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特許拒絶査定不服審判

2021-007367

観察的心不全モニタリングシステム

審判番号
2021-007367
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-549136外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年06月07日
審決日
2022年03月16日
公報発行日
2022年09月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (A61B) / P18 .121-WZ (A61B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-549136「観察的心不全モニタリングシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月15日国際公開、WO2017/100185、平成31年 2月14日国内公表、特表2019-503824〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本件出願(以下「本願」と記す。)は、2016年(平成28年)12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年12月7日 米国、2016年8月15日 米国、2016年11月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年10月2日付けで拒絶理由が通知され、これに対し令和3年1月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審より令和3年10月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対し令和4年1月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要

原査定(令和3年2月3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の下記の請求項に係る発明は、下記の引用文献1ないし7に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記

・請求項 1-15

・引用文献 1-7

引用文献等一覧

1.特表2015-519940号公報

2.国際公開第2015/049963号

3.CHAN Gregory S H et al.、"Automatic detection of left ventricular ejection time from a finger photoplethysmographic pulse oximetry waveform: comparison with Doppler aortic measurement"、Physiological Measurement、Vol. 28、No. 4、2007年3月20日、pp. 1-14

4.HARLEY Alexander et al.、"Pressure-Flow Studies in Man. An Evaluation of the Duration of the Phases of Systole"、The Journal of Clinical Investigation、Vol. 48、1969年5月1日、pp. 895-905(周知技術を示す文献)

5.MURATA Kazuhiko et al.、"Alterations of Circulatory Responses to Upright Tilt in Cardiac Patients"、Japanese Heart Journal、Vol. 22、No. 4、1981年7月31日、pp. 551-560

6.STAFFORD R. W. et al.、"Left Ventricular Systolic Time Intervals as Indices of Postural Circulatory Stress in Man"、Circulation、Vol. 41、No. 3、1970年3月1日、pp. 485-492

7.河村 博、「睡眠と血圧変動 -REM睡眠の功罪-」、医学のあゆみ、Vol. 177、No. 9、1996年6月1日、pp. 626-629

第3 当審拒絶理由(令和3年10月29日付け拒絶理由)の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1:(産業上の利用可能性)本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
理由2:(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし15の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3:(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし15の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明について

本願の請求項1ないし16に係る発明(以下「本願発明1ないし16」という。)は、令和4年1月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されたとおりのものであり、本願発明1は以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
個人の血行動態的うっ血を評価する装置であって、
(a)個人によって装着されるように、かつ脈波波形を測定するように構成された非侵襲的脈波検出システムと、
(b)前記非侵襲的脈波検出システムを用いて、第1の心周期から第1の脈波波形を測定し、第2の心周期から第2の脈波波形を測定するように構成された測定制御システムであって、前記第1の脈波波形及び前記第2の脈波波形は、互いに独立している、測定制御システムと、
(c)一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第1の脈波波形から第1の左室駆出時間を決定し、一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第2の脈波波形から第2の左室駆出時間を決定し、前記第1の左室駆出時間と前記第2の左室駆出時間との間の変動の程度を決定し、前記変動の程度から前記血行動態的うっ血を評価する分析システムと、
を備える装置。」

