる物質の質量流量と関係付けられる。物質の質量流量は2つのセンサ信号間の時間遅延に比例し、したがって、質量流量は、時間遅延に流れ校正係数(FCF)を乗じることによって決定される。この場合、時間遅延は位相差を周波数で割ったものである。FCFは物質特性と流管の断面特性とを反映する。従来技術においては、FCFは、流量計をパイプライン又は他の管路に設置する前に校正処理によって決定される。校正処理においては、所与の流量で流体を流管に流し、位相差と流量との比率を計算する。【0006】コリオリ流量計の1つの利点は、測定される質量流量の精度が流量計における運動要素の摩耗によって影響されないことである。流量は、流管の2つの点の間の位相差に流れ校正係数を乗じることによって決定される。唯一の入力は、流管上の2つの点の振動を示すセンサからの正弦波信号である。位相差はこうした正弦波信号から計算される。振動する流管には運動要素はない。したがって、位相差の測定及び流れ校正係数は流量計の運動要素の摩耗によって影響されない。【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0007】FCFは流量計組立体の剛性特性と関係付けられる。流量計組立体の剛性特性が変化すると、FCFも変化する。したがって、変化は、流量計によって生成される流量測定値の精度に影響する。流管の物質特性及び断面特性の変化は、例えば浸食又は腐食によって生じる。したがって、流量計の精度を高レベルに維持するために、流量計組立体の剛性の変化を検出及び/又は定量化することができることが極めて望ましい。」
「【0011】本発明の実施の形態にしたがって、流量計のための流量計電子装置が提供される。この流量計電子装置は、流量計から3つ以上の振動応答を受け取るインタフェースを備える。3つ以上の振動応答は、実質的基本周波数応答と2つ以上の非基本周波数応答とを含む。更に流量計電子装置は、インタフェースと通信する処理システムであって、インタフェースから3つ以上の振動応答を受け取り、3つ以上の振動応答から極-剰余周波数応答函数を生成し、極-剰余周波数応答函数から少なくとも剛性パラメータ(K)を決定するよう構成される処理システムを備える。」
「【0061】図1は、流量計組立体10と流量計電子装置20とを備える流量計5を示している。流量計組立体10は処理物質の質量流量及び密度に応答する。流量計電子装置20はリード線100を介して流量計組立体10と接続されて、経路26上に密度、質量流量及び温度の情報を提供するばかりでなく、本発明に無関係の他の情報を提供する。コリオリ質量流量計について説明するが、当業者には明らかなとおり、本発明は、コリオリ質量流量計によって提供される追加の測定能力なしに、振動管密度計としても実施可能である。」
「【0068】図2は、本発明の実施の形態に係る流量計電子装置20を示している。流量計電子装置20はインタフェース201と処理システム203を備える。流量計電子装置20は例えば流量計組立体10から振動応答210を受け取る。流量計電子装置20は振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得する。更に、本発明に係る流量計電子装置20において、振動応答210は流量計組立体10の合成パラメータKを決定するために処理される。また、流量計電子装置20は、流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出するために、2つ以上の振動応答を時間に関して処理することができる。剛性の決定は流れ条件又は流れ無しの条件の下で行われ得る。流れ無しでの決定は、結果としての振動応答におけるノイズ・レベルの低減という利点を提供する。」
「【0151】図6は、本発明の実施の形態に係る流量計の剛性パラメータ(K)を決定する方法のフロー図600である。ステップ601において、3つ以上の振動応答を受信する。3つ以上の振動応答は流量計から受信される。3つ以上の振動応答は、実質的基本周波数の応答と2つ以上の非基本周波数応答とを含むことができる。1つの実施の形態においては、基本周波数応答よりも高い1つのトーンと基本周波数応答よりも低い1つのトーンとが受信される。他の実施の形態においては、基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーンとが受信される。【0152】1つの実施の形態においては、トーンは基本周波数応答の上及び下に実質的に等間隔で配置される。代わりに、トーンは等間隔には配置されない。続きを表示(全31行)ステップ602において、3つ以上の振動応答から、1次の極-剰余周波数応答が生成される。1次の極-剰余周波数応答は式(23)で与えられる形式を取る。ステップ603において、1次の極-剰余周波数応答から質量パラメータ(M)が決定される。質量パラメータ(M)は振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)とを決定することによって決定される。次いで、一次極(λ)及び一次剰余(R)から、固有周波数ωn、減衰された固有周波数ωd及び減衰特性ζが決定される。その後、減衰された固有周波数ωdと剰余Rと虚数項(j)とを式(17)に代入して質量パラメータ(M)を取得する。【0153】ステップ604において、式(18)の解から剛性パラメータ(K)が決定される。解は固有周波数ωnとステップ603で決定された質量パラメータ(M)とを用いており、これらを式(18)に代入することにより、剛性パラメータ(K)を得ることができる。ステップ605において、式(19)の解から、減衰パラメータ(C)が決定される。解は、減衰特性(ζ)、固有周波数ωn及び決定された質量パラメータ(M)を用いる。