特許拒絶査定不服審判
2021-010675
モータ駆動装置、電気掃除機及び手乾燥機
- 審判番号
- 2021-010675
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-507288外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年08月10日
- 審決日
- 2023年06月19日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .55 -WZ (H02P)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-507288「モータ駆動装置、電気掃除機及び手乾燥機」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 9月26日国際公開、WO2019/180968〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願は、2018年(平成30年)3月23日を国際出願日とする出願であって、令和2年4月24日に手続補正がされ、令和3年3月31日付けで拒絶理由が通知され、令和3年5月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、令和3年6月30日付けで拒絶査定がされ、これに対して令和3年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がされた。その後、当審において令和4年5月20日付けで拒絶理由が通知され、令和4年6月30日に意見書が提出され、令和4年12月2日付けで拒絶理由が通知され、令和5年1月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。
第2 拒絶の理由の概要
令和4年12月2日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下、この拒絶の理由の通知を「当審拒絶理由通知」という。)のうち、理由2(新規事項)の概要は、次のとおりである。
令和3年5月20日にされた手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
記
補正後の請求項1の「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とは非同期であり」という記載が、「単相モータの回転速度が高速回転域であるか否かを判断し、高速回転域である場合に、キャリアの周期と電圧指令の周期とを非同期とすること」を意味するとすれば、補正後の請求項1の記載は、当初明細書等に記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
第3 令和5年1月20日にされた手続補正について
当審拒絶理由通知に対して、令和5年1月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
(1)本件補正前の請求項1(令和3年5月20日にされた手続補正により補正された請求項1)の記載
「【請求項1】
単相モータに交流電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力する前記交流電圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、キャリアと、電圧指令とに基づいて、前記インバータを構成するスイッチング素子を駆動し、
中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とは非同期であり、
前記制御部は、前記単相モータの回転位置を検出する位置センサの出力に基づいて基準位相を算出し、算出した前記基準位相に基づいて前記電圧指令を生成する
モータ駆動装置。」
(2)本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
単相モータに交流電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力する前記交流電圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、キャリアと、電圧指令とに基づいて、前記インバータを構成するスイッチング素子を駆動し、前記単相モータの回転位置を検出する位置センサの出力に基づいて基準位相を算出し、算出した前記基準位相に基づいて前記電圧指令を生成し、
中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成する
モータ駆動装置。」
第4 当審の判断
1 請求項1の記載について
(1)当審拒絶理由通知で通知した理由2(新規事項)において、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないと指摘した、本件補正前の請求項1(令和3年5月20日にされた手続補正により補正された請求項1)に記載された「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とは非同期であり」という事項は、本件補正により、「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成する」と補正された。