なお、本願発明2ないし16は本願発明1を引用する発明である。

第5 当審拒絶理由についての判断

事案に鑑み、理由2(サポート要件)について検討する。

1.当審拒絶理由の理由2は、下記(1)および(2)に記載した2つの理由からなる。

(1)本願発明1ないし15の、「第1観察期間は、心拍の1サイクルである」及び「第2観察期間は、心拍の1サイクルである」という発明特定事項について、本願明細書及び図面の記載より、第1観察期間(観察期間第1)は「正常血液量状態にある正常な患者の反応に似る」一回拍出量を示す期間であり、第2観察期間(観察期間第2)は「緩やかに体液過剰になる」一回拍出量を示す期間であること、また、【図15A】より、第1観察期間及び第2観察期間では、各体位(立位、座位、仰臥位)の一回拍出量をそれぞれ取得して、各体位の間の一回拍出量の差を求めていることから、第1観察期間及び第2観察期間は最低でも3つ以上の脈波(体位が3つあるため、各体位で1脈波測定した場合は3つの脈波)を測定できる期間であることが分かることから、本願明細書及び図面には、第1観察期間や第2観察期間が「心拍の1サイクル」であることは示されておらず、上記記載に示されているに等しい事項でもないから、上記発明特定事項を含む本願発明1ないし15は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)本願発明1ないし15の、「心室駆出の持続時間に基づいて前記第1脈波波形から左心室拍出量の第1基準を求め(ることと)、前記心室駆出の持続時間に基づいて前記第2脈波波形から左心室拍出量の第2基準を求め(ることと)、前記第1基準と前記第2基準との間の変動の程度を求め(ることと)、」という発明特定事項について、本願の明細書の記載において、「LVET」は「心室駆出の持続時間」であり、「指PPG信号」から得られる「各脈波」は「第1脈波信号」及び「第2脈波信号」であり、「体位にわたる平均LVET測定値の変動」は「左心室拍出量の」「第1基準」及び「第2基準」であると認められるが、上記発明特定事項の「第1基準」及び「第2基準」は、上記明細書の記載の「体位にわたる平均LVET測定値の変動」以外のものも含む記載となっており、そのような「第1基準」と「第2基準」が「心室駆出の持続時間に基づいて」「脈波波形から」「求められる」ことは、本願明細書及び図面には記載されておらず、また本願明細書及び図面の記載から自明の事項でもないから、出願時の技術常識に照らしても、「第1基準」及び「第2基準」が「体位にわたる平均LVET測定値の変動」以外のものも含む範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本願発明1ないし15は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2.令和4年1月31日付け手続補正書により、本願発明1は補正前の請求項7(以下「補正前請求項7」という。)である以下の、

「 【請求項7】
個人の血行動態的うっ血を評価する装置であって、
(a)個人によって装着されるように、かつ脈波波形を測定するように構成された非侵襲的脈波検出システムと、
(b)前記非侵襲的脈波検出システムを用いて第1脈波波形および第2脈波波形を測定するように構成された測定制御システムであって、前記第1脈波波形および前記第2脈波波形は、それぞれ、第1の観察期間中及び第2の観察期間中に測定され、前記第1観察期間は、心拍の1サイクルであり、前記第2観察期間は、心拍の1サイクルである、測定制御システムと、
(c)心室駆出の持続時間に基づいて、前記第1脈波波形から左心室拍出量の第1基準を求め、前記心室駆出の持続時間に基づいて、前記第2脈波波形から左心室拍出量の第2基準を求め、前記第1基準と前記第2基準との間の変動の程度を求め、前記変動の程度から前記血行動態的うっ血を評価するように構成された分析システムと、
を含む装置。」

を

「 【請求項1】
個人の血行動態的うっ血を評価する装置であって、
(a)個人によって装着されるように、かつ脈波波形を測定するように構成された非侵襲的脈波検出システムと、
(b)前記非侵襲的脈波検出システムを用いて、第1の心周期から第1の脈波波形を測定し、第2の心周期から第2の脈波波形を測定するように構成された測定制御システムであって、前記第1の脈波波形及び前記第2の脈波波形は、互いに独立している、測定制御システムと、
(c)一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第1の脈波波形から第1の左室駆出時間を決定し、一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第2の脈波波形から第2の左室駆出時間を決定し、前記第1の左室駆出時間と前記第2の左室駆出時間との間の変動の程度を決定し、前記変動の程度から前記血行動態的うっ血を評価する分析システムと、
を備える装置。」

へと補正したものである。補正前請求項7には、当審拒絶理由通知の理由2は通知されていたことから、本願発明1が当審拒絶理由通知の理由2が解消されているかについて検討する。