【0154】図7は、本発明の実施の形態に係る極(λ)及び剰余(R)の解の実装を示している。実装は式(23)に従う。FRF入力は図の左側において行われる。これらのFRF入力は、この実施の形態においてFRF係数が計算される5つの周波数(4つの試験周波数と1つの駆動周波数)である。FRF_L及びFRF_R入力は、式(23)における【0155】[図:0001390227000001.jpg]【0156】に対応する、それらの周波数で計算される駆動装置-ピックオフ複素FRF係数である。FRF係数はQRソルバ・ブロック701のB入力へ伝えられる。QRソルバ・ブロック701に対するA行列が、項毎にFRF係数をjωで割ることで形成されるが、この行列は式(23)に準拠する1と0の列を含む。この行列は適切な[10x3]複素次元へ再整形されて、QRソルバ・ブロック701のA入力へ伝えられる。QRソルバ・ブロック701のxベクトル出力は左の剰余RL、右の剰余RR及び極λを含む。これらの出力はQRソルバ・ブロック701から出力されて処理され、システム・パラメータを生成する。【0157】図8は、本発明の実施の形態に係るシステム・パラメータM、C、Kの計算を示すブロック図である。実現形態は式(14)~(16)及び式(17)~(19)によって極及び剰余からシステム・パラメータM、C、Kを決定する。剰余は実正常モード・モデルに対しては純粋に虚数である。しかし、測定データにおける雑音に起因して、及び、モデル当てはめ数値精度の問題に起因して、常に幾らかの実数部分が存在する。したがって、剰余の絶対値が用いられ、これは式(17)に関してjによる除算と同様の効果を有する。質量及び剛性は、式(17)、(18)に関して極と剰余を用いることによって計算される。留意されるように、「左」と「右」の質量及び剛性が、即ち、LPO/駆動装置のFRFとRPO/駆動装置のFRFとから計算される質量及び剛性が存在する。質量と剛性の推定値は、コイルと磁石との非対称及び構造自体の非対称に起因して左右で相違する。差の変化又は差の比は質量又は剛性の不均一な変化を示すので、流量計のFCF又は完全性の変化に関する追加の診断情報を与えるように利用することができる。【0158】システム・パラメータ計算からの他の2つの出力は減衰係数ζと固有周波数ωnである。この実施の形態は、一層過剰決定された又は良好に推定されたグローバル・パラメータの組を与える。【0159】ωnの推定値は、閉じた駆動システムに対する良好な品質チェックとなる。駆動装置が共振状態で動作していれば、駆動周波数は固有周波数推定値に対して数ミリHz以内にあるはずである。差が数ミリHzよりも大きいならば、警告フラグがセットされ、駆動システムが正常に動作していないこと、又は、現在の剛性推定値が疑わしいことを示す。【0160】図9は、本発明の実施の形態に係る、FRFに基づく剛性推定システム全体を示している。剛性推定サブシステムに対する7つの別個の入力があり、信号源(上左の5つと最も右の2つ)である五角形によって示されている。「RawDrive」及び「RawPOs」入力は、ピックオフ電圧と駆動電流の生の読みである。これらの信号は例えばデシメーションよって2kHzまでダウンサンプリングされ、FRF係数推定サブシステムへ供給される。「CmdmA」入力は、対応するデジタル駆動システムの出力から取られた指令電流である。「剛性イネーブル」推定値は論理入力であり、FCF検証アルゴリズムが活性状態にあるときをデジタル駆動システムが制御できるようにする。「freq」入力は、デジタル駆動システムによって推定された駆動周波数であり、試験信号生成器サブシステム及び剛性計算サブシステムへ入力される。【0161】FRF剛性計算ブロック902は、システム・パラメータ推定値MLt、MRt、KLt、KRt、ζ及びFreqEstを出力する。これらはFCF検証に用いられる一次診断出力である。また、図は、駆動周波数を固有周波数と比較することによって上記の品質チェックを実施する周波数差警告ブロック903及び周波数差エラー・ブロック904を示している。【0162】通常、FRFの測定には電流測定が必要であり、追加のアナログ・デジタル(A/D)変換器を必要とする。しかし、この実施の形態は校正された指令電流を用いるので、追加のA/D変換器の必要性を回避している。CL入力選択ブロック906及びCL出力訂正ブロック907は計算アルゴリズムを実施する。計算プロセスは、制御論理の1つの状態における指令電流(CmdmA)に対する実際の「RawDrive」電流の周波数応答函数を計算するために「試験信号FRF」ブロック901を使用する。FCF検証論理状態の期間に、生のPOsと指令電流との間のFRFが計算され、指令電流に対する生のFRF係数によって訂正されて、更なる処理に用いられるFRFが与えられる。【0163】FRF剛性推定アルゴリズムは、図の中央左側に「試験信号」出力を出力する。この試験信号出力は、出力直前の駆動指令に追加される4つの試験周波数での励振を含む。これらの試験信号は、FCF検証がイネーブルされると、デジタル駆動信号に追加される。【0164】論理は、FCF検証がオフのとき、デジタル駆動信号はスイッチその他の装置を通過し、補間フィルタによって基本速度(典型的には4kHz)から適宜の出力速度(典型的には8kHz)へアップサンプリングされる。FCF検証がイネーブルされると、2kHzから4kHzへアップサンプリングされた試験信号がデジタル駆動信号に追加される。こうして、駆動信号は閉ループ駆動周波数信号と4つの試験トーンをからなり、それら全部の信号はアップサンプル・フィルタを通過する。【0165】FCF検証手順は駆動システムに対して透明であることが望ましい。1つの実施の形態においては、試験信号は、閉ループ駆動に対する良好な周波数・振幅推定を保証するためにピックオフから除去される。これは、試験信号の周波数そのものに同調された一組のノッチ・フィルタによって行われる。」
