特許拒絶査定不服審判
2021-005334
エンジン
- 審判番号
- 2021-005334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-210090外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年04月26日
- 審決日
- 2022年01月04日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
- 【請求人代理人】桂川 直己
- 分類
- P18 .121-Z (F02D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-210090号「エンジン」拒絶査定不服審判事件〔令和2年2月13日出願公開、特開2020-23975号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月12日に出願した特願2016-137653号の一部を令和元年11月21日に新たな特許出願としたものであって、令和2年10月28日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年12月24日に手続補正書及び意見書が提出され、令和3年2月5日付けで拒絶査定がされた。これに対し、令和3年4月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
第2 本願発明について
1 本願発明
特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、令和2年12月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のものであると認める。
「気体燃料を噴射するガスインジェクタと、
液体燃料を噴射するメイン燃料噴射弁と、
前記ガスインジェクタが噴射した前記気体燃料を空気と混合させて燃焼室に流入させるガスモードと、前記メイン燃料噴射弁が前記液体燃料を前記燃焼室内に噴射することで燃焼を生じさせるディーゼルモードと、を切り替える制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、エンジン内に異常が発生したと判定した場合は、前記ディーゼルモードに切り替える制御を行うことを特徴とするエンジン。」
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
この出願の請求項1~3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1に記載された発明及び引用例2記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1. 特開平11-324750号公報
2. 特開平8-4562号公報
3 引用例
(1)引用例1
令和2年10月28日付けで通知した拒絶理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、運転モードの選択により、気体燃料と液体燃料のいずれにも対応できる、主として発電用に適した複合エンジンに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、コジェネレーション用としてガスエンジンが広く設置されてきている。この場合、大都市部では、排ガス規制等の理由により、予燃焼室方式火花点火ガスエンジンが採用されることが多い。一方、非常時の防災用電源確保の要求に対しては、ディーゼルエンジンを必要とする場合も多くある。
【0003】従来、このような要求を満足するガスエンジン及びディーゼルエンジンは、全く別のエンジンとして別々に設計されていた。つまり、同一エンジンで火花点火及び圧縮着火の両方を実現するエンジンがなかった。そのため、通常運転用のガスエンジンと非常運転用のディーゼルエンジンを二重に設備していた。
【0004】一方、気体燃料を使用するガス運転モードと液体燃料を使用するディーゼル運転モードの両方を可能にする複合エンジンがある。これは、少量のパイロット油(全熱量比の5~15%程度)を着火源として気体燃料を燃焼させるガス運転モードと、100%液体燃料とするディーゼル運転モードとを選択的に切り替えられるようにしたものである。このエンジンでは、エンジン始動時は着火性の優れた液体燃料によりエンジンを始動して暖機運転を行い、エンジンが暖まった段階で、エンジン運転負荷率約30%以上の負荷時に、液体燃料から気体燃料に切り替え、着火性の高い液体燃料をパイロット燃料として着火性の低い気体燃料の着火を助けるようにしている。」
