特許拒絶査定不服審判
2021-002911
陶磁器の製造方法
- 審判番号
- 2021-002911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-164236外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年03月04日
- 審決日
- 2024年04月26日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .113-WZ (C04B) / P18 .121-WZ (C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-164236「陶磁器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日出願公開、特開2018- 30756〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件審判に係る特願2016-164236号の出願(以下、「本願」という。)は、平成28年8月25日の出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである(なお、審査段階の、令和2年6月1日にも手続補正書が提出されているが、この手続補正書に係る手続は、指定期間を徒過した不適法な手続であったため、令和2年11月27日付けで手続却下された。)。
令和 2年 3月25日付け 拒絶理由通知
12月 2日付け 拒絶査定
令和 3年 3月 4日 審判請求書、手続補正書の提出
8月16日 手続補正書(審判請求理由の補充)の提出
4年 9月27日付け 拒絶理由通知
12月 5日 手続補正書、意見書の提出
5年 3月29日付け 拒絶理由通知
6月 4日 手続補正書、意見書の提出
9月14日付け 拒絶理由通知
11月20日 手続補正書、意見書の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、令和5年11月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載されたとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
片面或いは両面に立体形状が形成された陶磁器の製造方法であって、
成形前又は成形後の生地の片面或いは両面に、刻装体を当接する当接工程と、
前記刻装体を前記生地に対して押圧する押圧工程と、
前記刻装体を剥離する剥離工程と、
を有し、
前記当接工程において、前記刻装体は布であって、前記布を前記生地に被覆し、布を圧接して形成する立体形状は、前記布の湿度が異なる乾湿又は前記布をピンと張ったりシワを付ける引張又は前記布を重ね合わせる重畳によって形成されることを特徴とする陶磁器の製造方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
令和5年3月29日付けの当審の拒絶理由通知の理由は、概略、以下のとおりの理由を含むものである。
すなわち、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる、下記引用文献3に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するし、同じく下記引用文献3に記載の発明又は下記引用文献2に記載の発明などに基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができない、というものである。
引用文献2:季刊「炎芸術」編集部編集、基礎から学ぶ本格陶芸 はじめて作る織部の器、1999年10月20日、初版第一刷発行、阿部出版、第10、11、22-24頁
引用文献3:「陶磁器お役立ち情報」のサイトの「陶芸技法」の「布目の技法」、「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」にて紹介されている「Wayback Machine」にて閲覧、[online]、平成27年6月10日のウェブページ、[令和5年3月15日検索]、インターネット<URL:http://web.archive.org/web/20150610053141/https://touroji.com/technique/nunomenogihou.html>
なお、上記拒絶理由通知に応答してされた手続補正の内容に、新規事項の追加に係る違反及び明確性要件違反の疑義があったため、その後に通知した令和5年9月14日付け拒絶理由では、上記拒絶理由についての判断を留保することとした。