(2)したがって、本件補正後の請求項1に記載された「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成する」という事項について、当審拒絶理由通知で通知した理由2(新規事項)が解消したか否か(当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものか否か)を以下に検討する。
(3)まず、本件補正後の「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成する」という事項は、「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合」と記載されていることからみて、この設定された「境界を決める回転速度」を用いて、「単相モータの回転速度が高速回転域である場合」を把握し、高速回転域である場合に、「前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成」している(以下、このように駆動信号を生成することを「非同期PWM」という。)と解するのが自然である。仮に、中速回転域等でも非同期PWMを行い、「単相モータの回転速度が高速回転域である場合」にも、同じく非同期PWMを行うことを意味しているとすれば、「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定」される意味がないからである。
(4)このことは、令和5年1月20日に提出された意見書の3(3)において、審判請求人が「即ち、本願の請求項1に係る発明は、周期的な振動及び騒音が発生し易くなる高速回転域においてのみ非同期の制御を行います。」と主張していることからも裏付けられるものである。
(5)そうすると、本件補正後の請求項1に記載された前記の事項は、「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度」を用いて、「単相モータの回転速度が高速回転域である場合」を把握し、高速回転域である場合に非同期PWMを行うことを意味していると解される。
2 当初明細書等の記載について
(1)当初明細書等に記載された事項
この出願の当初明細書等には以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア「【請求項1】
単相モータに交流電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力する前記交流電圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、キャリアと、電圧指令とに基づいて、前記インバータを構成するスイッチング素子を駆動し、
前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とは非同期である
モータ駆動装置。」
イ「【0001】
本発明は、単相モータを駆動するモータ駆動装置、並びにそれを備えた電気掃除機及び手乾燥機に関する。
【0002】
単相モータを駆動するモータ駆動装置に関する従来技術として、下記特許文献1がある。特許文献1には、電圧指令の周期に同期した規則性のあるパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)信号を用いて、単相モータが駆動される様子が示されている。
・・・(中略)・・・
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、電流が正から負、又は負から正に切り替わる転流点が毎回同じタイミングで発生する。このため、周期的な振動及び騒音が発生し易くなり、特に高速回転域では、振動及び騒音の悪化を招くという課題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高速回転域における振動及び騒音の悪化を抑制することができるモータ駆動装置を得ることを目的とする。」
ウ「【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るモータ駆動装置は、単相モータに交流電圧を出力するインバータ、及びインバータが出力する交流電圧を制御する制御部を備える。制御部は、キャリアと、電圧指令とに基づいて、インバータを構成するスイッチング素子を駆動する。キャリアの周期と電圧指令の周期とは非同期である。」
エ「【0062】
本実施の形態では、電動送風機の回転域を以下の通り区分する。
(A)起動時:0[rpm]~1万[rpm]
(B)低速回転域(低回転数域):1[rpm]~2万[rpm]
(C)中速回転域(中回転数域):5万[rpm]~7万[rpm]
(D)高速回転域(高回転数域):10万[rpm]以上
【0063】
なお、上記(B)と(C)に挟まれた領域、及び上記(C)と(D)に挟まれた領域はグレーゾーンである。2万[rpm]から5万[rpm]までの回転速度は、低速回転域に含まれる場合もあれば、中速回転域に含まれる場合もある。また、7万[rpm]から10万[rpm]までの回転速度は、中速回転域に含まれる場合もあれば、高速回転域に含まれる場合もある。
【0064】
