特許拒絶査定不服審判
2021-002612
殺菌用薬剤組成物
- 審判番号
- 2021-002612
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-056501外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年03月01日
- 審決日
- 2023年02月13日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立大学法人東京海洋大学
- 【請求人代理人】山口 健次郎
- 【請求人代理人】森田 憲一
- 分類
- P18 .113-Z (A01N) / P18 .55 -Z (A01N) / P18 .575-Z (A01N) / P18 .537-Z (A01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016- 56501「殺菌用薬剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-190836〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月22日(優先権主張 平成27年3月30日)の出願であって、以降の手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 2月21日付け 拒絶理由通知
同 年 6月29日 意見書及び手続補正書の提出
同 年11月26日付け 拒絶査定
令和3年 3月 1日 審判請求書及び手続補正書の提出
同 年 4月15日 手続補正書(方式)の提出
同 年 6月11日付け 前置報告
第2 令和3年3月1日になされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年3月1日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲において
補正前の請求項1~3を削除し、
補正前の請求項4を
「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である食品。」から
「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である食品(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品を除く)。」に補正するとともに補正後の請求項1に繰上げ、
補正前の請求項5を
「前記食品が野菜又は野菜を含む食品(野菜を除く)である請求項4に記載の食品。」から
「前記食品が野菜又は野菜を含む食品(野菜を除く)である請求項1に記載の食品。」に補正するとともに補正後の請求項2に繰上げ、
補正前の請求項6を
「食品にフェルラ酸及び有機酸を添加する工程を含む、Listeria monocytogenes、又はListeria monocytogenesと一般生菌の両方、を殺菌する方法であって、前記フェルラ酸の添加量が0.05重量%~0.5重量%である殺菌方法。」から
「食品にフェルラ酸及び有機酸を添加する工程を含む、Listeria monocytogenes、又はListeria monocytogenesと一般生菌の両方、を殺菌する方法であって、前記フェルラ酸の添加量が0.05重量%~0.5重量%である殺菌方法(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法を除く)。」に補正するとともに補正後の請求項3に繰上げ、
補正前の請求項7を
「前記食品が野菜又は野菜を含む食品(野菜を除く)である請求項6に記載の方法。」から
「前記食品が野菜又は野菜を含む食品(野菜を除く)である請求項3に記載の方法。」に補正するとともに補正後の請求項4に繰り上げるものである。
2 補正の適否
(1)新規事項の追加(特許法17条の2第3項)
本件補正は、
・補正後の請求項1ないし請求項2に係る食品の発明において、「(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品を除く)」とする補正事項、及び
・補正後の請求項3ないし請求項4に係る殺菌方法の発明において、「(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法を除く)」とする補正事項を含むものである。
以下、上記補正事項について検討する。
上記の補正は、一見、請求項1ないし2に係る食品の発明から特定の量の有機酸塩を添加するものを除くもの、及び、請求項3ないし請求項4に係る殺菌方法から特定の量の有機酸塩を添加するものを除くものであるから、いわゆる「除くクレーム」であって、新たな技術的事項を追加するものでないように見えるが、その場合、除くとされるものが、新規性の拒絶理由が通知された引用文献1ないし3に記載されている発明であることを要する。
そこで、当該引用文献1ないし3について、その内容を詳細に検討しても、引用文献1ないし3のいずれにも、所定量の有機酸塩がフェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害することについて全く記載されていない。
そうすると、請求項1ないし2の「(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品を除く)」及び請求項3ないし4の「(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法を除く)」との記載は、いわゆる「除くクレーム」ということはできない。
次に、請求項1ないし2の「(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品を除く)」及び請求項3ないし4の「(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法を除く)」との事項が、単純な一部除外規定といえるかどうか検討するために、「フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品」又は「フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法」が本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されているかどうかを確認する。
当初明細書等には、「【0008】
本発明の薬剤組成物は、フェルラ酸及び有機酸から成る。」及び