第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献の記載事項
引用文献2、3には、以下の事項が記載されている。
ここで、引用文献3に記載された事項は、前出の「Wayback Machine」によれば、平成27年6月10日に「とうろじ」というホームページに掲載されたものであり、同日には公知であるものと認められる。
(1)引用文献2
ア
「
[図:0001411600000001.jpg]
」
(10頁)
イ
「
[図:0001411600000002.jpg]
」
(11頁)
ウ
「
[図:0001411600000003.jpg]
」
(22頁)
エ
「
[図:0001411600000004.jpg]
」
(23頁)
オ
「
[図:0001411600000005.jpg]
」
(24頁)
(2)引用文献3
ア 「布目について
布目(ぬのめ)とは作品の表面に残った布の跡(模様)を指します。もともとは装飾技法としてではなく、型で作った作品についた布の痕跡がはじまりといわれています。
これは織部焼の型づくり作品に特徴的な模様です。たとえば型に粘土を押し当てて向付(むこうづけ:食器の一種)を作るとします。いざ作品を取り出そうとすると、粘土が型に貼りついてしまうことがあるわけです。
これを防ぐために型と粘土の間に布をかませます。すると簡単に粘土が剥がれるうえ、布目の模様がきれいに残ります。
・・・(中略)・・・
こうした型物の布目は織部など陶磁器のほか、布目瓦(ぬのめがわら)など多くの建築材料や型細工の工芸品などで用いられました。
このように布目のはじまりは、装飾というよりむしろ作陶しやすくするための創意工夫といえます。織部釉が布目にかかって面白い装飾効果が得られています。こうした布模様を活用するのです。」
イ 「布目の技法
先の織部の作例であれば、木もしくは素焼きの型を用意します。その型に対して布を事前に巻き付けておき、粘土を押し当てて成形するわけです。布は土離れがよい麻布(あさぬの)が用いられたといわれます。
見込みに布目があれば、粘土の上に型を乗せたことが分かります。逆に皿などの外側に布目があれば、型の上に粘土を載せて押し付けたといえるでしょう。
・・・(中略)・・・
また、作品全体ではなく部分的な布目もアクセントになると思います。たとえば面取りをした作品の面に布跡をつける、施釉する部分に布目をつけて釉調に変化を加える、部分的に布にシワを持たせてみるのもよいでしょう。」
2 引用文献に記載の発明(引用発明)
(1)引用文献2に記載の発明
引用文献2の、上記1(1)ア~イによれば、織部は、1土選び・土練り、2形作り、3乾燥・素焼き、(4絵付)、5釉の調合・釉掛け、6本焼、といった手順を踏んで作られるものであることが分かる。また、同ウ~エによれば、上記「2形作り」における「布目をつける」作業は、「1 土の上に蚊帳布を置く」として、「手板にのったままの土の上に、蚊帳布を置き表面をなでる」こと、「2 土を叩き布目をつける」として、「蚊帳布の上に手板を置き、上下を手板で挟んでひっくり返」し、「上の手板」を取り、「手のひらの付け根で、真ん中から外へと押し叩いて、土に布目をつける」こと、「3 縁と角の土を手で締める」こと、「4 裏側にも布目を入れる」として、「上からもう1枚の蚊帳布を斜めにかぶせ」、「蚊帳布の上から、右手の手のひらの付け根で強くなでつけるようにして」、(皿の)「裏側にも布目をいれる」こと、「5 両面に布目が入った」として、「布目を十分押し当てたら、上の蚊帳布をはずす」ことという、五つの工程から成り立っており、これにより、最終的に「表裏両面に斜め格子の布目が入った」織部が製造されていくことを理解することができる。
そうすると、上記「布目を付ける」作業の各工程に着目しながら、織部の製造方法について整理すると、引用文献2には以下の織部の製造方法の発明が記載されているといえる(以下、「引用発明2」という。)。
「手板にのったままの土の上に、蚊帳布を置き表面をなでる工程、
蚊帳布の上に手板を置き、上下を手板で挟んでひっくり返し、上の手板を取り、手のひらの付け根で、真ん中から外へと押し叩いて、土に布目を付ける工程、
縁と角の土を手で締める工程、
上からもう1枚の蚊帳布を斜めにかぶせ、蚊帳布の上から、右手の手のひらの付け根で強くなでつけるようにして、皿の裏側にも布目を入れる工程、
布目を十分押し当てたら、上の蚊帳布をはずす工程を含む、
表裏両面に斜め格子の布目が入った織部の製造方法。」
(2)引用文献3に記載の発明