「【図1】[図:0001390227000002.jpg]」
「【図2】[図:0001390227000003.jpg]」
「【図6】[図:0001390227000004.jpg]」
「【図7】[図:0001390227000005.jpg]」
「【図8】[図:0001390227000006.jpg]」
「【図9】[図:0001390227000007.jpg]」
イ 引用発明の認定
上記アにおいて摘記した事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「流量計組立体10と流量計電子装置20とを備える流量計5であって、流量計組立体10は、処理物質の質量流量及び密度に応答するものであり、(【0061】)流量計電子装置20は、リード線100を介して流量計組立体10と接続され、インタフェース201と処理システム203を備えており、流量計組立体10から振動応答210を受け取り、振動応答210を処理して流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得するものであり、振動応答210は流量計組立体10の剛性パラメータKを決定するために処理され、(【0061】、【0068】)処理システム203は、3つ以上の振動応答をインタフェース210から受け取り、3つ以上の振動応答は実質的基本周波数応答と2つ以上の非基本周波数応答とを含み、処理システム203は、3つ以上の振動応答から極-剰余周波数応答函数を生成し、極-剰余周波数応答函数から少なくとも剛性パラメータKを決定するよう構成され、(【0011】、【0151】)FRF剛性推定アルゴリズムでは、出力直前の駆動指令に追加される4つの試験周波数での励振を含む試験信号が出力され、これらの試験信号は、FCF検証がイネーブルされると、デジタル駆動信号に追加され、(【0163】)FRF剛性計算ブロック902は、システム・パラメータ推定値MLt、MRt、KLt、KRt、ζ及びFreqEstを出力し、これらはFCF検証に用いられる一次診断出力であり、(【0161】)システム・パラメータ計算出力である固有周波数ωnの推定値は、閉じた駆動システムに対する良好な品質チェックとなり、駆動装置が共振状態で動作していれば、駆動周波数は固有周波数推定値に対して数ミリHz以内にあるはずであるが、差が数ミリHzよりも大きいならば、警告フラグがセットされ、駆動システムが正常に動作していないこと、又は、現在の剛性推定値が疑わしいことが示され、(【0158】~【0159】)FCF検証手順は駆動システムに対して透明であることが望ましく、試験信号は、閉ループ駆動に対する良好な周波数・振幅推定を保証するためにピックオフから除去され、これは、試験信号の周波数そのものに同調された一組のノッチ・フィルタによって行われる、(【0165】)流量計5。」
(2) 引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
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原査定の拒絶の理由において引用した引用文献2(森 貴彦「零位相差ノッチフィルタとモデル予測制御を用いた天井クレーンの遠隔操縦システムに関する研究」、計測自動制御学会論文集、公益社団法人計測自動制御学会、2013年、Vol.49、No.1、2~10頁)には、以下の記載がある。
(ア) 2頁左欄9~13行
「クレーンの吊り荷揺れ止め制御を施す場合、クレーンの位置を目標軌道どおりに駆動させるフィードフォワード制御と、残留振動の抑制に優れたフィードバック制御、さらに、それらを組み合わせた2自由度制御などが提案されている。」
(イ) 2頁右欄4~8行
「この問題に対して筆者は、天井クレーンの遠隔操縦システムにおいて、非定型な目標値に対する応答、振動励起の抑制、残留振動の抑制、およびオペレータの直感的な操作を実現するため、ノッチフィルタ切替法による位置決め操作支援法を提案している。」
(ウ) 2頁右欄20行~3頁左欄9行
「ところが、文献9)、10)で述べているように、アナログノッチフィルタを用いた周波数整形による支援だけでは、ノッチフィルタの中心周波数付近の位相差に起因して、ノッチフィルタの入出力信号の非同期性が見かけの“慣性”を生じてしまい、オペレータにとって止めづらく失敗しやすいことが判明している。したがって、マスタ側の補償器として、アナログノッチフィルタと同等の減衰特性を有し、位相差の少ないディジタルノッチフィルタの実現が必要である。そこで、筆者は先に、熊谷らが提案した零位相差ノッチフィルタを本システムのマスタ側の補償器として適用して、ノッチフィルタの切替を伴わない位置決め操作支援法を提案している。零位相差ノッチフィルタは、完全直線位相特性を有するFIRディジタルフィルタの基礎理論に基づいて設計されたもので、全周波数帯域において位相遅れをもたず、波形歪みを受けない特徴をもつ。」
(エ) 4頁左欄18行~同頁右欄12行