3.事案に鑑み、上記「1.(2)」の指摘について検討する。

(1)本願発明1は、補正前請求項7の「心室駆出の持続時間に基づいて、前記第1脈波波形から左心室拍出量の第1基準を求め、前記心室駆出の持続時間に基づいて、前記第2脈波波形から左心室拍出量の第2基準を求め、前記第1基準と前記第2基準との間の変動の程度を求め、」という発明特定事項を「一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第1の脈波波形から第1の左室駆出時間を決定し、一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第2の脈波波形から第2の左室駆出時間を決定し、前記第1の左室駆出時間と前記第2の左室駆出時間との間の変動の程度を決定し、」に補正している。

上記補正により、第1脈波波形から求めるものが「左心室拍出量の第1基準」から「第1の左室駆出時間」へ、第2脈波波形から求めるものが「左心室拍出量の第2基準」から「第2の左室駆出時間」へ変更され、決定する変動の程度が「前記第1基準と前記第2基準との間の変動の程度」から「前記第1の左室駆出時間と前記第2の左室駆出時間との間の変動の程度」へ変更された。

よって、本願発明1は、「前記第1の左室駆出時間と前記第2の左室駆出時間との間の変動の程度を決定し、前記変動の程度から前記血行動態的うっ血を評価する」という記載で発明特定事項を特定していることから、本願発明1では、何かしらの左室駆出時間同士を比較していることは特定しているものの、どのような左室駆出時間であるのかは特定していない。

(2)一方、本願の明細書には段落【0030】に

「【0030】
心機能パラメータ
左室駆出時間(LVET)は、一次波および切痕の検査によりPPG信号から求めることができる心臓パラメータの例である。LVETは、心室駆出の持続時間、すなわち、大動脈弁開放(AVO)から大動脈弁閉鎖(AVC)までの時間を定義する。・・・」

と記載されていることから、本願発明1の「左室駆出時間」は、本願の明細書中の記載における「左室駆出時間(LVET)」であると認められる。

また、本願の明細書の段落【0038】には、

「【0038】
心不全モニタリングシステム
本発明は、心不全、特に血行動態的うっ血の発生の非侵襲的かつ観察的評価の方法およびシステムを提供する。本発明の実施形態は、2016年11月17日に別個にまたは組み合わせて使用することができる、2つの動作モードを企図する。第1動作モードは、日常生活の活動中に患者を観察することと、体位の関数としてのLVET(または他の心臓パラメータ)の検査により心機能にアクセスすることとを含む。第2動作モードは、患者が同じ体位にあるときに経時的に心機能パラメータを追跡することを含む。これらの心機能、特に血行動態的うっ血の発生にアクセスする方法は、本発明のさまざまな実施形態において、独立して、または組み合わせて使用することができる。」(下線は当審が付与した。以下同様。)と、段落【0048】には、
「【0048】
血行動態的うっ血の評価のための傾向モニタリング
心不全代償不全を判断する第2モードは、患者が同じ体位にあるときに経時的に心機能を評価する。たとえば、システムは、毎晩同じ睡眠段階の間であっても、睡眠中の患者の心機能を評価することができる。この種の睡眠段階評価は、毎日評価することができる反復可能な心臓評価をもたらす。例として、システムは、夜間に少なくとも1回、同じ睡眠段階中にデータを取得し得られたデータを処理することができる。そして、任意の一時的な傾向の判断のために、平均または最小LVETを以前のLVET測定値と比較することができる。図16は、こうしたモニタリングプロセスの例である。図16に示すように、患者は、1日目~20日目にわたって体系的変化は体験していないが、21日目の一回拍出量の減少によって示すように、心機能の低下を体験し始める。この心機能の低下の傾向は、7日間続き、体液過剰および血行動態的うっ血を明確に示す。システムは、代償不全の初期の指標を提供することができ、それにより、外来環境において介入を施すことができ、入院を回避することができる。」

と、記載されている。

(3)判断

上記「(2)」の段落【0038】の記載から、本発明は「血行動態的うっ血の発生の非侵襲的かつ観察的評価の方法およびシステムを提供する」というものであり、そのためには、「日常生活の活動中に患者を観察することと、体位の関数としてのLVET(または他の心臓パラメータ)の検査により心機能にアクセスすること」という手段と「患者が同じ体位にあるときに経時的に心機能パラメータを追跡する」という手段の2つの手段(動作モード)があると認められる。