引用文献3の上記1(2)アには、「織部焼の型づくり作品に特徴的な模様」として「布目」が挙げられている。そして、この布目は、同アの「布目(ぬのめ)とは作品の表面に残った布の跡(模様)を指します。もともとは装飾技法としてではなく、型で作った作品についた布の痕跡がはじまりといわれています。」及び「織部釉が布目にかかって面白い装飾効果が得られています。」との記載によれば、「(粘土の表面を)装飾する」ものであることが分かる。また、この布目による装飾は、同アの「布目は織部など陶磁器のほか布目瓦(ぬのめがわら)など多くの建築材料や型細工の工芸品などで用いられました。このように布目のはじまりは、装飾というよりむしろ作陶しやすくするための創意工夫といえます。」との記載によれば、織部など陶磁器の「作陶」、すなわち、「織部など陶磁器の製造方法」に用いられるものであることが分かる。
そして、同イには、「布目の技法」について、「木もしくは素焼きの型を用意します。その型に対して布を事前に巻き付けておき、粘土を押し当てて成形するわけです。」と記載され、さらに続けて、「見込みに布目があれば、粘土の上に型を乗せたことが分かります。逆に皿などの外側に布目があれば、型の上に粘土を載せて押し付けたといえるでしょう。」と記載されていることから、粘土の上に型を乗せる際には、「木もしくは素焼きの型を用意し、その型に対して布を事前に巻き付けておき、粘土の上に型を乗せ、粘土に押し当てて成形」することが分かる(結果として、見込み、すなわち、器の内側の部分に布目ができる。)。
加えて、同イの「部分的に布にシワを持たせてみるのもよいでしょう。」との記載によれば、型に巻き付けられる布が、「部分的に布にシワを持たせ」たものでも良いことが分かる。
以上を踏まえると、引用文献3には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「引用発明3」という。)。
「木もしくは素焼きの型を用意し、
その型に対して布を事前に巻き付けておき、
部分的に布にシワを持たせ、
粘土の上に型をのせ、粘土に押し当てて成形し、
布目で粘土の表面を装飾する、
織部など陶磁器の製造方法。」
第5 新規性、進歩性の判断
1 引用発明3を主たる引用発明とした場合の新規性、進歩性の判断
(1)対比
本願発明と引用発明3を対比する。
ア 引用発明3の「織部など陶磁器の製造方法」は、本願発明の「陶磁器の製造方法」に相当する。
イ 本願明細書の【0024】の「生地40は、成形方法により含水量が異なる粘土を主原料とした公知のものを使用し、石膏型や素焼型などで型打ちされている。」との記載によれば、本願発明における「生地」は、粘土であるといえるから、引用発明3の「粘土」は、本願発明の「生地」に相当する。
ウ 引用発明3の「布」は、「布目で粘土の表面を装飾する」ためのものであるから、本願発明の「刻装体」である「布」に相当する。
エ 引用発明3は、「布を事前に巻き付け」られた「木もしくは素焼きの型」を用いて、「粘土の上に型を乗せ、粘土に押し当てて成形し、布目で粘土の表面を装飾する」ものであって、粘土に対しては、型に巻き付けられた布が当接し、押圧され、この当接の際には、布は粘土に被さるようにして圧接されて布目が形成されることになるといえることから、引用発明3は、本願発明の「成形前」「の生地の片面或いは両面に、刻装体を当接する当接工程」及び「前記刻装体を前記生地に対して押圧する押圧工程」に相当する工程を有しているといえるとともに、本願発明の当接工程のように、立体形状である布目が、「布を前記生地に被覆し、布を圧接して形成」されているということができる。
オ 引用発明3において、「粘土の上に型を乗せ、粘土に押し当てて成形し、布目で粘土の表面を装飾」すれば、本願発明のように「片面或いは両面に立体形状が形成された」陶磁器が製造されるし、最後に、押し当てた「前記刻装体を剥離する剥離工程」が必要となることは、当業者において自明のことといえる。
カ 以上から、本願発明と引用発明3は、
「片面或いは両面に立体形状が形成された陶磁器の製造方法であって、
成形前又は成形後の生地の片面或いは両面に、刻装体を当接する当接工程と、
前記刻装体を前記生地に対して押圧する押圧工程と、
前記刻装体を剥離する剥離工程と、
を有し、
前記当接工程において、前記刻装体は布であって、前記布を前記生地に被覆し、布を圧接して形成する立体形状が形成される陶磁器の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違するといえる。
<相違点1>
本願発明では、「立体形状は、前記布の湿度が異なる乾湿又は前記布をピンと張ったりシワを付ける引張又は前記布を重ね合わせる重畳によって形成される」のに対し、引用発明3では、立体形状である布目は、「部分的に布にシワをもたせ」ることによって形成されるものである点。
(2)相違点1についての検討
上記相違点1について、以下検討していくが、当審は、この相違点1は実質的なものではないと判断する。その理由は次のとおりである。