「マスタ側の支援法として、文献13)で提案した零位相差ノッチフィルタを用いた支援法(以降、PA-ZPNF:Power Assist with Zero Phase Notch Filter)について述べる。Fig.3に零位相差ノッチフィルタを付加したマスタ環境の制御系のブロック線図を示す。図中、τ(t)はオペレータの操作トルク、GZPNF(z)は零位相差ノッチフィルタの伝達関数、vmref(t)はマスタアームの速度指令電圧、sfはパワーアシストの増幅ゲインである。また、xm(t)はオペレータによる操作量(マスタアームの変位量)、spはマスタからスレーブへのスケール変換ゲイン、xsref(t)は天井クレーンへの位置指令信号である。特に、速度指令電圧vmref(t)は次式で表される。[図:0001390227000008.jpg][図:0001390227000009.jpg]である。ただし、δφl、δψl(l=0,1,・・・、h)は、おのおの1次ローパスフィルタω1/(s+ω1)、ω2/(s+ω2)のインパルス応答の各サンプリング値である。また、hはインパルス応答のサンプル数、mは零位相差ノッチフィルタのゲイン特性を調整するパラメータ、η(=h×m)はその次数である。零位相差ノッチフィルタGZPNF(z)は、第1の零位相差ローパスフィルタGZPLPF1(z)((6)~(8)式)と、第2の零位相差ローパスフィルタGZPLPF2(z)((9)~(11)式)から得られる零位相差ハイパスフィルタGZPHPF2(z)((5)式)との和((2)式)をとることにより実現できる。」
「[図:0001390227000010.jpg]」
イ 引用文献2技術事項の認定
上記アに摘記された事項を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献2技術事項]
「完全直線位相特性を有するFIRディジタルフィルタの基礎理論に基づいて設計された零位相差ノッチフィルタは、全周波数帯域において位相遅れをもたないこと。また、その伝達関数GZPNF(z)が次の(3)式のような形式であること。[図:0001390227000011.jpg]」
(3) 引用文献4~6
ア 引用文献4の記載事項
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当審において、技術常識を示す文献として新たに引用する特表2002-505415号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。
「【0004】各コリオリ流量計及び各振動管型濃度計の典型的な構成要素は、駆動システム即ち励振システムである。駆動システムは、管路を振動させる周期的な物理的作用力を管路へ印加するように動作する。当該駆動システムは、流量計の管路に取付けられた少なくとも1つの駆動装置を備える。典型的には、駆動機構は、例えば、1本の管路に磁石が取付けられ他の管路にワイヤ・コイルが磁石と対向する関係で取付けられているボイス・コイルのような、多くの周知の装置の1つを備える。駆動回路は、周期的な、典型的には正弦波状又は方形状の駆動信号を連続的に駆動コイルへ印加する。周期的な駆動信号に応答して前記コイルにより生成される連続的な交番磁界と磁石により生成される一定の磁界との相互作用により、両方の管路は最初に、反対の正弦波パターンで振動するよう強制され、以後、この正弦波パターンが維持される。当業者は、電気信号を機械的作用力へ変換することができる任意の装置が駆動装置としての応用に適することを認識する(Carpenterに発行されMicroMotion社へ譲渡された米国特許第4,777,833号参照)また、正弦波信号を用いる必要はなく、むしろ、任意の周期的信号が駆動信号として適していることもある(Kalotay等に発行され名義がMicroMotion社へ譲渡された米国特許第5,009,109号参照)。【0005】コリオリ流量計が振動するように駆動される典型的なモードは、第1位相ずれ曲げモードであるが、これが唯一のモードではない。この第1位相ずれ曲げモードは、2重管型コリオリ流量計の2本の管が相互に逆に振動する基本曲げモードである。しかし、これは、第1位相ずれ曲げモードで駆動されるコリオリ流量計の振動構造に存在する唯一の振動モードではない。無論、励振される高次の振動モードがある。また、振動流管内に流れる流体とその結果生じるコリオリ力の結果として、他のモードと同様に励振される第1位相ずれ捩れモードも存在する。同相振動モード及び横方向振動モードもまた存在する。結局、第1位相ずれ曲げモードで振動するよう駆動されるコリオリ流量計には、実際に励振される数百の振動モードが存在する。第1位相ずれ曲げモード付近の比較的狭い周波数範囲内でさえ、少なくとも更に幾つかの振動モードが存在する。流管の駆動励振により励振されている多数のモードに加えて、流量計の外部での振動によりモードが励振され得る。例えば、プロセス・ラインのどこかに配置されたポンプがパイプラインに沿う振動を生じ、これがコリオリ流量計に1つの振動モードを励振する。付加的な望ましくないモードがコリオリ流量計に励振されることがある別の理由は、駆動要素が流管上で対称的に配置されていない如き製造公差が存在する場合である。この結果、駆動装置が偏心的な作用力を流管に加えるので、多数の振動モードを励振することになる。このように、第1位相ずれ曲げモードで振動あるいは共振するよう駆動されるコリオリ流量計は、実際には、第1位相ずれ曲げモードに加えて多くのモードで振動する管路を有する。第1位相ずれ曲げモード以外のモードで振動するよう駆動された流量計は、意図される駆動モードに加えて、多数の励振モードの同じ現象を経験する。【0006】現存の駆動システムは、典型的にはピックオフ・センサ信号の1つであるフィードバック信号を処理して駆動信号を生じる。不都合なことに、この駆動フィードバック信号は、所望の励振モードに加えて他のモードからの応答を含んでいる。このため、駆動フィードバック信号は、周波数領域フィルタによりフィルタ処理されて不要な成分が除去され、フィルタ処理された信号は次いで増幅されて駆動装置に印加される。しかし、駆動フィードバック信号をフィルタ処理するため用いられる周波数領域フィルタは、1つの所望の駆動モードを駆動フィードバック信号に存在する他のモード応答から分離するのには有効でない。所望のモード共振周波数に近い他のモードからの非共振応答が生じ得る。また、所望の共振周波数にほぼ等しい周波数における共振応答もあり得る。いずれの場合も、フィルタ処理された駆動フィードバック信号、即ち、駆動信号は、典型的には、流管の励振のための所望モード以外の周波数におけるモード内容を含んでいる。多数のモード入力からの共振応答からなる駆動信号は、駆動装置を介して、駆動信号がモード内容を含む各モードを励振する流管に対してエネルギを入力する。このようなマルチモード駆動信号は、コリオリ流量計において動作上の諸問題を生じる。更に、周波数領域フィルタは、フィルタ処理された駆動信号に位相遅れを生じる。この結果、流管を所望の振幅で駆動するために一層大きな駆動電力が必要となる。」
