特許拒絶査定不服審判
2021-005228
生体的特徴識別装置及び方法、並びに生体的特徴テンプレートの登録方法
- 審判番号
- 2021-005228
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-565012
- 請求日
- 2021年04月22日
- 審決日
- 2022年07月25日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】北京集創北方科技股▲ふん▼有限公司
- 【請求人代理人】TRY国際特許業務法人
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】伊東 忠彦
- 【請求人代理人】宮崎 修
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 須田 勝巳
- 審判官 児玉 崇晶
- 分類
- P18 .121-Z (G06F) / P18 .561-Z (G06F) / P18 .575-Z (G06F) / P18 .537-Z (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第184条の12第2項、特許法第29条、特許法第184条の4第1項、特許法第164条、特許法第36条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-565012「生体的特徴識別装置及び方法、並びに生体的特徴テンプレートの登録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日国際公開、WO2017/215533、令和 1年10月 3日国内公表、特表2019-527868〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は,2017年6月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年6月12日 中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって,
平成30年12月12日付けで特許法184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図面の中の説明に限る)の日本語による翻訳文が提出されると共に審査請求がなされ,令和2年2月27日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して令和2年6月2日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ,令和2年8月27日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して令和2年12月1日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,令和2年12月17日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して令和3年4月22日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,令和3年7月5日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。
第2.令和3年4月22日付けの手続補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年4月22日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
令和3年4月22日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,令和2年12月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「 【請求項1】
プロセッサー及び生体的特徴識別装置を含むコンピューティングデバイスであって,
前記生体的特徴識別装置は,
生体的特徴情報を感知するセンサと,
前記センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサと,
生体的特徴テンプレートを記憶し,前記マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するセキュリティチップと,
を含み,
前記マイクロプロセッサ及び前記セキュリティチップは,共に単独した物理的なハードウェアであって,前記マイクロプロセッサはマイクロコントローラユニットMCU,前記セキュリティチップはセキュリティ素子SEであり,且つ前記コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔離され,
前記生体的特徴識別装置は,前記コンピューティングデバイスのシステム環境における非セキュリティ領域を介して前記コンピューティングデバイスの前記プロセッサーに前記生体的特徴識別結果を送信するコンピューティングデバイス。
【請求項2】
前記マイクロプロセッサは,
センサから生体的特徴情報を取得する画像採取モジュールと,
前記画像採取モジュールが取得した生体的特徴情報を前処理することにより生体的特徴のグレースケール画像を取得する画像前処理モジュールと,
前記画像前処理モジュールが取得したグレースケール画像から生体的特徴の特徴点を抽出することにより,生体的特徴の特徴点に関連する生体的特徴データを取得する特徴抽出モジュールと,
を含む請求項1に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項3】
前記セキュリティチップは,
生体的特徴テンプレートを記憶するものであって,前記生体的特徴テンプレートは登録段階でマイクロプロセッサによりセンサが感知した生体的特徴情報に対して取得,画像前処理及び特徴抽出を行うことによって生成される記憶モジュールと,
マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと前記記憶モジュールに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合するものであって,生体的特徴データが生体的特徴テンプレートにマッチしている場合に,生体的特徴識別結果はパスしたと判定する一方,マッチしていない場合に,生体的特徴識別結果はパスしていないと判定する特徴照合モジュールと,
を含む請求項1に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項4】
前記セキュリティチップは,生体的特徴識別結果にデジタル署名を行う署名モジュールをさらに含む請求項3に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項5】
生体的特徴は指紋を含み,前記生体的特徴情報は指紋の画像情報を含み,前記生体的特徴データは指紋の特徴点データを含み,前記生体的特徴テンプレートは指紋特徴テンプレートを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のコンピューティングデバイスに実行され,
生体的特徴識別指令に従って,センサにより生体的特徴情報を感知するステップと,
マイクロプロセッサによりセンサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより生体的特徴データを取得するステップと,
セキュリティチップによりマイクロプロセッサが取得した生体的特徴データとセキュリティチップに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するステップと,
を含む生体的特徴識別方法。
【請求項7】
セキュリティチップによりマイクロプロセッサが取得した生体的特徴データとセキュリティチップに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより生体的特徴識別結果を確定するステップは,セキュリティチップにおいて,マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データとセキュリティチップに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合して,生体的特徴データが生体的特徴テンプレートにマッチしている場合に,生体的特徴識別結果はパスしたと判定する一方,マッチしていない場合に,生体的特徴識別結果はパスしていないと判定することを含む請求項6に記載の生体的特徴識別方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一つに記載のコンピューティングデバイスに実行され,