「【0011】
また本発明の薬剤組成物は、その他の抗菌剤、殺菌剤、増殖抑制剤と併用してもよく、これらの例として、ポリリジン、プロタミン、ナイシン、ショ糖脂肪酸エステル、グリシン、酢酸ナトリウム、などが挙げられる。」との記載があって、フェルラ酸及び有機酸から成る薬剤組成物に対して、「有機酸塩」であることの明らかな「酢酸ナトリウム」を併用してもよいことが示される一方、「有機酸塩」を併用すると、その量によっては、フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用が阻害されることは記載されていない。
そして、本件出願時において、フェルラ酸及び有機酸から成る薬剤組成物において「有機酸塩」を併用するとその量によってはフェルラ酸及び有機酸の殺菌作用が阻害されることが、当業者の技術常識であったと認めうる証拠はない。
そうすると、上記補正事項において、除かれる対象となるものについて、当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を含むものを除くことになるから、いわゆる「除くクレーム」に該当しないし、これらの補正事項を含む本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえる。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
審判請求人は、審判請求書の「請求の理由3.(b)補正の根拠」において「これらの補正は、「除くクレーム」とする補正であり、これは、特許法第29条第1項第3号に基づく拒絶理由を解消するために、前記文献1~3との同一性を回避する目的で加入したものであります。」と述べるとともに、同「請求の理由3.(c)(c-2)新規性について」において「文献1におきましては、酢酸ナトリウムがフェルラ酸及び酢酸の殺菌作用を阻害しているものであります。」と主張するが、この文献1(木村凡他,水産物・加工品のリステリアの静菌・殺菌技術の開発,農林水産省委託プロジェクト生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発 技術情報集,2013年 3月,第40-41頁)の記載を参酌しても、フェルラ酸及び有機酸から成る薬剤組成物に対して「有機酸塩」を併用すると、その量によっては、フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用が阻害することが、当業者において周知であったとはいえないから、審判請求人の主張は採用できない。
(2)仮に、本件補正が新規事項を追加するものではないと判断される場合についての検討
本件補正は、上記(1)に述べたことを理由として却下すべきものであると判断されるが、仮に、本件補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと判断される場合についても、念のため、以下で検討する。
ア 補正の目的(特許法第17条の2第5項)
本件補正は、補正前の請求項1ないし3を削除し、補正前の請求項4ないし請求項5に係る食品の発明から「フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品」を除いて補正後の請求項1ないし2とし、補正前の請求項6ないし7に係る殺菌方法の発明から「フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法」を除いて補正後の請求項3ないし4にしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 独立特許要件(特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項)
本件補正は、上記アに示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえるから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものか否かについて検討する。
本件補正による補正後の請求項1及び請求項3の「フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩」においての「フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量」が、具体的にどの程度であるのかを本願の明細書の記載をみても理解することができず、当業者の技術常識を参酌しても、その量を特定することができないから、補正後の請求項1及び請求項3について、その特許を受けようとする発明の範囲は、明確でない。請求項1及び請求項3を引用する請求項2及び請求項4も同様である。
したがって、補正後の請求項1ないし請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に適合しないので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(3)補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、仮に違反するものでないとしても、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、令和2年6月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項4】
フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である食品。」(以下、「本願発明」ともいう。)
2 原査定の理由の概要
令和2年11月26日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の理由は、令和2年2月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由1(新規性)及び理由2(進歩性)であって、そのうち、理由1(新規性)は、本願の請求項1、3-4、6に係る発明は引用文献1、2に記載された発明であり、本願の請求項1-2、4-5に係る発明は、引用文献3、4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。
<引用文献等一覧>
1.木村凡他,水産物・加工品のリステリアの静菌・殺菌技術の開発,農林水産省委託プロジェクト生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発 技術情報集,2013年 3月,第40-41頁