一方、上記「1.(2)」で指摘したように、本願の明細書には、「体位にわたる平均LVET測定値の変動」から血行動態的うっ血を評価することは記載されており、また上記「(2)」の段落【0048】には、「毎晩同じ睡眠段階の間」の「平均又は最小LVET」を「以前のLVET測定値と比較する」ことにより「患者の心機能を評価する」ことは記載されているものの、それ以外の左室駆出時間(LVET)測定値の変動の程度から血行動態的うっ血を評価することは、本願明細書及び図面には記載されておらず、また本願明細書及び図面の記載から自明の事項でもないから、出願時の技術常識に照らしても、「前記第1の左室駆出時間と前記第2の左室駆出時間との間の変動」が「体位にわたる平均LVET測定値の変動」または「毎晩同じ睡眠段階の間の平均又は最小LVETの変動」以外のものも含む範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(4)小括

以上のことから、少なくとも上記「1.(2)」の指摘の点において、本願発明1は発明の詳細な説明に記載したものでない。ゆえに、本願発明1に対する当審拒絶理由の理由2は解消されていない。

第6 原査定についての判断

上記「第5」より、本願発明1に対する当審拒絶理由の理由2は解消されていないことから、本願発明1を含む本願は拒絶されるべきものであるが、本願発明1が原査定の理由を解消しているのかどうかについて検討を行う。

1.令和4年1月31日付け意見書における請求人の主張について

請求人は、令和4年1月31日付け意見書において、「6.進歩性」の章で拒絶査定の備考欄において引用された各文献と本願発明1との対比をしながら、本願発明1が進歩性を有する根拠を説明している。

その概要は、引用文献1ないし4は「互いに独立している2つの脈波波形に基づいてそれぞれ決定される左室駆出時間の変動の程度から血行動態的うっ血を評価する」という着想を示すものではないというものである。