(イ)「【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、ピストンとシリンダとシリンダヘッドにより画定される主燃焼室に、運転モードに応じて気体燃料及び液体燃料の少なくとも一方を供給して燃焼させることにより駆動出力を得る複合エンジンであって、前記シリンダヘッドに、前記主燃焼室内の気体燃料と空気の混合気の着火源となる点火プラグ付予燃焼室を設けると共に、前記主燃焼室に液体燃料を噴射する液体燃料噴射弁を設けたことを特徴とする。
【0008】請求項2の発明は、請求項1記載の複合エンジンをスパークイグニッションガスエンジンとして使用する運転方法であって、主燃焼室に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、前記点火プラグ付予燃焼室にパイロットガスを供給して点火プラグで火花着火させることにより、該点火プラグ付予燃焼室を着火源として主燃焼室の混合気を燃焼させることを特徴とする。
【0009】請求項3の発明は、請求項1記載の複合エンジンをディーゼルエンジンとして使用する運転方法であって、所定の行程において主燃焼室に前記液体燃料噴射弁より液体燃料を噴射することにより、液体燃料を圧縮着火させることを特徴とする。
【0010】請求項4の発明は、請求項1記載の複合エンジンをパイロット噴射ガスエンジンとして使用する運転方法であって、主燃焼室に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、前記液体燃料噴射弁より少量の液体燃料を噴射することにより該液体燃料を圧縮着火させ、該圧縮着火部分を着火源として主燃焼室の混合気を燃焼させることを特徴とする。」
(ウ)「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は実施形態の複合エンジンのシリンダヘッド部分の側断面図である。図において、2はシリンダ、2aはシリンダライナ、3はピストン、4はシリンダヘッドで、主燃焼室1は、ピストン3、シリンダライナ2a、シリンダヘッド4で囲まれている。この例では、シリンダヘッド4の中央にディーゼル運転用の液体燃料噴射弁30が配設され、両サイドに点火プラグ付予燃焼室ユニット10が配設されている。
【0014】点火プラグ付予燃焼室ユニット(以下、単に「点火プラグ付予燃焼室」と言う場合もある)10は、シリンダヘッド4に、予燃焼室噴口14と予燃焼室本体13を組み込むことにより形成されている。15は、予燃焼室噴口14内に確保された予燃焼室12内へ直接燃料ガスを供給するための燃料噴射孔である。主燃焼室1と予燃焼室12は、予燃焼室12の下端部に設けられた単数または複数の連絡孔17により連通されている。予燃焼室本体13には点火プラグ11が装着されており、これが予燃焼室12内の混合気の点火源となる。点火プラグ付予燃焼室ユニット10の予燃焼室12の容積比(圧縮上死点時の総燃焼室容積に対する比)を数%と小さくして、超低NOx化を実現する。
【0015】図2は点火プラグ付予燃焼室ユニット10と各弁の配置を示している。シリンダヘッドには、円形断面の主燃焼室に対して、片側半分に吸気弁21が2つ、残る片側半分に排気弁22が2つ配置されており、吸気弁21を設けた側と排気弁22を設けた側の境界部分に外周寄りに位置させて点火プラグ付予燃焼室ユニット10が配されている。なお、点火プラグ付予燃焼室ユニット10は2つの吸気弁21,21間と2つの排気弁22,22間、すなわちY,Yの位置に配されることもある。
【0016】図3は本エンジンEの全体構成を示す平面図である。このエンジンEは直列6気筒エンジンであり、各シリンダ2毎に、前述の点火プラグ付予燃焼室ユニット10と液体燃料噴射弁(本図では図示略)が備わっている。図において、16は高圧ケーブルであり、各点火プラグ付予燃焼室ユニット10の点火プラグは、この高圧ケーブル16により点火コイル19とつながっている。20は点火装置である。
【0017】次に上記複合エンジンで実現可能な各種運転モードについて説明する。実現し得る運転モードとしては、
(A)スパークイグニッションガスエンジンとする運転モード
(B)ディーゼルエンジンとする運転モード
(C)パイロット噴射ガスエンジンとする運転モード
(D)ハイブリッドイグニッションガスエンジンとする運転モード
がある。
【0018】各運転モードのときの点火プラグ付予燃焼室及び燃料噴射弁の使用の有無と、使用する主燃料の組合せは以下の通りになる。
【0019】
モード 点火プラグ付予燃焼室 燃料噴射弁 主燃料
(A) 使用する 使用しない ガス
(B) 使用しない 使用する 液体燃料
(C) 使用しない 使用する ガス
(D) 使用する 使用する ガス