イ 引用文献5の記載事項
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当審において、技術常識を示す文献として新たに引用する特表平10-503017号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。
(ア) 9頁6行~23行
「コリオリ質量流量計内を流れる物質の特性に関する情報は、典型的には、流量計のセンサの2つの出力信号間の位相または時間遅れを測定する計装によって得られる。得られる流量情報は読み取り値の少なくとも0.15%の精度を有することが要求される場合が多いので、これらの測定は高精度で行わなければならない。これらの流量計出力信号は正弦波状であり、物質が通過する流量計によって発生されるコリオリ力によって決定される量だけ、時間または位相が変位する。これらのセンサ出力信号を受信する信号処理回路は、この位相差を正確に測定し、流れているプロセス物質の所望の特性を読み取り値の少なくとも0.15%という要求精度で発生する。これらの精度を達成するためには、信号処理回路は、流量計から受信する2つの信号の位相ずれを測定する際に正確に動作することが必要である。流量計の2つの出力信号間の位相ずれは処理回路が物質の特性を得るために用いる情報であるから、処理回路は位相ずれを全く起こしてはならない。位相ずれが起きると、流量計の出力信号によって与えられる位相ずれ情報が隠されてしまうことになる。実際には、この処理回路は固有の位相ずれが非常に小さく、各入力信号の位相のずれは0.001°未満、場合によっては数ppm未満であることが必要となる。この程度の位相精度は、プロセス物質に関して得られる情報の精度を0.15%未満とする場合に要求される。」
(イ) 10頁21行~11頁9行
「良好な回路設計は、電子機器におけるノイズおよび環境における周囲ノイズに関する若干の問題を克服することができる。しかしながら、出力信号の信号対ノイズ比の改善は、フィルタを使用しなければ達成できない。しかし、フィルタは処理対象の信号の振幅および位相を変えてしまう。これは望ましいことではない。何故なら、2つの信号間の時間遅れは、プロセス流体の特性を得るために用いられる基礎情報となるからである。振幅および/または位相特性が未知の又は変動するフィルタを用いると、2つのセンサ出力信号間の位相差を容認できないほどに変えてしまったり、流れている物質の精度の高い情報の入手が阻害される可能性がある。通常、流量計の駆動信号は、調整した後にピック・オフ出力信号の1つから得られ、位相がずらされ、流量計の駆動コイルのための正弦波駆動電圧を生成するのに用いられる。これには、ピック・オフ信号に含まれる高調波やノイズ成分が増幅され、駆動コイルに印加されるので、それらの共振周波数で流管を振動させるという欠点がある。しかしながら、好ましくない機械的振動や電気的干渉によって望ましくない駆動信号が発生され、流量計の駆動回路にフィードバックされて閉ループにより強められるので、比較的大きな振幅の自己永続する妨害信号を生じ、これが更に時間遅れ測定の正確さおよび精度を低下させるに至る。」
ウ 引用文献6の記載事項
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当審において、技術常識を示す文献として新たに引用する特開2016-43417号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の記載がある。
「【0110】ところで、フィルタ処理において複数の周波数帯を抑制したい場合や周波数帯を大きく低減させたい場合には、FIRフィルタの次数(n)を位相差が無視できるほど十分に小さくすることができないことがある。そのため、図3に示したように、どうしても位相遅れが生じることになる。このような位相遅れが生じると、PTP(PointTo Point)動作のように単純な移動目的の動作であればそれほど大きな問題にはならないものの、CP(Continuous Path)動作のように連続的に軌跡に追従させる動作の場合には軌跡がずれる等の問題が生じるおそれがある。【0111】そこで、本実施形態では、上記したa)~c)の制約を満足し、且つ、以下に説明するように零位相差特性を備えたFIRフィルタを実現している。続きを表示(全15行)一般的に、零位相差のFIRフィルタ(Gz(z))は、次の(40)式のように表すことができ、この(40)式に次の(41)式を代入すると、次の(42)式が得られる。【0112】[図:0001390227000012.jpg]【0113】この(42)式は、次の(43)式の展開式に示すように、虚数jが掛かる項が互いに相殺されることから、右辺は必ず実数となる。【0114】[図:0001390227000013.jpg]【0115】つまり、(43)式は、右辺が必ず実数となることから、位相遅れを生じさせないことを示している。また、(43)式は、位相遅れを生じさせないためには、インパルス応答がm(=n/2)を中心として対称であること、および、mステップ分の未来値が必要となることを示している。なお、インパルス応答がm(=n/2)を中心として対称であるということは、FIRフィルタの係数が対称であることと同義である。そのため、上記したa)~c)の制約を満足するFIRフィルタに位相遅れを生じさせない特性を与えることで、零位相差特性を備えたFIRフィルタを実現することができる。具体的には、インパルス応答を対称としたい場合には、次の(44)式の等式制約を与えることで実現することができる。」