生体的特徴テンプレートの登録指令に従って,センサにより生体的特徴情報を感知するステップと,
マイクロプロセッサによりセンサから生体的特徴情報を取得し,生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するステップと,
マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データを生体的特徴テンプレートとしてセキュリティチップに記憶するステップと,
を含む生体的特徴テンプレートの登録方法。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
プロセッサー及び生体的特徴識別装置を含むコンピューティングデバイスであって,
前記生体的特徴識別装置は,
生体的特徴情報を感知するセンサと,
前記センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサと,
生体的特徴テンプレートを記憶し,前記マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するセキュリティチップと,
を含み,
前記マイクロプロセッサ及び前記セキュリティチップは,共に単独した物理的なハードウェアであって,前記マイクロプロセッサはマイクロコントローラユニットMCU,前記セキュリティチップはセキュリティ素子SEであり,且つ前記コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔離され,
前記生体的特徴識別装置は,前記コンピューティングデバイスのシステム環境における非セキュリティ領域を介して前記コンピューティングデバイスの前記プロセッサーに前記生体的特徴識別結果を送信し,
前記セキュリティチップはキーペアを生成することに更に用いられ,前記キーペアはプライベートキーとパブリックキーを含み,
前記セキュリティチップは前記生体的特徴を識別した後に,前記プライベートキーにより生体的特徴識別結果に対してデジタル署名を行い,前記パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され,かつ署名された前記生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証するコンピューティングデバイス。
【請求項2】
前記マイクロプロセッサは,
センサから生体的特徴情報を取得する画像採取モジュールと,
前記画像採取モジュールが取得した生体的特徴情報を前処理することにより生体的特徴のグレースケール画像を取得する画像前処理モジュールと,
前記画像前処理モジュールが取得したグレースケール画像から生体的特徴の特徴点を抽出することにより,生体的特徴の特徴点に関連する生体的特徴データを取得する特徴抽出モジュールと,
を含む請求項1に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項3】
前記セキュリティチップは,
生体的特徴テンプレートを記憶するものであって,前記生体的特徴テンプレートは登録段階でマイクロプロセッサによりセンサが感知した生体的特徴情報に対して取得,画像前処理及び特徴抽出を行うことによって生成される記憶モジュールと,
マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと前記記憶モジュールに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合するものであって,生体的特徴データが生体的特徴テンプレートにマッチしている場合に,生体的特徴識別結果はパスしたと判定する一方,マッチしていない場合に,生体的特徴識別結果はパスしていないと判定する特徴照合モジュールと,
を含む請求項1に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項4】
前記セキュリティチップは,生体的特徴識別結果にデジタル署名を行う署名モジュールをさらに含む請求項3に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項5】
生体的特徴は指紋を含み,前記生体的特徴情報は指紋の画像情報を含み,前記生体的特徴データは指紋の特徴点データを含み,前記生体的特徴テンプレートは指紋特徴テンプレートを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のコンピューティングデバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のコンピューティングデバイスに実行され,
生体的特徴識別指令に従って,センサにより生体的特徴情報を感知するステップと,
マイクロプロセッサによりセンサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより生体的特徴データを取得するステップと,
セキュリティチップによりマイクロプロセッサが取得した生体的特徴データとセキュリティチップに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するステップと,
を含む生体的特徴識別方法。
【請求項7】
セキュリティチップによりマイクロプロセッサが取得した生体的特徴データとセキュリティチップに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより生体的特徴識別結果を確定するステップは,セキュリティチップにおいて,マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データとセキュリティチップに記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合して,生体的特徴データが生体的特徴テンプレートにマッチしている場合に,生体的特徴識別結果はパスしたと判定する一方,マッチしていない場合に,生体的特徴識別結果はパスしていないと判定することを含む請求項6に記載の生体的特徴識別方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一つに記載のコンピューティングデバイスに実行され,
生体的特徴テンプレートの登録指令に従って,センサにより生体的特徴情報を感知するステップと,
マイクロプロセッサによりセンサから生体的特徴情報を取得し,生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するステップと,
マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データを生体的特徴テンプレートとしてセキュリティチップに記憶するステップと,
を含む生体的特徴テンプレートの登録方法。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。
2.補正の適否
(1)新規事項
本件手続補正が,特許法184条の12第2項により読み替える同法17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件手続補正が,平成30年12月12日付けで提出された明細書,請求の範囲の日本語による翻訳文(以下,これを「当初明細書等」という),及び,国際出願の願書に添付した図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,以下に検討する。
ア.補正後の請求項1に,
「セキュリティチップは前記生体的特徴を識別した後に,前記プライベートキーにより生体的特徴識別結果に対してデジタル署名を行い,前記パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され,かつ署名された前記生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証するコンピューティングデバイス」(以下,これを「引用記載1」という),
と記載されている。
ここで,引用記載1中の「セキュリティチップ」は,補正後の請求項1の,
「プロセッサー及び生体的特徴識別装置を含むコンピューティングデバイスであって,
