2021-007425
ダイヤモンド電子素子及びダイヤモンド電子素子の製造方法
- 審判番号
- 2021-007425
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-021008外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月08日
- 審決日
- 2021年12月15日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】信越化学工業株式会社
- 【請求人代理人】好宮 幹夫
- 【請求人代理人】小林 俊弘
- 【請求人代理人】大塚 徹
- 分類
- P18 .121-WY (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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本願は,平成28年2月5日(優先権主張 平成27年7月30日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
第2 原査定の概要
原査定(令和3年3月1日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1~4に係る発明は,本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例一覧
1.特開2012-41258号公報
2.特開平3-278474号公報
第3 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」~「本願発明4」という。)は,令和3年6月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】ダイヤモンド電子素子であって,シリコン基材と,該シリコン基材上に形成され,α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層と,該中間層上に形成され,イリジウム層,ロジウム層,白金層のいずれかからなる下地層と,該下地層上に形成された単結晶ダイヤモンド層とを有し,前記シリコン基材と前記中間層との間に,金,白金,チタン,クロム,イリジウム,ロジウム,シリコンのいずれかからなる薄膜が1層以上形成されたものであり,前記単結晶ダイヤモンド層の厚みが,300μm以下のものであり,前記単結晶ダイヤモンド層は,ボロン不純物を導入したp型単結晶ダイヤモンド,リン不純物を導入したn型単結晶ダイヤモンド,不純物を導入しない高抵抗単結晶ダイヤモンドのいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド層が2層以上積層されたものであることを特徴とするダイヤモンド電子素子。」
なお,本願発明2は本願発明1を減縮した発明であり,本願発明3は本願発明1に特定される事項を全て含み,カテゴリーにおいて相違する発明であり,本願発明4は本願発明3を減縮した発明である。
第4 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2012-41258号公報)には,次の記載がある。(下線は当審により付加。)
「【背景技術】【0002】ダイヤモンドは,5.47eVのワイドバンドギャップで絶縁破壊電界強度も10MV/cmと非常に高い。さらに物質で最高の熱伝導率を有することから,これを電子デバイスに用いれば,高出力電力デバイスとして有利である。【0003】続きを表示(全11行)また,ダイヤモンドは,ドリフト移動度も高く,Johnson性能指数を比較しても,半導体の中で最も高速電力デバイスとして有利である。従って,ダイヤモンドは,高周波・高出力電子デバイスに適した究極の半導体と云われている。そのため,基板として,単結晶のダイヤモンドを利用した各種電子デバイスの研究が進められている。・・・【0007】他の方法としては,単結晶MgO基材(種基材)にヘテロエピタキシャル成長させた単結晶イリジウム(Ir)膜上に,CVD法でヘテロエピタキシャル成長させたCVD単結晶ダイヤモンドも報告されている(非特許文献2参照)。【0008】しかしながら,当該方法では単結晶MgO基板と単結晶Ir膜を介して成長させた単結晶ダイヤモンド間で発生する応力(内部応力と熱応力の和)のため,基材と成長させた単結晶ダイヤモンドが細かく割れてしまう問題がある。」
「【課題を解決するための手段】【0011】上記課題を解決するため,本発明では,単結晶ダイヤモンドを成長させるための基材であって,少なくとも,線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材と,該ベース基材の前記単結晶ダイヤモンドを成長させる側に貼り合わせ法で形成した単結晶MgO層と,該単結晶MgO上にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜,ロジウム膜,白金膜のいずれかからなる膜を有するものであることを特徴とする単結晶ダイヤモンド成長用基材を提供する。【0012】続きを表示(全11行)このように,線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材表面と,表面を平滑研磨した単結晶MgOを貼り合わせて得られる高結晶性な単結晶MgO層上にイリジウム膜,ロジウム膜,白金膜を結晶性良く成長でき,その基材上に単結晶ダイヤモンドを成長させることで,高結晶性の単結晶ダイヤモンドを得ることができる。