エ 技術常識の認定
(ア) 技術常識1
引用文献4の段落【0006】、引用文献5の前記(ア)及び(イ)の記載から、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)。
[技術常識1]
「コリオリ流量計の駆動システムにおいて、駆動フィードバック信号に含まれる所望の励振モード以外の不要な成分を周波数領域フィルタにより除去すると、フィルタ処理された駆動信号に望ましくない位相遅れを生じさせてしまうこと。」
(イ) 技術常識2
引用文献6の段落【0110】~【0115】の記載から、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という。)。
[技術常識2]
「FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)の伝達関数の係数が式(40)に示されるように対称であるときは、そのFIRフィルタは位相遅れを生じさせないこと。[図:0001390227000014.jpg]」
2 対比・判断について
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「流量計5」の「流量計組立体10」は「処理物質の質量流量及び密度に応答するものであり」、「流量計電子装置20」は「流量計組立体10から振動応答210を受け取り、振動応答210を処理して流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得するもの」であるから、引用発明の「流量計5」は、本願発明の「振動式メータ(5)」に相当し、引用発明の「流量計組立体10」は、本願発明の「センサアセンブリ(10)」に相当し、引用発明の「流量計電子装置20」は、本願発明の「メータ電子機器(20)」に相当する。
イ 引用発明の「流量計電子装置20」が「受け取」る「振動応答」は、本願発明の「振動式メータ(5)のセンサアセンブリ(10)からのセンサ信号」に相当する。
ウ 引用発明の「流量計電子装置20」が備える「処理システム203」の「受け取」る「3つ以上の振動応答」に含まれる「実質的基本周波数応答」及び「2つ以上の非基本周波数応答」は、それぞれ本願発明の「前記センサアセンブリ(10)の共振周波数にある第1の成分」及び「非共振周波数にある第2の成分」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「前記センサアセンブリ(10)の共振周波数にある第1の成分と、非共振周波数にある第2の成分とで構成されるセンサ信号を、前記センサアセンブリ(10)から受信」する点で一致する。
エ 引用発明の「FRF剛性推定アルゴリズムでは、出力直前の駆動指令に追加される4つの試験周波数での励振を含む試験信号が出力され、これらの試験信号は、FCF検証がイネーブルされると、デジタル駆動信号に追加され」るところ、この「4つの試験周波数での励振」に対する振動応答は、「2つ以上の非基本周波数応答」であるから、本願発明の「センサ信号」の「非共振周波数にある第2の成分」に相当する。
オ 引用発明では、「FCF検証手順は駆動システムに対して透明であることが望ましく、試験信号は、閉ループ駆動に対する良好な周波数・振幅推定を保証するためにピックオフから除去され」るところ、「駆動システムに対して透明である」とは、試験信号による振動応答が閉ループ駆動に影響を与えることがなく、共振周波数に対応した駆動信号による振動応答のみが閉ループ駆動に関わるようにすることを意味する。
そうすると、引用発明では、「流量計電子装置20」が「受け取」る「3つ以上の振動応答」のうち「2つ以上の非基本周波数応答」は除去されるものの、「実質的基本周波数応答」は除去されないと考えられる。
そして、この除去は「試験信号の周波数そのものに同調された一組のノッチ・フィルタによって行われる」から、引用発明の「ノッチ・フィルタ」は、本願発明の「センサ信号をフィルタ処理するように構成されたノッチフィルタ(26)」であって、「前記センサアセンブリ(10)に通信可能に接続され」、「前記第1の成分を通過させ」、「前記第2の成分を」「実質的に減衰させ」る「ノッチフィルタ(26)」に相当する。
さらに、引用発明では、「駆動装置が共振状態で動作していれば、駆動周波数は固有周波数推定値に対して数ミリHz以内にあるはずである」から、引用発明の「ノッチ・フィルタ」の通過帯域は、共振状態で動作している駆動装置の駆動周波数を含んでいることは自明であり、このことは、本願発明の「前記ノッチフィルタの通過帯域」は、「前記センサアセンブリの前記共振周波数を含む」ことに相当する。
カ 上記ア~オの対比結果をまとめると、本願発明と引用発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。
[一致点]
「振動式メータのセンサアセンブリからのセンサ信号をフィルタ処理するように構成されたノッチフィルタを有しているメータ電子機器であって、前記ノッチフィルタが、前記センサアセンブリに通信可能に接続され、前記センサアセンブリの共振周波数にある第1の成分と、非共振周波数にある第2の成分とで構成されるセンサ信号を、前記センサアセンブリから受信し、前記第1の成分を通過させ、前記第2の成分を該ノッチフィルタによって実質的に減衰させ、前記通過帯域は、前記センサアセンブリの前記共振周波数を含む、ように構成されている、メータ電子機器。」