前記生体的特徴識別装置は,
生体的特徴情報を感知するセンサと,
前記センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサと,
生体的特徴テンプレートを記憶し,前記マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するセキュリティチップと,
を含み」,
という記載(以下,これを「引用記載2」という)から,「生体的特徴識別装置」に含まれるものであり,更に,同じく,引用記載2によれば,前記「生体的特徴識別装置」は,
「コンピューティングデバイス」に含まれるものであるから,前記「セキュリティチップ」も,「コンピューティングデバイス」に含まれるものである。
以上の検討から,引用記載1の「パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され」るという構成は,
(ア)“パブリックキーはセキュリティチップの外側であって,かつ,生体的特徴識別装置の内側に記憶される”
という構成と,
(イ)“パブリックキーはセキュリティチップの外側,更に,生体的特徴識別装置の外側であって,かつ,コンピューティングデバイスの内側に記憶される”
という構成の何れか,或いは,両方の構成を内包するものであることは明らかである。
(ウ)加えて,引用記載1の内容から,補正後の請求項1に係る発明は,
“セキュリティチップが,プライベートキーを用いてデジタル署名をした生体的特徴識別結果が合法であるか否かを,コンピューティングデバイスが検証する”
態様を含むものであることが読み取れる。
そこで,まず,引用記載1の「パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され」るについて,当初明細書等を参照すると,当初明細書等には,当該「パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され」ると同等の記載は,存在していない。
次に,当該「パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され」るという構成,或いは,上記に検討した,構成(ア),または,構成(イ)が,当初明細書等の記載内容から読み取れるかについて検討すると,当初明細書等には,その段落【0009】に,「いくつかの実施例において,上記セキュリティチップは,生体的特徴識別結果にデジタル署名を行う署名モジュールをさらに含む。
いくつかの実施例において,上記マイクロプロセッサはマイクロコントローラユニット(Microcontroller Unit,MCU),上記セキュリティチップはセキュリティ素子(Secure Element,SE)である。」
という記載(以下,これを「引用記載3」という)が,段落【0027】に,
「図2に示すように,生体的特徴識別装置200は,センサ210,マイクロプロセッサ220及びセキュリティチップ230を含む。いくつかの実施例において,生体的特徴識別装置200は,例えばスマートフォン,タブレットPCといったコンピューティングデバイスに実装されてもよい。マイクロプロセッサ220及びセキュリティチップ230は共に単独した物理的なハードウェアであり,上記コンピューティングデバイスのシステム環境とは物理的に隔離されている。」
という記載(以下,これを「引用記載4」という)が,【0036】に,
「署名モジュール2303は,生体的特徴識別結果にデジタル署名を行うものである。例えば,署名モジュール2303は,生体的特徴テンプレートの登録が成功した後にキーペアを生成し,プライベートキーをセキュリティチップに保存し,パブリックキーを外部のアプリケーションサーバーに送信すると共に,生体的特徴を識別した後に,プライベートキーにより生体的特徴識別結果にデジタル署名を行う。上記アプリケーションサーバーは,この署名された生体的特徴識別結果を受信した後に,上記パブリックキーによりこの署名された生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証する。このようにして,開放される使用環境におけるトロイの木馬やウイルスによりセキュリティチップの出力した生体的特徴識別結果が改ざんされることで,指紋認証をパスしていない行為が授権されてパスしてしまうことを防止することができる。」
という記載(以下,これを「引用記載5」という)が,段落【0042】に,
「いくつかの実施例において,方法300は,生体的特徴識別結果にデジタル署名を行うことをさらに含んでもよい。例えば,生体的特徴テンプレートの登録が成功した後にキーペアを生成し,プライベートキーをセキュリティチップに保存し,パブリックキーを外部のアプリケーションサーバーに送信すると共に,生体的特徴を識別した後に,プライベートキーにより生体的特徴識別結果にデジタル署名を行ってもよい。上記アプリケーションサーバーは,この署名された生体的特徴識別結果を受信した後に,上記パブリックキーによりこの署名された生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証してもよい。」
という記載(以下,これを「引用記載6」という)が存在している。
引用記載3の下線を付した記載内容から,「セキュリティチップは,生体的特徴識別結果にデジタル署名を行う署名モジュールを」「含む」ことが読み取れ,
引用記載4の下線を付した記載内容から,「コンピューティングデバイス」が,「スマートフォン」,「タブレットPC」といったものであり,
同じく引用記載3の下線を付した記載内容から,前記「コンピューティングデバイス」は,「生体的特徴識別装置」が「実装され」,前記「生体的特徴識別装置」は,「セキュリティチップ」を「含む」ものであることが読み取れる。
そして,引用記載5,及び,引用記載6の下線を付した記載内容から,当初明細書等においては,「パブリックキー」は,「スマートフォン」,「タブレットPC」といったものである前記「コンピューティングデバイス」の外側にある「アプリケーションサーバーに送信」されるものであることが読み取れ,
前記「アプリケーションサーバー」は,送信された「パブリックキー」を用いて,前記「コンピューティングデバイス」に実装された,前記「生体的特徴識別装置」に含まれる,前記「セキュリティチップに保存」された,前記「パブリックキー」と対になる「プライベートキー」を用いて,「セキュリティチップ」に含まれる「署名モジュール」によって,「生体的特徴識別結果」に付与された「署名」を検証することが読み取れ,このことから,「パブリックキー」は,「アプリケーションサーバー」に「記憶」されるものであることが読み取れる。
以上検討した事項から,引用記載3~引用記載6から,当初明細書等においては,
「パブリックキー」は,「セキュリティチップ」の外部,即ち,「コンピューティングデバイス」の外部の「アプリケーションサーバー」に「記憶」され,公開鍵暗号系の署名検証手法を用いて,「セキュリティチップ」において,「生体的特徴識別結果」に対して,前記「パブリックキー」と対になる「プライベートキー」を用いて行われた,「署名」に対する検証を,前記「アプリケーションサーバー」において,前記「パブリックキー」を用いて行われることが読み取れる。
しかしながら,引用記載3~引用記載6からは,「パブリックキー」を,「コンピューティングデバイス」上で,「セキュリティチップ」以外の場所に「記憶」すること,前記「コンピューティングデバイス」が,「生体的特徴識別結果」が,「署名された前記生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証する」ことを読み取ることはできず,当初明細書等には,引用記載3~引用記載6以外に,「パブリックキー」と,「署名された」「生体的特徴識別結果」について言及した箇所は存在しないので,
当初明細書等からは,引用記載3~引用記載6を検討しても,引用記載1に相当する構成を読み取ることはできず,当初明細書等の,引用記載3~引用記載6以外の記載内容を検討しても,引用記載1に相当する構成を読み取ることはできない。
よって,本件手続補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。
(2)独立特許要件
本件手続補正は,上記「(1)新規事項」において検討したとおり,特許法184条の12第2項により読み替える同法17条の2第3項の規定を満たすものではないが,
補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が,補正後の請求項各項に記載されたとおりのものであるとして,当該発明が特許出願の際,独立して特許を受けることができるものであるか否か,以下に検討する。