上記相違点1に係る本願発明の構成は、立体形状の形成方法に関するものであり、(i)「前記布の湿度が異なる乾湿」、(ii)「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」及び(iii)「前記布を重ね合わせる重畳」という三つの立体形状形成方法が択一的に特定されたものである。
上記の立体形状形成方法に関する本願明細書の記載は、以下のとおりである。
・「【0010】
本発明によれば、刻装体として布をあてがうことで、布目状、折目状、織目状、シワ状という変化に富んだ立体形状を形成することができる。布としては、タオル、ハンカチ、麻、ジーンズ、デニムなど種々のものを用いることができる。また、圧接の態様としては、手又は道具で間欠的に複数回叩打する、プレス加工等で連続的又は瞬間的に押圧するなど、いかなる態様であってもよい。」
・「【0017】
図1は、本実施形態に係る陶磁器1の外観構成を示す図であり、陶磁器1としてタンブラー(コップ)を用いた例である。陶磁器1は、上部が開放された中空円筒状を呈しており、釉薬を使用せずに焼成しているため、一般的な食器と比べると重さは約半分で、従来の磁器にはない薄さと軽さを実現している。
【0018】
陶磁器1は、内面11及び外面12の両面に立体形状が形成されている。具体的には、A領域は布目状或いは織目状の立体形状、符号13は凹状の折目状或いはシワ状の立体形状、符号14は凸状の折目状或いはシワ状の立体形状となっている。細かい布目状或いは織目状の立体形状と大雑把な凹状及び凸状の折目状或いはシワ状の立体形状とが相混じることにより、視覚的にも変化に富み、また触覚的にも独特の肌質である陶磁器となっている。」
・「【0020】
図3は、本実施形態に係る陶磁器2の外観構成を示す図であり、陶磁器2として小皿を用いた例である。陶磁器2は、表面が広く開いている浅く平たい形状を呈しており、釉薬を使用せずに焼成しているため、一般的な食器と比べると重さは約半分で、従来の磁器にはない薄さと軽さを実現している。
【0021】
陶磁器2は、表面21及び裏面22の両面に立体形状が形成されている。詳細は図示しないが、陶磁器1と同様に、布目状、折目状、織目状、シワ状の凹凸様々な立体形状が形成されており、視覚的にも変化に富み、また触覚的にも独特の肌質である陶磁器となっている。」
・「【0025】
このように成形された生地40に模様としての立体形状を形成する際には、まず、整形型41の外周面に布42を被覆する。次に、布42の上に生地40を載置する。生地40と布42とが当接する面は、布42の状態によって形成される立体形状が変化することから、布42をピンと張った状態よりも所々に折目をつけたり、意図的にシワをつけたりしておくことで、多様な立体形状を生地40に形成できる。
【0026】
次に、生地40の上に布43を被覆する。生地40と布43とが当接する面は、布43の状態によって形成される立体形状が変化することから、布43をピンと張った状態よりも所々に折目をつけたり、意図的にシワをつけたりしておくことで、多様な立体形状を生地40に形成できる。」
・「【図1】
[図:0001411600000006.jpg]
」
まず、(iii)の形成方法に着目し、上記の本願明細書の記載にも照らしながら、その意義について考えてみる。
本願明細書を子細に見ても、「布を重ね合わせること」(すなわち布の重畳)に関する直接的な記載は見当たらない。
他方で、「布の重畳」が生じる場面を想定してみると、布に「シワ」や「折目」があれば、この布を生地に押圧した際に、その部分がつぶれて、少なからず布に重なりが生じると理解するのが合理的であるから、「布の重畳」とは、あらかじめ布に「シワ」や「折目」を付けることにより生じる状況と解するのが相当である。
そうである以上、上記(iii)の「前記布を重ね合わせる重畳」という形成方法は、あらかじめ布に「シワ」や「折目」を付けておき、これにより立体形状を形成する方法というべきである。
これに対して、引用発明3は、「部分的に布にシワをもたせ」るものであり、これにより、布目という立体形状をほどこすものであるから、まさに、上記(iii)の形成方法を採用したものに他ならない。
してみると、本願発明と引用発明3とは、当該(iii)の形成方法において重複しているため、上記相違点1は実質的なものではない。
次に、(ii)の形成方法に着目し、上記(iii)の形成方法の場合と同様に、上記の本願明細書の記載にも照らしながら、その意義について考えてみる。