2.河原俊雄等,フェルラ酸および日持ち向上剤を用いた水産食品におけるリステリア菌の増殖制御法,平成24年度日本水産学会秋季大会講演要旨集,2012年,第82頁
3.特開平5-168449号公報
4.特開2013-128415号公報
3 当審の判断
当審は、原査定の理由のうち理由1(新規性)にいうとおり、本願発明は、上記引用文献1、引用文献3、引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであると判断する。
その理由の詳細は、以下のとおりである。
(事案に鑑み、引用文献3、引用文献4、引用文献1の順に、その理由の詳細を示す。)
(1)引用文献3(特開平5-168449号公報)に記載された発明に対する新規性
ア 引用文献3の記載及び引用文献3に記載された発明
(ア)引用文献3の記載
引用文献3には、次の記載がある。
記載事項(3-1)
「【請求項1】フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを有効成分として含有することを特徴とする食品保存剤。
【請求項2】フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを食品に配合することを特徴とする食品保存方法。」
記載事項(3-2)
「【0005】
【問題点を解決するための手段】本発明は、保存性と安全性に優れた食品保存剤ならびに食品保存方法を提供することを目的とする。
【0006】即ち、本発明は、
1.フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを有効成分として含有することを特徴とする食品保存剤、及び
2.フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを食品に配合することを特徴とする食品保存方法、に係るものである。」
記載事項(3-3)
「【0008】以上のような見地より本発明者らは、その安全性に優れたフェルラ酸類の食品保存効果を確認すべく鋭意研究を重ねた。ところが、フェルラ酸類を食品に対して添加してみても、せいぜい有機酸等と同程度の低い保存効果しか得られず、顕著な効果は全く認められなかった。そこで、さらに研究を重ねた結果、フェルラ酸類と共に有機酸等を組合せて用いると、フェルラ酸類も有機酸等もそれ単独では不充分な効果しか発揮できないにも拘らず、予想外にも両者が相乗的に作用して著しく優れた保存効果を発現することを見出した。しかも、この場合、保存効果が顕著に大きいために添加量が少なくても充分な保存効果が期待できる。
【0009】以下、本発明につき詳細に説明する。
【0010】本発明において、フェルラ酸類としてはフェルラ酸をはじめ、フェルラ酸ナトリウム、フェルラ酸カリウム、フェルラ酸カルシウム等のフェルラ酸の水溶性塩類、フェルラ酸メチル、フェルラ酸エチル等のフェルラ酸の低級アルキルエステル等の公知のものを用いることができる。また、上記フェルラ酸類は、合成品であっても良いし、またフェルラ酸類を含む種々の植物から得られる抽出物、その植物に由来する素材、廃油、抽出残渣等の天然のものであっても良い。この場合、天然物由来のフェルラ酸類では、安全性や食品に悪影響を与えない範囲でフェルラ酸類以外の夾雑物が含まれていても良い。
【0011】有機酸としては、従来より食品保存剤として知られているものであれば特に制限はされないが、特にフマル酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、フィチン酸、酒石酸、乳酸、アジピン酸、ソルビン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸等が好ましい。有機酸塩としては、上記有機酸等の水溶性塩、特にそのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が好適である。」
記載事項(3-4)
「【0014】本発明食品保存剤を食品に配合するにあたって、フェルラ酸類と有機酸等の添加の順序は特に制限されず、これらを同時に或いは別個に添加することができる。また、添加する時期は原料段階、製造時又は製造後のいずれであっても良い。その添加量は食品の種類、有機酸の種類等より一律に特定することはできないが、通常食品に対してフェルラ酸類は0.005~0.07重量%程度、有機酸又は有機酸塩は0.05~0.5重量%程度、キトサンは0.001~0.05重量%程度とするのが好ましい。
【0015】本発明の食品保存剤は、例えば漬物、佃煮、めんつゆ、焼き肉のタレ、山菜の水煮、水産練製品、麺類、米飯等、実質的にあらゆる食品に好適に用いることができる。
【0016】
【発明の効果】本発明の食品保存剤は、優れた保存性と安全性とを同時に達成することができる。また、その添加量が比較的少量で済むので、従来の保存剤にみられるような風味や味覚の劣化がなく、実用的にも優れた効果を発揮できる。」
記載事項(3-5)
「【0017】
【実施例】以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明瞭にする。
【0018】実施例1
本発明の食品保存剤を用いて白菜浅漬の保存効果について調べた。まず、下漬した白菜と0.8%のグルタミン酸ナトリウムを含む3%食塩水の漬液とを重量比が1:0.8の割合にしてポリ袋に入れた。次いで、本発明食品保存剤を、その各成分が表1に示すような添加量となるように配合した後、15℃の恒温室に保管し、このときの腐敗の進行状態を調べた。腐敗の進行状態は、660nmでの漬液の透過率を測定し、その透過率が80%以下の場合を腐敗と判定し、その腐敗が生じるまでの日数(有効保存日数)を測定した。その結果を表1に示す。尚、表中の添加量は全量に対しての添加量(重量%)である。
【0019】実施例2~3
本発明食品保存剤の各成分と添加量を表1のように変えた以外は、実施例1と同様にして白菜浅漬の保存効果について調べた。その結果を表1に示す。
【0020】比較例1~6
本発明食品保存剤の成分のうち、表1に示すようにフェルラ酸類又は有機酸、有機酸塩若しくはキトサンが含まれていない保存剤(比較例1~6)について実施例1と同様の方法で白菜浅漬の保存効果を調べた。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
[図:0001396581000001.jpg]
【0022】また、フェルラ酸の代わりにフェルラ酸ナトリウムを用いた以外は実施例1のものと同成分で同様の試験を行なったが、その有効保存日数は10日以上であった。さらに、フェルラ酸の代わりにフェルラ酸エチルを用いた以外は実施例1と同成分のものを用いて同様の試験を行なったが、その有効保存日数は10日以上であった。