図11は、起動から低速回転域までの回転域におけるキャリア、電圧指令Vm及びインバータ出力電圧の波形の一例を示す図である。図11の下段部に示される電圧パルス列は、図11の上段部に示される電圧指令Vmによって生成される。左側の半周期に示される電圧指令Vmは、図6において、基準位相θeに進角位相θvを加えた“θe+θv”の値を“π/2”に設定することで得られる。また、右側の半周期に示される電圧指令Vmは、“θe+θv”の値を“3π/2”に設定することで得られる。図11の上段部に示されるように、電圧指令Vmの半周期ごと、キャリアと比較される電圧指令Vmの大きさは一定である。このため、電圧指令Vmの半周期ごと、振幅一定で推移する正負の電圧パルス列が生成される。
【0065】
図11の下段部の電圧パルス列の波形に含まれる周波数成分からPWM成分のスイッチング周波数成分を除去すれば、図11の下段部に破線で示されている矩形波の波形に概ね一致する。従って、図11の下段部に示される電圧パルス列を単相モータ12に印加することは、単相モータ12に矩形波を印加することと等価である。以下、図11の上段部に示されるような、半周期ごとの振幅一定の電圧指令Vmを使用してPWM信号を生成することを「矩形波PWM」と呼び、生成されるPWM信号を「矩形波PWM信号」と呼ぶ。
【0066】
以上の説明のように、本実施の形態におけるプロセッサ31は、起動時及び起動後の低速回転域において、インバータ11が矩形波の電圧を出力するように、矩形波PWM信号を生成して駆動信号生成部32に出力する。なお、インバータ11が矩形波の電圧を出力するとは、インバータ出力電圧の周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した電圧波形が、実質的に矩形波になっていることを意味する。
【0067】
図12は、中速回転域におけるキャリア、電圧指令Vm及びインバータ出力電圧の波形の一例を示す図である。図12の下段部に示される電圧パルス列は、図12の上段部に示される正弦波である電圧指令Vmによって生成される。図12の下段部には、正弦波である電圧指令Vmのピークに近づくにつれ、パルス幅が徐々に広くなり、電圧指令Vmのピークから離れるにつれ、パルス幅が徐々に狭くなる電圧パルス列が示されている。
【0068】
図12の下段部の電圧パルス列の波形に含まれる周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去すれば、図12の下段部に破線で示されている正弦波の波形に概ね一致する。従って、図12の下段部に示される電圧パルス列を単相モータ12に印加することは、単相モータ12に正弦波を印加することと等価である。以下、図12の上段部に示されるような正弦波の電圧指令Vmを使用してPWM信号を生成することを「正弦波PWM」と呼び、生成されるPWM信号を「正弦波PWM信号」と呼ぶ。
【0069】
以上の説明のように、本実施の形態では、中速回転域において、プロセッサ31は、インバータ11が正弦波の電圧を出力するように、正弦波PWM信号を生成して駆動信号生成部32に出力する。なお、インバータ11が正弦波の電圧を出力するとは、インバータ出力電圧の周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した電圧波形が、実質的に正弦波になっていることを意味する。
【0070】
図13は、高速回転域におけるキャリア、電圧指令Vm及びインバータ出力電圧の波形の一例を示す図である。図13の下段部に示される電圧パルス列は、図13の上段部に示される電圧指令Vmによって生成される。図12との相違点は、電圧指令Vmのピーク値がキャリア振幅よりも大きいことにある。より詳細に説明すると、図12は、変調率=1.0の波形であるのに対し、図13は、変調率=1.2の波形である。
【0071】
図13において、電圧指令Vmがキャリアのピークよりも大きい領域Aでは、下段部に示されるように、幅広且つ単一の電圧パルスが生成されている。領域Aの両側に位置する領域B1,B2では、領域Aに近づくにつれて、パルス幅が徐々に広くなる電圧パルス列が生成されている。
【0072】
図13の下段部の電圧パルス列の波形に含まれる周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した波形は、図13の下段部に破線で示されている台形波の波形に概ね一致する。従って、図13の下段部に示される電圧パルス列を単相モータ12に印加することは、単相モータ12に台形波を印加することと等価である。以下、図13の上段部に示されるように、変調率が1.0を超える正弦波の電圧指令Vmを使用してPWM信号を生成することを「台形波PWM」と呼び、生成されるPWM信号を「台形波PWM信号」と呼ぶ。
【0073】
以上の説明のように、本実施の形態では、高速回転域において、プロセッサ31は、インバータ11が台形波の電圧を出力するように、台形波PWM信号を生成して駆動信号生成部32に出力する。なお、インバータ11が台形波の電圧を出力するとは、インバータ出力電圧の周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した電圧波形が、実質的に台形波になっていることを意味する。」
オ「【0074】