この(ii)の形成方法における「引張」に関連のある本願明細書の記載は、上記【0026】の「生地40と布43とが当接する面は、布43の状態によって形成される立体形状が変化することから、布43をピンと張った状態よりも所々に折目をつけたり、意図的にシワをつけたりしておくことで、多様な立体形状を生地40に形成できる。」の記載のみであるが、この記載では、「布43をピンと張った状態」により形成される立体形状と「所々に折目をつけたり、意図的にシワをつけたりしておくこと」により形成される立体形状は、別異なものであり、この上記【0026】での「布43をピンと張った状態」は、むしろ折目やシワのない状態を意味しているといえ、上記(ii)「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」を説明するものではない。
そうすると、本願明細書には、「布をピンと張ったりシワを付ける引張」に関する直接的な記載は存在しないことになる。
他方、上記【図1】の陶磁器の立体形状に対応する生地に対し、刻装体である布を被覆する場合、布を立体形状を有する生地に被覆した後、布を立体形状に合わせるように布をしごくようにして生地の立体形状に合わせていくことを行い、そして、この布をしごくようにする際には布に引っ張りが生じている(当然、ピンと張った部分が生じる。)ことを考慮すると、上記(ii)「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」とは、立体形状を有する生地に対して、刻装体である布を被覆し、その被覆の際に布にシワが生じるようにする際に生じる状況と解するのが相当である。
これに対し、引用発明3は、「型に対して布を事前に巻き付けておき、部分的に布にシワを持たせ」ているものであるところ、布を型に巻き付ける際には、布に引っ張りが生じることが普通であり(当然、ピンと張った部分が生じる。)、その際に、布にシワが生じるようにするのであるから、この状況において、型が粘土に押し当てられて成形されれば、粘土の表面には、上記(ii)「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」による立体形状が形成されることになる。
してみると、本願発明と引用発明3とは、当該(ii)の形成方法においても重複しているため、上記相違点1は実質的なものではない。
仮に、上記相違点が実質的なものであるとしても、上記相違点は、当業者が容易に想到し得る程度のものである。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明3に対して新規性が欠如するものであり、特許法第29条第1項第3号に掲げられた発明に該当するため、同項の規定により特許を受けることができないし、仮に本願発明が引用発明3に対して新規性を有していたとしても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 引用発明2を主たる引用発明とした場合の進歩性の判断
(1)対比
本願発明と引用発明2を対比する。
ア 引用発明2の「織部」は、本願発明の「陶磁器」に相当する。
イ また、引用発明2の、土の表裏両面につけられる「布目」は、本願発明の「片面或いは両面に」「形成された」「立体形状」に相当するとともに、本願発明の「布を圧接して」「形成される」「立体形状」に相当するから、引用発明2の「表裏両面に斜め格子の布目が入った織部の製造方法」は、本願発明の「片面或いは両面に立体形状が形成された陶磁器の製造方法」に相当する。
ウ 上記1(1)イで述べたように、本願発明における「生地」は、粘土であるといえるところ、「粘土」は、「土」ともいえるものであるから、引用発明2の「土」は、本願発明の「生地」に相当する。そして、この「土」に関し、上記第4の1(1)オの「皿の凹みを作る」に関する記載によれば、後に「皿の凹み」が作られるのであるから、引用発明2の「土」は、本願発明の「形成前の生地」に相当し、引用発明2の「蚊帳布」は、本願発明の「布」に相当すると共に、上記1(1)ウで述べた「刻装体」に関する検討を踏まえると、引用発明2の「蚊帳布」は、土の両面に、立体形状である布目を形成するものであるから、本願発明の「刻装体」にも相当する。
そうすると、引用発明2の「手板にのったままの土の上に、蚊帳布を置き表面をなでる工程」及び「上からもう一枚の蚊帳布を斜めにかぶせ」は、本願発明の「形成前又は形成後の生地の片面或いは両面に、刻装体を当接する当接工程」に相当する。
エ 引用発明2の「手板にのったままの土の上に、蚊帳布を置き表面をなでる工程」の後の「蚊帳布の上に手板を置き、上下を手板で挟んでひっくり返し、上の手板を取り、手のひらの付け根で、真ん中から外へと押し叩いて、土に布目をつける工程」及び「上からもう1枚の蚊帳布を斜めにかぶせ、蚊帳布の上から、右手の手のひらの付け根で強くなでつけるようにして、皿の裏側にも布目をいれる工程」は、本願発明の「前記刻装体を前記生地に対して押圧する押圧工程」に相当すると共に、「前記刻装体は布であって、前記布を前記生地に被覆し、布を圧接し」に相当し、さらに、「布を圧接して形成する立体形状」が、「形成される」ことに相当する。