【0023】以上の結果よりより、フェルラ酸類又は有機酸等のどちらかが欠けている比較例1~6では、有効保存日数がせいぜい5日程度しかなかった。これに比べ、実施例1~3ならびにフェルラ酸ナトリウムやフェルラ酸エチルを用いた場合では有効保存日数が9~10日又はそれ以上であり、フェルラ酸類と有機酸等との組み合わせによって、相乗的に優れた保存効果を発揮していることがわかる。
【0024】実施例4
本発明の食品保存剤を用いてきゅうりの刻み醤油漬けにおける保存効果を調べた。まず、塩蔵きゅうりを約1cmに刻み、水で脱塩後、約70%に圧搾したものと塩分濃度4%からなる漬液とを1:1の重量比の割合でポリ袋に入れ、次いで本発明食品保存剤をその各成分が表2に示すような添加量となるように加え、混合したものを30℃の恒温室に保管し、実施例1と同様に腐敗の進行状態を調べた。その結果を表2に示す。尚、表中の添加量は全量に対しての添加量(重量%)である。
【0025】比較例7~9
本発明食品保存剤の成分のうち、表2に示すようにフェルラ酸類又は有機酸若しくは有機酸塩のどちらが含まれていない保存剤(比較例7~9)について実施例4と同様の方法できゅうりの刻み醤油漬けの保存効果を調べた。その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
[図:0001396581000002.jpg]
【0027】表2より、本発明の食品保存剤が、フェルラ酸類と有機酸等との組み合わせによって、より優れた保存効果を発揮していることがわかる。
【0028】実施例5
本発明の食品保存剤を用いてかまぼこにおける保存効果について調べた。まず、冷凍すり身1kg、食塩30g、馬鈴薯澱粉70g、グルタミン酸ナトリウム10g及び水200gを常法通りに処理して得られた練り肉に、本発明食品保存剤をその各成分が表3に示すような添加量となるように加え、約5分間混合した。次いで30分間蒸した後、簡易包装し、25℃の恒温室に保存し、外観の変化等により腐敗の進行状態を調べた。その結果を表3に示す。尚、表中の添加量は全量に対しての添加量(重量%)である。
【0029】比較例10~12
本発明食品保存剤の成分のうち、表3に示すようにフェルラ酸類のみからなる保存剤と有機酸のみからなる保存剤(比較例11~12)、ならびに保存剤が一切添加されていないもの(比較例10)についてそれぞれ実施例5と同様の方法でかまぼこの保存効果を調べた。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
[図:0001396581000003.jpg]
【0031】表3より、本発明の食品保存剤が、フェルラ酸類と有機酸等との組み合わせによって、より優れた保存効果を発揮していることがわかる。
【0032】実施例6
本発明の食品保存剤を用いて米飯における保存効果について調べた。まず、米320gを水で3回といだ後、水400mlを加え、更に本発明食品保存剤をその各成分が表4に示すような添加量となるよう配合し、約40分間放置後、電気釜にて炊飯した。15分熟成後、容器に入れ、30℃の恒温室に保管し、カビ、腐敗臭等により腐敗の進行状態を調べた。その結果を表4に示す。尚、表中の添加量は生米に対しての添加量(重量%)である。キトサンは、キトサン3重量%を含む2.8%酢酸水溶液として使用した。
【0033】比較例13~15
本発明食品保存剤の成分のうち、表4に示すようにフェルラ酸類のみからなる保存剤とキトサンのみからなる保存剤(比較例14~15)、ならびに保存剤が一切添加されていないもの(比較例13)についてそれぞれ実施例6と同様の方法で米飯の保存効果を調べた。その結果を表4に示す。
【0034】
【表4】
[図:0001396581000004.jpg]
【0035】表4より、本発明の食品保存剤が、フェルラ酸類と有機酸等との組み合わせによって、より優れた保存効果を発揮していることがわかる。
【0036】実施例7
本発明の食品保存剤を用い、もずくにおける保存効果について調べた。まず、もずくの塩蔵品を水で脱塩後、容器に入れ、等量の水を加え、更に本発明食品保存剤をその各成分が表5に示すような添加量となるよう加え、10℃の恒温室に保管し、液の濁り具合、腐敗臭等により腐敗の進行状態を調べた。その結果を表5に示す。尚、表中の添加量は全量に対しての添加量(重量%)である。
【0037】比較例16~18
本発明食品保存剤の成分のうち、表5に示すようにフェルラ酸類のみからなる保存剤とフェルラ酸類が含まれていない保存剤(比較例17~18)、ならびに保存剤が一切添加されていないもの(比較例16)についてそれぞれ実施例7と同様の方法でもずくの保存効果を調べた。その結果を表5に示す。
【0038】
【表5】
[図:0001396581000005.jpg]
【0039】表5より、本発明の食品保存剤が、フェルラ酸類と有機酸等との組み合わせによって、より優れた保存効果を発揮していることがわかる。」
(イ)引用文献3に記載された発明
記載事項(3-1)及び記載事項(3-2)には、フェルラ酸類と有機酸とを食品に配合することが記載されており、記載事項(3-3)には、フェルラ酸類としてフェルラ酸を用いることが記載されており、記載事項(3-4)には、食品に対するフェルラ酸の添加量は通常0.005~0.07重量%程度とすることが好ましいことが記載されている。
したがって、引用文献3には、
「フェルラ酸類としてのフェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、食品に対するフェルラ酸の含有量が0.005~0.07重量%程度である食品。」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
イ 本願発明と引用発明3との対比・判断
本願発明と引用発明3とを対比する。
引用発明3における「フェルラ酸類としてのフェルラ酸」及び「有機酸」は、それぞれ、本願発明における「フェルラ酸」及び「有機酸」に相当し、引用発明3における「食品に対するフェルラ酸の含有量が0.005~0.07重量%程度である」は、本願発明における「前記フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である」と、フェルラ酸の含有量「0.05~0.07重量%」の範囲で重複一致する。
したがって、本願発明と引用発明3とは、「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.07重量%である食品」の点で一致し、相違する点はない。