2.引用文献について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭環境内で患者の健康状態を監視するための方法及び装置に関し、より詳細には、家庭環境内で患者の心拍出量(CO)を監視するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
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【0002】
鬱血性心不全(CHF)患者の管理は、現在、心拍数(HR)、体重、及び血圧(BP)等の取得し易い測定結果に基づいている。しかしながら、これらの測定結果は、患者の健康状態の変化に対する反応が遅く、薬物療法を個人化し適合させるために提供する情報は限定的である。
【0003】
1分間あたりに心臓の左心室によって送り出される血液の量である心拍出量(CO)と、循環系を通る血液の送り出しに対する循環系の抵抗である体血管抵抗(SVR)とは、ともに患者の健康状態の変化に対し適度に早く反応する、確立された臨床の測定値である。1心拍あたりに心室によって送り出される血液の量である1回拍出量(SV)は、患者の心臓血管系の健康状態の、別の有用な測定値である。しかしながら、現在のところ、CO、SVR、及びSVの信頼できる測定を行うことは、臨床環境(病院等)内でのみ可能である。特に、現在のところ非侵襲的なCO測定に対する臨床の「ゴールドスタンダード」である心エコーは、高価で大きな設備と、よく訓練された操作者とが必要である。インピーダンス・カルジオグラフィ(ICG)は、家庭環境内での利用に対する最も有望な技術の1つと考えられているが、現在の実施はCHF患者の正確なCO数値を提供するもの
ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、在宅等の監督されていない環境内の患者に対し、CHFの管理を改善し薬剤の副作用を減少させるために、患者の心臓血管系の健康状態を監視し、患者に処方される薬剤の量又は種類を適合させるのに用いるための、心拍出量及び上記の他の測定値を、簡単にかつ信頼できるように決定する態様を提供することが望まれる。」
イ 「【0026】
図1は、本発明の実施形態による装置2を示し、装置2はa)家庭環境内で信頼できるように、非侵襲的に患者によって監視されることができ、b)患者の心臓血管の状態と密接に関わる、入力信号を用いた、複数の信号のアプローチに基づく。本発明の好ましい実施形態では、次の信号:心電図(ECG)、心音(HS)、インピーダンス・カルジオグラム(ICG)、及び光電式容積脈波(PPG)が、例えば従来のカフベースの血圧計を用いた収縮期及び拡張期血圧の測定結果とともに取得され、分析のために処理ユニット4に提供される。これらの信号は、心臓のポンピング機能及び血管の状態についての補足情報及び重複情報を提供する。
【0027】
これらのセンサを用いて取得された信号から、処理ユニット4は、収縮期時相(収縮時間)(STI)、胸水の状態及び胸部インピーダンス、並びに脈波伝播時間(PTT)及び脈波伝達時間(PAT)等の血管の状態のパラメータを推定することができる。
【0028】
収縮期時相(STI)は、心臓の左心室の性能を評価するための有用な非侵襲的測定値であると示されてきた。STIは電気機械的な全収縮の期間を反映し、2つの主要な構成要素:前駆出期(PEP)及び左心室駆出期(LVET)を提示する。PEPは、心室の脱分極の開始から大動脈弁開放の時点までの時間間隔であり、一方、LVETは左心室駆出の時間間隔として定義され、大動脈弁開放からこれに続く閉鎖までの間に発生する。PEPは左心室の機能の指標であり、心筋収縮能、前負荷及び後負荷の変化を示す。左心室駆出期(LVET)もまた、収縮能及び心拍出量に関係し得る。」
ウ 「【0033】
患者の他の生理学的特性の測定値が、COの決定において用いることができ、又は患者の健康状態の評価を改善するためのCOに対する代替測定値として用いることができるので、装置2は患者のこれら他の生理学的特性を測定することが好ましく、図2に示される装置2は、心電図(ECG)センサ8、光電式容積脈波(PPG)センサ10、インピーダンス・カルジオグラム(ICG)センサ12、1以上のマイクロホン14、及び加速度計16を更に有する。1つの又は複数のマイクロホン14は、患者の心臓の機械的活動の音を測定するために、心臓の領域の患者の胸壁上に(例えば胸骨左縁かつ心尖部位置に)配置される。以下により詳細に記載するとおり、患者の姿勢は、前駆出期(PEP)等の様々な生理学的特性の測定結果に影響を及ぼす可能性があるので、患者が正しい姿勢にあるかどうかを(重力方向の検出を通じて)決定するために、加速度計16からの信号が用いられる。本発明による装置2において用いられるセンサは、個々に当業者に知られており、本明細書においては詳細に記載されない。」
エ 「【0065】
ステップ107において、患者の姿勢又は向きが許容可能である(すなわち、患者が以前の心拍出量の測定結果又は基準測定結果と同じ又は十分に近い向き又は姿勢にある)と判明した場合、装置2は続けて(いくつかの実施形態では)心拍、収縮期血圧、拡張期血圧、脈波伝達時間、及び前駆出期の測定結果を取得する(ステップ111)。上述のとおり、これらのパラメータのいくつか(例えば心拍、収縮期血圧、及び拡張期血圧)は直接測定されることができ、一方、装置2内のセンサによる測定結果から導き出されることができるものもある。」
オ 「【0067】
ステップ115において、処理ユニット4は、患者の健康状態の変化を決定するために、COの測定値を以前の測定結果と比較する。処理ユニット4がCOの相対値を算出する場合、このステップは省略され得ることが理解されるであろう。」
カ 「【0070】
ステップ117において、以前の測定結果からの有意な乖離があると判明した場合、処理ユニット4はディスプレイ20を通じて患者に警告又は指示を出すことができる(ステップ121)。この警告又は指示は、例えば、患者に直ちに医療支援を求めるように、当該患者の投薬計画を調整するように、又は別の測定を行うことにより測定結果を確認するように、助言することができる。
【0071】
本発明は鬱血性心不全の患者の監視を対象とするものとして記載されているが、本発明による方法及び装置2は、心臓血管系の測定結果が患者の状態の有用な目安を提供する、任意の他の慢性健康障害の管理において用いられ得ることが理解されるであろう。また、本発明は、スポーツのアプリケーションにおいて、心臓血管系の能力及び効率のトレーニングの効果を監視するために用いられ得ることが理解されるであろう。」