ア.36条6項1号について
補正後の請求項1に係る発明(以下,これを「本件補正発明」という)は,上記「(1)新規事項」において検討した引用記載1の構成を有していて,引用記載1の構成については,上記「(1)新規事項」において検討したとおりである。
一方,本願明細書の発明の詳細な説明においては,「パブリックキー」、及び,「署名された生体的特徴識別結果が合法であるか否か」についての「検証」については,引用記載3~引用記載6に開示されたとおりである。
したがって,本件補正発明における引用記載1に相当する構成は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された内容からは読み取ることができず,
本件補正発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって,本件出願は,特許請求の範囲の記載が上記の点で不備のため,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないので,本願は,拒絶すべきものである。
イ.29条2項について
本件補正発明は,上記「ア.36条6項1号について」に検討したとおり,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないが,一応,字句どおりのものとして,以下の検討を行う。
(ア)引用文献に記載の事項
あ.原審の令和2年8月27日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)に引用された,本願の第一国出願前に既に公知である,特開平10-149446号公報(1998年6月2日公開,以下,これを「引用文献1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。
A.「【0026】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.以下,本発明の一実施の形態を図について説明する。図1は,本発明の一実施の形態による指紋照合装置の外観図である。図2は,指紋照合装置の部分構成を示したブロック図である。図において,1は照合したい指をのせるためのガラス状の透明板11を有する指紋照合装置,12は透明板11に光を照射するためのLED(Light Emitting Didode)などの照明用の光源,15は透明板11を介して画像センサ部13に取り込まれた指紋パターンの特徴抽出を行うためのデータ処理回路,16はこの特徴量と,画像の特徴を示す特定の特徴量を記憶するためのメモリ14内の情報とを比較するための比較器,17は指紋照合装置1の動作を制御する制御デバイス,18は画像センサ部13とのデータ処理回路15をワンチップ上に集積化したデバイスである。」
B.「【0027】次に,指紋照合装置の動作について説明する。まず,はじめに透明板11に指をのせる。このときLED12は指紋パターンを照明する。これにより,指紋パターンは画像センサ部13に,即ち指紋照合装置1に取り込まれる。画像センサ部13に取り込まれた指紋データは画素数分のデータ(例えば256×256画素で分解能8-bitであれば256×256×8=500kbits)となりデータ処理回路15に転送され特徴量が抽出される。この特徴量は例えば,指紋線の傾き量,分岐の位置,分岐の数等である。この特徴量を抽出するために,隣り合った画素の間での明度差を調べるエッジ抽出処理等のフィルタリング処理がデータ処理回路15で実行される。計算された特徴量は,比較器16に転送される。比較器16では,計算された特徴量がメモリ15に格納されている特定の特徴量と比較される。もし2つの特徴量が一致した場合には一致信号が照合結果として出力される。すなわちこの場合,一致信号を調べることにより画像データがメモリ15に格納されている特定の特徴量を持つことが確認できる。従って,メモリ15に特定の個人の指紋の特徴量を予め格納しておくことにより,システムの使用者を特定することができる。そのため,システムの使用時に個人情報をより安全に取り扱うことができる。さらに,画像センサ部13とデータ処理部15がワンチップに集積化されているため高速に特徴量を処理することが可能であるとともに,装置全体を小型化でき,ICカード化が容易に可能となる。」
C.「【0051】実施の形態9.以下,本発明の一実施の形態を図について説明する。図14は,本発明の一実施の形態による指紋照合装置の構成を説明する図である。図において,指紋の検出部20を有し照合結果を受理するのは例えばICカード60であり,ICカード60からの情報はICカード60を携帯端末59に挿入することで,携帯端末59を介して,ホストコンピュータ28へ送受信される。実際の指紋照合作業や,その作業に用いる個人の指紋情報の記憶はホストコンピュータ28で行われる。図15は,指紋照合装置の動作を説明する図である。図中61は携帯端末側で行われる処理,62は指紋データ管理場所(ホスト)側で行われる処理を示し,63は携帯端末からホストへの送信,64はホストから携帯端末への送信を示す。携帯端末側ではまず,光学的に入力された指紋の特徴抽出を行い,その結果をホストへ送信する。ホスト側では管理している指紋データとの照合を行い,その結果は再び携帯端末に送られる。
【0052】このように携帯端末側では特徴の抽出のみを行い,指紋照合のステップをホスト側で行うようにすれば,指紋データそのものを携帯端末内に持たずにすむため,第三者が携帯端末内の記憶装置を解析し,指紋データを盗み出す恐れのない,安全なシステムにすることができる。さらに,携帯端末側には情報記憶部や演算部等を特別に設ける必要がなく,簡便にICカードで構成することができる。
【0053】また,携帯端末を所望のシステムの導入部に設置すれば,ホストからの結果を元にログインの許可/不許可(次の動作許可等の判定)を決定することができる。さらに,ICカードを携帯端末に挿入することで,システム毎のセキュリティを確保できる。
【0054】ICカードと携帯端末は用途によっては一体化してもよい。」
D.「【符号の説明】
1 指紋照合装置, 11 透明板, 12 照明装置(LED),13 画像センサ部, 14 記憶装置(メモリ),15 データ処理回路,16 比較器, 17 制御回路, 18 集積化デバイス,20 指紋検出部, 21制御回路, 22 出力回路, 23 受光部,24 設定領域, 25 制御信号, 26 照合信号, 27 照合結果,28 ホストコンピュータ, 30 セレクタ, 31 記憶装置,32 選択信号, 40 全撮像エリア, 41 指定撮像エリア,42 画像処理開始位置及びサイズの指定, 51 撮像データ,52 1次元射影データ, 53 空間フィルタ,54 空間フィルタのサイズを指定, 59 携帯端末,60 ICカード, 61 携帯端末側で行われる処理,62 指紋データ管理場所(ホスト)側で行われる処理,63 携帯端末からホストへの送信, 64 ホストから携帯端末への送信,81 照明装置, 82 波長可変照明装置,83 照射角度可変照明装置。」
E.「
[図:0001392520000001.jpg]
」
F.「【図14】
[図:0001392520000002.jpg]
」
い.原審拒絶理由に引用された,本願の第一国出願前に既に公知である,特開2002-297552号公報(2002年10月11日公開,以下,これを「引用文献2」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。
G.「【請求項1】 携帯型端末装置と生体認証装置とからなる携帯型端末システムであって,
前記生体認証装置は,自装置を所持するユーザの生体情報を読み取る生体情報読取手段と,
予め登録された正規ユーザの生体情報とこの正規ユーザの個人情報とを記憶する第1の記憶手段と,
前記生体情報読取手段で読み取られた生体情報と前記第1の記憶手段に記憶された正規ユーザの生体情報とを照合して本人認証を行い,認証結果が照合一致を示す場合のみ,前記第1の記憶手段に記憶された個人情報を前記携帯型端末装置に送信する第1の処理装置とを有し,
前記携帯型端末装置は,前記生体認証装置から送信された個人情報を記憶する第2の記憶手段と,
この第2の記憶手段に記憶された個人情報を用いて通信処理又はデータ処理を行う第2の処理手段とを有することを特徴とする携帯型端末システム。」
H.「【図1】
[図:0001392520000003.jpg]
」
I.「【図3】
[図:0001392520000004.jpg]