審判請求人は、引用文献3に記載された発明に対する新規性について、
意見書においては
「文献3の実施例におけるフェルラ酸の重量%は、実施例1(0.016重量%)、実施例2(0.016重量%)、実施例3(0.016重量%)、実施例4(0.025重量%)、実施例5(0.03重量%)、及び実施例7(0.02重量%)であります(表1~3及び5をご覧ください)。すなわち、文献3の実施例における食品中のフェルラ酸の濃度は、0.016重量%~0.03重量%であります。
従って、文献3には、本願発明の重要な特徴である、『食品の重量を基準として、フェルラ酸の使用量が0.05重量%~0.5重量%である殺菌薬剤組成物』は、具体的に開示されておらず、本願発明は、文献3に対して新規性を有するものであります。」と主張し、
審判請求書の請求の理由においては
「…、文献3に記載の発明は、例えば下記の表1の実施例1~3に示すように、酢酸ナトリウムを含むものであります。
[図:0001396581000006.jpg]
従って、本願発明は、文献3に記載の発明とは別異の発明であり、本願発明は文献3に対して新規性を有するものであります。なお、文献3の実施例5におきましては、酢酸ナトリウムが添加されておりませんが、フェルラ酸が0.03重量%であり、本願発明のフェルラ酸の含有量又は添加量の『0.05重量%~0.5重量%』を満たさないものであり、従って、本願発明は文献3に対して新規性を有するものであります。
」と主張する。
しかし、記載事項(3-1)~記載事項(3-4)及び記載事項(3-5)並びに本願出願時の技術常識を踏まえると、引用文献3に記載された発明が記載事項(3-5)に示された実施例のみに限定されると解することはできず、引用文献3に記載された発明が記載事項(3-5)に示された実施例のみに限定されることを前提とする審判請求人の上記主張は受け入れられない。
したがって、審判請求人の上記主張を検討しても、本願発明と引用発明3とは、「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.07重量%である食品。」の点で一致し、相違する点はないとした上記判断は覆らず、本願発明は引用発明3である。
ウ 引用発明3に対する新規性についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明3であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)引用文献4(特開2013-128415号公報)に記載された発明に対する新規性
ア 引用文献4の記載及び引用文献4に記載された発明
(ア)引用文献4の記載
引用文献4には、次の記載がある。
記載事項(4-1)
「【請求項1】
酸化防止剤と、
フィチン酸と、
フィチン酸以外の有機酸又はその塩類若しくはアミノ酸と
を含有することを特徴とする、
食品用日持ち向上剤。
【請求項2】
前記酸化防止剤の含有量が0.1~10重量%、前記フィチン酸の含有量が0.1~10重量%、前記フィチン酸以外の有機酸又はその塩類の含有量が2~95重量%若しくは前記アミノ酸の含有量が1~95重量%である、
請求項1の食品用日持ち向上剤製剤。
【請求項3】
前記酸化防止剤が、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びその塩類、フェルラ酸からなる群から選択された少なくとも1種である、
請求項1又は2に記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項4】
前記フィチン酸以外の有機酸又はその塩類が、酢酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン及びそれら塩類からなる群から選択された少なくとも1種である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項5】
前記アミノ酸が、グリシン、アラニンからなる群から選択された少なくとも1種である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の食品用日持ち向上剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の食品用日持ち向上剤を含む加工食品。」
記載事項(4-2)
「【0012】
本実施形態における酸化防止剤は、従来から知られている食品用の酸化防止剤であれば特に限定されないが、風味の維持及び静菌作用を両立するという観点から、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びその塩類、フェルラ酸であることが好ましい。
【0013】
前記酸化防止剤の含有量は、0.1重量%未満では食品の風味の維持が困難で、かつ、静菌効果も低く、一方で10重量%を超える場合では食品の風味に酸味やえぐ味を与えるため、0.1~10重量%が好ましい。」
記載事項(4-3)
「【0022】
本実施形態の食品用日持ち向上剤は、食品に対して0.1重量%未満の添加では食品の風味の維持が困難で、かつ、静菌効果も低く、5重量%を超える場合の添加では食品の風味に影響を与えるため、0.1~5重量%添加することが好ましい。また、添加方法は、特に限定されない。
【0023】
本実施形態の食品用日持ち向上剤が添加される食品は、特に限定されず、例えば、煮物や焼き物、揚げ物、蒸し物、炒め物、茹で物、和え物、サラダ等の惣菜や五目御飯等の米飯類等が挙げられる。」
記載事項(4-4)
「【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0025】
1.ハンバーグ
牛乳6g、全卵6g、食塩0.25g及びこしょう0.11gを容器に入れ、表1に示した成分割合からなる各種製剤0.46gを添加した後、よく混合し、50重量%ソテーオニオン11.45g、合い挽肉46.5g及びパン粉3.83gを加えて、さらに混合した。次に、この生地を成型し、オーブンで180℃で13分間焼いた後、冷蔵庫内で粗熱を取り除いた。これを弁当用容器内に入れて25℃で保持した(実施例1及び比較例1~4)。なお、製剤を添加しなかった場合を対照とした。
【0026】
【表1】
[図:0001396581000007.jpg]
【0027】