キ 引用発明について

上記引用文献1の記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「鬱血性心不全の患者の監視を対象とする装置2であって、
装置2は、心電図(ECG)センサ8、光電式容積脈波(PPG)センサ10、インピーダンス・カルジオグラム(ICG)センサ12、1以上のマイクロホン14、及び加速度計16を有し、これらのセンサを用いて取得された信号から、処理ユニット4は、収縮期時相(収縮時間)(STI)、胸水の状態及び胸部インピーダンス、並びに脈波伝播時間(PTT)及び脈波伝達時間(PAT)等の血管の状態のパラメータを推定することができ、
装置2は、心拍、収縮期血圧、拡張期血圧、脈波伝達時間、及び前駆出期の測定結果を取得し、処理ユニット4は、患者の健康状態の変化を決定するために、COの測定値を以前の測定結果と比較し、以前の測定結果からの有意な乖離があると判明した場合、処理ユニット4はディスプレイ20を通じて患者に警告又は指示を出すことができる、
装置。」

ク 技術事項について

引用文献1の記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の技術事項(以下「引用文献1技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「左心室駆出期(LVET)もまた、収縮能及び心拍出量に関係し得、1分間あたりに心臓の左心室によって送り出される血液の量である心拍出量(CO)を監視することにより、鬱血性心不全(CHF)患者の健康状態を監視する技術。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の技術事項が記載されている。(和訳は当審訳である。)

ア 「2.5.2. PPG-POW-based LVET detection method.
The physiological basis for the detection of LVET from PPG-POW was the close association between the first derivative of PPG-POW (d1PPG-POW) and the arterial flow waveform (Cook 2001, Wisely and Cook 2001). The previous study involving the ear densitogram (Quarry-Pigott et al 1973) suggested that the onset of systolic ejection could be recognized as the point of ‘rapid change from thick to thin’ (in relation to the thickness of the line printed on the graph paper) at the foot of the ear first derivative pulse. In mathematical terms, this point would be the maximum acceleration with respect to d1PPG-POW, or in other words, the systolic peak of d3PPG-POW(d3 sys pk). The study also suggested that the end of systolic ejection would appear as a nadir (or negative trough) in the ear first derivative waveform. However, based on observations of the finger d1PPG-POW recorded from a number of subjects in a pilot study, it seemed that the end of systole might not always appear as a true notch (local minimum) (see figures 2(b) and (c)).」

(当審訳:2.5.2. PPG-POWベースのLVET検出方法。

PPG-POWからLVETを検出するための生理学的根拠は、PPG-POWの一次導関数(d1PPG-POW)と動脈の流れの波形との密接な関係でした(Cook 2001、Wisely and Cook2001)。耳のデンシトグラムに関する以前の研究(Quarry-Pigott et al 1973)は、収縮期駆出の開始が耳の下部の一次微分パルスの(グラフ紙に印刷された線の太さに関連して)「太いものから細いものへの急速な変化」のポイントとして認識できることを示唆しました。数学的には、この点はd1PPG-POWに関する最大加速度、つまりd3PPG-POW(d3 sys pk)の収縮期ピークになります。この研究はまた、収縮期駆出の終わりが耳の一次微分波形の最下点(または負の谷)として現れることを示唆しました。ただし、予備的研究で多数の被験者から記録された指d1PPG-POWの観察に基づくと、収縮末期が必ずしも真のノッチ(極小)として表示されるとは限らないようです(図2(b)および(c))。)

イ 「A more reliable method to identify the end of systolic ejection would be to detect a local maximum in the second derivative of d1PPG-POW, which corresponded to the diastolic peak of d3PPG-POW(d3 dia pk). As illustrated in figure 2, the use of feature points in d3PPG-POW was found to provide an estimate of LVET that was very close to the aortic measurement.」