【0020】(1)スパークイグニッションガスエンジンとして使用する運転モード:この運転モードでは、燃料としては気体燃料(ガス)のみを用い、点火プラグ付予燃焼室を、主燃焼室の気体燃料と空気との混合気の点火源とする。具体的には、排気行程後半から吸気行程前半において、点火プラグ付予燃焼室ユニット10(以降の各符号は図1による)の燃料噴射孔15から、予燃焼室12内にパイロットガスを供給する。パイロットガスは、パイロツトガスヘッダ(図示略)内の圧力と主燃焼室1内の圧力との差圧により供給され、その供給量は前に差圧を変えることにより調整される。また、主燃焼室には、燃料ガスと空気の混合気を吸気行程において供給する。圧縮行程では、ピストン3により主燃焼室1内の希薄混含気が圧縮されることで、同混合気の一部が点火プラグ付予燃焼室ユニット10の連絡孔17を介して予燃焼室12に流入する。流入の際に、予燃焼室12内の燃料ガスと希薄混合気が混ざり、平均空気過剰率1.0程度の濃度となる。この状態になったところで、点火プラグ11のギャップ間において火花放電を生じさせて、予燃焼室12内の混合気を着火燃焼させる。予燃焼室12において燃焼した火炎は、主燃焼室1へ伝播し、主燃焼室1の混合気の着火源となり、主燃焼室1内の混合気全体を燃焼させる。
【0021】このように、予燃焼室を利用してスパークイグニッション(火花点火)ガスエンジンモードで運転した場合の作用効果について補足する。ここでは、シリンダ径335mm、ストローク360mmのエンジンにおいて、点火プラグ付予燃焼室を1個設けた場合と2個設けた場合のNOxと熱効率について実験し、その関係を調べている。但し、単一の点火プラグ付予燃焼室の場合は、シリンダヘッドの中央にそれを配置している。
【0022】図4は正味熱効率とNOxの関係を示している。この図において、○、△、□は単一予燃焼室の場合の容積比が2.1%、2.4%、3.0%のときの各データ、●、▲、■は複数予燃焼室の場合の容積比が1.3%、1.8%、2.5%のときの各データである。本実験では、BMEP(軸平均有効圧力)1.23MPa、回転数750rpm、点火時期BTDC(上死点前クランク角度)18度、20度、給気温度(主燃焼室に供給される空気の温度)tb65℃の状態で、エンジンを運転しながら、排気ガス中の残存酸素濃度を11.5~13.9%の間で変更して、エンジン性能を計測した。全体の傾向としては、酸素濃度を下げていくと、正味熱効率は改善されるが、NOxは高くなることが示されている。
【0023】単一予燃焼室の場合の正味熱効率38%でのNOxを比較すると、予燃焼室容積比が2.1%、2.4%、3.0%(図4中記号○、△、□)と大きくなるに従い、NOxは110→160→200ppmと上昇していることが分かる。一方、複数(2個)予燃焼室の容積比を最適化した場合、即ち、小容積比の予燃焼室を複数用いた場合は、NOxを低下できることが分かる。例えば、容積比1.3%とした場合(図4中記号●〉のNOxレベルは100ppm以下であり、単一予燃焼室の場合よりも格段と低いことが分かる。
【0024】図5は、単一予燃焼室(Single-PCC)と2予燃焼室(Double-PCC)の予燃焼室容積比(複数の場合は総和)とNOx濃度の関係を示している。NOx濃度は、熱効率36~37%の時の値を図4から読み取っている。この図から、予燃焼室を2個とした方がNOxレベルが低いことが分かる。このことは、同一点火エネルギでも、その付与位置を分散させた場合、つまり複数予燃焼室化が超低NOx化に有効であることを示している。以上のことから、本実施形態の複合エンジンのように、小予燃焼室(容積比1~3%程度)を両サイドに配置してスパークイグニッションガスエンジンモードで運転した場合には、超低NOx化を図ることができることが示された。
【0025】(2)ディーゼルエンジンとして使用する運転モード:この運転モードでは、燃料としては液体燃料のみを用い、両サイドの点火プラグ付予燃焼室は使用せずに、中央に配置した液体燃料噴射弁30より、エンジン運転負荷に応じた量の液体燃料を主燃焼室1内に噴射する。
【0026】(3)パイロット噴射ガスエンジン(パイロットインジェクションガスエンジン)として使用する運転モード:この運転モードでは、主燃料としては気体燃料(ガス)を用い、副燃料として中央の液体燃料噴射弁30から少量の燃料(全熱量比5~15%程度)を噴射させて、これを着火源として主燃焼室1の混合気を燃焼させる。従って、ガスエンジンとして運転するものの、点火プラグ付予燃焼室は使用しない。
【0027】(4)ハイブリッドイグニションガスエンジンとして使用する運転モード:この運転モードでは、同一燃焼サイクルにおいて、主燃焼室1に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、点火プラグ付予燃焼室ユニット10の予燃焼室12にパイロットガスを供給して点火プラグ11で火花着火させ、火花着火のタイミングとほぼ同時または前後させて、中央の液体燃料噴射弁30から少量の液体燃料を噴射させて圧縮着火させる。そして、これら火花着火及び圧縮着火した部分を着火源として主燃焼室1内の混合気を燃焼させる。これによれば、多点点火(本例では3点)による混合気の燃焼促進が実現される。なお、これら着火源の火花点火時期と、パイロット燃料噴射時期及び噴射量を最適調整することにより、混合気の燃焼性を更に改善することができて、短期燃焼化による熱効率改善を図ることができる。」