試料中の一般生菌数について、常法に従い、標準寒天培地を用いた平板培養法によって経日的に測定した。また、風味について、熟練した官能検査員5名が試験終了時の試料を食べることで評価した。なお、評価は、採点法によって行った。すなわち、試料が初日の風味と変わらない場合を5点、初日より風味がやや落ちる場合を4点、初日より風味が少し落ちる場合を3点、初日より風味がかなり落ちる場合を2点、初日の風味が全くない場合を1点とし、5名の官能検査員による平均点が5~4.5点の場合を「初日の風味と変わらない」、4.4~3.5点の場合を「初日より風味がやや落ちる」、3.4~2.5点の場合を「初日より風味がかなり落ちる」、2.4点以下の場合を「初日の風味が全くない」と評価した。また、これらの結果を表2に示した。
【0028】
【表2】
[図:0001396581000008.jpg]
【0029】
表2に示すように、実施例1の場合は、比較例1~4及び対照の場合と比べて、製造3日後においても一般生菌数が10CFU/g未満と低い値を示し、一般細菌の増殖は認められなかった。また、ハンバーグの風味について、実施例1の場合、製造3日後のハンバーグの風味が製造日(初日)と同様であったのに対し、比較例1~4及び対照の場合では風味が劣化していた。特に、比較例1及び対照の場合では、腐敗臭があった。
【0030】
2.唐揚げ
表3に示した成分割合からなる各種製剤1重量%、醤油17重量%、酒4重量%、塩2重量%、砂糖4重量%、すりおろし生姜重量2%、すりおろしニンニク0.07重量%及び水69.93%から成るマリネ液に、1切れ約25gにカットした鶏モモ肉をそれぞれ浸漬させ、冷蔵庫内で3時間保持した。次に、加水倍率110重量%で水溶きした唐揚げ粉(昭和産業社製)を対肉約30重量%でマリネ液に浸漬した鶏モモ肉をからめた。これをバッター液でバッター漬けし、約170℃で5分間フライした後、冷蔵庫内で粗熱を取り除いた。これを弁当用容器中に入れて25℃で保持した(実施例2及び比較例5~8)。なお、製剤を添加しなかった場合を対照とした。
【0031】
【表3】
[図:0001396581000009.jpg]
【0032】
試料の一般生菌数及び風味について、前記1.と同様に調べた。また、外観について、風味を評価する際に目視することで評価した。なお、これらの結果を表4に示した。
【0033】
【表4】
[図:0001396581000010.jpg]
【0034】
表4に示すように、実施例2の場合は、比較例5~8及び対照の場合と比べて、製造3日後においても一般生菌数が10CFU/g未満と低い値を示し、一般細菌の増殖は認められなかった。また、唐揚げの風味について、実施例2の場合、製造3日後の唐揚げの風味が製造日(初日)と同様であったのに対し、比較例5~8及び対照の場合では風味が劣化していた。特に、比較例5、6及び対照の場合では、唐揚げの風味が消失していた。一方、外観について、実施例2の場合、製造3日後の唐揚げの外観が製造日(初日)と同様であったのに対し、比較例5,6及び対照の場合では、腐敗現象を示すねばり(ネト)が観察された。」
(イ)引用文献4に記載された発明
記載事項(4-1)には、酸化防止剤と、フィチン酸と、フィチン酸以外の有機酸を含有する食品用日持ち向上剤を含む加工食品が記載されており、記載事項(4-2)には、酸化防止剤としてフェルラ酸が好ましいこと、及び食品用日持ち向上剤に対する酸化防止剤の含有量は0.1~10重量%が好ましいことが記載されており、記載事項(4-3)には、食品に対する食品用日持ち向上剤の添加量は0.1~5重量%とすることが好ましいことが記載されている。
したがって、引用文献4には、
「酸化防止剤としてのフェルラ酸と、
フィチン酸と、
フィチン酸以外の有機酸と
を含有することを特徴とする、
食品用日持ち向上剤を含む加工食品
であって、食品用日持ち向上剤に対する酸化防止剤としてのフェルラ酸の含有量が0.1~10重量%であり、食品に対する食品用日持ち向上剤の添加量が0.1~5重量%である食品。」の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
イ 本願発明と引用発明4との対比・判断
本願発明と引用発明4とを対比する。
引用発明4における「フェルラ酸類としてのフェルラ酸」及び「有機酸類としての有機酸」は、それぞれ、本願発明における「フェルラ酸」及び「有機酸」に相当する。また、引用文献4には、食品用日持ち向上剤に対する酸化防止剤の含有量に応じて、食品に対する食品用日持ち向上剤の添加量を変更させる等の特段の記載はないことから、引用発明4における「食品用日持ち向上剤に対する酸化防止剤としてのフェルラ酸の含有量が0.1~10重量%であり、食品に対する食品用日持ち向上剤の添加量が0.1~5重量%である」は、食品に対する酸化防止剤としてのフェルラ酸の含有量を0.0001重量%~0.5重量%(=0.1重量%×0.1重量%~10重量%×5重量%)とすることと実質的に差異はないといえ、本願発明における「前記フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である」と、フェルラ酸の含有量「0.05~0.5重量%」の範囲で重複一致する。
したがって、本願発明と引用発明4とは、「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.5重量%である食品。」の点で一致し、相違する点はない。
審判請求人は、引用文献4に記載された発明に対する新規性について、
意見書においては
「…、文献4の実施例には、フェルラ酸の含有量に関して以下の通り記載されています。
「1.ハンバーグ
牛乳6g、全卵6g、食塩0.25g及びこしょう0.11gを容器に入れ、表1に示した成分割合からなる各種製剤0.46gを添加した後、よく混合し、50重量%ソテーオニオン11.45g、合い挽肉46.5g及びパン粉3.83gを加えて、さらに混合した。次に、この生地を成型し、オーブンで180℃で13分間焼いた後、冷蔵庫内で粗熱を取り除いた。これを弁当用容器内に入れて25℃で保持した(実施例1及び比較例1~4)。なお、製剤を添加しなかった場合を対照とした。」(下線は、出願人が付しました)
そして、実施例1の製剤の成分割合は以下の表1の通りです。
[図:0001396581000011.jpg]
従って、実施例1の製剤を含むハンバーグの重量は74.6gであり、製剤が0.46gであります。そして、製剤中のフェルラ酸の含有量が2重量%ですので、ハンバーグ中のフェルラ酸の含有量は、0.012%程度であります。
従って、文献4には、本願発明の重要な特徴である、『食品の重量を基準として、フェルラ酸の使用量が0.05重量%~0.5重量%である殺菌薬剤組成物』は、具体的に開示されておらず、本願発明は、文献4に対して新規性を有するものであります。」と主張し、
審判請求書においては