次に、本実施の形態におけるPWM制御の要部について説明する。図14は、図1に示されるインバータ11が非同期PWMで制御される場合の要部の波形例を示すタイムチャートである。図15は、図1に示されるインバータ11が同期PWMで制御される場合の要部の波形例を示すタイムチャートである。本実施の形態の1つの要旨は、インバータ11を非同期PWMで制御することにある。なお、インバータ11を非同期PWMで制御する本実施の形態の手法は、電圧指令Vmが矩形波、正弦波又は台形波を問わず同様の効果が得られる。そのため、以下では、電圧指令Vmが正弦波の場合を例に説明する。
【0075】
図14には、上段側から順に、インバータ11が非同期PWMで制御される場合のキャリア、電圧指令Vm、及びPWM信号の波形が示されている。また、図15には、上段側から順に、インバータ11が同期PWMで制御される場合のキャリア、電圧指令Vm、及びPWM信号の波形が示されている。なお、説明が前後するが、前述した図5、図7、及び図11から図13の図面に示される波形は、インバータ11が同期PWMで制御されたときの波形である。」
カ「【0087】
上記のように、同期PWMの場合、毎回同じタイミングで転流が発生するので、周期的な騒音が発生し易くなる。一方、非同期PWMの場合、転流のタイミングが周期的にはならない。このため、非同期PWMの場合、周期的な騒音が抑制されるので、全体的な振動及び騒音は、同期PWMの場合に比して小さい。従って、非同期PWMの採用により、低騒音化を図ることが可能となる。なお、低騒音化の効果は、特に、高速回転域において大きくなる。
【0088】
以上の説明の通り、実施の形態における制御部は、キャリアと、キャリアの周期とは非同期の周期を有する電圧指令とに基づいて、インバータを構成するスイッチング素子を駆動する。これにより、周期的な騒音が抑制されるので、高速回転域における振動及び騒音を抑制することが可能となる。」
キ「【0089】
また、転流タイミングのずれは、位置センサ21から出力される位置センサ信号21aのばらつきによっても生ずる。同期PWMの場合、位置センサ信号21aのばらつきに起因する転流タイミングのずれは周期的に表れ、起動時又は低速回転域における回転むらなどの原因となる。これに対し、非同期PWMの場合、位置センサ信号21aのばらつきに起因する転流タイミングのずれは周期的にはならないので、位置センサ信号21aのばらつきの影響は軽減される。即ち、非同期PWMは、位置センサ信号21aのバラツキに対して、ロバスト性を向上させることが可能となる。」
ク「【0110】
電気掃除機61は、単相モータ12の回転速度が0[rpm]から10万[rpm]を超えて変動する製品である。このような単相モータ12が高速回転する製品を駆動する際には、前述した実施の形態に係る制御手法が好適である。
【0111】
例えば、制御部25は、キャリアの周期と電圧指令の周期とが非同期の関係にあるキャリア及び電圧指令に基づいてPWM信号を生成し、インバータを構成するスイッチング素子を駆動する。これにより、正弦波状の電流を流す際に発生しうる振動及び騒音を抑制することが可能となる。」
ケ「【0117】
手乾燥機90は、図27に示される電気掃除機61と同様に、モータ回転数が0[rpm]から10万[rpm]を超えて変動する製品である。このため、手乾燥機90においても、前述した実施の形態に係る制御手法が好適であり、電気掃除機61と同様な効果を得ることができる。」
(2)当初明細書等の記載から把握される事項
ア 前記(1)イ、カ、ク及びケの記載によると、モータ駆動装置において、従来、特に高速回転域で、振動及び騒音の悪化を招くという課題があったこと、非同期PWMの採用により、高速回転域における振動及び騒音の悪化を抑制することができ、低騒音化の効果は、特に、高速回転域において大きいこと、単相モータが高速回転する製品である電気掃除機、手乾燥機を駆動する際、非同期PWMが好適であることが把握できる。
しかしながら、これらの記載は、非同期PWMが、特に高速回転域において、振動及び騒音の悪化を抑制する効果が大きく、高速回転する製品に好適であることを示しているにすぎず、当初明細書等には、中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度を用いて、単相モータの回転速度が高速回転域であるか否かを把握し、高速回転域である場合に非同期PWMを行い、高速回転域でない場合に非同期PWMを行わない(同期PWMを行う)ことまで記載も示唆もされていない。
イ むしろ、前記(1)イ及びカにおいて、特に高速回転域で、振動及び騒音の悪化を招くという課題があり、低騒音化の効果は、特に、高速回転域において大きいことが記載されており、起動時、低速回転域、中速回転域における課題や効果が否定されていないことや、前記(1)キにおいて、非同期PWMが、起動時又は低速回転域における回転むらなどの原因となる、位置センサ信号21aのばらつきの影響を軽減することが記載されていることを踏まえると、当初明細書等には、高速回転域以外の起動時、低速回転域、中速回転域においても非同期PWMを行うことが示唆されているといえる。
ウ このことは、前記(1)ア及びウの記載によると、当初明細書等の記載において、単にキャリアの周期と電圧指令の周期とが非同期であること(つまり、単相モータの回転速度を特定することなく、回転速度によらず非同期PWMを行うこと)をもって、課題を解決するための手段としていることからも裏付けられるものである。