」
う.当審拒絶理由に引用された,本願の第一国出願前に既に公知である,特開平04-352548号公報(1992年12月7日公開,以下,これを「引用文献3」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。
J.「【請求項1】 指の指紋情報を読み取る指紋読取部と,取扱者の上記指紋と電話番号が登録されているデータ記憶部と,上記指紋読取部で読み取った指紋情報と上記データ記憶部に記憶している指紋データを比較し,上記指紋が合致することにより取扱者を認証する認証部および他の機器と接続する外部接続部とを有する個人認証部と,この個人認証部で指紋情報を判定した結果と上記取扱者の電話番号などを上記個人認証部から受け取り,電話の可否を制御する制御部と,電話番号などを表示する表示部と,通信先の電話番号などを入力するキーボード部と,送信情報を入力するマイク部と,受信情報を出力するスピーカ部と,上記制御部からの電話番号情報によりダイヤルし,上記マイク部からの送信情報を出力し,受信情報を上記スピーカ部に出力する電話部と,この電話部からのダイヤル情報や通話情報を無線で送受信する無線部と,上記個人認証部と接続する認証接続部とを有する携帯電話とを備えた個人認証機能付き携帯電話機。」
K.「【図1】
[図:0001392520000005.jpg]
」
え.原審の第一国出願前に既に公知である,特開2004-280619号公報(2004年10月7日公開,以下,これを「周知文献1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。
L.「【0154】
〔第5の実施の形態〕
次に,第5の実施の形態を図19および図20を参照して説明する。なお,上記実施の形態と同様の構成については同様の符号を付してその説明を省略する。
【0155】
認証チップ3Eは,認証チップ制御部34にバスを介して接続される暗号化処理部Eおよび指紋照合/認証処理部36Eを備えている。メモリ部35は,個人ID情報メモリ領域35a,暗号鍵情報メモリ領域35b,その他のメモリ領域35c,登録済み指紋データメモリ領域35dに加えて,認証チップ3Eに入力される指紋データを格納する入力指紋データメモリ領域35eを備えている。暗号化処理部Eおよび指紋照合/認証処理部36Eの基本的な機能は,第1の実施の形態~第4の実施の形態と略同一である。
【0156】
次に,図20を参照して動作を説明する。第5の実施の形態におけるユーザの認証処理は,図20に示すように,ステップS45までは第3の実施の形態と同様の処理が行われる。
【0157】
ステップS45において指紋データの信号処理を終了した後,カード型デバイス2Eは,信号処理の施された指紋データとともに指紋照合/ユーザ認証指示を送信する(ステップS81)。
【0158】
認証チップ3Eは,指紋データとともに指紋照合指示を受信すると(ステップS82),登録済み指紋データと指紋データとを照合し,その照合率を求める(ステップS83)。
【0159】
次に,照合率が基準値以上であるか否かを判断し(ステップS84),照合率が基準値以上であると(ステップS84:Y),認証結果がO.K.であることを示す認証結果情報を生成する(ステップS85)。一方,照合率が基準値以下であると認証結果がNGであることを示す認証結果情報を生成する(ステップS86)。
【0160】
次いで,暗号鍵情報メモリ領域35bに格納された暗号鍵を用いて認証結果情報を暗号化する(ステップS87)ハッシュ関数を用いて暗号化された認証結果情報からダイジェストを作成する(ステップS88)。このダイジェストを署名鍵を用いて暗号化し,電子署名を作成する(ステップS89)。
【0161】
そして,暗号化された認証結果情報に電子署名を添付して,カード型デバイスに送信する(ステップS90)。カード型デバイス2Dは,これを受信すると(ステップS91),電子機器5Cに送信する(ステップS92)。その後,電子機器5Cは,第3の実施の形態と同様の処理(ステップS62~S65)を行う。」
M.「【図15】
[図:0001392520000006.jpg]
」
N.「【図19】
[図:0001392520000007.jpg]
」
O.「【図20】
[図:0001392520000008.jpg]
」
お.原審の第一国出願前に既に公知である,国際公開第2009/122530号(国際公開日;2009年10月8日<再公表公報発行日;2011年7月28日>,以下,これを「周知文献2」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。
P.「【0130】
コンピュータ2CのCPU21Cは生体認証の開始画面を受信し,ブラウザ252Cに生体認証の開始画面を表示する(ステップS255)。主制御部51は,生体認証の開始画面の表示コマンドを,CPU21Cから受信したことをトリガに,制御プログラム記憶部513に記憶された制御プログラムを起動し(ステップS256),以下の処理を行う。主制御部51は,指紋認証部53の指紋認識プログラムを起動し(ステップS257),指紋入力部52からユーザの指紋情報を取り込む(ステップS258)。主制御部51は指紋情報記憶部54から予め記憶された指紋情報を読み出す(ステップS259)。主制御部51は読み出した指紋情報と取り込んだ指紋情報とが一致するか否かを判断する(ステップS261)。主制御部51は一致しないと判断した場合(ステップS261でNO),不正なアクセスであるとして処理を終了する。
【0131】
主制御部51は一致すると判断した場合(ステップS261でYES),ユーザ電子証明書記憶部55からユーザ電子証明書を読み出す(ステップS262)。主制御部51は指紋認証の結果,指紋情報がセキュリティチップ5内に記憶されていることを示す情報を含む生体認証に関する情報を生成する(ステップS263)。主制御部51は暗号化処理部510に記憶したハッシュ関数に基づき生体認証に関する情報のメッセージダイジェストを算出し,また,主制御部51は暗号化鍵記憶部518から暗号処理のための暗号化鍵を読み出す(ステップS264)。主制御部51はユーザ個人鍵記憶部56からユーザ個人鍵を読み出す(ステップS265)。
【0132】
主制御部51は生体認証に関する情報を暗号化鍵で暗号化し,メッセージダイジェストをユーザ個人鍵記憶部56に記憶したユーザ個人鍵で電子署名する(ステップS266)。主制御部51は暗号化した生体認証に関する情報,メッセージダイジェストの電子署名及びユーザ電子証明書をWebサーバ1へ送信する(ステップS267)。Webサーバ1のCPU11は暗号化された生体認証に関する情報,メッセージダイジェストの電子署名及びユーザ電子証明書を受信する(ステップS268)。Webサーバ1のCPU11は,これらの情報を受信した日時情報を時計部18からの出力を参照して記憶部15に記憶する。なお,以下ではWebサーバ1内部の時計部18の日時情報を記憶する形態について説明するが,通信網Nを介して接続される図示しないタイムスタンプサーバから認証を得ると共に,タイムスタンプ時刻を取得するようにしても良い。主制御部51は機器IDを機器ID記憶部59から読み出す(ステップS269)。主制御部51は機器電子証明書記憶部57から機器電子証明書を読み出す(ステップS271)。主制御部51は機器ID及び機器IDがセキュリティチップ5内に記憶されていることを示す情報を含む識別情報に関する情報を生成する(ステップS272)。
【0133】
主制御部51は暗号化処理部510に記憶したハッシュ関数に基づき識別情報に関する情報のメッセージダイジェストを算出する(ステップS273)。主制御部51は機器個人鍵を機器個人鍵記憶部58から読み出す(ステップS274)。主制御部51は識別情報に関する情報を暗号化鍵で暗号化し,メッセージダイジェストを機器個人鍵で電子署名する(ステップS275)。主制御部51は暗号化された識別情報に関する情報,メッセージダイジェストの電子署名及び機器電子証明書をWebサーバ1へ送信する(ステップS276)。」
Q.「【0137】