「…、文献4の段落〔0022〕の記載は以下の通りであります。
「本実施形態の食品用日持ち向上剤は、食品に対して0.1重量%未満の添加では食品の風味の維持が困難で、かつ、静菌効果も低く、5重量%を超える場合の添加では食品の風味に影響を与えるため、0.1~5重量%添加することが好ましい。」
すなわち、食品用日持ち向上剤が、0.1重量%未満では、静菌効果が低いことが記載されており、5重量%を超えると食品の風味に影響を与えることが記載されています。
また、文献4の段落〔0012〕及び〔0013〕の記載は以下のとおりであります。「本実施形態における酸化防止剤は、従来から知られている食品用の酸化防止剤であれば特に限定されないが、風味の維持及び静菌作用を両立するという観点から、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びその塩類、フェルラ酸であることが好ましい。
前記酸化防止剤の含有量は、0.1重量%未満では食品の風味の維持が困難で、かつ、静菌効果も低く、一方で10重量%を超える場合では食品の風味に酸味やえぐ味を与えるため、0.1~10重量%が好ましい。」
すなわち、フェルラ酸が0.1重量%未満では、静菌効果が低いことが記載されており、10重量%を超えると、食品の風味に酸味やえぐ味を与えることが記載されております。
確かに下限と下限を乗ずれば、「0.0001重量%」となり、上限と上限を乗ずれば「0.5重量%」となります。しかしながら、当業者は、単純に下限と下限を乗じて、「0.0001重量%」が開示されており、静菌効果が得られること、及び上限と上限を乗じて「0.5重量%」が開示されており、食品の風味等に影響しないと理解するものではありません。
令和2年6月29日付の意見書で申し述べましたように、文献4の実施例1の製剤を含むハンバーグ中のフェルラ酸の含有量は、0.012重量%程度であります。すなわち、当業者は、フェルラ酸の含有量が0.012重量%程度であれば、文献4の発明の効果が得られると考えます。審査官殿が開示されているとご指摘になった「0.0001重量%」は、0.012重量%の1/120の量であり、当業者はこのような量で文献4の発明の効果が得られると考えるものではありません。すなわち、当業者は、文献4にフェルラ酸の含有量の下限が「0.0001重量%」であることが開示されていると考えません。また、審査官殿が開示されているとご指摘になった「0.5重量%」は、0.012重量%のおよそ41倍の量であり、当業者は文献4の実施例1の記載から、このような量のフェルラ酸を添加しようと考えるものではありません。当業者であれば、文献4の「重量%を超える場合の添加では食品の風味に影響を与える」及び「食品の風味に酸味やえぐ味を与える」との記載から、食品の風味等に影響しないと考えるものではありません。
すなわち、当業者であれば、たとえ「食品用日持ち向上剤は、食品に対して0.1~5重量%添加することが好ましい」と記載され、「食品用日持ち向上剤中にフェルラ酸等の酸化防止剤は、0.1~10重量%が好ましい」と記載されていても、単純にそれらの下限と下限、及び上限と上限とを乗じて「フェルラ酸の使用量は、食品に対して0.0001~0.5重量%」であることが開示されていると理解するものでありません。
従って、文献4には、本願発明の重要な特徴である『フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である』こと、又は『フェルラ酸の添加量が0.05重量%~0.5重量%である』ことは開示されておらず、本願発明は文献4に対して新規性を有するものであります。」と主張する。
しかし、記載事項(4-1)~記載事項(4-3)及び記載事項(4-4)並びに本願出願時の技術常識を踏まえると、引用文献4に記載された発明が記載事項(4-4)に示される実施例1のハンバーグに係るもののみに限定されると解することはできず、引用文献4に記載された発明が記載事項(4-4)に示される実施例1のハンバーグに係るもののみに限定されることを前提とする審判請求人の意見書における上記主張は受け入れられない。
また、記載事項(4-2)には、酸化防止剤としてフェルラ酸が好ましいこと、及び食品用日持ち向上剤に対する酸化防止剤の含有量は0.1~10重量%が好ましいことが記載されており、記載事項(4-3)には、食品に対する食品用日持ち向上剤の添加量は0.1~5重量%とすることが好ましいことが記載されている一方、引用文献4には、食品用日持ち向上剤に対する酸化防止剤の含有量に応じて、食品に対する食品用日持ち向上剤の添加量を変更させる等の特段の記載はないばかりか、食品に対するフェルラ酸の含有量について記載事項(4-4)に示される実施例1のハンバーグと同程度にする必要があることを示す記載もない。したがって、引用発明4が「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.5重量%である食品。」ではないことを前提とする審判請求人の審判請求書の請求の理由における上記主張は受け入れられない。
したがって、審判請求人の上記主張を検討しても、本願発明と引用発明4とは、「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.5重量%である食品。」の点で一致し、相違する点はないとした上記判断は覆らず、本願発明は引用発明4である。
ウ 引用発明4に対する新規性についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明4であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)引用文献1(木村凡他,水産物・加工品のリステリアの静菌・殺菌技術の開発,農林水産省委託プロジェクト生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発 技術情報集,2013年 3月,第40-41頁)に記載された発明に対する新規性
ア 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1の記載
引用文献1には、次の記載がある。
記載事項(1-1)
「【成果の内容・特徴】
ネギトロおよびイクラに L.monocytogenesを接種し,様々な温度帯下における増殖挙動を検証しました.ネギトロやイクラは適正温度(5℃)で保存されていてもEUやCODEXで規格基準のひとつとして挙げられている100CFU/gを超える可能性があり,また,温度管理に不備があった場合にはそのリスクはより高くなることが示され(図1),本菌の増殖を抑制する必要性が明らかとなりました.