オ 引用発明2の「布目を十分押し当てたら、上の蚊帳布をはずす工程」は、本願発明の「前記刻装体を剥離する剥離工程」に相当する。
カ 以上から、本願発明と引用発明2は
「片面或いは両面に立体形状が形成された陶磁器の製造方法であって、
成形前又は成形後の生地の片面或いは両面に、刻装体を当接する当接工程と、
前記刻装体を前記生地に対して押圧する押圧工程と、
前記刻装体を剥離する剥離工程と、
を有し、
前記当接工程において、前記刻装体は布であって、前記布を前記生地に被覆し、布を圧接して立体形状が形成される陶磁器の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違するといえる。
<相違点2>
本願発明では、「布を圧接して形成する立体形状は、前記布の湿度が異なる乾湿又は前記布をピンと張ったりシワを付ける引張又は前記布を重ね合わせる重畳によって形成される」のに対し、引用発明2ではそのような立体形状であるのか明らかでない点。
(2)相違点2についての検討
上記相違点2について検討する。
上記第4の1(2)イによれば、引用文献3には、織部焼における「布目の技法」として、素地両面に布を押し当てて装飾する際に、「部分的な布目もアクセントになる」ことから、「部分的に布にシワを持たせてみるのもよい」ことが示されている。引用発明2は、蚊帳布によって布目を入れた織部に関するものであるところ、引用文献2の上記第4の1(1)エの5(当審注:原文は丸数字の5)の「この布目の凹部分に織部釉がたまり、和食器らしい情感豊かな表情を作り出す。」との記載によれば、この布目は、織部における表面の装飾のためであるといえる。
そして、引用文献3には、上記1(2)で述べたように、織部など陶磁器に、本願発明の「前記布を重ね合わせる重畳」又は「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」に相当しているといえる、「部分的に布にシワを持た」せた「布」により装飾を施すことが記載されているといえる。
ここで、引用発明2における布目による表面の装飾と、引用文献3に記載される「部分的に布にシワを持た」せた「布」による装飾は、共に織部における表面の装飾という点で軌を一にするものであるし、引用発明2において、織部など陶磁器の表面の装飾を考慮した場合、布目を基本にしながら、より一層装飾性が向上したものを採用しようとすることは、当業者が通常なすべきことであるから、織部の製造方法である引用発明2において、布目を付ける工程の際に、引用文献3の記載を参酌して、装飾性を向上させるために、部分的に布にシワを持たせて布目を付けること、すなわち、「布を圧接して形成する立体形状は」「前記布を重ね合わせる重畳」又は「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」によって形成されるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本願発明は、引用発明2及び引用文献3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明し得るものといえる。
3 請求人の主張
請求人は、令和5年11月20日に提出した意見書において、
「布を圧接して形成される陶磁器表面の立体的形状は、乾湿がもたらす剥離工程における剥離のし易さに寄与し、引張・重畳による立体的形状がもたらす刻装の出来栄え、装飾のアクセントを完璧に実現し得るという構成・効果を有する発明です。
立体形状の刻装は、単に刻装体の立体的形状だけではなく、剥離工程における剥離のし易さを決定付ける刻装体の乾湿にも基づいて、立体形状の出来栄えが実現できます。引用文献に記載の製法は、表裏が肉厚で単に叩けば立体的形状が転写されて、剥離すれば出来上がるというものである一方、本願発明は、例えば表裏が薄い等の理由から剥離工程も重要である場合は、布の乾湿で刻装のし易さと剥離のし易さをコントロールするというものです。
乾湿によるコントロールという点は、いずれの引用文献に記載も示唆もありません。」と主張している。
しかし、請求人が主張する「乾湿」の点は、本願発明における上記1(2)で述べた三つの立体形状形成方法の一つであるところ、本審決で言及しているのはこれとは別の形成方法である「前記布を重ね合わせる重畳」又は「前記布をピンと張ったりシワを付ける引張」の場合であるから、上記意見書における「乾湿」の点に関する主張は、本審決の判断に影響を与えるものでない。
第6 結び
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-002911