また,線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材であれば,ダイヤモンドとの熱膨張係数が比較的近く,単結晶ダイヤモンド成長時の熱膨張により生じる応力が小さくでき,単結晶ダイヤモンドや基材が割れることもほとんどない。また,このようなベース基材上にMgO層,さらにはイリジウム膜,ロジウム膜,白金膜のいずれかからならなる膜を有することで,単結晶ダイヤモンド成長時に良好なバッファ層として機能する。そしてMgO層は,単結晶MgO基板とベース基材とを貼り合わせて形成したものであり,MgO層をヘテロエピタキシャル成長させるよりも容易に高結晶性の単結晶MgO層を形成でき,高い生産性で製造されたものとなる。以上より,本発明の単結晶ダイヤモンド成長用基材であれば,大面積で高結晶性の単結晶ダイヤモンドを低コストに成長させることができる基材となる。【0013】ここで,前記ベース基材が,Al2O3,SiC,AlN,Si,Si3N4,ダイヤモンド,SiO2,Si3N4のいずれかからなるものとすることができる。ベース基材が,Al2O3,SiC,AlN,Si,Si3N4,SiO2のいずれかからなるものは,安価であり,また平滑な研磨表面を得ることができる。また,ダイヤモンド(HPHT,多結晶)からなるものであれば,成長させるダイヤモンドと同一材料であるため,熱膨張による応力はほとんど生じず,大面積の単結晶ダイヤモンドを得ることができる基材となる。」
「【0031】図1に示す,本発明の単結晶ダイヤモンド成長用基材10は,線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材13と,ベース基材13の単結晶ダイヤモンドを成長させる側に貼り合わせ法で形成した単結晶MgO層11と,単結晶MgO層11上にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜,ロジウム膜,白金膜のいずれかからなる膜12とからなるものである。」
「【0046】以下,実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。(実施例1)直径25.0mm,厚み0.38mmで方位(100)の両面研磨加工単結晶シリコン基板をベース基材として用意した。そして,このベース基材の単結晶ダイヤモンド成長を行う面側に,直径25.0mm,厚み0.30mmで方位(100)の両面研磨加工単結晶MgO基板を用意した。続きを表示(全25行)両接合面をRCA洗浄及びアルゴンイオンビームで清浄化及び活性化した後,直接接合で貼り合わせを行った。その後,機械的研磨法で単結晶MgO部分を薄く加工して,2μm厚の単結晶MgO層に仕上げた。【0047】次に,この単結晶MgO層上にイリジウム(Ir)膜をヘテロエピタキシャル成長させた。製膜は,IrをターゲットとしたR.F.マグネトロンスパッター法で,Arガス6×10-2Torr,基板温度700℃の条件で,単結晶Ir膜厚が1.5μmになるまでスパッターして仕上げた。また,バイアス処理及びDCプラズマCVDを行う際の電気的導通のために,基板温度を100℃とした他は同じ条件で,裏面にもIrを1.5μm成長させた。【0048】次に,この基材の単結晶Ir膜の表面にダイヤモンドの核を形成するためのバイアス処理を行った。先ず,基材をバイアス処理装置の負電圧印加電極(カソード)上にセットし,真空排気を行った。次に,基材を600℃に加熱してから,3vol.%水素希釈メタンガスを導入し,圧力を160hPa(120Torr)とし,バイアス処理を行った。すなわち,両電極間にDC電圧を印加して,所定の直流電流を流した。そして最後に,このバイアス処理済み基材上に,DCプラズマCVD法によって,900℃で30時間,単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させた。【0049】成長終了後,ベルジャーから取り出した製造物は,割れのないダイヤモンド/Ir/MgO/Siの積層構造体であった。そこで,機械的研磨法で,裏面のIr/MgO/Si基材部分を除去して,単結晶ダイヤモンドの自立構造(単結晶ダイヤモンド基板)とした。この表面も仕上げ研磨を行って,デバイス用途でも使用できるレベルの面粗さに仕上げた。【0050】得られた単結晶ダイヤモンド基板は,ラマン分光,XRDロッキングカーブ,断面TEM,カソードルミネッセンス(CL)で評価したところ,充分な結晶性であることが確認できた。【0051】(実施例2)実施例1において,ベース基材と単結晶MgOの両方の貼り合わせ面に,スパッター法で1nm厚の金(Au)薄膜を形成してから,貼り合わせを行った以外は実施例1と同様の方法で単結晶ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長までの諸工程を行った。【0052】成長終了後,ベルジャーから取り出した製造物は,実施例1に比べて接合面のボイドの発生が1/2以下に減少しており,また割れのないダイヤモンド/Ir/MgO/Au/Siの積層構造体であった。そこで,機械的研磨法で,裏面のIr/MgO/Si基材部分を除去して,単結晶ダイヤモンドの自立構造(単結晶ダイヤモンド基板)とした。この表面も仕上げ研磨を行って,デバイス用途でも使用できるレベルの面粗さに仕上げた。【0053】得られた単結晶ダイヤモンド基板は,ラマン分光,XRDロッキングカーブ,断面TEM,カソードルミネッセンス(CL)で評価したところ,充分な結晶性であることが確認できた。」