まず諸外国において食品添加物として様々な食品に用いられているナイシンの効果を検証した結果,他の製剤(ε-ポリリジン製剤およびリゾチーム製剤)との併用で有効な結果を示しました(図2).更に,食品に使用する際に保存料表示義務のない,米糠抽出成分であるフェルラ酸についても実験を行いました.酢酸製剤もしくはグリシン酢酸ナトリウム製剤と併用することにより,リステリアのみならず一般生菌の増殖をも抑えることができました(図3).本研究により,対象水産食品のリステリア食中毒のリスクを抑えるとともに,消費期限の延長にも寄与することができました.」(40頁)
記載事項(1-2)
「
[図:0001396581000012.jpg]
」(41頁)
(イ)引用文献1に記載された発明
記載事項(1-1)には、L.monocytogenesを接種したネギトロおよびイクラに対して、フェルラ酸及び酢酸製剤を併用して添加したことが記載されており、記載事項(1-2)には、フェルラ酸2000ppmと酢酸製剤3000ppm(酢酸ナトリウム1800ppm含有)を添加したことが記載されている。
酢酸製剤が、氷酢酸(すなわち高純度の酢酸)及び酢酸ナトリウムを含有するものであることは技術常識であって、このことは審判請求人も審判請求書の請求の理由3.(c)(c-2)において認めるところである。
また、2000ppmは0.2重量%と同義である。
したがって、引用文献1には、
「フェルラ酸及び酢酸を含むネギトロおよびイクラであって、前記フェルラ酸の含有量が0.2重量%であるネギトロおよびイクラ。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
イ 本願発明と引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「ネギトロおよびイクラ」は本願発明における「食品」に相当し、引用発明における「フェルラ酸の含有量が0.2重量%である」は本願発明における「前記フェルラ酸の含有量が0.05重量%~0.5重量%である」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.5重量%である食品。」である点で一致し、相違する点はない。
審判請求人は、引用文献1に記載された発明に対する新規性について、
意見書においては
「文献1において、使用されている酢酸製剤は、図3に記載のように「酢酸ナトリウム」であります。ご存じのように、酢酸ナトリウムは、有機酸ではなく有機酸の塩であります。すなわち、文献1に記載の組成物は、フェルラ酸及び有機酸塩を含む組成物であり、本願発明の『殺菌薬剤組成物』に含まれている『有機酸』を用いるものではありません。従って、本願発明は、文献1に対して新規性を有するものであります。」と主張し、
審判請求書においては
「審査官殿の御指摘のように、酢酸製剤3000ppmに酢酸ナトリウムが1800ppm含有されている場合、残りの1200ppmは酢酸(氷酢酸)でありました。
しかしながら、文献1の下記図3(A)に記載のように、従来の酢酸製剤は、1200ppmの酢酸を含んでいるにもかかわらず、殺菌作用を示すことができませんでした。
[図:0001396581000013.jpg]
一方、本願発明におきましては、下記の図1に示しますように、一般細菌及びリステリアに対して殺菌作用を示すものであります。
[図:0001396581000014.jpg]
これは、文献1に記載の発明と、本願発明との相違点は、酢酸ナトリウムの有無であり、文献1におきましては、酢酸ナトリウムがフェルラ酸及び酢酸の殺菌作用を阻害しているものであります。
本願出願人は、前記の通り、『(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を含む食品を除く)』又は『(フェルラ酸及び有機酸の殺菌作用を阻害する量の有機酸塩を添加する殺菌方法を除く)』を加入する補正を行いました。従って、本願発明は、文献1に記載の発明とは別異の発明であり、本願発明は文献1に対して新規性を有するものであります。」と主張する。
しかし、審判請求人の意見書における、「酢酸製剤」が「酢酸ナトリウム」であって有機酸を用いるものではない旨の上記主張は、酢酸製剤が、氷酢酸(すなわち高純度の酢酸)及び酢酸ナトリウムを含有するものであるという技術常識に反する主張であって、酢酸製剤が氷酢酸を含有するものであることは審判請求人も審判請求書の請求の理由3.(c)(c-2)において認めるところであるので、受け入れられない。
また、審判請求人の審判請求書における上記主張は、本件補正を前提とするものであるところ、本件補正については上記のとおり補正の却下の決定がなされた以上、受け入れられない。
したがって、審判請求人の上記主張を検討しても、本願発明と引用発明1とは、「フェルラ酸及び有機酸を含む食品であって、前記フェルラ酸の含有量が0.05~0.5重量%である食品」である点で一致し、相違する点はないとした上記判断は覆らず、本願発明は引用発明1である。
ウ 引用発明1に対する新規性についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献3に記載された発明であり、引用文献4に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項4に係る発明についての原査定の拒絶の理由のうちの理由1は妥当なものであるので、他の請求項に係る発明や他の理由について検討するまでもなく、本願は、前記拒絶の理由のうちの理由1により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-002612