(エ)「【0035】図10は運転操作の仕方の流れを示す。エンジンの運転開始に際し、最初に運転モードを選択する。大きく分けてガスモードとディーゼルモードのどちらかを選択し、ガスモードの中で更に、スパークイグニッションガスエンジンのモードか、ハイブリッドイグニッションガスエンジンのモードか、パイロット噴射ガスエンジンのモードかを選択する(ステップS1~S7)。そして、各モードに応じて運転を実施する。
【0036】ガス運転を行っている場合は、シリンダ出口排気温度を監視し、温度低下が大の場合は点火異常警報を発報し、警報を維持しながら、異常シリンダを特定して記録する(ステップS10~S14)。また、処置選択のステップS15に進んで、対処の仕方として、エンジン負荷操作か、ガス運転か、ディーゼル運転かを選ぶ(ステップS16~S18)。エンジン負荷操作を選んだ場合は、運転負荷の低下か、エンジン停止かを選ぶ(ステップS19~S21)。また、ガス運転を選んだ場合は、ハイブリッドイグニッションガスエンジン運転モードのステップS6に進み、これを実施する。また、ディーゼル運転を選んだ場合は、ディーゼルモードのステップS3に進み、これを実施する。具体的には、点火異常を検出したときには、運転操作として、例えば、ハイブリッドイグニッションガスエンジンを選択した場合は、パイロット油量を増加させて安定燃焼を図るとか、100%液体燃料つまりディーゼル運転に切り替える。それにより、エンジン出力や効率を落とさずに運転を継続することができる。」
(2)引用例1に記載された発明
引用例1の上記記載を総合すると、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「シリンダヘッド4の中央にディーゼル運転用の液体燃料噴射弁30が配設され、
シリンダヘッド4に、予燃焼室噴口14と予燃焼室本体13を組み込み、予燃焼室噴口14内に確保された予燃焼室12内へ直接燃料ガスを供給するための燃料噴射孔15を有し、
エンジンの運転開始に際し、大きく分けてガスモードとディーゼルモードのどちらかを選択し、ガスモードの中で更に、スパークイグニッションガスエンジンのモードか、ハイブリッドイグニッションガスエンジンのモードか、パイロット噴射ガスエンジンのモードかを選択し、各モードに応じて運転を実施し、
スパークイグニッションガスエンジンとして使用する運転モードは、燃料としては気体燃料(ガス)のみを用い、点火プラグ付予燃焼室を、主燃焼室の気体燃料と空気との混合気の点火源とし、
ディーゼルエンジンとして使用する運転モードは、燃料としては液体燃料のみを用い、両サイドの点火プラグ付予燃焼室は使用せずに、中央に配置した液体燃料噴射弁30より、エンジン運転負荷に応じた量の液体燃料を主燃焼室1内に噴射し、
パイロット噴射ガスエンジンとして使用する運転方法は、主燃焼室に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、前記液体燃料噴射弁より少量の液体燃料を噴射することにより該液体燃料を圧縮着火させ、該圧縮着火部分を着火源として主燃焼室の混合気を燃焼させ、
ハイブリッドイグニションガスエンジンとして使用する運転モードは、同一燃焼サイクルにおいて、主燃焼室1に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、点火プラグ付予燃焼室ユニット10の予燃焼室12にパイロットガスを供給して点火プラグ11で火花着火させ、火花着火のタイミングとほぼ同時または前後させて、中央の液体燃料噴射弁30から少量の液体燃料を噴射させて圧縮着火させ、
ガス運転を行っている場合に、シリンダ出口排気温度を監視し、温度低下が大の場合に点火異常とし、100%液体燃料つまりディーゼル運転に切り替える複合エンジン。」
4 本願発明と引用発明の対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「主燃焼室」は、その構造及び機能から、本願発明1の「燃焼室」に相当する。同様に「複合エンジン」は「エンジン」に相当する。
(イ)引用発明の「シリンダヘッド4の中央に」「配設され」た「ディーゼル運転用の液体燃料噴射弁30」は、本願発明の「液体燃料を噴射するメイン燃料噴射弁」に相当する。
(ウ)引用発明の「予燃焼室噴口14内に確保された予燃焼室12内へ直接燃料ガスを供給するための燃料噴射孔15」は、本願発明の「気体燃料を噴射するガスインジェクタ」に相当する。
(エ)引用発明の「スパークイグニッションガスエンジンのモードか、ハイブリッドイグニッションガスエンジンのモードか、パイロット噴射ガスエンジンのモードかを選択」する「ガスモード」は、
「スパークイグニッションガスエンジンとして使用する運転モードは、燃料としては気体燃料(ガス)のみを用い、」「主燃焼室の気体燃料と空気との混合気の点火源と」するものであり、