(2)摘記の整理
上記(1)の摘記によれば,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。
ア 線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材13と,ベース基材13の単結晶ダイヤモンドを成長させる側に貼り合わせ法で形成した単結晶MgO層11と,単結晶MgO層11上にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜,ロジウム膜,白金膜のいずれかからなる膜12とからなる単結晶ダイヤモンド成長用基材10を提供すること。(段落0011,0031)
イ 実施例1として,両面研磨加工単結晶シリコン基板をベース基材とし,ベース基材とMgO基板を貼り合わせた後研磨して単結晶MgO層を形成し,単結晶MgO層の上にIr膜を形成し,Ir膜の上に単結晶ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長すること。(段落0046~0048)
ウ ベース基材と単結晶MgOの貼り合わせ面に,金(Au)薄膜を形成してから貼り合わせを行い,その後実施例1と同様の方法でダイヤモンドの形成までを行い,ダイヤモンド/Ir/MgO/Au/Siの積層構造体を構成すること。(段落0051~0052)
(3)引用発明1
以上のア~ウによれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材13と,ベース基材13の単結晶ダイヤモンドを成長させる側に貼り合わせ法で形成した単結晶MgO層11と,単結晶MgO層11上にヘテロエピタキシャル成長させたイリジウム膜12と,イリジウム膜12の上にヘテロエピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドとを有しベース基材13が両面研磨加工単結晶シリコン基板であり,ベース基材13と単結晶MgO層11の貼り合わせ面に金薄膜を有する積層構造体。」
2.引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開平3-278474号公報)には,次の記載がある。
「実施例1第1図(a)に示すように,超高圧法で合成したダイヤモンド単結晶基板1(2mm×1.5mm×0.3mm)を用い,その(100)面に対して傾きが5°以内である面の上に,マイクロ波プラズマCVD法により厚さ1μmのp型ダイヤモンド半導体層2をエピタキシャル成長させた。・・・(中略)・・・このp型ダイヤモンド半導体層2の上に,ドーピングガスを使用しない以外は上記と同様のCVD法により,第1図(b)に示すように厚さ0.1μmのノンドープの高抵抗ダイヤモンド層3を成長させた。この高抵抗ダイヤモンド層の比抵抗は104Ωcm以上であった。更に第1図(c)に示す如く,高抵抗ダイヤモンド層3の上に,オーミック電極としてTi電極4及びショットキー電極としてAl電極5を蒸着により形成した。得られたショットキーダイオードについて,Ti電極4を零電位に保ち,Al電極5に印加する電圧を変化させることにより,順方向及び逆方向に流れる電流を測定したところ,第2図に示すショットキー特性が得られた。」(3頁左上欄20行~左下欄3行)
「実施例2実施例1と同様にして第1図(b)に示す状態まで作製した後,ノンドープの高抵抗ダイヤモンド層3の上に,第4図(a)に示す如くCVD法により厚さ1μmのn型ダイヤモンド半導体層6を形成した。・・・(中略)・・・次に,n型ダイヤモンド半導体層6の表面の半分にAlマスク7を蒸着し,酸素プラズマを用いて第4図(b)の如くn型ダイヤモンド半導体層6とその下の高抵抗ダイヤモンド層3の半分をエッチングした。Alマスク7を除去した後,第4図(c)の如く露出したp型ダイヤモンド半導体層2とn型ダイヤモンド半導体層6の上に夫々Ti電極4を形成した。得られたpn接合ダイオードは良好な整流特性を示し,印加電圧100vで整流比は6桁であった。」(3頁左下欄17行~右下欄13行)
引用例2の第1図及び第4図として,以下の図面が示されている。
[図:0001380895000001.jpg]
[図:0001380895000002.jpg]
[図:0001380895000003.jpg]
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と引用発明1を対比すると次のようになる。
ア 引用発明1における「ベース基材13」は「両面研磨加工単結晶シリコン基板」であるから,本願発明1における「シリコン基材」に相当する。
イ 引用発明1における「イリジウム膜」及び「単結晶ダイヤモンド」は,本願発明1における「イリジウム層,ロジウム層,白金層のいずれかからなる下地層」及び「単結晶ダイヤモンド層」に相当する。
ウ 引用発明1における「単結晶MgO層11」は,「両面研磨単結晶シリコン基板」である「ベース基材13」上に形成され,その上に「イリジウム膜12」及び「単結晶ダイヤモンド」が形成される層であるから,本願発明1の「該シリコン基材上に形成され」た「中間層」に相当する。