[相違点]
本願発明では、「前記第1の成分は、前記ノッチフィルタの通過帯域を介して実質的にゼロの位相シフトで通過され」るのに対して、引用発明では、そのような構成は明示されていない点。
(2) 判断
上記相違点について以下検討する。
ア 「コリオリ流量計の駆動システムにおいて、駆動フィードバック信号に含まれる所望の励振モード以外の不要な成分を周波数領域フィルタにより除去すると、フィルタ処理された駆動信号に望ましくない位相遅れを生じさせてしまうこと。」は技術常識であるから(技術常識1を参照。)、引用発明においても、試験信号の周波数そのものに同調された一組のノッチ・フィルタによって試験信号の除去が行われるとき、ノッチフィルタを通過した「実質的基本周波数応答」の成分に位相遅れが伴うという問題があることは明らかである。
イ ここで、引用文献2技術事項に開示された「零位相差ノッチフィルタ」は「全周波数帯域において位相遅れをもたない」ものであるから、引用発明において、ノッチフィルタを通過した「実質的基本周波数応答」の成分に望ましくない位相遅れが伴うという問題を解決するために、このような「零位相差ノッチフィルタ」を採用して、「実質的基本周波数応答」の成分が、ノッチフィルタの通過帯域を介して実質的にゼロの位相シフトで通過されるようにすることにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、引用文献2技術事項の「零位相差ノッチフィルタ」の伝達関数GZPNF(z)は(3)式に示されるように係数が対称であるから、技術常識2のFIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)の伝達関数(40)式と同様の形式を有している。このことを踏まえると、引用文献2技術事項の「零位相差ノッチフィルタ」が位相遅れを生じさせないディジタルフィルタとして汎用性のあることは明らかである。
ウ そして、本願発明の奏する効果は引用発明、引用文献2技術事項及び技術常識1、2から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2技術事項及び技術常識1、2に基づいて当業者が容易になし得たものである。
(3) 請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要
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請求人は、審判請求書において概略、以下の(ア)~(カ)に示す主張をしている。
(ア) 「引用刊行物1は、駆動信号の位相シフトについて決して言及していない。引用刊行物1は、ノッチフィルタによって通過される成分のいかなる特性についても決して述べていない。」
(イ) 「請求項1では、位相遅れなしのジェネリックフィルタを単に対象としておらず、一方で、代わりに、実質的にゼロの位相シフトで第1の成分を通過させている間に、第2の成分を実質的に減衰させるべきであるノッチフィルタを対象としている。さらに、第1の成分は、センサアセンブリの共振周波数にあり、したがって、第1の成分の周波数が変化している。」
(ウ) 「引用刊行物1は、試験信号の正確な周波数に調整されるノッチフィルタのセットについて単に述べているのみであり、引用刊行物2は、天井クレーンの共振周波数に中心に合わされ、加えて、Fig.9でプロットの全周波数にわたって減衰する、減衰帯域を用いるノッチフィルタを単に述べているのみである。ノッチフィルタの設計を示すFig.10もまた参照される。すなわち、引用刊行物1、2は、周波数で中心に合わされる減衰帯域にわたって信号を減衰する様々なノッチフィルタを単に記述している。その結果、引用刊行物1、2は、単独でまたは組み合わせても、ゼロの位相シフトで通過される第1の成分について教示または提案しておらず、また、実質的にゼロの周波数シフトで第1の成分を通過させている間に、第2の成分を減衰させるよう構成されたノッチフィルタについても教示または提案していない。」
(エ) 「仮に引用刊行物2が「請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する」と言えるとしても、引用刊行物1、2はいずれも解決すべき問題と請求項の解決策を示唆しておらず、したがって、引用刊行物1、2を組み合わせて請求項の解決策に到達する動機付けがない。さらに、引用刊行物1、2はいずれも、ある周波数を中心とした減衰帯域を持つ単純なノッチフィルタを記述しているだけなので、第1の成分を実質的にゼロの位相シフトで通過させながら第2の成分を減衰させることは、明らかには集合体にならない。また、現行の請求の範囲は、少なくとも引用刊行物2が、天井クレーンの既知の共振周波数を中心とする単一の減衰帯域のみを有するノッチフィルタを設計するにはかなりの研究が必要であることを明白に示していることから、引用刊行物1、2の単なる設計上の変形ではない。」
(オ) 「引用刊行物1、2を組み合わせることには、阻害要因がある。例えば、引用刊行物2にはノッチフィルタの減衰帯域のゼロ位相シフトが記載されているが、引用刊行物1がノッチフィルタを用いて信号を遮断しているため、「主要な技術の目的」を達成することができない。また、引用刊行物1は中心周波数で減衰させることを既に教示しているため、引用刊行物2を引用刊行物1に採用することはできない。」
(カ) 「出願人は、引用刊行物2のノッチフィルタが減衰帯域の外にある周波数を有する成分を通過させることに同意していない。例えば図5を参照すると、ノッチフィルタの全体的な周波数帯域に亘っての減衰が示されている。この曲線は、図5において、全帯域に亘って明白にゼロ以下であることが示されている。出願人は、引用刊行物2にはいくらかの周波数で成分を減衰させないことが決して記載されていないとさらに述べています。引用刊行物2は、減衰を論ずるときだけ周波数に言及している。」