CPU11はユーザ公開鍵により,ステップS268で受信した生体認証に関する情報に対するメッセージダイジェストの署名検証を行う(ステップS286)。具体的にはCPU11は生体認証に関する情報は,予め秘密裏に取り交わされた暗号化鍵で暗号化されているため,読み出した暗号化鍵で生体認証に関する情報を復号する。CPU11は記憶部15に記憶したハッシュ関数に基づき,受信した復号済みの生体認証に関する情報のメッセージダイジェストを算出する(ステップS287)。さらに,CPU11はユーザ電子証明書内のユーザ公開鍵により,電子署名されたメッセージダイジェストを復号する。CPU11はこの復号したメッセージダイジェストと,算出したメッセージダイジェストとが一致するか否かにより署名検証を行う。一致する場合は改竄がなく電子署名は有効であると判断し,一致しない場合は改竄があり電子署名は有効でないと判断する。同様にCPU11は機器公開鍵により識別情報に関する情報に対するメッセージダイジェストの署名検証,並びに,ソフトウェアに関する情報に対するメッセージダイジェストの署名検証を行う(ステップS288)。CPU11は識別情報に関する情報及びソフトウェアに関する情報のメッセージダイジェストを算出する(ステップS289)。識別情報に係る署名検証手順は以下のとおりである。CPU11は,識別情報に関する情報は,予め秘密裏に取り交わされた暗号化鍵で暗号化されているため,読み出した暗号化鍵で識別情報に関する情報を復号する。CPU11は記憶部15に記憶したハッシュ関数に基づき,受信した復号済みの識別情報に関する情報のメッセージダイジェストを算出する。さらに,CPU11は受信した機器電子証明書内の機器公開鍵により,電子署名されたメッセージダイジェストを復号する。CPU11はこの復号したメッセージダイジェストと,算出したメッセージダイジェストとが一致するか否かにより署名検証を行う。ソフトウェアに関する情報の署名検証も同様に以下の手順で行う。CPU11は,ソフトウェアに関する情報は,予め秘密裏に取り交わされた暗号化鍵で暗号化されているため,読み出した暗号化鍵でソフトウェアに関する情報を復号する。CPU11は記憶部15に記憶したハッシュ関数に基づき,受信した復号済みのソフトウェアに関する情報のメッセージダイジェストを算出する。さらに,CPU11は受信した機器電子証明書内の機器公開鍵により,電子署名されたメッセージダイジェストを復号する。CPU11はこの復号したメッセージダイジェストと,算出したメッセージダイジェストとが一致するか否かにより署名検証を行う。CPU11はステップS287で算出した生体認証に関する情報に係るメッセージダイジェストとステップS286で署名検証したメッセージダイジェストが一致し,ステップS289で算出した識別情報に関する情報に係るメッセージダイジェストとステップS288で署名検証したメッセージダイジェストとが一致し,かつ,ステップS289で算出したソフトウェアに関する情報に係るメッセージダイジェストとステップS288で署名検証したメッセージダイジェストとが一致するか否かを判断する(ステップS291)。
【0138】
主制御部51(当審注:「CPU11」の誤記)はメッセージダイジェストが一致しないと判断した場合(ステップS291でNO),改竄があり電子署名は有効でないため処理を終了する。一方,主制御部51(当審注:「CPU11」の誤記)はメッセージダイジェストが全て一致すると判断した場合(ステップS291でYES),CPU11はステップS268で受信した復号済みの生体認証に関する情報の内,指紋認証の結果を参照し,指紋認証の結果が正であるか否かを判断する(ステップS292)。CPU11は指紋認証の結果が正でないと判断した場合(ステップS292でNO),不正なアクセスであるとして処理を終了する。一方CPU11は指紋認証の結果が正であると判断した場合(ステップS292でYES),時計部18から出力される日時情報を参照し,ステップS268で受信したユーザ電子証明書が有効期限内であるか否かを判断する(ステップS293)。」
(イ)引用文献1に記載の発明
あ.上記Aの「画像センサ部13」,及び,上記Bの「指紋パターンは画像センサ部13に,即ち指紋照合装置1に取り込まれる」という記載から,引用文献1に記載の「指紋照合装置1」が,“指紋パターンを取り込む画像センサ13”を備えることが読み取れる。
い.上記Aの「取り込まれた指紋パターンの特徴抽出を行うためのデータ処理回路」という記載,及び,上記Bの「画像センサ部13に取り込まれた指紋データは画素数分のデータ(例えば256×256画素で分解能8-bitであれば256×256×8=500kbits)となりデータ処理回路15に転送され特徴量が抽出される。この特徴量は例えば,指紋線の傾き量,分岐の位置,分岐の数等である。この特徴量を抽出するために,隣り合った画素の間での明度差を調べるエッジ抽出処理等のフィルタリング処理がデータ処理回路15で実行される」という記載から,引用文献1には,
“画像センサ部13から画像データが転送され,転送された画像データから特徴量を抽出するデータ処理回路15”が記載されていることが読み取れる。
また,上記に引用したBの記載内容から,引用文献1において,
“データ処理回路15は,特徴量を抽出するために,フィルタリング処理を実行する”ことが読み取れる。
う.上記Aの「画像の特徴を示す特定の特徴量を記憶するためのメモリ14」,という記載,及び,上記Bの「計算された特徴量がメモリ15(当審注:「メモリ14」の誤記)に格納されている特定の特徴量と比較される」という記載から,引用文献1には,
「画像の特徴を示す特定の特徴量を記憶するためのメモリ14」,
が記載されていることが読み取れ,
上記Aの「16はこの特徴量と,画像の特徴を示す特定の特徴量を記憶するためのメモリ14内の情報とを比較するための比較器」という記載,及び,上記Bの「計算された特徴量は,比較器16に転送される。比較器16では,計算された特徴量がメモリ15(当審注:「メモリ14」の誤記)に格納されている特定の特徴量と比較される」という記載と,上記い.において検討した事項から,引用文献1には,
“データ処理回路15によって抽出された特徴量と,メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量を比較する比較器16”が記載されていることが読み取れる。
え.以上,上記あ.~う.において検討した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。
「指紋パターンを取り込む画像センサ13と,
前記画像センサ部13から画像データが転送され,転送された前記画像データにフィルタリング処理を実行し,特徴量を抽出するデータ処理回路15と,
画像の特徴を示す特定の特徴量を記憶するためのメモリ14と,
データ処理回路15によって抽出された特徴量と,メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量を比較する比較器16,
とを含む,指紋照合装置1。」
(ウ)本件補正発明と引用発明との対比
あ.引用発明における「指紋パターン」,「画像センサ部13」が,
それぞれ,本件補正発明における「生体的特徴情報」,「センサ」に相当し,
引用発明において,「画像センサ部13」が,「指紋パターンを取り込む」ことは,即ち,当該「画像センサ部13」が,「指紋パターン」を「感知する」ことに外ならないので,
引用発明における「指紋パターンを取り込む画像センサ部13」が,
本件補正発明における「生体的特徴情報を感知するセンサ」に相当する。
い.引用発明において,「フィルタリング処理」は,引用文献1において,「特徴量を抽出するために、隣り合った画素の間での明度差を調べるエッジ抽出処理等」と例示されるように,画像の「特徴量」を「抽出する」ための「前処理」として広く知られたものであり,
引用発明における「画像データ」は,「指紋パターン」の「画像データ」であるから,
本件補正発明における「生体的特徴情報」に相当し,
引用発明において,「画像センサ部13から画像データが転送され」るということは,
“画像センサ部13から画像データを取得する”ことに外ならず,
引用発明において,「データ処理回路15」が,「画像データ」から「特徴量を抽出する」ということは,“特徴量を取得する”ことに外ならないので,
引用発明における「データ処理回路15」が,
本件補正発明における「マイクロプロセッサ」に相当し,
よって,引用発明における「画像センサ部13から画像データが転送され,転送された前記画像データにフィルタリング処理を実行し,特徴量を抽出するデータ処理回路15」が,
本件補正発明における「センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサ」に相当する。
う.引用発明における「データ処理回路15によって抽出された特徴量」が,
本件補正発明における「マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データ」に相当し,
引用発明における「メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量」が,