エ ここで、当初明細書等には、前記(1)エの記載によると、起動から低速回転域までの回転域では「矩形波PWM」を用い、中速回転域では「正弦波PWM」を用い、高速回転域では「台形波PWM」を用いることが記載されており、単相モータを回転速度に応じて制御することは示されているが、前記した起動から低速回転域までの回転域における「矩形波PWM」、中速回転域における「正弦波PWM」、高速回転域における「台形波PWM」は、段落(1)オの記載によると、いずれも同期PWMによる制御であるから、前記(1)エの記載をもって、当初明細書等に、単相モータを回転速度に応じて非同期PWMにより制御することが示唆されているとはいえない。
オ そうすると、当初明細書等には、中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度を用いて、単相モータの回転速度が高速回転域であるか否かを把握し、高速回転域である場合に非同期PWMを行い、高速回転域でない場合に非同期PWMを行わない(同期PWMを行う)ことまで記載も示唆もされていない。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和5年1月20日に提出した意見書の3(2)(イ)において、「そして、[0064]-[0073]において、本発明に係るモータ駆動装置は、同期PWM制御を行うことが明確に記載されています。その上で、[0074]では、これ以降、本実施の形態におけるPWM制御の要部について説明することが記載されています。「PWM制御の要部」という意味は、[0004]に記載した課題を意図した記載であり、課題を解決するための動作について説明するという意味で記載しています。」と主張している。
確かに、当初明細書等の段落【0064】~【0073】(前記2(1)エ参照。)には、段落【0075】(前記2(1)オ参照。)の記載を踏まえると、起動から低速回転域までの回転域か、中速回転域か、高速回転域かに応じて、同期PWMによる3種類の制御を行うことが記載されており、段落【0074】(前記2(1)オ参照。)には、「本実施の形態におけるPWM制御の要部」として、非同期PWMで制御することが記載されている。しかしながら、この段落【0074】には、非同期PWMについて、電圧指令Vmが矩形波、正弦波又は台形波を問わず同様の効果が得られる旨が記載されており、該記載は、段落【0064】~【0073】の記載を踏まえると、非同期PWMが、「矩形波PWM」が用いられる起動から低速回転域までの回転域、「正弦波PWM」が用いられる中速回転域、及び「台形波PWM」が用いられる高速回転域のいずれにおいても、効果があることを示すものであり、非同期PWMがいずれの回転域においても採用され得るものであることを示唆している。さらに、段落【0074】には、非同期PWMを、電圧指令Vmが正弦波の場合を例に説明する旨が記載されており、「本実施の形態におけるPWM制御の要部」である非同期PWMは、「正弦波PWM」が用いられる中速回転域での制御を例に説明されていると解される。
すると、段落【0064】~【0073】、【0074】の記載を考慮しても、当初明細書等に、高速回転域において非同期PWMが行われ、それ以外の起動から低速回転域までの回転域及び中速回転域において同期PWMが行われることが記載あるいは示唆されているとはいえない。
したがって、審判請求人の前記主張は採用できない。
4 まとめ
以上によると、前記1に示したように、本件補正後の請求項1に記載された「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成する」という事項は、「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度」を用いて、「単相モータの回転速度が高速回転域である場合」を把握し、高速回転域である場合に非同期PWMを行うことを意味していると解される。
一方、前記2に示したように、当初明細書等には、中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度を用いて、単相モータの回転速度が高速回転域であるか否かを把握し、高速回転域である場合に非同期PWMを行い、高速回転域でない場合に非同期PWMを行わない(同期PWMを行う)ことまで記載も示唆もされていない。
そうすると、本件補正後の請求項1に記載された「中速回転域と高速回転域との境界を決める回転速度が設定され、前記単相モータの回転速度が高速回転域である場合、前記制御部は、前記キャリアの周期と前記電圧指令の周期とが非同期である電圧指令を用いて前記インバータを駆動する駆動信号を生成する」という事項は、当初明細書等に記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、この出願について、令和5年1月20日にされた手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、この出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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