イ 請求人の主張の検討
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上記主張について検討すると、以下の(ア)~(カ)に示すとおり、請求人の上記主張を採用することはできない。
(ア) 請求人の主張(ア)について検討すると、前記「(2) 判断」のアにおいて説示したとおり、「コリオリ流量計の駆動システムにおいて、駆動フィードバック信号に含まれる所望の励振モード以外の不要な成分を周波数領域フィルタにより除去すると、フィルタ処理された駆動信号に望ましくない位相遅れを生じさせてしまうこと。」は技術常識であるから(技術常識1を参照。)、引用発明においても、試験信号の周波数そのものに同調された一組のノッチ・フィルタによって試験信号の除去が行われるとき、ノッチフィルタを通過した「実質的基本周波数応答」の成分に位相遅れが伴うという問題があることは明らかである。
したがって、技術常識1を考慮すれば、引用発明においても、駆動信号の位相シフト(位相遅れ)の問題が内在しているといえるから、「引用刊行物1は、駆動信号の位相シフトについて決して言及していない。引用刊行物1は、ノッチフィルタによって通過される成分のいかなる特性についても決して述べていない。」という請求人の主張は、技術常識を無視した主張であって採用されない。
(イ) 請求人の主張(イ)について検討すると、本願の請求項1には、「前記第1の成分を通過させ、前記第2の成分を該ノッチフィルタによって実質的に減衰させ」るとしているものの、これは、特定範囲内の周波数成分を減衰する一方、他のすべての周波数成分は通過させるフィルタであることを規定しているにすぎないから、通常のノッチフィルタ(位相遅れの点は除く)と区別して論じる理由は見当たらない。また、第1の成分の周波数が変化していることなど請求項1に特定されていない。
したがって、請求人の主張(イ)は、本願の請求項1の記載に基づかないものであって採用されない。
(ウ) 請求人の主張(ウ)について検討すると、引用発明の「ノッチ・フィルタ」は、「2つ以上の非基本周波数応答」を除去し、「実質的基本周波数応答」を通過させるものであり、その通過帯域は、共振状態で動作している駆動装置の駆動周波数を含んでいる(前記「(1) 対比」オを参照。)。
また、引用文献2技術事項の「零位相差ノッチフィルタ」は「全周波数帯域において位相遅れをもたない」ものであるから、このような「零位相差ノッチフィルタ」を採用して、「実質的基本周波数応答」の成分が、ノッチフィルタの通過帯域を介して実質的にゼロの位相シフトで通過されるようにすることは、当業者が容易になし得たことである(前記「(2) 判断」イを参照。)。
したがって、「引用刊行物1、2は、単独でまたは組み合わせても、ゼロの位相シフトで通過される第1の成分について教示または提案しておらず」という請求人の主張は採用されない。
また、「実質的にゼロの周波数シフトで第1の成分を通過させている間に、第2の成分を減衰させるよう構成されたノッチフィルタについても教示または提案していない」という主張は、本願の請求項1の記載に基づかないものであって採用されない(「位相シフト」と「周波数シフト」は同義ではない。)。
(エ) 請求人の主張(エ)について検討すると、前記「(2) 判断」アにおいて説示したとおり、技術常識1を考慮すると、引用発明においても、試験信号の周波数そのものに同調された一組のノッチ・フィルタによって試験信号の除去が行われるとき、ノッチフィルタを通過した「実質的基本周波数応答」の成分に位相遅れが伴うという問題があることは明らかであるから、引用発明において、上記位相遅れを解消しようとする動機はあるというべきである。
そして、引用文献2技術事項の「零位相差ノッチフィルタ」を採用することにより、「実質的基本周波数応答」の成分(「第1の成分」に相当する。)が、ノッチフィルタの通過帯域を介して実質的にゼロの位相シフトで通過されるようになるから、「引用刊行物1、2を組み合わせて請求項の解決策に到達する動機付けがない。」、「引用刊行物1、2はいずれも、ある周波数を中心とした減衰帯域を持つ単純なノッチフィルタを記述しているだけなので、第1の成分を実質的にゼロの位相シフトで通過させながら第2の成分を減衰させることは、明らかには集合体にならない。」という請求人の主張(エ)は採用されない。
(オ) 請求人の主張(オ)について検討すると、前記「(2) 判断」イにおいて説示したとおり、引用文献2技術事項の「零位相差ノッチフィルタ」が位相遅れを生じさせないディジタルフィルタとして汎用性のあることは明らかであるから、引用文献2技術事項の「零位相差ノッチフィルタ」を引用発明において採用することに阻害要因があるとはいえない。
よって、「引用刊行物1、2を組み合わせることには、阻害要因がある。」という請求人の主張(オ)は採用されない。
(カ) 請求人の主張(カ)について検討すると、本願の請求項1には、「前記第1の成分を通過させ、前記第2の成分を該ノッチフィルタによって実質的に減衰させ、前記第1の成分は、前記ノッチフィルタの通過帯域を介して実質的にゼロの位相シフトで通過され、前記通過帯域は、前記センサアセンブリの前記共振周波数を含む」と規定しているものの、「通過」した「第1の成分」が減衰を伴うものであるか否かについて何ら規定していないから、「引用刊行物2のノッチフィルタが減衰帯域の外にある周波数を有する成分を通過させることに同意していない。」という主張は、本願の請求項1の記載に基づかないものであって採用されない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-012133