「パイロット噴射ガスエンジンとして使用する運転方法は、主燃焼室に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、前記液体燃料噴射弁より少量の液体燃料を噴射することにより該液体燃料を圧縮着火させ、該圧縮着火部分を着火源として主燃焼室の混合気を燃焼させ」るものであり、
「ハイブリッドイグニションガスエンジンとして使用する運転モードは、同一燃焼サイクルにおいて、主燃焼室1に気体燃料と空気の混合気を供給すると共に、点火プラグ付予燃焼室ユニット10の予燃焼室12にパイロットガスを供給して点火プラグ11で火花着火させ、火花着火のタイミングとほぼ同時または前後させて、中央の液体燃料噴射弁30から少量の液体燃料を噴射させて圧縮着火させ」るものであって、
いずれも、主燃焼室1に燃料噴射孔15が噴射した気体燃料と空気の混合気を供給するガスモードであるから、本願発明の「前記ガスインジェクタが噴射した前記気体燃料を空気と混合させて燃焼室に流入させるガスモード」に相当する。
(オ)引用発明の「燃料としては液体燃料のみを用い、両サイドの点火プラグ付予燃焼室は使用せずに、中央に配置した液体燃料噴射弁30より、エンジン運転負荷に応じた量の液体燃料を主燃焼室1内に噴射」する「ディーゼルエンジンとして使用する運転モードであるディーゼルモード」は、本願発明の「前記メイン燃料噴射弁が前記液体燃料を前記燃焼室内に噴射することで燃焼を生じさせるディーゼルモード」に相当する。
(カ)本願発明の「エンジン内に異常」は、本願明細書の【0089】を参照すると、エンジン内で発生する異常であるから、点火異常を当然に含んでいる。
そうすると、引用発明の「ガス運転を行っている場合に、シリンダ出口排気温度を監視し、温度低下が大の場合に点火異常とし、100%液体燃料つまりディーゼル運転に切り替える」ことと、本願発明の「エンジン内に異常が発生したと判定した場合は、前記ディーゼルモードに切り替える制御を行うこと」とは、「エンジン内に異常が発生したと判定した場合は、前記ディーゼルモードに切り替えること」の限りで一致する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「気体燃料を噴射するガスインジェクタと、
液体燃料を噴射するメイン燃料噴射弁と、
前記ガスインジェクタが噴射した前記気体燃料を空気と混合させて燃焼室に流入させるガスモードと、前記メイン燃料噴射弁が前記液体燃料を前記燃焼室内に噴射することで燃焼を生じさせるディーゼルモードと、
を備え、
エンジン内に異常が発生したと判定した場合は、前記ディーゼルモードに切り替えるエンジン。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明は、ガスモードとディーゼルモードと「を切り替える制御を行う制御装置」を備え、「前記制御装置」は、エンジン内に異常が発生したと判定した場合は、ディーゼルモードに切り替える「制御を行う」のに対して、引用発明は、そのような制御装置を有するかどうか不明な点。
(2) 当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例1の段落【0004】には、始動時に液体燃料によりエンジンを始動して(ディーゼルモード)、エンジンが暖まった段階で、エンジン負荷率やく30%以上の負荷時に液体燃料から気体燃料に切り換える(パイロット噴射ガスエンジンのモード、ハイブリッドイグニッションガスエンジンのモード)ことが記載されており、当該切り換えに制御装置を用いることは通常のことである。
一方、気体燃料と液体燃料を用いるエンジンにおいて、ガスモードとディーゼルモードとの切り替えを、切り替え条件を設定して制御装置により制御すること、いわゆる自動化することは、周知(原査定で引用した引用例2の段落【0015】、【0018】、【0019】の「コントローラ10」に関する記載参照。)である。
そうすると、引用発明は、「ガス運転を行っている場合に、シリンダ出口排気温度を監視し、温度低下が大の場合に点火異常とし、100%液体燃料つまりディーゼル運転に切り替える」ことが自動的に制御されているか不明であるところ、引用発明において、上記周知の事項を適用して、当該「切り替え」を制御装置により制御することで上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<本願発明の奏する効果について>
本願発明の奏する効果は、引用発明、引用例1記載の事項及び周知の事項から、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものでない。
5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、引用例1記載の事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-005334