(当審訳:収縮期駆出の終わりを特定するためのより信頼性の高い方法は、d3PPG-POW(d3 dia pk)の拡張期ピークに対応するd1PPG-POWの2次導関数の極大値を検出することです。 図2に示すように、d3PPG-POWの特徴点を使用すると、大動脈測定に非常に近いLVETの推定値が得られることがわかりました。)

ウ 「
[図:0001387944000001.jpg]
[図:0001387944000002.jpg]
Figure 2. Illustrations of feature point detection from d1PPG-POWbased on the proposed method.
The upper and the lower traces correspond to d1PPG-POW and its associated d3PPG-POW. The upward triangle and the circle correspond to the onset and the end point of systolic ejection respectively, which are detected based on the proposed method. The double head arrows between the dotted lines indicate the aortic flow derived LVET. Note the close agreement between the aortic LVET and the time interval between the two feature points located from the derivatives of PPG-POW. (a) The end of ejection appears as a true notch, although it does not correspond to the lowest point in the cardiac cycle. (b) The end of ejection appears at the foot of the diastolic wave but does not correspond to the nadir. (c) The end of ejection appears as an inflection point instead of a true notch.」

(当審訳:図2.提案された方法に基づくd1PPG-POWからの特徴点検出の図。

上のトレースと下のトレースは、d1PPG-POWとそれに関連するd3PPG-POWに対応しています。 上向きの三角形と円は、それぞれ収縮期駆出の開始点と終了点に対応し、提案された方法に基づいて検出されます。 点線の間の二重の頭の矢印は、大動脈流由来のLVETを示しています。 大動脈LVETと、PPG-POWの派生物から位置する2つの特徴点の間の時間間隔との間の密接な一致に注意してください。 (a)駆出の終わりは、心周期の最低点に対応していませんが、真のノッチとして表示されます。 (b)排出の終わりは拡張期波のふもとに現れますが、天底には対応していません。 (c)排出の終わりは、真のノッチではなく、変曲点として表示されます。)

エ 技術事項について

引用文献3の記載事項を総合勘案すると、引用文献3には、次の技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「収縮期駆出の開始点と終了点の期間に対応する大動脈流由来のLVET を求めるに際し、PPG-POWの一次導関数(d1PPG-POW)において、収縮期駆出の開始がd1PPG-POWに関する最大加速度、つまりd3PPG-POW(d3 sys pk)の収縮期ピークになり、駆出の終わりは真のノッチであることから、PPG-POWからLVETを検出する技術。」

3.引用発明1と本願発明1との対比

引用発明1を本願発明1と対比する。

(1)引用発明1の「鬱血性心不全の患者の監視を対象とする装置2」は、本願発明1の「個人の血行動態的うっ血を評価する装置」に相当する。

(2)引用発明1の「光電式容積脈波(PPG)センサ10」を備えた「装置2」は、本願発明1の「個人によって装着されるように、かつ脈波波形を測定するように構成された非侵襲的脈波検出システム」に相当する。

(3)引用発明1は、装置2及び処理ユニット4により「脈波伝播時間(PTT)及び脈波伝達時間(PAT)等の血管の状態パラメータを推定」していることから、本願発明1とは、「前記非侵襲的脈波検出システムを用いて、第1の心周期から第1の脈波波形を測定するように構成された測定制御システム」を備える点で共通する。

(4)引用発明1では、「COの測定値を以前の測定結果と比較」している。この場合、引用発明1の「以前の測定結果」を求めるのに用いたデータに対応する心周期と、今回の「COの測定値」を求めるのに用いたデータに対応する心周期とは、異なることは明らかである。そして、引用発明1において「COの測定値」を求めるのには、脈波を測定してそのデータを用いていることも明らかであることから、引用発明1の「以前の測定結果」を測定したときの脈波波形を測定する心周期は、本願発明1の「第1の心周期」に相当し、引用発明1の「COの測定値」を測定したときの脈波波形を測定する心周期は、本願発明1の「第2の心周期」に相当し、引用発明1と本願発明1とは「非侵襲的脈波検出システムを用いて、第1の心周期から第1の脈波波形を測定し、第2の心周期から第2の脈波波形を測定するように構成された測定制御システムであって、前記第1の脈波波形及び前記第2の脈波波形は、互いに独立している、測定制御システム」を備える点で共通する。