本件補正発明における「生体的特徴テンプレート」に相当し,
引用発明において,「比較器16」が,「データ処理回路15によって抽出された特徴量」と,「メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量」とを「比較」することは,その結果として,「データ処理回路15によって抽出された特徴量」と,「メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量」とが,一致するか否かを「確定する」ことに外ならないので,
引用発明における「データ処理回路15によって抽出された特徴量と,メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量を比較する比較器16」と,
本件補正発明における「生体的特徴テンプレートを記憶し,前記マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するセキュリティチップ」とは,
“マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定する,比較手段”である点で共通する。
え.引用発明における「指紋照合装置1」は,「画像センサ13」,「データ処理回路15」,及び,「比較器16」を含むものであるから,
本件補正発明における「生体的特徴識別装置」に相当する。
お.以上,あ.~え.において検討した事項から,本件補正発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。
[一致点]
生体的特徴抽出装置は,
生体的特徴情報を感知するセンサと,
前記センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサと,
マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定する,比較手段とを含む。
[相違点1]
本件補正発明においては,「プロセッサー及び生体的特徴識別装置を含むコンピューティングデバイス」であるのに対して,
引用発明においては,「コンピューティングデバイス」について,明確には言及されていない点。
[相違点2]
“比較手段”に関して,
本件補正発明においては,「生体的特徴テンプレートを記憶」する「セキュリティチップ」であるのに対して,
引用発明においては,「比較器16」と,「メモリ14」が別体である点。
[相違点3]
本件補正発明においては,「マイクロプロセッサ及び前記セキュリティチップは,共に単独した物理的なハードウェアであって,前記マイクロプロセッサはマイクロコントローラユニットMCU,前記セキュリティチップはセキュリティ素子SEであり,且つ前記コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔離され」るものであるのに対して,
引用発明においては,「データ処理回路15」と,「比較器16」とが別体であるといいうるものの,「データ処理回路15」が,「MCU」であること,「比較器16」が,「セキュリティ素子SE」であること,「コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔絶され」ていることについては,明確な言及がなされていない点。
[相違点4]
本件補正発明においては,「生体的特徴識別装置は,前記コンピューティングデバイスのシステム環境における非セキュリティ領域を介して前記コンピューティングデバイスの前記プロセッサーに前記生体的特徴識別結果を送信」するものであるのに対して,
引用発明においては,「指紋照合装置1」から,外部への送信については,どのように行うか,明確な言及がない点。
[相違点5]
本件補正発明においては,「生体的特徴識別装置は,」「前記セキュリティチップはキーペアを生成することに更に用いられ,前記キーペアはプライベートキーとパブリックキーを含み,前記セキュリティチップは前記生体的特徴を識別した後に,前記プライベートキーにより生体的特徴識別結果に対してデジタル署名を行い,前記パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され,かつ署名された前記生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証するコンピューティングデバイス」であるのに対して,
引用発明においては,「比較器16」の判断結果において,「署名」し,それを他所で検証することについては,特に言及されていない点。
(エ)相違点についての当審の判断
あ.[相違点1]について
上記Cに引用した引用文献1の記載内容,同じく,上記Fに引用した引用文献1の【図14】に開示されているように,引用文献1においても,「ICカード」(本件補正発明における「生体的特徴識別装置」に相当)と,「携帯端末」(本件補正発明における「コンピューティングデバイス」に相当)とを結合する構成について開示されていて,この構成においては,「ICカード」と,「携帯端末」の「システム環境」とは「物理的に隔離されている」ことは明らかである。
この実施例においては,「ICカード」において,指紋の照合(本件補正発明における「生体的特徴データ」の「照合」に相当)は行っていないが,上記G~上記Iに引用した引用文献2に記載された内容,及び,上記J及び上記Kに引用した引用文献3に記載された内容から,指紋の照合(本件補正発明における「生体的特徴データ」の「照合」に相当)を行う「認証装置」等(本件補正発明における「生体的特徴識別装置」に相当)と,「携帯端末」(本件補正発明における「コンピューティングデバイス」に相当)を別体に構成し,それらを結合して使用する構成自体は,本願の第1国出願前に,当業者には周知の技術事項であるから,引用発明においても,「ICカード」側で,“指紋認証を行う”態様で,「携帯端末」と結合してシステムを構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る事項である。
よって,[相違点1]は,格別のものではない。
い.[相違点2]について
上記L~上記Oに引用した周知文献1の記載内容にもあるとおり,「認証チップ」(本件補正発明における「セキュリティチップ」に相当)に,「指紋照合/認証処理部」と,当該「照合」に用いる「登録済指紋データ」(本件補正発明における「生体的特徴テンプレート」に相当)を記憶する「メモリ」とを設けることは,本願の第1国出願前に,当業者には周知の技術事項であって,引用発明においても,「比較器16」に,「メモリ14」を組み込むよう構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る事項である。
よって,[相違点2]は,格別のものではない。
う.[相違点3]について
引用発明において,「データ処理回路15」を,「MCU」で構成すること,「比較器16」を,「セキュリティ素子SE」で構成することは,引例を引くまでもなく,当業者が適宜なし得る事項である(必要であれば,上記い.において引用した,周知文献1を参照されたい)。
え.[相違点4]について
[相違点4]としている本件補正発明の構成は,単に,“通常の通信経路を用いてデータの送信を行う”と言っているに過ぎない。
引用文献1には,他の実施例として,上記Fに引用した【図14】に開示されているように,「ICカード」(本件補正発明における「生体的特徴識別装置」に相当)から,「携帯端末」間で,データ通信を行う点が開示されていて,このデータ通信に通常の“通信経路”(本件補正発明における「非セキュリティ領域」に相当)を介して通信を行うことは,明らかであるから,引用発明においても,「指紋照合装置1」から,その外部への“通信経路”として,「非セキュリティ領域」を介するよう構成することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,[相違点4]は,格別のものではない。
お.[相違点5]について
「認証チップ」(本件補正発明における「セキュリティチップ」に相当)側で,「指紋」の照合を行い,結果に「署名」して,「認証チップ」の外側で「カード型デバイス」内で,当該「署名」の検証を行う構成(以下,これを「構成1」という)については,上記い.において引用した周知文献1に,「コンピュータ2C」(本件補正発明における「コンピューティングデバイス」に相当)側で,「指紋」の照合を行い,結果に「署名」して,「Webサーバ1」(本願明細書の段落【0036】,段落【0042】に記載の「アプリケーションサーバー」に相当)側で,当該「署名」の検証を行う構成(以下,これを「構成1」という)については,上記P,上記Qに引用した周知文献2に,それぞれ記載されていて,何れの構成も,本願の第1国出願前に,当業者には広く知られた技術事項であるから,引用発明においても,周知文献1,周知文献2に開示の事項から,構成1,或いは,構成2を構築することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,[相違点5]は,格別のものではない。