エ 引用発明1における「金薄膜」は,「ベース基材13と単結晶MgO層11の貼り合わせ面」に形成された膜であるから,本願発明1における「前記シリコン基材と前記中間層との間」に「1層以上形成」された「金,白金,チタン,クロム,イリジウム,ロジウム,シリコンのいずれかからなる薄膜」に相当する。
オ 引用発明1における「積層構造体」は,本願発明1における「ダイヤモンド電子素子」に対応し,両者は「ダイヤモンド積層構造体」である点で共通する。
以上のア~オによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「ダイヤモンド積層構造体であって,シリコン基材と,該シリコン基材上に形成された中間層と,該中間層上に形成され,イリジウム層,ロジウム層,白金層のいずれかからなる下地層と,該下地層上に形成された単結晶ダイヤモンド層とを有し,前記シリコン基材と前記中間層との間に,金,白金,チタン,クロム,イリジウム,ロジウム,シリコンのいずれかからなる薄膜が1層以上形成されたものである,ダイヤモンド積層構造体。」
<相違点1>
本願発明1における「中間層」は,「α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層」であるのに対し,引用発明1では,上記中間層に対応する層が「単結晶MgO層」である点。
<相違点2>
本願発明1では「前記単結晶ダイヤモンド層の厚みが,300μm以下」であるのに対し,引用発明1では,「単結晶ダイヤモンド」の厚みが特定されていない点。
<相違点3>
本願発明1では,「前記単結晶ダイヤモンド層は,ボロン不純物を導入したp型単結晶ダイヤモンド,リン不純物を導入したn型単結晶ダイヤモンド,不純物を導入しない高抵抗単結晶ダイヤモンドのいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド層が2層以上積層されたものである」のに対し,引用発明1では,「単結晶ダイヤモンド」は,「p型単結晶ダイヤモンド」「n型単結晶ダイヤモンド」「高抵抗単結晶ダイヤモンド」のいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド層が「2層以上積層されたもの」であることが特定されていない点。
<相違点4>
本願発明1は,「ダイヤモンド電子素子」の発明であるのに対し,引用発明1は「ダイヤモンド」を含む「積層構造体」が「電子素子」であることは特定されていない点。
(2)相違点についての判断
はじめに上記相違点1について検討する。
ア 引用例2には,ダイヤモンド基板上にp型,n型又はノンドープのダイヤモンド層を積層してショットキーダイオードやpnダイオード等の電子素子を形成することが記載されているものの,「α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層」については記載も示唆もされていない。
イ 引用例1の記載によれば,引用発明1は,従来の単結晶MgO基材上に単結晶Ir膜を介して成長させた単結晶ダイヤモンドにおいて,応力により単結晶ダイヤモンドが細かく割れてしまうという課題があり(段落0007~0008),上記課題を解決するために,「線膨張係数がMgOよりも小さく,かつ0.5×10-6/K以上の材料からなるベース基材13」を用いることで,「ダイヤモンドとの熱膨張係数が比較的近く,単結晶ダイヤモンド成長時の熱膨張により生じる応力が小さくでき,単結晶ダイヤモンドや基材が割れることもほとんどない」(段落0012)との作用効果を得るものであると理解できる。
上記の理解を踏まえると,仮に「α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層」が周知であったとしても,「単結晶MgO層」の上に「Ir膜」を介して「単結晶ダイヤモンド」を形成することを前提とする引用発明1において,「単結晶MgO層」を他の材料に変更する動機は存在しない。
ウ したがって,引用発明1において「単結晶MgO層」を「α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層」に変更することは,当業者が容易に想到し得たことではない。
そうすると,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明1及び引用例2に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
2.本願発明2~4について
本願発明2~4は本願発明1と同じ「α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層」との技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用例1及び引用例2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
第6 原査定について
審判請求時の補正により,本願発明1-4は「α-Al2O3層,YSZ(イットリア安定化ジルコニア)層のいずれかからなる中間層」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用例1及び引用例2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。
第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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