(5)引用発明1は、装置2及び処理ユニット4により「心拍、収縮期血圧、拡張期血圧、脈波伝達時間、及び前駆出期の測定結果から患者の健康状態の変化を決定するために、COの測定値」を求め、「COの測定値を以前の測定結果と比較し、以前の測定結果からの有意な乖離があると判明した場合、処理ユニット4はディスプレイ20を通じて患者に警告又は指示を出すことができる」ことから、本願発明1とは「変動の程度から前記血行動態的うっ血を評価する分析システム」を備える点で共通する。

すると、引用発明1と本願発明1とは、

「個人の血行動態的うっ血を評価する装置であって、
(a)個人によって装着されるように、かつ脈波波形を測定するように構成された非侵襲的脈波検出システムと、
(b)前記非侵襲的脈波検出システムを用いて、第1の心周期から第1の脈波波形を測定し、第2の心周期から第2の脈波波形を測定するように構成された測定制御システムであって、前記第1の脈波波形及び前記第2の脈波波形は、互いに独立している、測定制御システムと、
(c)変動の程度から前記血行動態的うっ血を評価する分析システムと、
を備える装置。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>

血行動態的うっ血を評価するための変動の程度が、本願発明1では、「一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第1の脈波波形から」「決定し」た「第1の左室駆出時間」と、「一次脈波及び切痕の検出に基づいて前記第2の脈波波形から」「決定し」た「第2の左室駆出時間」「との間の変動の程度」であるのに対し、引用発明1では、以前のCOの測定値と今回のCOの測定値の変動の程度である点。

4.当審の判断

上記相違点について検討する。

(1)上記「2.(1)ク」で記載したとおり、引用文献1技術事項は、左心室駆出期(LVET)は、心拍出量(CO)に関係することを開示している。

(2)上記「2.(2)エ」で記載したとおり、引用文献3技術事項は、LVETをPPG-POWの一次導関数(d1PPG-POW)のノッチ(切痕)等の特徴点位置から検出する技術を開示している。

(3)引用発明1における「COの測定値」は、上記「(1)」を踏まえると心拍出量(CO)のことであり、それは左心室駆出期(LVET)、すなわち左心室駆出時間に関係するものである。そうすると、引用発明1における、血行動態的うっ血を評価するための変動を観察する対象を心拍出量であるCOから、上記「(2)」を踏まえてPPG-POW(光電脈波波形)の一次導関数に基づくLVET(左心室駆出時間)に変更して、上記相違点に係る構成を備えるようにすることは、当業者ならば容易になしえたことである。

(4)そして、本願発明1の効果は、引用発明1と、引用文献1技術事項及び引用文献3技術事項とから、当業者が予測しうる程度のものにすぎない。

(5)上記「1.」における請求人の主張は、引用文献1ないし4は「互いに独立している2つの脈波波形に基づいてそれぞれ決定される左室駆出時間の変動の程度から血行動態的うっ血を評価する」という着想を示すものではないというものであるが、上記のとおり本願発明1は引用文献1に記載された発明と、引用文献1及び引用文献3に記載された技術とから、当業者が容易になしえたことであることから、採用することはできない。

5.小括

以上のことから、原査定の理由のとおり、本願発明1を含む本願は拒絶されるべきものである。

第7 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないことから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明と、引用文献1及び引用文献3に記載された技術とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、当審拒絶理由におけるその余の拒絶の理由、及びその余の請求項に係る発明に対する拒絶の理由と、原査定におけるその余の請求項に係る発明に対する拒絶の理由について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2021-007367

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