か.以上,上記あ.~お.において検討したとおりであるから,[相違点1]~[相違点5]は格別のものではなく,本件補正発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。
よって,本件補正発明は,引用発明,引用文献2,引用文献3,周知文献1,及び,周知文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができない。
3.補正却下むすび
上記「2.補正の適否」の「(1)新規事項」において検討したとおり,
本件手続補正は,特許法184条の12第2項により読み替える同法17条の2第3項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
加えて,上記「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件」において検討したとおり,
本件手続補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3.本願発明について
令和3年4月22日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,令和2年12月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記「第2.令和3年4月22日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1として引用した,次のとおりのものである。
「プロセッサー及び生体的特徴識別装置を含むコンピューティングデバイスであって,
前記生体的特徴識別装置は,
生体的特徴情報を感知するセンサと,
前記センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサと,
生体的特徴テンプレートを記憶し,前記マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定するセキュリティチップと,
を含み,
前記マイクロプロセッサ及び前記セキュリティチップは,共に単独した物理的なハードウェアであって,前記マイクロプロセッサはマイクロコントローラユニットMCU,前記セキュリティチップはセキュリティ素子SEであり,且つ前記コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔離され,
前記生体的特徴識別装置は,前記コンピューティングデバイスのシステム環境における非セキュリティ領域を介して前記コンピューティングデバイスの前記プロセッサーに前記生体的特徴識別結果を送信するコンピューティングデバイス。」
第4.原審における拒絶査定の理由
原審における拒絶査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の第一国出願の日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2~引用文献4に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
<引用文献一覧>
1.特開平10-149446号公報
2.特開2002-297552号公報
3.特開平04-352548号公報
4.特開2001-344213号公報
第5.引用文献に記載の発明
引用文献1には,上記「第2.令和3年4月22日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件」における「(イ)引用文献1に記載の発明」において検討したとおりの,次の引用発明が記載されている。
「指紋パターンを取り込む画像センサ13と,
前記画像センサ部13から画像データが転送され,転送された前記画像データにフィルタリング処理を実行し,特徴量を抽出するデータ処理回路15と,
画像の特徴を示す特定の特徴量を記憶するためのメモリ14と,
データ処理回路15によって抽出された特徴量と,メモリ14に記憶された画像の特徴を示す特定の特徴量を比較する比較器16,
とを含む,指紋照合装置1。」
第6.本願発明と引用発明との対比
本願発明は,上記「第2.令和3年4月22日付けの手続補正の却下の決定」において検討した,本件補正発明から,
「セキュリティチップはキーペアを生成することに更に用いられ,前記キーペアはプライベートキーとパブリックキーを含み,
前記セキュリティチップは前記生体的特徴を識別した後に,前記プライベートキーにより生体的特徴識別結果に対してデジタル署名を行い,前記パブリックキーは前記セキュリティチップの外部に記憶され,かつ署名された前記生体的特徴識別結果が合法であるか否かを検証する」,
という構成を取り除いたものであるから,
本願発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。
[一致点]
生体的特徴抽出装置は,
生体的特徴情報を感知するセンサと,
前記センサから生体的特徴情報を取得し,取得した生体的特徴情報に対して画像前処理及び特徴抽出を行うことにより,生体的特徴データを取得するマイクロプロセッサと,
マイクロプロセッサが取得した生体的特徴データと記憶されている生体的特徴テンプレートとを照合することにより,生体的特徴識別結果を確定する,比較手段とを含む。
[相違点a]
本願発明においては,「プロセッサー及び生体的特徴識別装置を含むコンピューティングデバイス」であるのに対して,
引用発明においては,「コンピューティングデバイス」について,明確には言及されていない点。
[相違点b]
“比較手段”に関して,
本願発明においては,「生体的特徴テンプレートを記憶」する「セキュリティチップ」であるのに対して,
引用発明においては,「比較器16」と,「メモリ14」が別体である点。
[相違点c]
本願発明においては,「マイクロプロセッサ及び前記セキュリティチップは,共に単独した物理的なハードウェアであって,前記マイクロプロセッサはマイクロコントローラユニットMCU,前記セキュリティチップはセキュリティ素子SEであり,且つ前記コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔離され」るものであるのに対して,
引用発明においては,「データ処理回路15」と,「比較器16」とが別体であるといいうるものの,「データ処理回路15」が,「MCU」であること,「比較器16」が,「セキュリティ素子SE」であること,「コンピューティングデバイスのシステム環境と物理的に隔絶され」ていることについては,明確な言及がなされていない点。
[相違点d]
本願発明においては,「生体的特徴識別装置は,前記コンピューティングデバイスのシステム環境における非セキュリティ領域を介して前記コンピューティングデバイスの前記プロセッサーに前記生体的特徴識別結果を送信」するものであるのに対して,
引用発明においては,「指紋照合装置1」から,外部への送信については,どのように行うか,明確な言及がない点。
第7.相違点についての当審の判断
本願発明と,引用発明との[相違点a]~[相違点d]は,本件補正発明と,引用発明との[相違点1]~[相違点4]と同じものであるから,上記「第2.令和3年4月22日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」の「(2)独立特許要件」における「(エ)相違点についての当審の判断」において検討したとおり,[相違点a]~[相違点d]は,格別なものではない。
そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。
よって,本願発明は,本願の第一国出願前に日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明,及び,引用文献2~引用文献4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第8.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-005228